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令和6(ワ)70128特許権侵害行為差止等請求事件

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裁判所 一部認容 東京地方裁判所東京地方裁判所
裁判年月日 令和7年7月10日
事件種別 民事
当事者 原告光洋通商株式会社
被告株式会社ダイイチ
法令 特許権
特許法102条1項8回
特許法102条3項6回
特許法102条2項5回
特許法2条3項1号4回
特許法102条4項2回
特許法36条6項1号1回
特許法29条2項1回
特許法100条1項1回
キーワード 実施96回
侵害43回
特許権23回
ライセンス7回
損害賠償6回
進歩性5回
無効4回
差止2回
許諾2回
無効審判1回
刊行物1回
主文 1 被告は、別紙被告製品目録記載の製品を生産し、譲渡し、貸渡し、
2 被告は、原告に対し、93万2500円及びこれに対する令和5年
11月1日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。20
3 原告のその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用はこれを10分し、その7を原告の負担とし、その余を被
5 この判決は、第2項に限り、仮に執行することができる。
1 主文1項同旨
2 被告は、原告に対し、3000万円及びこれに対する令和5年11月1日か
1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲各証拠〔枝番の記載は特に
4a 海苔網を船に引き上げて同船内の処理槽に入れ、酸処理液に浸漬す
4b パイプに設けた孔により酸原液を噴出していること
4c 酸原液を入れるタンクがあること
4d 処理槽内のpH検出用センサで、酸処理液のpH値を検出し、その
4e 酸原液を噴出する孔を設けているパイプが処理槽の底面に沿って配5
4f 箱型船であること
2 争点
1 争点1-1(「原液吐出部」〔構成要件B、C及びG〕の充足性)について
043】【0044】【0045】)の記載と矛盾するものであり、かつ、
2 争点1-2(「シート部材の下部」〔構成要件G〕の充足性)について25
2】)の記載によると、このチューブは全てシート部材と水平方向に伸びた
3 争点2-1(乙4発明を主引例とする進歩性欠如の有無)について
16公報」といい、これに記載された発明を「乙16発明」という。)に
4 争点2-2(明確性要件、サポート要件、実施可能要件の有無)について
2号(明確性要件)、同条4項(実施可能要件)に明らかに反するものであり、10
5 争点3(被告の行為が本件発明の「実施」に当たるか)について20
6 争点4(損害の額)について
1410円を超えることはない。したがって、原告が原告製品1台当た
30万6112円-16万1410円)である。25
2年であるから、1台当たりのメンテナンス行為によって得られる利益
14万4702円+106万5000円)である。
126円(220万9702円×13台)である。
12万6190円)及び本件メンテナンス行為による利益(1台50万円
2円である。
4、35、38)、⑤コルゲートチューブ取付け(同記載29)、⑥海
50。以下「被告特許」という。)を実施したものであり、酸原液を流
1項の推定を覆滅できる割合は、99%を超えるというべきである。
8円及び人件費112万6060円(8万6620円×13台)を差し引
0.5%)を上回らない。20
1 本件発明の内容
007】の「防止することを防止することを」は、「防止することを」の誤記
3及び巻出ロール14a、14bを備える。なお、チューブ8A、8Bは本
3eに囲まれた略直方体の窪み部であり、所定量の酸処理液2を貯留する。10
4bは、船本体1が後進した際に後方から侵入してくる海苔網Nを順次巻き20
3に示すように、
8c2から、酸処理液2中に斜め上方に、酸処理槽3内の側壁部3a側又は
3の底壁部3eに対して斜め上方に吐出するとしたが、本発明は、これに限
2 争点1-1(「原液吐出部」〔構成要件B、C及びG〕の充足性)について10
054】)の記載によれば、「吐出」とは、酸原液を勢いよく出すという趣
024】、【0045】)の記載によれば、「吐出孔」が設けられたチュー20
036】、【0049】)には、斜め上方に酸原液が吐出されることにより、
024】、【0045】)は、実施形態の一態様を示すものにすぎず、「原15
3 争点1-2(「シート部材の下部」〔構成要件G〕の充足性)について
32)及び弁論の全趣旨によれば、垂直チューブは、シート部材を下から挟む
4 争点2-1(乙4発明を主引例とする進歩性欠如の有無)について
0前後に保持し、海苔網の処理を行うことを特徴とする海苔網処理方法を
1は本発明に係る海苔網処理装置を示し、同処理装置1は、船内に装着し、
2内に伸延したパイプ11と、酸原液を補給するポンプ12とよりなり、
1に設けた酸原液を噴出する為の孔を示す。
5 争点2-2(明確性要件、サポート要件、実施可能要件の有無)について
036】及び第2実施形態に係る本件明細書【0049】の各記載の内容
6 争点3(被告の行為が本件発明の「実施」に当たるか)について
7 争点4(損害の額)について
2月28日特別部判決〔以下「大合議判決」という。〕参照)。
24円(消費税込み)が、それぞれ含まれており、これらは、その費
51)であることを踏まえると、少なくとも同額を経費として控除す
0円)となり、上記限界利益の額から、その99%を控除するのが相
42円(8334円×13台)と認めるのが相当である。
6月7日特別部判決参照)。
00円(1165万6260円×8%、小数点以下切捨て)の限度で認め
8 結論
1 被告製品の構成
2 被告製品の外観及び内部の構造
1 2021年09月16日 1,096,700円 1,096,700円
2 2021年10月28日 1,112,980円 1,096,700円
3 2021年11月01日 1,392,600円 1,392,600円
4 2021年12月07日 1,386,000円 1,386,000円
5 2021年12月12日 1,386,000円 1,386,000円
6 2021年12月16日 1,003,860円 986,700円
7 2021年12月29日 1,276,000円 1,276,000円
8 2022年01月03日 1,096,700円 1,096,700円
9 2022年01月20日 1,300,200円 1,300,200円
10 2022年10月18日 986,700円 986,700円
11 2022年10月18日 986,700円 986,700円
12 2022年10月20日 1,170,000円 1,170,000円
13 2022年10月20日 1,566,180円 1,566,180円
14 2022年10月20日 1,566,180円 1,566,180円
15 2022年12月22日 1,584,572円 1,566,180円
16 2022年10月25日 1,386,000円 1,386,000円
17 2022年11月01日 1,510,000円 1,510,000円
18 2022年11月10日 1,386,000円 1,386,000円
19 2022年11月10日 1,386,000円 1,386,000円
20 2022年11月28日 986,700円 986,700円
21 2022年12月06日 1,331,000円 1,331,000円
22 2022年12月15日 986,700円 986,700円
23 2023年10月25日 1,441,880円 1,441,880円
24 2023年12月28日 1,566,180円 1,566,180円
25 2023年11月09日 986,700円 986,700円
26 2023年11月11日 1,100,000円 1,100,000円
27 2023年11月15日 1,441,880円 1,441,880円
28 2023年11月22日 1,115,400円 1,115,400円
29 2023年11月22日 1,452,198円 1,452,198円
30 2023年11月28日 1,133,000円 1,133,000円
31 2023年12月01日 1,239,260円 1,239,260円
32 2023年12月18日 1,604,680円 1,441,880円
33 2023年12月26日 1,441,880円 1,441,880円
34 2023年12月27日 1,441,880円 1,441,880円
35 2024年10月03日 1,628,330円 1,628,330円
36 2024年10月15日 1,100,000円 1,100,000円
37 2024年10月15日 1,601,204円 1,566,180円
38 2024年10月16日 800,000円 800,000円
39 2024年10月22日 1,566,180円 1,566,180円
40 2024年11月04日 1,566,180円 1,566,180円
41 2024年12月26日 1,440,000円 1,440,000円
30 台分購入
1,080,000 円(税抜
39,600 円
30 台分購入
1,290,000 円(税抜
47,300 円
40 台分購入
1,081,620 円(消費
27,041 円
39,600 円
74,341 円
3,245 円
103,136 円(消費税
859.5 円
26,730 円
329 円
268.97 円
15 ㎜塩ビボールバル
1 台あたり 4
91.95 円(消費税及
367.8 円
10*16 テトロンブレー
7m 924 円
20 台分購入 27,500 円
420,000+80,000=
500,000 円(税抜
328 円(税抜き) 360.8 円
12V→24V コンバータ 1,118 円(消費税及
1,118 円
947 円
393 円
1 個 1,185 円(税抜
1,303.5 円
1 個 1,185 円(税抜
1,303.5 円
1 個 1,185 円(税抜
1,303.5 円
7,205 円
126,309 円
161,410 円
1 メンテナンス行為に係る売上額(1台当たり)
2 メンテナンスに要する原価(1台当たり)
3 限界利益の額(1-2)
2021/12/01 21120047 U2117228 福岡 971,520
2021/12/22 21121610 U2118749 佐賀 971,520
2021/12/24 21121617 U2118757 佐賀 971,520
2021/12/27 21121834 U2118997 福岡 971,520
2022/02/22 22022315 U2205486 佐賀 971,520
2022年度 2022/10/19 22101167 U2213016 佐賀 971,520 1 ¥971,520
2023/11/27 23111767 U2316563 佐賀 1,019,040
2023/11/27 23111772 U2316570 佐賀 1,019,040
2023/12/28 23122134 U2319129 佐賀 688,160
2023/12/28 23122136 U2319131 佐賀 690,580
2023/12/28 23122138 U2319145 佐賀 688,160
2023/12/28 23122139 U2319147 佐賀 688,160
2024/01/12 24010628 U2400504 福岡 1,034,000
2024年度 0  
13 ¥11,656,260
2023年度 7 ¥5,827,140
2021年度 5 ¥4,857,600
1台平均原
2021年
5 ¥2,222,325 ¥444,465
2022年
2023年
7 ¥2,350,200 ¥335,743
2個は納入
13 ¥4,965,348 ¥381,950
事件の概要 本件は、別紙特許権目録記載の特許(以下「本件特許」といい、本件特許に5 係る特許権を「本件特許権」という。また、本件特許の願書に添付された明細 書を「本件明細書」といい、上記明細書及び図面を併せて「本件明細書等」と いう。)を有する原告が、別紙被告製品目録記載の製品(以下「被告製品」と いう。)の販売等を行っている被告に対し、上記行為が本件特許権の侵害を構 成するとして、特許法100条1項に基づき、侵害行為の差止めを求めるとと10 もに、民法709条に基づき、損害賠償金3000万円及びこれに対する不法 行為の後の日(最初の警告書を送付した令和5年11月1日)から支払済みま で民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

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判決文

令和7年7月10日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官

令和6年(ワ)第70128号 特許権侵害行為差止等請求事件

口頭弁論終結日 令和7年4月24日

判 決

原 告 光 洋 通 商 株 式 会 社

同訴訟代理人弁護士 三 縄 隆

同 青 木 悠 夏

同 補 佐 人 弁 理 士 黒 瀬 雅 一

被 告 株 式 会 社 ダ イ イ チ

同訴訟代理人弁護士 藤 本 英 介

同 補 佐 人 弁 理 士 神 宝 正 文

主 文

1 被告は、別紙被告製品目録記載の製品を生産し、譲渡し、貸渡し、

若しくは輸出し、又は譲渡若しくは貸渡しの申出をしてはならない。

2 被告は、原告に対し、93万2500円及びこれに対する令和5年

11月1日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。

3 原告のその余の請求を棄却する。

4 訴訟費用はこれを10分し、その7を原告の負担とし、その余を被

告の負担とする。

5 この判決は、第2項に限り、仮に執行することができる。

事 実 及 び 理 由

第1 請求

1 主文1項同旨2 被告は、原告に対し、3000万円及びこれに対する令和5年11月1日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

5 本件は、別紙特許権目録記載の特許(以下「本件特許」といい、本件特許に係る特許権を「本件特許権」という。また、本件特許の願書に添付された明細書を「本件明細書」といい、上記明細書及び図面を併せて「本件明細書等」という。)を有する原告が、別紙被告製品目録記載の製品(以下「被告製品」という。)の販売等を行っている被告に対し、上記行為が本件特許権の侵害を構成するとして、特許法100条1項に基づき、侵害行為の差止めを求めるとともに、民法709条に基づき、損害賠償金3000万円及びこれに対する不法行為の後の日(最初の警告書を送付した令和5年11月1日)から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲各証拠〔枝番の記載は特に付記する場合を除き省略する。〕及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実をいう。)

⑴ 当事者(争いがない)原告は、海苔の養殖に関する箱型船の製造、販売等を行う株式会社である。被告は、海苔養殖用資材の製造、販売等を行っている株式会社である。

⑵ 原告の有する特許権(甲1、2)原告は、本件特許権を有している。

⑶ 本件特許に係る特許請求の範囲(甲2)本件特許の特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである(以下、請求項1に記載された発明を「本件発明」という。)。酸原液が希釈された酸処理液を貯留する酸処理槽と、該酸処理槽内に設けられ、海苔が付着した海苔網を巻き取る巻取ロールとを備える箱型船であって、前記酸原液を前記酸処理槽の前記酸処理液内に吐出する原液吐出部と、該原液吐出部に前記酸原液を供給する原液供給部と、前記酸処理槽の中央かつ上方に設けられる吊り棒と、

5 前記吊り棒から前記酸処理液内に垂下するシート部材とを備え、前記原液供給部は、前記酸処理液のpH値を検出するpHセンサと、前記pHセンサの検出値に基づいて前記酸処理液への酸原液の供給量を自動調節する原液供給装置とを備え、前記原液吐出部は、前記シート部材の下部に設けられていることを特徴とする箱型船。

⑷ 本件発明の構成要件(弁論の全趣旨)本件発明を構成要件に分説すると、次のとおりである。A 酸原液が希釈された酸処理液を貯留する酸処理槽と、該酸処理槽内に設けられ、海苔が付着した海苔網を巻き取る巻取ロールとを備える箱型船であって、B 前記酸原液を前記酸処理槽の前記酸処理液内に吐出する原液吐出部と、C 該原液吐出部に前記酸原液を供給する原液供給部と、D 前記酸処理槽の中央かつ上方に設けられる吊り棒と、E 前記吊り棒から前記酸処理液内に垂下するシート部材とを備え、F 前記原液供給部は、前記酸処理液のpH値を検出するpHセンサと、前記pHセンサの検出値に基づいて前記酸処理液への酸原液の供給量を自動調節する原液供給装置とを備え、G 前記原液吐出部は、前記シート部材の下部に設けられているH ことを特徴とする箱型船。

⑸ 被告製品の構成被告製品の外観及び内部の構造は、別紙被告製品説明書記載2のとおりである(甲6、乙32、弁論の全趣旨)。また、被告製品の構成は、別紙被告製品説明書記載1のとおりである(なお、下線を付した部分については、後記第3の1及び2のとおり争いがある。 。)

⑹ 被告の行為(弁論の全趣旨)

5 被告は、顧客が第三者から購入した箱型船(酸処理槽、巻取ロール、吊り棒、シート部材などが備わったもの。乙5参照)について、顧客から依頼を受けて、市販の電源、ポンプ、バケツ、チューブ、pH制御器、pH計、pHセンサなどの部品(以下「本件部品」という。)を新規に取り付け、動作確認後、顧客に引き渡している(以下、当該行為を「新規取付行為」という。 。)また、被告は、顧客に本件部品を取り付けた箱型船を引き渡した後は、毎年、海苔の漁期が終わると、顧客を訪問し、箱型船からpH制御部(pH制御器、pH計、pHセンサから構成される。)のみを取り外し、これらの部品を持ち帰ってメンテナンスを行い、耐用期間が1年であるpHセンサに限り交換した上で、顧客の元を訪問し、箱型船に再度取り付けている(以下、当該行為を「本件メンテナンス行為」という。なお、これらの被告の行為が本件発明の「実施」に当たるか否かについては、後記第3の6のとおり争いがある。)。

