ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 令和6(ネ)10078等 特許権侵害差止等請求控訴事件
| 裁判所 | 控訴棄却 知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所 |
|---|---|
| 裁判年月日 | 令和7年6月18日 |
| 事件種別 | 民事 |
| 当事者 | 被控訴人株式会社エコプロ
株式会社ウィズユークラブ |
| 法令 |
特許権 特許法100条1項2回 特許法187条1回 特許法102条3項1回 民法709条1回 民法702条1項1回 民法650条1項1回 民法467条1項1回 民法167条1項1回 |
| キーワード | 特許権25回 侵害20回 損害賠償11回 実施9回 差止5回 許諾3回 分割1回 |
| 主文 | 1 控訴人の本件控訴を棄却する。 2 被控訴人の附帯控訴に基づき、原判決主文第2項を 3 訴訟費用(控訴費用及び附帯控訴費用を含む。)は、 4 この判決は、第2項(1)に限り、仮に執行することが |
| 事件の概要 | 1 請求の要旨 本件は、控訴人の本訴請求と被控訴人の反訴請求からなる。 (1) 本訴請求 本訴請求は、控訴人が被控訴人に対して次の請求をするものである。5 ア 被控訴人が被告製品を製造又は販売することが本件特許権(特許第47963 34号に係る特許権)の侵害に当たるとして、特許法100条1項に基づく被告製品 の製造、販売及び販売の申出の差止め並びに同条2項に基づく被告製品の廃棄 イ 被控訴人が平成24年頃から本訴提起日(令和4年12月14日)までの間に 被告製品を製造及び販売することによって本件特許権が侵害されたとして、民法7010 9条に基づく損害賠償金6000万円の支払 ウ 被控訴人が平成24年頃から令和4年頃までの間に被控訴人の表札や郵便受け に控訴人の商号を使用したことが会社法8条に違反し、また、被控訴人が同期間中に 被告製品に控訴人の商号及び「特許取得済」との表示を付したことがいずれも不正競 争防止法(以下「不競法」という。)2条1項20号の不正競争に当たるとして、こ15 れらを原因として、民法709条又は不競法4条に基づく損害賠償金6200万円 |
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令和7年6月18日判決言渡
令和6年(ネ)第10078号 特許権侵害差止等請求控訴事件
令和7年(ネ)第10010号 同附帯控訴事件
(原審・大阪地方裁判所令和4年(ワ)第11025号、令和5年(ワ)第434
号)
口頭弁論終結日 令和7年4月16日
判 決
控訴人・附帯被控訴人 株 式 会 社 エ コ プ ロ
(以下「控訴人」という。)
同訴訟代理人弁護士 辻 本 希 世 士
辻 本 良 知
松 田 さ と み
同補佐人弁理士 丸 山 英 之
被控訴人・附帯控訴人 株式会社ウィズユークラ ブ
(以下「被控訴人」という。)
同訴訟代理人弁護士 岡 田 晃 朝
主 文
1 控訴人の本件控訴を棄却する。
2 被控訴人の附帯控訴に基づき、原判決主文第2項を
次のとおり変更する。
(1) 控訴人は、被控訴人に対し、274万0466円
及びこれに対する令和5年5月16日から支払済
みまで年3%の割合による金員を支払え。
(2) 被控訴人のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用(控訴費用及び附帯控訴費用を含む。)は、
第1、2審を通じてこれを25分し、その1を被控訴
人の負担とし、その余は控訴人の負担とする。
4 この判決は、第2項(1)に限り、仮に執行することが
できる。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴について
(1) 控訴人ア 原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す。イ 被控訴人は、控訴人に対し、3410万円及びこれに対する令和4年12月21日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え(控訴人は、当審において、原審における被告製品の製造、販売及び販売の申出の差止め並びに廃棄請求部分につき訴えを取り下げ、また、原審における元本6820万円及びこれに対する遅延損害金の損害賠償請求を、このように減縮した。)。
(2) 被控訴人本件控訴を棄却する。2 附帯控訴について
(1) 被控訴人ア 原判決中、被控訴人敗訴部分を取り消す。イ 控訴人は、被控訴人に対し、441万2785円及びこれに対する令和5年5月16日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
(2) 控訴人本件附帯控訴を棄却する。
第2 事案の概要(略語は特記するもののほか原判決の例による。)
1 請求の要旨本件は、控訴人の本訴請求と被控訴人の反訴請求からなる。
(1) 本訴請求本訴請求は、控訴人が被控訴人に対して次の請求をするものである。ア 被控訴人が被告製品を製造又は販売することが本件特許権(特許第4796334号に係る特許権)の侵害に当たるとして、特許法100条1項に基づく被告製品の製造、販売及び販売の申出の差止め並びに同条2項に基づく被告製品の廃棄イ 被控訴人が平成24年頃から本訴提起日(令和4年12月14日)までの間に被告製品を製造及び販売することによって本件特許権が侵害されたとして、民法709条に基づく損害賠償金6000万円の支払ウ 被控訴人が平成24年頃から令和4年頃までの間に被控訴人の表札や郵便受けに控訴人の商号を使用したことが会社法8条に違反し、また、被控訴人が同期間中に被告製品に控訴人の商号及び「特許取得済」との表示を付したことがいずれも不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項20号の不正競争に当たるとして、これらを原因として、民法709条又は不競法4条に基づく損害賠償金6200万円(うち6000万円は上記イと選択的請求)の支払エ 上記イ又はウの事実を原因として、民法709条に基づく損害賠償金(弁護士費用)620万円の支払オ 附帯請求として、上記イ~エの請求額元本合計6820万円に対する不法行為後の日である令和4年12月21日(本訴状送達の日の翌日)から支払済みまで改正前民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払
