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令和6(行ケ)10073審決取消請求事件

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裁判所 知的財産高等裁判所
裁判年月日 令和7年9月18日
事件種別 民事
当事者 原告ジェンマブエー/エス
被告中外製薬株式会社
対象物 細胞傷害誘導治療剤
法令 特許権
特許法36条6項1号1回
特許法36条4項1号1回
特許法29条2項1回
キーワード 実施212回
審決102回
進歩性48回
新規性42回
無効15回
特許権3回
無効審判2回
優先権1回
主文 1 特許庁が無効2022-800027号事件について
598号の請求項1から18まで、23から25まで及
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事件の概要 1 特許庁における手続の経過等(当事者間に争いがないか、又は当裁判所に 顕著である。

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判決文

令和7年9月18日判決言渡

令和6年(行ケ)第10073号 審決取消請求事件

口頭弁論終結日 令和7年6月3日

判 決

原 告 ジェンマブ エー/エス

同訴訟代理人弁護士 城 山 康 文

大 石 裕 太

篠 崎 慎 一 郎

同訴訟代理人弁理士 小 野 誠

同訴訟復代理人弁理士 重 森 一 輝

小 笠 原 洋 平

今 里 崇 之

被 告 中 外 製 薬 株 式 会 社

同訴訟代理人弁護士 大 野 聖 二

多 田 宏 文

亀 山 和 輝

同訴訟代理人弁理士 森 田 裕

池 田 直 俊

主 文

1 特許庁が無効2022-800027号事件について

令和6年3月21日にした審決のうち、特許第6278

598号の請求項1から18まで、23から25まで及

び27から70までに係る部分を取り消す。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

事 実 及 び 理 由

5 第1 請求主文同旨

第2 事案の概要

1 特許庁における手続の経過等(当事者間に争いがないか、又は当裁判所に顕著である。)

(1) 被告は、発明の名称を「細胞傷害誘導治療剤」とする発明について、平成23年11月30日を国際出願日とする特許出願(特願2012-546900号。優先権主張:平成22年11月30日、平成23年5月31日、同年10月31日。以下では、平成22年11月30日を「本件優先日」という。)について、平成30年1月26日、特許権の設定登録を受けた(特許第6278598号。請求項の数42。以下、この特許を「本件特許」という。)。

(2) 訴外ファイザー・インクは、令和4年3月31日、被告を被請求人として、本件特許について特許無効審判請求をし、特許庁はこれを無効2022-800027号事件として審理を行った(以下、この審判を「本件審判」という。)。

(3) 被告は、令和5年7月4日付けで、本件特許の特許請求の範囲を別紙1「本件特許の特許請求の範囲の記載」のとおりに訂正する旨の訂正請求をした(訂正前の請求項19~22及び26は削除され、請求項43~70が追加された。以下、この訂正を「本件訂正」という。)。

(4) 原告は、令和5年12月1日、本件審判に請求人側で参加申請をし、令和6年2月8日に同申請が許可された。請求人であるファイザー・インクは、同月19日付けで請求取下書を提出した。

(5) 特許庁は、令和6年3月21日、「特許第6278598号の特許請求の範囲を、令和5年7月4日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1~18、27~40]、[23、46~5

5 2]、[24~25、58~64]、[41~45]、[53~57]、[65~70]について訂正することを認める。特許第6278598号の請求項1~18、23~25、27~70に係る発明についての本件審判の請求は、成り立たない。特許第6278598号の請求項19~22、26に係る発明についての無効審判請求を却下する。」との審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は令和6年4月1日原告に送達された。なお、出訴期間とし在外者に対し90日が附加された。

(6) 原告は、令和6年7月25日、本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。2 発明の内容

(1) 特許請求の範囲の記載本件特許の特許請求の範囲(本件訂正による訂正後のもの。以下同じ。)の記載は、別紙1「本件特許の特許請求の範囲の記載」のとおりである(下線部は本件訂正によるもの。以下、本件特許の特許請求の範囲の記載によって特定される発明を、各請求項の番号に対応して「本件訂正発明1」などといい、まとめて「本件訂正発明」という。)。このうち、請求項1について、以下に記載する(下線部は本件訂正によるものである。)。【請求項1】下記のドメイン;

(1) 癌抗原結合ドメイン、

(2) 配列番号:23に記載のFc領域を構成するアミノ酸が変異しているFc領域であって、IgG1抗体のFc領域(配列番号:23) を有するポリペプチド会合体と比較して、Fcγ受容体に対する結合活性が低下している、Fc領域を含むドメイン、及び、

(3) T細胞受容体複合体結合ドメイン、

5 を含むポリペプチド会合体であって、該T細胞受容体複合体結合ドメインがFabであり、該変異しているFc領域を構成する二つのポリペプチドの配列が互いに異なる配列を有する、以下の(a)から(f)からなる群より選ばれる一のポリペプチド会合体:

(a)癌抗原結合ドメインを構成する一価のFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域を構成する一方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結され、T細胞受容体複合体結合ドメインを構成するFabの軽鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域を構成する他方のポリペプチドに連結され、当該Fabの重鎖Fv断片がCL領域と連結された、ポリペプチド会合体、

(b)癌抗原結合ドメインを構成する一価のFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域を構成する一方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結され、T細胞受容体複合体結合ドメインを構成するFabの重鎖Fv断片がCL領域を介してFc領域を構成する他方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCH1領域と連結された、ポリペプチド会合体、

(c)T細胞受容体複合体結合ドメインを構成する一価のFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域を構成する一方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結され、癌抗原結合ドメインを構成するFabの軽鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域を構成する他方のポリペプチドに連結され、当該Fabの重鎖Fv断片がCL領域と連結された、ポリペプチド会合体、

(d)

5 T細胞受容体複合体結合ドメインを構成する一価のFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域を構成する一方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結され、癌抗原結合ドメインを構成するFabの重鎖Fv断片がCL領域を介してFc領域を構成する他方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCH1領域と連結された、ポリペプチド会合体、

(e)癌抗原結合ドメインを構成する一価のFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域を構成する一方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結され、T細胞受容体複合体結合ドメインを構成するFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域を構成する他方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結された、ポリペプチド会合体、及び

(f)癌抗原結合ドメインがF(ab’)2の構造を有するドメインであり、F(ab’)2の構造を有するドメインの重鎖定常領域を構成する二つのポリペプチドがFc領域を構成する二つのポリペプチドの各々に連結され、CD3結合ドメインを構成する重鎖Fv断片がFc領域を構成する一方のCH3に連結され、CD3結合ドメインを構成する軽鎖Fv断片がFc領域を構成するもう一方のCH3に連結され、CD3結合ドメインを構成する重鎖Fv断片に抗体のCH1ドメイン、及び、軽鎖Fv断片に抗体のCLドメインが連結された、ポリペプチド会合体であり、該Fc領域を構成するアミノ酸のうち、EUナンバリングに従って特定される265位のアスパラギン酸がアラニンに変異している、ポリペプチド会合体。

5 (2) 明細書及び図面の記載本件訂正発明に係る明細書(甲36。以下「本件明細書」という。)及び図面の抜粋を別紙2に掲げる。これによれば、本件明細書には、次のような開示があることが認められる。ア 技術分野本件訂正発明は、T細胞を標的癌細胞に近接せしめT細胞による標的癌細胞に対する細胞傷害活性を通じて癌を治療することを可能とするポリペプチド会合体、当該ポリペプチド会合体の製造方法、及び当該ポリペプチド会合体を有効成分として含む細胞傷害誘導治療剤に関する。また当該細胞傷害誘導治療剤を有効成分として含む、様々な癌を治療又は予防するための医薬組成物又は当該医薬組成物を用いる治療方法に関する(【0001】)。イ 背景技術これまでに優れた抗腫瘍効果を示す複数の治療用抗体が、癌治療を目的とする医薬品として開発されている。これらの治療用抗体は、癌細胞の増殖に必要なシグナルの阻害、細胞死シグナルの誘発、あるいはADCC(Antibody Dependent Cell-mediated Cytotoxicity;抗体依存性細胞傷害)、CDC(Complement Dependent Cytotoxicity;補体依存性細胞傷害)によって、癌細胞に対する抗腫瘍効果を発揮することが知られている。抗体のFc領域がNK細胞やマクロファージなどのエフェクター細胞上に存在するFcレセプターに結合することにより、抗体が結合した標的の癌細胞に対してこれらのエフェクター細胞が発揮する細胞傷害がADCCである。抗体が結合した細胞の細胞膜上に当該複合体中に存在する補体成分が孔を形成することにより、水やイオンの細胞内への流入が促進され細胞が破壊されて起こる細胞傷害がCDCである。既存の治療用抗体には優れた作用が認められるものの、こうした抗体の投

5 与によって得られる治療成績はまだ満足できるものではない。そこで、さらに強力な殺細胞活性を発揮する癌に対する治療抗体の開発が望まれている(【0002】)。上記のNK細胞やマクロファージをエフェクター細胞として動員するADCCをその抗腫瘍効果のメカニズムとする抗体とは別に、T細胞をエフェクター細胞として動員する細胞傷害をその抗腫瘍効果のメカニズムとする抗体であるT細胞リクルート抗体(T cell recruiting 抗体、以下「TR抗体」という。)も1980年代から知られている。TR抗体は、T細胞上のT細胞レセプター(TCR)複合体の構成サブユニットのいずれかに対する抗体、特に CD3 epsilon 鎖に結合する抗体と、標的である癌細胞上の抗原に結合する抗体を含む bi-specific(二重特異性)抗体である。TR抗体が CD3 epsilon 鎖と癌抗原に同時に結合することにより、T細胞が癌細胞に接近する。その結果、T細胞の持つ細胞傷害作用により癌細胞に対する抗腫瘍効果が発揮されると考えられている (【0003】)。TR抗体の一つとして trifunctional 抗体と称される抗体も知られている。これは、癌抗原に結合するFabと CD3 epsilon 鎖に結合するFabがそれぞれ片腕に含まれるwhole IgG型の bi-specific 抗体である。EpCAMに対する trifunctional 抗体である catumaxomab をEpCAM発現陽性の癌細胞を持つ悪性腹水患者の腹腔内に対して投与することにより悪性腹水症に対する治療の効果が示されている(【0004】)。さらに最近になり、BiTE(bispecific T-cell engager)と称されるTR抗体が強い抗腫瘍作用を示すことが知られるようになった。BiTEは癌抗原に対する抗体のscFvと CD3 epsilon 鎖に対する抗体のscFvが短いポリペプチドリンカーを介して連結された分子型を有するTR抗体である。BiTEはそれまでに知られていた様々なTR抗体に

5 比べて優れた抗腫瘍作用を持つことが報告されている。すなわちBiTEは、他のTR抗体に比較し、著しく低い濃度、及び低いエフェクター細胞:癌細胞比率(ETレシオ)の下で抗腫瘍効果を発揮する。またこの効果の発現に、予めエフェクター細胞をIL-2やCD28アゴニスト抗体などにより活性化させる必要がないことも示されている。さらに最近行なわれた第一相臨床試験、第二相臨床試験において極めて優れた抗腫瘍効果を示したことが報告されている(【0005】)。catumaxomab が臨床で薬効を示し治療薬として承認されていること、及び blinatumomab を始めとする複数のBiTEが強い抗腫瘍効果を発揮することから、T細胞をエフェクター細胞として動員するTR抗体には、通常のADCCをその作用機序とする抗体に比べて極めて高い抗腫瘍薬としてのポテンシャルがあることが示唆された(【0006】)。しかしながら、trifunctional 抗体が癌抗原非依存的にT細胞とNK細胞やマクロファージなどの細胞と同時に結合する結果、これらの細胞に発現する受容体が架橋されることにより、癌抗原非依存的な各種サイトカインの発現を誘導することが知られている。こうしたサイトカインの発現の誘導は、trifunctional 抗体の全身投与によるサイトカインストーム様の副作用の発生につながるものと考えられる。実際、非小細胞肺癌患者に対する catumaxomab の全身投与による第一相臨床試験においては、5μg/body という極めて低い用量が最大許容投与量であり、それ以上の用量の投与により様々な重篤な副作用が起こることが報告されている。こうした低い用量の catumaxomab の投与によっては、その有効血中濃度には到底達し得ない。すなわち、こうした低い用量の catumaxomab の投与によっては期待される抗腫瘍作用が得られない(【0007】)。一方、BiTEは catumaxomab とは異なりFcγ受容体に対する結合部位を持たないため、癌抗原非依存的にT細胞とNK細胞やマクロファー

5 ジなどに発現する受容体が架橋されることはない。そのため、catumaxomab が投与された場合に観察された癌抗原非依存的なサイトカインの誘導は起こらないことが示されている。しかしながら、BiTEはFc領域を欠く低分子量型の改変抗体分子であるために、治療用抗体として通常用いられるIgG型の抗体に比較して、患者に投与されたBiTEの血中半減期は著しく短いという問題点が存在する。実際、生体に投与されたBiTEの血中半減期は数時間程度であることが示されており、blinatumomab の臨床試験においてはミニポンプを用いた持続静脈内投与により blinatumomab の投与が行なわれている。こうした投与は患者にとって著しく利便性の悪い投与法であるばかりでなく、機器の故障などによる医療事故のリスクも潜在し、望ましい治療法であるとはいえない(【0008】)。ウ 発明が解決しようとする課題本件訂正発明は上記の情況に鑑みてなされたものであり、T細胞を標的癌細胞に近接せしめT細胞による標的癌細胞に対する細胞傷害活性を通じて癌を治療することを可能とするポリペプチド会合体、当該ポリペプチド会合体の製造方法、及び当該ポリペプチド会合体を有効成分として含む細胞傷害誘導治療剤を提供することを目的とする。また当該細胞傷害誘導治療剤を有効成分として含む、様々な癌を治療又は予防するための医薬組成物又は当該医薬組成物を用いる治療方法を提供することを目的とする(【0010】)。エ 課題を解決するための手段本発明者らは、BiTEが持つ強い抗腫瘍活性と、癌抗原非依存的にサイトカインストームなどを誘導しないという安全性上の優れた性質が維持され、かつ長い血中半減期を持つ新たなポリペプチド会合体を見出した。さらに、ポリペプチド会合体における抗原結合ドメインを置換す

5 ることにより、当該ポリペプチド会合体が様々な細胞を標的として細胞傷害をもたらすことを見出した。本発明者らは、かかる発見に基づいて、本発明に係るポリペプチド会合体が癌細胞を傷害することを明らかにした。また、ポリペプチド会合体に、CH1/CL界面会合制御導入及びKnob into Hole(KiH)改変を導入することで、さらに効率よく細胞傷害をもたらすことを見出した。また、本発明者らは、本発明に係るポリペプチド会合体を有効成分とする細胞傷害誘導治療剤が、様々な癌を治療又は予防することを見出した(【0011】)。オ 発明の効果本件訂正発明によって、BiTEが持つ強い抗腫瘍活性と、癌抗原非依存的にサイトカインストームなどを誘導しないという安全性上の優れた性質が維持され、かつ長い血中半減期を持つ新たなポリペプチド会合体が提供された。本件訂正発明のポリペプチド会合体における抗原結合ドメインを置換することにより、当該ポリペプチド会合体を有効成分として含む細胞傷害誘導治療剤が癌細胞を含む様々な細胞を標的として細胞傷害をもたらし、様々な癌を治療又は予防することができる。患者にとっても、安全性が高いばかりでなく、身体的負担が少なく利便性も高いという、望ましい治療ができるようになる(【0014】)。3 本件審決の理由の要旨本件審決の理由の要旨を以下に示す。

(1) 無効理由1(甲2に基づく新規性欠如)及び無効理由2(甲2に基づく進歩性欠如)についてア 甲第2号証に記載された発明本件審決が認定した甲第2号証(本件審判での甲2。以下、本件審判での証拠番号を「〔甲●〕」などと記す。)に記載された発明(以下「甲2発明」という。甲2の記載(訳文)の抜粋を別紙3に掲げる。)は、以下

5 のとおりである。「IgG1抗体のFc領域からのCH2部分を含み、299Kおよび297D(EU付番慣例)からなる群から選択される1つまたはそれ以上のアミノ酸位置に、1つまたはそれ以上の安定化アミノ酸変異を含み、前記安定化アミノ酸変異を欠く親ポリペプチドと比較して、FcγRI、FcγRII、FcγRIIIからなる群から選択されるFc受容体への低下した結合を有し、腫瘍細胞抗原に対する少なくとも1つのアーム、および細胞毒性誘引分子に対する少なくとも1つのアームを有する二重特異性結合抗体である、安定化ポリペプチド。」イ 本件訂正発明1と甲2発明との対比本件訂正発明1と甲2発明の一致点及び相違点は、以下のとおりである。(一致点)

(1)癌抗原結合ドメイン、

(2)Fc領域を含むドメイン、及び、

(3)T細胞受容体複合体結合ドメイン、を含むポリペプチド会合体であって、該T細胞受容体複合体結合ドメインがFabであり、以下の(e)からなるポリペプチド会合体:(e)癌抗原結合ドメインを構成する一価のFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域を構成する一方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結され、T細胞受容体複合体結合ドメインを構成するFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域を構成する他方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結された、ポリペプチド会合体。

5 (相違点1)本件訂正発明1では、Fc領域を含むドメインが「配列番号:23に記載のFc領域を構成するアミノ酸が変異しているFc領域であって、IgG1抗体のFc領域(配列番号:23)を有するポリペプチド会合体と比較して、Fcγ受容体に対する結合活性が低下している」ものであり、「該Fc領域を構成するアミノ酸のうち、EUナンバリングに従って特定される265位のアスパラギン酸がアラニンに変異している」のに対し、甲2発明では、「IgG1抗体のFc領域からのCH2部分を含み、299Kおよび297D(EU付番慣例)からなる群から選択される1つまたはそれ以上のアミノ酸位置に、1つまたはそれ以上の安定化アミノ酸変異を含み、前記安定化アミノ酸変異を欠く親ポリペプチドと比較して、FcγRI、FcγRII、FcγRIIIからなる群から選択されるFc受容体への低下した結合を有」する点。(相違点2)本件訂正発明1では、「該変異しているFc領域を構成する二つのポリペプチドの配列が互いに異なる配列を有する」のに対し、甲2発明では、上記のような特定がされていない点。ウ 相違点1についての判断甲第2号証には、低下したFcγR結合親和性を有するFcポリペプチド(例えば、低下したFcγRI、FcγRIIa、FcγRIIIa結合親和性)が有する23か所のアミノ酸の置換位置の候補の1つとして265位が例示されている(【0230】)が、段落【0230】以外において、Fcポリペプチドの265位のアミノ酸を置換する旨の記載は一切存在せず、実施例においても265位のアミノ酸に置換を有するポリペプチドは製造されていない。また、甲第2号証の段落【0275】のアラニンで置換する旨の記載が、段落【0230】で例示された

5 265位におけるアミノ酸置換に向けられたものと解することはできないので、甲2発明において、Fc領域を構成するアミノ酸のうち、EUナンバリングに従って特定される265位のアスパラギン酸をアラニンに変異させることが甲第2号証に記載されているとはいえない。よって、本件訂正発明1は、少なくとも相違点1において甲2発明と異なるから、甲第2号証に記載されたものではない。また、甲第7号証(〔甲7〕)のTable1には、D265AはFcγ受容体への結合を低下させる変異であることが示されているといえるが、同Table1には、265位以外にも多数のアミノ酸位置が掲載されており、しかも、これらのアミノ酸位置には甲第2号証の段落【0230】に掲載されていないもの、また、逆に、段落【0230】で掲載されたアミノ酸位置にはTable1に掲載されていないものが存在することから、甲第7号証のTable1にあるD265Aという記載が、甲2発明のFc領域において、特に265位のアミノ酸に着目し、265位のアミノ酸をアラニンで置換することを当業者に動機付けるものであるとは認められない。さらに、甲第1号証 (〔甲1〕)、甲第6 号証(〔甲6〕)、甲 第8号証(〔甲8〕)、甲第9号証(〔甲9〕)の記載及び本件優先日の技術常識を参酌しても、甲2発明のFc領域を構成するアミノ酸のうち265位のアミノ酸をアラニンで変異させることを当業者に動機付けるとは認められない。そうすると、甲2発明において、甲第2号証、甲第7号証、甲第1号証、甲第6号証、甲第8号証、甲第9号証までの記載に接した当業者が、上記の相違点1として挙げた本件訂正発明1の発明特定事項を採用することを容易に想到し得るとはいえない。エ 相違点についての判断のまとめ

5 以上からすると、本件訂正発明1は、相違点2について検討するまでもなく、甲第2号証に記載された発明とはいえず、本件訂正発明1は、甲2発明と甲第2号証、甲第7号証、甲第1号証、甲第6号証、甲第8号証、甲第9号証までに記載された事項及び本件優先日の技術常識に基づき当業者が容易に発明をすることができたものではない。オ 本件訂正発明2から18まで、23から25まで、27から70までについて本件訂正発明2から18まで、27から40までは、いずれも本件訂正発明1を直接的又は間接的に引用するものであるから、本件訂正発明1と同様の理由により、甲第2号証に記載された発明とはいえず、甲2発明と甲第2号証、甲第7号証、甲第1号証、甲第6号証、甲第8号証、甲第9号証に記載された事項及び本件特許の優先日の技術常識に基づき当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。一方、独立請求項である本件訂正発明23、24、41、53、65は、いずれも、上記の相違点1として挙げた本件訂正発明1の発明特定事項を含むものであるから、本件訂正発明23、24、41、53、65及びこれらの発明を直接的又は間接的に引用する本件訂正発明25、42から52まで、54から64まで、66から70までも、本件訂正発明1に対するものと同様の理由により、甲第2号証に記載された発明とはいえず、甲2発明と甲第2号証、甲第7号証、甲第1号証、甲第6号証、甲第8号証、甲第9号証までに記載された事項及び本件特許の優先日の技術常識に基づき当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2) 無効理由3(甲10に基づく新規性欠如)及び無効理由4(甲10に基づく進歩性欠如)についてア 甲第10号証に記載された発明

5 本件審決が認定した甲第10号証(〔甲10〕)に記載された発明(以下「甲10発明」という。甲10の記載(訳文)の抜粋を別紙4に掲げる。)は、以下のとおりである。「抗FcRH5アームと、CD3といったT細胞受容体分子と結合するアームとが組合された、ヒト化抗体である、全長抗体の二重特異性抗体。」イ 本件訂正発明1と甲10発明との対比本件訂正発明1と甲10発明の一致点及び相違点は、以下のとおりである。(一致点)

(1)癌抗原結合ドメイン、

(2)Fc領域を含むドメイン、及び、

(3)T細胞受容体複合体結合ドメイン、を含むポリペプチド会合体であって、該T細胞受容体複合体結合ドメインがFabであり、以下の(e)からなるポリペプチド会合体:(e)癌抗原結合ドメインを構成する一価のFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域を構成する一方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結され、T細胞受容体複合体結合ドメインを構成するFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域を構成する他方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結された、ポリペプチド会合体(相違点3)本件訂正発明1では、Fc領域を含むドメインが「配列番号:23に記載のFc領域を構成するアミノ酸が変異しているFc領域であって、IgG1抗体のFc領域(配列番号:23)を有するポリペプチド会合体と比較して、Fcγ受容体に対する結合活性が低下している」もので

5 あり、「該Fc領域を構成するアミノ酸のうち、EUナンバリングに従って特定される265位のアスパラギン酸がアラニンに変異している」のに対し、甲10発明では、上記のような特定がされていない点。(相違点4)本件訂正発明1では、「該変異しているFc領域を構成する二つのポリペプチドの配列が互いに異なる配列を有する」のに対し、甲10発明では、上記のような特定がされていない点。ウ 相違点3についての判断甲第10号証には、副作用又は治療的合併症を最小限にするために、エフェクター機能を排除するか又は低減することが望ましい場合、ある種の他のFc領域が用いられ得ることが記載され(【0744】)、甲第10号証の段落【0636】には、抗FcRH5抗体上に存在する炭水化物部分の除去が、グリコシル化の標的として役立つアミノ酸残基をコードするコドンの突然変異置換によっても成し遂げられ得ることが、化学的に又は酵素的に脱グリコシル化する方法とともに示唆されている。しかし、甲第10号証には、特にグリコシル化及びエフェクター機能が必要とされない場合、全長抗体が細菌中で産生され得、大腸菌中での産生は、より速く、且つより費用効率が高いこと(【0651】)が記載され、甲第10号証の実施例11には、FcRH5二重特異性抗体の産生について、大腸菌を用いて抗体を発現させることが記載されるので、甲第10号証では、エフェクター機能を排除又は低減させる手段として、大腸菌といった細菌を用いる方法が採用されており、上記の「アミノ酸残基をコードするコドンの突然変異置換」による方法、すなわち、Fc領域を構成するアミノ酸を変異する方法は敢えて採用されていない。また、甲第10号証には、Fc領域のうち、特に265位のアミノ酸に着目し、265位のアミノ酸をアラニンで置換することを示唆する記

5 載は存しない。そうすると、本件訂正発明1は、少なくとも相違点3において甲10発明と異なるから、甲第10号証に記載されたものではない。また、甲第1号証から甲第7号証までには、抗体のFc領域にアミノ酸変異を導入することで、エフェクター機能を減少させることが記載されているが、Fc領域の特に265位のアミノ酸に着目し、265位のアミノ酸をアラニンで置換することを当業者に動機付ける記載や示唆は見当たらないし、甲第8号証及び甲第9号証には、抗体のFc領域にアミノ酸変異を導入することで、エフェクター機能を減少させることに関する記載はない。そうすると、甲第1号証から甲第10号証の記載及び本件優先日の技術常識を参酌しても、甲第10号証において示唆に止まる、グリコシル化の標的として役立つアミノ酸残基をコードするコドンの突然変異置換による方法を、甲10発明で敢えて採用し、さらに、この方法の採用を前提に、甲10発明のFc領域を構成するアミノ酸の265位のアスパラギン酸をアラニンに変異させることを当業者が動機付けられるとは認められない。したがって、甲10発明において、甲第1号証から甲第10号証までの記載に接した当業者が、上記の相違点3として挙げた本件訂正発明1の発明特定事項を採用することを容易に想到し得るとはいえない。エ 相違点についての判断のまとめ以上により、本件訂正発明1は、相違点4について検討するまでもなく、甲第10号証に記載された発明とはいえず、甲10発明と甲第1号証から甲第10号証までに記載された事項及び本件優先日の技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。オ 本件訂正発明2から18まで、23から25まで、27から40までに

5 ついて本件訂正発明2から18まで、27から40までは、いずれも本件訂正発明1を直接的又は間接的に引用するものであるから、本件訂正発明1と同様の理由により、甲第10号証に記載された発明とはいえず、甲10発明と甲第1号証から甲第10号証までに記載された事項及び本件優先日の技術常識に基づき当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。一方、独立請求項である本件訂正発明23、24、41、53、65は、いずれも、上記の相違点3として挙げた本件訂正発明1の発明特定事項を含むものであるから、本件訂正発明23、24、41、53、65及びこれらの発明を直接的又は間接的に引用する本件訂正発明25、42から52まで、54から64まで、66から70までも、本件訂正発明1に対するものと同様の理由により、甲第10号証に記載された発明とはいえず、甲10発明と甲第1号証から甲第10号証までに記載された事項及び本件優先日の技術常識に基づき当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3) 無効理由5(サポート要件違反)について本件訂正発明は、TR抗体である trifunctional 抗体やBiTEが備える技術課題に鑑み、提案されたものであり、「BiTEが持つ強い抗腫瘍活性と、癌抗原非依存的にサイトカインストームなどを誘導しないという安全性上の優れた性質を維持し、かつ長い血中半減期を持つ、T細胞による標的癌細胞に対する細胞傷害活性を通じて癌を治療することを可能とするポリペプチド会合体を提供すること」を課題としたものであると認められる。そして、本件訂正発明のポリペプチド会合体は、実施例の記載より、BiTEが持つ強い抗腫瘍活性を備えたものであることを当業者は理解できる(無効理由5-1、(a)~(e)の会合体の抗腫瘍活性)。

5 また、本件訂正発明のポリペプチド会合体は、「IgG1抗体のFc領域(配列番号:23) を有するポリペプチド会合体と比較して、Fcγ受容体に対する結合活性が低下している、Fc領域」を備えており、癌抗原非依存的にサイトカインストームなどを誘導しないという安全性上の優れた性質を維持していることを当業者は理解できる(無効理由5-2、Fc領域のアミノ酸変異)。さらに、本件訂正発明のポリペプチド会合体は、Fc領域を有するものであり、実施例3でも確認されたとおり、長い血中半減期を持つものである。そうすると、本件訂正発明は、本件明細書の記載及び本件特許の出願時の技術常識を踏まえると、上記課題を解決できることを当業者が認識できるものであるから、特許請求の範囲の記載が、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしている。

(4) 無効理由6(実施可能要件違反)について上記で検討したとおり、本件訂正発明のポリペプチド会合体を製造し、それを使用することに、過度の試行錯誤、実験を要するとは認められないので、本件訂正発明は、発明の詳細な説明の記載が、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしているといえる。4 原告が主張する本件審決の取消事由

(1) 取消事由1(甲2に基づく新規性・進歩性欠如に係る認定・判断の誤り)

(2) 取消事由2(甲10に基づく新規性・進歩性欠如に係る認定・判断の誤り)

(3) 取消事由3(サポート要件違反に係る判断の誤り)

(4) 取消事由4(実施可能要件違反に係る判断の誤り)

第3 当事者の主張

当事者双方の主張は、別紙5「当事者の主張」に記載のとおりである。以下に、その要旨を掲げる。

5 1 取消事由1(甲2に基づく新規性・進歩性欠如に係る認定・判断の誤り)

について【

(原告の主張)

】

(1) 甲2発明の認定の誤り

ア 相違点1がないこと本件審決は、甲第2号証の記載に関し、①前記アミノ酸変異を欠く親ポリペプチド(IgG1抗体)と比較してFcγ受容体に対する結合活性が低下していることの記載を認めた一方で、②IgG1のFc領域を構成するアミノ酸においてD265A変異が生じていることの記載は認めなかった(相違点1)。しかし、上記②は、甲第2号証の段落【0269】から【0275】までに記載されている。甲2発明にいう「安定性」は、Fc領域のうち「EU付番慣例によるアミノ酸位置・・・262~266、・・・」等のアミノ酸を変異させる(置換する)ことで達成でき、かつ、「変異は、アラニン(A)による置換である」というアプローチも示されていた(【0269】~【0275】)。そして、上述の記載で、本件訂正発明の請求項1の「該Fc領域を構成するアミノ酸のうち、EUナンバリングに従って特定される265位のアスパラギン酸がアラニンに変異している」という構成要件が開示されていることは、当業者の理解に照らして明らかであった。そして、甲第2号証には、「低下したエフェクタ機能」を実現しつつも「安定性」をも満たした、Fc領域内にアミノ酸変異を有する抗体が、具体的な技術的思想として示されており、甲2発明の「低下したエフェクタ機能」は、「FcγRI、FcγRII、およびFcγRIIIからなる群から選択されるFc受容体(FcR)への低下した結合」により実現されることも示されていた(【0034】、【0230】)。かかるFc

5 γ受容体に対する結合能の低下は、①Fc領域のうちEU付番で「・・・2

65、・・・」のいずれかの位置のアミノ酸の少なくとも1つを変異させる(置換する)か(【0230】)、又は②「エフェクタ機能の変化を与えることが周知の当技術分野において承認されている置換を使用」する(【0222】、【0223】)、などといった手法で達成できることが示されていた。以上の説明のとおり、当業者が甲第2号証の記載全体を通じて甲2発明を理解すれば、甲2発明は、審決が相違点1として認定した具体的な技術的思想をも含むものであることが理解できた。よって、相違点1は認められない。イ 相違点2がないこと本件審決は、本件訂正発明1と甲2発明の対比において、相違点2を認定し、甲2発明が、変異しているFc領域を構成する二つのポリペプチドの配列が互いに異なる配列を有するものであることを認定しなかった。しかし、甲第2号証の段落【0128】には「2つの非同一のFc部分のヘテロ二量体であり得る」こと、段落【0207】には「本発明のポリペプチドは、異なる配列組成である少なくとも2つのFc部分を含むFc領域(すなわち、本明細書において「異種Fc領域」と称される。)を含むことができる」ことが記載されている。また、段落【0485】では、いわゆる「Knob into Hole」の説明があり、これは「異種Fc領域」の具体的実施形態の1つが、その導入根拠と共に、説明されていることに他ならない。よって、相違点2は認められない。ウ 被告主張の更なる相違点が存在しないこと被告は、甲2発明には「癌抗原及びT細胞受容体複合体に結合する」

