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令和5(行ケ)10147審決取消請求事件

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裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所
裁判年月日 令和7年6月26日
事件種別 民事
当事者 原告ツールゲンインコーポレイテッド
被告ザリージェンツオブザユニバーシティオブカリフォルニア ユニバーシティオブヴィエナ Y
法令 特許権
特許法184条の134回
特許法29条の23回
キーワード 実施75回
優先権25回
審決14回
無効10回
無効審判4回
刊行物3回
特許権2回
分割2回
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を3
0日と定める。
92856号。請求項の数111。令和2年4月17日設定登録)15
1、22、25、28~30、33~36、45~48、51~
53、56、65~70、73、76~84、95、96、99、
100及び111に記載された発明20
1 事案の要旨
2 特許庁における手続の経緯等15
3月15日を国際出願日とする特許協力条約(PCT)による国際特許出願
4年5月25日米国〔第1優先基礎出願〕、②同年10月19日米国〔以下
3優先基礎出願」という。〕、④同年2月15日米国)。
2-800017号事件として審理した。
3 特許請求の範囲の記載等5
4 本件審決の理由の要旨
25日)に出願されたものとみなされる。甲1出願の最初の優先基礎出願の
1 本件発明の優先日(争点1)について
25)に、PAM配列が細菌の免疫システムにおける自己と非自己を区別す
7日掲載。第1優先基礎出願と同様の複合体を開示するもの)の公開後間15
99 等)。これらは、第1優先基礎出願及び乙 12 の論文に記載された
98、166)。このように、本件の発明者及びそれ以外の複数の研究グルー25
78、138~141)。❸コドン最適化は、コンピュータ上で利用することが
2 取消事由1(拡大先願・甲1)(争点2)について
3 取消事由2(拡大先願・甲2)(争点3)について
1 当裁判所は、本件審決に判断の誤りはなく、原告の請求は理由がないものと15
2 争点1(本件発明の優先日)について
2-1 本件発明について
2-2 第1出願書類の記載事項について
5])。
076]、図1、[0004])。
3] [0087][0116]~[0119]、図1A、B、[0004])。
76)、例示的な天然の部位特異的修飾ポリぺプチドは、天然に存在す
1][0092])。これは、DNA標的化RNAと結合することにより、
9][0092][00157])。各種細菌由来の Cas9 ポリペプチドのアミ
15])。
4])。
72][00176])。発現ベクターを宿主細胞に導入する方法は、感染、
79])。
48]~[00250]、図3A~C、[0006])。
2-3 本件優先日当時における知見等
8 月 3 日 Web 公開)
7個は、プロトスペーサーに変異を有さなかったが、AGAA隣接配列に変
733-740・2009年3月)には、S. thermophilus のCRISPR-10におけるPAM
9283-9293・2011年8月3日Web公開〕、乙72〔Leaf Huangら・Nonviral15
1785-1791・1992年4月〕、乙75 〔S. B. Primrose ら・Principles of Gene
2002 年 11 月 4 日 Web 公 開 〕 、 乙 78 〔 Tomas Cermak ら ・ Nucleic Acids
25日公開〕、乙79〔Claes Gustafssonら・Trends in Biotechnology; Vol. 22 (7),
346-353・2004年7月4日「コードされたタンパク質のアミノ酸配列を変更15
2009年4月29日Web公開「植物での発現を最適化するように設計されたコ
180〔Alan Villalobosら・BMC Bioinformatics; Vol.7 (285)・2006年6月6日〕)25
2-4 真核生物への適用
1 2 ・ Martin Jinek ら ・ Science; Vol. 337 (6096), 816-821 及 び Supplementary
61/734,256号明細書・2012年12月6日出願・ヒト細胞(KT562)〕、乙93「CRISPR
3日Web公開・ヒト細胞・マウス細胞〕)。
2-5 検討
91、94、96)。第1出願書類においても、遺伝子改変された細胞の
2⑴エ(オ))。
19、25)を含め、本件優先日時点で多くの文献によって言及されており、15
2)の標的DNAの配列は、いずれも各図中の非標的鎖と記載された鎖
2013年1月3日Web公開)の著者らが、その注22及び23において、それぞれ
2,「ストレプトコッカス・サーモフィルスにおけるCRISPRコード耐性に
52、55、56、57、60)等の障壁があるから、過度の試行錯誤なく実施する
2013 年 1 月までの短期間に、多くの研究者により、CRISPR/Cas9 システム
3 取消事由1(拡大先願、甲1)、取消事由2(拡大先願、甲2)
2号、特表2016-501531号公報/甲1)の国際出願日(優先基礎
4条の13において準用する同法29条の2の規定により、特許を受けるこ
065596号、特表2016-500003号公報/甲2)の国際出願日
16に記載の方法。
45に記載の組成物。
1つまたはそれ以上の核酸であって、
80に記載のキット。
6~83のいずれか一項に記載のキット。
1つまたはそれ以上の
96~99のいずれか一項に記載の遺伝子改変された真核生物細胞。
10のいずれか一項に記載の遺伝子改変された真核生物細胞。
1 背景技術
2 解決しようとする課題
07】)。20
3 課題を解決する手段
4 発明を実施するための形態25
219】)。30
75】【0200】図10)。様々な種に由来するCas9タンパク質は、標的DN
13】、図1A、図1B)。
0】~【0082】【0114】
159】、図1A、図1B)。
6】【0123】~【0125】30
6~9、【0033】の図6~
9)。
21】【0132】【0136】
200】)。そして、各種細菌由来のCas9ポリペプチドの具体的なアミノ酸配列
210】)。
9】)。
27】【0228】【0231】)。
5 実施例
29. H. Deveau et al., J. Bacteriol. 190, 1390 (2008).、32. F. J. M. Mojica,
733 (2009).、33. L. A. Marraffini, E. J. Sontheimer, Nature 463, 568 (2010).、
34. D. G. Sashital, B. Wiedenheft, J. A. Doudna, Mol. Cell 46, 606 (2012).)。
493】、図1、図14A~C、図27A~C、図28A~D)。20
499】、【0503】~【0505】、図29C、E)
0)
54. 以下を含む標的 DNA における部位特異的修飾の方法:
58. 前記標的 DNA が細胞内の染色体の一部である、請求項 54 記載の方法。
61. 前記細胞が真核単細胞生物である、請求項 58 記載の方法。
62. 前記細胞が体細胞である、請求項 58 記載の方法。
63. 前記細胞が生殖細胞である、請求項 58 記載の方法。15
64. 前記細胞が幹細胞である、請求項 58 に記載の方法。
65. 前記細胞が植物細胞である、請求項 58 記載の方法。
66. 前記細胞が動物細胞である、請求項 58 記載の方法。
67. 前記細胞が脊椎動物細胞である、請求項 66 記載の方法。
68. 前記細胞が哺乳動物細胞である、請求項 67 記載の方法。20
69. 前記細胞がヒト細胞である、請求項 68 記載の方法。
73. 前記酵素活性が前記標的 DNA を修飾する、請求項 54 に記載の方法。
74. 前記酵素活性が、ヌクレアーゼ活性、メチルトランスフェラーゼ活性、デメチラ ー
75. 前記 DNA 修飾酵素活性がヌクレアーゼ活性である、請求項 74 記載の方法。
76. 前記ヌクレアーゼ活性が、標的 DNA に二本鎖切断を導入する、請求項 75 に記載の30
2 および 3 の組み合わせである。
7A は、CRISPR 反復の二本鎖形成セグメントをコードする配列を含む例示的な DNA を
12C に示される)。 D.Streptoccus thermophilus 遺伝子座 1(または A)(Streptoccus
12G に示す)。
65%超同一であり、約 70%超同一であり、約 75%超同一であり、約 80%超同一であり、
99%、または 100%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
5、6、7、8、9、10、または 10-50 のアルギニン)を N0;//);する;VP22 ドメインを含
173 7)、 短縮型ヒトカルシトニンぺプチド(Trehin et al.(2004)Pharm. Research
21:1248- 1256);ホリリシン(Wender et al.(2000) Proc. Natl. Acad. Sci.USA 97:10
13003'13008 ) ; RRQRRTSKLMKR ( 配 列 番 号 : / ) ; ト ラ ン ス ポ ー タ
70%、少なくとも約 75%、少なくとも約 80%、少なくとも約 85%、少なくとも約 90%、
95%、少なくとも約 98%、少なくとも約 99%、または 100%のヌクレオチド配列同一性を
85%、少なくとも約 90%、少なくとも約 95%、少なくとも約 98%、少なくとも約 99%、
5'UAGCAAGUUAAAAUAAGGCUAGUCCG-3'を含む。
70 nt から約 80 nt、約 80 nt から約 90 nt、または約 90 nt から約 100 nt の長さを有す
1097、 1999;WO 94/12649、WO 93/03769;WO 93/19191;WO 94/28938;WO
95/11984 および WO 95/00655 を参照のこと);アデノ随伴ウイルス(例えば、Ali et al.,
683 690, 1997, Rolling et al., Hum Gene Ther 10:641 648, 1999; Ali et al., Hum Mol
63:3822-3828; Mendelson et al., Viral.(1988)166:154-165; and Flotte et al.,
73:7812 7816、1999);レトロウイルスベクター(例えば、マウス白血病ウイルス、脾
6 xHis タグ、ヘマグルチニンタグ、緑色蛍光タンパク質など)をコードするヌクレオチ
1097, 1999; WO 94/12649, WO 93/03769; WO 93/19191; WO 94/28938; WO20
95/11984 and WO 95/00655 を参照のこと);アデノ随伴ウイルス(例えば、Ali et al.. Hum
1997, Rolling et al., Hum Gene Ther 10:641 648, 1999; Ali et al., Hum Mol Genet
5:591 594, 1996; Srivastava in WO 93/09239, Samulski et al., J. Vir.(1989)63:3822-25
3828 ; Mendelson et al., Viral.(1988)166 : 154-165 ; and Flotte et al., PNAS
7816,1999);レトロウイルスベクター(例えば、マウス白血病ウイルス、脾壊死ウイルス、
500nM)および標的 DNA(10 nM)と共に、総容量 10 マイクロリットルでインキュベー
事件の概要 1 事案の要旨 本件は、原告の無効審判請求を不成立とした本件審決の取消訴訟である。争 点は、本件審決が、特許権者の優先権主張を認め、拡大先願の無効理由を排斥 したことについての認定判断の誤りの有無である。

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判決文

令和7年6月26日判決言渡
令和5年(行ケ)第10147号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 令和7年2月13日
判 決
原 告 ツールゲン インコーポレイテッド
同訴訟代理人弁理士 井 関 勝 守
10 同 金 子 修 平
同 藤 野 香 子
被 告 ザ リージェンツ オブ ザ ユニ
バーシティ オブ カリフォルニア
被 告 ユニバーシティ オブ ヴィエナ

