ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 令和7(行ケ)10010 審決取消請求事件
| 裁判所 | 請求棄却 知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所 |
|---|---|
| 裁判年月日 | 令和7年7月17日 |
| 事件種別 | 民事 |
| 当事者 | 原告株式会社珠屋 被告特許庁長官 |
| 法令 |
商標権 商標法4条1項11号5回 |
| キーワード | 審決12回 拒絶査定不服審判1回 |
| 主文 | 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
| 事件の概要 | 本件は、商標出願の拒絶査定に対する不服審判請求を不成立とした審決の取消 訴訟である。争点は、商標法4条1項11号該当性である。 |
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令和7年7月17日判決言渡
令和7年(行ケ)第10010号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 令和7年6月10日
判 決
原 告 株 式 会 社 珠 屋
同訴訟代理人弁理士 山 本 龍 郎
被 告 特許庁長官
同 指 定 代 理 人 白 鳥 幹 周
同 高 野 和 行
同 山 根 ま り 子
同 冨 澤 武 志
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
特許庁が不服2024-13830号事件について令和6年12月17日にした審決を取り消す。
第2 事案の概要
本件は、商標出願の拒絶査定に対する不服審判請求を不成立とした審決の取消訴訟である。争点は、商標法4条1項11号該当性である。1 特許庁における手続の経緯等(争いがない)原告は、令和5年6月29日、別紙「商標目録」記載の商標(以下「本願商標」という。)について、商標登録出願をしたが(商願2023-72298)、令和6年5月24日付けで拒絶査定を受けたため、同年8月28日、拒絶査定不服審判を請求した。特許庁は、これを不服2024-13830号事件として審理し、同年12
5 月17日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は、同月27日、原告に送達された。原告は、出訴期間内である令和7年1月24日、本件審決の取消しを求めて本件訴訟を提起した。2 本件審決の理由の要旨本願商標は、「珠屋珈琲」の標準文字からなる別紙「引用商標目録」記載の商標(本件審決における「引用商標2」。以下「引用商標」という。)と類似し(その理由の詳細は別紙「本件審決の理由(抜粋)」のとおり)、本願の指定役務である第43類「飲食物の提供」は、引用商標の指定役務中、第43類「コーヒーを主とする飲食物の提供、飲食物の提供」と同一又は類似する役務であるから、本願商標は商標法4条1項11号に該当する。3 取消事由商標の類否判断の誤りによる商標法4条1項11号該当性判断の誤り
第3 当事者の主張
(原告の主張)
1 引用商標の分離観察が許されないこと
⑴ 「飲食物の提供」という役務の場合、需要者は、料理の内容、価格、料理
人の経歴、原材料、店の雰囲気・立地、接客の良し悪し等、多くの要素を注意深く検討するものであって、屋号や店名に向けられる需要者の注意力は、一般の商品についての商標の場合よりも深く慎重なものとなる。これを引用商標についていえば、提供される料理名である「珈琲」を取り去って「タマヤ」と略称してしまうと、「珠屋珈琲」であれば看取することができたはずの店の印象や、店主が店名に込めたメッセージの一部が欠落してしまうことになるが、そのようなことはあり得ない。
⑵ 「飲食物の提供」の役務においては、珈琲店以外であっても、提供される
料理の普通名称を含めた屋号全体が看板に表示され、注文を受ける電話で屋
5 号全体を名乗るのが普通であるから、需要者は、主に提供される飲食物の普
通名称を含めた全体を一体不可分のものとして認識、記憶する。
2 引用商標の外観の認定の誤り
⑴ 引用商標の外観は「珠屋珈琲」であり、需要者は直ちに漢字4文字からな
る外観を知覚するのであって、いったん視認した外形から「珈琲」を取り去って「珠屋」をさらに視認することはあり得ない。