5 「典型的なWhole IgG型の二重特異性抗体」が記載されていな

いと主張し、この点を更なる相違点(以下「相違点A」という。)として認定すべきであると主張する。しかし、甲第2号証には「典型的なWhole IgG型の」「抗体」が記載されており、完全長抗体などは抗体の最たる例であるから、甲第2号証には、完全長抗体であるIgG型の抗体が記載されていることは明らかである。そして、甲第2号証の段落【0391】及び【0392】には、「腫瘍細胞抗原に対する少なくとも1つのアーム、および細胞毒性誘引分子に対する少なくとも1つのアームを有する二重特異性の変化した結合タンパク質」として、CD3(T細胞受容体複合体の一部を構成する補助分子)と癌抗原に結合する二重特異性抗体が具体例により多数列挙されている。よって、上記相違点Aは認められない。

(2) 本件訂正発明1と甲2発明の相違点の認定(新規性があると判断したこ

と)の誤り上記のとおり、本件審決が認定した相違点1及び2は認められないから、本件訂正発明1について、新規性は認められない。

(3) 進歩性の判断の誤り

ア 仮に、本件審決の認定する相違点1が存在したとしても、以下に述べるとおり、甲第7号証等の副引例及び周知技術又は技術常識から、当業者において相違点1に係る本件訂正発明1の構成を容易に想到することができた。イ 被告は、本件優先日当時のTR抗体を研究する当業者にとって、Fcγ受容体への結合を介したエフェクター機能がTR抗体における技術的特徴として不可欠なものとして認識されていたことは明らかであるなどと主張しているが、本件優先日当時において、被告が主張するような当業

5 者における共通認識はなかった。

(4) 小括

以上のとおり、本件審決は、甲2発明の認定、甲第2号証に基づく本件訂正発明1の新規性・進歩性に関する認定及び判断のいずれも誤っており、その結果、本件訂正発明2から18まで、23から25まで及び27から70までについての新規性・進歩性の欠如を認めなかった本件審決の結論も誤りである。【

(被告の主張)

】

(1) 甲2発明の認定について

ア

(原告の主張)

について原告は、本件審決が認めた相違点1及び2がないと主張しているが、このような主張は、本件訂正発明の構成要件に合致するよう、甲第2号証の広範な記載の中に散らばる膨大な数の選択肢、更には引用文献外の内容から、都合の良い要素を拾い出して組み合わせることによって甲2発明を認定しようとするものであって、引用発明の認定として許されない、誤ったものである。甲第2号証には、原告が主張するような構成を有する発明が記載されているとはいえず、相違点1及び2は認められる。イ 本件審決が看過した相違点Aも存在すること本件審決は、誤って過剰に一致点を認定しており、一致点で認定した(e)の構成は甲第2号証に開示されていない。本件審決は、甲2発明として、「腫瘍細胞抗原に対する少なくとも1つのアーム、および細胞毒性誘引分子に対する少なくとも1つのアームを有する二重特異性結合抗体である、安定化ポリペプチド」を認定した上で、この部分を、本件訂正発明の「癌抗原結合ドメインを構成する一価のFabの重鎖Fv断片がCHl領域を介してFc領域を構成する一方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結され、T細胞受容体複

5 合体結合ドメインを構成するFabの重鎖Fv断片がCHl領域を介し

てFc領域を構成する他方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結された、ポリペプチド会合体」との一致点としたが、何らの構造上の限定もない「ポリペプチド」は上位概念であり、これをもって下位概念である特定の構成の「ポリペプチド会合体」に該当するとしていることのみからして、誤りである。そして、甲第2号証の段落【0390】から【0392】までには、極めて多数の「多特異性結合ポリペプチド」が抽象的に例示列挙されているのみであり、ここには、二重特異性抗体が結合する抗原の点も含め、具体的な技術思想としての発明の開示はないから、ここから「癌抗原及びT細胞受容体複合体に結合するWhole IgG型の二重特異性抗体」を認定することはできない。よって、本件訂正発明1と甲2発明には、以下の更なる相違点Aが認められる(同相違点を踏まえて正しく認定されたものを、以下「甲第2号証に記載された発明」という。)。<相違点A>本件訂正発明1では、「(1)癌抗原結合ドメイン及び(3)T細胞受容体複合体結合ドメインを含むポリペプチド会合体であって、T細胞受容体複合体結合ドメインがFabであり、癌抗原結合ドメインを構成する一価のFabの重鎖Fv断片がCHl領域を介してFc領域を構成する一方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結され、T細胞受容体複合体結合ドメインを構成するFabの重鎖Fv断片がCHl領域を介してFc領域を構成する他方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結された、ポリペプチド会合体」であるのに対し、甲2発明はそのような構成を有しない点。

5 ウ 二重特異性のT細胞リクルート抗体に関する技術常識

甲第2号証に記載された発明の認定に関し、本件特許出願時には、癌を治療することを目的とする二重特異性のT細胞リクルート抗体(TR抗体)においては、Fcγ受容体への結合を介したエフェクター機能が重要であることが技術常識であった。これを前提に、進歩性についても検討すべきである。

(2) 甲第2号証に記載された発明に基づく新規性欠如の主張について

本件訂正発明1と甲第2号証に記載された発明との間には、相違点1、相違点2及び相違点Aが存在するから、本件訂正発明1は、甲第2号証に記載された発明とはいえない。よって、原告の甲第2号証に記載された発明に基づく新規性欠如の主張も失当である。

(3) 甲第2号証に記載された発明に基づく進歩性欠如の主張について

ア 本件審決が正しく認定したように、甲第2号証に甲第7号証を組み合わせる動機付けは全く存在していない。甲第2号証に記載された発明は、「改善された安定性」を提供することを課題とし、安定性に着目したものであり、甲第2号証の段落【0223】で言及されている国際公表第WO00/42072A2(甲31の2)には、安定性の観点から評価したデータは一切開示されていないから、甲第31号証の2に記載される発明を安定性の改善を目的とする甲2発明に適用するための動機付けは存在しない。本件訂正発明1は、甲第2号証に記載された発明と副引例及び本件優先日の技術水準に基づいて当業者が容易に想到できたものであるとはいえない。イ 仮に、相違点Aが認められず、本件審決における甲2発明の認定を前提にしても、相違点1が認められ、多数記載されたFcγRへの結合能を低下させる変異(結合能の低下の程度の異なる様々な変異が存在する)の中から、相違点1に係るFcγRへの結合能を顕著に低下させるD2

5 65Aを選択できた事情があったということができず、本件訂正発明に

甲第2号証、甲第7号証、甲第31号証の2から容易に想到し得たということはできない。ウ 以上のとおり、本件訂正発明1は、甲第2号証に記載された発明と、甲

第2号証、甲第7号証、甲第31号証の2(原告が主張する周知技術)

及び本件優先日の技術水準から、当業者が容易に発明をすることができたものであったということはできないから、取消事由1のうちの甲第2号証に基づく進歩性欠如に関する

(原告の主張)

は理由がない。

2 取消事由2(甲10に基づく新規性・進歩性欠如に係る認定・判断の誤り)

について【

(原告の主張)

】

(1) 本件審決は、甲10発明と本件訂正発明1の間において、D265A変

異に係る相違点3を認定したが、甲第10号証(訳文)の段落【0744】に「・・・代替的には、副作用または治療的合併症を最小限にするために、エフェクター機能を排除するかまたは低減することが望ましい場合、ある種の他のFc領域が用いられ得る。」と示唆されていることからすれば、甲第10号証に甲第2号証及び甲第7号証の記載並びに甲第31号証の1及び2に記載された周知技術又は技術常識を適用し、エフェクター機能を排除するためにFcγR結合親和性を低下させるものとしてD265A変異を導入することは、甲第10号証に記載されているに等しいか、容易に想到することができた事項といえる。すなわち、上記記載にはエフェクター機能に関連しない機序で細胞傷害性を誘導する場合も当然に含まれ、TR抗体一般がこれに該当する。そして、この場合に技術常識として知られていたD265Aを「エフェクター機能を排除するかまたは低減する」ために導入すればよい。さらに、甲第10号証の段落【0084】と段落【0744】を合わせれば、アミノ酸置換による

5 エフェクター機能の低下を読み取れ、それが二重特異性抗体にも適用される。

他にも甲第10号証の段落【0651】は「特に、グリコシル化およびFcエフェクター機能が必要とされない場合、例えば、治療用抗体が細胞傷害性物質(例えば、毒素)と接合され、免疫接合体それ自体が腫瘍細胞崩壊において有効性を示す場合」と記載され、TR抗体がまさにこれに該当する。そして、実施例11で、唯一二重特異性抗体が作製されており、これはTR抗体である。してみれば、甲第10号証において二重特異性抗体とはTR抗体が基本的には想起されていたものであり、このような二重特異性TR抗体にアミノ酸置換によるエフェクター機能の低下を導入することも明確に記載されていたということができる。したがって、甲第10号証に記載されるエフェクター機能の低下の一環として、「C1q結合および補体依存性細胞傷害性」の低下を実現するために、甲第10号証のガイダンスに従って甲第52号証記載のD265A変異を導入することは、甲第10号証に記載されているに等しいか、容易に想到することができた事項といえる。

(2) また、本件審決は、相違点4として、「本件訂正発明1では、『該変異し

ているFc領域を構成する二つのポリペプチドの配列が互いに異なる配列を有する』のに対し、甲10発明では、上記のような特定がされていない点。」と認定したが、甲第10号証の段落【0423】には「ヘテロ接合体抗体も、本発明の範囲内である」ことが記載されているから、本件審決は相違点4を誤って認定したものである。さらに、甲第10号証では、「ヘテロ多量体形成を行なうために用いる戦術」として、Knob into Hole は開示されており(【0922】)、これが「ごくごく抽象的な記載」であるはずがない。

(3) したがって、本件審決は、本件訂正発明1について甲第10号証に基づ

く新規性・進歩性に関する認定及び判断のいずれも誤っており、その結果、本件訂正発明2から18まで、23から25まで及び27から70までにつ

5 いての新規性・進歩性の欠如を認めなかった本件審決の結論も誤りである。

【

(被告の主張)

】

(1) 原告は、D265A変異に係る審決の相違点3について、甲第10号証

の段落【0744】に示唆があるなどとするが、そもそも、段落【0744】には、Fc領域内の265位のアスパラギン酸(D)をアラニン(A)に変異させることの示唆など全くない。ここでは、「代替的には…ある種の他のFc領域が用いられ得る」として、「適切なFc領域」を「ある種の他のFc領域」に替えることが抽象的に記載されているだけである。その内の265位のアスパラギン酸(D)を選択してアラニン(A)に変異させることの示唆など、全く存在しない。D265A変異は、FcγRへの結合能を顕著に低下させる変異であるが、そのような変異を採用することの動機付けは甲

第2号証及び甲第10号証のどこにも見出すことができない。

また、甲第10号証において、アミノ酸置換をエフェクター機能に関連付けた記載は段落【0425】のみであり、そこでは確かに、エフェクター機能操作を行う方法として、アミノ酸置換を導入することが記載されているが、当該段落では、「抗源依存性細胞媒介性細胞傷害性(ADCC)および/または補体依存性細胞傷害性(CDC)を増強するため」(当裁判所注:甲第10号証の対応日本語文献である「特表2012-522512号公報」では、「抗源依存性細胞媒介性細胞傷害性(ADCC)」と記載されているが、「抗体依存性細胞媒介性細胞傷害性(ADCC)」の誤りである。)にアミノ酸置換を行うのであり、エフェクター機能を低下させるためにアミノ酸置換を行うのではない。甲第10号証には、エフェクター機能を低下させるためのアミノ酸置換は全く記載されていないのであるから、甲第7号証等の他の文献とを組み合わせる動機付けは一切存在しない。さらに、本件審決が正しく認定したとおり、甲第1号証から甲第10号証までの記載及び本件優先日の技術常識を参酌しても、甲第10号証におい

5 て示唆に止まる、グリコシル化の標的として役立つアミノ酸残基をコードす

るコドンの突然変異置換による方法を、甲10発明で敢えて採用し、さらに、この方法の採用を前提に、甲10発明のFc領域を構成するアミノ酸の265位のアスパラギン酸をアラニンに変異させることを当業者が動機付けられるとは認められない。加えて、甲第10号証の段落【0744】の記載からして、甲第10号証を出発点にして本件訂正発明に至るには阻害事由があることが明白である。すなわち、原告が依拠する上記の記載は、「代替的には」(Alternatively)と明示されていることから明らかなとおり、「細胞傷害性を誘導」する技術とは異なる技術に関する記載である。本件訂正発明は、癌細胞を傷害する技術を規定したものであるから、まさに、「細胞傷害性を誘導」するものである。このように、甲第10号証では、本件訂正発明のように「細胞傷害性を誘導」する場合には、Fc領域を積極的に活用すべきことが記載されているのであり、Fc領域の活性を下げることにはむしろ阻害事由があるし、少なくとも、そのような示唆など存在しない。なお、甲第10号証の段落【0651】には、「グリコシル化およびFcエフェクター機能が必要とされない場合」の例として、「例えば、治療用抗体が細胞傷害性物質(例えば、毒素)と接合され、免疫接合体それ自体が腫瘍細胞崩壊において有効性を示す場合」とあるが、これは明らかにTR抗体と異なる技術を対象としたものである。

(2) また、相違点4についても、甲第10号証の段落【0423】には「ヘ

テロ接合体抗体も、本発明の範囲内である」との抽象的な記載があるのみで、このような抽象的な記載から「具体的な技術的思想」を認定することはできないことは明らかである。

(3) したがって、取消事由2が認められる余地はない。

3 取消事由3(サポート要件違反に係る判断の誤り)について

【

(原告の主張)

】

5 (1) アミノ酸変異について

仮に、甲第2号証と甲第7号証を組み合わせることができず、かつ前記の技術常識又は周知技術が認められないのであれば、本件訂正発明はサポート要件に違反する。すなわち、甲第7号証のTable1には、Fcγ受容体への結合が低下するものだけでなく、Fcγ受容体への結合が増加するものや、一部のFcγ受容体にのみ作用するもの、FcRn結合のみに作用し、Fcγ受容体には作用しないものなど、様々な結合特性を有するアミノ酸変異が多岐にわたって記載されているものであり、265位以外にも多数のアミノ酸位置が掲載されている。仮に、本件審決の新規性・進歩性の判断に従うのならば、それぞれの文献のFcγ受容体への結合性は判断手法が異なっていると認定されるべきであり、2つの文献の記載を併せて考慮することはできないはずである。本件審決は、周知技術又は技術常識を示す証拠の内容を新規性・進歩性とサポート要件との間で矛盾する認定を行っており、本件訂正発明は、サポートを欠いているか(新規性及び進歩性が認められる場合)、又は新規性及び進歩性を欠いている(サポートが認められる場合)。

(2) 抗腫瘍活性について

本件審決は、本件明細書の実施例7の実験は、会合体の構成による腫瘍活性の差異のみに着目したデータとして、「癌結合ドメイン」が、実施例7以外のEp-CAM及びEGFR含めたその他の癌結合ドメインである場合全体にも一般化できるとし、実施例7により、本件訂正発明の(a)及び(b)の会合体全体が、BiTEが持つ強い抗腫瘍活性を有するものであると認めることができるなどとして、サポート要件を認めた。しかし、そのような論理では、説明できない事象が本件明細書の中に認められる。本件明細書の記載から、本件訂正発明の会合体が、単にサイトカインストームを防ぐのみならず優れた抗腫瘍活性を示すことの知られていたBiTEと抗腫瘍活性において並ぶとは、当業者には理解されない。

5 【

(被告の主張)

】

(1) アミノ酸変異について

本件訂正発明は、「Fc領域を構成するアミノ酸のうち、EUナンバリングに従って特定される265位のアスパラギン酸がアラニンに変異している」との発明特定事項、すなわち「D265A変異」を規定している。そして、D265A変異は、Fc領域のFcγ受容体への結合活性を低下させる変異であるから、この変異を有することで特定された本件訂正発明1は、請求項1の(2)「配列番号:23に記載のFc領域を構成するアミノ酸が変異しているFc領域であって、IgG1抗体のFc領域(配列番号:23)を有するポリペプチド会合体と比較して、Fcγ受容体に対する結合活性が低下しているFc領域を含むドメイン」を有することを、当業者であれば十分に理解できる。そして、本件明細書では、Fc領域を有するが、Fcγ受容体への結合活性を低下させたTR抗体が効果を奏することを明らかにしている。また、本件明細書の段落【0132】には、D265A変異が明確に記載され、D265AがFcγRへの結合能を低下させること自体は、甲第7号証(Table1参照)及び甲第31号証の2(Table2参照)等から明らかである。したがって、本件訂正発明がサポート要件を充足することは明らかである。

(2) 抗腫瘍活性について

ア 原告は、本件訂正発明の課題の一つが、BiTEが持つ強い抗腫瘍活性を有することであることを前提として、本件訂正発明の範囲に、BiTEが持つ強い抗腫瘍活性を有するという課題を満たさない発明が含まれるなどと主張するが、本件訂正発明の課題は、正しくは、本件明細書の段落【0004】から【0008】までに記載された情況に鑑みて、「T細胞を標的癌細胞に近接せしめT細胞による標的癌細胞に対する細胞傷害活性を通じて癌を治療することを可能とするポリペプチド会合体、当

5 該ポリペプチド会合体の製造方法、および当該ポリペプチド会合体を有

効成分として含む細胞傷害誘導治療剤を提供すること」、及び「当該細胞傷害誘導治療剤を有効成分として含む、様々な癌を治療または予防するための医薬組成物または当該医薬組成物を用いる治療方法を提供すること」である(【0010】)。そして、本件訂正発明は、BiTEが生体に投与された場合の短い血漿中半減期が改善され、且つ癌抗原非依存的なサイトカイン放出症候群(CRS)等の重篤な副作用が低減された、T細胞を標的癌細胞に近接せしめ、T細胞による標的癌細胞に対する細胞傷害活性を通じて癌を治療することを可能とするポリペプチド会合体を提供しているから、本件訂正発明の課題を解決していることは明らかである。イ 仮に、本件訂正発明の課題の一つに、「BiTEが持つ強い抗腫瘍活性を有する」ことも含まれるとした場合であっても、本件審決の認定のとおり、本件訂正発明がBiTEが持つ強い抗腫瘍活性を奏することは、本件明細書から理解できる。それゆえ、この点においても、

(原告の主張)

は、失当である。

4 取消事由4(実施可能要件違反に係る判断の誤り)について

【

(原告の主張)

】当業者は、本件訂正発明の全てについて、FcγR結合親和性が低下している(それがゆえにサイトカインストームを抑制できる)と同時に、BiTEが持つ強い抗腫瘍活性を有することを、本件明細書及び技術常識から理解することはできないから、本件訂正発明の構造を決定・生産・使用するには、過度の試行錯誤を要し、本件訂正発明は実施可能要件に違反する。【

(被告の主張)

】取消事由4の実施可能要件違反について、原告は、実質的には取消事由3のサポート要件違反の主張と同一の内容を述べるにすぎず、取消事由3と同様、

5 理由がないことは明らかである。

第4 当裁判所の判断

事案に鑑み、取消事由2について判断する。

1 取消事由2のうちの甲第10号証に基づく新規性欠如に係る認定・判断の誤りについて

(1)ア 原告は、相違点3(265位のアスパラギン酸がアラニンに変異しているかについての相違)に関し、甲第10号証の段落【0744】において「抗体は、Fc領域で修飾されて、所望のエフェクター機能を提供し得る。・・・代替的には、副作用または治療的合併症を最小限にするために、エフェクター機能を排除するかまたは低減することが望ましい場合、ある種の他のFc領域が用いられ得る。」と記載されており、甲第2号証、甲

第7号証並びに甲第31号証の1及び2に記載された周知技術又は技術常

識を適用すれば、D265A変異を導入することは、甲第10号証に記載されているに等しい(新規性の欠如)と主張する。イ しかし、甲第10号証の段落【0744】には、エフェクター機能を排除するか又は低減することが望ましい場合に「ある種の他のFc領域」が用いられ得ることが記載されているのみであり、この「ある種の他のFc領域」が具体的にいかなるものであるかは明らかにされていない。仮に、Fcγ受容体結合親和性を低下させ、エフェクター機能を低下させるものの1つとして、Fc領域におけるD265A変異が周知技術又は技術常識であったとしても、この「ある種の他のFc領域」として、特定の変異であるD265A変異が記載されているとか、記載されているに等しいとかまでいうことはできない。ウ これに対し、 甲第10 号証の段落【0142】において引用されるIdusogie et al. J. Immunol. 16 4: 4178-4184 (2000)(甲52)には、D265A置換がC1q結合を重度に阻害し、補体依存性細胞傷害活性

5 を低下させたことが記載されている。しかし、上記段落には、「変更されたFc領域アミノ酸配列を有するポリペプチド変異体(変異体Fc領域を有するポリペプチド)、ならびに増大されたまたは低減されたClq結合能力は、例えば米国特許第6,194,551 B1号およびWO 1999/51642に記載されている。例えば、Idusogie et al. J. Immunol. 164: 4178-4184 (2000)も参照されたい。」と記載されているのみであり、ここで引用される文献(甲52)に、増大された又は低減されたC1q結合能力を有するFc領域における何らかの変異が開示されていることを漠然と理解することはできるものの、D265A変異がC1q結合を阻害するものであるというような具体的かつ特定の技術的事項については、甲第52号証自体を確認しなければ把握することができない。そうすると、そのように引用される文献自体を確認しなければ把握できないような具体的かつ特定の技術的事項までもが、甲第10号証に記載された事項であるとは到底いえない。エ 以上により、本件審決が認定した相違点3は認められる。

(2)ア 次に、原告は、相違点4(本件訂正発明1では、「該変異しているFc領域を構成する二つのポリペプチドの配列が互いに異なる配列を有する」のに対し、甲10発明では、上記のような特定がされていない点)に関し、甲第10号証の段落【0423】には「ヘテロ接合体抗体も、本発明の範囲内である」ことが記載されており、段落【0922】でも「ヘテロ多量体形成を行なうために用いる戦術」として、Knob into Hole が開示されているから、本件審決は相違点4を誤って認定したものであり、かかる相違点は存在しないと主張する。イ そこで検討するに、甲10発明の請求項195では、「空洞への隆起(protuberance-into-cavity)抗体である請求項194記載の抗体。」と

5 記載され、甲第10号証の段落【0423】には「ヘテロ接合体抗体も、本発明の範囲内である」ことが記載されている。そして、段落【0922】でも「ヘテロ多量体形成を行なうために用いる戦術」として、Knobinto Hole が開示され、さらに、FcRH5二重特異性抗体の産生及び特性化に係る実施例11に関する段落【0923】及び【0924】では、ヒト化抗CD3軽鎖(L)及び重鎖(H)変異体をコードする大腸菌発現プラスミドを構築し、ヒト化抗CD3H鎖のCH3ドメイン中に隆起又は空洞を導入する突然変異を誘発し、さらに、ヒト化抗FcRH5軽鎖及び重鎖をコードする大腸菌発現プラスミドを構築し、ヒト化抗FcRH5H鎖のCH3ドメイン中に対応する空洞(抗CD3ドメインが隆起突然変異を有する場合)又は対応する隆起(抗CD3ドメインが空洞突然変異を有する場合)を導入する突然変異を誘発し、上記大腸菌発現プラスミドを適切な大腸菌株中で形質転換することにより、抗CD3/FcRH5空洞への隆起二重特異性抗体が産生されることが記載されている。ウ 以上の点、特に実施例11に関する記載からすると、甲第10号証には、「抗FcRH5アームと、CD3といったT細胞受容体分子と結合するアームとが組合された、ヒト化抗体である、全長抗体の空洞への隆起二重特異性抗体」という発明が記載されていると認められる。そうすると、本件審決は、甲10発明として、空洞への隆起抗体である点、すなわち、二重特異性抗体における一方の重鎖に隆起又は空洞を導入する突然変異を導入し、もう一方の重鎖に対応する空洞又は隆起を導入したものである点を認定しなかった点で誤りがあるものといえる。そして、空洞への隆起抗体とは、上述のとおり、二重特異性抗体における一方の重鎖に隆起又は空洞を導入する突然変異を誘発し、もう一方の重鎖に対応する空洞又は隆起を導入したものであることから、甲10発明

5 の「空洞への隆起」「抗体」は、本件訂正発明1の「Fc領域を構成する二つのポリペプチドの配列が互いに異なる配列を有する」「ポリペプチド会合体」に相当し、審決が認定した相違点4に係る構成は、一致点に含まれることとなる。そうすると、本件訂正発明1と甲10発明との対比において、本件審決が認定した相違点4は、相違点とはいえない。エ 以上に対し、被告は、相違点4が認められるとし、甲第10号証の段落【0423】にも「ヘテロ接合体抗体も、本発明の範囲内である」とのごく抽象的な記載があるのみであると主張するが、上記イで検討した同号証の請求項や段落の記載を考慮しないものであり、同主張は採用することができない。

(3) 以上によれば、相違点4は認められず、本件審決には甲10発明の認定並びに本件訂正発明1と甲10発明の一致点及び相違点の認定を誤ったものであるといえるが、前記のとおり、相違点3が認められるから、本件訂正発明1は、少なくとも相違点3において甲10発明と異なる。よって、本件訂正発明1が甲第10号証に記載されたものでない(新規性が認められる。)とした本件審決の判断に誤りはない。そして、本件訂正発明2から18まで、27から40までは、いずれも本件訂正発明1を直接的又は間接的に引用するものであり、本件訂正発明1に対するものと同様の理由により、甲第10号証に記載された発明とはいえない。また、独立請求項である本件訂正発明23、24、41、53、65は、いずれも、上記の相違点3として挙げた本件訂正発明1の発明特定事項を含むものであるから、本件訂正発明1と同様の理由により、甲第10号証に記載された発明とはいえない。そして、本件訂正発明23、24、41、53、65を直接的又は間接的に引用する本件訂正発明25、42から52まで、54から64まで、66から70までも、本件訂正発明1に対するも

5 のと同様の理由により、甲第10号証に記載された発明とはいえない。以上により、取消事由2のうち、新規性欠如に関する原告の主張は採用することができない。

2 取消事由2のうちの甲第10号証に基づく進歩性欠如に係る認定・判断の誤りについて(1) 原告は、甲第10号証の段落【0744】に「抗体は、Fc領域で修飾されて、所望のエフェクター機能を提供し得る。本明細書中の節で詳細に考察されているように、適切なFc領域を用いて、細胞表面に結合された裸抗体は、例えば抗体依存性細胞性細胞傷害性(ADCC)を介して、または補体依存性細胞傷害性において補体を動員することにより、または他のいくつかの機序により、細胞傷害性を誘導し得る。代替的には、副作用または治療的合併症を最小限にするために、エフェクター機能を排除するかまたは低減することが望ましい場合、ある種の他のFc領域が用いられ得る。」と記載されていることなどから、甲第10号証に甲第2号証及び甲第7号証の記載並びに甲第31号証の1及び2に記載された周知技術又は技術常識を適用し、エフェクター機能を排除するためにFcγR結合親和性を低下させるものとしてD265A変異を導入することは、容易に想到することができたと主張する。(2) そこで検討するに、甲10発明に係る甲第10号証に記載された二重特異性抗体(「抗FcRH5アームと、CD3といったT細胞受容体分子と結合するアームとが組合された、ヒト化抗体である、全長抗体の空洞への隆起二重特異性抗体」。前記1(2)ウ参照)については、①甲第10号証の請求項193から199まで、特に請求項197に「大腸菌宿主細胞中で産生される請求項196記載の抗体。」とあり、請求項198に「1つ以上のFcエフェクター機能を欠く請求項196記載の抗体。」とあること、②甲第10号証の段落【0050】に「別の態様では、本発明は、FcRH5を発現

5 する第一細胞と、ならびに細胞表面標的抗原を発現する第二細胞と結合し得る二重特異性抗体を提供する。一実施形態では、第二細胞はT細胞である。一実施形態では、細胞表面標的抗原はCD3である。ある実施形態では、二重特異性抗体は、空洞への隆起(protruberance-into-cavity)抗体である。一実施形態では、二重特異性抗体は非グリコシル化される。一実施形態では、二重特異性抗体は、大腸菌宿主細胞中で産生される。一実施形態では、二重特異性抗体は、1つ以上のFcエフェクター機能を欠く。一実施形態では、二重特異性抗体はADCC活性を欠く。」と記載されていること、③実施例11が「大腸菌で産生される」ものであること、④甲第10号証の段落【0651】に「グリコシル化およびFcエフェクター機能が必要とされない場合、例えば、治療用抗体が細胞傷害性物質(例えば、毒素)と接合され、免疫接合体それ自体が腫瘍細胞崩壊において有効性を示す場合、全長抗体、抗体断片および抗体融合タンパク質が細菌中で産生され得る。全長抗体は、より大きな循環中半減期を有する。大腸菌中での産生は、より速く、且つより費用効率が高い。」と記載されていることが認められる。そうすると、甲10発明の二重特異性抗体は、1つ以上のFcエフェクター機能を欠き、Fcエフェクター機能が必要とされない抗体を主として含むものと認められる。また、甲第10号証の段落【0744】に「抗体は、Fc領域で修飾されて、所望のエフェクター機能を提供し得る」、「代替的には、副作用または治療的合併症を最小限にするために、エフェクター機能を排除するかまたは低減することが望ましい場合、ある種の他のFc領域が用いられ得る」との記載もあり、抗体のエフェクター機能を低減するために修飾されたFc領域を用いることも記載されているといえる。そして、抗体におけるFcエフェクター機能を低減させる手段としては、大腸菌で発現させることのほか、Fc領域にFcγ受容体との結合親和性を低下させるアミノ酸変異を導入することが、本件優先日当時の当業者にとっ

5 て周知慣用の手段であって技術常識であったといえる(甲1の請求項1、12、【0005】、甲2の【0221】~【0223】、【0229】~【0231】、甲4、甲5、甲7のTable1、甲27、同証拠のTable2、甲31の1の請求項14~22、【0001】、甲45)。さらに、Fcγ受容体との結合親和性を低下させFcエフェクター機能を低減させるアミノ酸変異として、D265A変異も、本件優先日当時の当業者に周知であり技術常識であったと認められる(甲7のTable1、甲31の1の表6、甲40の段落22~24で引用された甲43、甲44のTable2、甲45)。そうすると、エフェクター機能を必要としない甲10発明の二重特異性抗体において、上記技術常識に基づいて、Fc領域にD265A変異を導入することは、当業者が容易に想到し得ることであると認められる。(3) そして、本件明細書においては、その実施例に関する記載をみても、D265A変異を導入した二重特異性抗体を実際に調製し、その効果を確認したことは全く記載されていないから、本件訂正発明1が、予測できないような顕著な効果を奏するものとは認められない。

(4) そうすると、本件訂正発明1は、甲10発明及び本件優先日当時の技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項により特許を受けることができない発明であると認められる。

(5)ア これに対し、被告は、甲第10号証には、エフェクター機能を低下させるためのアミノ酸置換は全く記載されておらず、D265A変異は、Fcγ受容体への結合能を顕著に低下させる変異ではあるものの、多数のFcγRへの結合能を低下させる変異の中からD265Aを選択できた事情があったということはできないと主張する。しかしながら、前記のとおり、抗体のエフェクター機能を低下させるための手段として、Fc領域にFcγ受容体との結合親和性を低下させるアミノ酸変異を導入することは、本件優先日当時の技術常識であるこ

