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令和6(ネ)10076特許権侵害差止等請求控訴事件

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裁判所 控訴棄却 知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所
裁判年月日 令和7年5月26日
事件種別 民事
当事者 被控訴人株式会社ワイズテック
対象物 起伏収容式仮設防護柵
法令 特許権
特許法70条1項1回
特許法37条1回
特許法100条1項1回
キーワード 実施18回
侵害10回
審決6回
特許権5回
訂正審判4回
新規性2回
差止2回
主文 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
1 原判決を取り消す。25
2 被控訴人は、原判決別紙被控訴人製品目録記載の起伏収容式仮設防護柵を輸
3 被控訴人は前項記載の起伏収容式仮設防護柵を廃棄せよ。
4 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。
1 本件は、発明の名称を「起伏収容式仮設防護柵」とする特許第6494125
0号の特許(本件特許)に係る特許権(本件特許権)を有する控訴人が、被控
00条1項及び2項に基づき、被控訴人製品の製造等の差止め及び廃棄を求め
2 前提事実、争点及び争点に係る当事者の主張は、次のとおり補正し、後記3
14行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
1】の『用いられる両面に』との記載を『用いられる片面又は両面に』5
13、20行目、10頁4行目、11頁15行目、12頁26行目、13頁
6ないし7、22行目、14頁1、4、10、21行目、15頁1、5、110
2行目、17頁8、15行目、24頁17、22行目の「本件明細書」をい
3 当審における控訴人の主な補充主張15
037】に「支柱回動ナット」、「支柱回動ボルト45(第1回動軸線)」、
35頁に示すとおり、板から構成される部材であり、訂正明細書等の実施15
2F、2G、2Hにおける「回動板状部材」の意義を誤って解釈している。
2の特徴は支持部材(構成要件2H及び2I)にあることは明らかである。10
9】)、その結果、甲14及び15の従来技術と比較して軽量化、コンパク10
09】)ところ、乙10の【0045】を見れば、「角形、丸形」であって
009】~【0013】とは明確に区別されて記載されている。そして、15
050】~【0054】、本件発明2に対応する実施形態の効果は【00
55】及び【0056】に、それぞれ区別してその効果が記載されている。
5】及び【0056】の記載によれば、上記効果【0019】、【005
5】及び【0056】は、【0007】の課題「設置・撤去作業の効率化
1 当裁判所も、控訴人の請求はいずれも棄却すべきものと判断する。その理由
3頁1行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
13、図14(a)(b)に示す通り、仮設防護柵201は仮設防護柵1の上
44にボルト250を挿通しナット(図示略)を螺合することによって固定
2、8行目、41頁3、7、13行目、42頁1行目の「本件明細書」をい
0年2月24日第三小法廷判決・民集52巻1号113頁、最高裁平成2810
359頁参照)。
2 控訴人の主張に対する判断
3 控訴人はその他縷々主張するが、いずれも前記認定及び判断を左右しない。
4 結論
事件の概要 1 本件は、発明の名称を「起伏収容式仮設防護柵」とする特許第6494125 0号の特許(本件特許)に係る特許権(本件特許権)を有する控訴人が、被控 訴人に対し、被控訴人が原判決別紙被控訴人製品目録記載の製品(被控訴人製 品)を製造等する行為が控訴人の本件特許権を侵害すると主張して、特許法1 00条1項及び2項に基づき、被控訴人製品の製造等の差止め及び廃棄を求め る事案である。10 原審が、被控訴人製品は本件特許に係る発明の技術的範囲に属せず、均等侵 害も成立しないとして控訴人の請求をいずれも棄却したところ、控訴人がその 取り消しを求めて本件控訴を提起した。

