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令和6(行ケ)10103審決取消請求事件

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裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所
裁判年月日 令和7年6月26日
事件種別 民事
当事者 原告T&TTOYAMA株式会社
被告特許庁長官
法令 商標権
商標法3条1項3号9回
商標法4条1項16号4回
キーワード 審決14回
拒絶査定不服審判2回
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 1 本件は、商標登録出願の拒絶査定に対する不服審判請求について、特許庁が 請求不成立とした審決の取消しを求める事案である。争点は、同審決における 商標の商標法3条1項3号、4条1項16号の各該当性についての認定判断の25 誤りの有無である。

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判決文

令和7年6月26日判決言渡
令和6年(行ケ)第10103号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 令和7年4月17日
判 決
原 告 T&T TOYAMA株式会社
同訴訟代理人弁理士 大 谷 嘉 一
同 西 野 千 明
被 告 特許庁長官
同指定代理人 鯉 沼 里 果
同 高 野 和 行
同 阿 曾 裕 樹
15 主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
20 特許庁が不服2023-11152号事件について令和6年10月24日に
した審決を取り消す。
第2 事案の概要
1 本件は、商標登録出願の拒絶査定に対する不服審判請求について、特許庁が
請求不成立とした審決の取消しを求める事案である。争点は、同審決における
25 商標の商標法3条1項3号、4条1項16号の各該当性についての認定判断の
誤りの有無である。

2 特許庁における手続の経過等
⑴ 原告は、令和4年5月20日、「シングルモルト金沢」の文字を標準文字
で表してなり、第33類に属する願書記載の商品「清酒、焼酎、合成清酒、
白酒、直し、みりん、洋酒、果実酒、酎ハイ、中国酒、薬味酒」を指定商品
5 とする商標(以下「本願商標」という。)について商標登録出願(商願20
22-57211)をした。原告は、同年10月21日付け手続補正書によ
り、指定商品を「洋酒」に限定した(甲1、4)。
⑵ 原告は、令和5年4月11日付けで拒絶査定を受けたことから、同年7月
4日、拒絶査定不服審判請求をした(甲5、6)。
10 ⑶ 特許庁は、不服2023-11152号事件として審理し、原告は、令和
6年7月9日付け手続補正書により、最終的に指定商品を「ウィスキー」に
限定した(甲9)。
⑷ 特許庁は、令和6年10月24日付けで請求不成立の審決(以下「本件審
決」という。)をし、その謄本は、同年11月11日に原告に送達された。
15 ⑸ 原告は、令和6年12月9日、本件審決の取消しを求めて本件訴訟を提起
した。
3 本件審決の理由の要旨
⑴ 本願商標は「シングルモルト金沢」の文字を標準文字で表してなるもので
あるところ、「シングルモルト」と「金沢」の文字より構成される本願商標
20 は、指定商品との関係において、「石川県金沢市にある蒸留所で生産された
シングルモルトウィスキー」を認識させるにすぎず、これを指定商品に使用
するときは、その取引者及び需要者をして、単に商品の品質、産地を普通に
用いられる方法で表示したものと理解させるにすぎないのであり、取引に際
し必要適切な表示であると認められるから、特定人による独占使用を認める
25 ことは公益上適切でないとともに自他商品識別力を欠く。
⑵ したがって、本願商標は、商標法3条1項3号に該当し、指定商品中「石

川県金沢市にある蒸留所で生産されたシングルモルトウィスキー」以外の商
品に使用するときは、商品の品質の誤認を生じさせるおそれがあるから、同
法4条1項16号に該当する。
第3 審決取消事由に関する当事者の主張
5 1 取消事由1(本願商標の商標法3条1項3号該当性)
⑴ 原告の主張
「シングルモルト金沢」は、全体として一連の称呼が生じ、全体として一
つの単語と認められる。「シングル」は「一つ」の意味で広く利用され、ウ
ィスキーでは「シングルの水割り」等で使用される一方、「モルト」は「麦
10 芽」を意味するから、「シングルモルト」なる一般普通名称は存在しない。
そうすると「シングルモルト金沢」を「シングルモルト」と「金沢」に分離
すべき理由はなく、一連の一つの単語としての造語に近い。よって、分離を
前提とする解釈に基づき商標法3条1項3号に該当するとした本件審決の判
断には誤りがある。
15 ⑵ 被告の主張
本願商標は、指定商品との関係で、商品の品質(種別)を表示する「シン
グルモルト」の文字と、産地を表示する「金沢」の文字を組み合わせてなる
ものであり、「シングルモルト○○」(○○は、産地名や蒸留所の所在地名)
のような表示方法に係る取引の実情も踏まえると、構成文字全体として
20 「(石川県)金沢市(の蒸留所)で生産されたシングルモルト」程度の意味
合いを認識、理解させるにすぎず、その需要者又は取引者をして、単に商品
の産地又は品質(種別)を表示するものと一般に認識させるにとどまる。そ
して、その構成文字(「シングルモルト」「金沢」「シングルモルト金沢」)
は、商品の産地、品質その他の特性を表示、記述する標章であって、同地域
25 (又はそこにある蒸留所)で生産されたシングルモルトウィスキーの取引に
際しての必要適切な表示として誰もがその使用を欲するものであるから、特