(2) 反訴請求反訴請求は、被控訴人が控訴人に対して次の請求をするものである。ア 控訴人の三井住友銀行に対する本件借入金につき、被控訴人が平成23年6月から令和4年6月までの間に合計350万9924円を第三者弁済したとして、民法650条1項、同法702条1項又は同法703条に基づく費用償還金又は不当利得金350万9924円の支払イ 被控訴人代表者(α)が本件特許権に関連して費用合計90万2861円を支払ったことにより、控訴人は法律上の原因なく同額を利得しているから、αは、民法703条に基づき、控訴人に対して同額の不当利得返還請求権を有するところ、被控訴人はαから同請求権の債権譲渡を受けたとして、不当利得金90万2861円の支払ウ 附帯請求として、上記ア及びイの請求額元本合計441万2785円に対する請求の日の翌日である令和5年5月16日(反訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払2 原審の判断原審は、要旨次のとおり判断して、本訴請求及び反訴請求をいずれも棄却した。本訴請求のうち特許権侵害に関する請求について、販売被告製品(被告製品1~9)は、本件発明の構成要件を文言上充足せず、本件発明の構成と均等なものともいえないから、特許権侵害は成立しない。本訴のその余の請求について、被控訴人の行為は会社法8条に違反せず、不競法2条1項20号の不正競争に当たらない。反訴請求について、被控訴人が本件借入金を第三者弁済した点は、被控訴人による弁済引受けがあったと評価できるから、準委任、事務管理及び不当利得のいずれの場合にも該当しない。被控訴人は、自らの利益を確保するために必要なものとして本件特許権に関する費用を負担していたといえるから、支払には法律上の原因があるし、損失が発生したともいえない。3 控訴、本訴請求に係る訴えの一部取下げ、附帯控訴控訴人は、原判決を不服として控訴を提起した。ただし、控訴人は、控訴に際して、特許法100条1項に基づく被告製品の製造及び販売の差止め、同条2項に基づく被告製品の廃棄の各請求並びに損害賠償金元本3410万円及びこれに対する令和4年12月21日から支払済みまでの年5%の割合による遅延損害金請求を超える部分に係る訴えを取り下げた。他方、被控訴人は、附帯控訴を提起した。4 前提事実及び争点原判決「事実及び理由」の第2の3及び4(4頁7行目~6頁23行目)に記載のとおりであるからこれらを引用する(ただし、同第2の4(5)(争点A5)を除く。 。)
第3 争点についての当事者の主張
次のとおり当審における当事者の補充主張を付加するほかは、原判決「事実及び理由」の第3(6頁24行目~15頁1行目。ただし、同第3の3(争点A5(差止め及び廃棄の必要性)について)を除く。)に記載のとおりであるからこれらを引用する。なお、控訴人の損害(争点A4及びA10)について、控訴人は、当審において、特許法102条3項による損害額の算定に用いる実施料率を10%から5%としたことによって同損害額を6000万円から3000万円に、会社法違反及び不正競争による無形損害を200万円から100万円に、弁護士費用を600万円から300万円(争点A4による場合)又は620万円から310万円(争点A10による場合)に、それぞれ変更して主張したため、これに伴い、主張に係る損害賠償元本額はいずれも原審における主張額の2分の1となり、これに応じ、請求する損害賠償金の元本額もそれぞれ前記1(1)イ、ウ及びエ記載の額の2分の1となった。
1 争点A2(文言侵害が成立するか)について
(控訴人の主張)本件発明の「多孔質通気性袋」(構成要件A-3)とは、本件明細書の記載や従来技術との対比から導かれる本件発明の技術的意義からして、「ダニ食餌を入れることができ、1つの袋のみで両面粘着テープの表裏両面に配置できるもの」をいい、ダニ食餌と両面粘着テープとが混合物のように成分的・一体的に混ざり合ってしまうことを防ぐ程度に隔壁として作用すれば足りる。「袋」は、辞書的意味によっても「物を入れるもの」程度の意味であって、内容物の漏出を完全に封じているものに限られない。そして、証拠(甲3、6。枝番を含む。以下同じ。)及び被控訴人の主張によると、販売被告製品は、2枚の不織布を粘着テープで貼り付けることで、その間に挟まれているダニ誘引物質が不織布内に少なくとも8割程度は保持されるのであるから、2枚の不織布により構成される「多孔質通気性袋」を備えているといえ、本件発明の構成要件A-3を充足する。(被控訴人の主張)「多孔質通気性袋」は、「袋」という構成を明確に特定しているのであるから、当然、通常の意味における「袋」状の構成を備えるべきであって、食餌と両面粘着テープとの間を隔てるもの全てが「多孔質通気性袋」に当たるかのような控訴人の主張は誤っている。販売被告製品における上下左右に隙間のある2枚の不織布は、通常の意味における「袋」とはいえないし、そもそも食餌と両面粘着テープとを隔てる作用も有しないから、「多孔質通気性袋」には当たらない。なお、原判決では判断されていないが、販売被告製品は、「ダニ誘引香料を含浸した織物シート」(構成要件A-1)も備えていない。
