ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 令和7(ネ)10005 特許権侵害排除等請求兼損害賠償等反訴請求控訴事件
| 裁判所 | 控訴棄却 知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所 |
|---|---|
| 裁判年月日 | 令和7年6月26日 |
| 事件種別 | 民事 |
| 当事者 | 被控訴人大嘉産業株式会社
Y1
Y2 |
| 対象物 | 親綱支柱用治具 |
| 法令 |
特許権 特許法70条1項1回 特許法100条1項1回 |
| キーワード | 侵害17回 特許権9回 差止7回 損害賠償4回 進歩性1回 新規性1回 実施1回 |
| 主文 | 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。5 |
| 事件の概要 | 1 事案の要旨20 本訴事件は、発明の名称を「親綱支柱用治具」とする本件特許に係る特許権 者である控訴人が、被告製品が本件発明の技術的範囲に属し、被控訴人会社に よる被告製品の販売等が本件発明の実施に該当すると主張して、被控訴人会社 に対し、特許法100条1項及び2項に基づき、被告製品の販売等の差止め及 び廃棄を求めるとともに、被控訴人らに対し、民法709条又は会社法42925 条1項に基づく損害賠償として550万円及びこれに対する不法行為の日であ る令和4年12月1日から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損 害金の支払を求める事案である。 |
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令和7年6月26日判決言渡
令和7年(ネ)第10005号 特許権侵害排除等請求兼損害賠償等反訴請求控訴
事件
(原審・東京地方裁判所令和5年(ワ)第70272号、第70460号)
口頭弁論終結日 令和7年5月13日
判 決
控 訴 人 キ ョ ー ワ 株 式 会 社
同訴訟代理人弁護士 西 岡 祐 介
奥 苑 直 飛
今 村 憲
同訴訟代理人弁理士 森 下 八 郎
被 控 訴 人 大 嘉 産 業 株 式 会 社
(以下「被控訴人会社」という。)
被 控 訴 人 Y1
(以下「被控訴人Y1」という。)
被 控 訴 人 Y2
(以下「被控訴人Y2」という。)
上記3名訴訟代理人弁護士 田 中 伸 一 郎
西 村 英 和
渡 邊 由 水
同訴訟代理人弁理士 鈴 木 博 子
上 潟 口 雅 裕
主 文
1 本件控訴を棄却する。
5 2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事 実 及 び 理 由
【略語】略語は特記するもののほか原判決の例による。
第1 控訴の趣旨
1 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。2 被控訴人会社の反訴請求中、前項の取消しに係る部分を棄却する。3 被控訴人会社は、原判決別紙被告製品目録記載1の製品を製造し、販売し、貸与し、又は販売若しくは貸与を申し出てはならない。4 被控訴人会社は、その本店、営業所及び工場に存する前項の物件並びにその半製品(前項の物件の構造を具備しているが、製品として完成していないもの)を廃棄せよ。5 被控訴人らは、控訴人に対し、連帯して550万円及びこれに対する令和4年12月1日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 事案の要旨本訴事件は、発明の名称を「親綱支柱用治具」とする本件特許に係る特許権者である控訴人が、被告製品が本件発明の技術的範囲に属し、被控訴人会社による被告製品の販売等が本件発明の実施に該当すると主張して、被控訴人会社に対し、特許法100条1項及び2項に基づき、被告製品の販売等の差止め及び廃棄を求めるとともに、被控訴人らに対し、民法709条又は会社法429条1項に基づく損害賠償として550万円及びこれに対する不法行為の日である令和4年12月1日から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。反訴事件は、被控訴人会社が、控訴人が本件投稿を行ったことは、競争関係にある被控訴人会社の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布す