被 告 Y
上記3名訴訟代理人弁護士 城 山 康 文
同 岩 瀬 吉 和
同 村 上 遼
25 同訴訟代理人弁理士 小 野 誠
同 坪 倉 道 明
同 重 森 一 輝
同 安 藤 健 司
同 川 嵜 洋 祐
同訴訟復代理人弁護士 篠 崎 慎 一 郎
5 主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を3
0日と定める。
10 事 実 及 び 理 由
注)本判決において使用する主な略語は、別に本文中で定義するものを除き、次の
とおりである。
本件特許 発明の名称を「RNA依存性標的DNA修飾およびRNA依存
性転写調節のための方法および組成物」とする特許(特許第66
15 92856号。請求項の数111。令和2年4月17日設定登録)
本件明細書 本件特許の願書に添付した明細書及び図面(甲33)
本件発明 本件特許の特許請求の範囲請求項1、2、6、15~19、2
1、22、25、28~30、33~36、45~48、51~
53、56、65~70、73、76~84、95、96、99、
20 100及び111に記載された発明
本件審決 特許庁の令和5年8月30日付けの無効審判請求は成り立たな
い旨の審決
パリ条約 昭和50年条約第2号
本件優先日 平成24年5月25日
25 第1優先基礎出願 被告らが本件においてパリ条約に基づく優先権を主張して
いる本件優先日を出願日とする米国における特許出願
第1出願書類 第1優先基礎出願に係る特許出願書類(甲3、26、乙116)
CRISPR/Cas9 システム Cas タンパク質(部位特異的修飾ポリペプチド)及び
DNA標的化RNA(tracrRNA〔活性化RNA〕と cr
RNA〔標的化RNA〕を含むもの)から構成される複
5 合体により標的DNAを切断する仕組み。CRISPR/Cas
システムも同じ。
第1 請求
特許庁が無効2022-800017号事件について令和5年8月30日に
した審決を取り消す。
10 第2 事案の概要
1 事案の要旨
本件は、原告の無効審判請求を不成立とした本件審決の取消訴訟である。争
点は、本件審決が、特許権者の優先権主張を認め、拡大先願の無効理由を排斥
したことについての認定判断の誤りの有無である。
15 2 特許庁における手続の経緯等
⑴ 被告らは、本件特許の特許権者である。
本件特許に係る特許出願(特願2018-97369号)は、平成25年
3月15日を国際出願日とする特許協力条約(PCT)による国際特許出願
(特願2015-514015号)の一部を分割し、平成30年5月21日
20 に新たな特許出願としたものである(パリ条約による優先権主張 ①平成2
4年5月25日米国〔第1優先基礎出願〕、②同年10月19日米国〔以下
「第2優先基礎出願」という。〕、③平成25年1月28日米国〔以下「第
3優先基礎出願」という。〕、④同年2月15日米国)。
⑵ 原告は、令和4年2月25日、被告らを被請求人として、本件発明につい
25 ての特許を無効とする旨の無効審判請求をし、特許庁は、これを無効202
2-800017号事件として審理した。
⑶ 特許庁は、令和5年8月30日付けで無効審判請求は成り立たない旨の本
件審決をし、その謄本は、同年9月7日原告に送達された。
⑷ 原告は、令和5年12月28日、本件審決の取消しを求めて訴えを提起し
た。
5 3 特許請求の範囲の記載等
本件発明に係る特許請求の範囲請求項の記載は、別紙「特許請求の範囲の記
載」のとおりである。
4 本件審決の理由の要旨
⑴ 本件発明の優先日
10 ア 原告は、本件発明における、真核細胞中での CRISPR/Cas9 システムによ
る標的遺伝子の切断は、第1出願書類及び第2優先基礎出願の出願書類に
は記載されていないから、本件特許は、第1優先基礎出願及び第2優先基
礎出願に基づく優先権主張の利益を享受することはできず、第3優先基礎
出願の出願日である平成25年1月28日に出願したものとみなすべきで
15 あると主張する。
イ しかし、第1出願書類(甲3)は、部位特異的DNAヌクレアーゼを操
作するための2つの主要な技術に代わり得る新しい技術として、部位特異
的修飾ポリペプチド及びDNA標的化RNAを含む複合体を提供すること
に主眼を置いたものであり、当該複合体の製造方法に加え、当該複合体が
20 標的DNAを部位特異的に切断することも具体的データに基づき開示して
いる。また、第1出願書類は、部位特異的修飾ポリペプチド及びDNA標
的化RNAを含む複合体が、インビトロの細胞だけでなくインビボの細胞
(例えば、真核細胞)内の標的DNAにも適用できることを開示しており、
その適用の有用性とともに、その適用が当業者にとって周知の技術的手段
25 を用いることで具現化することができることを開示しているといえる。し
たがって、優先基礎発明を、植物細胞、動物細胞または単細胞真核生物等
の真核細胞内の標的DNAに適用することは、第1出願書類の全体の記載
を総合することにより導かれる技術的事項であって、当該技術的事項を備
える本件発明は、第1優先基礎出願に基づく優先権主張の利益を享受する
ことができる。
5 ⑵ 無効理由1(拡大先願、甲1)及び無効理由2(拡大先願、甲2)
前記のとおり、本件特許は、第1優先基礎出願に基づく優先権主張の利益
を享受することができるから、特許法29条の2の規定の適用に当たっては、
第1優先基礎出願の出願日である本件優先日(平成24(2012)年5月
25日)に出願されたものとみなされる。甲1出願の最初の優先基礎出願の
10 出願日(同年12月12日)及び甲2出願の最初の優先基礎出願の出願日
(同年10月23日)は、いずれも本件優先日より後であるから、本件特許
に対する関係では、特許法29条の2の「他の特許出願」には当たらない。
したがって、本件特許が特許法184条の13において準用する29条の2
の規定により特許を受けることができない旨の原告の主張は、理由がない。
15 第3 審決取消事由等に係る当事者の主張
1 本件発明の優先日(争点1)について
⑴ 原告の主張
ア 当業者とは「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する
者」であって「請求項に係る発明の属する技術分野の出願時の技術常識を
20 有する、①研究開発(文献解析、実験、分析、製造等を含む。)のための
通常の技術的手段を用いることができ、②材料の選択、設計変更等の通常
の創作能力を発揮できるとの条件を備えた者として想定された者である。
そして、実施可能要件の趣旨及び意義からすると、当業者は、公開され
た特許発明を利用する者として想定されるから、そのレベルは、特許発明
25 に係る技術を利用する可能性のある者を基準とすべきであり、本件の場合、
当業者の基準は、CRISPR/Cas9 システムを例えば遺伝子改変のための実験
ツールとして利用する分子生物学分野の一般的な研究者や学生等とすべき
である。
また、技術常識は、当業者に一般的に知られている技術又は経験則から
明らかな事項であり、周知性は、文献数だけでなく注目度も考慮して判断
5 され、周知技術は、その技術分野において一般的に知られている技術(相
当多数の刊行物・ウェブページ等があり、業界に知れ渡り、例示の要がな
いほどよく知られているもの)、慣用技術は、よく用いられている周知技
術である。そうすると、本件の場合、技術常識は、前記当業者に一般的に
知られている技術又は経験則から明らかな事項をいい、最先端の研究開発
10 をする限定的な研究者のみに知られている技術等はこれに該当しない。
イ 本件特許が第1優先基礎出願に基づく優先権主張の利益を享受するため
には、本件発明について、当業者が第1出願書類の明細書及び図面に記載
された説明及び第1優先基礎出願の出願時の技術常識に基づいて、過度の
試行錯誤等を要せずに実施することができる必要があり、さらには、本件
15 発明が属する技術分野に鑑みて本件発明について代表的な実施例(後記)
が出願書類に明確に示されている必要がある。
ウ 本件の第1出願書類では、インビトロでの CRISPR/Cas9 システムによる
部位特異的修飾ポリペプチド及びDNA標的化RNAを含む複合体の製造
並びに当該複合体による標的DNAに対する部位特異的切断等について、
20 具体的データに基づいて開示されているが、真核細胞内で CRISPR/Cas9 シ
ステムを適用する具体的な方法、態様、データ等は何ら記載されておらず、
ライフサイエンス分野の発明である本件発明について、具体的な実施例等
の記載もなく、実際に真核細胞で同システムを適用できるかは不明である。
真核細胞における CRISPR/Cas9 システムの適用は、本件優先日当時、当業
25 者であっても、その出願書類の記載事項及び周知技術等に基づいて行うこ
とはできず、仮に行うことができたとしても過度の試行錯誤を要するもの
であった。
すなわち、真核細胞への適用についての当業者の実施可能性の研究状況
については、被告らの米国特許消費者庁の PTAB のインターフェアランス
手続 NO.106,115 において、平成24(2012)年時点で、メダカ、ゼ
5 ブラフィッシュ及びヒトを用いた実験で成功と述べたが(甲 37 の 22 頁。
なお、酵母、マウス及び植物の実験は行われず、線虫の実験は後に成功し
たとする。)、これらは、本件優先日時点では成功していない。ヒトの実
験は、同年7月10日から同年10月11日までの実験は全て失敗してい
る(甲 42、44~48、50、58、59)。
10 このように、本件優先日時点において、当業者である本件特許の発明者
たちは、CRISPR/Cas9 システムを真核細胞において実施することができて
いなかったから、他の当業者も、第1出願書類の記載事項や周知技術等を
用いても実施することができないといえる。仮に実施することができたと
しても、発明者らも複数回条件を変更しながらも失敗しており、本件優先
15 日時点の周知技術や技術常識を採用したとしても、過度の試行錯誤を強い
ることは明らかである。
エ-1 CRISPR/Cas9 システムの真核細胞への適用において必要とされる、❶
プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM配列 protspacer adjacent motif)、
❷核局在化シグナル(NLS nuclear localization sequence)、❸コドン
20 最適化について、第1出願書類に明示的記載はなく、当業者が実施可能な
程度に記載されていると認めることはできない。すなわち、前記のとおり、
本件における当業者及び技術常識を踏まえると、❶第1優先基礎出願に
は、図3C(GGG)のPAM配列を含む配列が示されているが、それが
PAM配列であることはもちろん、第1優先基礎出願全体において、PA
25 M配列に関する記載はない。また、本件優先日時点で、文献(乙 15、19、
25)に、PAM配列が細菌の免疫システムにおける自己と非自己を区別す
る役割に関わっていることが記載されたとしても、PAM配列が真核細胞
内の標的DNA配列を切断するのに必要であることは、何ら記載されてい
ないから、周知技術とはならず、当業者が技術常識として認識することが
できるものではない(乙 15 の図4の記載は、PAM配列を必要とするの
5 が切断工程か他の工程か明確ではない。仮に、切断工程において、PAM
配列が切断されるべき標的DNAか否かを区別する因子と理解できたとし
ても、理解できるのは、最先端の研究をする研究者であり、上記当業者で
はない。乙 15 は、第1優先基礎出願のわずか5か月前に公開されたもの
であり、当業者に一般的に知られているとはいえない。)。第1優先基礎
10 出願の出願時のPAM配列に関する知識では、PAM配列を認識するのが
Cas9 タンパク質であるかどうか、さらにこれがPAM配列を認識するこ
とがどのようにしてターゲット配列の切断につながるのか、すなわち、P
AM配列の認識と Cas9 タンパク質による切断の間の関連性を導き出すの
は困難である。
15 仮に、❶~❸が周知技術であったとしても、当業者が CRISPR/Cas9 シ
ステムを真核細胞に適用することができるわけではない(当業者であれば、
原核細胞で成功した技術であっても、これを真核細胞に適用するには多く
の障壁が明白に存在し、原因不明の失敗も多く起こり得ることは理解して
いる。)。仮に適用することができたとしても、❶~❸の技術の利用が
20 CRISPR/Cas9 システムの真核細胞への適用の成功に単純につながるわけで
はなく、当業者であっても過度の試行錯誤を要するものである。
エ-2 真核細胞に適用する場合の障壁としては、「RNAの分解」「構成及
び複合体の形成と持続性」「毒性」「複雑な真核生物環境でのクロマチン
結合 DNA の作用の失敗」(甲 38、40、41、43、48~53、54~57、60)が
25 ある。また、前記のとおり、本件発明の発明者らは、ヒトの実験において
失敗している。そうすると、真核細胞への CRISPR/Cas9 システム導入にお
いて、⒜RNAの分解、⒝折り畳みや複合体形成、⒞真核細胞における耐
性、⒟共局在化、⒠クロマチンに係る障壁は、当業者であれば当然に生じ
ると認識することができる事象である。本件発明の発明者らも、RNA分
解や複合体形成に関する障壁等が存在することを認識し、意見を示してお
5 り、単なる一般的な可能性を示すものではない(真核細胞への
CRISPR/Cas9 システム導入の障壁)。
オ 実施例の必要性については、発明の技術分野や技術内容の困難性等から
個別に判断されるべきである。本件発明は、ライフサイエンス分野に属し、
発明の構成から得られる効果は予測し難いものであり、本件発明は、
10 CRISPR/Cas9 システムといった本件優先日の時点においてパイオニア的技
術に係るものである。CRISPR/Cas9 システムの真核細胞への適用には、イ
ンビトロや原核細胞の場合とは異なり、種々の障壁等が存在し、当業者で
あってもこれを容易に実施することはできない。当業者が、類似の技術等
を考慮して第1出願書類の明細書の記載内容から容易に変更等をして、
15 CRISPR/Cas9 システムの真核細胞への適用をすることができると解される
べきではない。
⑵ 被告らの主張
ア 当業者は、PAM配列と CRISPR/Cas9 システムにおけるその重要な役割
を明確に特定した乙 20 をはじめ、PAM配列の必要性や役割を論じたレ
20 ビュー論文を含む文献に容易にアクセスすることができたから、
CRISPR/Cas9 システムにより切断される標的DNA配列がPAM配列に隣
接しているべきことを理解していた。
イ パリ条約4条A⑴、Hの文言及び趣旨からすると、優先権主張の効果を
享受できるか否かは、優先権の効果を享受しようとする発明が、優先権の
25 基礎となる出願に開示されているか否かを基準として判断すべきであり、
そして、発明が基礎出願に開示されているかを判断するに当たっては、特
許請求の範囲の文言だけでなく、基礎出願の明細書を含む出願書類全体に
記載されている事項及び優先日当時の当業者の技術常識を参酌して実質的
に出願書類全体に記載されているといえる事項に基づき判断すべきである。
ウ 本件において、第1優先基礎出願は、本件優先日時点の当業者が
5 CRISPR/Cas9 システムを真核細胞に適用するに当たって十分な説明、ツー
ル及び方法の記述を含むものである。
また、原告の主張する本件優先日後の本件の発明者の実験に係る成功・
失敗に関する事実や、そのことに関する発明者の主観は、優先権主張の利
益を享受できるか否かの判断に影響しない。優先権主張の効果を享受する
10 にあたり、実験に係る成功が必須となるものではないし、仮に発明者が特
定の実験に失敗したとしても、それを以て優先権主張の効果が認められな
くなるわけではない。
さらに、本件の発明者以外の複数の研究グループは、本件の発明者の論
文(乙 12。平成24(2012)年6月28日ウェブ公開、同年8月1
15 7日掲載。第1優先基礎出願と同様の複合体を開示するもの)の公開後間
もなく、CRISPR/Cas9 システムを真核細胞に適用することに成功したこと
を報告する論文原稿を科学誌に提出している(乙 88、90、93、95、97、
99 等)。これらは、第1優先基礎出願及び乙 12 の論文に記載された
CRISPR/Cas9 複合体並びに本件優先日の時点で真核生物における標的化遺
20 伝子編集に利用されていた主要な技術(周知慣用技術であった ZFN 及び
TALEN を用いたゲノム編集に利用してきた市販の試薬、細胞株、ベクタ
ー。乙 163、164)を使用するとともにメーカーのプロトコルに従ってい
た。本件の発明者も線虫、メダカ、ゼブラフィッシュ及びヒト(ヒトは平
成24(2012)年10月31日以前)の細胞の実験で成功した(乙
25 98、166)。このように、本件の発明者及びそれ以外の複数の研究グルー
プが、発明者の論文(乙 12)の刊行後短期間のうちに、ほぼ同時期に実
験に成功したことは、第1優先基礎出願に触れた当業者が、第1出願書類
の記載及び周知慣用技術を適用して過度の試行錯誤を要することなく、
CRISPR/Cas9 システムを真核細胞に適用可能であったことの客観的な証拠
である。
5 エ-1 ❸コドン最適化については、発明者らが真核細胞におけるゲノム編
集実験で Cas9 をコードする核酸として適用し、最終的に公開(乙 98)さ
れ、本件特許のPCT出願の明細書でも記載されているものは、発明者が
最初に設計したのと同一の❸コドン最適化であり、この点について試行
錯誤を要したものではない。また、❷NLSについては、原告の指摘す
10 るメールの記載は、潜在的問題について意見を求めるものにすぎず、❷
NLSの相対的な効率性は周知技術の一部であって当業者において通常想
定される実験の範囲を出るものではないし、発明者らは、使用するNLS
を変更しておらず、当初使用した SV40 のNLSが、最終的に乙 98 で公開
され、本件特許のPCT出願の明細書記載のゲノム編集実験でも使用され
15 ている。❷NLSも❸コドン最適化も、幾多の文献に示された本件優先
日当時の周知技術である(❸乙 13、75、76、79~84、❷乙 36、69、71~
78、138~141)。❸コドン最適化は、コンピュータ上で利用することが
できる商用最適化ツールが提供され(乙 81、180)、❷NLSの付与も、
タンパク質の細胞核内への移送を容易にするために知られた特定の短いア
20 ミノ酸配列を付加するだけである(乙 36、71)。さらに、❷NLSも❸
コドン最適化も、CRISPR/Cas9 システムの真核細胞への適用に必須のもの
でもないから、過度の試行錯誤を要するものではない。
エ-2 CRISPR/Cas9 システムが標的DNAを切断するためには、標的DNA
配列の下流に❶PAM配列が必要であることについては、本件優先日当
25 時の周知技術である。CRISPR/Cas9 システムは、DNA標的化セグメント
が、標的DNAと配列特異的に塩基対合し Cas9 ポリペプチドがDNAを
切断するという機序で作用するものであり、標的DNAを真核細胞内とす
る場合も、周知技術どおり標的DNA配列の下流にPAM配列が存在すべ
きことは、当業者にとって自明である。
元々、PAM配列の発見は平成 19 年(乙 22、24 の先行公開日)である。
5 PAM配列の必要性(PAM配列の存在意義、性質、具体的配列等)は本
件優先日前の多くの文献に示され、相互参照されていた。複数のレビュー
論文や査読を経た科学論文は、切断対象となる標的DNAがPAM配列に
隣接するものであることに言及し、PAM配列が「決定的に重要」などと
しており(乙 14~22、24、25、179、183~185)、PAM配列の役割が切
10 断されるべき外来標的DNAと切断されるべきでない非標的DNAを区別
することは、原核生物の免疫システム(Ⅱ型 CRISPR/Cas システム〔Cas9
を含む。〕)における既知の内在的性質であった。したがって、PAM配
列がDNA切断の必要条件であるという本件優先日当時の技術常識によれ
ば、第1優先基礎出願(甲3)のイン・ビトロ実験図3Cに接した当業者
15 は、Target DNA A~C のいずれにおいても、PAM配列に隣接する領
域が標的DNA配列となっていることを、PAM配列について明記されて
いなくても認識することができた。また、当業者は、本件発明の
CRISPR/Cas9 システムを使用する際には、標的DNAの所在場所(細菌細
胞、試験管、真核細胞)に関わらず、標的DNAを切断するためにPAM
20 配列に隣接する標的配列部分を選択しなければならないことを理解してい
た。CRISPR/Cas9 システムが真核細胞内で機能するかについても、DNA
切断が環境に関係なく同じ化学反応であること、本件発明がDNAとRN
Aのハイブリダイゼーションという生物学の普遍的原理に従うものであっ
てあらゆる細胞種や生物で起こること、第1優先基礎出願の標的配列も真
25 核生物のDNA配列とより相同性があること等から、真核細胞においての
みPAM配列の存在の必要性に係る前提を疑う理由はなかった。仮に、当
業者が真核細胞においてPAM配列が必要になることにつき確信を持てな
かったとしても、当業者は、PAM配列を有する配列と、有しない配列を
標的とする1セットの実験を行えば容易に検証可能であったから、過度の
負担とならない。
5 エ-3 次に、原告が主張する「真核細胞への CRISPR/Cas9 システム導入の障
壁」については、当業者はそれらを現実の障害とは認識せず、せいぜい周
知・慣用技術の適用によって容易に解決可能な仮想の障害にすぎない。原
告が引用する、⒜発明者らによるメール、⒝発明者のインタビュー記事
(甲 60)、⒞ブロードとのインターフェアランス手続における被告らの
10 提出証拠(甲 40)も、いずれも第1出願書類の実施例に記載された緩衝
液中の CRISPR/Cas9 システムを真核細胞に適用する際に生じ得る事象の一
般的・抽象的な可能性又は懸念を述べるにとどまり、具体的にこれらの事
象が生じることが確認されたことを示すものではない。
オ 実施例の要否について、本件発明には、机上の空論で構造式を作成でき
15 る新規な化学物質のような特殊性はない。本件発明は、細胞内で標的DN
Aと接触させて標的DNAを切断するに当たり、その複合体の構成要素と
して必要な要素を特定した発明であるから、第1出願書類全体の記載及び
本件優先日当時の技術常識に照らして、本件発明が第1出願書類に開示さ
れていたといえるかという基準で、優先権主張の可否を判断すれば足りる。
20 前記のとおり、第1出願書類には、当業者が CRISPR/Cas9 システムを真核
細胞に適用可能な程度の開示(本件発明に係る複合体を作製する実施例及
びインビトロにおけるDNA切断の実施例の記載)がある。また、仮に化
学物質に関する特殊性を考慮したとしても、本件発明に係る複合体は現実
に作成することができ、機能するものであることが実証されているから、
25 本件発明が優先権主張の効果を享受することができることに変わりはない。
2 取消事由1(拡大先願・甲1)(争点2)について
⑴ 原告の主張
本件特許は、第1優先基礎出願に基づく優先権主張の利益を享受すること
ができないから、特許法29条の2の規定の適用に当たっては、本件特許が
第1優先基礎出願の出願日である本件優先日に出願されたものとみなされる
5 べきではない。したがって、この点についての本件審決の判断には誤りがあ
る。
⑵ 被告らの主張
争う。
3 取消事由2(拡大先願・甲2)(争点3)について
10 ⑴ 原告の主張
上記2⑴と同じ。
⑵ 被告らの主張
上記2⑵と同じ。
第4 当裁判所の判断
15 1 当裁判所は、本件審決に判断の誤りはなく、原告の請求は理由がないものと
判断する。その理由は、次のとおりである。
2 争点1(本件発明の優先日)について
本件特許は、パリ条約による優先権を主張しているところ、パリ条約4条A
項は、いずれかの同盟国において正規に特許出願をした者に優先権を認めてい
20 る。そして、同条H項は「優先権は、発明の構成部分で当該優先権の主張に係
るものが最初の出願において請求の範囲内のものとして記載されていないこと
を理由としては、否認することができない。ただし、最初の出願に係る出願書
類の全体により当該構成部分が明らかにされている場合に限る。」旨規定して
いる。すなわち、本件発明について、第1優先基礎出願に基づくパリ条約によ
25 る優先権の主張が認められるかどうかは、特許請求の範囲だけではなく、実質
的にみて第 1 出願書類の明細書を含む出願書類全体に記載されていると認めら
れる事項に基づき判断すべきものである。仮に本件発明が第1出願書類全体の
記載に本件優先日当時の当業者の技術常識を組み合わせたとしても当業者にお
いて実施することができなかった発明であると認められる場合は、本件発明は、
第1出願書類の全体に記載されていた事項であるとは認められず、パリ条約に
5 よる優先権の主張の効果は認められないというべきである。したがって、本件
発明が、実質的に第1出願書類の全体に記載されていると認められるためには、
当業者が第 1 出願書類の全体の記載及び本件優先日当時の技術常識に基づいて、
過度の試行錯誤等を要さずに本件発明を実施することができたと認められる必
要がある。
10 そこで、以上を踏まえて、検討する。
2-1 本件発明について
⑴ 前記第2の3のとおり、本件発明に係る特許請求の範囲は、別紙「特許請
求の範囲の記載」のとおりである。
⑵ 本件発明は、侵入する外来DNAを切断する原核生物の免疫システム
15 (CRISPR/Cas9 システム)を利用し、DNA標的化RNA及び Cas9 ポリペ
プチドからなる複合体を真核生物細胞内の標的DNAに接触させることによ
り、標的DNAを切断する方法等の発明である。その概要は、別紙「本件発
明の概要」記載のとおりである。本件明細書(甲33)には、「DNA標的
化RNA」と「部位特異的修飾ポリペプチド」の複合体により標的DNAを
20 切断することができること、使用する部位特異的修飾ポリペプチドが Cas9
である場合、標的DNA内の部位特異的切断は、DNA標的化RNAと標的
DNAの間の塩基対形成の相補性、および、標的DNA内のプロトスペーサ
ー隣接モチーフ(PAM配列)の両方によって決定される位置で起きること、
PAM配列は、Cas9 の種類によって異なること、部位特異的修飾ポリペプ
25 チドは、核に標的化するための核局在化シグナル(NLS)を含み得ること、
部位特異的修飾ポリペプチドは、コドン最適化され得ること、実施例として、
ヒト細胞の標的部位における二重鎖DNA切断が確認されたこと等が開示さ
れている。
2-2 第1出願書類の記載事項について
⑴ 第1出願書類(甲3、乙 116)には、別紙「第1出願書類の記載(抜
5 粋)」のとおりの記載があり、これによれば、その記載事項の概要は、次の
とおりである(以下、2-2における文中の[ ]内の数字は、第1出願書類
の 訳 文 ( 乙 116 ) の 段 落 番 号 を 示 し 、 「 図 」 は 第 1 出 願 書 類 の 図 を 指
す。)。
ア 背景
10 近年、特定のDNA配列を標的とするように設計された操作されたヌク
レアーゼ酵素は、細胞および生物全体の遺伝子操作のための強力なツール
としてかなりの注目を集めており、標的遺伝子の欠失、置換および修復、
ならびにゲノムへの外因性配列(導入遺伝子)の挿入を可能にする。部位
特異的DNAヌクレアーゼを操作するための2つの主要な技術が出現して
15 きており、これらは両方とも、配列非特異的DNAエンドヌクレアーゼド
メインが操作されたDNA結合ドメインに融合されるキメラエンドヌクレ
アーゼ酵素の構築に基づいている。しかし、それぞれの新しいゲノム遺伝
子座を標的とするには、新しいヌクレアーゼ酵素の設計が必要であり、こ
れらのアプローチは時間と費用の両方を必要とする([0001])。
20 イ 解決しようとする課題
各新規な標的配列に対する新規なタンパク質の設計を必要としない様式
で、標的DNA内の異なる位置へのヌクレアーゼ活性(または他のタンパ
ク質活性)の正確な標的化を可能にする技術が、当該分野において必要と
されている([0002])。
25 ウ 課題を解決する手段
第1優先基礎出願の発明は、「標的DNA」を「DNA標的化RNA」
及び「部位特異的修飾ポリぺプチド」を含む複合体と接触させることによ
り、標的DNAを部位特異的に修飾するというものである(請求項54、
概要[0003]、詳細な説明[0072]、方法[00155])。
エ 発明を実施するための形態
5 (ア) 標的DNA
標的DNAは、動物細胞、植物細胞等の真核細胞の細胞内の染色体の
一部であり得る(請求項58、61~69、目的の標的細胞[0016
5])。
(イ) DNA標的化RNA
10 DNA標的化RNAは、DNA標的化セグメント(標的DNA内の配
列に対し相補的なヌクレオチド配列を含む。)及びタンパク質結合セグ
メント(ハイブリダイズして二本鎖RNA(dsRNA)を形成する互
いに相補的な2つのヌクレオチドの範囲を含む。)を含む。DNA標的
化セグメントは、ハイブリダイゼーション(すなわち、塩基結合)を介
15 して配列特異的な様式で標的DNAと相互作用することにより、「タン
パク質結合セグメント」に結合した部位特異的修飾ポリペプチドを、標
的DNA内の特定のヌクレオチド配列に導く([0073][0074][0
076]、図1、[0004])。
また、DNA標的化RNAは、crRNA(標的化RNA。DNA標
20 的化セグメント一本鎖と、タンパク質結合セグメントの二本鎖RNAの
半分を形成するヌクレオチドの伸長の両方を含む。)と、これに対応す
るtracrRNA(活性化RNA。タンパク質結合セグメントの二本
鎖RNAの残りの半分を形成するヌクレオチドの範囲を含む。)を含ん
でおり、これらの2つのヌクレオチドが別個のRNA分子である二分子
25 DNA標的化RNAと、2つのヌクレオチドがリンカーによって連結さ
れた単一分子DNA標的化RNAがある([0078][0079][008
3] [0087][0116]~[0119]、図1A、B、[0004])。
そして、さまざまな生物種のtracrRNAとそれに対応するcr
RNAの二本鎖形成セグメントの各ヌクレオチド配列等を開示する
([0009]~[0012]、図6~9)。
5 図1


(ウ) 部位特異的修飾ポリペプチド
20 部位特異的修飾ポリペプチドは、ヌクレアーゼであり(請求項73~
76)、例示的な天然の部位特異的修飾ポリぺプチドは、天然に存在す
る Cas9 ポリペプチド(Cas9/Csnl エンドヌクレアーゼ)である([009
1][0092])。これは、DNA標的化RNAと結合することにより、
標的DNA内の特定の配列に向けられ、当該ポリペプチドが標的DNA
25 を切断するヌクレアーゼ活性を示すものであるときは、部位特異的修飾
ポリペプチドは標的DNAを切断して二重鎖切断を生成する([008
9][0092][00157])。各種細菌由来の Cas9 ポリペプチドのアミ
ノ酸配列は開示されている([0096]図2、[0005]、図12[00
15])。
(エ) DNA標的化RNAと部位特異的修飾ポリペプチドの細胞への導入
5 方法
DNA標的化RNAと部位特異的修飾ポリペプチドをコードするヌク
レオチド配列を含む発現ベクターにより、DNA標的化RNAと部位特
異的修飾ポリペプチドを細胞に導入することができる。発現ベクターは、
市販されているものを含め多数の適切なものが当業者に知られており、
10 宿主細胞に適合している限り、任意の他のベクターを使用することがで
きる([00120]~[00124][00167]~[00170][0017
4])。
利用される宿主/ベクター系に依存して、プロモーターやエンハンサ
ーエレメント等を含む適切な転写等エレメントのいずれかが、発現ベク
15 ターに使用され得る([00125]~[00128][00171][001
72][00176])。発現ベクターを宿主細胞に導入する方法は、感染、
リポフェクション、エレクトロポレーションなど、当該技術分野におい
て公知の方法を使用することができる([00129][00175])。
DNA標的化RNA、部位特異的修飾ポリペプチドを、RNAとして
20 細胞に導入してもよい。核酸を細胞に導入するための周知の技術(マイ
クロインジェクション、エレクトロポレーション等)によって、RNA
として細胞に導入され得る([00173][00174][00177])。
部位特異的修飾ポリペプチドは、ポリペプチドとして細胞に提供され
てもよく、必要に応じて、生成物の溶解性を増大させるポリペプチドド
25 メインに融合され得る。ポリペプチド浸透性ドメインに融合させて、細
胞による取り込みを促進してもよい([00115][00178][001
79])。
(オ) 遺伝子改変された細胞は、例えば、疾患を治療するため、または抗
ウイルス、抗病原性、もしくは抗がん治療薬剤としての遺伝子治療等の
目的で、農業における遺伝子改変生物の生産のために、または生物学的
5 研究のために、被験体に移植され得る。被験体は、新生児、少年または
成人であり得る、哺乳類の被験体が特に興味深い([00198])。
オ 実施例
(ア) Streptococcus pyogenes の Cas9 ポリペプチドと、3つの異なる標的D
NA(A~C)に対して設計されたDNA標的化RNA(二分子DNA
10 標的化RNA、単一分子DNA標的化RNA)の複合体により、切断緩
衝液中で、対応するいずれの標的DNAも切断が確認された([002
48]~[00250]、図3A~C、[0006])。
図3




(イ) S.pyogenes、L.lnnocus、S.thermophilus の Cas9 ポリペプチドが、同じ
DNA標的化RNAを利用して、切断緩衝液中で、標的DNAを切断し
たことが確認された([00252][0008]、図5A~B)
図5