5 とから、Fcγ受容体との結合親和性を低下させることが知られた任意のアミノ酸置換をFc領域に導入することは、当業者であれば十分に動機付けられることである。そして、前記のとおり、D265A変異を導入したことによる格別の効果は認められないのであるから、Fcγ受容体への結合能を低下させることが知られたアミノ酸置換のうち、特にD265Aを選択することによる技術的意義は明らかでなく、D265A変異を選択することは当業者の単なる設計事項にすぎないといわざるを得ない。イ(ア) 次に、被告は、甲第10号証の段落【0744】では、本件訂正発明のように「細胞傷害性を誘導」する場合には、Fc領域を積極的に活用すべきことが記載されているのであり、Fc領域の活性を下げることには阻害事由があるとも主張する。この点、上記段落には、「抗体は、Fc領域で修飾されて、所望のエフェクター機能を提供し得る。本明細書中の節で詳細に考察されているように、①適切なFc領域を用いて、細胞表面に結合された裸抗体は、例えば抗体依存性細胞性細胞傷害性(ADCC)を介して、または補体依存性細胞傷害性において補体を動員することにより、または他のいくつかの機序により、細胞傷害性を誘導し得る。②代替的には、副作用または治療的合併症を最小限にするために、エフェクター機能を排除するかまたは低減することが望ましい場合、ある種の他のFc領域が用いられ得る。」との記載がある(①、②の付番は被告の主張のとおり。)。(イ) しかしながら、甲第10号証の段落【0744】について被告が指摘する上記(ア)①の記載には、抗体は、適切なFc領域によるエフェクター機能により、細胞傷害性を誘導することができることが記載されているだけであり、細胞傷害性を誘導することができる抗体は、全てFc領域によるエフェクター機能を用いるものであると記載されてい

5 るわけではない。実際、前記(2)①から④まで、特に④の甲第10号証の段落【0651】に「グリコシル化およびFcエフェクター機能が必要とされない場合、例えば、治療用抗体が細胞傷害性物質(例えば、毒素)と接合され、免疫接合体それ自体が腫瘍細胞崩壊において有効性を示す場合、全長抗体、抗体断片および抗体融合タンパク質が細菌中で産生され得る。」と記載されているように、治療用抗体が細胞傷害性物質(例えば、毒素)と接合され、免疫接合体それ自体が腫瘍細胞崩壊において有効性を示す場合は、抗体のエフェクター機能によらず、細胞傷害性が誘導され、エフェクター機能が必要とされないことが知られている。このように、細胞傷害性を誘導する抗体には、Fc領域を介したエフェクター機能により細胞傷害性を誘導するものばかりではなく、細胞傷害性物質を結合するなどして、Fc領域を介したエフェクター機能がなくとも細胞傷害性を誘導する抗体もあるといえる。そして、本件訂正発明1のような、T細胞上のT細胞受容体複合体構成サブユニット、及び、標的である癌細胞上の抗原に結合する二重特異性抗体(TR抗体)においては、FcのFcγ受容体との結合に起因する副作用の可能性が知られていたのであり、当該副作用を最小限にするためにエフェクター機能を排除するか又は低減することが望まれていたといえる(甲50、甲51、甲54)。そうすると、本件訂正発明1のTR抗体は、上記(ア)②に該当するといえる。(ウ) これに対し、被告は、甲第10号証の段落【0651】における「グリコシル化およびFcエフェクター機能が必要とされない場合」の例としての「治療用抗体が細胞傷害性物質(例えば、毒素)と接合され、免疫接合体それ自体が腫瘍細胞崩壊において有効性を示す場合」とは、明らかにTR抗体と異なる技術を対象としたものであるとも主

5 張する。しかしながら、TR抗体について、本件明細書の段落【0003】や甲第2号証の段落【0391】及び【0392】の記載によれば、TR抗体も免疫接合体も、いずれも、腫瘍細胞と細胞傷害性物質(例えば、T細胞や毒素)に結合し、細胞傷害性物質を腫瘍細胞に接近させることにより、Fcエフェクター機能を必要とせずに抗腫瘍効果を発揮できる抗体であるという点で共通するものである。そうすると、甲第10号証の段落【0651】において「グリコシル化およびFcエフェクター機能が必要とされない場合」の例として挙げられたにすぎない「免疫接合体」が、一般的にTR抗体を指すものでないとしても、その機能面から考えて、TR抗体が上記(ア)②の場合に当たり得ることは何ら左右されない。

(6) そうすると、本件訂正発明1は、甲10発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められ、これと異なり、甲10発明において、相違点3として挙げた本件訂正発明1の発明特定事項を採用することを容易に想到し得るとはいえないとした本件審決の進歩性の判断は誤りであるといえる。

3 結論以上によれば、取消事由2のうちの進歩性欠如の点は理由があり、その余の取消事由について判断するまでもなく、原告の請求は理由があるから、本件審決を取り消すこととし、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第4部

裁判長裁判官

増 田 稔

裁判官

岩 井 直 幸

裁判官

安 岡 美 香 子

別紙1

本件特許の特許請求の範囲の記載(下線部は本件訂正によるものである。)【請求項1】

5 下記のドメイン;(1)癌抗原結合ドメイン、(2)配列番号:23に記載のFc領域を構成するアミノ酸が変異しているFc領域であって、IgG1抗体のFc領域(配列番号:23) を有するポリペプチド会合体と比較して、Fcγ受容体に対する結合活性が低下している、Fc領域を含むドメイン、及び、(3)T細胞受容体複合体結合ドメイン、を含むポリペプチド会合体であって、該T細胞受容体複合体結合ドメインがFabであり、該変異しているFc領域を構成する二つのポリペプチドの配列が互いに異なる配列を有する、以下の(a)から(f)からなる群より選ばれる一のポリペプチド会合体:(a)癌抗原結合ドメインを構成する一価のFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域を構成する一方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結され、T細胞受容体複合体結合ドメインを構成するFabの軽鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域を構成する他方のポリペプチドに連結され、当該Fabの重鎖Fv断片がCL領域と連結された、ポリペプチド会合体、(b)癌抗原結合ドメインを構成する一価のFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域を構成する一方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結され、T細胞受容体複合体結合ドメインを構成するFabの重鎖Fv断片がCL領域を介してFc領域を構成する他方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCH1領域と連結された、ポリペプチド会合体、(c)T細胞受容体複合体結合ドメインを構成する一価のFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域を構成する一方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結され、癌抗原結合ドメインを構成するFabの軽鎖Fv断片がCH1領域を介してF5 c領域を構成する他方のポリペプチドに連結され、当該Fabの重鎖Fv断片がCL領域と連結された、ポリペプチド会合体、(d)T細胞受容体複合体結合ドメインを構成する一価のFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域を構成する一方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結され、癌抗原結合ドメインを構成するFabの重鎖Fv断片がCL領域を介してFc領域を構成する他方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCH1領域と連結された、ポリペプチド会合体、(e)癌抗原結合ドメインを構成する一価のFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域を構成する一方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結され、T細胞受容体複合体結合ドメインを構成するFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域を構成する他方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結された、ポリペプチド会合体、及び(f)癌抗原結合ドメインがF(ab’)2の構造を有するドメインであり、F(ab’)2の構造を有するドメインの重鎖定常領域を構成する二つのポリペプチドがFc領域を構成する二つのポリペプチドの各々に連結され、CD3結合ドメインを構成する重鎖Fv断片がFc領域を構成する一方のCH3に連結され、CD3結合ドメインを構成する軽鎖Fv断片がFc領域を構成するもう一方のCH3に連結され、CD3結合ドメインを構成する重鎖Fv断片に抗体のCH1ドメイン、及び、軽鎖Fv断片に抗体のCLドメインが連結された、ポリペプチド会合体であり、該Fc領域を構成するアミノ酸のうち、EUナンバリングに従って特定される265位のアスパラギン酸がアラニンに変異している、ポリペプチド会合体。【請求項2】5 T細胞受容体複合体結合ドメインがT細胞受容体結合ドメインである、請求項1に記載のポリペプチド会合体。【請求項3】T細胞受容体複合体結合ドメインがCD3結合ドメインである、請求項1に記載のポリペプチド会合体。【請求項4】(1)癌抗原に結合する一価のFab構造の重鎖Fv断片がCH1領域を介して前記Fc領域を構成する一方のポリペプチドに連結され、当該Fab構造の軽鎖Fv断片がCL領域と連結された癌抗原結合ドメイン、及び、(2)T細胞受容体複合体に結合する一価のFab構造の重鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域を構成する他方のポリペプチドに連結され、当該Fab構造の軽鎖Fv断片がCL領域と連結されたT細胞受容体複合体結合ドメイン、を含むポリペプチド会合体であって、癌抗原結合ドメイン中の重鎖Fv断片と癌抗原結合ドメイン中の軽鎖Fv断片またはT細胞受容体複合体結合ドメイン中の重鎖Fv断片とT細胞受容体複合体結合ドメイン中の軽鎖Fv断片が会合するようにCH1領域とCL領域の電荷が制御されている、請求項1の(e)に記載のポリペプチド会合体。【請求項5】T細胞受容体複合体結合ドメイン中の重鎖Fv断片に連結されたCH1領域のアミノ酸残基および癌抗原結合ドメイン中の軽鎖Fv断片に連結されたCL領域のアミノ酸残基が互いに同種の電荷を有する、請求項4に記載のポリペプチド会合体。【請求項6】癌抗原結合ドメイン中の重鎖Fv断片に連結されたCH1領域のアミノ酸残基およびT細胞受容体複合体結合ドメイン中の軽鎖Fv断片に連結されたCL領域のアミノ酸残基が互いに同種の電荷を有する、請求項4に記載のポリペプチド会合体。【請求項7】T細胞受容体複合体結合ドメイン中の重鎖Fv断片に連結されたCH1領域のアミノ酸残基5 および癌抗原結合ドメイン中の軽鎖Fv断片に連結されたCL領域のアミノ酸残基が互いに同種の電荷を有し、癌抗原結合ドメイン中の重鎖Fv断片に連結されたCH1領域のアミノ酸残基およびT細胞受容体複合体結合ドメイン中の軽鎖Fv断片に連結されたCL領域のアミノ酸残基が互いに同種の電荷を有する、請求項4に記載のポリペプチド会合体。【請求項8】T細胞受容体複合体結合ドメイン中の重鎖Fv断片に連結されたCH1領域のアミノ酸残基およびT細胞受容体複合体結合ドメイン中の軽鎖Fv断片に連結されたCL領域のアミノ酸残基が互いに異種の電荷を有する、請求項5又は7に記載のポリペプチド会合体。【請求項9】癌抗原結合ドメイン中の重鎖Fv断片に連結されたCH1領域のアミノ酸残基および癌抗原結合ドメイン中の軽鎖Fv断片に連結されたCL領域のアミノ酸残基がともに異種の電荷を有する、請求項6または7に記載のポリペプチド会合体。【請求項10】T細胞受容体複合体結合ドメインがT細胞受容体結合ドメインである、請求項4から9のいずれかに記載のポリペプチド会合体。【請求項11】T細胞受容体結合ドメインがCD3結合ドメインである、請求項10に記載のポリペプチド会合体。【請求項12】CH1領域のアミノ酸残基およびCL領域のアミノ酸残基が、以下の(a)~(f)に示される1組又は2組以上のアミノ酸残基の組からなる群;(a)CH1領域のアミノ酸残基であってEUナンバリング147位のアミノ酸残基、及びCL領域のアミノ酸残基であってEUナンバリング180位のアミノ酸残基、(b)CH1領域のアミノ酸残基であってEUナンバリング147位のアミノ酸残基、及びCL領域のアミノ酸残基であってEUナンバリング131位のアミノ酸残基(c)CH1領域のアミノ酸残基であってEUナンバリング147位のアミノ酸残基、及びC5 L領域のアミノ酸残基であってEUナンバリング164位のアミノ酸残基(d)CH1領域のアミノ酸残基であってEUナンバリング147位のアミノ酸残基、及びCL領域のアミノ酸残基であってEUナンバリング138位のアミノ酸残基(e)CH1領域のアミノ酸残基であってEUナンバリング147位のアミノ酸残基、及びCL領域のアミノ酸残基であってEUナンバリング123位のアミノ酸残基(f)CH1領域のアミノ酸残基であってEUナンバリング175位のアミノ酸残基、及びCL領域のアミノ酸残基であってEUナンバリング160位のアミノ酸残基より選択され、CH1領域のアミノ酸残基とCL領域のアミノ酸残基とが互いに異種の電荷を有するアミノ酸残基である、請求項8又は9に記載のポリペプチド会合体。【請求項13】さらに、以下の(g)に示されるアミノ酸残基の組を含む群より選択される、請求項12に記載のポリペプチド会合体。(g)CH1領域のアミノ酸残基であってEUナンバリング213位のアミノ酸残基、及びCL領域のアミノ酸残基であってEUナンバリング123位のアミノ酸残基【請求項14】前記異種の電荷を有するアミノ酸残基が、以下の(X)または(Y)のいずれかの群;(X)グルタミン酸(E) 、アスパラギン酸(D);(Y)リジン(K)、アルギニン(R)、ヒスチジン(H);に含まれるアミノ酸残基から選択される、請求項12又は13に記載のポリペプチド会合体。【請求項15】前記異種の電荷を有するアミノ酸残基が、CH1領域のアミノ酸残基であってEUナンバリング175位のアミノ酸残基がLys、CL領域のアミノ酸残基であってEUナンバリング180位、131位及び160位のアミノ酸残基がいずれもGluである、請求項12から14のいずれかに記載のポリペプチド会合体。【請求項16】前記異種の電荷を有するアミノ酸残基が、CH1領域のアミノ酸残基であってEUナンバリ5 ング147位及び175位のアミノ酸残基がGlu、CL領域のアミノ酸残基であってEUナンバリング180位、131位及び160位のアミノ酸残基がいずれもLysである、請求項12から14のいずれかに記載のポリペプチド会合体。【請求項17】さらに、CH1領域のアミノ酸残基であってEUナンバリング213位のアミノ酸残基がGluであり、CL領域のアミノ酸残基であってEUナンバリング123位のアミノ酸残基がLysである、請求項16に記載のポリペプチド会合体。【請求項18】Fc領域がFcγI、FcγIIA、FcγIIB、FcγIIIA及びFcγIIIBのいずれかのFcγ受容体に対する結合活性が低下しているFc領域である請求項1から17のいずれかに記載のポリペプチド会合体。【請求項19】(削除)【請求項20】(削除)【請求項21】(削除)【請求項22】(削除)【請求項23】下記のドメイン;(1)癌抗原結合ドメイン、(2)配列番号:23に記載のFc領域を構成するアミノ酸が変異しているFc領域であって、IgG1抗体のFc領域(配列番号:23) を有するポリペプチド会合体と比較して、Fcγ受容体に対する結合活性が低下している、Fc領域を含むドメイン、及び、(3) T細胞受容体複合体結合ドメイン、を含むポリペプチド会合体であって、該T細胞受容体複合体結合ドメインがFabであり、該変異しているFc領域を構成する二つのポリペプチドの配列が互いに異なる配列を有する、以下の(a)から(f)からなる群より選ばれる一のポリペプチド会合体:(a)5 癌抗原結合ドメインを構成する一価のFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域を構成する一方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結され、T細胞受容体複合体結合ドメインを構成するFabの軽鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域を構成する他方のポリペプチドに連結され、当該Fabの重鎖Fv断片がCL領域と連結された、ポリペプチド会合体、(b)癌抗原結合ドメインを構成する一価のFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域を構成する一方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結され、T細胞受容体複合体結合ドメインを構成するFabの重鎖Fv断片がCL領域を介してFc領域を構成する他方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCH1領域と連結された、ポリペプチド会合体、(c)T細胞受容体複合体結合ドメインを構成する一価のFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域を構成する一方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結され、癌抗原結合ドメインを構成するFabの軽鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域を構成する他方のポリペプチドに連結され、当該Fabの重鎖Fv断片がCL領域と連結された、ポリペプチド会合体、(d)T細胞受容体複合体結合ドメインを構成する一価のFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域を構成する一方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結され、癌抗原結合ドメインを構成するFabの重鎖Fv断片がCL領域を介してFc領域を構成する他方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCH1領域と連結された、ポリペプチド会合体、(e)癌抗原結合ドメインを構成する一価のFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域を構成する一方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結され、5 T細胞受容体複合体結合ドメインを構成するFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域を構成する他方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結された、ポリペプチド会合体、及び(f)癌抗原結合ドメインがF(ab’)2の構造を有するドメインであり、F(ab’)2の構造を有するドメインの重鎖定常領域を構成する二つのポリペプチドがFc領域を構成する二つのポリペプチドの各々に連結され、CD3結合ドメインを構成する重鎖Fv断片がFc領域を構成する一方のCH3に連結され、CD3結合ドメインを構成する軽鎖Fv断片がFc領域を構成するもう一方のCH3に連結され、CD3結合ドメインを構成する重鎖Fv断片に抗体のCH1ドメイン、及び、軽鎖Fv断片に抗体のCLドメインが連結された、ポリペプチド会合体であり、該Fc領域を構成するアミノ酸のうち、EUナンバリングに従って特定される265位のアスパラギン酸がアラニンに変異しており、および234位のロイシンが、対応するIgG4においてそのEUナンバリングが対応するアミノ酸に置換されている、ポリペプチド会合体。【請求項24】下記のドメイン;(1)癌抗原結合ドメイン、(2)配列番号:23に記載のFc領域を構成するアミノ酸が変異しているFc領域であって、IgG1抗体のFc領域(配列番号:23) を有するポリペプチド会合体と比較して、Fcγ受容体に対する結合活性が低下している、Fc領域を含むドメイン、及び、(3)T細胞受容体複合体結合ドメイン、を含むポリペプチド会合体であって、該T細胞受容体複合体結合ドメインがFabであり、該変異しているFc領域を構成する二つのポリペプチドの配列が互いに異なる配列を有する、以下の(a)から(f)からなる群より選ばれる一のポリペプチド会合体:(a)5 癌抗原結合ドメインを構成する一価のFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域を構成する一方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結され、T細胞受容体複合体結合ドメインを構成するFabの軽鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域を構成する他方のポリペプチドに連結され、当該Fabの重鎖Fv断片がCL領域と連結された、ポリペプチド会合体、(b)癌抗原結合ドメインを構成する一価のFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域を構成する一方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結され、T細胞受容体複合体結合ドメインを構成するFabの重鎖Fv断片がCL領域を介してFc領域を構成する他方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCH1領域と連結された、ポリペプチド会合体、(c)T細胞受容体複合体結合ドメインを構成する一価のFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域を構成する一方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結され、癌抗原結合ドメインを構成するFabの軽鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域を構成する他方のポリペプチドに連結され、当該Fabの重鎖Fv断片がCL領域と連結された、ポリペプチド会合体、(d)T細胞受容体複合体結合ドメインを構成する一価のFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域を構成する一方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結され、癌抗原結合ドメインを構成するFabの重鎖Fv断片がCL領域を介してFc領域を構成する他方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCH1領域と連結された、ポリペプチド会合体、(e)癌抗原結合ドメインを構成する一価のFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域を構成する一方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結され、5 T細胞受容体複合体結合ドメインを構成するFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域を構成する他方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結された、ポリペプチド会合体、及び(f)癌抗原結合ドメインがF(ab’)2の構造を有するドメインであり、F(ab’)2の構造を有するドメインの重鎖定常領域を構成する二つのポリペプチドがFc領域を構成する二つのポリペプチドの各々に連結され、CD3結合ドメインを構成する重鎖Fv断片がFc領域を構成する一方のCH3に連結され、CD3結合ドメインを構成する軽鎖Fv断片がFc領域を構成するもう一方のCH3に連結され、CD3結合ドメインを構成する重鎖Fv断片に抗体のCH1ドメイン、及び、軽鎖Fv断片に抗体のCLドメインが連結された、ポリペプチド会合体であり、該Fc領域を構成するアミノ酸のうち、EUナンバリングに従って特定される265位のアスパラギン酸がアラニンに変異しており、234位のロイシンおよび235位のロイシンがさらに変異している、ポリペプチド会合体。【請求項25】234位のロイシンがアラニンに変異しており及び/又は235位のロイシンがアラニンに変異していることを特徴とする、請求項24に記載のポリペプチド会合体。【請求項26】(削除)【請求項27】Fc領域を構成する二つのポリペプチドの一方のポリペプチドのアミノ酸残基のうちEUナンバリングに従って特定される349位のアミノ酸がシステイン、366位のアミノ酸がトリプトファンに、他方のポリベプチドのアミノ酸残基のうちEUナンバリングに従って特定される356位のアミノ酸がシステイン、366位のアミノ酸がセリンに、368位のアミノ酸がアラニンに、407位のアミノ酸がバリンに変異していることを特徴とする、請求項 1 から18のいずれかに記載のポリペプチド会合体。5 【請求項28】Fc領域を構成する二つのポリペプチドの一方のポリペプチドのアミノ酸残基のうちEUナンバリングに従って特定される356位のアミノ酸がリジンに、他方のポリペプチドのアミノ酸残基のうちEUナンバリングに従って特定される439位のアミノ酸がグルタミン酸に変異し、いずれか一方のポリペプチドのアミノ酸残基のうちEUナンバリングに従って特定される435位のアミノ酸がアルギニンに変異していることを特徴とする、請求項1から18のいずれかに記載のポリペプチド会合体。【請求項29】Fc領域を構成する二つのポリペプチドのカルボキシ末端に存在する配列GKが欠失していることを特徴とする、請求項27又は28に記載のポリペプチド会合体。【請求項30】癌抗原結合ドメインが同一のエピトープに結合する、請求項1の(f)に記載のポリペプチド会合体。【請求項31】同一のエピトープが配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質中に存在する、請求項30に記載のポリペプチド会合体。【請求項32】同一のエピトープが配列番号:4に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質中に存在する、請求項30に記載のポリペプチド会合体。【請求項33】癌抗原結合ドメインが互いに異なるエピトープに結合する、請求項1の(f)に記載のポリペプチド会合体。【請求項34】異なるエピトープが配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質中に存在する、請求項33に記載のポリペプチド会合体。【請求項35】5 異なるエピトープが配列番号:4に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質中に存在する、請求項33に記載のポリペプチド会合体。【請求項36】請求項1から18および27から35のいずれかに記載のポリペプチド会合体をコードするポリヌクレオチド。【請求項37】請求項36に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。【請求項38】請求項37に記載のベクターを保持する細胞。【請求項39】請求項38に記載の細胞を培養し培養上清からポリペプチド会合体を回収することを含むポリベプチド会合体の製造方法。【請求項40】請求項1から18および27から35のいずれかに記載のポリペプチド会合を有効成分として含む細胞傷害誘導治療剤。【請求項41】下記のドメイン;(1)癌抗原結合ドメイン、(2)配列番号:23に記載のFc領域を構成するアミノ酸が変異しているFc領域であって、IgG1抗体のFc領域(配列番号:23) を有するポリペプチド会合体と比較して、Fcγ受容体に対する結合活性が低下している、Fc領域を含むドメイン、及び、(3)T細胞受容体複合体結合ドメイン、を含むポリペプチド会合体であって、該T細胞受容体複合体結合ドメインがFabであり、該変異しているFc領域を構成する二つのポリペプチドの配列が互いに異なる配列を有する、以下の(a)から(f)からなる群より選ばれる一のポリペプチド会合体:(a)5 癌抗原結合ドメインを構成する一価のFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域を構成する一方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結され、T細胞受容体複合体結合ドメインを構成するFabの軽鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域を構成する他方のポリペプチドに連結され、当該Fabの重鎖Fv断片がCL領域と連結された、ポリペプチド会合体、(b)癌抗原結合ドメインを構成する一価のFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域を構成する一方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結され、T細胞受容体複合体結合ドメインを構成するFabの重鎖Fv断片がCL領域を介してFc領域を構成する他方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCH1領域と連結された、ポリペプチド会合体、(c)T細胞受容体複合体結合ドメインを構成する一価のFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域を構成する一方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結され、癌抗原結合ドメインを構成するFabの軽鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域を構成する他方のポリペプチドに連結され、当該Fabの重鎖Fv断片がCL領域と連結された、ポリペプチド会合体、(d)T細胞受容体複合体結合ドメインを構成する一価のFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域を構成する一方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結され、癌抗原結合ドメインを構成するFabの重鎖Fv断片がCL領域を介してFc領域を構成する他方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCH1領域と連結された、ポリペプチド会合体、(e)癌抗原結合ドメインを構成する一価のFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域を構成する一方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結され、5 T細胞受容体複合体結合ドメインを構成するFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域を構成する他方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結された、ポリペプチド会合体、及び(f)癌抗原結合ドメインがF(ab’)2の構造を有するドメインであり、F(ab’)2の構造を有するドメインの重鎖定常領域を構成する二つのポリペプチドがFc領域を構成する二つのポリペプチドの各々に連結され、CD3結合ドメインを構成する重鎖Fv断片がFc領域を構成する一方のCH3に連結され、CD3結合ドメインを構成する軽鎖Fv断片がFc領域を構成するもう一方のCH3に連結され、CD3結合ドメインを構成する重鎖Fv断片に抗体のCH1ドメイン、及び、軽鎖Fv断片に抗体のCLドメインが連結された、ポリペプチド会合体であり、該Fc領域を構成するアミノ酸のうち、EUナンバリングに従って特定される265位のアスパラギン酸がアラニンに変異している、ポリペプチド会合体を有効成分として含む、細胞傷害誘導治療剤であって、細胞傷害誘導治療剤が癌治療剤である、治療剤。【請求項42】癌が肝癌又は肺癌である、請求項41に記載の治療剤。【請求項43】T細胞受容体複合体結合ドメインがT細胞受容体結合ドメインである、請求項41に記載の治療剤。【請求項44】T細胞受容体複合体結合ドメインがCD3結合ドメインである、請求項41に記載の治療剤。【請求項45】Fc領域がFcγI、FcγIIA、FcγIIB、FcγIIIA及びFcγIIIBのいずれかのFcγ受容体に対する結合活性が低下しているFc領域である、請求項41に記載の治療剤。5 【請求項46】T細胞受容体複合体結合ドメインがT細胞受容体結合ドメインである、請求項23に記載のポリペプチド会合体。【請求項47】T細胞受容体複合体結合ドメインがCD3結合ドメインである、請求項23に記載のポリペプチド会合体。【請求項48】Fc領域がFcγI、FcγIIA、FcγIIB、FcγIIIA及びFcγIIIBのいずれかのFcγ受容体に対する結合活性が低下しているFc領域である、請求項23に記載のポリペプチド会合体。【請求項49】請求項23および46から48のいずれか一項に記載のポリペプチド会合体をコードするポリヌクレオチド。【請求項50】請求項49に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。【請求項51】請求項50に記載のベクターを保持する細胞。【請求項52】請求項51に記載の細胞を培養し培養上清からポリペプチド会合体を回収することを含むポリペプチド会合体の製造方法。【請求項53】下記のドメイン;(1)癌抗原結合ドメイン、(2)配列番号:23に記載の Fc 領域を構成するアミノ酸が変異しているFc領域であって、IgG1抗体のFc領域(配列番号:23) を有するポリペプチド会合体と比較して、Fcγ受容体に対する結合活性が低下している、Fc領域を含むドメイン、及び、5 (3)T細胞受容体複合体結合ドメインを含むポリペプチド会合体であって、該T細胞受容体複合体結合ドメインがFabであり、該変異しているFc領域を構成する二つのポリペプチドの配列が互いに異なる配列を有する、以下の(a)から(f)からなる群より選ばれる一のポリペプチド会合体:(a)癌抗原結合ドメインを構成する一価のFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域を構成する一方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結され、T細胞受容体複合体結合ドメインを構成するFabの軽鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域を構成する他方のポリペプチドに連結され、当該Fabの重鎖Fv断片がCL領域と連結された、ポリペプチド会合体、(b)癌抗原結合ドメインを構成する一価のFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域を構成する一方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結され、T細胞受容体複合体結合ドメインを構成するFabの重鎖Fv断片がCL領域を介してFc領域を構成する他方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCH1領域と連結された、ポリペプチド会合体、(c)T細胞受容体複合体結合ドメインを構成する一価のFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域を構成する一方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結され、癌抗原結合ドメインを構成するFabの軽鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域を構成する他方のポリペプチドに連結され、当該Fabの重鎖Fv断片がCL領域と連結された、ポリペプチド会合体、(d)T細胞受容体複合体結合ドメインを構成する一価のFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域を構成する一方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結され、癌抗原結合ドメインを構成するFabの重鎖Fv断片がCL領域を介してFc5 領域を構成する他方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCH1領域と連結された、ポリペプチド会合体、(e)癌抗原結合ドメインを構成する一価のFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域を構成する一方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結され、T細胞受容体複合体結合ドメインを構成するFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域を構成する他方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結された、ポリペプチド会合体、及び(f)癌抗原結合ドメインがF(ab’)2の構造を有するドメインであり、F(ab’)2の構造を有するドメインの重鎖定常領域を構成する二つのポリペプチドがFc領域を構成する二つのポリペプチドの各々に連結され、CD3結合ドメインを構成する重鎖Fv断片がFc領域を構成する一方のCH3に連結され、CD3結合ドメインを構成する軽鎖Fv断片がFc領域を構成するもう一方のCH3に連結され、CD3結合ドメインを構成する重鎖Fv断片に抗体のCH1ドメイン、及び、軽鎖Fv断片に抗体のCLドメインが連結された、ポリペプチド会合体であり、該Fc領域を構成するアミノ酸のうち、EUナンバリングに従って特定される265位のアスパラギン酸がアラニンに変異しており、および234位のロイシンが、対応するIgG4においてそのEUナンバリングが対応するアミノ酸に置換されている、ポリペプチド会合体を有効成分として含む、細胞傷害誘導治療剤であって、細胞傷害誘導治療剤が癌治療剤である、治療剤。【請求項54】癌が肝癌又は肺癌である、請求項53に記載の治療剤。【請求項55】T細胞受容体複合体結合ドメインがT細胞受容体結合ドメインである、請求項53に記載の治療剤。5 【請求項56】T細胞受容体複合体結合ドメインがCD3結合ドメインである、請求項53に記載の治療剤。【請求項57】Fc領域がFcγI、FcγIIA、FcγIIB、FcγIIIA及びFcγIIIBのいずれかのFcγ受容体に対する結合活性が低下しているFc領域である請求項53に記載の治療剤。【請求項58】T細胞受容体複合体結合ドメインがT細胞受容体結合ドメインである、請求項24に記載のポリペプチド会合体。【請求項59】T細胞受容体複合体結合ドメインがCD3結合ドメインである、請求項24に記載のポリペプチド会合体。【請求項60】Fc領域がFcγI、FcγIIA、FcγIIB、FcγIIIA及びFcγIIIBのいずれかのFcγ受容体に対する結合活性が低下しているFc領域である請求項24に記載のポリペプチド会合体。【請求項61】請求項24、25、および58から60のいずれかに記載のポリペプチド会合体をコードするポリヌクレオチド。【請求項62】請求項61に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。【請求項63】請求項62に記載のベクターを保持する細胞。【請求項64】請求項63に記載の細胞を培養し培養上清からポリペプチド会合体を回収することを含むポリペプチド会合体の製造方法。5 【請求項65】下記のドメイン;(1)癌抗原結合ドメイン、(2)配列番号:23に記載のFc領域を構成するアミノ酸が変異しているFc領域であって、IgG1抗体のFc領域(配列番号:23) を有するポリペプチド会合体と比較して、Fcγ受容体に対する結合活性が低下している、Fc領域を含むドメイン、及び、(3)T細胞受容体複合体結合ドメイン、を含むポリペプチド会合体であって、該T細胞受容体複合体結合ドメインがFabであり、該変異しているFc領域を構成する二つのポリペプチドの配列が互いに異なる配列を有する、以下の(a)から(f)からなる群より選ばれる一のポリペプチド会合体:(a)癌抗原結合ドメインを構成する一価のFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域を構成する一方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結され、T細胞受容体複合体結合ドメインを構成するFabの軽鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域を構成する他方のポリペプチドに連結され、当該Fabの重鎖Fv断片がCL領域と連結された、ポリペプチド会合体、(b)癌抗原結合ドメインを構成する一価のFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域を構成する一方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結され、T細胞受容体複合体結合ドメインを構成するFabの重鎖Fv断片がCL領域を介してFc領域を構成する他方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCH1領域と連結された、ポリペプチド会合体、(c)T細胞受容体複合体結合ドメインを構成する一価のFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域を構成する一方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結され、癌抗原結合ドメインを構成するFabの軽鎖Fv断片がCH1領域を介してF5 c領域を構成する他方のポリペプチドに連結され、当該Fabの重鎖Fv断片がCL領域と連結された、ポリペプチド会合体、(d)T細胞受容体複合体結合ドメインを構成する一価のFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域を構成する一方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結され、癌抗原結合ドメインを構成するFabの重鎖Fv断片がCL領域を介してFc領域を構成する他方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCH1領域と連結された、ポリペプチド会合体、(e)癌抗原結合ドメインを構成する一価のFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域を構成する一方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結され、T細胞受容体複合体結合ドメインを構成するFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域を構成する他方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結された、ポリペプチド会合体、及び(f)癌抗原結合ドメインがF(ab’)2の構造を有するドメインであり、F(ab’)2の構造を有するドメインの重鎖定常領域を構成する二つのポリペプチドがFc領域を構成する二つのポリペプチドの各々に連結され、CD3結合ドメインを構成する重鎖Fv断片がFc領域を構成する一方のCH3に連結され、CD3結合ドメインを構成する軽鎖Fv断片がFc領域を構成するもう一方のCH3に連結され、CD3結合ドメインを構成する重鎖Fv断片に抗体のCH1ドメイン、及び、軽鎖Fv断片に抗体のCLドメインが連結された、ポリペプチド会合体であり、該Fc領域を構成するアミノ酸のうち、EUナンバリングに従って特定される265位のアスパラギン酸がアラニンに変異しており、234位のロイシンおよび235位のロイシンがさらに変異している、ポリペプチド会合体を有効成分として含む、細胞傷害誘導治療剤であって、細胞傷害誘導治療5 剤が癌治療剤である、治療剤。【請求項66】癌が肝癌又は肺癌である、請求項65に記載の治療剤【請求項67】T細胞受容体複合体結合ドメインがT細胞受容体結合ドメインである、請求項65に記載の治療剤。【請求項68】T細胞受容体複合体結合ドメインがCD3結合ドメインである、請求項65に記載の治療剤。【請求項69】Fc領域がFcγI、FcγIIA、FcγIIB、FcγIIIA及びFcγIIIBのいずれかのFcγ受容体に対する結合活性が低下しているFc領域である請求項65に記載の治療剤。【請求項70】234位のロイシンがアラニンに変異しており及び/又は235位のロイシンがアラニンに変異していることを特徴とする、請求項65に記載の治療剤。