5 る行為であって、不競法2条1項21号の不正競争行為に該当すると主張して、控訴人に対し、同法3条1項に基づき、被告製品の販売等が本件特許権を侵害する旨を告知し、又は流布することの差止めを求めるとともに、同法4条に基づく損害賠償として550万円及びこれに対する反訴状送達の日の翌日である令和5年8月3日から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。原審は、被告製品は、本件発明の技術的範囲に属しない(文言侵害も均等侵害も成立しない)として、控訴人の本訴請求をいずれも棄却し、また、本件投稿を行ったことは虚偽の事実を流布する行為に該当するとして、反訴に係る差止請求を認容し、損害賠償請求を55万円及びこれに対する遅延損害金の限度で認容したので、その敗訴部分を不服とする控訴人が控訴を提起した。2 前提事実(当事者間に争いがないか、又は掲記の証拠若しくは弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1) 当事者原判決「事実及び理由」の第2の2(1)(4頁)のとおりであるから、これを引用する。
(2) 本件特許の概要ア 控訴人は、以下の本件特許に係る本件特許権を有している(甲5)。特許番号:特許第6843385号請求項の数:4発明の名称:親綱支柱用治具出願日:平成29年2月28日登録日:令和3年2月26日イ 特許請求の範囲の記載(請求項1)は以下のとおりである。【請求項1】親綱支柱を固定するための治具であって、
5 第1の方向に伸びる矩形状の板と、前記矩形状の板の前記第1の方向の端部で上下方向に間隔を開けてU字状に折り曲げられた折り曲げ部とを含み、前記矩形状の板の前記第1の方向の逆方向の端部に設けられ、上方向に伸びる上突起部と、をさらに含み、前記矩形状の板の前記第1の方向端部より逆方向の端部までの長さは、前記治具が取付けられる形鋼のフランジの幅より長い、治具。
(3) 本件発明の概要ア 構成要件の分説A 親綱支柱を固定するための治具であって、B 第1の方向に伸びる矩形状の板と、C 前記矩形状の板の前記第1の方向の端部で上下方向に間隔を開けてU字状に折り曲げられた折り曲げ部とを含み、D 前記矩形状の板の前記第1の方向の逆方向の端部に設けられ、上方向に伸びる上突起部と、をさらに含み、E 前記矩形状の板の前記第1の方向端部より逆方向の端部までの長さは、前記治具が取付けられる形鋼のフランジの幅より長い、治具。イ 本件発明の技術的特徴本件明細書の記載は原判決「事実及び理由」の第4の1(1)(19頁~)に記載のとおりであり、図面については原判決別紙本件明細書図面目録のとおりである。本件明細書及び図面には、以下の開示があることが認められる。(ア) 本件発明は、親綱支柱用治具、特に、形鋼に親綱支持用の親綱支柱を取り付けるための親綱支柱用治具に関する(【0001】)。(イ) 従来、フランジ幅の狭い形鋼の梁に親綱支柱を設置する場合は、図4(A)のように、フランジ幅の狭い梁101のフランジ101aに親綱
5 支柱110の取付部ボルト110aを奥まで挿入できる厚板プレート102を挟締金具103をもって固定し、フランジ幅の狭い梁101と厚板プレート102とを一体化して親綱支柱110を設置するか(【0002】)、図5のように、親綱支柱110の設置側と反対方向より引張金具105にて引っ張ることによって、フランジ幅の狭い梁104と親綱支柱110とが離れないように固定 するものであった(【0004】)。(ウ) しかしながら、従来の方法では、フランジ幅の狭い形鋼の梁に親綱支柱を設置するのに手間がかかるという問題があり、本件発明はこのような手間がかからない親綱支柱取付治具を提供することを目的とする(【0006】、【0007】)。(エ) 本件発明は、親綱支柱を固定するための治具であって、第1の方向に伸びる矩形状の板と、矩形状の板の第1の方向の端部で上下方向に間隔を開けてU字状に折り曲げられた折り曲げ部 を含む(【0 0 08】)。(オ) 本件発明に係る親綱支柱用治具は、矩形状の板の一方側の端部で上下方向に間隔を開けてU字状に逆方向に折り曲げられた折り曲げ部を有するため、U字状の折り曲げ部を幅の狭いフランジ部に係合した状態で、親綱支柱の取付具を位置決めして固定でき、フランジ幅の狭い形鋼の梁に親綱支柱を設置するのに手間がかからない(【0013】、【0014】)。
(4) 被控訴人会社の被告製品の販売等及び本件投稿原判決「事実及び理由」の第2の2(5)、(6)(5頁)のとおりであるから、これを引用する。3 争点本件の争点は以下のとおりである。
5 (本訴に係る争点)
(1) 文言侵害の成否(争点1)ア 構成要件Cの充足性(争点1-1)イ 構成要件Eの充足性(争点1-2)