⑵ 引用商標は、「珠屋珈琲」を同一の書体、大きさ、間隔で一連一体に表示
するものであるから、外観上、常に一連一体のものとして認識、把握される。
3 引用商標の称呼の認定の誤り
⑴ 前記1の取引の実情からみて、引用商標は、その全体構成により「タマヤ
コーヒー」の称呼のみが生じ、「タマヤ」と略称される可能性はない。
⑵ 前記2の外観上の強い一体性からみて、引用商標からは、「タマヤコーヒ
ー」という、冗長ではなく、無理なく一気一息に称呼し得る一連の称呼が生じる。
4 類否判断の誤り
以上のとおり、外観においては本願商標の「珠屋」と引用商標の「珠屋珈琲」を、称呼においては本願商標の「タマヤ」と引用商標の「タマヤコーヒー」をそれぞれ比較すべきであるから、いずれも明確に区別することができる。観念において比較することができないことは、本件審決のとおりである。したがって、本願商標と引用商標は類似しない。
(被告の主張)
1 分離観察の可否について
商標の類否は、商標が使用される指定商品又は指定役務の需要者が通常有する注意力を基準として判断されるところ、「飲食物の提供」に係る需要者は、飲食店での食事や喫茶を欲する、ごく一般的な消費者(一般大衆)であり、その役務の取引に取り立てて特殊性があるとは考え難い。当該役務の取引に際し、
5 飲食店の屋号や店名に対して向けられる需要者の注意力の程度が、原告のいう
「一般の商品」に係る需要者が通常有する注意力の程度と比べて、深く慎重なものであるとみるべき合理的な理由はない。
2 引用商標について
⑴ 引用商標の構成中、「珈琲」の文字は、一般消費者に慣れ親しまれ、日常
的に摂取されている飲料である「コーヒー」を表す語である。一般に、飲食店名の一部に、主として提供する飲食物の名称を含ませ、その店舗の特徴を端的に示すことはよく行われているところ(乙5~10)、引用商標の「珈琲」の文字部分は、引用商標の指定役務中「コーヒーを主とする飲食物の提供、飲食物の提供」との関係で、その役務において主として提供される飲食物が「珈琲(コーヒー)」であること、すなわち、役務の質を表示したものと認識させるにとどまるものといえる。さらに、引用商標の前記指定役務を行う業界において、例えば「椿屋珈琲」などのような「○○珈琲」との構成からなる文字が、珈琲(コーヒー)を主として提供する飲食店を表す語として普通に用いられており(乙11~31)、業態を表す語として広く一般に定着しているといえる。加えて、実際の取引に当たっては、「○○珈琲」という名称の店舗は、構成中の「珈琲」の文字部分を除いて、例えば「椿屋」(乙11)などのように、事業者自ら又は第三者によって、「○○」の文字部分のみを略称として用いることが、日常的に行われている。以上を踏まえると、引用商標の構成中「珈琲」の文字部分は、その指定役務「コーヒーを主とする飲食物の提供、飲食物の提供」との関係では、自他役務を識別する標識としての機能を有しないか、同機能が極めて弱いものといえる。
⑵ 引用商標の構成中、「珠屋」の文字部分は、「タマヤ」と発音することが
できる造語を表してなると理解できるから、引用商標に接する取引者、需要
5 者において、引用商標が、「珠屋」の文字からなる造語と役務の質又は飲食
店の業態を表す「珈琲」の語を結合させてなるものと容易に認識させるとともに、引用商標の指定役務である「コーヒーを主とする飲食物の提供、飲食物の提供」との関係において、自他役務を識別する標識としての機能が強いといえる。
⑶ そうすると、引用商標は、その構成中「珠屋」の文字部分が、取引者、需
要者に対し、役務の出所識別標識として、強く支配的な印象を与えるものといえるから、当該文字部分を要部として取り出し、これと本願商標と比較して商標の類否を判断することができる。引用商標に外観上の一体性があり、「タマヤコーヒー」の称呼が無理なく一気一息に称呼し得るとしても、前記⑴の取引の実情を考慮すると、引用商標は、必ずしも常に構成部分全体によって称呼、観念されるとは限らない。したがって、引用商標は、全体の構成文字に相応して生じる「タマヤコーヒー」の称呼のほかに、その要部である「珠屋」の文字部分に相応して、「タマヤ」の称呼を生じるが、特定の観念は生じない。
3 本願商標と引用商標の比較