⑺ 先行文献ア 本件特許の出願日より前に、以下の刊行物が存在した。公開特許公報特開平5-95740(乙4。以下「乙4公報」といい、これに記載された発明を「乙4発明」という。)イ 乙4公報には、次の発明(乙4発明)が開示されている(乙4、弁論の全趣旨)。4a 海苔網を船に引き上げて同船内の処理槽に入れ、酸処理液に浸漬すること、処理槽内の回転体で海苔網を巻き取ること4b パイプに設けた孔により酸原液を噴出していること4c 酸原液を入れるタンクがあること4d 処理槽内のpH検出用センサで、酸処理液のpH値を検出し、その値に基づいて補給装置でタンク内の酸原液を処理槽内に補給して、酸処理液のpH値を一定の値に保持すること

5 4e 酸原液を噴出する孔を設けているパイプが処理槽の底面に沿って配設されていること、4f 箱型船であること2 争点

⑴ 被告製品が本件発明の技術的範囲に属するか(争点1)ア 「原液吐出部」(構成要件B、C及びG)の充足性(争点1-1)イ 「シート部材の下部」(構成要件G)の充足性(争点1-2)

⑵ 本件特許は、特許無効審判により無効にされるべきものか(争点2)ア 乙4発明を主引例とする進歩性欠如の有無(争点2-1)イ 明確性要件、サポート要件、実施可能要件の有無(争点2-2)

⑶ 被告の行為が本件発明の「実施」に当たるか(争点3)

⑷ 損害の額(争点4)

第3 争点に対する当事者の主張

1 争点1-1(「原液吐出部」〔構成要件B、C及びG〕の充足性)について

(原告の主張)

⑴ 「原液吐出部」の意義

「原液吐出部」とは、その文言及び本件明細書等 【0024】、( 【図2】)の記載によると、酸原液を外に出す孔及びその周辺部を指すものをいうと解するべきである。この点につき、被告は、「吐出」とは、酸原液を吐出圧を受けて勢いよく出すことを意味する旨主張する。しかしながら、「吐出」とは、内にあるものを外へ出す、という程度の意味にすぎない。本件明細書(【0036】、【0049】)にも勢いよく出すという趣旨の記載はなく、被告が指摘する本件明細書【0054】の記載は、酸原液を下方に向かって出すという一実施形態の場合について言及するものにすぎない。そもそも本件発明は酸原液を液内に確実に混ぜることを必須の作用効果とするものではないから、上記

5 明細書の記載から「原液吐出部」とは、圧力を増加させて酸原液を出すもの

であると限定的に解釈するのは妥当ではない。

⑵ 被告製品の構成要件充足性

被告製品は、別紙被告製品説明書2⑹記載のとおり、酸原液を酸処理槽の酸処理液内に吐出する流出孔を備えており、これは「原液吐出部」に相当する構成であるから、構成要件B、C及びGを充足する。

(被告の主張)

⑴ 「原液吐出部」の意義

「原液吐出部」とは、本件明細書等(【0024】、【0045】)の記載によれば、「吐出孔」が設けられたチューブのことをいう。そして、上記の「吐出」は、酸処理液より比重が重い酸原液が酸処理液に拡散されやすくなる程度の圧力をもって、勢いよく出すことを意味する。このことは、本件明細書(【0036】、【0049】、【0054】)の記載に加え、「吐」には「口中に含んだものを勢いよく出す」という意味があること(日本国語大辞典第二版)、「吐出」という言葉自体に圧力をかけて勢いよく出すという意味があると考えられること、本件特許の特許請求の範囲の記載においても「吐出」と「供給」の文言が区別して用いられていること、以上から明らかである。また、本件特許は、「酸原液が海苔網に付着することを抑制あるいは防止することを目的」(【0007】)として、「酸原液を…吐出する」(【0008】)のであるから、本件明細書に特段の説明がない以上、酸原液が海苔網にかからないように狙いを定めて酸原液を勢いよく出すという趣旨で解釈するのが通常である。これに対し、原告は、「原液吐出部」を、酸原液を外に出す孔及びその周辺部などと主張するが、

(原告の主張)

は、「原液吐出部」と「吐出孔」を区別して記載している本件明細書(【0023】【0024】【0036】【0043】【0044】【0045】)の記載と矛盾するものであり、かつ、

5 「周辺部」などという本件明細書に記載のない曖昧な概念を持ち出すもので

あり、誤っている。

⑵ 被告製品の構成要件充足性

被告製品においては、酸原液又は希釈液が、長径30mm短径6mmの楕円状の大きな開口を有する流出孔からシート部材に向かってゆっくりと流出し、その後、混合されて酸処理液中に自然に拡散するようになっている。このような流出孔の形状から、酸原液が、流出孔から入った酸処理液で希釈されつつ酸処理層内に流出するようになっており、この構成は本件発明の「吐出」には当たらない。また、被告製品においては、上記流出孔に加え、チューブの各所に空気穴や液抜孔が付加されており、このような構成は、本件発明とは異なる技術思想、すなわち、「酸原液ないし希釈液を、流出孔から酸処理液中に、ゆっくりと流出させ、その後、混合されて酸処理液中に自然拡散することにより、酸処理実行中の箱型船の揺れにより酸原液ないし希釈液と酸処理液の攪拌と相まって、濃い酸原液が直接海苔網にかからず、適切なpH値の酸処理液を得る」又は「流出孔から液体を吐出させて液体が海苔網に直接当てないように調製するという手段を使わずに液体を供給する」という技術思想を実現するための構成である。これは、本件発明の構成要件該当性を否定する構成であるといえる。したがって、被告製品の流出孔は、「原液吐出部」には当たらず、被告製品は構成要件B、C及びGを充足しない。

2 争点1-2(「シート部材の下部」〔構成要件G〕の充足性)について

(原告の主張)

「シート部材の下部」とは、シート部材の上端と下端の中間点よりも下側、かつ、下側よりも上側の範囲(下記の図の①参照)という意味で読むのが素直である。上記のような解釈は、本件明細書等(【図2】)の記載と整合的である。シート部材

①

被告製品における流出孔は、シート部材の上端と下端の中間点よりも下側、かつ、下端よりも上側の範囲に位置する。したがって、被告製品は構成要件Gを充足する。

(被告の主張)

⑴ 「シート部材の下部」の意義

「シート部材の下部」という文言は多義的であり、①シート部材の最上部よりも下部、②シート部材の最上部と最下部の中間地点よりも下部、③同中間地点から最下部の間、④シート部材の最下部よりも下部など、いずれにも解釈し得るから、文言自体が不明確である。本件明細書にも、上記の意義に関する明確な記載はなく、本件発明に関する実施例の記載もない(なお、本件明細書に記載のある第一実施形態は、シート部材と錘が存在する実施例であり、第二実施形態はシート部材も錘も存在しない実施例であり、いずれも本件発明の実施例とはいえない。)。また、前記1で述べたとおり、「原液吐出部」とは、吐出孔が設けられたチューブのことであり、本件明細書等(【0024】、【0045】、【図2】)の記載によると、このチューブは全てシート部材と水平方向に伸びたチューブであることを前提とするものと解されるが、「原液吐出部」が「シート部材の下部」に存在するというには、チューブがシート部材と水平方向に伸びたものでなければ観念しにくい。以上のとおり、「シート部材の下部」の意味は極めて不明確である。

⑵ 被告製品の構成要件充足性

前記1のとおり、被告製品に「原液吐出部」に相当する構成はないが、仮

5 に被告製品における「酸処理槽の中央かつ上方でシート部材の上端の近傍に

設置され、吊り棒に沿って水平方向に伸びる酸原液が通過する2本の水平チューブ」(別紙被告製品説明書記載2⑹の「水平チューブ」)を原液吐出部だとすると、原告の解釈を前提としても、シート部材の上端の近傍に存在することになるから「シート部材の下部」にあるとはいえない。また、被告製品のチューブは、吊り棒から見て垂直方向に伸びたチューブであり(別紙被告製品説明書記載2⑹の「垂直チューブ」)、前記⑴のとおり、「原液吐出部」が「シート部材の下部」に存在するというには、チューブがシート部材と水平方向に伸びたものでなければ観念しにくいことを踏まえると、このようなチューブの形状は、「シート部材の下部」にあるかどうかを判断し得ない構成である。したがって、被告製品において、「原液吐出部」は「シート部材の下部に設けられている」とはいえないから、構成要件Gを充足しない。

3 争点2-1(乙4発明を主引例とする進歩性欠如の有無)について

(被告の主張)

以下に述べるとおり、本件発明は、乙4公報(主引用例)に記載された発明(乙4発明)に基づいて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項により無効とされるべきものである。

⑴ 主引用例

乙4公報には、前記前提事実⑺イの構成を備えた発明(乙4発明)が開示されている。

⑵ 対比(相違点)

本件発明と乙4発明は、次の相違点を除き一致する。ア 相違点1本件発明は、酸処理槽の中央かつ上方に設けられる吊り棒と、前記吊り棒から前記酸処理槽内に垂下するシート部材を備えるのに対し、乙4発明

5 は、吊り棒に相当するもの及びシート部材に相当するものの両方を備えな

い点イ 相違点2本件発明は、原液吐出部がシート部材の下部に設けられているのに対し、乙4発明は、シート部材を有しておらず、酸原液を外に出す孔及びその周辺部分が処理槽の底面に設けられている点

⑶ 相違点の容易想到性

ア 相違点1について単なる公知技術の寄せ集め又は設計変更にすぎないことa 乙8、乙17ないし26は、相違点1に係る本件発明の構成、すなわち、巻取ロールが4本あるダブル箱型船に、吊り棒と前記吊り棒から酸処理層内に垂下するシート部材を設置するという構成を開示しており、本件特許の出願時において、吊り棒からシート部材を垂直に下すことで中間を区切ったダブル箱型船(以下「シート部材区切ダブル箱型船」ともいう。)は、公知であるだけでなく周知であり、当業者であれば容易に思いつくものであった。また、①海苔養殖における船舶の小型化(潜り船から箱型船へ)、作業の効率化(シングル箱型船からダブル箱型船へ)やダブル箱型船における海苔網のほつれの防止(仕切部材の設置)、仕切部材の軽量化及び設置取外しの容易化(仕切りとしてシート部材を利用)、②酸処理槽などで、pH濃度を一定に保つための工程を自動化することは、海苔養殖酸処理用の船での技術動向となり、市場の圧力もある状態なので、海苔養殖酸処理業界に関わる技術者であれば、当然に対応を迫られるものであった。b 本件発明は、乙4発明に、前記aのシート部材区切ダブル箱型船という公知又は周知の技術を組み合わせたものである。しかしながら、

5 これらの技術は互いに機能的、作用的に関連するものではなく、単な

る公知技術の寄せ集めにすぎない。また、本件特許の出願当時、シート部材区切ダブル箱型船は、箱型船といえば思いつくような、箱型船の商品分類の1つの品目(下位分類)といい得るものとなっていた。そして、乙4発明が、箱型船を特許の対象としている以上、その一類型であるシート部材区切ダブル箱型船を選択することは公知材料の中から最好適材料を選択することにほかならず、設計変更にすぎない。したがって、相違点1は、乙4発明から容易想到可能である。動機付けがあること乙4発明と前記 aのシート部材区切ダブル箱型船(公知又は周知の技術)は、箱型船という同じ商品の中において「吊り棒、シート部材」があるかどうかのバージョンの違いにすぎず、技術分野が同一である。このように同一の技術分野においては、多様なバーションに特許を対応させる動機付けは十分ある。また、課題、作用効果の共通性については、本件発明は、「酸原液が直接海苔網に付着することを抑制あるいは防止する」という課題及びその解決のための作用効果を提供するものであり、相違点1に関する構成のみならず本件発明のその他の構成の課題、作用効果は本件明細書上共通している。さらに、乙4発明は、箱型船に関するものであり、シート部材区切ダブル箱型船を採用することについて引用発明中に示唆があるといえる。加えて、作業の効率化(シングル箱型船からダブル箱型船へ)やダブル箱型船における海苔網のほつれの防止(仕切りの設置)、仕切り部材の軽量化(船の軽量化、設置の容易化のためにシート部材とすることなど)などの業界の動向を踏まえると、箱型船としてシート部材区切ダブル箱

5 型船を採用する動機は、十分にあるといえる。

したがって、乙4発明に公知技術や周知技術を適用して、相違点1の構成に想到することは容易である。イ 相違点2について海苔養殖用の船において、酸原液、処理液などを吐出、噴出させる孔を含んだ管については、従来、様々な配置に関する構成が公開されている。例えば、公開特許公報特開平11-332406(乙16の1。以下「乙16公報」といい、これに記載された発明を「乙16発明」という。)には、濃い消毒液が海苔網に直接ふりかからないような位置として、海苔網下の処理槽(容器)の壁面に「吐出部」を設けるとした箱型船が公開されている。そして、原液を吐出又は噴出する場合に、原液が海苔網にかからないようにするためには、吐出又は噴出の照準先及びその下に海苔網が存在しないように全体機構に応じて適宜設計すればよいだけのことであり、当業者の通常の創作の範囲内でできることである。このような意味で、少なくとも「酸原液が海苔網に付着することを制御あるいは防止する」ために、原液が吐出される孔又はそれが備わった管の位置を決めることは、単なる設計事項にすぎない。これに対し、原告は、相違点2に係る本件発明の構成を採用したことによって、本件発明の課題である「酸原液が直接海苔網に付着することを抑制することができる」という有利な作用効果を奏する旨主張する。しかしながら、前記ア のとおり、本件発明は、「酸原液が直接海苔網に付着することを抑制あるいは防止する」という課題に対する解決策として本件発明に係る要素の全てを挙げており、発明の課題に関する解決策を相違点2に係る本件発明の構成のみに限定しているわけではない。

(原告の主張)

5 相違点については特に争わないが、次のとおり、容易想到性については否認

ないし争う。

⑴ 相違点1の容易想到性について

ア 動機付けがないこと被告は、ダブル箱型船において、相違点1に係る本件発明の構成が周知であることを理由に、進歩性違反がある旨主張する。しかしながら、主引用例である乙4発明は、シングル箱型船に関するものである。すなわち、乙4発明は、シングル箱型船で、酸処理液への浸漬時間が6分程度であることを前提に、pH値を2.0前後に保持することを目的とした発明である。これをダブル箱型船に変更した場合に、浸漬時間やpH値を同一にして同様の効果が得られるかは、当業者において予想できるものではない。したがって、乙4発明を前提として、ダブル箱型船を採用することは、当業者が容易に想到できるものではないし、組み合わせる動議付けも存在しない。イ 単なる公知技術の寄せ集めや設計事項には当たらないこと被告は、相違点1に係る本件発明の構成は単なる公知技術の寄せ集めであると主張するが、相違点1に係る本件発明の構成が、本件発明の他の構成と機能的又は作用的に関連していることは明らかであり、寄せ集めなどではない。また、被告は、相違点1に係る本件発明の構成は、設計的事項である旨主張するが、相違点1及び相違点2に係る本件発明の構成により、酸原液が海苔網に付着することを抑制あるいは防止するという本件発明の格別の作用効果を奏するから、相違点1に係る本件発明の構成は設計的事項ではない。

⑵ 相違点2の容易想到性について

相違点2に係る本件発明の構成については、いずれの文献にも記載又は示唆がされていない。また、相違点2に係る本件発明の構成は、酸原液が直接

5 海苔網に付着することを抑制するという課題解決に有利な作用効果を奏する

ものであるから、容易想到性があるとはいえない。

4 争点2-2(明確性要件、サポート要件、実施可能要件の有無)について

(被告の主張)

以下のとおり、本件発明は特許法36条6項1号(サポート要件)及び同項2号(明確性要件)、同条4項(実施可能要件)に明らかに反するものであり、同法123条1項4号に該当するから無効とすべきである。

⑴ 「吐出」との記載(構成要件B)について

前記1のとおり、「吐出」とは、液体を勢いよく出すことをいうものと解するべきであるが、仮に、原告が主張するように、単に「出す」ことを意味すると解するのであれば、本件明細書等には勢いよく出す場合についての実施形態の記載しかないから、当業者が出願時の技術常識を考慮しても実施できる程度に明確かつ十分に説明されているとはいえない。したがって、実施可能要件に違反する。また、本件明細書等には、「吐出」に関して、勢いよく出す場合以外についての記載がないから、本件発明は明細書に記載された範囲を超えるものであり、サポート要件に違反する。さらに、「吐出」について、原告が主張するような解釈が可能であるとすれば、本件発明は明確に記載されているとはいえないので、明確性要件に違反する。