別紙2

本件明細書の記載等(抜粋)【技術分野】5 【0001】本発明は、T 細胞を標的癌細胞に近接せしめ T 細胞による標的癌細胞に対する細胞傷害活性を通じて癌を治療することを可能とするポリペプチド会合体、当該ポリペプチド会合体の製造方法、および当該ポリペプチド会合体を有効成分として含む細胞傷害誘導治療剤に関する。また当該細胞傷害誘導治療剤を有効成分として含む、様々な癌を治療または予防するための医薬組成物または当該医薬組成物を用いる治療方法に関する。【背景技術】【0002】これまでに優れた抗腫瘍効果を示す複数の治療用抗体が、癌治療を目的とする医薬品として開発されている(非特許文献1)。これらの治療用抗体は、癌細胞の増殖に必要なシグナルの阻 害 、 細 胞 死 シ グ ナ ル の 誘 発 、 あ る い は ADCC ( Antibody Dependent Cell-mediatedCytotoxicity;抗体依存性細胞傷害)、CDC(Complement Dependent Cytotoxicity;補体依存性細胞傷害)によって、癌細胞に対する抗腫瘍効果を発揮することが知られている(非特許文献2)。抗体の Fc 領域が NK 細胞やマクロファージなどのエフェクター細胞上に存在する Fc レセプターに結合することにより、抗体が結合した標的の癌細胞に対してこれらのエフェクター細胞が発揮する細胞傷害が ADCC である。抗体の構造中に存在する補体結合部位には補体複合体が結合する。抗体が結合した細胞の細胞膜上に当該複合体中に存在する補体成分が孔を形成することにより、水やイオンの細胞内への流入が促進され細胞が破壊されて起こる細胞傷害がCDC である。既存の治療用抗体には優れた作用が認められるものの、こうした抗体の投与によって得られる治療成績はまだ満足できるものではない。そこで、さらに強力な殺細胞活性を発揮する癌に対する治療抗体の開発が望まれている。【0003】上記の NK 細胞やマクロファージをエフェクター細胞として動員する ADCC をその抗腫瘍効果のメカニズムとする抗体とは別に、T 細胞をエフェクター細胞として動員する細胞傷害をその抗腫瘍効果のメカニズムとする抗体である T 細胞リクルート抗体(T cell recruiting 抗体、TR 抗体)も 1980 年代から知られている(非特許文献3-5)。TR 抗体は、T 細胞上の T 細胞5 レセプター(TCR)複合体の構成サブユニットのいずれかに対する抗体、特に CD3 epsilon 鎖に結合する抗体と、標的である癌細胞上の抗原に結合する抗体を含む bi-specific(二重特異性)抗体である。TR 抗体が CD3 epsilon 鎖と癌抗原に同時に結合することにより、T 細胞が癌細胞に接近する。その結果、T 細胞の持つ細胞傷害作用により癌細胞に対する抗腫瘍効果が発揮されると考えられている。【0004】TR 抗体の一つとして trifunctional 抗体と称される抗体も知られている(非特許文献6、7)。これは、癌抗原に結合する Fab と CD3 epsilon 鎖に結合する Fab がそれぞれ片腕に含まれる whole IgG 型の bi-specific 抗体である。EpCAM に対する trifunctional 抗体であるcatumaxomab を EpCAM 発現陽性の癌細胞を持つ悪性腹水患者の腹腔内に対して投与することにより悪性腹水症に対する治療の効果が示されている。EU において上記の治療を目的とするcatumaxomab の使用が承認されている。【0005】さらに最近になり、BiTE(bispecific T-cell engager)と称される TR 抗体が強い抗腫瘍作用を示すことが知られるようになった(非特許文献8、9)。BiTE は癌抗原に対する抗体のscFv と CD3 epsilon 鎖に対する抗体の scFv が短いポリペプチドリンカーを介して連結された分子型を有する TR 抗体である。BiTE はそれまでに知られていた様々な TR 抗体に比べて優れた抗腫瘍作用を持つことが報告されている(非特許文献9、10)。すなわち BiTE は、他の TR抗体に比較し、著しく低い濃度、および低いエフェクター細胞:癌細胞比率(ET レシオ)の下で抗腫瘍効果を発揮する。またこの効果の発現に、予めエフェクター細胞を IL-2 や CD28 アゴニスト抗体などにより活性化させる必要がないことも示されている。臨床的に優れた効果があることが知られているリツキサンよりもはるかに強い in vitro での癌細胞に対する傷害作用を CD19 に対する BiTE である blinatumomab(MT103)が示した。さらに最近行なわれた第一相臨床試験、第二相臨床試験において極めて優れた抗腫瘍効果を示したことが報告されている(非特許文献11)。【0006】5 catumaxomab が臨床で薬効を示し治療薬として承認されていること、および blinatumomabを始めとする複数の BiTE が強い抗腫瘍効果を発揮することから、T 細胞をエフェクター細胞として動員する TR 抗体には、通常の ADCC をその作用機序とする抗体に比べて極めて高い抗腫瘍薬としてのポテンシャルがあることが示唆された。【0007】しかしながら、trifunctional 抗体が癌抗原非依存的に T 細胞と NK 細胞やマクロファージなどの細胞と同時に結合する結果、これらの細胞に発現する受容体が架橋されることにより、癌抗原非依存的な各種サイトカインの発現を誘導することが知られている。こうしたサイトカインの発現の誘導は、trifunctional 抗体の全身投与によるサイトカインストーム様の副作用の発生につながるものと考えられる。実際、非小細胞肺癌患者に対する catumaxomab の全身投与による第一相臨床試験においては、5μg/body という極めて低い用量が最大許容投与量であり、それ以上の用量の投与により様々な重篤な副作用が起こることが報告されている(非特許文献12)。こうした低い用量の catumaxomab の投与によっては、その有効血中濃度には到底達し得ない。すなわち、こうした低い用量の catumaxomab の投与によっては期待される抗腫瘍作用が得られない。【0008】一方、BiTE は catumaxomab とは異なり Fcγ受容体に対する結合部位を持たないため、癌抗原非依存的に T 細胞と NK 細胞やマクロファージなどに発現する受容体が架橋されることはない。そのため、catumaxomab が投与された場合に観察された癌抗原非依存的なサイトカインの誘導は起こらないことが示されている。しかしながら、BiTE は Fc 領域を欠く低分子量型の改変抗体分子であるために、治療用抗体として通常用いられる IgG 型の抗体に比較して、患者に投与された BiTE の血中半減期は著しく短いという問題点が存在する。実際、生体に投与された BiTE の血中半減期は数時間程度であることが示されており(非特許文献13、14)、blinatumomab の臨床試験においてはミニポンプを用いた持続静脈内投与により blinatumomabの投与が行なわれている。こうした投与は患者にとって著しく利便性の悪い投与法であるばかりでなく、機器の故障などによる医療事故のリスクも潜在し、望ましい治療法であるとはいえ5 ない。【発明の概要】【発明が解決しようとする課題】【0010】本発明は上記の情況に鑑みてなされたものであり、T 細胞を標的癌細胞に近接せしめ T 細胞による標的癌細胞に対する細胞傷害活性を通じて癌を治療することを可能とするポリペプチド会合体、当該ポリペプチド会合体の製造方法、および当該ポリペプチド会合体を有効成分として含む細胞傷害誘導治療剤を提供することを目的とする。また当該細胞傷害誘導治療剤を有効成分として含む、様々な癌を治療または予防するための医薬組成物または当該医薬組成物を用いる治療方法を提供することを目的とする。【課題を解決するための手段】【0011】本発明者らは、BiTE が持つ強い抗腫瘍活性と、癌抗原非依存的にサイトカインストームなどを誘導しないという安全性上の優れた性質が維持され、かつ長い血中半減期を持つ新たなポリペプチド会合体を見出した。さらに、ポリペプチド会合体における抗原結合ドメインを置換することにより、当該ポリペプチド会合体が様々な細胞を標的として細胞傷害をもたらすことを見出した。本発明者らは、かかる発見に基づいて、本発明に係るポリペプチド会合体が癌細胞を傷害することを明らかにした。また、ポリペプチド会合体に、CH1/CL 界面会合制御導入および Knob into Hole (KiH)改変を導入することで、さらに効率よく細胞傷害をもたらすことを見出した。また、本発明者らは、本発明に係るポリペプチド会合体を有効成分とする細胞傷害誘導治療剤が、様々な癌を治療又は予防することを見出した。【発明の効果】【0014】本発明によって、BiTE が持つ強い抗腫瘍活性と、癌抗原非依存的にサイトカインストームなどを誘導しないという安全性上の優れた性質が維持され、かつ長い血中半減期を持つ新たなポリペプチド会合体が提供された。本発明のポリペプチド会合体における抗原結合ドメインを5 置換することにより、当該ポリペプチド会合体を有効成分として含む細胞傷害誘導治療剤が癌細胞を含む様々な細胞を標的として細胞傷害をもたらし、様々な癌を治療又は予防することができる。患者にとっても、安全性が高いばかりでなく、身体的負担が少なく利便性も高いという、望ましい治療ができるようになる。【図面の簡単な説明】【0015】【図1】GPC3 ERY1(GPC3 BiTE)、GPC3 ERY2、IgG 型 GPC3 抗体の細胞傷害活性の比較を表すグラフである。黒四角(■)は GPC3 ERY1(GPC3 BiTE)、黒三角(▲)は GPC3 ERY2、白四角(□)は IgG 型 GPC3 抗体の細胞傷害活性をそれぞれ表す。【図2】GPC3 BiTE、GPC3 ERY5 の細胞傷害活性の比較を表すグラフである。黒四角(■)はGPC3 BiTE、白丸(○)は GPC3 ERY5 の細胞傷害活性をそれぞれ表す。【図3】GPC3 BiTE、GPC3 ERY6 の細胞傷害活性の比較を表すグラフである。黒四角(■)はGPC3 BiTE、黒三角(▲)は GPC3 ERY6 の細胞傷害活性をそれぞれ表す。【図4】GPC3 BiTE、GPC3 ERY7 の細胞傷害活性の比較を表すグラフである。黒四角(■)はGPC3 BiTE、黒菱(◆)は GPC3 ERY7 の細胞傷害活性をそれぞれ表す。【図5】GPC3 BiTE、GPC3 ERY8-2、GPC3 ERY9-1、GPC3 ERY10-1 の細胞傷害活性の比較を表すグラフである。黒四角(■)は GPC3 BiTE、黒三角(▲)は GPC3 ERY8-2、白丸(○)はGPC3 ERY9-1、白四角(□)は GPC3 ERY10-1 の細胞傷害活性をそれぞれ表す。【図6】PC-10 pre-mix モデルにおける GPC3 ERY8-2 の in vivo 抗腫瘍効果を表すグラフである。白四角(□)は GPC3 ERY7 投与群の腫瘍体積の変化を表す。黒菱(◆)は対照群(PBS 投与)の腫瘍体積の変化を表す。【図7】PC-10 pre-mix モデルにおける GPC3 ERY10-1 の in vivo 抗腫瘍効果を表すグラフである。白四角(□)は GPC3 ERY10-1 投与群の腫瘍体積の変化を表す。黒菱(◆)は対照群(PBS 投与)の腫瘍体積の変化を表す。【図8】PC-10 T 細胞移入モデルにおける GPC3 ERY10-1 の in vivo 抗腫瘍効果を表すグラフである。白四角(□)は GPC3 ERY10-1 投与群の腫瘍体積の変化を表す。黒菱(◆)は対照群5 (PBS 投与)の腫瘍体積の変化を表す。【図9】GPC3 発現 Ba/F3 細胞を用いて測定した GPC3 ERY9-1 及び GPC3 ERY10-1 の血漿中濃度の推移を表すグラフである。黒菱(◆)は GPC3 ERY9-1、白四角(□)は GPC3 ERY10-1 の血漿中濃度の推移を表す。【図10】CD3 発現 Ba/F3 細胞を用いて測定した GPC3 ERY9-1 及び GPC3 ERY10-1 の血漿中濃度の推移を表すグラフである。黒菱(◆)は GPC3 ERY9-1、白四角(□)は GPC3 ERY10-1 の血漿中濃度の推移を表す。【図11】GPC3 BiTE、GPC3 ERY9-1、GPC3 ERY10-1、GPC3 ERY15-1、及び catumaxomab による癌抗原非依存的なサイトカイン誘導能の評価を示すグラフである。【図12】GPC3 ERY18 L1、GPC3 ERY18L2、GPC3 ERY18L3、GPC3 ERY18L4、の in vitro 細胞傷害活性を示すグラフである。黒三角(▲)は GPC3 ERY18 L1、黒丸(●)は GPC3 ERY18 L2、黒四角(■)は GPC3 ERY18 L3、白四角(□)は GPC3 ERY18 L4、白菱(◇)は GPC3 ERY18S1 の細胞傷害活性を表す。【図13】GPC3 ERY18 L3 と GPC3 ERY10-1 の in vitro 細胞傷害活性の比較を表すグラフである。黒四角(■)は GPC3 ERY18 L3、白四角(□)は GPC3 ERY10-1 の細胞傷害活性を表す。【図14】GPC3 ERY19-3 と GPC3 BiTE の in vitro 細胞傷害活性の比較を表すグラフである。白四角(□)は GPC3 ERY19-3、黒四角(■)は GPC3 BiTE の細胞傷害活性を表す。【図15】A.NTA1L/NTA1R/GC33-k0 を発現させた CM のサイズ排除クロマトグラフィー分析の結果を表すクロマトグラムである。B.NTA2L/NTA2R/GC33-k0 を発現させた CM のサイズ排除クロマトグラフィー分析の結果を表すクロマトグラムである。【図16】本願明細書の実施例に記載されるポリペプチド会合体である GPC3 BiTE、ERY2、GPC3 ERY5、GPC3 ERY6、GPC3 ERY7、GPC3 ERY8-2、GPC3 ERY9-1、GPC3 ERY 10-1、GPC3 ERY15、GPC3 ERY18、および GPC3 ERY19-3 を構成する各ドメインの表示である;交差線で表されるドメインは抗癌抗原(GPC3、EpCAM、EGFR)抗体 H 鎖可変領域、斜線で表されるドメインは抗癌抗原(GPC3、EpCAM、EGFR)抗体 L 鎖可変領域、点線で表されるドメインは抗 CD3 抗体 H 鎖可変領域、黒塗りで表されるドメインは抗 CD3 抗体 L 鎖可変領域、白塗りで表されるドメインは5 抗体定常領域、クロス字はサイレント Fc 変異、星印はヘテロ Fc を会合化させる変異、をそれぞれ表す。【図17】A:GPC3 BiTE の模式図、B:GPC3 ERY 10 の模式図、C:GPC3 ERY2 の模式図、D:GPC3 ERY5 の模式図、E:GPC3 ERY6 の模式図、F:GPC3 ERY7 の模式図、G:の模式図、H:GPC3 ERY9-1 の模式図、I:GPC3 ERY10-1 の模式図、J:GPC3 ERY15 の模式図、K:GPC3 ERY18の模式図、L:GPC3 ERY19-3 の模式図、を示す。【図18】IgG1、IgG2、IgG3 及び IgG4 の Fc 領域を構成するアミノ酸残基と、kabat の EU ナンバリング(本明細書において EU INDEX とも呼ばれる)との関係を表す。【図19】本願明細書の実施例に記載されるポリペプチド会合体である GPC3 ERY17-2、GPC3ERY17-3、EpCAM ERY17-2、および EpCAM ERY17-3 を構成する各ドメインの表示である;交差線で表されるドメインは抗癌抗原(GPC3、EpCAM、EGFR)抗体 H 鎖可変領域、斜線で表されるドメインは抗癌抗原(GPC3、EpCAM、EGFR)抗体 L 鎖可変領域、点線で表されるドメインは抗CD3 抗体 H 鎖可変領域、黒塗りで表されるドメインは抗 CD3 抗体 L 鎖可変領域、白塗りで表されるドメインは抗体定常領域、クロス字はサイレント Fc 変異、星印はヘテロ Fc を会合化させる変異、をそれぞれ表す。【図20】GPC3 BiTE、GPC3 ERY17-2、GPC3 ERY17-3、GPC3 ERY10-1 の細胞傷害活性の比較を表すグラフである。黒四角(■)は GPC3 BiTE、黒三角(▲)は GPC3 ERY17-2、白丸(○)は GPC3 ERY17-3、白四角(□)は GPC3 ERY10-1 の細胞傷害活性をそれぞれ表す。【図21】PC-10 T 細胞移入モデルにおける GPC3 ERY17-2 の in vivo 抗腫瘍効果を表すグラフである。白四角(□)は GPC3 ERY17-2 投与群の腫瘍体積の変化を表す。黒菱(◆)は対照群(PBS 投与)の腫瘍体積の変化を表す。【図22】GPC3 ERY17-2、GPC3 ERY17-2-M20 の細胞傷害活性の比較を表すグラフである。黒三角(▲)は GPC3 ERY17-2、白丸(○)は GPC3 ERY17-2-M20 の細胞傷害活性をそれぞれ表す。【図23】EpCAM ERY17-2、EpCAM ERY17-3 の細胞傷害活性の比較を表すグラフである。黒三角(▲)は EpCAM ERY17-2、白四角(□)は EpCAM ERY17-3 の細胞傷害活性をそれぞれ表す。5 【図24】本願明細書の実施例に記載されるポリペプチド会合体である GM1 又は GM2、およびGM0 を構成する各ドメインの表示である。CH1/CL 界面会合制御が導入され、さらに Knobinto Hole (KiH)の改変が導入されたポリペプチド会合体を A、CH1/CL 界面会合制御も KiH も導入されていないポリペプチド会合体を B として示した;交差線で表されるドメインは抗癌抗原(GPC3、EpCAM)抗体 H 鎖可変領域、斜線で表されるドメインは抗癌抗原(GPC3、EpCAM)抗体 L 鎖可変領域、点線で表されるドメインは抗 CD3 抗体 H 鎖可変領域、黒塗りで表されるドメインは抗 CD3 抗体 L 鎖可変領域、白塗りで表されるドメインは抗体定常領域、クロス字はサイレント Fc 変異、星印はヘテロ Fc を会合化させる変異、中空円は CH1/CL 界面会合制御が導入された変異、をそれぞれ表す。【図25】GM1、GM2、GM0 の細胞傷害活性の比較を表すグラフである。黒三角(▲)は、白四角(□)は GM2、白丸(○)は GM0 の細胞傷害活性をそれぞれ表す。【図26】EGFR ERY17-2 の細胞傷害活性を表すグラフである。黒三角(▲)は EGFR ERY17-2の細胞傷害活性を表す。【発明を実施するための形態】【0068】抗原結合ドメイン本明細書において「抗原結合ドメイン」とは、抗原の一部または全部に特異的に結合し且つ相補的である領域を含んで成る抗体の部分をいう。抗原の分子量が大きい場合、抗体は抗原の特定部分にのみ結合することができる。当該特定部分はエピトープと呼ばれる。抗原結合ドメインは一または複数の抗体の可変ドメインより提供され得る。好ましくは、抗原結合ドメインは抗体軽鎖可変領域(VL)と抗体重鎖可変領域(VH)とを含む。こうした抗原結合ドメインの例としては、「scFv(single chain Fv)」、「単鎖抗体(single chain antibody)」、「Fv」、「scFv2(single chain Fv 2)」、「Fab」または「F(ab')2」等が好適に挙げられる。【0098】本明細書において、Fv としては、例えば以下のポリペプチド会合体;二価の scFv のうち一価の scFv が CD3 結合ドメインを構成する重鎖 Fv 断片を介して Fc 領域を5 構成する一つのポリペプチドに、他方の一価の scFv が CD3 結合ドメインを構成する軽鎖 Fv 断片を介して Fc 領域を構成する他方の一つのポリペプチドに連結された二価の抗原結合ドメインが二価の scFv である(1)二価の抗原結合ドメイン、(2)IgG1、IgG2a、IgG3 又は IgG4の Fc 領域を構成するアミノ酸のうち Fcγ 受容体に対する結合活性を有しない Fc 領域を含むドメイン、及び、(3)少なくとも一価の CD3 結合ドメイン、を含むポリペプチド会合体等において軽鎖 Fv 断片及び重鎖 Fv 断片が、抗原である CD3 に対する結合を有する態様で会合し CD3 結合ドメインを構成する一組の Fv も好適に含まれる。【0099】scFv 、単鎖抗体、または sc(Fv)2本明細書において、「scFv」、「単鎖抗体」、または「sc(Fv)2」という用語は、単一のポリペプチド鎖内に、重鎖および軽鎖の両方に由来する可変領域を含むが、定常領域を欠いている抗体断片を意味する。一般に、単鎖抗体は、抗原結合を可能にすると思われる所望の構造を形成するのを可能にする、VH ドメインと VL ドメインの間のポリペプチドリンカーをさらに含む。単鎖抗体は、The Pharmacology of Monoclonal Antibodies、113 巻、Rosenburg、及び、Moore 編、Springer-Verlag、New York、269~315(1994)において Pluckthun によって詳細に考察されている。同様に、国際特許出願公開 WO1988/001649 および米国特許第 4,946,778 号および同第 5,260,203 号を参照。特定の態様において、単鎖抗体はまた、二重特異性であるか、かつ/またはヒト化され得る。【0109】Fab 、F(ab’)2 、または Fab’「Fab」は、一本の軽鎖、ならびに一本の重鎖の CH1 領域および可変領域から構成される。Fab 分子の重鎖は、別の重鎖分子とのジスルフィド結合を形成できない。【0110】「F(ab’)2」及び「Fab’」とは、イムノグロブリン(モノクローナル抗体)をタンパク質分解酵素であるペプシンあるいはパパイン等で処理することにより製造され、ヒンジ領域中の2 本の H 鎖間に存在するジスルフィド結合の前後で消化されて生成される抗体フラグメントを5 意味する。例えば、IgG をパパインで処理することにより、ヒンジ領域中の 2 本の H 鎖間に存在するジスルフィド結合の上流で切断されて VL(L 鎖可変領域)と CL(L 鎖定常領域)からなる L 鎖、及び VH(H 鎖可変領域)と CHγ1(H 鎖定常領域中のγ1 領域)とからなる H 鎖フラグメントが C 末端領域でジスルフィド結合により結合した相同な 2 つの抗体フラグメントが製造され得る。これら 2 つの相同な抗体フラグメントはそれぞれ Fab'といわれる。【0111】「F(ab’)2」は、二本の軽鎖、ならびに、鎖間のジスルフィド結合が 2 つの重鎖間で形成されるように CH1 ドメインおよび CH2 ドメインの一部分の定常領域を含む二本の重鎖を含む。本明細書において開示されるポリペプチド会合体を構成する F(ab’)2 は、所望の抗原結合ドメインを有する全長モノクローナル抗体等をペプシン等の蛋白質分解酵素にて部分消化した後に、Fc 断片をプロテイン A カラムに吸着させて除去することにより、好適に取得され得る。かかる蛋 白 質 分 解 酵 素 と し て は pH 等 の 酵 素 の 反 応 条 件 を 適 切 に 設 定 す る こ と に よ り 制 限 的 にF(ab’)2 を生じるように全長抗体を消化し得るものであれば特段の限定はされず、例えば、ペプシンやフィシン等が例示できる。【0112】Fc 領域本明細書において開示されるポリペプチド会合体を構成する Fc 領域はモノクローナル抗体等の抗体をペプシン等の蛋白質分解酵素にて部分消化した後に、断片をプロテイン A カラム、あるいはプロテイン G カラムに吸着させた後に、適切な溶出バッファー等により溶出させることにより好適に取得され得る。かかる蛋白質分解酵素としては pH 等の酵素の反応条件を適切に設定することによりモノクローナル抗体等の抗体を消化し得るものであれば特段の限定はされず、例えば、ペプシンやフィシン等が例示できる。【0113】本明細書に記載されるポリペプチド会合体には IgG1、IgG2、IgG3 又は IgG4 の Fc 領域を構成するアミノ酸のうち Fcγ受容体に対する結合活性が低下している Fc 領域が含まれる。【0115】5 Fc 領域は、二本の軽鎖、ならびに、鎖間のジスルフィド結合が 2 つの重鎖間で形成されるように CH1 ドメインおよび CH2 ドメイン間の定常領域の一部分を含む二本の重鎖を含む F(ab’)2を除いた領域のことをいう。本明細書において開示されるポリペプチド会合体を構成する Fc領域は、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4 モノクローナル抗体等をペプシン等の蛋白質分解酵素にて部分消化した後に、プロテイン A カラムに吸着された画分を再溶出することによって好適に取得され得る。かかる蛋白質分解酵素としては pH 等の酵素の反応条件を適切に設定することにより制限的に F(ab’)2 を生じるように全長抗体を消化し得るものであれば特段の限定はされず、例えば、ペプシンやフィシン等が例示できる。【0116】Fcγ 受容体Fcγ受容体とは、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4 モノクローナル抗体の Fc 領域に結合し得る受容体をいい、実質的に Fcγ受容体遺伝子にコードされるタンパク質のファミリーのいかなるメンバーをも意味する。ヒトでは、このファミリーには、アイソフォーム FcγRIa 、FcγRIb および FcγRIc を含む FcγRI(CD64);アイソフォーム FcγRIIa(アロタイプ H131 および R131を含む)、FcγRIIb(FcγRIIb-1 および FcγRIIb-2 を含む)および FcγRIIc を含む FcγRII(CD32);およびアイソフォーム FcγRIIIa(アロタイプ V158 および F158 を含む)および Fcγ RIIIb(アロタイプ Fcγ RIIIb-NA1 および Fcγ RIIIb-NA2 を含む)を含む FcγRIII(CD16)、並びにいかなる未発見のヒト FcγR 類または FcγR アイソフォームまたはアロタイプも含まれるが、これらに限定されるものではない。FcγR は、ヒト、マウス、ラット、ウサギおよびサルを含むが、これらに限定されるものではない、いかなる生物由来でもよい。マウス FcγR 類には、FcγRI(CD64)、FcγRII(CD32)、FcγRIII(CD16)および FcγRIII-2(CD16-2)、並びにいかなる未発見のマウス FcγR 類または FcγR アイソフォームまたはアロタイプも含まれるが、これらに限定されない。こうした Fcγ受容体の好適な例としてはヒトFc γ I ( CD64 )、 Fc γ IIA ( CD32 )、 Fc γ IIB ( CD32 )、 Fc γ IIIA ( 6 ) 及 び / 又 は Fc γ IIIB(CD16)が挙げられる。FcγI のポリヌクレオチド配列及びアミノ酸配列はそれぞれ配列番号:13(NM_000566.3)及び14(NP_000557.1)に、FcγIIA のポリヌクレオチド配列及び5 アミノ酸配列はそれぞれ配列番号:15(BC020823.1)及び16(AAH20823.1)に、FcγIIBのポリヌクレオチド配列及びアミノ酸配列はそれぞれ配列番号:17(BC146678.1)及び18(AAI46679.1)に、FcγIIIA のポリヌクレオチド配列及びアミノ酸配列はそれぞれ配列番号:19(BC033678.1)及び20(AAH33678.1)に、及び FcγIIIB のポリヌクレオチド配列及びアミノ酸配列は、それぞれ配列番号:21(BC128562.1)及び22(AAI28563.1)に記載されている(カッコ内は RefSeq 登録番号を示す)。Fcγ受容体が、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4モノクローナル抗体の Fc 領域に結合活性を有するか否かは、上記に記載される FACS や ELISAフォーマットのほか、ALPHA スクリーン(Amplified Luminescent Proximity HomogeneousAssay)や表面プラズモン共鳴(SPR)現象を利用した BIACORE 法等によって確認され得る(Proc.Natl.Acad.Sci.USA (2006) 103 (11)、4005-4010)。【0117】また、「Fc リガンド」または「エフェクターリガンド」は、抗体の Fc 領域に結合して Fc/Fc リガンド複合体を形成する、任意の生物に由来する分子、好ましくはポリペプチドを意味する。Fc リガンドの Fc への結合は、好ましくは、1つまたはそれ以上のエフェクター機能を誘起する。Fc リガンドには、Fc 受容体、FcγR、FcαR、FcεR、FcRn、C1q、C3、マンナン結合レクチン、マンノース受容体、スタフィロコッカスのプロテインA、スタフィロコッカスのタンパク質Gおよびウイルスの FcγR が含まれるが、これらに限定されない。Fc リガンドには、FcγR に相同な Fc 受容体のファミリーである Fc 受容体相同体(FcRH)(Davis et al.,(2002)Immunological Reviews 190、123-136)も含まれる。Fc リガンドには、Fc に結合する未発見の分子も含まれ得る。【0118】Fcγ受容体に対する結合活性Fc 領域が FcγI、FcγIIA、FcγIIB、FcγIIIA 及び/又は FcγIIIB のいずれかの Fcγ受容体に対する結合活性が低下していることは、上記に記載される FACS や ELISA フォーマットのほか、ALPHA スクリーン(Amplified Luminescent Proximity Homogeneous Assay)や表面プ ラ ズ モ ン 共 鳴 ( SPR ) 現 象 を 利 用 し た BIACORE 法 等 に よ っ て 確 認 す る こ と が で き る5 (Proc.Natl.Acad.Sci.USA (2006) 103 (11)、4005-4010)。【0122】本明細書において、Fcγ受容体に対する結合活性が低下しているとは、例えば、上記の解析方法に基づいて、対照とするポリペプチド会合体の競合活性に比較して被検ポリペプチド会合体の競合活性が、50%以下、好ましくは 45%以下、40%以下、35%以下、30%以下、20%以下、15%以下、特に好ましくは 10%以下、9%以下、8%以下、7%以下、6%以下、5%以下、4%以下、3%以下、2%以下、1%以下の結合活性を示すことをいう。【0123】対照とするポリペプチド会合体としては、IgG1、IgG2、IgG3 又は IgG4 モノクローナル抗体の Fc 領域を有するポリペプチド会合体が適宜使用され得る。当該 Fc 領域の構造は、配列番号:23(RefSeq 登録番号 AAC82527.1 の N 末に A 付加)、24(RefSeq 登録番号.1 の N 末にA 付加)、25(RefSeq 登録番号 CAA27268.1 の N 末に A 付加)、26(RefSeq 登録番号AAB59394.1 の N 末に A 付加)に記載されている。また、ある特定のアイソタイプの抗体の Fc領域の変異体を有するポリペプチド会合体を被検物質として使用する場合には、当該特定のアイソタイプの抗体の Fc 領域を有するポリペプチド会合体を対照として用いることによって、当該変異体が有する変異による Fcγ受容体への結合活性に対する効果が検証される。上記のようにして、Fcγ受容体に対する結合活性が低下していることが検証された Fc 領域の変異体を有するポリペプチド会合体が適宜作製される。【0124】このような変異体の例としては、EU ナンバリングに従って特定されるアミノ酸である 1A-238S の欠失(WO 2009/011941)、C226S、C229S、P238S、(C220S)(J.Rheumatol (2007) 34、11)、C226S、C229S(Hum.Antibod.Hybridomas (1990) 1(1)、47-54)、C226S、C229S、E233P、L234V、L235A(Blood (2007) 109、1185-1192)等の変異体が公知である。【0125】すなわち、特定のアイソタイプの抗体の Fc 領域を構成するアミノ酸のうち、EU ナンバリングに従って特定される下記のいずれかのアミノ酸;220 位、226 位、229 位、231 位、232 位、5 233 位、234 位、235 位、236 位、237 位、238 位、239 位、240 位、264 位、265 位、266 位、267 位、269 位、270 位、295 位、296 位、297 位、298 位、299 位、300 位、325 位、327 位、328 位、329 位、330 位、331 位、332 位が置換されている Fc 領域を有するポリペプチド会合体が好適に挙げられる。Fc 領域の起源である抗体のアイソタイプとしては特に限定されず、IgG1、IgG2、IgG3 又は IgG4 モノクローナル抗体を起源とする Fc 領域が適宜利用され得るが、IgG1 抗体を起源とする Fc 領域が好適に利用される。【0126】例えば、IgG1 抗体の Fc 領域を構成するアミノ酸のうち、EU ナンバリングに従って特定される下記のいずれかの置換(数字が EU ナンバリングに従って特定されるアミノ酸残基の位置、数字の前に位置する一文字のアミノ酸記号が置換前のアミノ酸残基、数字の後に位置する一文字のアミノ酸記号が置換前のアミノ酸残基をそれぞれ表す);(a)L234F、L235E、P331S、(b)C226S、C229S、P238S、(c)C226S、C229S、(d)C226S、C229S、E233P、L234V、L235Aが施されている Fc 領域、又は、231 位から 238 位のアミノ酸配列が欠失した Fc 領域を有するポリペプチド会合体も適宜使用され得る。【0127】また、IgG2 抗体の Fc 領域を構成するアミノ酸のうち、EU ナンバリングに従って特定される下記のいずれかの置換(数字が EU ナンバリングに従って特定されるアミノ酸残基の位置、数字の前に位置する一文字のアミノ酸記号が置換前のアミノ酸残基、数字の後に位置する一文字のアミノ酸記号が置換前のアミノ酸残基をそれぞれ表す);(e)H268Q、V309L、A330S、P331S(f)V234A(g)G237A(h)V234A、G237A5 (i)A235E、G237A(j)V234A、A235E、G237Aが施されている Fc 領域を有するポリペプチド会合体も適宜使用され得る。【0128】また、IgG3 抗体の Fc 領域を構成するアミノ酸のうち、EU ナンバリングに従って特定される下記のいずれかの置換(数字が EU ナンバリングに従って特定されるアミノ酸残基の位置、数字の前に位置する一文字のアミノ酸記号が置換前のアミノ酸残基、数字の後に位置する一文字のアミノ酸記号が置換前のアミノ酸残基をそれぞれ表す);(k)F241A(l)D265A(m)V264Aが施されている Fc 領域を有するポリペプチド会合体も適宜使用され得る。【0129】また、IgG4 抗体の Fc 領域を構成するアミノ酸のうち、EU ナンバリングに従って特定される下記のいずれかの置換(数字が EU ナンバリングに従って特定されるアミノ酸残基の位置、数字の前に位置する一文字のアミノ酸記号が置換前のアミノ酸残基、数字の後に位置する一文字のアミノ酸記号が置換前のアミノ酸残基をそれぞれ表す);(n)L235A、G237A、E318A(o)L235E(p)F234A、L235Aが施されている Fc 領域を有するポリペプチド会合体も適宜使用され得る。【0130】その他の好ましい例として、IgG1 抗体の Fc 領域を構成するアミノ酸のうち、EU ナンバリングに従って特定される下記のいずれかのアミノ酸;233 位、234 位、235 位、236 位、237 位、327 位、330 位、331 位が、対応する IgG2 または IgG4 においてその EU ナンバリングが対応するアミノ酸に置換されている Fc 領域を有するポリペプチド会合体が挙げられる。5 【0131】その他の好ましい例として、IgG1 抗体の Fc 領域を構成するアミノ酸のうち、EU ナンバリングに従って特定される下記のいずれか一つ又はそれ以上のアミノ酸;234 位、235 位、297 位が他のアミノ酸によって置換されている Fc 領域を有するポリペプチド会合体が好適に挙げられる。置換後に存在するアミノ酸の種類は特に限定されないが、234 位、235 位、7 位のいずれか一つ又はそれ以上のアミノ酸がアラニンに置換されている Fc 領域を有するポリペプチド会合体が特に好ましい。【0132】その他の好ましい例として、IgG1 抗体の Fc 領域を構成するアミノ酸のうち、EU ナンバリングに従って特定される下記のいずれかのアミノ酸;265 位が他のアミノ酸によって置換されている Fc 領域を有するポリペプチド会合体が好適に挙げられる。置換後に存在するアミノ酸の種類は特に限定されないが、265 位のアミノ酸がアラニンに置換されている Fc 領域を有するポリペプチド会合体が特に好ましい。【0133】二重特異性抗体を起源とする Fc 領域本明細書において、Fcγ受容体に対する結合活性が低下している Fc 領域としては、二重特異性抗体(bispecific 抗体)を起源とする Fc 領域も適宜使用される。二重特異性抗体とは、二つの異なる特異性を有する抗体である。IgG 型の二重特異性抗体は IgG 抗体を産生するハイブリドーマ二種を融合することによって生じる hybrid hybridoma(quadroma)によって分泌させることが出来る(Milstein C et al.Nature (1983) 305, 537-540)。【0134】また、IgG 型の二重特異性抗体は目的の二種の IgG を構成する L 鎖及び H 鎖の遺伝子、合計四種の遺伝子を細胞に導入しそれらを共発現させることによって分泌される。しかし、これらの方法で産生される IgG の H 鎖と L 鎖の組合せは理論上 10 通りにもなる。10 種類の IgG から目的の組み合わせの H 鎖 L 鎖からなる IgG を精製することは困難である。さらに目的の組み合わせのものの分泌量も理論上著しく低下するため、大きな培養規模が必要になり、製造上のコ5 ストはさらに増大する。【0135】この際 H 鎖の Fc 領域を構成する CH3 領域に適当なアミノ酸置換を施すことによって H 鎖についてヘテロな組合せの IgG が優先的に分泌され得る。具体的には、一方の H 鎖の CH3 領域に存在するアミノ酸側鎖をより大きい側鎖(knob(「突起」の意))に置換し、もう一方の H 鎖のCH3 領域に存在するアミノ酸側鎖をより小さい側鎖(hole(「空隙」の意))に置換することにより突起が空隙内に配置され得るようにして異種 H 鎖形成の促進および同種 H 鎖形成の阻害を引き起こす方法である(WO1996/027011、Ridgway JB et al., Protein Engineering (1996)9、617-621、Merchant AM et al. Nature Biotechnology (1998) 16、677-681)。【0137】また、ポリペプチドの会合、またはポリペプチドによって構成される異種多量体の会合の制御方法を、Fc 領域を構成する二つのポリペプチドの会合に利用することによって二重特異性抗体を作製する技術も知られている。即ち、Fc 領域を構成する二つのポリペプチド内の界面を形成するアミノ酸残基を改変することによって、同一配列を有する Fc 領域を構成するポリペプチドの会合が阻害され、配列の異なる二つの Fc 領域を構成するポリペプチド会合体が形成されるように制御する方法が二重特異性抗体の作製に採用され得る(WO2006/106905)。【0138】本発明にかかる Fc 領域を含むドメインとしては、上記の二重特異性抗体を起源とする Fc 領域を構成する二つのポリペプチドが適宜使用され得る。より具体的には、Fc 領域を構成する二つのポリペプチドであって、その一方のポリペプチドのアミノ酸配列のうち EU ナンバリングに従って特定される 349 位のアミノ酸がシステイン、366 位のアミノ酸がトリプトファンであり、他方のポリペプチドのアミノ酸配列のうち EU ナンバリングに従って特定される 356 位のアミノ酸がシステイン、366 位のアミノ酸がセリンに、368 位のアミノ酸がアラニンに、407位のアミノ酸がバリンであることを特徴とする、二つのポリペプチドが好適に用いられる。【0145】C 末端のヘテロジェニティーが改善された Fc 領域5 本明細書において、Fcγ受容体に対する結合活性が低下している Fc 領域として、上記の特徴に加えて Fc 領域の C 末端のヘテロジェニティーが改善された Fc 領域が適宜使用され得る。より具体的には、IgG1、IgG2、IgG3 又は IgG4 を起源とする Fc 領域を構成する二つのポリペプチドのアミノ酸配列のうち EU ナンバリングに従って特定される 446 位のグリシン、及び 447位のリジンが欠失した Fc 領域が提供される。【0146】T 細胞受容体複合体結合ドメイン本明細書において、「T 細胞受容体複合体結合ドメイン」とは、T 細胞受容体複合体の一部または全部に特異的に結合し且つ相補的である領域を含んで成る T 細胞受容体複合体抗体の部分をいう。T 細胞受容体複合体は、T 細胞受容体自身でもよいし、T 細胞受容体とともに T 細胞受容体複合体を構成するアダプター分子でもよい。アダプターとして好適なものは CD3 である。【0147】T 細胞受容体結合ドメイン本明細書において、「T 細胞受容体結合ドメイン」とは、T 細胞受容体の一部または全部に特異的に結合し且つ相補的である領域を含んでなる T 細胞受容体抗体の部分をいう。【0148】T 細胞受容体としては、可変領域でもよいし、定常領域でもよいが、好ましい CD3 結合ドメインが結合するエピトープは定常領域に存在するエピトープである。定常領域の配列として、例えば RefSeq 登録番号 CAA26636.1 の T 細胞受容体α鎖(配列番号:67)、RefSeq 登録番号C25777 の T 細胞受容体β鎖(配列番号:68)、RefSeq 登録番号 A26659 の T 細胞受容体γ1鎖(配列番号:69)、RefSeq 登録番号 AAB63312.1 の T 細胞受容体γ2 鎖(配列番号:70)、RefSeq 登録番号 AAA61033.1 の T 細胞受容体δ鎖(配列番号:71)の配列を挙げることができる。