令和6(行ケ)10024審決取消請求事件
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裁判所 |
請求棄却 知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所
|
裁判年月日 |
令和7年5月26日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
原告株式会社イシダ 被告特許庁長官
|
対象物 |
X線検査装置 |
法令 |
特許権
特許法29条2項1回
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キーワード |
審決68回 実施17回 進歩性7回
|
主文 |
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。25 |
事件の概要 |
1 特許庁における手続の経緯等
原告は、平成30年3月20日、名称を「X線検査装置」とする発明につき
特許出願(特願2018-053046号。請求項の数7。以下「本願」とい
う。甲3)をし、令和3年3月17日に手続補正書を提出したが、同年11月 |
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判決文
令和7年5月26日判決言渡
令和6年(行ケ)第10024号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 令和7年2月26日
判 決
原 告 株 式 会 社 イ シ ダ
同訴訟代理人弁理士 長 谷 川 芳 樹
同 黒 木 義 樹
10 同 和 田 雄 二
同 阿 部 寛
同 高 口 誠
同訴訟代理人弁護士 吉 村 雅 人
同訴訟代理人弁理士 木 村 一 仁
15 同 北 翔 二 郎
被 告 特 許 庁 長 官
同 指 定 代 理 人 芝 沼 隆 太
同 山 村 浩
20 同 波 多 江 進
同 田 邉 英 治
同 阿 曾 裕 樹
主 文
1 原告の請求を棄却する。
25 2 訴訟費用は、原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 特許庁が不服2022-15868号事件について令和6年1月29日にし
た審決を取り消す。
2 訴訟費用は、被告の負担とする。
5 第2 事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等
原告は、平成30年3月20日、名称を「X線検査装置」とする発明につき
特許出願(特願2018-053046号。請求項の数7。以下「本願」とい
う。甲3)をし、令和3年3月17日に手続補正書を提出したが、同年11月
10 10日付け拒絶理由通知書を受領した。
原告は、令和4年1月12日付け意見書を提出したが、同年3月2日付け拒
絶理由通知書を受領した。原告は、同年5月9日、意見書及び手続補正書を提
出したが、同年6月27日付けで拒絶査定(甲4)を受けた。
原告は、令和4年10月5日、拒絶査定に対し不服の審判請求(甲5)をし、
15 同日手続補正書を提出した。特許庁は、同請求を不服2022-15868号
事件として審理した。
原告は、令和5年7月21日付け拒絶理由通知書を受領し、これに対し原告
は、同年8月14日、意見書及び手続補正書(この補正により、請求項の数は
5となった。)を提出した。
20 原告は、令和5年9月21日付け拒絶理由通知書(甲6)を受領し、同年1
1月27日、意見書(甲8)及び手続補正書(甲7。以下、その補正を「本件
補正」という。本件補正後も請求項の数は5であった。)を提出したが、令和6
年1月29日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下「本件審
決」という。)を受け、その謄本は、同年2月13日、原告に送達された。
25 原告は、令和6年3月13日、本件訴訟を提起した。
2 発明の内容
本件補正後の請求項は前記のとおり1ないし5から成るが、そのうち請求項
1に係る発明の内容(以下「本願発明」といい、その明細書及び図面を「本願
明細書等」という。なお、本願その他の明細書等の記載を引用する場合に「段
落」との記載は省略する。)は、以下のとおりである。
5 「物品を搬送する搬送部と、
前記搬送部によって搬送される物品にX線を照射するX線照射部と、
前記物品を透過した前記X線を検出するセンサと、前記センサを制御する制
御基板とがユニットとして一体的に形成されたX線検出ユニットと、
内部に前記X線による前記物品の検査が実施される検査領域が設けられた筐
10 体と、
前記X線検出ユニットに対して冷風機から供給される冷気をダクトを介して
導風する導風部と、
前記センサにより検出される前記X線からX線透過画像を生成し、前記X線
透過画像に基づいて前記物品の検査を行う制御部と、を備え、
15 前記X線検出ユニットは、前記導風部の一部を構成する流路を有する収容部
に収容されており、
前記流路は、前記冷気により前記X線検出ユニットの温度が上昇することを
抑制するように配置されており、
前記ダクトは、前記流路に前記冷気を導風する、X線検査装置。」
20 3 本件審決の内容
⑴ 本件審決の理由の要点は、本願発明は、引用文献1(特開2012-78
254号公報、甲1)に記載された発明(以下「引用発明」という。)に引用
文献2(特開平2-163691号公報、甲2)に記載された技術的事項を
適用することによって当業者が容易に発明をすることができたから、特許法
25 29条2項により特許を受けることができない、というものである。
⑵ 本件審決は、上記判断をするに当たり、引用発明の内容、本願発明と引用
発明との一致点及び相違点を、次のとおり認定した(本件審決が認定した引
用発明の内容については争いがない。。
)
[引用発明の内容]
「上流側の搬入コンベア101から搬送されてくる被検査物Bに対して、X
5 線を照射することによって、当該被検査物Bを透過したX線を検知して被検
査物Bの不良判断を行うX線検査装置100であって、【0024】
( )
前記X線検査装置100は、脚部110、及び、脚部110に固定される
本体部120を備え、本体部120は、シールドボックス(筺体)200と、
X線源300と、センサユニット400と、コンベアユニット500と、X
10 線遮蔽扉600と、X線遮蔽カーテン670と、冷却機700と、制御部8
00と、フロントパネル900とを備え、(【0025】)
前記シールドボックス200は、フロントパネル900が設けられる前面
部210、前面部210に対向配置され、冷却機700が設けられる背面部
220、X線源300の上方に設けられる天面部230、天面部230に対
15 向配置され、X線源300の下方に設けられる底面部240、上記した搬入
口201が設けられる右側面部250、および、搬出口202が設けられる
左側面部260を有し、底面部240に連続して設けられ、鉛直方向(Z方
向)に延在する奥壁部270と、当該奥壁部270の下端から背面部220
の下端まで延びる奥底面部280とを有し、これらの前面部210、背面部
20 220、天面部230、底面部240、右側面部250、左側面部260、
奥壁部270、および、奥底面部280によって区画された空間が、X線源
300および制御部800などを収容する収容空間S1となり、(【002
7】)
前記X線源300は、下方に向けてX線を照射するように固定配置されて
25 おり、当該X線源300から照射されたX線は、シールドボックス200の
底面部240に形成される開口を介して、検査室S2に照射され、(【00
33】)
前記検査室S2とは、シールドボックス200の底面部240、シールド
ボックス200の奥壁部270、コンベアユニット500の搬送面M、X線
遮蔽扉600、および、X線遮蔽カーテン670により囲まれる空間をいい、
5 (【0034】)
前記センサユニット400は、前記X線源300から照射されたX線を検
知するラインセンサ410と、ラインセンサ410との間に所定空間を設け
て略平行に配置された一対の遮蔽部材421および422と、ラインセンサ
410および遮蔽部材421,422を収容するセンサボックス430と、
10 を有し、(【0036】)
前記センサボックス430の背面部220側の部分には、開口部431が
形成され、この開口部431は、当該開口部431の近傍に配置されたファ
ン950から送風される気体を、センサボックス430内に導入するために
設けられ、遮蔽部材421および422は、センサボックス430の開口部
15 431と対向する面432との間に、所定空間を有するように配置され、こ
れにより、センサボックス430内において、気体が対流するボックス内対
流経路R2が形成され、(【0037】)