2 争点A3(均等侵害が成立するか)について
(控訴人の主張)
(1) 均等侵害が成立するかを判断するに当たっては、第1要件の検討において、特
許請求の範囲の構成要件を本質的部分と非本質的部分に分けるのではなく、被疑侵害品等が特許発明の技術思想の範囲内にあるかを問うべきであり、第2要件の検討において、被疑侵害品等が特許発明と同一の作用効果を奏するかを問うべきものである。原判決は、構成要件A-3が本件発明の本質的部分であるとして、機械的に均等の第1要件を充足しないと判断しており、判断手法を誤っている。
(2) 本件明細書の記載によると、本件発明は、「マットにダニを誘引するための香
料を含浸するシートと、マットに集まったダニをカバーの内側に誘い込むための食餌を保持する通気性の部材と、誘い込まれたダニを捕獲するための両面粘着テープを備える。(以下「構成①」という。、」 )「食餌入りの通気性部材は、その少なくとも一部がシートと両面粘着テープとの間に位置し、残部が両面粘着テープの外面側に位置するように配置される。(以下「構成②」という。」 )及び「両面粘着テープにおける粘着剤の粘着成分が弱まらない程度に、食餌と粘着剤が混ざり合わないように隔離される。」(以下「構成③」という。)との各構成を備えることにより、「シートに含浸させたダニ誘引香料により、マット配置部から離れた広範囲の領域から多数のダニを誘引して集めることができる。(以下「効果①」という。、」 )「食餌入りの通気性部材が両面粘着テープの表裏両側に配置するから、マットに集まった多数のダニを食餌によって更に表裏両側からカバーの内側へ誘い込むことができる。(以下「効果②」という。」 )及び「粘着層が混ぜ物のない粘着剤成分のみからなって強い粘着力を発揮できるから、接触したダニを逃さずに確実に捕獲拘束して死滅させることができ、もって大きな捕獲能力による極めて高い防ダニ効果が得られる。(以下「効果③」という。」 )との各効果を奏する点において、従来技術には見られない技術的思想を提供するものである。したがって、本件発明の本質的部分は、構成①~③である。
(3) 販売被告製品は、次のとおり、構成①~③を全て備えている。すなわち、ダニ
を誘引する香料が付着した織物シートと、マットに集まったダニを外装生地の内側に誘い込むための食餌を挟む2枚の不織布と、誘い込まれたダニを捕捉するための両面粘着テープを備えるから、構成①を備える。食餌を挟む2枚の不織布の一部が前記香料を含浸する部材と両面粘着テープとの間に位置し、残部が該両面粘着テープの外面側に位置するように配置されているから、構成②を備える。食餌が、これを挟む2枚の不織布によって両面粘着テープの粘着剤と隔離されるから、構成③を備える。したがって、販売被告製品は、本件発明の本質的部分を備えており、均等の第1要件を充足する。また、販売被告製品は、構成①~③を全て備えることにより、本件発明の効果①~③を全て奏するから、均等の第2要件を充足する。(被控訴人の主張)本件発明は、食餌と両面粘着テープとを隔てる技術として「袋」という構成を選択したのであるから、「袋」という構成を離れて本件発明の本質的部分を判断することはあり得ない。販売被告製品は、2枚の不織布でダニ食餌とダニ誘引香料の混合物をあえて隙間を空けて挟み込み、混合物の2割程度がこぼれ落ちるようにしているから、食餌と両面粘着テープとが隔離されているともいえない。また、本件発明は、「ダニ誘引香料を含浸した織物シート」の内側に粘着テープがあり、更にその内側に小さいダニ食餌が配置される構造を備え、これにより従来技術にはない効果を奏するものであるが、販売被告製品は「ダニ誘引香料を含浸した織物シート」を備えないから、本件発明と同様の効果を奏するものではない。したがって、販売被告製品は、均等の第1要件、第2要件を共に充足しない。
3 争点A7(被控訴人が不正の目的をもって控訴人の商号を表記したか)、争点
A8(被告製品に控訴人の商号を付したことが品質等誤認惹起行為に該当するか)及び争点A9(被告製品に「特許取得済」との表示をしたことが品質等誤認惹起行為に該当するか)について(控訴人の主張)控訴人は、被控訴人に対し、郵便物が届くように控訴人の商号を被控訴人の所在地に表記するように依頼したことはなく、実際にも、βは、αから控訴人宛ての郵便物を渡されたことはない。被控訴人は、控訴人の企業努力により販売ルート等が構築され、また本件特許権を実施したダニ捕りマットの製造販売事業(以下「ダニ捕りマット事業」という。)を控訴人に無断で引き継ぐに当たり、信用が蓄積され、本件特許権の特許権者でもある控訴人の商号及び住所を被告製品に表示し、「特許取得済」との表示まで付していた。これらの行為は、取引者、需要者に、被告製品の販売元又は総販売元が控訴人であるとの誤認を生じさせ、控訴人や本件特許権の信用にただ乗りするものであるから、「不正の目的」(会社法8条)があることは明らかであるし、品質等誤認惹起行為(不競法2条1項20号)に該当する。さらに、特許表示をすることが許されるのは、特許権者、専用実施権者又は通常実施権者に限られるのであるから(特許法187条)、被控訴人が被告製品に「特許取得済」と表示するためには、特許権者である控訴人から許諾を受ける必要がある。そうすると、控訴人は、被控訴人が当該表示を継続している間、実施料相当額の逸失利益があったといえるから、控訴人の営業上の利益が侵害されたといえる。(被控訴人の主張)被控訴人の現住所への本店移転に伴う引っ越しは、βとαが協力して行い、その際、βは、αに対し、控訴人宛ての郵便物を被控訴人の本店で受け取ってもらえるように依頼してきたことから、被控訴人は、被控訴人の本店所在地に控訴人の表記をしたものであった。控訴人が平成23年から本件訴えの直前まで休眠状態にあったこと、控訴人の商号を使用したのは商品取引が行われない製造工場兼事務所の前のみであること、表示は小さな表札にされたにすぎないことから、商号の表示による営業効果などなく、「不正の目的」は認められないし、そもそも控訴人は休眠状態にあったのだから、侵害されるべき営業上の利益が存在しない。