【0149】CD3 結合ドメイン本明細書において「CD3 結合ドメイン」とは、CD3 の一部または全部に特異的に結合し且つ5 相補的である領域を含んで成る CD3 抗体の部分をいう。CD3 結合ドメインは一または複数の抗体の可変ドメインより提供され得る。好ましくは、CD3 結合ドメインは CD3 抗体の軽鎖可変領域(VL)と CD3 抗体の重鎖可変領域(VH)とを含む。こうした CD3 結合ドメインの例としては、「scFv(single chain Fv )」、「単鎖抗体(single chain antibody )」、「Fv」、「scFv2(single chain Fv 2)」、「Fab」または「F(ab')2」等が好適に挙げられる。【0150】本発明に係る CD3 結合ドメインは、ヒト CD3 を構成するγ 鎖、δ 鎖又はε 鎖配列に存在するエピトープであればいずれのエピトープに結合するものであり得る。本発明において、好ましくはヒト CD3 複合体のε 鎖の細胞外領域に存在するエピトープに結合する CD3 抗体の軽鎖可変領域(VL)と CD3 抗体の重鎖可変領域(VH)とを含む CD3 結合ドメインが好適に用いられる。こうした CD3 結合ドメインとしては、OKT3 抗体(Proc. Natl. Acad. Sci. USA(1980)77、4914-4917)や種々の公知の CD3 抗体の軽鎖可変領域(VL)と CD3 抗体の重鎖可変領域(VH)とを含む CD3 結合ドメインが好適に用いられる。また、ヒト CD3 を構成するγ鎖、δ鎖又はε 鎖を前記の方法によって所望の動物に免疫することによって取得された所望の性質を有する CD3 抗体を起源とする CD3 結合ドメインが適宜使用され得る。CD3 結合ドメインの起源となる CD3 抗体は前記のとおり適宜ヒト化された抗体やヒト抗体が適宜用いられる。CD3 を構成するγ鎖、δ鎖又はε鎖の構造は、そのポリヌクレオチド配列が、配列番号:27(NM_000073.2)、29(NM_000732.4)及び31(NM_000733.3)に、そのポリペプチド配列が、配列番号:28(NP_000064.1)、30(NP_000723.1)及び32(NP_000724.1)に記載されている(カッコ内は RefSeq 登録番号を示す)。【0165】本発明に係るポリペプチド会合体の別の構造である、抗原結合ドメインおよび T 細胞受容体複合体結合ドメインが各々一価の Fab である構造の一態様として、(1)抗原に結合する一価の Fab 構造の重鎖 Fv 断片が CH1 領域を介して前記 Fc 領域を構成する一方のポリペプチドに連結され、当該 Fab 構造の軽鎖 Fv 断片が CL 領域と連結された抗原結合ドメイン、及び、5 (2)T 細胞受容体複合体に結合する一価の Fab 構造の重鎖 Fv 断片が CH1 領域を介して Fc 領域を構成する他方のポリペプチドに連結され、当該 Fab 構造の軽鎖 Fv 断片が CL 領域と連結された T 細胞受容体複合体結合ドメイン、を含み、抗原結合ドメイン中の重鎖 Fv 断片と抗原結合ドメイン中の軽鎖 Fv 断片または T 細胞受容体結合ドメイン中の重鎖 Fv 断片と T 細胞受容体結合ドメイン中の軽鎖 Fv 断片が会合するように CH1 領域と CL 領域の電荷が制御されているポリペプチドが好適に挙げられる。本態様においては、抗原結合ドメイン中の重鎖 Fv 断片と抗原結合ドメイン中の軽鎖 Fv 断片または T細胞受容体結合ドメイン中の重鎖 Fv 断片と T 細胞受容体結合ドメイン中の軽鎖 Fv 断片が会合するように CH1 領域と CL 領域の電荷が制御されていればよく、そのポリペプチド会合体の構造(会合制御構造)は特定の一構造に限定されない。【0174】CH1 領域と CL 領域の電荷の制御T 細胞受容体結合ドメインの重鎖と軽鎖により T 細胞受容体結合ドメインのエピトープを認識し、また、抗原結合ドメインの重鎖と軽鎖により抗原のエピトープを認識するような二重特異性ポリペプチド会合体を取得したい場合、当該ポリペプチド会合体の生産に際して 4 種のそれぞれの鎖を発現させると理論上 10 種類のポリペプチド会合体分子が生産される可能性がある。【0175】この場合、例えば、T 細胞受容体結合ドメインの重鎖と抗原結合ドメインの軽鎖および/または抗原結合ドメインの重鎖と T 細胞受容体結合ドメインの軽鎖の間の会合を阻害するように制御すれば、所望のポリペプチド会合体分子を優先的に取得することが可能である。【0176】例えば、T 細胞受容体結合ドメインの重鎖 CH1 と抗原結合ドメインの軽鎖 CL 間の界面を形成するアミノ酸残基を正の電荷を有するアミノ酸残基に改変し、抗原結合ドメインの重鎖 CH1 とT 細胞受容体結合ドメインの軽鎖 CL 間の界面を形成するアミノ酸残基を負の電荷を有するアミノ酸残基に改変する例を挙げることができる。この改変により、目的としない T 細胞受容体結5 合ドメインの重鎖 CH1 と抗原結合ドメインの軽鎖 CL との会合は界面を形成するアミノ酸残基がどちらも正電荷であるため阻害され、目的としない抗原結合ドメインの重鎖 CH1 と T 細胞受容体結合ドメインの軽鎖 CL との会合は界面を形成するアミノ酸残基がどちらも負電荷であるため阻害される。その結果、目的とする T 細胞受容体結合ドメインの重鎖 CH1 と T 細胞受容体結合ドメインの軽鎖 CL との会合及び目的とする抗原結合ドメインの重鎖 CH1 と抗原結合ドメインの軽鎖 CL との会合が生じた本発明のポリペプチド会合体が効率的に取得され得る。また、好適には、目的とする T 細胞受容体結合ドメインの重鎖と T 細胞受容体結合ドメインの軽鎖との会合は、界面を形成するアミノ酸残基が互いに異種の電荷を有するために促進され、目的とする抗原結合ドメインの重鎖と抗原結合ドメインの軽鎖との会合も界面を形成するアミノ酸残基が互いに異種の電荷を有するため促進される。その結果、目的とする会合が生じた本発明のポリペプチド会合体が効率的に取得され得る。【0177】また、本発明の会合制御を利用することにより、CH1 同士(T 細胞受容体結合ドメインの重鎖と抗原結合ドメインの重鎖)、あるいは、CL 同士(T 細胞受容体結合ドメインの軽鎖と抗原結合ドメインの軽鎖)の会合を抑制することも可能である。【0178】当業者であれば、本発明によって会合を制御したい所望のポリペプチド会合体について、会合した際の CH1 と CL の界面において接近するアミノ酸残基の種類を適宜知ることが可能である。【0179】また、ヒト、サル、マウス及びウサギ等の生物において、抗体の CH1 又は CL として利用可能な配列を、当業者は、公共のデータベース等を利用して適宜取得することができる。より具体的には、後述の実施例に記載の手段にて、CH1 又は CL のアミノ酸配列情報が取得され得る。【0180】例えば、後述の実施例で示されるように、T 細胞受容体結合ドメインまたは抗原結合ドメインを構成する VH および VL にそれぞれ連結する CH1 と CL が会合する際の CH1 と CL の界面にお5 いて接近(相対または接触)するアミノ酸残基の具体例として、以下の組合せが挙げられる。・CH1 の EU ナンバリング 147 位(例えば、配列番号:1に記載のアミノ酸配列における位)のリジン(K)と、相対(接触)する CL の EU ナンバリング 180 位のスレオニン(T)・CH1 の EU ナンバリング 147 位のリジン(K)と、相対(接触)する CL の EU ナンバリング 131位のセリン(S)・CH1 の EU ナンバリング 147 位のリジン(K)と、相対(接触)する CL の EU ナンバリング 164位のスレオニン(T)・CH1 の EU ナンバリング 147 位のリジン(K)と、相対(接触)する CL の EU ナンバリング 138位のアスパラギン(N)・CH1 の EU ナンバリング 147 位のリジン(K)と、相対(接触)する CL の EU ナンバリング 123位のグルタミン酸(E)・CH1 の EU ナンバリング 175 位のグルタミン(Q)と、相対(接触)する CL の EU ナンバリング 160 位のグルタミン(Q)・CH1 の EU ナンバリング 213 位のリジン(K)と、相対(接触)する CL の EU ナンバリング 123位のグルタミン酸(E)な お 、 こ れ ら 部 位 の ナ ン バ リ ン グ に つ い て は 、 Kabat ら の 文 献 (Kabat EA et al.1991.Sequence of Proteins of Immunological Interest. NIH)を参考にしている。また、本発 明 に お け る EU ナ ン バ リ ン グ と し て 記 載 さ れ た 番 号 は 、 EU numbering(Sequences ofproteins of immunological interest, NIH Publication No.91-3242)にしたがって記載した ものである。なお本発明において、「EU ナンバリング X 位のアミノ酸残基」、「EU ナンバリング X 位のアミノ酸」(X は任意の数)は、「EU ナンバリング X 位に相当するアミノ酸残基」、「EU ナンバリング X 位に相当するアミノ酸」と読みかえることも可能である。【0181】後述の実施例で示すように、これらアミノ酸残基を改変し、本発明の方法を実施することにより、所望のポリペプチド会合体が優先的に取得され得る。【0182】5 これらアミノ酸残基は、ヒトおよびマウスにおいて高度に保存されていることが知られている(J. Mol. Recognit. (2003) 16、113-120)ことから、実施例に示すポリペプチド会合体以外の CH1 と CL の会合についても、上記アミノ酸残基に対応するアミノ酸残基を改変することによって、本発明のポリペプチド会合体の定常領域の会合が制御され得る。【0183】即ち、本発明は、重鎖と軽鎖の会合が制御されたポリペプチド会合体であって、以下の(a)~(f)に示すアミノ酸残基の組からなる群より選択される 1 組または2組以上のアミノ酸残基が同種の電荷を有するポリペプチド会合体を提供する;(a)CH1 に含まれるアミノ酸残基であって EU ナンバリング 147 位のアミノ酸残基、及び CLに含まれるアミノ酸残基であって EU ナンバリング 180 位のアミノ酸残基、(b)CH1 に含まれるアミノ酸残基であって EU ナンバリング 147 位のアミノ酸残基、及び CLに含まれるアミノ酸残基であって EU ナンバリング 131 位のアミノ酸残基、(c)CH1 に含まれるアミノ酸残基であって EU ナンバリング 147 位のアミノ酸残基、及び CLに含まれるアミノ酸残基であって EU ナンバリング 164 位のアミノ酸残基、(d)CH1 に含まれるアミノ酸残基であって EU ナンバリング 147 位のアミノ酸残基、及び CLに含まれるアミノ酸残基であって EU ナンバリング 138 位のアミノ酸残基、(e)CH1 に含まれるアミノ酸残基であって EU ナンバリング 147 位のアミノ酸残基、及び CLに含まれるアミノ酸残基であって EU ナンバリング 123 位のアミノ酸残基、(f)CH1 に含まれるアミノ酸残基であって EU ナンバリング 175 位のアミノ酸残基、及び CLに含まれるアミノ酸残基であって EU ナンバリング 160 位のアミノ酸残基。【0201】本発明に係るポリペプチド会合体として、例えば図17、図19および図24に記載される態様が挙げられる。【実施例】【0219】以下に実施例により本発明をより詳細に説明するが、これらの実施例は本発明の範囲を制限5 するものではない。【0220】〔実施例1〕GPC3 ERY2 の作製と検討(1)概容生体内に投与されたタンパク質の血中半減期を延ばす方法としては、目的タンパク質に抗体の Fc ドメインを付加し、FcRn を介したリサイクリング機能を利用する方法が良く知られている。しかしこの際、天然型の Fc を BiTE に付加すると、一つの分子が BiTE 部分の抗 CD3 scFvを介して T 細胞と結合すると同時に、Fc 部分を介して NK 細胞、マクロファージなどの細胞膜上の FcgR(Fcγ受容体)と結合することにより、癌抗原非依存的にこれらの細胞を架橋することによって活性化させ、各種サイトカインの誘導につながる可能性があるものと考えられた。そこで、BiTE にポリペプチドリンカーを介して Fcγ 受容体に対する結合活性が低下しているFc 領域(サイレント型 Fc)を連結させた分子、ERY2 が作製され、この活性を BiTE と比較する検証が行われた。肝臓癌細胞において高発現していることが知られている GPI アンカータンパクである Glypican 3(GPC3)に対する抗体の scFv と CD3 epsilon に対する抗体の scFv を短いペプチドリンカーで連結することによって、GPC3 に対する BiTE(GPC3 BiTE)が作製された(図17A)。ついで、これにサイレント型 Fc を連結したに対する ERY2(GPC3 ERY2)が作製された(図17C)。また、比較として通常の IgG 型抗 GPC3 抗体が作製された。この際、IgG型抗 GPC3 抗体は、ADCC 活性がより増強することが知られている、糖鎖部分においてフコース含量を低減させた抗体、すなわち低フコース型抗体として調製された。【0221】(2)GPC3 BiTE の作製抗 GPC3 抗体の発現ベクターを鋳型として用いることによって、PCR 法により増幅された H 鎖可変領域(anti-GPC3 VH)、L 鎖可変領域(anti-GPC3 VL)をコードする cDNA がそれぞれ取得された。適切な配列を付加したプライマー及び当該 cDNA を鋳型として用いた PCR 法により、anti-GPC3 VH と anti-GPC3 VL とが Gly・Gly・Gly・Gly・Ser(配列番号:7)を 3 回繰り返す配列からなるリンカーによって連結されたアミノ酸配列を有する anti-GPC3 scFv をコード5 する cDNA 断片が作製された。【0222】また、抗 CD3 抗体(M12)の H 鎖可変領域(M12 VH)、及び L 鎖可変領域(M12 VL)の部分配列をコードする塩基配列を有し、その末端配列が相補的配列を有する一連のオリゴヌクレオチドが作製された。ポリメラーゼ反応によってこれら一連のオリゴヌクレオチドがその相補的配列部分を介して連結され当該 H 鎖可変領域(M12 VH)、及び L 鎖可変領域(VL)に相当するポリヌクレオチドが合成されるように設計された。当該オリゴヌクレオチドが混合された後、PCR 法によってこれらのオリゴヌクレオチドが連結され、各可変領域のアミノ酸配列をコードする 2 つの cDNA が取得された。適切な配列を付加したプライマー及びこれらの cDNA を鋳型として用いた PCR 法により、M12 VL と M12 VH とが Gly・Gly・Gly・Gly・Ser(配列番号:7)を 3 回繰り返す配列からなるリンカーによって連結されたアミノ酸配列を有する M12 scFv をコードする cDNA 断片が作製された。【0223】次に、適切な配列を付加したプライマー及び anti-GPC3 scFv と M12 scFv をそれぞれコードする cDNA 断片を鋳型として用いた PCR 法により、anti-GPC3 scFv と M12 scFv とが Gly・Gly・Gly・Gly・Ser 配列(配列番号:7)からなるリンカーによって連結され、かつその C末端に His タグ(8 個の His)が付加された(配列番号:33で記載されるアミノ末端のアミノ酸を除く)アミノ酸配列をコードする cDNA 断片が作製された。【0224】適切な配列を付加したプライマー及び配列番号:33で記載されるアミノ末端の 19 アミノ酸を除くアミノ酸配列をコードする cDNA 断片を鋳型として用いた PCR 法により、当該 cDNA 断片の 5’ 側に EcoRI 切断配列、kozac 配列、及び分泌シグナル配列をコードする塩基配列が付加され、またその 3’ 側に Not I 切断配列が付加された cDNA 断片が作製された。この cDNA 断片を、EcoRI、NotI で切断し、哺乳動物細胞用発現ベクターに組み込むことによって、GPC3BiTE(配列番号:33、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)の発現ベクターを取得した。5 【0225】当該ベクターがエレクトロポレーション法によって CHO 細胞 DG44 株へ遺伝子導入された。限界希釈後に 1 mg/mL Geneticine 存在下で遺伝子導入された細胞を培養することによって薬剤耐性細胞株が単離された。His タグに対する抗体を用いて、得られた細胞株の培養上清に対するウエスタンブロット解析を行なうことにより、GPC3 BiTE を発現する細胞株が選択された。【0226】前記細胞株を大量に培養することによって得られた培養上清が SP Sepharose FF カラム(GEHealthcare 社)に添加された。当該カラムの洗浄後、GPC3 BiTE を含む画分が NaCl の濃度勾配によって溶出された。さらに当該画分が HisTrap HP カラム(GE Healthcare 社)に添加された。当該カラムの洗浄後、GPC3 BiTE を含む画分がイミダゾールの濃度勾配によって溶出され た 。 当 該 画 分 が 限 外 ろ 過 膜 で 濃 縮 さ れ た 後 に 、 濃 縮 液 が Superdex 200 カ ラ ム ( GEHealthcare 社)に添加された。単量体の GPC3 BiTE 画分のみを回収することにより精製 GPC3BiTE が得られた。【0227】(3)GPC3 ERY2 の作製上 記 し た 方 法 と 同 様 の 適 切 な 配 列 が 付 加 さ れ た プ ラ イ マ ー を 用 い た PCR 法 、 お よ びQuikChange Site-Directed Mutagenesis Kit(Stratagene 社)を用いた方法等の当業者において公知の方法によって、GPC3 ERY2_Hk(配列番号:34、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、および GPC3 ERY2_Hh(配列番号:35、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)をそれぞれコードするポリヌクレオチドが挿入された発現ベクターが作製された。【0228】これらの発現ベクターが FreeStyle293-F 細胞(Invitrogen 社)に共に導入され、一過性にGPC3 ERY2 が発現させた。得られた培養上清が Anti FLAG M2 カラム(Sigma 社)に添加され、当該カラムの洗浄の後、0.1 mg/mL FLAG ペプチド(Sigma 社)による溶出が実施された。GPC3ERY2 を含む画分が HisTrap HP カラム(GE Healthcare 社)に添加され、当該カラムの洗浄の5 後、イミダゾールの濃度勾配による溶出が実施された。GPC3 ERY2 を含む画分が限外ろ過膜で濃縮された後、濃縮液が Superdex 200 カラム(GE Healthcare 社)に添加され、その溶出液の単量体の GPC3 ERY2 画分のみを回収することにより精製 GPC3 ERY2 が得られた。【0229】(4)低フコース型抗 GPC3 抗体の作製抗 GPC3 抗体(WO2006/006693 においてヒト化 GC33 抗体として記載されている)の発現ベクターがエレクトロポレーション法によって GDP フコースノックアウト CHO 細胞 DXB11 株(Cancer Sci. (2010) 101(10), 2227-33)に遺伝子導入された。限界希釈後に 0.5 mg/mLGeneticine 存在下で培養することにより薬剤耐性株が選択され、低フコース型抗 GPC3 抗体発現 株 が 得 ら れ た 。 こ の 細 胞 を 培 養 し て 調 製 し た 培 養 上 清 よ り 、 Hitrap(R) ProteinA(Pharmacia 社)を用いた通常のアフィニティー精製により抗体画分が調製された。次に当該抗体画分が Superdex 20026/60(Pharmacia 社)を用いたゲルろ過精製に供され、溶出液のモノマー画分を分取することによって低フコース型 GPC3 抗体が得られた。【0230】(5)ヒト末梢血単核球を用いた細胞傷害活性の測定(5-1)ヒト末梢血単核球(PBMC)溶液の調製1,000 単位/mL のヘパリン溶液(ノボ・ヘパリン注 5 千単位、ノボ・ノルディスク社)をあらかじめ 100μ L 注入した注射器を用い、健常人ボランティア(成人)より末梢血 50 mL が採取された。PBS(-)で 2 倍希釈した後に 4 等分された末梢血が、15 mL の Ficoll-PaquePLUSをあらかじめ注入して遠心操作が行なわれた Leucosep リンパ球分離管(290、Greiner bio-one 社)に加えられた。当該分離管の遠心分離(2,150 rpm、10 分間、室温)の後、単核球画分層が分取された。10%FBS を含む Dulbecco’ s Modified Eagle’ sMedium(SIGMA 社、以下 10%FBS/D-MEM)で 1 回単核球画分の細胞が洗浄された後、当該細胞は 10%FBS/D-MEM を用いてその細胞密度が 4×10 6 /mL に調製された。このように調製された細胞溶液がヒト PBMC 溶液として以後の試験に用いられた。【0231】5 (5-2)細胞傷害活性の測定細胞傷害活性は xCELLigence リアルタイムセルアナライザー(ロシュ・ダイアグノスティックス社)を用いた細胞増殖抑制率で評価された。標的細胞には SK-HEP-1 細胞株にヒト GPC3 を強制発現させて樹立した SK-pca13a 細胞株が用いられた。SK-pca13a をディッシュから剥離し、1×10 4 cells/well となるように E-Plate 96(ロシュ・ダイアグノスティックス社)プレートに 100μL/well で播き、xCELLigence リアルタイムセルアナライザーを用いて生細胞の測定が開始された。翌日 xCELLigence リアルタイムセルアナライザーからプレートを取り出し、当該プレートに各濃度(0.004、0.04、0.4、4 nM)に調製した各抗体 50μ L が添加された。室温にて 15 分間反応させた後に(5-1)で調製されたヒト PBMC 溶液 50μL(2×10 5 cells/well)が加えられ、xCELLigence リアルタイムセルアナライザーに当該プレートを再セットすることによって、生細胞の測定が開始された。反応は 5%炭酸ガス、37℃ 条件下にて行われ、ヒトPBMC 添加 72 時間後の Cell Index 値から、下式により細胞増殖抑制率(%)が求められた。なお計算に用いた Cell Index 値は、抗体添加直前の Cell Index 値が 1 となるようにノーマライズした後の数値が用いられた。【0232】細胞増殖抑制率(%)=(A-B)×100/(A-1)【0233】A は抗体を添加していないウェルにおける Cell Index 値の平均値(標的細胞とヒト PBMC のみ)、B は各ウェルにおける Cell Index 値の平均値を示す。試験は triplicate にて行なわれた。【0234】ヒト血液より調製した PBMC(Peripheral Blood Mononuclear Cell)をエフェクター細胞として GPC3 BiTE、GPC3 ERY2、および IgG 型 GPC3 抗体の細胞傷害活性を測定したところ、GPC3BiTE には極めて強い活性が認められた(図1)。この活性は低フコース型抗抗体よりもはるかに強いものであり、GPC3 BiTE は IgG 型抗体を凌駕する優れた癌治療薬となり得るものと考えられた。一方、GPC3 ERY2 には IgG 型抗 GPC3 抗体を上回る活性が見られたものの、GPC3 BiTE5 の活性には及ばなかった。このことより、単に Fc を BiTE に付加するだけでは目的とする分子を創製することができないものと考えられた。【0235】〔実施例2〕GPC3 ERY5、GPC3 ERY6、GPC3 ERY7 の作製と検討次に、癌抗原(GPC3)への結合ドメインを 2 価にすることにより、より癌細胞に対する結合活性を高めることで比活性を向上させることを試みた。GPC3 ERY2 にさらに GPC3 に対するscFv をもう一つ付加した形の GPC3 ERY5(図17D)、付加する GPC3 に対する結合ドメインをscFv ではなく Fab の形にした GPC3 ERY7(図17F)がそれぞれ作製された。また、GPC3 ERY5の CD3 epsilon に対する scFv を両腕に分離した形の GPC3 ERY6(図17E)も作製された。【0236】すなわち、上記した方法と同様の適切な配列が付加されたプライマーを用いた PCR 法等の当業者において公知の方法により、GPC3 ERY5_Hh、GPC3 ERY6_Hk、GPC3 ERY6_Hh、ERY7_Hh、GPC3 ERY7_L をそれぞれコードするポリヌクレオチドが挿入された一連の発現ベクターが作製された。【0237】以下に示す組み合わせの発現ベクターが FreeStyle293-F 細胞に導入され、各目的分子を一過性に発現させた。【0238】A.目的分子:GPC ERY5発現ベクターに挿入されたポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチド:GPC3 ERY5_Hh(配列番号:36、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、GPC3 ERY2_Hk【0239】B.目的分子:GPC ERY6発現ベクターに挿入されたポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチド:GPC3 ERY6_Hk(配列番号:37、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、5 GPC3 ERY6_Hh(配列番号:38、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)【0240】C.目的分子:GPC ERY7発現ベクターに挿入されたポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチド:GPC3 ERY7_Hh(配列番号:39、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、GPC3 ERY7_L(配列番号:40、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、GPC3 ERY2_Hk【0241】得られた培養上清が Anti FLAG M2 カラム(Sigma 社)に添加され、当該カラムの洗浄の後、0.1 mg/mL FLAG ペプチド(Sigma 社)による溶出が行われた。目的分子を含む画分が HisTrapHP カラム(GE Healthcare 社)に添加され、当該カラムの洗浄の後、イミダゾールの濃度勾配による溶出が実施された。目的分子を含む画分が限外ろ過膜で濃縮された後、当該画分がSuperdex 200 カラム(GE Healthcare 社)に添加され、溶出液の単量体画分のみを回収することにより精製された各目的分子が得られた。【0242】これらのポリペプチド会合体と GPC3 BiTE との細胞傷害活性の比較が行なわれた。その結果、これらのポリペプチド会合体の細胞傷害活性はいずれも GPC3 BiTE の活性に及ばないことが明らかとなった(図2~4)。このことから、BiTE の構造、あるいはそれを模倣した構造に Fc を付加し、さらに癌抗原に対して 2 価で結合する構成のみでは目的とする分子を創製することができないものと考えられた。【0243】〔実施例3〕GPC3 ERY8-2、GPC3 ERY9-1、GPC3 ERY10-1 の作製と検討(1)GPC3 ERY8-2、GPC3 ERY9-1、GPC3 ERY10-1 の作製次に、BiTE の構造を持たずに目的の活性を持つ分子の創製が試みられた。癌抗原(GPC3)に対する IgG を基本骨格とし、これに CD3 epsilon に対する scFv を付加した形の分子が作製5 された。この際、基本骨格とする IgG の Fc としては、上述した場合と同様に、FcgR(Fcγ 受容体)への結合性が減弱されたサイレント型 Fc が用いられた。CD3 epsilon に対する scFv が抗 GPC3 抗体 IgG の H 鎖の N 末に付加された GPC3 ERY8-2(図17G)、H 鎖の C 末に付加されたGPC3 ERY10-1(図17I)、L 鎖の C 末に付加された GPC3 ERY9-1(図17H)がそれぞれ作製された。【0244】すなわち、上記した方法と同様の適切な配列を付加したプライマーを用いた PCR 法等の当業者において公知の方法により、GPC3 ERY8-2_Hk(配列番号:41、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、GPC3 ERY8-2_Hh(配列番号:42、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、GPC3 ERY9-1_H(配列番号:43、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、GPC3 ERY9-1_ L-His(配列番号:44、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、GPC3 ERY9-1_ L-FLAG(配列番号:45、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、GPC3 ERY10-1_Hh(配列番号:46、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)をそれぞれコードするポリヌクレオチドが挿入された一連の発現ベクターが作製された。【0245】以下に示す組み合わせの発現ベクターが FreeStyle293-F 細胞に導入され、各目的分子を一過性に発現させた。【0246】D.目的分子:GPC3 ERY8-2発現ベクターに挿入されたポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチド:GPC3 ERY8-2_Hk(配列番号:41、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、GPC3 ERY8-2_Hh(配列番号:42、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、GPC3 ERY7_L【0247】5 E.目的分子:GPC ERY9-1発現ベクターに挿入されたポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチド:GPC3 ERY9-1_H(配列番号:43、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、GPC3 ERY9-1_L-His(配列番号:44、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、GPC3 ERY9-1_L-FLAG(配列番号:45、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)【0248】F.目的分子:GPC3 ERY10-1発現ベクターに挿入されたポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチド:GPC3 ERY10-1_Hh(配列番号:46、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、GPC3 ERY8-2_Hk、GPC3 ERY7_L【0249】得られた培養上清が Anti FLAG M2 カラム(Sigma 社)に添加され、当該カラムの洗浄の後、0.1 mg/mL FLAG ペプチド(Sigma 社)による溶出が実施された。目的分子を含む画分がHisTrap HP カラム(GE Healthcare 社)に添加され、当該カラムの洗浄の後、イミダゾールの濃度勾配による溶出が実施された。目的分子を含む画分が限外ろ過によって濃縮された後、当該画分が Superdex 200 カラム(GE Healthcare 社)に添加され、溶出液の単量体画分のみを回収することにより精製された各目的分子が得られた。【0250】これらの分子について in vitro の細胞傷害活性を調べたところ、いずれの分子も GPC3 BiTEと同等以上の細胞傷害活性を示すことが明らかとなった(図5)。特に、GPC3 ERY10-1 は、明らかに GPC3 BiTE を上回る細胞傷害活性が認められた。本発明において、癌抗原に対する IgGに CD3 epsilon に対する scFv を付加する分子においても BiTE と同等以上の細胞傷害活性を持つことが初めて明らかとなった。特に、GPC3 ERY9-1、GPC3 ERY10-1 のように癌抗原に対する結合ドメインと CD3 epsilon に対する結合ドメインの距離が大きい分子において、BiTE よりも明らかに強い細胞傷害活性が見られたことは予想外の結果であった。5 【0251】(2)GPC3 ERY8-2、及び、GPC3 ERY10-1 の in vivo 薬効の評価:(1)で記載された in vitro のアッセイで GPC3 BiTE と同等以上の細胞傷害活性が認められた GPC3 ERY8-2、及び、GPC3 ERY10-1 の in vivo の薬効の評価が行なわれた。GPC3 を発現するヒト肺癌細胞株である PC-10 がヒト PBMC と混合され NOD scid マウスに移植された。当該マウスに対して GPC3 ERY8-2、あるいは GPC3 ERY10-1 の投与による治療が行なわれた(pre-mix モデルと指称される)。【0252】すなわち、GPC3 ERY8-2 の PC-10 pre-mix モデルによる薬効試験においては、下記のような試験が実施された。健常人ボランティアより採取した血液から分離された PBMC から、CD56MicroBeads, human (MCAS Miltenyi biotec 社)を用いて NK 細胞が除去された。ヒト肺扁平上皮がん細胞株 PC-10(免疫生物研究所)5×106 細胞と、NK 細胞が除去されたヒト PBMC 4.5×10 6 細胞、およびマトリゲル基底膜マトリックス(BD 社)が混和され、NOD scid マウス(日本クレア、雌、7W)のそけい部皮下に移植された。移植の日を day 0 とした。マウスには移植前日に抗アシアロ GM1 抗体(和光純薬)が 0.2 mg/匹で腹腔内に投与された。移植 2 時間後にGPC ERY8-2 が 30μg/匹で腹腔内投与された。GPC ERY8-2 の投与が day 0~4 までの間、計 5回行われた。【0253】また、GPC3 ERY10-1 の PC-10 pre-mix モデルによる薬効試験においては、下記のような試験 が 実 施 さ れ た 。 健 常 人 ボ ラ ン テ ィ ア よ り 採 取 し た 血 液 か ら 分 離 さ れ た PBMC か ら 、MicroBeads, human (MACS Miltenyi biotec 社)を用いて NK 細胞が除去された。ヒト肺扁平上皮がん細胞株 PC-10(免疫生物研究所)5×10 6 細胞と、NK 細胞が除去されたヒト PBMC4.5×10 6 細胞、およびマトリゲル基底膜マトリックス(BD 社)が混和され、NOD scid マウス(日本クレア、雌、7W)のそけい部皮下に移植された。移植の日を day 0 とした。マウスには移植前日に抗アシアロ GM1 抗体(和光純薬)が 0.2 mg/匹で腹腔内に投与された。移植 2 時間後にGPC ERY10-1 が 30μg/匹で腹腔内投与された。GPC ERY10-1 の投与が day 0~4、day 7~11、5 day 14~16 の間、計 13 回行われた。【0254】その結果、GPC3 ERY8-2、あるいは GPC3 ERY10-1 投与群においては、コントロールである溶媒(PBS)投与群と比べて明らかに腫瘍の増殖が抑制されることが明らかとなった(図6および7)。【0255】また、別のモデルにおいても GPC3 ERY10-1 による in vivo 薬効の評価が行なわれた。すなわち、移植された PC-10 による腫瘍の形成が確認された NOD scid マウスに、in vitro でヒトPBMC を培養することにより増殖させた T 細胞が移入された。当該マウスに対して ERY10-1 を投与することによる治療が行なわれた(T 細胞移入モデルと指称される)。【0256】すなわち、GPC3 ERY10-1 の PC-10 T 細胞移入モデルによる薬効試験においては、下記のような試験が行われた。健常人ボランティアより採取した血液から分離された PBMC 及び T cellactivation/ expansion kit/ human(MACS Miltenyi biotec 社)を用いて T 細胞の拡大培養が行なわれた。ヒト肺扁平上皮がん細胞株 PC-10(免疫生物研究所)1×107 細胞と、マトリゲル基底膜マトリックス(BD 社)が混和され、NOD scid マウス(日本クレア、雌、7W)のそけい部皮下に移植された。移植の日を day 0 とした。マウスには移植前日、および day 6、8、12、16、20 に抗アシアロ GM1 抗体(和光純薬)が 0.2 mg/匹で腹腔内に投与された。移植後 6日目に腫瘍サイズと体重に応じて群分けが行なわれた後、前記拡大培養によって得られた T 細胞が 1× 107 細胞/匹で腹腔内に移植された。その 2 時間後から、GPC ERY10-1 が 30 μg/匹で腹腔内投与された。GPC ERY10-1 の投与は day 7、8、12、16、17 に、計 5 回行われた。【0257】その結果、このモデルにおいても、GPC3 ERY10-1 投与群においては溶媒投与群に比較して明らかな抗腫瘍作用が認められた(図8)。【0258】以上のことから、サイレント型 Fc を持つ IgG を基本骨格とし、これに CD3 epsilon に対す5 る抗体の scFv を一つ付加した形の一連の分子は明らかな in vivo における抗腫瘍効果を奏することが示された。【0259】(3)血漿中滞留性の評価GPC3 ERY8-2、GPC3 ERY9-1、GPC3 ERY10-1 等の一連の分子が、GPC3 BiTE に比較して顕著に長い血漿中半減期を有するか否かを検証するために、癌細胞が移植されていない NOD scidマウスに対して 30μg/匹で投与された、GPC3 ERY9-1、GPC3 ERY10-1 の血漿中濃度が経時的に測定された。【0260】すなわち、下記のような PK 解析試験が実施された。NOD scid マウス(日本クレア、雌、8W)の腹腔内に GPC3 ERY9-1、GPC3 ERY10-1 が 30μ g/匹で投与された。投与後、15min、2 時間、1 日、2 日、7 日の各ポイントでマウスの頬静脈よりヘマトクリット毛細管(テルモ)を用いて採血が行われ、その血漿が調製された。【0261】GPC3 を発現させた Ba/F3 細胞(GPC3/BaF)およびヒト CD3 epsilon を発現させた Ba/F3 細胞(CD3/BaF)に適宜希釈した GPC3 ERY9-1、GPC3 ERY10-1 が加えられ、GPC3 ERY9-1、又は、GPC3 ERY10-1 と GPC3/BaF 又は CD3/BaF と反応させた。これらの細胞の洗浄の後、FITC 標識された 2 次抗体が加えられ、当該二次抗体をさらに反応させた。当該細胞の洗浄の後、EpicsXL フローサイトメーター(Beckman coulter 社)により当該細胞に標識された蛍光強度が測定され、各抗体についての標準曲線が作成された。【0262】GPC3 ERY9-1、GPC3 ERY10-1 が投与されたマウスより継時的に採取された血液から調製された 血漿 が 適 宜希 釈 さ れ た 。上 記 の 標準 曲 線 の 作 成の 場 合 と同 様 に 当 該 血漿 と GPC3/BaF、CD3/BaF とを反応させ、血漿中に存在する GPC3 ERY9-1 及び GPC3 ERY10-1 の各細胞への結合量が測定された。測定された値と前記の標準曲線を用いて、血漿中の各抗体濃度が算出された。【0263】5 その結果、GPC3 ERY9-1 及び GPC3 ERY10-1 はともに、投与後 2 日後において 10 nM 以上の血中濃度を維持していることが明らかとなった(図9および10)。この結果から、ERY9-1 及び GPC3 ERY10-1 等の一連の分子の血漿中半減期は BiTE に比べて著しく改善されていることが示された。【0264】(4)癌抗原非依存的サイトカイン誘導におけるサイレント Fc の効果(4-1)FcgR 結合型 Fc を持つ GPC3 ERY15-1 の作製GPC3 ERY8-2、GPC3 ERY9-1、GPC3 ERY10-1 等の一連の分子が癌抗原非依存的なサイトカインの誘導を起こすか否かを検証するために、FcgR 結合型 Fc を持つ GPC3 ERY15-1(図17J)を作製した。