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判決文

令和7年5月26日判決言渡
令和6年(ネ)第10076号 特許権侵害差止等請求控訴事件(原審・東京地方
裁判所令和5年(ワ)第70393号)
口頭弁論終結日 令和7年2月10日
5 判 決
大都技研株式会社訴訟承継人
控 訴 人 G X 株 式 会 社
10 同訴訟代理人弁護士 櫻 林 正 己
同訴訟代理人弁理士 尾 崎 隆 弘
被 控 訴 人 株式会社ワイズテック
15 同訴訟代理人弁護士 後 藤 雄 則
同補佐人弁理士 金 丸 清 隆
主 文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
20 事 実 及 び 理 由
(略語は原判決のそれに従う。なお、原判決中「原告」とあるのを「控訴人」と、
「被告」とあるのを「被控訴人」と、
「別紙」とあるのを「原判決別紙」とそれぞれ
読み替える。)
第1 控訴の趣旨
25 1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、原判決別紙被控訴人製品目録記載の起伏収容式仮設防護柵を輸
入し、製造し、譲渡し、使用し、賃貸してはならない。
3 被控訴人は前項記載の起伏収容式仮設防護柵を廃棄せよ。
4 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。
第2 事案の概要
5 1 本件は、発明の名称を「起伏収容式仮設防護柵」とする特許第649412
0号の特許(本件特許)に係る特許権(本件特許権)を有する控訴人が、被控
訴人に対し、被控訴人が原判決別紙被控訴人製品目録記載の製品(被控訴人製
品)を製造等する行為が控訴人の本件特許権を侵害すると主張して、特許法1
00条1項及び2項に基づき、被控訴人製品の製造等の差止め及び廃棄を求め
10 る事案である。
原審が、被控訴人製品は本件特許に係る発明の技術的範囲に属せず、均等侵
害も成立しないとして控訴人の請求をいずれも棄却したところ、控訴人がその
取り消しを求めて本件控訴を提起した。
控訴人は、原審口頭弁論終結前の令和6年4月8日、本件特許の明細書の記
15 載についての訂正審判請求(訂正2024-390029号。以下「本件訂正
審判請求」という。)をし、同年8月29日提出の手続補正書により、本件訂
正審判請求書を補正し(同補正後の訂正事項に係る訂正を「本件訂正」という。 、

原審口頭弁論終結後の同年10月31日付けで、本件訂正を認める旨の審決
(以下「本件訂正審決」という)を得て、同審決は確定した(同審決確定後の
20 本件特許権に係る明細書及び図面を「訂正明細書等」という。)。
2 前提事実、争点及び争点に係る当事者の主張は、次のとおり補正し、後記3
のとおり当審における控訴人の主な補充主張を付加するほかは、原判決の「事
実及び理由」中、第2の1及び2並びに第3(原判決2頁7行目ないし27頁
14行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
25 ⑴ 原判決2頁22行目の末尾の次を改行し次のとおり加える。
「ウ 控訴人は、原審口頭弁論終結日前の令和6年4月8日、本件訂正審判
請求をし、同年8月29日提出の手続補正書により、本件訂正審判請求
書を補正し、同年10月31日付けで、本件訂正を認める旨の本件訂正
審決がされ(甲12)、同審決は確定した。
エ 本件訂正の内容は、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の【000
5 1】の『用いられる両面に』との記載を『用いられる片面又は両面に』
と、
【0050】の『以上説明した仮設防護柵1』との記載を『以上説明
した第1実施形態の仮設防護柵1』と、それぞれ訂正するものである。」
⑵ 原判決7頁(図面及びその指示部分を除く)8行目、8頁6行目、9頁6、
13、20行目、10頁4行目、11頁15行目、12頁26行目、13頁
10 6ないし7、22行目、14頁1、4、10、21行目、15頁1、5、1
2行目、17頁8、15行目、24頁17、22行目の「本件明細書」をい
ずれも「訂正明細書等」と改める。
⑶ 原判決14頁21行目の「以上説明した」の次に「第1実施形態の(下線
は本件訂正による訂正箇所。下線は判決で付記)」を加える。
15 3 当審における控訴人の主な補充主張
⑴ 構成要件該当性について(「回動板状部材」について)
ア 原判決は、本件各発明の「回動板状部材」が公知技術又は技術常識であ
るにもかかわらず、発明の特徴的な部分であると誤って認定し、これに基
づいて「回動板状部材」の意義を解釈しているが、誤りである。
20 本件特許の出願経過を参酌すると、拒絶理由通知における新規性の認定
において、本件各発明の「回動板状部材」及び「基礎架台」は、それぞれ
引用文献1(乙4) 「ガードレール支柱51のガードレール52側板部」