2-3 本件優先日当時における知見等
⑴ ZFN、TALEN(従来技術)
本件優先日 以前の従来の遺伝子編集 技術には、「ZFN (zinc-finger
nucleases、ジンクフィンガーヌクレアーゼ)」「TALEN(Transcription
5 activator-like effector nucleases、 転写活性化因子エフェクターヌクレアーゼ)」
がある。これらは、特定のDNA配列を標的とするように設計され操作され
たヌクレアーゼ酵素を利用するものであり、配列非特異的DNAエンドヌク
レアーゼドメインが操作されたDNA結合ドメインに融合されることでキメ
ラエンドヌクレアーゼ酵素が構築されることに基づいている。これらの技術
10 においては、新しいゲノム遺伝子座を標的とする都度、新しいヌクレアーゼ
酵素の設計が必要となる(甲3、26)。ZFN、TALENなどの原核生物
タンパク質及びシステムを標的DNAの切断のために真核生物の宿主細胞に
導入するためのトランスフェクション技術は、本件優先日までには慣用的に
使用されるに至っていた(乙2の2、27~29 頁)。これらの遺伝子編集技
15 術は、本件優先日までに、ヒト由来の細胞やゼブラフィッシュの細胞に対し
て適用されていた(乙 87「Precision genome engineering with programmable
DNA-nicking enzyeme(プログラム可能なDNAニッキング酵素による精密
ゲノムエンジニアリング)Genome Research Vol.22(7)・2012 年4月 20 日 Web
公開」、乙 89「High-frequency genome editing using ssDNA oligonucleotides
20 with zinc-finger nucleases(ジンクフィンガーヌクレアーゼを含む ssDNA
オ リ ゴ ヌ ク レ オ チ ド を 使 用 し た 高 頻 度 ゲ ノ ム 編 集 ) Nature Methods
Vol.8,NO.9・2011 年7月 17 日 Web 公開」、乙 91「Efficient construction of
sequence-specific TAL effectors for modulating mammalian transcription(哺乳類
の転写を調節するための配列特異的TALエフェクターの効率的な構築)
25 Nature Biotechnology Vol.29(2)・2011 年1月 19 日 Web 公開」、乙 94「Itrative
capped assembly:rapid and scalable synthesis of repeat-module DNA such as TAL
effectors from individual monomers(反復キャップアセンブリ:個々のモノマ
ーからの TAL エフェクターなどの反復モジュールDNAの迅速かつスケ
ーラブルな合成)Nuleic Acids Research, 2012,Vol.40,No.15・2012 年6月 26 日
Web 公開(論文受領は同年4月6日)」、乙 96「Targeted gene disruption in
5 somatic zebrafish cells using engineered TALENs(操作されたTALENを使用
した体細胞ゼブラフィッシュ細胞の標的遺伝子破壊)Nature Biotechnology
Vol.29,No.8・2011 年8月」)。
⑵ PAM配列
本件優先日前に頒布等された文献には、PAM配列に関して、以下のよう
10 な記載がある。
ア 乙15の1及び2・Devaki Bhayaら「CRISPR/Cas9 Systems in Bacteria and
Archaea: Versatile Small RNAs for Adaptive Defense and Regulation(細菌と古
細菌におけるCRISPR/Cas9システム:適応的防御と制御のための汎用的小
分子RNA)」(Annu. Rev. Genet.; Vol. 45, 273-97・2011年12月)
15 同文献には、「成熟crRNAは、Cas9と一体になり、プロトスペーサー配
列のPAMのすぐ近傍で相同性駆動型切断を行うことにより、結合先の侵
入性二本鎖DNAに干渉する(30)。プロトスペーサーの3’末端やPAM
におけるミスマッチにより、ファージやプラスミドはCRISPRによりコー
ドされた免疫を回避することができる(24、30)」(281頁右欄13~20行
20 目)、「実際に、スペーサー配列とプロトスペーサー配列が完全に合致し
たとしても、PAMにおける変異は、CRISPRによってコードされる免疫
を回避し得ることが実証されている( 23、30、95)。」 (286頁右 欄
「CRISPR Interference」19~23行目)、「したがって、いくつかの場合に
は、配列の相違によってもなお認識されることが許容され得るが、他の場
25 合には、ウイルスゲノム中の単一ヌクレオチド変異によってCRISPRによ
りコードされる防御が妨害され得る。鍵は、切断部位に対する潜在的なミ
スマッチの位置にあるようである。切断部位から離れた突然変異は活性に
影響を与えないが、PAMまたは切断部位のすぐ近くに存在するミスマッ
チは強い影響を有する(18、30、97)。」(287頁右欄20~30行目)、な
どの記載がある。これらによれば、PAM配列における変異・ミスマッチ
5 により、CRISPRによりコードされる免疫が回避されることになるから、
PAM配列が標的DNAの切断に必要であることが開示されているという
ことができる。
イ 乙16・Kira S. Makarovaら「Evolution and classification of the CRISPR/Cas9
systems ( CRISPR/Cas9 シ ス テ ム の 進 化 と 分 類 ) 」 ( Nature Reviews
10 Microbiology; Vol. 9, 467-477・2011年5月9日Web公開)
同文献には、「II 型システムでは、crRNA と結合した Cas9 は、侵入D
NAをおそらく直接に標的とし、その過程にはPAMが必要である。」
(468 頁右欄 10~12 行目)との記載があり、図1において標的DNA
(Proto-spacer)のすぐ側にPAM(赤色部分)が存在することが示され
15 ている。 同文献の図1

ウ 乙 19 の1及び2・Philippe Horvath ら「CRISPR/Cas,the Immune System of
Bacteria and Archaea(CRISPR/Cas 細菌及び古細菌の免疫システム)」
(Science; Vol. 327 (5962), 167-170・2010 年 1 月 8 日)
同文献には、「プロトスペーサーに隣接するファージ配列の分析により、
CRISPR モチーフ(13、16、18、19、33、34)またはプロトスペーサー隣
5 接モチーフ(PAM)(35)と呼ばれる保存配列の存在が明らかになった。
ファージはまた、CRISPR モチーフ(18)を変異させることによって
CRISPR/Cas システムを回避することができ、このことは、CRISPR モチー
フが CRISPR によってコードされる免疫に関与することを示す。さらに、
CRISPR モチーフ変異は、CRISPR スペーサー(34)が一致するにもかか
10 わらず、ファージ耐性の喪失をもたらし得る。CRISPR 遺伝子座において
このモチーフが存在しないことにより、システムが侵入する標的DNAに
特異的に作用することが可能になり、宿主染色体に対する「自己免疫」応
答を妨げる可能性が高い…」(169 頁右欄 15~30 行目)との記載がある。
これによれば、PAM配列(CRISPR モチーフ)を変異させることによっ
15 て CRISPR/Cas9 シ ス テ ム を 回 避 す る こ と が で き 、 P A M 配 列 が
CRISPR/Cas9 システムによる免疫効果(標的DNAの切断)を得るために
必要な存在であることが開示されている。
エ 乙 21 の 1 及 び 2 ・ Rimantas Sapranauskas ら 「 The Streptococcus
thermophilus CRISPR/Cas system provides immunity in Escherichia coli(スト
20 レプトコッカス・サーモフィルスの CRISPR/Cas システムは大腸菌に免
疫を提供する)」(Nucleic Acids Research; Vol. 39 (21), 9275-9282・2011 年
8 月 3 日 Web 公開)
同文献には、「プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)の近傍または
内部の変異によって、プラスミドが CRISPR でエンコードされた免疫から
25 逃れることができることを示す。」(9275 頁「ABSTRACT」の 17~21 行
目)との記載があり、同様にPAM配列が CRISPR/Cas システムによる免
疫効果(標的DNAの切断)を得るために必要な存在であることが開示さ
れている。
オ 乙24の1及び2・Hélène Deveauら「Phage Response to CRISPR-Encoded
Resistance in Streptococcus thermophilus(ストレプトコッカス・サーモフィ
5 ルスにおけるCRISPRコード耐性に対するファージ反応)」(Journal of
Bacteriology; Vol. 190 (4), 1390-1400・2007年12月7日先行公開)
同文献には、「興味深いことに、分析した20個の変異ファージのうちの
7個は、プロトスペーサーに変異を有さなかったが、AGAA隣接配列に変
異を有した。この配列は、S.thermophilusにおけるCRISPR1媒介性ファー
10 ジ耐性において重要な役割を果たすようである。なぜなら、この配列内の
変異により、ファージはCRISPR1を介した抵抗を逃れることができる。」
(1399頁右欄23~28行目)との記載があり、プロトスペーサーの隣接配列
(PAM配列)の変異により、ファージがCRISPRを介した抵抗を逃れる
こと(PAM配列が標的DNAの切断に必要であること)が開示されてい
15 る。
カ 乙25の1及び2・Michael P. Ternsら「CRISPR-Based Adaptive Immune
Systems(CRISPRに基づく適応免疫システム)」(Curr. Opin. Microbiol.;
Vol. 14 (3), 321-327・2011年6月)
同文献には、「3. インベーダーサイレンシング ― crRNAはエフェクタ
20 ー複合体に組み込まれ、複合体を侵入核酸に導く(塩基対相互作用を介し
て)。サイレンシングは、DNAまたはRNAレベルで起こり得、DNA
標的化は、CRISPR-Casシステムの少なくとも一要素として標的DNAに
おけるPAMを必要とする[4~9、26、51]。」(4頁4~7行目)、
「DNAターゲティングシステムの場合、その経路が自身のCRISPR内の
25 対応するスペーサー(侵入者のプロトスペーサーと一致する)をターゲテ
ィングしないことが重要である。PAMは、自己と非自己を区別するため
の1つのメカニズムを提供する。PAMは、いくつかの系によるサイレン
シングに重要であり[6、7、51]、侵入DNA中のCRISPR-Casシステム
によって認識されるPAMは、CRISPR中の、潜在的標的に隣接するリピ
ート配列中には存在しない。」(4頁25~29行目)との記載があり、
5 図1には、インベーダーサイレンシングにおいては、エフェクター複合体
がPAMを目印に外来核酸を認識し、切断することが示されている。これ
らによれば、侵入DNAの切断には、PAM配列が必要であり、PAM配
列は自己と非自己を区別するメカニズムの一つであり、CRISPR中の潜在
的標的に隣接するリピート配列中にはPAM配列が存在しないことが開示
10 されている。
同文献の図1

キ 乙 183 ・ Hélène Deveau ら 「 CRISPR/Cas System and Its Role in Phage-
15 Bacteria Interactions(ファージと細菌の相互作用におけるCRISPR/Cas9シス
テムとその役割)」(Annu Rev Microbiol. 2010; 64: 475-493・2010年6月)
同文献には、「PAM における変異は、S.thermophilus(25)に示され
ているように、ファージ耐性の損失をもたらす。…したがって、CRISPR
遺伝子座にPAM が存在しないことは、自己免疫応答を回避する
20 (43)。」(487頁11~20行目)、「3.CRISPR/Casシステムは、アダプテ
ーションと干渉の少なくとも2つの段階に分けることができる。」「5.P
AMはメカニズムの両段階に不可欠である。」(488~489頁、Summary
Points)との記載がある。これらによれば、PAM配列における変異は、
ファージ耐性の損失、自己免疫応答の回避(切断されない)をもたらし、
PAM配列が、CRISPR/Casシステムの干渉(切断)に重要であることが
開示されている。
ク 乙184・Agnieszka Szczepankowska 「Role of CRISPR/Cas System in the
5 Development of Bacteriophage Resistance (バクテリオファージ耐性の発現
におけるCRISPR/Casシステムの役割)」(Adv Virus Res. 2012; 82: 289-338
・2012年)
同文献には、「更なる研究は、これらの領域の単一点変異でさえ、
CRISPR 防 御 機 構 を 十 分 に 損 な う こ と が で き る こ と を 明 ら か に し た
10 (Deveauら2008年、Lillestolら2009年、Mojicaら2009年)。S.thermophilus で
同定されたプロトスペーサーの場合(Deveauら2008年)のように、PA
M と関連したプロトスペーサーではCRISPR干渉から逃れるこの手段が観
察されていることが言及されるべきである。」(318頁6~11行目)との記
載があり、CRISPR防御機構、CRISPR干渉(切断)にPAM配列が関連し
15 ていることが開示されている。
ケ 文献(乙21の1及び2)記載のStreptococcus thermophilusのCRISPR1、
CRISPR3はともにタイプⅡCRISPR/Casシステム(Cas9が干渉とスペーサ
ー獲得に関与している。)に属し、それぞれのPAM配列は、
NNAGAAW及びNGGNGである(9276頁左欄11~29行目)。
20 ま た 、 文 献 ( 乙 24 の 1 及 び 2 ) 記 載 の S.thermophilus 株 ( 22 ) 由 来の
CRISPR1におけるPAM配列は、NNAGAAWである(1399頁右欄28~34
行目)。
そして、文献(乙20・F. J. M. Mojicaら「Short motif sequences determine
the targets of the prokaryotic CRISPR defence system(短いモチーフ配列は原
25 核生物CRISPR防御系の標的を決定する)」(Microbiology; Vol. 155 (3),
733-740・2009年3月)には、S. thermophilus のCRISPR-10におけるPAM
配列は、NGGNG であり、Streptococcus pyogenes、S. agalactiae及びListeria
monocytogenes のCRISPR-10 におけるPAM配列は、より短いモチーフ
(NGG)であることが記載されている(736頁左欄下から5行目~右欄2
行 。 な お 、 乙 16 及 び 弁 論 の 全 趣 旨 に よ れ ば 、 「 CRISPR-10 」 は II 型
5 CRISPR/Casシステムに対応するものである。)。。
このように、本件優先日前において、Cas9の種類によりPAM配列が異
なることや、PAM配列の具体列が開示されていた。
⑶ NLS、コドン最適化
本件優先日前に頒布等された文献によれば、NLS又はコドン最適化に関
10 して、以下のとおり認められる。
ア 核局在化シグナル(NLS)
本件優先日前の文献(乙36〔Yannick Doyonら・Nature Biotechnology;
Vol. 26 (6), 702-708及びSupplementary Information・2008年5月25日Web公
開〕 、乙 69〔 Claudio Mussolino ら・ Nucleic Acids Research; Vol. 39 (21),
15 9283-9293 ・ 2011 年 8 月 3 日 Web 公 開 〕 、 乙 72 〔 Leaf Huang ら ・ Nonviral
Vectors for Gene Therapy; Chapter 7, 139-142, 147-153・1999年。「…DNA に
NLS を提供することにより、DNA 核輸送を増加させる」などの記載が
ある。〕、乙73〔Annabeth Fieckら・Nucleic Acids Research; Vol. 20 (7),
1785-1791 ・ 1992 年 4 月 〕 、 乙 75 〔 S. B. Primrose ら ・ Principles of Gene
20 Manipulation and Genomics; Seventh Edition, 233- 235・2006年〕、乙76〔米
国特許商標庁・米国特許出願公開第2010/0076057号公報・2010年3月25日
公開〕、乙77〔Edward J. Rebarら・Nature Medicine; Vol. 8 (12), 1427-1432・
2002 年 11 月 4 日 Web 公 開 〕 、 乙 78 〔 Tomas Cermak ら ・ Nucleic Acids
Research; Vol. 39 (12), e82, 1-11・2011年4月14日Web公開〕)によれば、本
25 件優先日において、タンパク質を効率よく染色体が存在する核内へ輸送す
るために、タンパク質に1つ以上の核局在化シグナル(NLS)を付加す
る技術は、周知慣用技術であったことが認められる(乙2の2、29~31
頁)。
な お 、 本 件 優 先 日 後 の 文 献 ( 乙 101 〔 John A. Zuris ら ・ Nature
Biotechnology; Vol 33 (1), 73-80及びSupplementary Information ・2014年10
5 月〕、乙145〔Bin Shenら・Cell Research; Vol. 23 (5), 720-723・2013年4月2
日Web公開〕、乙146〔日本国特許庁・特表2016-505256・2016年2月15日
公表〕)によれば、NLSを有しなくてもCas9による標的DNAの切断(ゲ
ノム編集)が可能であったことが報告されている。
イ コドン最適化
10 本 件 優 先 日 前 の 文 献 ( 乙 75 〔 S. B. Primrose ら ・ Principles of Gene
Manipulation and Genomics; Seventh Edition, 233- 235・2006年「発現宿主の
ために導入遺伝子を『コドン最適化』する」などの記載がある。〕、乙76
〔米国特許商標庁・米国特許出願公開第2010/0076057号公報・2010年3月
25日公開〕、乙79〔Claes Gustafssonら・Trends in Biotechnology; Vol. 22 (7),
15 346-353・2004年7月4日「コードされたタンパク質のアミノ酸配列を変更
することなく、宿主のコドン使用をより厳密に反映するように、標的遺伝
子のまれなコドンを変更すること…を達成するための技術」などの記載が
ある。〕、乙80〔Stacey S. Pattersonら・J. Ind. Microbiol. Biotechnol.; Vol. 32
(3), 115-123・2005年3月11日Web公開〕、乙81〔CR IIIら・Gene Therapy;
20 Vol. 12 (10), 795-802 ・ 2005 年 4 月 〕 、 乙 82 〔 Huirong Gao ら ・ The Plant
Journal; Vol. 61 (1), 176-187・2009年11月9日Web公開〕、乙84〔Vipula K.
Shuklaら・Nature; Vol. 459 (7245), 437-441及びSupplementary Information・
2009年4月29日Web公開「植物での発現を最適化するように設計されたコ
ドン利用パターンを含むように改変され…」などの記載がある。〕、乙
25 180〔Alan Villalobosら・BMC Bioinformatics; Vol.7 (285)・2006年6月6日〕)
等によれば、本件優先日当時において、外来遺伝子を宿主細胞内で効率よ
く発現させるために、宿主細胞に応じてコドンを最適化する技術が利用さ
れており、周知慣用技術であったことが認められる(乙2の2、31~32
頁)。
なお、本件優先日後の文献(乙144〔Takuya Nakayamaら・Genesis: The
5 Journal of Genetics and Development; Vol. 51 (12), 835-843・2013年12月〕「2
つのCas9 バリエーション、一方は元々の細菌のコドンを利用したもの…、
他方は哺乳類遺伝子に最適化されたコドンを代わりに利用する「ヒト化」
Cas9…であって…これらの両方とも、ゼブラフィッシュのゲノムを編集す
ることに成功した」などの記載がある。)によれば、コドン最適化をしな
10 くてもゲノム編集が可能であったことが報告されている。
2-4 真核生物への適用
本件発明者らが第1優先基礎出願に係るCRISPR/Cas9システムを刊行物(乙
1 2 ・ Martin Jinek ら ・ Science; Vol. 337 (6096), 816-821 及 び Supplementary
Information・2012年6月28日)に発表した後、約半年余りのうちに、多くの研
15 究者により、これを真核細胞に適用しゲノム編集をすることができたことが報
告された(乙88「Cas9RNAガイドエンドヌクレアーゼを用いたヒト細胞にお
け る 標 的 化 ゲ ノ ム 工 学 」 〔 Seung Woo Cho 、 Jin-Soo Kim ら ・ Nature
Biotechnology; Vol. 31 (3), 230-232及びSupplementary Information・2013年1月29日
Web公開・ヒト細胞〕、乙90「RNA誘導エンドヌクレアーゼを用いてゲノムを
20 改変するための方法および試薬」〔米国特許商標庁・米国仮特許出願番号第
61/734,256号明細書・2012年12月6日出願・ヒト細胞(KT562)〕、乙93「CRISPR
関 連 哺 乳 類 ゲ ノ ム 工 学 」 〔 Le Cong 、 Feng Zhang ら ・ CRISPR-Assisted
Mammalian Genome Engineering(Science誌への投稿原稿)・2012年10月5日・
哺乳類〕、乙95「Cas9を介したRNAガイド型ヒトゲノム工学」〔Prashant Mali、
25 George M. Churchら・Science; Vol. 339 (6121), 823-826・2013年1月3日Web公開
・ヒト細胞〕、乙97「CRSPR-Casシステムを使用したゼブラフィッシュの効率
的なゲノム編集」〔Woong Y Hwang、J Keith Joungら・Nature Biotechnology;
Vol. 31 (3), 227-229及びSupplementary Information・2013年1月29日Web公開・ゼ
ブラフィッシュ〕、乙98の1及び2「ヒト細胞で編集を行うRNAプログラム
ゲノム」〔Martin Jinekら・eLIFE; Vol. 2, e00471・2013年1月29日・ヒト細胞〕、
5 乙99の1及び2「CRISPR/Cas を用いた多重ゲノム工学」 〔 Le Cong、Feng
Zhangら・Science; Vol. 339 (6121), 819-823及びSupplemental Material・2013年1月
3日Web公開・ヒト細胞・マウス細胞〕)。
2-5 検討
⑴ 第1出願書類の開示内容
10 ア 前記2-2⑴のとおり、第1出願書類に開示された発明は、細胞及び生
物全体の遺伝子操作のため特定のDNA配列を標的とするように設計・操
作されたヌクレアーゼを用いる方法である従来技術に代えて、各新規な標
的配列ごとに新規なタンパク質(ヌクレアーゼ)の設計を要することなく、
標的DNAへのヌクレアーゼ活性の正確な標的化を可能にするという課題
15 を解決する技術を提供するものである(前記2-2⑴ア、イ参照)。
そして、課題解決手段として、「標的DNA」を、「DNA標的化RN
A」及び「部位特異的修飾ポリぺプチド」を含む複合体と接触させること
により、標的DNAを部位特異的に修飾するという技術が開示されている
(CRISPR/Cas9 システム。前記2-2⑴ウ参照)。
20 さらに、当該技術に関し、「標的DNA」が真核細胞の細胞内染色体で
あり得ること、「DNA標的化RNA」には2つのセグメントがあり、
「DNA標的化セグメント」は、標的DNA内の配列に対し相補的なヌク
レオチド配列を含み、ハイブリダイズして標的DNAと相互作用すること
で部位特異的修飾ポリペプチドを標的DNAに導くものであり、「タンパ
25 ク質結合セグメント」は、ハイブリダイズして二本鎖RNAを形成する互
いに相補的なヌクレオチドを含み、部位特異的修飾ポリペプチドと結合す
るものであること、「部位特異的修飾ポリペプチド」は、天然の各種細菌
由来の Cas9 ポリペプチドアミノ酸配列であり、これが「DNA標的化R
NA」の「タンパク質結合セグメント」と結合して複合体となり、「DN
A標的化RNA」の「DNA標的化セグメント」の標的DNAとの前記ハ
5 イブリダイズにより、複合体が標的DNA内の特定の配列に導かれ、複合
体の Cas9 ポリペプチドのヌクレアーゼ活性により、標的DNAを部位特
異的に二重鎖切断することが開示されている(前記2-2⑴エ(ア)~(ウ)参
照)。
そして、実施例においては、実施例1では、3つの異なる標的DNA
10 (A~C)に、DNA標的RNA(DNA標的化セグメントとタンパク質
結合セグメントを含むもの)と部位特異的修飾ポリペプチド(S.pyogenes
由来の Cas9 ポリペプチド)を緩衝液中で複合体としたものを添加したと
ころ、標的DNAを部位特異的に切断することができたこと(図3)、実
施例2では、共通の標的DNAに、由来の異なる Cas9 ポリペプチド及び
15 共通のDNA標的化RNA(DNA標的化セグメントとタンパク質結合セ
グメントを含むもの)を添加したところ、いずれも標的DNAの切断が示
されたこと(図5)が、それぞれ実験結果に基づいて記載されている(前
記2-2⑴オ参照)。
このように、第1出願書類には、標的DNAを部位特異的に修飾する
20 CRISPR/Cas9 システム(DNA標的化RNAと部位特異的修飾ポリペプチ
ドの複合体)の構成と各構成要素の構造や作用、標的DNAの切断(二本
鎖切断)に至る機序・仕組みについて具体的に記載されている。また、実
施例により、複合体を作成し標的DNAを切断することができることも具
体的に示されている。
25 イ 他方、部位特異的DNAヌクレアーゼを操作するための主要な従来技術
には「ZFN」「TALEN」があるところ、前記2-3⑴のとおり、こ
れらの技術に関する研究では、本件優先日前に既にヒト細胞等の真核細胞
のDNAを標的とする遺伝子操作が研究・実施されていた(乙87、89、
91、94、96)。第1出願書類においても、遺伝子改変された細胞の
使用態様として、疾患治療・遺伝子治療等の目的や、農業における遺伝子
5 改変された生物の生産や生物学的研究等の目的のために使用されることが
記載され、ヒトや哺乳類等に使用されることが述べられている(前記2-
2⑴エ(オ))。
また、第1出願書類では、CRISPR/Cas9(DNA標的化RNAと部位特
異的修飾ポリペプチド)を細胞内に導入する方法として、これらをコード
10 するヌクレオチドを含む任意の発現ベクターを、公知の方法(感染、リポ
フェクション、エレクトロポレーション等)で細胞に導入することができ
ること、これらをRNAとして、周知の技術(マイクロインジェクション、
エレクトロポレーション等)で細胞に導入することができること、Cas9
ポリペプチドは、必要に応じて生成物の溶解性を増大させるポリペプチド
15 ドメインを融合させたり、浸透性ドメインに融合させたりして、細胞によ
る取り込みを促進してもよいことなど、発現ベクターやRNA、ポリペプ
チド等を細胞に導入する周知の技術的手段を使用することができることが、
それぞれ具体的に記載されている(前記2-2⑴エ(エ))。
このように、第1出願書類においては、標的DNAを部位特異的に修飾
20 する CRISPR/Cas9 システム(DNA標的化RNAと部位特異的修飾ポリペ
プチドの複合体)について、これを細胞内に導入する方法等に関し従前か
らの周知の技術による方法を記載しているのみならず、CRISPR/Cas9 シス
テムの適用対象についても、従来技術の適用対象を踏まえ、真核細胞が言
及され、想定されていたということができる。
25 ウ 以上のとおり、第1出願書類には、遺伝子操作に関する従来技術に代わ
り得る技術を提供するものとして、標的DNAを部位特異的に修飾する
CRISPR/Cas9 システム(DNA標的化RNAと部位特異的修飾ポリペプチ
ドの複合体)の技術が開示され、その構成や、複合体の作成・細胞内への
導入の方法(真核細胞に対するものを含む。)、その標的DNAの切断の
機序が具体的に記載されている。
5 これらの記載によれば、第1出願書類には、CRISPR/Cas9 システムを真
核細胞内の標的DNAに適用するという技術的思想が開示され、本件優先
日当時の周知技術と組み合わせれば実施することが可能な程度に本件発明
の具体的な説明が記載されていたものと認めるのが相当である。
⑵ 原告の主張(PAM配列)について
10 ア 原告は、第1出願書類全体において、PAM配列に関する記載はなく、
本件優先日時点で、文献においても、PAM配列が真核細胞内の標的DN
A配列を切断するのに必要であることは、何ら記載されていないから、周
知技術とはならないなどと主張する。
イ しかしながら、PAM配列に関しては、被告らが挙げる文献(乙 15、
15 19、25)を含め、本件優先日時点で多くの文献によって言及されており、
PAM配列が、細菌の免疫システムにおいて自己と非自己を区別するだけ
でなく、標的DNAの切断のプロセスに関係しており、標的DNAの切断
のためには、標的DNAの配列の下流にPAM配列が存在することが必要
であり、PAM配列が変異すると CRISPR/Cas システムによる標的DNA
20 の切断に影響が出ることなどが開示されている(前記2-3⑵参照)。す
なわち、細菌(原核生物)の CRISPR/Cas システムを利用したDNA切断
にPAM配列が必要であることは、本件優先日当時、多くの文献に記載さ
れており、当業者には周知であったということができる。
さらに、文献によれば、Cas9 の種類によりPAM配列が異なることや、
25 PAM配列の具体列が開示されている。タイプⅡCRISPR/Cas システムに属
する S.thermophilus の CRISPR1、CRISPR3のPAM配列は、NNAGAAW
及び NGGNG、CRISPR-10 のPAM配列は、NGGNG であり、Streptococcus
pyogenes、S. agalactiae 及び Listeria monocytogenes の CRISPR-10 のPAM
配列は、より短いモチーフである NGG であるとされる(前記2-3⑵ケ
参照)。第1出願書類には、PAM配列について明示的に言及した部分は
5 ないものの、その実施例である S.pyogenes の Cas9 による切断緩衝液中の
実験を説明するために掲載された図3C(実施例1)及び図5B(実施例
2)の標的DNAの配列は、いずれも各図中の非標的鎖と記載された鎖
(ターゲッターRNAのDNA標的化セグメントと相補鎖を形成している
部分の非標的鎖)の3’側に NGG を含むものであり、前記文献上の知見に
10 整合する構造が示されている。したがって、Cas9の種類によりPAM配
列が異なることや、その具体的な配列も、本件優先日には明らかにされて
いた事項である。
CRISPR/Cas9システムは、自然界に存在する部位特異的修飾ポリペプチ
ド(Cas9)の属性を利用し、標的のDNAを切断する仕組みである。本件
15 優先日当時、同仕組みを利用してDNAを切断する場合に原核細胞におい
てのみPAM配列が必要であり、真核細胞においては不要になると考える
ことが通常であったことを窺わせるような事情も見当たらない。そうする
と、本件優先日当時、真核細胞において、CRISPR/Cas9システムを利用し
てDNAを切断する際も、標的DNA配列の下流にPAM配列が存在する
20 必要があるということは、当業者にとって容易に予測し、確認することが
できた事項というべきである。
なお、原告は、PAM配列の認識とCas9タンパク質による切断の関連性
を導き出すことはできないなどと主張する。しかし、前記のとおり、本件
優先日前の文献上PAM配列の存在が知られていたのみならず、PAM
25 配列の不存在又は変異が免疫効果(標的DNAの切断)を妨げるという関
連性が知られていたのであるから、CRISPR/Cas9システムにおいて標的D
NAの切断を成功させるためにPAM配列の存在が必要であることを当業
者において推認することが困難であったとは認められない。
また、原告は、本件における当業者は、CRISPR/Cas9システム自体を研
究している者ではなく、同システムを遺伝子改変のための実験等に利用す
5 る分子生物学分野の一般的研究者、学生等を基準とすべきであることを前
提として、本件優先日当時、PAM配列の知見が当業者の技術常識であっ
たということはできないなどと主張する。
しかしながら、CRISPR/Cas9システムを遺伝子改変のための実験等に利
用しようとするのであれば、そのシステムの仕組みは重要な前提事項であ
10 るから、分子生物学分野の一般的研究者、学生等であっても、当該システ
ムに関し既に公表され、一定期間を経過した文献を通じて得られる程度の
知識は、通常の知識として有しているものと考えられる。このことは、本
件優先日後、CRISPR/Casシステムを利用し、Cas9ヌクレアーゼによりヒ
ト及びマウス細胞で遺伝子座の正確な切断をすることができたことを明ら
15 かにした論文(乙99の1及び2「CRISPR/Casを用いた多重ゲノム工学」
2013年1月3日Web公開)の著者らが、その注22及び23において、それぞれ
本件優先日前にPAM配列の存在について触れていた論文(乙24の1及び
2,「ストレプトコッカス・サーモフィルスにおけるCRISPRコード耐性に
対するファージ反応」(Journal of Bacteriology;Vol.190(4),1390,2007年12月7
20 日)及び乙20,「短いモチーフ配列は原核生物のCRISPR防御系システムの
標的を決定する 」(Microbiology;Vol.155(3),733,2009年3月))を引用してい
ることからも窺うことができる。そして、PAM配列に関する前記の文献
の数及びその内容の具体性に照らせば、原告の主張するような者を当業者
と解したとしても、本件優先日前に明らかにされていたPAM配列に関す
25 る知見を当業者にとっての周知技術又は技術常識として考慮することは妨
げられないというべきである。原告の主張は採用することができない。
ウ 以上によれば、本件優先日において、CRISPR/Cas9システムにおけるP
AM配列の存在及びその役割は当業者の技術常識の範疇に属するものであ
ったと認めるのが相当であり、原告の主張を採用することはできない。
⑶ 原告の主張(NLS、コドン最適化)について
5 ア 原告は、本件優先日時点で、NLS・コドン最適化は、周知技術ではな
かったなどと主張する。
イ しかしながら、前記のとおり、本件優先日において、タンパク質を効率
よく染色体が存在する核内へ輸送するために、核局在化シグナル(NLS)
を付加する技術が利用されていたことが認められるから、NLSは周知慣
10 用技術であったというべきである(前記2-3⑶)。
また、前記のとおり、本件優先日において、外来遺伝子を宿主細胞内で
効率よく発現させるために、宿主細胞に応じてコドンを最適化する技術が
利用されていたことが認められるから、コドン最適化についても周知慣用
技術であったというべきである(前記2-3⑶)。
15 なお、そもそも、NLSを有さず、又はコドン最適化を実施しなくても、
Cas9による標的DNAの切断(ゲノム編集)が可能であったことが認めら
れるから、CRISPR/Cas9システムに必須の技術であったとはいい難い(前
記2-3⑶)。
ウ よって、本件優先日の時点で、CRISPR/Cas9システムにおいて、NLS
20 及びコドン最適化は、必須の技術ではなかったが、いずれも、多くの文献
において実施が報告されており、CRISPR/Cas9システムにも応用可能な周
知技術であったと認めるのが相当である。よって、原告の主張を採用する
ことはできない。
⑷ 原告の主張(真核細胞への適用)について
25 ア 原告は、本件発明者らは、本件優先日において、真核細胞への適用につ
いて実験に成功しておらず、また、CRISPR/Cas9 システムを真核細胞に適
用する場合には、①RNAの分解(甲 49~51)、②構成及び複合体の形
成と持続性(甲 48、49、52、53)、③毒性(甲 40、41、54)、④複雑な
真核生物環境でのクロマチン結合DNAの作用の失敗(甲 38、48、49、
52、55、56、57、60)等の障壁があるから、過度の試行錯誤なく実施する
5 ことができるものとはいえないなどと主張する。
イ しかしながら、本件優先日時点で本件発明者らが実験に成功していなか
ったというだけで、第1出願書類における本件発明の開示が不十分になる
わけではない。第1出願書類の記載に基づき、過度の試行錯誤を要するま
でもなく、本件発明を実施することができると認められるのであれば、開
10 示としては十分である。そもそも、生命科学の実験において、実験条件を
変えながら最適な条件を見つけることは通常の試行錯誤の過程であると考
えられる。原告が指摘するメールの内容等は、いずれも通常の試行錯誤の
過程における仮想的な可能性や懸念について意見交換等しているものにす
ぎず、それだけでは、当業者において、過度の試行錯誤を要するような障
15 壁があったことを認めることは困難である。
むしろ、本件発明者らが第1優先基礎出願に係る CRISPR/Cas9 システム
を刊行物(乙 12・2012 年 6 月 28 日)に発表した後、2012 年 10 月から
2013 年 1 月までの短期間に、多くの研究者により、CRISPR/Cas9 システム
を真核細胞に適用しゲノム編集ができたことが報告されたことが認められ
20 る(前記2-4参照)。このことは、当業者において、第1出願書類の記
載に基づき、過度の試行錯誤を要するまでもなく、本件発明を実施するこ
とができたことを示すものである。
ウ そうすると、CRISPR/Cas9 システムの真核細胞への適用について、仮に、
原告の指摘するような問題点があったとしても、過度の試行錯誤を要する
25 ものとはいえず、原告の主張を採用することはできない。
⑸ 原告の主張(実施例の要否)について
原告は、本件発明は、ライフサイエンス分野の先駆的技術に係るものであ
って効果の予測が難しく、真核細胞への適用には種々の障壁等も存在するか
ら、実施例のない第1出願書類の明細書の記載から、過度の試行錯誤を要す
ることなく CRISPR/Cas9 システムの真核細胞への適用をすることができると
5 はいえないなどと主張する。
しかしながら、前記のとおり、第1出願書類には、CRISPR/Cas9 システム
を真核細胞内の標的DNAに適用するという技術的思想が開示され、本件優
先日当時の周知技術と組み合わせれば本件発明を実施することが可能な程度
に具体的な記載がされていたと認められる以上、実施例の記載がなくても、
10 なお、本件発明について本件優先日を出願日とする優先権の主張を認めるこ
とは妨げられないというべきである。
原告の主張を採用することはできない。
⑹ 以上によれば、本件発明は、第1出願書類全体の記載及び出願時の技術常
識に基づき、実質的にみれば開示されていたというべきであり、本件特許に
15 係る分割出願の対象となった国際特許出願がパリ条約4条C⑴の優先期間内
にされたものであることは当裁判所に顕著であるから、本件発明は、パリ条
約4条A⑴により第1優先基礎出願に基づく優先権主張の利益を享受するこ
とができるものと認められる。
3 取消事由1(拡大先願、甲1)、取消事由2(拡大先願、甲2)
20 ⑴ 原告は、本件発明は、出願日(第3優先基礎出願の出願日である平成25
年1月28日)前の外国語特許出願であって、その出願後に国際公開がされ
たPCT/US2013/074667(国際公開第2014/09362
2号、特表2016-501531号公報/甲1)の国際出願日(優先基礎
出願の出願日平成24年12月12日)における国際特許出願の明細書、請
25 求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、またこの出願時において、
その出願人が上記外国語特許出願の出願人と同一でもないから、特許法18
4条の13において準用する同法29条の2の規定により、特許を受けるこ
とができないと主張する(取消事由1)。
⑵ また、原告は、本件発明につき、出願日(第3優先基礎出願の出願日であ
る平成25年1月28日)前の外国語特許出願であって、その出願後に国際
5 公開がされたPCT/KR2013/009488(国際公開第2014/
065596号、特表2016-500003号公報/甲2)の国際出願日
(優先基礎出願の出願日平成24年10月23日)における国際特許出願の
明細書、請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、またこの出願
の時において、その出願人が上記外国語特許出願の出願人と同一でもないか
10 ら、特許法184条の13において準用する同法29条の2の規定により、
特許を受けることができないと主張する(取消事由2)。
⑶ しかし、前記のとおり、本件発明は、第1優先基礎出願に基づく優先権主
張の利益を享受することができるから、特許法184条の13において準用
する同法29条の2の規定の適用に当たっては、本件発明が本件優先日(平
15 成24年5月25日)に出願されたものとして取り扱った本件審決の判断に
誤りはない。よって、原告の主張⑴、⑵は前提を欠き、甲1及び甲2に係る
各国際特許出願は、いずれも本件発明との関係では、同条の「他の特許出願」
に該当しないから、原告の前記各主張は、いずれも採用することができない。
第5 結論
20 以上のとおり、本件審決に判断の誤りはなく、原告の請求は理由がないから、
主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部