前記ファン950が駆動することによって、センサボックス430の開口
部431からセンサボックス430内に空気が流入し、一対の遮蔽部材42
20 1,422間において、ラインセンサ410の素子配列方向に沿って空気が
流れて、開口部431に対向する面432に到達し、当該面432と遮蔽部
材421,422との間に所定空間が形成されているので、面432に到達
した空気は、当該所定空間でUターンして、ファン950側に流れ、(【0
058】)
25 前記開口部431から流入した空気が、ラインセンサ410に沿って対向
する面432に向かって流れ、対向する面432側における遮蔽部材421,
422の所定空間を通過して、開口部431側に戻るボックス内対流経路R
2を生成することができ、その結果、当該経路R2により、ラインセンサ4
10の冷却効率を高めることができ、(【0070】)
前記コンベアユニット500は、前記X線検査装置100の上流側に配置
5 される搬入コンベア101から受け取った被検査物Bを、X線検査装置10
0の下流側に配置される搬出コンベア102まで搬送するために設けられて
おり、途中で上記したX線源300のX線が照射されるX線照射位置(X線
源300の真下の位置)において、被検査物BのX線検査を行い、(【00
38】)
10 前記制御部800は、X線源300に印加する電圧の大きさを制御し、ラ
インセンサ410によって検知されたX線に係るX線透過データに基づいて
X線透過画像を作成する、(【0052】)
X線検査装置100。」
[一致点]
15 「物品を搬送する搬送部と、
前記搬送部によって搬送される物品にX線を照射するX線照射部と、
前記物品を透過した前記X線を検出するセンサと、
内部に前記X線による前記物品の検査が実施される検査領域が設けられた
筐体と、
20 前記センサに対して気体を導風する導風部と、
前記センサにより検出される前記X線からX線透過画像を生成し、前記X
線透過画像に基づいて前記物品の検査を行う制御部と、を備え、
前記センサは、前記導風部の一部を構成する流路を有する収容部に収容さ
れており、
25 前記流路は、前記気体により前記センサの温度が上昇することを抑制する
ように配置されている、X線検査装置。」である点。
[相違点]
【相違点1】
本願発明は、「センサと、センサを制御する制御基板とがユニットとし
て一体的に形成されたX線検出ユニット」をなして、導風部は「前記X線
5 検出ユニット」に対して導風し、「前記X線検出ユニット」が収容部に収
容され、「前記X線検出ユニット」の温度が上昇することを抑制するよう
に流路が配置されているのに対して、引用発明は、ラインセンサ410が
ラインセンサ410を制御する制御基板を備えてユニットとして一体的
に形成されているかどうか不明である点。
10 【相違点2】
導風部について、本願発明は、「冷風機から供給される冷気をダクトを
介して」導風するものであって、「前記冷気」により前記X線検出ユニッ
トの温度が上昇することを抑制するように流路が配置されており、「前記
ダクトは、前記流路に前記冷気を導風する」のに対して、引用発明は、冷
15 風機及びダクトを備えず、「ファン950から送風される気体」をセンサ
ボックス内に導入する点。
⑶ 本件審決は、引用文献2に記載された技術的事項を、次のとおり認定した
(頁数の記載は、引用文献2(甲2)の記載箇所)。
「基板に放射線センサとその信号処理回路(ICチップ)を搭載して一つの
20 モジュールを形成した放射線検出装置において、(2頁右上欄10~13行)
エアチャンバの内部に放射線センサが下方に位置するよう配設されており、
(2頁右下欄8~10行)
冷風循環系が、ファンと熱交換器およびろ過器を備えており、ファンによ
って冷風を、ろ過器を介してエアチャンバの空気入口管に導き、センサ部の
25 熱を奪った温風を熱交換器によって再び冷却して空気入口管に導くこと。3
(
頁右上欄16行~左下欄2行)」
4 原告の主張する取消事由
⑴ 取消事由1
引用文献2記載の技術的事項の認定の誤り
⑵ 取消事由2
5 本願発明と引用発明との一致点及び相違点の認定の誤り
⑶ 取消事由3
本願発明についての進歩性の判断の誤り
第3 当事者の主張
1 取消事由1(引用文献2記載の技術的事項の認定の誤り)
10 〔原告の主張〕
⑴ 本件審決の引用文献2記載の技術的事項の認定の問題点
ア 引用発明の技術内容は、引用文献の記載を基礎として、客観的かつ具体
的に認定・確定されなければならず、引用文献に記載された技術内容を、
本願発明との対比に必要がないにもかかわらず抽象化したり、一般化した
15 り、上位概念化したりすることは、恣意的な判断を容れるおそれが生じる
ため、原則として許されない。他方、引用発明の認定は、これを本願発明
と対比させて、本願発明と引用発明との相違点に係る技術的構成を確定さ
せることを目的としてされるものであるから、本願発明との対比に必要な
技術的構成について過不足なく行われなければならない(知財高裁令和4
20 年(行ケ)第10007号同5年1月18日判決参照)。
さらに、主引用発明及び副引用発明の技術内容は、引用文献の記載を基
礎として、客観的かつ具体的に認定・確定されるべきであって、引用文献
に記載された技術内容を抽象化したり、一般化したり、上位概念化したり
することは、恣意的な判断を容れるおそれが生じるため、許されないもの
25 といえる(知財高裁平成23年(行ケ)第10121号同24年1月31
日判決)。
そのため、引用発明の認定に当たっては、一まとまりの構成ないし技術
的思想として技術内容を過不足なく認定する必要があるところ、本件審決
では、実施例の一部の構成のみを抽出して引用文献2記載の発明(以下、
原告の主張において、「引用発明2」という。)を認定している。
5 イ 本件審決は、実施例の一部の構成のみを抽出してモジュール形成引用発
明なるものを認定している。
本願発明は、その請求項において「前記流路は、前記冷気により前記X
線検出ユニットの温度が上昇することを抑制するように配置され」とある
ように、センサと制御基板からなるX線検出ユニットの温度上昇を抑制す
10 る手段として「冷気」であることが特定されている。他方、引用文献2で
は放射線センサ群には冷風を導入するが、ICチップには液体冷媒により
冷却を行っている。このように冷気と液体冷媒による冷却手段を用いる理
由は、放射線センサ群にのみ冷気を供給しただけではX線検出ユニットの
温度上昇は抑制できないからである。
15 それにもかかわらず、一部の記載のみを引用文献2の技術思想として認
定することは、本願発明との対比において必要な技術的構成に不足がある。
本件審決の引用発明2の認定は、一まとまりの構成ないし技術的思想とし
て技術内容を過不足なく認定されたものではなく、引用文献2に記載され
た技術内容を抽象化したり、一般化したり、上位概念化したり、といった
20 恣意的な判断がされたものであるから、本件審決の引用発明2の認定は妥
当でなく、この誤りは本件審決の結論に影響を与える。
⑵ 上記によれば、引用発明2は、以下のとおりに認定されるべきである(下
線部は本件審決の認定に加えるべき箇所として原告の主張するものである。。
)
「基板に放射線センサとその信号処理回路(ICチップ)を搭載して一つの
25 モジュールを形成した放射線検出装置において、
エアチャンバの内部に放射線センサが下方に位置するよう配設されると共
に、放射線センサを含む空間と信号処理回路(ICチップ)を含む空間とが
壁体によって個別に区画されており、
冷風循環系が、ファンと熱交換器およびろ過器を備えており、ファンによ
って冷風を、ろ過器を介して放射線センサを含む区画空間の空気入口管に導
5 き、放射線センサの熱を奪った温風を熱交換器によって再び冷却して空気入
口管に導かれ、
液体冷媒循環系が、ポンプとその吸込口および吐出口にそれぞれ接続され
た熱交換器およびろ過器を備えており、熱交換器で冷却した液体冷媒をポン
プによって、ろ過器を介して信号処理回路を含む区画空間の空気入口管に導
10 き、信号処理回路の熱を奪った液体冷媒を熱交換器によって再び冷却して空
気入口管に導かれる、放射線検出装置。」
〔被告の主張〕
⑴ 引用文献2は、いわゆる副引用文献であるところ、副引用文献は、主引用
文献とは異なり、それ単独で当業者が接するものではなく、主引用文献に接
15 した当業者が、その記載に基づいて一定の動機を持った上で接するものであ
る。そうすると、副引用文献に記載された技術的事項の認定は、主引用文献
に記載された発明の認定とは異なり、主引用文献に接して上記の動機を持っ
た当業者の立場として行うことが許されるというべきである。
しかるに、主引用発明である引用発明では、
「ファン950が駆動すること
20 によって、センサボックス430の開口部431からセンサボックス430