及び「H型鋼材6」に相当すると認定され、これらの新規性が否定されて
いる(乙3)。したがって本件各発明の「回動板状部材」及び「基礎架台」
25 は出願前の公知技術であり、特徴的部分とはなり得ず、付随的選択的部分
に過ぎない。特に「回動板状部材」は仮設防護柵の回動する「支柱」その
ものである。
また、訂正明細書等の【0004】に「支柱」、【0031】に「支柱
回動孔31」、【0033】に「支柱回動孔31」、【0034】に「支
柱回動孔31」、【0036】に「支柱回動孔31、31」、「支柱回動
5 ボルト45(第1回動軸線)」及び「支柱回動ナット(図示略)」、【0
037】 「支柱回動ナット」 「支柱回動ボルト45
に 、 (第1回動軸線) 、

【0041】に「支柱回動ナット(図示略)」、【0048】に「支柱回
動ボルト45」及び「支柱回動ナット(図示略)」、【0050】に「支
柱」と、それぞれ記載されており、訂正明細書等において、「回動板状部
10 材」は「支柱」である。
この点、技術常識を示す文献(甲16、17)では、車両用の防護柵(ガ
ードレール(GR)、ガードパイプ(GP)、ガードケーブル(GC)、
ボックスビーム(GB))の「支柱」には、「丸パイプ及び角パイプ」及
び「H形鋼」が含まれると規定されている。この「H形鋼」は、甲16の
15 35頁に示すとおり、板から構成される部材であり、訂正明細書等の実施
形態に記載の「回動板」はその一つの実施例である。また訂正明細書等に
「支柱」と記載され、「回動板状部材」は支柱の一種であり、別の表現で
あるので、実施形態に記載の「回動板」は支柱の範疇に含まれる。そして
この「支柱」(回動板状部材を含む)には、角パイプ(角筒管)も包括的
20 に含まれる。これは出願前のこの分野における技術常識である。
以上のとおり、原判決は、本件各発明の「回動板状部材」が公知技術又
は技術常識であるにもかかわらず、発明の特徴的な部分であると誤って認
定し、これに基づいて、構成要件1D、1E、1F、1G、2D、2E、
2F、2G、2Hにおける「回動板状部材」の意義を誤って解釈している。
25 イ 本件各発明の回動板状部材(支柱)及びガードレールは、それぞれ、標
準化されている車両用の防護柵(本来のガードレール)の仕様に準拠して
いる(甲16、17)。また基礎架台は、甲18及び19に示すとおり、一
般にJIS G 3192で規定されるH形鋼が用いられる。本件各発明に
ついてもこれを用いることを前提としており、基礎架台の短手方向の厚み
を薄くすることを課題とするものではない。そのため、本件発明1の特徴
5 となるのは、①二つの回動軸によりガードレールと回動板状部材(支柱)
が回動可能な構成とすること、及び、②回動板状部材(支柱)の起伏を行
わせる定着部材及び緊締部材である。その反面、回動板状部材(支柱)の
形状は、本件発明1の付随的選択的な構成に過ぎない。
また訂正明細書等の【0019】の発明の効果を参照すれば、本件発明
10 2の特徴は支持部材(構成要件2H及び2I)にあることは明らかである。
第1実施形態の【0050】で回動板としたのは、両面のガードレール
及び支柱を基礎架台の幅に収めるための一実施形態に支柱の短手方向の
幅を薄くすることができることを例示として記載したもので、一実施形態
の付随的構成効果に過ぎない。
15 なお本件各発明の課題の一部となっている「軽量化・コンパクト化」は、
支柱の軽量化・コンパクト化、すなわち「支柱の幅を狭くできる」ことを