4 争点B1(控訴人が、被控訴人に対し、本件借入金について被控訴人が第三者
弁済することを委託したか並びに同第三者弁済についての事務管理に基づく費用償還又は不当利得返還請求ができるか)について(被控訴人の主張)本件借入金は、ダニ捕りマット事業を始める前の事業によって生じた控訴人の債務の弁済等に充てられており、ダニ捕りマット事業の運転資金に充てられてはいない。仮に、本件借入金がダニ捕りマット事業に充てられていたとしても、そのことは、被控訴人が本件借入金を第三者弁済するに当たり、控訴人に対する求償権まで放棄する理由とはいえない。被控訴人が求償権を行使してこなかったのは、αの親族であるβの経済状況に配慮してのことであったが、控訴人が本件訴えを提起したので、これに応じたまでのことである。(控訴人の主張)控訴人は、平成17年2月13日、本社を移転し、ダニ捕りマット事業に注力するための設備投資を始めたが、その約2か月前にされたのが本件借入金である。その他本件特許出願の時期等からしても、本件借入金は、控訴人によるダニ捕りマット事業のための運転資金に充てられたことが明らかである。そして、被控訴人は、控訴人が有する本件特許権に係る製品である被告製品を販売して利益を得ていたところ、αは、平成23年6月頃、控訴人及び三井住友銀行と協議し、本件借入金は実質的に自身の責任であることを認めて、被控訴人を通じて分割して返済していくこととし、本件借入金に係る債務を被控訴人が引き受ける旨の債務引受合意が成立したものである。被控訴人は、自らの責任を自認して本件借入金の返済を続けてきたのであるから、その経緯からしても、事後的に控訴人に求償することは前提とされていなかったというべきである。
第4 当裁判所の判断
1 特許権侵害を原因とする損害賠償請求について
(1) 本件発明の概要ア 本件明細書及び特許請求の範囲の記載によると、本件発明の概要は、次のとおりと認められる。(ア) 本件発明は、畳、じゅうたん、敷物、布団、毛布、マットレス、ソファー、自動車の座席シート、クッション等に繁殖するダニ類を集めて捕獲するダニ捕獲マットに関する。【0001】( )(イ) ダニ対策として多用されてきた噴霧方式の殺虫剤には、住環境の汚染による健康上の問題や、ダニの死骸が新たなアレルゲンとなる等の問題がある。そこで、食餌性及び臭香性のダニ誘引物質と毒性のない殺ダニ物質の混合物を噴霧又は塗着させたシートを多孔性の袋内に収容したダニ捕獲器や、不織布の両面に粘着剤とダニ誘引物質の混合物を塗布し、塗布面に通気性の外シート層を積層した防ダニシートが提案されている。しかし、前者のダニ捕獲器は、毒性のない殺ダニ物質として使用されるシリカゲル等によって誘引したダニを吸水による発熱で死滅させるものであるが満足な殺ダニ作用は得られておらず、後者の防ダニシートは、誘引したダニを粘着剤で捉えて死滅させるものであるがダニの誘引作用及び捕捉作用が共に弱く、捕獲能力が不十分であった。【0003】~【0005】( )(ウ) 本件発明は、ダニ誘引物質で誘引したダニを粘着剤によって捉えて死滅させるダニ捕獲マットとして、強力な誘引作用及び捕捉作用を有し、大きな捕獲能力を発揮できるものを提供することを目的とする。【0006】( )(エ) 上記目的を達成するために、本件発明1に係るダニ捕獲マットは、ダニ誘引香料を含浸した織物シートと、両面粘着テープと、ダニ用食餌入りの多孔質通気性袋と、多孔質通気性カバーとで構成され、前記織物シートの片面に前記両面粘着テープが貼着されるとともに、前記多孔質通気性袋は、その少なくとも一部が前記織物シートと前記両面粘着テープとの間に位置して、残部が該両面粘着テープの外面側に位置するように配置され、これら織物シート及び両面粘着テープと多孔質通気性袋の被着一体化物の全体が前記多孔質通気性カバーにて被覆されてなるものとしている。(【0007】【請求項1】、 )本件発明2に係るダニ捕獲マットは、本件発明1のダニ捕獲マットにおける多孔質通気性袋の半部を前記織物シートと両面粘着テープとの間に位置し、かつ、残部が該両面粘着テープの外面側に位置するように、千鳥状に配置され、全体が前記両面粘着テープに被着してなる構成としている。【0008】【請求項2】( 、 )本件発明3に係るダニ捕獲マットは、本件発明1又は2のダニ捕獲マットにおける織物シートがコットンのワッフル地からなる構成を、本件発明4に係るダニ捕獲マットは、本件発明1~3のいずれかのダニ捕獲マットにおける多孔質通気性カバーが裏毛側を外面側にしたコットンの裏毛地からなる構成を、それぞれ採用している。【0(009】【請求項3】【請求項4】、 、 )(オ) 本件発明1に係るダニ捕獲マットは、織物シートに含浸されたダニ誘引香料により、マット配置部から離れた広範囲の領域から多数のダニを集めることができるとともに、ダニ食餌入りの多孔質通気性袋が両面粘着テープの表裏両側に配置するから、マットに集まった多数のダニを該多孔質通気性袋のダニ食餌によって更に表裏両側から多孔質通気性カバーの内側に誘い込み、両面粘着テープの粘着層に触れさせて捕捉することができる上、その粘着層が混ぜ物のない粘着剤成分のみからなって強い粘着力を発揮できるから、接触したダニを逃さずに確実に捕獲拘束して死滅させることができ、大きな捕獲能力による極めて高い防ダニ効果が得られる。【0010】( )本件発明2に係るダニ捕獲マットは、多孔質通気性袋の千鳥状配置により、その1袋を使用して両面粘着テープの表裏両側に配置でき、それだけ構成材料の数が少なく、マット製作が容易になる。