内に空気が流入し」「前記開口部431から流入した空気が、ラインセンサ
、
410に沿って対向する面432に向かって流れ、対向する面432側にお
ける遮蔽部材421,422の所定空間を通過して、開口部431側に戻る
ボックス内対流経路R2を生成することができ、その結果、当該経路R2に
25 より、ラインセンサ410の冷却効率を高めることができ」る構成となって
いるから、主引用発明である引用発明は、既に空気によりセンサを冷却する
構成を有している。そして、本件審決16頁12行目ないし19行目で説示
したとおり、引用発明に接した当業者は、「ラインセンサ410」(本件審決
16頁12行目その他の「ラインセンサ41」は「ラインセンサ410」の
誤記である。と
)「ラインセンサ410を制御する信号処理回路(ICチップ)」
5 を基板に搭載して一つのモジュールを形成する具体的構成を設計するという
動機を持つところ、このような当業者が引用文献2に接する場合に、センサ
及びその冷却機構である冷風循環系に着目してこれを把握することは、上記
のとおり引用発明が空気によりセンサを冷却する構成を有していることに照
らせば、ごく自然なことである。本件審決における引用文献2の技術的事項
10 の認定は、上記の事情を考慮してされたのであり、誤りはない。
⑵ これに対して、原告は、本件審決の引用文献2の技術的事項の認定は、引
用文献2に記載された技術内容を抽象化した等の恣意的な判断がされたもの
である旨主張するが、上記のとおり、引用文献2は主引用文献ではなく副引
用文献である。また、仮にそれを措き、引用文献2に記載された技術的事項
15 として信号処理回路(ICチップ)に対する液体冷媒循環系に係る構成をも
含めて認定したとしても、前段落で主張したとおり、引用発明から出発した
当業者が引用文献2に接する場合に、センサ及びその冷却機構である冷風循
環系に着目してこれを把握することがごく自然であることを考慮すれば、結
局のところ、当業者は、当該液体冷媒循環系に係る構成を含めた技術的事項
20 から本件審決が認定した引用文献2に記載された技術的事項を抽出して、引
用発明に適用することができるから、原告の主張は、結論に影響するもので
はない。
2 取消事由2(本願発明と引用発明との一致点及び相違点の認定の誤り)
〔原告の主張〕
25 引用文献1記載の発明(引用発明)のセンサボックス430は、ラインセン
サ410を収容する構成が開示されている。一方、本願発明は、センサと制御
基板とが一体形成されたX線検出ユニットを収容する「収容部」である。その
ため、本願発明の「収容部」は引用発明に開示されていない。
また、引用発明は、ラインセンサ410を冷却するために空気のみを供給す
る構成が開示されている。これに対し本願発明は、X線検出ユニットに対して
5 冷風機から供給される冷気を、ダクトを介して導風する導風部である。そのた
め、本願発明の「導風部」は引用発明に開示されていない。同様に、本願発明
の「X線検出ユニット」の温度が上昇することを抑制するように「流路」が配
置されている構成を満たすものであるということにはならない。そのため、本
願発明の「導風部」及び「流路」も引用発明に開示されていない。
10 したがって、本願発明と引用発明には本件審決において認定されていない相
違点があり、上記相違点を考慮していないことから、本件審決に記載された相
違点の認定には誤りがある。
〔被告の主張〕
原告は、本件審決において認定されていない相違点がある旨を主張し、その
15 根拠として、本願発明の「収容部」はX線検出ユニットを収容するものである
が、そのような「収容部」は引用発明に開示されていない点、本願発明の「導
風部」はX線検出ユニットに対して冷風機から供給される冷気を、ダクトを介
して導風するものであるが、そのような「導風部」は引用発明に開示されてい
ない点、及び、本願発明の「流路」はX線検出ユニットの温度が上昇すること
20 を抑制するように配置されているものであるが、そのような「流路」は引用発
明に開示されていない点を挙げる。
しかし、本件審決の相違点では、本願発明が「センサと、センサを制御する
制御基板とがユニットとして一体的に形成されたX線検出ユニット」をなして
いるという相違に伴い、導風部、収容部及び流路が「X線検出ユニット」を対
25 象にしたものであることを挙げた上で、それに対して、引用発明は、ユニット
として一体的に形成されているかどうか不明であることを相違点としている。
そうすると、原告が主張する導風部、収容部及び流路に関する構成は相違点
として認定されており、本件審決において認定されていない相違点は存在しな
い。
したがって、本件審決における相違点の認定に誤りはなく、原告の主張は失
5 当である。
3 取消事由3(本願発明についての進歩性の判断の誤り)
〔原告の主張〕
⑴ 引用発明に適用する引用文献2に記載された技術的事項としては、冷風循
環系に関する構成のみならず、前記1〔原告の主張〕⑵で述べたとおり、壁
10 体や液体冷媒循環系に関する構成も含めたものとすべきであり、そのような
構成を引用発明に適用しても、本願発明の「壁体によって区画された信号処
理回路を含む空間に液体冷媒を導流する冷媒管がない」との構成、及び、本
願発明の「冷気によりX線検出ユニットの温度が上昇することを抑制するよ
うに流路が配置されている」との構成には至らない。
15 また、引用発明に冷風循環系に加えて、壁体や液体冷媒循環系を適用した
場合であっても、液体冷媒循環系を取り除く変更を行うことには阻害要因が
あるから、当業者が容易に想到できたものではない。
したがって、本件審決の本願発明についての進歩性の判断は誤りである。
⑵ 本件審決では、ラインセンサと信号処理回路をモジュール化することにつ
20 いて、引用発明に引用文献2に記載された技術的事項を適用することで容易
になし得ることであると認定しているのに対し、被告は、本件訴訟において、
本件審決では適用されていなかった新たな証拠である乙1及び2を用いて、
当業者が容易に想到し得たことであると主張している。したがって、上記被
告の主張は、本件審決の内容に基づいた反論ではないから、訴訟物たる本件
25 審決の違法性の存否と関係がない。
また、本件審決では、冷風機から供給される冷気をダクトを介して導風す
ることについて、引用発明に引用文献2に記載された技術的事項を適用する
ことで容易になし得ることであると判断しているのに対し、被告は、本件訴
訟において、本件審決では適用されていなかった新たな乙2ないし5を引用
して、当業者が容易に想到し得たことであると主張している。したがって、
5 上記被告の主張は、本件審決の記載に基づいた反論ではないから、訴訟物た
る本件審決の違法性の存否と関係がない。
⑶ 本願発明によれば、X線検出ユニットに冷気を供給する流路を設けること
でX線検出ユニットにおける温度の上昇を抑制するという従来技術にはない
有利な効果を奏するものであり、本件審決の判断は誤りである。
10 〔被告の主張〕
⑴ 原告の主張は、引用文献2に記載された技術的事項として、冷風循環系に
関する構成のみならず、壁体や液体冷媒循環系に関する構成も含めたものと
すべきであることを前提とした主張であるが、本件審決の引用文献2に記載
の技術的事項の認定に誤りがないことは前記1〔被告の主張〕に記載したと
15 おりである。したがって、原告主張はその前提において誤りがあり、失当で
ある。
⑵ 仮に、原告主張のように、壁体や液体冷媒循環系に関する構成も含めて引
用文献2に記載された技術的事項を認定し、引用発明にそのような技術的事
項を適用した構成(以下、被告の主張において「原告適用発明構成」という。)
20 を想定しても、本件審決の結論には影響しない。
本願発明の「前記流路は、前記冷気により前記X線検出ユニットの温度が
上昇することを抑制するように配置されて」いるという構成(以下、被告の
主張において「本件温度上昇抑制流路配置構成」という。)のうち「X線検出
ユニットの温度」は、X線検出ユニットのうち選択されたある局所的な部位
25 の温度をそのように称することもあるから(乙6~9) 本件温度上昇抑制流
、
路配置構成に係る特定事項の意味は、冷気により、
「X線検出ユニット」のう
ち、温度が上昇することを抑制すべき部分、具体的には「センサ」の温度が
上昇することを抑制するように流路を配置することで足りると解すべきであ
り、原告の主張はその前提において誤っている。したがって、原告主張のと
おり原告適用発明構成を想定しても、原告適用発明構成は、冷気によりセン
5 サの温度が上昇することを抑制するような流路配置となっている以上、本件
温度上昇抑制流路配置構成に至っていることになる。
本願明細書の記載を考慮すると、本件温度上昇抑制流路配置構成に係る特
定事項の意味は、本願発明の技術的意義の観点に照らせば、冷気により「X