⑵ 「垂下するシート部材」との記載(構成要件E、G)について

技術常識からすると、シート部材は、通常、その上端を吊り棒に固定し、下端を棒に固定し、吊り棒及び棒が船体等に固定される形態のものであり、これによって船のバランスを図り、海苔網のからみを防止するものであるが、本件明細書等ではシート部材の下端が固定されていない形態のみが実施可能に記載されており、下端を固定したものについては、本件発明の課題である

5 「原液が海苔網に付着することを抑制あるいは防止する」ことを実施するこ

とができない。したがって、実施可能要件に違反する。また、本件明細書等には、上記のようなシート部材が船体等に固定されている形態についての記載がないから、本件発明はサポート要件違反である。さらに、「垂下する」とは、「垂直に下がる」という意味か、「ぶら下がる」という意味かが明確ではなく、明確性要件にも違反する。

⑶ 「シート部材の下部」との記載(構成要件G)について

前記2のとおり、「シート部材の下部」という意味は様々に解釈し得るが、本件明細書等には本件発明の実施例は全く記載されておらず、詳細な説明もない。したがって、「シート部材の下部」との文言が不明確であることは明らかであり、明確性要件に違反する。また、本件明細書等には、当業者が実施できる程度に明確かつ十分な記載がないから、本件特許は実施可能要件に違反し、サポート要件にも違反する。

(原告の主張)

否認ないし争う。

5 争点3(被告の行為が本件発明の「実施」に当たるか)について

(原告の主張)

⑴ 被告製品の本件メンテナンス行為について

被告は、本件特許の登録日後、少なくとも1度は、本件特許の登録日前までに新規に顧客に販売した被告製品について、pH制御器、pH計及びpHセンサを取り外して、再度取り付ける本件メンテナンス行為を行っている。本件メンテナンス行為は、本件発明の技術的範囲に属しない製品を本件発明の技術的範囲に属する製品に変更する行為であるから、各製品に対して行った本件メンテナンス行為のうち少なくとも1回は「生産」に該当する。そして、これを顧客に引き渡す行為は「譲渡」に該当する。

⑵ 本件特許の登録日以後の被告製品の新規取付行為について

5 被告は、本件特許の登録日以後に被告製品の新規取付行為を行っており、

これは、「生産」又は「譲渡」に該当する。

⑶ 沈没した被告製品について

被告は、一度新規取付行為を行った被告製品であっても、台風その他の暴風等の影響により被告製品が沈没した場合には、本件部品の全部又は略全部を入れ替えて顧客に引き渡している。これらの行為は、本件発明の技術的範囲に属しない製品を本件発明の技術的範囲に属する製品に変更する行為であるから、「生産」に該当し、これを顧客に引き渡す行為は「譲渡」に該当する。

⑷ 小括

したがって、被告の行為は、本件発明の「実施」に当たる。

(被告の主張)

⑴ 被告製品の本件メンテナンス行為について

被告は、本件特許の登録日後、登録日前までに新規取付行為を行った被告製品について少なくとも1度は本件メンテナンス行為を行っている。一般に、箱型船に取り付けるpHセンサは、使用による汚染や劣化等のため多くのメーカーにおいて6か月での交換を推奨されており、被告製品の機能の維持保全のため、pHセンサ等の交換を含むメンテナンスをすることが期待される。本件メンテナンス行為は、このように被告製品の通常の利用に伴って想定されている範囲内のものである。また、海苔酸処理船にpHセンサを取り付けることは本件特許の出願前からの公知技術であり、本件特許の主要部分ではない。さらに、pHセンサの市場価格は1万円以下のものが多く、新規取付行為の限界利益の1%程度の価格である。このように、被告も被告の顧客も、本件メンテナンス行為によって被告製品が新たに作り出されているという認識を持つことはあり得ない。したがって、本件メンテナンス行為が、「生産」(特許法2条3項1号)

5 に該当するとはいえないし、本件メンテナンス行為をした被告製品を引き渡

す行為が「譲渡」(同号)に該当するとはいえない。仮に、特許登録日後の本件メンテナンス行為が「生産」、「譲渡」に該当するとしても、消尽理論により特許権侵害にはならない。

⑵ 本件特許の登録日以後の被告製品の新規取付行為について

否認ないし争う。

⑶ 沈没した被告製品について

被告製品が台風その他の暴風等の影響により沈没したことはない。

6 争点4(損害の額)について

(原告の主張)

原告が被った損害の額は、以下の算定方法によって推定される金額のうち、最も高い金額である。

⑴ 特許法102条1項1号に基づく推定額

ア 「侵害の行為がなければ販売することができた物」について原告は、箱型船を保有している顧客に対し、①制御装置のタッチパネル、

②遠隔制御ミニモニター、③ポンプボックス及び電源、④配管及びホース、

並びに⑤pHセンサ及びバッテリーボックス(以下、これら①ないし⑤をまとめて「本件原告部品」という。)を販売し、これらを顧客保有の箱型船に取り付けている(以下、本件原告部品を取り付けた箱型船を「原告製品」という。)。もっとも、原告は、現在、顧客の要望等を踏まえ、原液吐出部の位置を液面よりも上側に設けたものを原告製品として販売しており、これは本件特許を実施するものではない。しかしながら、原告製品は、自動でpHを調整する機能を有する点で被告製品と同一であり、被告製品と市場において競合するから、「侵害の行為がなければ販売することができた物」に当たる。なお、原告は、過去に本件発明の実施品を販売していたことがあるが、顧客からの評判が好まし

5 くなかったため、販売台数は数台にとどまっていた。

イ 「単位数量当たりの利益の額」について「単位数量当たりの利益の額」とは、限界利益の額であり、1台の売上げの増加による利益の増加額として理解される。本件においては、被告製品をメンテナンスするのは被告に限られ、原告製品をメンテナンスするのは原告に限られるという実情があり、一度部品を取り付けた箱型船を納入すれば、その後のメンテナンス収入を事実上期待できる状況にあるから、メンテナンス料は、実質的には、新規取付行為による利益を将来に繰り延べたものと評価できる。したがって、「単位数量当たりの利益の額」には、本件原告部品を新規に取り付けた際の利益に加え、その後のメンテナンス行為によって得られる利益も含まれると解するべきである。本件原告部品の新規取付による利益原告は、本件特許登録日後に行った原告製品の販売(本件原告部品の新規取付)によって、別紙「原告製品売上状況表」記載の売上げを上げており、1台当たりの平均売上額は130万6112円である。また、原告製品の1台当たりの製品原価は、別紙「原告製品原価一覧表」記載のとおりであり、1台当たりの平均原価額は、高く見積もっても16万1410円を超えることはない。したがって、原告が原告製品1台当たりの新規取付行為によって得られる利益の額は114万4702円(130万6112円-16万1410円)である。メンテナンス行為による利益原告は、メンテナンス行為として、pHセンサの交換(2年に1回)、pHセンサの保管取付け、本件原告部品を取り付けた箱型船の点検、ポンプの消耗部品の交換(毎年)、バッテリーの交換(4年に1回)、配管の直し(2年に1回)のほか、平均して毎年1回程度漁期中のトラブ

5 ル対応に当たっている。

これを前提に、メンテナンス行為による利益の額を算出すると、原告が本件特許登録日後に行った原告製品のメンテナンス行為によって得た原告製品1台当たりの平均売上額(1年分)は、別紙「原告メンテナンス利益額」記載1のとおり13万1050円であり、1台当たりの平均原価額(1年分)は同記載2のとおり4万2300円である。したがって、原告が原告製品1台につき1年間に得られるメンテナンス行為による利益の額は、平均8万8750円(13万1050円-4万2300円)である。そして、本件特許の残存期間は、現時点で約12年であるから、1台当たりのメンテナンス行為によって得られる利益の額は106万5000円(8万8750円×12年)である。小括以上のとおり、単位数量当たりの利益の額は、220万9702円(114万4702円+106万5000円)である。ウ 譲渡数量被告が主張するように、本件特許の登録日以後の被告による被告製品の譲渡数量は13台である。エ 実施相応数量について原告は、令和4年から令和6年までの3年間で、新規に41台の箱型船に本件原告部品を取り付けた。このうち、販売数量が最も多かった令和3年においては、新規に31台の箱型船に本件原告部品を取り付けた。したがって、前記ウの数量は原告の実施能力の範囲内である。オ 「販売することができないとする事情」がないこと原告と被告の業務態様は同じである。また、価格は、被告製品のほうが低額であるが、メンテナンス費用を含めて考えれば大きな差はなく、原告製品と被告製品との間で性能に特段の違いはない。

5 また、現在、市場には、被告製品、原告製品及び日東製網株式会社(以

下「日東製網」という。)の製品が流通しているが、原告と日東製網は、原告保有の他の特許を侵害しているとして係争中である。したがって、適法に販売された競合品は市場に存在しない。また、被告が潜在顧客の開拓など特段の営業努力をしたとはいえない。したがって、「販売することができないとする事情」は存在しない。カ 小括したがって、特許法102条1項1号に基づく推定額は、2872万6126円(220万9702円×13台)である。キ 予備的主張仮に、被告による「譲渡数量」のうち原告の「実施相応数量」を超える数量がある場合、又は「特定数量」がある場合には、当該数量について、特許法102条1項2号によって推定される金額を請求する。具体的には、被告製品の販売価格に対し、後記⑶の実施料率25%を乗じた金額を請求する。

⑵ 特許法102条2項に基づく推定額

ア 「その侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合」について前記⑴アのとおり、原告製品は、被告製品の競合品であるから、「その侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合」に当たる。イ 侵害者が侵害行為により受けた利益の額について被告は、被告製品の販売によって受けた利益の額は556万4852円であると主張する。しかしながら、 上記額は人件費を不当に控除し、かつ、本件メンテナンス行為による利益を加算していない。被告が受けた利益の額としては、上記金額に、人件費の控除分(8万6630円×13台=112万6190円)及び本件メンテナンス行為による利益(1台50万円と推定し、合計650万円と推計する。)を加えた1319万1042円

5 とするべきである。

したがって、特許法102条2項に基づく推定額は、1319万1042円である。ウ 推定覆滅事由が存在しないこと前記⑴オで述べた事情から明らかなとおり、本件において推定覆滅事由は存在しない。エ 予備的請求仮に、推定覆滅事由がある場合、当該事由に相当する数量について、特許法102条1項2号を類推して、当該規定によって推定される金額を請求する。具体的には、被告製品の販売価格に後記⑶の実施料率25%を乗じた金額を請求する。

⑶ 特許法102条3項に基づく推定額

原告及び被告は、過去にライセンスを行ったことはない。しかしながら、pHを自動調整する箱型船の販売という業態は、極めて高い利益率を誇るものであり、原告は、市場を独占する意図で複数の特許出願をしたものである。このような経緯に鑑みれば、原告が、一般的な業界の標準ライセンス料率でライセンスをすることはあり得ない。したがって、特許法102条4項の趣旨を踏まえ、実施料率としては25%とするのが相当である。以上によれば、特許法102条3項に基づく推定額は、被告主張の被告製品の売上額1165万6260円に上記実施料率を乗じた291万4065円(1165万6260円×25%)となる。

⑷

(被告の主張)

に対する反論ア メンテナンス料について被告は、アフターサービスに関する売上げや費用は、被告製品の売上高とは関連性がない旨主張する。しかしながら、前記⑴のとおり、少なくとも、本件ではメンテナンス料は、売上高と関連性があるし、実質的には、

5 新規取付行為による利益を将来に繰り延べたものと評価できる。また、こ

のように解さない場合には、新規取付行為の対価を抑えて、メンテナンス料を高くすることで、実質的に損害賠償額の支払を免れることができるため不当である。 したがって、本件のように製品の新規販売時に将来のメンテナンス料の獲得が期待できるような事案においては、将来のメンテナンス料も含めて「単位数量当たりの利益の額」を算定すべきである。イ 取付費用について被告は、原告は専任従業員によって本件原告部品の製作、取付けを行ったのであるから、その費用を売上高から控除して利益を算出すべき旨主張する。しかしながら、被告製品が1台も売れなかったとしても、専任従業員に対する工賃は当然発生し、追加的に必要となった経費には該当しないのであるから、これらの人件費を控除するのは不当である。

(被告の主張)

⑴ 特許法102条1項1号に基づく推定額について

ア 「侵害の行為がなければ販売することができた物」について原告製品が「侵害の行為がなければ販売することができた物」に当たるとの主張は、否認する。すなわち、「侵害の行為がなければ販売することができた物」とは、「侵害行為によってその販売数量に影響を受ける物」という意味であり(知財高裁平成31年(ネ)第10003号令和2年2月28日判決参照)、このような影響を受けるかどうかは、製品の構成のみならず、その価格、性能・用途、ブランド力、顧客誘引力、デザイン、販売時期など現実の市場の状況を考慮して侵害行為と販売数減少との間の相当因果関係の有無又は濃淡により判断するべきである。そして、以下の事情からすると、原告製品は「侵害の行為がなければ販売することができた物」には当たらない。被告製品の販売と原告製品の販売数の変動に相当因果関係がないこと

5 海苔養殖酸処理に用いる巻取ロール付きの箱型船は、有明海北部(福

岡、佐賀地区)以外では、ほとんど用いられていない。もともと、箱型船としては、巻取ロール付きの箱型船に手作業で酸原液を入れて酸濃度を調整するというもの(以下「手動箱型船」という。)が用いられていたが、平成29年頃から、自動で酸濃度を調整して酸処理を行う機能を備えた箱型船(以下「自動箱型船」という。)が普及していった。しかしながら、本件特許登録日(令和3年6月14日)の少し前から、手動箱型船から自動箱型船に切り替える動きが徐々に少なくなっていった。これは、自治体を中心として、巻取ロール付き箱型船とは異なるタイプの箱型船(潜り船、素通し船、システム船)の導入が検討される動きがあったことや、令和4年から5年にかけて、海苔の不作が重なり、自動箱型船への切替えについて様子を見る傾向が強まったためである。したがって、箱型船の販売は減少傾向にあった。この点を措くとしても、手動箱型船を使用している需要者は存在していた以上、被告製品の販売があっても、原告製品の販売機会は存在したはずであるし、海苔船の選択肢は原告製品や被告製品以外にも複数存在する。以上によれば、被告製品が販売されなければ原告製品が売れたはずであるという相当因果関係は存在しないし、存在するとしても極めて限定されたものにとどまる。本件特許の実施品に顧客誘引力がないこと原告は、本件特許の実施品を試作品として顧客に提供したことはあったとしても、これを販売した実績はなく、本件特許の技術的特徴についての顧客からの評判は好ましくなかったものといえる。したがって、本件特許の実施品の顧客誘引力は皆無に等しく、本件特許の経済的価値もないに等しい。

5 イ 単位数量当たりの利益の額について

新規取付行為について新規取付行為に係る1台当たりの売上金額は否認する。原告が主張する売上金額には、①バッテリーの追加購入費用(別紙原告製品売上状況表記載2、15)、②栄養塩強化剤(同記載6)、③アラーム機能設置(同記載21、35、38)、④試運転調整、諸経費・雑費(同記載24、35、38)、⑤コルゲートチューブ取付け(同記載29)、⑥海苔機械部品(同記載37)などの項目が含まれているが、これらの項目は、競合品又は「侵害の行為がなければ販売することができた物」に関するものではないから、売上げに含めるべきではない。また、原告が主張する売上金額は、主として請負契約の履行の対価であるから、売上げとみるべきではなく、特許法102条1項1号の適用の対象にはならない。仮に、同項を適用するとしても、原告製品の販売単価は、ノーマル仕様の本体にタッチパネルというオプションを付加した結果、高額になっているから、タッチパネルの取付けに係る売上分は利益額から控除すべきである。また、売上げから人件費を控除していない点でも不合理である。この点につき、原告の本店所在地が松山市であることを考慮すると、経費合計6万円(宿泊食事代2万円、フェリー代3万円、ガソリン代1万円)に加え、人件費6万円、出張手当として7000円程度がかかることは明らかである。さらに、製品原価の額について、