25 裁判長裁判官
清 水 響
裁判官
5 菊 池 絵 理

裁判官
10 頼 晋 一

(別紙)
特許請求の範囲の記載
【請求項1】
標的DNAを修飾する方法であって、
5 細胞内で該標的DNAを複合体と接触させることを含み、
該複合体は、
(a)Cas9ポリペプチド並びに
(b)DNA標的化RNAであって、
(i)該標的DNA内の配列に対して相補的なヌクレオチド配列を含むDNA標的化セ
10 グメント;および
(ii)前記Cas9ポリペプチドと相互作用するタンパク質結合セグメントであっ
て、該タンパク質結合セグメントは、ハイブリダイズして二本鎖RNA(dsRNA)を
形成する、2つの相補的な一続きのヌクレオチドを含み、前記dsRNAは、tracr
RNAおよびCRISPR RNA(crRNA)の相補的ヌクレオチドを含む、該タン
15 パク質結合セグメント
を含むDNA標的化RNA
を含む複合体であり、
該細胞は、植物細胞、動物細胞または単細胞真核生物であり、
該細胞は、インビボのヒト細胞ではなく、ヒト生殖細胞ではなく、およびヒト胚細胞で
20 はなく、
該修飾は標的DNAの切断である、
前記標的DNAを修飾する方法。
【請求項2】
前記細胞が動物細胞であり、該動物細胞が哺乳類細胞である、請求項1に記載の方法。
25 【請求項6】
前記標的DNAが染色体DNAである、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記接触が、
(a)前記Cas9ポリペプチド又は前記Cas9ポリペプチドをコードするポリヌクレ
30 オチド、および
(b)前記DNA標的化RNAまたは前記DNA標的化RNAをコードする1つまたはそ
れ以上のDNAポリヌクレオチド
を前記細胞に導入することを含む、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
35 前記Cas9ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、および前記DNA標的化R
NAをコードする1つまたはそれ以上のDNAポリヌクレオチド:の1つまたはそれ以上
が、組み換え発現ベクターである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記組み換え発現ベクターが、ウイルスベクターである、請求項16に記載の方法。
40 【請求項18】
前記ウイルスベクターが、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノ
ウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクターおよび単純疱疹ウイルスベクターからな
る群から選択される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
5 前記組み換え発現ベクターが、プラスミドベクター、コスミドベクター、ミニサークル
ベクター、ファージベクターおよびウイルスベクターからなる群から選択される、請求項
16に記載の方法。
【請求項21】
前記Cas9ポリペプチドのアミノ末端に、タンパク質形質導入ドメインが共有結合的
10 に連結されており、前記タンパク質形質導入ドメインは、前記Cas9ポリペプチドの前
記細胞の基質から小器官内への移行を促進する、請求項1~20のいずれか一項に記載の
方法。
【請求項22】
前記Cas9ポリペプチドのカルボキシル末端に、タンパク質形質導入ドメインが共有
15 結合的に連結されており、前記タンパク質形質導入ドメインは、前記Cas9ポリペプチ
ドの前記細胞の基質から小器官内への移行を促進する、請求項1~20のいずれか一項に
記載の方法。
【請求項25】
前記標的DNAが、非相同末端結合(NHEJ)修復機構により編集される、請求項1
20 ~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
組成物であって、
(a)Cas9ポリペプチド、または該Cas9ポリペプチドをコードするポリヌクレ
オチド、並びに
25 (b)DNA標的化RNA、または該DNA標的化RNAをコードする1つまたはそれ
以上のDNAポリヌクレオチドを含み、
該DNA標的化RNAは、
(i)標的DNA内の配列に対して相補的なヌクレオチド配列を含む、DNA標的化セ
グメントであって、該標的DNAが植物細胞、動物細胞または単細胞真核生物内に存在す
30 るDNA標的化セグメント、および
(ii)前記Cas9ポリペプチドと相互作用するタンパク質結合セグメントであっ
て、該タンパク質結合セグメントは、ハイブリダイズして二本鎖RNA(dsRNA)を
形成する2つの相補的な一続きのヌクレオチドを含み、前記dsRNAは、tracrR
NAおよびCRISPR RNA(crRNA)の相補的ヌクレオチドを含む該タンパク
35 質結合セグメント
を含むDNA標的化RNAである、
前記組成物であって、
真核生物細胞内で、該標的DNAを、前記Cas9ポリペプチドと前記DNA標的化R
NAを含む複合体と接触させることにより、前記Cas9ポリペプチドを標的DNAへと
40 導くための組成物。
【請求項29】
組成物であって、
(a)Cas9ポリペプチド、または該Cas9ポリペプチドをコードするポリヌクレ
オチド、並びに
5 (b)DNA標的化RNA、または該DNA標的化RNAをコードする1つまたはそれ
以上のDNAポリヌクレオチドを含み、
該DNA標的化RNAは、
(i)標的DNA内の18~25ヌクレオチド長の標的配列に対して、100%の相補
性を有するヌクレオチド配列を含むDNA標的化セグメントであって、該標的DNAが植
10 物細胞、動物細胞または単細胞真核生物内に存在するDNA標的化セグメント、および
(ii)前記Cas9ポリペプチドと相互作用するタンパク質結合セグメントであっ
て、該タンパク質結合セグメントは、ハイブリダイズして二本鎖RNA(dsRNA)を
形成する2つの相補的な一続きのヌクレオチドを含み、前記dsRNAは、tracrR
NAおよびCRISPR RNA(crRNA)の相補的ヌクレオチドを含む該タンパク
15 質結合セグメント
を含むDNA標的化RNAである、
前記組成物。
【請求項30】
組成物であって、
20 (a)Cas9ポリペプチド、または該Cas9ポリペプチドをコードするポリヌクレ
オチド、並びに
(b)DNA標的化RNA、または該DNA標的化RNAをコードする1つまたはそれ
以上のDNAポリヌクレオチドを含み、
該DNA標的化RNAは、
25 (i)標的DNA内の配列に対して相補的なヌクレオチド配列を含む、DNA標的化セ
グメントであって、該標的DNAが植物細胞、動物細胞または単細胞真核生物内に存在す
るDNA標的化セグメント、および
(ii)前記Cas9ポリペプチドと相互作用するタンパク質結合セグメントであっ
て、該タンパク質結合セグメントは、ハイブリダイズして二本鎖RNA(dsRNA)を
30 形成する2つの相補的な一続きのヌクレオチドを含み、前記dsRNAは、tracrR
NAおよびCRISPR RNA(crRNA)の相補的ヌクレオチドを含む該タンパク
質結合セグメント
を含むDNA標的化RNAであり、
以下の(A)~(D)
35 (A)前記2つの相補的な一続きのヌクレオチドは、ハイブリダイズして8~15塩基対
または15~18塩基対を形成すること:
(B)前記Cas9ポリペプチドのアミノ末端に、タンパク質形質導入ドメインが共有結
合的に連結されており、前記タンパク質形質導入ドメインは、該Cas9ポリペプチドの
細胞の基質から小器官内への移行を促進すること:
40 (C)前記Cas9ポリペプチドのカルボキシル末端に、タンパク質形質導入ドメインが
共有結合的に連結されており、前記タンパク質形質導入ドメインは、前記Cas9ポリペ
プチドの細胞の基質から小器官内への移行を促進すること:
(D)前記Cas9ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、および前記DNA標的
化RNAをコードする1つまたはそれ以上のDNAポリヌクレオチド:の1つまたはそれ
5 以上が、ウイルス発現ベクターであること:
の少なくとも一つの特徴を有する、前記組成物。
【請求項33】
前記標的DNAが染色体DNAである、請求項28~32のいずれか一項に記載の組成
物。
10 【請求項34】
前記Cas9ポリペプチドのアミノ末端に、タンパク質形質導入ドメインが共有結合的
に連結されており、前記タンパク質形質導入ドメインは、該Cas9ポリペプチドの細胞
の基質から小器官内への移行を促進する、請求項28~33のいずれか一項に記載の組成
物。
15 【請求項35】
前記Cas9ポリペプチドのカルボキシル末端に、タンパク質形質導入ドメインが共有
結合的に連結されており、前記タンパク質形質導入ドメインは、前記Cas9ポリペプチ
ドの細胞の基質から小器官内への移行を促進する、請求項28~33のいずれか一項に記
載の組成物。
20 【請求項36】
前記Cas9ポリペプチドと前記DNA標的化RNAは、インビボのヒト細胞、ではな
い真核生物細胞中に存在する、請求項28~35のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項45】
前記Cas9ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、および前記DNA標的化R
25 NAをコードする1つまたはそれ以上のDNAポリヌクレオチド:の1つまたはそれ以上
が、組み換え発現ベクターである、請求項28~44のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項46】
前記組み換え発現ベクターが、ウイルスベクターである、請求項45に記載の組成物。
【請求項47】
30 前記ウイルスベクターが、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノ
ウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクターおよび単純疱疹ウイルスベクターからな
る群から選択される、請求項46に記載の組成物。
【請求項48】
前記組み換え発現ベクターが、プラスミドベクター、コスミドベクター、ミニサークル
35 ベクター、ファージベクターおよびウイルスベクターからなる群から選択される、請求項
45に記載の組成物。
【請求項51】
DNA標的化RNA、または該DNA標的化RNAをコードするDNAポリヌクレオチ
ドを含有する組成物であって、
40 該DNA標的化RNAが
(a)標的DNA内の標的配列に対して相補的なヌクレオチド配列を含む、DNA標的化
セグメントであって、該標的DNAが植物細胞、動物細胞または単細胞真核生物内に存在
するDNA標的化セグメント、および
(b)Cas9タンパク質と相互作用するタンパク質結合セグメントであって、該タンパ
5 ク質結合セグメントは、ハイブリダイズして二本鎖RNA(dsRNA)を形成する2つ
の相補的な一続きのヌクレオチドを含み、前記dsRNAは、tracrRNAおよびC
RISPR RNA(crRNA)の相補的ヌクレオチドを含むタンパク質結合セグメン