(2) 均等侵害の成否(争点2)
(3) 被控訴人Y1及び被控訴人Y2が会社法429条1項に基づく責任を負うか(争点3)
(4) 特許権侵害に係る差止め及び廃棄の必要性(争点4)
(5) 特許権侵害に係る損害の発生及び額(争点5)(反訴に係る争点)
(6) 不競法2条1項21号該当性等(争点6)ア 本件投稿を行うことが「他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為」といえるか(争点6-1)イ 故意又は過失の有無(争点6-2)
(7) 不競法違反に係る差止めの必要性(争点7)
(8) 不競法違反に係る損害の発生及び額(争点8)
第3 争点に関する当事者の主張
以下のとおり当審における当事者の補充的主張を付加するほか、原判決「事実及び理由」の第3(6~19頁)のとおりであるから、これを引用する。
1 争点1-1(構成要件Cの充足性)について
【控訴人の主張】
(1) 原判決は、構成要件Cにいう「矩形状の板」を直角四辺形ないし長方形の
ような形に限定して解釈している。しかし、本件発明が解決しようとする課題は、簡易な方法を用いて幅の短いフランジの幅を延長することにあり、その手段として反対方向にフック部を設けるという方法が採用されている。そして、そのための形状として折
5 り曲げフックを、成形方法として板を折り曲げる方法をそれぞれ採用してい
る。解決しようとする課題とその解決手段に照らして、板が矩形状であること、折り曲げフックであることは、いずれも本件発明の特徴的部分ではない(このような構成を採ることによる作用効果は本件明細書に記載されていない。)。このように、「矩形状の板」は本件発明の特徴的部分ではないから、限定的に解釈されるべきではなく、広く解釈されるべきであり、その一部に直角四辺形ないし長方形のような形が存在する板であれば足りるというべきである。
(2) 被告製品は、その一部に直角四辺形ないし長方形のような形が存在する板
であるから、「矩形状の板」に該当する。そして、被告製品は、この板の第1の方向端部の両側の棒状部を可能な限り細くしたものにすぎず、その一部に直角四辺形ないし長方形のような形が存在することには変わりないから、当該棒状部も含めて「矩形状の板」に該当する。そして、被告製品のフックは、そのような矩形状の板の端部からU字状に折り曲げられているものであるため、構成要件Cを充足する。【被控訴人らの主張】特許請求の範囲の文言を離れて文言侵害は成立しないのであり、控訴人の主張は失当である。
2 争点1-2(構成要件Eの充足性)について
【控訴人の主張】
(1) 構成要件Eにおいて矩形状の板の長さがフランジ幅より長いとされている
ことは、板が矩形状であること、折り曲げフックであることの結果にすぎない。本件発明において重要なことは、フック部分の内側のフランジと接する部分から反対の端部までの長さがフランジ幅より長いことであり、矩形状の
5 板の長さ自体は課題及び解決手段と何ら関係がない。
被告製品は、矩形状の板の第1の方向の端部から逆方向の端部までの長さがフランジ幅より長いから、構成要件Eを充足する。
(2) 原判決は、構成要件Eについて、「矩形状の板」の「第 1 の方向端部」と
「逆方向の端部」が、「形鋼のフランジ」の辺と平行になる二辺に係る端部を指すなどと限定解釈をした上、被告製品が構成要件Eを充足しないとしている。しかし、「第 1 の方向端部」と「逆方向の端部」が「形鋼のフランジ」の辺と平行であるか否かは本件発明の特徴的部分ではないため、棒状部の端部から反対方向の端部までの長さをもってフランジ幅の長さと比較することは、何ら妨げられない。【被控訴人らの主張】控訴人の主張が特許請求の範囲の文言を離れて失当であることは、争点1-1について主張したところと同様である。
3 争点2(均等侵害の成否)について
【控訴人の主張】
(1) 原判決は、被告製品が均等の第1要件を満たさないとして均等侵害を否定
した。しかし、対象製品が均等の第2要件を充たすにもかかわらず、第1要件を厳格に解することで均等侵害を否定することは、特許権者の権利をあまりに狭く解することになるし、その権利を保護するためには出願時にあらゆる形状のものを記載しておかなければならなくなり、特許出願において困難を強いることとなる。そのため、第2要件を充たすのであれば、本質的部分が全く異なるなどの特段の事情がない限り、第1要件についても充足するものと認めるべきである。本件発明と被告製品は、作用効果が同じであり、本質的部分が全く異なる
5 と解すべき特段の事情もないことから(被告製品が本件発明と異なり側板フ
