令和6(行ケ)10073審決取消請求事件
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| 裁判所 |
知的財産高等裁判所
|
| 裁判年月日 |
令和7年9月18日 |
| 事件種別 |
民事 |
| 当事者 |
原告ジェンマブエー/エス 被告中外製薬株式会社
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| 対象物 |
細胞傷害誘導治療剤 |
| 法令 |
特許権
特許法36条6項1号1回 特許法36条4項1号1回 特許法29条2項1回
|
| キーワード |
実施212回 審決102回 進歩性48回 新規性42回 無効15回 特許権3回 無効審判2回 優先権1回
|
| 主文 |
1 特許庁が無効2022-800027号事件について
598号の請求項1から18まで、23から25まで及
2 訴訟費用は被告の負担とする。 |
| 事件の概要 |
1 特許庁における手続の経過等(当事者間に争いがないか、又は当裁判所に
顕著である。 |
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判決文
令和7年9月18日判決言渡
令和6年(行ケ)第10073号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 令和7年6月3日
判 決
原 告 ジェンマブ エー/エス
同訴訟代理人弁護士 城 山 康 文
10 大 石 裕 太
篠 崎 慎 一 郎
同訴訟代理人弁理士 小 野 誠
同訴訟復代理人弁理士 重 森 一 輝
小 笠 原 洋 平
15 今 里 崇 之
被 告 中 外 製 薬 株 式 会 社
同訴訟代理人弁護士 大 野 聖 二
20 多 田 宏 文
亀 山 和 輝
同訴訟代理人弁理士 森 田 裕
池 田 直 俊
主 文
25 1 特許庁が無効2022-800027号事件について
令和6年3月21日にした審決のうち、特許第6278
598号の請求項1から18まで、23から25まで及
び27から70までに係る部分を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
5 第1 請求
主文同旨
第2 事案の概要
1 特許庁における手続の経過等(当事者間に争いがないか、又は当裁判所に
顕著である。)
10 (1) 被告は、発明の名称を「細胞傷害誘導治療剤」とする発明について、平
成23年11月30日を国際出願日とする特許出願(特願2012-546
900号。優先権主張:平成22年11月30日、平成23年5月31日、
同年10月31日。以下では、平成22年11月30日を「本件優先日」と
いう。)について、平成30年1月26日、特許権の設定登録を受けた(特
15 許第6278598号。請求項の数42。以下、この特許を「本件特許」と
いう。)。
(2) 訴外ファイザー・インクは、令和4年3月31日、被告を被請求人とし
て、本件特許について特許無効審判請求をし、特許庁はこれを無効2022
-800027号事件として審理を行った(以下、この審判を「本件審判」
20 という。)。
(3) 被告は、令和5年7月4日付けで、本件特許の特許請求の範囲を別紙1
「本件特許の特許請求の範囲の記載」のとおりに訂正する旨の訂正請求をし
た(訂正前の請求項19~22及び26は削除され、請求項43~70が追
加された。以下、この訂正を「本件訂正」という。)。
25 (4) 原告は、令和5年12月1日、本件審判に請求人側で参加申請をし、令
和6年2月8日に同申請が許可された。請求人であるファイザー・インクは、
同月19日付けで請求取下書を提出した。
(5) 特許庁は、令和6年3月21日、「特許第6278598号の特許請求
の範囲を、令和5年7月4日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の範
囲のとおり、訂正後の請求項[1~18、27~40]、[23、46~5
5 2]、[24~25、58~64]、[41~45]、[53~57]、[65~7
0]について訂正することを認める。特許第6278598号の請求項1~
18、23~25、27~70に係る発明についての本件審判の請求は、成
り立たない。特許第6278598号の請求項19~22、26に係る発明
についての無効審判請求を却下する。」との審決(以下「本件審決」という。)
10 をし、その謄本は令和6年4月1日原告に送達された。なお、出訴期間とし
在外者に対し90日が附加された。
(6) 原告は、令和6年7月25日、本件審決の取消しを求める本件訴訟を提
起した。
2 発明の内容
15 (1) 特許請求の範囲の記載
本件特許の特許請求の範囲(本件訂正による訂正後のもの。以下同じ。)
の記載は、別紙1「本件特許の特許請求の範囲の記載」のとおりである(下
線部は本件訂正によるもの。以下、本件特許の特許請求の範囲の記載によっ
て特定される発明を、各請求項の番号に対応して「本件訂正発明1」などと
20 いい、まとめて「本件訂正発明」という。)。このうち、請求項1について、
以下に記載する(下線部は本件訂正によるものである。)。
【請求項1】
下記のドメイン;
(1) 癌抗原結合ドメイン、
25 (2) 配列番号:23に記載のFc領域を構成するアミノ酸が変異している
Fc領域であって、IgG1抗体のFc領域(配列番号:23) を有するポ
リペプチド会合体と比較して、Fcγ受容体に対する結合活性が低下してい
る、Fc領域
を含むドメイン、及び、
(3) T細胞受容体複合体結合ドメイン、
5 を含むポリペプチド会合体であって、該T細胞受容体複合体結合ドメインが
Fabであり、該変異しているFc領域を構成する二つのポリペプチドの配
列が互いに異なる配列を有する、以下の(a)から(f)からなる群より選
ばれる一のポリペプチド会合体:
(a)
10 癌抗原結合ドメインを構成する一価のFabの重鎖Fv断片がCH1領
域を介してFc領域を構成する一方のポリペプチドに連結され、当該Fab
の軽鎖Fv断片がCL領域と連結され、T細胞受容体複合体結合ドメインを
構成するFabの軽鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域を構成する他
方のポリペプチドに連結され、当該Fabの重鎖Fv断片がCL領域と連結
15 された、ポリペプチド会合体、
(b)
癌抗原結合ドメインを構成する一価のFabの重鎖Fv断片がCH1領
域を介してFc領域を構成する一方のポリペプチドに連結され、当該Fab
の軽鎖Fv断片がCL領域と連結され、T細胞受容体複合体結合ドメインを
20 構成するFabの重鎖Fv断片がCL領域を介してFc領域を構成する他方
のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCH1領域と連結
された、ポリペプチド会合体、
(c)
T細胞受容体複合体結合ドメインを構成する一価のFabの重鎖Fv断
25 片がCH1領域を介してFc領域を構成する一方のポリペプチドに連結され、
当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結され、癌抗原結合ドメインを構
成するFabの軽鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域を構成する他方
のポリペプチドに連結され、当該Fabの重鎖Fv断片がCL領域と連結さ
れた、ポリペプチド会合体、
(d)
5 T細胞受容体複合体結合ドメインを構成する一価のFabの重鎖Fv断片
がCH1領域を介してFc領域を構成する一方のポリペプチドに連結され、
当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結され、癌抗原結合ドメインを構
成するFabの重鎖Fv断片がCL領域を介してFc領域を構成する他方の
ポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCH1領域と連結さ
10 れた、ポリペプチド会合体、
(e)
癌抗原結合ドメインを構成する一価のFabの重鎖Fv断片がCH1領域
を介してFc領域を構成する一方のポリペプチドに連結され、当該Fabの
軽鎖Fv断片がCL領域と連結され、T細胞受容体複合体結合ドメインを構
15 成するFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域を構成する他方
のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結さ
れた、ポリペプチド会合体、及び
(f)
癌抗原結合ドメインがF(ab’)2の構造を有するドメインであり、F
20 (ab’)2の構造を有するドメインの重鎖定常領域を構成する二つのポリ
ペプチドがFc領域を構成する二つのポリペプチドの各々に連結され、CD
3結合ドメインを構成する重鎖Fv断片がFc領域を構成する一方のCH3
に連結され、CD3結合ドメインを構成する軽鎖Fv断片がFc領域を構成
するもう一方のCH3に連結され、CD3結合ドメインを構成する重鎖Fv
25 断片に抗体のCH1ドメイン、及び、軽鎖Fv断片に抗体のCLドメインが
連結された、ポリペプチド会合体
であり、
該Fc領域を構成するアミノ酸のうち、EUナンバリングに従って特定さ
れる265位のアスパラギン酸がアラニンに変異している、
ポリペプチド会合体。
5 (2) 明細書及び図面の記載
本件訂正発明に係る明細書(甲36。以下「本件明細書」という。)及び
図面の抜粋を別紙2に掲げる。これによれば、本件明細書には、次のような
開示があることが認められる。
ア 技術分野
10 本件訂正発明は、T細胞を標的癌細胞に近接せしめT細胞による標的
癌細胞に対する細胞傷害活性を通じて癌を治療することを可能とするポ
リペプチド会合体、当該ポリペプチド会合体の製造方法、及び当該ポリ
ペプチド会合体を有効成分として含む細胞傷害誘導治療剤に関する。ま
た当該細胞傷害誘導治療剤を有効成分として含む、様々な癌を治療又は
15 予防するための医薬組成物又は当該医薬組成物を用いる治療方法に関す
る(【0001】)。
イ 背景技術
これまでに優れた抗腫瘍効果を示す複数の治療用抗体が、癌治療を目
的とする医薬品として開発されている。これらの治療用抗体は、癌細胞
20 の増殖に必要なシグナルの阻害、細胞死シグナルの誘発、あるいはAD
CC(Antibody Dependent Cell-mediated Cytotoxicity;抗体依存性細
胞傷害)、CDC(Complement Dependent Cytotoxicity;補体依存性細
胞傷害)によって、癌細胞に対する抗腫瘍効果を発揮することが知られ
ている。抗体のFc領域がNK細胞やマクロファージなどのエフェク
25 ター細胞上に存在するFcレセプターに結合することにより、抗体が結
合した標的の癌細胞に対してこれらのエフェクター細胞が発揮する細胞
傷害がADCCである。抗体が結合した細胞の細胞膜上に当該複合体中
に存在する補体成分が孔を形成することにより、水やイオンの細胞内へ
の流入が促進され細胞が破壊されて起こる細胞傷害がCDCである。既
存の治療用抗体には優れた作用が認められるものの、こうした抗体の投
5 与によって得られる治療成績はまだ満足できるものではない。そこで、
さらに強力な殺細胞活性を発揮する癌に対する治療抗体の開発が望まれ
ている(【0002】)。
上記のNK細胞やマクロファージをエフェクター細胞として動員する
ADCCをその抗腫瘍効果のメカニズムとする抗体とは別に、T細胞を
10 エフェクター細胞として動員する細胞傷害をその抗腫瘍効果のメカニズ
ムとする抗体であるT細胞リクルート抗体(T cell recruiting 抗体、以
下「TR抗体」という。)も1980年代から知られている。TR抗体は、
T細胞上のT細胞レセプター(TCR)複合体の構成サブユニットのい
ずれかに対する抗体、特に CD3 epsilon 鎖に結合する抗体と、標的である
15 癌細胞上の抗原に結合する抗体を含む bi-specific(二重特異性)抗体で
ある。TR抗体が CD3 epsilon 鎖と癌抗原に同時に結合することにより、
T細胞が癌細胞に接近する。その結果、T細胞の持つ細胞傷害作用によ
り癌細胞に対する抗腫瘍効果が発揮されると考えられている (【000
3】)。
20 TR抗体の一つとして trifunctional 抗体と称される抗体も知られてい
る。これは、癌抗原に結合するFabと CD3 epsilon 鎖に結合するFab
がそれぞれ片腕に含まれるwhole IgG型の bi-specific 抗体であ
る。EpCAMに対する trifunctional 抗体である catumaxomab をEp
CAM発現陽性の癌細胞を持つ悪性腹水患者の腹腔内に対して投与する
25 ことにより悪性腹水症に対する治療の効果が示されている(【0004】)。
さらに最近になり、BiTE(bispecific T-cell engager)と称され
るTR抗体が強い抗腫瘍作用を示すことが知られるようになった。Bi
TEは癌抗原に対する抗体のscFvと CD3 epsilon 鎖に対する抗体のs
cFvが短いポリペプチドリンカーを介して連結された分子型を有する
TR抗体である。BiTEはそれまでに知られていた様々なTR抗体に
5 比べて優れた抗腫瘍作用を持つことが報告されている。すなわちBiT
Eは、他のTR抗体に比較し、著しく低い濃度、及び低いエフェクター
細胞:癌細胞比率(ETレシオ)の下で抗腫瘍効果を発揮する。またこ
の効果の発現に、予めエフェクター細胞をIL-2やCD28アゴニス
ト抗体などにより活性化させる必要がないことも示されている。さらに
10 最近行なわれた第一相臨床試験、第二相臨床試験において極めて優れた
抗腫瘍効果を示したことが報告されている(【0005】)。
catumaxomab が臨床で薬効を示し治療薬として承認されていること、及
び blinatumomab を始めとする複数のBiTEが強い抗腫瘍効果を発揮す
ることから、T細胞をエフェクター細胞として動員するTR抗体には、
15 通常のADCCをその作用機序とする抗体に比べて極めて高い抗腫瘍薬
としてのポテンシャルがあることが示唆された(【0006】)。
しかしながら、trifunctional 抗体が癌抗原非依存的にT細胞とNK細
胞やマクロファージなどの細胞と同時に結合する結果、これらの細胞に
発現する受容体が架橋されることにより、癌抗原非依存的な各種サイト
20 カインの発現を誘導することが知られている。こうしたサイトカインの
発現の誘導は、trifunctional 抗体の全身投与によるサイトカインストー
ム様の副作用の発生につながるものと考えられる。実際、非小細胞肺癌
患者に対する catumaxomab の全身投与による第一相臨床試験においては、
5μg/body という極めて低い用量が最大許容投与量であり、それ以上の
25 用量の投与により様々な重篤な副作用が起こることが報告されている。
こうした低い用量の catumaxomab の投与によっては、その有効血中濃度に
は到底達し得ない。すなわち、こうした低い用量の catumaxomab の投与に
よっては期待される抗腫瘍作用が得られない(【0007】)。
一方、BiTEは catumaxomab とは異なりFcγ受容体に対する結合部
位を持たないため、癌抗原非依存的にT細胞とNK細胞やマクロファー
5 ジなどに発現する受容体が架橋されることはない。そのため、
catumaxomab が投与された場合に観察された癌抗原非依存的なサイトカイ
ンの誘導は起こらないことが示されている。しかしながら、BiTEは
Fc領域を欠く低分子量型の改変抗体分子であるために、治療用抗体と
して通常用いられるIgG型の抗体に比較して、患者に投与されたBi
10 TEの血中半減期は著しく短いという問題点が存在する。実際、生体に
投与されたBiTEの血中半減期は数時間程度であることが示されてお
り、blinatumomab の臨床試験においてはミニポンプを用いた持続静脈内
投与により blinatumomab の投与が行なわれている。こうした投与は患者
にとって著しく利便性の悪い投与法であるばかりでなく、機器の故障な
15 どによる医療事故のリスクも潜在し、望ましい治療法であるとはいえな
い(【0008】)。
ウ 発明が解決しようとする課題
本件訂正発明は上記の情況に鑑みてなされたものであり、T細胞を標
的癌細胞に近接せしめT細胞による標的癌細胞に対する細胞傷害活性を
20 通じて癌を治療することを可能とするポリペプチド会合体、当該ポリペ
プチド会合体の製造方法、及び当該ポリペプチド会合体を有効成分とし
て含む細胞傷害誘導治療剤を提供することを目的とする。また当該細胞
傷害誘導治療剤を有効成分として含む、様々な癌を治療又は予防するた
めの医薬組成物又は当該医薬組成物を用いる治療方法を提供することを
25 目的とする(【0010】)。
エ 課題を解決するための手段
本発明者らは、BiTEが持つ強い抗腫瘍活性と、癌抗原非依存的に
サイトカインストームなどを誘導しないという安全性上の優れた性質が
維持され、かつ長い血中半減期を持つ新たなポリペプチド会合体を見出
した。さらに、ポリペプチド会合体における抗原結合ドメインを置換す
5 ることにより、当該ポリペプチド会合体が様々な細胞を標的として細胞
傷害をもたらすことを見出した。本発明者らは、かかる発見に基づいて、
本発明に係るポリペプチド会合体が癌細胞を傷害することを明らかにし
た。また、ポリペプチド会合体に、CH1/CL界面会合制御導入及び
Knob into Hole(KiH)改変を導入することで、さらに効率よく細胞傷
10 害をもたらすことを見出した。また、本発明者らは、本発明に係るポリ
ペプチド会合体を有効成分とする細胞傷害誘導治療剤が、様々な癌を治
療又は予防することを見出した(【0011】)。
オ 発明の効果
本件訂正発明によって、BiTEが持つ強い抗腫瘍活性と、癌抗原非
15 依存的にサイトカインストームなどを誘導しないという安全性上の優れ
た性質が維持され、かつ長い血中半減期を持つ新たなポリペプチド会合
体が提供された。本件訂正発明のポリペプチド会合体における抗原結合
ドメインを置換することにより、当該ポリペプチド会合体を有効成分と
して含む細胞傷害誘導治療剤が癌細胞を含む様々な細胞を標的として細
20 胞傷害をもたらし、様々な癌を治療又は予防することができる。患者に
とっても、安全性が高いばかりでなく、身体的負担が少なく利便性も高
いという、望ましい治療ができるようになる(【0014】)。
3 本件審決の理由の要旨
本件審決の理由の要旨を以下に示す。
25 (1) 無効理由1(甲2に基づく新規性欠如)及び無効理由2(甲2に基づく
進歩性欠如)について
ア 甲第2号証に記載された発明
本件審決が認定した甲第2号証(本件審判での甲2。以下、本件審判
での証拠番号を「〔甲●〕」などと記す。)に記載された発明(以下「甲2
発明」という。甲2の記載(訳文)の抜粋を別紙3に掲げる。)は、以下
5 のとおりである。
「IgG1抗体のFc領域からのCH2部分を含み、299Kおよび2
97D(EU付番慣例)からなる群から選択される1つまたはそれ以上
のアミノ酸位置に、1つまたはそれ以上の安定化アミノ酸変異を含み、
前記安定化アミノ酸変異を欠く親ポリペプチドと比較して、FcγR
10 I、FcγRII、FcγRIIIからなる群から選択されるFc受容
体への低下した結合を有し、
腫瘍細胞抗原に対する少なくとも1つのアーム、および細胞毒性誘引
分子に対する少なくとも1つのアームを有する二重特異性結合抗体であ
る、
15 安定化ポリペプチド。」
イ 本件訂正発明1と甲2発明との対比
本件訂正発明1と甲2発明の一致点及び相違点は、以下のとおりである。
(一致点)
(1)癌抗原結合ドメイン、
20 (2)Fc領域を含むドメイン、及び、
(3)T細胞受容体複合体結合ドメイン、
を含むポリペプチド会合体であって、該T細胞受容体複合体結合ドメイ
ンがFabであり、以下の(e)からなるポリペプチド会合体:
(e)
25 癌抗原結合ドメインを構成する一価のFabの重鎖Fv断片がCH1
領域を介してFc領域を構成する一方のポリペプチドに連結され、当該
Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結され、T細胞受容体複合体結合
ドメインを構成するFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領
域を構成する他方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断
片がCL領域と連結された、ポリペプチド会合体。
5 (相違点1)
本件訂正発明1では、Fc領域を含むドメインが「配列番号:23に
記載のFc領域を構成するアミノ酸が変異しているFc領域であって、
IgG1抗体のFc領域(配列番号:23)を有するポリペプチド会合
体と比較して、Fcγ受容体に対する結合活性が低下している」もので
10 あり、「該Fc領域を構成するアミノ酸のうち、EUナンバリングに従っ
て特定される265位のアスパラギン酸がアラニンに変異している」の
に対し、甲2発明では、「IgG1抗体のFc領域からのCH2部分を含
み、299Kおよび297D(EU付番慣例)からなる群から選択され
る1つまたはそれ以上のアミノ酸位置に、1つまたはそれ以上の安定化
15 アミノ酸変異を含み、前記安定化アミノ酸変異を欠く親ポリペプチドと
比較して、FcγRI、FcγRII、FcγRIIIからなる群から
選択されるFc受容体への低下した結合を有」する点。
(相違点2)
本件訂正発明1では、「該変異しているFc領域を構成する二つのポリ
20 ペプチドの配列が互いに異なる配列を有する」のに対し、甲2発明では、
上記のような特定がされていない点。
ウ 相違点1についての判断
甲第2号証には、低下したFcγR結合親和性を有するFcポリペプ
チド(例えば、低下したFcγRI、FcγRIIa、FcγRIII
25 a結合親和性)が有する23か所のアミノ酸の置換位置の候補の1つと
して265位が例示されている(【0230】)が、段落【0230】以
外において、Fcポリペプチドの265位のアミノ酸を置換する旨の記
載は一切存在せず、実施例においても265位のアミノ酸に置換を有す
るポリペプチドは製造されていない。また、甲第2号証の段落【027
5】のアラニンで置換する旨の記載が、段落【0230】で例示された
5 265位におけるアミノ酸置換に向けられたものと解することはできな
いので、甲2発明において、Fc領域を構成するアミノ酸のうち、EU
ナンバリングに従って特定される265位のアスパラギン酸をアラニン
に変異させることが甲第2号証に記載されているとはいえない。
よって、本件訂正発明1は、少なくとも相違点1において甲2発明と
10 異なるから、甲第2号証に記載されたものではない。
また、甲第7号証(〔甲7〕)のTable1には、D265AはFc
γ受容体への結合を低下させる変異であることが示されているといえる
が、同Table1には、265位以外にも多数のアミノ酸位置が掲載
されており、しかも、これらのアミノ酸位置には甲第2号証の段落【0
15 230】に掲載されていないもの、また、逆に、段落【0230】で掲
載されたアミノ酸位置にはTable1に掲載されていないものが存在
することから、甲第7号証のTable1にあるD265Aという記載
が、甲2発明のFc領域において、特に265位のアミノ酸に着目し、
265位のアミノ酸をアラニンで置換することを当業者に動機付けるも
20 のであるとは認められない。
さらに、甲第1号証 (〔甲1〕)、甲第6 号証(〔甲6〕)、甲 第8号証
(〔甲8〕)、甲第9号証(〔甲9〕)の記載及び本件優先日の技術常識を参
酌しても、甲2発明のFc領域を構成するアミノ酸のうち265位のア
ミノ酸をアラニンで変異させることを当業者に動機付けるとは認められ
25 ない。
そうすると、甲2発明において、甲第2号証、甲第7号証、甲第1号
証、甲第6号証、甲第8号証、甲第9号証までの記載に接した当業者が、
上記の相違点1として挙げた本件訂正発明1の発明特定事項を採用する
ことを容易に想到し得るとはいえない。
エ 相違点についての判断のまとめ
5 以上からすると、本件訂正発明1は、相違点2について検討するまで
もなく、甲第2号証に記載された発明とはいえず、本件訂正発明1は、
甲2発明と甲第2号証、甲第7号証、甲第1号証、甲第6号証、甲第8
号証、甲第9号証までに記載された事項及び本件優先日の技術常識に基
づき当業者が容易に発明をすることができたものではない。
10 オ 本件訂正発明2から18まで、23から25まで、27から70までに
ついて
本件訂正発明2から18まで、27から40までは、いずれも本件訂
正発明1を直接的又は間接的に引用するものであるから、本件訂正発明
1と同様の理由により、甲第2号証に記載された発明とはいえず、甲2
15 発明と甲第2号証、甲第7号証、甲第1号証、甲第6号証、甲第8号証、
甲第9号証に記載された事項及び本件特許の優先日の技術常識に基づき
当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
一方、独立請求項である本件訂正発明23、24、41、53、65
は、いずれも、上記の相違点1として挙げた本件訂正発明1の発明特定
20 事項を含むものであるから、本件訂正発明23、24、41、53、6
5及びこれらの発明を直接的又は間接的に引用する本件訂正発明25、
42から52まで、54から64まで、66から70までも、本件訂正
発明1に対するものと同様の理由により、甲第2号証に記載された発明
とはいえず、甲2発明と甲第2号証、甲第7号証、甲第1号証、甲第6
25 号証、甲第8号証、甲第9号証までに記載された事項及び本件特許の優
先日の技術常識に基づき当業者が容易に発明をすることができたものと
はいえない。
(2) 無効理由3(甲10に基づく新規性欠如)及び無効理由4(甲10に基
づく進歩性欠如)について
ア 甲第10号証に記載された発明
5 本件審決が認定した甲第10号証(〔甲10〕)に記載された発明(以
下「甲10発明」という。甲10の記載(訳文)の抜粋を別紙4に掲げ
る。)は、以下のとおりである。
「抗FcRH5アームと、CD3といったT細胞受容体分子と結合する
アームとが組合された、ヒト化抗体である、全長抗体の二重特異性抗体。」
10 イ 本件訂正発明1と甲10発明との対比
本件訂正発明1と甲10発明の一致点及び相違点は、以下のとおりであ
る。
(一致点)
(1)癌抗原結合ドメイン、
15 (2)Fc領域を含むドメイン、及び、
(3)T細胞受容体複合体結合ドメイン、
を含むポリペプチド会合体であって、該T細胞受容体複合体結合ドメイ
ンがFabであり、以下の(e)からなるポリペプチド会合体:
(e)
20 癌抗原結合ドメインを構成する一価のFabの重鎖Fv断片がCH1
領域を介してFc領域を構成する一方のポリペプチドに連結され、当該
Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結され、T細胞受容体複合体結合
ドメインを構成するFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領
域を構成する他方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断
25 片がCL領域と連結された、ポリペプチド会合体
(相違点3)
本件訂正発明1では、Fc領域を含むドメインが「配列番号:23に
記載のFc領域を構成するアミノ酸が変異しているFc領域であって、
IgG1抗体のFc領域(配列番号:23)を有するポリペプチド会合
体と比較して、Fcγ受容体に対する結合活性が低下している」もので
5 あり、「該Fc領域を構成するアミノ酸のうち、EUナンバリングに従っ
て特定される265位のアスパラギン酸がアラニンに変異している」の
に対し、甲10発明では、上記のような特定がされていない点。
(相違点4)
本件訂正発明1では、「該変異しているFc領域を構成する二つのポリ
10 ペプチドの配列が互いに異なる配列を有する」のに対し、甲10発明で
は、上記のような特定がされていない点。
ウ 相違点3についての判断
甲第10号証には、副作用又は治療的合併症を最小限にするために、
エフェクター機能を排除するか又は低減することが望ましい場合、ある
15 種の他のFc領域が用いられ得ることが記載され(【0744】)、甲第1
0号証の段落【0636】には、抗FcRH5抗体上に存在する炭水化
物部分の除去が、グリコシル化の標的として役立つアミノ酸残基をコー
ドするコドンの突然変異置換によっても成し遂げられ得ることが、化学
的に又は酵素的に脱グリコシル化する方法とともに示唆されている。
20 しかし、甲第10号証には、特にグリコシル化及びエフェクター機能
が必要とされない場合、全長抗体が細菌中で産生され得、大腸菌中での
産生は、より速く、且つより費用効率が高いこと(【0651】)が記載
され、甲第10号証の実施例11には、FcRH5二重特異性抗体の産
生について、大腸菌を用いて抗体を発現させることが記載されるので、
25 甲第10号証では、エフェクター機能を排除又は低減させる手段として、
大腸菌といった細菌を用いる方法が採用されており、上記の「アミノ酸
残基をコードするコドンの突然変異置換」による方法、すなわち、Fc
領域を構成するアミノ酸を変異する方法は敢えて採用されていない。
また、甲第10号証には、Fc領域のうち、特に265位のアミノ酸
に着目し、265位のアミノ酸をアラニンで置換することを示唆する記
5 載は存しない。
そうすると、本件訂正発明1は、少なくとも相違点3において甲10
発明と異なるから、甲第10号証に記載されたものではない。
また、甲第1号証から甲第7号証までには、抗体のFc領域にアミノ
酸変異を導入することで、エフェクター機能を減少させることが記載さ
10 れているが、Fc領域の特に265位のアミノ酸に着目し、265位の
アミノ酸をアラニンで置換することを当業者に動機付ける記載や示唆は
見当たらないし、甲第8号証及び甲第9号証には、抗体のFc領域にア
ミノ酸変異を導入することで、エフェクター機能を減少させることに関
する記載はない。
15 そうすると、甲第1号証から甲第10号証の記載及び本件優先日の技
術常識を参酌しても、甲第10号証において示唆に止まる、グリコシル
化の標的として役立つアミノ酸残基をコードするコドンの突然変異置換
による方法を、甲10発明で敢えて採用し、さらに、この方法の採用を
前提に、甲10発明のFc領域を構成するアミノ酸の265位のアスパ
20 ラギン酸をアラニンに変異させることを当業者が動機付けられるとは認
められない。
したがって、甲10発明において、甲第1号証から甲第10号証まで
の記載に接した当業者が、上記の相違点3として挙げた本件訂正発明1
の発明特定事項を採用することを容易に想到し得るとはいえない。
25 エ 相違点についての判断のまとめ
以上により、本件訂正発明1は、相違点4について検討するまでもな
く、甲第10号証に記載された発明とはいえず、甲10発明と甲第1号
証から甲第10号証までに記載された事項及び本件優先日の技術常識に
基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
オ 本件訂正発明2から18まで、23から25まで、27から40までに
5 ついて
本件訂正発明2から18まで、27から40までは、いずれも本件訂
正発明1を直接的又は間接的に引用するものであるから、本件訂正発明
1と同様の理由により、甲第10号証に記載された発明とはいえず、甲
10発明と甲第1号証から甲第10号証までに記載された事項及び本件
10 優先日の技術常識に基づき当業者が容易に発明をすることができたもの
とはいえない。
一方、独立請求項である本件訂正発明23、24、41、53、65
は、いずれも、上記の相違点3として挙げた本件訂正発明1の発明特定
事項を含むものであるから、本件訂正発明23、24、41、53、6
15 5及びこれらの発明を直接的又は間接的に引用する本件訂正発明25、
42から52まで、54から64まで、66から70までも、本件訂正
発明1に対するものと同様の理由により、甲第10号証に記載された発
明とはいえず、甲10発明と甲第1号証から甲第10号証までに記載さ
れた事項及び本件優先日の技術常識に基づき当業者が容易に発明をする
20 ことができたものとはいえない。
(3) 無効理由5(サポート要件違反)について
本件訂正発明は、TR抗体である trifunctional 抗体やBiTEが備える
技術課題に鑑み、提案されたものであり、「BiTEが持つ強い抗腫瘍活性
と、癌抗原非依存的にサイトカインストームなどを誘導しないという安全性
25 上の優れた性質を維持し、かつ長い血中半減期を持つ、T細胞による標的癌
細胞に対する細胞傷害活性を通じて癌を治療することを可能とするポリペプ
チド会合体を提供すること」を課題としたものであると認められる。
そして、本件訂正発明のポリペプチド会合体は、実施例の記載より、Bi
TEが持つ強い抗腫瘍活性を備えたものであることを当業者は理解できる
(無効理由5-1、(a)~(e)の会合体の抗腫瘍活性)。
5 また、本件訂正発明のポリペプチド会合体は、「IgG1抗体のFc領域
(配列番号:23) を有するポリペプチド会合体と比較して、Fcγ受容体
に対する結合活性が低下している、Fc領域」を備えており、癌抗原非依存
的にサイトカインストームなどを誘導しないという安全性上の優れた性質を
維持していることを当業者は理解できる(無効理由5-2、Fc領域のアミ
10 ノ酸変異)。
さらに、本件訂正発明のポリペプチド会合体は、Fc領域を有するもの
であり、実施例3でも確認されたとおり、長い血中半減期を持つものである。
そうすると、本件訂正発明は、本件明細書の記載及び本件特許の出願時
の技術常識を踏まえると、上記課題を解決できることを当業者が認識できる
15 ものであるから、特許請求の範囲の記載が、特許法36条6項1号に規定す
る要件を満たしている。
(4) 無効理由6(実施可能要件違反)について
上記で検討したとおり、本件訂正発明のポリペプチド会合体を製造し、
それを使用することに、過度の試行錯誤、実験を要するとは認められないの
20 で、本件訂正発明は、発明の詳細な説明の記載が、特許法36条4項1号に
規定する要件を満たしているといえる。
4 原告が主張する本件審決の取消事由
(1) 取消事由1(甲2に基づく新規性・進歩性欠如に係る認定・判断の誤り)
(2) 取消事由2(甲10に基づく新規性・進歩性欠如に係る認定・判断の誤
25 り)
(3) 取消事由3(サポート要件違反に係る判断の誤り)
(4) 取消事由4(実施可能要件違反に係る判断の誤り)
第3 当事者の主張
当事者双方の主張は、別紙5「当事者の主張」に記載のとおりである。以下
に、その要旨を掲げる。
5 1 取消事由1(甲2に基づく新規性・進歩性欠如に係る認定・判断の誤り)
について
【原告の主張】
(1) 甲2発明の認定の誤り
ア 相違点1がないこと
10 本件審決は、甲第2号証の記載に関し、①前記アミノ酸変異を欠く親
ポリペプチド(IgG1抗体)と比較してFcγ受容体に対する結合活
性が低下していることの記載を認めた一方で、②IgG1のFc領域を
構成するアミノ酸においてD265A変異が生じていることの記載は認
めなかった(相違点1)。
15 しかし、上記②は、甲第2号証の段落【0269】から【0275】
までに記載されている。甲2発明にいう「安定性」は、Fc領域のうち
「EU付番慣例によるアミノ酸位置・・・262~266、・・・」等のアミ
ノ酸を変異させる(置換する)ことで達成でき、かつ、「変異は、アラニ
ン(A)による置換である」というアプローチも示されていた(【026
20 9】~【0275】)。そして、上述の記載で、本件訂正発明の請求項1
の「該Fc領域を構成するアミノ酸のうち、EUナンバリングに従って
特定される265位のアスパラギン酸がアラニンに変異している」とい
う構成要件が開示されていることは、当業者の理解に照らして明らかで
あった。
25 そして、甲第2号証には、「低下したエフェクタ機能」を実現しつつも
「安定性」をも満たした、Fc領域内にアミノ酸変異を有する抗体が、
具体的な技術的思想として示されており、甲2発明の「低下したエフェ
クタ機能」は、「FcγRI、FcγRII、およびFcγRIIIから
なる群から選択されるFc受容体(FcR)への低下した結合」により
実現されることも示されていた(【0034】、【0230】)。かかるFc
5 γ受容体に対する結合能の低下は、①Fc領域のうちEU付番で「・・・2
65、・・・」のいずれかの位置のアミノ酸の少なくとも1つを変異させる
(置換する)か(【0230】)、又は②「エフェクタ機能の変化を与える
ことが周知の当技術分野において承認されている置換を使用」する(【0
222】、【0223】)、などといった手法で達成できることが示されて
10 いた。
以上の説明のとおり、当業者が甲第2号証の記載全体を通じて甲2発
明を理解すれば、甲2発明は、審決が相違点1として認定した具体的な
技術的思想をも含むものであることが理解できた。よって、相違点1は
認められない。
15 イ 相違点2がないこと
本件審決は、本件訂正発明1と甲2発明の対比において、相違点2を
認定し、甲2発明が、変異しているFc領域を構成する二つのポリペプ
チドの配列が互いに異なる配列を有するものであることを認定しなかっ
た。
20 しかし、甲第2号証の段落【0128】には「2つの非同一のFc部
分のヘテロ二量体であり得る」こと、段落【0207】には「本発明の
ポリペプチドは、異なる配列組成である少なくとも2つのFc部分を含
むFc領域(すなわち、本明細書において「異種Fc領域」と称される。)
を含むことができる」ことが記載されている。また、段落【0485】
25 では、いわゆる「Knob into Hole」の説明があり、これは「異種Fc領
域」の具体的実施形態の1つが、その導入根拠と共に、説明されている
ことに他ならない。
よって、相違点2は認められない。
ウ 被告主張の更なる相違点が存在しないこと
被告は、甲2発明には「癌抗原及びT細胞受容体複合体に結合する」
5 「典型的なWhole IgG型の二重特異性抗体」が記載されていな
いと主張し、この点を更なる相違点(以下「相違点A」という。)として
認定すべきであると主張する。
しかし、甲第2号証には「典型的なWhole IgG型の」「抗体」
が記載されており、完全長抗体などは抗体の最たる例であるから、甲第
10 2号証には、完全長抗体であるIgG型の抗体が記載されていることは
明らかである。そして、甲第2号証の段落【0391】及び【0392】
には、「腫瘍細胞抗原に対する少なくとも1つのアーム、および細胞毒性
誘引分子に対する少なくとも1つのアームを有する二重特異性の変化し
た結合タンパク質」として、CD3(T細胞受容体複合体の一部を構成
15 する補助分子)と癌抗原に結合する二重特異性抗体が具体例により多数
列挙されている。
よって、上記相違点Aは認められない。
(2) 本件訂正発明1と甲2発明の相違点の認定(新規性があると判断したこ
と)の誤り
20 上記のとおり、本件審決が認定した相違点1及び2は認められないから、
本件訂正発明1について、新規性は認められない。
(3) 進歩性の判断の誤り
ア 仮に、本件審決の認定する相違点1が存在したとしても、以下に述べる
とおり、甲第7号証等の副引例及び周知技術又は技術常識から、当業者
25 において相違点1に係る本件訂正発明1の構成を容易に想到することが
できた。
イ 被告は、本件優先日当時のTR抗体を研究する当業者にとって、Fcγ
受容体への結合を介したエフェクター機能がTR抗体における技術的特
徴として不可欠なものとして認識されていたことは明らかであるなどと
主張しているが、本件優先日当時において、被告が主張するような当業
5 者における共通認識はなかった。
(4) 小括
以上のとおり、本件審決は、甲2発明の認定、甲第2号証に基づく本件
訂正発明1の新規性・進歩性に関する認定及び判断のいずれも誤っており、
その結果、本件訂正発明2から18まで、23から25まで及び27から7
10 0までについての新規性・進歩性の欠如を認めなかった本件審決の結論も誤
りである。
【被告の主張】
(1) 甲2発明の認定について
ア 原告の主張について
15 原告は、本件審決が認めた相違点1及び2がないと主張しているが、
このような主張は、本件訂正発明の構成要件に合致するよう、甲第2号
証の広範な記載の中に散らばる膨大な数の選択肢、更には引用文献外の
内容から、都合の良い要素を拾い出して組み合わせることによって甲2
発明を認定しようとするものであって、引用発明の認定として許されな
20 い、誤ったものである。甲第2号証には、原告が主張するような構成を
有する発明が記載されているとはいえず、相違点1及び2は認められる。
イ 本件審決が看過した相違点Aも存在すること
本件審決は、誤って過剰に一致点を認定しており、一致点で認定した
(e)の構成は甲第2号証に開示されていない。本件審決は、甲2発明
25 として、「腫瘍細胞抗原に対する少なくとも1つのアーム、および細胞毒
性誘引分子に対する少なくとも1つのアームを有する二重特異性結合抗
体である、安定化ポリペプチド」を認定した上で、この部分を、本件訂
正発明の「癌抗原結合ドメインを構成する一価のFabの重鎖Fv断片
がCHl領域を介してFc領域を構成する一方のポリペプチドに連結さ
れ、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結され、T細胞受容体複
5 合体結合ドメインを構成するFabの重鎖Fv断片がCHl領域を介し
てFc領域を構成する他方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽
鎖Fv断片がCL領域と連結された、ポリペプチド会合体」との一致点
としたが、何らの構造上の限定もない「ポリペプチド」は上位概念であ
り、これをもって下位概念である特定の構成の「ポリペプチド会合体」
10 に該当するとしていることのみからして、誤りである。そして、甲第2
号証の段落【0390】から【0392】までには、極めて多数の「多
特異性結合ポリペプチド」が抽象的に例示列挙されているのみであり、
ここには、二重特異性抗体が結合する抗原の点も含め、具体的な技術思
想としての発明の開示はないから、ここから「癌抗原及びT細胞受容体
15 複合体に結合するWhole IgG型の二重特異性抗体」を認定する
ことはできない。
よって、本件訂正発明1と甲2発明には、以下の更なる相違点Aが認
められる(同相違点を踏まえて正しく認定されたものを、以下「甲第2
号証に記載された発明」という。)。
20 <相違点A>
本件訂正発明1では、「(1)癌抗原結合ドメイン及び(3)T細胞受
容体複合体結合ドメインを含むポリペプチド会合体であって、T細胞受
容体複合体結合ドメインがFabであり、癌抗原結合ドメインを構成す
る一価のFabの重鎖Fv断片がCHl領域を介してFc領域を構成す
25 る一方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領
域と連結され、T細胞受容体複合体結合ドメインを構成するFabの重
鎖Fv断片がCHl領域を介してFc領域を構成する他方のポリペプチ
ドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結された、ポ
リペプチド会合体」であるのに対し、甲2発明はそのような構成を有し
ない点。
5 ウ 二重特異性のT細胞リクルート抗体に関する技術常識
甲第2号証に記載された発明の認定に関し、本件特許出願時には、癌を
治療することを目的とする二重特異性のT細胞リクルート抗体(TR抗
体)においては、Fcγ受容体への結合を介したエフェクター機能が重
要であることが技術常識であった。これを前提に、進歩性についても検
10 討すべきである。
(2) 甲第2号証に記載された発明に基づく新規性欠如の主張について
本件訂正発明1と甲第2号証に記載された発明との間には、相違点1、
相違点2及び相違点Aが存在するから、本件訂正発明1は、甲第2号証に記
載された発明とはいえない。よって、原告の甲第2号証に記載された発明に
15 基づく新規性欠如の主張も失当である。
(3) 甲第2号証に記載された発明に基づく進歩性欠如の主張について
ア 本件審決が正しく認定したように、甲第2号証に甲第7号証を組み合わ
せる動機付けは全く存在していない。甲第2号証に記載された発明は、
「改善された安定性」を提供することを課題とし、安定性に着目したも
20 のであり、甲第2号証の段落【0223】で言及されている国際公表第
WO00/42072A2(甲31の2)には、安定性の観点から評価
したデータは一切開示されていないから、甲第31号証の2に記載され
る発明を安定性の改善を目的とする甲2発明に適用するための動機付け
は存在しない。本件訂正発明1は、甲第2号証に記載された発明と副引
25 例及び本件優先日の技術水準に基づいて当業者が容易に想到できたもの
であるとはいえない。
イ 仮に、相違点Aが認められず、本件審決における甲2発明の認定を前提
にしても、相違点1が認められ、多数記載されたFcγRへの結合能を
低下させる変異(結合能の低下の程度の異なる様々な変異が存在する)
の中から、相違点1に係るFcγRへの結合能を顕著に低下させるD2
5 65Aを選択できた事情があったということができず、本件訂正発明に
甲第2号証、甲第7号証、甲第31号証の2から容易に想到し得たとい
うことはできない。
ウ 以上のとおり、本件訂正発明1は、甲第2号証に記載された発明と、甲
第2号証、甲第7号証、甲第31号証の2(原告が主張する周知技術)
10 及び本件優先日の技術水準から、当業者が容易に発明をすることができ
たものであったということはできないから、取消事由1のうちの甲第2
号証に基づく進歩性欠如に関する原告の主張は理由がない。
2 取消事由2(甲10に基づく新規性・進歩性欠如に係る認定・判断の誤り)
について
15 【原告の主張】
(1) 本件審決は、甲10発明と本件訂正発明1の間において、D265A変
異に係る相違点3を認定したが、甲第10号証(訳文)の段落【0744】
に「・・・代替的には、副作用または治療的合併症を最小限にするために、エ
フェクター機能を排除するかまたは低減することが望ましい場合、ある種の
20 他のFc領域が用いられ得る。」と示唆されていることからすれば、甲第1
0号証に甲第2号証及び甲第7号証の記載並びに甲第31号証の1及び2に
記載された周知技術又は技術常識を適用し、エフェクター機能を排除するた
めにFcγR結合親和性を低下させるものとしてD265A変異を導入する
ことは、甲第10号証に記載されているに等しいか、容易に想到することが
25 できた事項といえる。
すなわち、上記記載にはエフェクター機能に関連しない機序で細胞傷害
性を誘導する場合も当然に含まれ、TR抗体一般がこれに該当する。そして、
この場合に技術常識として知られていたD265Aを「エフェクター機能を
排除するかまたは低減する」ために導入すればよい。さらに、甲第10号証
の段落【0084】と段落【0744】を合わせれば、アミノ酸置換による
5 エフェクター機能の低下を読み取れ、それが二重特異性抗体にも適用される。
他にも甲第10号証の段落【0651】は「特に、グリコシル化およびFc
エフェクター機能が必要とされない場合、例えば、治療用抗体が細胞傷害性
物質(例えば、毒素)と接合され、免疫接合体それ自体が腫瘍細胞崩壊にお
いて有効性を示す場合」と記載され、TR抗体がまさにこれに該当する。そ
10 して、実施例11で、唯一二重特異性抗体が作製されており、これはTR抗
体である。してみれば、甲第10号証において二重特異性抗体とはTR抗体
が基本的には想起されていたものであり、このような二重特異性TR抗体に
アミノ酸置換によるエフェクター機能の低下を導入することも明確に記載さ
れていたということができる。
15 したがって、甲第10号証に記載されるエフェクター機能の低下の一環
として、「C1q結合および補体依存性細胞傷害性」の低下を実現するため
に、甲第10号証のガイダンスに従って甲第52号証記載のD265A変異
を導入することは、甲第10号証に記載されているに等しいか、容易に想到
することができた事項といえる。
20 (2) また、本件審決は、相違点4として、「本件訂正発明1では、『該変異し
ているFc領域を構成する二つのポリペプチドの配列が互いに異なる配列を
有する』のに対し、甲10発明では、上記のような特定がされていない点。」
と認定したが、甲第10号証の段落【0423】には「ヘテロ接合体抗体も、
本発明の範囲内である」ことが記載されているから、本件審決は相違点4を
25 誤って認定したものである。さらに、甲第10号証では、「ヘテロ多量体形
成を行なうために用いる戦術」として、Knob into Hole は開示されており
(【0922】)、これが「ごくごく抽象的な記載」であるはずがない。
(3) したがって、本件審決は、本件訂正発明1について甲第10号証に基づ
く新規性・進歩性に関する認定及び判断のいずれも誤っており、その結果、
本件訂正発明2から18まで、23から25まで及び27から70までにつ
5 いての新規性・進歩性の欠如を認めなかった本件審決の結論も誤りである。
【被告の主張】
(1) 原告は、D265A変異に係る審決の相違点3について、甲第10号証
の段落【0744】に示唆があるなどとするが、そもそも、段落【0744】
には、Fc領域内の265位のアスパラギン酸(D)をアラニン(A)に変
10 異させることの示唆など全くない。ここでは、「代替的には…ある種の他の
Fc領域が用いられ得る」として、「適切なFc領域」を「ある種の他のF
c領域」に替えることが抽象的に記載されているだけである。その内の26
5位のアスパラギン酸(D)を選択してアラニン(A)に変異させることの
示唆など、全く存在しない。D265A変異は、FcγRへの結合能を顕著
15 に低下させる変異であるが、そのような変異を採用することの動機付けは甲
第2号証及び甲第10号証のどこにも見出すことができない。
また、甲第10号証において、アミノ酸置換をエフェクター機能に関連
付けた記載は段落【0425】のみであり、そこでは確かに、エフェクター
機能操作を行う方法として、アミノ酸置換を導入することが記載されている
20 が、当該段落では、「抗源依存性細胞媒介性細胞傷害性(ADCC)および
/または補体依存性細胞傷害性(CDC)を増強するため」(当裁判所注:
甲第10号証の対応日本語文献である「特表2012-522512号公報」
では、「抗源依存性細胞媒介性細胞傷害性(ADCC)」と記載されているが、
「抗体依存性細胞媒介性細胞傷害性(ADCC)」の誤りである。)にアミノ
25 酸置換を行うのであり、エフェクター機能を低下させるためにアミノ酸置換
を行うのではない。甲第10号証には、エフェクター機能を低下させるため
のアミノ酸置換は全く記載されていないのであるから、甲第7号証等の他の
文献とを組み合わせる動機付けは一切存在しない。
さらに、本件審決が正しく認定したとおり、甲第1号証から甲第10号
証までの記載及び本件優先日の技術常識を参酌しても、甲第10号証におい
5 て示唆に止まる、グリコシル化の標的として役立つアミノ酸残基をコードす
るコドンの突然変異置換による方法を、甲10発明で敢えて採用し、さらに、
この方法の採用を前提に、甲10発明のFc領域を構成するアミノ酸の26
5位のアスパラギン酸をアラニンに変異させることを当業者が動機付けられ
るとは認められない。
10 加えて、甲第10号証の段落【0744】の記載からして、甲第10号
証を出発点にして本件訂正発明に至るには阻害事由があることが明白である。
すなわち、原告が依拠する上記の記載は、「代替的には」(Alternatively)
と明示されていることから明らかなとおり、「細胞傷害性を誘導」する技術
とは異なる技術に関する記載である。本件訂正発明は、癌細胞を傷害する技
15 術を規定したものであるから、まさに、「細胞傷害性を誘導」するものであ
る。このように、甲第10号証では、本件訂正発明のように「細胞傷害性を
誘導」する場合には、Fc領域を積極的に活用すべきことが記載されている
のであり、Fc領域の活性を下げることにはむしろ阻害事由があるし、少な
くとも、そのような示唆など存在しない。なお、甲第10号証の段落【06
20 51】には、「グリコシル化およびFcエフェクター機能が必要とされない