【0011】( )本件発明3に係るダニ捕獲マットは、織物シートがワッフル地特有の形態安定性及び強度によりマットの芯材として機能するとともに、天然素材のコットンの織物シートであることからダニが嫌忌せずに織物内部まで入り込み、捕獲効率を高められる。(【0012】)本件発明4に係るダニ捕獲マットは、多孔質通気性カバーがコットンの裏毛地からなり、繊維間の隙間が大きいのでカバー内でのダニの移動を妨げず、裏毛側を外面にしているのでダニが外部から裏毛を伝って内部へ入り込みやすく、捕獲効率が向上する。【0013】( )(カ) 本件発明の一実施形態を図面により説明すると、次のとおりとなる。同実施形態のダニ捕獲マットは、上記(オ)の効果を得ることができる。(【0014】~【0023】【図2】、 )イ 本件発明の特徴前記アによると、本件発明は、不織布の両面に粘着剤とダニ誘引物質の混合物を塗布する従来の防ダニシートではダニの誘引作用及び捕捉作用が共に弱く、捕獲能力が不十分であったことを踏まえ、織物シートに含浸されたダニ誘引香料によりマット配置部から離れた広範囲の領域から多数のダニを集めることができるとともに、両面粘着テープとは区別された多孔質通気性袋にダニ食餌を入れて、混ぜ物のない粘着剤成分の強い粘着力により接触したダニを確実に捕捉することを特徴とするものである。
(2) 争点A2(文言侵害が成立するか)についてア 構成要件A-3(多孔質通気性袋)について(ア) 前記(1)によると、本件発明は、不織布の両面に粘着剤とダニ誘引物質の混合物を塗布する従来の防ダニシートではダニの誘引作用及び捕捉作用が共に弱く、捕獲能力が不十分であったことを踏まえ、両面粘着テープとは区別された多孔質通気性袋にダニ食餌を入れて、混ぜ物のない粘着剤成分の強い粘着力により接触したダニを確実に捕捉することを特徴とするものである。また、「袋」とは、一般に「物を入れるもの。布・紙・革などの柔らかい素材で作り、口を閉じられるようにしたもの。(甲36:日本語大辞典第2版)「口の部分だ」 、けを残し他を縫い合わせたり張り合わせたりして、中に物を入れるようにしたもの。」(乙30:大辞林第3版)「中に物を入れて、口をとじるようにした入れ物。(乙3、 」1:広辞苑第6版)との意味を有するところ、当業者(衛生雑貨の開発設計等に従事する者)において、「袋」について、格別これらと異なる意味で用いているといった事情も認められない。このような本件発明の特徴や「袋」という語の意味に照らすと、本件発明の構成要件A-3の「多孔質通気性袋」とは、内部に物体を収容できる空間部分と閉じるための口とを備えるものであって、その空間部分にダニ食餌を入れることにより、ダニ食餌が容易にこぼれ出て両面粘着テープと混合しないように保持するものをいうと解するのが相当である。しかるところ、証拠(甲3~8、乙20)及び弁論の全趣旨によると、販売被告製品では、ダニ食餌とダニ誘引香料との混合物を、2枚の不織布により挟み込んでいるにすぎず、これらの不織布の形状において空間部分と口とを備えているということはできない上、挟み込まれた混合物が周囲にこぼれ出ているのであるから、このような2枚の不織布は、本件発明の「多孔質通気性袋」(構成要件A-3)に当たるとはいえない。(イ) 控訴人は、本件発明の「多孔質通気性袋」は、「ダニ食餌を入れることができ、1つの袋のみで両面粘着テープの表裏両面に配置できるもの」をいい、ダニ食餌と両面粘着テープとが混合物のように成分的・一体的に混ざり合うことを防ぐ程度に隔壁として作用すれば足りるし、「袋」は内容物の漏出を完全に封じるものに限られないなどと主張し、2枚の不織布によりダニ誘引物質が不織布内に少なくとも8割程度は保持される販売被告製品は「多孔質通気性袋」を備えていると主張する。しかし、前記(ア)のとおり、「袋」という語の意味に照らすと、「多孔質通気性袋」は、内部に物体を収容できる空間部分と閉じることができる口とを備えるべきところ、販売被告製品の2枚の不織布は、そのような「袋」というべき実質を備えているとはいえないから、控訴人の主張は採用することができない。イ 構成要件A-1(ダニ誘引香料を含浸した織物シート)について(ア) 前記(1)イによると、本件発明は、不織布の両面に粘着剤とダニ誘引物質の混合物を塗布する従来の防ダニシートではダニの誘引作用及び捕捉作用が共に弱く、捕獲能力が不十分であったことを踏まえ、ダニ食餌を入れる多孔質通気性袋とは別に、ダニ誘引香料を含浸した織物シートを備えることにより、マット配置部から離れた広範囲の領域から多数のダニを集めることができることを特徴とするものである。また、「含浸」とは、当業者(衛生雑貨の開発設計等に従事する者)にとって、「多孔質物質に液状物質をしみ込ませること。形態として、(1)液状物質を多孔質物質中でそのまま保持させる、(2)液状物質を多孔質物質内部にしみ込ませ、液体を蒸発させて、液体物質内成分を多孔質物質内で析出させる、(3)液状物質をそのまま固化させ多孔を埋めてち密体を作成する、(4)複合材料をつくる方法の一つ、などがある。」という意味を有する(甲31:化学辞典第2版)。このような本件発明の特徴や「含浸」という語の意味に照らすと、本件発明の構成要件A-1の「ダニ誘引香料を含浸した織物シート」とは、当該織物シートの相当程度の広さにわたりダニ誘引香料がしみ込んでいるものをいうと解するのが相当である。しかるところ、証拠(甲30、32~35、乙20)によると、販売被告製品については、被告製品1の内容物であるガーゼを試料としてガスクロマトグラフ飛行時間型質量分析試験を実施したところ、ダニ誘引香料として説明されることがあるヘキサナール、オクタナール及びノナナールが検出されたことが認められる。しかし、前記アのとおり、販売被告製品では、ダニ食餌とダニ誘引香料との混合物を2枚の不織布を挟み込んでいるため、当該混合物が現実に周囲にこぼれ出ていることからすると、ガーゼから上記化合物が検出されたのは、不織布に挟み込まれた香料がこぼれ出たものが検出された可能性が高く、ガーゼの相当程度の広さにわたりダニ誘引香料がしみ込んでいると認めるに足りないというべきである。