ックを用いていることや底板がフランジ幅よりも短いことは、ありふれたバリエーションの範疇での形状や成形方法の差異によるものにすぎない。)、本質的部分を同じくするものであり、均等の第1要件を充足する。
(2) 仮に均等の第1要件から判断するとしても、被告製品がこれを満たすこと
は以下のとおり明らかである。ア 本件発明の目的は、フランジ幅の狭い形鋼の梁に親綱支柱を設置するのに手間がかからない親綱支柱取付治具を提供することにある(本件明細書【0007】。以下、段落番号は本件明細書のものを指す。)。このうち、「フランジ幅の狭い形鋼の梁に親綱支柱を設置する」ために必要なことが「フック部分の内側のフランジと接する部分から反対の端部までの長さがフランジ幅よりも長いこと」である。また、「手間がかからない」ために必要なことが「親綱支柱を設置する方向と反対側に設けられたフック部」である。他方、底板の形状が矩形状であるか否か、矩形状の板自体の長さがフランジ幅よりも長いか否か、フックの形状が折り曲げフックであるか側板フックであるかは、課題を解決するための作用効果とは関係がない。したがって、本件発明の本質的部分は、親綱支柱を設置する方向と反対方向の端部にあるフック部、及びフック内側から反対方向端部までの長さがフランジ幅より長い点にあり、一方、底板の形状が矩形状であること、矩形状の板自体の長さがフランジ幅よりも長いこと、フックの形状が折り曲げフックであることは、本質的部分ではない。したがって、本件発明と被告製品は本質的部分を共通とするのであるから、均等の第1要件を満たす。イ 原判決は、本件明細書に従来技術である乙17発明の記載がなく、本件明細書の記載が不十分であるとして、本件発明の本質的部分は特許請求
5 の範囲に近接したものとなる旨判示している。
しかし、乙17発明は実用化されておらず、建設現場や、仮設構造物の製造の業界で誰も認識していなかったものである。乙17発明の解決しようとする課題は、木造住宅の外壁パネル上に親綱支柱を立てることそれ自体であり、そのために、特注の部材と特注の親綱支柱を用意して取り付けるというものである。これに対し、本件発明は、普及品であるフランジ幅の狭い形鋼上に、普及品である親綱支柱を簡単にかつ安全に設置するという課題に対して、簡単にフランジ幅を延長するという解決手段を提供するものであり、両者は課題と解決手段を異にする。また、乙第17号証には、「命綱を建物外周壁上部に沿った任意位置に簡単に取付けできる」という作用効果の記載はある。しかし、乙17発明においては、①本体下部のU字型フック部を形鋼の下部と垂直方向で係合させ、②コ字形フック部を形鋼の上部と水平方向で係合させ、③連結具2と命綱支持具1とが対接する一箇所においてボルトを締結するという作業を要するが、③について相当程度の重さのある命綱支持具1のボルト挿通穴7と、連結具2のボルト挿通穴をぴったりと重ねた上でボルト11を挿入しなければならず、しかも梁の上で行うのであるから、およそ実現性を欠き、少なくとも一人で行うことは不可能な作業であるから、乙17発明は上記の作用効果を奏するものではない。そして、乙17発明と本件発明は、上記②の点で共通するにすぎず、構造・形状において全く異なる。以上からすれば、乙17発明は本件発明との関係で従来技術に該当せず、本件発明の本質的部分の解釈に当たって参酌することはできない。
(3) 本件発明はパイオニア発明に該当し、その本質的部分は広く認定されるべ
きである。
5 遅くとも平成14年頃、建設業界においては、フランジの幅が狭い形鋼
の梁に、設置に手間をかけることなく、親綱支柱の作用機構を適切に発揮できる方法で、親綱支柱を設置するという課題が認識されていたが、「設置に手間をかけることなく」ということが満たせずにおり、そのため、作用機構を適切に発揮できないことを知りながら、特段の工夫を講じることなく、そのままフランジ部分に親綱支柱を設置するという危険な方法が採られている状況であった。そのような中で、「親綱支柱を設置する方向と反対側の方向においてフック部を設けてこれをひっかけるだけ」という簡便な方法で上記課題を解決する本件発明がなされたのである。これは、上記の課題を完璧に解決した上、親綱支柱の取り外しも容易にするというものであった。そのため、本件発明が製品化されるや否や、被告製品が製造されるまでの間は、本件発明が実質的なシェアとして100%を占める状態となったのである。【被控訴人らの主張】
(1) 控訴人は、均等の第2要件を充たすのであれば、特段の事情がない限り、
第1要件についても充足性を認めるべきである旨主張する。