線検出ユニット」のうち「センサ」の温度が上昇することを抑制するように
10 流路が配置されていることで足りると解すべきである。
本願発明の技術的意義は、検出精度の低下を防ぐ観点から、ラインセンサ
等のX線検出部における温度変化を抑制することにあるところ、ここでいう
「ラインセンサ等のX線検出部」は、
「X線検出部は、X線検出部を制御する
制御基板と共に、ユニットとして一体的に形成され」る(【0009】)こと
15 にも照らせば、本願発明の「センサ」に相当することは明らかである。した
がって、本願発明の技術的意義の観点からは、本件温度上昇抑制流路配置構
成に係る特定事項の意味は、冷気により「センサ」の温度が上昇することを
抑制するように流路が配置されていることで足りると解される。
原告は、引用発明から出発して本願発明の構成に至るためには、原告適用
20 発明構成に至った後に、「信号処理回路を含む空間に液体冷媒を導流する冷
媒管」の構成を取り除き、
「冷気によりX線検出ユニットの温度が上昇するこ
とを抑制する流路が配置されている」という構成を加える変更をする必要が
あり、そのような変更には、阻害要因があると主張するが、引用発明に冷風
循環系に加えて壁体及び液体冷媒循環系を含めて適用した場合にも本願発明
25 の構成に至っているから、液体冷媒循環系を取り除く変更を行う必要はない。
したがって、原告の主張はいずれにしても失当である。
本件審決が認定した相違点1については、例えば甲2(引用文献2)や、
乙1及び2のように、センサと信号処理回路をモジュール化することが常套
手段であることは本件審決でも示したとおりであるから、引用発明において、
そのような構成を採用し、ラインセンサと信号処理回路とをユニットとして
5 構成することは、当業者が容易に想到し得たことである。
また、本件審決が認定した相違点2については、冷却を行う構成において
冷風機及びダクトを用いることは一般的なことであり(例えば乙2ないし5)、
甲2(引用文献2)に示すとおり放射線検出装置の分野でも採用されている
ものであるところ、既に空気によりラインセンサを冷却する構成を有してい
10 る引用発明において、より効率的な冷却を行うために冷風機及びダクトを採
用し、冷気を用いて冷却する構成とすることは、当業者が容易に想到し得た
ことである。
本件審決の本願発明についての進歩性の判断に誤りはない。
⑶ 原告が主張する本願発明の従来技術にはない有利な効果は、本願発明の構
15 成が奏するものとして、引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項が
奏する作用効果から予測される範囲のものにすぎず、格別顕著なものという
ことはできない。原告の主張はいずれも失当である。
第4 当裁判所の判断
1 本願明細書等の記載と本願発明の内容
20 ⑴ 本願明細書等(甲3)には、次のとおりの記載がある。
ア 技術分野
「本発明は、X線検査装置に関する。」(【0001】)
イ 背景技術
「従来のX線検査装置としては、例えば、特許文献1に記載されている装
25 置が知られている。特許文献1に記載のX線検査装置は、X線照射部(X
線発生器)から発生する熱を外部へ導く通風路と、通風路の一部をなすと
共にX線照射部を密封する基板と、基板を貫通して設けられ、X線照射部
において発生する熱を通風路に伝達する冷却フィンと、を備えている。特
許文献1のX線検査装置では、X線照射部の冷却を図ることができる。」
(【0002】)
5 ウ 発明が解決しようとする課題
「X線検査装置は、X線照射部が照射するX線を検出するラインセンサ等
のX線検出部を備えている。このようなX線検出部は、熱等の影響によっ
てノイズが増える等の不具合が発生し、検出精度が低下するおそれがある。
したがって、X線検出部の温度は、可能な限り一定に維持されることが好
10 ましい。上記従来のX線検査装置では、X線照射部の冷却を図ることはで
きるものの、X線検出部の温度変化を抑制することはできない。 【000
」
(
4】)
「そこで、本発明は、X線検出部の温度変化を抑制することができる、X
線検査装置を提供すること目的とする。(
」【0005】)
15 エ 課題を解決するための手段
「本発明に係るX線検査装置は、X線を照射するX線照射部と、X線を検
出するX線検出部と、X線検出部の少なくとも一部に対して空気を導風す
る導風部と、を備える。(
」【0006】)
「本発明に係るX線検査装置では、X線検出部は、X線検出部を制御する
20 制御基板と共に、ユニットとして一体的に形成されており、導風部は、ユ
ニットの少なくとも一部に対して空気を導風してもよい。この構成のX線
検査装置では、発熱量の大きい制御基板がX線検出部と一体的に形成され
ている場合であっても、X線検出部における温度の変化を抑制することが
できる。(
」【0009】)
25 「本発明に係るX線検査装置では、導風部は、空気の流路である通風路と、
通風路に空気を給気するファン、及び通風路から空気を排気するファンの
少なくとも一方と、を有してもよい。これにより、より効果的に、X線検
出部に空気を導風することができる。(
」【0010】)
「本発明に係るX線検査装置では、通風路に冷気を供給する冷風機を更に
備え、通風路は、分岐部を有し、冷風機によって供給された冷たい空気は、
5 分岐部を介してX線検出部とX線照射部とに導風されてもよい。この構成
のX線検査装置では、X線照射部に冷気を供給することができる。また、
X線照射部冷却用の冷風機を利用することができる。(
」【0012】)
オ 発明の効果
「本発明によれば、X線検出部の温度変化を抑制することができる。 【0
」
(
10 014】)
カ 発明を実施するための形態
「図5に示されるように、分岐ダクト52の他端52bから排気される冷
気は、ドア2aを閉めた状態において、第一流路61の一端61aから第
一流路61に流入する。第一流路61に流れ込んだ冷気は、図5に示され
15 る矢印のように、収容部9の後方から前方に向かって流れ、再び、前方か
ら後方に向かって流れる。X線検出ユニット70の一部に面する第一流路
61を流れる冷気は、X線検出ユニット70から熱を奪う。そして、温度
が上昇した空気(暖気)は、排気ファン66によって第一流路61の他端
61bから排気される。排気ファン66から排気される暖気は、冷風機4
20 0の給気口42に向かって排気される。したがって、上記暖気は、冷風機
40の給気口42から給気され、再び冷気として供給口41から供給され
る。(
」【0031】)
「分岐ダクト53の他端53bから排気される冷気は、第一流路61の一
端62aから第二流路62に流入する。第二流路62に流れ込んだ冷気は、
25 図5に示される矢印のように、収容部9の後方から前方に向かって流れ、
再び、前方から後方に向かって流れる。X線検出ユニット70の一部に面
する第二流路62を流れる冷気は、X線検出ユニット70から熱を奪う。
そして、温度が上昇した空気(暖気)は、排気ファン66によって第二流
路62の他端62bから排気される。排気ファン66から排気される暖気
は、冷風機40の給気口42に向かって排気される。したがって、上記暖
5 気は、冷風機40の給気口42から給気され、再び冷気として供給口41
から供給される。(
」【0032】)
「上記実施形態のX線検査装置1では、図5に示されるように、X線検出
ユニット70が一端61a(一端62a)から他端61b(他端62b)
まで延在する第一流路61(第二流路62)に面しているので、X線検出
10 ユニット70において発生した熱(暖気)を収容部9の外部に導風、又は
収容部9の外部からX線検出ユニット70に冷気を導風することができ
る。この結果、X線検出ユニット70における温度の変化を抑制すること
ができる 。(
」【0035】)
キ 図面
15 【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
⑵ 上記⑴の記載によれば、本願発明は、X線検査装置に関するものであり
15 (【0001】、
) X線検査装置は、X線照射部が照射するX線を検出するライ
ンセンサ等のX線検出部を備えているところ、このようなX線検出部は、熱
等の影響によってノイズが増える等の不具合が発生し、検出精度が低下する
おそれがある。したがって、X線検出部の温度は、可能な限り一定に維持さ
れることが好ましい。従来のX線検査装置では、X線照射部の冷却を図るこ
20 とはできるものの、X線検出部の温度変化を抑制することはできないという
課題があった(【0004】。
)
本願発明は、この課題を解決するため、X線を照射するX線照射部と、X
線を検出するX線検出部と、X線検出部の少なくとも一部に対して空気を導
風する導風部と、を備えることとしたものであり(【0006】、そのX線検
)
25 出部は、X線検出部を制御する制御基板と共に、ユニットとして一体的に形