(原告の主張)

を前提とすると、原告製品の利益率は90%近いものとなり、通常の取引としては考えられないほど高率であり、原告は、一部の部品の原価のみしか主張していない可能性がある(被告製品の原価は平均38万1950円である。)。メンテナンス行為について

5 メンテナンス行為によって得られた利益が、「単位数量当たりの利益

の額」に該当するとの主張は争う。そもそもメンテナンス費用は、アフターサービスに関する費用であり、売上高そのものとは関係がない。また、メンテナンスによって得られる利益に関する立証は不十分である。ウ 譲渡数量について被告は、本件特許の登録日以降、被告製品を13台販売した(新規取付の台数)。したがって、譲渡数量は13台である。エ 実施相応数量について否認する。原告は、本店所在地を松山市に置く、従業員数12名の会社である。そうすると、原告が、特許有効期間中に、ほぼ有明海北部のみで使用される箱型船を対象として、さらに13台の新規取付行為やメンテナンス行為を行う能力があったとはいえない。オ 「販売することができないとする事情」又は推定覆滅事由以下の事情からすると、被告による侵害行為がなければ原告製品の販売が増加したといえる可能性は低く、推定が覆滅されるべきである。価格、性能の差原告製品の平均単価は130万6112円であるのに対し、被告製品の平均単価は88万6635円であり、その価格差は約1.5倍である。令和4年ないし5年当時の海苔漁が深刻な不作であったという状況を踏まえると、これらの価格差は「販売することができないとする事情」又は推定覆滅事由に当たる。また、原告製品と被告製品との間で性能に差がないとの主張は争う。被告製品は、その大部分において被告出願の特許第6395962号(乙50。以下「被告特許」という。)を実施したものであり、酸原液を流出させるチューブとして、「視認性を有する可撓性チューブ」を用いている。これにより、海苔網をコントロールしながら操船作業を強いられ

5 る操船者が、容易に、「肉眼で酸原液を確認できる」ようになり、より

適切な酸原液の調整と操船が可能になっている。このような構成は、顧客の強い要望を受けて取り入れられたものであり、本件特許に示された構成では到底実現できず、顧客吸引力が高い構成である。そのほかにも、被告製品は、視認性チューブに空気穴を設けることで、水圧の影響を受けない均等な酸原液の吐出や液中酸原液沁み出しの抑止を可能としている点、上記空気穴に加え、縦長の流出孔を採用することで、酸原液を希釈して供給することを可能としている点、モニタには顧客に馴染みの深い酸処理剤の倍率も表示される設計となっており、pH値表示に不慣れな顧客でも導入しやすいものとしている点で、顧客吸引力を有している。他方で、原告も自認するとおり、本件特許の実施部分には、顧客吸引力がほぼない。このように、原告製品と被告製品とは性能面で差があるといえる。競合品について市場において競合品が存在しないとの主張は争う。競合品の有無は、被疑侵害行為時点を基準として判断すべきであるところ、原告が、日東製網に対して訴訟を提起したのは、被疑侵害行為が行われた後であるから、日東製網と係争中であることは考慮されない。また、競合品かどうかは、pH自動調整装置が取り付けられているかどうかに限らず、酸処理を行うための商品全般が競合し得るものである。したがって、前記ア に掲げた、巻取ロール付き箱型船とは異なるタイプの箱型船(潜り船、素通し船、システム船)もまた「競合品」に当たるというべきである。被告の営業努力・ブランド力被告は、昭和24年に創業し、熊本県荒尾市を本店所在地として、古くから有明海の漁業に関与してきた地元業者であり、海苔養殖資材の総

5 合販売を行っている。特に、海苔網、酸処理剤の国内メーカーとしては

トップシェアを誇る。このように被告は、有明海周辺の海苔養殖業者からの厚い信頼を得ており、顧客に対する強力なブランドを構築している。他方で、原告は、昭和55年創業の松山市所在の会社であり、主に瀬戸内海周辺の海苔養殖業者などを得意先としており、有明海沿岸の顧客へ進出したのは最近である。したがって、原告のブランド力は、被告のブランド力と比較して顕著に小さい。部分実施であること本件特許は箱型船を対象としているが、pHセンサを設け酸原液の供給量を自動調整すること、シート部材があることなどは公知技術であり、本件特許の技術的意義は、原液吐出部が酸処理液内に垂下するシート部材の下部に設けられていることにある。被告製品は、その一部分(シート部材の下部)について本件特許を実施するにすぎず、前記 のとおり、その主要部分は、被告特許を実施したものである。このように、原告も自認するとおり、被告製品のうち本件特許の実施部分には顧客吸引力がほとんどないのに対し、被告特許の実施部分は高い顧客吸引力を有している。以上によれば、被告製品における本件特許の寄与率、顧客吸引力の割合はほぼないに等しいというべきである。本件特許の回避の容易性本件特許は、公知技術(公開特許公報特開平5-95740。乙4)のとおり、原液吐出部を処理槽の側面から底面に沿って配設されたパイプに設置すれば容易に回避できるし、シート部材から距離を置いた部分に設けることなどによっても回避可能である。小括以上の事実に加え、前記ア のとおり、令和4年から令和5年にかけ

5 て、海苔は深刻な不作であり、かつ、自動箱型船への切替えも様子見の

傾向があったことに照らせば、侵害行為がなければ原告製品の販売数量が増加する可能性があったとはいえない。したがって、特許法102条1項の推定を覆滅できる割合は、99%を超えるというべきである。カ 予備的主張について否認ないし争う。なお、実施料率としては、後記⑶のとおり、0.5%程度である。

⑵ 特許法102条2項に基づく推定額について

ア 「その侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合」に当たらないこと前記⑴アと同様の理由により、「その侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合」には当たらない。イ 侵害者が侵害行為により受けた利益の額について被告が本件特許登録日後に行った被告製品の新規取付行為によって得た売上げは、別紙「特許成立後被告製品売上(税込み)」記載のとおりであり、その合計額は1165万6260円である。他方で、被告製品の1台当たりの平均製品原価は、別紙「被告製品原価一覧表」記載のとおり合計496万5348円である。また、被告製品の組立て、取付け、検査等は、被告の専業従業員2名が、現地に赴いて行っており、これらに関する人件費は、次のとおり、1台当たり8万6620円である。装置製作費(組立工数単価) \56,620 1日あたり3万円製作時間15.1時間出張取付費(1台当たり) \30,000 1日あたり3万円製作時間8時間合計 \86,620上記売上合計額1165万6260円から上記製品原価496万5348円及び人件費112万6060円(8万6620円×13台)を差し引くと、侵害者が侵害行為により受けた利益の額は、556万4852円である。

5 したがって、特許法102条2項に基づく推定額は、556万4852

円である。ウ 推定覆滅事由について前記⑴オで述べた事情から明らかなとおり、本件においては推定覆滅事由があるから、覆滅できる割合は99%を超えるというべきである。エ 予備的主張について否認ないし争う。なお、実施料率としては、後記⑶のとおり、0.5%程度である。

⑶ 特許法102条3項に基づく推定額について

否認ないし争う。業界におけるライセンス料率の相場を踏まえ、本件発明自体の価値、本件発明を製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献の程度を考慮すれば、本件特許の実施料率は、いわゆる事後的ライセンスであることを加味したとしても、製品全体の売上額に対して0.5%が相当である。したがって、特許法102条3項による推定額は、5万8281円(1165万6260円×0.5%)を上回らない。

第4 当裁判所の判断

1 本件発明の内容本件明細書等には、次のとおりの記載があることが認められる。なお、【0007】の「防止することを防止することを」は、「防止することを」の誤記

5 であり、【0037】の「防止することできる」は、「防止することができる」の誤記である。

⑴ 技術分野【0001】本発明は、箱型船に関する。

⑵ 背景技術【0002】下記特許文献1によれば、モグリ船という船を用いて、海苔網の下にその船を潜らせ、酸洗浄液を海苔網の下側から吹き付け、海苔に付着した珪藻類を除去する海苔網の連続処理方法が開示されている。このモグリ船を用いた海苔網の酸処理では、容器に貯留された酸処理液を酸洗浄槽に供給して所望pHの酸洗浄液を調整し、当該酸洗浄液を第1のポンプを用いて酸洗浄槽から散布機に供給することにより海苔網に散布する。

⑶ 発明が解決しようとする課題【0004】ところで、上記モグリ船を用いた酸処理では、海苔網と酸洗浄槽との距離が比較的離れているので、酸性度が比較的高い酸処理液が海苔網に吹き付けられることにより海苔網や海苔に悪影響を与えることがない。【0005】しかしながら、モグリ船と同様に海苔網に酸処理を施す船として、モグリ船よりも小型な所謂箱型船が知られている。この箱型船は、海苔網に酸処理を施すための酸処理液(上記モグリ船の酸洗浄液に相当するもの)を酸処理槽に貯留し、また当該酸処理槽内に海苔網を巻き取る巻取ロールを備えるものである。すなわち、このような箱型船では、酸処理槽内の酸処理液に海苔網を浸漬させることにより当該海苔網に酸処理を施す。【0006】

5 このような箱型船において酸処理液のpH値を調節するためには、酸原液(上記モグリ船の酸処理液に相当するもの)を酸処理槽に供給することになるが、酸処理槽内に巻取ロールに巻き取られた海苔網が存在する場合に、例えば作業者が酸原液を酸処理液に供給する際に、不注意等によって酸原液が海苔網に付着して海苔網や海苔に悪影響を与える可能性がある。【0007】本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、酸原液が海苔網に付着することを抑制あるいは防止することを防止することを目的とするものである。

⑷ 課題を解決するための手段【0008】上記目的を達成するために、本発明では、第1の解決手段として、酸原液が希釈された酸処理液を貯留する酸処理槽と、該酸処理槽内に設けられ、海苔が付着した海苔網を巻き取る巻取ロールとを備える箱型船であって、前記酸原液を前記酸処理槽の前記酸処理液内に吐出する原液吐出部と、該原液吐出部に前記酸原液を供給する原液供給部とを備える、という手段を採用する。【0009】本発明では、第2の解決手段として、上記第1の解決手段において、前記原液供給部は、前記酸処理液のpH値を検出するpHセンサと、前記pHセンサの検出値に基づいて前記酸処理液への酸原液の供給量を自動調節する原液供給装置とを備える、という手段を採用する。【0010】本発明では、第3の解決手段として、上記第2の解決手段において、前記酸処理槽の中央かつ上方に設けられる吊り棒と、前記吊り棒から前記酸処理液内に垂下するシート部材とをさらに備え、前記原液吐出部は、前記シート部材の下部に設けられている、という手段を採用する。

5 【0011】本発明では、第4の解決手段として、上記第3の解決手段において、前記シート部材は下部に錘を備え、前記原液吐出部は、前記錘の上部において前記酸処理液に浸漬する高さに、前記シート部材を挟んで両側に設けられる、という手段を採用する。【0012】本発明では、第5の解決手段として、上記第4の解決手段において、前記pHセンサは、前記シート部材を挟んで両側かつ前記原液吐出部の上に設けられている、という手段を採用する。

⑸ 発明の効果【0013】本発明によれば、酸原液が海苔網に付着することを抑制あるいは防止することできる。

⑹ 発明を実施するための形態【0015】以下、図面を参照して、本発明の第1実施形態について説明する。〔第1実施形態〕本実施形態に係る箱型船Aは、養殖中の海苔網上の海苔を酸処理する酸処理装置である。箱型船Aは、船本体1、酸処理液2が貯留する酸処理槽3、海苔網Nを巻き取る一対の巻取ロール4a、4b、吊り棒5、樹脂シート6(シート部材)、錘7、チューブ8A、8B(管状部材)、pHセンサ9、pH制御器10、酸原液ポンプ11、酸原液12を貯蔵する酸原液タンク13及び巻出ロール14a、14bを備える。なお、チューブ8A、8Bは本発明における原液吐出部を、pH制御器10、酸原液ポンプ11及び酸原液タンク13は、本発明における原液供給装置を構成している。また、pHセンサ9、pH制御器10、酸原液ポンプ11及び酸原液タンク13は、本発

5 明における原液供給部を構成している。

※なお、各部位の名称は当裁判所が記入したものである。

【0016】

船本体1は、箱型に成形された樹脂製浮体である。この船本体1は、前後

方向の寸法が幅方向の寸法よりも若干短い長方形の平面形状を備えており、

(中略)このような船本体1には、酸処理槽3、吊り棒5、pH制御器10、

酸原液ポンプ11、酸原液タンク13及び不図示のバッテリ等が設けられて

いる。

【0017】

酸処理液2は、海苔網N上の海苔を酸処理するのに適した所望のpH値、

例えばpH=0.4~2.6を有する酸希釈液である。すなわち、この酸処

理液2は、所定の有機酸あるいは塩酸等の酸原液12が海水によって希釈さ

れた液体である。酸処理液2は、酸処理槽3に一定量が貯留されており、海

苔網Nと接触することによって海苔網Nに付着した海苔を酸処理する。

【0018】

酸処理槽3は、船本体1の中央に形成され、側壁部3a~3d及び底壁部

eに囲まれた略直方体の窪み部であり、所定量の酸処理液2を貯留する。

(中略)海苔網Nは、海苔が付着した長尺状の網である。この海苔網Nは、

海苔の養殖場に複数条が配置されている。すなわち、海苔の養殖では、養殖

場となる海域に複数条の海苔網Nを配置し、海苔を海苔網Nに付着させた状

態で養殖する。(省略)

【0019】

一対の巻取ロール4a、4bは、酸処理槽3内に一定距離を隔てて平行か

つ水平に配置された回転軸である。(中略)このような一対の巻取ロール4

a、4bのうち、一方の巻取ロール4aは船本体1が前進した際に前方から

侵入してくる海苔網Nを順次巻き取るためのものであり、他方の巻取ロール

bは、船本体1が後進した際に後方から侵入してくる海苔網Nを順次巻き

取るためのものである。

【0020】

吊り棒5は、酸処理液2の液面に対峙

するように酸処理槽3の上方に設けられ

た棒状部材である。この吊り棒5は、酸

処理槽3の中央部に、両端が船本体1の

上部に固定されて、一対の巻取ロール4

a、4bと平行に設置されている。(省

略)

【0021】

樹脂シート6(シート部材)は、略長方

形かつ可撓性を有するシート部材であ

り、例えば塩化ビニル製の白色シートで

ある。この樹脂シート6は、上端が酸処

理槽3の中央部に設けられた吊り棒5に

【図2】なお、各部位の名称は当裁判

固定され、当該吊り棒5から酸処理液2 所が記入したものである。

中に向かって垂下し、下端が後述する錘7に固定されている。上記のように、

樹脂シート6が酸処理液2中に垂下していることにより、船本体1の揺動及

び海苔網Nを巻き取る際に巻取ロール4a又は巻取ロール4bが回転するこ

とによって酸処理液2中に生成される水流によって、樹脂シート6が前進方

向及び後進方向に揺動し、酸処理液2が攪拌される。

【0022】

錘7は、直径が約20mmのステンレス製の棒状部材である。この錘7は、

樹脂シート6の下端部に、酸処理槽3の底壁部3eから間隔Dを空けて上方

に位置するように、吊り棒5と略平行に、酸処理槽3の側壁部3c及び3d

にボルト留め等により固定されている。上記構成を有することにより、酸処

理槽3は樹脂シート6によって前進側と後進側の2槽に完全に仕切られない。

従って、酸処理液2が、錘7の下部に設けられた間隔Dの隙間を通して、酸

処理槽3内の前進方向及び後進方向間を流通することができる。

【0023】

チューブ8A、8Bは、本発明における原液吐出部であり、錘7の上部に

おいて酸処理液2に浸漬する高さに、樹脂シート6(シート部材)を挟んで

両側に設けられる、一対の例えば塩化ビニル製の管状部材である。さらに、

チューブ8A、8Bは、錘7に沿って樹脂シート6を挟んで略平行に固定さ

れている。このチューブ8A、8Bの上部には、酸原液12を吐出する複数

の吐出孔8a、8bがそれぞれ長さ方向に所定間隔で形成されている。各吐

出孔8a、8bは、酸原液12が酸処理槽3内の前進側及び後進側に向かっ

て斜め上方に吐出されるように、酸処理槽3の上方に対して酸処理槽3の側

壁部3a側及び側壁部3b側にそれぞれ同程度の角度傾斜して形成されてい

る。

【0024】

ここで、チューブ8A、8Bは、本発明における原液吐出部を構成してい

る。すなわち、チューブ8A、8Bに設けられた吐出孔8a、8bは、酸処

理槽3内に貯留されている酸処理液2中に酸原液12を吐出する。

【0025】

pHセンサ9は、酸処理液2のpH値を検出するセンサである。このpH

センサ9は、図2に示すように、酸処理槽3内において上記原液吐出部の近

傍に設けられている。(中略)pHセンサ9は、pH制御器10に接続され

ており、検出値をpH制御器10に出力する。

【0026】

pH制御器10は、pHセンサ9から入力される検出値と予め記憶してい

る制御しきい値とに基づいて酸原液ポンプ11をフィードバック制御する制

御装置である。すなわち、このpH制御器10は、酸処理液2のpH値が制

御しきい値を維持するように酸原液ポンプ11を制御する。(省略)