場合」の例として、「例えば、治療用抗体が細胞傷害性物質(例えば、毒素)
と接合され、免疫接合体それ自体が腫瘍細胞崩壊において有効性を示す場合」
とあるが、これは明らかにTR抗体と異なる技術を対象としたものである。
(2) また、相違点4についても、甲第10号証の段落【0423】には「ヘ
25 テロ接合体抗体も、本発明の範囲内である」との抽象的な記載があるのみで、
このような抽象的な記載から「具体的な技術的思想」を認定することはでき
ないことは明らかである。
(3) したがって、取消事由2が認められる余地はない。
3 取消事由3(サポート要件違反に係る判断の誤り)について
【原告の主張】
5 (1) アミノ酸変異について
仮に、甲第2号証と甲第7号証を組み合わせることができず、かつ前記
の技術常識又は周知技術が認められないのであれば、本件訂正発明はサポー
ト要件に違反する。すなわち、甲第7号証のTable1には、Fcγ受容
体への結合が低下するものだけでなく、Fcγ受容体への結合が増加するも
10 のや、一部のFcγ受容体にのみ作用するもの、FcRn結合のみに作用し、
Fcγ受容体には作用しないものなど、様々な結合特性を有するアミノ酸変
異が多岐にわたって記載されているものであり、265位以外にも多数のア
ミノ酸位置が掲載されている。仮に、本件審決の新規性・進歩性の判断に従
うのならば、それぞれの文献のFcγ受容体への結合性は判断手法が異なっ
15 ていると認定されるべきであり、2つの文献の記載を併せて考慮することは
できないはずである。本件審決は、周知技術又は技術常識を示す証拠の内容
を新規性・進歩性とサポート要件との間で矛盾する認定を行っており、本件
訂正発明は、サポートを欠いているか(新規性及び進歩性が認められる場
合)、又は新規性及び進歩性を欠いている(サポートが認められる場合)。
20 (2) 抗腫瘍活性について
本件審決は、本件明細書の実施例7の実験は、会合体の構成による腫瘍
活性の差異のみに着目したデータとして、「癌結合ドメイン」が、実施例7
以外のEp-CAM及びEGFR含めたその他の癌結合ドメインである場合
全体にも一般化できるとし、実施例7により、本件訂正発明の(a)及び
25 (b)の会合体全体が、BiTEが持つ強い抗腫瘍活性を有するものである
と認めることができるなどとして、サポート要件を認めた。しかし、そのよ
うな論理では、説明できない事象が本件明細書の中に認められる。本件明細
書の記載から、本件訂正発明の会合体が、単にサイトカインストームを防ぐ
のみならず優れた抗腫瘍活性を示すことの知られていたBiTEと抗腫瘍活
性において並ぶとは、当業者には理解されない。
5 【被告の主張】
(1) アミノ酸変異について
本件訂正発明は、「Fc領域を構成するアミノ酸のうち、EUナンバリン
グに従って特定される265位のアスパラギン酸がアラニンに変異している」
との発明特定事項、すなわち「D265A変異」を規定している。そして、
10 D265A変異は、Fc領域のFcγ受容体への結合活性を低下させる変異
であるから、この変異を有することで特定された本件訂正発明1は、請求項
1の(2)「配列番号:23に記載のFc領域を構成するアミノ酸が変異し
ているFc領域であって、IgG1抗体のFc領域(配列番号:23)を有
するポリペプチド会合体と比較して、Fcγ受容体に対する結合活性が低下
15 しているFc領域を含むドメイン」を有することを、当業者であれば十分に
理解できる。そして、本件明細書では、Fc領域を有するが、Fcγ受容体
への結合活性を低下させたTR抗体が効果を奏することを明らかにしている。
また、本件明細書の段落【0132】には、D265A変異が明確に記載さ
れ、D265AがFcγRへの結合能を低下させること自体は、甲第7号証
20 (Table1参照)及び甲第31号証の2(Table2参照)等から明
らかである。したがって、本件訂正発明がサポート要件を充足することは明
らかである。
(2) 抗腫瘍活性について
ア 原告は、本件訂正発明の課題の一つが、BiTEが持つ強い抗腫瘍活性
25 を有することであることを前提として、本件訂正発明の範囲に、BiT
Eが持つ強い抗腫瘍活性を有するという課題を満たさない発明が含まれ
るなどと主張するが、本件訂正発明の課題は、正しくは、本件明細書の
段落【0004】から【0008】までに記載された情況に鑑みて、「T
細胞を標的癌細胞に近接せしめT細胞による標的癌細胞に対する細胞傷
害活性を通じて癌を治療することを可能とするポリペプチド会合体、当
5 該ポリペプチド会合体の製造方法、および当該ポリペプチド会合体を有
効成分として含む細胞傷害誘導治療剤を提供すること」、及び「当該細胞
傷害誘導治療剤を有効成分として含む、様々な癌を治療または予防する
ための医薬組成物または当該医薬組成物を用いる治療方法を提供するこ
と」である(【0010】)。そして、本件訂正発明は、BiTEが生体に
10 投与された場合の短い血漿中半減期が改善され、且つ癌抗原非依存的な
サイトカイン放出症候群(CRS)等の重篤な副作用が低減された、T
細胞を標的癌細胞に近接せしめ、T細胞による標的癌細胞に対する細胞
傷害活性を通じて癌を治療することを可能とするポリペプチド会合体を
提供しているから、本件訂正発明の課題を解決していることは明らかで
15 ある。
イ 仮に、本件訂正発明の課題の一つに、「BiTEが持つ強い抗腫瘍活性
を有する」ことも含まれるとした場合であっても、本件審決の認定のと
おり、本件訂正発明がBiTEが持つ強い抗腫瘍活性を奏することは、
本件明細書から理解できる。それゆえ、この点においても、原告の主張
20 は、失当である。
4 取消事由4(実施可能要件違反に係る判断の誤り)について
【原告の主張】
当業者は、本件訂正発明の全てについて、FcγR結合親和性が低下してい
る(それがゆえにサイトカインストームを抑制できる)と同時に、BiTEが
25 持つ強い抗腫瘍活性を有することを、本件明細書及び技術常識から理解するこ
とはできないから、本件訂正発明の構造を決定・生産・使用するには、過度の
試行錯誤を要し、本件訂正発明は実施可能要件に違反する。
【被告の主張】
取消事由4の実施可能要件違反について、原告は、実質的には取消事由3の
サポート要件違反の主張と同一の内容を述べるにすぎず、取消事由3と同様、
5 理由がないことは明らかである。
第4 当裁判所の判断
事案に鑑み、取消事由2について判断する。
1 取消事由2のうちの甲第10号証に基づく新規性欠如に係る認定・判断の
誤りについて
10 (1)ア 原告は、相違点3(265位のアスパラギン酸がアラニンに変異して
いるかについての相違)に関し、甲第10号証の段落【0744】におい
て「抗体は、Fc領域で修飾されて、所望のエフェクター機能を提供し得
る。・・・代替的には、副作用または治療的合併症を最小限にするために、
エフェクター機能を排除するかまたは低減することが望ましい場合、ある
15 種の他のFc領域が用いられ得る。」と記載されており、甲第2号証、甲
第7号証並びに甲第31号証の1及び2に記載された周知技術又は技術常
識を適用すれば、D265A変異を導入することは、甲第10号証に記載
されているに等しい(新規性の欠如)と主張する。
イ しかし、甲第10号証の段落【0744】には、エフェクター機能を排
20 除するか又は低減することが望ましい場合に「ある種の他のFc領域」
が用いられ得ることが記載されているのみであり、この「ある種の他の
Fc領域」が具体的にいかなるものであるかは明らかにされていない。
仮に、Fcγ受容体結合親和性を低下させ、エフェクター機能を低下さ
せるものの1つとして、Fc領域におけるD265A変異が周知技術又
25 は技術常識であったとしても、この「ある種の他のFc領域」として、
特定の変異であるD265A変異が記載されているとか、記載されてい
るに等しいとかまでいうことはできない。
ウ これに対し、 甲第10 号証の段落【0142】において引用される
Idusogie et al. J. Immunol. 16 4: 4178-4184 (2000)(甲52)には、
D265A置換がC1q結合を重度に阻害し、補体依存性細胞傷害活性
5 を低下させたことが記載されている。
しかし、上記段落には、「変更されたFc領域アミノ酸配列を有するポ
リペプチド変異体(変異体Fc領域を有するポリペプチド)、ならびに増
大されたまたは低減されたClq結合能力は、例えば米国特許第6,1
94,551 B1号およびWO 1999/51642に記載されてい
10 る。例えば、Idusogie et al. J. Immunol. 164: 4178-4184 (2000)も参
照されたい。」と記載されているのみであり、ここで引用される文献(甲
52)に、増大された又は低減されたC1q結合能力を有するFc領域
における何らかの変異が開示されていることを漠然と理解することはで
きるものの、D265A変異がC1q結合を阻害するものであるという
15 ような具体的かつ特定の技術的事項については、甲第52号証自体を確
認しなければ把握することができない。そうすると、そのように引用さ
れる文献自体を確認しなければ把握できないような具体的かつ特定の技
術的事項までもが、甲第10号証に記載された事項であるとは到底いえ
ない。
20 エ 以上により、本件審決が認定した相違点3は認められる。
(2)ア 次に、原告は、相違点4(本件訂正発明1では、「該変異しているF
c領域を構成する二つのポリペプチドの配列が互いに異なる配列を有する」
のに対し、甲10発明では、上記のような特定がされていない点)に関し、
甲第10号証の段落【0423】には「ヘテロ接合体抗体も、本発明の範
25 囲内である」ことが記載されており、段落【0922】でも「ヘテロ多量
体形成を行なうために用いる戦術」として、Knob into Hole が開示され
ているから、本件審決は相違点4を誤って認定したものであり、かかる相
違点は存在しないと主張する。
イ そこで検討するに、甲10発明の請求項195では、「空洞への隆起
(protuberance-into-cavity)抗体である請求項194記載の抗体。」と
5 記載され、甲第10号証の段落【0423】には「ヘテロ接合体抗体も、
本発明の範囲内である」ことが記載されている。そして、段落【092
2】でも「ヘテロ多量体形成を行なうために用いる戦術」として、Knob
into Hole が開示され、さらに、FcRH5二重特異性抗体の産生及び特
性化に係る実施例11に関する段落【0923】及び【0924】では、
10 ヒト化抗CD3軽鎖(L)及び重鎖(H)変異体をコードする大腸菌発
現プラスミドを構築し、ヒト化抗CD3H鎖のCH3ドメイン中に隆起
又は空洞を導入する突然変異を誘発し、さらに、ヒト化抗FcRH5軽
鎖及び重鎖をコードする大腸菌発現プラスミドを構築し、ヒト化抗Fc
RH5H鎖のCH3ドメイン中に対応する空洞(抗CD3ドメインが隆
15 起突然変異を有する場合)又は対応する隆起(抗CD3ドメインが空洞
突然変異を有する場合)を導入する突然変異を誘発し、上記大腸菌発現
プラスミドを適切な大腸菌株中で形質転換することにより、抗CD3/
FcRH5空洞への隆起二重特異性抗体が産生されることが記載されて
いる。
20 ウ 以上の点、特に実施例11に関する記載からすると、甲第10号証には、
「抗FcRH5アームと、CD3といったT細胞受容体分子と結合する
アームとが組合された、ヒト化抗体である、全長抗体の空洞への隆起二
重特異性抗体」という発明が記載されていると認められる。
そうすると、本件審決は、甲10発明として、空洞への隆起抗体である
25 点、すなわち、二重特異性抗体における一方の重鎖に隆起又は空洞を導
入する突然変異を導入し、もう一方の重鎖に対応する空洞又は隆起を導
入したものである点を認定しなかった点で誤りがあるものといえる。そ
して、空洞への隆起抗体とは、上述のとおり、二重特異性抗体における
一方の重鎖に隆起又は空洞を導入する突然変異を誘発し、もう一方の重
鎖に対応する空洞又は隆起を導入したものであることから、甲10発明
5 の「空洞への隆起」「抗体」は、本件訂正発明1の「Fc領域を構成する
二つのポリペプチドの配列が互いに異なる配列を有する」「ポリペプチド
会合体」に相当し、審決が認定した相違点4に係る構成は、一致点に含
まれることとなる。
そうすると、本件訂正発明1と甲10発明との対比において、本件審
10 決が認定した相違点4は、相違点とはいえない。
エ 以上に対し、被告は、相違点4が認められるとし、甲第10号証の段落
【0423】にも「ヘテロ接合体抗体も、本発明の範囲内である」との
ごく抽象的な記載があるのみであると主張するが、上記イで検討した同
号証の請求項や段落の記載を考慮しないものであり、同主張は採用する
15 ことができない。
(3) 以上によれば、相違点4は認められず、本件審決には甲10発明の認定
並びに本件訂正発明1と甲10発明の一致点及び相違点の認定を誤ったもの
であるといえるが、前記のとおり、相違点3が認められるから、本件訂正発
明1は、少なくとも相違点3において甲10発明と異なる。
20 よって、本件訂正発明1が甲第10号証に記載されたものでない(新規
性が認められる。)とした本件審決の判断に誤りはない。
そして、本件訂正発明2から18まで、27から40までは、いずれも
本件訂正発明1を直接的又は間接的に引用するものであり、本件訂正発明1
に対するものと同様の理由により、甲第10号証に記載された発明とはいえ
25 ない。また、独立請求項である本件訂正発明23、24、41、53、65
は、いずれも、上記の相違点3として挙げた本件訂正発明1の発明特定事項
を含むものであるから、本件訂正発明1と同様の理由により、甲第10号証
に記載された発明とはいえない。そして、本件訂正発明23、24、41、
53、65を直接的又は間接的に引用する本件訂正発明25、42から52
まで、54から64まで、66から70までも、本件訂正発明1に対するも
5 のと同様の理由により、甲第10号証に記載された発明とはいえない。
以上により、取消事由2のうち、新規性欠如に関する原告の主張は採用
することができない。
2 取消事由2のうちの甲第10号証に基づく進歩性欠如に係る認定・判断の
誤りについて
10 (1) 原告は、甲第10号証の段落【0744】に「抗体は、Fc領域で修飾
されて、所望のエフェクター機能を提供し得る。本明細書中の節で詳細に考
察されているように、適切なFc領域を用いて、細胞表面に結合された裸抗
体は、例えば抗体依存性細胞性細胞傷害性(ADCC)を介して、または補
体依存性細胞傷害性において補体を動員することにより、または他のいくつ
15 かの機序により、細胞傷害性を誘導し得る。代替的には、副作用または治療
的合併症を最小限にするために、エフェクター機能を排除するかまたは低減
することが望ましい場合、ある種の他のFc領域が用いられ得る。」と記載
されていることなどから、甲第10号証に甲第2号証及び甲第7号証の記載
並びに甲第31号証の1及び2に記載された周知技術又は技術常識を適用し、
20 エフェクター機能を排除するためにFcγR結合親和性を低下させるものと
してD265A変異を導入することは、容易に想到することができたと主張
する。
(2) そこで検討するに、甲10発明に係る甲第10号証に記載された二重特
異性抗体(「抗FcRH5アームと、CD3といったT細胞受容体分子と結
25 合するアームとが組合された、ヒト化抗体である、全長抗体の空洞への隆起
二重特異性抗体」。前記1(2)ウ参照)については、①甲第10号証の請求
項193から199まで、特に請求項197に「大腸菌宿主細胞中で産生さ
れる請求項196記載の抗体。」とあり、請求項198に「1つ以上のFc
エフェクター機能を欠く請求項196記載の抗体。」とあること、②甲第1
0号証の段落【0050】に「別の態様では、本発明は、FcRH5を発現
5 する第一細胞と、ならびに細胞表面標的抗原を発現する第二細胞と結合し得
る二重特異性抗体を提供する。一実施形態では、第二細胞はT細胞である。
一実施形態では、細胞表面標的抗原はCD3である。ある実施形態では、二
重特異性抗体は、空洞への隆起(protruberance-into-cavity)抗体である。
一実施形態では、二重特異性抗体は非グリコシル化される。一実施形態では、
10 二重特異性抗体は、大腸菌宿主細胞中で産生される。一実施形態では、二重
特異性抗体は、1つ以上のFcエフェクター機能を欠く。一実施形態では、
二重特異性抗体はADCC活性を欠く。」と記載されていること、③実施例
11が「大腸菌で産生される」ものであること、④甲第10号証の段落【0
651】に「グリコシル化およびFcエフェクター機能が必要とされない場
15 合、例えば、治療用抗体が細胞傷害性物質(例えば、毒素)と接合され、免
疫接合体それ自体が腫瘍細胞崩壊において有効性を示す場合、全長抗体、抗
体断片および抗体融合タンパク質が細菌中で産生され得る。全長抗体は、よ
り大きな循環中半減期を有する。大腸菌中での産生は、より速く、且つより
費用効率が高い。」と記載されていることが認められる。そうすると、甲1
20 0発明の二重特異性抗体は、1つ以上のFcエフェクター機能を欠き、Fc
エフェクター機能が必要とされない抗体を主として含むものと認められる。
また、甲第10号証の段落【0744】に「抗体は、Fc領域で修飾さ
れて、所望のエフェクター機能を提供し得る」、「代替的には、副作用または
治療的合併症を最小限にするために、エフェクター機能を排除するかまたは
25 低減することが望ましい場合、ある種の他のFc領域が用いられ得る」との
記載もあり、抗体のエフェクター機能を低減するために修飾されたFc領域
を用いることも記載されているといえる。
そして、抗体におけるFcエフェクター機能を低減させる手段としては、
大腸菌で発現させることのほか、Fc領域にFcγ受容体との結合親和性を
低下させるアミノ酸変異を導入することが、本件優先日当時の当業者にとっ
5 て周知慣用の手段であって技術常識であったといえる(甲1の請求項1、1
2、【0005】、甲2の【0221】~【0223】、【0229】~【02
31】、甲4、甲5、甲7のTable1、甲27、同証拠のTable2、
甲31の1の請求項14~22、【0001】、甲45)。さらに、Fcγ受
容体との結合親和性を低下させFcエフェクター機能を低減させるアミノ酸
10 変異として、D265A変異も、本件優先日当時の当業者に周知であり技術
常識であったと認められる(甲7のTable1、甲31の1の表6、甲4
0の段落22~24で引用された甲43、甲44のTable2、甲45)。
そうすると、エフェクター機能を必要としない甲10発明の二重特異性
抗体において、上記技術常識に基づいて、Fc領域にD265A変異を導入
15 することは、当業者が容易に想到し得ることであると認められる。
(3) そして、本件明細書においては、その実施例に関する記載をみても、D
265A変異を導入した二重特異性抗体を実際に調製し、その効果を確認し
たことは全く記載されていないから、本件訂正発明1が、予測できないよう
な顕著な効果を奏するものとは認められない。
20 (4) そうすると、本件訂正発明1は、甲10発明及び本件優先日当時の技術
常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許
法29条2項により特許を受けることができない発明であると認められる。
(5)ア これに対し、被告は、甲第10号証には、エフェクター機能を低下さ
せるためのアミノ酸置換は全く記載されておらず、D265A変異は、F
25 cγ受容体への結合能を顕著に低下させる変異ではあるものの、多数のF
cγRへの結合能を低下させる変異の中からD265Aを選択できた事情
があったということはできないと主張する。
しかしながら、前記のとおり、抗体のエフェクター機能を低下させる
ための手段として、Fc領域にFcγ受容体との結合親和性を低下させ
るアミノ酸変異を導入することは、本件優先日当時の技術常識であるこ
5 とから、Fcγ受容体との結合親和性を低下させることが知られた任意
のアミノ酸置換をFc領域に導入することは、当業者であれば十分に動
機付けられることである。そして、前記のとおり、D265A変異を導
入したことによる格別の効果は認められないのであるから、Fcγ受容
体への結合能を低下させることが知られたアミノ酸置換のうち、特にD
10 265Aを選択することによる技術的意義は明らかでなく、D265A
変異を選択することは当業者の単なる設計事項にすぎないといわざるを
得ない。
イ(ア) 次に、被告は、甲第10号証の段落【0744】では、本件訂正発
明のように「細胞傷害性を誘導」する場合には、Fc領域を積極的に活
15 用すべきことが記載されているのであり、Fc領域の活性を下げること
には阻害事由があるとも主張する。
この点、上記段落には、「抗体は、Fc領域で修飾されて、所望のエ
フェクター機能を提供し得る。本明細書中の節で詳細に考察されている
ように、①適切なFc領域を用いて、細胞表面に結合された裸抗体は、
20 例えば抗体依存性細胞性細胞傷害性(ADCC)を介して、または補体
依存性細胞傷害性において補体を動員することにより、または他のいく
つかの機序により、細胞傷害性を誘導し得る。②代替的には、副作用ま
たは治療的合併症を最小限にするために、エフェクター機能を排除する
かまたは低減することが望ましい場合、ある種の他のFc領域が用いら
25 れ得る。」との記載がある(①、②の付番は被告の主張のとおり。)。
(イ) しかしながら、甲第10号証の段落【0744】について被告が指
摘する上記(ア)①の記載には、抗体は、適切なFc領域によるエフェク
ター機能により、細胞傷害性を誘導することができることが記載され
ているだけであり、細胞傷害性を誘導することができる抗体は、全て
Fc領域によるエフェクター機能を用いるものであると記載されてい
5 るわけではない。実際、前記(2)①から④まで、特に④の甲第10号証
の段落【0651】に「グリコシル化およびFcエフェクター機能が
必要とされない場合、例えば、治療用抗体が細胞傷害性物質(例えば、
毒素)と接合され、免疫接合体それ自体が腫瘍細胞崩壊において有効
性を示す場合、全長抗体、抗体断片および抗体融合タンパク質が細菌
10 中で産生され得る。」と記載されているように、治療用抗体が細胞傷害
性物質(例えば、毒素)と接合され、免疫接合体それ自体が腫瘍細胞
崩壊において有効性を示す場合は、抗体のエフェクター機能によらず、
細胞傷害性が誘導され、エフェクター機能が必要とされないことが知
られている。このように、細胞傷害性を誘導する抗体には、Fc領域
15 を介したエフェクター機能により細胞傷害性を誘導するものばかりで
はなく、細胞傷害性物質を結合するなどして、Fc領域を介したエ
フェクター機能がなくとも細胞傷害性を誘導する抗体もあるといえる。
そして、本件訂正発明1のような、T細胞上のT細胞受容体複合体構
成サブユニット、及び、標的である癌細胞上の抗原に結合する二重特異
20 性抗体(TR抗体)においては、FcのFcγ受容体との結合に起因す
る副作用の可能性が知られていたのであり、当該副作用を最小限にする
ためにエフェクター機能を排除するか又は低減することが望まれていた
といえる(甲50、甲51、甲54)。
そうすると、本件訂正発明1のTR抗体は、上記(ア)②に該当すると
25 いえる。
(ウ) これに対し、被告は、甲第10号証の段落【0651】における
「グリコシル化およびFcエフェクター機能が必要とされない場合」
の例としての「治療用抗体が細胞傷害性物質(例えば、毒素)と接合
され、免疫接合体それ自体が腫瘍細胞崩壊において有効性を示す場合」
とは、明らかにTR抗体と異なる技術を対象としたものであるとも主
5 張する。
しかしながら、TR抗体について、本件明細書の段落【0003】や
甲第2号証の段落【0391】及び【0392】の記載によれば、TR
抗体も免疫接合体も、いずれも、腫瘍細胞と細胞傷害性物質(例えば、
T細胞や毒素)に結合し、細胞傷害性物質を腫瘍細胞に接近させること
10 により、Fcエフェクター機能を必要とせずに抗腫瘍効果を発揮できる
抗体であるという点で共通するものである。そうすると、甲第10号証
の段落【0651】において「グリコシル化およびFcエフェクター機
能が必要とされない場合」の例として挙げられたにすぎない「免疫接合
体」が、一般的にTR抗体を指すものでないとしても、その機能面から
15 考えて、TR抗体が上記(ア)②の場合に当たり得ることは何ら左右され
ない。
(6) そうすると、本件訂正発明1は、甲10発明に基づいて当業者が容易に
発明をすることができたものと認められ、これと異なり、甲10発明におい
て、相違点3として挙げた本件訂正発明1の発明特定事項を採用することを
20 容易に想到し得るとはいえないとした本件審決の進歩性の判断は誤りである
といえる。
3 結論
以上によれば、取消事由2のうちの進歩性欠如の点は理由があり、その余の
取消事由について判断するまでもなく、原告の請求は理由があるから、本件審
25 決を取り消すこととし、主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官
増 田 稔
裁判官
岩 井 直 幸
10 裁判官
安 岡 美 香 子
別紙1
本件特許の特許請求の範囲の記載
(下線部は本件訂正によるものである。)
【請求項1】
5 下記のドメイン;
(1)癌抗原結合ドメイン、
(2)配列番号:23に記載のFc領域を構成するアミノ酸が変異しているFc領域であって、
IgG1抗体のFc領域(配列番号:23) を有するポリペプチド会合体と比較して、Fcγ
受容体に対する結合活性が低下している、Fc領域
10 を含むドメイン、及び、
(3)T細胞受容体複合体結合ドメイン、
を含むポリペプチド会合体であって、該T細胞受容体複合体結合ドメインがFabであり、該
変異しているFc領域を構成する二つのポリペプチドの配列が互いに異なる配列を有する、以
下の(a)から(f)からなる群より選ばれる一のポリペプチド会合体:
15 (a)
癌抗原結合ドメインを構成する一価のFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域
を構成する一方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結され、
T細胞受容体複合体結合ドメインを構成するFabの軽鎖Fv断片がCH1領域を介してFc
領域を構成する他方のポリペプチドに連結され、当該Fabの重鎖Fv断片がCL領域と連結
20 された、ポリペプチド会合体、
(b)
癌抗原結合ドメインを構成する一価のFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域
を構成する一方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結され、
T細胞受容体複合体結合ドメインを構成するFabの重鎖Fv断片がCL領域を介してFc領
25 域を構成する他方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCH1領域と連結
された、ポリペプチド会合体、
(c)
T細胞受容体複合体結合ドメインを構成する一価のFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介
してFc領域を構成する一方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領
域と連結され、癌抗原結合ドメインを構成するFabの軽鎖Fv断片がCH1領域を介してF
5 c領域を構成する他方のポリペプチドに連結され、当該Fabの重鎖Fv断片がCL領域と連
結された、ポリペプチド会合体、
(d)
T細胞受容体複合体結合ドメインを構成する一価のFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介
してFc領域を構成する一方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領
10 域と連結され、癌抗原結合ドメインを構成するFabの重鎖Fv断片がCL領域を介してFc
領域を構成する他方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCH1領域と連
結された、ポリペプチド会合体、
(e)
癌抗原結合ドメインを構成する一価のFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域
15 を構成する一方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結され、
T細胞受容体複合体結合ドメインを構成するFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介してFc
領域を構成する他方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結
された、ポリペプチド会合体、及び
(f)
20 癌抗原結合ドメインがF(ab’)2の構造を有するドメインであり、F(ab’)2の構造
を有するドメインの重鎖定常領域を構成する二つのポリペプチドがFc領域を構成する二つの
ポリペプチドの各々に連結され、CD3結合ドメインを構成する重鎖Fv断片がFc領域を構
成する一方のCH3に連結され、CD3結合ドメインを構成する軽鎖Fv断片がFc領域を構
成するもう一方のCH3に連結され、CD3結合ドメインを構成する重鎖Fv断片に抗体のC
25 H1ドメイン、及び、軽鎖Fv断片に抗体のCLドメインが連結された、ポリペプチド会合体
であり、
該Fc領域を構成するアミノ酸のうち、EUナンバリングに従って特定される265位のア
スパラギン酸がアラニンに変異している、
ポリペプチド会合体。
【請求項2】
5 T細胞受容体複合体結合ドメインがT細胞受容体結合ドメインである、請求項1に記載のポ
リペプチド会合体。
【請求項3】
T細胞受容体複合体結合ドメインがCD3結合ドメインである、請求項1に記載のポリペプ
チド会合体。
10 【請求項4】
(1)癌抗原に結合する一価のFab構造の重鎖Fv断片がCH1領域を介して前記Fc領
域を構成する一方のポリペプチドに連結され、当該Fab構造の軽鎖Fv断片がCL領域と連
結された癌抗原結合ドメイン、及び、
(2)T細胞受容体複合体に結合する一価のFab構造の重鎖Fv断片がCH1領域を介し
15 てFc領域を構成する他方のポリペプチドに連結され、当該Fab構造の軽鎖Fv断片がCL
領域と連結されたT細胞受容体複合体結合ドメイン、
を含むポリペプチド会合体であって、癌抗原結合ドメイン中の重鎖Fv断片と癌抗原結合ドメ
イン中の軽鎖Fv断片またはT細胞受容体複合体結合ドメイン中の重鎖Fv断片とT細胞受容
体複合体結合ドメイン中の軽鎖Fv断片が会合するようにCH1領域とCL領域の電荷が制御
20 されている、請求項1の(e)に記載のポリペプチド会合体。
【請求項5】
T細胞受容体複合体結合ドメイン中の重鎖Fv断片に連結されたCH1領域のアミノ酸残基
および癌抗原結合ドメイン中の軽鎖Fv断片に連結されたCL領域のアミノ酸残基が互いに同
種の電荷を有する、請求項4に記載のポリペプチド会合体。
25 【請求項6】
癌抗原結合ドメイン中の重鎖Fv断片に連結されたCH1領域のアミノ酸残基およびT細胞
受容体複合体結合ドメイン中の軽鎖Fv断片に連結されたCL領域のアミノ酸残基が互いに同
種の電荷を有する、請求項4に記載のポリペプチド会合体。
【請求項7】
T細胞受容体複合体結合ドメイン中の重鎖Fv断片に連結されたCH1領域のアミノ酸残基
5 および癌抗原結合ドメイン中の軽鎖Fv断片に連結されたCL領域のアミノ酸残基が互いに同
種の電荷を有し、癌抗原結合ドメイン中の重鎖Fv断片に連結されたCH1領域のアミノ酸残
基およびT細胞受容体複合体結合ドメイン中の軽鎖Fv断片に連結されたCL領域のアミノ酸
残基が互いに同種の電荷を有する、請求項4に記載のポリペプチド会合体。
【請求項8】
10 T細胞受容体複合体結合ドメイン中の重鎖Fv断片に連結されたCH1領域のアミノ酸残基
およびT細胞受容体複合体結合ドメイン中の軽鎖Fv断片に連結されたCL領域のアミノ酸残
基が互いに異種の電荷を有する、請求項5又は7に記載のポリペプチド会合体。
【請求項9】
癌抗原結合ドメイン中の重鎖Fv断片に連結されたCH1領域のアミノ酸残基および癌抗原
15 結合ドメイン中の軽鎖Fv断片に連結されたCL領域のアミノ酸残基がともに異種の電荷を有
する、請求項6または7に記載のポリペプチド会合体。
【請求項10】
T細胞受容体複合体結合ドメインがT細胞受容体結合ドメインである、請求項4から9のい
ずれかに記載のポリペプチド会合体。
20 【請求項11】
T細胞受容体結合ドメインがCD3結合ドメインである、請求項10に記載のポリペプチド
会合体。
【請求項12】
CH1領域のアミノ酸残基およびCL領域のアミノ酸残基が、以下の(a)~(f)に示さ
25 れる1組又は2組以上のアミノ酸残基の組からなる群;
(a)CH1領域のアミノ酸残基であってEUナンバリング147位のアミノ酸残基、及びC
L領域のアミノ酸残基であってEUナンバリング180位のアミノ酸残基、
(b)CH1領域のアミノ酸残基であってEUナンバリング147位のアミノ酸残基、及びC
L領域のアミノ酸残基であってEUナンバリング131位のアミノ酸残基
(c)CH1領域のアミノ酸残基であってEUナンバリング147位のアミノ酸残基、及びC
5 L領域のアミノ酸残基であってEUナンバリング164位のアミノ酸残基
(d)CH1領域のアミノ酸残基であってEUナンバリング147位のアミノ酸残基、及びC
L領域のアミノ酸残基であってEUナンバリング138位のアミノ酸残基
(e)CH1領域のアミノ酸残基であってEUナンバリング147位のアミノ酸残基、及びC
L領域のアミノ酸残基であってEUナンバリング123位のアミノ酸残基
10 (f)CH1領域のアミノ酸残基であってEUナンバリング175位のアミノ酸残基、及びC
L領域のアミノ酸残基であってEUナンバリング160位のアミノ酸残基
より選択され、CH1領域のアミノ酸残基とCL領域のアミノ酸残基とが互いに異種の電荷を
有するアミノ酸残基である、請求項8又は9に記載のポリペプチド会合体。
【請求項13】
15 さらに、以下の(g)に示されるアミノ酸残基の組を含む群より選択される、請求項12に
記載のポリペプチド会合体。
(g)CH1領域のアミノ酸残基であってEUナンバリング213位のアミノ酸残基、及びC
L領域のアミノ酸残基であってEUナンバリング123位のアミノ酸残基
【請求項14】
20 前記異種の電荷を有するアミノ酸残基が、以下の(X)または(Y)のいずれかの群;
(X)グルタミン酸(E) 、アスパラギン酸(D);
(Y)リジン(K)、アルギニン(R)、ヒスチジン(H);
に含まれるアミノ酸残基から選択される、請求項12又は13に記載のポリペプチド会合体。
【請求項15】
25 前記異種の電荷を有するアミノ酸残基が、CH1領域のアミノ酸残基であってEUナンバリ
ング175位のアミノ酸残基がLys、CL領域のアミノ酸残基であってEUナンバリング1
80位、131位及び160位のアミノ酸残基がいずれもGluである、請求項12から14
のいずれかに記載のポリペプチド会合体。
【請求項16】
前記異種の電荷を有するアミノ酸残基が、CH1領域のアミノ酸残基であってEUナンバリ
5 ング147位及び175位のアミノ酸残基がGlu、CL領域のアミノ酸残基であってEUナ
ンバリング180位、131位及び160位のアミノ酸残基がいずれもLysである、請求項
12から14のいずれかに記載のポリペプチド会合体。
【請求項17】
さらに、CH1領域のアミノ酸残基であってEUナンバリング213位のアミノ酸残基がG
10 luであり、CL領域のアミノ酸残基であってEUナンバリング123位のアミノ酸残基がL
ysである、請求項16に記載のポリペプチド会合体。
【請求項18】
Fc領域がFcγI、FcγIIA、FcγIIB、FcγIIIA及びFcγIIIBの
いずれかのFcγ受容体に対する結合活性が低下しているFc領域である請求項1から17の
15 いずれかに記載のポリペプチド会合体。
【請求項19】(削除)
【請求項20】(削除)
【請求項21】(削除)
【請求項22】(削除)
20 【請求項23】
下記のドメイン;
(1)癌抗原結合ドメイン、
(2)配列番号:23に記載のFc領域を構成するアミノ酸が変異しているFc領域であって、
IgG1抗体のFc領域(配列番号:23) を有するポリペプチド会合体と比較して、Fcγ
25 受容体に対する結合活性が低下している、Fc領域を含むドメイン、及び、
(3) T細胞受容体複合体結合ドメイン、
を含むポリペプチド会合体であって、該T細胞受容体複合体結合ドメインがFabであり、該
変異しているFc領域を構成する二つのポリペプチドの配列が互いに異なる配列を有する、以
下の(a)から(f)からなる群より選ばれる一のポリペプチド会合体:
(a)
5 癌抗原結合ドメインを構成する一価のFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域
を構成する一方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結され、
T細胞受容体複合体結合ドメインを構成するFabの軽鎖Fv断片がCH1領域を介してFc
領域を構成する他方のポリペプチドに連結され、当該Fabの重鎖Fv断片がCL領域と連結
された、ポリペプチド会合体、
10 (b)
癌抗原結合ドメインを構成する一価のFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域
を構成する一方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結され、
T細胞受容体複合体結合ドメインを構成するFabの重鎖Fv断片がCL領域を介してFc領
域を構成する他方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCH1領域と連結
15 された、ポリペプチド会合体、
(c)
T細胞受容体複合体結合ドメインを構成する一価のFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介
してFc領域を構成する一方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領
域と連結され、癌抗原結合ドメインを構成するFabの軽鎖Fv断片がCH1領域を介してF
20 c領域を構成する他方のポリペプチドに連結され、当該Fabの重鎖Fv断片がCL領域と連
結された、ポリペプチド会合体、
(d)
T細胞受容体複合体結合ドメインを構成する一価のFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介
してFc領域を構成する一方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領
25 域と連結され、癌抗原結合ドメインを構成するFabの重鎖Fv断片がCL領域を介してFc
領域を構成する他方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCH1領域と連
結された、ポリペプチド会合体、
(e)
癌抗原結合ドメインを構成する一価のFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域
を構成する一方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結され、
5 T細胞受容体複合体結合ドメインを構成するFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介してFc
領域を構成する他方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結
された、ポリペプチド会合体、及び
(f)
癌抗原結合ドメインがF(ab’)2の構造を有するドメインであり、F(ab’)2の構造
10 を有するドメインの重鎖定常領域を構成する二つのポリペプチドがFc領域を構成する二つの
ポリペプチドの各々に連結され、CD3結合ドメインを構成する重鎖Fv断片がFc領域を構
成する一方のCH3に連結され、CD3結合ドメインを構成する軽鎖Fv断片がFc領域を構
成するもう一方のCH3に連結され、CD3結合ドメインを構成する重鎖Fv断片に抗体のC
H1ドメイン、及び、軽鎖Fv断片に抗体のCLドメインが連結された、ポリペプチド会合体
15 であり、
該Fc領域を構成するアミノ酸のうち、EUナンバリングに従って特定される265位のア
スパラギン酸がアラニンに変異しており、および234位のロイシンが、対応するIgG4に
おいてそのEUナンバリングが対応するアミノ酸に置換されている、
ポリペプチド会合体。
20 【請求項24】
下記のドメイン;
(1)癌抗原結合ドメイン、
(2)配列番号:23に記載のFc領域を構成するアミノ酸が変異しているFc領域であって、
IgG1抗体のFc領域(配列番号:23) を有するポリペプチド会合体と比較して、Fcγ
25 受容体に対する結合活性が低下している、Fc領域を含むドメイン、及び、
(3)T細胞受容体複合体結合ドメイン、
を含むポリペプチド会合体であって、該T細胞受容体複合体結合ドメインがFabであり、該
変異しているFc領域を構成する二つのポリペプチドの配列が互いに異なる配列を有する、以
下の(a)から(f)からなる群より選ばれる一のポリペプチド会合体:
(a)
5 癌抗原結合ドメインを構成する一価のFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域
を構成する一方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結され、
T細胞受容体複合体結合ドメインを構成するFabの軽鎖Fv断片がCH1領域を介してFc
領域を構成する他方のポリペプチドに連結され、当該Fabの重鎖Fv断片がCL領域と連結
された、ポリペプチド会合体、
10 (b)
癌抗原結合ドメインを構成する一価のFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域
を構成する一方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結され、
T細胞受容体複合体結合ドメインを構成するFabの重鎖Fv断片がCL領域を介してFc領
域を構成する他方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCH1領域と連結
15 された、ポリペプチド会合体、
(c)
T細胞受容体複合体結合ドメインを構成する一価のFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介
してFc領域を構成する一方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領
域と連結され、癌抗原結合ドメインを構成するFabの軽鎖Fv断片がCH1領域を介してF
20 c領域を構成する他方のポリペプチドに連結され、当該Fabの重鎖Fv断片がCL領域と連
結された、ポリペプチド会合体、
(d)
T細胞受容体複合体結合ドメインを構成する一価のFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介
してFc領域を構成する一方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領
25 域と連結され、癌抗原結合ドメインを構成するFabの重鎖Fv断片がCL領域を介してFc
領域を構成する他方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCH1領域と連
結された、ポリペプチド会合体、
(e)
癌抗原結合ドメインを構成する一価のFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域
を構成する一方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結され、
5 T細胞受容体複合体結合ドメインを構成するFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介してFc
領域を構成する他方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結
された、ポリペプチド会合体、及び
(f)
癌抗原結合ドメインがF(ab’)2の構造を有するドメインであり、F(ab’)2の構造
10 を有するドメインの重鎖定常領域を構成する二つのポリペプチドがFc領域を構成する二つの
ポリペプチドの各々に連結され、CD3結合ドメインを構成する重鎖Fv断片がFc領域を構
成する一方のCH3に連結され、CD3結合ドメインを構成する軽鎖Fv断片がFc領域を構
成するもう一方のCH3に連結され、CD3結合ドメインを構成する重鎖Fv断片に抗体のC
H1ドメイン、及び、軽鎖Fv断片に抗体のCLドメインが連結された、ポリペプチド会合体
15 であり、
該Fc領域を構成するアミノ酸のうち、EUナンバリングに従って特定される265位のア
スパラギン酸がアラニンに変異しており、234位のロイシンおよび235位のロイシンがさ
らに変異している、
ポリペプチド会合体。
20 【請求項25】
234位のロイシンがアラニンに変異しており及び/又は235位のロイシンがアラニンに
変異していることを特徴とする、請求項24に記載のポリペプチド会合体。
【請求項26】(削除)
【請求項27】
25 Fc領域を構成する二つのポリペプチドの一方のポリペプチドのアミノ酸残基のうちEUナ
ンバリングに従って特定される349位のアミノ酸がシステイン、366位のアミノ酸がトリ
プトファンに、他方のポリベプチドのアミノ酸残基のうちEUナンバリングに従って特定され
る356位のアミノ酸がシステイン、366位のアミノ酸がセリンに、368位のアミノ酸が
アラニンに、407位のアミノ酸がバリンに変異していることを特徴とする、請求項 1 から1
8のいずれかに記載のポリペプチド会合体。
5 【請求項28】
Fc領域を構成する二つのポリペプチドの一方のポリペプチドのアミノ酸残基のうちEUナ
ンバリングに従って特定される356位のアミノ酸がリジンに、他方のポリペプチドのアミノ
酸残基のうちEUナンバリングに従って特定される439位のアミノ酸がグルタミン酸に変異
し、いずれか一方のポリペプチドのアミノ酸残基のうちEUナンバリングに従って特定される
10 435位のアミノ酸がアルギニンに変異していることを特徴とする、請求項1から18のいず
れかに記載のポリペプチド会合体。
【請求項29】
Fc領域を構成する二つのポリペプチドのカルボキシ末端に存在する配列GKが欠失してい
ることを特徴とする、請求項27又は28に記載のポリペプチド会合体。
15 【請求項30】
癌抗原結合ドメインが同一のエピトープに結合する、請求項1の(f)に記載のポリペプチ
ド会合体。
【請求項31】
同一のエピトープが配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質中に存在する、
20 請求項30に記載のポリペプチド会合体。
【請求項32】
同一のエピトープが配列番号:4に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質中に存在する、
請求項30に記載のポリペプチド会合体。
【請求項33】
25 癌抗原結合ドメインが互いに異なるエピトープに結合する、請求項1の(f)に記載のポリ
ペプチド会合体。
【請求項34】
異なるエピトープが配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質中に存在する、
請求項33に記載のポリペプチド会合体。
【請求項35】
5 異なるエピトープが配列番号:4に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質中に存在する、
請求項33に記載のポリペプチド会合体。
【請求項36】
請求項1から18および27から35のいずれかに記載のポリペプチド会合体をコードする
ポリヌクレオチド。
10 【請求項37】
請求項36に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項38】
請求項37に記載のベクターを保持する細胞。
【請求項39】
15 請求項38に記載の細胞を培養し培養上清からポリペプチド会合体を回収することを含むポ
リベプチド会合体の製造方法。
【請求項40】
請求項1から18および27から35のいずれかに記載のポリペプチド会合を有効成分とし
て含む細胞傷害誘導治療剤。
20 【請求項41】
下記のドメイン;
(1)癌抗原結合ドメイン、
(2)配列番号:23に記載のFc領域を構成するアミノ酸が変異しているFc領域であって、
IgG1抗体のFc領域(配列番号:23) を有するポリペプチド会合体と比較して、Fcγ
25 受容体に対する結合活性が低下している、Fc領域を含むドメイン、及び、
(3)T細胞受容体複合体結合ドメイン、
を含むポリペプチド会合体であって、該T細胞受容体複合体結合ドメインがFabであり、該
変異しているFc領域を構成する二つのポリペプチドの配列が互いに異なる配列を有する、以
下の(a)から(f)からなる群より選ばれる一のポリペプチド会合体:
(a)
5 癌抗原結合ドメインを構成する一価のFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域
を構成する一方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結され、
T細胞受容体複合体結合ドメインを構成するFabの軽鎖Fv断片がCH1領域を介してFc
領域を構成する他方のポリペプチドに連結され、当該Fabの重鎖Fv断片がCL領域と連結
された、ポリペプチド会合体、
10 (b)
癌抗原結合ドメインを構成する一価のFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域
を構成する一方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結され、
T細胞受容体複合体結合ドメインを構成するFabの重鎖Fv断片がCL領域を介してFc領
域を構成する他方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCH1領域と連結
15 された、ポリペプチド会合体、
(c)
T細胞受容体複合体結合ドメインを構成する一価のFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介
してFc領域を構成する一方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領
域と連結され、癌抗原結合ドメインを構成するFabの軽鎖Fv断片がCH1領域を介してF
20 c領域を構成する他方のポリペプチドに連結され、当該Fabの重鎖Fv断片がCL領域と連
結された、ポリペプチド会合体、
(d)
T細胞受容体複合体結合ドメインを構成する一価のFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介
してFc領域を構成する一方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領
25 域と連結され、癌抗原結合ドメインを構成するFabの重鎖Fv断片がCL領域を介してFc
領域を構成する他方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCH1領域と連
結された、ポリペプチド会合体、
(e)
癌抗原結合ドメインを構成する一価のFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域
を構成する一方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結され、
5 T細胞受容体複合体結合ドメインを構成するFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介してFc