成されており、導風部は、ユニットの少なくとも一部に対して空気を導風し
てもよい。この構成のX線検査装置では、発熱量の大きい制御基板がX線検
出部と一体的に形成されている場合であっても、X線検出部における温度の
変化を抑制することができる(【0009】。導風部は、空気の流路である通
)
風路を有してもよく 【0010】、
( ) 通風路に冷気を供給する冷風機を更に備
5 え、通風路は、分岐部を有し、冷風機によって供給された冷たい空気は、分
岐部を介してX線検出部とX線照射部とに導風されてもよい(【0012】。
)
このような本願発明によれば、X線検出部の温度変化を抑制することがで
き(【0014】、X線検出ユニット70が一端61a(一端62a)から他
)
端61b(他端62b)まで延在する第一流路61(第二流路62)に面し
10 ているので、X線検出ユニット70において発生した熱(暖気)を収容部9
の外部に導風、又は収容部9の外部からX線検出ユニット70に冷気を導風
することができる。この結果、X線検出ユニット70における温度の変化を
抑制することができる(【0035】、とするものである。
)
⑶ なお、被告は、前記第3の3(取消事由3)〔被告の主張〕⑵記載のとお
15 り、前記第2の2記載の本願発明の「前記流路は、前記冷気により前記X線
検出ユニットの温度が上昇することを抑制するように配置されて」いること
の技術的意義について、このように「X線検出ユニットの温度」とする場合
には、X線検出ユニットのうち、選択されたある局所的な部位の温度をその
ように称することもあるとして、それに沿う証拠(乙6~9)を提出し、こ
20 れによれば本願発明の「前記流路は、前記冷気により前記X線検出ユニット
の温度が上昇することを抑制するように配置されて」いるという構成に係る
特定事項の意味は、本願発明の技術的意義にも照らし、冷気により、「X線
検出ユニット」のうち、温度が上昇することを抑制すべき部分、具体的には
「センサ」の温度が上昇することを抑制するように流路を配置することで足
25 りると解すべきであると主張する。
この点につき、本願発明の「X線検出ユニット」は、前記第2の2のとお
り、
「前記物品を透過した前記X線を検出するセンサと、前記センサを制御す
る制御基板とがユニットとして一体的に形成された」ものであるから、本願
発明の上記「流路は、前記冷気によりX線検出ユニットの温度が上昇するこ
とを抑制するように配置されて」いることの技術的意味は、流路が、冷気に
5 より、センサと制御基板とがユニットとして一体的に形成されたX線検出ユ
ニットとしての温度が上昇することを抑制するように配置されていることを
意味すると解するのが相当である。
そうすると、前記第2の2のとおり、本願発明は「X線検出ユニットの温
度が上昇することを抑制するように」とされているのであるから、被告が主
10 張するような、流路が、冷気によりセンサのみの温度が上昇することを抑制
するように配置されたものであって、制御基板を含むX線検出ユニットとし
ては、冷気だけでは温度が上昇することを抑制できないような構成を意味す
るものとは解されない。
上記の理解は、上記⑴の本願明細書等の「X線検出ユニット70の一部に
15 面する第一流路61を流れる冷気は、X線検出ユニット70から熱を奪う。」
(【0031】、
)「X線検出ユニット70の一部に面する第二流路62を流れ
る冷気は、X線検出ユニット70から熱を奪う。(
」【0032】、
)「X線検出
ユニット70が一端61a(一端62a)から他端61b(他端62b)ま
で延在する第一流路61(第二流路62)に面しているので、X線検出ユニ
20 ット70において発生した熱(暖気)を収容部9の外部に導風、又は収容部
9の外部からX線検出ユニット70に冷気を導風することができる。 (
」 【0
035】)との記載にも整合するものである。
したがって、被告の上記主張は採用することができない。
2 取消事由1(引用文献2記載の技術的事項の認定の誤り)について
25 ⑴ 引用文献2(甲2)には、名称を「放射線検出装置の冷却構造」とする発
明に関し、以下の記載がある(下線は判決で付記)。
ア 発明の詳細な説明
(ア) 〈従来の技術〉の項
「高密度に実装されたICチップの冷却方法としては、一般に、ファン
等により空気を装置に通風する強制空冷方式がある。」(2頁右下欄8
5 行目ないし10行目)
「また、他の冷却方法としては、液体冷媒配管に熱的に導通する銅板等
の金属板をICチップが搭載された基板に接触させることにより熱伝導
によって冷却を行う伝導液冷方式や、コールドプレート等によりICチ
ップを直接的に冷却する方式等がある。」(2頁右下欄15行目ないし
10 20行目)
(イ) 〈発明が解決しようとする課題〉の項
「本発明の目的は、装置全体の構造を複雑にすることなく、高密度に実
装された放射線センサの信号処理回路を効率よく冷却することのできる、
放射線検出装置の冷却構造を提供することにある。(2頁右上欄3行目
」
15 ないし6行目)
(ウ) 〈課題を解決するための手段〉の項
「上記の目的を達成するための構成を、実施例に対応する第1図、第2
図を参照しつつ説明すると、本発明は、基板1に放射線センサ2とその
信号処理回路(ICチップ)3a、3bを搭載して一つのモジュール1
20 0を形成し、このモジュール10複数個を3次元的に実装した放射線検
出装置において、放射線センサ群2・・・2を含む空間と信号処理回路
群3a・・・3a、3b・・・3bを含む空間とを個別に区画すべく壁
体(例えば基板の折り曲げ部1a、壁体4等)を形成するとともに、信
号処理回路群3a・・・3a、3b・・・3bを含む空間には液体冷媒
25 (例えばパーフロロカーボン)を導入し得るよう構成したことを特徴と
している。」(2頁右上欄8行目ないし20行目)
(エ) 〈実施例〉の項
「本発明の実施例を、以下、図面に基づいて説明する。
第1図は本発明実施例の構造を示す縦断面図、第2図はそのⅡ-Ⅱ断
面図、第3図は第1図の放射線検出装置部の全体透視図である。
5 まず、第3図に示すように、一端が折り曲げられたセラミック製の基
板1上に、複数個の放射線センサ2・・・2および信号処理回路用のI
Cチップ3a・・・3a、3b・・・3bをそれぞれ一列に配列して1
次元の検出モジュール10を形成し、また、フラットな基板1′上に同
様に放射線センサ2・・・2およびICチップ3a・・・3a、3b・・・
10 3bを配列して検出モジュール10′を形成し、この検出モジュール1
0′を最下部として検出モジュール10を放射線センサ2の幅だけシフ
トして段階状に順次積み重ね、さらに最上部には折り曲げ基板1を積み
重ねて、全体として2次元の放射線検出装置を構成している。なお、各
基板1の折り曲げ部1aの端部はその下方の基板1′もしくは1に気密
15 に接着されている。
以上のような構成の放射線検出装置が、第1図、第2図に示すように、
エアチャンバ5の内部に、放射線センサ2が下方に位置するよう配設さ
れており、その上方部および左右両側方部は壁体4によって覆われてい
る。この壁体4は基板1もしくは1′の端部に気密に接着されている。」
20 (2頁左下欄7行目ないし2頁右下欄12行目)
「また、エアチャンバ5の下部には、空気入口管5aおよび出口管5b
が設けられている。」(3頁左上欄1行目ないし2行目)
「第4図は、第1図に示す実施例に使用する冷却装置の構成例を示すブ
ロック図である。
25 この冷却装置は、液体冷媒循環系と冷風循環系によって構成されてい
る。
液体冷媒循環系は、ポンプ101とその吸込口および吐出口にそれぞ
れ接続された熱交換器102およびろ過器103を備えており、ろ過器
103の出口が検出装置の冷媒入口管4aに、熱交換器102の入口が
冷媒出口管4bに、それぞれ配管等によって接続される。この循環系で
5 は、熱交換器102で冷却したパーフロロカーボン等の液体冷媒をポン
プ101によって、ろ過器103を介して冷媒入口管4aに導き、信号
処理回路部を通過する際にその熱を奪った液体冷媒を熱交換器102に
よって再び冷却して冷媒入口管4aに導くことができる。
また、冷風循環系も同様に、ファン111と熱交換器112およびろ
10 過器113を備えており、ファン111によって冷風を、ろ過器113
を介してエアチャンバ5の空気入口管5aに導き、センサ部の熱を奪っ
た温風を熱交換器112によって再び冷却して空気入口管5aに導くこ
とができる。」(3頁左上欄20行目ないし3頁左下欄2行目)
イ 図面
15 第1図
第2図
第3図
第4図
⑵ 上記⑴の記載(特に下線箇所)によれば、引用文献2には、以下の技術的
事項が記載されているものと認められる。
5 「基板に放射線センサとその信号処理回路(ICチップ)を搭載して一つの
モジュールを形成した放射線検出装置において(2頁右上欄10行目ないし