示すものではない。また、「基礎架台の幅を狭くできる」ことを示すもの
でもない。あくまで甲14、15に記載の従来技術と比較して仮設防護柵
全体の軽量化・コンパクト化が可能となることを示すものである。
20 すなわち、従来技術のコンクリート型非起伏収容式から、非コンクリー
ト型起伏収容式へ変更する際の課題であり、支柱や基礎架台を対象とする
ものではない。甲14、15に記載の仮設防護柵は、起伏する構成とはな
っておらず、搬入・搬出時において、基礎架台と支柱をそれぞれバラバラ
となった状態で、あるいは、設置状態そのままで輸送・保管する必要があ
25 る。一方、本件各発明の仮設用防護柵は、支柱とガードレールをバラすこ
となく倒すことで、支柱とガードレールと基礎架台等を一体化して外形寸
法を小さくした状態で輸送・保管できる。
また、「軽量化」は設置時における仮設防護柵の全体重量を小さくでき
ることを示している。甲14、15に記載の仮設防護柵は、設置時におい
て、凹部にコンクリートを充填することを前提としている。一方、本件各
5 発明の仮設用防護柵は、設置時において凹部にコンクリートを充填するこ
とは想定していない。凹部はあくまでも、支柱等の収容のために設けるも
のである。
原判決は本件発明1の課題及び効果の評価を誤り、解決手段の原理の共
通性を誤認し、また、回動板が付随的効果を生じるだけであるにもかかわ
10 らず、これに基づいて、「回動板状部材」を「回動板」と根拠なく限定解
釈しており、特許法70条1項及び2項の規定に照らしても、失当である。
ウ 原判決は、本件発明1の解決手段及び課題を誤認している。
原判決は、
「当該『回動板状部材』 回動部材を板状として基礎架台
は、 (H
形鋼)の短手方向の厚みを薄くすることによって、本件各発明の課題を解
15 決するものである」
(原判決39頁1行目ないし4行目)としたが、本件特
許の特許請求の範囲及び訂正明細書等に「回動部材を板状として、基礎架
台(H形鋼)の短手方向の厚みを薄くすること」という構成については記
載が一切ない。特許請求の範囲及び訂正明細書等を参酌しても、本件各発
明において、回動板状部材を板に限定できないし、図面の回動板は単なる
20 例示に過ぎない。
また、前記のとおり、一般的に仮設防護柵の基礎架台についてはJIS
G 3192に規定するH形鋼を用いるのが当業者の技術常識である。す
なわち、H形鋼には当業者が一般的に用いる寸法が定型的に定められて当
該定型品が製造販売されており、本件各発明についてもこれは前提事項で
25 あって、そもそも基礎架台の幅を小さくするという解決手段自体が当業者
において存在していると認識できるものではない。
原判決は、「・・・本件各発明の課題は、本件明細書【0007】等の
記載を参酌すれば、仮設防護柵の起伏する部材の幅を小さくすることであ
って、基礎架台の短手方向の厚みを薄くすることにある。」(42頁1行
目ないし4行目)と認定したが、【0007】等には、「基礎架台の短手
5 方向の厚みを薄くすること」という課題の記載がなく、図面を参酌したと
しても、原判決で認定した課題には到達し得ない。
エ そして「角筒管」を使用している被控訴人製品においても、
「ガードレー
ルと回動板状部材を倒した状態で、前記基礎架台の上方に形成された前記
ウェブ部の短手方向の幅に収容することができ」(訂正明細書等【000
10 9】、その結果、甲14及び15の従来技術と比較して軽量化、コンパク