しかし、同じ作用効果を奏する公知技術が存しても、解決手段が異なり、そこに新規性及び進歩性が存すれば、別発明として特許されるのである。したがって、出願時における公知技術、技術水準を踏まえた発明の解決原理がそもそも異なれば、例え同一の作用効果を奏しても、均等と認めることはできないのである。なお、被告製品は本件発明の作用効果を奏しない。
(2) 控訴人は、均等の第1要件から判断するとしても、被告製品はこれを満た
す旨主張するが、以下のとおり失当である。
5 ア 控訴人は、本件発明の本質的部分が、親綱支柱を設置する方向と反対方
向の端部にあるフック部、及びフック内側から反対方向端部までの長さがフランジ幅より長い点にある旨主張する。しかし、発明とは、技術的思想、すなわち課題を解決する具体的手段であり、目的のみで具体的な解決手段を検討しない控訴人の主張はおよそ失当である。本件発明の本質的部分は、乙第17号証及び本件明細書に示された従来技術を踏まえ、「連結具」と異なるように追加した構成を含め、「前記第1の方向端部より逆方向の端部までの長さは、前記治具が取付けられる形鋼のフランジの幅より長」く(構成要件E)、親綱支柱が取付けられる「前記矩形状の板の前記第1の方向の端部で上下方向に間隔を開けてU字状に折り曲げられた折り曲げ部」(構成要件C)に形鋼のフランジを係合するように構成した親綱支柱用治具であるところにある。イ 控訴人は、乙17発明は従来技術に該当しない旨主張する。しかし、乙第17号証に開示された「親綱支柱取付治具」である番号2の「連結具」は、構成要件Eを除く本件発明の構成を有する従来技術である。そうであるから、本件特許の審査段階で引用され、本件特許は構成要件E等を加える補正により、初めて特許されたのである。そして、上記「連結具」は、構成要件Cの「前記矩形状の板の前記第1の方向の端部で上下方向に間隔を開けてU字状に折り曲げられた折り曲げ部」を有するので、形鋼の任意の位置に簡単に取付け可能である。ウ 控訴人は、本件発明はパイオニア発明であるから、その本質的部分は広く解釈されるべきである旨主張する。しかし、本件明細書に従来例として挙げられた技術や、乙第17号証に開示された番号2の連結具に鑑みれば、本件発明はパイオニア発明とはいえない。「前記第1の方向端部より逆方向の端部までの長さは、前
5 記治具が取付けられる形鋼のフランジの幅より長い」(構成要件E)、
親綱支柱が取付けられる「前記矩形状の板の前記第1の方向の端部で上下方向に間隔を開けてU字状に折り曲げられた折り曲げ部」(構成要件C)に形鋼のフランジを係合するように構成した親綱支柱用治具という具体的な提案を離れ、均等として権利主張をすることはできない。
4 争点6-1(本件投稿を行うことが「他人の営業上の信用を害する虚偽の事
実を告知し、又は流布する行為」といえるか)並びに争点8(不競法違反に係る損害の発生及び額)について【控訴人の主張】原判決は、①本件投稿を見た複数の被控訴人会社の取引先が、被控訴人会社に問合せを行っていたほか、②被控訴人会社が本件投稿を受けて被告製品の営業活動等を控えていたことを認定した上で、本件投稿が被控訴人会社の「営業上の信用を害する」ものであることや、本件投稿と損害との因果関係を認定している。しかし、原判決の認定は、客観的資料による裏付けもなければ、取引先等に関する言及すらない被控訴人Y1の陳述書(乙18)によるもので、不当である。仮に被控訴人会社の取引先による問合せや、被控訴人会社における被告製品の営業活動の手控えが仮にあったとしても、本件投稿によるものでなく、本訴の提起によるものと認めるのが相当である。
第4 当裁判所の判断
当裁判所も、①被告製品は、構成要件C、Eを充足しないから文言侵害は成立せず、均等の第1要件を充足しないので均等侵害も成立せず、本件発明の技術的範囲に属しないから、控訴人の本訴請求は理由がなく、②本件投稿は不競法2条1項21号に該当し、被控訴人会社の反訴請求は原判決が認容した限度で理由があるものと判断する。その理由は、次のとおりである。
1 争点1-1(構成要件Cの充足性)について