13行目)、エアチャンバ(5)の内部に放射線センサ(2)が下方に位置す
るよう配設されており(2頁右下欄8行目ないし10行目、第1図及び第2
図)、冷風循環系が、ファン(111)と熱交換器(112)及びろ過器(1
10 13)を備えており、ファンによって冷風を、ろ過器を介してエアチャンバ
の空気入口管に導き、センサ部の熱を奪った温風を熱交換器によって再び冷
却して空気入口管に導くこと(3頁右上欄16行目ないし左下欄2行目、第
4図)」
そうすると、前記第2の3⑶の、本件審決が認定した引用文献2に記載さ
15 れた技術的事項の内容は相当であると認められ、その認定に誤りはない。
⑶ 本願出願時における周知技術を示すものとして、以下の文献があり、それ
ぞれに記載された内容は、以下のとおりである。
ア 乙2(特開2002-6049号公報、公開日平成14年1月9日、発
明の名称「X線デジタル撮影装置」)
図2
「・・・可撓性チューブ20aが、送流および還流の往復二系統の流路を
備えており、送風22と排気23は、筐体4と冷却ユニット21内で循環
される。このため、冷却ユニット21の内部には、熱交換機21bを設け
て、排気23からの熱を吸収する構造となっている。」(【0021】)
15 イ 乙3(特開2006-338349号公報、公開日平成18年12月1
4日、発明の名称「自動販売機」)
図2
「熱交換ダクト23は、冷却器21の蒸発部212を包囲する態様で配設
した管路であり、その内部を流れる空気を冷却するものである。より詳細
に説明すると、熱交換ダクト23は、蒸発部212で冷媒が気化すること
により、その内部を流れる空気を冷却するものである。このように熱交換
5 ダクト23で冷却された空気は、送気ダクト24を経由して商品収容庫5
a、5b、5cの内部まで移動することになる。(
」【0032】)
ウ 乙4(特開2001-102226号公報、公開日平成13年4月13
日、発明の名称「ガス絶縁静止誘導電器」)
図1(a)
「・・・複数の冷却器6によって冷却された絶縁ガスは、共通配管8にて
20 合流し、下部配管10aの収納部110c内部に設置された送風機7aに
よって、⽮印FAに示すように、流入口72から送風機7a内部に流入し
て吐出口71からタンク1方向に吐出される。すなわち、絶縁ガスは、下
部配管110を通ってタンク1の下部に流入する。(
」【0030】)
エ 乙5(特開平11-277286号公報、公開日平成11年10月12
25 日、発明の名称「レーザ加工装置」)
図2
10 「・・・ファン17が回転すると光路ダクト3の両端(発振器1側と全反
射ミラー4側)に接続された分岐流出路14を通って光路ダクト内の空気
が吸い上げられ、熱交換器16で冷却された後、再び分岐流入路15を通
って光路ダクト3内に戻る。(
」【0013】)
⑷ 原告は、前記第3の1〔原告の主張〕記載のとおり、本件審決が放射線セ
15 ンサ群に冷気を供給する点のみを引用文献2の技術思想として認定すること
は本願発明との対比において必要な技術的構成に不足があり、文献に記載さ
れた技術内容について恣意的な判断がされたものであるから、引用文献2に
記載された技術的事項の認定は妥当でない旨を主張する。
しかし、上記引用文献2の記載(3頁左上欄20行目ないし3頁左下欄2
20 行目。前記⑴ア)によれば、冷却装置は、センサ部の熱を奪う冷風循環系と、
信号処理回路部の熱を奪う液体冷媒循環系とによって構成されることが記載
されており、上記各循環系は、冷却を行う構成として、それぞれ異なる技術
的思想として把握することができる。このことは、引用文献2の従来技術に、
ICチップの冷却につき装置に通風する空冷方式と、伝導液冷方式による冷
25 却方法がそれぞれ記載され(1頁右下欄8行目ないし10行目、同15行目
ないし20行目、前記⑴ア)、前記⑶のとおり、冷却を行う構成において、冷
風機から供給される冷気をダクト(乙2の可撓性チューブ20a、乙3の熱
交換ダクト23等)を介して供給することが一般的に行われている周知技術
であることからも明らかである。
そうすると、本件審決の引用文献2に記載された技術的事項の認定は、冷
5 却を行う構成として、上記引用文献2の記載を基礎とし、異なる技術的思想
として把握し得る二つの循環系のうちの一方の循環系であるセンサ部の熱を
奪う冷風循環系を、客観的かつ具体的に認定したものと認められる。
以上によれば、引用文献2に記載された技術的事項に関する本件審決の認
定に誤りがあったとは認められない。
10 したがって、原告の主張する取消事由1は理由がない。
3 取消事由2(本願発明と引用発明との一致点及び相違点の認定の誤り)につ
いて
⑴ 引用文献1(甲1)には、名称を「X線検査装置」とする発明に関し、以
下の記載がある。
15 ア 発明を実施するための形態
「[X線検査装置の全体構成]
本実施形態に係るX線検査装置100は、図1に示すように、食品等の
被検査物Bの生産ラインにおいて、被検査物BのX線検査を行う装置であ
る。このX線検査装置100は、上流側の搬入コンベア101から搬送さ
20 れてくる被検査物Bに対して、X線を照射することによって、当該被検査
物Bを透過したX線を検知して被検査物Bの不良判断を行う。なお、前述
した「不良判断」とは、被検査物Bに異物が混入しているか否かの判断(異
物検査)、被検査物Bを構成する内容物が規定レベルを満たすか否かの判
断(欠品検査、レベルチェック)など、を言う。(
」【0024】)
25 「本実施形態に係るX線検査装置100は、従来のX線検査装置(管電圧:
25kV〜70kV)に比べて、高出力タイプ(管電圧:100kV以上)
のX線検査装置であって、高精度のX線検査が可能である。具体的には、
X線検査装置100は、X線源300から照射される高エネルギー帯のX
線と低エネルギー帯のX線とをそれぞれ検知して、高エネルギー帯のX線
を検知して得られたX線透過画像と低エネルギー帯のX線を検知して得
5 られたX線透過画像とに画像処理を施して、高精度のX線検査を行う。こ
のX線検査装置100は、図1に示すように、脚部110、及び、脚部1
10に固定される本体部120を備えている。そして、図2および図3に
示すように、本体部120は、主として、シールドボックス(筺体)20
0と、X線源300と、センサユニット400と、コンベアユニット50
10 0と、X線遮蔽扉600と、X線遮蔽カーテン670と、冷却機700と、
制御部800と、フロントパネル900とを備えている。(
」【0025】)
「[シールドボックス(筺体)]
シールドボックス200は、X線遮蔽構造を有している。このシールド
ボックス200には、図2および図3に示すように、被検査物Bを搬入す
15 るための搬入口201が形成されていると共に、被検査物Bを搬出するた
めの搬出口202が形成されている。なお、この搬入口201および搬出
口202のそれぞれには、X線遮蔽カーテン670が設けられている。図
3に示すように、シールドボックス200の内部には、X線源300およ
び制御部800等が収容されている。このシールドボックス200は、図
20 2および図3に示すように、フロントパネル900が設けられる前面部2
10、前面部210に対向配置され、冷却機700が設けられる背面部2
20、X線源300の上方に設けられる天面部230、天面部230に対
向配置され、X線源300の下方に設けられる底面部240、上記した搬
入口201が設けられる右側面部250、および、搬出口202が設けら
25 れる左側面部260を有している。ここでは、搬入口201が右側面部2
50に、搬出口202が左側面部260に設けられる例について説明した
が、コンベアユニット500による搬送方向を逆にすれば、右側面部25
0に搬出口202が設けられ、左側面部260に搬入口201が設けられ
ても良い。また、シールドボックス200は、図3に示すように、底面部
240に連続して設けられ、鉛直方向(Z方向)に延在する奥壁部270
5 と、当該奥壁部270の下端から背面部220の下端まで延びる奥底面部
280とを有している。これらの前面部210、背面部220、天面部2
30、底面部240、右側面部250、左側面部260、奥壁部270、
および、奥底面部280によって区画された空間が、X線源300および
制御部800などを収容する収容空間S1となる。」(【0027】)
10 「[X線源]
X線源300は、被検査物BにX線を照射するために設けられている。
本実施形態では、X線源300は、高エネルギー帯のX線を照射するため
に、X線源300の管電圧を100kV以上に設定することが可能である。
このように、X線源300を高電圧で使用する場合、X線源300の発熱
15 量が多くなる。そうすると、図3(a)および(b)に示すように、X線
源300によって熱せられた気体は、上昇して凹部231の高さが高い位