したがって、販売被告製品が、本件発明の「ダニ誘引香料を含浸した織物シート」(構成要件A-1)を備えているとはいえない。(イ) 控訴人は、「ダニ誘引香料を含浸した織物シート」の意味について、織物シートにダニ誘引香料の成分が保持されていれば足り、液状物質を生地等にしみ込ませるなどというのは、一般的な用法にも整合しないし、本件明細書にもそのような意味を示唆する記載はないと主張する。しかし、前記(ア)のとおり、「ダニ誘引香料を含浸した織物シート」の技術的意義は、ダニ食餌を入れた多孔質通気性袋とは別に、織物シートにダニ誘引香料を含浸させることにより、マット配置部から離れた広範囲の領域から多数のダニを集めることができるという点にあるのであって、織物シートの一部に部分的にダニ誘引香料の成分が保持されていれば足りるといったものではない。発明特定事項として「含浸」という語を用いたのは、広範囲の領域から多数のダニを集めるという目的との関係で、ダニ食餌を入れた多孔質通気性袋によるのみでなく、多孔質物質である織物シートに広く十分な量のダニ誘引香料をしみ込ませることが、ダニの誘引に効果的であったからとみるべきである。控訴人の主張は採用することができない。ウ 小括以上のとおり、販売被告製品は、本件発明の構成要件A-1及びA-3を充足しない。
(3) 争点A3(均等侵害が成立するか)についてア 控訴人は、販売被告製品が本件発明の構成を文言上充足しないとしても、その構成と均等なものといえるから、本件発明の技術的範囲に含まれると主張する。イ 特許請求の範囲に記載された構成中に相手方が製造等をする製品又は用いる方法(以下「対象製品等」という。)と異なる部分が存する場合であっても、①同部分が特許発明の本質的部分ではなく、②同部分を対象製品等におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏するものであって、③上記のように置き換えることに、当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が、対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり、④対象製品等が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから同出願時に容易に推考できたものではなく、かつ、⑤対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは、同対象製品等は、特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属する(最高裁平成6年(オ)
第1083号同10年2月24日第三小法廷判決・民集52巻1号113頁参照)。
ウ これを本件についてみると、上記①(均等の第1要件)に関しては、本件発明は、前記(1)のとおり、不織布の両面に粘着剤とダニ誘引物質の混合物を塗布する従来の防ダニシートではダニの誘引作用及び捕捉作用が共に弱く、捕獲能力が不十分であったことを踏まえ、両面粘着テープとは区別された多孔質通気性袋にダニ食餌を入れて、混ぜ物のない粘着剤成分の強い粘着力により接触したダニを確実に捕捉することや、ダニ食餌を入れる多孔質通気性袋とは別に、ダニ誘引香料を含浸した織物シートを備えることにより、マット配置部から離れた広範囲の領域から多数のダニを集めることができることを特徴とするものである。そうすると、本件発明の特許請求の範囲の記載のうち、従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分は、従来の防ダニシートにおいてダニの誘引作用及び捕捉作用が共に弱いとの課題を解決するために、ダニ食餌を入れる多孔質通気性袋を両面粘着テープとは区別された構成として備え、かつ、ダニ誘引香料を含浸した織物シートを備えていることにあると認められるから、本件発明の本質的部分は、これら二つの構成を同時に備えることにあるといえる。他方、前記(2)イに認定説示したところによると、販売被告製品は、少なくとも、ダニ誘引香料を含浸した織物シートに相当し得る構成を備えていない。そうすると、本件発明の構成中、販売被告製品と異なる部分は、本件発明の本質的部分でないということはできないから、均等の第1要件を満たさない。エ 次に、上記②(均等の第2要件)に関しては、本件発明は、前記(1)のとおり、大きな捕獲能力、すなわち強力な誘引作用及び捕捉作用を有するダニ捕獲マットを提供することを目的とし、具体的には、ダニ誘引香料を含浸した織物シートを備えることにより広範囲の領域から多数のダニを集め、ダニ食餌を入れる多孔質通気性袋を備えることにより混ぜ物のない粘着剤成分の強い粘着力でダニを確実に捕捉するという各作用効果を奏するものである。これに対し、証拠(甲3~8、乙20)及び弁論の全趣旨によっても、販売被告製品中のガーゼは、本件発明のように広範囲の領域から多数のダニを集め得る程度にダニ誘引香料を含んでいると認めるには足りない。また、ダニ食餌とダニ誘引香料の混合物が2枚の不織布により挟み込まれているにすぎない販売被告製品では、同混合物がこぼれ落ちて粘着性のあるテープ状部材に付着し、粘着剤成分と混ざり合った箇所においては粘着力が弱まることになる。そうすると、販売被告製品の構成によっては、本件発明と同一の作用効果を奏するということはできないから、均等の第2要件を満たさない。
(4) 小括以上によると、特許権侵害を理由とする控訴人の損害賠償請求には理由がない。