【0265】すなわち、上記の方法と同様に、適切な配列を付加したプライマーを用いた PCR 法、およびQuikChange Site-Directed Mutagenesis Kit(Stratagene 社)を用いた方法等の当業者にとって公知の方法により、GPC3 ERY15-1_Hh(配列番号:47、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、GPC3 ERY15-1_Hk(配列番号:48、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)をそれぞれコードするポリヌクレオチドが挿入された発現ベクターが作製された。【0266】GPC3 ERY15-1_Hh(配列番号:47、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、GPC3 ERY15-1_Hk(配列番号:48、シグナル配列であるアミノ末端19ア ミ ノ 酸 は 成 熟 配 列 に は 含 ま れ な い )、 お よ び GPC3 ERY7_L の 発 現 ベ ク タ ー が 共 にFreeStyle293-F 細胞に導入され、GPC3 ERY15-1 を一過性に発現させた。得られた培養上清がAnti FLAG M2 カラム(Sigma 社)に添加され、当該カラムの洗浄の後、0.1 mg/mL FLAG ペプチド(Sigma 社)による溶出が実施された。GPC3 ERY15-1 を含む画分が HisTrap HP カラム(GE Healthcare 社)に添加され、当該カラムの洗浄の後、イミダゾールの濃度勾配による溶出が実施された。GPC3 ERY15-1 を含む画分が限外ろ過によって濃縮された後、当該画分が5 Superdex 200 カラム(GE Healthcare 社)に添加され、溶出液の単量体の ERY15-1 画分のみを回収することにより精製 GPC3 ERY15-1 が得られた。【0267】(4-2)癌抗原非依存的なサイトカイン誘導能の測定GPC3 ERY15-1 の癌抗原非依存的なサイトカイン誘導能が、GPC3 BiTE、GPC3 ERY9-1、GPC3ERY10-1、及び catumaxomab のそれと比較された。健常人ボランティアから採取した血液より上記の方法により PBMC が調製された。ヒト PBMC 溶液 50 μL(2×105 細胞/ウェル)に、40nM に調製された各抗体 50μL が添加され、更に 100μL の 10%FBS/D-MEM が加えられた。反応液は 5%炭酸ガス、37℃ 条件下にて培養された。72 時間の培養の後に、培養上清が回収され、Human Th1/Th2/Th17 Kit(BD 社)を用いた Cytometric Beads Array(CBA)法にて培養上清中に分泌されたサイトカインが定量された。添付プロトコールに従った測定方法による試験はtriplicate にて行われた。【0268】その結果、FcgR 結合型 Fc を持つ GPC3 ERY15-1、catumaxomab には明らかなサイトカイン誘導が認められたのに対して、Fc を持たない GPC3 BiTE、及びサイレント型 Fc を持つ ERY9-1、GPC3 ERY10-1 ではサイトカイン誘導が認められなかった(図11)。よって、サイレント型 Fcを持つ GPC3 ERY8-2、GPC3 ERY9-1、GPC3 ERY10-1 等の一連の分子は癌抗原非依存的なサイトカイン誘導を起こさず、非常に高い安全性を持つ分子であるものと考えられた。【0269】〔実施例4〕GPC3 ERY18 L1、L2、L3、L4、S1 の作製と検討scFv 構造と異なる CD3 結合ドメインを持つ分子の検討が行われた。癌抗原(GPC3)に対する IgG の 2 本の H 鎖の C 末端にそれぞれ CD3 抗体の VH 領域、VL 領域を結合した分子型であるGPC3 ERY18(図17K)が作製された。この際、間のリンカー(Gly・Gly・Gly・Gly・Ser)の個数を 1 個~4 個に変えた一連の分子(GPC3 ERY18 L1~L4)が作製された。また、適切な部位のアミノ酸を Cys に置換してジスルフィド結合を導入することを可能とする分子(GPC3ERY18 S1)も同時に作製された。5 【0270】すなわち、上記の方法と同様に適切な配列を付加したプライマーを用いた PCR 法等の当業者にとって公知の方法により、GPC3 ERY18 L1_Hh(配列番号:49、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、GPC3 ERY18 L1_Hk(配列番号:50、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、GPC3 ERY18 L2_Hh(配列番号:51、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、GPC3ERY18 L2_Hk(配列番号:52、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、GPC3 ERY18 L3_Hh(配列番号:53、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、GPC3 ERY18 L3_Hk(配列番号:54、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、GPC3 ERY18 L4_Hh(配列番号:55、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、GPC3 ERY18 L4_Hk(配列番号:56、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、GPC3 ERY18 S1_Hh(配列番号:57、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、GPC3 ERY18 S1_Hk(配列番号:58、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)をそれぞれコードするポリヌクレオチドが挿入された一連の発現ベクターが作製された。【0271】以下に示す組み合わせの発現ベクターが FreeStyle293-F 細胞に導入され、各目的分子を一過性に発現させた。【0272】G.目的分子:GPC3 ERY18 L1発現ベクター:GPC3 ERY18 L1_Hh(配列番号:49、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、GPC3 ERY18 L1_Hk(配列番号:50、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、及び GPC3 ERY7 L【0273】H.目的分子:GPC3 ERY18 L25 発現ベクター:GPC3 ERY18 L2_Hh(配列番号:51、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、GPC3 ERY18 L2_Hk(配列番号:52、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、及び GPC3 ERY7 L【0274】I.目的分子:GPC3 ERY18 L3発現ベクター:GPC3 ERY18 L3_Hh(配列番号:53、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、GPC3 ERY18 L3_Hk(配列番号:54、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、及び GPC3 ERY7 L【0275】J.目的分子:GPC3 ERY18 L4発現ベクター:GPC3 ERY18 L4_Hh(配列番号:55、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、GPC3 ERY18 L4_Hk(配列番号:56、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、及び GPC3 ERY7 L【0276】K.目的分子:GPC3 ERY18 S1発現ベクター:GPC3 ERY18 S1_Hh(配列番号:57、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、GPC3 ERY18 S1_Hk(配列番号:58、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、及び GPC3 ERY7 L【0277】得られた培養上清が Anti FLAG M2 カラム(Sigma 社)に添加され、当該カラムの洗浄の後、0.1 mg/mL FLAG ペプチド(Sigma 社)による溶出が実施された。目的分子を含む画分がHisTrap HP カラム(GE Healthcare 社)に添加され、当該カラムの洗浄の後、イミダゾールの濃度勾配による溶出が実施された。目的分子を含む画分が限外ろ過によって濃縮された後、当該画分が Superdex 200 カラム(GE Healthcare 社)に添加され、溶出液の単量体画分のみを回収することにより精製された各目的分子が得られた。【0278】5 GPC3 ERY18 L1、GPC3 ERY18L2、GPC3 ERY18L3、GPC3 ERY18L4、GPC3 ERY18S1 の各分子のin vitro の細胞傷害活性が評価された(図12および13)。その結果、GPC3 ERY18 L1 を除くいずれの分子も GPC3 ERY10-1 と同等の活性を有することが見出された。scFv ではない構造を有する分子が同等の細胞傷害活性を有することが示された。癌抗原(GPC3)に対する IgG の2 本の H 鎖の C 末端にそれぞれ CD3 抗体の VH 領域、VL 領域を結合した構造による、本願発明に係るポリペプチド会合体分子の安定化への貢献が期待される。【0279】〔実施例5〕GPC3 ERY19-3 の作製と検討次に、CD3 結合ドメインが Fab 様構造である分子の検討が行われた。癌抗原(GPC3)に対する IgG 抗体の 2 本の H 鎖の C 末端にそれぞれ CD3 抗体の VH 領域と CH1 領域、および VL 領域とCL 領域が結合した分子型である GPC3 ERY19-3 が作製された(図17L)。すなわち、上記の方法と同様に適切な配列を付加したプライマーを用いた PCR 法等の当業者にとって公知の方法により、GPC3 ERY19-3_Hh(配列番号:59、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、GPC3 ERY19-3_Hk(配列番号:60、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)をそれぞれコードするポリヌクレオチドが挿入された発現ベクターが作製された。【0280】GPC3 ERY19-3_Hh(配列番号:59、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、GPC3 ERY19-3_Hk(配列番号:60、シグナル配列であるアミノ末端19ア ミ ノ 酸 は 成 熟 配 列 に は 含 ま れ な い )、 お よ び GPC3 ERY7_L の 発 現 ベ ク タ ー が 共 にFreeStyle293-F 細胞に導入され、一過性に GPC3 ERY19-3 を発現させた。得られた培養上清がHiTrap rProtein A FF カラム(GE Healthcare 社)に添加され、当該カラムの洗浄の後、酸による溶出が実施された。GPC3 ERY19-3 を含む画分が限外ろ過によって濃縮された後、当該画分が Superdex 200 カラム(GE Healthcare 社)に添加され、溶出液の単量体の GPC3 ERY19-3 画分のみを回収することにより精製 GPC3 ERY19-3 が得られた。【0281】5 GPC3 ERY19-3 分子による in vitro の細胞傷害活性が評価された。その結果、GPC3 BiTE と同等の活性を有することが示された(図14)。Fab 様構造を有する CD3 結合ドメインによる、本願発明に係るポリペプチド会合体分子の安定化への貢献が期待される。【0282】〔実施例6〕GPC3 ERY 10-1 の CH3 ドメインへの変異導入によるプロテイン A 精製工程のみを用いたポリペプチド会合体の調製(1)概要実施例3で調製された GPC3 ERY10-1 では、CH3 ドメインの構造として knobs-into-hole が用いられている。それぞれの H 鎖の C 末端には His タグと FLAG タグが付加されており、これらのタグを用いた 2 種類のアフィニティー精製を行うことにより、目的としている 2 種類の H鎖がヘテロ会合化した GPC3 ERY10-1 分子が精製された。GPC3 ERY10-1 分子を医薬品として製造する場合、GPC3 ERY10-1 を発現する細胞の培養上精からプロテイン A クロマトグラフィーを用いて Fc ドメインを有するポリペプチド会合体がまず精製される。さらに、His タグアフィニティークロマトグラフィーと FLAG タグアフィニティークロマトグラフィーの 2 種類のクロマトグラムを用いた精製工程が必要となり、精製工程のコストが高くなるという課題がある。そこで本実施例では、His タグと FLAG タグを用いることなく、プロテインAクロマトグラフィーのみを用いることによって目的とする 2 種類の H 鎖がヘテロ会合化した GPC3 ERY10-1分子を精製することを可能とする分子改変の検討が行われた。【0283】具体的には、2 種類の H 鎖のうち、一方の H 鎖のプロテイン A への結合を無くす改変の検討が行なわれた。この改変により、プロテイン A への結合を無くした H 鎖がホモ会合化した分子は、プロテイン A に結合することができないためプロテイン A クロマトグラフィーをパスする。一方、プロテイン A への結合を無くした H 鎖とプロテイン A への結合を保持している H 鎖がヘテロ会合化した分子と、プロテイン A への結合を保持している H 鎖がホモ会合化した分子との、プロテイン A への結合性の相違を利用することによって、プロテイン A クロマトグラフィーによりこれらの分子の分離が可能であると考えられた。この際、抗体の Fc ドメインにおいて、5 プロテイン A と抗体の血漿中滞留性に重要な FcRn が結合する箇所は重複していることから、FcRn への結合性を維持したまま、プロテイン A への結合性のみを選択的に低減する必要がある。そのような改変として、EU ナンバリング 435 番目の His を Arg に置換する変異が見出された。この変異に加えて、2 種類の H 鎖のヘテロ会合化を促進する改変として WO2006/106905に記載された変異(一方の H 鎖の EU ナンバリング 356 番目の Asp を Lys に置換し、もう一方の H 鎖の EU ナンバリング 439 番目の Lys を Glu に置換する)を組み合わせることにより、プロテイン A クロマトグラフィーのみで GPC3 ERY10-1 等のポリペプチド会合体分子を精製することが可能かどうかが検証された。【0284】(2)抗体遺伝子発現ベクターの作製と各抗体の発現抗体 H 鎖可変領域として、GC33(2)H(抗ヒト Glypican-3 抗体 H 鎖可変領域、配列番号:61、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)をコードする遺伝子が当業者にとって公知の方法により作製された。同様に、抗体 L 鎖として、3-k0(抗ヒトGlypican-3 抗体 L 鎖、配列番号:62、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)をコードする遺伝子が当業者にとって公知の方法により作製された。次に、抗体 H 鎖定常領域として、以下に示す遺伝子が当業者にとって公知の方法により作製された。【0285】L.目的分子:LALA-G1dIgG1 の配列中の EU ナンバリング 234 番目および 235 番目の Leu が Ala に置換され、297 番目の Asn が Ala に置換された変異が導入され、C 末端の Gly 及び Lys が除去された LALA-G1d(配列番号:63、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)【0286】M.目的分子:LALA-G1d-CD3LALA -G1d(配列番号:63、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)に CD3 の scFv(抗ヒト CD3 抗体 H 鎖可変領域及び抗ヒト CD3 抗体 L 鎖可変領域5 がポリペプチドリンカーを介して結合されたもの)が C 末端に結合された LALA-G1d-CD3(配列番号:64、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)【0287】N.目的分子:LALA-G3S3E-G1dLALA-G1d(配列番号:63、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)の配列中の EU ナンバリング 435 番目の His を Arg に置換する変異及び EU ナンバリング 439 番目の Lys を Glu に置換する変異が導入された LALA-G3S3E-G1d(配列番号:65、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)【0288】O.目的分子:LALA-S3K-G1d-CD3LALA-G1d-CD3(配列番号:64、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)の配列中の EU ナンバリング 356 番目の Asp を Lys に置換する変異が導入された LALA-S3K-G1d-CD3(配列番号:66、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)。【0289】GC33(2) H の下流に LALA-G1d-CD3 あるいは LALA-G1d を連結することで、抗ヒト GPC3 抗体H 鎖遺伝子 NTA1L あるいは NTA1R が作製された。GC33(2) H の下流に LALA-S3K-G1d-CD3 あるいは LALA-G3S3E-G1d を連結することで、抗ヒト GPC3 抗体 H 鎖遺伝子 NTA2L あるいは NTA2R が作製された。【0290】NTA1L、NTA1R、NTA2L、NTA2R(H 鎖)及び GC33-k0(L 鎖)の各遺伝子を、動物細胞発現ベクターに組み込むことによって当該遺伝子の発現ベクターが作製された。以下に示す組み合わせにより、これらのベクターが当業者公知の方法で FreeStyle293 細胞(invitrogen 社)へ導入されることによって、下記に示す各ポリペプチド会合体を一過性に発現させた。以下に示すように、導入した遺伝子の組み合わせを第一の H 鎖/第二の H 鎖/L 鎖の順番で示すことによってポリペプチド会合体の名前として表記されている。5 NTA1L/NTA1R/GC33-k0NTA2L/NTA2R/GC33-k0【0291】(3)発現サンプルの精製とヘテロ会合体形成の評価下記に示すポリペプチド会合体を含む FreeStyle293 細胞の培養上清(以下 CM と指称される)が試料として用いられた。NTA1L/NTA1R/GC33-k0NTA2L/NTA2R/GC33-k0【0292】D-PBS で平衡化した rProtein A Sepharose Fast Flow カラム(GE Healthcare)にφ0.22μm フィルターで濾過した CM が負荷され、表1に示すバッファーにより洗浄 1、2、および溶出 1 の各ステップが実施された。負荷される抗体量が 20 mg/mL resine になるように CM の負荷量が調節された。分取された溶出画分のサイズ排除クロマトグラフィー分析により、溶出画分に含まれている成分が同定された。【0293】【表1】【0294】各溶出画分のサイズ排除クロマトグラフィー分析の結果を図15及び表2に示した。値は溶出 ピ ー ク の 面 積 が パ ー セ ン ト で 表 記 さ れ て い る 。 NTA1L/NTA1R/GC33-k0 及 びNTA2L/NTA2R/GC33-k0 を発現させた CM 中には、共に CD3 に対するホモ抗体(NTA1L/GC33-k0,NTA2L/GC33-k0)がほとんど検出されなかった。GPC3 に対するホモ抗体(NTA2R/GC33-k0)に関しては、NTA1L/NTA1R/GC33-k0 を発現させた CM 中では 76%程度検出されたのに対して、5 NTA2L/NTA2R/GC33-k0 をを発現させた CM 中では 2%程度しか検出されなかった。すなわち、EUナンバリング 435 番目の His を Arg に置換する変異に加えて、各 H 鎖のヘテロ分子を効率的に形成させるために、一方の H 鎖のポリペプチド配列中の EU ナンバリング 356 番目の Asp を Lysに置換する変異およびもう一方の H 鎖のポリペプチド配列中の EU ナンバリング 439 番目の Lysを Glu に置換する変異を導入することによって、プロテインAを用いた精製工程のみにより、目的の GPC3 ERY10-1 と同様の分子形からなるヘテロで会合するポリペプチド会合体を 98%以上の純度で効率的に精製することが可能であることが明らかになった。【0295】【表2】【0296】〔実施例7〕GPC3 ERY 17-2 及び GPC3 ERY 17-3 の作製と検討(1)GPC3 ERY 17-2 及び GPC3 ERY 17-3 の作製次に、癌抗原(GPC3)に対する IgG を基本骨格とし、片方の Fab を CD3 epsilon に対する結合ドメインに置き換えた形の分子が作製された。この際、基本骨格とする IgG の Fc としては、上述した場合と同様に、FcgR(Fcγ 受容体)への結合性が減弱されたサイレント型 Fc が用いられた。CD3 epsilon に対する結合ドメインとして、CD3 epsilon に対する Fab の VH ドメインと VL ドメインを置き換えた GPC3 ERY17-2(図19A)と、CH1 ドメインと CL ドメインを置き換えた GPC3 ERY17-3(図19B)がそれぞれ作製された。【0297】すなわち、上記した方法と同様の適切な配列を付加したプライマーを用いた PCR 法等の当業者において公知の方法により、ERY17-2_Hh(配列番号:73、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、ERY17-2_L(配列番号:74、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、ERY17-3_Hh(配列番号:75、シ5 グナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、ERY17-3_L(配列番号:76、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)をそれぞれコードするポリヌクレオチドが挿入された一連の発現ベクターが作製された。【0298】以下に示す組み合わせの発現ベクターが FreeStyle293-F 細胞に導入され、各目的分子を一過性に発現させた。【0299】P.目的分子:GPC3 ERY17-2発現ベクターに挿入されたポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチド:GPC3 ERY8-2_Hk、GPC3 ERY7_L、ERY17-2_Hh(配列番号:73、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、ERY17-2_L(配列番号:74、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)【0300】Q.目的分子:GPC3 ERY17-3発現ベクターに挿入されたポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチド:GPC3 ERY8-2_Hk、GPC3 ERY7_L、ERY17-3_Hh(配列番号:75、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、ERY17-3_L(配列番号:76、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)【0301】(2)GPC3 ERY 17-2 及び GPC3 ERY 17-3 の精製得られた培養上清が Anti FLAG M2 カラム(Sigma 社)に添加され、当該カラムの洗浄の後、0.1 mg/mL FLAG ペプチド(Sigma 社)による溶出が実施された。目的分子を含む画分がHisTrap HP カラム(GE Healthcare 社)に添加され、当該カラムの洗浄の後、イミダゾールの濃度勾配による溶出が実施された。目的分子を含む画分が限外ろ過によって濃縮された後、当該画分が Superdex 200 カラム(GE Healthcare 社)に添加され、溶出液の単量体画分のみを回収することにより精製された各目的分子が得られた。5 【0302】(3)GPC3 ERY 17-2 及び GPC3 ERY 17-3 の細胞傷害活性GPC3 ERY 17-2 及び GPC3 ERY 17-3 について in vitro の細胞傷害活性が調べられた(図20)。その結果、いずれの分子も明らかに GPC3 BiTE を上回る細胞傷害活性を奏することが認められた。本発明において、癌抗原に対する IgG を基本骨格とし、片側の Fab を CD3 epsilonに対する結合ドメインに置き換えた分子も BiTE と同等以上の細胞傷害活性を奏することが初めて明らかとなった。【0303】(4)PC-10 T 細胞移入モデルを用いた GPC3 ERY17-2 の薬効試験in vitro のアッセイで GPC3 BiTE と同等以上の細胞傷害活性が認められた GPC3 ERY17-2 のin vivo の薬効の評価が PC-10 T 細胞移入モデルを用いて行なわれた。すなわち、GPC3 ERY17-2 の PC-10 T 細胞移入モデルによる薬効試験においては、下記のような試験が行われた。健常人ボランティアより採取した血液から分離された PBMC 及び T cell activation/ expansionkit/ human(MACS Miltenyi biotec 社)を用いて T 細胞の拡大培養が行なわれた。ヒト肺扁平上皮がん細胞株 PC-10(免疫生物研究所)1×10 7 細胞と、マトリゲル基底膜マトリックス(BD 社)が混和され、NOD scid マウス(日本クレア、雌、7W)のそけい部皮下に移植された。移植の日を day 0 とした。マウスには移植前日、および day 13、17、21、25 に抗アシアロ GM1抗体(和光純薬)が 0.2 mg/匹で腹腔内に投与された。移植後 13 日目に腫瘍サイズと体重に応じて群分けが行なわれ、移植後 14 日目に前記拡大培養によって得られた T 細胞が 3×10 7 細胞/匹で腹腔内に移植された。その 2 時間後から、GPC ERY17-2 が 30μg/匹で静脈内投与された。GPC ERY17-2 の投与は day 14、15、16、17、18 に、計 5 回行われた。【0304】その結果、このモデルにおいても、GPC3 ERY17-2 投与群においては溶媒投与群に比較して明らかな抗腫瘍作用が認められた(図21)。【0305】以上のことから、癌抗原に対する IgG を基本骨格とし、片側の Fab を CD3 epsilon に対する5 結合ドメインに置き換えた分子は明らかな in vivo における抗腫瘍効果を奏することが示された。【0306】〔実施例8〕GPC3 ERY17-2-M20 の作製と検討(1)GPC3 ERY17-2-M20 の作製次に、CD3 epsilon に対する結合ドメインの配列が変わっても目的の活性を持つ分子の創製が試みられた。GPC3 ERY17-2 の CD3 epsilon に対する結合ドメインの配列を変えた GPC3ERY17-2-M20(図19A)が作製された。すなわち、CD3 抗体(M20)の発現ベクターが鋳型として用いられ、上記した方法と同様の適切な配列を付加したプライマーを用いた PCR 法等の当業者において公知の方法により、ERY17-2-M20_Hh(配列番号:77、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、ERY17-2-M20_L(配列番号:78、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)をそれぞれコードするポリヌクレオチドが挿入された一連の発現ベクターが作製された。【0307】(2)GPC3 ERY17-2-M20 の精製GPC3 ERY8-2_Hk、GPC3 ERY7_L、ERY17-2-M20_Hh(配列番号:77)、および ERY17-2-M20_L(配列番号:78)の発現ベクターが共に FreeStyle293-F 細胞に導入され、一過性に GPC3ERY17-2-M20 を発現させた。得られた培養上清が、φ0.22μm フィルターで濾過された後、平衡化した rProtein A Sepharose Fast Flow カラム(GE Healthcare)に負荷された。表3に示すバッファーにより洗浄 1、2、および溶出 1 の各ステップが実施されることにより精製 GPC3ERY17-2-M20 が得られた。【0308】【表3】【0309】(3)GPC3 ERY17-2-M20 の細胞傷害活性5 GPC3 ERY17-2-M20 の in vitro の細胞傷害活性を調べたところ、GPC3 ERY17-2 とほぼ同等の細胞傷害活性が認められた(図22)。このことから CD3 epsilon に対する結合ドメインの配列が変わった分子においても同等の細胞傷害活性を持つことが明らかとなった。【0310】〔実施例9〕EpCAM ERY17-2、EpCAM ERY17-3 の作製と検討(1)EpCAM ERY17-2、EpCAM ERY17-3 の作製次に、標的とする癌抗原が変わっても目的の活性を持つ分子の創製が試みられた。ERY17-2の GPC3 に対する Fab を EpCAM に対する Fab に変えた EpCAM ERY17-2(図19A)と、GPC3ERY17-3 の GPC3 に対する Fab を EpCAM に対する Fab に変えた EpCAM ERY17-3(図19B)がそれぞれ作製された。すなわち、EpCAM 抗体の発現ベクターが鋳型として用いられ、上記した方法と同様の適切な配列を付加したプライマーを用いた PCR 法等の当業者において公知の方法により、EpCAM ERY17_Hk(配列番号:79、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、EpCAM ERY17_L(配列番号:80、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)をそれぞれコードするポリヌクレオチドが挿入された一連の発現ベクターが作製された。【0311】以下に示す組み合わせの発現ベクターが FreeStyle293-F 細胞に導入され、各目的分子を一過性に発現させた。【0312】R.目的分子:EpCAM ERY17-2発現ベクターに挿入されたポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチド:EpCAMERY17_Hk(配列番号:79、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、EpCAM ERY17_L(配列番号:80、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ5 酸は成熟配列には含まれない)、ERY17-2_Hh、ERY17-2_L【0313】S.目的分子:EpCAM ERY17-3発現ベクターに挿入されたポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチド:EpCAMERY17_Hk、EpCAM ERY17_L、ERY17-3_Hh、ERY17-3_L【0314】(2)EpCAM ERY17-2、EpCAM ERY17-3 の精製得られた培養上清が Anti FLAG M2 カラム(Sigma 社)に添加され、当該カラムの洗浄の後、0.1 mg/mL FLAG ペプチド(Sigma 社)による溶出が実施された。目的分子を含む画分がHisTrap HP カラム(GE Healthcare 社)に添加され、当該カラムの洗浄の後、イミダゾールの濃度勾配による溶出が実施された。目的分子を含む画分が限外ろ過によって濃縮された後、当該画分が Superdex 200 カラム(GE Healthcare 社)に添加され、溶出液の単量体画分のみを回収することにより精製された各目的分子が得られた。【0315】(3)EpCAM ERY17-2、EpCAM ERY17-3 の細胞傷害活性EpCAM ERY17-2、EpCAM ERY17-3 の in vitro の細胞傷害活性を調べたところ、いずれの分子においても強い細胞傷害活性が認められた(図23)。本発明において、癌抗原に対する IgGを基本骨格とし、片側の Fab を CD3 epsilon に対する結合ドメインに置き換えた分子において、癌抗原の種類を変えても細胞傷害活性を持つことが明らかとなった。【0316】〔実施例10〕CH1/CL 界面会合制御が導入された二重特異性抗体の作製と検討(1)二重特異性抗体の設計二重特異性抗体のそれぞれの CH1 と CL ドメインに変異を導入し、CH1/CL の界面の電荷的な反発を利用し、CH1/CL の界面会合を制御することによって、GPC3 に対する H 鎖と L 鎖のみが会合し、CD3 に対する H 鎖と L 鎖のみがそれぞれ特異的に会合させることが可能であると考えられた。電荷的な反発を利用して CH1/CL 界面会合の制御を行うために、H 鎖の CH1、または L5 鎖の CL 中のアミノ酸残基が、正電荷である Lys、または負電荷である Glu に置換された。【0317】(2)抗体遺伝子発現ベクターの作製と各抗体の発現Anti-CD3 抗体である M12 (H 鎖、配列番号:81および L 鎖、配列番号:82)と、Anti-GPC3 抗体である GC33(2)(H 鎖、配列番号:83および L 鎖、配列番号:84)に CH1/CL 界面会 合 制 御 が 導 入 さ れ 、 さ ら に H 鎖 同 士 の 会 合 を 避 け る た め 、 Knob into Hole(KiH)(WO1996/027011、Ridgway JB ら(Protein Engineering (1996) 9、617-621)、Merchant AMら (Nat. Biotechnol. (1998) 16、677-681))の改変が導入された二重特異性抗体が作製された(図 24A)。対照として、CH1/CL 界面会合制御も Knob into Hole(KiH)改変も導入されていない二重特異性抗体も作製された(図 24B)。具体的には、M12 の H 鎖(配列番号:81)のCH1 の数アミノ酸が Lys に置換された M12_TH2h(配列番号:85)、L 鎖(配列番号:82)の CLの数アミノ酸が Glu に置換された M12_TL17(配列番号:86)をそれぞれコードするポリヌクレオチドが挿入された発現ベクターが当業者にとって公知の方法により作製された。同様に、GC33(2)の H 鎖(配列番号:83)の CH1 の数アミノ酸が Glu に置換された GC33(2)_TH13k(配列番号:87)、GC33(2)_TH15k(配列番号:88)、L 鎖(配列番号:84)の CL の数アミノ酸がLys に置換された GC33(2)_TL16(配列番号:89)、GC33(2)_TL19(配列番号:90)をそれぞれコードするポリヌクレオチドが挿入された発現ベクターが当業者にとって公知の方法により作製された。【0318】以下に示す配列をコードする発現ベクターの組み合わせが FreeStyle293-F 細胞に導入され、各目的分子を一過性に発現させた。【0319】T.目的分子:GM1発 現 ベ ク タ ー : M12_TH2h( 配 列 番 号 : 8 5 ) 、 M12_TL17( 配 列 番 号 : 8 6 ) 、GC33(2)_TH13k(配列番号:87)、及び GC33(2)_TL16(配列番号:89)【0320】5 U.目的分子:GM2発 現 ベ ク タ ー : M12_TH2h( 配 列 番 号 : 8 5 ) 、 M12_TL17( 配 列 番 号 : 8 6 ) 、GC33(2)_TH15k(配列番号:88)、及び GC33(2)_TL19(配列番号:90)【0321】V.目的分子:GM0発現ベクター:M12 の H 鎖(配列番号:81)、M12 の L 鎖(配列番号:82)、GC33(2) の H鎖(配列番号:83)、及び GC33(2) の L 鎖(配列番号:84)【0322】得られた培養上清から、rProtein A SepharoseTM Fast Flow(GE Healthcare 社)を用いた当業者公知の方法で、抗体が精製された。【0323】(3)GM1、GM2、GM0 細胞傷害活性GM1、GM2、GM0 の各ポリペプチド会合体の in vitro の細胞傷害活性を調べたところ、GM1 および GM2 は同等の細胞傷害活性を示すことが認められ、またその活性は明らかに GM0 の活性を上回る細胞傷害活性であった(図25)。本発明において、CH1/CL 界面制御の導入と KiH の改変を組み合わせることによって効率よく二重特異性抗体が作製されることが明らかとなった。【0324】〔実施例11〕EGFR ERY17-2 の作製と検討(1)EGFR ERY17-2 の作製さらに他の癌抗原を標的とした目的の活性を持つ分子の創製が試みられた。GPC3 ERY17-2の GPC3 に対する Fab を EGFR に対する Fab に変えた EGFR ERY17-2(図19A)が作製された。すなわち、EGFR 抗体の発現ベクターが鋳型として用いられ、上記した方法と同様の適切な配列 を 付 加 し た プ ラ イ マ ー を 用 い た PCR 法 等 の 当 業 者 に お い て 公 知 の 方 法 に よ り 、 EGFRERY17_Hk(配列番号:91、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、EGFR ERY17_L(配列番号:92、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)をそれぞれコードするポリヌクレオチドが挿入された一連の発現ベ5 クターが作製された。【0325】以下に示す組み合わせの発現ベクターが FreeStyle293-F 細胞に導入され、各目的分子を一過性に発現させた。【0326】W.目的分子:EGFR ERY17-2発 現 ベ ク タ ー に 挿 入 さ れ た ポ リ ヌ ク レ オ チ ド に よ り コ ー ド さ れ る ポ リ ペ プ チ ド : EGFRERY17_Hk(配列番号:91、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、EGFR ERY17_L(配列番号:92、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、ERY17-2_Hh、ERY17-2_L【0327】(2)EGFR ERY17-2 の精製得られた培養上清が Anti FLAG M2 カラム(Sigma 社)に添加され、当該カラムの洗浄の後、0.1 mg/mL FLAG ペプチド(Sigma 社)による溶出が実施された。目的分子を含む画分がHisTrap HP カラム(GE Healthcare 社)に添加され、当該カラムの洗浄の後、イミダゾールの濃度勾配による溶出が実施された。目的分子を含む画分が限外ろ過によって濃縮された後、当該画分が Superdex 200 カラム(GE Healthcare 社)に添加され、溶出液の単量体画分のみを回収することにより精製された各目的分子が得られた。【0328】(3)EGFR ERY17-2 の細胞傷害活性EGFR ERY17-2 の in vitro の細胞傷害活性を調べたところ、強い細胞傷害活性が認められた(図26)。本発明において、癌抗原に対する IgG を基本骨格とし、片側の Fab を CD3 epsilonに対する結合ドメインに置き換えた分子において、GPC3、EpCAM のみならず、癌抗原の種類をさらに変えても細胞傷害活性を持つことが明らかとなった。【産業上の利用可能性】【0329】5 本発明によって、BiTE が持つ強い抗腫瘍活性と、癌抗原非依存的にサイトカインストームなどを誘導しないという安全性上の優れた性質が維持され、かつ長い血中半減期を持つ新たなポリペプチド会合体が提供された。本発明のポリペプチド会合体における抗原結合ドメインを置換することにより、当該ポリペプチド会合体を有効成分として含む細胞傷害誘導治療剤が癌細胞を含む様々な細胞を標的として細胞傷害をもたらし、様々な癌を治療又は予防することができる。患者にとっても、安全性が高いばかりでなく、身体的負担が少なく利便性も高いという、望ましい治療ができるようになる。【図1】【図2】【図3】【図4】【図5】【図6】【図7】【図8】【図9】【図10】5 【図11】【図12】【図13】【図14】【図16】【図17】【図19】【図20】【図21】【図22】【図23】【図24】【図25】【図26】