領域を構成する他方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結
された、ポリペプチド会合体、及び
(f)
癌抗原結合ドメインがF(ab’)2の構造を有するドメインであり、F(ab’)2の構造
10 を有するドメインの重鎖定常領域を構成する二つのポリペプチドがFc領域を構成する二つの
ポリペプチドの各々に連結され、CD3結合ドメインを構成する重鎖Fv断片がFc領域を構
成する一方のCH3に連結され、CD3結合ドメインを構成する軽鎖Fv断片がFc領域を構
成するもう一方のCH3に連結され、CD3結合ドメインを構成する重鎖Fv断片に抗体のC
H1ドメイン、及び、軽鎖Fv断片に抗体のCLドメインが連結された、ポリペプチド会合体
15 であり、
該Fc領域を構成するアミノ酸のうち、EUナンバリングに従って特定される265位のア
スパラギン酸がアラニンに変異している、
ポリペプチド会合体を有効成分として含む、細胞傷害誘導治療剤であって、細胞傷害誘導治療
剤が癌治療剤である、治療剤。
20 【請求項42】
癌が肝癌又は肺癌である、請求項41に記載の治療剤。
【請求項43】
T細胞受容体複合体結合ドメインがT細胞受容体結合ドメインである、請求項41に記載の
治療剤。
25 【請求項44】
T細胞受容体複合体結合ドメインがCD3結合ドメインである、請求項41に記載の治療剤。
【請求項45】
Fc領域がFcγI、FcγIIA、FcγIIB、FcγIIIA及びFcγIIIBの
いずれかのFcγ受容体に対する結合活性が低下しているFc領域である、請求項41に記載
の治療剤。
5 【請求項46】
T細胞受容体複合体結合ドメインがT細胞受容体結合ドメインである、請求項23に記載の
ポリペプチド会合体。
【請求項47】
T細胞受容体複合体結合ドメインがCD3結合ドメインである、請求項23に記載のポリペ
10 プチド会合体。
【請求項48】
Fc領域がFcγI、FcγIIA、FcγIIB、FcγIIIA及びFcγIIIBの
いずれかのFcγ受容体に対する結合活性が低下しているFc領域である、請求項23に記載
のポリペプチド会合体。
15 【請求項49】
請求項23および46から48のいずれか一項に記載のポリペプチド会合体をコードするポ
リヌクレオチド。
【請求項50】
請求項49に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
20 【請求項51】
請求項50に記載のベクターを保持する細胞。
【請求項52】
請求項51に記載の細胞を培養し培養上清からポリペプチド会合体を回収することを含むポ
リペプチド会合体の製造方法。
25 【請求項53】
下記のドメイン;
(1)癌抗原結合ドメイン、
(2)配列番号:23に記載の Fc 領域を構成するアミノ酸が変異しているFc領域であって、
IgG1抗体のFc領域(配列番号:23) を有するポリペプチド会合体と比較して、Fcγ
受容体に対する結合活性が低下している、Fc領域を含むドメイン、及び、
5 (3)T細胞受容体複合体結合ドメイン
を含むポリペプチド会合体であって、該T細胞受容体複合体結合ドメインがFabであり、該
変異しているFc領域を構成する二つのポリペプチドの配列が互いに異なる配列を有する、以
下の(a)から(f)からなる群より選ばれる一のポリペプチド会合体:
(a)
10 癌抗原結合ドメインを構成する一価のFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域
を構成する一方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結され、
T細胞受容体複合体結合ドメインを構成するFabの軽鎖Fv断片がCH1領域を介してFc
領域を構成する他方のポリペプチドに連結され、当該Fabの重鎖Fv断片がCL領域と連結
された、ポリペプチド会合体、
15 (b)
癌抗原結合ドメインを構成する一価のFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域
を構成する一方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結され、
T細胞受容体複合体結合ドメインを構成するFabの重鎖Fv断片がCL領域を介してFc領
域を構成する他方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCH1領域と連結
20 された、ポリペプチド会合体、
(c)
T細胞受容体複合体結合ドメインを構成する一価のFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介
してFc領域を構成する一方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領
域と連結され、癌抗原結合ドメインを構成するFabの軽鎖Fv断片がCH1領域を介してF
25 c領域を構成する他方のポリペプチドに連結され、当該Fabの重鎖Fv断片がCL領域と連
結された、ポリペプチド会合体、
(d)
T細胞受容体複合体結合ドメインを構成する一価のFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介
してFc領域を構成する一方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領
域と連結され、癌抗原結合ドメインを構成するFabの重鎖Fv断片がCL領域を介してFc
5 領域を構成する他方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCH1領域と連
結された、ポリペプチド会合体、
(e)
癌抗原結合ドメインを構成する一価のFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域
を構成する一方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結され、
10 T細胞受容体複合体結合ドメインを構成するFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介してFc
領域を構成する他方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結
された、ポリペプチド会合体、及び
(f)
癌抗原結合ドメインがF(ab’)2の構造を有するドメインであり、F(ab’)2の構造
15 を有するドメインの重鎖定常領域を構成する二つのポリペプチドがFc領域を構成する二つの
ポリペプチドの各々に連結され、CD3結合ドメインを構成する重鎖Fv断片がFc領域を構
成する一方のCH3に連結され、CD3結合ドメインを構成する軽鎖Fv断片がFc領域を構
成するもう一方のCH3に連結され、CD3結合ドメインを構成する重鎖Fv断片に抗体のC
H1ドメイン、及び、軽鎖Fv断片に抗体のCLドメインが連結された、ポリペプチド会合体
20 であり、
該Fc領域を構成するアミノ酸のうち、EUナンバリングに従って特定される265位のア
スパラギン酸がアラニンに変異しており、および234位のロイシンが、対応するIgG4に
おいてそのEUナンバリングが対応するアミノ酸に置換されている、
ポリペプチド会合体を有効成分として含む、細胞傷害誘導治療剤であって、細胞傷害誘導治療
25 剤が癌治療剤である、治療剤。
【請求項54】
癌が肝癌又は肺癌である、請求項53に記載の治療剤。
【請求項55】
T細胞受容体複合体結合ドメインがT細胞受容体結合ドメインである、請求項53に記載の
治療剤。
5 【請求項56】
T細胞受容体複合体結合ドメインがCD3結合ドメインである、請求項53に記載の治療剤。
【請求項57】
Fc領域がFcγI、FcγIIA、FcγIIB、FcγIIIA及びFcγIIIBの
いずれかのFcγ受容体に対する結合活性が低下しているFc領域である請求項53に記載の
10 治療剤。
【請求項58】
T細胞受容体複合体結合ドメインがT細胞受容体結合ドメインである、請求項24に記載の
ポリペプチド会合体。
【請求項59】
15 T細胞受容体複合体結合ドメインがCD3結合ドメインである、請求項24に記載のポリペ
プチド会合体。
【請求項60】
Fc領域がFcγI、FcγIIA、FcγIIB、FcγIIIA及びFcγIIIBの
いずれかのFcγ受容体に対する結合活性が低下しているFc領域である請求項24に記載の
20 ポリペプチド会合体。
【請求項61】
請求項24、25、および58から60のいずれかに記載のポリペプチド会合体をコードす
るポリヌクレオチド。
【請求項62】
25 請求項61に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項63】
請求項62に記載のベクターを保持する細胞。
【請求項64】
請求項63に記載の細胞を培養し培養上清からポリペプチド会合体を回収することを含むポ
リペプチド会合体の製造方法。
5 【請求項65】
下記のドメイン;
(1)癌抗原結合ドメイン、
(2)配列番号:23に記載のFc領域を構成するアミノ酸が変異しているFc領域であって、
IgG1抗体のFc領域(配列番号:23) を有するポリペプチド会合体と比較して、Fcγ
10 受容体に対する結合活性が低下している、Fc領域を含むドメイン、及び、
(3)T細胞受容体複合体結合ドメイン、
を含むポリペプチド会合体であって、該T細胞受容体複合体結合ドメインがFabであり、該
変異しているFc領域を構成する二つのポリペプチドの配列が互いに異なる配列を有する、以
下の(a)から(f)からなる群より選ばれる一のポリペプチド会合体:
15 (a)
癌抗原結合ドメインを構成する一価のFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域
を構成する一方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結され、
T細胞受容体複合体結合ドメインを構成するFabの軽鎖Fv断片がCH1領域を介してFc
領域を構成する他方のポリペプチドに連結され、当該Fabの重鎖Fv断片がCL領域と連結
20 された、ポリペプチド会合体、
(b)
癌抗原結合ドメインを構成する一価のFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域
を構成する一方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結され、
T細胞受容体複合体結合ドメインを構成するFabの重鎖Fv断片がCL領域を介してFc領
25 域を構成する他方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCH1領域と連結
された、ポリペプチド会合体、
(c)
T細胞受容体複合体結合ドメインを構成する一価のFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介
してFc領域を構成する一方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領
域と連結され、癌抗原結合ドメインを構成するFabの軽鎖Fv断片がCH1領域を介してF
5 c領域を構成する他方のポリペプチドに連結され、当該Fabの重鎖Fv断片がCL領域と連
結された、ポリペプチド会合体、
(d)
T細胞受容体複合体結合ドメインを構成する一価のFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介
してFc領域を構成する一方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領
10 域と連結され、癌抗原結合ドメインを構成するFabの重鎖Fv断片がCL領域を介してFc
領域を構成する他方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCH1領域と連
結された、ポリペプチド会合体、
(e)
癌抗原結合ドメインを構成する一価のFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域
15 を構成する一方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結され、
T細胞受容体複合体結合ドメインを構成するFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介してFc
領域を構成する他方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結
された、ポリペプチド会合体、及び
(f)
20 癌抗原結合ドメインがF(ab’)2の構造を有するドメインであり、F(ab’)2の構造
を有するドメインの重鎖定常領域を構成する二つのポリペプチドがFc領域を構成する二つの
ポリペプチドの各々に連結され、CD3結合ドメインを構成する重鎖Fv断片がFc領域を構
成する一方のCH3に連結され、CD3結合ドメインを構成する軽鎖Fv断片がFc領域を構
成するもう一方のCH3に連結され、CD3結合ドメインを構成する重鎖Fv断片に抗体のC
25 H1ドメイン、及び、軽鎖Fv断片に抗体のCLドメインが連結された、ポリペプチド会合体
であり、
該Fc領域を構成するアミノ酸のうち、EUナンバリングに従って特定される265位のア
スパラギン酸がアラニンに変異しており、234位のロイシンおよび235位のロイシンがさ
らに変異している、
ポリペプチド会合体を有効成分として含む、細胞傷害誘導治療剤であって、細胞傷害誘導治療
5 剤が癌治療剤である、治療剤。
【請求項66】
癌が肝癌又は肺癌である、請求項65に記載の治療剤
【請求項67】
T細胞受容体複合体結合ドメインがT細胞受容体結合ドメインである、請求項65に記載の
10 治療剤。
【請求項68】
T細胞受容体複合体結合ドメインがCD3結合ドメインである、請求項65に記載の治療剤。
【請求項69】
Fc領域がFcγI、FcγIIA、FcγIIB、FcγIIIA及びFcγIIIBの
15 いずれかのFcγ受容体に対する結合活性が低下しているFc領域である請求項65に記載の
治療剤。
【請求項70】
234位のロイシンがアラニンに変異しており及び/又は235位のロイシンがアラニンに
変異していることを特徴とする、請求項65に記載の治療剤。
別紙2
本件明細書の記載等(抜粋)
【技術分野】
5 【0001】
本発明は、T 細胞を標的癌細胞に近接せしめ T 細胞による標的癌細胞に対する細胞傷害活性
を通じて癌を治療することを可能とするポリペプチド会合体、当該ポリペプチド会合体の製造
方法、および当該ポリペプチド会合体を有効成分として含む細胞傷害誘導治療剤に関する。ま
た当該細胞傷害誘導治療剤を有効成分として含む、様々な癌を治療または予防するための医薬
10 組成物または当該医薬組成物を用いる治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまでに優れた抗腫瘍効果を示す複数の治療用抗体が、癌治療を目的とする医薬品として
開発されている(非特許文献1)。これらの治療用抗体は、癌細胞の増殖に必要なシグナルの
15 阻 害 、 細 胞 死 シ グ ナ ル の 誘 発 、 あ る い は ADCC ( Antibody Dependent Cell-mediated
Cytotoxicity;抗体依存性細胞傷害)、CDC(Complement Dependent Cytotoxicity;補体依存
性細胞傷害)によって、癌細胞に対する抗腫瘍効果を発揮することが知られている(非特許文
献2)。抗体の Fc 領域が NK 細胞やマクロファージなどのエフェクター細胞上に存在する Fc レ
セプターに結合することにより、抗体が結合した標的の癌細胞に対してこれらのエフェクター
20 細胞が発揮する細胞傷害が ADCC である。抗体の構造中に存在する補体結合部位には補体複合
体が結合する。抗体が結合した細胞の細胞膜上に当該複合体中に存在する補体成分が孔を形成
することにより、水やイオンの細胞内への流入が促進され細胞が破壊されて起こる細胞傷害が
CDC である。既存の治療用抗体には優れた作用が認められるものの、こうした抗体の投与に
よって得られる治療成績はまだ満足できるものではない。そこで、さらに強力な殺細胞活性を
25 発揮する癌に対する治療抗体の開発が望まれている。
【0003】
上記の NK 細胞やマクロファージをエフェクター細胞として動員する ADCC をその抗腫瘍効果
のメカニズムとする抗体とは別に、T 細胞をエフェクター細胞として動員する細胞傷害をその
抗腫瘍効果のメカニズムとする抗体である T 細胞リクルート抗体(T cell recruiting 抗体、
TR 抗体)も 1980 年代から知られている(非特許文献3-5)。TR 抗体は、T 細胞上の T 細胞
5 レセプター(TCR)複合体の構成サブユニットのいずれかに対する抗体、特に CD3 epsilon 鎖
に結合する抗体と、標的である癌細胞上の抗原に結合する抗体を含む bi-specific(二重特異
性)抗体である。TR 抗体が CD3 epsilon 鎖と癌抗原に同時に結合することにより、T 細胞が癌
細胞に接近する。その結果、T 細胞の持つ細胞傷害作用により癌細胞に対する抗腫瘍効果が発
揮されると考えられている。
10 【0004】
TR 抗体の一つとして trifunctional 抗体と称される抗体も知られている(非特許文献6、
7)。これは、癌抗原に結合する Fab と CD3 epsilon 鎖に結合する Fab がそれぞれ片腕に含ま
れる whole IgG 型の bi-specific 抗体である。EpCAM に対する trifunctional 抗体である
catumaxomab を EpCAM 発現陽性の癌細胞を持つ悪性腹水患者の腹腔内に対して投与することに
15 より悪性腹水症に対する治療の効果が示されている。EU において上記の治療を目的とする
catumaxomab の使用が承認されている。
【0005】
さらに最近になり、BiTE(bispecific T-cell engager)と称される TR 抗体が強い抗腫瘍
作用を示すことが知られるようになった(非特許文献8、9)。BiTE は癌抗原に対する抗体の
20 scFv と CD3 epsilon 鎖に対する抗体の scFv が短いポリペプチドリンカーを介して連結された
分子型を有する TR 抗体である。BiTE はそれまでに知られていた様々な TR 抗体に比べて優れた
抗腫瘍作用を持つことが報告されている(非特許文献9、10)。すなわち BiTE は、他の TR
抗体に比較し、著しく低い濃度、および低いエフェクター細胞:癌細胞比率(ET レシオ)の
下で抗腫瘍効果を発揮する。またこの効果の発現に、予めエフェクター細胞を IL-2 や CD28 ア
25 ゴニスト抗体などにより活性化させる必要がないことも示されている。臨床的に優れた効果が
あることが知られているリツキサンよりもはるかに強い in vitro での癌細胞に対する傷害作
用を CD19 に対する BiTE である blinatumomab(MT103)が示した。さらに最近行なわれた第一
相臨床試験、第二相臨床試験において極めて優れた抗腫瘍効果を示したことが報告されている
(非特許文献11)。
【0006】
5 catumaxomab が臨床で薬効を示し治療薬として承認されていること、および blinatumomab
を始めとする複数の BiTE が強い抗腫瘍効果を発揮することから、T 細胞をエフェクター細胞と
して動員する TR 抗体には、通常の ADCC をその作用機序とする抗体に比べて極めて高い抗腫瘍
薬としてのポテンシャルがあることが示唆された。
【0007】
10 しかしながら、trifunctional 抗体が癌抗原非依存的に T 細胞と NK 細胞やマクロファージ
などの細胞と同時に結合する結果、これらの細胞に発現する受容体が架橋されることにより、
癌抗原非依存的な各種サイトカインの発現を誘導することが知られている。こうしたサイトカ
インの発現の誘導は、trifunctional 抗体の全身投与によるサイトカインストーム様の副作用
の発生につながるものと考えられる。実際、非小細胞肺癌患者に対する catumaxomab の全身投
15 与による第一相臨床試験においては、5μg/body という極めて低い用量が最大許容投与量であ
り、それ以上の用量の投与により様々な重篤な副作用が起こることが報告されている(非特許
文献12)。こうした低い用量の catumaxomab の投与によっては、その有効血中濃度には到底
達し得ない。すなわち、こうした低い用量の catumaxomab の投与によっては期待される抗腫瘍
作用が得られない。
20 【0008】
一方、BiTE は catumaxomab とは異なり Fcγ受容体に対する結合部位を持たないため、癌抗
原非依存的に T 細胞と NK 細胞やマクロファージなどに発現する受容体が架橋されることはな
い。そのため、catumaxomab が投与された場合に観察された癌抗原非依存的なサイトカインの
誘導は起こらないことが示されている。しかしながら、BiTE は Fc 領域を欠く低分子量型の改
25 変抗体分子であるために、治療用抗体として通常用いられる IgG 型の抗体に比較して、患者に
投与された BiTE の血中半減期は著しく短いという問題点が存在する。実際、生体に投与され
た BiTE の血中半減期は数時間程度であることが示されており(非特許文献13、14)、
blinatumomab の臨床試験においてはミニポンプを用いた持続静脈内投与により blinatumomab
の投与が行なわれている。こうした投与は患者にとって著しく利便性の悪い投与法であるばか
りでなく、機器の故障などによる医療事故のリスクも潜在し、望ましい治療法であるとはいえ
5 ない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記の情況に鑑みてなされたものであり、T 細胞を標的癌細胞に近接せしめ T 細胞
10 による標的癌細胞に対する細胞傷害活性を通じて癌を治療することを可能とするポリペプチド
会合体、当該ポリペプチド会合体の製造方法、および当該ポリペプチド会合体を有効成分とし
て含む細胞傷害誘導治療剤を提供することを目的とする。また当該細胞傷害誘導治療剤を有効
成分として含む、様々な癌を治療または予防するための医薬組成物または当該医薬組成物を用
いる治療方法を提供することを目的とする。
15 【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、BiTE が持つ強い抗腫瘍活性と、癌抗原非依存的にサイトカインストームな
どを誘導しないという安全性上の優れた性質が維持され、かつ長い血中半減期を持つ新たなポ
リペプチド会合体を見出した。さらに、ポリペプチド会合体における抗原結合ドメインを置換
20 することにより、当該ポリペプチド会合体が様々な細胞を標的として細胞傷害をもたらすこと
を見出した。本発明者らは、かかる発見に基づいて、本発明に係るポリペプチド会合体が癌細
胞を傷害することを明らかにした。また、ポリペプチド会合体に、CH1/CL 界面会合制御導入
および Knob into Hole (KiH)改変を導入することで、さらに効率よく細胞傷害をもたらすこ
とを見出した。また、本発明者らは、本発明に係るポリペプチド会合体を有効成分とする細胞
25 傷害誘導治療剤が、様々な癌を治療又は予防することを見出した。
【発明の効果】
【0014】
本発明によって、BiTE が持つ強い抗腫瘍活性と、癌抗原非依存的にサイトカインストーム
などを誘導しないという安全性上の優れた性質が維持され、かつ長い血中半減期を持つ新たな
ポリペプチド会合体が提供された。本発明のポリペプチド会合体における抗原結合ドメインを
5 置換することにより、当該ポリペプチド会合体を有効成分として含む細胞傷害誘導治療剤が癌
細胞を含む様々な細胞を標的として細胞傷害をもたらし、様々な癌を治療又は予防することが
できる。患者にとっても、安全性が高いばかりでなく、身体的負担が少なく利便性も高いとい
う、望ましい治療ができるようになる。
【図面の簡単な説明】
10 【0015】
【図1】GPC3 ERY1(GPC3 BiTE)、GPC3 ERY2、IgG 型 GPC3 抗体の細胞傷害活性の比較を表す
グラフである。黒四角(■)は GPC3 ERY1(GPC3 BiTE)、黒三角(▲)は GPC3 ERY2、白四角
(□)は IgG 型 GPC3 抗体の細胞傷害活性をそれぞれ表す。
【図2】GPC3 BiTE、GPC3 ERY5 の細胞傷害活性の比較を表すグラフである。黒四角(■)は
15 GPC3 BiTE、白丸(○)は GPC3 ERY5 の細胞傷害活性をそれぞれ表す。
【図3】GPC3 BiTE、GPC3 ERY6 の細胞傷害活性の比較を表すグラフである。黒四角(■)は
GPC3 BiTE、黒三角(▲)は GPC3 ERY6 の細胞傷害活性をそれぞれ表す。
【図4】GPC3 BiTE、GPC3 ERY7 の細胞傷害活性の比較を表すグラフである。黒四角(■)は
GPC3 BiTE、黒菱(◆)は GPC3 ERY7 の細胞傷害活性をそれぞれ表す。
20 【図5】GPC3 BiTE、GPC3 ERY8-2、GPC3 ERY9-1、GPC3 ERY10-1 の細胞傷害活性の比較を表
すグラフである。黒四角(■)は GPC3 BiTE、黒三角(▲)は GPC3 ERY8-2、白丸(○)は
GPC3 ERY9-1、白四角(□)は GPC3 ERY10-1 の細胞傷害活性をそれぞれ表す。
【図6】PC-10 pre-mix モデルにおける GPC3 ERY8-2 の in vivo 抗腫瘍効果を表すグラフであ
る。白四角(□)は GPC3 ERY7 投与群の腫瘍体積の変化を表す。黒菱(◆)は対照群(PBS 投
25 与)の腫瘍体積の変化を表す。
【図7】PC-10 pre-mix モデルにおける GPC3 ERY10-1 の in vivo 抗腫瘍効果を表すグラフで
ある。白四角(□)は GPC3 ERY10-1 投与群の腫瘍体積の変化を表す。黒菱(◆)は対照群
(PBS 投与)の腫瘍体積の変化を表す。
【図8】PC-10 T 細胞移入モデルにおける GPC3 ERY10-1 の in vivo 抗腫瘍効果を表すグラフ
である。白四角(□)は GPC3 ERY10-1 投与群の腫瘍体積の変化を表す。黒菱(◆)は対照群
5 (PBS 投与)の腫瘍体積の変化を表す。
【図9】GPC3 発現 Ba/F3 細胞を用いて測定した GPC3 ERY9-1 及び GPC3 ERY10-1 の血漿中濃度
の推移を表すグラフである。黒菱(◆)は GPC3 ERY9-1、白四角(□)は GPC3 ERY10-1 の血
漿中濃度の推移を表す。
【図10】CD3 発現 Ba/F3 細胞を用いて測定した GPC3 ERY9-1 及び GPC3 ERY10-1 の血漿中濃
10 度の推移を表すグラフである。黒菱(◆)は GPC3 ERY9-1、白四角(□)は GPC3 ERY10-1 の
血漿中濃度の推移を表す。
【図11】GPC3 BiTE、GPC3 ERY9-1、GPC3 ERY10-1、GPC3 ERY15-1、及び catumaxomab によ
る癌抗原非依存的なサイトカイン誘導能の評価を示すグラフである。
【図12】GPC3 ERY18 L1、GPC3 ERY18L2、GPC3 ERY18L3、GPC3 ERY18L4、の in vitro 細胞
15 傷害活性を示すグラフである。黒三角(▲)は GPC3 ERY18 L1、黒丸(●)は GPC3 ERY18 L2、
黒四角(■)は GPC3 ERY18 L3、白四角(□)は GPC3 ERY18 L4、白菱(◇)は GPC3 ERY18
S1 の細胞傷害活性を表す。
【図13】GPC3 ERY18 L3 と GPC3 ERY10-1 の in vitro 細胞傷害活性の比較を表すグラフであ
る。黒四角(■)は GPC3 ERY18 L3、白四角(□)は GPC3 ERY10-1 の細胞傷害活性を表す。
20 【図14】GPC3 ERY19-3 と GPC3 BiTE の in vitro 細胞傷害活性の比較を表すグラフである。
白四角(□)は GPC3 ERY19-3、黒四角(■)は GPC3 BiTE の細胞傷害活性を表す。
【図15】A.NTA1L/NTA1R/GC33-k0 を発現させた CM のサイズ排除クロマトグラフィー分析
の結果を表すクロマトグラムである。B.NTA2L/NTA2R/GC33-k0 を発現させた CM のサイズ排
除クロマトグラフィー分析の結果を表すクロマトグラムである。
25 【図16】本願明細書の実施例に記載されるポリペプチド会合体である GPC3 BiTE、ERY2、
GPC3 ERY5、GPC3 ERY6、GPC3 ERY7、GPC3 ERY8-2、GPC3 ERY9-1、GPC3 ERY 10-1、GPC3 ERY15、
GPC3 ERY18、および GPC3 ERY19-3 を構成する各ドメインの表示である;交差線で表されるド
メインは抗癌抗原(GPC3、EpCAM、EGFR)抗体 H 鎖可変領域、斜線で表されるドメインは抗癌
抗原(GPC3、EpCAM、EGFR)抗体 L 鎖可変領域、点線で表されるドメインは抗 CD3 抗体 H 鎖可
変領域、黒塗りで表されるドメインは抗 CD3 抗体 L 鎖可変領域、白塗りで表されるドメインは
5 抗体定常領域、クロス字はサイレント Fc 変異、星印はヘテロ Fc を会合化させる変異、をそれ
ぞれ表す。
【図17】A:GPC3 BiTE の模式図、B:GPC3 ERY 10 の模式図、C:GPC3 ERY2 の模式図、D:
GPC3 ERY5 の模式図、E:GPC3 ERY6 の模式図、F:GPC3 ERY7 の模式図、G:の模式図、H:
GPC3 ERY9-1 の模式図、I:GPC3 ERY10-1 の模式図、J:GPC3 ERY15 の模式図、K:GPC3 ERY18
10 の模式図、L:GPC3 ERY19-3 の模式図、を示す。
【図18】IgG1、IgG2、IgG3 及び IgG4 の Fc 領域を構成するアミノ酸残基と、kabat の EU ナ
ンバリング(本明細書において EU INDEX とも呼ばれる)との関係を表す。
【図19】本願明細書の実施例に記載されるポリペプチド会合体である GPC3 ERY17-2、GPC3
ERY17-3、EpCAM ERY17-2、および EpCAM ERY17-3 を構成する各ドメインの表示である;交差
15 線で表されるドメインは抗癌抗原(GPC3、EpCAM、EGFR)抗体 H 鎖可変領域、斜線で表される
ドメインは抗癌抗原(GPC3、EpCAM、EGFR)抗体 L 鎖可変領域、点線で表されるドメインは抗
CD3 抗体 H 鎖可変領域、黒塗りで表されるドメインは抗 CD3 抗体 L 鎖可変領域、白塗りで表さ
れるドメインは抗体定常領域、クロス字はサイレント Fc 変異、星印はヘテロ Fc を会合化させ
る変異、をそれぞれ表す。
20 【図20】GPC3 BiTE、GPC3 ERY17-2、GPC3 ERY17-3、GPC3 ERY10-1 の細胞傷害活性の比較
を表すグラフである。黒四角(■)は GPC3 BiTE、黒三角(▲)は GPC3 ERY17-2、白丸(○)
は GPC3 ERY17-3、白四角(□)は GPC3 ERY10-1 の細胞傷害活性をそれぞれ表す。
【図21】PC-10 T 細胞移入モデルにおける GPC3 ERY17-2 の in vivo 抗腫瘍効果を表すグラ
フである。白四角(□)は GPC3 ERY17-2 投与群の腫瘍体積の変化を表す。黒菱(◆)は対照
25 群(PBS 投与)の腫瘍体積の変化を表す。
【図22】GPC3 ERY17-2、GPC3 ERY17-2-M20 の細胞傷害活性の比較を表すグラフである。黒
三角(▲)は GPC3 ERY17-2、白丸(○)は GPC3 ERY17-2-M20 の細胞傷害活性をそれぞれ表
す。
【図23】EpCAM ERY17-2、EpCAM ERY17-3 の細胞傷害活性の比較を表すグラフである。黒三
角(▲)は EpCAM ERY17-2、白四角(□)は EpCAM ERY17-3 の細胞傷害活性をそれぞれ表す。
5 【図24】本願明細書の実施例に記載されるポリペプチド会合体である GM1 又は GM2、および
GM0 を構成する各ドメインの表示である。CH1/CL 界面会合制御が導入され、さらに Knob
into Hole (KiH)の改変が導入されたポリペプチド会合体を A、CH1/CL 界面会合制御も KiH も
導入されていないポリペプチド会合体を B として示した;交差線で表されるドメインは抗癌抗
原(GPC3、EpCAM)抗体 H 鎖可変領域、斜線で表されるドメインは抗癌抗原(GPC3、EpCAM)抗
10 体 L 鎖可変領域、点線で表されるドメインは抗 CD3 抗体 H 鎖可変領域、黒塗りで表されるドメ
インは抗 CD3 抗体 L 鎖可変領域、白塗りで表されるドメインは抗体定常領域、クロス字はサイ
レント Fc 変異、星印はヘテロ Fc を会合化させる変異、中空円は CH1/CL 界面会合制御が導入
された変異、をそれぞれ表す。
【図25】GM1、GM2、GM0 の細胞傷害活性の比較を表すグラフである。黒三角(▲)は、白四
15 角(□)は GM2、白丸(○)は GM0 の細胞傷害活性をそれぞれ表す。
【図26】EGFR ERY17-2 の細胞傷害活性を表すグラフである。黒三角(▲)は EGFR ERY17-2
の細胞傷害活性を表す。
【発明を実施するための形態】
【0068】
20 抗原結合ドメイン
本明細書において「抗原結合ドメイン」とは、抗原の一部または全部に特異的に結合し且つ
相補的である領域を含んで成る抗体の部分をいう。抗原の分子量が大きい場合、抗体は抗原の
特定部分にのみ結合することができる。当該特定部分はエピトープと呼ばれる。抗原結合ドメ
インは一または複数の抗体の可変ドメインより提供され得る。好ましくは、抗原結合ドメイン
25 は抗体軽鎖可変領域(VL)と抗体重鎖可変領域(VH)とを含む。こうした抗原結合ドメインの
例としては、「scFv(single chain Fv)」、「単鎖抗体(single chain antibody)」、「Fv」、
「scFv2(single chain Fv 2)」、「Fab」または「F(ab')2」等が好適に挙げられる。
【0098】
本明細書において、Fv としては、例えば以下のポリペプチド会合体;
二価の scFv のうち一価の scFv が CD3 結合ドメインを構成する重鎖 Fv 断片を介して Fc 領域を
5 構成する一つのポリペプチドに、他方の一価の scFv が CD3 結合ドメインを構成する軽鎖 Fv 断
片を介して Fc 領域を構成する他方の一つのポリペプチドに連結された二価の抗原結合ドメイ
ンが二価の scFv である(1)二価の抗原結合ドメイン、(2)IgG1、IgG2a、IgG3 又は IgG4
の Fc 領域を構成するアミノ酸のうち Fcγ 受容体に対する結合活性を有しない Fc 領域を含む
ドメイン、及び、(3)少なくとも一価の CD3 結合ドメイン、
10 を含むポリペプチド会合体等において軽鎖 Fv 断片及び重鎖 Fv 断片が、抗原である CD3 に対す
る結合を有する態様で会合し CD3 結合ドメインを構成する一組の Fv も好適に含まれる。
【0099】
scFv 、単鎖抗体、または sc(Fv)2
本明細書において、「scFv」、「単鎖抗体」、または「sc(Fv)2」という用語は、単一のポリペ
15 プチド鎖内に、重鎖および軽鎖の両方に由来する可変領域を含むが、定常領域を欠いている抗
体断片を意味する。一般に、単鎖抗体は、抗原結合を可能にすると思われる所望の構造を形成
するのを可能にする、VH ドメインと VL ドメインの間のポリペプチドリンカーをさらに含む。
単鎖抗体は、The Pharmacology of Monoclonal Antibodies、113 巻、Rosenburg、及び、
Moore 編、Springer-Verlag、New York、269~315(1994)において Pluckthun によって詳細
20 に考察されている。同様に、国際特許出願公開 WO1988/001649 および米国特許第 4,946,778 号
および同第 5,260,203 号を参照。特定の態様において、単鎖抗体はまた、二重特異性であるか、
かつ/またはヒト化され得る。
【0109】
Fab 、F(ab’)2 、または Fab’
25 「Fab」は、一本の軽鎖、ならびに一本の重鎖の CH1 領域および可変領域から構成される。
Fab 分子の重鎖は、別の重鎖分子とのジスルフィド結合を形成できない。
【0110】
「F(ab’)2」及び「Fab’」とは、イムノグロブリン(モノクローナル抗体)をタンパク質
分解酵素であるペプシンあるいはパパイン等で処理することにより製造され、ヒンジ領域中の
2 本の H 鎖間に存在するジスルフィド結合の前後で消化されて生成される抗体フラグメントを
5 意味する。例えば、IgG をパパインで処理することにより、ヒンジ領域中の 2 本の H 鎖間に存
在するジスルフィド結合の上流で切断されて VL(L 鎖可変領域)と CL(L 鎖定常領域)からな
る L 鎖、及び VH(H 鎖可変領域)と CHγ1(H 鎖定常領域中のγ1 領域)とからなる H 鎖フラグ
メントが C 末端領域でジスルフィド結合により結合した相同な 2 つの抗体フラグメントが製造
され得る。これら 2 つの相同な抗体フラグメントはそれぞれ Fab'といわれる。
10 【0111】
「F(ab’)2」は、二本の軽鎖、ならびに、鎖間のジスルフィド結合が 2 つの重鎖間で形成さ
れるように CH1 ドメインおよび CH2 ドメインの一部分の定常領域を含む二本の重鎖を含む。本
明細書において開示されるポリペプチド会合体を構成する F(ab’)2 は、所望の抗原結合ドメ
インを有する全長モノクローナル抗体等をペプシン等の蛋白質分解酵素にて部分消化した後に、
15 Fc 断片をプロテイン A カラムに吸着させて除去することにより、好適に取得され得る。かかる
蛋 白 質 分 解 酵 素 と し て は pH 等 の 酵 素 の 反 応 条 件 を 適 切 に 設 定 す る こ と に よ り 制 限 的 に
F(ab’)2 を生じるように全長抗体を消化し得るものであれば特段の限定はされず、例えば、
ペプシンやフィシン等が例示できる。
【0112】
20 Fc 領域
本明細書において開示されるポリペプチド会合体を構成する Fc 領域はモノクローナル抗体
等の抗体をペプシン等の蛋白質分解酵素にて部分消化した後に、断片をプロテイン A カラム、
あるいはプロテイン G カラムに吸着させた後に、適切な溶出バッファー等により溶出させるこ
とにより好適に取得され得る。かかる蛋白質分解酵素としては pH 等の酵素の反応条件を適切
25 に設定することによりモノクローナル抗体等の抗体を消化し得るものであれば特段の限定はさ
れず、例えば、ペプシンやフィシン等が例示できる。
【0113】
本明細書に記載されるポリペプチド会合体には IgG1、IgG2、IgG3 又は IgG4 の Fc 領域を構
成するアミノ酸のうち Fcγ受容体に対する結合活性が低下している Fc 領域が含まれる。
【0115】
5 Fc 領域は、二本の軽鎖、ならびに、鎖間のジスルフィド結合が 2 つの重鎖間で形成されるよ
うに CH1 ドメインおよび CH2 ドメイン間の定常領域の一部分を含む二本の重鎖を含む F(ab’)2
を除いた領域のことをいう。本明細書において開示されるポリペプチド会合体を構成する Fc
領域は、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4 モノクローナル抗体等をペプシン等の蛋白質分解酵素にて
部分消化した後に、プロテイン A カラムに吸着された画分を再溶出することによって好適に取
10 得され得る。かかる蛋白質分解酵素としては pH 等の酵素の反応条件を適切に設定することに
より制限的に F(ab’)2 を生じるように全長抗体を消化し得るものであれば特段の限定はされ
ず、例えば、ペプシンやフィシン等が例示できる。
【0116】
Fcγ 受容体
15 Fcγ受容体とは、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4 モノクローナル抗体の Fc 領域に結合し得る受容
体をいい、実質的に Fcγ受容体遺伝子にコードされるタンパク質のファミリーのいかなるメ
ンバーをも意味する。ヒトでは、このファミリーには、アイソフォーム FcγRIa 、FcγRIb お
よび FcγRIc を含む FcγRI(CD64);アイソフォーム FcγRIIa(アロタイプ H131 および R131
を含む)、FcγRIIb(FcγRIIb-1 および FcγRIIb-2 を含む)および FcγRIIc を含む FcγRII
20 (CD32);およびアイソフォーム FcγRIIIa(アロタイプ V158 および F158 を含む)および Fc
γ RIIIb(アロタイプ Fcγ RIIIb-NA1 および Fcγ RIIIb-NA2 を含む)を含む FcγRIII
(CD16)、並びにいかなる未発見のヒト FcγR 類または FcγR アイソフォームまたはアロタイ
プも含まれるが、これらに限定されるものではない。FcγR は、ヒト、マウス、ラット、ウサ
ギおよびサルを含むが、これらに限定されるものではない、いかなる生物由来でもよい。マウ
25 ス FcγR 類には、FcγRI(CD64)、FcγRII(CD32)、FcγRIII(CD16)および FcγRIII-2
(CD16-2)、並びにいかなる未発見のマウス FcγR 類または FcγR アイソフォームまたはアロ
タイプも含まれるが、これらに限定されない。こうした Fcγ受容体の好適な例としてはヒト
Fc γ I ( CD64 )、 Fc γ IIA ( CD32 )、 Fc γ IIB ( CD32 )、 Fc γ IIIA ( 6 ) 及 び / 又 は Fc γ IIIB
(CD16)が挙げられる。FcγI のポリヌクレオチド配列及びアミノ酸配列はそれぞれ配列番
号:13(NM_000566.3)及び14(NP_000557.1)に、FcγIIA のポリヌクレオチド配列及び
5 アミノ酸配列はそれぞれ配列番号:15(BC020823.1)及び16(AAH20823.1)に、FcγIIB
のポリヌクレオチド配列及びアミノ酸配列はそれぞれ配列番号:17(BC146678.1)及び1
8(AAI46679.1)に、FcγIIIA のポリヌクレオチド配列及びアミノ酸配列はそれぞれ配列番
号:19(BC033678.1)及び20(AAH33678.1)に、及び FcγIIIB のポリヌクレオチド配列
及びアミノ酸配列は、それぞれ配列番号:21(BC128562.1)及び22(AAI28563.1)に記
10 載されている(カッコ内は RefSeq 登録番号を示す)。Fcγ受容体が、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4
モノクローナル抗体の Fc 領域に結合活性を有するか否かは、上記に記載される FACS や ELISA
フォーマットのほか、ALPHA スクリーン(Amplified Luminescent Proximity Homogeneous
Assay)や表面プラズモン共鳴(SPR)現象を利用した BIACORE 法等によって確認され得る
(Proc.Natl.Acad.Sci.USA (2006) 103 (11)、4005-4010)。
15 【0117】
また、「Fc リガンド」または「エフェクターリガンド」は、抗体の Fc 領域に結合して Fc/
Fc リガンド複合体を形成する、任意の生物に由来する分子、好ましくはポリペプチドを意味
する。Fc リガンドの Fc への結合は、好ましくは、1つまたはそれ以上のエフェクター機能を
誘起する。Fc リガンドには、Fc 受容体、FcγR、FcαR、FcεR、FcRn、C1q、C3、マンナン結
20 合レクチン、マンノース受容体、スタフィロコッカスのプロテインA、スタフィロコッカスの
タンパク質Gおよびウイルスの FcγR が含まれるが、これらに限定されない。Fc リガンドに
は、FcγR に相同な Fc 受容体のファミリーである Fc 受容体相同体(FcRH)(Davis et al.,
(2002)Immunological Reviews 190、123-136)も含まれる。Fc リガンドには、Fc に結合す
る未発見の分子も含まれ得る。
25 【0118】
Fcγ受容体に対する結合活性
Fc 領域が FcγI、FcγIIA、FcγIIB、FcγIIIA 及び/又は FcγIIIB のいずれかの Fcγ受
容体に対する結合活性が低下していることは、上記に記載される FACS や ELISA フォーマット
のほか、ALPHA スクリーン(Amplified Luminescent Proximity Homogeneous Assay)や表面
プ ラ ズ モ ン 共 鳴 ( SPR ) 現 象 を 利 用 し た BIACORE 法 等 に よ っ て 確 認 す る こ と が で き る
5 (Proc.Natl.Acad.Sci.USA (2006) 103 (11)、4005-4010)。
【0122】
本明細書において、Fcγ受容体に対する結合活性が低下しているとは、例えば、上記の解析
方法に基づいて、対照とするポリペプチド会合体の競合活性に比較して被検ポリペプチド会合
体の競合活性が、50%以下、好ましくは 45%以下、40%以下、35%以下、30%以下、20%以
10 下、15%以下、特に好ましくは 10%以下、9%以下、8%以下、7%以下、6%以下、5%以下、
4%以下、3%以下、2%以下、1%以下の結合活性を示すことをいう。
【0123】
対照とするポリペプチド会合体としては、IgG1、IgG2、IgG3 又は IgG4 モノクローナル抗体
の Fc 領域を有するポリペプチド会合体が適宜使用され得る。当該 Fc 領域の構造は、配列番
15 号:23(RefSeq 登録番号 AAC82527.1 の N 末に A 付加)、24(RefSeq 登録番号.1 の N 末に
A 付加)、25(RefSeq 登録番号 CAA27268.1 の N 末に A 付加)、26(RefSeq 登録番号
AAB59394.1 の N 末に A 付加)に記載されている。また、ある特定のアイソタイプの抗体の Fc
領域の変異体を有するポリペプチド会合体を被検物質として使用する場合には、当該特定のア
イソタイプの抗体の Fc 領域を有するポリペプチド会合体を対照として用いることによって、
20 当該変異体が有する変異による Fcγ受容体への結合活性に対する効果が検証される。上記の
ようにして、Fcγ受容体に対する結合活性が低下していることが検証された Fc 領域の変異体
を有するポリペプチド会合体が適宜作製される。
【0124】
このような変異体の例としては、EU ナンバリングに従って特定されるアミノ酸である 1A-
25 238S の欠失(WO 2009/011941)、C226S、C229S、P238S、(C220S)(J.Rheumatol (2007) 34、
11)、C226S、C229S(Hum.Antibod.Hybridomas (1990) 1(1)、47-54)、C226S、C229S、E233P、
L234V、L235A(Blood (2007) 109、1185-1192)等の変異体が公知である。
【0125】
すなわち、特定のアイソタイプの抗体の Fc 領域を構成するアミノ酸のうち、EU ナンバリン
グに従って特定される下記のいずれかのアミノ酸;220 位、226 位、229 位、231 位、232 位、
5 233 位、234 位、235 位、236 位、237 位、238 位、239 位、240 位、264 位、265 位、266 位、
267 位、269 位、270 位、295 位、296 位、297 位、298 位、299 位、300 位、325 位、327 位、
328 位、329 位、330 位、331 位、332 位が置換されている Fc 領域を有するポリペプチド会合
体が好適に挙げられる。Fc 領域の起源である抗体のアイソタイプとしては特に限定されず、
IgG1、IgG2、IgG3 又は IgG4 モノクローナル抗体を起源とする Fc 領域が適宜利用され得るが、
10 IgG1 抗体を起源とする Fc 領域が好適に利用される。
【0126】
例えば、IgG1 抗体の Fc 領域を構成するアミノ酸のうち、EU ナンバリングに従って特定され
る下記のいずれかの置換(数字が EU ナンバリングに従って特定されるアミノ酸残基の位置、
数字の前に位置する一文字のアミノ酸記号が置換前のアミノ酸残基、数字の後に位置する一文
15 字のアミノ酸記号が置換前のアミノ酸残基をそれぞれ表す);
(a)L234F、L235E、P331S、
(b)C226S、C229S、P238S、
(c)C226S、C229S、
(d)C226S、C229S、E233P、L234V、L235A
20 が施されている Fc 領域、又は、231 位から 238 位のアミノ酸配列が欠失した Fc 領域を有する
ポリペプチド会合体も適宜使用され得る。
【0127】
また、IgG2 抗体の Fc 領域を構成するアミノ酸のうち、EU ナンバリングに従って特定される
下記のいずれかの置換(数字が EU ナンバリングに従って特定されるアミノ酸残基の位置、数
25 字の前に位置する一文字のアミノ酸記号が置換前のアミノ酸残基、数字の後に位置する一文字
のアミノ酸記号が置換前のアミノ酸残基をそれぞれ表す);
(e)H268Q、V309L、A330S、P331S
(f)V234A
(g)G237A
(h)V234A、G237A
5 (i)A235E、G237A
(j)V234A、A235E、G237A
が施されている Fc 領域を有するポリペプチド会合体も適宜使用され得る。
【0128】
また、IgG3 抗体の Fc 領域を構成するアミノ酸のうち、EU ナンバリングに従って特定される
10 下記のいずれかの置換(数字が EU ナンバリングに従って特定されるアミノ酸残基の位置、数
字の前に位置する一文字のアミノ酸記号が置換前のアミノ酸残基、数字の後に位置する一文字
のアミノ酸記号が置換前のアミノ酸残基をそれぞれ表す);
(k)F241A
(l)D265A
15 (m)V264A
が施されている Fc 領域を有するポリペプチド会合体も適宜使用され得る。
【0129】
また、IgG4 抗体の Fc 領域を構成するアミノ酸のうち、EU ナンバリングに従って特定される
下記のいずれかの置換(数字が EU ナンバリングに従って特定されるアミノ酸残基の位置、数
20 字の前に位置する一文字のアミノ酸記号が置換前のアミノ酸残基、数字の後に位置する一文字
のアミノ酸記号が置換前のアミノ酸残基をそれぞれ表す);
(n)L235A、G237A、E318A
(o)L235E
(p)F234A、L235A
25 が施されている Fc 領域を有するポリペプチド会合体も適宜使用され得る。
【0130】
その他の好ましい例として、IgG1 抗体の Fc 領域を構成するアミノ酸のうち、EU ナンバリン
グに従って特定される下記のいずれかのアミノ酸;233 位、234 位、235 位、236 位、237 位、
327 位、330 位、331 位が、対応する IgG2 または IgG4 においてその EU ナンバリングが対応す
るアミノ酸に置換されている Fc 領域を有するポリペプチド会合体が挙げられる。
5 【0131】
その他の好ましい例として、IgG1 抗体の Fc 領域を構成するアミノ酸のうち、EU ナンバリン
グに従って特定される下記のいずれか一つ又はそれ以上のアミノ酸;234 位、235 位、297 位
が他のアミノ酸によって置換されている Fc 領域を有するポリペプチド会合体が好適に挙げら
れる。置換後に存在するアミノ酸の種類は特に限定されないが、234 位、235 位、7 位のいず
10 れか一つ又はそれ以上のアミノ酸がアラニンに置換されている Fc 領域を有するポリペプチド
会合体が特に好ましい。