【0027】

酸原液ポンプ11は、pH制御器10から入力される操作信号に基づいて

動作する容量ポンプである。すなわち、この酸原液ポンプ11は、所定の配

管によって酸原液タンク13及び一対のチューブ8A、8Bに接続されてお

り、操作信号に応じた流量の酸原液12を酸原液タンク13から汲み出して

一対のチューブ8A、8Bに供給する。(省略)

【0028】

酸原液12は、所定pH値を有する酸の水溶液である。この酸原液12は、

酸処理液2のpH値よりも低いpH値、つまり酸処理液2よりも高い酸性度

を有する酸であり、例えばリンゴ酸や乳酸、クエン酸等の有機酸あるいはp

H調整剤としての食品添加物の塩酸である。この酸原液12が水や海水等で

希釈されて、酸処理液2となる。

【0029】

酸原液タンク13は、酸原液12を貯蔵する所定容量の容器である。(省

略)

【0030】

ここで、pH制御器10、酸原液ポンプ11及び酸原液タンク13は、本

発明における原液供給装置を構成している。すなわち、pH制御器10、酸

原液ポンプ11及び酸原液タンク13は、pHセンサ9の検出値に基づいて、

原液吐出部に供給する酸原液12の供給量を自動調節する。

【0032】

次に、このように構成された箱型船Aの動作について、図1及び図2を用

いて詳しく説明する。(省略)

【0033】

(省略)そして、例えば図1の矢印で示したように、船本体1が前進する

場合は、船本体1が前進するにつれて、海苔網Nが酸処理槽3に前方から侵

入する。酸処理槽3内に侵入した海苔網Nは、巻取ロール4aが回転するこ

とによって、順次巻取ロール4aに巻き取られる。

【0034】

巻き取られた海苔網Nは、酸処理槽3内に貯留されている酸処理液2に浸

漬される。したがって、海苔網N上の海苔が酸処理液2に接触することによ

って、海苔が酸処理される。

【0035】

酸処理槽3内には、pHセンサ9が設けられており、pHセンサ9は酸処

理槽3内に貯留されている酸処理液2のpH値を検出する。pHセンサ9が

検出した検出値は、pH制御器10に出力される。pH制御器10は、pH

センサから入力された検出値と予め記憶している制御しきい値とに基づいて、

酸原液ポンプ11をフィードバック制御する。酸原液ポンプ11は、pH制

御器10から入力される操作信号に基づいて、操作信号に応じた流量の酸原

液12を酸原液タンク13から汲み出して一対のチューブ8A、8Bに供給

する。

【0036】

pH制御器10からの操作信号を受信した酸原液ポンプ11によって酸原

液タンク13から汲み出された酸原液12は、一対のチューブ8A、8Bに

供給される。酸原液12は、一対チューブ8A、8Bに設けられた複数の吐

出孔8a、8bから酸処理液2中に斜め上方に吐出される。上記のように、

原液吐出部であるチューブ8A、8Bが酸処理槽3の下部に設けられた場合

であっても、吐出孔8a、8bから斜め上方に酸原液12が吐出されること

により、酸処理液2よりも比重の重い酸原液12が酸処理液2内に、拡散さ

れやすくなる。また、酸処理液2中に吐出された酸原液12は、船本体1の

揺動及び海苔網Nを巻き取る際に巻取ロール4a又は巻取ロール4bが回転

することによって酸処理液2中に生成される水流によって、樹脂シート6が

前進方向及び後進方向に揺動することによって、酸処理液2が攪拌され、酸

処理液2内に拡散する。したがって、本箱型船Aによれば、酸処理液2中の

pH値を均一にすることができる。

【0037】

さらに、本箱型船Aによれば、酸原液12が、酸処理液2が貯留された酸

処理槽3内に設けられた吐出孔8a、8bから酸処理液2中に吐出される為、

酸原液12が直接海苔網に付着することを抑制あるいは防止することできる。

【0039】

〔変形例〕

次に、第1次実

施 形 態 に 係る 箱 型

船 A の 変 形例 に つ

い て 説 明 する 。 こ

の 箱 型 船 Aは 、 図

に 示 す よう に 、

第 1 実 施 形態 の p

H セ ン サ 9に 代 え

て 、 p H セン サ 9

a及び9bを備

え、また、これらのpHセンサ9a、9bはpH制御器10Aと接続されて

いる。(省略)

【0040】

pHセンサ9a、9bは酸処理液2のpH値を検出するセンサである。こ

のpHセンサ9a、9bは、図3に示すように、酸処理槽3内において、上

記原液吐出部の上方、好ましくは、酸処理槽3の液面と上記原液吐出部との

略中間地点に、pHセンサ9a、9bのセンサ部が位置するように、樹脂シ

ート6を挟んで一対設けられている。すなわち、このpHセンサ9a、9b

は、酸処理槽3内の酸処理液2の平均的なpH値を測定するよう、原液吐出

部及び液面から離間して設けられている。pHセンサ9a、9bは、pH制

御器10Aに接続されており、検出値をpH制御器10Aに出力する。

【0042】

pH制御器10Aからの操作信号を受信した酸原液ポンプ11によって酸

原液タンク13から汲み出された酸原液12は、一対のチューブ8A、8B

に供給される。酸原液12は、一対チューブ8A、8Bに設けられた複数の

吐出孔8a、8bから酸処理液2中に斜め上方に吐出される。上記のように

して、pHセンサ9a、9bが酸処理槽3の前進方向側及び後進方向側の両

方に設けられていることにより、より正確に酸処理液2のpH値を測定する

ことが可能になる。したがって、本箱型船Aによれば、酸処理液2中のpH

値をより最適化した上で、pHの値を均一にすることができる。

【0043】

〔第2実施形態〕

次に、第2次実施形態に係る箱型船Bについ

て説明する。この箱型船Bは、図5に示すよう

に、第1実施形態に係る箱型船Aと同様な全体

構成を備える。しかしながら、第1実施形態の

チューブ8A、8Bに代えて、図6に示すチュ

ーブ8C(管状部材)を備え、また、吊り棒5、

樹脂シート6及び錘7を備えていない。第2実

施形態において、本発明における原液吐出部

【図6】

は、チューブ8Cである。(省略)

【0045】

ここで、チューブ8Cは、本発明における原液吐出部を構成している。す

なわち、チューブ8Cに設けられた吐出孔8c1、8c2は、酸処理槽3内

に貯留されている酸処理液2中に酸原液12を吐出する。

【0049】

(省略)酸原液12は、チューブ8Cに設けられた複数の吐出孔8c1、

c2から、酸処理液2中に斜め上方に、酸処理槽3内の側壁部3a側又は

側壁部3b側に向けて斜め上方に吐出される。上記のように、酸原液12が

吐出孔8c1、8c2から斜め上方に酸処理液2中に吐出されることにより、

酸処理液2よりも比重の重い酸原液12が酸処理液2中に、拡散されやすく

なる。また、酸処理槽3内に吐出された酸原液12は、船本体1の揺動及び

海苔網Nを巻き取る際に巻取ロール4a又は巻取ロール4bが回転すること

によって酸処理液2中に生成される水流によって、酸処理液2が攪拌され、

酸処理液2内に拡散する。したがって、本箱型船Bによれば、酸処理液2中

のpH値を均一にすることができる。

【0050】

さらに、本箱型船Bによれば、酸原液12が、酸処理液2が貯留された酸

処理槽3内に設けられた吐出孔8c1、8c2から酸処理液2中に吐出され

る為、酸原液12が直接海苔網に付着することを抑制あるいは防止すること

できる。

【0054】

(4)上記第2実施形態において、吐出孔8c1及び8c2は、酸処理槽

の底壁部3eに対して斜め上方に吐出するとしたが、本発明は、これに限

定されない。酸原液12を酸処理槽3の底壁部3eに向かって斜め下方に吐

出するように、チューブ8Cの下方に、吐出孔8c1及び8c2が、それぞ

れ酸処理槽3の側壁部3a又は側壁部3b側に、チューブ8Cの最下端部を

中心に、それぞれ同程度の角度傾斜して形成されていても良い。上記構成を

採用する場合は、酸原液12を、吐出孔8c1及び8c2から吐出させ、さ

らに酸処理槽3の底壁部3eで反射させて酸処理液2中に拡散させる必要が

ある。従って、第2実施形態の場合よりも酸原液ポンプ11Aから吐出され

る酸原液12の流量を増加させ、酸原液12が吐出孔8c1及び8c2から

吐出される際の圧力を増加させる必要がある。または、吐出孔8c1及び8

c2の孔径を第2実施形態における吐出孔8c1及び8c2の孔径よりも小

さくし、吐出孔8c1及び8c2から吐出される際の酸原液12の圧力を増

加させる必要がある。上記構成を採用することで、酸処理液2よりも比重の

重い酸原液12を酸処理液2中に拡散させ易くすることができる。

争点1-1(「原液吐出部」〔構成要件B、C及びG〕の充足性)について

⑴ 「原液吐出部」の意義

本件特許の特許請求の範囲の記載によれば、「原液吐出部」とは、「前記

酸原液を前記酸処理槽の前記酸処理液内に吐出する」(構成要件B)もので

あると規定されているところ、このほかに「吐出」の意義を特定する文言は

ない。そして、証拠(甲9、乙7)及び弁論の全趣旨によれば、「吐出」、

「吐く」の一般的な意味としては、「口の中のものを外に出す。…内にある

ものを外に出す。」(広辞苑第7版)、「口の中のものを外へ出す。口中に

含んだものを勢いよく出す。」(日本国語大辞典)というものであることが

認められ、「勢いよく出す」ことを意味する場合もあるが、それに限定され

るものではなく、「吐出」という文言自体から勢いよく出すことをいうもの

とは直ちに解釈することはできない。

次に、本件明細書等の記載を参酌すると、本件発明の課題は、「酸原液が

海苔網に付着することを抑制あるいは防止すること」(【0007】)を目

的とするものであり、その課題を解決するための手段として「上記目的を達

成するために、本発明では、第1の解決手段として、…前記酸原液を前記酸

処理槽の前記酸処理液内に吐出する原液吐出部…を備える、という手段を採

用する。」(【0008】)との記載があり、発明を実施するための形態と

して、「…本箱型船Aによれば、酸原液12が、酸処理液2が貯留された酸

処理槽3内に設けられた吐出孔8a、8bから酸処理液2中に吐出される為、

酸原液12が直接海苔網に付着することを抑制あるいは防止すること(が)

できる。」(【0037】)旨の記載があることが認められる。これらの記

載によれば、本件発明の構成要件Bの技術的意義は、酸処理槽の酸処理液内

に酸原液が吐出されるように原液吐出部を設けることで、酸原液が海苔網に

直接付着することを抑制又は防止するという作用効果を得られることにある

ものと認められ、その余の本件明細書等の記載を参酌しても、上記課題の解

決に当たり、原液吐出部から酸原液が勢いよく出ることを必須の構成とする

旨の記載は認められず、その示唆もない。

以上によれば、構成要件B、C及びGの「吐出」とは、(原液吐出部の内

から)酸原液が外へ出るものであれば足りると解するのが相当であり、「原

液吐出部」とは、その文言によれば、酸原液を酸処理槽の酸処理液内に出す

部分を備えるものをいい、当該部分を備えていればそれで足りると認めるの

が相当である。

これに対し、被告は、①本件明細書等(【0036】、【0049】、【0

】)の記載によれば、「吐出」とは、酸原液を勢いよく出すという趣

旨で解釈するのが通常であり、②「原液吐出部」とは、本件明細書等(【0

】、【0045】)の記載によれば、「吐出孔」が設けられたチュー

ブのことをいう旨主張する。

しかしながら、上記①については、本件特許の特許請求の範囲の記載には、

(原液吐出部の内から)酸原液が外へ出るということ以上に、「吐出」の意

義を特定する文言はなく、本件明細書等の記載を参酌しても、原液吐出部か

ら酸原液が勢いよく出ることを必須の構成とする旨の記載も示唆も認められ

ないことは、上記において説示したとおりである。この点につき、被告が指

摘する本件明細書等の記載(【0036】、【0049】、【0054】)