ト化ができている。
「回動板状部材」には「板、中空板等も含まれる」
(訂正明細書等【00
09】)ところ、乙10の【0045】を見れば、「角形、丸形」であって
も、すなわち、角筒管や円筒管であっても、
「板から構成される部材」とし
15 て表現されており、被控訴人製品の角筒管も「板から構成される部材」で
あり「回動する部材」である。
なお仮設防護柵においてガードレールの支柱を検討するとき、当業者は、
各種要素を勘案して、まず第1に既存の角筒管・円筒管を念頭に置いて検
討するものであるから、二つの回動軸及び定着部材・緊結部材によってコ
20 ンパクト化ができているのに、更に支柱について限定を加える合理的な理
由がない。
⑵ 均等侵害について
ア 本件発明1に関し
本件発明1の本質的部分は、二つの回動軸、定着部材及び緊締部材であ
25 り、
「回動板状部材」は本件発明1の本質的部分ではない。したがって、被
控訴人製品の「角筒管」が仮に本件発明1の「回動板状部材」に該当しな
いとしても、本件発明1と被控訴人製品とは起伏式の点で解決手段の原理
が共通であり、
「回動板状部材」は当業者において出願前の技術常識であっ
て、支柱である回動板を、支柱である「角筒管」に置換することは容易で
あり、置換しても本件発明1と同じ効果が生じるから置換可能であって、
5 均等侵害が成立する。
イ 本件発明2に関し
本件発明2については、原判決が認定する「回動板状部材」についての
解釈を前提としても、均等侵害が成立する。すなわち、本件発明2は独立
請求項であり、本件発明1と独立した発明として、特許法37条の規定に
10 よって、一出願中に規定された別発明である。そして本件発明2の本質は、
「支持部材による積み込み・積み下ろし作業の効率化および設置(撤去)
作業の効率化」 「部材管理の容易性・効率化」にあり、それ以外にない。

具体的には、本件発明2の効果は訂正明細書等の【0019】等に記載
されているが、訂正明細書等において、本件発明1(請求項1)の効果【0
15 009】~【0013】とは明確に区別されて記載されている。そして、
これに対応して、第1実施形態の効果中、本件発明1に対応する効果は【0
050】~【0054】、本件発明2に対応する実施形態の効果は【00
55】及び【0056】に、それぞれ区別してその効果が記載されている。
これらのことからも、本件発明1と本件発明2は第1実施形態において
20 外形上、共通する部分もあるが、独立に存在する別の発明であることは明
らかである。
本件発明1と本件発明2は、便宜上、一つの実施形態について組み合わ
せて記載されているが、第1実施形態の効果の欄に本件発明1の効果と本
件発明2の効果に対応して、各々が区別して記載されており、それぞれの
25 効果について、独立に評価を行うことにより、均等侵害が成立する。
本件発明2の作用効果に関する訂正明細書等の【0019】、【005
5】及び【0056】の記載によれば、上記効果【0019】、【005
5】及び【0056】は、【0007】の課題「設置・撤去作業の効率化
を可能とする」に対応する効果であり、仮設防護柵を設置・撤去する際、
積み上げ・積み降ろす際の作業の効率化を実現できる効果を指す。同効果
5 についての記載部分には、回動板状部材の作用効果の記載はない。
この効果の記載から、これに対応する課題は「設置・撤去作業の効率化」
であり、対応する構成は構成要件2H、2I(支持部材)であり、これら
は表裏一体の関係である。本件発明2は独立請求項形式であるにもかかわ
らず、原判決は、本件発明2の効果を誤認し、従属請求項形式として評価
10 し、本件発明1と同様に構成要件充足性とともに均等侵害の成立を否定し
ているが、これは誤りである。
この本件発明2の効果は、支柱の構造が角筒管であるか否かにかかわら
ず生じるから(現に被控訴人製品においてこの効果が生じている)、「回
動板状部材」は発明の本質ではない上、これを被控訴人製品の「角筒管」
15 に置換したとしても本件発明2と同じ効果が発生し置換可能であり、「角
筒管」は仮設防護柵の分野において出願前の技術常識であって置換も容易
であるから、本件発明2について均等侵害が成立することは明らかである。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も、控訴人の請求はいずれも棄却すべきものと判断する。その理由
20 は、当審における控訴人の主な補充主張も踏まえ、次のとおり補正し、後記2
のとおり当審における控訴人の主な補充主張に対する判断を付加するほかは、
原判決の「事実及び理由」中、第4の1及び2(原判決27頁16行目から4
3頁1行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
⑴ 原判決27頁17行目の「甲2」の次に「、12」を加え、同頁18行目
25 の「本件明細書」を「訂正明細書等(下線は本件訂正に係る訂正箇所。判決
で付記)」と、同頁21行目の「用いられる両面」を「用いられる片面又は両
面」とそれぞれ改める。
⑵ 原判決35頁13行目の「以上説明した仮設防護柵1の効果を説明する。」
を「以上説明した第1実施形態の仮設防護柵1の効果を説明する。と改める。