【0132】
その他の好ましい例として、IgG1 抗体の Fc 領域を構成するアミノ酸のうち、EU ナンバリン
グに従って特定される下記のいずれかのアミノ酸;265 位が他のアミノ酸によって置換されて
15 いる Fc 領域を有するポリペプチド会合体が好適に挙げられる。置換後に存在するアミノ酸の
種類は特に限定されないが、265 位のアミノ酸がアラニンに置換されている Fc 領域を有するポ
リペプチド会合体が特に好ましい。
【0133】
二重特異性抗体を起源とする Fc 領域
20 本明細書において、Fcγ受容体に対する結合活性が低下している Fc 領域としては、二重特
異性抗体(bispecific 抗体)を起源とする Fc 領域も適宜使用される。二重特異性抗体とは、
二つの異なる特異性を有する抗体である。IgG 型の二重特異性抗体は IgG 抗体を産生するハイ
ブリドーマ二種を融合することによって生じる hybrid hybridoma(quadroma)によって分泌
させることが出来る(Milstein C et al.Nature (1983) 305, 537-540)。
25 【0134】
また、IgG 型の二重特異性抗体は目的の二種の IgG を構成する L 鎖及び H 鎖の遺伝子、合計
四種の遺伝子を細胞に導入しそれらを共発現させることによって分泌される。しかし、これら
の方法で産生される IgG の H 鎖と L 鎖の組合せは理論上 10 通りにもなる。10 種類の IgG から
目的の組み合わせの H 鎖 L 鎖からなる IgG を精製することは困難である。さらに目的の組み合
わせのものの分泌量も理論上著しく低下するため、大きな培養規模が必要になり、製造上のコ
5 ストはさらに増大する。
【0135】
この際 H 鎖の Fc 領域を構成する CH3 領域に適当なアミノ酸置換を施すことによって H 鎖に
ついてヘテロな組合せの IgG が優先的に分泌され得る。具体的には、一方の H 鎖の CH3 領域に
存在するアミノ酸側鎖をより大きい側鎖(knob(「突起」の意))に置換し、もう一方の H 鎖の
10 CH3 領域に存在するアミノ酸側鎖をより小さい側鎖(hole(「空隙」の意))に置換することに
より突起が空隙内に配置され得るようにして異種 H 鎖形成の促進および同種 H 鎖形成の阻害を
引き起こす方法である(WO1996/027011、Ridgway JB et al., Protein Engineering (1996)
9、617-621、Merchant AM et al. Nature Biotechnology (1998) 16、677-681)。
【0137】
15 また、ポリペプチドの会合、またはポリペプチドによって構成される異種多量体の会合の制
御方法を、Fc 領域を構成する二つのポリペプチドの会合に利用することによって二重特異性
抗体を作製する技術も知られている。即ち、Fc 領域を構成する二つのポリペプチド内の界面
を形成するアミノ酸残基を改変することによって、同一配列を有する Fc 領域を構成するポリ
ペプチドの会合が阻害され、配列の異なる二つの Fc 領域を構成するポリペプチド会合体が形
20 成されるように制御する方法が二重特異性抗体の作製に採用され得る(WO2006/106905)。
【0138】
本発明にかかる Fc 領域を含むドメインとしては、上記の二重特異性抗体を起源とする Fc 領
域を構成する二つのポリペプチドが適宜使用され得る。より具体的には、Fc 領域を構成する
二つのポリペプチドであって、その一方のポリペプチドのアミノ酸配列のうち EU ナンバリン
25 グに従って特定される 349 位のアミノ酸がシステイン、366 位のアミノ酸がトリプトファンで
あり、他方のポリペプチドのアミノ酸配列のうち EU ナンバリングに従って特定される 356 位
のアミノ酸がシステイン、366 位のアミノ酸がセリンに、368 位のアミノ酸がアラニンに、407
位のアミノ酸がバリンであることを特徴とする、二つのポリペプチドが好適に用いられる。
【0145】
C 末端のヘテロジェニティーが改善された Fc 領域
5 本明細書において、Fcγ受容体に対する結合活性が低下している Fc 領域として、上記の特
徴に加えて Fc 領域の C 末端のヘテロジェニティーが改善された Fc 領域が適宜使用され得る。
より具体的には、IgG1、IgG2、IgG3 又は IgG4 を起源とする Fc 領域を構成する二つのポリペ
プチドのアミノ酸配列のうち EU ナンバリングに従って特定される 446 位のグリシン、及び 447
位のリジンが欠失した Fc 領域が提供される。
10 【0146】
T 細胞受容体複合体結合ドメイン
本明細書において、「T 細胞受容体複合体結合ドメイン」とは、T 細胞受容体複合体の一部ま
たは全部に特異的に結合し且つ相補的である領域を含んで成る T 細胞受容体複合体抗体の部分
をいう。T 細胞受容体複合体は、T 細胞受容体自身でもよいし、T 細胞受容体とともに T 細胞受
15 容体複合体を構成するアダプター分子でもよい。アダプターとして好適なものは CD3 である。
【0147】
T 細胞受容体結合ドメイン
本明細書において、「T 細胞受容体結合ドメイン」とは、T 細胞受容体の一部または全部に特
異的に結合し且つ相補的である領域を含んでなる T 細胞受容体抗体の部分をいう。
20 【0148】
T 細胞受容体としては、可変領域でもよいし、定常領域でもよいが、好ましい CD3 結合ドメ
インが結合するエピトープは定常領域に存在するエピトープである。定常領域の配列として、
例えば RefSeq 登録番号 CAA26636.1 の T 細胞受容体α鎖(配列番号:67)、RefSeq 登録番号
C25777 の T 細胞受容体β鎖(配列番号:68)、RefSeq 登録番号 A26659 の T 細胞受容体γ1
25 鎖(配列番号:69)、RefSeq 登録番号 AAB63312.1 の T 細胞受容体γ2 鎖(配列番号:70)、
RefSeq 登録番号 AAA61033.1 の T 細胞受容体δ鎖(配列番号:71)の配列を挙げることがで
きる。
【0149】
CD3 結合ドメイン
本明細書において「CD3 結合ドメイン」とは、CD3 の一部または全部に特異的に結合し且つ
5 相補的である領域を含んで成る CD3 抗体の部分をいう。CD3 結合ドメインは一または複数の抗
体の可変ドメインより提供され得る。好ましくは、CD3 結合ドメインは CD3 抗体の軽鎖可変領
域(VL)と CD3 抗体の重鎖可変領域(VH)とを含む。こうした CD3 結合ドメインの例として
は、「scFv(single chain Fv )」、「単鎖抗体(single chain antibody )」、「Fv」、「scFv2
(single chain Fv 2)」、「Fab」または「F(ab')2」等が好適に挙げられる。
10 【0150】
本発明に係る CD3 結合ドメインは、ヒト CD3 を構成するγ 鎖、δ 鎖又はε 鎖配列に存在
するエピトープであればいずれのエピトープに結合するものであり得る。本発明において、好
ましくはヒト CD3 複合体のε 鎖の細胞外領域に存在するエピトープに結合する CD3 抗体の軽
鎖可変領域(VL)と CD3 抗体の重鎖可変領域(VH)とを含む CD3 結合ドメインが好適に用いら
15 れる。こうした CD3 結合ドメインとしては、OKT3 抗体(Proc. Natl. Acad. Sci. USA(1980)
77、4914-4917)や種々の公知の CD3 抗体の軽鎖可変領域(VL)と CD3 抗体の重鎖可変領域
(VH)とを含む CD3 結合ドメインが好適に用いられる。また、ヒト CD3 を構成するγ鎖、δ
鎖又はε 鎖を前記の方法によって所望の動物に免疫することによって取得された所望の性質
を有する CD3 抗体を起源とする CD3 結合ドメインが適宜使用され得る。CD3 結合ドメインの起
20 源となる CD3 抗体は前記のとおり適宜ヒト化された抗体やヒト抗体が適宜用いられる。CD3 を
構成するγ鎖、δ鎖又はε鎖の構造は、そのポリヌクレオチド配列が、配列番号:27
(NM_000073.2)、29(NM_000732.4)及び31(NM_000733.3)に、そのポリペプチド配列
が、配列番号:28(NP_000064.1)、30(NP_000723.1)及び32(NP_000724.1)に記載
されている(カッコ内は RefSeq 登録番号を示す)。
25 【0165】
本発明に係るポリペプチド会合体の別の構造である、抗原結合ドメインおよび T 細胞受容体
複合体結合ドメインが各々一価の Fab である構造の一態様として、
(1)抗原に結合する一価の Fab 構造の重鎖 Fv 断片が CH1 領域を介して前記 Fc 領域を構成す
る一方のポリペプチドに連結され、当該 Fab 構造の軽鎖 Fv 断片が CL 領域と連結された抗原結
合ドメイン、及び、
5 (2)T 細胞受容体複合体に結合する一価の Fab 構造の重鎖 Fv 断片が CH1 領域を介して Fc 領
域を構成する他方のポリペプチドに連結され、当該 Fab 構造の軽鎖 Fv 断片が CL 領域と連結さ
れた T 細胞受容体複合体結合ドメイン、
を含み、抗原結合ドメイン中の重鎖 Fv 断片と抗原結合ドメイン中の軽鎖 Fv 断片または T 細胞
受容体結合ドメイン中の重鎖 Fv 断片と T 細胞受容体結合ドメイン中の軽鎖 Fv 断片が会合する
10 ように CH1 領域と CL 領域の電荷が制御されているポリペプチドが好適に挙げられる。本態様
においては、抗原結合ドメイン中の重鎖 Fv 断片と抗原結合ドメイン中の軽鎖 Fv 断片または T
細胞受容体結合ドメイン中の重鎖 Fv 断片と T 細胞受容体結合ドメイン中の軽鎖 Fv 断片が会合
するように CH1 領域と CL 領域の電荷が制御されていればよく、そのポリペプチド会合体の構
造(会合制御構造)は特定の一構造に限定されない。
15 【0174】
CH1 領域と CL 領域の電荷の制御
T 細胞受容体結合ドメインの重鎖と軽鎖により T 細胞受容体結合ドメインのエピトープを認
識し、また、抗原結合ドメインの重鎖と軽鎖により抗原のエピトープを認識するような二重特
異性ポリペプチド会合体を取得したい場合、当該ポリペプチド会合体の生産に際して 4 種のそ
20 れぞれの鎖を発現させると理論上 10 種類のポリペプチド会合体分子が生産される可能性があ
る。
【0175】
この場合、例えば、T 細胞受容体結合ドメインの重鎖と抗原結合ドメインの軽鎖および/ま
たは抗原結合ドメインの重鎖と T 細胞受容体結合ドメインの軽鎖の間の会合を阻害するように
25 制御すれば、所望のポリペプチド会合体分子を優先的に取得することが可能である。
【0176】
例えば、T 細胞受容体結合ドメインの重鎖 CH1 と抗原結合ドメインの軽鎖 CL 間の界面を形成
するアミノ酸残基を正の電荷を有するアミノ酸残基に改変し、抗原結合ドメインの重鎖 CH1 と
T 細胞受容体結合ドメインの軽鎖 CL 間の界面を形成するアミノ酸残基を負の電荷を有するアミ
ノ酸残基に改変する例を挙げることができる。この改変により、目的としない T 細胞受容体結
5 合ドメインの重鎖 CH1 と抗原結合ドメインの軽鎖 CL との会合は界面を形成するアミノ酸残基
がどちらも正電荷であるため阻害され、目的としない抗原結合ドメインの重鎖 CH1 と T 細胞受
容体結合ドメインの軽鎖 CL との会合は界面を形成するアミノ酸残基がどちらも負電荷である
ため阻害される。その結果、目的とする T 細胞受容体結合ドメインの重鎖 CH1 と T 細胞受容体
結合ドメインの軽鎖 CL との会合及び目的とする抗原結合ドメインの重鎖 CH1 と抗原結合ドメ
10 インの軽鎖 CL との会合が生じた本発明のポリペプチド会合体が効率的に取得され得る。また、
好適には、目的とする T 細胞受容体結合ドメインの重鎖と T 細胞受容体結合ドメインの軽鎖と
の会合は、界面を形成するアミノ酸残基が互いに異種の電荷を有するために促進され、目的と
する抗原結合ドメインの重鎖と抗原結合ドメインの軽鎖との会合も界面を形成するアミノ酸残
基が互いに異種の電荷を有するため促進される。その結果、目的とする会合が生じた本発明の
15 ポリペプチド会合体が効率的に取得され得る。
【0177】
また、本発明の会合制御を利用することにより、CH1 同士(T 細胞受容体結合ドメインの重鎖
と抗原結合ドメインの重鎖)、あるいは、CL 同士(T 細胞受容体結合ドメインの軽鎖と抗原結合
ドメインの軽鎖)の会合を抑制することも可能である。
20 【0178】
当業者であれば、本発明によって会合を制御したい所望のポリペプチド会合体について、会
合した際の CH1 と CL の界面において接近するアミノ酸残基の種類を適宜知ることが可能であ
る。
【0179】
25 また、ヒト、サル、マウス及びウサギ等の生物において、抗体の CH1 又は CL として利用可能
な配列を、当業者は、公共のデータベース等を利用して適宜取得することができる。より具体
的には、後述の実施例に記載の手段にて、CH1 又は CL のアミノ酸配列情報が取得され得る。
【0180】
例えば、後述の実施例で示されるように、T 細胞受容体結合ドメインまたは抗原結合ドメイ
ンを構成する VH および VL にそれぞれ連結する CH1 と CL が会合する際の CH1 と CL の界面にお
5 いて接近(相対または接触)するアミノ酸残基の具体例として、以下の組合せが挙げられる。
・CH1 の EU ナンバリング 147 位(例えば、配列番号:1に記載のアミノ酸配列における位)の
リジン(K)と、相対(接触)する CL の EU ナンバリング 180 位のスレオニン(T)
・CH1 の EU ナンバリング 147 位のリジン(K)と、相対(接触)する CL の EU ナンバリング 131
位のセリン(S)
10 ・CH1 の EU ナンバリング 147 位のリジン(K)と、相対(接触)する CL の EU ナンバリング 164
位のスレオニン(T)
・CH1 の EU ナンバリング 147 位のリジン(K)と、相対(接触)する CL の EU ナンバリング 138
位のアスパラギン(N)
・CH1 の EU ナンバリング 147 位のリジン(K)と、相対(接触)する CL の EU ナンバリング 123
15 位のグルタミン酸(E)
・CH1 の EU ナンバリング 175 位のグルタミン(Q)と、相対(接触)する CL の EU ナンバリン
グ 160 位のグルタミン(Q)
・CH1 の EU ナンバリング 213 位のリジン(K)と、相対(接触)する CL の EU ナンバリング 123
位のグルタミン酸(E)
20 な お 、 こ れ ら 部 位 の ナ ン バ リ ン グ に つ い て は 、 Kabat ら の 文 献 (Kabat EA et al.
1991.Sequence of Proteins of Immunological Interest. NIH)を参考にしている。また、本
発 明 に お け る EU ナ ン バ リ ン グ と し て 記 載 さ れ た 番 号 は 、 EU numbering(Sequences of
proteins of immunological interest, NIH Publication No.91-3242)にしたがって記載し
た ものである。なお本発明において、「EU ナンバリング X 位のアミノ酸残基」、「EU ナンバリ
25 ング X 位のアミノ酸」(X は任意の数)は、「EU ナンバリング X 位に相当するアミノ酸残基」、
「EU ナンバリング X 位に相当するアミノ酸」と読みかえることも可能である。
【0181】
後述の実施例で示すように、これらアミノ酸残基を改変し、本発明の方法を実施することに
より、所望のポリペプチド会合体が優先的に取得され得る。
【0182】
5 これらアミノ酸残基は、ヒトおよびマウスにおいて高度に保存されていることが知られてい
る(J. Mol. Recognit. (2003) 16、113-120)ことから、実施例に示すポリペプチド会合体以
外の CH1 と CL の会合についても、上記アミノ酸残基に対応するアミノ酸残基を改変すること
によって、本発明のポリペプチド会合体の定常領域の会合が制御され得る。
【0183】
10 即ち、本発明は、重鎖と軽鎖の会合が制御されたポリペプチド会合体であって、以下の(a)
~(f)に示すアミノ酸残基の組からなる群より選択される 1 組または2組以上のアミノ酸残
基が同種の電荷を有するポリペプチド会合体を提供する;
(a)CH1 に含まれるアミノ酸残基であって EU ナンバリング 147 位のアミノ酸残基、及び CL
に含まれるアミノ酸残基であって EU ナンバリング 180 位のアミノ酸残基、
15 (b)CH1 に含まれるアミノ酸残基であって EU ナンバリング 147 位のアミノ酸残基、及び CL
に含まれるアミノ酸残基であって EU ナンバリング 131 位のアミノ酸残基、
(c)CH1 に含まれるアミノ酸残基であって EU ナンバリング 147 位のアミノ酸残基、及び CL
に含まれるアミノ酸残基であって EU ナンバリング 164 位のアミノ酸残基、
(d)CH1 に含まれるアミノ酸残基であって EU ナンバリング 147 位のアミノ酸残基、及び CL
20 に含まれるアミノ酸残基であって EU ナンバリング 138 位のアミノ酸残基、
(e)CH1 に含まれるアミノ酸残基であって EU ナンバリング 147 位のアミノ酸残基、及び CL
に含まれるアミノ酸残基であって EU ナンバリング 123 位のアミノ酸残基、
(f)CH1 に含まれるアミノ酸残基であって EU ナンバリング 175 位のアミノ酸残基、及び CL
に含まれるアミノ酸残基であって EU ナンバリング 160 位のアミノ酸残基。
25 【0201】
本発明に係るポリペプチド会合体として、例えば図17、図19および図24に記載される
態様が挙げられる。
【実施例】
【0219】
以下に実施例により本発明をより詳細に説明するが、これらの実施例は本発明の範囲を制限
5 するものではない。
【0220】
〔実施例1〕GPC3 ERY2 の作製と検討
(1)概容
生体内に投与されたタンパク質の血中半減期を延ばす方法としては、目的タンパク質に抗体
10 の Fc ドメインを付加し、FcRn を介したリサイクリング機能を利用する方法が良く知られてい
る。しかしこの際、天然型の Fc を BiTE に付加すると、一つの分子が BiTE 部分の抗 CD3 scFv
を介して T 細胞と結合すると同時に、Fc 部分を介して NK 細胞、マクロファージなどの細胞膜
上の FcgR(Fcγ受容体)と結合することにより、癌抗原非依存的にこれらの細胞を架橋する
ことによって活性化させ、各種サイトカインの誘導につながる可能性があるものと考えられた。
15 そこで、BiTE にポリペプチドリンカーを介して Fcγ 受容体に対する結合活性が低下している
Fc 領域(サイレント型 Fc)を連結させた分子、ERY2 が作製され、この活性を BiTE と比較す
る検証が行われた。肝臓癌細胞において高発現していることが知られている GPI アンカータン
パクである Glypican 3(GPC3)に対する抗体の scFv と CD3 epsilon に対する抗体の scFv を
短いペプチドリンカーで連結することによって、GPC3 に対する BiTE(GPC3 BiTE)が作製され
20 た(図17A)。ついで、これにサイレント型 Fc を連結したに対する ERY2(GPC3 ERY2)が作
製された(図17C)。また、比較として通常の IgG 型抗 GPC3 抗体が作製された。この際、IgG
型抗 GPC3 抗体は、ADCC 活性がより増強することが知られている、糖鎖部分においてフコース
含量を低減させた抗体、すなわち低フコース型抗体として調製された。
【0221】
25 (2)GPC3 BiTE の作製
抗 GPC3 抗体の発現ベクターを鋳型として用いることによって、PCR 法により増幅された H 鎖
可変領域(anti-GPC3 VH)、L 鎖可変領域(anti-GPC3 VL)をコードする cDNA がそれぞれ取得
された。適切な配列を付加したプライマー及び当該 cDNA を鋳型として用いた PCR 法により、
anti-GPC3 VH と anti-GPC3 VL とが Gly・Gly・Gly・Gly・Ser(配列番号:7)を 3 回繰り返
す配列からなるリンカーによって連結されたアミノ酸配列を有する anti-GPC3 scFv をコード
5 する cDNA 断片が作製された。
【0222】
また、抗 CD3 抗体(M12)の H 鎖可変領域(M12 VH)、及び L 鎖可変領域(M12 VL)の部分配
列をコードする塩基配列を有し、その末端配列が相補的配列を有する一連のオリゴヌクレオチ
ドが作製された。ポリメラーゼ反応によってこれら一連のオリゴヌクレオチドがその相補的配
10 列部分を介して連結され当該 H 鎖可変領域(M12 VH)、及び L 鎖可変領域(VL)に相当するポ
リヌクレオチドが合成されるように設計された。当該オリゴヌクレオチドが混合された後、
PCR 法によってこれらのオリゴヌクレオチドが連結され、各可変領域のアミノ酸配列をコード
する 2 つの cDNA が取得された。適切な配列を付加したプライマー及びこれらの cDNA を鋳型と
して用いた PCR 法により、M12 VL と M12 VH とが Gly・Gly・Gly・Gly・Ser(配列番号:7)
15 を 3 回繰り返す配列からなるリンカーによって連結されたアミノ酸配列を有する M12 scFv を
コードする cDNA 断片が作製された。
【0223】
次に、適切な配列を付加したプライマー及び anti-GPC3 scFv と M12 scFv をそれぞれコード
する cDNA 断片を鋳型として用いた PCR 法により、anti-GPC3 scFv と M12 scFv とが Gly・
20 Gly・Gly・Gly・Ser 配列(配列番号:7)からなるリンカーによって連結され、かつその C
末端に His タグ(8 個の His)が付加された(配列番号:33で記載されるアミノ末端のアミ
ノ酸を除く)アミノ酸配列をコードする cDNA 断片が作製された。
【0224】
適切な配列を付加したプライマー及び配列番号:33で記載されるアミノ末端の 19 アミノ
25 酸を除くアミノ酸配列をコードする cDNA 断片を鋳型として用いた PCR 法により、当該 cDNA 断
片の 5’ 側に EcoRI 切断配列、kozac 配列、及び分泌シグナル配列をコードする塩基配列が付
加され、またその 3’ 側に Not I 切断配列が付加された cDNA 断片が作製された。この cDNA 断
片を、EcoRI、NotI で切断し、哺乳動物細胞用発現ベクターに組み込むことによって、GPC3
BiTE(配列番号:33、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれな
い)の発現ベクターを取得した。
5 【0225】
当該ベクターがエレクトロポレーション法によって CHO 細胞 DG44 株へ遺伝子導入された。
限界希釈後に 1 mg/mL Geneticine 存在下で遺伝子導入された細胞を培養することによって薬
剤耐性細胞株が単離された。His タグに対する抗体を用いて、得られた細胞株の培養上清に対
するウエスタンブロット解析を行なうことにより、GPC3 BiTE を発現する細胞株が選択された。
10 【0226】
前記細胞株を大量に培養することによって得られた培養上清が SP Sepharose FF カラム(GE
Healthcare 社)に添加された。当該カラムの洗浄後、GPC3 BiTE を含む画分が NaCl の濃度勾
配によって溶出された。さらに当該画分が HisTrap HP カラム(GE Healthcare 社)に添加さ
れた。当該カラムの洗浄後、GPC3 BiTE を含む画分がイミダゾールの濃度勾配によって溶出さ
15 れ た 。 当 該 画 分 が 限 外 ろ 過 膜 で 濃 縮 さ れ た 後 に 、 濃 縮 液 が Superdex 200 カ ラ ム ( GE
Healthcare 社)に添加された。単量体の GPC3 BiTE 画分のみを回収することにより精製 GPC3
BiTE が得られた。
【0227】
(3)GPC3 ERY2 の作製
20 上 記 し た 方 法 と 同 様 の 適 切 な 配 列 が 付 加 さ れ た プ ラ イ マ ー を 用 い た PCR 法 、 お よ び
QuikChange Site-Directed Mutagenesis Kit(Stratagene 社)を用いた方法等の当業者にお
いて公知の方法によって、GPC3 ERY2_Hk(配列番号:34、シグナル配列であるアミノ末端1
9アミノ酸は成熟配列には含まれない)、および GPC3 ERY2_Hh(配列番号:35、シグナル配
列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)をそれぞれコードするポリヌク
25 レオチドが挿入された発現ベクターが作製された。
【0228】
これらの発現ベクターが FreeStyle293-F 細胞(Invitrogen 社)に共に導入され、一過性に
GPC3 ERY2 が発現させた。得られた培養上清が Anti FLAG M2 カラム(Sigma 社)に添加され、
当該カラムの洗浄の後、0.1 mg/mL FLAG ペプチド(Sigma 社)による溶出が実施された。GPC3
ERY2 を含む画分が HisTrap HP カラム(GE Healthcare 社)に添加され、当該カラムの洗浄の
5 後、イミダゾールの濃度勾配による溶出が実施された。GPC3 ERY2 を含む画分が限外ろ過膜で
濃縮された後、濃縮液が Superdex 200 カラム(GE Healthcare 社)に添加され、その溶出液
の単量体の GPC3 ERY2 画分のみを回収することにより精製 GPC3 ERY2 が得られた。
【0229】
(4)低フコース型抗 GPC3 抗体の作製
10 抗 GPC3 抗体(WO2006/006693 においてヒト化 GC33 抗体として記載されている)の発現ベク
ターがエレクトロポレーション法によって GDP フコースノックアウト CHO 細胞 DXB11 株
(Cancer Sci. (2010) 101(10), 2227-33)に遺伝子導入された。限界希釈後に 0.5 mg/mL
Geneticine 存在下で培養することにより薬剤耐性株が選択され、低フコース型抗 GPC3 抗体発
現 株 が 得 ら れ た 。 こ の 細 胞 を 培 養 し て 調 製 し た 培 養 上 清 よ り 、 Hitrap(R) ProteinA
15 (Pharmacia 社)を用いた通常のアフィニティー精製により抗体画分が調製された。次に当該
抗体画分が Superdex 20026/60(Pharmacia 社)を用いたゲルろ過精製に供され、溶出液のモ
ノマー画分を分取することによって低フコース型 GPC3 抗体が得られた。
【0230】
(5)ヒト末梢血単核球を用いた細胞傷害活性の測定
20 (5-1)ヒト末梢血単核球(PBMC)溶液の調製
1,000 単位/mL のヘパリン溶液(ノボ・ヘパリン注 5 千単位、ノボ・ノルディスク社)をあ
らかじめ 100μ L 注入した注射器を用い、健常人ボランティア(成人)より末梢血 50 mL が採
取された。PBS(-)で 2 倍希釈した後に 4 等分された末梢血が、15 mL の Ficoll-PaquePLUS
をあらかじめ注入して遠心操作が行なわれた Leucosep リンパ球分離管(290、Greiner bio-
25 one 社)に加えられた。当該分離管の遠心分離(2,150 rpm、10 分間、室温)の後、単核球画
分層が分取された。10%FBS を含む Dulbecco’ s Modified Eagle’ sMedium(SIGMA 社、以
下 10%FBS/D-MEM)で 1 回単核球画分の細胞が洗浄された後、当該細胞は 10%FBS/D-MEM を用い
てその細胞密度が 4×10 6 /mL に調製された。このように調製された細胞溶液がヒト PBMC 溶液
として以後の試験に用いられた。
【0231】
5 (5-2)細胞傷害活性の測定
細胞傷害活性は xCELLigence リアルタイムセルアナライザー(ロシュ・ダイアグノスティッ
クス社)を用いた細胞増殖抑制率で評価された。標的細胞には SK-HEP-1 細胞株にヒト GPC3 を
強制発現させて樹立した SK-pca13a 細胞株が用いられた。SK-pca13a をディッシュから剥離し、
1×10 4 cells/well となるように E-Plate 96(ロシュ・ダイアグノスティックス社)プレート
10 に 100μL/well で播き、xCELLigence リアルタイムセルアナライザーを用いて生細胞の測定が
開始された。翌日 xCELLigence リアルタイムセルアナライザーからプレートを取り出し、当該
プレートに各濃度(0.004、0.04、0.4、4 nM)に調製した各抗体 50μ L が添加された。室温
にて 15 分間反応させた後に(5-1)で調製されたヒト PBMC 溶液 50μL(2×10 5 cells/well)
が加えられ、xCELLigence リアルタイムセルアナライザーに当該プレートを再セットすること
15 によって、生細胞の測定が開始された。反応は 5%炭酸ガス、37℃ 条件下にて行われ、ヒト
PBMC 添加 72 時間後の Cell Index 値から、下式により細胞増殖抑制率(%)が求められた。
なお計算に用いた Cell Index 値は、抗体添加直前の Cell Index 値が 1 となるようにノーマラ
イズした後の数値が用いられた。
【0232】
20 細胞増殖抑制率(%)=(A-B)×100/(A-1)
【0233】
A は抗体を添加していないウェルにおける Cell Index 値の平均値(標的細胞とヒト PBMC の
み)、B は各ウェルにおける Cell Index 値の平均値を示す。試験は triplicate にて行なわれ
た。
25 【0234】
ヒト血液より調製した PBMC(Peripheral Blood Mononuclear Cell)をエフェクター細胞と
して GPC3 BiTE、GPC3 ERY2、および IgG 型 GPC3 抗体の細胞傷害活性を測定したところ、GPC3
BiTE には極めて強い活性が認められた(図1)。この活性は低フコース型抗抗体よりもはるか
に強いものであり、GPC3 BiTE は IgG 型抗体を凌駕する優れた癌治療薬となり得るものと考え
られた。一方、GPC3 ERY2 には IgG 型抗 GPC3 抗体を上回る活性が見られたものの、GPC3 BiTE
5 の活性には及ばなかった。このことより、単に Fc を BiTE に付加するだけでは目的とする分子
を創製することができないものと考えられた。
【0235】
〔実施例2〕GPC3 ERY5、GPC3 ERY6、GPC3 ERY7 の作製と検討
次に、癌抗原(GPC3)への結合ドメインを 2 価にすることにより、より癌細胞に対する結合
10 活性を高めることで比活性を向上させることを試みた。GPC3 ERY2 にさらに GPC3 に対する
scFv をもう一つ付加した形の GPC3 ERY5(図17D)、付加する GPC3 に対する結合ドメインを
scFv ではなく Fab の形にした GPC3 ERY7(図17F)がそれぞれ作製された。また、GPC3 ERY5
の CD3 epsilon に対する scFv を両腕に分離した形の GPC3 ERY6(図17E)も作製された。
【0236】
15 すなわち、上記した方法と同様の適切な配列が付加されたプライマーを用いた PCR 法等の当
業者において公知の方法により、GPC3 ERY5_Hh、GPC3 ERY6_Hk、GPC3 ERY6_Hh、ERY7_Hh、
GPC3 ERY7_L をそれぞれコードするポリヌクレオチドが挿入された一連の発現ベクターが作製
された。
【0237】
20 以下に示す組み合わせの発現ベクターが FreeStyle293-F 細胞に導入され、各目的分子を一
過性に発現させた。
【0238】
A.目的分子:GPC ERY5
発現ベクターに挿入されたポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチド:GPC3 ERY5_Hh
25 (配列番号:36、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、
GPC3 ERY2_Hk
【0239】
B.目的分子:GPC ERY6
発現ベクターに挿入されたポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチド:GPC3 ERY6_Hk
(配列番号:37、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、
5 GPC3 ERY6_Hh(配列番号:38、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には
含まれない)
【0240】
C.目的分子:GPC ERY7
発現ベクターに挿入されたポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチド:GPC3 ERY7_Hh
10 (配列番号:39、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、
GPC3 ERY7_L(配列番号:40、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には
含まれない)、GPC3 ERY2_Hk
【0241】
得られた培養上清が Anti FLAG M2 カラム(Sigma 社)に添加され、当該カラムの洗浄の後、
15 0.1 mg/mL FLAG ペプチド(Sigma 社)による溶出が行われた。目的分子を含む画分が HisTrap
HP カラム(GE Healthcare 社)に添加され、当該カラムの洗浄の後、イミダゾールの濃度勾配
による溶出が実施された。目的分子を含む画分が限外ろ過膜で濃縮された後、当該画分が
Superdex 200 カラム(GE Healthcare 社)に添加され、溶出液の単量体画分のみを回収する
ことにより精製された各目的分子が得られた。
20 【0242】
これらのポリペプチド会合体と GPC3 BiTE との細胞傷害活性の比較が行なわれた。その結果、
これらのポリペプチド会合体の細胞傷害活性はいずれも GPC3 BiTE の活性に及ばないことが明
らかとなった(図2~4)。このことから、BiTE の構造、あるいはそれを模倣した構造に Fc を
付加し、さらに癌抗原に対して 2 価で結合する構成のみでは目的とする分子を創製することが
25 できないものと考えられた。
【0243】
〔実施例3〕GPC3 ERY8-2、GPC3 ERY9-1、GPC3 ERY10-1 の作製と検討
(1)GPC3 ERY8-2、GPC3 ERY9-1、GPC3 ERY10-1 の作製
次に、BiTE の構造を持たずに目的の活性を持つ分子の創製が試みられた。癌抗原(GPC3)
に対する IgG を基本骨格とし、これに CD3 epsilon に対する scFv を付加した形の分子が作製
5 された。この際、基本骨格とする IgG の Fc としては、上述した場合と同様に、FcgR(Fcγ 受
容体)への結合性が減弱されたサイレント型 Fc が用いられた。CD3 epsilon に対する scFv が
抗 GPC3 抗体 IgG の H 鎖の N 末に付加された GPC3 ERY8-2(図17G)、H 鎖の C 末に付加された
GPC3 ERY10-1(図17I)、L 鎖の C 末に付加された GPC3 ERY9-1(図17H)がそれぞれ作製
された。
10 【0244】
すなわち、上記した方法と同様の適切な配列を付加したプライマーを用いた PCR 法等の当業
者において公知の方法により、GPC3 ERY8-2_Hk(配列番号:41、シグナル配列であるアミノ
末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、GPC3 ERY8-2_Hh(配列番号:42、シグナル
配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、GPC3 ERY9-1_H(配列番号:
15 43、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、GPC3 ERY9-
1_ L-His(配列番号:44、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含ま
れない)、GPC3 ERY9-1_ L-FLAG(配列番号:45、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ
酸は成熟配列には含まれない)、GPC3 ERY10-1_Hh(配列番号:46、シグナル配列であるアミ
ノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)をそれぞれコードするポリヌクレオチドが挿
20 入された一連の発現ベクターが作製された。
【0245】
以下に示す組み合わせの発現ベクターが FreeStyle293-F 細胞に導入され、各目的分子を一
過性に発現させた。
【0246】
25 D.目的分子:GPC3 ERY8-2
発現ベクターに挿入されたポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチド:GPC3 ERY8-
2_Hk(配列番号:41、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれな
い)、GPC3 ERY8-2_Hh(配列番号:42、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟
配列には含まれない)、GPC3 ERY7_L
【0247】
5 E.目的分子:GPC ERY9-1
発現ベクターに挿入されたポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチド:GPC3 ERY9-
1_H(配列番号:43、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれな
い)、GPC3 ERY9-1_L-His(配列番号:44、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は
成熟配列には含まれない)、GPC3 ERY9-1_L-FLAG(配列番号:45、シグナル配列であるアミ
10 ノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)
【0248】
F.目的分子:GPC3 ERY10-1
発現ベクターに挿入されたポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチド:GPC3 ERY10-
1_Hh(配列番号:46、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれな
15 い)、GPC3 ERY8-2_Hk、GPC3 ERY7_L
【0249】
得られた培養上清が Anti FLAG M2 カラム(Sigma 社)に添加され、当該カラムの洗浄の後、
0.1 mg/mL FLAG ペプチド(Sigma 社)による溶出が実施された。目的分子を含む画分が
HisTrap HP カラム(GE Healthcare 社)に添加され、当該カラムの洗浄の後、イミダゾールの
20 濃度勾配による溶出が実施された。目的分子を含む画分が限外ろ過によって濃縮された後、当
該画分が Superdex 200 カラム(GE Healthcare 社)に添加され、溶出液の単量体画分のみを
回収することにより精製された各目的分子が得られた。
【0250】
これらの分子について in vitro の細胞傷害活性を調べたところ、いずれの分子も GPC3 BiTE
25 と同等以上の細胞傷害活性を示すことが明らかとなった(図5)。特に、GPC3 ERY10-1 は、明
らかに GPC3 BiTE を上回る細胞傷害活性が認められた。本発明において、癌抗原に対する IgG
に CD3 epsilon に対する scFv を付加する分子においても BiTE と同等以上の細胞傷害活性を持
つことが初めて明らかとなった。特に、GPC3 ERY9-1、GPC3 ERY10-1 のように癌抗原に対する
結合ドメインと CD3 epsilon に対する結合ドメインの距離が大きい分子において、BiTE より
も明らかに強い細胞傷害活性が見られたことは予想外の結果であった。
5 【0251】
(2)GPC3 ERY8-2、及び、GPC3 ERY10-1 の in vivo 薬効の評価:
(1)で記載された in vitro のアッセイで GPC3 BiTE と同等以上の細胞傷害活性が認めら
れた GPC3 ERY8-2、及び、GPC3 ERY10-1 の in vivo の薬効の評価が行なわれた。GPC3 を発現
するヒト肺癌細胞株である PC-10 がヒト PBMC と混合され NOD scid マウスに移植された。当該
10 マウスに対して GPC3 ERY8-2、あるいは GPC3 ERY10-1 の投与による治療が行なわれた(pre-
mix モデルと指称される)。
【0252】
すなわち、GPC3 ERY8-2 の PC-10 pre-mix モデルによる薬効試験においては、下記のような
試験が実施された。健常人ボランティアより採取した血液から分離された PBMC から、CD56
15 MicroBeads, human (MCAS Miltenyi biotec 社)を用いて NK 細胞が除去された。ヒト肺扁平上
皮がん細胞株 PC-10(免疫生物研究所)5×106 細胞と、NK 細胞が除去されたヒト PBMC 4.5×
10 6 細胞、およびマトリゲル基底膜マトリックス(BD 社)が混和され、NOD scid マウス(日本
クレア、雌、7W)のそけい部皮下に移植された。移植の日を day 0 とした。マウスには移植前
日に抗アシアロ GM1 抗体(和光純薬)が 0.2 mg/匹で腹腔内に投与された。移植 2 時間後に
20 GPC ERY8-2 が 30μg/匹で腹腔内投与された。GPC ERY8-2 の投与が day 0~4 までの間、計 5
回行われた。
【0253】
また、GPC3 ERY10-1 の PC-10 pre-mix モデルによる薬効試験においては、下記のような試
験 が 実 施 さ れ た 。 健 常 人 ボ ラ ン テ ィ ア よ り 採 取 し た 血 液 か ら 分 離 さ れ た PBMC か ら 、
25 MicroBeads, human (MACS Miltenyi biotec 社)を用いて NK 細胞が除去された。ヒト肺扁平上
皮がん細胞株 PC-10(免疫生物研究所)5×10 6 細胞と、NK 細胞が除去されたヒト PBMC4.5×
10 6 細胞、およびマトリゲル基底膜マトリックス(BD 社)が混和され、NOD scid マウス(日
本クレア、雌、7W)のそけい部皮下に移植された。移植の日を day 0 とした。マウスには移植
前日に抗アシアロ GM1 抗体(和光純薬)が 0.2 mg/匹で腹腔内に投与された。移植 2 時間後に
GPC ERY10-1 が 30μg/匹で腹腔内投与された。GPC ERY10-1 の投与が day 0~4、day 7~11、
5 day 14~16 の間、計 13 回行われた。
【0254】
その結果、GPC3 ERY8-2、あるいは GPC3 ERY10-1 投与群においては、コントロールである溶
媒(PBS)投与群と比べて明らかに腫瘍の増殖が抑制されることが明らかとなった(図6およ
び7)。
10 【0255】
また、別のモデルにおいても GPC3 ERY10-1 による in vivo 薬効の評価が行なわれた。すな
わち、移植された PC-10 による腫瘍の形成が確認された NOD scid マウスに、in vitro でヒト
PBMC を培養することにより増殖させた T 細胞が移入された。当該マウスに対して ERY10-1 を
投与することによる治療が行なわれた(T 細胞移入モデルと指称される)。
15 【0256】
すなわち、GPC3 ERY10-1 の PC-10 T 細胞移入モデルによる薬効試験においては、下記のよ
うな試験が行われた。健常人ボランティアより採取した血液から分離された PBMC 及び T cell
activation/ expansion kit/ human(MACS Miltenyi biotec 社)を用いて T 細胞の拡大培養
が行なわれた。ヒト肺扁平上皮がん細胞株 PC-10(免疫生物研究所)1×107 細胞と、マトリゲ
20 ル基底膜マトリックス(BD 社)が混和され、NOD scid マウス(日本クレア、雌、7W)のそけ
い部皮下に移植された。移植の日を day 0 とした。マウスには移植前日、および day 6、8、
12、16、20 に抗アシアロ GM1 抗体(和光純薬)が 0.2 mg/匹で腹腔内に投与された。移植後 6
日目に腫瘍サイズと体重に応じて群分けが行なわれた後、前記拡大培養によって得られた T 細
胞が 1× 107 細胞/匹で腹腔内に移植された。その 2 時間後から、GPC ERY10-1 が 30 μg/匹で
25 腹腔内投与された。GPC ERY10-1 の投与は day 7、8、12、16、17 に、計 5 回行われた。
【0257】
その結果、このモデルにおいても、GPC3 ERY10-1 投与群においては溶媒投与群に比較して
明らかな抗腫瘍作用が認められた(図8)。
【0258】
以上のことから、サイレント型 Fc を持つ IgG を基本骨格とし、これに CD3 epsilon に対す
5 る抗体の scFv を一つ付加した形の一連の分子は明らかな in vivo における抗腫瘍効果を奏す
ることが示された。
【0259】
(3)血漿中滞留性の評価
GPC3 ERY8-2、GPC3 ERY9-1、GPC3 ERY10-1 等の一連の分子が、GPC3 BiTE に比較して顕著
10 に長い血漿中半減期を有するか否かを検証するために、癌細胞が移植されていない NOD scid
マウスに対して 30μg/匹で投与された、GPC3 ERY9-1、GPC3 ERY10-1 の血漿中濃度が経時的
に測定された。
【0260】
すなわち、下記のような PK 解析試験が実施された。NOD scid マウス(日本クレア、雌、8W)
15 の腹腔内に GPC3 ERY9-1、GPC3 ERY10-1 が 30μ g/匹で投与された。投与後、15min、2 時間、
1 日、2 日、7 日の各ポイントでマウスの頬静脈よりヘマトクリット毛細管(テルモ)を用いて
採血が行われ、その血漿が調製された。
【0261】
GPC3 を発現させた Ba/F3 細胞(GPC3/BaF)およびヒト CD3 epsilon を発現させた Ba/F3 細
20 胞(CD3/BaF)に適宜希釈した GPC3 ERY9-1、GPC3 ERY10-1 が加えられ、GPC3 ERY9-1、又は、
GPC3 ERY10-1 と GPC3/BaF 又は CD3/BaF と反応させた。これらの細胞の洗浄の後、FITC 標識
された 2 次抗体が加えられ、当該二次抗体をさらに反応させた。当該細胞の洗浄の後、Epics
XL フローサイトメーター(Beckman coulter 社)により当該細胞に標識された蛍光強度が測定
され、各抗体についての標準曲線が作成された。
25 【0262】
GPC3 ERY9-1、GPC3 ERY10-1 が投与されたマウスより継時的に採取された血液から調製され
た 血漿 が 適 宜希 釈 さ れ た 。上 記 の 標準 曲 線 の 作 成の 場 合 と同 様 に 当 該 血漿 と GPC3/BaF、
CD3/BaF とを反応させ、血漿中に存在する GPC3 ERY9-1 及び GPC3 ERY10-1 の各細胞への結合
量が測定された。測定された値と前記の標準曲線を用いて、血漿中の各抗体濃度が算出された。
【0263】
5 その結果、GPC3 ERY9-1 及び GPC3 ERY10-1 はともに、投与後 2 日後において 10 nM 以上の
血中濃度を維持していることが明らかとなった(図9および10)。この結果から、ERY9-1 及
び GPC3 ERY10-1 等の一連の分子の血漿中半減期は BiTE に比べて著しく改善されていることが
示された。
【0264】
10 (4)癌抗原非依存的サイトカイン誘導におけるサイレント Fc の効果
(4-1)FcgR 結合型 Fc を持つ GPC3 ERY15-1 の作製
GPC3 ERY8-2、GPC3 ERY9-1、GPC3 ERY10-1 等の一連の分子が癌抗原非依存的なサイトカイ
ンの誘導を起こすか否かを検証するために、FcgR 結合型 Fc を持つ GPC3 ERY15-1(図17J)
を作製した。
15 【0265】
すなわち、上記の方法と同様に、適切な配列を付加したプライマーを用いた PCR 法、および
QuikChange Site-Directed Mutagenesis Kit(Stratagene 社)を用いた方法等の当業者に
とって公知の方法により、GPC3 ERY15-1_Hh(配列番号:47、シグナル配列であるアミノ末
端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、GPC3 ERY15-1_Hk(配列番号:48、シグナル配
20 列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)をそれぞれコードするポリヌク
レオチドが挿入された発現ベクターが作製された。
【0266】
GPC3 ERY15-1_Hh(配列番号:47、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配
列には含まれない)、GPC3 ERY15-1_Hk(配列番号:48、シグナル配列であるアミノ末端19
25 ア ミ ノ 酸 は 成 熟 配 列 に は 含 ま れ な い )、 お よ び GPC3 ERY7_L の 発 現 ベ ク タ ー が 共 に
FreeStyle293-F 細胞に導入され、GPC3 ERY15-1 を一過性に発現させた。得られた培養上清が
Anti FLAG M2 カラム(Sigma 社)に添加され、当該カラムの洗浄の後、0.1 mg/mL FLAG ペプ
チド(Sigma 社)による溶出が実施された。GPC3 ERY15-1 を含む画分が HisTrap HP カラム
(GE Healthcare 社)に添加され、当該カラムの洗浄の後、イミダゾールの濃度勾配による溶
出が実施された。GPC3 ERY15-1 を含む画分が限外ろ過によって濃縮された後、当該画分が
5 Superdex 200 カラム(GE Healthcare 社)に添加され、溶出液の単量体の ERY15-1 画分のみ
を回収することにより精製 GPC3 ERY15-1 が得られた。
【0267】
(4-2)癌抗原非依存的なサイトカイン誘導能の測定
GPC3 ERY15-1 の癌抗原非依存的なサイトカイン誘導能が、GPC3 BiTE、GPC3 ERY9-1、GPC3
10 ERY10-1、及び catumaxomab のそれと比較された。健常人ボランティアから採取した血液より
上記の方法により PBMC が調製された。ヒト PBMC 溶液 50 μL(2×105 細胞/ウェル)に、40
nM に調製された各抗体 50μL が添加され、更に 100μL の 10%FBS/D-MEM が加えられた。反応
液は 5%炭酸ガス、37℃ 条件下にて培養された。72 時間の培養の後に、培養上清が回収され、
Human Th1/Th2/Th17 Kit(BD 社)を用いた Cytometric Beads Array(CBA)法にて培養上清
15 中に分泌されたサイトカインが定量された。添付プロトコールに従った測定方法による試験は