2 認定事実(会社法違反、不競法違反及び反訴請求関係)原判決の「事実及び理由」の第4の5(18頁16行目~21頁8行目)に記載のとおりであるからこれを引用する。ただし、当審で提出された証拠に基づき、同(5)(19頁19行目~20頁1行目)を次のとおり改める。「(5) αは、平成20年11月、控訴人の本店所在地を本店として被控訴人を設立した。その後、αは控訴人の取締役に就任し、控訴人のダニ捕りマット事業は、主として、控訴人が被控訴人にダニ捕りマットを販売し、被控訴人がこれらを顧客に販売するという形式で行われた。被控訴人は、この頃から令和4年7月頃までの間、販売被告製品に控訴人の商号を付し、また、「特許取得済」との表示を付して販売していた。(甲3~8、15、50、51、乙8、16)」
3 争点A7(被控訴人が不正の目的をもって控訴人の商号を表記したか)について(1) 当裁判所も、被控訴人が、不正の目的をもって本店所在地に控訴人の商号を表記していたとは認められないから、これを原因とする控訴人の被控訴人に対する損害賠償請求は理由がないものと判断する。その理由は、原判決の「事実及び理由」の第4の6(21頁9行目~22頁6行目)に記載のとおりであるから、これを引用する。(2) 控訴人は、被控訴人の行為は、取引者、需要者に、被告製品の販売元又は総販売元が控訴人であるとの誤認を生じさせ、控訴人や本件特許権の信用にただ乗りするものであるから、「不正の目的」があることは明らかであると主張する。しかし、前記認定事実によると、控訴人は平成23年頃から実質的に事業を停止し、令和5年2月頃に至っても、控訴人の本店所在地に営業所があるなどの営業の実態は把握できないところ、αは、実質的に控訴人のダニ捕りマット事業を取り仕切ってきたほか、控訴人の債務である本件借入金や、控訴人名義の本件特許権の特許料等の費用を事実上支払ってきたのであるから、控訴人に宛てられた各種事務関係の書類等を受領して処理するために、本店の表札や郵便受けに控訴人の商号を表記することには合理的な理由があったというべきであり、証拠上うかがわれる商号の表記の態様等に照らしても、これに「不正の目的」があったということはできない。控訴人の主張は採用することができない。
4 争点A8(被告製品に控訴人の商号を付したことが品質等誤認惹起行為に該当するか)及び争点A9(被告製品に「特許取得済」との表示をしたことが品質等誤認惹起行為に該当するか)について(1) 前記認定事実によると、控訴人は、平成23年頃から実質的に事業を停止し、令和5年2月頃に至ってもその営業の実態は認められないのであるから、被控訴人の行為によって控訴人の営業上の利益が侵害されたということはできない。したがって、不競法4条に基づく控訴人の請求にはいずれも理由がない。(2) 控訴人は、被控訴人が「特許取得済」と表示するには控訴人から許諾を受ける必要があるから、控訴人には、被控訴人が表示を継続している間、実施料相当額の逸失利益があったといえ、控訴人の営業上の利益が侵害されたといえる旨主張する。しかし、控訴人が平成23年頃から事業を停止し、営業の実態がないことは前記のとおりであって、本件特許権の特許権者であることのみをもって、控訴人に営業上の利益があるということはできない。また、特許権の許諾により得られたであろう利益については、特許権侵害を原因とする損害賠償請求により回復されるべきものであるが、被控訴人の行為が本件特許権を侵害するものではないことは、前記1のとおりである。控訴人の主張は採用することができない。
5 争点B1(控訴人が、被控訴人に対し、本件借入金について被控訴人が第三者弁済することを委託したか並びに同第三者弁済について事務管理に基づく費用償還又は不当利得返還請求ができるか)について(1) 被控訴人は、控訴人が被控訴人に対して本件借入金の第三者弁済を委託したとして、準委任契約に基づく委任事務処理費用償還請求権を有すると主張する。前記認定事実によると、β及びαは、控訴人が実質的に事業を停止した平成23年6月頃、三井住友銀行と協議し、被控訴人が実質的に本件借入金を返済することとなり、その後は被控訴人が控訴人名義の三井住友銀行の預金口座(乙10口座)を管理し、弁済期に合わせて乙10口座に入金する方法により本件借入金の返済を続けてきたことが認められる。もっとも、上記協議の具体的内容は判然とせず、被控訴人が当面の間、本件借入金の返済に要する資金を乙10口座に入金するといった程度の合意を超えて、控訴人が被控訴人に対して本件借入金の返済を委託したとまでは認められない。したがって、反訴請求のうち、準委任契約に基づく委任事務処理費用償還請求には理由がない。(2) 被控訴人は、準委任契約の成立が認められないとしても、被控訴人による第三者弁済は控訴人の意思に反しないものであるから事務管理が成立するとして、事務管理に基づく費用償還請求権を有すると主張する。ア 被控訴人が本件借入金を事実上返済し始めるに至った経緯として認められる事実関係は前記(1)のとおりであるところ、本件借入金は、控訴人の債務であって被控訴人の債務ではないから、被控訴人が本件借入金を返済することは、義務なく他人のたに事務の管理を始めたといえ、これは控訴人の意思に反するものでないから、事務管理が成立するといえる。イ これに対し、控訴人は、平成23年6月頃、控訴人、被控訴人及び三井住友銀行の間で、本件借入金に係る債務を被控訴人が引き受ける旨の債務引受合意が成立したから、被控訴人にとって本件借入金の返済は被控訴人自身の事務であって、事務管理は成立しないと主張する。しかし、そのような合意の存在を直接証明する処分証書等の書証は提出されておらず、平成23年6月頃にβ、α及び三井住友銀行との間でされた協議の具体的内容も判然としない。また、前記認定事実によると、本件借入金の返済は、控訴人名義の乙10口座を被控訴人(α)が事実上管理し、同口座に被控訴人が入金する方法により行われており、被控訴人が三井住友銀行に直接返済したものではない。