⑶ 原判決37頁11行目の末尾の次を改行し、次のとおり加える。
5 「【0058】
第2実施形態の仮設防護柵201を図13~図15を参照して説明する。図
13、図14(a)
(b)に示す通り、仮設防護柵201は仮設防護柵1の上
部に防眩装置を設けたもので、眩光防止網200は、防止網支柱210と防
止網本体220とから構成されている。防止網支柱210は、回動板4に脱
10 着自在に固定するための一対の支柱接続板211,211を有している。支
柱接続板211には、孔41に対応する孔244が形成されている。一対の
支柱接続板211,211をスライド可能に回動板4に挿入し、孔44,2
44にボルト250を挿通しナット(図示略)を螺合することによって固定
することができる。防止網本体220等については、一般的構成であるので、
15 説明は省略する。
【図14】


⑷ 原判決38頁7、14、17、26行目、39頁18、20行目、40頁
2、8行目、41頁3、7、13行目、42頁1行目の「本件明細書」をい
ずれも「訂正明細書等」と改める。
⑸ 原判決38頁18行目の「には」の次に 第1実施形態に関し、 を加え、
「、 」
5 同頁25行目の「ている」を「ているところ、第2実施形態に係る訂正明細
書等の【0058】も『回動板4』として説明しており、図14も同旨の記
載となっている」と改める。
⑹ 原判決39頁2行目の「板状として基礎架台(H形鋼)」を「短手方向に厚
みを有する板状とし、この回動板状部材とガードレールからなる仮設用防護
10 柵の起伏する部材」と、同頁24行目の「基礎架台(H形鋼)」を「仮設用防
護柵の起伏する部材」とそれぞれ改める。
⑺ 原判決40頁8行目の「以上説明した」の次に「第1実施形態の」を加え
る。
⑻ 原判決42頁3行目の「であって」から同行目の「薄くすること」までを
15 削り、同頁13行目の末尾の次を改行し、次のとおり加える。
「特許請求の範囲に記載された構成中に相手方が製造等をする製品又は用い
る方法(以下『対象製品等』という。 と異なる部分が存する場合であっても、

①同部分が特許発明の本質的部分ではなく、②同部分を対象製品等における
ものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果
20 を奏するものであって、③上記のように置き換えることに、当該発明の属す
る技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が、対象製品等の製
造等の時点において容易に想到することができたものであり、④対象製品等
が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから同
出願時に容易に推考できたものではなく、かつ、⑤対象製品等が特許発明の
25 特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たる
などの特段の事情もないときは、同対象製品等は、特許請求の範囲に記載さ
れた構成と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するものと解する
のが相当である。
そして、上記①の要件(第1要件)における特許発明における本質的部分
とは、当該特許発明の特許請求の範囲の記載のうち、従来技術に見られない
5 特有の技術的思想を構成する特徴的部分であると解すべきであり、特許請求
の範囲及び明細書の記載に基づいて、特許発明の課題及び解決手段とその効
果を把握した上で、特許発明の特許請求の範囲の記載のうち、従来技術に見
られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が何であるかを確定するこ
とによって認定されるべきである(最高裁平成6年(オ)第1083号同1
10 0年2月24日第三小法廷判決・民集52巻1号113頁、最高裁平成28
年(受)第1242号同29年3月24日第二小法廷判決・民集71巻3号
359頁参照)。
これを本件についてみると、前記⑴アのとおり、本件各発明は、
『道路改良
工事等に用いられる片面又は両面にガードレールを備える起伏収容式仮設防
15 護柵に関』【0001】
( )し、『仮設防護柵の設置・撤去作業の効率化が必要
不可欠である』【0002】
( )ところ、『仮設用防護柵の短手方向の幅は法令
等で許される範囲で、可能な範囲で狭くすることが求められることがある』
ことから(【0006】、
)『仮設用防護柵の起伏する部材の幅を小さくでき、
軽量化、コンパクト化等を図るとともに、設置・撤去作業の効率化を可能と
20 する起伏収容式仮設防護柵を提供すること』
(【0007】 を発明が解決しよ