triplicate にて行われた。
【0268】
その結果、FcgR 結合型 Fc を持つ GPC3 ERY15-1、catumaxomab には明らかなサイトカイン誘
導が認められたのに対して、Fc を持たない GPC3 BiTE、及びサイレント型 Fc を持つ ERY9-1、
20 GPC3 ERY10-1 ではサイトカイン誘導が認められなかった(図11)。よって、サイレント型 Fc
を持つ GPC3 ERY8-2、GPC3 ERY9-1、GPC3 ERY10-1 等の一連の分子は癌抗原非依存的なサイト
カイン誘導を起こさず、非常に高い安全性を持つ分子であるものと考えられた。
【0269】
〔実施例4〕GPC3 ERY18 L1、L2、L3、L4、S1 の作製と検討
25 scFv 構造と異なる CD3 結合ドメインを持つ分子の検討が行われた。癌抗原(GPC3)に対す
る IgG の 2 本の H 鎖の C 末端にそれぞれ CD3 抗体の VH 領域、VL 領域を結合した分子型である
GPC3 ERY18(図17K)が作製された。この際、間のリンカー(Gly・Gly・Gly・Gly・Ser)
の個数を 1 個~4 個に変えた一連の分子(GPC3 ERY18 L1~L4)が作製された。また、適切な
部位のアミノ酸を Cys に置換してジスルフィド結合を導入することを可能とする分子(GPC3
ERY18 S1)も同時に作製された。
5 【0270】
すなわち、上記の方法と同様に適切な配列を付加したプライマーを用いた PCR 法等の当業者
にとって公知の方法により、GPC3 ERY18 L1_Hh(配列番号:49、シグナル配列であるアミノ
末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、GPC3 ERY18 L1_Hk(配列番号:50、シグナ
ル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、GPC3 ERY18 L2_Hh(配列
10 番号:51、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、GPC3
ERY18 L2_Hk(配列番号:52、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には
含まれない)、GPC3 ERY18 L3_Hh(配列番号:53、シグナル配列であるアミノ末端19アミ
ノ酸は成熟配列には含まれない)、GPC3 ERY18 L3_Hk(配列番号:54、シグナル配列である
アミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、GPC3 ERY18 L4_Hh(配列番号:55、
15 シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、GPC3 ERY18 L4_Hk
(配列番号:56、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、
GPC3 ERY18 S1_Hh(配列番号:57、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列
には含まれない)、GPC3 ERY18 S1_Hk(配列番号:58、シグナル配列であるアミノ末端19
アミノ酸は成熟配列には含まれない)をそれぞれコードするポリヌクレオチドが挿入された一
20 連の発現ベクターが作製された。
【0271】
以下に示す組み合わせの発現ベクターが FreeStyle293-F 細胞に導入され、各目的分子を一
過性に発現させた。
【0272】
25 G.目的分子:GPC3 ERY18 L1
発現ベクター:GPC3 ERY18 L1_Hh(配列番号:49、シグナル配列であるアミノ末端19ア
ミノ酸は成熟配列には含まれない)、GPC3 ERY18 L1_Hk(配列番号:50、シグナル配列であ
るアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、及び GPC3 ERY7 L
【0273】
H.目的分子:GPC3 ERY18 L2
5 発現ベクター:GPC3 ERY18 L2_Hh(配列番号:51、シグナル配列であるアミノ末端19ア
ミノ酸は成熟配列には含まれない)、GPC3 ERY18 L2_Hk(配列番号:52、シグナル配列であ
るアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、及び GPC3 ERY7 L
【0274】
I.目的分子:GPC3 ERY18 L3
10 発現ベクター:GPC3 ERY18 L3_Hh(配列番号:53、シグナル配列であるアミノ末端19ア
ミノ酸は成熟配列には含まれない)、GPC3 ERY18 L3_Hk(配列番号:54、シグナル配列であ
るアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、及び GPC3 ERY7 L
【0275】
J.目的分子:GPC3 ERY18 L4
15 発現ベクター:GPC3 ERY18 L4_Hh(配列番号:55、シグナル配列であるアミノ末端19ア
ミノ酸は成熟配列には含まれない)、GPC3 ERY18 L4_Hk(配列番号:56、シグナル配列であ
るアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、及び GPC3 ERY7 L
【0276】
K.目的分子:GPC3 ERY18 S1
20 発現ベクター:GPC3 ERY18 S1_Hh(配列番号:57、シグナル配列であるアミノ末端19ア
ミノ酸は成熟配列には含まれない)、GPC3 ERY18 S1_Hk(配列番号:58、シグナル配列であ
るアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、及び GPC3 ERY7 L
【0277】
得られた培養上清が Anti FLAG M2 カラム(Sigma 社)に添加され、当該カラムの洗浄の後、
25 0.1 mg/mL FLAG ペプチド(Sigma 社)による溶出が実施された。目的分子を含む画分が
HisTrap HP カラム(GE Healthcare 社)に添加され、当該カラムの洗浄の後、イミダゾールの
濃度勾配による溶出が実施された。目的分子を含む画分が限外ろ過によって濃縮された後、当
該画分が Superdex 200 カラム(GE Healthcare 社)に添加され、溶出液の単量体画分のみを
回収することにより精製された各目的分子が得られた。
【0278】
5 GPC3 ERY18 L1、GPC3 ERY18L2、GPC3 ERY18L3、GPC3 ERY18L4、GPC3 ERY18S1 の各分子の
in vitro の細胞傷害活性が評価された(図12および13)。その結果、GPC3 ERY18 L1 を除
くいずれの分子も GPC3 ERY10-1 と同等の活性を有することが見出された。scFv ではない構造
を有する分子が同等の細胞傷害活性を有することが示された。癌抗原(GPC3)に対する IgG の
2 本の H 鎖の C 末端にそれぞれ CD3 抗体の VH 領域、VL 領域を結合した構造による、本願発明
10 に係るポリペプチド会合体分子の安定化への貢献が期待される。
【0279】
〔実施例5〕GPC3 ERY19-3 の作製と検討
次に、CD3 結合ドメインが Fab 様構造である分子の検討が行われた。癌抗原(GPC3)に対す
る IgG 抗体の 2 本の H 鎖の C 末端にそれぞれ CD3 抗体の VH 領域と CH1 領域、および VL 領域と
15 CL 領域が結合した分子型である GPC3 ERY19-3 が作製された(図17L)。すなわち、上記の方
法と同様に適切な配列を付加したプライマーを用いた PCR 法等の当業者にとって公知の方法に
より、GPC3 ERY19-3_Hh(配列番号:59、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成
熟配列には含まれない)、GPC3 ERY19-3_Hk(配列番号:60、シグナル配列であるアミノ末端
19アミノ酸は成熟配列には含まれない)をそれぞれコードするポリヌクレオチドが挿入され
20 た発現ベクターが作製された。
【0280】
GPC3 ERY19-3_Hh(配列番号:59、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配
列には含まれない)、GPC3 ERY19-3_Hk(配列番号:60、シグナル配列であるアミノ末端19
ア ミ ノ 酸 は 成 熟 配 列 に は 含 ま れ な い )、 お よ び GPC3 ERY7_L の 発 現 ベ ク タ ー が 共 に
25 FreeStyle293-F 細胞に導入され、一過性に GPC3 ERY19-3 を発現させた。得られた培養上清が
HiTrap rProtein A FF カラム(GE Healthcare 社)に添加され、当該カラムの洗浄の後、酸
による溶出が実施された。GPC3 ERY19-3 を含む画分が限外ろ過によって濃縮された後、当該
画分が Superdex 200 カラム(GE Healthcare 社)に添加され、溶出液の単量体の GPC3 ERY19-
3 画分のみを回収することにより精製 GPC3 ERY19-3 が得られた。
【0281】
5 GPC3 ERY19-3 分子による in vitro の細胞傷害活性が評価された。その結果、GPC3 BiTE と
同等の活性を有することが示された(図14)。Fab 様構造を有する CD3 結合ドメインによる、
本願発明に係るポリペプチド会合体分子の安定化への貢献が期待される。
【0282】
〔実施例6〕GPC3 ERY 10-1 の CH3 ドメインへの変異導入によるプロテイン A 精製工程のみを
10 用いたポリペプチド会合体の調製
(1)概要
実施例3で調製された GPC3 ERY10-1 では、CH3 ドメインの構造として knobs-into-hole が
用いられている。それぞれの H 鎖の C 末端には His タグと FLAG タグが付加されており、これ
らのタグを用いた 2 種類のアフィニティー精製を行うことにより、目的としている 2 種類の H
15 鎖がヘテロ会合化した GPC3 ERY10-1 分子が精製された。GPC3 ERY10-1 分子を医薬品として製
造する場合、GPC3 ERY10-1 を発現する細胞の培養上精からプロテイン A クロマトグラフィー
を用いて Fc ドメインを有するポリペプチド会合体がまず精製される。さらに、His タグアフィ
ニティークロマトグラフィーと FLAG タグアフィニティークロマトグラフィーの 2 種類のクロ
マトグラムを用いた精製工程が必要となり、精製工程のコストが高くなるという課題がある。
20 そこで本実施例では、His タグと FLAG タグを用いることなく、プロテインAクロマトグラ
フィーのみを用いることによって目的とする 2 種類の H 鎖がヘテロ会合化した GPC3 ERY10-1
分子を精製することを可能とする分子改変の検討が行われた。
【0283】
具体的には、2 種類の H 鎖のうち、一方の H 鎖のプロテイン A への結合を無くす改変の検討
25 が行なわれた。この改変により、プロテイン A への結合を無くした H 鎖がホモ会合化した分子
は、プロテイン A に結合することができないためプロテイン A クロマトグラフィーをパスする。
一方、プロテイン A への結合を無くした H 鎖とプロテイン A への結合を保持している H 鎖がヘ
テロ会合化した分子と、プロテイン A への結合を保持している H 鎖がホモ会合化した分子との、
プロテイン A への結合性の相違を利用することによって、プロテイン A クロマトグラフィーに
よりこれらの分子の分離が可能であると考えられた。この際、抗体の Fc ドメインにおいて、
5 プロテイン A と抗体の血漿中滞留性に重要な FcRn が結合する箇所は重複していることから、
FcRn への結合性を維持したまま、プロテイン A への結合性のみを選択的に低減する必要があ
る。そのような改変として、EU ナンバリング 435 番目の His を Arg に置換する変異が見出さ
れた。この変異に加えて、2 種類の H 鎖のヘテロ会合化を促進する改変として WO2006/106905
に記載された変異(一方の H 鎖の EU ナンバリング 356 番目の Asp を Lys に置換し、もう一方
10 の H 鎖の EU ナンバリング 439 番目の Lys を Glu に置換する)を組み合わせることにより、プ
ロテイン A クロマトグラフィーのみで GPC3 ERY10-1 等のポリペプチド会合体分子を精製する
ことが可能かどうかが検証された。
【0284】
(2)抗体遺伝子発現ベクターの作製と各抗体の発現
15 抗体 H 鎖可変領域として、GC33(2)H(抗ヒト Glypican-3 抗体 H 鎖可変領域、配列番号:6
1、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)をコードする遺
伝子が当業者にとって公知の方法により作製された。同様に、抗体 L 鎖として、3-k0(抗ヒト
Glypican-3 抗体 L 鎖、配列番号:62、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟
配列には含まれない)をコードする遺伝子が当業者にとって公知の方法により作製された。次
20 に、抗体 H 鎖定常領域として、以下に示す遺伝子が当業者にとって公知の方法により作製され
た。
【0285】
L.目的分子:LALA-G1d
IgG1 の配列中の EU ナンバリング 234 番目および 235 番目の Leu が Ala に置換され、297 番
25 目の Asn が Ala に置換された変異が導入され、C 末端の Gly 及び Lys が除去された LALA-G1d
(配列番号:63、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)
【0286】
M.目的分子:LALA-G1d-CD3
LALA -G1d(配列番号:63、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には
含まれない)に CD3 の scFv(抗ヒト CD3 抗体 H 鎖可変領域及び抗ヒト CD3 抗体 L 鎖可変領域
5 がポリペプチドリンカーを介して結合されたもの)が C 末端に結合された LALA-G1d-CD3(配
列番号:64、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)
【0287】
N.目的分子:LALA-G3S3E-G1d
LALA-G1d(配列番号:63、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には
10 含まれない)の配列中の EU ナンバリング 435 番目の His を Arg に置換する変異及び EU ナンバ
リング 439 番目の Lys を Glu に置換する変異が導入された LALA-G3S3E-G1d(配列番号:65、
シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)
【0288】
O.目的分子:LALA-S3K-G1d-CD3
15 LALA-G1d-CD3(配列番号:64、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列
には含まれない)の配列中の EU ナンバリング 356 番目の Asp を Lys に置換する変異が導入さ
れた LALA-S3K-G1d-CD3(配列番号:66、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成
熟配列には含まれない)。
【0289】
20 GC33(2) H の下流に LALA-G1d-CD3 あるいは LALA-G1d を連結することで、抗ヒト GPC3 抗体
H 鎖遺伝子 NTA1L あるいは NTA1R が作製された。GC33(2) H の下流に LALA-S3K-G1d-CD3 ある
いは LALA-G3S3E-G1d を連結することで、抗ヒト GPC3 抗体 H 鎖遺伝子 NTA2L あるいは NTA2R が
作製された。
【0290】
25 NTA1L、NTA1R、NTA2L、NTA2R(H 鎖)及び GC33-k0(L 鎖)の各遺伝子を、動物細胞発現ベ
クターに組み込むことによって当該遺伝子の発現ベクターが作製された。以下に示す組み合わ
せにより、これらのベクターが当業者公知の方法で FreeStyle293 細胞(invitrogen 社)へ導
入されることによって、下記に示す各ポリペプチド会合体を一過性に発現させた。以下に示す
ように、導入した遺伝子の組み合わせを第一の H 鎖/第二の H 鎖/L 鎖の順番で示すことに
よってポリペプチド会合体の名前として表記されている。
5 NTA1L/NTA1R/GC33-k0
NTA2L/NTA2R/GC33-k0
【0291】
(3)発現サンプルの精製とヘテロ会合体形成の評価
下記に示すポリペプチド会合体を含む FreeStyle293 細胞の培養上清(以下 CM と指称され
10 る)が試料として用いられた。
NTA1L/NTA1R/GC33-k0
NTA2L/NTA2R/GC33-k0
【0292】
D-PBS で平衡化した rProtein A Sepharose Fast Flow カラム(GE Healthcare)にφ0.22
15 μm フィルターで濾過した CM が負荷され、表1に示すバッファーにより洗浄 1、2、および溶
出 1 の各ステップが実施された。負荷される抗体量が 20 mg/mL resine になるように CM の負
荷量が調節された。分取された溶出画分のサイズ排除クロマトグラフィー分析により、溶出画
分に含まれている成分が同定された。
【0293】
20 【表1】
【0294】
各溶出画分のサイズ排除クロマトグラフィー分析の結果を図15及び表2に示した。値は溶
出 ピ ー ク の 面 積 が パ ー セ ン ト で 表 記 さ れ て い る 。 NTA1L/NTA1R/GC33-k0 及 び
NTA2L/NTA2R/GC33-k0 を発現させた CM 中には、共に CD3 に対するホモ抗体(NTA1L/GC33-k0,
NTA2L/GC33-k0)がほとんど検出されなかった。GPC3 に対するホモ抗体(NTA2R/GC33-k0)に
関しては、NTA1L/NTA1R/GC33-k0 を発現させた CM 中では 76%程度検出されたのに対して、
5 NTA2L/NTA2R/GC33-k0 をを発現させた CM 中では 2%程度しか検出されなかった。すなわち、EU
ナンバリング 435 番目の His を Arg に置換する変異に加えて、各 H 鎖のヘテロ分子を効率的に
形成させるために、一方の H 鎖のポリペプチド配列中の EU ナンバリング 356 番目の Asp を Lys
に置換する変異およびもう一方の H 鎖のポリペプチド配列中の EU ナンバリング 439 番目の Lys
を Glu に置換する変異を導入することによって、プロテインAを用いた精製工程のみにより、
10 目的の GPC3 ERY10-1 と同様の分子形からなるヘテロで会合するポリペプチド会合体を 98%以
上の純度で効率的に精製することが可能であることが明らかになった。
【0295】
【表2】
15 【0296】
〔実施例7〕GPC3 ERY 17-2 及び GPC3 ERY 17-3 の作製と検討
(1)GPC3 ERY 17-2 及び GPC3 ERY 17-3 の作製
次に、癌抗原(GPC3)に対する IgG を基本骨格とし、片方の Fab を CD3 epsilon に対する結
合ドメインに置き換えた形の分子が作製された。この際、基本骨格とする IgG の Fc としては、
20 上述した場合と同様に、FcgR(Fcγ 受容体)への結合性が減弱されたサイレント型 Fc が用い
られた。CD3 epsilon に対する結合ドメインとして、CD3 epsilon に対する Fab の VH ドメイン
と VL ドメインを置き換えた GPC3 ERY17-2(図19A)と、CH1 ドメインと CL ドメインを置き
換えた GPC3 ERY17-3(図19B)がそれぞれ作製された。
【0297】
すなわち、上記した方法と同様の適切な配列を付加したプライマーを用いた PCR 法等の当業
者において公知の方法により、ERY17-2_Hh(配列番号:73、シグナル配列であるアミノ末
端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、ERY17-2_L(配列番号:74、シグナル配列で
あるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、ERY17-3_Hh(配列番号:75、シ
5 グナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、ERY17-3_L(配列番
号:76、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)をそれぞ
れコードするポリヌクレオチドが挿入された一連の発現ベクターが作製された。
【0298】
以下に示す組み合わせの発現ベクターが FreeStyle293-F 細胞に導入され、各目的分子を一
10 過性に発現させた。
【0299】
P.目的分子:GPC3 ERY17-2
発現ベクターに挿入されたポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチド:GPC3 ERY8-
2_Hk、GPC3 ERY7_L、ERY17-2_Hh(配列番号:73、シグナル配列であるアミノ末端19アミ
15 ノ酸は成熟配列には含まれない)、ERY17-2_L(配列番号:74、シグナル配列であるアミノ
末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)
【0300】
Q.目的分子:GPC3 ERY17-3
発現ベクターに挿入されたポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチド:GPC3 ERY8-
20 2_Hk、GPC3 ERY7_L、ERY17-3_Hh(配列番号:75、シグナル配列であるアミノ末端19アミ
ノ酸は成熟配列には含まれない)、ERY17-3_L(配列番号:76、シグナル配列であるアミノ
末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)
【0301】
(2)GPC3 ERY 17-2 及び GPC3 ERY 17-3 の精製
25 得られた培養上清が Anti FLAG M2 カラム(Sigma 社)に添加され、当該カラムの洗浄の後、
0.1 mg/mL FLAG ペプチド(Sigma 社)による溶出が実施された。目的分子を含む画分が
HisTrap HP カラム(GE Healthcare 社)に添加され、当該カラムの洗浄の後、イミダゾールの
濃度勾配による溶出が実施された。目的分子を含む画分が限外ろ過によって濃縮された後、当
該画分が Superdex 200 カラム(GE Healthcare 社)に添加され、溶出液の単量体画分のみを
回収することにより精製された各目的分子が得られた。
5 【0302】
(3)GPC3 ERY 17-2 及び GPC3 ERY 17-3 の細胞傷害活性
GPC3 ERY 17-2 及び GPC3 ERY 17-3 について in vitro の細胞傷害活性が調べられた(図2
0)。その結果、いずれの分子も明らかに GPC3 BiTE を上回る細胞傷害活性を奏することが認
められた。本発明において、癌抗原に対する IgG を基本骨格とし、片側の Fab を CD3 epsilon
10 に対する結合ドメインに置き換えた分子も BiTE と同等以上の細胞傷害活性を奏することが初
めて明らかとなった。
【0303】
(4)PC-10 T 細胞移入モデルを用いた GPC3 ERY17-2 の薬効試験
in vitro のアッセイで GPC3 BiTE と同等以上の細胞傷害活性が認められた GPC3 ERY17-2 の
15 in vivo の薬効の評価が PC-10 T 細胞移入モデルを用いて行なわれた。すなわち、GPC3 ERY17-
2 の PC-10 T 細胞移入モデルによる薬効試験においては、下記のような試験が行われた。健常
人ボランティアより採取した血液から分離された PBMC 及び T cell activation/ expansion
kit/ human(MACS Miltenyi biotec 社)を用いて T 細胞の拡大培養が行なわれた。ヒト肺扁
平上皮がん細胞株 PC-10(免疫生物研究所)1×10 7 細胞と、マトリゲル基底膜マトリックス
20 (BD 社)が混和され、NOD scid マウス(日本クレア、雌、7W)のそけい部皮下に移植された。
移植の日を day 0 とした。マウスには移植前日、および day 13、17、21、25 に抗アシアロ GM1
抗体(和光純薬)が 0.2 mg/匹で腹腔内に投与された。移植後 13 日目に腫瘍サイズと体重に
応じて群分けが行なわれ、移植後 14 日目に前記拡大培養によって得られた T 細胞が 3×10 7 細
胞/匹で腹腔内に移植された。その 2 時間後から、GPC ERY17-2 が 30μg/匹で静脈内投与され
25 た。GPC ERY17-2 の投与は day 14、15、16、17、18 に、計 5 回行われた。
【0304】
その結果、このモデルにおいても、GPC3 ERY17-2 投与群においては溶媒投与群に比較して
明らかな抗腫瘍作用が認められた(図21)。
【0305】
以上のことから、癌抗原に対する IgG を基本骨格とし、片側の Fab を CD3 epsilon に対する
5 結合ドメインに置き換えた分子は明らかな in vivo における抗腫瘍効果を奏することが示され
た。
【0306】
〔実施例8〕GPC3 ERY17-2-M20 の作製と検討
(1)GPC3 ERY17-2-M20 の作製
10 次に、CD3 epsilon に対する結合ドメインの配列が変わっても目的の活性を持つ分子の創製
が試みられた。GPC3 ERY17-2 の CD3 epsilon に対する結合ドメインの配列を変えた GPC3
ERY17-2-M20(図19A)が作製された。すなわち、CD3 抗体(M20)の発現ベクターが鋳型と
して用いられ、上記した方法と同様の適切な配列を付加したプライマーを用いた PCR 法等の当
業者において公知の方法により、ERY17-2-M20_Hh(配列番号:77、シグナル配列であるア
15 ミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、ERY17-2-M20_L(配列番号:78、シグ
ナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)をそれぞれコードするポ
リヌクレオチドが挿入された一連の発現ベクターが作製された。
【0307】
(2)GPC3 ERY17-2-M20 の精製
20 GPC3 ERY8-2_Hk、GPC3 ERY7_L、ERY17-2-M20_Hh(配列番号:77)、および ERY17-2-M20
_L(配列番号:78)の発現ベクターが共に FreeStyle293-F 細胞に導入され、一過性に GPC3
ERY17-2-M20 を発現させた。得られた培養上清が、φ0.22μm フィルターで濾過された後、平
衡化した rProtein A Sepharose Fast Flow カラム(GE Healthcare)に負荷された。表3に
示すバッファーにより洗浄 1、2、および溶出 1 の各ステップが実施されることにより精製 GPC3
25 ERY17-2-M20 が得られた。
【0308】
【表3】
【0309】
(3)GPC3 ERY17-2-M20 の細胞傷害活性
5 GPC3 ERY17-2-M20 の in vitro の細胞傷害活性を調べたところ、GPC3 ERY17-2 とほぼ同等
の細胞傷害活性が認められた(図22)。このことから CD3 epsilon に対する結合ドメインの
配列が変わった分子においても同等の細胞傷害活性を持つことが明らかとなった。
【0310】
〔実施例9〕EpCAM ERY17-2、EpCAM ERY17-3 の作製と検討
10 (1)EpCAM ERY17-2、EpCAM ERY17-3 の作製
次に、標的とする癌抗原が変わっても目的の活性を持つ分子の創製が試みられた。ERY17-2
の GPC3 に対する Fab を EpCAM に対する Fab に変えた EpCAM ERY17-2(図19A)と、GPC3
ERY17-3 の GPC3 に対する Fab を EpCAM に対する Fab に変えた EpCAM ERY17-3(図19B)が
それぞれ作製された。すなわち、EpCAM 抗体の発現ベクターが鋳型として用いられ、上記した
15 方法と同様の適切な配列を付加したプライマーを用いた PCR 法等の当業者において公知の方法
により、EpCAM ERY17_Hk(配列番号:79、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成
熟配列には含まれない)、EpCAM ERY17_L(配列番号:80、シグナル配列であるアミノ末端1
9アミノ酸は成熟配列には含まれない)をそれぞれコードするポリヌクレオチドが挿入された
一連の発現ベクターが作製された。
20 【0311】
以下に示す組み合わせの発現ベクターが FreeStyle293-F 細胞に導入され、各目的分子を一
過性に発現させた。
【0312】
R.目的分子:EpCAM ERY17-2
発現ベクターに挿入されたポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチド:
EpCAMERY17_Hk(配列番号:79、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列に
は含まれない)、EpCAM ERY17_L(配列番号:80、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ
5 酸は成熟配列には含まれない)、ERY17-2_Hh、ERY17-2_L
【0313】
S.目的分子:EpCAM ERY17-3
発現ベクターに挿入されたポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチド:
EpCAMERY17_Hk、EpCAM ERY17_L、ERY17-3_Hh、ERY17-3_L
10 【0314】
(2)EpCAM ERY17-2、EpCAM ERY17-3 の精製
得られた培養上清が Anti FLAG M2 カラム(Sigma 社)に添加され、当該カラムの洗浄の後、
0.1 mg/mL FLAG ペプチド(Sigma 社)による溶出が実施された。目的分子を含む画分が
HisTrap HP カラム(GE Healthcare 社)に添加され、当該カラムの洗浄の後、イミダゾールの
15 濃度勾配による溶出が実施された。目的分子を含む画分が限外ろ過によって濃縮された後、当
該画分が Superdex 200 カラム(GE Healthcare 社)に添加され、溶出液の単量体画分のみを
回収することにより精製された各目的分子が得られた。
【0315】
(3)EpCAM ERY17-2、EpCAM ERY17-3 の細胞傷害活性
20 EpCAM ERY17-2、EpCAM ERY17-3 の in vitro の細胞傷害活性を調べたところ、いずれの分子
においても強い細胞傷害活性が認められた(図23)。本発明において、癌抗原に対する IgG
を基本骨格とし、片側の Fab を CD3 epsilon に対する結合ドメインに置き換えた分子におい
て、癌抗原の種類を変えても細胞傷害活性を持つことが明らかとなった。
【0316】
25 〔実施例10〕CH1/CL 界面会合制御が導入された二重特異性抗体の作製と検討
(1)二重特異性抗体の設計
二重特異性抗体のそれぞれの CH1 と CL ドメインに変異を導入し、CH1/CL の界面の電荷的な
反発を利用し、CH1/CL の界面会合を制御することによって、GPC3 に対する H 鎖と L 鎖のみが
会合し、CD3 に対する H 鎖と L 鎖のみがそれぞれ特異的に会合させることが可能であると考え
られた。電荷的な反発を利用して CH1/CL 界面会合の制御を行うために、H 鎖の CH1、または L
5 鎖の CL 中のアミノ酸残基が、正電荷である Lys、または負電荷である Glu に置換された。
【0317】
(2)抗体遺伝子発現ベクターの作製と各抗体の発現
Anti-CD3 抗体である M12 (H 鎖、配列番号:81および L 鎖、配列番号:82)と、Anti-
GPC3 抗体である GC33(2)(H 鎖、配列番号:83および L 鎖、配列番号:84)に CH1/CL 界面
10 会 合 制 御 が 導 入 さ れ 、 さ ら に H 鎖 同 士 の 会 合 を 避 け る た め 、 Knob into Hole(KiH)
(WO1996/027011、Ridgway JB ら(Protein Engineering (1996) 9、617-621)、Merchant AM
ら (Nat. Biotechnol. (1998) 16、677-681))の改変が導入された二重特異性抗体が作製さ
れた(図 24A)。対照として、CH1/CL 界面会合制御も Knob into Hole(KiH)改変も導入されて
いない二重特異性抗体も作製された(図 24B)。具体的には、M12 の H 鎖(配列番号:81)の
15 CH1 の数アミノ酸が Lys に置換された M12_TH2h(配列番号:85)、L 鎖(配列番号:82)の CL
の数アミノ酸が Glu に置換された M12_TL17(配列番号:86)をそれぞれコードするポリヌク
レオチドが挿入された発現ベクターが当業者にとって公知の方法により作製された。同様に、
GC33(2)の H 鎖(配列番号:83)の CH1 の数アミノ酸が Glu に置換された GC33(2)_TH13k(配列
番号:87)、GC33(2)_TH15k(配列番号:88)、L 鎖(配列番号:84)の CL の数アミノ酸が
20 Lys に置換された GC33(2)_TL16(配列番号:89)、GC33(2)_TL19(配列番号:90)をそれぞ
れコードするポリヌクレオチドが挿入された発現ベクターが当業者にとって公知の方法により
作製された。
【0318】
以下に示す配列をコードする発現ベクターの組み合わせが FreeStyle293-F 細胞に導入され、
25 各目的分子を一過性に発現させた。
【0319】
T.目的分子:GM1
発 現 ベ ク タ ー : M12_TH2h( 配 列 番 号 : 8 5 ) 、 M12_TL17( 配 列 番 号 : 8 6 ) 、
GC33(2)_TH13k(配列番号:87)、及び GC33(2)_TL16(配列番号:89)
【0320】
5 U.目的分子:GM2
発 現 ベ ク タ ー : M12_TH2h( 配 列 番 号 : 8 5 ) 、 M12_TL17( 配 列 番 号 : 8 6 ) 、
GC33(2)_TH15k(配列番号:88)、及び GC33(2)_TL19(配列番号:90)
【0321】
V.目的分子:GM0
10 発現ベクター:M12 の H 鎖(配列番号:81)、M12 の L 鎖(配列番号:82)、GC33(2) の H
鎖(配列番号:83)、及び GC33(2) の L 鎖(配列番号:84)
【0322】
得られた培養上清から、rProtein A SepharoseTM Fast Flow(GE Healthcare 社)を用いた
当業者公知の方法で、抗体が精製された。
15 【0323】
(3)GM1、GM2、GM0 細胞傷害活性
GM1、GM2、GM0 の各ポリペプチド会合体の in vitro の細胞傷害活性を調べたところ、GM1 お
よび GM2 は同等の細胞傷害活性を示すことが認められ、またその活性は明らかに GM0 の活性を
上回る細胞傷害活性であった(図25)。本発明において、CH1/CL 界面制御の導入と KiH の改
20 変を組み合わせることによって効率よく二重特異性抗体が作製されることが明らかとなった。
【0324】
〔実施例11〕EGFR ERY17-2 の作製と検討
(1)EGFR ERY17-2 の作製
さらに他の癌抗原を標的とした目的の活性を持つ分子の創製が試みられた。GPC3 ERY17-2
25 の GPC3 に対する Fab を EGFR に対する Fab に変えた EGFR ERY17-2(図19A)が作製された。
すなわち、EGFR 抗体の発現ベクターが鋳型として用いられ、上記した方法と同様の適切な配
列 を 付 加 し た プ ラ イ マ ー を 用 い た PCR 法 等 の 当 業 者 に お い て 公 知 の 方 法 に よ り 、 EGFR
ERY17_Hk(配列番号:91、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含
まれない)、EGFR ERY17_L(配列番号:92、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は
成熟配列には含まれない)をそれぞれコードするポリヌクレオチドが挿入された一連の発現ベ
5 クターが作製された。
【0325】
以下に示す組み合わせの発現ベクターが FreeStyle293-F 細胞に導入され、各目的分子を一
過性に発現させた。
【0326】
10 W.目的分子:EGFR ERY17-2
発 現 ベ ク タ ー に 挿 入 さ れ た ポ リ ヌ ク レ オ チ ド に よ り コ ー ド さ れ る ポ リ ペ プ チ ド : EGFR
ERY17_Hk(配列番号:91、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含
まれない)、EGFR ERY17_L(配列番号:92、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は
成熟配列には含まれない)、ERY17-2_Hh、ERY17-2_L
15 【0327】
(2)EGFR ERY17-2 の精製
得られた培養上清が Anti FLAG M2 カラム(Sigma 社)に添加され、当該カラムの洗浄の後、
0.1 mg/mL FLAG ペプチド(Sigma 社)による溶出が実施された。目的分子を含む画分が
HisTrap HP カラム(GE Healthcare 社)に添加され、当該カラムの洗浄の後、イミダゾールの
20 濃度勾配による溶出が実施された。目的分子を含む画分が限外ろ過によって濃縮された後、当
該画分が Superdex 200 カラム(GE Healthcare 社)に添加され、溶出液の単量体画分のみを
回収することにより精製された各目的分子が得られた。
【0328】
(3)EGFR ERY17-2 の細胞傷害活性
25 EGFR ERY17-2 の in vitro の細胞傷害活性を調べたところ、強い細胞傷害活性が認められた
(図26)。本発明において、癌抗原に対する IgG を基本骨格とし、片側の Fab を CD3 epsilon
に対する結合ドメインに置き換えた分子において、GPC3、EpCAM のみならず、癌抗原の種類を
さらに変えても細胞傷害活性を持つことが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0329】
5 本発明によって、BiTE が持つ強い抗腫瘍活性と、癌抗原非依存的にサイトカインストーム
などを誘導しないという安全性上の優れた性質が維持され、かつ長い血中半減期を持つ新たな
ポリペプチド会合体が提供された。本発明のポリペプチド会合体における抗原結合ドメインを
置換することにより、当該ポリペプチド会合体を有効成分として含む細胞傷害誘導治療剤が癌
細胞を含む様々な細胞を標的として細胞傷害をもたらし、様々な癌を治療又は予防することが
10 できる。患者にとっても、安全性が高いばかりでなく、身体的負担が少なく利便性も高いとい
う、望ましい治療ができるようになる。
【図1】
15 【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
5 【図8】
【図9】
【図10】
5 【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図16】
【図17】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
別紙3
甲第2号証の記載事項(抜粋)
【発明の名称】低下したエフェクタ機能を有する安定化Fcポリペプチドおよび使用方法
【特許請求の範囲】
【請求項5】
IgG1抗体のFc領域からのCH2部分を含む安定化ポリペプチドであって、299Kお
よび297D(EU付番慣例)からなる群から選択される1つまたはそれ以上のアミノ酸位置
10 に、1つまたはそれ以上の安定化アミノ酸を含む、安定化ポリペプチド。
【請求項9】
IgG抗体は、ヒト抗体である、請求項1~8のいずれか1項に記載の安定化ポリペプチ
ド。
【請求項18】
15 前記安定化ポリペプチドは、前記安定化変異を欠く親Fcポリペプチドと比較して、低下し
たエフェクタ機能を有する、請求項1~17のいずれか1項に記載の安定化ポリペプチド。
【請求項20】
前記低下したエフェクタ機能は、FcγRI、FcγRII、およびFcγRIIIからな
る群から選択されるFc受容体(FcR)への低下した結合である、請求項18の記載の安定
20 化ポリペプチド。
【請求項39】
前記Fc領域は、結合部位と機能的に結合する、請求項1~38のいずれか1項に記載の安
定化ポリペプチド。
【請求項40】
25 前記結合部位は、抗原結合部位、受容体のリガンド結合部分、またはリガンドの受容体結合
部分から選択される、請求項39に記載の安定化ポリペプチド。
【請求項41】
前記結合部位は、scFv、Fab、ミニボディ、ジアボディ、トリアボディ、ナノボ
ディ、カメリド抗体、およびDabからなる群から選択される修飾抗体に由来する、請求項3
9に記載の安定化ポリペプチド。
5 【請求項42】
安定化完全長抗体である、請求項39に記載の安定化ポリペプチド。
【背景技術】
【0002】
10 獲得免疫反応は、体に侵入し、感染または疾病をもたらす外来の生物に対して、体が自らを
防御する機構である。1つの機構は、宿主の可変領域を通して抗原に結合するために、産生さ
れる、または宿主に投与される、抗体の能力に基づく。抗原が抗体によって結合されると、こ
の抗原は、抗体の定常領域またはFc領域によって、しばしば、少なくとも部分的に媒介さ
れ、破壊の標的となる。
15 【0003】
抗体のFc領域によって媒介される幾つかのエフェクタ機能または活性がある。あるエフェ
クタ機能は、補体依存性細胞傷害(CDC)と称されるプロセスにおいて、標的抗原、例え
ば、細胞病原体を溶解することを補助し得る、補体タンパク質に結合する能力である。Fc領
域の別のエフェクタ活性は、免疫細胞、またはいわゆるエフェクタ細胞の表面上でFc受容体
20 (例えば、FcγR)に結合することであり、これは、他の免疫効果を誘発する能力を有す
る。これらの免疫効果(例えば、抗体依存性細胞毒性(ADCC)および抗体依存性細胞食作
用(ADCP))は、例えば、免疫活性物質の放出、抗体産生の調節、エンドサイトーシス、
食菌作用、および細胞の死滅によって、病原体/抗原の除去に作用する。幾つかの臨床上の適
用において、これらの応答は、抗体の効力にとって重要であるが、他の場合において、これら
25 は、望まれない副作用を引き起こす。エフェクタによって媒介された副作用の1つの例は、急
性発熱反応をもたらす炎症サイトカインの放出である。別の例は、抗原保有細胞の長期欠失で
ある。
【0004】
抗体のエフェクタ機能は、Fc領域(例えば、Fab、F(ab′)2、または一本鎖Fv
(scFv))を欠く抗体断片を使用することにより避けられ得る。しかしながら、これらの
5 断片は、腎臓を通る迅速なクリアランスにより減少した半減期を有し、FabおよびscFv
の場合、断片は、2つではなく1つのみの抗原結合部位を有し、結合親和力によるいかなる利
点も損なう可能性があり、また、製造における課題を提示し得る。
【0005】
代替のアプローチは、Fc領域の他の価値のある特質(例えば、長期にわたる半減期および
10 ヘテロ二量化)を保持しながら、完全長抗体のエフェクタ機能を減少させることを目標として
いる。エフェクタ機能を減少させる1つのアプローチは、Fc領域の特定の残基に結合される
糖を除去することによって、いわゆる非グリコシル化抗体を生成することである。非グリコシ
ル化抗体は、例えば、その糖が付着している残基を除去するか、もしくは変更することによっ
てか、酵素的にその糖を除去することによってか、グリコシル化阻害剤の存在下で培養された
15 細胞中に抗体を産生することによってか、あるいはタンパク質をグリコシル化できない細胞
(例えば、細菌性宿主細胞)中で抗体を発現することによって、生成することができる。別の
アプローチは、IgG1の代わりにIgG4抗体からのFc領域を利用することである。Ig
G4抗体が、IgG1よりも低いレベルの補体活性化および抗体依存性細胞毒性を有すること
によって特徴付けられることは、公知である。
20 【0006】
これらの代替アプローチの利点にもかかわらず、抗体のFc領域からのオリゴ糖の除去は、
その構造および安定性において顕著な悪影響を及ぼすことが、現在、十分に確立されている。
さらに、IgG4のCH3ドメインが、IgG1のCH3ドメインに対して同程度の安定性を
欠いているため、IgG4抗体は、一般的に、より低い安定性を有する。いかなる場合でも、
25 抗体安定性の損失または低下は、抗体薬物の開発に悪影響を及ぼすプロセス開発課題を提示し
得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、変更された、もしくは低下したエフェクタ機能、および改善された安定性を有
5 する、改善された抗体および他のFc含有ポリペプチド、ならびにこれらの分子を作製する方
法の必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(発明の概要)
10 本発明は、Fc領域の安定性を強化するための改善された方法を提供することによって、先
行技術の「エフェクタ無し」抗体の問題、実に、いかなる「エフェクタ無し」Fc含有抗体の
問題をも解決する。例えば、本発明は、安定性を操作したFcポリペプチド、例えば、安定化
IgG抗体または他のFc含有結合分子を提供し、これは、ポリペプチドのFc領域内におけ
る、安定化アミノ酸を含む。一実施形態においては、本発明は、Fc領域の向上した安定性を
15 もたらす親FcポリペプチドのFc領域内における、特定のアミノ酸残基位置で、変異体を導
入するための方法を提供する。好ましくは、該安定化Fcポリペプチドは、(1つまたは複数
の安定化アミノ酸を含まないポリペプチドと比較して)変化した、あるいは低下したエフェク
タ機能を有し、親Fcポリペプチドと比較して、強化された安定性を示す。
【0034】
20 別の実施形態においては、該低下したエフェクタ機能は、FcγRI、FcγRII、およ
びFcγRIIIからなる群から選択されるFc受容体(FcR)への低下した結合である。
【図面の簡単な説明】
【0115】
【図1】 典型的な抗原結合ポリペプチド(IgG抗体)の構造、ならびに抗体の抗原結合お
25 よびエフェクタ機能(例えば、Fc受容体(FcR)結合)の機能的特性を示す。また、いか
に抗体のCH2ドメインにおける糖(グリコシル化)の存在がエフェクタ機能(FcR結合)
を変化させるが、抗原結合に影響を及ぼさないことも示す。
【発明を実施するための形態】
【0128】
本明細書において使用される「Fc領域」という用語は、抗体重鎖の2つまたはそれ以上の
5 Fc部分によって形成される免疫グロブリンの一部として定義される。ある実施形態において
は、該Fc領域は、二量体Fc領域である。「二量体Fc領域」または「dcFc」とは、2
つの別々の免疫グロブリン重鎖のFc部分によって形成される二量体を指す。二量体Fc領域
は、2つの同一のFc部分(例えば、天然に存在する免疫グロブリンのFc領域)のホモ二量
体、または2つの非同一のFc部分のヘテロ二量体であり得る。他の実施形態においては、該
10 Fc領域は、単量体または「一本鎖」Fc領域(すなわち、scFc領域)である。一本鎖F
c領域は、単一のポリペプチド鎖(すなわち、単一の隣接遺伝子配列においてコードされる)
内において、遺伝的に連鎖しているFc部分から構成される。例示的なscFc領域は、20
08年5月14日出願のPCT出願第PCT/US2008/006260号に開示されてお
り、この内容は、参照することにより、本明細書に組み込まれる。
15 【0205】
(II)親Fcポリペプチド
多様Fcポリペプチドは、当技術分野で周知である、親または出発Fcポリペプチドに由来
し得る。好ましい実施形態においては、親Fcポリペプチドは、抗体として、そして好ましく
は、例えば、サブタイプIgG1、IgG2、IgG3、もしくはIgG4のIgG免疫グロ
20 ブリン、そして好ましくはサブタイプIgG1もしくはIgG4のIgG免疫グロブリンであ
る。親Fcポリペプチドは、免疫グロブリンに由来するFc領域を含むが、任意に、Fc領域
に機能的に結合させるか、または融合される結合部位をさらに含み得る。好ましい実施形態に
おいては、前述のポリペプチドは、リガンド、サイトカイン、受容体、細胞表面抗原、または
癌細胞抗原等の抗原に結合する。本明細書の実施例は、IgG抗体を使用するが、本方法は、
25 いかなるFcポリペプチド内のFc領域に同等に適用され得ることを理解されよう。Fcポリ
ペプチドが抗体である場合、抗体は、合成されるか、(例えば、血清に)天然に由来するか、
細胞株(例えば、ハイブリドーマ)によって産生されるか、または遺伝子導入生物において産
生され得る。
【0207】
ある実施形態においては、本発明のポリペプチドは、同じ、または実質的に同じ配列組成の
5 Fc部分を含むFc領域(本明細書において「ホモマーFc領域」と称される)を含むことが
できる。他の実施形態においては、本発明のポリペプチドは、異なる配列組成である少なくと
も2つのFc部分を含むFc領域(すなわち、本明細書において「異種Fc領域」と称され
る)を含むことができる。ある実施形態においては、本発明の結合ポリペプチドは、少なくと
も1つの挿入またはアミノ酸置換を含むFc領域を含む。1つの例示的な実施形態において
10 は、異種Fc領域は、第1のFc部分においてアミノ酸置換を含むが、第2のFc部分には含
まない。
【0208】
一実施形態においては、本発明の結合ポリペプチドは、本明細書に記載されるFc部分から
独立して選択されるその構成Fc部分の2つまたそれ以上を有するFc領域を含むことができ
15 る。一実施形態においては、Fc部分は同じである。別の実施形態においては、Fc部分の少
なくとも2つは、異なる。例えば、本発明のFcポリペプチドのFc部分は、同じ数のアミノ
酸残基を含むか、またはそれらは、1つまたはそれ以上のアミノ酸残基(例えば、約5つのア
ミノ酸残基(例えば、1つ、2つ、3つ、4つ、または5つのアミノ酸残基)、約10の残
基、約15の残基、約20の残基、約30の残基、約40の残基、または約50の残基)の長
20 さにおいて異なり得る。さらに他の実施形態においては、Fc部分は、1つまたはそれ以上の
アミノ酸位置において、配列が異なり得る。例えば、Fc部分の少なくとも2つは、約5のア
ミノ酸位置(例えば、1つ、2つ、3つ、4つ、または5つのアミノ酸部分)、約10の位
置、約15の位置、約20の位置、約30の位置、約40の位置、または約50の位置)で異
なり得る。
25 【0221】