5 (1) 原判決「事実及び理由」の第4の2(1)(22頁~)の説示のとおりであるから、これを引用する。(2) 控訴人は、「矩形状の板」は本件発明の特徴的部分ではないから、広く解釈されるべきであり、その一部に直角四辺形ないし長方形のような形が存在する板であれば足りる旨主張する。しかし、第三者に発明の内容を把握させるため、特許発明の技術的範囲は、願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならないのであって(特許法70条1項)、特許出願人において、特許請求の範囲に、特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項の全てを記載しなければならないとされている(同法36条5項)ことに照らしても、特許請求の範囲で特定された文言を、発明の特徴的部分に当たらないとの理由で、その記載を離れて解することは許されない。控訴人の主張は採用できない。そうすると、原判決の説示するとおり、被告製品の底板が構成要件Cにいう「矩形状の板」に対応するものである一方、被告製品の側板は、当該底板から垂直に立ち上がったものであり、両者は別の構造であるから、当該側板の底面あるいはその近傍を底板と理解することはできない。被告製品の側板に形成されたフックは、底板をU字状に折り曲げて形成されたものではないから、被告製品は構成要件Cの「前記矩形状の板の前記第1の方向の端部で上下方向に間隔を開けてU字状に折り曲げられた折り曲げ部」を含まず、構成要件Cを充足しない。
2 争点1-2(構成要件Eの充足性)について
(1) 原判決「事実及び理由」の第4の2(2)(25頁~)の説示のとおりであるから、これを引用する。
(2) 控訴人は、被告製品は、矩形状の板の第1の方向の端部から逆方向の端部までの長さがフランジ幅より長いから、構成要件Eを充足する旨主張する。
5 控訴人の主張する「矩形状の板の第1の方向の端部」は、被告製品の内側のフック部分の内側のフランジと接する部分であるところ、被告製品のフックは、構成要件Eにいう「矩形状の板」に該当する「底板」ではなく、「側板」に形成されたものであることは1において説示したとおりであり、結局、控訴人は、特許請求の範囲にいう「矩形状の板」の解釈を誤った結果、「矩形状の板の第1の方向の端部」についても誤った主張をしているものにすぎない。その他、控訴人がるる主張するところは、特許請求の範囲の記載を離れて本件発明の範囲を広く解そうとするもので、採用できないことは、1において説示したところと同様である。
3 争点2(均等侵害の成否)について(1) 控訴人は、被告製品のフック部(折り曲げ部)が「矩形状の板」ではなく側板の端部に設けられていると認められることを前提にしても、構成要件C及びEについての均等侵害が成立する旨主張する。(2) 特許請求の範囲に記載された構成中に相手方が製造等をする製品又は用いる方法(以下「対象製品等」という。)と異なる部分が存する場合であっても、①同部分が特許発明の本質的部分ではなく(第1要件)、②同部分を対象製品等におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏するものであって(第2要件)、③上記のように置き換えることに、当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が、対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり(第3要件)、④対象製品等が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから同出願時に容易に推考できたものではなく(第4要件)、かつ、⑤対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないとき(第5要件)は、同対象製品等は、特許請求の範囲に記載された
5 構成と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当である(最高裁平成10年2月24日第三小法廷判決・民集52巻1号113頁参照)。
(3) 第1要件についてア 均等の第1要件にいう特許発明における本質的部分とは、当該特許発明の特許請求の範囲の記載のうち、従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分であると解すべきであり、上記本質的部分は、特許請求の範囲及び明細書の記載に基づいて、特許発明の課題及び解決手段とその効果を把握した上で、特許発明の特許請求の範囲の記載のうち、従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が何であるかを確定することによって認定されるべきである。すなわち、特許発明の実質的価値は、その技術分野における従来技術と比較した貢献の程度に応じて定められることからすれば、特許発明の本質的部分は、特許請求の範囲及び明細書の記載、特に明細書記載の従来技術との比較から認定されるべきであり、そして、従来技術と比較して特許発明の貢献の程度が大きいと評価される場合には、特許請求の範囲の記載の一部について、これを上位概念化したものとして認定され、従来技術と比較して特許発明の貢献の程度がそれ程大きくないと評価される場合には、特許請求の範囲の記載とほぼ同義のものとして認定されるものと解される。ただし、明細書に従来技術が解決できなかった課題として記載されているところが、出願時の従来技術に照らして客観的に見て不十分な場合には、明細書に記載されていない従来技術も参酌して、当該特許発明の従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が認定されるべきである。そのような場合には、特許発明の本質的部分は、特許請求の範囲及び明細書の記載のみから認定される場合に比べ、より特許請