を含み、
10 真核生物細胞内で、該標的DNAを、前記Cas9ポリペプチドと前記DNA標的化R
NAを含む複合体と接触させることにより、前記Cas9ポリペプチドを標的DNAへと
導くための組成物。
【請求項52】
DNA標的化RNA、または該DNA標的化RNAをコードするDNAポリヌクレオチ
15 ドであって、
該DNA標的化RNAが
(a)標的DNA内の18~25ヌクレオチド長の標的配列に対して、100%の相補性
を有するヌクレオチド配列を含むDNA標的化セグメントであって、該標的DNAが植物
細胞、動物細胞または単細胞真核生物内に存在するDNA標的化セグメント、および
20 (b)Cas9タンパク質と相互作用するタンパク質結合セグメントであって、該タンパ
ク質結合セグメントは、ハイブリダイズして二本鎖RNA(dsRNA)を形成する2つ
の相補的な一続きのヌクレオチドを含み、前記dsRNAは、tracrRNAおよびC
RISPR RNA(crRNA)の相補的ヌクレオチドを含むタンパク質結合セグメン

25 を含む、前記DNA標的化RNA、または該DNA標的化RNAをコードするDNAポ
リヌクレオチド。
【請求項53】
DNA標的化RNA、または該DNA標的化RNAをコードするDNAポリヌクレオチ
ドであって、
30 該DNA標的化RNAが
(a)標的DNA内の標的配列に対して相補的なヌクレオチド配列を含む、DNA標的化
セグメントであって、該標的DNAが植物細胞、動物細胞または単細胞真核生物内に存在
するDNA標的化セグメント、および
(b)Cas9タンパク質と相互作用するタンパク質結合セグメントであって、該タンパ
35 ク質結合セグメントは、ハイブリダイズして二本鎖RNA(dsRNA)を形成する2つ
の相補的な一続きのヌクレオチドを含み、前記dsRNAは、tracrRNAおよびC
RISPR RNA(crRNA)の相補的ヌクレオチドを含むタンパク質結合セグメン

を含み、
40 以下の(A)および(B)
(A)前記2つの相補的な一続きのヌクレオチドは、ハイブリダイズして8~15塩基対
または15~18塩基対を形成すること:
(B)前記DNA標的化RNAをコードするDNAポリヌクレオチドが、ウイルス発現ベ
クターであること:
5 の少なくとも一つの特徴を有する、前記DNA標的化RNA、または該DNA標的化RN
AをコードするDNAポリヌクレオチド。
【請求項56】
前記標的DNAが染色体DNAである、請求項51、54~55のいずれか一項に記載
の組成物、または、請求項52~55のいずれか一項に記載のDNA標的化RNAもしく
10 は該DNA標的化RNAをコードするDNAポリヌクレオチド。
【請求項65】
1つまたはそれ以上の核酸であって、
(a)DNA標的化RNAをコードする、1つまたはそれ以上のヌクレオチド配列を含
み、該DNA標的化RNAは、
15 (i)標的DNA内の標的配列に対して相補的なヌクレオチド配列を含むDNA標的化
セグメント、および
(ii)Cas9ポリペプチドと相互作用するタンパク質結合セグメントであって、該
タンパク質結合セグメントは、ハイブリダイズして二本鎖RNA(dsRNA)を形成す
る2つの相補的な一続きのヌクレオチドを含み、前記dsRNAは、tracrRNAお
20 よびCRISPR RNA(crRNA)の相補的ヌクレオチドを含む該タンパク質結合
セグメント
を含むDNA標的化RNAであり、
前記1つまたはそれ以上のヌクレオチド配列は、真核生物細胞において機能的な1つま
たはそれ以上のプロモーターに作動可能に連結しており、並びに、
25 (b)Cas9ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列であって、前記Cas9ポリ
ペプチドをコードするヌクレオチド配列は、真核生物細胞において機能的なプロモーター
に作動可能に連結している、ヌクレオチド配列、
を含んでもよい、
前記1つまたはそれ以上の核酸。
30 【請求項66】
前記核酸は1つまたはそれ以上の組み換え発現ベクターである、請求項65に記載の1
つまたはそれ以上の核酸。
【請求項67】
前記1つまたはそれ以上の組み換え発現ベクターが、1つまたはそれ以上のウイルスベ
35 クターである、請求項66に記載の1つまたはそれ以上の核酸。
【請求項68】
前記1つまたはそれ以上のウイルスベクターが、レトロウイルスベクター、レンチウイ
ルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクターおよび単純疱疹ウ
イルスベクターからなる群から選択される、請求項67に記載の1つまたはそれ以上の核
40 酸。
【請求項69】
前記1つまたはそれ以上の組み換え発現ベクターが、プラスミドベクター、コスミドベ
クター、ミニサークルベクター、ファージベクターおよびウイルスベクターからなる群か
ら選択される、請求項66に記載の1つまたはそれ以上の核酸。
5 【請求項70】
前記Cas9ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列が、前記Cas9ポリペプチ
ドのアミノ末端またはカルボキシル末端に共有結合的に連結された、タンパク質形質導入
ドメインをコードし、ここで、前記タンパク質形質導入ドメインは、前記Cas9ポリペ
プチドの前記真核生物細胞の基質から小器官内への移行を促進する、請求項65~69の
10 いずれか一項に記載の1つまたはそれ以上の核酸。
【請求項73】
前記標的DNAが染色体DNAである、請求項65~72のいずれか一項に記載の1つ
またはそれ以上の核酸。
【請求項76】
15 キットであって、
(a)Cas9ポリペプチドまたは該Cas9ポリペプチドをコードする核酸、並びに
(b)DNA標的化RNA、または該DNA標的化RNAをコードする1つまたはそれ以
上の核酸を含み、
前記DNA標的化RNAは、
20 (i)標的DNA内の配列に対して相補的なヌクレオチド配列を含むDNA標的化セグ
メントであって、該標的DNAが植物細胞、動物細胞または単細胞真核生物内に存在する
DNA標的化セグメント、および
(ii)前記Cas9ポリペプチドと相互作用するタンパク質結合セグメントであっ
て、該タンパク質結合セグメントは、ハイブリダイズして二本鎖RNA(dsRNA)を
25 形成する2つの相補的な一続きのヌクレオチドを含み、該dsRNAは、tracrRN
AおよびCRISPR RNA(crRNA)の相補的ヌクレオチドを含む該タンパク質
結合セグメント
を含むDNA標的化RNAであり、
(a)および(b)は単一のまたは別々の容器中に存在する、
30 前記キットであって、
真核生物細胞内で、該標的DNAを、前記Cas9ポリペプチドと前記DNA標的化R
NAを含む複合体と接触させることにより、前記Cas9ポリペプチドを標的DNAへと
導くためのキット。
【請求項77】
35 キットであって、
(a)Cas9ポリペプチドまたは該Cas9ポリペプチドをコードする核酸、並びに
(b)DNA標的化RNA、または該DNA標的化RNAをコードする1つまたはそれ以
上の核酸を含み、
前記DNA標的化RNAは、
40 (i)標的DNA内の18~25ヌクレオチド長の標的配列に対して、100%の相補
性を有するヌクレオチドを含むDNA標的化セグメントであって、該標的DNAが植物細
胞、動物細胞または単細胞真核生物内に存在するDNA標的化セグメント、および
(ii)前記Cas9ポリペプチドと相互作用するタンパク質結合セグメントであっ
て、該タンパク質結合セグメントは、ハイブリダイズして二本鎖RNA(dsRNA)を
5 形成する2つの相補的な一続きのヌクレオチドを含み、該dsRNAは、tracrRN
AおよびCRISPR RNA(crRNA)の相補的ヌクレオチドを含む該タンパク質
結合セグメント
を含むDNA標的化RNAであり、
(a)および(b)は単一のまたは別々の容器中に存在する、
10 前記キット。
【請求項78】
キットであって、
(a)Cas9ポリペプチドまたは該Cas9ポリペプチドをコードする核酸、並びに
(b)DNA標的化RNA、または該DNA標的化RNAをコードする1つまたはそれ以
15 上の核酸を含み、
前記DNA標的化RNAは、
(i)標的DNA内の配列に対して相補的なヌクレオチド配列を含むDNA標的化セグ
メントであって、該標的DNAが植物細胞、動物細胞または単細胞真核生物内に存在する
DNA標的化セグメント、および
20 (ii)前記Cas9ポリペプチドと相互作用するタンパク質結合セグメントであっ
て、該タンパク質結合セグメントは、ハイブリダイズして二本鎖RNA(dsRNA)を
形成する2つの相補的な一続きのヌクレオチドを含み、該dsRNAは、tracrRN
AおよびCRISPR RNA(crRNA)の相補的ヌクレオチドを含む該タンパク質
結合セグメント
25 を含むDNA標的化RNAであり、
(a)および(b)は単一のまたは別々の容器中に存在する、
前記キットであり、
以下の(A)および(B)
(A)前記Cas9ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、および前記DNA標的
30 化RNAをコードする1つまたはそれ以上のDNAポリヌクレオチド:の1つまたはそれ
以上が、ウイルス発現ベクターであること:
(B)前記Cas9ポリペプチドのカルボキシル末端またはアミノ末端に、タンパク質形
質導入ドメインが共有結合的に連結されており、前記タンパク質形質導入ドメインは、前
記Cas9ポリペプチドの細胞の基質から小器官内への移行を促進すること:
35 の少なくとも一つの特徴を有する、前記キット。
【請求項79】
前記標的DNAが染色体DNAである、請求項76~78のいずれか一項に記載のキッ
ト。
【請求項80】
40 前記Cas9ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む前記核酸、および前記
DNA標的化RNAをコードするヌクレオチド配列を含む前記1つまたはそれ以上の核
酸:の1つまたはそれ以上が、組み換え発現ベクターである、請求項76~79のいずれ
か一項に記載のキット。
【請求項81】
5 前記組み換え発現ベクターが、ウイルスベクターである、請求項80に記載のキット。
【請求項82】
前記ウイルスベクターが、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノ
ウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクターおよび単純疱疹ウイルスベクターからな
る群から選択される、請求項81に記載のキット。
10 【請求項83】
前記組み換え発現ベクターが、プラスミドベクター、コスミドベクター、ミニサークル
ベクター、ファージベクターおよびウイルスベクターからなる群から選択される、請求項
80に記載のキット。
【請求項84】
15 タンパク質形質導入ドメインが、前記Cas9ポリペプチドのアミノ末端またはカルボ
キシル末端に共有結合的に連結されており、ここで、前記タンパク質形質導入ドメイン
は、前記Cas9ポリペプチドの細胞の基質から小器官内への移行を促進する、請求項7
6~83のいずれか一項に記載のキット。
【請求項95】
20 患者の治療的な処置方法において用いるための、請求項28~64のいずれか一項に記
載の組成物、請求項52~64のいずれか一項に記載のDNA標的化RNA、請求項52
~56、64のいずれか一項に記載の、前記DNA標的化RNAをコードするDNAポリ
ヌクレオチド、請求項65~75のいずれか一項に記載の1つまたはそれ以上の核酸、ま
たは請求項76~94のいずれか一項に記載のキット。
25 【請求項96】
遺伝子改変された真核生物細胞であって、
1つまたはそれ以上の
(a)DNA標的化RNAおよび/または該DNA標的化RNAをコードする核酸であっ
て、該DNA標的化RNAは、
30 (i)標的DNA内の配列に対して相補的なヌクレオチド配列を含むDNA標的化セグ
メント、および
(ii)Cas9ポリペプチドと相互作用するタンパク質結合セグメントであって、ハ
イブリダイズして二本鎖RNA(dsRNA)を形成する2つの相補的な一続きのヌクレ
オチドを含み、該dsRNAは、tracrRNAおよびCRISPR RNA(crR
35 NA)の相補的ヌクレオチドを含む前記タンパク質結合セグメント
を含む単一分子DNA標的化RNA、並びに、
(b)前記Cas9ポリペプチドおよび/またはCas9ポリペプチドをコードする核酸
を含む前記遺伝子改変された真核生物細胞であって、
インビボのヒト細胞ではなく、ヒト生殖細胞ではなく、およびヒト胚細胞ではない、前
40 記遺伝子改変された真核生物細胞。
【請求項99】
前記標的DNAが前記真核生物細胞の染色体DNAである、請求項96~98のいずれ
か一項に記載の遺伝子改変された真核生物細胞。
【請求項100】
5 タンパク質形質導入ドメインが、前記Cas9ポリペプチドのアミノ末端またはカルボ
キシル末端に共有結合的に連結されており、ここで、前記タンパク質形質導入ドメイン
は、前記Cas9ポリペプチドの細胞基質から細胞小器官内への移行を促進する、請求項
96~99のいずれか一項に記載の遺伝子改変された真核生物細胞。
【請求項111】
10 前記遺伝子改変された真核生物細胞が、インビボのヒト細胞ではない、請求項96~1
10のいずれか一項に記載の遺伝子改変された真核生物細胞。
以上

(別紙)
本件発明の概要
(下線部は、第1出願書類に記載のない部分である。また、【 】内の数字は、本件明細
書の段落番号を指す。)
1 背景技術
近年、特定のDNA配列を標的とするよう設計された改変ヌクレアーゼ酵素が、標的
化された遺伝子欠失、遺伝子置換および遺伝子修復、並びに外来性配列(導入遺伝子)
のゲノムへの挿入を可能にする、細胞および生物全体を遺伝子操作するための強力なツ
10 ールとして、かなりの関心を集めている。部位特異的DNAヌクレアーゼを改変するた
めの2つの主な技術が登場しており、それらは共に、配列非特異的DNAエンドヌクレ
アーゼドメインが改変DNA結合ドメインに融合されたキメラエンドヌクレアーゼ酵素
の構築に基づいている。しかし、それぞれの新たなゲノム遺伝子座を標的とするには新
規のヌクレアーゼ酵素の設計が必要であるが、このことから、これらのアプローチは多
15 大な時間を要し且つ高価なものとなっている(段落【0005】)。
2 解決しようとする課題
それぞれの新たな標的配列のために新たなタンパク質を設計する必要がない形で、ヌ
クレアーゼ活性(または他のタンパク質活性)を標的DNA内の異なる場所へ正確にタ
ーゲティングすることを可能にする技術が、この分野で必要とされている(段落【00
20 07】)。
3 課題を解決する手段
本件発明は「標的DNA」を、「DNA標的化RNA」及び「部位特異的修飾ポリペ
プチド」と接触させることにより、標的DNAを部位特異的に切断又は修飾するという
ものである(段落【0008】【0021】【0024】【0107】【0198】)。
25 4 発明を実施するための形態
ア 標的DNA
標的DNAは、標的部位(標的配列又は標的プロトスペーサーDNAともいう。)
を含むDNAポリヌクレオチドであり、植物細胞、動物細胞等の真核細胞内の染色体
DNA等であり得る(段落【0069】【0021】【0024】【0218】【0
30 219】)。
標的部位は、DNA標的化RNA(後記)のDNA標的化セグメント(後記)が結
合する標的DNA内に存在する核酸配列を指す。DNA標的化RNAに対し相補的で
それとハイブリダイズする標的DNA鎖は相補鎖と称され、相補鎖に対し相補的な
(従ってDNA標的化RNAに対し相補的でない)標的DNA鎖は非相補鎖と称され
35 る(段落【0075】、図12参照)。
標的DNAの部位特異的切断は、部位特異的修飾ポリペプチド(後記)がCas9
である場合、標的DNA内のプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)によって決定
される位置で起こる。例えば、S.ピオゲネス由来のCas9が用いられる場合、非
相補鎖のPAM配列は5’-XGG-3’であり、ここでXはあらゆるDNAヌクレ
40 オチドであり、Xは標的DNAの非相補鎖の標的配列のすぐ3’側である。従って、
相補鎖のPAM配列は5’-CCY-3’であり、ここでYはあらゆるDNAヌクレ
オチドであり、Yは標的DNAの相補鎖の標的配列のすぐ5’側である(段落【00
75】【0200】図10)。様々な種に由来するCas9タンパク質は、標的DN
A内に異なるPAM配列を必要とし得る(段落【0201】)。
5 イ DNA標的化RNA
DNA標的化RNAは、DNA標的化セグメント(標的DNA内の配列に対し相補
的なヌクレオチド配列を含む。)と、タンパク質結合セグメント(ハイブリダイズし
てdsRNA二本鎖を形成する互いに相補的な2本のヌクレオチド鎖を含む。)の2
つのセグメントを含む。DNA標的化セグメントは、ハイブリダイゼーションを介し
10 て配列特異的な様式で標的DNAと相互作用することにより、「タンパク質結合セグ
メント」に結合した部位特異的修飾ポリペプチドを、標的DNA内の特定のヌクレオ
チド配列に導く(段落【0074】~【0076】【0108】【0109】【01
13】、図1A、図1B)。
また、DNA標的化RNAは、crRNA(標的化RNA。DNA標的化セグメン
15 ト一本鎖と、タンパク質結合セグメントのdsRNA二本鎖の半分を形成するヌクレ
オチド鎖を含む。)と、これに対応するtracrRNA(活性化RNA。タンパク
質結合セグメントのdsRNA二本鎖のもう半分を形成するヌクレオチド鎖を含む。)
を含んでおり、これらの2つのヌクレオチドが別個のRNA分子である二分子DNA
標的化RNAと、2つのヌクレオチドがリンカーによって連結された単一分子DNA
20 標的化RNA(sgRNA)があ
る(段 落【0 076 】 【008 図1
0】~【0082】【0114】
【0121】【0156】~【0
159】、図1A、図1B)。
25 そして、様々な種由来の tr
acr RNA のヌク レ オチド配
列、crRNAの二本鎖形成セグ
メントのヌクレオチド配列を開示
する(段落【0115】【011
30 6】【0123】~【0125】
【0156】~【0159】、図
6~9 、【0 033 】 の図6~
9)。
ウ 部位特異的修飾ポリペプチド
35 部位特異的修飾ポリペプチド
は、Cas9であり(段落【00
21】【0132】【0136】
【0200】)、DNA標的化R
NAと結合することにより、標的
40 DNA 内の特 定の配 列 に向けら
れ、標的DNAを切断して二重鎖切断を起こす(段落【0129】【0132】【0
200】)。そして、各種細菌由来のCas9ポリペプチドの具体的なアミノ酸配列
を開示する(段落【0021】【0136】、図3B)。
部位特異的修飾ポリペプチドは、例えば、核に標的化するための核局在化シグナル
5 (NLS)など、部位特異的修飾ポリペプチドの細胞内局在化を与え得る異種配列を
含む(段落【0209】)。
部位特異的修飾ポリペプチドはコドン最適化され得る。この種の最適化は当該技術
分野において公知であり、同一のタンパク質をコードしたまま目的の宿主生物または
細胞のコドン選択を模倣するために、外来性DNAの変異を必要とする。従って、コ
10 ドンは変化されるが、コードされるタンパク質は変化されないままである(段落【0
210】)。
エ DNA標的化RNAと部位特異的修飾ポリペプチドの細胞への導入方法
DNA標的化RNAと部位特異的修飾ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を
含む発現ベクターにより、DNA標的化RNAと部位特異的修飾ポリペプチドを細胞
15 に導入することができる。発現ベクターは、市販されているものを含め多数の適切な
ものが当業者に知られており、宿主細胞に適合している限り、いかなる他のベクター
を使用してもよい(段落【0160】~【0164】、【0221】~【0224】、
【0228】)。使用される宿主/ベクター系に応じて、プロモーターやエンハンサ
ーエレメント等、転写調節領域等を発現ベクターに用いてもよい(段落【0165】
20 ~【0168】【0225】【0226】【0230】)。発現ベクターを宿主細胞
に導入する方法は、感染、リポフェクション、エレクトロポレーションなど、当該技
術分野において公知の方法を使用することができる(段落【0169】【022
9】)。
DNA標的化RNA、部位特異的修飾ポリペプチドを、RNAとして細胞に導入し
25 てもよく、核酸を細胞に導入するための周知の技術(マイクロインジェクション、エ
レクトロポレーション等)によって、RNAとして細胞に導入され得る(段落【02
27】【0228】【0231】)。
部位特異的修飾ポリペプチドは、ポリペプチドとして細胞に提供されてもよく(段
落【0217】【0232】)、所望により、産物の溶解性を増加させるポリペプチ
30 ドドメインに融合してもよく、細胞による取り込みを促進するために、ポリペプチド
浸透性ドメインに融合されていてもよい(段落【0232】【0233】)。
オ 遺伝子改変された細胞を、例えば、疾患を治療するための、または抗ウイルス治療
剤、抗病原体治療剤、もしくは抗がん治療剤としての、遺伝子治療等の目的のために、
農業における遺伝子改変生物の生産のために、または生物学的研究のために、対象に
35 移植してもよい。対象は、新生児、若年、または成人であってもよい。哺乳類対象が
特に重要である(段落【0251】)。
5 実施例
ア 実施例1:標的DNAに修飾を作成するためのCas9の使用
① 病原菌ストレプトコッカス・ピオゲネス由来のCas9ポリペプチド、crRN
40 A及びtracrRNA(二分子DNA標的化RNA)により、crRNAと相補
的であるプロトスペーサー配列および本物のPAMを保有するプラスミドDNA又
は短い線状dsDNA二本鎖を切断することができ、切断には、マグネシウムが必
要であった(【0466】、【0468】、【0471】、【0472】、図10
A、B、図17A~C、図18A)。
5 ② tracrRNA:crRNA(二分子DNA標的化RNA)に誘導されたCa
s9によるプラスミドおよび短い線状dsDNAの双方の切断は部位特異的であり、
プラスミドDNA切断は、PAMの塩基対3つ上流の位置で平滑末端をもたらし、
短いdsDNA二重鎖内で、標的化RNAの標的結合配列に相補的であるDNA鎖
(相補鎖)は、PAMの塩基対3つ上流の位置で切断され、非相補DNA鎖は、P
10 AMの塩基対3~8個上流内の一つまたは複数部位で切断された(【0467】、
【0468】、【0473】、図10C~E、図19A~C)。
③ tracrRNAの全長が部位特異的Cas9触媒性DNA切断に必要かどうか
を決定するために、全長成熟(42ヌクレオチド)crRNA及び5’および3’
末端で配列が欠如したtracrRNAの様々な切断形態を使用して再構成したC
15 as9-tracrRNA:crRNA(二分子DNA標的化RNA)複合体を試
験したところ、天然配列のヌクレオチド23~48を維持するtracrRNAは、
頑強な二重RNA誘導Cas9触媒性DNA切断を支援することができ(図12A、
C、図23A、B)、tracrRNA存在下でのCas9触媒性切断は、3’末
端で10個のヌクレオチドを欠如したcrRNAで引き起こされ得ることが示され
20 た(【0479】、【0481】、【0483】、図12A~C、図23A、B)。
④ 様々な細菌種からのCas9オルソログを、S.ピオゲネスtracrRNA:
crRNA(二分子DNA標的化RNA)誘導DNA切断を支援する能力に関して
分析したところ、近縁種Cas9オルソログとは対照的に、遠縁種であるオルソロ
グは切断反応では機能的ではなく、遠縁システム由来である、tracrRNA:
25 crRNAによって誘導されるS.ピオゲネスCas9は、DNAを効率的に切断
できなかった(【0479】、【0484】、図24A、B)
⑤ プロトスペーサー含有プラスミドDNAを分析し、およびCas9によって切断
される能力を分析したところ、プロトスペーサーの5’末端で導入される点変異と
は対照的に、PAMおよびCas9切断部位に近い領域における変異を有するプロ
30 トスペーサー含有プラスミドでは、切断効率が低下し、標的化RNAとPAMに近
接する標的DNA部位との間の少なくとも一連の13の連続した塩基対が効率的な
標的切断のために必要であった(【0480】、【0481】、図12D、E)。
⑥ 複数のCRISPR/Casシステムで、PAM(27、29、32~34)と
称される、自己対非自己の認識が外来性ゲノムに保存される短い配列モチーフが含
35 まれることが示されている。PAMモチーフはほんの数個の塩基対の長さであり、
それらの正確な配列および位置はCRISPR/Casシステムの種類によって異
なる(32)(括弧内数字は、いずれも、第1優先基礎出願の出願日前の以下の文
献である。27. R. Sapranauskas et al., Nucleic Acids Res. 39, 9275 (2011).、
29. H. Deveau et al., J. Bacteriol. 190, 1390 (2008).、32. F. J. M. Mojica,
40 C. Diez-Villasenor, J. Garcia-Martinez, C. Almendros, Micro biology 155,
733 (2009).、33. L. A. Marraffini, E. J. Sontheimer, Nature 463, 568 (2010).、
34. D. G. Sashital, B. Wiedenheft, J. A. Doudna, Mol. Cell 46, 606 (2012).)。
S.ピオゲネスにおいては、PAMのGGモチーフが、細菌細胞内における
CRISPR/Cas9 によるプロトスペーサープラスミド DNA 除去に必要不可欠であり、ま
5 た、tracrRNA:crRNA(二分子DNA標的化RNA)誘導Cas9に
よるインビトロプロトスペーサープラスミド切断のために必要不可欠である。さら
に、プロトスペーサー2標的DNAに存在しない基準PAMの存在のために選択さ
れた、異なるcrRNA標的DNA対を使用した場合、PAMの双方のGヌクレオ
チドが効率的なCas9触媒性DNA切断のために必要であることを発見した
10 (【0486】~【0488】、図13A、B、図26A~C)。
⑦ crRNAの3’末端をtracrRNAの5’末端に融合させた単一キメラR
NA(単一分子DNA標的化RNA)について、プラスミドDNA又は短いdsD
NAを用いる切断アッセイによると、長いキメラRNA(単一分子DNA標的化R
NA)は、Cas9触媒性DNA切断を誘導できたこと、及び、緑色蛍光タンパク
15 質(GFP)をコードする遺伝子の一部分を標的とするよう操作した5つの異なる
キメラ誘導RNA(単一分子DNA標的化RNA)により、インビトロでGFPコ
ード配列を保有するプラスミドに対する有効性を試験したところ、5つ全てのキメ
ラRNA(単一分子DNA標的化RNA)でプログラムされたCas9は正しい標
的部位でプラスミドを効率よく切断したことが示されている(【0489】~【0
20 493】、図1、図14A~C、図27A~C、図28A~D)。
イ 実施例2:ヒト細胞でのRNAプログラムゲノム編集
① HAエピトープ、核局在化シグナル(NLS)と融合したストレプトコッカス・
ピオゲネスCas9をコードする配列をヒト発現のためにコドン最適化し、これを
市販のpcDNA3.1由来ベクターに挿入し、CMVプロモーターの制御下で発
25 現するCas9発現プラスミドとした。
ヒトクラスリン軽鎖(CLTA)遺伝子において、GGジヌクレオチドスペーサ
ー隣接モチーフ(PAM)を3’に有する領域を、標的部位とするよう設計された
sgRNA(単一分子DNA標的化RNA)を市販の発現ベクターpSilinc
er2.1-U6puroに挿入し、U6プロモーターの制御下で発現するsgR
30 NA発現プラスミドとした。
HEK293T細胞(ヒト細胞)を、推奨プロトコルで、市販のDNAトランス
フェクション試薬(X-tremeGENE DNA Transfectio
n ReagentまたはTurbofect Transfection Re
agent)を用いて、上記Cas9発現プラスミド及びsgRNA発現プラスミ
35 ドを形質移入したところ、Surveyorヌクレアーゼアッセイにより、標的部
位における二重鎖DNA切断が確認された。(【0495】~【0497】、【0
499】、【0503】~【0505】、図29C、E)
② Cas9発現プラスミドのみで形質移入した細胞から調製した可溶化物は、PA
MおよびCLTA1 sgRNAに相補的である標的配列を含むプラスミドDNA
40 を切断せず、可溶化物にインビトロ転写CLTA1 sgRNAが添加された際
は、強固なプラスミド切断が検知された。また、Cas9およびsgRNA発現プ
ラスミドの双方で形質移入した細胞から調製された可溶化物は上記プラスミドの切
断を支援する一方で、sgRNAをコードするプラスミドのみで形質移入した細胞
からの可溶化物はそうでなかった。この結果は、HEK293T細胞におけるCa
5 s9機能のための制限因子はsgRNAの発現またはそのCas9への添加である
ことを示す。(【0496】、【0502】、【0506】、【0507】、図3
0)
以上