をみても、これらの記載は、本件発明の実施形態の一態様あるいは変形例を

記載したものにすぎず、その具体的な記載内容をみても、本件明細書(【0

】、【0049】)には、斜め上方に酸原液が吐出されることにより、

酸原液が酸処理液内に拡散されやすくなる旨の記載しかなく、酸原液が出る

勢いに言及した記載はないし、上記記載から、本件発明が、その作用効果と

の関係で、原液吐出部から酸原液が勢いよく出ることを必須の構成としてい

ると解することもできない。また、本件明細書(【0054】)には、酸原

液を斜め下方に吐出する構成とした場合に、吐出される際の圧力を増加させ

る必要があるとする記載があるが、本件発明は必ずしも酸原液を斜め下方に

吐出するような構成を前提とするものではなく、本件明細書の上記記載から、

吐出される際の圧力を増加させることが本件発明における必須の構成である

と限定解釈することもできない。

また、上記②についても、被告が指摘する本件明細書等の記載部分(【0

】、【0045】)は、実施形態の一態様を示すものにすぎず、「原

液吐出部」とは、その文言によれば、必ずしも吐出孔が設けられた「チュー

ブ」に限られるものとはいえない。

以上によれば、被告の主張は、いずれも採用することができない。

⑵ 被告製品の充足性

前記前提事実によれば、被告製品においては、垂直チューブに設けられた

「流出孔」(別紙被告製品説明書2⑹)から、酸原液が酸処理槽の酸処理液

内に出る構造になっていることからすると、上記垂直チューブの流出孔を含

む部分は、酸原液を酸処理槽の酸処理液内に出す部分を備えているといえる

から、「原液吐出部」に相当する構成に当たると認めるのが相当である。

これに対し、被告は、被告製品においては、「流出孔」が長径30mm短

径6mmの楕円状の大きな開口部から成っており、このような形状により、

酸原液が酸処理液で希釈されつつ酸処理槽内に流出するから、本件発明の「吐

出」には当たらない旨主張する。しかしながら、「吐出」とは、(原液吐出

部の内から)酸原液が外へ出るものであれば足りることは、前記⑴において

説示したとおりである。また、被告製品において酸処理液内に吐出される酸

原液が、垂直チューブの中である程度希釈されるとしても、当該希釈された

酸原液は、酸処理液よりも高い酸性度を有するものである以上、被告製品の

「流出孔」の構成は、なお酸原液が海苔網に付着することを抑制あるいは防

止するという課題を解決するものといえる。そうすると、上記構成は、本件

発明の作用効果を奏しないものではなく、被告製品の垂直チューブの流出孔

を含む部分が「原液吐出部」に相当する構成に当たるという前記認定を妨げ

る事情とはなり得ない。

さらに、被告は、被告製品においては、上記流出孔に加え、チューブの各

所に空気穴や液抜孔が付加されており、このような構造は、本件発明とは異

なる技術思想、すなわち、「酸原液ないし希釈液を、流出孔から酸処理液中

に、ゆっくりと流出し、その後、混合されて酸処理液中に自然拡散すること

により、酸処理実行中の箱型船の揺れにより酸原液ないし希釈液と酸処理液

の攪拌と相まって、濃い酸原液が直接海苔網にかからず、適切なpH値の酸

処理液を得る」又は「流出孔から液体を吐出させて液体が海苔網に直接当て

ないように調製するという手段を使わずに液体を供給する」という技術思想

を実現するための構成であり、これは、本件発明の構成要件該当性を否定す

る構成である旨主張する。しかしながら、被告が指摘する技術思想自体、酸

原液を酸処理槽の酸処理液内に出すことによって、酸原液が海苔網に付着す

ることを抑制あるいは防止するという課題を解決するという本件発明の技術

思想とも整合し、これに矛盾するものではなく、本件発明の構成要件B、C

及びGの文言を踏まえると、被告が指摘するような構成が付加されることは、

その構成要件該当性に係る前記判断を直ちに左右するものとはいえない。

したがって、被告の主張は、いずれも採用することができない。

⑶ まとめ

以上によれば、被告製品の垂直チューブの流出孔を含む部分は、本件発明

の「原液吐出部」の構成を備えるものといえるから、被告製品は、本件発明

の構成要件B、C及びGを充足する。

争点1-2(「シート部材の下部」〔構成要件G〕の充足性)について

被告は、「シート部材の下部」という文言は不明確である旨主張する。しか

しながら、本件発明の特許請求の範囲の記載によれば、構成要件Gは、原液吐

出部の位置をシート部材に対する関係でその下部にあることを特定 するもの

であることは明らかであり、本件明細書等の記載に接した当業者も、その文言

自体から当然にこれを理解することができるものといえる。

これを被告製品についてみると、前記2のとおり、垂直チューブの流出孔を

含む部分が「原液吐出部」に該当するところ、前記前提事実に加え、証拠(乙

)及び弁論の全趣旨によれば、垂直チューブは、シート部材を下から挟む

ようにして吊り棒に固定された水平チューブに取り付けられていること、垂直

チューブの流出孔はシート部材の下端近傍の高さに位置していること(以上に

つき、別紙被告製品説明書記載2⑹写真5参照)、以上の事実が認められる。

上記認定事実によれば、垂直チューブの流出孔は、シート部材の下部にある

ことは明らかであるから、被告製品は、構成要件Gを充足するものと認めるの

が相当である。

したがって、被告の主張は、採用することができない。

争点2-1(乙4発明を主引例とする進歩性欠如の有無)について

⑴ 証拠(乙4)によれば、乙4公報には、次のとおりの記載があることが認

められる。なお、【0005】の「入れなから」は、「入れながら」の誤記

であり、【0013】の「引き上げなから」は、「引き上げながら」の誤記

である。

ア 産業上の利用分野

【0001】

本発明は、一定のpH値の酸処理液に海苔網を浸漬することにより、病

菌及び雑藻を除去し、海苔の成長を早め、しかも、各海苔網の成長を一定

状態として、良質の海苔の収穫を行うことができる海苔網処理方法及び処

理装置に関する。

イ 従来の技術

【0002】

従来、海苔の養殖には、海苔胞子が付着した海苔網を酸の酸処理液に浸

けて、酸によって病菌や雑藻による被害を防止して、海苔の成長を早める

方法を採用している。かかる酸処理液は、海水に酸原液を加えたものであ

り、この酸原液は、例えば、有機酸やアミノ酸を主原料とし、その中に燐

酸塩等の栄養剤、糖質類等を混合したものである。

【0003】

さらに、その作業としては、海苔網を船に引き上げて、同船内の処理槽

内に海苔網を入れ、そして、酸処理液に海苔網を浸漬して、海苔網の処理

を行うようにしている。

ウ 発明が解決しようとする課題

【0004】

しかし、上記の海苔網作業では、以下のような課題を有していた。

【0005】

即ち、処理槽内に一定の量の海水を入れるとともに、同海水中に対して

適度の酸原液を入れなから、同処理槽内に手作業で海苔網を引き上げてい

た。しかし、海苔網は、海水をたっぷり含んでいる為に、海苔網を引き上

げる際に、処理槽内に海水が入って、酸処理液が薄められ、浸漬処理が不

充分となり、遂次、酸処理を補給して、酸処理液の濃度を一定に保持する

必要がある。

【0006】

ところが、船上での海苔網作業は、非常に忙しく、従って、酸処理液の

補給は、目分量でかつ僅かな作業の合間に手早く行われる為に、酸処理液

の濃度のバラツキが大きく、酸処理作業の目的達成を困難としていた。

【0007】

本発明は、上記の課題を解決することができる海苔網処理方法及び処理

装置を提供することを目的とする。

エ 課題を解決するための手段

【0008】

本発明では、海中に配設した海苔網を引き上げながら処理槽の酸処理液

に浸漬し、しかも、同処理槽内の酸処理液を一定のpH値、例えばpH2.

前後に保持し、海苔網の処理を行うことを特徴とする海苔網処理方法を

提供するものである。

オ 発明の効果

【0011】

その作業中において、処理槽内の酸処理液のpH値を検出して、その検

出値にもとづいて酸原液補給装置を作動させて、タンク10内の酸原液を

処理槽内に補給して、酸処理液を一定のpH値、例えばpH2.0前後に

保持するものである。

カ 実施例

【0013】

本発明の実施例を図面にもとづき詳説すれば、第1図の説明図において、

は本発明に係る海苔網処理装置を示し、同処理装置1は、船内に装着し、

現場において、海苔網を引き上げなから海苔網の処理を行うものであり、

以下、その構成を詳説する。即ち、海苔網処理装置1は、一定容量の処理

槽2内に、海苔網引上装置3を取付けており、同引上装置3は、処理槽2

内に2つの回転体4、5を軸支し、しかも、各回転体4、5を正逆回転自

在として、一方の回転体4を海苔網引上げ用とし、他方の回転体5を海苔

網戻し用としている。

【図1】

【0016】

本実施例では、補給装置8を、酸原液を収納したタンク10と、処理槽

内に伸延したパイプ11と、酸原液を補給するポンプ12とよりなり、

処理槽2の他側部にタンク10を配設するとともに、同タンク10に、ポ

ンプ12を介してパイプ11の基端部を接続し、同パイプ11の先端部を

処理槽2内の側面から底面に沿って配設している。なお、13はパイプ1

に設けた酸原液を噴出する為の孔を示す。

【0023】

その作業中において、処理槽2内のpH検出用センサ14で、薄くなる

酸処理液aのpH値を検出して、その検出値にもとづいて補給装置8でタ

ンク10内の酸原液を処理槽2内に補給して、酸処理液aのpH値を一定

のpH値、例えば、2.0前後に保持するものである。

⑵ 乙4発明の内容

前記⑴の乙4公報の記載によれば、乙4公報には、実施例として、前記前

提事実⑺イの構成を有する乙4発明が開示されているものと認められる。

⑶ 対比

ア 本件発明と乙4発明を対比すると、本件発明と乙4発明には、以下の相

違点が存在し、その余は一致するものと認められる。

(相違点)

本件発明は、酸処理槽の中央かつ上方に設けられる吊り棒と、前記吊り

棒から前記酸処理液内に垂下するシート部材を備え、原液吐出部は、シー

ト部材の下部に設けられているのに対し、乙4発明は、吊り棒に相当する

もの及びシート部材に相当するものの両方を備えず、酸原液を噴出する孔

を設けているパイプが処理槽内の底面に沿って配設されている点。

イ これに対し、被告は、本件発明と乙4発明の相違点について、前記アの

相違点を①吊り棒とシート部材の構成に関する点と、②原液吐出部の設置

位置の構成に関する点との2つに分けて主張するものの、本件発明におい

て、上記②の構成は、シート部材の存在を前提としてシート部材との関係

で原液吐出部の設置位置を特定するものであり、上記①の構成から独立し

た個別の相違点として認定するのは相当でないというべきであるから、被

告の主張は、採用の限りではない。

⑷ 相違点の容易想到性

ア 証拠(乙8、17ないし26)及び弁論の全趣旨によれば、海苔網の巻

取用のロールと巻戻用のロールの合計2本のロールの組合せを2組有する

大型の箱型船(ダブル箱型船)は、本件発明の出願当時、箱型船として公

知又は周知のものであったこと、このようなダブル箱型船において、酸処

理槽の中央かつ上方に設けられる吊り棒と、前記吊り棒から前記酸処理液

内に垂下するシート部材が備えられていることは、公知又は周知の技術で

あったこと、以上の事実が認められる。

しかしながら、前記相違点のうち原液吐出部がシート部材の下部に設け

られているという構成が開示されたものを証拠上認めることはできず、当

該構成は公知技術又は周知技術であるとはいえない。

この点につき、被告は、①乙4発明にシート部材区切ダブル箱型船の構

成に関する公知技術又は周知技術を組み合わせる動機付けがあり、②酸原

液を噴出する孔をどこに設置するかは設計的事項である旨主張する。

しかしながら、①について検討すると、乙4発明は、巻取用のロールと

巻戻用のロールの合計2本のロールを1組だけ備えたシングル箱型船であ

ることを前提とする構成であり(前記⑴【0013】、【図1】)、本件

発明の出願当時に、当業者においてシングル箱型船をダブル箱型船に変更

すべきことになるような課題があったものと認めるに足りる証拠はない。

のみならず、本件発明の出願当時、ダブル箱型船が公知又は周知のもので

あったとしても、乙4公報の実施例から認定できる具体的な構成を備えた

シングル箱型船につき、これをダブル箱型船の構成に変更する動機付けが

あるとはいえず、更にこれに吊り棒とシート部材を酸処理槽の中央に設け

る構成を付加する動機付けがあるとも認めるに足りない。②についても、

乙4発明がそもそもシート部材を備えていない以上、シート部材との関係

で原液吐出部の設置位置を特定するという相違点に係る構成が、乙4発明

における設計的事項であるということはできない。

したがって、乙4発明に対し、被告主張に係る公知技術又は周知技術を

適用するための動機付けを認めることはできず、仮に動機付けを認めたと

しても、相違点に係る構成に至ることはできない。

以上によれば、本件発明は、乙4発明から容易に想到することができる

ものとはいえない。

イ その余の被告の主張について

被告は、本件発明について、乙4発明に対しシート部材区切ダブル箱型

船という公知技術又は周知技術を組み合わせたものであり、単なる公知技

術の寄せ集めにすぎず、また、乙4発明に対し公知材料から最好適材料を

選択する設計事項にすぎない旨主張する。

しかしながら、被告の主張は、乙4発明のどの構成を前提として、どの

ような公知技術を寄せ集めるのかにつき、具体的に主張するものとはいえ

ず、その論理付けを欠くものというほかない。のみならず、本件発明に想

到するには、シングル箱型船をダブル箱型船の構成に転換することが必要

となる以上、この点をもっても単なる寄せ集めということはできず、更に

ダブル箱型船の構成に転換した後に、これに吊り棒とシート部材を酸処理

槽の中央に設ける構成を付加することは、乙4発明における設計上の変更

の範囲を明らかに超えることは、前記において説示したとおりである。そ

もそも、乙4発明は、原液を吐出又は噴出する場合に海苔網に原液がかか

らないようにすることを課題とするものではなく(前記⑴【0005】な

いし【0007】)、これが周知な課題であるとも認めるに足りないので

あるから、本件発明に想到する動機付けを欠くことは明らかである。

したがって、被告の主張は、いずれも採用することができない。

⑸ 小括

以上によれば、本件発明は、進歩性を欠くものと認めるに足りず、被告の

主張は、いずれも採用することができない。

争点2-2(明確性要件、サポート要件、実施可能要件の有無)について

⑴ 「吐出」との記載(構成要件B)について

ア 被告は、「吐出」が単に「出す」ことを意味すると解する場合には、本

件明細書等には勢いよく出す場合についての実施形態の記載しかないから、

このような記載のみでは当業者が出願時の技術常識を考慮しても実施でき

る程度に明確かつ十分に説明されているとはいえず、実施可能要件に違反

する旨主張する。

しかしながら、前記2⑴のとおり、第1実施形態に係る本件明細書【0

】及び第2実施形態に係る本件明細書【0049】の各記載の内容

は、酸原液が出る勢いを問題とするものではなく、酸原液を単に「出す」

場合をも含むものといえる。そうすると、被告の上記主張は、本件明細書

等の記載を正解するものとはいえない。したがって、被告の主張は、その

前提を欠くものであり、採用することができない。

イ 被告は、「吐出」の解釈について原告の主張を前提とすると、本件発明

は明確に記載されているとはいえず明確性要件に違反し、また、本件明細

書等には「吐出」に関して勢いよく出す場合以外についての記載がないか

ら明細書に記載した範囲を超えるものでありサポート要件にも違反する旨

主張する。

しかしながら、前記2⑴のとおり、「吐出」とは、単に酸原液が原液吐

出部の内から外へ出ることをいうものであるから、その意味するところが

それ自体不明確であるということはできない。また、被告のサポート要件

違反に関する上記主張は、本件明細書等の記載内容を正解しないものであ

ることは、前記アにおいて説示したところと同様であり、発明の詳細な説

明の記載により当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲を

超えるものではない。したがって、被告の主張は、いずれも採用すること

ができない。

⑵ 「垂下するシート部材」との記載(構成要件E、G)について

ア 被告は、「垂下する」との文言につき、「垂直に下がる」意味か、「ぶ

ら下がる」意味かが明確ではないから、明確性要件に違反する旨主張する。

しかしながら、「垂下」とは、通常垂れ下がることを意味し、本件発明

の特許請求の範囲及び本件明細書等の記載を踏まえても、第三者の利益が

不当に害されるほどに不明確であるとは認められない。

イ 被告は、シート部材は船体等に固定されていることが技術常識であると

ころ、本件明細書等にはシート部材の下端が固定されている形態について

の記載がなく、このような形態のものについては本件発明の課題である「酸

原液が海苔網に付着することを抑制あるいは防止する」ことができないか

ら実施可能要件に反する旨主張する。

しかしながら、前記1の本件明細書【0021】の記載によれば、シー

ト部材の下端が錘に固定される構成が開示されており、本件発明は、シー

ト部材の下端が船体等に固定されている形態を必須の構成とするものでは

なく、シート部材の下端が船体等に固定されなくても、本件発明の実施が

不可能となるとまで認めることはできない。

ウ 被告は、本件明細書等には、シート部材が船体等に固定されている形態

については記載がないから、本件発明はサポート要件違反であるとも主張

する。

しかしながら、本件発明は、シート部材の下端が船体等に固定されてい

る形態を必須の構成とするものではないことは、前記イにおいて説示した

とおりであり、本件明細書等にシート部材の下端が固定されている形態に

ついての記載がないとしても、発明の詳細な説明の記載により当業者が本

件発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えるものではなく、サポ

ート要件に違反するということはできない。

エ 以上によれば、被告の主張は、いずれも採用することができない。

⑶ 「シート部材の下部」との記載(構成要件G)について

被告は、「シート部材の下部」という意味は様々に解釈し得るが、本件明

細書等には本件発明の実施例は全く記載されておらず、詳細な説明もないか

ら、明確性要件に違反し、また、本件明細書等には、当業者が実施できる程

度に明確かつ十分な記載がないから、本件特許は実施可能要件に違反し、サ

ポート要件にも違反する旨主張する。

しかしながら、構成要件Gは、原液吐出部の位置をシート部材に対する関

係でその下部にあることを特定するものであることは明らかであり、本件明

細書等の記載に接した当業者も、その文言自体から当然にこれを理解するこ

とができることは、前記3において説示したとおりである。したがって、被

告の上記の記載要件に関する主張は、その前提を欠くものであり、いずれも

採用することができない。

⑷ 小括

その他に被告主張に係る記載要件違反の主張は、前記において説示したと

ころを踏まえると、本件発明に係る構成要件の各文言の意義を正解しないも

のに帰し、いずれも採用することができない。

争点3(被告の行為が本件発明の「実施」に当たるか)について

⑴ 争点の所在(本件メンテナンス行為の「実施」該当性)