ある実施形態においては、親Fcポリペプチドは、1を超えるアミノ酸置換を含む。親Fc
ポリペプチドは、例えば、野生型Fc領域と比較して、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7
つ、8つ、9つ、10、またはそれ以上のアミノ酸置換を含むことができる。好ましくは、ア
ミノ酸置換は、少なくとも1アミノ酸部分、またはそれ以上、例えば、少なくとも2つ、3
つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、10、またはそれ以上のアミノ酸位置、またはそ
5 れ以上の間隔で互いに空間的に位置する。より好ましくは、操作アミノ酸は、少なくとも5、
10、15、20、または25のアミノ酸位置、またはそれ以上の間隔で互いに離れて空間的
に位置する。
【0222】
ある実施形態においては、置換は、野生型Fc部分を含むFc領域によって与えられた少な
10 くとも1つのエフェクタ機能の変化(例えば、Fc受容体(例えば、FcγRI、FcγRI
I、もしくはFcγRIII)、または補体タンパク質(例えば、C1q)に結合する、また
は抗体依存性細胞毒性(ADCC)、食作用、もしくは補体依存性細胞毒性(CDC)を誘引
するFc領域の能力の低下)を与える。
【0223】
15 親Fcポリペプチドは、エフェクタ機能の変化を与えることが周知の当技術分野において承
認されている置換を使用することができる。具体的に、本発明の親Fcポリペプチドは、例え
ば、国際公開第WO88/07089A1号、同第WO96/14339A1号、同第WO9
8/05787A1号、同第WO98/23289A1号、同第WO99/51642A1
号、同第WO99/58572A1号、同第WO00/09560A2号、同第WO00/3
20 2767A1号、同第WO00/42072A2号、同第WO02/44215A2号、同第
WO02/060919A2号、同第WO03/074569A2号、同第WO04/016
750A2号、同第WO04/029207A2号、同第WO04/035752A2号、同
第WO04/063351A2号、同第WO04/074455A2号、同第WO04/09
9249A2号、同第WO05/040217A2号、同第WO04/044859号、同第
25 WO05/070963A1号、同第WO05/077981A2号、同第WO05/092
925A2号、同第WO05/123780A2号、同第WO06/019447A1号、同
第WO06/047350A2号、および同第WO06/085967A2号、米国特許公開
第US2007/0231329号、同第US2007/0231329号、同第US200
7/0237765号、同第US2007/0237766号、同第US2007/0237
767号、同第US2007/0243188号、同第US20070248603号、同第
5 US20070286859号、同第US20080057056、または米国特許第5,6
48,260号、同第5,739,277号、同第5,834,250号、同第5,869,
046号、同第6,096,871号、同第6,121,022号、同第6,194,551
号、同第6,242,195号、同第6,277,375号、同第6,528,624号、同
第6,538,124号、同第6,737,056号、同第6,821,505号、同第6,
10 998,253号、同第7,083,784号、および同第7,317,091号において開
示されるアミノ酸位置の1つまたはそれ以上の変化(例えば、置換)を含むことができ、Fc
変異に関係があるそれぞれの部分は、参照することにより、本明細書に組み込まれる。一実施
形態においては、特定の変化(例えば、当技術分野において開示される1つまたはそれ以上の
アミノ酸の特定の置換)は、開示されるアミノ酸位置の1つまたはそれ以上で行われる場合が
15 ある。別の実施形態においては、開示されるアミノ酸位置の1つまたはそれ以上における異な
る変化(例えば、当技術分野において開示される1つまたはそれ以上のアミノ酸部分の異なる
置換)が行われる場合がある。
【0229】
B.エフェクタ無しFcポリペプチド
20 ある実施形態においては、親Fcポリペプチドは、変化したまたは低下したエフェクタ機能
を有する「エフェクタ無し」Fcポリペプチドである。好ましくは、低下した、または変化し
たエフェクタ機能は、抗原依存性エフェクタ機能である。例えば、親Fcポリペプチドは、例
えば、野生型Fcポリペプチドと比較して、ポリペプチドの抗原依存性エフェクタ機能、特
に、ADCCまたは補体活性化を低下させる配列変異(例えば、アミノ酸置換)を含むことが
25 できる。残念なことに、そのような親Fcポリペプチドは、しばしば、本発明の方法に従って
安定化に対して理想的な候補にする低下した安定性を有する。
【0230】
低下したFcγR結合親和性を有するFcポリペプチドは、エフェクタ機能を低下させるこ
とが見込まれ、そのような分子も、標的細胞破壊が望ましくない状態、例えば、正常細胞が標
的分子を発現する場合、またはポリペプチドの慢性投与によって好ましくない免疫系活性化が
5 引き起こされる可能性がある場合の治療に有用である。一実施形態においては、Fcポリペプ
チドは、野生型Fc領域を含むFcポリペプチドと比較して、オプソニン化、食作用、補体依
存性細胞毒性、抗体依存性細胞毒性(ADCC)、またはエフェクタ細胞改変からなる群から
選択される少なくとも1つの抗原依存性エフェクタ機能の低下を示す。一実施形態において
は、Fcポリペプチドは、FcγR(例えば、FcγRI、FcγRIIa、またはFcγR
10 IIIa)への変化した結合を示す。別の実施形態においては、Fcポリペプチドは、阻害性
FcγR(例えば、FcγRIIb)への変化した結合親和性を示す。他の実施形態において
は、低下したFcγR結合親和性を有するFcポリペプチド(例えば、低下したFcγRI、
FcγRIIa、またはFcγRIIIa結合親和性)は、以下の位置の1つまたはそれ以上
に対応するアミノ酸位置にアミノ酸置換を有する少なくとも1つのFc部分(例えば、1つま
15 たは2つのFc部分)を含む。234、236、239、241、251、252、261、
265、268、293、294、296、298、299、301、326、328、33
2、334、338、376、378、および435(EU付番)。他の実施形態において
は、低下した補体結合親和性(例えば、低下したC1q結合親和性)を有するFcポリペプチ
ドは、以下の位置の1つまたはそれ以上に対応するアミノ酸位置にアミノ酸置換を有するFc
20 部分(例えば、1つまたは2つのFc部分)を含む。239、294、296、301、32
8、333、および376(EU付番)。FcγRまたは補体結合活性を変化させた例示的な
アミノ酸置換は、国際公開第WO05/063815号に開示され、この内容は、参照するこ
とにより、本明細書に組み込まれる。ある好ましい実施形態においては、本発明の結合ポリペ
プチドは、以下の特定の置換の1つまたはそれ以上を含むことができる。S239D、S23
25 9E、M252T、H268D、H268E、I332D、I332E、N434A、および
N434K(すなわち、抗体Fc領域におけるこれらのEU付番位置の1つまたはそれ以上に
対応するアミノ酸位置にあるこれらの置換の1つまたはそれ以上)。
【0231】
ある例示的な実施形態においては、親「エフェクタ無し」ポリペプチドのエフェクタ機能
は、親Fcポリペプチド内の非グリコシル化されたFc領域により変化または低下させること
5 ができる。ある実施形態においては、非グリコシル化Fc領域は、Fc領域のグリコシル化を
変化させるアミノ酸置換によって生成される。例えば、Fc領域内のEU位置297のアスパ
ラギンは、そのグリコシル化を阻害するために、(例えば、置換、挿入、欠失によって、また
は化学修飾によって)変化させることができる。別の例示的な実施形態においては、EU位置
299のアミノ酸残基(例えば、トレオニン(T))を、(例えば、アラニン(A))で置換
10 し、隣接する残基297のグリコシル化を低下させる。グリコシル化を低下するまたは変化さ
せる例示的なアミノ酸置換は、国際公開第WO05/018572号および米国特許公開第2
007/0111281号に開示され、この内容は、参照することにより、本明細書に組み込
まれる。他の実施形態においては、非グリコシル化Fc領域は、Fc領域をグリコシル化する
ことができない宿主細胞(例えば、減少したグリコシル化機構を有する細菌性宿主細胞または
15 哺乳類宿主細胞)における、オリゴ糖の酵素的もしくは化学的除去、またはFcポリペプチド
の発現によって生成される。
【0269】
・・・
(IV).変異体Fcポリペプチドを安定化させるための方法
20 ある態様においては、本発明は、Fc領域(例えば、非グリコシル化Fc領域)を含むポリ
ペプチドを安定化させる方法に関連し、該方法には、(a)変異のために出発Fc領域の少な
くとも1つのFc部分内において、1つまたはそれ以上のアミノ酸位置を選択することと、
(b)変異のために選択された1つまたはそれ以上のアミノ酸位置を変異させ、それによっ
て、ポリペプチドを安定化することと、を含む。
25 【0270】
一実施形態においては、該出発Fc領域は、IgG1Fc領域である。別の実施形態におい
ては、出発Fc領域は、IgG4 Fc領域である。別の実施形態においては、出発Fc領域
は、キメラFc領域である。一実施形態においては、該出発Fc領域は、非グリコシル化Ig
G1 Fc領域である。別の実施形態においては、該出発Fc領域は、非グリコシル化IgG
4 Fc領域である。
5 【0271】
一実施形態においては、変異のために選択されたアミノ酸位置は、出発IgG分子(例え
ば、IgG4分子)のFc領域において、延長したループ内にある。別の実施形態において
は、変異のために選択されたアミノ酸位置は、CH3ドメイン間のインターフェイスに存在す
る。別の実施形態においては、変異のために選択されたアミノ酸位置は、1hzh結晶構造中
10 の炭水化物(例えば、V264、R292、またはV303)を有する接触部位付近である。
他の実施形態においては、アミノ酸位置は、CH3/CH2のインターフェイス付近、または
CH3/CH2のインターフェイス付近(例えば、H310)であり得る。別の実施形態にお
いては、例えば、1組の表面が露出したグルタミン残基(Q268、Q274、またはQ35
5)のうちの1つまたはそれ以上の、Fc領域の全表面電荷を変化させる1つまたはそれ以上
15 の変異がなされ得る。別の実施形態においては、アミノ酸位置は、CH2およびCH3の「バ
リン中心」に見出されるバリン残基である。CH2の「バリン中心」は、5つのバリン残基
(V240、V255、V263、V302、およびV323)であり、全ては、CH2ドメ
インの同じ近接した内部の中心に方向付けられる。同様の「バリン中心」は、CH3(V34
8、V369、V379、V397、V412、およびV427)において観察される。別の
20 実施形態においては、変異のために選択されるアミノ酸位置は、アミノ酸297のN結合型炭
水化物と相互作用するか、接触することが予測される位置にある。そのようなアミノ酸位置
は、同族Fc受容体(例えば、FcγRIIIa)に結合されるFc領域の結晶構造の検査を
行うことによって特定することができる。N297との相互作用を形成する例示的なアミノ酸
は、残基262~270によって形成されるループを含む。
25 【0272】
例示的なアミノ酸位置は、EU付番慣例によるアミノ酸位置240、255、262~26
6、267~271、292~299、302~309、379、397~399、409、
412、および427を含む。ある実施形態においては、変異のために選択される1つまたは
それ以上のアミノ酸位置は、240、255、262、263、264、266、268、2
74、292、299、302、303、307、309、323、348、355、36
5 9、379、397、399、409、412、および427からなる群から選択される1つ
またはそれ以上のアミノ酸位置である。ある実施形態においては、変異のために選択される1
つまたはそれ以上のアミノ酸位置は、240、262、264、266、297、299、3
07、309、399、409、および427からなる群から選択される1つまたはそれ以上
のアミノ酸位置である。別の実施形態においては、1つまたはそれ以上のアミノ酸位置は、2
10 97、299、307、309、409、および427からなる群から選択される1つまたは
それ以上のアミノ酸位置である。別の実施形態においては、1つまたはそれ以上のアミノ酸位
置は、アミノ酸残基240、262、264、および266から選択される。別の実施形態に
おいては、アミノ酸位置のうちの少なくとも1つは、EU位置297にある。別の実施形態に
おいては、アミノ酸位置のうちの少なくとも1つは、EU位置299にある。別の実施形態に
15 おいては、アミノ酸位置のうちの少なくとも1つは、EU位置307にある。別の実施形態に
おいては、アミノ酸位置のうちの少なくとも1つは、EU位置309にある。別の実施形態に
おいては、アミノ酸位置のうちの少なくとも1つは、EU位置399にある。別の実施形態に
おいては、アミノ酸位置のうちの少なくとも1つは、EU位置409にある。別の実施形態に
おいては、アミノ酸位置のうちの少なくとも1つは、EU位置427にある。
20 【0273】
ある実施形態においては、該Fc領域は、IgG1 Fc領域である。ある実施形態におい
ては、該Fc領域は、IgG1 Fc領域であり、1つまたはそれ以上のアミノ酸位置は、ア
ミノ酸残基240、262、264、299、297、および266から選択される。他の実
施形態においては、該Fc領域は、IgG4 Fc領域であり、1つまたはそれ以上のアミノ
25 酸位置は、アミノ酸残基297、299、307、309、399、409、および427か
ら選択される。
【0274】
一実施形態においては、変異は、アミノ酸位置(例えば、アラニン(A)、セリン(S)、ま
たはトレオニン(T)による置換)のアミノ酸側鎖の大きさを減少させる。別の実施形態にお
いては、変異は、非極性側鎖を有するアミノ酸による置換(例えば、グリシン(G)、アラニ
5 ン(A)、バリン(V)、ロイシン(L)、イソロイシン(I)、メチオニン(M)、プロリン
(P)、フェニルアラニン(F)、およびトリプトファン(W)による置換)である。別の実施
形態においては、変異は、例えば、2つの相互作用するドメイン(例えば、Y349F、T3
50V、およびT394V)間の関連性を増加する、またはインターフェイスの側鎖(例え
ば、F405Y)の容積を増加するために、CH3インターフェイスへの疎水性を付加する。
10 別の実施形態においては、「バリン中心」の1つまたはそれ以上のアミノ酸は、それらの安定
性を増加させるために、イソロイシンまたはフェニルアラニンで置換される。別の実施形態に
おいては、アミノ酸(例えば、L351および/またはL368)は、高分枝状の疎水性側鎖
に変異させる。
【0275】
15 一実施形態においては、変異は、アラニン(A)による置換である。一実施形態において
は、変異は、フェニルアラニン(F)による置換である。別の実施形態においては、変異は、
ロイシン(L)による置換である。一実施形態においては、変異は、トレオニン(T)による
置換である。別の実施形態においては、変異は、リシン(K)による置換である。一実施形態
においては、変異は、プロリン(P)による置換である。一実施形態においては、変異は、
20 フェニルアラニン(F)による置換である。
【0390】
III. 多特異性結合ポリペプチドs
ある特定の態様においては、本発明の結合ポリペプチドは、多特異性であり、すなわち、分
子の第1の分子またはエピトープに結合する少なくとも1つの結合部位、および第2の分子ま
25 たは第1の分子の第2のエピトープに結合する少なくとも1つの第2の結合部位を有する。本
発明の多特異性結合分子は、少なくとも2つの結合部位を含むことができ、結合部位の少なく
とも1つは、上述の結合分子の1つからの結合部位に由来するか、またはそれを含む。ある実
施形態においては、本発明の多特異性結合分子の少なくとも1つの結合部位は、抗体の抗原結
合領域、またはその抗原結合断片(例えば、上述の抗体または抗原結合断片)である。
【0391】
5 (a)二重特異性分子
一実施形態においては、本発明の結合ポリペプチドは、二重特異性である。二重特異性結合
ポリペプチドは、例えば、同じ標的分子または異なる標的分子上の2つの異なる標的部位に結
合することができる。例えば、本発明の結合ポリペプチドの場合、その二重特異性変異体は、
例えば、同じ抗原または2つの異なる抗原上の2つの異なるエピトープに結合することができ
10 る。二重特異性結合ポリペプチドは、例えば、診断的および治療的用途において使用すること
ができる。例えば、それらは、免疫アッセイにおける使用で酵素を固定するために使用するこ
とができる。それらは、例えば、腫瘍関連分子および検出可能なマーカー(例えば、放射性核
種に強固に結合するキレート剤)の両方に結合することによって、癌の診断および治療におい
ても使用することができる。二重特異性結合ポリペプチドは、例えば、細胞毒性を特定の標的
15 へ誘導することによって(例えば、病原体または腫瘍細胞、およびT細胞受容体またはFcγ
受容体等の細胞毒性誘引分子に結合することによって)、ヒトの治療のために使用することも
できる。二重特異性結合ポリペプチドは、例えば、線維素溶解剤またはワクチンアジュバント
として使用することもできる。
【0392】
20 二重特異性結合ポリペプチドの例には、異なる腫瘍細胞抗原に対する少なくとも2つのアー
ムを有する二重特異性結合ポリペプチド、腫瘍細胞抗原に対する少なくとも1つのアーム、お
よび細胞毒性誘引分子に対する少なくとも1つのアームを有する二重特異性の変化した結合タ
ンパク質(抗Fc.ガンマ.RI/抗CD15、抗p185.sup.HER2/Fc.ガン
マ.RIII(CD16)、抗CD3/抗悪性B細胞(1D10)、抗CD3/抗p185.s
25 up.HER2、抗CD3/抗p97、抗CD3/抗腎細胞癌、抗CD3/抗OVCAR-
3、抗CD3/L-D1(抗結腸癌)、抗CD3/抗メラニン細胞刺激ホルモン類似体、抗E
GF受容体/抗CD3、抗CD3/抗CAMA1、抗CD3/抗CD19、抗CD3/MoV
18、抗神経系細胞接着分子(NCAM)/抗CD3、抗葉酸結合タンパク質(FBP)/抗
CD3、抗膵臓癌関連抗原(AMOC-31)/抗CD3等)、腫瘍抗原に特異的に結合する
少なくとも1つのアーム、および毒素に結合する少なくとも1つのアームを有する二重特異性
5 結合ポリペプチド(抗サポリン/抗Id-1、抗CD22/抗サポリン、抗CD7/抗サポリ
ン、抗CD38/抗サポリン、抗CEA/抗リシンA鎖、抗インターフェロン-.アルファ.
(IFN-.アルファ.)/抗ハイブリドーマイディオタイプ、抗CEA/抗ビンカアルカロ
イド等)、酵素活性プロドラッグを変換するための二重特異性結合ポリペプチド(抗CD30
/抗アルカリホスファターゼ(マイトマイシンアルコールへのマイトマイシンリン酸塩プロド
10 ラッグの変換を触媒する)等)、線維素溶解剤として使用することができる二重特異性結合ポ
リペプチド(抗フィブリン/抗組織プラスミノゲン活性化因子(tPA)、抗フィブリン/抗
ウロキナーゼ型プラスミノゲン活性化因子(uPA)等)、細胞表面受容体への免疫複合体を
標的とするための二重特異性結合ポリペプチド(抗低比重リポタンパク質(LDL)/抗Fc
受容体(例えば、Fc.ガンマ.RI、Fc.ガンマ.RII、またはFc.ガンマ.RII
15 I)等)、感染病の治療において使用するための二重特異性結合ポリペプチド(抗CD3/抗
単純ヘルペスウイルス(HSV)、抗T細胞受容体:CD3複合体/抗インフルエンザ、抗F
c.ガンマ.R/抗HIV等)、インビトロまたはインビボにおける腫瘍検出のための二重特
異性結合ポリペプチド(抗CEA/抗EOTUBE、抗CEA/抗DPTA、抗p185HE
R2/抗ハプテン)、ワクチンアジュバントとしての二重特異性結合ポリペプチド(上述のF
20 angerらを参照)、および診断ツールとしての二重特異性結合ポリペプチド(抗ウサギI
gG/抗フェリチン、抗西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)/抗ホルモン、抗ソマトスタ
チン/拮抗物質P、抗HRP/抗FITC、抗CEA/抗.ベータ.-ガラクトシダーゼ(上
述のNolanらを参照)等)が含まれる。三重特異性ポリペプチドの例には、抗CD3/抗
CD4/抗CD37、抗CD3/抗CD5/抗CD37、および抗CD3/抗CD8/抗CD
25 37が含まれる。
【実施例】
【0476】
親抗体
本発明の安定化抗体を産生するために、モデルヒト抗体(例えば、hu5c8)、その変異
体抗体、あるいは対応するFc領域のいずれかをコードするポリヌクレオチドを、標準的な発
5 現ベクターに導入した。ヒト抗体hu5c8およびその変異型は、例えば、米国特許第5,4
74,771号および同第6,331,615号に記載されている。アミノ酸配列は、それぞ
れ、hu5c8 IgG4重鎖(配列番号37)、hu5c8軽鎖(配列番号38)、hu5c
8 Fab(配列番号39)、親IgG4抗体(配列番号40)からの完全Fc部分、S22
8P変異を有する親IgG4 Fc部分(配列番号41)、およびS228P/T299A変
10 異を有する親非グリコシル化IgG4 Fc部分(配列番号42)に対して、以下に提供され
る。重鎖に対するリーダー配列は、MDWTWRVFCLLAVAPGAHSであった。ま
た、親IgG1非グリコシル化されたhu5c8抗体の重鎖(配列番号43)およびFc部分
(配列番号44配列も提供される。
【0477】
15 ・・・
親IgG1(配列番号45)
EPKSCDKTHTCPPCPAPELLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRT
PEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNS
TYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAK
20 GQPREPQVYTLPPSRDELTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWE
SNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNVFS
CSVMHEALHNHYTQKSLSLSPG
・・・
【0485】
25 ・・・IgG4 CH3インターフェイスにおいて、アルギニンの追加容積をより良好に適合さ
せるために、反対のCH3ドメインからの接触残基D399:D399EおよびD399S
で、いくつかの変異を行った(図2A)。この位置でのより小さい側鎖を置換することによっ
て、反対のCH3ドメインは、アルギニンの追加容積をより良好に適合させ、CH3ドメイン
の全安定性を増加させ得る。・・・
【0502】
5 ・・・
実施例3.安定化IgG Fc抗体の産生
A.大腸菌における、安定化IgG Fc部分の変異生成、一時的発現、および精製
安定性変異を、Stratagene Quik-Change Lightning変異
生成キットを用いた部位特異的突然変異誘発法によって、実施例2に既に詳述されるBRM1
10 3構造体に組み込んだ。1つまたはそれ以上のC/G塩基中で開始し、終結する、少なくとも
40%GC含量の両側に10~15塩基の正しい配列を有する中央に変異を有する36~40
塩基長のプライマーを設計した。・・・
【0507】
B.CHO細胞における、安定化抗体の変異生成、一時的発現、抗体精製、および特性解析
15 安定性変異は、Stratagene Quik-Change Lightning変異
生成キットを用いた部位特異的突然変異誘発法によって、IgG4.P抗体(アミノ酸228
にプロリンヒンジ変異を既に含むVH構造体)に組み込まれた。Fabを認識する抗原は、抗
CD40抗体5c8からのものであった。1つまたはそれ以上のC/G塩基中で開始し、終結
する、少なくとも40%GC含量の両側に10~15塩基の正しい配列を有する中央に変異を
20 有する36~40塩基長のプライマーを設計した。全てのグリコシル化および非グリコシル化
された変異構造体を、表3.2に列記する。
【0508】
【表10-1】
【0509】
【表10-2】
変異を導入するプライマーを用いたPCR後、親プラスミドを完全に消化するために、3
7℃で5分間、DpnI制限酵素を加えて、各変異生成物を消化させた。次いで、変異生成反
応物を、XL10-Gold大腸菌超形質転換受容性細胞に形質転換した。アンピシリン耐性
5 コロニーをスクリーニングし、DNA塩基配列決定法を用いて、変異生成反応物からの正しい
配列を確認した。
【0541】
実施例6.安定性を操作したIgG Fc抗体のFc受容体結合
本発明の非グリコシル化された変異体抗体のエフェクタ機能を、Fc受容体またはC1q等
10 の補体分子に結合するそれらの能力によって特徴付けた。
【0542】
A.液相競合Biacore実験
Fcγ受容体への結合は、溶液親和性の表面プラズモン共鳴を用いて分析された(Day
ES,Cachero TG,Qian F,Sun Y,Wen D,Pelletier
M,Hsu YM,Whitty A.Selectivity of BAFF/BLyS
and APRIL for binding to the TNF family re
ceptors BAFFR/BR3 and BCMA.Biochemistry.20
05 Feb 15;44(6):1919-31を参照)。本方法は、リガンド結合(セン
5 サーチップに結合するタンパク質結合)の初期速度は、溶液中のリガンドの濃度に比例する、
いわゆる「物質移動限界」結合の条件を使用する(BIApplications Hand
book(1994)Chapter6:Concentration measureme
nt,pp6-1-6-10,Pharmacia Biosensor ABを参照)。こ
れらの条件下で、チップ上の固定化したタンパク質への可溶性検体(チップ表面上を流れるタ
10 ンパク質)の結合は、チップ表面上のデキストランマトリックスへの検体の拡散と比較して速
い。したがって、検体の拡散特性およびチップ表面上を流れる溶液中の検体の濃度は、検体が
チップに結合する速度を決定する。この実験においては、溶液中の遊離Fc受容体の濃度は、
固定化IgG1 MAbを含むCM5 Biacoreチップに結合する初期速度によって決
定される。これらのFc受容体溶液に、安定性を操作した構造体を滴定した(下の表6.1を
15 参照)。これらの構造体の半最大(50%)抑制濃度(IC50)は、センサーチップの表面
上に固定化した固定化IgG1抗体に結合することからFc受容体を抑制する能力によって示
された。初期結合速度は、センサーグラム生データから得られた(図5)。IC50を計算す
るために使用された滴定曲線をCD64(FcγRI)については図6AおよびCD16(F
cγRIIIa V158)については図6Bに示す。結果を表6.1に示し、2つの滴定の
20 平均として報告する。
【0543】
【表17】
CD64結合アッセイにおいては、IgG1対照抗体は、9.6μMのIC50を有した
が、IgG1T299A(agly)およびIgG4.PT299A(agly)は、それぞ
れ、205μMおよび739μMのIC50を有した。予想通りに、IgG1分子は、IgG
5 4分子よりもCD64に対してより大きな親和性を有し、非グリコシル化されたIgG1は、
グリコシル化されたIgG1と比較して低下した親和性を示した。安定性を操作したグリコシ
ル化されたIgG4.P分子(EC300およびEC326)は、440μMから5000μ
Mを超える範囲に及ぶ安定性を操作した非グリコシル化されたIgG4.P分子(EC331
およびYC400シリーズ)と比較して、約8μMのIC50値を有した。安定性を操作した
10 IgG4.Pグリコシル化された分子(EC300、EC326)に対するIC50は、グリ
コシル化されたIgG1対照と同等であり、T299A(YC401、YC403)を有する
安定性を操作した非グリコシル化されたIgG4.Pは、非グリコシル化されたIgG4.P
T299A対照と同等のIC50の対数を有した。しかしながら、T299Kを有する安定性
を操作した非グリコシル化されたIgG4.Pは、T299A置換を有する等価分子と比較し
て、親和性の1から2対数大きい低下を示した。図7A。また、この結果は、非グリコシル化
されたIgG1T299A対照と比較して、親和性の対数低下を示した安定性を操作した非グ
リコシル化されたIgG1T299K(CN578)についても観測された(図7B)。実
5 際、T299K置換は、非グリコシル化されたIgG4.PT299A対照よりもCD64に
対してより大きな親和性を有することから、非グリコシル化されたIgG4.P対照と比較し
て、非グリコシル化されたIgG1(T299K)に対して低下した親和性を有することへ
と、非グリコシル化されたIgG1(T299A)分子を転換する(図7B)。簡潔に言え
ば、T299K変異は、IgG1分子およびIgG4分子の両方において、CD64に対する
10 親和性を低下させる。
【0544】
CD16アッセイについては、IgG1対照は、105μMのIC50を有したが、非グリ
コシル化されたIgG4.P T299AおよびIgG1 T299Aは共に、1000μM
を超えるIC50値を有した。グリコシル化された安定性を操作したIgG4.P分子は、I
15 gG1対照に対して同等の対数IC50値を有し、全ての安定性を操作した非グリコシル化さ
れた分子(IgG4.PおよびIgG1の両方)は、1000μMを超えるIC50値を有し
た。T299Kが、CD16対する親和性をさらに低下したかどうかを調査するために、唯一
の差異(YC401、YC404、YC403、およびYC406)としてT299K置換を
有する2セットの構造体を高濃度の抗体(5μM)で試験した。結合曲線は、高濃度で、T2
20 99K変異によって生じるCD16に対する親和性の低下を示す(図8)。簡潔に言えば、T
299K変異は、IgG分子において、CD16に対する親和性を低下させる。
【0556】
・・・
実施例9.T299は、安定性およびエフェクタ機能の決定因子である。
25 【0557】
本項に記載されるタンパク質は全て、5c8抗体に由来し、特に示さない限り、IgG1抗
体のCH1、CH2、およびCH3ドメインを含む。実施例3に記載されるように、タンパク
質を産生し、精製した。CH2およびCH3ドメインの融解温度における変異の効果は、pH
6.0およびpH4.5で、DSCによって測定された(実施例4に詳述)。本発明の非グリ
コシル化された変異体抗体のエフェクタ機能は、Fc受容体またはC1q等の補体分子に結合
5 するそれらの能力によって特徴付けられた。Fcγ受容体への結合は、溶液親和性の表面プラ
ズモン共鳴を用いて分析され、補体因子C1qへの結合は、ELISAによって分析された
(実施例6)。
【0558】
IgG1 T299XおよびN297X/T299Kの非グリコシル化された構造体は、実
10 施例3に詳述されるように、1リットルの培養液当たり7から30mgの収量を有するCHO
において発現した(表9.1)。T299Kと組み合わせて位置N297における第2の変異
への添加により、1.5-4.4℃で、CH2ドメインの熱安定性は減少しなかった(表9.
2)。さらに、T299X変異は、Arg(T299R)およびLys(T299K)の正電
荷を持つ側鎖から最大の安定性の増加を示した(表9.2)。2つの極性側鎖のAsn(T2
15 99N)およびGln(T299Q)は共に、正電荷を持つ側鎖ほど大きくはないが、T29
9Aと比較して、より大きな安定性を示した。プロリン(T299P)は、T299Aと比較
して安定性のわずかな低下を示し、より大きな疎水性側鎖Phe(T299F)は、2.4℃
で、CH2ドメインの熱安定性を低下させた。最後に、負電荷を持つ側鎖Glu(T299
E)は、CH2の熱安定性に対してほとんど効果を及ぼさなかった。これらの結果は、CH2
20 ドメインにおける熱安定性を増加させるために、位置T299に正電荷を持つ側鎖を置換する
新規の特性を示す。
【0559】
N297X、T299K変異(CN645、CN646、およびCN647)は全て、CD
64に対する親和性を若干増加させたが、CD32aおよびCD16に対する非常に低い親和
25 性を維持することが観察される(図11B、11D、および11F)。T299X変異は、C
D16に対して一貫して低親和性を示したが、CD32aに対する低親和性は、T299Eの
場合には、増加した(表9.3および図11C、9E)。また、正電荷を持つ側鎖T299R
およびT299Kのみが、CD64に対して低親和性を与えることを示すことも興味深い(表
9.3および図11A)。最後に、T299K、T299P、およびT299Qは、C1q結
合の痕跡がなく、T299N、T299E、T299Fは、若干上昇したが、それでも非常に
5 低いC1qへの結合を示す(図11Gおよび11H)。N297P/T299K、N297D
/T299K、およびN297S/T299Kは、C1qへの結合を示さない(図11H)。
【0560】
【表19-1】
【0561】
【表19-2】
実施例10.安定化Fc構造体は、安定性変異の適用は、Fabから独立していることを示す
本項に記載されるタンパク質は、5c8抗体に由来する結合部位を含む。EAG2476構
5 造体は、IgG4免疫グロブリン分子からのFc部分を含み、EAG2478は、IgG1分
子からのFc部分を含む(EAG2476およびEAG2478は、それぞれ、YC406お
よびCN578構造体のFc版(Fabなし)である)。
【0562】
実施例3に記載されるように、タンパク質を産生し、精製した。CH2およびCH3ドメイ
10 ンの融解温度における変異の効果は、pH6.0で、DSCによって測定された(実施例4に
詳述)。本発明の非グリコシル化された変異抗体のエフェクタ機能を図12に示す。抗体は、
Fc受容体に結合するそれらの能力によって特徴付けられた。Fcγ受容体への結合は、溶液
親和性の表面プラズモン共鳴を用いて分析された(実施例6)。
【0563】
安定化Fc非グリコシル化された構造体は、実施例3に詳述されるようにCHOにおいて発
現され、収量は(表10.1)に詳述する。。CH2ドメイン(T299K、T307P、お
よびL309K)における変異は、Fabの存在または不在下で、同じ熱安定性を示し(表1
0.2)、ならびに、同じFcγ受容体結合親和性を有した(表10.3)。総合すれば、本発
5 明に詳述される安定化変異は、予想通りに、Fabから独立しており、Fabが貢献している
どうかにかかわらず、Fcドメインを安定化するのに適用可能である。
【0564】
【表20】
別紙4
甲第10号証の記載事項(抜粋)
【特許請求の範囲】
5 【請求項24】
図11で示されるHVR1-HC、HVR2-HCおよび/またはHVR3-HC配列(配
列番号35~37)を含む重鎖可変ドメインを含む抗体。
【請求項27】
図11で示されるHVR1-LC、HVR2-LCおよび/またはHVR3-LC配列(配
10 列番号26~28)を含む軽鎖可変ドメインを含む抗体。
【請求項33】
請求項24~26のいずれかに記載の重鎖可変ドメインおよび請求項27~29のいずれか
に記載の軽鎖可変ドメインを含む抗体。
【請求項193】
15 二重特異性抗体である請求項33記載の抗体。
【請求項194】
CD3に特異的に結合する請求項193記載の抗体。
【請求項195】
空洞への隆起(protuberance-into-cavity)抗体である請求項194記載の抗体。
20 【請求項196】
非グリコシル化される請求項195記載の抗体。
【請求項197】
大腸菌宿主細胞中で産生される請求項196記載の抗体。
【請求項198】
25 1つ以上のFcエフェクター機能を欠く請求項196記載の抗体。
【請求項199】
ADCC活性を欠く請求項198記載の抗体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0002】
5 本発明は、哺乳類における造血系腫瘍の治療に有用な物質の組成物に、ならびにそのための
物質の組成物の使用方法に関する。
【背景技術】
【0007】
癌療法のための有効な細胞性標的を発見しようと試みて、研究者等は、1つ以上の正常非癌
10 性細胞(単数または複数)と比較して、1つ以上の特定型(単数または複数)の癌細胞の表面
で特異的に発現される膜貫通または他の膜関連ポリペプチドを特定しようと努めてきた。しば
しば、このような膜関連ポリペプチドは、非癌性細胞の表面と比較して、癌細胞の表面で豊富
に発現される。このような腫瘍関連細胞表面抗原ポリペプチドの特定は、抗体ベースの療法に
よる破壊のために癌細胞を特異的に標的にする能力を生み出した。この点で、抗体ベースの療
15 法が、ある種の癌の治療に非常に有効であることが見出された、ということが注目される。例
えば、ヘルセプチン(登録商標)およびリツキサン(登録商標)(ともに、Genentech Inc.,
South San Francisco, California により製造される)は、それぞれ乳癌および非ホジキン
リンパ腫を治療するのに首尾よく用いられている抗体である。さらに具体的には、ヘルセプチ
ン(登録商標)は、ヒト上皮細胞増殖因子受容体2(HER2)癌原遺伝子の細胞外ドメイン
20 と選択的に結合する組換えDNA由来ヒト化モノクローナル抗体である。HER2タンパク質
過剰発現は、原発性乳癌の25~30%で観察される。リツキサン(登録商標)は、正常およ
び悪性Bリンパ球の表面に見出されるCD20抗原に対して向けられる遺伝子操作キメラネズ
ミ/ヒトモノクローナル抗体である。これらの抗体はともに、CHO細胞中で組換え的に産生
される。
25 【0008】
癌療法のための有効な細胞性標的を発見するための他の試みでは、研究者等は、(1)1つ
以上の特定型(単数または複数)の非癌性正常細胞(単数または複数)と比較して、1つ以上
の特定型(単数または複数)の癌細胞(単数または複数)により特異的に産生される非膜関連
ポリペプチド、(2)1つ以上の正常非癌性細胞(単数または複数)のものより有意に高い発
現レベルで癌細胞により産生されるポリペプチド、あるいは(3)癌性および非癌性状態(例
5 えば、正常前立腺および前立腺腫瘍組織)の両方における単一(または非常に限定された数の
異なる)組織型(単数または複数)にのみ、その発現が特異的に限定されるポリペプチドを特
定しようと努めてきた。このようなポリペプチドは、依然として細胞内に位置するか、あるい
は癌細胞により分泌され得る。さらに、このようなポリペプチドは、癌細胞それ自体によらず
に、むしろ、癌細胞に及ぼす増強または増殖強化作用を有するポリペプチドを産生しおよび/
10 または分泌する細胞により発現され得る。このような分泌ポリペプチドは、しばしば、正常細
胞を上回る増殖利点を癌細胞に提供するタンパク質であり、例としては、血管新生因子、細胞
接着因子、増殖因子等が挙げられる。このような非膜関連ポリペプチドのアンタゴニストの特
定は、このような癌の治療のための有効な治療薬として役立つと予期される。さらに、このよ
うなポリペプチドの発現パターンの特定は、哺乳類における特定の癌の診断に有用である。
15 【0011】
FcRH5(またはIRTA2)は、Fc受容体ファミリーと相同性を有する細胞表面受容
体である。それは普通は成熟B細胞中で発現され、そしてFcRH4(IRTA1)とは異な
る末梢リンパ器官中の分布を示す。IRTA1は辺縁帯B細胞中で発現され、一方、IRTA
2は胚中心細胞中および免疫芽細胞中でも発現される。IRTA2発現は、多発性骨髄腫、な
20 らびに1q21異常を伴うバーキットリンパ腫細胞株において脱調節される(Miller et
al., Blood 99: 2662-2669, 2002 参照)。B細胞悪性疾患における1q21構造再編成の高
頻度の関与は、IRTA1およびIRTA2がこれらの疾患の病因に対して重要である、とい
うことを示唆する(公開PCT出願番号WO 01/38490;米国公開特許出願番号20
080292632参照;これらの記載内容は参照により本明細書中で援用される)(Polson,
25 et al. Int Immunol. 2006 Sep; 18(9): 1363-73 も参照)。
【0012】
FcRH5の発現を考えると、特に長期治療のために、患者に投与される際に、最小抗原性
を有するかまたは全く有さないFcRH5抗原に対する治療用抗体を産生することは有益であ
る。本発明は、このまたは他の要求を満たす。本発明は、一般的治療用組成物の制限を克服
し、ならびに以下の詳細な説明から明らかになる付加的な利点を与える抗FcRH5抗体を提
5 供する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、抗FcRH5抗体またはその機能的断片、ならびに造血系腫瘍の治療におけるそ
10 の使用方法に関する。
【0050】
別の態様では、本発明は、FcRH5を発現する第一細胞と、ならびに細胞表面標的抗原を
発現する第二細胞と結合し得る二重特異性抗体を提供する。一実施形態では、第二細胞はT細
胞である。一実施形態では、細胞表面標的抗原はCD3である。ある実施形態では、二重特異
15 性抗体は、空洞への隆起(protruberance-into-cavity)抗体である。一実施形態では、二重
特異性抗体は非グリコシル化される。一実施形態では、二重特異性抗体は、大腸菌宿主細胞中
で産生される。一実施形態では、二重特異性抗体は、1つ以上のFcエフェクター機能を欠
く。一実施形態では、二重特異性抗体はADCC活性を欠く。
【発明を実施するための形態】
20 【0084】
アミノ酸残基/位置の「修飾」は、本明細書中で用いる場合、出発アミノ酸配列と比較した
場合の一次アミノ酸配列の変化を指し、ここで、変化は、上記アミノ酸残基/位置に関連した
配列変更に起因する。例えば典型的な修飾としては、別のアミノ酸残基による当該残基(また
は上記位置)の置換(例えば保存的または非保存的置換)、上記残基/位置に隣接する1つ以
25 上の(一般的には5または3より少ない)アミノ酸の挿入、ならびに上記残基/位置の欠失が
挙げられる。「アミノ酸置換」またはその変形は、異なるアミノ酸残基による既定(出発)ア
ミノ酸配列中の現存アミノ酸残基の取替えを指す。一般的には、そして好ましくは、修飾は、
出発(または「野生型」)アミノ酸配列を含むポリペプチドと比較して、変異体ポリペプチド
の少なくとも1つの物理生物化学的活性における変更を生じる。例えば抗体の場合、変更され
る物理生物化学的活性は、結合親和性、結合能力および/または標的分子に及ぼす結合作用で
5 あり得る。
【0142】
「補体依存性細胞傷害性」または「CDC」は、補体の存在下での標的細胞の溶解を指す。
古典的補体経路の活性化は、補体系(Clq)の第一構成成分と、それらの同種の抗原と結合
される(適切なサブクラスの)抗体との結合により開始される。補体活性化を査定するため
10 に、例えば Gazzano-Santoro et al., J. Immunol. Methods 202:163 (1996)に記載された
ようなCDC検定が実施され得る。変更されたFc領域アミノ酸配列を有するポリペプチド変
異体(変異体Fc領域を有するポリペプチド)、ならびに増大されたまたは低減されたClq
結合能力は、例えば米国特許第6,194,551 B1号およびWO 1999/5164
2に記載されている。例えば、Idusogie et al. J. Immunol. 164: 4178-4184 (2000)も参
15 照されたい。
【0285】
一態様では、ヒト化抗体およびキメラ抗体はともに一価である。一実施形態では、ヒト化お
よびキメラ抗体はともに、Fc領域と連結される単一Fab領域を含む。一実施形態では、参
照キメラ抗体は、ヒトFc領域と結合される図2(配列番号11)および図4(配列番号1
20 3)に示される可変ドメイン配列を含む。一実施形態では、ヒトFc領域は、IgGのもの
(例えば、IgG1、2、3または4)である。
【0364】
A. 抗FcRH5抗体
一実施形態では、本発明は、治療薬として本明細書中で用途を見出し得る抗FcRH5抗体
25 を提供する。抗体の例としては、ポリクローナル、モノクローナル、ヒト化、二重特異性およ
び異種接合体抗体が挙げられる。
【0412】
5. 二重特異性抗体
二重特異性抗体は、少なくとも2つの異なるエピトープに対する結合特異性を有する抗体で
ある。例となる二重特異性抗体は、本明細書中に記載されるようなFcRH5タンパク質の2
5 つの異なるエピトープと結合し得る。他のこのような抗体は、別のタンパク質に対する結合部
位を有するFcRH5結合部位を併有し得る。代替的には、抗FcRH5アームは、FcRH
5発現細胞に細胞性防御機序を集中し、限局するために、T細胞受容体分子(例えば、CD
3)、あるいはIgGに対するFc受容体(FcγR)、例えばFcγRI(CD64)、Fc
γRII(CD32)およびFcγRIII(CD16)のような白血球上のトリガー分子と
10 結合するアームと組合され得る。二重特異性抗体は、FcRH5を発現する細胞に細胞傷害剤
を限局するためにも用いられ得る。これらの抗体は、FcRH5結合アーム、ならびに細胞傷
害剤(例えば、サポリン、抗インターフェロン-α、ビンカアルカロイド、シリンA鎖、メト
トレキサートまたは放射性同位体ハプテン)に結合するアームを有する。二重特異性抗体は、
全長抗体または抗体断片(例えばF(ab‘) 2 二重特異性抗体)として調製することができ
15 る。
【0413】
WO96/16673は二重特異性抗ErbB2/抗FcγRIII抗体を記載し、米国特
許第5,837,234号は二重特異性抗ErbB2/抗FcγRI抗体を開示する。二重特
異性抗ErbB2/抗Fcα抗体は、WO98/02463に示されている。米国特許第5,
20 821,337号および第6,407,213号は、二重特異性抗ErbB2/抗CD3抗体
を教示する。CD3抗原上のエピトープおよび第二エピトープと結合する付加的二重特異性抗
体が記載されている。例えば、米国特許第5,078,998号(抗-CD3/腫瘍細胞抗
原);第5,601,819号(抗-CD3/IL-2R;抗-CD3/CD28;抗-CD
3/CD45);第6,129,914号(抗-CD3/悪性疾患B細胞抗原);第7,11
25 2,324号(抗-CD3/CD19);第6,723,538号(抗-CD3/CCR5);
第7,235,641号(抗-CD3/EpCAM);第7,262,276号(抗-CD3
/卵巣腫瘍抗原);および第5,731,168号(抗-CD3/CD4IgG)を参照され
たい。
【0414】
二重特異性抗体を作製するための方法は、当該技術分野で既知である。全長二重特異性抗体
5 の伝統的産生は、2つの免疫グロブリン重鎖-軽鎖対の同時発現に基づいており、ここで、2
つの鎖は異なる特異性を有する(Millstein et al., Nature 305:537-539 (1983))。免疫グ
ロブリン重鎖および軽鎖の無作為組合せのため、これらのハイブリドーマ(クアドローマ)は
10の異なる抗体分子の潜在的混合物を産生し、そのうち、1つだけが正しい二重特異性構造
を有する。通常はアフィニティークロマトグラフィー段階により実行される正しい分子の精製
10 は、かなり厄介であり、その生成収率は低い。類似の手順は、WO 93/08829に、そ
して Traunecker et al., EMBO J. 10:3655-3659 (1991)に開示されている。
【0417】
米国特許第5,731,168号に記載された別のアプローチによれば、抗体分子の対の間
の界面は、組換え細胞培養から回収されるヘテロ二量体のパーセンテージを最大にするよう操
15 作され得る。好ましい界面は、CH3ドメインの少なくとも一部を含む。この方法では、第一
抗体分子の界面からの1つ以上の小アミノ酸側鎖が、より大きい側鎖(例えば、チロシンまた
はトリプトファン)で置き換えられる。大型アミノ酸側鎖をより小さいもの(例えば、アラニ
ンまたはトレオニン)で置き換えることにより、大きい側鎖(単数または複数)と同一または
類似のサイズの代償性「空洞」が第二抗体分子の界面上に作られる。これは、ホモ二量体のよ
20 うな他の望ましくない最終産物に対してヘテロ二量体の産生を増大するための機序を提供す
る。このアプローチに従って産生される二重特異性抗体は、本明細書中では「空洞への隆起」
抗体として言及される。
【0423】
6. ヘテロ接合体抗体
25 ヘテロ接合体抗体も、本発明の範囲内である。ヘテロ接合体抗体は、2つの共有結合抗体か
らなる。このような抗体は、例えば、免疫系細胞を望ましくない細胞に向けることが(米国特
許第4,676,980号)、ならびにHIV感染の治療のために(WO 91/0036
0、WO 92/200373およびEP 03089)、提案されている。抗体は、架橋剤
が関与するものも含めて、合成タンパク質化学における既知の方法を用いて、in vitro で調
製され得る。例えば、免疫毒素は、ジスルフィド交換反応を用いて、またはチオエーテル結合
5 を形成することにより、構築され得る。この目的のための適切な試薬の例としては、イミノチ
オレートおよびメチル-4-メルカプトブチルイミデート、ならびに例えば米国特許第4,6
76,980号に開示されたものが挙げられる。
【0425】
8. エフェクター機能操作
10 例えば、抗体の抗源依存性細胞媒介性細胞傷害性(ADCC)(当裁判所注:甲第10号証
の対応日本語文献である「特表2012-522512号公報」では、「抗源依存性細胞媒介
性細胞傷害性(ADCC)」と記載されているが、「抗体依存性細胞媒介性細胞傷害性(ADC
C)」の誤りである。)および/または補体依存性細胞傷害性(CDC)を増強するために、エ
フェクター機能に関して本発明の抗体を修飾することが望ましい。これは、抗体のFc領域に
15 1つ以上のアミノ酸置換を導入することにより達成され得る。代替的には、または付加的に、
システイン残基(単数または複数)をFc領域に導入し、それにより、この領域における鎖間
ジスルフィド結合形成を可能にし得る。このようにして生成されるホモ二量体抗体は、内在化
能力が改良され得、および/または補体媒介性細胞殺害および抗体依存性細胞性細胞傷害(A
DCC)を増大し得る(Caron et al., J. Exp Med. 176:1191-1195 (1992)および Shopes,
20 B. J. Immunol. 148:2918-2922 (1992)参照)。抗腫瘍活性増強を示すホモ二量体抗体は、
Wolff et al., Cancer Research 53:2560-2565 (1993)に記載されるようなヘテロ二官能性
架橋剤を用いても調製され得る。代替的には、抗体は操作され、これは、二元性Fc領域を有
し、それにより、増強された補体溶解およびADCC能力を有し得る(Stevenson et al.,
Anti-Cancer Drug Design 3:219-230 (1989)参照)。抗体の血清半減期を増大するために、例
25 えば、米国特許第5,739,277号に記載されたような抗体(特に抗体断片)中にサル
ベージ受容体結合エピトープを組み入れ得る。本明細書中で用いる場合、「サルベージ受容体
結合エピトープ」という用語は、IgG分子の in vivo 血清半減期を増大するのに関与するI
gG分子(例えば、IgG1、IgG2、IgG3またはIgG4)のFc領域のエピトープ
を指す。
【0651】
5 特に、グリコシル化およびFcエフェクター機能が必要とされない場合、例えば、治療用抗
体が細胞傷害性物質(例えば、毒素)と接合され、免疫接合体それ自体が腫瘍細胞崩壊におい
て有効性を示す場合、全長抗体、抗体断片および抗体融合タンパク質が細菌中で産生され得
る。全長抗体は、より大きな循環中半減期を有する。大腸菌中での産生は、より速く、且つよ
り費用効率が高い。細菌中での抗体断片およびポリペプチドの発現に関しては、例えばU.