本願商標の要部と引用商標の要部を比較すると、外観においては、「珠屋」の文字部分は構成文字(漢字)を共通にする同一の語(造語)を表してなるものであるから、色彩の有無やその他の書体に微差があるとしても、相紛らわしい。称呼においては、いずれも「タマヤ」の称呼を共通にするから、相紛らわしい。観念においては、いずれも特定の観念が生じないから、比較することができない。そうすると、本願商標の要部と引用商標の要部は、観念において比較できないとしても、外観及び称呼において相紛らわしいから、それらによって取引者、
5 需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して考察すれば、同一又は類似の役
務について使用するときは、その出所について誤認混同が生じるおそれがあり、両商標は類似するといえる。
第30類 菓子(肉・魚・果物・野菜・豆類又はナッツを主原料とするものを
除く。)、パン、サンドイッチ、中華まんじゅう、ハンバーガー、ピザ、ホットドッグ、ミートパイ、穀物の加工品、即席菓子のもと
第43類 飲食物の提供
以 上(別紙)引 用 商 標 目 録【登録番号】
5 商標登録第5984053号
【商標】珠屋珈琲(標準文字)【指定商品及び指定役務】
第30類 焙煎済みのコーヒー、焙煎したコーヒー豆、アイスコーヒー、コー
ヒー、コーヒー豆、弁当
第32類 コーヒーを使用してなる清涼飲料
第35類 飲食料品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益
の提供、商品の売買契約の代理・媒介・仲介・取次ぎ・代行、商品及び役務の販売促進・提供促進のための企画及びその実行の代理、広告業、トレーディングスタンプの発行、経営の診断又は経営に関する助言、市場調査又は分析、商品の販売に関する情報の提供、経理事務の代理又は代行、財務書類の作成、広告スペースの貸与又は提供、広告用具の貸与、一般事務の代理又は代行
第43類 コーヒーを主とする飲食物の提供、飲食物の提供
【登録出願日】平成28年11月9日【設定登録日】平成29年9月29日以 上(別紙)本件審決の理由(抜粋)
4 当審の判断
5 (1)商標法第4条第1項第11号該当性について
ア 本願商標について本願商標は、別掲1のとおり、「珠屋」の漢字を大きく横書きし、その左側に「珠」の漢字を白抜きで表した円及び図案化された「TAMAYA」の欧文字と考えられるものを内部に配置してなる円図形(以下「図形部分」という。)を表してなるものであり、これらはいずれも茶系統の色で表されているものである。そして、その構成中の「珠屋」の漢字と図形部分とは、明らかに分離して配置されている上、「珠屋」の漢字が大きくはっきりと表されているのに対し、図形部分は全体としてもやや小さく、また、その構成中の文字も小さく又は図案化されて表されているものである。そうすると、簡易迅速を尊ぶ商取引の実情においては、本願商標に接する取引者、需要者が、その構成中、大きくはっきりと表された「珠屋」の漢字部分に着目し、それをもって取引に当たる場合もあるものというのが相当である。したがって、本願商標よりは、その構成中の「珠屋」の漢字部分(以下「本願要部」という。)に相応した「タマヤ」の称呼が生じ、また、これは辞書類に掲載されている成語ではないことから、特定の観念が生じるとはいえないものである。イ 引用商標について(ア)引用商標1について〔略〕(イ)引用商標2について引用商標2は、「珠屋珈琲」の文字を標準文字で表してなるところ、その構成中の「珈琲」の文字は、「焙煎したコーヒー豆や、それを挽き粉としたもの。また、後者を湯で浸出した褐色の飲料」(出典:「広辞苑 第七版」株式会社岩波書店)を意味する語である。そして、飲食物を提供する役務の分野においては、飲料としてコーヒーが一般的に提供されている上、主としてコーヒーを提供する業態も少なくないことからすると、「珈琲」の文字は、引用商標2の指定役務「コーヒーを主とする飲食物の提供、飲食
5 物の提供」との関係において、その役務の質を表示したに過ぎないものであり、自他