(別紙)
第1出願書類の記載(抜粋)
クレーム
54. 以下を含む標的 DNA における部位特異的修飾の方法:
5 前記標的 DNA を、以下を含む複合体と接触させる工程
(i) 標的 DNA 中の配列に相補的なヌクレオチド配列を含む DNA 標的 RNA、または、そ
れをコードする DNA ポリヌクレオチドであって;および
(ii) 部位特異的酵素活性を示す部位特異的修飾ポリぺプチド、または、それをコードする
ポリヌクレオチド。
10 …
58. 前記標的 DNA が細胞内の染色体の一部である、請求項 54 記載の方法。

61. 前記細胞が真核単細胞生物である、請求項 58 記載の方法。
62. 前記細胞が体細胞である、請求項 58 記載の方法。
15 63. 前記細胞が生殖細胞である、請求項 58 記載の方法。
64. 前記細胞が幹細胞である、請求項 58 に記載の方法。
65. 前記細胞が植物細胞である、請求項 58 記載の方法。
66. 前記細胞が動物細胞である、請求項 58 記載の方法。
67. 前記細胞が脊椎動物細胞である、請求項 66 記載の方法。
20 68. 前記細胞が哺乳動物細胞である、請求項 67 記載の方法。
69. 前記細胞がヒト細胞である、請求項 68 記載の方法。

73. 前記酵素活性が前記標的 DNA を修飾する、請求項 54 に記載の方法。
74. 前記酵素活性が、ヌクレアーゼ活性、メチルトランスフェラーゼ活性、デメチラ ー
25 ゼ活性、DNA 修復活性、DNA 損傷活性、脱アミノ化活性、ジスムターゼ活性、アルキル
化活性、脱プリン活性、酸化活性、ピリミジンニ量体形成活性、インテグラーゼ活性、ト
ランスポザーゼ活性、リコンビナーゼ活性、ポリメラーゼ活性、リガーゼ活性、ヘリカー
ゼ活性、フォトリアーゼ活性またはグリコシラーゼ活性である、請求項 73 記載の方法。
75. 前記 DNA 修飾酵素活性がヌクレアーゼ活性である、請求項 74 記載の方法。
30 76. 前記ヌクレアーゼ活性が、標的 DNA に二本鎖切断を導入する、請求項 75 に記載の
方法。