10 S. 5,648,237 (Carter et. al.)、U.S. 5,789,199 (Joly et
al.)およびU.S. 5,840,523 (Simmons et al.)(これは、発現および分泌を
最適化するための翻訳開始領域(TIR)および シグナル配列を記載する)(これらの記載内
容は参照により本明細書中で援用される)を参照されたい。発現後、抗体は可溶性分画中の大
腸菌細胞ペーストから単離され、例えば、アイソタイプによってプロテインAまたはGカラム
15 を通して精製され得る。最終精製は、例えばCHO細胞中で発現される抗体を精製するための
プロセスと同様に実行され得る。
【0744】
本発明の抗FcRH5抗体は、本明細書中の「抗体」の定義に包含される種々の形態で存在
し得る。したがって、抗体は、全長または無傷抗体、抗体断片、ネイティブ配列抗体またはア
20 ミノ酸変異体、ヒト化、キメラまたは融合抗体、免疫接合体、ならびにその機能的断片を包含
する。融合抗体では、抗体配列は異種ポリペプチド配列と融合される。抗体は、Fc領域で修
飾されて、所望のエフェクター機能を提供し得る。本明細書中の節で詳細に考察されているよ
うに、適切なFc領域を用いて、細胞表面に結合された裸抗体は、例えば抗体依存性細胞性細
胞傷害性(ADCC)を介して、または補体依存性細胞傷害性において補体を動員することに
25 より、または他のいくつかの機序により、細胞傷害性を誘導し得る。代替的には、副作用また
は治療的合併症を最小限にするために、エフェクター機能を排除するかまたは低減することが
望ましい場合、ある種の他のFc領域が用いられ得る。
【0824】
一実施形態では、本発明は、いくつかの、しかし全てではない、エフェクター機能を保有す
る変更された抗体を意図するが、これは in vivo での抗体の半減期が重要であるが、ある種の
5 エフェクター機能(例えば、補体およびADCC)は必要でないかまたは有害である多数の用
途のための望ましい候補となる。ある実施形態では、抗体のFc活性は、所望の特性のみが維
持される、ということを保証するために測定される。in vitro および/または in vivo 細胞
傷害性検定は、CDCおよび/またはADCC活性の低減/枯渇を確証するために実行され得
る。例えば、Fc受容体(FcR)結合検定は、抗体がFcγR結合を欠く(それゆえ、AD
10 CC活性を欠くと思われる)が、しかしFcRn結合能力を保持する、ということを保証する
ために実行され得る。ADCCを媒介するための一次細胞、NK細胞はFc(RIII)のみ
を発現するが、一方、単球はFc(RI)、Fc(RII)およびFc(RIII)を発現す
る。造血系細胞上でのFcR発現は、Ravetch and Kinet, Annu. Rev. Immunol. 9:457-92
(1991)の464ページの表3に要約されている。当該分子のADCC活性を査定するための
15 in vitro 検定の一例は、米国特許第5,500,362号または第5,821,337号に
記載されている。このような検定のために有用なエフェクター細胞としては、末梢血単核細胞
(PBMC)およびナチュラルキラー(NK)細胞が挙げられる。代替的には、または付加的
には、当該分子のADCC活性は、in vivo で、例えば Clynes et al. PNAS (USA) 95:652-
656 (1998)に開示されたような動物モデルで査定され得る。C1q結合検定は、抗体がC1
20 qを結合できず、それゆえCDC活性を欠く、ということを確証するためにも用いられ得る。
補体活性化を査定するために、例えば、Gazzano-Santoro et al., J. Immunol. Methods
202:163 (1996)に記載されたようなCDC検定が実施され得る。FcRn結合および in vivo
クリアランス/半減期確定も、当該技術分野で既知の方法を用いて実施され得る。
【0828】
25 実施例1:FcRH5を結合する抗体の調製
この実施例は、FcRH5を特異的に結合し得るモノクローナル抗体の調製を例証する。
【0829】
モノクローナル抗体を産生するための技法は当該技術分野で知られており、例えば、
Goding(上記)に記載されている。用いられ得る免疫原としては、精製FcRH5、FcRH
5を含有する融合タンパク質、ならびに細胞表面に組換えFcRH5を発現する細胞が挙げら
5 れる。免疫原の選択は、過度の実験を伴なわずにう、当業者によりなされ得る。
【0849】
D. ヒト化抗ヒトFcRH5抗体10A8の生成
残基番号は、カバト(Kabat et al., Sequences of proteins of immunological
interest, 5th Ed., Public Health Service, National Institutes of Health,
10 Bethesda, MD (1991))に従った。一文字アミノ酸記号を用いる。IUBコードを用いて、D
NA縮重を表す(N=A/C/G/T、D=A/G/T、V=A/C/G、B=C/G/T、
H=A/C/T、K=G/T、M=A/C、R=A/G、S=G/C、W=A/T、Y=C/
T)。
【0850】
15 1.ヒト化抗-FcRH5 抗体移植片
種々のヒト化抗FcRH5抗体を生成した。ネズミFcRH5抗体(10A8)からのVL
およびVHドメインを、ヒト共通VLカッパ(huKI)およびヒト亜群III共通VH(h
uIII)ドメインと整列させた。ヒト共通配列カッパIを伴うネズミ10A8の軽鎖可変ド
メインのアラインメントを、図9に示す。ネズミ10A8(mu10A8)からの超可変領域
20 を、受容体ヒト共通フレームワーク中に操作して、MA10A8の直接HVR移植片(本明細
書中では、「10A8移植片」または10A8移植「ヒト化抗体」または「hu10A8移植
片」と呼ぶ)を生成した。哺乳類シグナル配列、ヒトVカッパI可変ドメインに関する共通配
列、およびヒト定常カッパIドメインを含有する哺乳類発現ベクター上に、10A8のCDR
を操作した。ネズミ残基は、ドナーmAbから受容体プラスミドへは移入されなかった。
25 Kunkle 突然変異誘発プロトコールに従って、各CDRをコードする単一オリゴヌクレオチ
ド、および受容体プラスミドのssDNAを用いて、CDRを移入した。移植した残基、なら
びにその結果生じたヒト10A8バージョン(hu10A8v1)軽鎖可変ドメイン(配列番
号19)を、図9に示す。
【0851】
同様に、哺乳類シグナル配列、ヒト重鎖亜群IIIの共通配列、および全長ヒトIgG1定
5 常ドメインをコードする配列を含有するベクター上に、ネズミ10A8(mu10A8)の重
鎖可変ドメインのCDRを操作した。ネズミ残基は、ドナーmAbから受容体プラスミドへは
移入されなかった。ネズミ10A8重鎖可変ドメイン、移植されたヒト亜群III可変ドメイ
ン残基のアラインメント、ならびにその結果生じたヒト10A8バージョン(hu10A8v
1)重鎖可変ドメイン(配列番号21)を、図10に示す。
10 【0920】
実施例11: FcRH5二重特異性抗体の産生および特性化
抗CD3/FcRH5二重特異性抗体の構築および産生 FcRH5二重特異性抗体、具
体的には抗CD3/FcRH5 空洞への隆起二重特異性抗体の構築を、以下に記載する。
【0921】
15 種々の空洞への隆起二重特異性抗体は、以前に記載されている(例えば米国特許第5,73
1,168号および第7,183,076号;Ridgway et al., Prot. Eng. 9:617-621
(1996);Atwell et al., J. Mol. Biol. 270:26-35 (1997);Merchant et al., Nat.
Biotechn. 16:677-681 (1998)参照)。ある場合には、Chamow et al. J. Immunol. 153:4268
(1994)により前に記載されたヒト化抗CD3/CD4-IgGキメラ間のCH3界面を操作し
20 て、発現構築物で同時トランスフェクトされた哺乳類細胞株から回収され得るヘテロ多量体の
パーセンテージを最大にした。本明細書中で用いる場合、「ヘテロ多量体」は、少なくとも第
一のポリペプチドおよび第二のポリペプチド(ここで、第二のポリペプチドはアミノ酸配列の
少なくとも1つのアミノ酸残基が第一のポリペプチドと異なる)を含む分子、例えば二重特異
性抗体を指す。
25 【0922】
前段落中で引用した文書に記載されているように、ヘテロ多量体形成を行なうために用いる
戦術は、第一ポリペプチド、例えば抗体H鎖のCH3ドメイン中に1つ以上の「隆起」を導入
すること、そしてさらにまた、第二ポリペプチド、例えば第二抗体H鎖のCH3ドメイン中に
1つ以上の対応する「空洞」を導入することに頼っている。「隆起」突然変異は、小アミノ酸
をより大きいものに置き換え、そして「空洞」突然変異は、大型アミノ酸をより小さいもので
5 置き換えた。さらに、隆起および空洞突然変異のほかに、遊離チオール含有残基が2つのポリ
ペプチド、例えば2つのCH3ドメインの界面に導入されたが、これは、ヘテロ多量体の形成
を増強することが示された。ポリペプチド界面に導入される種々の例となる空洞への隆起突然
変異および遊離チオール含有残基が記載されている。例えば米国特許第5,731,168号
および第7,183,076号;Ridgway et al., Prot. Eng. 9:617-621 (1996);Atwell
10 et al., J. Mol. Biol. 270:26-35 (1997);Merchant et al., Nat. Biotechn. 16:677-
681 (1998)を参照されたい。
【0923】
以下の工程を実行して、抗CD3/FcRH5二重特異性抗体を産生した。ネズミ抗CD3
モノクローナルAb UCHT1のヒト化抗CD3軽鎖(L)および重鎖(H)変異体をコー
15 ドする大腸菌発現プラスミド(米国特許第5,821,337号および第6,407,213
号;Shalaby et al., J. Exp. Med. 175: 217 [1992]および Rodrigues et al., Int. J.
Cancer (Suppl.) 7: 45 [1992]))を構築する。多数の適切な大腸菌発現プラスミド、例えば
pAK19が、当該技術分野で知られている(Carter et al., Bio/Tehcnology 10:163-167
(1992))。ヒト化抗CD3H鎖の(上記のような)CH3ドメイン中に隆起または空洞を導入
20 する突然変異は、例えば部位特異的突然変異誘発により成される。種々の部位特異的突然変異
誘発方法が、当該技術分野で周知である(例えば Kunkel et al., Methods Enzymol.
154:367-382 (1987)参照)。さらに、ヒト化抗FcRH5軽鎖および重鎖、例えば本明細書中
に記載されるようなヒト化抗FcRH5軽鎖および重鎖をコードする大腸菌発現プラスミド
が、構築される。ヒト化抗FcRH5H鎖の(上記のような)CH3ドメイン中に対応する空
25 洞(抗CD3ドメインが隆起突然変異を有する場合)または対応する隆起(抗CD3ドメイン
が空洞突然変異を有する場合)を導入する突然変異は、例えば部位特異的突然変異誘発により
作製される。
【0924】
二重特異性抗CD3/FcRH5抗体は、当該技術分野で知られている方法を用いて、上記
のような大腸菌発現プラスミドを、適切な大腸菌株、例えば33B6中で形質転換することに
5 より産生される(例えば Rodrigues et al., Cancer Res. 55:63-70 (1995)参照)。前に記載
されたように、10L発酵器中で増殖させた形質転換大腸菌により、抗体は分泌される
(Carter et al., Bio/Technology 10:163-167 (1992))。当該技術分野で既知の手法を用い
て、抗体は精製され、分析される(例えば Atwell et al., J. Mol. Biol. 270:26-35
(1997)参照)。
10 【0925】
細胞結合検定:B細胞およびT細胞を結合する抗CD3/FcRH5二重特異性抗体の能力
を査定するために、当該技術分野で既知の標準手法に従ってフィコール勾配を用いて、ヒト末
梢白血球を健常ドナーからの全血から単離する。約100万個の細胞を、PBS中に0.5%
BSAおよび2mMのEDTAを含有する緩衝液中で氷上で、抗CD3/FcRH5二重特異
15 性抗体とともにインキュベートする。次いで、細胞を洗浄し、メーカーのプロトコールに従っ
て、CD8-APCおよび抗CD138-PEおよび抗CD38-PerCP-Cy5抗体と
ともにFITC接合ヤギ(Fab’)2抗ヒトIgGで染色し(BD Biosciences, San Diego,
CA)、Flowjoソフトウェア(Tree Star, Ashland, OR)を用いて分析を実行する。
【0926】
20 in vitro 細胞殺害検定:EJM-FcRH5.LSP.2多発性骨髄腫細胞(ヒトFcR
H5で安定的にトランスフェクトされたEJM細胞、DSMZ ACC-560)を標的細胞
として用いて、総ヒト末梢白血球またはCD8+T細胞と同時培養する。CD8+T細胞を用
いる場合、96ウェル丸底プレート中でCD8プラスT細胞単離キット(Miltenyi Biotech,
Auburn, CA)を用いて、陰性選別により、ヒトPBMCからそれらを精製する。20,00
25 0EJM-FcRH5.LSP.2細胞を、抗CD3/FcRH5二重特異性抗体とともに、
または伴わずに、標的:エフェクター=1:10の比率でウェル当たりで付加する。約19時
間後、メーカーのプロトコール(BD Biosciences, San Diego, CA)に従って、細胞を標識化
抗CD38-FITCおよび抗CD138-PEで染色し、Fluoresbrite(登録
商標)較正等級6.0ミクロンYGマイクロスフェア(Polysciences, Inc., Warrington,
PA)と混合する。前方/側方散乱のゲーティングおよびCD38-CD138染色により、F
5 ACS分析を実行する。標準手法によりヨウ化プロピジウム染色を用いて、死細胞を排除す
る。以下の方程式に従って、抗CD3/FcRH5二重特異性抗体の特異的殺害活性を算定す
る:特異的殺害%=(1-処理を受けた生EJM-FCRH5.LSP.2細胞の数/エフェ
クター中の生EJM-FCRH5.LSP.2細胞&抗-CD3/FcRH5二重特異性抗体
を伴わないEJM-FCRH5.LSP.2の数)x100)。
10 【0927】
in vivo 効力:EJM-FcRH5.LSP.2多発性骨髄腫細胞を、末梢血単核球と混合
し、雌NOD.CD17-Prkdcscid/Jマウス(Charles Rivers Laboratories,
Wilmington, MA)の右胸脇腹部に皮下注射する。次いで、接種マウスを対照および処置群に分
ける。対照群には、ビヒクルまたは抗CD3/Her2対照二重特異性抗体を投与する。処置
15 群には、抗CD3/FcRH5二重特異性抗体を投与する。二重特異性抗体を0.01~10
mg/kgの範囲で投与する。細胞接種後1~2時間以内に、対照および処置群に静脈内投与
し、5連続日の間、毎日反復する。週2回、カリパスを用いて、2つの寸法(長さおよび幅)
で腫瘍を測定する。週2回、マウスを臨床的にモニタリングする。実験終了時に、対照-処置
動物の腫瘍サイズを、抗CD3/FcRH5二重特異性抗体処置動物の腫瘍サイズと比較し
20 て、抗CD3/FcRH5二重特異性抗体処置の効力を査定する。
別紙5
当事者の主張
1 取消事由1(甲2に基づく新規性・進歩性欠如に係る認定・判断の誤り)
について
5 【原告の主張】
(1) 甲2発明の認定の誤り
ア 相違点1がないこと
(ア) 本件審決は、甲第2号証の記載に関し、①前記アミノ酸変異を欠く
親ポリペプチド(IgG1抗体)と比較してFcγ受容体に対する結
10 合活性が低下していることの記載を認めた一方で、②IgG1のFc
領域を構成するアミノ酸においてD265A変異が生じていることの
記載は認めなかった(相違点1)。
しかし、上記②は、甲第2号証の段落【0269】から【0275】
までに記載されている。甲2発明にいう「安定性」は、③Fc領域のう
15 ち「EU付番慣例によるアミノ酸位置240、255、262~266、
267~271、292~299、302~309、379、397~
399、409、412、および427」等のアミノ酸を変異させる
(置換する)ことで達成でき、かつ「変異は、アラニン(A)による置
換である」というアプローチも示されていた(【0269】~【027
20 5】、下線は原告による。)。そして、上述の記載で、本件訂正発明の請
求項1の「該Fc領域を構成するアミノ酸のうち、EUナンバリングに
従って特定される265位のアスパラギン酸がアラニンに変異している」
という構成要件が開示されていることは、当業者の理解に照らして明ら
かであった。
25 (イ) さらに、③D265A変異によってFcγ受容体に対する結合活性
が低下していることも、甲第2号証の段落【0230】、【0222】
及び【0223】に記載されているか、記載されているに等しい事項
である。
この点、甲2発明は、従来技術で知られた課題を解決するために、抗
体のFc領域が発揮するエフェクター機能が低下している一方で、当該
5 抗体が安定であるということを主眼とするものであった。まず、甲第2
号証では、甲2発明がなされた「背景技術」として、「抗体のFc領域
によって媒介される幾つかのエフェクタ機能または活性がある。」こと
が知られており、かかる機能は、「幾つかの臨床上の適用において、こ
れらの応答は、抗体の効力にとって重要であるが、他の場合において、
10 これらは、望まれない副作用を引き起こす。エフェクタによって媒介さ
れた副作用の1つの例は、急性発熱反応をもたらす炎症サイトカインの
放出である。」ということも知られていることが指摘されている(【00
03】)。すなわち、Fc領域が発揮するエフェクター機能は、有用であ
る場合もある一方で、炎症サイトカインの放出等の望ましくない副作用
15 をも発揮してしまうという問題が、当業者において認識されていた。
上述の問題を解決するための従来技術の一つとして、甲第2号証では、
Fc領域自体を欠く抗体を利用することが示されているが、かかる抗体
は、同時に、「腎臓を通る迅速なクリアランスにより減少した半減期を
有」するなどといった別の問題が生じてしまうことも指摘されている
20 (【0004】)。
このような従来技術の課題を踏まえて、甲2発明は、主に、「低下し
たエフェクタ機能、および改善された安定性を有する、改善された抗体」
を提供するという課題を解決すべく(【発明が解決しようとする課題】
【0007】、下線は原告による。)、「Fc領域の向上した安定性をもた
25 らす親Fc領域内における、特定のアミノ酸残基位置で、変異体を導入
するための方法を提供」し、かつ当該抗体が「低下したエフェクタ機能」
をも有することを志向するものであった(【0008】(発明の概要))。
換言すると、甲第2号証には、「低下したエフェクタ機能」を実現しつ
つも「安定性」をも満たした、Fc領域内にアミノ酸変異を有する抗体
が、具体的な技術的思想として示されていたのである。
5 そのうえで、甲2発明の「低下したエフェクタ機能」は、「FcγR
I、FcγRII、およびFcγRIIIからなる群から選択されるF
c受容体(FcR)への低下した結合」により実現されることも示され
ていた(【0034】、【0230】)。かかるFcγ受容体に対する結合
能の低下は、①Fc領域のうちEU付番で「234、236、239、
10 241、251、252、261、265、268、293、294、
296、298、299、301、326、328、332、334、
338、376、378、および435」のいずれかの位置のアミノ酸
の少なくとも1つを変異させる(置換する)か(【0230】、下線は原
告による。)、又は②「エフェクタ機能の変化を与えることが周知の当技
15 術分野において承認されている置換を使用」する(【0222】、【02
23】)などといった手法で達成できることが示されていた。そして、
本件訂正発明の請求項1の「Fcγ受容体に対する結合活性が低下して
いる、Fc領域を含むドメイン」及び「該Fc領域を構成するアミノ酸
のうち、EUナンバリングに従って特定される265位のアスパラギン
20 酸がアラニンに変異している」という構成要件が、上述の①・②の記載
において示されていることは、当業者の理解に照らして明らかであった。
以上の説明のとおり、当業者が甲第2号証の記載全体を通じて甲2発
明を理解すれば、甲2発明は、本件審決が相違点1として認定した具体
的な技術的思想をも含むものであることが理解できた。
25 イ 相違点2がないこと
(ア) また、本件審決は、本件訂正発明1と甲2発明の対比において、相
違点2を認定し、甲2発明が、④変異しているFc領域を構成する二
つのポリペプチドの配列が互いに異なる配列を有するものであること
を認定しなかった。
(イ) しかし、甲第2号証の段落【0128】には「2つの非同一のFc
5 部分のヘテロ二量体であり得る」こと、段落【0207】には「本発
明のポリペプチドは、異なる配列組成である少なくとも2つのFc部
分を含むFc領域(すなわち、本明細書において「異種Fc領域」と
称される)を含むことができる」ことが記載されている。また、段落
【0485】では、いわゆる「Knob into Hole」の説明があり、これは
10 「異種Fc領域」の具体的実施形態の1つが、その導入根拠と共に、
説明されていることに他ならない。
よって、甲2発明が「該変異しているFc領域を構成する二つのポリ
ペプチドの配列が互いに異なる配列を有する」ことは甲第2号証に記載
されており、相違点2は認められず、本件審決はこの点でも誤っている。
15 (ウ) これに対し、被告は、甲第2号証に記載される「異種Fc領域」に
ついて、何らの技術的意義も記載されていないから、具体的な技術的
思想として抽出できないなどと主張する。
しかし、本件訂正発明において、Fc領域が互いに異なることの技術
的意義など、どこにも記載されていない。特殊な調整をした場合には
20 Knob into Hole 変異として技術的意義を持ち得るが、Fc領域が互い
に異なるなどということは、ほぼ特定の意義をなさないほどに広範な、
発明特定事項のうちのごく一部の話である。
仮に、本件訂正発明において、Fc領域が互いに異なるとの構成要素
が認定できたとしても、Fc領域に変異を導入することは、その目的が
25 安定化であるにせよ、Fcγ受容体に対する結合活性の低下であるにせ
よ、甲第2号証に明確に開示されている事項なのであるから、そのよう
な実施形態の一例として必然的に「異種Fc領域」が想定できることは
あまりにも明らかである。
したがって、「異種Fc領域」の記載が抽象的であり、具体的な技術
的思想が抽出できないなどということはあり得ない。
5 ウ 被告主張の更なる相違点が存在しないこと
(ア) 被告は、甲2発明には「癌抗原及びT細胞受容体複合体に結合する」
「典型的なWhole IgG型の二重特異性抗体」が記載されてい
ないと主張し、この点を更なる相違点(相違点A)として認定すべき
であると主張する。
10 (イ) しかしながら、甲第2号証には「典型的なWhole IgG型」
の「抗体」が記載されている。甲第2号証の記載から明らかなように、
甲2発明が主として技術的範囲に含むものは抗体である 。そして、完
全長抗体などは抗体の最たる例であり、当業者が真っ先に想定するも
のであって、何ら特殊な実施形態ではない。したがって、甲 第2号証
15 には、完全長抗体であるIgG型の抗体、すなわち被告が「典型的な
Whole IgG型の」「抗体」などと表現する具体的な技術的思想
が記載されていたことは明らかである。
(ウ) そして、甲第2号証の段落【0391】及び【0392】には、
「腫瘍細胞抗原に対する少なくとも1つのアーム、および細胞毒性誘
20 引分子に対する少なくとも1つのアームを有する二重特異性の変化し
た結合タンパク質」として、CD3(T細胞受容体複合体の一部を構
成する補助分子)と癌抗原に結合する二重特異性抗体が 、具体例によ
り多数列挙されており、甲第2号証には「癌抗原及びT細胞受容体に
結合する」「二重特異性抗体」が記載されている。甲第2号証のこれら
25 の段落では、「癌抗原及びT細胞受容体複合体に結合する典型的なWh
ole IgG型の二重特異性抗体」が、むしろ主要な実施形態の1
つとして、具体的に記載されているものである。
(エ) したがって、被告が主張する更なる相違点は認められない。
(2) 本件訂正発明1と甲2発明の相違点の認定(新規性があると判断したこ
と)の誤り
5 ア 相違点1について
本件審決は、本件訂正発明1と甲2発明の対比において相違点1を認
定したが、このような相違点が存在しないことは、前記(1)アで説明した
甲第2号証の記載から明らかである。
よって、本件審決が本件訂正発明についてそのような誤った要旨認定
10 に基づいて相違点1を認定したことは誤りである。なお、前記(1)ア(イ)
で説明した甲第2号証の段落【0222】及び【0223】における記
載に基づけば、仮に、本件訂正発明に関する本件審決の誤った要旨認定
を前提としても、相違点1は存在しない。本件審決がこれを看過して本
件訂正発明の新規性を認めたことは誤りである。
15 イ 相違点2について
また、本件審決は、相違点2も認定しているが、甲第2号証において、
変異しているFc領域を構成する二つのポリペプチドの配列が互いに異
なる配列を有する構成が示されていることは、前記(1)イで説明したとお
りである。
20 したがって、本件審決が相違点2を認定し、新規性を認めたことも誤
りである。
(3) 進歩性の判断の誤り
ア 仮に、本件審決の認定する相違点1が存在したとしても、以下に述べる
とおり、本件訂正発明1は、甲2発明に基づき、甲第7号証等の副引例
25 及び周知技術又は技術常識を踏まえ、当業者において相違点1に係る本
件訂正発明1の構成を容易に想到することができた。
これに対し、被告は、本件優先日当時のTR抗体を研究する当業者に
とって、Fcγ受容体への結合を介したエフェクター機能がTR抗体に
おける技術的特徴として不可欠なものとして認識されていたことは明ら
かであるなどと主張しているが、後記エ(ア)のとおり、本件優先日当時に
5 おいて、被告が主張するような当業者における共通認識はなかった。
したがって、相違点1について進歩性を認めた本件審決の認定は誤り
である。
イ 甲2発明に甲第7号証記載の発明を組み合わせる動機付けがあること
(ア) 本件審決は、甲第7号証のTable1には、Fc受容体に対する
10 ヒトIgG1の結合部位が記載されており、表中に記載された結合定
数によると、D265AはFcγ受容体への結合を低下させる変異で
あることが示されていることを認定しながら、甲第7号証のTabl
e1には、Fcγ受容体への結合が低下するものだけではなく、Fc
γ受容体への結合が増加するものや、一部のFcγ受容体にのみ作用
15 するもの、FcRn結合のみに作用し、Fcγ受容体には作用しない
ものなど、様々な結合特性を有するアミノ酸変異が多岐にわたって記
載されており、265位以外にも多数のアミノ酸位置が掲載されてい
ることから、甲第7号証等に従って265位のアミノ酸に着目し、2
65位のアミノ酸をアラニンで置換することの動機付けがあることを
20 認めなかった。
(イ) しかし、本件審決が指摘する点は、甲第7号証の記載が多角的かつ
詳細に記載されていることを意味するものであって、「低下したFcγ
R結合親和性」の達成という課題が明示された甲第2号証に記載され
た発明に触れた当業者が、当該課題に適した変異を甲第7号証の記載
25 から見出して適用することを促進することはあっても、その逆は起こ
り得ない。
さらにいえば、前記のとおり、甲第2号証の段落【0223】には、
国際公表第WO00/42072A2(甲31の2)で示されているア
ミノ酸位置の変異によりFcγ受容体の結合活性が変化することが示さ
れており、国際公表第WO00/42072A2(甲31の2)には、
5 D265A変異がFcγ受容体に対する結合活性を低下させることが示
されていた。したがって、甲第2号証の段落【0223】は、D265
A変異がFcγ受容体に対する結合活性を低下させることを少なくとも
示唆するものであるから、当業者であれば、かかる示唆を踏まえて、甲
2発明に甲第7号証記載の発明(D265AはFcγ受容体への結合を
10 低下させる変異であること)を組み合わせることを容易に想到できた。
よって、甲第7号証に265位以外のアミノ酸変異の選択肢が複数列
挙されているとしても、甲第2号証に接した当業者であれば、段落【0
223】の記載等を踏まえて、265位のアミノ酸変異を容易に選択し
得た。
15 さらに、Fc領域におけるD265A変異は周知であり、2000年
代に当業者によって検証されていたものであって、このことは、本件優
先日前に公開された複数の論文に明確に示されている(甲40の段落2
0〜25)。
したがって、Fc領域におけるD265A変異は、当業者にとって自
20 明な手段であり、甲第7号証に示されるD265A変異を甲2発明に容
易に導入することができた。
(ウ) よって、仮に、相違点1があるとしても、甲2発明に甲第7号証記
載の発明を組み合わせる動機付けは十分に存在し、当業者であれば、
当該組み合わせにより本件訂正発明1(相違点1)を容易に想到でき
25 た。本件訂正発明1を容易に想到できないとした審決の判断は誤りで
ある。
ウ 周知技術又は技術常識を斟酌しても、甲第2号証に基づく進歩性の欠如
が認められること
また、甲2発明に対して、甲第2号証の段落【0223】が言及する周
知技術又はそれを含めた技術常識を組み合わせることでも、本件訂正発
5 明1(相違点1)を容易に想到することができた。
すなわち、甲第2号証の段落【0223】には、「エフェクタ機能の変
化を与えることが周知の当技術分野において承認されている置換」とい
う記載があり、その周知である置換として、国際公表第WO00/42
072A2(甲31の2)で示されているFc領域のアミノ酸変異(D
10 265A)が例示されていた。したがって、甲第2号証に接した当業者
であれば、国際公表第WO00/42072A2(甲31の2)で示さ
れているFc領域のアミノ酸変異(D265A)が周知の置換であると
認識し、かつ同文献によりD265AによってFcγ受容体の結合活性
が変化することが示されているわけであるから、これを周知の置換とし
15 て導入し、本件訂正発明1の相違点1に係る構成を容易に想到できた。
そして、アスパラギン酸(D)のような酸性アミノ酸を 、 ア ラ ニ ン
(A)のような疎水性のアミノ酸に変異させることは、ポリペプチドの
結合性を変化させるために行うタンパク質工学上の通常の技法(アラニ
ンスキャニング)であることが、本件優先日当時知られていた(甲34)。
20 したがって、甲2発明に対して、甲第2号証の段落【0223】で言
及されていた周知技術又は技術常識を組み合わせることでも、本件訂正
発明1の相違点1に係る構成を容易に想到することができた。
よって、この点からも、本件訂正発明1を容易に想到できないとした
審決の判断は誤りである。
25 エ 被告の主張について
(ア) 被告主張の技術常識について
被告は、甲第12号証を引用して、「癌抗原及びT細胞受容体複合体
に結合するWhole IgG型の二重特異性抗体」(すなわち、Wh
ole IgG型のTR抗体)については、癌細胞の破壊を目的とする
ためにFc領域を介したエフェクター機能が重要だと考えられていたな
5 どと主張する。そのうえで、被告は、エフェクター機能が重要である当
該TR抗体を記載する甲第2号証の段落【0390】から【0392】
までは、エフェクター機能を低下させる技術である甲2発明と整合する
ものではなく、当該段落の記載から「癌抗原及びT細胞受容体複合体に
結合するWhole IgG型の二重特異性抗体」(Whole Ig
10 G型のTR抗体)である甲2発明を認定できないと主張する。
しかしながら、「癌抗原及びT細胞受容体複合体に結合するWhol
e IgG型の二重特異性抗体」(Whole IgG型のTR抗体)
であれば、必ずFc領域を介したエフェクター機能を利用しなければな
らないというわけではない。甲第2号証が公開される前から、抗CD3
15 もしくは抗TCRモノクローナル抗体(mAb)と、抗標的細胞mAb
を化学的に結合した二重特異性抗体を、T細胞に添加することにより、
癌細胞とT細胞を架橋すると、抗CD3もしくは抗TCR部分自体がT
細胞上のCD3やTCRと結合してT細胞を活性化し、その結果として
架橋した癌細胞に対する高い抗癌活性が奏され得ることが、公知文献に
20 より示されていた(甲50、甲53、甲54等)。すなわち、二重特異
性抗体は、Fc領域への結合を介したエフェクター機能を必ずしも利用
せずとも、癌細胞とT細胞(エフェクター細胞)の架橋によって、その
抗癌活性を奏し得ることが知られていたのである。実際に、Fc領域を
欠くBiTEも二重特異性抗体の一種類であるが、これが「強い抗腫瘍
25 効果を発揮すること」は本件明細書の段落【0005】及び【0006】
で記載されているとおりである。また、Fc領域を欠くF(ab’)2
が抗腫瘍特性を有することも確認されている(甲50、54)。 した
がって、「癌抗原及びT細胞受容体複合体に結合するWhole Ig
G型の二重特異性抗体」(Whole IgG型のTR抗体)一般につ
いて、Fc領域を介するエフェクター機能の維持が抗腫瘍活性に重要
5 だったという技術常識はなかったのであるから、エフェクター機能が低
下している甲2発明の一態様として「癌抗原及びT細胞受容体複合体に
結合するWhole IgG型の二重特異性抗体」が含まれ得ると当業
者が考えることが本件優先日当時の技術常識と矛盾するわけではない。
そして、当業者は、甲第2号証の段落【0390】から【0392】
10 までの記載から、甲2発明の一態様として「癌抗原及びT細胞受容体複
合体に結合するWhole IgG型の二重特異性抗体」が含まれると
理解できた。
さらに、このような「癌抗原及びT細胞受容体複合体に結合するWh
ole IgG型の二重特異性抗体」についても、本件優先日以前に、
15 Fc領域におけるFcγ受容体への結合により発生する副作用や欠点が
知られていた。かかる副作用や欠点の解決のために、当該抗体に対して
Fc領域により引き起こされるエフェクター機能低下を導入することが
実際に想到され、さらには実際に作製された例は複数存在した。このこ
とは、甲第48号証の段落52から54までにおいて、甲第51号証や
20 その引用文献の記載も踏まえつつ説明されている。
よって、被告主張の上記技術常識は存在しない。
(イ) 甲第2号証の「安定化」の課題について
被告は、甲第2号証の「安定化」という課題の観点からるる主張す
る が、甲2発明は、安定性のみならず、Fc領域を介するエ フ ェ ク
25 ター機能の低下をも解決すべき課題とし、これを実現するFc領域内
のアミノ酸変異を有する抗体を開示するものである。甲2発明と副引
例等を組み合わせるための動機付けを考察するにおいては、「安定化」
のみならずFc領域を介するエフェクター機能の低下という観点から
も検討し得る。したがって、当業者が、Fcγ受容体への結合活性の
低下のためのアミノ酸変異を有し、かつ「安定化」している甲2発明
5 から出発し、甲第7号証や本件優先日当時の技術常識を当てはめて、
同じくFcγ受容体への結合活性の低下のためにD265Aを有し、
かつ「安定化」している本件訂正発明に至ることは、何ら妨げられて
いない。
したがって、専ら「安定化」の観点から動機付けの有無を検討して、
10 動機付けがないと結論付ける被告の主張は、誤りである。むしろ、甲第
7号証や周知技術等は、甲2発明のFc領域を介したエフェクター機能
を低下させるという課題の一つを解決するものであり、かつ当該課題の
観点からみたときに、両者の技術分野は同一である上に、その作用・機
能も同じといえるのであるから、両者を組み合わせる動機付けがあるこ
15 とは明らかである。
(ウ) 多数のアミノ酸位置の掲載
さらに、被告は、国際公表第WO00/42072A2(甲31の2)
のTable6等を含む表には、Fcγ受容体への結合が低下するもの
だけではなく、Fcγ受容体への結合が増加するものや、一部のFcγ
20 受容体にのみ作用するもの、FcRn結合のみに作用し、Fcγ受容体
には作用しないものなど、様々な結合特性を有するアミノ酸変異が多岐
にわたって記載されており、265位以外にも多数のアミノ酸位置が掲
載されているのであって、D265A変異をこの多数の列挙から選択す
るような動機付けも存在しないなどと主張する。しかし、甲2発明には
25 Fcγ受容体への結合活性を低下させることが記載されているのだから、
そのような変異としてD265Aを採用するだけであり、他の結合活性
を示す変異など関係がない。
(4) 小括
以上のとおり、本件審決は、甲2発明の認定、甲第2号証に基づく本件
訂正発明1の新規性・進歩性に関する認定及び判断のいずれも誤っており、
5 その結果として本件訂正発明1の新規性・進歩性の欠如を認めなかったこと
は誤りである。
そして、本件訂正発明1についての認定及び判断が誤っていることは上
述のとおりであるから、これを理由に本件訂正発明2から18まで、23か
ら25まで及び27から70までについての新規性・進歩性の欠如を認めな
10 かった本件審決の結論も誤りである。
【被告の主張】
(1) 甲2発明の認定について
ア 原告の主張について
原告は、本件審決が、甲2発明の認定において、①D265A変異及
15 びこれによるFcγ受容体に対する結合活性低下に係る構成を認定して
いない点(相違点1)、②変異しているFc領域を構成する二つのポリペ
プチドの配列が互いに異なる配列を有するものであることを認定しな
かった点(相違点2)で誤っていると主張している。
しかし、原告の主張は、本件訂正発明の構成要件に合致するよう、甲
20 第2号証の広範な記載の中に散らばる膨大な数の選択肢、更には引用文
献外の内容から、都合の良い要素を拾い出して組み合わせることによっ
て甲2発明を認定しようとするものであって、引用発明の認定として許
されない、誤ったものである。甲第2号証には、原告が主張するような
構成①、②を有する発明が記載されているとはいえない。
25 それ以前に、本件審決は、原告側に極めて有利な認定を不適法に行っ
た上で、それでも、本件訂正発明が甲第2号証に対して新規性及び進歩
性を有すると判断したものである。後述するとおり、本件審決は、重要
な相違点(相違点A)を認定しておらず、この相違点をも考慮すれば、
本件訂正発明に新規性及び進歩性が認められることは一層明らかである。
イ 甲第2号証には、相違点1は記載されていないこと
5 (ア) 原告は、甲第2号証の段落【0269】以下において、Fc領域内
の1以上のアミノ酸位置を変異させることによってポリペプチドを安
定化することが記載されており、段落【0272】に記載されている
変異の例示的な位置の中に265位が含まれていること、段落【02
75】に当該変異がアラニンによる置換である実施形態の記載がある
10 ことを挙げ、甲2発明において「IgG1のFc領域を構成するアミ
ノ酸においてD265A変異が生じている」構成を採る形態が甲第2
号証に記載されていることは明らかである旨主張する。
しかし、原告は、上記段落のうち、ごく一部をあえて抜き出して恣意
的に引用しているが、これらの記載全体を見れば、これが様々な選択肢
15 を単に列挙しただけであり、技術的思想の構成としてD265A変異が
具体的に開示されていないことは明白である。
(イ) まず、甲第2号証の段落【0272】及び【0273】の記載では、
265位の変異は、単に変異の候補となりうる35か所ものアミノ酸
位置を並べて記載した包括表現の中に含まれるにすぎず、あえてこれ
20 を選択することの技術的意義は全く明らかでない。したがって、26
5位を変異箇所として積極的あるいは優先的に選択すべきことを甲第
2号証から理解することはできない。むしろ、後続する記載(それで
もなお、数多くの選択肢が列挙されている)では265位が明確に除
外されていることからすれば、甲第2号証に接した当業者は、幅広く
25 記載された変異位置の候補の中から265位を選択することについて
は消極的になるといえる。したがって、この記載に接した当業者が、
甲2発明の構成として、265位を変異させるという具体的な技術的
思想を読み取ることができないことは明らかである。
(ウ) 加えて、変異の方法としてアラニンによる置換を選択することにつ
いても、甲第2号証の段落【0274】及び【0275】には、多種
5 多様な変異方法、変異位置、置換アミノ酸が列挙されており、アラニ
ンによる置換は、その多数の選択肢の中の一つにすぎない。 これらの
記載からは、あえてアラニンによる置換を選択することの技術的意義
は全く明らかでない。むしろ、段落【0275】においては、理論上
考え得る選択肢が19通りであるのに対して、そのうちの3分の1近
10 い6通りを単純列挙するものであり、各選択肢のうちのいずれを、ど
ういう理由から優先的に選択すべきかについての何ら示唆もない。
(エ) 以上の点を併せて考えれば、甲第2号証の段落【0272】の冒頭
に抽象的に列挙された35か所のアミノ酸位置と、段落【0274】
及び【0275】に列挙された様々な変異の組み合わせが採りうる構
15 成は膨大なものであるところ、当業者は、その中から特に、「265位」
を「アラニンで置換する」という組み合わせを選び出し、D265A
変異に係る具体的な構成を採用すべき理由を甲第2号証から読み取る
ことはできない。したがって、IgG1のFc領域を構成するアミノ
酸においてD265A変異が生じていることは、甲第2号証には記載
20 されていない。
ウ 甲第2号証には、相違点2に係る構成は記載されていないこと
原告は、本件審決が、甲2発明について相違点2に係る構成を有するも
のとして認定しなかった点でも誤っていると述べているが、失当である。
甲第2号証の段落【0128】には「2つの非同一のFc部分のヘテロ
25 二量体であり得る」こと、段落【0207】には「本発明のポリペプチ
ドは、異なる配列組成である少なくとも2つのFc部分を含むFc領域
(すなわち、本明細書において『異種Fc領域』と称される)を含むこ
とができる」と記載されているにすぎず、当該構成とすることの技術的
意義について甲第2号証には何の説明も存在しない。それゆえ、当該構
成を備えた発明を、甲第2号証の記載から具体的な技術的思想として抽
5 出できるものではない。
エ 本件審決が看過した相違点Aも存在すること
以上のとおり、本件審決の相違点1及び2の認定は概ね正しく、原告
の主張に理由がないことは明らかである(ただし、甲2において「29
7D」が安定化アミノ酸変異であることは開示されていないから、本件
10 審決が、相違点1において、甲2発明として「297D変異」を認定し
ているのは誤りである。)。
もっとも、本件審決は、相違点1及び2以外の部分について具体的な
技術的思想を十分に検討することなく、一般的かつ抽象的な記載を基に
引用発明の認定を行った結果、重大な相違点を看過している。そのため、
15 引用発明の認定及び対比において、非常に原告に有利な認定となってい
る。
具体的にいえば、本件審決は、誤って過剰に一致点を認定しており、
一致点で認定した(e)の構成は甲第2号証に開示されていない。すな
わち、本件審決は、甲2発明として、「腫瘍細胞抗原に対する少なくとも
20 1つのアーム、および細胞毒性誘引分子に対する少なくとも1つのアー
ムを有する二重特異性結合抗体である、安定化ポリペプチド」を認定し
た上で、この部分を、本件訂正発明の「癌抗原結合ドメインを構成する
一価の Fab の重鎖 Fv 断片が CHl 領域を介して Fc 領域を構成する一方のポ
リペプチドに連結され、当該 Fab の軽鎖 Fv 断片が CL 領域と連結され、T
25 細胞受容体複合体結合ドメインを構成する Fab の重鎖 Fv 断片が CHl 領域
を介して Fc 領域を構成する他方のポリペプチドに連結され、当該 Fab の
軽鎖 Fv 断片が CL 領域と連結された、ポリペプチド会合体」との一致点と
している。
しかし、甲第2号証は、具体的な技術的思想として、かかる構成を備
えた発明を開示しておらず、この点に関する審決の認定は誤りである。
5 何らの構造上の限定もない「ポリペプチド」は上位概念であり、これを
もって下位概念である特定の構成の「ポリペプチド会合体」に該当する
としていることのみからして、誤りであることが明白である。甲第2号
証では、「(結合)ポリペプチド」については、単に、「標的分子と特異的
に結合する少なくとも1つの標的結合部位または結合ドメインを含むポ
10 リペプチド」という意味で用いられており(【0146】)、また、その形
態には、同段落に記載されるように、様々な形態のものが含まれる。
これに対して、本件訂正発明1の「(1)癌抗原結合ドメイン(ただし
癌抗原はCD3ではない)及び(3)T細胞受容体複合体結合ドメイン
を含むポリペプチド会合体であって、癌抗原結合ドメイン、及び、T細
15 胞受容体複合体結合ドメインは各々一価のFabであり、癌抗原結合ド
メインを構成するFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域
を構成する一方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片
がCL領域と連結され、T細胞受容体複合体結合ドメインを構成するF
abの重鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域を構成する他方のポ
20 リペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結さ
れた、ポリペプチド会合体」は、ポリペプチドの特定の構造(すなわち、
典型的なWhole IgG型の二重特異性抗体)を規定したものであり、
明らかに、ポリペプチドの下位概念である。
この点について、本件審決は、甲第2号証の請求項42を引用して、
25 「完全長抗体二重特異性結合抗体」が記載されていると述べているが、
誤りである。請求項42には、「安定化完全長抗体である、請求項39に
記載の安定化ポリペプチド。」と記載されているが、これは、単に請求項
に抽象的な記載がされたにすぎず、それ以上の何らの具体的な技術も開
示されていない。これをもって具体的技術的思想の開示と見ることはで
きない。また、請求項42にも、あるいはその他の請求項にすら、「二重
5 特異性結合抗体」は、全く記載されていない。ここにそのような技術的
思想は記載されていないからこそ、本件審決も、甲2発明として、「完全
長抗体二重特異性結合抗体」は認定できず、「ポリペプチド」との認定し
かできなかったものである。このように、上位概念しか読み取れないに
もかかわらず、下位概念との一致を認定しているのは、明らかに誤りで
10 ある。そして、甲第2号証の段落【0390】から【0392】までに
は、極めて多数の「多特異性結合ポリペプチド」が抽象的に例示列挙さ
れているのみであり、ここには、抗原含め、具体的な技術思想としての
発明の開示はないから、ここから「癌抗原及び T 細胞受容体複合体に結合
するWhole IgG型の二重特異性抗体」を認定することはできない。
15 したがって、本件訂正発明と甲第2号証との間には、以下の相違点A
が存在する(同相違点を踏まえて正しく認定されたものを、以下「甲第
2号証に記載された発明」という。)。
<相違点A>
本件訂正発明1では、「(1)癌抗原結合ドメイン及び(3)T細胞受
20 容体複合体結合ドメインを含むポリペプチド会合体であって、T細胞受
容体複合体結合ドメインがFabであり、癌抗原結合ドメインを構成す
る一価のFabの重鎖Fv断片がCHl領域を介してFc領域を構成す