置PH(図3(b)参照)に向かう。これにより、シールドボックス20
0内で熱せられた気体が凹部231内に集まる。このX線源300は、上
記したシールドボックス200の収容空間S1に配置されており、コンベ
20 アユニット500の搬送面Mの下方に配置されたセンサユニット400
のラインセンサ410に向かってX線を照射する。X線源300は、コン
ベアユニット500による搬送方向(矢印X方向)に直交する方向に扇状
にX線を照射する(図3のDが示す2点鎖線参照)。本実施形態では、X線
源300は、下方に向けてX線を照射するように固定配置されており、当
25 該X線源300から照射されたX線は、シールドボックス200の底面部
240に形成される開口(図示せず)を介して、検査室S2に照射される。」
(【0033】)
「なお、底面部240の開口には、検査室S2側に延在するX線規制部材
241が設けられており、底面部240の開口を通過したX線が搬送方向
(矢印X方向)に拡散しないように規制している。なお、上記した検査室
5 S2とは、シールドボックス200の底面部240、シールドボックス2
00の奥壁部270、コンベアユニット500の搬送面M、X線遮蔽扉6
00、および、X線遮蔽カーテン670により囲まれる空間をいう。 (
」【0
034】)
「また、底面部240のX線源300側の面には、X線遮蔽板242が設
10 けられている。これにより、X線源300から照射されて、収容空間S1
内で反射したX線が外部に漏洩するのを防止することができる。」(【0
035】)
「[センサユニット]
センサユニット400は、図6および図7に示すように、コンベアユニ
15 ット500の搬送面Mの下方に配置されている。このセンサユニット40
0は、図8に示すように、X線源300から照射されたX線を検知するラ
インセンサ410と、ラインセンサ410との間に所定空間を設けて略平
行に配置された一対の遮蔽部材421および422と、ラインセンサ41
0および遮蔽部材421,422を収容するセンサボックス430と、を
20 有している。(
」【0036】)
「ラインセンサ410は、上下方向(Z方向)に所定の間隔を隔てて配置
されるデュアルセンサであって、この2重のセンサによって、X線源30
0から照射される低エネルギー帯のX線と高エネルギー帯のX線とを検
知する。一対の遮蔽部材421および422は、ラインセンサ410の素
25 子配列方向(矢印Y方向)に沿って延在する板状部材であり、当該ライン
センサ410を挟んで対向して配置される。また、センサボックス430
の背面部220側の部分には、開口部431が形成されている。この開口
部431は、当該開口部431の近傍に配置されたファン950(図3参
照)から送風される気体を、センサボックス430内に導入するために設
けられている。そして、本実施形態では、遮蔽部材421および422は、
5 センサボックス430の開口部431と対向する面432との間に、所定
空間を有するように配置されている。これにより、センサボックス430
内において、気体が対流するボックス内対流経路R2が形成される。(
」【0
037】)
「[コンベアユニット(搬送部)]
10 コンベアユニット500は、図6および図7に示すように、X線検査装
置100の上流側に配置される搬入コンベア101から受け取った被検
査物Bを、X線検査装置100の下流側に配置される搬出コンベア102
まで搬送するために設けられており、途中で上記したX線源300のX線
が照射されるX線照射位置(X線源300の真下の位置)において、被検
15 査物BのX線検査を行う。このコンベアユニット500は、図7に示すよ
うに、フレーム510と、駆動ローラ521および3つの従動ローラ52
2〜524(以下、適宜、駆動ローラ521と従動ローラ522〜524
を総称して、ローラ521〜524とする)と、これらのローラ521〜
524の外周面に装着されたベルト530と、を有している。ローラ52
20 1〜524は、互いに所定の間隔を隔てて配置されており、正面視におい
て、シールドボックス200の右側面部250および左側面部260(図
1参照)から僅かに外側に突出する上部ローラ521および522と、当
該ローラ521および522の下方に配置される下部ローラ523およ
び524と、から構成されている。上部ローラ521と上部ローラ522
25 とは、同一平面上に配置されると共に、下部ローラ523および524は、
当該平面より下方に設けられる。上部ローラ521と522との間隔は、
下部ローラ523と524との間隔より大きくなっている。これらのロー
ラ521〜524は、金属製である。このように配置されるローラ521
〜524の外周面に装着されるベルト530の内側の領域には、上記した
センサユニット400が配置されている。(
」【0038】)
5 「[制御部]
制御部800は、X線検査装置100の各部の動作を制御する。具体的
には、制御部800は、X線源300に印加する電圧の大きさを制御した
り、ラインセンサ410によって検知されたX線に係るX線透過データに
基づいてX線透過画像を作成したりする。この制御部800は、CPU、
10 記憶部、入力装置および出力装置等を有するコンピュータである 。(
」【0
052】)
「[センサボックス内の冷却について]
図8に示すように、ファン950が駆動することによって、センサボッ
クス430の開口部431からセンサボックス430内に空気が流入す
15 る。そして、一対の遮蔽部材421,422間において、ラインセンサ4
10の素子配列方向(Y方向)に沿って空気が流れて、開口部431に対
向する面432に到達する。このとき、当該面432と遮蔽部材421,
422との間に所定空間が形成されているので、面432に到達した空気
は、当該所定空間でUターンして、ファン950側に流れる。 【0058】
」
( )
20 「(L)
さらに、遮蔽部材421,422をラインセンサ410と所定空間を設
けて略並行に配置するとともに、遮蔽部材421,422をセンサボック
ス430の開口部と対向する面との間に所定空間を有した状態で配置す
ることによって、開口部431から流入した空気が、ラインセンサ410
25 に沿って対向する面432に向かって流れ、対向する面432側における
遮蔽部材421,422の所定空間を通過して、開口部431側に戻るボ
ックス内対流経路R2を生成することができる。その結果、当該経路R2
により、ラインセンサ410の冷却効率を高めることができる。 【007
」
(
0】)
イ 図面
5 【図8】
⑵ 上記⑴の記載によれば、引用文献1には、前記第2の3⑵記載の本件審決
が認定した内容の引用発明が記載されており(引用発明の認定に係る甲1の
各段落については、引用発明の各内容中に記載)、これと前記第2の2の本
20 願発明とを対比すると、本件審決が認定した前記第2の3⑵記載の一致点で
一致し、同記載の相違点1及び2の点で相違するものと認められるから、本
件審決の一致点及び相違点の認定に誤りはない。
⑶ これに対し、原告は、前記第3の2〔原告の主張〕のとおり、引用発明1
のセンサボックス430は、ラインセンサ410を収容するのに対し、本願
25 発明は、センサと制御基板とが一体形成されたX線検出ユニットを収容する
「収容部」であるから、本願発明の「収容部」は引用発明に開示されておら
ず、引用発明は、ラインセンサ410を冷却するために空気のみを供給する
のに対し、本願発明は、X線検出ユニットに対して冷風機から供給される冷
気を、ダクトを介して導風する導風部であるから、本願発明の「導風部」は
引用発明に開示されていない、同様に、本願発明の「X線検出ユニット」の
5 温度が上昇することを抑制するように「流路」が配置されている構成を満た
すものではなく、そのため、本願発明の「導風部」及び「流路」も引用発明
に開示されていないから、仮に、導風部、収容部及び流路が「X線検出ユニ
ット」を対象にしたものであったとしても、引用発明の導風部及び流路は、
冷気ではなく空気のみを供給するものであり、冷気を供給するものではない
10 から、本願発明と引用発明には本件審決において認定されていない相違点が
あり、本件審決に記載された相違点の認定には誤りがあると主張する。
しかし、本件審決は、前記第2の3⑵のとおり、相違点1について、本願
発明は「センサと、センサを制御する制御基板とがユニットとして一体的に
形成されたX線検出ユニット」をなしているとした上で、導風部、収容部及
15 び流路が「X線検出ユニット」を対象にしたものであることを認定しており、
それに対して、引用発明は、ユニットとして一体的に形成されているかどう
か不明であることを相違点1として認定している。すなわち、本願発明の収
容部、導風部及び流路が「X線検出ユニット」を対象にしたものであること