定人による独占使用を認めることは公益上適切ではなく、一般的に使用され
る標章として自他商品の識別力を欠く。よって、本願商標は、指定商品「ウ
ィスキー」との関係において、商品の産地又は品質(種別)を普通に用いら
れる方法で表示する標章のみからなる商標であるから、商標法3条1項3号
5 に該当する。
2 取消事由2(本願商標の商標法4条1項16号該当性)
⑴ 原告の主張
仮に「シングルモルト金沢」を「シングルモルト」と「金沢」に分離した
としても、「シングルモルト」は直接「シングルモルトウィスキー」を意味
10 するものではなく、指定商品が「洋酒」以外のアルコール類についても商標
登録されている例もある(甲12)。よって、「シングルモルト金沢」につ
き、品質誤認が生じるとした本件審決の判断には誤りがある。
⑵ 被告の主張
「シングルモルト」は「ウィスキーで、一つの蒸留所で製造したモルトウ
15 ィスキーのみを瓶詰したもの」の意味を有する外来語の成語であり、商品
「ウィスキー」の品質(種別)を表示する語として取引上親しまれている。
そうすると、本願商標は、上記意味の「シングルモルト」の文字と産地表示
に通じる「金沢」の文字を組み合わせたものと理解するのが自然であり、構
成文字全体としても、前記1⑵の意味合いを認識、理解させるから、本願商
20 標を「金沢で生産されたシングルモルトウィスキー」以外の指定商品に使用
するときは、商品の産地、品質(種別)の誤認を生ずるおそれがある。よっ
て、本願商標は、商標法4条1項16号に該当する。
第4 当裁判所の判断
当裁判所も、本願商標は、商標法3条1項3号、4条1項16号に該当する
25 ものと判断する。その理由は、次のとおりである。
1 取消事由1(本願商標の商標法3条1項3号該当性)について

⑴ 商標法3条1項3号は、「その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、
用途、形状(包装の形状を含む。中略)、生産若しくは使用の方法若しくは
時期その他の特徴、数量若しくは価格又はその役務の提供の場所、質、提供
の用に供する物、効能、用途、態様、提供の方法若しくは時期その他の特徴、
5 数量若しくは価格を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」
は、商標登録を受けることができない旨を規定する。これは、このような商
標は、商品の産地、販売地その他の特性を表示記述する標章であって、取引
に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであるから、特定
人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに、
10 一般的に使用される標章であって、多くの場合自他商品識別力を欠き、商標
としての機能を果たし得ないものであることによるものと解される(最高裁
昭和53年(行ツ)第129号同54年4月10日第三小法廷判決・裁判集
民事126号507頁)。
⑵ そこで検討すると、本願商標は、「シングルモルト金沢」の文字を標準文
15 字で表してなり、その構成中、片仮名からなる「シングルモルト」の文字部
分は、「ウィスキーで、一つの蒸留所で製造したモルトウィスキーのみを瓶
詰めしたもの」(乙4・広辞苑第7版)を意味する外来語である。また、
「シングルモルト」の語は、「ヴァッテッドモルト」(複数の蒸留所のモル
ト原酒を使用したウィスキー)、「ブレンデッドウィスキー」(モルト原酒
20 とグレーン原酒をブレンドしたもの)等とともにウィスキーの品質(種別)
を表す用語として取引上使用され、一般に親しまれている(乙7)。
また、本願商標の構成中、漢字からなる「金沢」の文字部分は、横浜市の
区の一つ、又は、石川県中部、金沢平野中央の市であり、県庁所在地を意味
するが、一般には、政治・経済・文化都市であり、加賀百万石の旧城下町の
25 地であり、産業や伝統工芸を有する石川県の「金沢」が想起される(乙5・
広辞苑第7版、乙6・コンサイス日本地名事典)。

⑶ 本願の指定商品である「ウィスキー」の一つの品質(種別)である「シン
グルモルト」は、前記のとおり「ウィスキーで、一つの蒸留所で製造したモ
ルトウィスキーのみを瓶詰めしたもの」であることから、「産地や蒸留方法
等によって個性やこだわりが出やすく」「蒸留所の場所、製造方法、熟成期
5 間などによって風味や香りが大きく変わる」ものとされる(乙7)。そのた
め、「ウィスキー」の品質(種別)である「シングルモルト」の商品の取引
においては、その個性と関連する「産地や蒸留所の所在地」を併せて表示す
ることの蓋然性が高いものといえる。
また、「ウィスキー」の品質(種別)である「シングルモルト」の商品の
10 取引においては、「ウィスキー」の品質(種別)である「シングルモルト」
の語に「産地又は蒸留所の所在地」を併記して表示することが広く行われて
いる。すなわち、「シングルモルト駒ヶ岳」(乙8・中央アルプス山系駒ヶ
岳の麓の蒸留所で製造)、「シングルモルトあかし」(乙9・兵庫県明石市
の蒸留所で製造)、「シングルモルト長濱」(乙10・滋賀県長浜市の蒸留
15 所で製造)、「シングルモルト津貫」(乙11・鹿児島県南さつま市加世田
津貫の蒸留所で製造)、「シングルモルト静岡」(乙12・静岡市の蒸留所
で製造)、「シングルモルト桜尾」(乙13・広島県廿日市市桜尾の貯蔵庫
で熟成)、「シングルモルト戸河内」(乙14・広島県安芸太田町戸河内の
貯蔵庫で熟成)、「シングルモルト余市」(乙15・北海道余市郡余市町の
20 蒸留所で製造)、「シングルモルト山都」(乙16・熊本県上益城郡山都町の
蒸留所で製造)、「シングルモルト岡山」(乙17・岡山市の蒸留所で製造)、
「安積シングルモルト」(乙18・福島県安積平野の蒸留所で製造)、「厚
岸シングルモルト」(乙19・北海道厚岸町の蒸留所で製造)、「丹波シン
グルモルト」(乙20・兵庫県丹波篠山市の蒸留所で製造)のように、取引
25 の実情として、商品に「シングルモルト」(品質〔種別〕)の語に「産地又
は蒸留所若しくは貯蔵庫の所在地」を併記する例が多いことが認められる。