前記前提事実によれば、被告は、顧客が第三者から購入した箱型船に対し、

本件部品を取り付け、その動作確認後、上記箱型船を顧客に引き渡す行為(新

規取付行為)をしているところ、本件特許の登録日以後の新規取付行為は、

本件発明の構成要件に係る構成を新たに設置する行為であるから、特許法2

条3項1号に規定する「生産」に該当することは明らかである。もっとも、

前記前提事実によれば、被告は、本件特許の登録日以後、当該登録日よりも

前に新規取付行為をした箱型船に対し、本件メンテナンス行為(第2の1⑹

参照)をしているところ、原告は、本件メンテナンス行為についても被告製

品の「生産」に当たる旨主張する。

⑵ 特許権者が、特許登録前に製造された当該特許の構成要件を充足する製品

に対し、特許登録後に上記製品につき加工や部材の交換をしたことにより、

上記製品と同一性を欠く製品の新たな製造をしたと認められる場合には、当

該製造は、特許法2条3項1号に規定する「生産」に該当するものと解する

のが相当である。そして、上記にいう製品の新たな製造に当たるかどうかに

ついては、当該製品の属性、特許発明の内容、加工及び部材の交換の態様の

ほか、取引の実情等も総合考慮して判断するのが相当であり、当該製品の属

性としては、製品の機能、構造及び材質、用途、耐用期間、使用態様が、加

工及び部材の交換の態様としては、加工等がされた際の当該製品の状態、加

工の内容及び程度、交換された部材の耐用期間、当該部材の特許製品中にお

ける技術的機能及び経済的価値が考慮の対象となるというべきである(最高

裁平成18年(受)第826号同19年11月8日第一小法廷判決参照) 。

これを本件についてみると、前記前提事実に加え、証拠(乙6、33)及

び弁論の全趣旨によれば、被告製品の箱型船自体については、特段の耐用期

間が定められているものではなく、本件メンテナンス行為の対象となる部品

のうちpHセンサに限り、耐用期間が1年とされているため、毎年の本件メ

ンテナンス行為により新品に交換されていることが認められる。

上記認定事実によれば、本件メンテナンス行為は、箱型船全体のうち、耐

用期間が1年とされているpHセンサに限り交換するものであるから、単に

通常の用法に従って、箱型船の消耗品といえるpHセンサを交換するにとど

まるものといえる。しかも、pHセンサの技術的機能をみると、pHセンサ

の検出値に基づいて酸原液の供給量を自動調節する原液供給装置を備える箱

型船は、乙4公報に開示されているところであり、pHセンサが本件発明の

本質的部分に係る構成であるとはいえない。のみならず、pHセンサの経済

的価値についても、証拠(乙27)及び弁論の全趣旨によれば、本件発明の

技術的範囲に属する箱型船全体の価値に比べて、極めて僅かなものといえる。

これらの事情の下においては、本件メンテナンス行為は、本件発明の本質

的部分に係る構成を欠くに至った状態のものについて、これを再び充足させ

るものとはいえない。

したがって、本件メンテナンス行為は、被告製品の箱型船と同一性を欠く

箱型船の新たな製造をしたものとはいえず、特許法2条3項1号に規定する

「生産」に該当するものと解することはできない。

これに対し、原告は、本件メンテナンス行為につき、本件発明の技術的範

囲に属さない製品 (pHセンサがなく構成要件Fを欠くもの)を、本件発明

の技術的範囲に属する製品に変更するものであるから、同号に規定する「生

産」に該当すると主張する。

しかしながら、「生産」に当たるか否かは、本件発明の本質的部分に係る

構成を欠くに至った状態のものを再び充足させるものといえるかどうかとい

う観点から上記にいう諸事情を検討すべきことは、上記において説示したと

おりである。そうすると、pHセンサがない状態からこれを新たに取り付け

た行為のみを切り出して判断するのは相当ではなく、この理は、原告主張に

係るチューブについても、同様である。上記観点から検討すれば、原告主張

に係るpHセンサの交換や、劣化や破損によるチューブの交換は、修理やメ

ンテナンスそのものというべき行為であり、同一性を欠く箱型船を新たに製

造するものとはいえず、本件メンテナンス行為は、本件発明の「生産」に該

当するものと解することはできない。そもそも、原告主張に係る箱型船は本

件特許登録前に既に製造されたとみるべきものであるから、原告が当該箱型

船に関する利益を得られなかったとしても、本件特許登録前のものである以

上、原告主張に係る不合理があるものとはいえない。

なお、原告は沈没した被告製品についても別途主張するが、そのような被

告製品の存在を認めるに足りる証拠はなく、上記の主張はその根拠を欠くも

のとして採用の限りではない。

したがって、原告の主張は、いずれも採用することができない。

争点4(損害の額)について

⑴ 特許法102条1項に基づく損害額

ア 侵害の行為がなければ販売することができた物

特許法102条1項は、民法709条に基づき販売数量減少による逸失

利益の損害賠償を求める際の損害額の算定方法について定めた規定であり、

侵害者の譲渡した物の数量のうち当該特許権者又は専用実施権者(以下「特

許権者等」という。)の実施の能力に応じた数量を超えない部分(その全

部又は一部に相当する数量を当該特許権者等が販売することができないと

する事情があるときは、当該事情に相当する数量を控除した数量)に特許

権者等がその侵害行為がなければ販売することができた物の単位数量当た

りの利益額を乗じた額を損害額として規定し、侵害行為と相当因果関係の

ある販売減少数量の立証責任の転換を図ることにより、より柔軟な販売減

少数量の認定を可能とすることを目的とする規定である。

上記にいう特許法102条1項の文言及び趣旨に照らせば、特許権者等

が「侵害の行為がなければ販売することができた物」とは、侵害行為によ

ってその販売数量に影響を受ける特許権者等の製品として、侵害品と市場

において競合関係に立つ特許権者等の製品であれば足りると解するのが相

当である(知的財産高等裁判所平成31年(ネ)第10003号令和2年

月28日特別部判決〔以下「大合議判決」という。〕参照)。

これを本件についてみると、証拠(甲11、乙41、42)及び弁論の

全趣旨によれば、原告製品は、箱型船に、本件原告部品を取り付けたもの

であるところ、原液吐出部が、箱型船の進行方向の前方及び後方において、

液面よりも上側に取り付けられており、本件発明の実施品に当たるもので

はない。しかしながら、弁論の全趣旨によれば、原告製品は、海苔養殖に

使用されるpH自動調整装置が付いた海苔養殖用の箱型船であり、その需

要者は、海苔の養殖業者であることが認められる。

そうすると、原告製品と被告製品とは、需要者を共通にする同種の製品

であるといえるから、原告製品は、被告製品と市場において競合関係に立

つものであると認めるのが相当である。

したがって、原告製品は、特許法102条1項にいう「侵害の行為がな

ければ販売することができた物」に当たると認めるのが相当である。

これに対し、被告は、市場の状況や原告製品に顧客誘引力がないことな

どを指摘して、原告製品は「侵害の行為がなければ販売することができた

物」に当たらないなどと主張するが、これらの事情は、「販売することが

できないとする事情」において考慮するのは格別、上記において説示した

ところを踏まえると、特許法102条1項にいう「侵害の行為がなければ

販売することができた物」の該当性を左右するものとはいえない。

したがって、被告の主張は、採用することができない。

イ 単位数量当たりの利益の額

メンテナンス行為に係る利益

特許法102条1項にいう「単位数量当たりの利益の額」とは、特許

権者等の製品の売上高から特許権者等において上記製品を製造販売する

ことによりその製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費を控

除した額であると解するのが相当である(大合議判決参照)。

これをメンテナンス行為に係る利益についてみると、前記前提事実に

加え、弁論の全趣旨によれば、新規取付行為とその後のメンテナンス行

為は、飽くまで別の行為であり、新規取付行為を行った業者にメンテナ

ンスを依頼することが多いとしても、これは事実上のものにすぎず、そ

の作業の性質上、必ずしも新規取付行為を行った業者でなければメンテ

ナンスができないというものではなく、原告が新規取付行為による利益

をメンテナンスに係る利益に繰り延べているといえる事情もうかがうこ

とはできない。

これらの事情の下においては、メンテナンス行為に係る利益は、上記

にいう売上高というのは相当ではなく、特許法102条1項にいう「単

位数量当たりの利益の額」には含まれないというべきである。

これに対し、原告は、一度部品を取り付けた箱型船を納入すれば、そ

の後のメンテナンスの依頼を事実上期待できる状況にあるから、メンテ

ナンス料は、実質的には、新規取付行為による利益を将来に繰り延べた

ものと評価でき、売上高と同視し得るため、原告製品のメンテナンスに

係る利益も、上記にいう「単位数量当たりの利益の額」に含まれる旨主

張する。

しかしながら、原告の主張を踏まえても、メンテナンス行為に係る利

益は事実上期待できるものにすぎず、上記において説示したところを踏

まえると、これを売上高と同視するのは相当ではない。

したがって、原告の主張は、採用することができない。

単位数量当たりの利益の額の算定

a 売上高

証拠(甲13)及び弁論の全趣旨によれば、本件特許の登録日以後

に行われた原告製品に係る新規取付行為の売上額は、別紙「原告製品

売上状況表」記載の「認定売上額(消費税及び地方消費税込み)」の

とおりであり、その1台当たりの平均売上額は、130万0023円

であると認められる。

これに対し、原告は、売上高が同記載「原告主張売上高(消費税及

び地方消費税込み)」記載の額であると主張する。しかしながら、同

記載2については追加バッテリ費用1万6280円(消費税込み)が、

同記載6については栄養塩強化剤代1万7160円(消費税込み)が、

同記載15については追加バッテリ費用1万8392円(消費税込み)