別紙3

甲第2号証の記載事項(抜粋)【発明の名称】低下したエフェクタ機能を有する安定化Fcポリペプチドおよび使用方法【特許請求の範囲】【請求項5】IgG1抗体のFc領域からのCH2部分を含む安定化ポリペプチドであって、299Kおよび297D(EU付番慣例)からなる群から選択される1つまたはそれ以上のアミノ酸位置に、1つまたはそれ以上の安定化アミノ酸を含む、安定化ポリペプチド。【請求項9】IgG抗体は、ヒト抗体である、請求項1~8のいずれか1項に記載の安定化ポリペプチド。【請求項18】前記安定化ポリペプチドは、前記安定化変異を欠く親Fcポリペプチドと比較して、低下したエフェクタ機能を有する、請求項1~17のいずれか1項に記載の安定化ポリペプチド。【請求項20】前記低下したエフェクタ機能は、FcγRI、FcγRII、およびFcγRIIIからなる群から選択されるFc受容体(FcR)への低下した結合である、請求項18の記載の安定化ポリペプチド。【請求項39】前記Fc領域は、結合部位と機能的に結合する、請求項1~38のいずれか1項に記載の安定化ポリペプチド。【請求項40】前記結合部位は、抗原結合部位、受容体のリガンド結合部分、またはリガンドの受容体結合部分から選択される、請求項39に記載の安定化ポリペプチド。【請求項41】前記結合部位は、scFv、Fab、ミニボディ、ジアボディ、トリアボディ、ナノボディ、カメリド抗体、およびDabからなる群から選択される修飾抗体に由来する、請求項39に記載の安定化ポリペプチド。5 【請求項42】安定化完全長抗体である、請求項39に記載の安定化ポリペプチド。【背景技術】【0002】獲得免疫反応は、体に侵入し、感染または疾病をもたらす外来の生物に対して、体が自らを防御する機構である。1つの機構は、宿主の可変領域を通して抗原に結合するために、産生される、または宿主に投与される、抗体の能力に基づく。抗原が抗体によって結合されると、この抗原は、抗体の定常領域またはFc領域によって、しばしば、少なくとも部分的に媒介され、破壊の標的となる。【0003】抗体のFc領域によって媒介される幾つかのエフェクタ機能または活性がある。あるエフェクタ機能は、補体依存性細胞傷害(CDC)と称されるプロセスにおいて、標的抗原、例えば、細胞病原体を溶解することを補助し得る、補体タンパク質に結合する能力である。Fc領域の別のエフェクタ活性は、免疫細胞、またはいわゆるエフェクタ細胞の表面上でFc受容体(例えば、FcγR)に結合することであり、これは、他の免疫効果を誘発する能力を有する。これらの免疫効果(例えば、抗体依存性細胞毒性(ADCC)および抗体依存性細胞食作用(ADCP))は、例えば、免疫活性物質の放出、抗体産生の調節、エンドサイトーシス、食菌作用、および細胞の死滅によって、病原体/抗原の除去に作用する。幾つかの臨床上の適用において、これらの応答は、抗体の効力にとって重要であるが、他の場合において、これらは、望まれない副作用を引き起こす。エフェクタによって媒介された副作用の1つの例は、急性発熱反応をもたらす炎症サイトカインの放出である。別の例は、抗原保有細胞の長期欠失である。【0004】抗体のエフェクタ機能は、Fc領域(例えば、Fab、F(ab′)2、または一本鎖Fv(scFv))を欠く抗体断片を使用することにより避けられ得る。しかしながら、これらの5 断片は、腎臓を通る迅速なクリアランスにより減少した半減期を有し、FabおよびscFvの場合、断片は、2つではなく1つのみの抗原結合部位を有し、結合親和力によるいかなる利点も損なう可能性があり、また、製造における課題を提示し得る。【0005】代替のアプローチは、Fc領域の他の価値のある特質(例えば、長期にわたる半減期およびヘテロ二量化)を保持しながら、完全長抗体のエフェクタ機能を減少させることを目標としている。エフェクタ機能を減少させる1つのアプローチは、Fc領域の特定の残基に結合される糖を除去することによって、いわゆる非グリコシル化抗体を生成することである。非グリコシル化抗体は、例えば、その糖が付着している残基を除去するか、もしくは変更することによってか、酵素的にその糖を除去することによってか、グリコシル化阻害剤の存在下で培養された細胞中に抗体を産生することによってか、あるいはタンパク質をグリコシル化できない細胞(例えば、細菌性宿主細胞)中で抗体を発現することによって、生成することができる。別のアプローチは、IgG1の代わりにIgG4抗体からのFc領域を利用することである。IgG4抗体が、IgG1よりも低いレベルの補体活性化および抗体依存性細胞毒性を有することによって特徴付けられることは、公知である。【0006】これらの代替アプローチの利点にもかかわらず、抗体のFc領域からのオリゴ糖の除去は、その構造および安定性において顕著な悪影響を及ぼすことが、現在、十分に確立されている。さらに、IgG4のCH3ドメインが、IgG1のCH3ドメインに対して同程度の安定性を欠いているため、IgG4抗体は、一般的に、より低い安定性を有する。いかなる場合でも、抗体安定性の損失または低下は、抗体薬物の開発に悪影響を及ぼすプロセス開発課題を提示し得る。【発明の概要】【発明が解決しようとする課題】【0007】したがって、変更された、もしくは低下したエフェクタ機能、および改善された安定性を有5 する、改善された抗体および他のFc含有ポリペプチド、ならびにこれらの分子を作製する方法の必要性が存在する。【課題を解決するための手段】【0008】(発明の概要)本発明は、Fc領域の安定性を強化するための改善された方法を提供することによって、先行技術の「エフェクタ無し」抗体の問題、実に、いかなる「エフェクタ無し」Fc含有抗体の問題をも解決する。例えば、本発明は、安定性を操作したFcポリペプチド、例えば、安定化IgG抗体または他のFc含有結合分子を提供し、これは、ポリペプチドのFc領域内における、安定化アミノ酸を含む。一実施形態においては、本発明は、Fc領域の向上した安定性をもたらす親FcポリペプチドのFc領域内における、特定のアミノ酸残基位置で、変異体を導入するための方法を提供する。好ましくは、該安定化Fcポリペプチドは、(1つまたは複数の安定化アミノ酸を含まないポリペプチドと比較して)変化した、あるいは低下したエフェクタ機能を有し、親Fcポリペプチドと比較して、強化された安定性を示す。【0034】別の実施形態においては、該低下したエフェクタ機能は、FcγRI、FcγRII、およびFcγRIIIからなる群から選択されるFc受容体(FcR)への低下した結合である。【図面の簡単な説明】【0115】【図1】 典型的な抗原結合ポリペプチド(IgG抗体)の構造、ならびに抗体の抗原結合およびエフェクタ機能(例えば、Fc受容体(FcR)結合)の機能的特性を示す。また、いかに抗体のCH2ドメインにおける糖(グリコシル化)の存在がエフェクタ機能(FcR結合)を変化させるが、抗原結合に影響を及ぼさないことも示す。【発明を実施するための形態】【0128】本明細書において使用される「Fc領域」という用語は、抗体重鎖の2つまたはそれ以上の5 Fc部分によって形成される免疫グロブリンの一部として定義される。ある実施形態においては、該Fc領域は、二量体Fc領域である。「二量体Fc領域」または「dcFc」とは、2つの別々の免疫グロブリン重鎖のFc部分によって形成される二量体を指す。二量体Fc領域は、2つの同一のFc部分(例えば、天然に存在する免疫グロブリンのFc領域)のホモ二量体、または2つの非同一のFc部分のヘテロ二量体であり得る。他の実施形態においては、該Fc領域は、単量体または「一本鎖」Fc領域(すなわち、scFc領域)である。一本鎖Fc領域は、単一のポリペプチド鎖(すなわち、単一の隣接遺伝子配列においてコードされる)内において、遺伝的に連鎖しているFc部分から構成される。例示的なscFc領域は、2008年5月14日出願のPCT出願第PCT/US2008/006260号に開示されており、この内容は、参照することにより、本明細書に組み込まれる。【0205】(II)親Fcポリペプチド多様Fcポリペプチドは、当技術分野で周知である、親または出発Fcポリペプチドに由来し得る。好ましい実施形態においては、親Fcポリペプチドは、抗体として、そして好ましくは、例えば、サブタイプIgG1、IgG2、IgG3、もしくはIgG4のIgG免疫グロブリン、そして好ましくはサブタイプIgG1もしくはIgG4のIgG免疫グロブリンである。親Fcポリペプチドは、免疫グロブリンに由来するFc領域を含むが、任意に、Fc領域に機能的に結合させるか、または融合される結合部位をさらに含み得る。好ましい実施形態においては、前述のポリペプチドは、リガンド、サイトカイン、受容体、細胞表面抗原、または癌細胞抗原等の抗原に結合する。本明細書の実施例は、IgG抗体を使用するが、本方法は、いかなるFcポリペプチド内のFc領域に同等に適用され得ることを理解されよう。Fcポリペプチドが抗体である場合、抗体は、合成されるか、(例えば、血清に)天然に由来するか、細胞株(例えば、ハイブリドーマ)によって産生されるか、または遺伝子導入生物において産生され得る。【0207】ある実施形態においては、本発明のポリペプチドは、同じ、または実質的に同じ配列組成の5 Fc部分を含むFc領域(本明細書において「ホモマーFc領域」と称される)を含むことができる。他の実施形態においては、本発明のポリペプチドは、異なる配列組成である少なくとも2つのFc部分を含むFc領域(すなわち、本明細書において「異種Fc領域」と称される)を含むことができる。ある実施形態においては、本発明の結合ポリペプチドは、少なくとも1つの挿入またはアミノ酸置換を含むFc領域を含む。1つの例示的な実施形態においては、異種Fc領域は、第1のFc部分においてアミノ酸置換を含むが、第2のFc部分には含まない。【0208】一実施形態においては、本発明の結合ポリペプチドは、本明細書に記載されるFc部分から独立して選択されるその構成Fc部分の2つまたそれ以上を有するFc領域を含むことができる。一実施形態においては、Fc部分は同じである。別の実施形態においては、Fc部分の少なくとも2つは、異なる。例えば、本発明のFcポリペプチドのFc部分は、同じ数のアミノ酸残基を含むか、またはそれらは、1つまたはそれ以上のアミノ酸残基(例えば、約5つのアミノ酸残基(例えば、1つ、2つ、3つ、4つ、または5つのアミノ酸残基)、約10の残基、約15の残基、約20の残基、約30の残基、約40の残基、または約50の残基)の長さにおいて異なり得る。さらに他の実施形態においては、Fc部分は、1つまたはそれ以上のアミノ酸位置において、配列が異なり得る。例えば、Fc部分の少なくとも2つは、約5のアミノ酸位置(例えば、1つ、2つ、3つ、4つ、または5つのアミノ酸部分)、約10の位置、約15の位置、約20の位置、約30の位置、約40の位置、または約50の位置)で異なり得る。【0221】ある実施形態においては、親Fcポリペプチドは、1を超えるアミノ酸置換を含む。親Fcポリペプチドは、例えば、野生型Fc領域と比較して、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、10、またはそれ以上のアミノ酸置換を含むことができる。好ましくは、アミノ酸置換は、少なくとも1アミノ酸部分、またはそれ以上、例えば、少なくとも2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、10、またはそれ以上のアミノ酸位置、またはそ5 れ以上の間隔で互いに空間的に位置する。より好ましくは、操作アミノ酸は、少なくとも5、10、15、20、または25のアミノ酸位置、またはそれ以上の間隔で互いに離れて空間的に位置する。【0222】ある実施形態においては、置換は、野生型Fc部分を含むFc領域によって与えられた少なくとも1つのエフェクタ機能の変化(例えば、Fc受容体(例えば、FcγRI、FcγRII、もしくはFcγRIII)、または補体タンパク質(例えば、C1q)に結合する、または抗体依存性細胞毒性(ADCC)、食作用、もしくは補体依存性細胞毒性(CDC)を誘引するFc領域の能力の低下)を与える。【0223】親Fcポリペプチドは、エフェクタ機能の変化を与えることが周知の当技術分野において承認されている置換を使用することができる。具体的に、本発明の親Fcポリペプチドは、例えば、国際公開第WO88/07089A1号、同第WO96/14339A1号、同第WO98/05787A1号、同第WO98/23289A1号、同第WO99/51642A1号、同第WO99/58572A1号、同第WO00/09560A2号、同第WO00/32767A1号、同第WO00/42072A2号、同第WO02/44215A2号、同第WO02/060919A2号、同第WO03/074569A2号、同第WO04/016750A2号、同第WO04/029207A2号、同第WO04/035752A2号、同第WO04/063351A2号、同第WO04/074455A2号、同第WO04/099249A2号、同第WO05/040217A2号、同第WO04/044859号、同第WO05/070963A1号、同第WO05/077981A2号、同第WO05/092925A2号、同第WO05/123780A2号、同第WO06/019447A1号、同第WO06/047350A2号、および同第WO06/085967A2号、米国特許公開第US2007/0231329号、同第US2007/0231329号、同第US2007/0237765号、同第US2007/0237766号、同第US2007/0237767号、同第US2007/0243188号、同第US20070248603号、同第5 US20070286859号、同第US20080057056、または米国特許第5,648,260号、同第5,739,277号、同第5,834,250号、同第5,869,046号、同第6,096,871号、同第6,121,022号、同第6,194,551号、同第6,242,195号、同第6,277,375号、同第6,528,624号、同第6,538,124号、同第6,737,056号、同第6,821,505号、同第6,998,253号、同第7,083,784号、および同第7,317,091号において開示されるアミノ酸位置の1つまたはそれ以上の変化(例えば、置換)を含むことができ、Fc変異に関係があるそれぞれの部分は、参照することにより、本明細書に組み込まれる。一実施形態においては、特定の変化(例えば、当技術分野において開示される1つまたはそれ以上のアミノ酸の特定の置換)は、開示されるアミノ酸位置の1つまたはそれ以上で行われる場合がある。別の実施形態においては、開示されるアミノ酸位置の1つまたはそれ以上における異なる変化(例えば、当技術分野において開示される1つまたはそれ以上のアミノ酸部分の異なる置換)が行われる場合がある。【0229】B.エフェクタ無しFcポリペプチドある実施形態においては、親Fcポリペプチドは、変化したまたは低下したエフェクタ機能を有する「エフェクタ無し」Fcポリペプチドである。好ましくは、低下した、または変化したエフェクタ機能は、抗原依存性エフェクタ機能である。例えば、親Fcポリペプチドは、例えば、野生型Fcポリペプチドと比較して、ポリペプチドの抗原依存性エフェクタ機能、特に、ADCCまたは補体活性化を低下させる配列変異(例えば、アミノ酸置換)を含むことができる。残念なことに、そのような親Fcポリペプチドは、しばしば、本発明の方法に従って安定化に対して理想的な候補にする低下した安定性を有する。【0230】低下したFcγR結合親和性を有するFcポリペプチドは、エフェクタ機能を低下させることが見込まれ、そのような分子も、標的細胞破壊が望ましくない状態、例えば、正常細胞が標的分子を発現する場合、またはポリペプチドの慢性投与によって好ましくない免疫系活性化が5 引き起こされる可能性がある場合の治療に有用である。一実施形態においては、Fcポリペプチドは、野生型Fc領域を含むFcポリペプチドと比較して、オプソニン化、食作用、補体依存性細胞毒性、抗体依存性細胞毒性(ADCC)、またはエフェクタ細胞改変からなる群から選択される少なくとも1つの抗原依存性エフェクタ機能の低下を示す。一実施形態においては、Fcポリペプチドは、FcγR(例えば、FcγRI、FcγRIIa、またはFcγRIIIa)への変化した結合を示す。別の実施形態においては、Fcポリペプチドは、阻害性FcγR(例えば、FcγRIIb)への変化した結合親和性を示す。他の実施形態においては、低下したFcγR結合親和性を有するFcポリペプチド(例えば、低下したFcγRI、FcγRIIa、またはFcγRIIIa結合親和性)は、以下の位置の1つまたはそれ以上に対応するアミノ酸位置にアミノ酸置換を有する少なくとも1つのFc部分(例えば、1つまたは2つのFc部分)を含む。234、236、239、241、251、252、261、265、268、293、294、296、298、299、301、326、328、332、334、338、376、378、および435(EU付番)。他の実施形態においては、低下した補体結合親和性(例えば、低下したC1q結合親和性)を有するFcポリペプチドは、以下の位置の1つまたはそれ以上に対応するアミノ酸位置にアミノ酸置換を有するFc部分(例えば、1つまたは2つのFc部分)を含む。239、294、296、301、328、333、および376(EU付番)。FcγRまたは補体結合活性を変化させた例示的なアミノ酸置換は、国際公開第WO05/063815号に開示され、この内容は、参照することにより、本明細書に組み込まれる。ある好ましい実施形態においては、本発明の結合ポリペプチドは、以下の特定の置換の1つまたはそれ以上を含むことができる。S239D、S239E、M252T、H268D、H268E、I332D、I332E、N434A、およびN434K(すなわち、抗体Fc領域におけるこれらのEU付番位置の1つまたはそれ以上に対応するアミノ酸位置にあるこれらの置換の1つまたはそれ以上)。【0231】ある例示的な実施形態においては、親「エフェクタ無し」ポリペプチドのエフェクタ機能は、親Fcポリペプチド内の非グリコシル化されたFc領域により変化または低下させること5 ができる。ある実施形態においては、非グリコシル化Fc領域は、Fc領域のグリコシル化を変化させるアミノ酸置換によって生成される。例えば、Fc領域内のEU位置297のアスパラギンは、そのグリコシル化を阻害するために、(例えば、置換、挿入、欠失によって、または化学修飾によって)変化させることができる。別の例示的な実施形態においては、EU位置299のアミノ酸残基(例えば、トレオニン(T))を、(例えば、アラニン(A))で置換し、隣接する残基297のグリコシル化を低下させる。グリコシル化を低下するまたは変化させる例示的なアミノ酸置換は、国際公開第WO05/018572号および米国特許公開第2007/0111281号に開示され、この内容は、参照することにより、本明細書に組み込まれる。他の実施形態においては、非グリコシル化Fc領域は、Fc領域をグリコシル化することができない宿主細胞(例えば、減少したグリコシル化機構を有する細菌性宿主細胞または哺乳類宿主細胞)における、オリゴ糖の酵素的もしくは化学的除去、またはFcポリペプチドの発現によって生成される。【0269】・・・(IV).変異体Fcポリペプチドを安定化させるための方法ある態様においては、本発明は、Fc領域(例えば、非グリコシル化Fc領域)を含むポリペプチドを安定化させる方法に関連し、該方法には、(a)変異のために出発Fc領域の少なくとも1つのFc部分内において、1つまたはそれ以上のアミノ酸位置を選択することと、(b)変異のために選択された1つまたはそれ以上のアミノ酸位置を変異させ、それによって、ポリペプチドを安定化することと、を含む。【0270】一実施形態においては、該出発Fc領域は、IgG1Fc領域である。別の実施形態においては、出発Fc領域は、IgG4 Fc領域である。別の実施形態においては、出発Fc領域は、キメラFc領域である。一実施形態においては、該出発Fc領域は、非グリコシル化IgG1 Fc領域である。別の実施形態においては、該出発Fc領域は、非グリコシル化IgG4 Fc領域である。5 【0271】一実施形態においては、変異のために選択されたアミノ酸位置は、出発IgG分子(例えば、IgG4分子)のFc領域において、延長したループ内にある。別の実施形態においては、変異のために選択されたアミノ酸位置は、CH3ドメイン間のインターフェイスに存在する。別の実施形態においては、変異のために選択されたアミノ酸位置は、1hzh結晶構造中の炭水化物(例えば、V264、R292、またはV303)を有する接触部位付近である。他の実施形態においては、アミノ酸位置は、CH3/CH2のインターフェイス付近、またはCH3/CH2のインターフェイス付近(例えば、H310)であり得る。別の実施形態においては、例えば、1組の表面が露出したグルタミン残基(Q268、Q274、またはQ355)のうちの1つまたはそれ以上の、Fc領域の全表面電荷を変化させる1つまたはそれ以上の変異がなされ得る。別の実施形態においては、アミノ酸位置は、CH2およびCH3の「バリン中心」に見出されるバリン残基である。CH2の「バリン中心」は、5つのバリン残基(V240、V255、V263、V302、およびV323)であり、全ては、CH2ドメインの同じ近接した内部の中心に方向付けられる。同様の「バリン中心」は、CH3(V348、V369、V379、V397、V412、およびV427)において観察される。別の実施形態においては、変異のために選択されるアミノ酸位置は、アミノ酸297のN結合型炭水化物と相互作用するか、接触することが予測される位置にある。そのようなアミノ酸位置は、同族Fc受容体(例えば、FcγRIIIa)に結合されるFc領域の結晶構造の検査を行うことによって特定することができる。N297との相互作用を形成する例示的なアミノ酸は、残基262~270によって形成されるループを含む。【0272】例示的なアミノ酸位置は、EU付番慣例によるアミノ酸位置240、255、262~26