役務の識別標識としての機能を有しないものといえる。他方、引用商標2構成中の「珠屋」の文字は、辞書類に掲載されている成語ではないことから、造語といえるものであり、自他役務の識別標識としての機能を十分に有するものといえる。そうすると、引用商標2の構成中、自他役務の識別標識としての機能を有するのは「珠屋」の文字部分のみといえるのであって、当該文字部分を要部として抽出し、それのみを本願商標と比較して、商標そのものの類否を判断することが許されるというべきである。したがって、引用商標2よりは、その構成文字全体に相応した「タマヤコーヒー」の称呼のほか、「珠屋」の文字部分(以下「引用2要部」という。)に相応した「タマヤ」の称呼が生じ、また、特定の観念は生じないものというのが相当である。ウ 本願商標と引用商標との類否について(ア)本願商標と引用商標1の類否について〔略〕(イ)本願商標と引用商標2の類否について本願商標と引用商標2を比較するに、外観においては、造語である「珠屋」の文字を構成中に有する点において共通するものである上、本願要部と引用2要部との比較においては、文字の色彩や書体が相違するものの「珠屋」の文字のみからなる点を共通にするものであるから、相当程度近似した印象を与えるものである。そして、称呼においては、「タマヤ」を共通にするものであるが、本願商標より生じる称呼「タマヤ」と、引用商標2より生じるその他の称呼「タマヤコーヒー」とでは、音数などが明らかに異なり、明瞭に聴別できるものである。また、観念においては、いずれも特定の観念を生じないものであるから比較することができない。そうすると、本願商標と引用商標2とは、観念において比較することはできず、外観上相当程度近似した印象を与えるものであり、称呼も一部共通にするものであ
5 るから、これらの外観、称呼及び観念によって、取引者、需要者に与える印象、記
憶、連想等を総合して全体的に考察すれば、本願商標と引用商標2は、役務の出所について誤認混同を生じるおそれのある、互いに類似の商標というのが相当である。エ 本願商標と引用商標2の指定役務の類否について〔略〕オ 小括〔略〕
(2)請求人の主張について
請求人は、引用商標2について、これは外観上一連一体に把握されるものであり、構成文字全体より生じる「タマヤコーヒー」の称呼も無理なく一連に称呼し得るものであって、また、「珠屋」の文字と「珈琲」の文字に構成上格別な軽重の差が見られない等、引用2要部が自他役務の識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認めるに足る事情があるとはいえないことから、引用商標2から「タマヤ」の称呼が生ずる可能性はなく、常に「タマヤコーヒー」と一連にのみ称呼される旨主張する。しかしながら、上記(1)イ(イ)のとおり、引用商標2の構成中、「珈琲」の文字は、上記(1)エの指定役務との関係において、「その役務がコーヒーを主とする飲食物の提供であること」又は「提供される飲食物がコーヒーであること」という、役務の質を表示したに過ぎないといえるものであり、自他役務の識別標識としての機能を有しないものであって、他方、同構成中の「珠屋」の文字は、造語といえるものであり、当該機能を十分に有するものである。そうすると、引用商標2の構成中、自他役務の識別標識としての機能を有するのは「珠屋」の文字部分のみといえるのであり、当該文字部分を要部として抽出し、それのみを本願商標と比較して、商標そのものの類否を判断することが許されるものであるから、引用商標2よりは、引用2要部に相応した「タマヤ」の称呼も生じ得るというのが相当である。したがって、請求人の主張は、採用することができない。以 上
第4 当裁判所の判断
1 取消事由(商標の類否判断の誤りによる商標法4条1項11号該当性判断の誤り)について
⑴ 判断枠組み商標の類否は、対比される両商標が同一又は類似の商品又は役務に使用された場合に、その商品又は役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが、それには、そのような商品又は役務に使用された商標がその外観、観念、称呼等によって取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべきであり、しかも、その商品又は役務に係る取引の実情を明らかにし得る限り、その具体的な取引状況に基づいて判断するのが相当である(最高裁昭和43年2月27日第三小法廷判決(昭和39年(行ツ)第110号)民集22巻2号399頁参照)。