5 求の範囲の記載に近接したものとなり、均等が認められる範囲がより狭いものとなると解される。イ 特許請求の範囲の記載は前記第2の2(2)イの、本件明細書及び図面の記載は同(3)イのとおりである。これによると、本件発明は、従来技術(【0002】、図4)において、フランジ幅の狭い梁101のフランジ101aに親綱支柱110の取付部ボルト110aを奥まで挿入できる厚板プレート102を挟締金具103で固定し、フランジ幅の狭い梁101と厚板プレート102とを一体化して親綱支柱110を設置していたフランジ幅の狭い形鋼の梁に親綱支柱を設置する場合に、挟締金具での厚板プレートの固定に手間がかかるという問題があったため、フランジ幅の狭い形鋼の梁に親綱支柱を設置するのに手間がかからない、親綱支柱取付治具を提供することを課題とし(【0006】、【0007】)、解決手段として、第1の方向に伸びる矩形状の板(構成要件B。【0002】、図4の従来技術における厚板102に相当)の第1の方向端部より逆方向の端部までの長さが、治具が取付けられる形鋼のフランジの幅より長い(構成要件E)ものとし、また、この矩形状の板の第1の方向の端部で上下方向に間隔を開けてU字状に折り曲げられた折り曲げ部(構成要件C、【0008】)を採用して従来の挟締金具103に代わるものとし、もって、U字状の折り曲げ部を幅の狭いフランジ部に係合した状態で、親綱支柱の取付具を位置決めして固定でき、フランジ幅の狭い形鋼の梁に親綱支柱を設置するのに手間がかからない、親綱支柱取付治具を提供できるという効果を奏するものである(【0013】、【0014】)。以上によれば、本件発明の特許請求の範囲の記載のうち、従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分は、上記課題を解決するために、第1の方向に伸びる矩形状の第1の方向端部より逆方向の端
5 部までの長さを治具が取付けられる形鋼のフランジの幅より長いものとし(構成要件E)、かつ、同矩形状の板が第1の方向の端部で上下方向に間隔を開けてU字状に折り曲げられた折り曲げ部を備える(構成要件C)ことにあると認められるから、構成要件C及びEは、課題解決のための技術的思想の特徴的な部分を構成する。被告製品が本件発明の構成要件C及びEを充足しないことは前記1、2のとおりであるから、本件明細書に記載のない乙17発明について検討するまでもなく、被告製品は均等の第1要件を充足しないものというべきである。ウ 控訴人は、均等の第2要件を充たすのであれば、特段の事情がない限り、
第1要件についても充足を認めるべきである旨主張する。
しかし、同一の効果を達成するために、様々な構成を有する技術思想があり得るのであるから、均等の第2要件を満たせば、原則として均等の
第1要件を満たすなどとはいえないことは明らかであって、控訴人の主
張は採用できない。エ 控訴人は、本件発明の本質的部分は、親綱支柱を設置する方向と反対方向の端部にあるフック部、及びフック内側から反対方向端部までの長さがフランジ幅より長い点にあり、一方、底板の形状が矩形状であること、矩形状の板自体の長さがフランジ幅よりも長いこと、フックの形状が折り曲げフックであることは、本質的部分ではないとして、被告製品と本件発明の相違点は本質的部分ではない旨主張する。しかし、特許法が保護しようとする発明の実質的価値は、従来技術では達成し得なかった技術的課題の解決を実現するための、従来技術に見られない特有の技術的思想に基づく解決手段を、具体的な構成をもって社会に開示した点にあり、そのため、発明の本質的部分は特許請求の範囲及び明細書の記載から認定すべきものとされているところ、控訴人の主