は、本件審決において、相違点1として認定されている。
20 また、本件審決は、前記第2の3⑵のとおり、相違点2の導風部について、
本願発明は、
「冷風機から供給される冷気をダクトを介して」導風するもので
あり、
「前記冷気」により前記X線検出ユニットの温度が上昇することを抑制
するように流路が配置されており、
「前記ダクトは、前記流路に前記冷気を導
風する」ものであることを認定しており、それに対して、引用発明は、冷風
25 機及びダクトを備えず、
「ファン950から送風される気体」をセンサボック
ス内に導入することを相違点2として認定している。すなわち、本願発明の
導風部、流路が「冷風機から供給される冷気」を供給するものであることは、
本件審決において、相違点2として認定されている。
以上によれば、原告の主張する点については、いずれも相違点として認定
されているから、本件審決の一致点及び相違点の認定に誤りは認められない。
5 したがって、原告の主張する取消事由2は理由がない。
4 取消事由3(本願発明についての進歩性の判断の誤り)について
⑴ 原告は、本件審決の本願発明についての進歩性の判断は誤りである旨を主
張するので、上記1ないし3における検討の結果を踏まえ、本願発明と引用
発明との相違点1及び2に関し、その容易想到性について検討する。
10 ア 相違点1について
本願出願当時の周知技術を示す文献の記載によれば、以下のとおり認め
られる。
(ア) 乙1(特開昭63-101788号公報、公開日昭和63年5月6日、
発明の名称「多チヤンネル型半導体放射線検出器」)
15 図1
上記図1によれば、「半導体放射線検出器アレイ6」並びに「基板3」
25 及び「アンプ8」はモジュール化されているといえる
(イ) 乙2(特開2002-6049号公報、公開日平成14年1月9日、
発明の名称「X線デジタル撮影装置」)
図4
「筐体4の内部には・・・蛍光(可視光線)を電気信号に変換する二次
5 元配列の光電変換素子1、これらを固定する支持板3、光電変換素子1
の電気信号を取り出すためのフレキシブル回路基板5a、電気信号を処
理する電子回路及び電源部などを搭載する電子回路基板5などが収納さ
れている」【0006】
( )
上記記載にもよれば、図4において、「光電変換素子1」、「支持板
10 3」及び「電子回路基板5」はモジュール化されているといえる。
(ウ) 上記(ア)及び(イ)によれば、センサ(乙1の半導体放射線検出器アレイ
6、乙2の光電変換素子1)と回路(乙1の基板3及びアンプ8、乙2
の支持板3及び電子回路基板5)をモジュール化すること、即ち一体化
することは周知技術であることが示されており、引用文献2においても
15 (前記2⑴ア、2頁右上欄10行目ないし13行目) 基板に放射線セン
、
サ2と信号処理回路(ICチップ)が一つのモジュールとして一体化さ
れていることが示されている。
これによれば、相違点1に関し、センサ及びその制御基板をユニット
として一体的に形成することは、センサの技術分野における常套手段で
あると認められる。
そうすると、引用発明において、ラインセンサ410に換えて、常套
手段である、ラインセンサ410及びその制御基板を一体的に形成した
ユニットを採用することは、当業者が適宜選択し得た設計的事項という
5 ことができる。
イ 相違点2について
相違点2に関しては、本願出願時において、前記2⑶アないしエに示さ
れるとおり、冷却を行う構成として、冷風機から供給される冷気をダクト
を介して供給することは、一般的に行われている技術常識であると認めら
10 れる(前記2⑷)
。
そうすると、引用発明において、より効果的な冷却を行うために、ファ
ン950から気体を送風する構成に換えて、引用文献2に記載された技術
的事項(前記2⑵)である、冷風を空気入口管に導く構成を採用する動機
付けがあるものといえる。
15 ウ 小括
以上によれば、引用発明において、常套手段であるラインセンサ410
とその制御基板と一体に形成したユニットを採用するとともに、そのユニ
ットの冷却を行う構成として、引用文献2に記載された技術的事項である
冷風を空気入口管に導く構成を採用し、相違点1及び2に係る本願発明の
20 構成とすることは、当業者が格別の創意を要することなく、容易に想到し
得たものというべきである。
そうすると、本件審決の本願発明についての進歩性の判断に誤りはない
というべきである。
原告の主張する取消事由3には理由がない。
25 ⑵ア 原告は、前記第3の3〔原告の主張〕⑴記載のとおり、引用発明に適用
する引用文献2に記載された技術的事項としては、冷風循環系に関する構
成のみならず、壁体や液体冷媒循環系に関する構成も含めたものとすべき
であり、そのような構成を引用発明に適用しても、本願発明の「壁体によ
って区画された信号処理回路を含む空間に液体冷媒を導流する冷媒管が
ない」との構成、及び、本願発明の「冷気によりX線検出ユニットの温度
5 が上昇することを抑制するように流路が配置されている」との構成には至
らない、また、引用発明に冷風循環系に加えて、壁体や液体冷媒循環系を
適用した場合であっても、液体冷媒循環系を取り除く変更を行うことには
阻害要因があるから、当業者が容易に想到できたものではないと主張する。
しかし、原告の主張はいずれも、引用文献2に記載された技術的事項と
10 して、冷風循環系に関する構成のみならず、壁体や液体冷媒循環系に関す
る構成も含めたものとすることを前提とした主張であり、既に前記2にお
いて検討したとおり、本件審決の引用文献2に記載された技術的事項の認
定に誤りはないから、原告の主張は前提を欠くものというほかない。
したがって、原告の上記主張は採用することができない。
15 イ 原告は、前記第3の3〔原告の主張〕⑵記載のとおり、本件審決では、
ラインセンサと信号処理回路をモジュール化することについて、引用発明
に、引用文献2に記載された技術的事項を適用することにより容易になし
得ることであると認定しているのに対し、被告は、本件審決では適用され
ていなかった新たな乙1、2を用いて、当業者が容易に想到し得たことで
20 あると主張しているから、被告の主張は、本件審決の内容に基づいた反論
ではなく、本件審決の違法性の存否と関係がない、また、新たな乙2ない
し5を引用して容易想到性を主張することについても同様であると主張す
る。
しかし、本件審決の相違点に係る容易想到性の判断に誤りがないことに
25 ついては既に検討したとおりであるほか、被告が本件訴訟において提出す
る乙1及び2は、本件審決が「ラインセンサとこのような信号処理回路を
モジュール化することは引用文献2に記載された技術的事項にも見られ
るように常套手段に過ぎない」と判断したことについて、引用文献2以外
にも文献を示し、常套手段としたことに誤りがないことを主張するために
用いられているものであって、本件訴訟においてこれらの証拠を提出し、
5 これに沿う主張をすることに特段の問題はない。
また、乙2ないし5についても、冷却を行う構成として、冷風機から供
給される冷気をダクトを介して供給することは、一般的に行われている技
術常識を示すものとして証拠として提出するものであり、本件審決が、引
用文献2の記載から、冷却を行う構成として、引用文献2に記載された技
10 術的事項を認定し、これを引用発明の冷却を行う構成として採用すること
が容易想到であると判断したことに誤りがないことを主張するために用
いられているものであって、上記と同様に、本件訴訟においてこれらの証
拠を提出し、これに沿う主張をすることに特段の問題はない。
したがって、原告の上記主張は採用することができない。
15 ウ 原告は、前記第3の3〔原告の主張〕⑶記載のとおり、本願発明によれ
ば、X線検出ユニットに冷気を供給する流路を設けることでX線検出ユニ
ットにおける温度の上昇を抑制するという従来技術にはない有利な効果を
奏する旨を主張する。
本願発明の作用効果については前記1⑵のとおり認められるところ、そ
20 の効果とするところの内容に照らせば、本願発明の構成が奏するものとし
て、引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項が奏する作用効果か
ら予測される範囲のものというべく、格別顕著なものと認めることはでき
ない。
したがって、原告の上記主張は採用することはできない。
25 5 結論
以上のとおり、本件審決の認定及び判断に誤りは認められず、原告主張の取
消事由は、いずれも理由がない。
よって、原告の請求を棄却することとして、主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官
中 平 健
裁判官
今 井 弘 晃
裁判官
水 野 正 則
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