そうすると、本願の指定商品である「ウィスキー」との関係において、本
願商標を構成する「シングルモルト」と「金沢」の各文字部分は、「ウィス
キー」の品質(種別)である「シングルモルト」と、その産地となる蒸留所
又は貯蔵庫(以下「蒸留所等」という。)の所在地を表す「金沢」を結合し
5 たものといえる。そして、「シングルモルト金沢」の文字を標準文字で表し
てなる本願商標を、指定商品「ウィスキー」に使用しても、これに接する取
引者、需要者は、「金沢に所在する蒸留所等で生産されたシングルモルトウ
ィスキー」との商品の産地及び品質(種別)を表示したものと理解するにと
どまるといえる。
10 ⑷ したがって、本願商標は、これが指定商品である「ウィスキー」に使用さ
れた場合には、当該商標の取引者・需要者によって商品の産地、品質(種別)
等の特性を表示するものと一般に認識されるものであり、産地及び品質を同
じくするような商品の取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲
するものというべきであるから、特定人によるその独占使用を認めることは
15 公益上適当としないものであるとともに、自他商品識別力を欠き、商標とし
ての機能を果たし得ないというべきである。
⑸ 原告は、本願商標は、全体として一連の称呼が生じ、「シングルモルト」
という一般普通名称も存在しないから、「シングルモルト」と「金沢」に分
離すべき理由はなく、一連の単語と解すべきなどと主張する。
20 しかし、前記⑵のとおり、本願商標のうち片仮名の「シングルモルト」の
文字部分は、ウィスキーの品質(種別)を表す用語として取引上使用され、
また、本願商標のうち漢字の「金沢」の文字部分は、石川県の「金沢」を想
起させる用語であるから、これらの文字部分が結合した一つの単語としての
「シングルモルト金沢」は、全体で「金沢に所在する蒸留所等で生産された
25 シングルモルトウィスキー」との観念を生じさせる表示になるのである。前
記判断は、本願商標を分離観察したわけではなく、むしろ全体を一つの単語

として考察した結果であるから、原告の主張は前提を欠き、採用することが
できない。
⑹ 以上のとおり、本願商標は、商標法3条1項3号に該当するものであり、
この点に関する本件審決の判断に誤りはない。
5 2 取消事由2(本願商標の商標法4条1項16号該当性)について
⑴ 前記1のとおり、本願商標は、「シングルモルト金沢」の文字を標準文字
で表してなるものであり、指定商品「ウィスキー」に使用すると、これに接
する取引者、需要者は、「金沢に所在する蒸留所等で生産されたシングルモ
ルトウィスキー」との商品の産地及び品質(種別)を表示したものと理解す
10 ることになる。したがって、本願商標を「金沢に所在する蒸留所等で生産さ
れたシングルモルトウィスキー」以外の商品に付して使用する場合には、商
品の品質(種別)の誤認を生ずるおそれがあるというべきである。
⑵ 原告は、「シングルモルト」の用語は、必ずしも「シングルモルトウィス
キー」を意味するものではなく、指定商品が「洋酒」以外のアルコール類に
15 ついても商標登録されている例もあるから(甲12)、品質誤認が生じるも
のとはいえないなどと主張する。しかし、前記1の「シングルモルト」の意
義や取引の実情における多くの例に照らすと、「シングルモルト」の用語に
ついては、商品(ウイスキー)の品質(種別)を表すものと解するのが相当
というべきである。よって、原告の主張を採用することはできない。
20 ⑶ 以上のとおり、本願商標は、商標法4条1項16号に該当するものであり、
この点に関する本件審決の判断に誤りはない。
3 よって、本願商標は、商標法3条1項3号又は商標法4条1項16号に該当
するものとして登録することはできないから、拒絶査定不服審判の請求を成り
立たないものとした本件審決の判断に誤りはない。
25 第5 結論
よって、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとして、主文の

とおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部

裁判長裁判官
清 水 響

裁判官
菊 池 絵 理

裁判官
頼 晋 一

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