また、複数の構成部分を組み合わせた結合商標については、みだりに分離観察すべきではないが、商標の構成部分の一部が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えると認められる場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合等、商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合していると認められない場合には、その構成部分の一部を抽出し、その部分だけを他人の商標と比較して商標の類否を判断することも許されると解すべきである(最高裁昭和38年12月5日第一小法廷判決(昭和37年(オ)第953号)民集17巻12号1621頁、最高裁平成5年9月10日第二小法廷判決(平成3年(行ツ)第103号)民集47巻7号5009頁、最高裁平成20年9月8日第二小法廷
5 判決(平成19年(行ヒ)第223号)裁判集民事228号561頁参照)。
⑵ 本願商標について本願商標は、「珠屋」の漢字を大きく横書きし、その左側に、「珠」の漢字を白抜きで表した円の周囲に図案化された「TAMAYA」の欧文字を配置し、その外側を円で囲んでなる図形を表してなるものであり、これらの文字及び図形がいずれも茶系統の色で表されているものである。そして、「珠屋」の文字部分と図形部分とは分離して配置されている上、「珠屋」の漢字が大きくはっきりと表されているのに対し、図形部分は全体が「珠屋」の文字部分の漢字一文字よりも小さく、その構成中の文字はさらに小さく表されているものである。そうすると、本願商標の「珠屋」の文字部分は、本願商標に接する取引者、需要者に対し、商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えると認められ、本願商標の要部に当たるというべきである。称呼については、本願商標の要部である「珠屋」の文字部分からは「タマヤ」の称呼が生じ、図形部分からも「タマヤ」の称呼が生じ得る。観念については、「珠屋」は辞書類に掲載されている成語ではなく、何らかの屋号等の固有名称であると抽象的に観念し得るとしても、特定の観念が生じるとはいえない。
⑶ 引用商標についてア 「珈琲」の文字部分について引用商標の構成中、「珈琲」の文字部分は、一般消費者に慣れ親しまれ、日常的に摂取されている飲料である「コーヒー」の漢字表記である(乙4)。そして、引用商標の指定役務中、「飲食物の提供」の役務を提供する業界にあっては、飲食店の名称に主として提供する飲食物の名称である「ステーキ」「ピザ」「ラーメン」等の語を含めたものとする例は多く
5 (乙5~10)、「コーヒーを主とする飲食物の提供」の役務を提供する業界にあっても、例えば「椿屋珈琲」「寿屋珈琲」などのように、「○○珈琲」との構成からなる文字をもって飲食店の名称とする例が多数あると認められ(乙11~31)、広く一般に定着しているといえる。そうすると、引用商標の「珈琲」の文字部分は、引用商標の指定役務中「コーヒーを主とする飲食物の提供、飲食物の提供」との関係では、その役務において主として提供される飲食物が「コーヒー」であること、すなわち、役務の内容を表示したものと認識させるにとどまるものといえ、出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる。イ 「珠屋」の文字部分について引用商標の構成中、「珠屋」の文字部分は、本願商標の「珠屋」の文字部分と同じく、辞書類に掲載されている成語ではなく、何らかの屋号等の固有名称であると抽象的に観念し得るとしても、特定の観念が生じるとはいえない。そうすると、「珠屋」の文字部分は、出所識別標識として強く支配的な印象を与えるとまではいえないとしても、一定以上の自他役務識別力を有する部分といえる。また、一般に簡易迅速を尊ぶ取引の実際においては、商標の一部だけによって簡略に称呼、観念されることもしばしばある。「コーヒーを主とする飲食物の提供」の役務を提供する業界においても、例えば「椿屋珈琲」についてのグルメ情報記事(乙11)、「猿田彦珈琲」及び「千成屋珈琲」についての各新聞記事(乙20、23)において、それぞれ「椿屋」「猿田彦」「千成屋」とも記述されているとおり、「珈琲」以外の部分が自他役務識別力を有するような場合には、当該部分のみによって称呼、観念されることがあると認められる。ウ 分離観察の可否