さらに、本件借入金は、控訴人が平成17年頃、ダニ捕りマット事業を立ち上げた頃に借入れがされたものであるが、αが被控訴人を設立したのは平成20年であって、本件借入金が被控訴人の事業や運転資金に充てられたということはできない。これらの事情に照らすと、αが平成17年頃から控訴人においてダニ捕りマット事業を立ち上げ、取り仕切ってきたこと、被控訴人が設立された平成20年11月頃からは、主として、控訴人が被控訴人にダニ捕りマットを販売し、被控訴人がこれらを顧客に販売するという形式で事業が展開されてきたこと、被控訴人は、控訴人が事業を停止した平成23年6月頃以降も控訴人の商号や「特許取得済」との表示を付した販売被告製品を販売し続けてきたこと等を考慮しても、被控訴人が、当面の間、本件借入金の返済に要する資金を乙10口座に入金するといった程度の意思を超えて、控訴人の債務である本件借入金の返済義務を積極的に引き受ける意思までも有していたとは認められない。したがって、債務引受合意が成立した旨の控訴人の主張は採用することができない。なお、以上に述べたところに照らすと、被控訴人が、本件借入金の返済によって取得する費用償還請求権をあらかじめ放棄したとは認められないし、その後これを放棄したと認めるべき事情もうかがわれない。(3) 以上のとおり、被控訴人による本件借入金の返済には事務管理が成立するから、被控訴人は、原判決の別紙7の2のとおり、平成23年6月20日から令和4年6月30日にかけて、本件借入金の返済として合計350万9924円を支払ったことにより、民法702条1項に基づき、同額の費用償還請求権を取得したといえる。
6 争点B4(消滅時効が成立するか)及び争点B5(消滅時効を援用することが権利の濫用に該当し、許されないか)について事案に鑑み、前記5の事務管理による費用償還請求権の消滅時効について先に検討する。(1) 前記前提事実(前記第2の4で引用する原判決「事実及び理由」の第2の3)によると、控訴人は、令和5年11月28日(原審の第1回弁論準備手続期日)、被控訴人に対し、上記事務管理による費用償還請求権について、改正前民法167条1項に基づき、平成25年5月10日(裁判上の請求をした日の前日の10年前の応当日)までに発生したものについて、消滅時効を援用する旨の意思表示をした。したがって、被控訴人が平成23年6月20日から平成25年5月10日までの間に本件借入金の返済として支払ったことにより生じた費用償還請求権は、時効により消滅した。これにより、被控訴人の控訴人に対する費用償還請求権は、原判決の別紙7の2の「平成25年5月11日以降合計」欄記載のとおり、合計274万0466円の限度で残存することとなる。よって、被控訴人の反訴請求のうち、本件借入金に係る費用償還請求は、274万0466円及びこれに対する令和5年5月16日(反訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年3%の割合による遅延損害金を求める限度で理由がある。(2) 被控訴人は、控訴人が事業停止後に登記簿上の本店所在地を移転させずに時効中断を著しく困難にさせていたとして、控訴人による消滅時効の援用は、権利の濫用に当たり許されないと主張する。しかし、本件において、控訴人が、時効中断を免れるためにあえて登記簿上の本店所在地を移転しなかった等の事情は認められず、他に、時効の援用を権利の濫用とすべき事情は見当たらない。被控訴人の主張は採用することができない。
7 争点B3(αから被控訴人への債権譲渡につき対抗要件を備えたか)について被控訴人は、αが、本件特許権の登録費用等を支払ったことにより控訴人に対する不当利得返還請求権を取得した上、同請求権を被控訴人に譲渡したと主張する。しかし、同債権譲渡について、譲渡人であるαによる通知又は債務者である控訴人による承諾のいずれも認められないから、被控訴人は、同債権譲渡を債務者である控訴人に対抗することができない(民法467条1項)。被控訴人は、反訴状により債権譲渡の通知をした旨主張するが、反訴原告は被控訴人であってαではないから、反訴状によって譲渡人であるαによる通知がされたと認めることはできない。したがって、争点B2(αによる本件特許権の登録費用等の支払があったか及び同支払について不当利得返還請求ができるか)について判断するまでもなく、被控訴人の反訴請求のうち、本件特許権の登録費用等に係る不当利得返還請求には理由がない。
8 結論以上によると、その余の争点について判断するまでもなく、控訴人の本訴請求はいずれも理由がないからこれらを棄却すべきであるが、被控訴人の反訴請求は、274万0466円及びこれに対する令和5年5月16日から支払済みまで年3%の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があり、その余は理由がないから棄却すべきところ、これと異なり、被控訴人の請求を全部棄却した原判決は一部失当であって、控訴人の本件控訴には理由がないからこれを棄却し、被控訴人の附帯控訴の一部は理由があるから、原判決の主文第2項を上記のとおり変更することとして、主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官
本 多 知 成
裁判官
伊 藤 清 隆
裁判官
天 野 研 司
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最新の制度改正を反映 海外の特許制度と実務上の留意点(米国・欧州(EPC)・中国) ~米国ならびに EPC (欧州特許条約)・中国の各制度の下でのグローバル特許取得の基本的な知識と留意点を解説します~
10月28日(水) - 東京 千代田
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