うとする課題とし、当該課題を解決する手段として、
『短手方向に厚さを有す
る回動板状部材』(本件発明1の構成要件1D、本件発明2の構成要件2D)
を備える構成を採用することにより、『前記回動板状部材は短手方向に厚さ
を有するので、短手方向の幅を薄くすることができる』【0009】、
( )『短手
25 方向に厚さを有する回動板状部材と、を備え・・・前記回動板状部材が倒伏
した状態のとき、前記ガードレール及び前記回動板状部材を前記ウェブ部の
短手方向の幅に収容可能であ』る(【0018】)という効果を奏するもので
ある。
そうすると、本件各発明において従来技術に見られない特有の技術的思想
を構成する特徴的部分は、支柱として機能する回動板状部材が、短手方向に
5 厚さを有するので、短手方向の幅を薄くすることができ、仮設用防護柵を起
伏する部材を、基礎架台のウェブ部に、倒伏、収容可能とすること、すなわ
ち、回動板状部材を用いることにより、短手方向の幅を薄くすることができ
るので、仮設用防護柵を起伏する部材を、基礎架台のウェブ部に、倒伏、収
容可能とできることにあると認められる。
10 そして、本件各発明と被控訴人製品とは、支柱として機能する部材が板状
であるか角筒管として構成されているかの点において相違するものと認めら
れるところ、この相違に係る本件各発明の上記構成は、短手方向の幅を薄く
するために必要であって、これまでの検討によれば、本件各発明の本質的部
分に当たるものということができる。
15 そうすると、上記相違点に係る本件各発明の構成については、本件各発明
の本質的部分ではないということはできない。」
⑼ 原判決42頁14行目の「しかしながら」を「また」と、同頁15行目の
「基礎架台(H形鋼) を
」 「仮設用防護柵の起伏する部材」とそれぞれ改める。
2 控訴人の主張に対する判断
20 ⑴ 控訴人は、前記第2の3⑴のとおり、被控訴人製品は、本件各発明の「回
動板状部材」を充足する旨を主張する。
しかし、補正の上で引用した原判決第4の1、2⑴のとおり、被控訴人製
品は上記構成要件を充足するものとはいえず、控訴人が当審において本件特
許出願時の技術常識を示すものとして提出する証拠(甲14ないし19)を
25 参照しても、上記認定は左右されない。控訴人は、本件各発明における「板
状」との文言の意義を明らかにせず、他の特許公報(特許第6334042
号、乙10)の発明の詳細な説明(【0045】)の記載によれば、角筒管も
「板から構成される部材」に含まれるなどとするところ、訂正明細書等の記
載に基づくものではなく、失当である。
したがって、控訴人の上記主張は、採用することができない。
5 ⑵ 控訴人は、前記第2の3⑵のとおり、仮に被控訴人製品が、本件各発明に
文言上はその技術的範囲に属しないものとしても、これと均等なものとして、
特許権侵害に当たる旨を主張する。
しかし、本件各発明においては、回動軸、定着部及び緊諦部材だけではな
く、
「回動板状部材」 控訴人が当審において提出する従来技術
も、 (甲15等)
10 には見られないものであって、前記本件各発明のそれら全部の構成が一体と
して回動機構となり、基礎架台のウェブ部に倒伏、収容可能な起伏式特有の
技術思想に必須のものといえる。そのため、回動板状部材は、本件各発明の
本質的部分に含まれる発明特定事項であると認められる。そうすると、本件
各発明の本質的部分については、補正の上で引用した原判決第4の2⑵のと
15 おりと認められるから、本件各発明と被控訴人製品とは、その本質的部分に
おいて異なるものというべきである。
したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
3 控訴人はその他縷々主張するが、いずれも前記認定及び判断を左右しない。
4 結論
20 よって、控訴人の請求をいずれも棄却した原判決は相当であり、本件控訴は
理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部

5 裁判長裁判官
中 平 健

裁判官
今 井 弘 晃

裁判官
水 野 正 則

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