5 張は特許請求の範囲及び明細書の記載に基づかないものであって、採用することができない。オ 控訴人は、従前、フランジの幅が狭い形鋼の梁に、設置に手間をかけることなく、親綱支柱の作用機構を適切に発揮できる方法で、親綱支柱を設置するという課題が認識されていたが、「設置に手間をかけることなく」という点が困難であり、「親綱支柱を設置する方向と反対側の方向においてフック部を設けてこれをひっかけるだけ」という簡便な方法で上記の点を解決した本件発明はパイオニア発明に該当する旨主張するところ、これは、本件発明は従来技術と比較して特許発明の貢献の程度が大きいので、特許請求の範囲の記載の一部について、これを上位概念化したものとして認定されるべきであるとの趣旨と解される。しかし、従前、フランジ幅の狭い梁101と親綱支柱の取付ボルト110aを奥まで挿入できる厚板プレート102を一体化した上で、親綱支柱110を設置すること、また、厚板プレート102の長さをフランジ101aより長くすること自体は行われていた(【0002】、図4)。また、板の固定手段として、板を引っ掛けたい方向に折り曲げることで形成されるフックも広く普及している(甲38、39)。したがって、本件発明は公知技術を組み合わせたものであり、従来技術と比較して特許発明の貢献の程度が大きいとはいえない。控訴人の主張は採用できない。
(4) 以上のとおりであって、被告製品は本件発明の技術的範囲に属するとは認められないから、その余の本訴関係の争点について判断するまでもなく控訴人の被控訴人会社に対する請求は理由がなく、また、本件特許権の侵害を前提とする被控訴人Y1及び被控訴人Y2に対する請求も理由がない。
4 争点6(不競法2条1項21号該当性等)について(1) 原判決「事実及び理由」の第4の5(35頁~)の説示のとおりである
5 から、これを引用する。(2) 控訴人は、本件投稿を見た複数の被控訴人会社の取引先が、被控訴人会社に問合せを行っていたとの原判決の認定について、客観的証拠がない旨主張する。しかし、「私は優しいからこの場を借りて最終警告をしてあげます。」という記述で始まる本件投稿は、控訴人代表取締役社長との肩書で行われており、閲覧者として控訴人代表者の趣味の投稿に興味を持っている一般の者ではなく、被控訴人らや、控訴人代表者がInstagramのアカウントを持っていることを知っている同業者に閲覧されることを想定していたものといえ、乙第8号証(本件投稿のスクリーンショット)が同業者から提供されたとの被控訴人Y1の陳述書(乙18)の記載に不自然なところはない。控訴人の主張は採用できない。
5 争点7(不競法違反に係る差止めの必要性)について原判決「事実及び理由」の第4の6(38頁)の説示のとおりであるから、これを引用する。
6 争点8(不競法違反に係る損害の発生及び額)について(1) 原判決「事実及び理由」の第4の7(38頁~)の説示のとおりであるから、これを引用する。(2) 控訴人は、原判決が、信用性の乏しい被控訴人Y1の陳述書(乙18、29)をもとに、①本件投稿を見た複数の被控訴人会社の取引先が、被控訴人会社に問合せを行っていたこと、②被控訴人会社が本件投稿を受けて被告製品の営業活動等を控えていたことを認定し、さらに、本件投稿と損害との因果関係を認めたことは不当であり、取引先の問合せや被控訴人会社の営業活動等の手控えは本訴の提起によるものである旨主張する。しかし、乙第18号証の信用性、上記①の事実が認められることは前記4(2)において説示したとおりである。
5 また、本件投稿が、製品の回収・破棄を求め、謝意や動きがなければ刑事告訴をすることを明示し、①のとおり取引先から問合せを受けている状況であれば、被控訴人会社としては営業活動等を控えざるを得ず、乙第29号証の信用性を否定すべき事情もないから、②の事実も認められる。そして、原判決は、本件投稿に被控訴人会社や被告製品の名称が直接記載されていないこと、本件投稿の表示が長期間にわたっていたわけではないことも考慮して、無形損害(逸失利益ではない。)として50万円を認めているのであって、その判断に不合理なところはない。したがって、控訴人の主張は採用できない。
第5 結論
以上によれば、控訴人の被控訴人らに対する本訴請求は理由がないから棄却すべきであり、被控訴人会社の控訴人に対する反訴請求は、被告製品の販売等が本件特許権を侵害する旨の告知及び流布をすることの差止め並びに55万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容すべきところ、これと同旨の原判決は相当であるから、本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官
増 田 稔
裁判官
本 吉 弘 行
裁判官
岩 井 直 幸
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