5 以上を踏まえると、引用商標「珠屋珈琲」は、「珈琲」の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないのに対し、「珠屋」の部分は一定以上の自他役務識別力を有し、前記の取引の実情をも考慮すると、「珠屋珈琲」が標準文字の漢字4文字からなるひとまとまりの外観を有し、「タマヤコーヒー」の称呼が無理なく一気一息に称呼し得るとしても、分離観察をすることが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているとは認められないから、「珠屋」の部分を抽出し、その部分だけを他人の商標と比較して商標の類否を判断することも許されるというべきである。
⑷ 本願商標と引用商標の類否について本願商標の要部である「珠屋」の文字部分と引用商標の要部である「珠屋」の文字部分とを比較すると、外観においては、引用商標は標準文字であるのに対し、本願商標は別紙「商標目録」記載のとおりの色彩及び書体からなる点が異なるが、これが文字として「珠屋」を表していることは明らかであって、商標の類否が離隔的観察によるべきことをも考慮すると、取引者、需用者に対し、外観上、相当程度近似した印象を与えるものということができる。称呼については、いずれも「タマヤ」という同一の称呼が生じる。観念については、いずれも特定の観念が生じない。以上のとおり、本件商標と引用商標は、それぞれの要部において、外観において相当程度近似しており、その要部の称呼は同一であり、特定の観念を生じないものである。したがって、本願商標及び引用商標を同一又は類似の役務に使用した場合には、通常、役務の出所について誤認混同を生ずるおそれがあるということができるから、本願商標と引用商標は、全体として、互いに類似するものと認めるのが相当である。
⑸ 原告の主張についてア 原告は、「飲食物の提供」という役務の場合、需要者は提供される飲食
5 物の内容等の多くの要素を注意深く検討し、商標についても商標全体が表す店の印象等を注意深く観察すること、屋号全体が表示、称呼され、需要者も普通名称を含む全体を一体不可分のものとして認識、記憶することから、引用商標を分離観察することは許されない旨主張する。しかし、「飲食物の提供」の需要者は一般消費者であると認められるところ、出所識別標識である商標に向けられるその注意の程度が、「飲食物の提供」という役務の場合と、一般消費者を需要者とする他の商品・役務とで異なるとみるべき根拠はない。また、取引の実情において、「珈琲」の文字部分を除いた称呼が生じ得ると認められることは、前記⑶イのとおりである。イ 原告は、引用商標「珠屋珈琲」は、漢字4文字を同一の書体、大きさ、間隔で一連一体に表示するものであるから、需要者はその外観を一連一体のものとして視認、認識、把握すると主張する。しかし、「珈琲」の文字部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められること、「珠屋」の文字部分が一定以上の出所識別力を有すること及び前記の取引の実情を考慮すると、原告の主張する引用商標の外観を考慮しても、「珠屋」の文字部分が要部であり、分離観察が許されるべきことは、前記⑶ウのとおりである。ウ したがって、前記ア、イの主張を前提に引用商標の称呼の認定及び本願商標と引用商標の類否判断の誤りをいう原告の主張も、いずれも採用することができない。
⑹ 指定役務の類否等について本願商標の指定役務中の「飲食物の提供」と、引用商標の指定役務中の「コーヒーを主とする飲食物の提供」及び「飲食物の提供」とは、同一又は類似する役務である。そして、前記取引の実情に照らし、本願商標と引用商標がこれらの役務に使用された場合に、役務の出所につき誤認混同を生ずる
5 おそれがないと認められるような特別の事情は見当たらない。
⑺ 結論したがって、本願商標は、商標法4条1項11号に該当するから、本件審決の判断に誤りはない。
2 結論以上のとおり、原告主張の取消事由は認められないから、原告の請求は理由がない。よって、主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官
清 水 響
裁判官
菊 池 絵 理
裁判官
頼 晋 一
(別紙)
商 標 目 録
【商標】(色彩は公開商標公報原本を参照)【指定商品及び指定役務】
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