が、同記載32についてはシーズンオフ保守点検費用16万2800

円(消費税込み)が、同記載37については海苔機械部品代3万50

円(消費税込み)が、それぞれ含まれており、これらは、その費

目に鑑みると、原告製品の売上げであるとするのは相当ではなく、原

告の主張は採用の限りではない。

他方、被告は、アラーム機能設置(上記別紙記載21、35、38)、

試運転調整、諸経費・雑費(同記載24、35、38)、コルゲート

チューブ取付け(同記載29)に係る費用を控除すべきであると主張

する。しかしながら、これらは、その費目に鑑みても、原告製品の売

上げに含まれる費目というべきであるから、被告の主張は採用の限り

ではない。また、被告は、タッチパネル仕様の箱型船について、タッ

チパネルの取付けに係る売上部分は控除すべきであると主張する。し

かしながら、原告製品の売上げに含まれる費目である以上、後記cの

とおり、推定覆滅事由として考慮するのは格別、売上げから控除する

のは相当ではなく、被告の主張は採用の限りではない。

b 経費

原告は、原告製品の1台当たりの製品原価は、別紙「原告製品原価

一覧表」記載のとおりであるから、売上高から控除すべき経費は、1

台当たり高く見積もっても16万1410円を超えることはない旨主

張する。

しかしながら、原告は、本件原告部品のうち一部の部品に限り、個

別の仕入れ先からの請求書(甲14ないし16)を提出するにとどま

り、仕入れ値に関する客観的な証拠がない部品が複数あることを踏ま

えると、原告が主張する金額を直ちに経費として認定するのは相当で

はない。この点につき、証拠(乙55ないし57)及び弁論の全趣旨

によれば、競合品である被告製品においても、その製品原価として少

なくとも1台当たり約38万円の製品原価を要することが認められる

ことからすると、本件に現れた事情にも照らし、1台当たりの製品原

価の額は、38万円の限度で認めるのが相当である。

また、証拠(甲11)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、新規取

付行為に当たり、原告の従業員が顧客保有の箱型船に対して取付作業

を行っていることが認められ、このような取付作業に要する出張費、

人件費などの経費(以下「出張費等」という。)は、新規取付行為が

増えればその分増加する関係にある以上、新規取付行為に直接関連し

て追加的に必要となった経費であるといえる。そうすると、出張費等

の経費は、売上高から控除すべき経費とするのが相当である。そして、

原告は、出張費等の額につき、具体的な主張立証をしていないところ、

被告製品の取付作業に係る出張費等が1台当たり8万6620円(乙

)であることを踏まえると、少なくとも同額を経費として控除す

るのが相当である。

c 推定覆滅事由

証拠(乙41、42)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、過去に

本件発明の実施品を販売していたことがあるものの、これらは数台に

とどまり、そもそも顧客からの評判が好ましくなかったため、現在で

は実施せず、本件発明の競合品である原告製品を販売していること、

本件発明の特徴的部分は、箱型船全体の中で原液吐出部の位置をシー

ト部材の下部に設けた部分にあるところ、原告製品の原液吐出部の位

置については、顧客の要望等を踏まえ、現在は、原液吐出部の位置を

あえて酸処理液の液面よりも上側に設けていること、以上の事実が認

められる。

上記認定事実によれば、本件発明の特徴的部分である原液吐出部の

位置に関する構成は、本件発明の箱型船全体からするとごく一部にす

ぎない上、顧客からの評判が好ましくなかったのであるから、そもそ

も顧客誘引力が高いとはいえず、しかも、原告製品は、本件発明の特

徴的部分すら備えていないものといえる。

これらの事情を踏まえると、上記特徴的部分が原告製品の販売によ

る利益に貢献しているとしても、その程度はごく僅かであるといわざ

るを得ず、その貢献を算定し得たとしても、全体の1%にとどまると

いうのが相当である。

したがって、事実上の推定が覆滅される程度は、全体の99パーセ

ントであると認めるのが相当である。

d 小括

以上によれば、原告製品の売上高から経費を控除した限界利益の額

は、83万3403円(130万0023円-38万円-8万662

円)となり、上記限界利益の額から、その99%を控除するのが相

当であるから、原告製品の単位数量当たりの利益の額は、8334円

(83万3403円×1%)となる。

ウ 譲渡数量について

譲渡数量が13台であることについては、当事者間に争いはない。

エ 実施相応数量

証拠(甲13)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、最も繁忙だった月

(令和4年10月及び令和5年11月)であっても、月6件程度は取付け

を行っていたことが認められることからすると、その取付けの内容に鑑み

ても、原告は、令和4年から6年までの3年間で13台を追加して取り付

ける程度の実施能力を有していたものと認めるのが相当である。

したがって、上記にいう13台は、実施の能力に応じた数量を超えない

ものといえる。

オ 販売することができないとする事情

特許法102条1項1号にいう「販売することができないとする事情」

とは、侵害行為と特許権者等の製品の販売減少との相当因果関係を阻害す

る事情をいい、例えば、①特許権者と侵害者の業務態様や価格等に相違が

存在すること(市場の非同一性)、②市場における競合品の存在、③侵害

者の営業努力(ブランド力、宣伝広告)、④侵害品及び特許権者の製品の

性能(機能、デザイン等特許発明以外の特徴)に相違が存在することなど

の事情がこれに該当するというべきである(大合議判決参照)。当該判断

基準を踏まえ、被告主張に係る事情につき、以下検討する。

価格、性能の差

証拠(甲13)及び弁論の全趣旨によれば、原告製品は、ノーマル仕

様のもので1台約100万円ないし110万円、タッチパネル仕様のも

ので約138万円であり、他方、被告製品は1台約97万円であること

が認められる。上記認定事実によれば、原告製品には価格が高いものも

があるものの、これらは仕様の違いにすぎず、上記販売価格の差異をも

って、販売することができない事情であると認めることはできない。

また、被告は、被告製品については、視認性を有する可撓性チューブ

を用いている点、当該チューブに空気穴を設けている点、モニタに酸処

理剤の倍率表示がされる点で、原告製品よりも性能が優れている旨主張

する。しかしながら、被告製品のこれらの点が特に顧客誘引力を有して

いると認めるに足りる証拠はなく、このような仕様の違いをもって、販

売することができない事情に当たるといえないことは、上記と同様であ

る。

競合品の存在

被告は、日東製網の販売する箱型船のほか、潜り船、素通し船、シス

テム船などの箱型船も競合品に当たるから、競合品が多数存在すること

をもって販売することができない事情として考慮すべきであると主張す

る。しかしながら、被告が指摘する潜り船、素通し船、システム船は、

箱型船の種類が異なるものであり、証拠(乙43)及び弁論の全趣旨を

踏まえても、競合品に当たるかどうかは不明であるほか、日東製網の販

売する箱型船やシェア率を認定することができる証拠もない。そうする

と、被告主張に係る競合品の存在は、販売することができない事情に該

当するということはできない。

被告の営業努力、ブランド力

証拠(乙44)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、地元の海苔養殖

資材メーカーとして古くから有明海沿岸の顧客に対して営業を行ってい

たことが認められ、一定程度のブランド力を有することを一応認めるこ

とができる。もっとも、これらの事情が需要者の購入動機にどの程度の

影響を与えているかは直ちに明らかではなく、上記事情をもって、販売

することができない事情に該当するということはできない。

部分実施、本件特許の回避の容易性について

被告は、本件発明の特徴的部分が原告製品の一部にとどまることのほ

か、本件特許の代替可能性として本件特許の顧客誘引力の低さを主張す

る。しかしながら、被告主張に係る事情につき、推定覆滅事由(前記イ

c)において本件発明の特徴的部分の貢献の程度として考慮するほか

に、重ねて、販売することができない事情としても考慮すべきとする根

拠はない。

小括

したがって、本件において販売することができない事情を認めること

はできず、被告の主張は、いずれも採用することができない。

カ 以上によれば、特許法102条1項に基づく損害賠償額は、10万83

円(8334円×13台)と認めるのが相当である。

キ 予備的主張について

以上によれば、特許法102条1項2号にいう実施相応数量を超える数

量を認めることはできず、かつ、同号にいう特定数量も認めることはでき

ないことからすると、本件においては同号を適用する前提を欠くものとい

える。

⑵ 特許法102条3項に基づく損害額

ア 特許法102条3項は、特許権侵害の際に特許権者が請求し得る最低限

度の損害額を法定した規定であり、同項による損害は、原則として、侵害

品の売上高を基準とし、そこに、実施に対し受けるべき料率を乗じて算定

すべきである。

そして、実施に対し受けるべき料率は、①当該特許発明の実際の実施許

諾契約における実施料率や、それが明らかでない場合には業界における実

施料の相場等も考慮に入れつつ、②当該特許発明自体の価値すなわち特許

発明の技術内容や重要性、他のものによる代替可能性、③当該特許発明を

当該製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様、④特許権

者と侵害者との競業関係や特許権者の営業方針等訴訟に現れた諸事情を総

合考慮して、特許法102条4項の趣旨に鑑み、合理的な料率を定めるべ

きである(知的財産高等裁判所平成30年(ネ)第10063号令和元年

月7日特別部判決参照)。

イ これを本件についてみると、 (乙54)

証拠 及び弁論の全趣旨によれば、

被告製品の売上高は、別紙「特許成立後被告製品売上(税込み)」記載の

とおり、1165万6260円であると認められる。

そして、証拠(甲12)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、過去に本

件発明についての実施許諾を行ったことはなく、箱型船の業界における特

許のライセンスの相場等は不明であること、一方で、本件特許と同一の特

許分野(A01)であってこれと類似した技術分野である「その他の特殊

機械」に係るライセンス料率の統計上の平均値は3.8パーセントである

こと、以上の事実が認められる。

他方、上記ライセンス料率の統計上の平均値は、本件発明のような箱型

船そのものに特化した統計ではなく飽くまで参考値にすぎないものであり、

前記⑴のとおり、本件発明の特徴的部分である原液吐出部の位置に関する

構成は、本件発明の箱型船全体からするとごく一部にすぎず、原告製品の

構成のように代替可能性があり、その顧客誘引力は高いものとはいえない。

これらの事情を総合考慮して、合理的な料率を定めると、特許法102

条4項の趣旨に鑑みても、実施に対し受けるべき料率は、8パーセントを

超えるものとはいえない。

ウ 以上によれば、特許法102条3項に基づく損害賠償額は、93万25

円(1165万6260円×8%、小数点以下切捨て)の限度で認め

るのが相当である。

⑶ 特許法102条2項に基づく損害額

前記⑴において説示したところによれば、本件発明の寄与を踏まえると、

特許法102条2項にいう推定覆滅部分についても99パーセントとすべき

ものであり、その部分に同条3項を適用するのは相当ではない。そうすると、

その損害額は、前記⑵ウの損害額を超えるものではない。

⑷ 小括

したがって、原告の被告に対する損害賠償の額は、93万2500円と認

めるのが相当である。

結論

よって、原告の請求は主文掲記の限度において理由があるからこれらを認容

することとし、その余の請求は理由がないからこれを棄却することとして、主

文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第40部

裁判長裁判官

中 島 基 至

裁判官

松 川 春 佳

裁判官

武 富 可 南

(別紙)

被告製品目録

別紙被告製品説明書記載1の構成によって特定されるpHセンサを備えた海

苔養殖用の箱型船以上

(別紙)

特許権目録⑴ 発明の名称 箱型船⑵ 出願番号 特願2016-243757

5 ⑶ 出願日 平成28年12月15日⑷ 公開日 平成30年6月21日⑸ 公開番号 特開2018-93824⑹ 登録日 令和3年6月14日⑺ 特許番号 特許第6898087号以上

(別紙)

被告製品説明書1 被告製品の構成a 酸原液が希釈された酸処理液を貯留する酸処理槽と、該酸処理槽内に設けら5 れ、海苔が付着した海苔網を巻き取る巻取ロールとを備える箱型船であって、b 前記酸原液を前記酸処理槽の前記酸処理液内に吐出する原液吐出部とc 該原液吐出部に前記酸原液を供給する原液供給機構とd 前記酸処理槽の中央かつ上方に設けられる棒と、e 前記棒から前記酸処理液内に垂下するシート部材とを備え、f 前記原液供給機構は、酸処理液のpH値を検出するpHセンサと、pHセンサの検出値に基づいて酸処理液への酸原液の供給量を自動調節する 装置とを備え、g 前記原液吐出部は、前記シート部材の下部に設けられているh ことを特徴とする箱型船。2 被告製品の外観及び内部の構造⑴ 被告製品は、下記写真1に示すように、海苔の養殖に際して用いられる箱型船であり、網に付着した海苔を巻き取る機能を有する箱型船である。箱型船(写真1)⑵ 被告製品は、下記写真2に示すように、酸処理液を貯留する酸処理槽を有している。また、酸処理槽内には一対のロールが設けられている。このロールは、海苔が付着した網を巻き取るものである。棒ロール酸処理槽 ロールシート部材(写真2)⑶ 被告製品は、前記写真2に示したように、酸処理槽の中央かつ上方に吊り棒が設けられている。また、被告製品では、棒から酸処理槽内にシート部材が垂れ下がっている。⑷ 被告製品には、酸処理液のpH値を検出するpHセンサが設けられている。また、被告製品では、pHセンサの検出値に基づいて酸処理液への酸原液の供給量を自動調節している。被告製品では、酸処理槽内にはこの酸原液が希釈された酸処理液が貯留されている。⑸ 被告製品には、下記写真3及び写真4に示すように、酸原液を酸処理槽の酸処理液内に吐出する原液吐出部が設けられている。この原液吐出部は、シート部材の下部に設けられている。シート部材 シート部材(写真3) (写真4)原液吐出部⑹ 被告製品におけるシート部材と原液吐出部の設置形態は、次の写真5及び図のとおりである。(乙32)(写真5)(図1)以上

(別紙)

原告製品売上状況表甲 第 1 3 号 日付 原告主張売上高(消費 認 定 売 上 額 ( 消 費証の左上の 税 及 び 地 方 消 費 税 込 税及び地方消費税手書の番号 み) 込み)1 2021年09月16日 1,096,700円 1,096,700円2 2021年10月28日 1,112,980円 1,096,700円3 2021年11月01日 1,392,600円 1,392,600円4 2021年12月07日 1,386,000円 1,386,000円5 2021年12月12日 1,386,000円 1,386,000円

6 2021年12月16日 1,003,860円 986,700円

7 2021年12月29日 1,276,000円 1,276,000円

8 2022年01月03日 1,096,700円 1,096,700円

9 2022年01月20日 1,300,200円 1,300,200円

10 2022年10月18日 986,700円 986,700円

11 2022年10月18日 986,700円 986,700円

12 2022年10月20日 1,170,000円 1,170,000円

13 2022年10月20日 1,566,180円 1,566,180円

14 2022年10月20日 1,566,180円 1,566,180円

15 2022年12月22日 1,584,572円 1,566,180円

16 2022年10月25日 1,386,000円 1,386,000円

17 2022年11月01日 1,510,000円 1,510,000円

18 2022年11月10日 1,386,000円 1,386,000円

19 2022年11月10日 1,386,000円 1,386,000円

20 2022年11月28日 986,700円 986,700円2022年12月06日 1,331,000円 1,331,000円2022年12月15日 986,700円 986,700円2023年10月25日 1,441,880円 1,441,880円2023年12月28日 1,566,180円 1,566,180円2023年11月09日 986,700円 986,700円2023年11月11日 1,100,000円 1,100,000円2023年11月15日 1,441,880円 1,441,880円2023年11月22日 1,115,400円 1,115,400円2023年11月22日 1,452,198円 1,452,198円2023年11月28日 1,133,000円 1,133,000円2023年12月01日 1,239,260円 1,239,260円2023年12月18日 1,604,680円 1,441,880円2023年12月26日 1,441,880円 1,441,880円2023年12月27日 1,441,880円 1,441,880円2024年10月03日 1,628,330円 1,628,330円2024年10月15日 1,100,000円 1,100,000円2024年10月15日 1,601,204円 1,566,180円2024年10月16日 800,000円 800,000円2024年10月22日 1,566,180円 1,566,180円2024年11月04日 1,566,180円 1,566,180円2024年12月26日 1,440,000円 1,440,000円合計 53,550,604円 53,300,948円単価 1,306,112円 1,300,023円なお、下線を引いた部分は、原告の主張と異なる認定をした部分である。以上

(別紙)

原告製品原価一覧表①制御装置のタッチパネル名称 詳細 価格 単価(消費税及び地方消費税込み)pH 計本体 30 台分購入 39,600 円(ノーマル仕様) 1,080,000 円(税抜(甲第14号証) き)pH 計本体 30 台分購入 47,300 円(タッチパネル仕様) 1,290,000 円(税抜(甲第14号証) き)カラー画面 40 台分購入 27,041 円(タッチパネル仕様のみ) 1,081,620 円(消費(甲第15号証) 税及び地方消費税込み)小計 39,600 円pH 計本体(ノーマル仕様)小計 74,341 円pH 計本体(タッチパネル仕様)②遠隔制御ミニモニター名称 詳細 価格 単価(消費税及び地方消費税込み)ミニモニター 5,500 円固定 L 字板 1,123.2 円ミニモニター用ボック 3,245 円ストグルスイッチ 825 円透明シート塩ビ 0.7m 1,239.7 円小計 11,933 円③ポンプボックス及び電源名称 詳細 価格 単価(消費税及び地方消費税込み)ポンプボックス 120 個分 859.5 円103,136 円(消費税及び地方消費税込み)ポンプ本体 24,300 円(税抜 26,730 円き)電圧メータ 1個 329 円(消費税及び 329 円地方消費税込み)貫通グランド 4個 600 円(税抜き) 660 円Y 型ストレーナ 1個 268.97 円(消費税 268.97 円及び地方消費税込み)小計 28,847 円④配管及びホース名称 詳細 価格 単価(消費税及び地方消費税込み)㎜塩ビボールバル 1 台あたり 4 91.95 円(消費税及 367.8 円ブ 個使用 び地方消費税込み)*16 テトロンブレー 7m 924 円ドホースVP13 塩ビパイプ 1m 68.75 円センサー固定 VP40 30 ㎝ 126.5 円上記固定サドルバンド 41.8 円透明塩ビパイプ 9*13 8m 2,112 円シリコーン 220 円固定ビス 10 本 100 円エンドキャップ 4個 199.32 円小計 4,160 円⑤pHセンサ及びバッテリーボックス名称 詳細 価格 単価(消費税及び地方消費税込み)pH センサー センサ+PP ホル 20 台分購入 27,500 円(甲第16号証) ダ420,000+80,000=500,000 円(税抜き)上記用保護ドームキャ 328 円(税抜き) 360.8 円プV→24V コンバータ 1,118 円(消費税及 1,118 円び地方消費税込み)センサー端子台 947 円(消費税及び 947 円地方消費税込み)本体樹脂防水ケース 1個 393 円(消費税及び 393 円地方消費税込み)発光型 スイッチ 赤 ポ 1 個 1,185 円(税抜 1,303.5 円ンプ1 き)発光型 スイッチ 黄 ポ 1 個 1,185 円(税抜 1,303.5 円ンプ2 き)発光型 スイッチ 緑 電 1 個 1,185 円(税抜 1,303.5 円源ボタン き)貫通グランド 3個 450 円(税抜き) 495 円内部電線 0.75 スケア 2m 200 円バッテリーボックス及 7,205 円び抑え板小計 42,129 円合計単価(消費税及び地方消費税込み)合計 126,309 円pH 計本体(ノーマル仕様)合計 161,410 円pH 計本体(タッチパネル仕様)以上

(別紙)

原告メンテナンス利益額なお、「合計」欄記載の額は1年当たりの合計額である。1 メンテナンス行為に係る売上額(1台当たり)(内訳)pHセンサの交換 ¥88,000 2年に1回pHセンサの保管及び取付費用 ¥30,000 毎年1回点検校正 ¥30,000 毎年1回ポンプ消耗部品の交換 ¥11,000 毎年1回バッテリーの交換 ¥16,200 4年に1回配管直し ¥4,000 2年に1回漁期中のトラブル対応 ¥10,000 毎年1回合計 ¥131,0502 メンテナンスに要する原価(1台当たり)(内訳)pHセンサの仕入れ額 ¥58,000 2年に1回ポンプ消耗品の仕入れ額 ¥10,000 毎年1回バッテリーの仕入れ額 ¥11,200 4年に1回配管の仕入れ額 ¥1,000 2年に1回合計 ¥42,3003 限界利益の額(1-2)¥88,750以上

(別紙)

特許成立後被告製品売上(税込み)売上額販売年度 売上日 出荷No. 売上No. 地域 売上単価 特記 販売数(税込)2021/12/01 21120047 U2117228 福岡 971,5202021/12/22 21121610 U2118749 佐賀 971,520年度 2021/12/24 21121617 U2118757 佐賀 971,520 5 ¥4,857,6002021/12/27 21121834 U2118997 福岡 971,5202022/02/22 22022315 U2205486 佐賀 971,520年度 2022/10/19 22101167 U2213016 佐賀 971,520 1 ¥971,5202023/11/27 23111767 U2316563 佐賀 1,019,0402023/11/27 23111772 U2316570 佐賀 1,019,040電源とポンプは客所有物使用、但し電源中2023/12/28 23122134 U2319129 佐賀 688,160 Liバッテリ2個は納入電源とポンプは客所有物使用、但し電源中年度 2023/12/28 23122136 U2319131 佐賀 690,580 Liバッテリ2個は納入 7 ¥5,827,140電源とポンプは客所有物使用、但し電源中2023/12/28 23122138 U2319145 佐賀 688,160 Liバッテリ2個は納入電源とポンプは客所有物使用、但し電源中2023/12/28 23122139 U2319147 佐賀 688,160 Liバッテリ2個は納入2024/01/12 24010628 U2400504 福岡 1,034,000年度 013 ¥11,656,260

(別紙)

被告製品原価一覧表② ④③① 販売 1台平均原販売年 部品原価額売上No. 部品単 特記 数 価度 (①の年度価 (③÷計)②)U2117228 444,465U2118749 444,4652021年U2118757 444,465 5 ¥2,222,325 ¥444,465度U2118997 444,465U2205486 444,4652022年U2213016 392,823 1 ¥392,823 ¥392,823度U2316563 408,044U2316570 408,044U2319129 281,517電源とポンプ2023年 U2319131 281,517 は客所有物使 7 ¥2,350,200 ¥335,743度用、但し電源U2319145 281,517 中Liバッテリ2個は納入U2319147 281,517U2400504 408,04413 ¥4,965,348 ¥381,950

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