背景
[0001]近年、特定の DNA 配列を標的とするように設計された操作されたヌクレアーゼ酵
35 素は、細胞および生物全体の遺伝子操作のための強力なツールとしてかなりの注目を集め
ており、標的遺伝子の欠失、置換および修復、ならびにゲノムへの外因性配列(導入遺伝
子)の挿入を可能にする。部位特異的 DNA ヌクレアーゼを操作するための 2 つの主要な
技術が出現してきており、これらは両方とも、配列非特異的 DNA エンドヌクレアーゼド
メインが操作された DNA 結合ドメインに融合されるキメラエンドヌクレアーゼ酵素の構
40 築に基づいている。しかし、それぞれの新しいゲノム遺伝子座を標的とするには、新しい
ヌクレアーゼ酵素の設計が必要であり、これらのアプローチは時間と費用の両方を必要と
する。さらに、どちらの技術も精度に限界があり、予測できないオフターゲット効果をも
たらす可能性がある。
5 [0002]各新規な標的配列に対する新規なタンパク質の設計を必要としない様式で、標的
DNA 内の異なる位置へのヌクレアーゼ活性(または他のタンパク質活性)の正確な標的
化を可能にする技術が、当該分野において必要とされている。本開示は、この必要性に対
処する。
10 概要
[0003]本開示は、標的配列を含み、修飾ポリペプチドと共に、標的 DNA および/または標
的 DNA に結合したポリペプチドの部位特異的修飾を提供する DNA 標的化 RNA を提供
する。本開示はさらに、修飾ポリペプチドを提供する。本開示はさらに、標的 DNA およ
び/または標的 DNA に結合したポリペプチドの部位特異的修飾の方法、ならびにその方法
15 を実施するためのキットおよび組成物を提供する。
図面の簡単な説明
[0004]図 1A および 1B は、それぞれ部位特異的修飾ポリペプチドおよび標的 DNA と結合
した 2 つの例示的な本発明の DNA 標的化 RNA の概略図を提供する。DNA 標的化 RNA
20 は、一本鎖「DNA 標的化セグメント」および二本鎖 RNA の範囲を含む「タンパク質結
合セグメント」を含む。(A)DNA 標的化 RNA は、2 つの別個の RNA 分子(「二重分
子」または「2 分子」DNA 標的化 RNA と呼ばれる)を含み得る。二分子 DNA 標的化
RNA は、「ターゲッター-RNA」および「アクチベーター-RNA」を含む。(B)DNA 標
的化 RNA は、単一の RNA 分子(「単一分子」DNA 標的化 RNA と呼ばれる)を含むこ
25 とができる。単一分子 DNA 標的化 RNA は、「リンカーヌクレオチド」を含む。
[0005]図 2 は、Streptococcus pyogenes 由来の Cas9/Csnl タンパク質のアミノ酸配列を示
す。ドメイン 1 と 2 は、多くの異なる種の Cas9/Csnl タンパク質の間でさまざまな程度
に保存されている(図 10-12 も参照)。ドメイン 1 および 2 の存在は、Cas9/Csnl タンパ
30 ク質の特徴である。ドメイン 1 は、RuvC エンドヌクレアーゼドメインを規定する
Cas9/Csnl に存在する 3 つのモチーフのうちの 1 つである。描かれたドメイン 2 は、
RuvC エンドヌクレアーゼドメインおよび HNH エンドヌクレアーゼドメインのモチーフ
2 および 3 の組み合わせである。
35 [0006]図 3A~C は、部位特異的修飾ポリぺプチド(Streptococcus pyogenes の Cas9/Csnl
タンパク質によって例示される)による標的 DNA 切断を示し、これは、DNA 標的化
RNA によって誘導される。(A)放射性標識された標的 DNA を、組換え Cas9/Csnl およ
び種々の DNA 標的化 RNA 種(示されるように)の存在下でインキュベートした。切断
生成物は変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動を用いて分離し,ホスホイメージングによ
40 り可視化した。(B)Cas9/Csnl 部位特異的修飾ポリぺプチドと共に使用される DNA 標
的化 RNA の概略図。試験した単一分子 DNA 標的化 RNA(RNA キメラ A)の 1 つは効
率的な標的 DNA 切断を支持したが、試験した他の単一分子 DNA 標的化 RNA(RNA キ
メラ B)は支持しなかったことに留意されたい。(C)DNA を標的とする RNA 配列およ
び DNA 標的の概略図。
[0007]図 4 は、Cas9/Csnl 部位特異的修飾ポリペプチドおよび DNA 標的化 RNA を用い
て導入された二本鎖 DNA 切断を介する標的 DNA 編集を示す。
[0008]図 5A および 5B は、標的 DNA 切断を示す。図 5A.種々の異なる種由来の Cas9/Csnl
10 部位特異的修飾ポリぺプチド(図 12 の配列参照)および DNA 標的化 RNA を用いた、標
的 DNA 切断。図 3 と同じ条件下で標的切断を行った。この実験は、種々の Cas9/Csnl 部
位特異的修飾ポリぺプチドが、同じ DNA 標的化 RNA を利用し得ることを実証する。B.
図 5A で用いた DNA 標的 RNA の模式図。
15 [0009]図 6A~C は tracrRNA 配列を示す。図 6A は、例示的な「tracrRNA」配列(対象
RNA に含めることができる「アクチベーター-RNA」)を示す。図 6B は、類似の構造お
よ び 高 度 に 類 似 の Cas9/Csnl 配 列 の CRISPR/Cas 遺 伝 子 座 に 関 連 す る 選 択 さ れ た
tracrRNA オーソログ(AlignX、VectorNTI パッケージ、Invitrogen)の複数の配列アラ
インメントを提供する。黒い四角は共有されたヌクレオチドを表す。C.異なる構造の
20 CRISPR/Cas 遺伝子座および密接に関連しない Cas9/Csnl 配列に関連する選択された
tracrRNA オーソログ(AlignX、VectorNTI パッケージ、Invitrogen)の複数の配列アラ
インメント。N.meningitidis と P.multocida の tracrRNA オーソログの配列の類似性に注
意。黒い四角は共有されたヌクレオチドを表す。
25 [0010]図 7A~C は、例示的な CRISPR(「ターゲッター--RNA」)配列を提供する。図
7A は、CRISPR 反復の二本鎖形成セグメントをコードする配列を含む例示的な DNA を
示す(「ターゲッター‐RNA」図 7B および 7C C は、異なる構造および多様な Cas9 配
列の遺伝子座に関連する例示的な CRISPR 反復配列(AlignX、VectorNTI パッケージ、
Invitrogen)の複数の配列アラインメントを提供する。黒い四角は共有されたヌクレオチ
30 ドを表す。
[0011]図 8A〜C は、CRISPR 反復の例示的な二本鎖形成セグメント(「ターゲッター
RNA」)と、対応する tracrRNA オーソログの二本鎖形成セグメント(「アクチベータ
一 RNA」)との配列アラインメントを提供する。上側の配列は CRISPR 反復コンセンサ
35 ス配列であり、下側の配列は tracrRNA オーソログ配列の反復へのアニーリングである。
CRISPR 遺伝子座は II 型(Nmeni/CASS4)CRISPR/Cas 系に属する。命名法は CRISPR
デ ー タ ベ ー ス ( CRISPR DB ) に 従 っ て い る 。 S. thermophilus の LMD-9 と
W.succinogenes は、それぞれ 2 つの II 型 CRISPR 遺伝子座をもっていることに注意され
たい。F. tularensis subsp. Novicida、W succinogenes および C. jejuni CRISPR 遺伝子
40 座の中に 2 つの可能なアンチリピートが見つかった。シーケンスの上位ペア: CRISPR
リピートスペーサー配列の下流にあるアンチリピート;より低い配列対:CRISPR リピー
トスペーサー配列のリーダー配列内のアンチリピート。Cas9/Csnl 上流遺伝子のコード領
域に,CRISPR 反復との相補性の低い反復配列(11 個のミスマッチ)が見いだされた。2
つの可能なアンチリピート配列が R.rubrum CRISPR 遺伝子座内に見出された。シーケン
5 スの上位ペア:反復スペーサー配列の下流のアンチリピート;下の対:cas1 の上流のアンチ
リピート。
[0012]図 9 A~G は、さまざまな生物種の tracrRNA(アクティベーターRNA)と crRNA
( タ ー ゲ ッ タ ー ‐ RNA ) の 配 列 を 示 す 。 あ る 程 度 の 互 換 性 が 存 在 す る ; 例 え ば 、
10 S.pyogenes Cas9/Csnl タンパク質は、L.innocua 由来の tracrRNA および crRNA ととも
に機能する。(I)は標準的ワトソン-クリック塩基対を示し、(・)は G-U ゆらぎ塩基対
を示す。「可変 20 nt」または「20 nt」は、標的 DNA に相補的な DNA 標的化セグメン
トを表す。下の模式図は、ターゲッター‐RNA と活性化因子 RNA の特徴を取り入れた
単一分子の DNA 標的化 RNA の設計を示している。A.化膿レンサ球菌(Streptococcus
15 pyogenes 由来の Cas9/Csnl タンパク質配列を図 2 および 12A に示す) B.Listeria
innocua(Listeria innocua 由来の Cas9/Csnl タンパク質配列は、図 12B に示される)
C.Streptoccus mutans(Streptoccus mutans 由来の Cas9/Csnl タンパク質配列は、図
12C に示される)。 D.Streptoccus thermophilus 遺伝子座 1(または A)(Streptoccus
thermophilus 遺子座 1(または A)由来の CasWCsnl タンパク質配列を図 12D に示す)。
20 E.Streptoccus thermophilus 遺伝子座 2(または B)(Streptoccus thermophilus 遺伝子
座 2(または B)由来の Cas9/Csnl タンパク質配列を図 12E に示す)。F.髄膜炎菌
( Neisseriameningitides 由 来 の Cas9/Csnl タ ン パ ク 質 配 列 を 図 12F に 示 す )
G.Pasteurella multocida(Pasteurella multocida 由来の Cas9/Csnl タンパク質配列を図
12G に示す)。
[0015]図 12A-V は、種々の種(例えば、Streptococcus pyogenes、Listeria innocua、
Streptoccus mutans、Streptoccus thermophilus 遺伝子座 1(または A)、Streptoccus
thermophilus 遺 伝 子 座 2 ( ま た は B ) 、 Neisseria meningitides 、 Pasteurella
multocida など)由来の Cas9/Csnl タンパク質のアミノ酸配列を提供する。
詳細な説明
[0072]本開示は、標的化配列を含み、修飾ポリペプチドと共に、標的 DNA および/ま
たは標的 DNA に結合したポリペプチドの部位特異的修飾を提供する DNA 標的化 RNA を
提供する。本開示はさらに、修飾ポリペプチドを提供する。本開示はさらに、標的 DNA
35 および/または標的 DNA に結合したポリペプチドの部位特異的修飾の方法、ならびにその
方法を実施するためのキットおよび組成物を提供する。
核酸
DNA 標的化 RNA
40 [0073]本開示は、関連ポリペプチド(例えば、部位特異的修飾ポリペプチド)の活性
を標的 DNA 内の特異的標的配列に向ける DNA 標的化 RNA を提供する。本発明の DNA
標的化 RNA は、第 1 のセグメント(本明細書では「DNA 標的化セグメント」または
「DNA 標的化配列」とも呼ばれる)および第 2 のセグメント(本明細書では「タンパク
質 結合セグメント」または「タンパク質結合配列」とも呼ばれる)を含む。
DNA 標的化 RNA の DNA 標的セグメント
[0074]対象の DNA 標的化 RNA の DNA 標的セグメントは、標的 DNA 中の配列に相
補的であるヌクレオチド配列を含む。換言すれば、対象 DNA 標的化 RNA の DNA 標的
化セグメントは、ハイブリダイゼーション(すなわち、塩基対合)を介して配列特異的な
10 様式で標的 DNA と相互作用する。このように、DNA 標的化セグメントのヌクレオチド
配列は変化し得、そして DNA 標的化 RNA および標的 DNA が相互作用する標的 DNA 内
の位置を決定する。対象の DNA 標的化 RNA の DNA 標的セグメントは、標的 DNA 内の
任意の所望の配列にハイブリダイズするように修飾され得る(例えば、遺伝子工学によっ
て)。
DNA 標的化 RNA のタンパク質結合セグメント
[0076]対象 DNA 標的化 RNA のタンパク質結合セグメントは、部位特異的修飾ポリペプ
チドと相互作用する。本発明の DNA 標的化 RNA は、結合したポリペプチドを、上記の
DNA 標的化セグメントを介して標的 DNA 内の特定のヌクレオチド配列に誘導する。対
20 象の DNA 標的化 RNA のタンパク質結合セグメントは、互いに相補的である 2 つのヌク
レオチドの範囲を含む。タンパク質結合セグメントの相補的なヌクレオチドはハイブリッ
ド形成して二本鎖 RNA 二本鎖(dsRNA)を形成する(図 1A および 1B 参照)。
[0077]いくつかの実施形態において、本発明の DNA 標的化 RNA は、2 つの別個の RNA
25 分子(RNA ポリヌクレオチド)を含み、本明細書では、「二重分子 DNA 標的化 RNA」
または「2 分子 DNA 標的化 RNA」(図 1A)と呼ばれる。他の実施形態において、本発
明の DNA 標的化 RNA は、単一の RNA 分子(単一の RNA ポリヌクレオチド)であり、
本明細書中では「単一分子 DNA 標的化 RNA」と呼ばれる(図 1B)。特に明記しない限
り、用語「DNA 標的化 RNA」は、単一分子 DNA 標的化 RNA および二重分子 DNA 標
30 的化 RNA の両方を指して、包括的である。
[0078]本発明の二分子 DNA 標的化 RNA は、2 つの別個の RNA 分子を含む。本発明の二
分子 DNA 標的 RNA の 2 つの RNA 分子の各々は、2 つの RNA 分子の相補的ヌクレオチ
ドがハイブリダイズじてタンパク質結合セグメントの二本鎖 RNA 二本鎖を形成するよう
35 に、互いに相補的であるヌクレオチドの伸長を含む(図 1A)。
[0079]本発明の単一分子 DNA 標的化 RNA は、互いに相補的であり、ハイブリダイズし
てタンパク質結合セグメントの二本鎖 RNA 二本鎖(dsRNA 二本鎖)を形成する介在ヌ
クレオチド(「リンカー」または「リンカーヌクレオチド」)によって共有結合的に連結
40 された 2 つのヌクレオチド範囲(ターゲッター‐RNA およびアクチベーターRNA)を含
み、その結果、ステム-ループ構造が生じる(図 1B)。ターゲッター‐RNA とアクティ
ベーターRNA は、ターゲッター‐RNA の 3'末端とアクティベーターRNA の 5’末端を介
して共有結合することができる。あるいは、ターゲッター‐RNA とアクティベーター
RNA は、ターゲッター‐RNA の 5'末端とアクティベーターRNA の 3'末端を介して共有
5 結合することができる。
[0083]例示的な二分子 DNA 標的化 RNA は、crRNA 様(CRISPR RNA または「ターゲ
ッター‐ RNA」または crRNA 反復)分子および対応する tracrRNA 様(トランス作用
CRISPR RNA または「活性化因子 RNA」または tracrRNA)分子を含む(図 1A 参照)。
10 crRNA 様分子(ターゲッター-RNA)は、DNA 標的化 RNA の DNA 標的化セグメント
(一本鎖)と、 DNA 標的化 RNA のタンパク質結合セグメントの dsRNA 二本鎖の半分
を形成するヌク レオチドの伸長(「二本鎖形成セグメント」)の両方を含む。対応する
tracrRNA 様分子 (アクティベーター-RNA)は、DNA 標的化 RNA のタンパク質結合セ
グメントの dsRNA 二本鎖の残りの半分を形成するヌクレオチドの範囲(二本鎖形成セグ
15 メント)を含む(図 1A 参照)。言い換えれば、crRNA 様分子のヌクレオチドの伸長は、
tracrRNA 様分子のヌクレオチドの伸長と相補的であり、これとハイブリダイズして、
DNA 標的化 RNA のタンパク質結合ドメインの dsRNA 二本鎖を形成する。したがって、
それぞ の crRNA 様分子は、対応する tracrRNA 様分子を有すると言える。crRNA 様分
子はさらに、一本鎖 DNA 標的セグメントを提供する。したがって、crRNA 様分子と
20 tracrRNA 様分子は(対応する対として)ハイブリッド形成して DNA 標的化 RNA を形
成する(図 1A 参照)。所与の crRNA または tracrRNA 分子の正確な配列は、RNA 分子
が見出される種に特徴的である。様々な crRNA と tracrRNAs が個別に、また対応する相
補的な対で図 6-9 に示されている。二重分子 DNA 標的化 RNA は、任意の対応する
crRNA および tracrRNA 対を含むことができる。
[0087]例示的な単一分子 DNA 標的化 RNA は、ハイブリダイズして dsRNA 二本鎖を形成
するヌクレオチドの 2 つの相補的な伸長を含む。いくつかの実施形態において、単一分子
DNA 標的化 RNA(または伸長をコードする DNA)のヌクレオチドの 2 つの相補的伸長
のうちの 1 つは、少なくとも 25 個の連続するヌクレオチドの伸長にわたって、図 6、8、
30 および 9 に示されるアクチベーター—RNA(tracrRNA)分子のうちの 1 つと約 60%超同
一である。例えば、単一分子 DNA 標的化 RNA(または伸長をコードする DNA)のヌク
レオチドの 2 つの相補的な伸長のうちの 1 つは、少なくとも 25 個の連続するヌクレオチ
ドの伸長にわたって、図 6、8 および 9 に示される tracrRNA 配列の 1 つに対して、約
65%超同一であり、約 70%超同一であり、約 75%超同一であり、約 80%超同一であり、
35 約 85%超同一であり、約 90%超同一であり、約 95%超同一であり、約 98%超同一であり、
約 99%超同一であり、または 100%同一である。
部位特異的修飾ポリぺプチド
[0089]本発明の DNA 標的化 RNA および本発明の部位特異的修飾ポリペプチドは、 複合
40 体を形成する。DNA 標的化 RNA は、(上記のように)標的 DNA の配列に相補的なヌク
レオチド配列を含むことによって、複合体に標的特異性を提供する。複合体の部位特異的
修飾ポリペプチドは部位特異的活性を提供する。換言すれば、部位特異的修飾ポリぺプチ
ドは、DNA 標的化 RNA の少なくともタンパク結合セグメント(上記)との結合により、
DNA 配列(例えば、染色体配列または染色体外配列、例えば、エピソーム配列、小環状
5 配列、ミトコンドリア配列、クロロプラスト配列など)に誘導される。
[0091]ある場合には、部位特異的修飾ポリペプチドは、天然に存在する修飾ポリぺプチド
である。他の場合において、部位特異的修飾ポリペプチドは、天然に存在するポリペプチ
ドではない(例えは、以下に議論するようなキメラポリペプチド、または修飾された天然
10 に存在するポリペプチド、例えば、突然変異、欠失、挿入)。
[0092]例示的な天然の部位特異的修飾ポリぺプチドは、天然に存在する Cas9/Csnl エンド
ヌクレアーゼの非限定的かつ非網羅的なリストとして、図 12 に提供される。これらの天
然に存在するポリペプチドは、本明細書に開示されるように、DNA 標的化 RNA に結合
15 し、それによって標的 DNA 内の特定の配列に向けられ、標的 DNA を切断して二本鎖切
断を生成する。本発明の部位特異的修飾ポリペプチドは、RNA 結合部分および活性部分
の 2 つの部分を含む。いくつかの実施形態において、本発明の部位特異的修飾ポリぺプチ
ドは、(i)DNA 標的化 RNA と相互作用する RNA 結合部分を含み、ここで、DNA 標的
化 RNA は、標的 DNA 中の配列に相補的なヌクレオチド配列を含む;および(ii)部位特
20 異的酵素活性(例えば、DNA メチル化に対する活性、DNA 切断に対する活性、ヒストン
アセチル化に対する活性、ヒストンメチル化に対する活性など)を示す活性部分を含み、
ここで、酵素活性の部位は、DNA 標的化 RNA によって決定される。
例示的な部位特異的修飾ポリぺプチド
25 [0096]いくつかの場合において、部位特異的修飾ポリペプチドは、図 2 に示される
Cas9/Csnl アミノ酸配列のアミノ酸 7〜166 または 731-1003.または図 12 に示されるアミ
ノ酸配列のいずれかにおける対応するドメインに対して、少なくとも約 75%、少なくと
も約 80%、少なくとも約 85%、少なくとも約 90%、少なくとも約 95%、少なくとも約
99%、または 100%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
[00115]コンジュゲートは、「タンパク質形質導入ドメイン」または PTD(CPP-細胞浸透
性ぺプチドとしても知られる)を含み得、これは、脂質二重層、ミセル、細胞膜、細胞小
器官膜、 または小胞膜の横断を容易にするポリペプチド、ポリヌクレオチド、炭水化物、
または有機もしくは無機化合物を指し得る。別の分子に結合した PTD は、小さな極性分
35 子から大きな高分子および/またはナノ粒子に及ぶことができ、例えば、細胞外スペース
から 細胞内スペースへ、またはサイトゾルから細胞小器官内へ、膜を横切る分子を容易
にする。いくつかの実施形態において、PTD は、外因性ポリペプチド(例えば、部位特異
的修飾ポリぺプチド)のアミノ末端に共有結合される。いくつかの実施形態において、
PTD は、外因性ポリペプチド(例えば、部位特異的修飾ポリペプチド)のカルボキシル末端
40 に共有結合される。いくつかの実施形態において、PTD は、核酸(例えば、DNA 標的化
RNA、DNA 標的化 RNA をコードするポリヌクレオチド、部位特異的修飾ポリぺプチド
をコードするポリヌクレオチドなど)に共有結合される。例示的な PTD は、限定される
ものではないが、最小のウンデカペプチドタンパク質形質導入ドメイン
(YGRKKRRQRRR を含む HIV-1TAT の残基 47-57 に対応する);配列番号は、細胞への
5 侵入を指示するのに十分な数のアルギニンを含むポリアルギニン配列(例えば、3、4、
5、6、7、8、9、10、または 10-50 のアルギニン)を N0;//);する;VP22 ドメインを含
む (Zender et al.(2002) Cancer Gene Ther. 9 ⑹:489-96);ショウジョウバエの
Antennapedia タンパク質の形質導入ドメイン(Noguchi et al.(2003)52(7):1732-
173 7)、 短縮型ヒトカルシトニンぺプチド(Trehin et al.(2004)Pharm. Research
10 21:1248- 1256);ホリリシン(Wender et al.(2000) Proc. Natl. Acad. Sci.USA 97:
13003'13008 ) ; RRQRRTSKLMKR ( 配 列 番 号 : / ) ; ト ラ ン ス ポ ー タ
GWTLNSAGYLLGKINLKALAALAKKIL ( 配 列 番 号 : / ) ;
KALAWEAKLAKALAKALAKHLAKALAKALKCEA ( 配 列 番 号 : / ) ; お よ び
RQIKIWFQNRRMKWKK(配列番号:/)。例示的な PTD は、限定されるものではないが、
15 YGRKRKRQRRR(配列番号:/)、RKKRKRQRRR(配列番号:/);3 個のアルギニン残基
から 50 個のアルギニン残基までのアルギニンホモポリマー;例示的な PTD ドメインアミ
ノ酸配列は、限定されるものではないが、以下のいずれかを含む:YGRKKRRQRRR
(配列番号 ://);RKKRRQRR(配列番号:2));YARAARQARA(配列番号://);)
THRLPRRRRRR(配列番号://);および GGRRARRRRRR(配列番号://))。いくつ
20 かの実施形態において、PTD は、活性化可能な CPP(ACPP)である(Aguilera et al.
(2009)CollomBiol(Camb)June;l(5-6):371-381)。ACPP は、切断可能なリン
カーを介して対応するポリアニオン(典型的には Glu9 または E9)に連結されたポリカ
チオン性 CPP(典型的には Arg9 または R9)を含み、これは、正味の電荷をほぼ0に減
少させ、それによって細胞への接着および取り込みを阻害する。リンカーが切断されると、
25 ポリアニオンが放出され、ポリアルギニンおよびその固有の接着性が局所的に露出され、
それによって ACPP が「活性化」されて膜を横断する。
例示的な DNA 標的化 RNA
[00116]いくつかの実施形態において、適切な DNA 標的化 RNA は、2 つの別個の RNA
30 ポリヌクレオチド分子を含む。2 つの別個の RNA ポリヌクレオチド分子のうちの第 1 の
分子(アクチベーター-RNA)は、図 6A~C に示されるヌクレオチド配列のいずれか 1 つ
に対して、少なくとも 25 個の連続するヌクレオチドの伸長にわたって、少なくとも約
70%、少なくとも約 75%、少なくとも約 80%、少なくとも約 85%、少なくとも約 90%、
少なくとも約 95%、少なくとも約 98%、少なくとも約 99%、または 100%のヌクレオチ
35 ド配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む。2 つの別個の RNA ポリヌクレオチド分
子の第 2 のもの(ターゲッター‐RNA)は、図 7A~C に示されるヌクレオチド配列のいずれ
か 1 つに対して、少なくとも 12 個の連続するヌクレオチドの範囲にわたって、少なくと
も約 75%、少なくとも約 80%、少なくとも約 85%、少なくとも約 90%、少なくとも約
95%、少なくとも約 98%、少なくとも約 99%、または 100%のヌクレオチド配列同一性を
40 有するヌクレオチド配列を含む。
[00117]いくつかの実施形態において、適切な DNA 標的化 RNA は、単一の RNA ポリヌ
クレオチドであり、図 6A〜C に示されるヌクレオチド配列のいずれかに対して、 少なく
とも 25 個の隣接ヌクレオチドの範囲にわたって、少なくとも約 75%、少なくとも約 80%、
5 少なくとも約 85%、少なくとも約 90%、少なくとも約 95%、少なくとも約 98%、少なく
とも約 99%、または 100%のヌクレオチド配列同一性を有する第 1 のヌクレオチド配列と、
図 7A~C に示されるヌクレオチド配列のいずれか 1 つに対して、少なくとも 12 個の隣接
ヌクレオチドの範囲にわたって、少なくとも約 75%、少なくとも約 80%、少なくとも約
85%、少なくとも約 90%、少なくとも約 95%、少なくとも約 98%、少なくとも約 99%、
10 または 100%のヌクレオチド配列同一性を有する第 2 のヌクレオチド配列とを含む。
[00118]いくつかの実施形態において、DNA 標的化 RNA は二分子 RNA 標的化 RNA で
あり、
ターゲッター‐RNA は、その 5'末端で標的 DNA に相補的であるヌクレオチドの伸長に
15 連結された配列 5'GUUUUAGAGCUA-3'を含む。いくつかの実施形態において、DNA
標的化 RNA は、二重分子 DNA 標的化 RNA であり、アクチベーター‐RNA は、配列
5'UAGCAAGUUAAAAUAAGGCUAGUCCG-3'を含む。
[00119]いくつかの実施形態において、DNA 標的化 RNA は、単一分子 RNA であり、 そ
の 5' 末 端 で 標 的 に 相 補 的 で あ る ヌ ク レ オ チ ド の 伸 長 に 連 結 さ れ た 配 列 5'-
20 GUUUUAGAGCUA-リンカー-UAGCAAGUUAAAAUAAGGCUAGUCCG-3'を含む (こ
こで、「リンカー」は、任意のヌクレオチド配列を含み得る任意のリンカーヌクレオチド
配列を意味する)。単一分子 DNA 標的化 RNA のリンカーは、約 3 ヌクレオチド〜約 100
ヌクレオチドの長さを有することができる。例えば、リンカーは、約 3 ヌクレオチド
(nt)~約 90 nt、約 3 ヌクレオチド(nt)~約 80 nt、約 3 ヌクレオチド(nt) ~約 70 nt、約 3 ヌ
25 クレオチド(nt) ~約 60 nt、約 3 ヌクレオチド(nt)~約 50 nt、約 3 ヌクレオチド(nt) ~約 40
nt、約 3 ヌクレオチド(nt) ~約 30 nt、約 3 ヌクレオチド(nt) ~約 20 nt、または約 3 ヌク
レオチド(nt) ~約 10nt の長さを有することができる。いくつかの実施形態において、リン
カーは、約 3 nt から約 5 nt、約 5 nt から約 10 nt、約 10 nt から約 15 nt、約 15 nt から
約 20 nt、約 20 nt から約 25 nt、約 25 nt から約 30 nt、約 30 nt から約 35 nt、約 35 nt
30 から約 40 nt、約 40nt から約 50 nt、約 50 nt から約 60 nt、 約 60 nt から約 70 nt、約
70 nt から約 80 nt、約 80 nt から約 90 nt、または約 90 nt から約 100 nt の長さを有す
る。いくつかの実施形態において、単一分子 DNA 標的化 RNA のリンカーは 4 nt である。
DNA 標的 RNA および/または部位特異的修飾ポリペプチドをコードする核酸
35 [00120]本開示は、対象の DNA 標的化 RNA および/または対象の部位特異的修飾ポリぺ
プチドをコードするヌクレオチド配列を含む核酸を提供する。いくつかの実施形態におい
て、本発明の DNA 標的化 RNA コード核酸は、発現ベクター、例えば組換え発現ベクタ
ーである。
40 [00121]いくつかの実施形態において、本発明の方法は、標的 DNA と接触させること、
または DNA 標的化 RNA および/または部位特異的修飾ポリペプチドをコードするヌクレ
オチド配列を含む 1 以上の核酸を細胞(または細胞の集団)に導入することを含む。 い
くつかの実施形態において、標的 DNA を含む細胞はインビトロである。いくつか の実
施形態において、標的 DNA を含む細胞はインビボである。DNA 標的化 RNA および/ま
5 たは部位特異的修飾ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む適切な核酸は、発
現ベクターを含み、ここで、DNA 標的化 RNA および/または部位特異的修飾ポリぺプチ
ドをコードするヌクレオチド配列を含む発現ベクターは、「組換え発現ベクター」である。
[00122]いくつかの実施形態において、組換え発現ベクターは、ウイルス構築物、例えば、
10 組換えアデノ随伴ウイルス構築物(例えば、米国特許第 7078387 号参照)、組換えアデ
ノウイルス構築物、組換えレンチウイルス構築物、組換えレトロウイルス構築物などであ
る。
[00123]適切な発現ベクターとしては、ウイルスベクター(例えば、ワクシニアウイルス
15 に基づくウイルスベクター;ポリオウイルス;アデノウイルス(例えば、Li ら、Invest
Opthaknol Vis Sci 35:2543 2549、1994;Borras ら、Gene Ther 6:515 524、1999;
Liand Davidson、PNAS 92:7700 7704、1995;Sakamoto ら、H Gene Ther 5:1088
1097 、 1999 ; WO 94/12649 、 WO 93/03769 ; WO 93/19191 ; WO 94/28938 ; WO
95/11984 および WO 95/00655 を参照のこと);アデノ随伴ウイルス(例えば、Ali et al.,
20 Hum Gene Ther 9:81 86,1998, Flannery et al., PNAS 94:6916 6921, 1997; Bennett
et al., Invest Opthalmol Vis Sci 38:2857 2863, 1997; Jomary et al., Gene Ther 4:
683 690, 1997, Rolling et al., Hum Gene Ther 10:641 648, 1999; Ali et al., Hum Mol
Genet 5:591 594, 1996; Srivastava in WO 93/09239, Samulski et al., J. Vir.(1989)
63:3822-3828; Mendelson et al., Viral.(1988)166:154-165; and Flotte et al.,
25 PNAS (1993)90:10613- 10617);SV40;単純ヘルペスウイルス;ヒト免疫不全ウ
イルス(例えば、Miyoshi ら、PNAS 94:10319 23、1997;Takahashi ら、J Viral
73:7812 7816、1999);レトロウイルスベクター(例えば、マウス白血病ウイルス、脾
壊死ウイルス、ならびにレトロウイルス、例え ば、ラウス肉腫ウイルス、ハーベイ肉腫
ウイルス、トリ白血病ウイルス、レンチウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、骨髄増殖性肉
30 腫ウイルス、および乳房腫瘍ウイルス)などが挙げられるが、これらに限定されない。
[00124]多くの適切な発現ベクターが当業者に公知であり、多くが市販されている。以下
の ベ ク タ ー は 、 真 核 生 物 宿 主 細 胞 の た め の 例 と し て 提 供 さ れ る :pXTl 、 pSG5
(Stratagene)、pSVK3、pBPV、pMSG、および pSVLSV40(Pharmacia)。しかし
35 ながら、宿主細胞と適合性がある限り、任意の他のベクターを使用することができる。
[00125]利用される宿主/ベクター系に依存して、構成的および誘導性プロモーター、転写
エンハンサーエレメント、転写ターミネータ—などを含む多くの適切な転写および翻訳制
御エレメントのいずれかが、発現ベクターにおいて使用され得る(例えば、Bitter ら
40 (1987)Methods in Enzymology,153:516-544 参照)。
[00126]いくつかの実施形態において、DNA 標的化 RNA および/または部位特異的修飾ポ
リペプチドをコードするヌクレオチド配列は、制御要素、例えば、プロモーターなどの転
写制御要素に作動可能に連結される。転写制御要素は、真核細胞、例えば哺乳動物細胞;
5 または原核細胞(例えば細菌細胞または古細菌細胞)のいずれかにおいて機能的であり得
る。いくつかの実施形態において、DNA 標的化 RNA および/または部位特異的修飾ポリ
ペプチドをコードするヌクレオチド配列は、原核細胞および真核細胞の両方において、
DNA 標的化 RNA および/または部位特異的修飾ポリペプチドをコードするヌクレオチド
配列の発現を可能にする複数の制御要素に作動可能に連結される。
[00127]適切な真核生物プロモーター(真核細胞において機能するプロモーター)の非限
定的な例には、サイトメガロウイルス(CMV)前初期、単純ヘルペスウイルス(HSV)
チミジンキナーゼ、初期および後期 SV40 レトロウイルス由来の長末端反復配列(LTR)、
およびマウスメタロチオネイン-1 由来のものが含まれる。適切なベクターおよびプロ モ
15 ーターの選択は、十分に当業者の範囲内である。発現ベクターはまた、翻訳開始のための
リボソーム結合部位および転写ターミネーターを含んでもよい。発現ベクターはまた、発
現を増幅するための適切な配列を含み得る。発現ベクターはまた、部位特異的修飾ポリペ
プチドに融合され、それによってキメラポリぺプチドを生じるタンパク質タグ(例えば、
6 xHis タグ、ヘマグルチニンタグ、緑色蛍光タンパク質など)をコードするヌクレオチ
20 ド配列を含み得る。
[00128]いくつかの実施形態において、DNA 標的化 RNA および/または部位特異的修飾ポ
リペプチドをコードするヌクレオチド配列は、誘導性プロモーターに作動可能に連結され
る。一部の実施形態において、DNA 標的化 RNA および/または部位特異的修飾ポリぺプ
25 チドをコードするヌクレオチド配列は、構成的プロモーターに作動可能に連結される。
[00129]核酸を宿主細胞に導入する方法は当技術分野で公知であり、任意の公知の方法を
用いて、核酸(例えば、発現構築物)を幹細胞または前駆細胞に導入することができる。
適切な方法は、例えば、感染、リポフレクション、エレクトロポレーション、リン酸カル
30 シウム沈殿、ポリエチレンイミン(PEI)媒介トランスフェクション、DEAE-デキスト
ラン媒介トランスフェクション、リポソーム媒介トランスフェクションなどを含む。
方法
[00155]本開示は、標的 DNA および/または標的 DNA 結合ポリペプチドを修飾するため
35 の方法を提供する。一般に、本発明の方法は、標的 DNA を、DNA 標的化 RNA および部
位特異的修飾ポリペプチドを含む複合体(「標的化複合体」)と接触させることを含む。
[00156]上記のように、本発明の DNA 標的化 RNA および本発明の部位特異的修飾ポリペ
プチドは、複合体を形成する。DNA 標的化 RNA は、標的 DNA の配列に相補的なヌクレ
40 オチド配列を含むことによって、複合体に標的特異性を提供する。複合体の部位特異的修
飾ポリペプチドは部位特異的活性を提供する。いくつかの実施形態において、本発明の複
合体は、標的 DNA を修飾し、例えば、DNA 切断、DNA メチル化、DNA 損傷、DNA 修
復などをもたらす。他の実施形態において、本発明の複合体は、標的 DNA に結合した標
的ポリぺプチド(例えば、ヒストン)を修飾し、例えば、ヒストンメチル化、ヒストンア
5 セチル化などをもたらす。標的 DNA は、例えば、インビトロでの裸の DNA、インビト
ロでの細胞中の染色体 DNA、インビボでの細胞中の染色体 DNA などであり得る。
[00157]ある場合には、部位特異的修飾ポリペプチドは、DNA 標的化 RNA と標的 DNA
との間の相補性領域によって規定される標的 DNA 配列において標的 DNA を切断するヌ
10 クレアーゼ活性を示す。ヌクレアーゼ活性は標的 DNA を切断して二本鎖切断を生じる。
これらの切断は次の 2 通りの方法、非相同末端結合と相同的修復(図 4)で細胞によって
修復される。非相同末端結合(NHEJ)では、二本鎖切断は切断末端が互いに直接連結す
ることによって修復される。そのため、新しい核酸材料は部位に挿入されないが、いくつ
かの核酸材料は失われ、欠失を生じ得る。相同性指向性修復では、切断された標的 DNA
15 配列に相同性を有するドナーポリヌクレオチドが、切断された標的 DNA 配列の修復のた
めの鋳型として使用され、その結果、ドナーポリヌクレオチドから標的 DNA へ遺伝情報
が伝達される。そのため、新しい核酸材料を部位に挿入/コピーすることができる。ある
場合には、標的 DNA を対象ドナーポリヌクレオチドと接触させる。ある場合には、対象
ドナーポリヌクレオチドが対象細胞に導入される。NHEJ および/または相同性指向性修
20 復による標的 DNA の修飾は、例えば、遺伝子補正、遺伝子置換、遺伝子タグ付け、導入
遺伝子挿入、ヌクレオチド欠失、遺伝子破壊、遺伝子突然変異などをもたらす。
目的の標的細胞
[00165]上記の適用のいくつかにおいて、本発明の方法は、インビトロおよび/またはエキ
25 ソビボおよび/またはインビトロで、有糸分裂細胞または分裂後細胞において DNA 切断
および DNA 修飾を誘導するために(例えば、個体に再導入され得る遺伝子改変された細
胞を生成するために)使用され得る。DNA 標的化 RNA は、標的 DNA にハイブリダイズ
することによって特異性を提供するので、開示された方法における対象の有糸分裂細胞お
よび/または分裂後細胞は、任意の生物由来の細胞(例えば、細菌細胞、古細菌細胞、単
30 細胞真核生物の細胞、植物細胞、動物細胞、無脊椎動物の細胞(例えば、ショウジョウバ
エ、刺胞動物、棘皮類、線虫など)、脊椎動物の細胞(例えば、魚類、両生類、爬虫類、
鳥類、哺乳類)、哺乳類の細胞 齧歯類の細胞、ヒトの細胞など)を含み得る。任意のタ
イプの細胞(例えば、幹細胞、例えば、胚性幹細胞(ES)細胞、誘導多能性幹(iPS)細
胞、生殖細胞;体細胞、例えば、線維芽細胞、造血細胞、ニューロン、筋細胞、骨細胞、
35 肝細胞、膵臓細胞など)が対象であり得る。細胞は、確立された細胞株由来であってもよ
いし、または初代細胞であってもよく、ここで、「初代細胞」、「初代細胞株」、および
「初代培養物」は、本明細書において、被験体に由来し、培養物の限られた数の継代(す
なわち、分裂)の間インビトロで増殖させた細胞および細胞培養物を指すために互換的に
使用される。例えば、一次培養物は、0 回、1 回、2 回、4 回、5 回、10 回、または 15 回
40 継代された培養物であるが、発症段階を通過するには十分な回数ではない。典型的には、
本発明の一次細胞株は、インビトロで 10 継代未満維持される。
DNA 標的化 RNA および/または部位特異的修飾ポリペプチドをコードする核酸
[00167]いくつかの実施形態において、本発明の方法は、標的 DNA と接触させること、
5 または DNA 標的化 RNA および/または部位特異的修飾ポリペプチドおよび/またはドナー
ポリヌクレオチドをコードするヌクレオチド配列を含む 1 以上の核酸を細胞(または細胞
の集団)に導入することを含む。DNA 標的化 RNA および/または部位特異的修飾ポリぺ
プチドをコードするヌクレオチド配列を含む適切な核酸は、発現ベクターを含み、ここで、
DNA 標的化 RNA および/または部位特異的修飾ポリペプチドをコードするヌクレオチド
10 配列を含む発現ベクターは、「組換え発現ベクター」である。
[00168]いくつかの実施形態において、組換え発現ベクターは、ウイルス構築物、例えば、
組換えアデノ随伴ウイルス構築物(例えば、米国特許第 7078387 号参照)、組換えアデノウ
イルス構築物、組換えレンチウイルス構築物などである。
[00169]適切な発現ベクターは、ウイルスベクター(例えば、ワクシニアウイルスに基づく
ウ イ ル ス ベ ク タ ー ; ポ リ オ ウ イ ル ス ; ア デ ノ ウ イ ル ス ( 例 え ば 、 Li et al., Invest
Opthalmol Vis Sci 35:2543 2549, 1994; Borras et al., Gene Ther 6:515 524, 1999;
Liand Davidson, PNAS 92:7700 7704, 1995; Sakamoto et al.,H Gene Ther 5:1088
20 1097, 1999; WO 94/12649, WO 93/03769; WO 93/19191; WO 94/28938; WO
95/11984 and WO 95/00655 を参照のこと);アデノ随伴ウイルス(例えば、Ali et al.. Hum
Gene Ther 9:81 86,1998, Flannery et al., PNAS 94:6916 6921, 1997; Bennett et al.,
Invest Opthalmol Vis Sci 38:2857 2863, 1997; Jomary et al.. Gene Ther 4:683 690,
1997, Rolling et al., Hum Gene Ther 10:641 648, 1999; Ali et al., Hum Mol Genet
25 5:591 594, 1996; Srivastava in WO 93/09239, Samulski et al., J. Vir.(1989)63:3822-
3828 ; Mendelson et al., Viral.(1988)166 : 154-165 ; and Flotte et al., PNAS
(1993)90:10613- 10617); SV40;単純ヘルペスウイルス;ヒト免疫不全ウイルス(例え
ば、Miyoshi et al., PNAS 94:10319 23,1997; Takahashi et al.,J Viral 73:7812
7816,1999);レトロウイルスベクター(例えば、マウス白血病ウイルス、脾壊死ウイルス、
30 ならびにレトロウイル ス、例えば、ラウス肉腫ウイルス、ハーベイ肉腫ウイルス、トリ
白血病ウイルス、レンチウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、骨髄増殖性肉腫ウイルス、お
よび乳腺腫瘍ウイルス)などを含むが、これらに限定されない。
[00170]多くの適切な発現ベクターが当業者に公知であり、多くが市販されている。以下
35 のベクターは、真核生物宿主細胞のための例として提供される:pXTl、pSG5(Stratagene)、
pSVK3、pBPV、pMSG、および pSVLSV40(Pharmacia)。しかしながら、宿主細胞と適
合性がある限り、任意の他のベクターを使用することがで きる。
[00171]いくつかの実施形態において、DNA 標的化 RNA および/または部位特異的修飾ポ
40 リぺプチドをコードするヌクレオチド配列は、制御要素、例えば、プロモーターなどの転
写制御要素に作動可能に連結される。転写制御要素は、真核細胞、例えば哺乳動物細胞、
または原核細胞(例えば細菌細胞または古細菌細胞)のいずれかにおいて機能的であり得る。
いくつかの実施形態において、DNA 標的化 RNA および/または部位特異的修飾ポリペプ
チドをコードするヌクレオチド配列は、原核細胞および真核細胞の両方において、DNA
5 標的化 RNA および/または部位特異的修飾ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列の
発現を可能にする複数の制御要素に作動可能に連結される。
[00172]利用される宿主/ベクター系に依存して、構成的および誘導性プロモーター、転写
エンハンサーエレメント、転写ターミネーターなどを含む多くの適切な転写および翻訳制
10 御エレメントのいずれかが、発現ベクターにおいて使用され得る(例えば、Bitter ら
(1987)Methods in Enzymology,153:516-544 参照)。
[00173]いくつかの実施形態において、DNA 標的化 RNA は、RNA として直接提供され得
る。そのような場合、DNA 標的化 RNA は、直接的な化学合成によって産生されてもよ
15 く、または DNA 標的化 RNA をコードする DNA からインビトロで転写されてもよい。
DNA テンプレートから RNA を合成する方法は、当該技術分野において周知である。い
くつかの場合において、DNA 標的化 RNA は、RNA ポリメラーゼ酵素(例えば、T7 ポリ
メラーゼ、T3 ポリメラーゼ、SP6 ポリメラーゼなど)を用いてインビトロで合成される。
一旦合成されると、RNA は、標的 DNA に直接接触してもよく、または核酸を細胞に導
20 入するための周知の技術(例えば、マイクロインジェクション、エレクトロポレーション、
トランスフェクションなど)のいずれかによって細胞に導入されてもよい。
[00174]十分に開発されたトランスフェクション技術を用いて、DNA 標的化 RNA および/
または部位特異的修飾ポリぺプチドおよび/またはドナーポリヌクレオチドをコードする
25 ヌクレオチドを細胞に提供することができる;例えば、Angel and Yanik(2010) PLoS
ONE 5(7):ell756、ならびに Qiagen から市販されている TransMessenger(登録商
標)試薬、Stemgent からの Stemfect(商標)RNA トランスフェクションキット、およ
び Mirus Bio LLC からの TransIT(登録商標)-mRNA トランスフェクションキットを参
照されたい。Beumer et al.(2008)も参照。亜鉛フィンガーヌクレアーゼを胚に直接注
30 入することによる、ショウジョウバエの効率的な遺伝子ターゲティング。PNAS 105
(50):19821-19826。あるいは、DNA 標的化 RNA および/または部位特異的修飾ポリぺ
プチドおよび/またはキメラ部位特異的修飾ポリペプチドおよび/またはドナーポリヌクレ
オチドをコードする核酸を、DNA ベクター上に提供することができる。核酸を標的細胞
に導入するのに有用な多くのベクター、例えばプラスミド、コスミド、ミニサークル、フ
35 ァージ、ウイルスなどが利用可能である。核酸を含むベクターは、例えば、 プラスミド、
ミニサークル DNA、ウイルス(例えば、サイトメガロウィルス、アデノウイルスなど)
のようにエピソームとして維持されてもよいし、または例えば、レトロウイルス由来ベク
ター(例えば、MMLV、HIV-1、ALV など)のように相同組換えまたはランダム組込み
によって標的細胞ゲノムに組み込まれてもよい。