る一方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領
域と連結され、T細胞受容体複合体結合ドメインを構成するFabの重
25 鎖Fv断片がCHl領域を介してFc領域を構成する他方のポリペプチ
ドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結された、ポ
リペプチド会合体」であるのに対し、甲2発明はそのような構成を有し
ない点。
オ 二重特異性のT細胞リクルート抗体に関する技術常識
甲第2号証に記載された発明の認定に関して重要なのは、本件特許出願
5 時には、癌を治療することを目的とする二重特異性のT細胞リクルート
抗体(TR抗体)が開発されていたが、このような抗体においては、F
cγ受容体への結合を介したエフェクター機能が重要であることが技術
常識であったことである。すなわち、TR抗体は、「T細胞リクルート」
という文字どおり、がん細胞と免疫細胞であるT細胞のそれぞれに結合
10 し、がん細胞に免疫細胞を動員させる(リクルートする)ことによって
免疫の力でがん細胞を駆逐しようとするものである。本件特許出願時に
は、TR抗体の技術分野では、抗体のFc領域がFcγ受容体に結合す
ることが積極的に活用されていた。このことは例えば甲第12号証(〔乙
2〕)や、甲第7号証及び甲第31号証の1によっても明らかである。標
15 的細胞の破壊には、エフェクター機能の低下ではなく、エフェクター機
能の増強が必要であることが様々な文献により明らかにされており、こ
の技術分野における技術常識を形成していたものと考えられる。これを
前提に、後記の進歩性についても検討すべきである。
なお、このことは、甲第2号証自体からも裏付けられている。すなわ
20 ち、甲第2号証の段落【0230】には、「低下したFcγR結合親和性
を有するFcポリペプチドは、エフェクタ機能を低下させることが見込
まれ、そのような分子も、標的細胞破壊が望ましくない状態、例えば、
正常細胞が標的分子を発現する場合、またはポリペプチドの慢性投与に
よって好ましくない免疫系活性化が引き起こされる可能性がある場合の
25 治療に有用である。」と記載されているが、この記載は、低下したFcγ
R結合親和性を有し、エフェクター機能を低下させた分子は、TR細胞
のように標的細胞破壊を行うのではなく、「標的細胞破壊が望ましくない」
場合に有用であるとしたものである。これは、TR細胞のように標的細
胞破壊を行う場合には、高いFcγR結合親和性や、エフェクター機能
が必要であることを前提としたものである。
5 付言するに、このようなTR抗体は、Trifunctional antibody(三機
能性抗体、三官能性抗体)とも呼ばれていたことが、甲第12号証を含
む多数の文献に記載されている技術常識である。三機能性とはすなわち、
①がん抗原(がん細胞)に結合する機能、②CD3(T細胞)に結合す
る機能、③Fc領域を介したエフェクター機能、の3つの機能を持つと
10 いう意味である。つまり、Trifunctional antibody という技術呼称のみ
から考えても、本件優先日当時のTR抗体を研究する当業者にとって、
Fc領域を介したエフェクター機能がTR抗体における技術的特徴とし
て不可欠なものと認識されていたことは明らかである。
このように、腫瘍細胞などの標的細胞破壊に用いるTR抗体にとって、
15 エフェクタ ー機能が重要であることは、本件 優先日当時 の技術常識で
あった。なお、当然ながら、「癌抗原及び T 細胞受容体複合体に結合する
Whole IgG型の二重特異性抗体」もTR抗体であり、エフェク
ター機能が重要と認識されていた。
(2) 甲第2号証に記載された発明に基づく新規性欠如の主張について
20 以上のとおり、本件訂正発明1と甲2発明との間には上記相違点1、
相違点2及び相違点Aが存在するから、本件訂正発明1は、甲第2号証
に記載された発明とはいえない。
また、本件訂正発明2から18まで、27から40までは、いずれも
本件訂正発明1を直接的又は間接的に引用するものであるから、本件訂
25 正発明1と同様の理由により、甲第2号証に記載された発明とはいえな
い。
同様に、独立請求項である本件訂正発明23、24、41、53、6
5並びにこれらの発明を直接的又は間接的に引用する本件訂正発明25、
42から52まで、54から64まで、66から70までは、いずれも、
甲第2号証に記載された発明との間に、少なくとも本件訂正発明1と同
5 様に上記相違点1、相違点2及び相違点Aが存在するから、本件訂正発
明1に対するものと同様の理由により、甲第2号証に記載された発明と
はいえない。
よって、原告の甲第2号証に記載された発明に基づく新規性欠如の主
張も失当である。
10 (3) 甲2発明に基づく進歩性欠如の主張について
ア 甲第2号証及び甲第7号証に基づく進歩性判断について
(ア) 本件審決が正しく認定したように、甲第2号証に甲第7号証を組み
合わせる動機付けは全く存在していない。
すなわち、甲第7号証(特にTable1)には、Fcγ受容体への
15 結合が低下するものだけではなく、Fcγ受容体への結合が増加するも
のや、⼀部のFcγ受容体にのみ作用するもの、FcRn結合のみに作
用し、Fcγ受容体には作用しないものなど、様々な結合特性を有する
アミノ酸変異が多岐にわたって記載されているものであり、265位以
外にも多数のアミノ酸位置が掲載されている。当業者は、これらの中か
20 ら、D265Aをピックアップして、これを甲第2号証に組み合わせる
ことはできない。さらに、本件審決が指摘するとおり、甲第2号証と甲
第7号証の記載は互いに食い違っており、整合していないから、この点
からも、当業者がこれらの文献を組み合わせる動機付けはない。
(イ) さらに、課題の観点からしても、動機付けが存在し得ないことは明
25 らかである。
前記のとおり、甲第2号証に記載された発明の課題は、エフェクター
機能の低下のためにFc領域からのオリゴ糖を除去したり、IgG4の
Fc領域を用いたりすると、抗体の安定性が損失又は低下するという問
題を解決するために、変更された、もしくは低下したエフェクター機能、
及び改善された安定性を有する、改善された抗体を提供することである。
5 甲第2号証では、当該発明課題を前提とした上で、発明構成の一要件と
して、IgG1抗体のFc領域にT299K変異を導入することによっ
て、非グリコシル化を達成してエフェクター機能を低下させると共に、
改善された安定性を有する抗体が得られている。ここで、甲第2号証に
記載された発明は、安定性の改善に焦点を当てて成された発明であるこ
10 とは、甲第2号証の発明の詳細な説明及び実施例に基づけば明らかであ
り、甲2発明に甲第7号証を組み合わせることの可否を判断する際には、
甲第7号証に記載されるアミノ酸変異が安定性について検討されたもの
であるかどうかを考慮する必要がある。
しかしながら、甲第7号証には、安定性の観点から評価したデータは
15 一切開示されていない。そのため、甲第7号証のTable1に記載さ
れるD265A変異について検討する以前に、そもそも甲第7号証を甲
2発明に組み合わせる動機付けが一切存在しないのである。
(ウ) また、甲第2号証に記載された発明におけるT299K変異は、す
でに非グリコシル化によって低下したエフェクター機能を有している
20 ため、さらにD265Aのようなエフェクター機能を低下させる変異
を導入する動機付けも何ら存在しない。甲第2号証は、あくまでも、
非グリコシル化によって低下したエフェクター機能を有する抗体が不
安定であることに基づいて、抗体を安定化させることを課題としてい
るからである。したがって、この観点からしても、甲第2号証に甲第
25 7号証を組み合わせる動機付けは存在しない。
(エ) 加えて、甲第7号証は、他の相違点2及び相違点Aに関する不足を
何ら補うものではない。
(オ) したがって、本件訂正発明は、甲第2号証及び甲第7号証に基づい
て、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 甲第2号証及び周知技術又は技術常識に基づく進歩性判断について
5 (ア) 原告は、本件訂正発明1について、甲第2号証、及び甲第2号証の
段落【0223】が言及する周知技術又はそれを含めた技術常識に基
づき当業者が容易に発明をすることができたと主張しているが、前記
のとおり、甲第2号証に記載された発明は、「改善された安定性」を提
供することを課題とし、安定性に着目したものであり、甲第2号証の
10 段落【0223】で言及されている国際公表第WO00/42072
A2(甲31の2)には、安定性の観点から評価したデータは一切開
示されていないから、甲第31号証の2に記載される発明を安定性の
改善を目的とする甲第2号証に記載された発明に適用するための動機
付けは存在しない。
15 (イ) また、国際公表第WO00/42072A2(甲31の2)のTa
ble6等を含む表には、Fcγ受容体への結合が低下するものだけ
ではなく、Fcγ受容体への結合が増加するものや、一部のFcγ受
容体にのみ作用するもの、FcRn結合のみに作用し、Fcγ受容体
には作用しないものなど、様々な結合特性を有するアミノ酸変異が多
20 岐にわたって記載されており、265位以外にも多数のアミノ酸位置
が掲載されているのであって、D265A変異をこの多数の列挙から
選択するような動機付けも存在しない。
(ウ) そうすると、甲第2号証に記載された発明のFc領域において、特
に甲第31号証の2のTable6にある265位のアミノ酸に着目
25 し、265位のアミノ酸をアラニンで置換することを当業者に動機付
けるものであるとは認められない。
(エ) 加えて、甲第7号証や甲第31号証の2は、相違点2及び相違点A
に関する不足を何ら補うものではない。
(オ) その上、Whole IgG型TR抗体におけるFcγR陽性細胞へ
の結合が抗腫瘍効果の十分な発揮に必須であることを指摘する甲第1
5 2号証に鑑みれば、D265AのようなFcγRへの結合能を顕著に
低下させる変異を、Whole IgG型TR抗体に導入することが甲
第2号証から動機付けられたということはできないし、多数記載され
たFcγRへの結合能を低下させる変異(結合能の低下の程度の異な
る様々な変異が存在する)の中から、FcγRへの結合能を顕著に低
10 下させるD265Aを選択できた事情があったということもできない。
(カ) したがって、本件訂正発明1は、甲第2号証に記載された発明と副
引例及び本件優先日の技術水準に基づいて当業者が容易に想到できた
ものであるとはいえない。
ウ 本件審決における甲2発明の認定を前提にしても、本件訂正発明は進歩
15 性を有すること
以上のア及びイで主張したことは、仮に本件審決における甲2発明の
認定を前提としても同様にいえることである。すなわち、本件審決にお
ける甲2発明の認定によっても相違点1が認められるが、多数記載され
たFcγRへの結合能を低下させる変異(結合能の低下の程度の異なる
20 様々な変異が存在する。)の中から、相違点1に係るFcγRへの結合能
を顕著に低下させるD265Aを選択できた事情があったということが
できず、本件訂正発明に甲第2号証、甲第7号証、甲第31号証の2か
ら容易に想到し得たということはできない。
エ 小括
25 以上のとおり、本件訂正発明1は、甲第2号証に記載された発明と、甲
第2号証、甲第7号証、甲第31号証の2(原告が主張する周知技術)
及び本件優先日の技術水準から、当業者が容易に発明をすることができ
たものであったということはできない。
また、本件訂正発明2から18まで、27から40までは、いずれも
本件訂正発明1を直接的又は間接的に引用するものであるから、本件訂
5 正発明1と同様の理由により、甲第2号証に記載された発明と、甲第2
号証、甲第7号証、甲第31号証の2(原告が主張する周知技術)及び
本件優先日の技術常識に基づき、当業者が容易に発明をすることができ
たものであったということはできない。また、独立請求項である本件訂
正発明23、24、41、53、65並びにこれらの発明を直接的又は
10 間接的に引用する本件訂正発明25、42から52まで、54から64
まで、66から70までは、いずれも、甲第2号証に記載された発明と
の間に、本件訂正発明1と同様に上記相違点1、相違点2及び相違点A
を有するものであるから、本件訂正発明1に対するものと同様の理由に
より、甲第2号証に記載された発明と、甲第2号証、甲第7号証、甲第
15 31号証の2(原告が主張する周知技術)及び本件優先日の技術常識に
基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであったというこ
とはできない。
以上に述べたとおり、取消事由1(甲2に基づく進歩性欠如)は理由
がない。
20 2 取消事由2(甲10に基づく新規性・進歩性欠如に係る認定・判断の誤り)
について
【原告の主張】
(1) 本件審決は、甲10発明と本件訂正発明1の間において、D265A変
異に係る相違点3を認定したが、甲第10号証(訳文)の段落【0744】
25 に「抗体は、Fc領域で修飾されて、所望のエフェクター機能を提供し得る。
本明細書中の節で詳細に考察されているように、①適切なFc領域を用いて、
細胞表面に結合された裸抗体は、例えば抗体依存性細胞性細胞傷害性(AD
CC)を介して、または補体依存性細胞傷害性において補体を動員すること
により、または他のいくつかの機序により、細胞傷害性を誘導し得る。②代
替的には、副作用または治療的合併症を最小限にするために、エフェクター
5 機能を排除するかまたは低減することが望ましい場合、ある種の他のFc領
域が用いられ得る。」(下線、①及び②の付番は原告による。)と示唆されて
いることからすれば、甲第10号証に甲第2号証及び甲第7号証の記載並び
に甲第31号証の1及び2に記載された周知技術又は技術常識を適用し、エ
フェクター機能を排除するためにFcγR結合親和性を低下させるものとし
10 てD265A変異を導入することは、甲第10号証に記載されているに等し
いか、容易に想到することができた事項といえる。
すなわち、文面を読めば明らかなように、上記の①は、抗体依存性細胞性
細胞傷害性(ADCC)を介して、又は補体依存性細胞傷害性において補体
を動員することにより、又は他のいくつかの機序により、細胞傷害性を誘導
15 する場合の話であって、②がこれと異なる話をしているとしても、細胞傷害
性を誘導しない場合の話であるということにはならない。②にはこのような
エフェクター機能に関連しない機序で細胞傷害性を誘導する場合も当然に含
まれ、すなわちTR抗体一般がこれに該当する。そして、この場合に、技術
常識として知られていたD265Aを「エフェクター機能を排除するかまた
20 は低減する」ために導入すればよいだけである。
さらに、甲第10号証の段落【0084】には「例えば典型的な修飾と
しては、別のアミノ酸残基による当該残基(または上記位置)の置換(例え
ば保存的または非保存的置換)…が挙げられる。一般的には、そして好まし
くは、修飾は、出発(または「野生型」)アミノ酸配列を含むポリペプチド
25 と比較して、変異体ポリペプチドの少なくとも1つの物理生物化学的活性に
おける変更を生じる。例えば抗体の場合、変更される物理生物化学的活性は、
結合親和性、結合能力および/または標的分子に及ぼす結合作用であり得
る。」とあって、段落【0744】とあわせてアミノ酸置換によるエフェク
ター機能の低下を読み取れる。それが二重特異性抗体にも適用されることは
「一実施形態では、二重特異性抗体は、1つ以上のFcエフェクター機能を
5 欠く。」(【0050】)とあるとおりである。むしろ、二重特異性TR抗体に
フォーカスする同段落には、エフェクター機能の増強など一切記載されてい
ない。
他にも甲第10号証の段落【0651】は、「特に、グリコシル化および
Fcエフェクター機能が必要とされない場合、例えば、治療用抗体が細胞傷
10 害性物質(例えば、毒素)と接合され、免疫接合体それ自体が腫瘍細胞崩壊
において有効性を示す場合」と説明し、TR抗体が、一方のアームにおいて
細胞傷害性T細胞と結合したものであることを考えれば、まさに「治療用抗
体が細胞傷害性物質と接合され、免疫接合体それ自体が腫瘍細胞崩壊におい
て有効性を示す場合」に該当するのだから、TR抗体が「Fcエフェクター
15 機能が必要とされない場合」であることは明確に記載されている。ここで、
細胞傷害性T細胞は、一般的には毒素と分類されるものではないが、毒素は
あくまで腫瘍細胞を攻撃する物質の例示にすぎず、腫瘍細胞を攻撃する細胞
傷害性T細胞を除外したものでないことはいうまでもない。甲第10号証の
段落【0865】の実施例2から段落【0936】の実施例13までには、
20 多数の抗FcRH5抗体薬剤接合体の試験例が記載されているところ、その
途中に現れる段落【0920】の実施例11の「抗CD3/FcRH5二重
特異性抗体」には薬剤は接合されていない。このことからも、TR抗体にお
ける細胞傷害性T細胞が、抗体薬剤接合体における薬剤(すなわち毒素)に
相当するものであることは自明である。
25 甲第10号証では、実施例11で唯一二重特異性抗体が作製されており、
これは本件審決が、「実施例11では、その製造方法からみて、ヒト化抗体
である、抗CD3/FcRH5二重特異性抗体の製造方法が記載されてい
る。」、「甲10発明におけるFcRH5は、甲10bの【0007】~【0
011】からみて、骨髄腫等の癌細胞の表面で特異的に発現する細胞表面受
容体であると認められる」と述べるとおり、TR抗体である(それゆえに被
5 告は相違点Aを甲10について主張していないのである。)。してみれば、甲
第10号証において、二重特異性抗体とは、TR抗体が基本的には想起され
ていたものであり、上記の甲第10号証の記載も踏まえると、このような二
重特異性TR抗体にアミノ酸置換によるエフェクター機能の低下を導入する
ことも明確に記載されていたということができる。実際、実施例11では、
10 アミノ酸変異の手法ではないものの、「二重特異性抗CD3/FcRH5抗
体は、当該技術分野で知られている方法を用いて、上記のような大腸菌発現
プラスミドを、適切な大腸菌株、例えば33B6中で形質転換することによ
り産生される」(甲10【0924】)とあるとおり、大腸菌内で抗体を発現
させていることから、特にエフェクター機能が必要とされない場合の実施例
15 を示すと解釈される。
したがって、甲第10号証に記載されるエフェクター機能の低下の一環
として、「C1q結合および補体依存性細胞傷害性」の低下を実現するため
に、甲第10号証のガイダンスに従って甲第52号証記載のD265A変異
を導入すれば足り、D265A変異を導入することは、甲第10号証に記載
20 されているに等しいか、容易に想到することができた事項といえる。
(2) また、本件審決は、相違点4として、「本件訂正発明1では、『該変異し
ているFc領域を構成する二つのポリペプチドの配列が互いに異なる配列を
有する』のに対し、甲10発明では、上記のような特定がされていない点。」
と認定したが、甲第10号証の段落【0423】には「ヘテロ接合体抗体も、
25 本発明の範囲内である」ことが記載されているから、本件審決は相違点4を
誤って認定したものであり、かかる相違点は存在しない。
なお、被告は、甲第10号証の段落【0423】の上記記載だけでは、
Fc領域が互いに異なるとの具体的な技術的思想を見出せないと主張するが、
甲第10号証でも Knob into Hole は開示されており、「ヘテロ多量体形成を
行なうために用いる戦術は、第一ポリペプチド、例えば抗体H鎖のCH3ド
5 メイン中に1つ以上の『隆起』を導入すること、そしてさらにまた、第二ポ
リペプチド、例えば第二抗体H鎖のCH3ドメイン中に1つ以上の対応する
『空洞』を導入することに頼っている。『隆起』突然変異は、小アミノ酸を
より大きいものに置き換え、そして『空洞』突然変異は、大型アミノ酸をよ
り小さいもので置き換えた。」(【0922】)と記載されるとおりである。こ
10 れがごくごく抽象的な記載であるはずがない。
(3) したがって、本件審決は、本件訂正発明1について甲第10号証に基づ
く新規性・進歩性に関する認定及び判断のいずれも誤っており、これを理由
に本件訂正発明1の新規性・進歩性の欠如を認めなかった審決の結論は誤り
である。
15 そして、本件審決は、本件訂正発明2から18まで、23から25まで
及び27から70までについても、本件訂正発明1と同じ理由により新規
性・進歩性の欠如を認めなかった。しかしながら、本件訂正発明1について
の認定及び判断が誤っていることは上述のとおりであるから、これを理由に
本件訂正発明2から18まで、23から25まで及び27から70までにつ
20 いての新規性・進歩性の欠如を認めなかった審決の結論も誤りである。
【被告の主張】
(1) 原告は、D265A変異に係る審決の相違点3について、甲第10号証
の【0744】に「抗体は、Fc領域で修飾されて、所望のエフェクター機
能を提供し得る。本明細書中の節で詳細に考察されているように、①適切な
25 Fc領域を用いて、細胞表面に結合された裸抗体は、例えば抗体依存性細胞
性細胞傷害性(ADCC)を介して、または補体依存性細胞傷害性において
補体を動員することにより、または他のいくつかの機序により、細胞傷害性
を誘導し得る。②代替的には、副作用または治療的合併症を最小限にするた
めに、エフェクター機能を排除するかまたは低減することが望ましい場合、
ある種の他のFc領域が用いられ得る。」(下線、①及び②の付番は被告によ
5 る。)との記載があり、この②の部分に示唆があるから、これに周知技術又
は技術常識を適用して、D265A変異に係る相違点に想到し得たと主張す
る。
(2) しかし、そもそも、上記段落【0744】には、Fc領域内の265位
のアスパラギン酸(D)をアラニン(A)に変異させることの示唆など全く
10 ない。ここでは、「代替的には…ある種の他のFc領域が用いられ得る」と
して、「適切なFc領域」を「ある種の他のFc領域」に替えることが抽象
的に記載されているだけである。その内の265位のアスパラギン酸(D)
を選択してアラニン(A)に変異させることの示唆など、全く存在しない。
上述したように、D265A変異は、FcγRへの結合能を顕著に低下させ
15 る変異であるが、そのような変異を採用することの動機付けは甲第2号証及
び甲第10号証のどこにも見出すことができない。
(3) また、甲第10号証において、アミノ酸置換をエフェクター機能に関連
付けた記載は段落【0425】のみであるが、そこでは確かに、エフェク
ター機能操作を行う方法として、アミノ酸置換を導入することが記載されて
20 いるものの、当該段落では、「抗源依存性細胞媒介性細胞傷害性(ADCC)
および/または補体依存性細胞傷害性(CDC)を増強するため」(当裁判
所注:甲第10号証の対応日本語文献である「特表2012-522512
号公報」では、「抗源依存性細胞媒介性細胞傷害性(ADCC)」と記載され
ているが、「抗体依存性細胞媒介性細胞傷害性(ADCC)」の誤りである。)
25 にアミノ酸置換を行うのであり、エフェクター機能を低下させるためにアミ
ノ酸置換を行うのではない。また、エフェクター機能を低下させるためのア
ミノ酸置換については、甲第10号証には記載も示唆も一切存在しない。ま
してや、265位のアスパラギン酸(D)をアラニン(A)に変異させるこ
との示唆など、全く存在しない。甲第10号証には、エフェクター機能を低
下させるためのアミノ酸置換は全く記載されていないのであるから、甲第7
5 号証等の他の文献とを組み合わせる動機付けは一切存在しない。
(4) さらに、相違点3に関しては、本件審決でも判断されているように、①
甲第1号証から甲第7号証までに、抗体のFc領域にアミノ酸変異を導入す
ることでエフェクター機能を減少させることが記載されているが、Fc領域
の特に265位のアミノ酸に着目し、265位のアミノ酸をアラニンで置換
10 することを当業者に動機付ける記載や示唆は見当たらず、②甲第8号証及び
甲第9号証には、抗体のFc領域にアミノ酸変異を導入することで、エフェ
クター機能を減少させることに関する記載はないから、甲第1号証から甲第
10号証の記載及び本件優先日の技術常識を参酌しても、甲第10号証にお
いて示唆に止まる、グリコシル化の標的として役立つアミノ酸残基をコード
15 するコドンの突然変異置換による方法を、甲10発明で敢えて採用し、さら
に、この方法の採用を前提に、甲10発明のFc領域を構成するアミノ酸の
265位のアスパラギン酸をアラニンに変異させることを当業者が動機付け
られるとは認められない。
(5) 加えて、前記段落【0744】の記載からして、甲第10号証を出発点
20 にして本件訂正発明に至るに阻害事由があることが明白である。すなわち、
原告が依拠する前記②の記載は、「代替的には」(Alternatively)と明示さ
れていることから明らかなとおり、前記①の「細胞傷害性を誘導」する技術
とは異なる技術に関する記載である。ここで、本件訂正発明は、癌細胞を傷
害する技術を規定したものであるから、まさに、「細胞傷害性を誘導」する
25 ものであり、そのような技術については、①でFc領域の機能を積極的に用
いるべきことが記載されている。このように、甲第10号証では、本件訂正
発明のように「細胞傷害性を誘導」する場合には、Fc領域を積極的に活用
すべきことが記載されているのであり、Fc領域の活性を下げることにはむ
しろ阻害事由があるし、少なくとも、そのような示唆など存在しない。
なお、甲第10号証の段落【0651】には、「グリコシル化およびFc
5 エフェクター機能が必要とされない場合」の例として、「例えば、治療用抗
体が細胞傷害性物質(例えば、毒素)と接合され、免疫接合体それ自体が腫
瘍細胞崩壊において有効性を示す場合」とあるが、これは明らかにTR抗体
と異なる技術を対象としたものである。
(6) また、相違点4(本件訂正発明1では、『該変異しているFc領域を構
10 成する二つのポリペプチドの配列が互いに異なる配列を有する』のに対し、
甲10発明では、上記のような特定がされていない点)についても、原告は、
何ら実質的な議論はできておらず、単に、甲第10号証の段落【0423】
には「ヘテロ接合体抗体も、本発明の範囲内である」との記載があると述べ
るのみである。このようなごくごく抽象的な記載から「具体的な技術的思想」
15 を認定することはできないことは明らかである。
(7) したがって、取消事由2が認められる余地はない。
3 取消事由3(サポート要件違反に係る判断の誤り)について
【原告の主張】
(1) アミノ酸変異について
20 仮に、甲第2号証と甲第7号証を組み合わせることができず、かつ、前
記の技術常識又は周知技術が認められないのであれば、本件訂正発明はサ
ポート要件に違反する。
すなわち、原告(審判参加人)は、本件審判において、無効理由5とし
て、全ての請求項に関してサポート要件違反を主張し、特に265位のアミ
25 ノ酸の変異を発明構成要件として含む請求項に関して、「実施例には、ポリ
ペプチドが、IgG1抗体のFc領域(配列番号:23)を有するポリペプ
チド会合体と比較して、Fcγ受容体に対する結合活性が低下したことを示
すデータも全く記載されていない」ことを指摘して、Fcγ受容体に対する
結合活性が低下するのか当業者は理解できないと主張した(無効理由5-
2)。本件審決は、この主張を排斥したものの、何らかの実験データを示す
5 ものでもなく、本件明細書に記されている変異の好ましい態様の記載を抜き
出すと共に、D265A変異については、唯一の実験データの裏付けとして
甲第7号証のTable1を指摘したにすぎなかった。
しかし、①甲第7号証のTable1には、Fcγ受容体への結合が低
下するものだけではなく、Fcγ受容体への結合が増加するものや、一部の
10 Fcγ受容体にのみ作用するもの、FcRn結合のみに作用し、Fcγ受容
体には作用しないものなど、様々な結合特性を有するアミノ酸変異が多岐に
わたって記載されているものであり、265位以外にも多数のアミノ酸位置
が掲載されている。また、②本件明細書の段落【0130】に記載のある2
37位、330位の変異は、甲第7号証のTable1には記載がない。さ
15 らに、③本件明細書の段落【0125】に267位の変異の記載があるとこ
ろ、甲第7号証のTable1ではS267Aにより、記載されているすべ
てのFcγ受容体に対して結合活性の平均値が1を上回ると記載されている
(本件訂正発明は、各請求項の記載上、変異を含まない配列との比較におい
て結合活性が低下していることを発明特定事項としている。)。したがって、
20 本件審決の新規性・進歩性の判断に仮に従うのならば、それぞれの文献のF
cγ受容体への結合性は判断手法が異なっていると認定されるべきであり、
2つの文献の記載を併せて考慮することはできないはずである。このように、
本件審決は、周知技術又は技術常識を示す証拠の内容を、新規性・進歩性と
サポート要件との間で矛盾する認定を行っている。したがって、本件審決は、
25 サポート要件を満たすと判断した点において誤っていることは明白である。
換言すれば、本件訂正発明は、サポートを欠いているか(新規性及び進歩性
が認められる場合)、又は新規性及び進歩性を欠いている(サポートが認め
られる場合)。
(2) 抗腫瘍活性について
ア 原告は、本件審判において、①本件訂正発明1の(a)及び(b)の会
5 合体に対し、癌抗原結合ドメインがGPC3以外(Ep-CAM及びE
GFR)の場合についてBiTEとの抗腫瘍活性の比較がされていない
上に、むしろ他の実験データから推察するにBiTEより抗腫瘍活性が
劣るものと考えられること、②本件訂正発明1の(c)及び(d)の会
合体は一切の抗腫瘍活性のデータがなく、(e)の会合体は単独の抗腫瘍
10 活性のデータしかなく、BiTEとの比較がなされていないことを主張
したものの(無効理由5-1)、本件審決は、本件訂正発明が、BiTE
が持つ強い抗腫瘍活性を有するとの課題を解決できると認識できる範囲
のものであり、サポート要件を満たすと認定した。そして、本件審決は、
上記①について、実施例7の実験は会合体の構成による腫瘍活性の差異
15 のみに着目したデータとして、「癌結合ドメイン」が実施例7以外のEp
-CAM及びEGFR含めその他の癌結合ドメインである場合全体にも
一般化できるとし、実施例7により、本件訂正発明の(a)及び(b)
の会合体全体が、BiTEが持つ強い抗腫瘍活性を有するものであると
認めることができるとした。
20 しかし、そのような論理では、以下の事象を説明できない。まず、本
件明細書の図20においては、GPC3の会合体(a)は会合体(b)
を抗体濃度0.01nMにおいて大きく上回る抗腫瘍活性を見出してい
る。しかし、本件明細書の図23においては、EpCAMの会合体(a)
は、会合体(b)と抗腫瘍活性が抗体濃度0.01nMにおいてほとん
25 ど変わらない。有意なものかはともかくとして、むしろ上下は逆になっ
ている。本件審決の論理を借りれば、図20は「癌結合ドメイン」及び
「T細胞受容体複合体結合ドメイン」を揃えることで会合体の構成によ
る差異のみを抽出したデータといえるはずであるから、当然図23にお
いても「癌結合ドメイン」及び「T細胞受容体複合体結合ドメイン」が
揃っている以上、同様の結果が得られるはずである。このように、ある
5 癌結合ドメインにおける会合体ごとの抗腫瘍活性の並びが、その他の癌
結合ドメイン(本件訂正発明は癌結合ドメインについて限定を付してい
ない。)の場合においても維持されるなどという予測は、本件明細書の記
載それ自体から否定されているし、いかなる癌結合ドメインにおいても
会合体ごとの抗腫瘍活性の並びが同一であるとの技術常識が背景にある
10 わけでもない。
イ 次に、前記ア②については、本件審決は、「上記実施例3及び7によれ
ば、IgGを基本骨格とした各種会合体がBiTEが持つ強い細胞傷害
活性(抗腫瘍活性)を有することが認められるから、同じくIgGを基
本骨格とする、本件訂正発明1の(c)、(d)及び(e)の会合体も同
15 様に、BiTEが持つ強い抗腫瘍活性を有することが優に推測される。」
と述べる。
しかしながら、そもそも、BiTEとはFc領域を欠くことによって
サイトカインストームを防ぐというような欠点を除去するという(副作
用に関する)メリットのみならず、「BiTEはそれまでに知られていた
20 様々なTR抗体に比べて優れた抗腫瘍作用を持つことが報告されている」
(本件明細書【0005】)という更なるメリットも有するものであった。
ここで、TR抗体とは「T細胞上のT細胞レセプター(TCR)複合体
の構成サブユニットのいずれかに対する抗体、特にCD3 epsil
on鎖に結合する抗体と、標的である癌細胞上の抗原に結合する抗体を
25 含むbi-specific(二重特異性)抗体である」(本件明細書
【0003】)ところ、普通の二重特異性抗体(すなわち普通のTR抗体)
にエフェクター機能を低下させるためにFc領域にアミノ酸変異を導入
しただけの会合体(e)について、何の具体的データもなく、「BiTE
が持つ強い抗腫瘍活性を有することが優に推測される」などという結論
を導くに足りる技術常識等は、何ら示されていない。
5 特に、本件審決の指摘する実施例3の示す抗腫瘍活性のデータとは、
本件明細書の段落【0250】記載の図5のものであるが、実験で用い
られた抗体の構造は基本骨格であるIgGとは大きく異なっているので
ある。
また、実施例7の示す抗腫瘍活性のデータとは、本件明細書 の 段 落
10 【0302】記載の図20のものであるが、ERY17-2は抗CD3
抗体H鎖可変領域及び抗CD3抗体L鎖可変領域が置き換えられており
(図19A)、ERY17-3は抗CD3抗体CH1ドメインと抗CD3
抗体CLドメインが置き換えられている(図19B)。すなわち、ERY
17-2及びERY17-3は2つのドメインが交換されている点で、
15 通常の抗体(会合体(e))の構造(甲35)と異なる。加えて、ERY
10-1の構造の特殊性は説明したとおりであるから、実施例7の示す
抗腫瘍活性のデータには、基本骨格がIgGであってドメインの置換が
なされていない通常の抗体(すなわち会合体(e))についての情報は含
まれていない。
20 このように、会合体(e)は通常の抗体に何らかの構造を付加するも
のでもなく、さらにドメイン置換も含まない基本的な抗体の構成を表現
しているものであるのに、単にサイトカインストームを防ぐのみならず
優れた抗腫瘍活性を示すことの知られていたBiTEと抗腫瘍活性にお
いて並ぶとは、当業者には理解されない。
25 【被告の主張】
(1) アミノ酸変異について
ア 本件訂正発明は、「Fc領域を構成するアミノ酸のうち、EUナンバリ
ングに従って特定される265位のアスパラギン酸がアラニンに変異し
ている」との発明特定事項、すなわち「D265A変異」を規定してい
る。そして、D265A変異は、Fc領域のFcγ受容体への結合活性
5 を低下させる変異であるから、この変異を有することで特定された本件
訂正発明1は、請求項1の(2)「配列番号:23に記載のFc領域を構
成するアミノ酸が変異しているFc領域であって、IgG1抗体のFc
領域(配列番号:23)を有するポリペプチド会合体と比較して、Fc
γ受容体に対する結合活性が低下しているFc領域を含むドメイン」を
10 有することを当業者であれば十分に理解できる。
そして、本件明細書では、Fc領域を有するが、Fcγ受容体への結
合活性を低下させたTR抗体が効果を奏することを明らかにしている。
また、本件明細書には、「IgG1抗体のFc領域を構成するアミノ酸の
うち、EUナンバリングに従って特定される下記のいずれかのアミノ
15 酸;265位が他のアミノ酸によって置換されているFc領域を有する
ポリペプチド会合体が好適に挙げられる。置換後に存在するアミノ酸の
種類は特に限定されないが、265位のアミノ酸がアラニンに置換され
ているFc領域を有するポリペプチド会合体が特に好ましい。」(【013
2】)として、D265A変異が明確に記載されている。そして、D26
20 5AがFcγRへの結合能を低下させること自体は、甲第7号証(Ta
ble1参照)及び甲第31号証の2(Table2参照)等から明ら
かである。したがって、本件訂正発明がサポート要件を充足することは
明らかである。
イ これに対し、原告は、仮に、甲第2号証と甲第7号証を組み合わせるこ
25 とができず、かつ技術常識又は周知技術との組み合わせも認められない
のであれば、本件訂正発明はサポート要件に違反するなどと主張し、進
歩性欠如の主張が認められないのであれば、サポート要件に違反すると
の主張をしている。
しかし、進歩性の判断においては、仮に、周知技術であったとしても、
その周知技術を引用発明と組み合わせる動機付けが必要である。他方で、
5 サポート要件の判断においてはこのような動機付けが問題とならず、明
細書の記載を前提に技術常識も考慮して、開示が十分かどうかが問われ
るものである。両者の判断基準は自ずと異なり、一方を満たせば他方を
満たさないという関係にはならない。原告の主張は、進歩性及びサポー
ト要件のそれぞれ判断基準を理解していないか、意図的に両者を混同し
10 たものであって、さらに、審決の判断内容も誤解したものであり、失当
である。
ウ また、原告は、仮に、甲第7号証のTable1が技術的な裏付けにな
ると考えたとしても、それはD265Aの点変異のみが導入された場合
に限るものであり、他方、本件訂正発明は、D265A変異に加えて他
15 のアミノ酸変異を含むポリペプチドをその技術的範囲に含むも(現に、
たとえば請求項24及び25は、D265A変異に加えて、234位や
235位の変異を含んでいる。)、それらの変異が含まれる場合において
課題を解決できることが認識できない旨主張する。
しかし、本件審決が正しく認定するとおり、本件明細書の段落【013
20 0】及び【0131】の記載からすれば、234位及び235位の変異
も、265位と同じく、Fc領域の結合活性を低下させることを理解で
き、これらの変異を含んだ場合も、結合活性を低下させることができる
ことは明らかである。
(2) 抗腫瘍活性について
25 ア 本件訂正発明の正しい課題
(ア) 原告は、本件訂正発明の課題の一つが、BiTEが持つ強い抗腫瘍
活性を有することであることを前提として、本件訂正発明の範囲に、
BiTEが持つ強い抗腫瘍活性を有するという課題を満たさない発明
が含まれるため、本件訂正発明はサポート要件を満たさないことを主
張している。
5 (イ) しかし、本件訂正発明の課題は、正しくは、本件明細書の段落【0
004】から【0008】までに記載された情況に鑑みて、「T細胞を
標的癌細胞に近接せしめT細胞による標的癌細胞に対する細胞傷害活
性を通じて癌を治療することを可能とするポリペプチド会合体、当該
ポリペプチド会合体の製造方法、および当該ポリペプチド会合体を有
10 効成分として含む細胞傷害誘導治療剤を提供すること」、及び「当該細
胞傷害誘導治療剤を有効成分として含む、様々な癌を治療または予防
するための医薬組成物または当該医薬組成物を用いる治療方法を提供
すること」である(【0010】)。より具体的には、T細胞リクルート
抗体(TR抗体)として trifunctional 抗体と称される抗体が知られ、
15 癌抗原に結合するFabとT細胞上のCD3イプシロン鎖に結合する
Fabがそれぞれ片腕に含まれる、Whole IgG型の二重特異性
抗体が知られているが、特許権者は、trifunctional 抗体は癌抗原非依
存的な各種サイトカインを発現誘導し、副作用に繋がると考えた(【0
003】~【0005】)。他方で、二重特異性T細胞エンゲイジャー
20 (BiTE)と称されるTR抗体が知られていたところ、特許権者は、
これについて、血中半減期が著しく短いということが問題であると考
えた(【0008】)。これらの問題を並べて検討することや、これらの
問題に対処しようとすること自体が、課題として新しいのであって、
本件訂正発明は、この情況に鑑みて、新しいTR抗体を提供しようと
25 するものである。
なお、段落【0011】には、「BiTEが持つ強い抗腫瘍活性と、
癌抗原非依存的にサイトカインストームなどを誘導しないという安全性
上の優れた性質が維持され、かつ長い血中半減期を持つ新たなポリペプ
チド会合体を見出した」ことが記載されているが、このように、特に強
い効果を有する実施例を見出したとしても、発明がそれに限定されるも
5 のではなく、その範囲でしか発明が開示されていないことにはなり得な
いし、特に強い効果を奏することが発明の課題とされるわけでもない。
(ウ) そして、本件訂正発明は、上記情況の少なくとも1つの問題を解決
する手段を提供している。すなわち、BiTEの生体に投与された場
合の短い血漿中半減期が改善され、且つ癌抗原非依存的なサイトカイ
10 ン放出症候群(CRS)等の重篤な副作用が低減された、T細胞を標
的癌細胞に近接せしめT細胞による標的癌細胞に対する細胞傷害活性
を通じて癌を治療することを可能とするポリペプチド会合体を提供し
ている。よって、本件明細書の【発明が解決しようとする課題】(【0
010】)に記載された本件訂正発明の課題を解決していることは明ら
15 かである。仮に、このようなポリペプチド会合体がBiTEと同等の
効力を有しないものであっても、このようなポリペプチド会合体は、
出願日当時の技術水準を超える発明であり、それ自体で価値のある課
題を解決したものと評価することができる。
イ BiTEが持つ強い抗腫瘍活性を有することが課題だとしてもサポート
20 要件を充足すること
(ア) 仮に、本件訂正発明の課題の一つに、「BiTEが持つ強い抗腫瘍
活性を有する」ことも含まれるとした場合であっても、本件審決の認
定のとおり、本件訂正発明がBiTEが持つ強い抗腫瘍活性を奏する
ことは、本件明細書から理解できる。それゆえ、この点においても、
25 原告の主張は、失当である。
(イ) 原告は、本件訂正発明1の会合体(a)と(b)について、本件明
細書の【図20】及び【図23】の結果が完全には一致していないこ
とを指摘するが、これらが完全に一致していなくとも、当業者が、こ
れらの会合体が癌抗原を変えた場合でも効果を奏すると認識できるこ
とは、何ら否定されない。
5 (ウ) さらに、原告は、会合体(e)については実施例のデータを一般化
できないと 主張するが、 本件審決が述べるとおり、本件明細 書 で は
諸々の構造の会合体について開示し、実施例3及び7で種々の会合体
について細胞傷害活性が示されていることからすれば、IgGを基本
骨格とした各種会合体が、BiTEが持つ強い細胞傷害活性(抗腫瘍
10 活性)を有することは明らかである。具体的には、実施例7から実施
例11までにより、「癌抗原に対するIgGを基本骨格とし、片側のF
abを CD3 epsilon に対する結合ドメインに置き換えた分子」が、優れ
た細胞傷害活性及び抗腫瘍効果を奏することが示されている。そして、
本件訂正発明1は、癌抗原結合ドメインもT細胞受容体複合体結合ド
15 メインも、Fab構造を有するWhole IgG型の基本骨格を有
する抗体になっているから、「癌抗原に対するIgGを基本骨格とし、
片側のFabを CD3 epsilon に対する結合ドメインに置き換えた分子」
に対応するものである。したがって、本件訂正発明1は、BiTEと
同等以上の細胞傷害活性を奏することを当業者は理解できる。
20 なお、原告は、実施例3及び7の会合体が、会合体(e)と異なると
主張するが、特に実施例7の会合体(【図19】)は、会合体(e)に若
干の相違が入っただけであり、当業者であれば、これと同様に、また、
実施例3で示された会合体とも同様に、会合体(e)も効果を奏するこ
とを理解できる。当業者が、各種会合体が効果を奏することを理解でき
25 る以上、全てのバリエーションについて逐一、明細書に記載する必要な
ど存在しない。しかも、本件では、そもそも実施例10において、会合
体(e)の構造の抗体が作成され、その効果も確認されている。
(エ) さらに、本件明細書の段落【0008】に記載されるように、Bi
TEは、血中半減期が著しく短く、より具体的には生体に投与された
場合のBiTEの血中半減期は数時間程度であるという問題を有する。
5 実施例においては、ERY9-1とERY10-1(それぞれ図17
H及び図17I参照)が優れた血漿中半減期を有することが示されて
いる(図9及び図10参照)。具体的には、本件明細書の段落【000
8】によれば、BiTEの血中半減期は数時間程度であるとされてい
るのに対して、図9及び図10では、ERY9-1及びERY10-
10 1が1日以上の血中半減期を有し、段落【0263】によれば2日後
でさえ10nM以上の濃度を保っていることが読み取れる。このこと
は、FcγRへの結合能を低下させたFc領域が、本件訂正発明のポ
リペプチド会合体の有効血中濃度を長期間維持でき、本件訂正発明の
ポリペプチド会合体の治療有効性が大きく高まることを意味する。
15 そして、本件明細書では、生体投与後の抗腫瘍効果(細胞傷害活性)
に関しても評価し、GPC3 ERY8-2(図17G参照)とERY
10-1(図17I参照)が明らかな抗腫瘍効果を奏することが示され
(図6~図8参照)、GPC3 ERY17-2(図19A参照)もま
た明らかな抗腫瘍効果を奏することが示されている(図21参照)。こ
20 れらの結果から本件訂正発明のTR抗体の生体内での抗腫瘍効果は明ら
かであり、これは本件訂正発明のTR抗体が投与後に優れた血中半減期
を備えることと整合する。このことは、甲第22号証(〔乙12〕)でも
説明されており、想定どおり、GPC3 ERY10-1とERY17
-2の血漿中半減期が、非常に長くなっていることを示すデータが得ら
25 れている(甲22、10頁の項目5-3参照)。血漿中半減期が長くな
ることによりTR抗体が体内に長く滞留し、長期にTR効果が抗腫瘍効
果を発揮することになる。
このように、本件訂正発明は、BiTEと同等以上の細胞傷害活性を
奏するものであるとともに、Fcγ受容体への結合性が低減されたFc
領域を有することによって癌抗原非依存的なサイトカイン誘導などの副
5 作用を低減することができるために、生体内において投与量を治療上有
効量に引き上げ、有意な薬効を奏することを可能としている。その上、
本件訂正発明は、BiTEよりも改善された血漿中滞留性を有するため、
体内に長く滞留し、長期に抗腫瘍効果を発揮することができる。
(オ) したがって、仮に、本件訂正発明の課題に「BiTEが持つ強い抗
10 腫瘍活性を有する」ことが含まれると認定されたとしても、本件訂正
発明のTR抗体は、BiTEが持つ強い抗腫瘍活性を有することは合
理的に理解できる。原告の主張するサポート要件に係る取消事由に理
由はない。
4 取消事由4(実施可能要件違反に係る判断の誤り)について
15 【原告の主張】
当業者は、本件訂正発明の全てについて、FcγR結合親和性が低下してい
る(それがゆえにサイトカインストームを抑制できる)と同時に、BiTEが
持つ強い抗腫瘍活性を有することを、本件明細書及び技術常識から理解するこ
とはできない。これらの性質をいかにして得るかについて、説明やデータは本
20 件明細書中に一切存在しない。
したがって、当業者が、Fcγ受容体に対する結合活性が低下しているFc
領域を含み、かつBiTEが持つ強い抗腫瘍活性をも保持する、本件訂正発明
の構造を決定・生産・使用するには、過度の試行錯誤を要するから、本件訂正
発明は実施可能要件に違反する。
25 【被告の主張】
取消事由4の実施可能要件違反について、原告は、実質的には取消事由3の
サポート要件違反の主張と同一の内容を述べるにすぎず、取消事由3と同様、
理由がないことは明らかである。
なお、原告は、D265A変異以外の変異を当業者が全て確認する必要があ
り、それが過度の試行錯誤に当たると述べているが、当業者は、その他のあら
5 ゆる全ての変異を確認しなくとも、D265Aの変異を入れ、単に結合活性を
確認すれば本件訂正発明を実施できる。全ての変異を確認する必要などなく、
原告の主張は明らかに誤りである。
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