[00175]ベクターは、対象細胞に直接提供されてもよい。言い換えれば、ベクターが細胞
によって取り込まれるように、細胞を、DNA 標的化 RNA および/または部位特異的修飾
ポリペプチドおよび/またはキメラ部位特異的修飾ポリペプチドおよび/またはドナーポリ
ヌクレオチドをコードする核酸を含むベクターと接触させる。エレクトロポレーション、
5 塩化カルシウムトランスフエクション、マイクロインジェクション、およびリポフエクシ
ョンのような、プラスミドである核酸ベクターと細胞を接触させる方法は、当技術分野に
おいて周知である。ウイルスベクター送達のために、細胞を、DNA 標的化 RNA および/
または部位特異的修飾ポリペプチドおよび/またはキメラ部位特異的修飾ポリペプチドお
よび/またはドナーポリヌクレオチドをコードする核酸を含むウイルス粒子と接触させる。
10 レトロウイルス、例えばレンチウイルスは、本発明の方法に特に適している。一般に使用
されるレトロウイルスベクターは、「欠損」であり、すなわち、生産的感染に必要なウイ
ルスタンパク質を産生することができない。むしろ、ベクターの複製にはパッケージング
細胞系での増殖が必要である。目的の核酸を含むウイルス粒子を生成するために、核酸を
含むレトロウイルス核酸は、パッケージング細胞株によってウイルスキヤプシドにパッケ
15 ージングされる。異なるパッケージング細胞株は、キャプシドに取り込まれる異なるエン
ベロープ蛋白(エコトロピック、両異種栄養性または異種栄養性)を提供し、このエンベ
ロープ蛋白は、細胞に対するウイルス粒子の特異性を決定する(マウスおよびラットに対
してはエコトロピック;ヒト、イヌお よびマウスを含むほとんどの哺乳動物細胞型に対
しては両異方性;およびマウス細胞を除くほとんどの哺乳動物細胞型に対しては異方性)。
20 適切なパッケージング細胞株を使用して、細胞がパッケージングされたウイルス粒子によ
って標的化されることを確実にし得る。再プログラミング因子をコードする核酸を含むレ
トロウイルスベクターをパッケージング細胞株に導入する方法、およびパッケージング株
によって生成されるウイルス粒子を収集する方法は、当技術分野において周知である。
25 [00176] DNA 標的化 RNA および/または部位特異的修飾ポリペプチドおよび/またはキメ
ラ部位特異的修飾ポリペプチドおよび/またはドナーポリヌクレオチドをコードする核酸
を対象細胞に提供するために使用されるベクターは、典型的には、対象核酸の発現、すな
わち転写活性化を駆動するための適切なプロモーターを含む。換言すれば、目的の核酸は、
プロモーターに機能的に連結される。これは、遍在的に作用するプロモーター、例えば、
30 CMV-β-アクチンプロモーター、または特定の細胞集団において活性であるか、またはテ
トラサイクリンのような薬物の存在に応答するプロモーターのような誘導性プロモーター
を含むことができる。転写活性化により、転写は標的細胞の基礎レベルよりも少なくとも
約 10 倍、少なくとも約 100 倍、より通常は少なくとも約 1000 倍増加することが意図さ
れる。さらに、DNA 標的化 RNA および/または部位特異的修飾ポリペプチドおよび/また
35 はキメラ部位特異的修飾ポリペプチドおよび/またはドナーポリヌクレオチドを対象細胞
に提供するために使用されるベクターは、DNA 標的化 RNA および/または部位特異的修
飾ポリペプチドおよび/またはキメラ部位特異的修飾ポリペプチドおよび/またはドナーポ
リヌクレオチドを取り込んだ細胞を同定するために、標的細胞中の選択可能なマーカーを
コードする核酸配列を含み得る。

[00177]本発明の DNA 標的化 RNA および/または部位特異的修飾ポリペプチドおよび/ま
たはキメラ部位特異的修飾ポリぺプチドは、代わりに、DNA と接触するために使用され
得るか、または RNA として細胞に導入され得る。RNA を細胞に導入する方は当技術分
野で公知であり、例えば、直接注射、トランスフェクション、または DNA の導入に使用
5 される任意の他の方法を含み得る。
[00178]本発明の部位特異的修飾ポリペプチドは、代わりに、ポリペプチドとして細胞に
提供されてもよい。このようなポリペプチドは、必要に応じて、生成物の溶解度を増大さ
せるポリペプチドドメインに融合され得る。ドメインは、規定されたプロテアーゼ切断部
10 位、例えば、TEV プロテアーゼによって切断される TEV 配列を介してポリぺプチドに連
結され得る。リンカーはまた、1 つ以上の柔軟な配列、例えば 1〜10 個のグリシン残基を
含んでもよい。いくつかの態様において、融合タンパク質の切断は、生成物の溶解度を維
持する緩衝液中で、例えば、0.5-2M の尿素の存在下で、可溶性を増加させるポリぺプチ
ドおよび/またはポリヌクレオチドの存在下などで行われる。関心のあるドメインは、エ
15 ンドソーム分解性ドメイン(例えば、インフルエンザ HA ドメ イン);および産生を補助
する他のポリペプチド(例えば、IF2 ドメイン、GST ドメイン、GRPE ドメインなど)
を含む。ポリペプチドは、改良された安定性のために処方され得る。例えば、ペプチドは
PEG 化されてもよく、ここで、ポリエチレンオキシ基は血流中の寿命を延長する。
20 [00179]さらにまたは別法として、本発明の部位特異的修飾ポリペプチドをポリぺプチド
浸透性ドメインに融合させて、細胞による取り込みを促進してもよい。多くの浸透性ドメ
インが当技術分野で公知であり、ペプチド、ペプチド模倣物、および非ペプチド担体を含
む本発明の非組み込みポリペプチドにおいて使用され得る。例えば、浸透性ペプチドは、
ぺネトラチンと呼ばれる、Drosophila melanogaster 転写因子 Antennapaedia の第 3 ア
25 ルファヘリックスに由来し得、これは、アミノ酸配列 RQIKIWFQNRRMKWKK を含む。
別の例として、浸透性ぺプチドは、HIV-1 tat 塩基性領域アミノ酸配列を含み、これは、
例えば、天然に存在する tat タンパク質のアミノ酸 49〜57 を含み得る。他の浸透性ドメ
インは、ポリアルギニンモチーフ、例えば、HIV-1 rev タンパクのアミノ酸 34〜56 の領
域、ノナアルギニン、オクタアルギニンなどを含む。(例えば、Futaki et al.(2003)
30 Curr Protein Pept Sci. 2003 Apr; 4(2): 8796; and Wender et al.(2000)Proc.
Natl. Acad. Sci. U.S.A 2000 Nov. 21;97(24):13003- 8; published U.S. Patent
applications 20030220334; 20030083256; 20030032593; and 20030022831,(本
明細書において、トランスロケーションぺプチドおよびぺプトイドの教示については、参
照により具体的に組み込まれる)。ノナ-アルギニン(R9)配列は、特徴づけられている
35 より効率的な PTD の 1 つである(Wender et al. 2000; Uemura et al.2002)。融合が
なされる部位は、ポリペプチドの生物学的活性、分泌または結合特性を最適化するために
選択され得る。最適な部位は、日常的な実験によって決定される。
[00198]このようにして遺伝子改変された細胞は、例えば、疾患を治療するため、また
40 は抗ウイルス、抗病原性、もしくは抗がん治療薬としての遺伝子治療などの目的で、農業
における遺伝子改変された生物の生産のために、もしくは生物学的研究のために、被験体
に移植され得る。被験体は、新生児、少年、または成人であり得る。特に興味深いのは哺
乳類の被験体である。本発明の方法で処理することができる哺乳動物種には、イヌ科の動
物およびネコ、ウマ、ウシ、ヒツジなど、ならびに霊長類、特にヒトが含まれる。動物モ
5 デル、特に小さな哺乳類、例えばネズミ、ウサギ目などを実験的研究に使用することがで
きる。
[00201]本発明の他の局面において、DNA 標的化 RNA および/または部位特異的修飾ポリ
ペプチドおよび/またはドナーポリヌクレオチドは、細胞 DNA をインビボで修飾するため
10 に使用され、これもまた、例えば、疾患を治療するために、または抗ウイルス、抗病原性、
もしくは抗がん治療薬として、農業における遺伝子改変された生物の生産のために、また
は生物学的研究のために、遺伝子治療などの目的のために使用される。これらのインビボ
態様において、DNA 標的化 RNA および/または部位特異的修飾ポリぺプチドおよび/また
はドナーポリヌクレオチドは、個体に直接投与される。DNA 標的化 RNA および/または
15 部位特異的修飾ポリペプチドおよび/またはドナーポリヌクレオチドは、ペプチド、低分
子および核酸を被験体に投与するための当技術分野における多くの周知の方法のいずれか
によって投与され得る。DNA 標的化 RNA および/または部位特異的修飾ポリペプチドお
よび/またはドナーポリヌクレオチドは、種々の処方物に組み込まれ得る。より具体的に
は、本発明の DNA 標的化 RNA および/または部位特異的修飾ポリペプチドおよび/または
20 ドナーポリヌクレオチドは、適切な薬学的に受容可能なキャリアまたは希釈剤との組み合
わせによって、薬学的組成物に処方され得る。
実施例 1:
[00248] Streptococcus pyogenes Cas9/Csnl エンドヌクレアーゼの配列に基づく組換え
25 DNA 標的化ポリぺプチドを、大腸菌において異種的に発現させ、当技術分野における標
準的な手順に従って、アフィニティー、イオン交換およびゲル濾過クロマトグラフィーエ
程の組み合わせによって精製した。
タンパク質を溶出し、20mM HEPES 7.5 150mM 塩化カリウムおよび ImM TCEP 中に保
存した。
30 標的化 RNA は、標準的なプロトコルに従って、化学合成(二重分子 DNA 標的化 RNA の
ターゲティング部分およびアクチベーター部分について)または T7 RNA ポリメラーゼ
(単一分子 DNA 標的化 RNA)を用いるインビトロ転写のいずれかによって得られた。
個々の一本鎖の化学合成により標的 DNA を得た。 次いで、標準的な手順に従って、T4
ポリヌクレオチドキナーゼおよび[γ-32P]- ATP を使用して、その 5'末端でストランドの 1
35 つ(DNA-標的化 RNA 中の標的化グ配列に相補的なストラ ンド)を[32P]-標識した。 次
いで、等モル量の 2 本の DNA 鎖を混合し、95°C に 3 分間加熱し、室温まで徐冷するこ
とによって、2 本の鎖をアニールした。
[00249]DNA 切断は、20mM HEPES pH7.5、l00mM 塩化カリウム、5mM 塩化マグネ
40 シウム、1mM ジチオスレイトールおよび 5 %(v/v)グリセロールを含有する切断緩衝液
中で、上記 DNA-標的化ポリぺプチド(最終濃度 500nM)を、DNA-標的化 RNA(濃度
500nM)および標的 DNA(10 nM)と共に、総容量 10 マイクロリットルでインキュベー
トすることによって行った。 二重分子 DNA-標的化 RNA によって誘導される反応につい
ては、DNA-標的化ポリぺプチドへの添加の前に、ターゲッター-RNA およびアクチベー
5 ターRNA を等モル量で混合し、95°C に 1 分間加熱し、室温まで徐冷することによってア
ニールした。 DNA-標的化 RNA/ポリぺプチ ド複合体を、切断緩衝液中で室温で 15 分
間インキュベートすることによって組み立てた。 次いで、集合した複合体を標的 DNA
に添加し、37°C で 1 時間インキュベートした。20 マイクロリットルのホルムアミドクエ
ンチ緩衝液(ホルムアミド中、5% グリセロール、1mM EDTA、0.025% ドデシル硫酸
10 ナトリウム)の添加によって反応をクエンチし、続いて 12%ポリアクリルアミド、7M 尿
素変性ゲル上で分離した。切断生成物を、標準的な手順に従ってリンイメージングにより
可視化した。
[00250]結果を図 3 および 5 に示す。
[00251] 図 3A 〜 C は 、 部 位 特 異 的 修 飾 ポ リ ぺ プ チ ド ( Streptococcus pyogenes の
Cas9/Csnl 蛋白質によって例示される)に よる標的遺伝子の切断を示す。 (A)放射性
標識された標的 DNA を、 Cas9/Csnl および種々の DNA 標的化 RNA 種(示されるよう
に)の存在でインキュベートした。 切断産物を変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動を
20 用いて分離し、ホスホイメージングにより可視化した。 (B)Cas9/Csnl 部位特異的修
飾ポリぺプ チドと共に使用される DNA 標的化 RNA の模式図。 試験した単一分子 DNA
標的化 RNA(RNA キメラ A)の一方は効率的な標的 DNA 切断を支持したが、他方の試
験した単一分子 DNA 標的化 RNA(RNA キメラ B)は支持しなかった。 (C)DNA 標
的化 RNA 配列および DNA 標的の模式図。
25 [00252] 図 5A および 5B は、標的 DNA 切断を示す。図 5A.種々の異なる種由来の
Cas9/Csnl 部位特異的修飾ポリぺプチド(図 12 の配列参照)および DNA 標的化 RNA を
用いた、標的 DNA 切断。図 3 と同じ条件下で標的切断を行った。この実験は、種々の
Cas9/Csnl 部位特異的修飾ポリぺプチドが、同じ DNA 標的化 RNA を利用し得ることを
実証する。
30 B.図 5A で用いた DNA 標的 RNA の模式図。

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