6、267~271、292~299、302~309、379、397~399、409、412、および427を含む。ある実施形態においては、変異のために選択される1つまたはそれ以上のアミノ酸位置は、240、255、262、263、264、266、268、274、292、299、302、303、307、309、323、348、355、365 9、379、397、399、409、412、および427からなる群から選択される1つまたはそれ以上のアミノ酸位置である。ある実施形態においては、変異のために選択される1つまたはそれ以上のアミノ酸位置は、240、262、264、266、297、299、3

07、309、399、409、および427からなる群から選択される1つまたはそれ以上のアミノ酸位置である。別の実施形態においては、1つまたはそれ以上のアミノ酸位置は、297、299、307、309、409、および427からなる群から選択される1つまたはそれ以上のアミノ酸位置である。別の実施形態においては、1つまたはそれ以上のアミノ酸位置は、アミノ酸残基240、262、264、および266から選択される。別の実施形態においては、アミノ酸位置のうちの少なくとも1つは、EU位置297にある。別の実施形態においては、アミノ酸位置のうちの少なくとも1つは、EU位置299にある。別の実施形態においては、アミノ酸位置のうちの少なくとも1つは、EU位置307にある。別の実施形態においては、アミノ酸位置のうちの少なくとも1つは、EU位置309にある。別の実施形態においては、アミノ酸位置のうちの少なくとも1つは、EU位置399にある。別の実施形態においては、アミノ酸位置のうちの少なくとも1つは、EU位置409にある。別の実施形態においては、アミノ酸位置のうちの少なくとも1つは、EU位置427にある。【0273】ある実施形態においては、該Fc領域は、IgG1 Fc領域である。ある実施形態においては、該Fc領域は、IgG1 Fc領域であり、1つまたはそれ以上のアミノ酸位置は、アミノ酸残基240、262、264、299、297、および266から選択される。他の実施形態においては、該Fc領域は、IgG4 Fc領域であり、1つまたはそれ以上のアミノ酸位置は、アミノ酸残基297、299、307、309、399、409、および427から選択される。【0274】一実施形態においては、変異は、アミノ酸位置(例えば、アラニン(A)、セリン(S)、またはトレオニン(T)による置換)のアミノ酸側鎖の大きさを減少させる。別の実施形態においては、変異は、非極性側鎖を有するアミノ酸による置換(例えば、グリシン(G)、アラニ5 ン(A)、バリン(V)、ロイシン(L)、イソロイシン(I)、メチオニン(M)、プロリン(P)、フェニルアラニン(F)、およびトリプトファン(W)による置換)である。別の実施形態においては、変異は、例えば、2つの相互作用するドメイン(例えば、Y349F、T350V、およびT394V)間の関連性を増加する、またはインターフェイスの側鎖(例えば、F405Y)の容積を増加するために、CH3インターフェイスへの疎水性を付加する。別の実施形態においては、「バリン中心」の1つまたはそれ以上のアミノ酸は、それらの安定性を増加させるために、イソロイシンまたはフェニルアラニンで置換される。別の実施形態においては、アミノ酸(例えば、L351および/またはL368)は、高分枝状の疎水性側鎖に変異させる。【0275】一実施形態においては、変異は、アラニン(A)による置換である。一実施形態においては、変異は、フェニルアラニン(F)による置換である。別の実施形態においては、変異は、ロイシン(L)による置換である。一実施形態においては、変異は、トレオニン(T)による置換である。別の実施形態においては、変異は、リシン(K)による置換である。一実施形態においては、変異は、プロリン(P)による置換である。一実施形態においては、変異は、フェニルアラニン(F)による置換である。【0390】III. 多特異性結合ポリペプチドsある特定の態様においては、本発明の結合ポリペプチドは、多特異性であり、すなわち、分子の第1の分子またはエピトープに結合する少なくとも1つの結合部位、および第2の分子または第1の分子の第2のエピトープに結合する少なくとも1つの第2の結合部位を有する。本発明の多特異性結合分子は、少なくとも2つの結合部位を含むことができ、結合部位の少なくとも1つは、上述の結合分子の1つからの結合部位に由来するか、またはそれを含む。ある実施形態においては、本発明の多特異性結合分子の少なくとも1つの結合部位は、抗体の抗原結合領域、またはその抗原結合断片(例えば、上述の抗体または抗原結合断片)である。【0391】5 (a)二重特異性分子一実施形態においては、本発明の結合ポリペプチドは、二重特異性である。二重特異性結合ポリペプチドは、例えば、同じ標的分子または異なる標的分子上の2つの異なる標的部位に結合することができる。例えば、本発明の結合ポリペプチドの場合、その二重特異性変異体は、例えば、同じ抗原または2つの異なる抗原上の2つの異なるエピトープに結合することができる。二重特異性結合ポリペプチドは、例えば、診断的および治療的用途において使用することができる。例えば、それらは、免疫アッセイにおける使用で酵素を固定するために使用することができる。それらは、例えば、腫瘍関連分子および検出可能なマーカー(例えば、放射性核種に強固に結合するキレート剤)の両方に結合することによって、癌の診断および治療においても使用することができる。二重特異性結合ポリペプチドは、例えば、細胞毒性を特定の標的へ誘導することによって(例えば、病原体または腫瘍細胞、およびT細胞受容体またはFcγ受容体等の細胞毒性誘引分子に結合することによって)、ヒトの治療のために使用することもできる。二重特異性結合ポリペプチドは、例えば、線維素溶解剤またはワクチンアジュバントとして使用することもできる。【0392】二重特異性結合ポリペプチドの例には、異なる腫瘍細胞抗原に対する少なくとも2つのアームを有する二重特異性結合ポリペプチド、腫瘍細胞抗原に対する少なくとも1つのアーム、および細胞毒性誘引分子に対する少なくとも1つのアームを有する二重特異性の変化した結合タンパク質(抗Fc.ガンマ.RI/抗CD15、抗p185.sup.HER2/Fc.ガンマ.RIII(CD16)、抗CD3/抗悪性B細胞(1D10)、抗CD3/抗p185.sup.HER2、抗CD3/抗p97、抗CD3/抗腎細胞癌、抗CD3/抗OVCAR-3、抗CD3/L-D1(抗結腸癌)、抗CD3/抗メラニン細胞刺激ホルモン類似体、抗EGF受容体/抗CD3、抗CD3/抗CAMA1、抗CD3/抗CD19、抗CD3/MoV18、抗神経系細胞接着分子(NCAM)/抗CD3、抗葉酸結合タンパク質(FBP)/抗CD3、抗膵臓癌関連抗原(AMOC-31)/抗CD3等)、腫瘍抗原に特異的に結合する少なくとも1つのアーム、および毒素に結合する少なくとも1つのアームを有する二重特異性5 結合ポリペプチド(抗サポリン/抗Id-1、抗CD22/抗サポリン、抗CD7/抗サポリン、抗CD38/抗サポリン、抗CEA/抗リシンA鎖、抗インターフェロン-.アルファ.(IFN-.アルファ.)/抗ハイブリドーマイディオタイプ、抗CEA/抗ビンカアルカロイド等)、酵素活性プロドラッグを変換するための二重特異性結合ポリペプチド(抗CD30/抗アルカリホスファターゼ(マイトマイシンアルコールへのマイトマイシンリン酸塩プロドラッグの変換を触媒する)等)、線維素溶解剤として使用することができる二重特異性結合ポリペプチド(抗フィブリン/抗組織プラスミノゲン活性化因子(tPA)、抗フィブリン/抗ウロキナーゼ型プラスミノゲン活性化因子(uPA)等)、細胞表面受容体への免疫複合体を標的とするための二重特異性結合ポリペプチド(抗低比重リポタンパク質(LDL)/抗Fc受容体(例えば、Fc.ガンマ.RI、Fc.ガンマ.RII、またはFc.ガンマ.RIII)等)、感染病の治療において使用するための二重特異性結合ポリペプチド(抗CD3/抗単純ヘルペスウイルス(HSV)、抗T細胞受容体:CD3複合体/抗インフルエンザ、抗Fc.ガンマ.R/抗HIV等)、インビトロまたはインビボにおける腫瘍検出のための二重特異性結合ポリペプチド(抗CEA/抗EOTUBE、抗CEA/抗DPTA、抗p185HER2/抗ハプテン)、ワクチンアジュバントとしての二重特異性結合ポリペプチド(上述のFangerらを参照)、および診断ツールとしての二重特異性結合ポリペプチド(抗ウサギIgG/抗フェリチン、抗西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)/抗ホルモン、抗ソマトスタチン/拮抗物質P、抗HRP/抗FITC、抗CEA/抗.ベータ.-ガラクトシダーゼ(上述のNolanらを参照)等)が含まれる。三重特異性ポリペプチドの例には、抗CD3/抗CD4/抗CD37、抗CD3/抗CD5/抗CD37、および抗CD3/抗CD8/抗CD37が含まれる。【実施例】【0476】親抗体本発明の安定化抗体を産生するために、モデルヒト抗体(例えば、hu5c8)、その変異体抗体、あるいは対応するFc領域のいずれかをコードするポリヌクレオチドを、標準的な発5 現ベクターに導入した。ヒト抗体hu5c8およびその変異型は、例えば、米国特許第5,474,771号および同第6,331,615号に記載されている。アミノ酸配列は、それぞれ、hu5c8 IgG4重鎖(配列番号37)、hu5c8軽鎖(配列番号38)、hu5c

8 Fab(配列番号39)、親IgG4抗体(配列番号40)からの完全Fc部分、S228P変異を有する親IgG4 Fc部分(配列番号41)、およびS228P/T299A変異を有する親非グリコシル化IgG4 Fc部分(配列番号42)に対して、以下に提供される。重鎖に対するリーダー配列は、MDWTWRVFCLLAVAPGAHSであった。また、親IgG1非グリコシル化されたhu5c8抗体の重鎖(配列番号43)およびFc部分(配列番号44配列も提供される。【0477】・・・親IgG1(配列番号45)EPKSCDKTHTCPPCPAPELLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSRDELTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPG・・・【0485】・・・IgG4 CH3インターフェイスにおいて、アルギニンの追加容積をより良好に適合させるために、反対のCH3ドメインからの接触残基D399:D399EおよびD399Sで、いくつかの変異を行った(図2A)。この位置でのより小さい側鎖を置換することによって、反対のCH3ドメインは、アルギニンの追加容積をより良好に適合させ、CH3ドメインの全安定性を増加させ得る。・・・【0502】5 ・・・実施例3.安定化IgG Fc抗体の産生A.大腸菌における、安定化IgG Fc部分の変異生成、一時的発現、および精製安定性変異を、Stratagene Quik-Change Lightning変異生成キットを用いた部位特異的突然変異誘発法によって、実施例2に既に詳述されるBRM13構造体に組み込んだ。1つまたはそれ以上のC/G塩基中で開始し、終結する、少なくとも40%GC含量の両側に10~15塩基の正しい配列を有する中央に変異を有する36~40塩基長のプライマーを設計した。・・・【0507】B.CHO細胞における、安定化抗体の変異生成、一時的発現、抗体精製、および特性解析安定性変異は、Stratagene Quik-Change Lightning変異生成キットを用いた部位特異的突然変異誘発法によって、IgG4.P抗体(アミノ酸228にプロリンヒンジ変異を既に含むVH構造体)に組み込まれた。Fabを認識する抗原は、抗CD40抗体5c8からのものであった。1つまたはそれ以上のC/G塩基中で開始し、終結する、少なくとも40%GC含量の両側に10~15塩基の正しい配列を有する中央に変異を有する36~40塩基長のプライマーを設計した。全てのグリコシル化および非グリコシル化された変異構造体を、表3.2に列記する。【0508】【表10-1】【0509】【表10-2】変異を導入するプライマーを用いたPCR後、親プラスミドを完全に消化するために、37℃で5分間、DpnI制限酵素を加えて、各変異生成物を消化させた。次いで、変異生成反応物を、XL10-Gold大腸菌超形質転換受容性細胞に形質転換した。アンピシリン耐性5 コロニーをスクリーニングし、DNA塩基配列決定法を用いて、変異生成反応物からの正しい配列を確認した。【0541】実施例6.安定性を操作したIgG Fc抗体のFc受容体結合本発明の非グリコシル化された変異体抗体のエフェクタ機能を、Fc受容体またはC1q等の補体分子に結合するそれらの能力によって特徴付けた。【0542】A.液相競合Biacore実験Fcγ受容体への結合は、溶液親和性の表面プラズモン共鳴を用いて分析された(DayES,Cachero TG,Qian F,Sun Y,Wen D,PelletierM,Hsu YM,Whitty A.Selectivity of BAFF/BLySand APRIL for binding to the TNF family receptors BAFFR/BR3 and BCMA.Biochemistry.2005 Feb 15;44(6):1919-31を参照)。本方法は、リガンド結合(セン5 サーチップに結合するタンパク質結合)の初期速度は、溶液中のリガンドの濃度に比例する、いわゆる「物質移動限界」結合の条件を使用する(BIApplications Handbook(1994)Chapter6:Concentration measurement,pp6-1-6-10,Pharmacia Biosensor ABを参照)。これらの条件下で、チップ上の固定化したタンパク質への可溶性検体(チップ表面上を流れるタンパク質)の結合は、チップ表面上のデキストランマトリックスへの検体の拡散と比較して速い。したがって、検体の拡散特性およびチップ表面上を流れる溶液中の検体の濃度は、検体がチップに結合する速度を決定する。この実験においては、溶液中の遊離Fc受容体の濃度は、固定化IgG1 MAbを含むCM5 Biacoreチップに結合する初期速度によって決定される。これらのFc受容体溶液に、安定性を操作した構造体を滴定した(下の表6.1を参照)。これらの構造体の半最大(50%)抑制濃度(IC50)は、センサーチップの表面上に固定化した固定化IgG1抗体に結合することからFc受容体を抑制する能力によって示された。初期結合速度は、センサーグラム生データから得られた(図5)。IC50を計算するために使用された滴定曲線をCD64(FcγRI)については図6AおよびCD16(FcγRIIIa V158)については図6Bに示す。結果を表6.1に示し、2つの滴定の平均として報告する。【0543】【表17】CD64結合アッセイにおいては、IgG1対照抗体は、9.6μMのIC50を有したが、IgG1T299A(agly)およびIgG4.PT299A(agly)は、それぞれ、205μMおよび739μMのIC50を有した。予想通りに、IgG1分子は、IgG5 4分子よりもCD64に対してより大きな親和性を有し、非グリコシル化されたIgG1は、グリコシル化されたIgG1と比較して低下した親和性を示した。安定性を操作したグリコシル化されたIgG4.P分子(EC300およびEC326)は、440μMから5000μMを超える範囲に及ぶ安定性を操作した非グリコシル化されたIgG4.P分子(EC331およびYC400シリーズ)と比較して、約8μMのIC50値を有した。安定性を操作したIgG4.Pグリコシル化された分子(EC300、EC326)に対するIC50は、グリコシル化されたIgG1対照と同等であり、T299A(YC401、YC403)を有する安定性を操作した非グリコシル化されたIgG4.Pは、非グリコシル化されたIgG4.PT299A対照と同等のIC50の対数を有した。しかしながら、T299Kを有する安定性を操作した非グリコシル化されたIgG4.Pは、T299A置換を有する等価分子と比較して、親和性の1から2対数大きい低下を示した。図7A。また、この結果は、非グリコシル化されたIgG1T299A対照と比較して、親和性の対数低下を示した安定性を操作した非グリコシル化されたIgG1T299K(CN578)についても観測された(図7B)。実5 際、T299K置換は、非グリコシル化されたIgG4.PT299A対照よりもCD64に対してより大きな親和性を有することから、非グリコシル化されたIgG4.P対照と比較して、非グリコシル化されたIgG1(T299K)に対して低下した親和性を有することへと、非グリコシル化されたIgG1(T299A)分子を転換する(図7B)。簡潔に言えば、T299K変異は、IgG1分子およびIgG4分子の両方において、CD64に対する親和性を低下させる。【0544】CD16アッセイについては、IgG1対照は、105μMのIC50を有したが、非グリコシル化されたIgG4.P T299AおよびIgG1 T299Aは共に、1000μMを超えるIC50値を有した。グリコシル化された安定性を操作したIgG4.P分子は、IgG1対照に対して同等の対数IC50値を有し、全ての安定性を操作した非グリコシル化された分子(IgG4.PおよびIgG1の両方)は、1000μMを超えるIC50値を有した。T299Kが、CD16対する親和性をさらに低下したかどうかを調査するために、唯一の差異(YC401、YC404、YC403、およびYC406)としてT299K置換を有する2セットの構造体を高濃度の抗体(5μM)で試験した。結合曲線は、高濃度で、T299K変異によって生じるCD16に対する親和性の低下を示す(図8)。簡潔に言えば、T299K変異は、IgG分子において、CD16に対する親和性を低下させる。【0556】・・・実施例9.T299は、安定性およびエフェクタ機能の決定因子である。【0557】本項に記載されるタンパク質は全て、5c8抗体に由来し、特に示さない限り、IgG1抗体のCH1、CH2、およびCH3ドメインを含む。実施例3に記載されるように、タンパク質を産生し、精製した。CH2およびCH3ドメインの融解温度における変異の効果は、pH6.0およびpH4.5で、DSCによって測定された(実施例4に詳述)。本発明の非グリコシル化された変異体抗体のエフェクタ機能は、Fc受容体またはC1q等の補体分子に結合5 するそれらの能力によって特徴付けられた。Fcγ受容体への結合は、溶液親和性の表面プラズモン共鳴を用いて分析され、補体因子C1qへの結合は、ELISAによって分析された(実施例6)。【0558】IgG1 T299XおよびN297X/T299Kの非グリコシル化された構造体は、実施例3に詳述されるように、1リットルの培養液当たり7から30mgの収量を有するCHOにおいて発現した(表9.1)。T299Kと組み合わせて位置N297における第2の変異への添加により、1.5-4.4℃で、CH2ドメインの熱安定性は減少しなかった(表9.2)。さらに、T299X変異は、Arg(T299R)およびLys(T299K)の正電荷を持つ側鎖から最大の安定性の増加を示した(表9.2)。2つの極性側鎖のAsn(T299N)およびGln(T299Q)は共に、正電荷を持つ側鎖ほど大きくはないが、T29

9Aと比較して、より大きな安定性を示した。プロリン(T299P)は、T299Aと比較して安定性のわずかな低下を示し、より大きな疎水性側鎖Phe(T299F)は、2.4℃で、CH2ドメインの熱安定性を低下させた。最後に、負電荷を持つ側鎖Glu(T299E)は、CH2の熱安定性に対してほとんど効果を及ぼさなかった。これらの結果は、CH2ドメインにおける熱安定性を増加させるために、位置T299に正電荷を持つ側鎖を置換する新規の特性を示す。【0559】N297X、T299K変異(CN645、CN646、およびCN647)は全て、CD64に対する親和性を若干増加させたが、CD32aおよびCD16に対する非常に低い親和性を維持することが観察される(図11B、11D、および11F)。T299X変異は、CD16に対して一貫して低親和性を示したが、CD32aに対する低親和性は、T299Eの場合には、増加した(表9.3および図11C、9E)。また、正電荷を持つ側鎖T299RおよびT299Kのみが、CD64に対して低親和性を与えることを示すことも興味深い(表9.3および図11A)。最後に、T299K、T299P、およびT299Qは、C1q結合の痕跡がなく、T299N、T299E、T299Fは、若干上昇したが、それでも非常に5 低いC1qへの結合を示す(図11Gおよび11H)。N297P/T299K、N297D/T299K、およびN297S/T299Kは、C1qへの結合を示さない(図11H)。【0560】【表19-1】【0561】【表19-2】実施例10.安定化Fc構造体は、安定性変異の適用は、Fabから独立していることを示す本項に記載されるタンパク質は、5c8抗体に由来する結合部位を含む。EAG2476構5 造体は、IgG4免疫グロブリン分子からのFc部分を含み、EAG2478は、IgG1分子からのFc部分を含む(EAG2476およびEAG2478は、それぞれ、YC406およびCN578構造体のFc版(Fabなし)である)。【0562】実施例3に記載されるように、タンパク質を産生し、精製した。CH2およびCH3ドメインの融解温度における変異の効果は、pH6.0で、DSCによって測定された(実施例4に詳述)。本発明の非グリコシル化された変異抗体のエフェクタ機能を図12に示す。抗体は、Fc受容体に結合するそれらの能力によって特徴付けられた。Fcγ受容体への結合は、溶液親和性の表面プラズモン共鳴を用いて分析された(実施例6)。【0563】安定化Fc非グリコシル化された構造体は、実施例3に詳述されるようにCHOにおいて発現され、収量は(表10.1)に詳述する。。CH2ドメイン(T299K、T307P、およびL309K)における変異は、Fabの存在または不在下で、同じ熱安定性を示し(表10.2)、ならびに、同じFcγ受容体結合親和性を有した(表10.3)。総合すれば、本発5 明に詳述される安定化変異は、予想通りに、Fabから独立しており、Fabが貢献しているどうかにかかわらず、Fcドメインを安定化するのに適用可能である。【0564】【表20】

別紙4

甲第10号証の記載事項(抜粋)【特許請求の範囲】5 【請求項24】図11で示されるHVR1-HC、HVR2-HCおよび/またはHVR3-HC配列(配列番号35~37)を含む重鎖可変ドメインを含む抗体。【請求項27】図11で示されるHVR1-LC、HVR2-LCおよび/またはHVR3-LC配列(配列番号26~28)を含む軽鎖可変ドメインを含む抗体。【請求項33】請求項24~26のいずれかに記載の重鎖可変ドメインおよび請求項27~29のいずれかに記載の軽鎖可変ドメインを含む抗体。【請求項193】二重特異性抗体である請求項33記載の抗体。【請求項194】CD3に特異的に結合する請求項193記載の抗体。【請求項195】空洞への隆起(protuberance-into-cavity)抗体である請求項194記載の抗体。【請求項196】非グリコシル化される請求項195記載の抗体。【請求項197】大腸菌宿主細胞中で産生される請求項196記載の抗体。【請求項198】1つ以上のFcエフェクター機能を欠く請求項196記載の抗体。【請求項199】ADCC活性を欠く請求項198記載の抗体。【発明の詳細な説明】【技術分野】【0002】5 本発明は、哺乳類における造血系腫瘍の治療に有用な物質の組成物に、ならびにそのための物質の組成物の使用方法に関する。【背景技術】【0007】癌療法のための有効な細胞性標的を発見しようと試みて、研究者等は、1つ以上の正常非癌性細胞(単数または複数)と比較して、1つ以上の特定型(単数または複数)の癌細胞の表面で特異的に発現される膜貫通または他の膜関連ポリペプチドを特定しようと努めてきた。しばしば、このような膜関連ポリペプチドは、非癌性細胞の表面と比較して、癌細胞の表面で豊富に発現される。このような腫瘍関連細胞表面抗原ポリペプチドの特定は、抗体ベースの療法による破壊のために癌細胞を特異的に標的にする能力を生み出した。この点で、抗体ベースの療法が、ある種の癌の治療に非常に有効であることが見出された、ということが注目される。例えば、ヘルセプチン(登録商標)およびリツキサン(登録商標)(ともに、Genentech Inc.,South San Francisco, California により製造される)は、それぞれ乳癌および非ホジキンリンパ腫を治療するのに首尾よく用いられている抗体である。さらに具体的には、ヘルセプチン(登録商標)は、ヒト上皮細胞増殖因子受容体2(HER2)癌原遺伝子の細胞外ドメインと選択的に結合する組換えDNA由来ヒト化モノクローナル抗体である。HER2タンパク質過剰発現は、原発性乳癌の25~30%で観察される。リツキサン(登録商標)は、正常および悪性Bリンパ球の表面に見出されるCD20抗原に対して向けられる遺伝子操作キメラネズミ/ヒトモノクローナル抗体である。これらの抗体はともに、CHO細胞中で組換え的に産生される。【0008】癌療法のための有効な細胞性標的を発見するための他の試みでは、研究者等は、(1)1つ以上の特定型(単数または複数)の非癌性正常細胞(単数または複数)と比較して、1つ以上の特定型(単数または複数)の癌細胞(単数または複数)により特異的に産生される非膜関連ポリペプチド、(2)1つ以上の正常非癌性細胞(単数または複数)のものより有意に高い発現レベルで癌細胞により産生されるポリペプチド、あるいは(3)癌性および非癌性状態(例5 えば、正常前立腺および前立腺腫瘍組織)の両方における単一(または非常に限定された数の異なる)組織型(単数または複数)にのみ、その発現が特異的に限定されるポリペプチドを特定しようと努めてきた。このようなポリペプチドは、依然として細胞内に位置するか、あるいは癌細胞により分泌され得る。さらに、このようなポリペプチドは、癌細胞それ自体によらずに、むしろ、癌細胞に及ぼす増強または増殖強化作用を有するポリペプチドを産生しおよび/または分泌する細胞により発現され得る。このような分泌ポリペプチドは、しばしば、正常細胞を上回る増殖利点を癌細胞に提供するタンパク質であり、例としては、血管新生因子、細胞接着因子、増殖因子等が挙げられる。このような非膜関連ポリペプチドのアンタゴニストの特定は、このような癌の治療のための有効な治療薬として役立つと予期される。さらに、このようなポリペプチドの発現パターンの特定は、哺乳類における特定の癌の診断に有用である。【0011】FcRH5(またはIRTA2)は、Fc受容体ファミリーと相同性を有する細胞表面受容体である。それは普通は成熟B細胞中で発現され、そしてFcRH4(IRTA1)とは異なる末梢リンパ器官中の分布を示す。IRTA1は辺縁帯B細胞中で発現され、一方、IRTA2は胚中心細胞中および免疫芽細胞中でも発現される。IRTA2発現は、多発性骨髄腫、ならびに1q21異常を伴うバーキットリンパ腫細胞株において脱調節される(Miller etal., Blood 99: 2662-2669, 2002 参照)。B細胞悪性疾患における1q21構造再編成の高頻度の関与は、IRTA1およびIRTA2がこれらの疾患の病因に対して重要である、ということを示唆する(公開PCT出願番号WO 01/38490;米国公開特許出願番号20080292632参照;これらの記載内容は参照により本明細書中で援用される)(Polson,et al. Int Immunol. 2006 Sep; 18(9): 1363-73 も参照)。【0012】FcRH5の発現を考えると、特に長期治療のために、患者に投与される際に、最小抗原性を有するかまたは全く有さないFcRH5抗原に対する治療用抗体を産生することは有益である。本発明は、このまたは他の要求を満たす。本発明は、一般的治療用組成物の制限を克服し、ならびに以下の詳細な説明から明らかになる付加的な利点を与える抗FcRH5抗体を提5 供する。【発明の概要】【発明が解決しようとする課題】【0019】本発明は、抗FcRH5抗体またはその機能的断片、ならびに造血系腫瘍の治療におけるその使用方法に関する。【0050】別の態様では、本発明は、FcRH5を発現する第一細胞と、ならびに細胞表面標的抗原を発現する第二細胞と結合し得る二重特異性抗体を提供する。一実施形態では、第二細胞はT細胞である。一実施形態では、細胞表面標的抗原はCD3である。ある実施形態では、二重特異性抗体は、空洞への隆起(protruberance-into-cavity)抗体である。一実施形態では、二重特異性抗体は非グリコシル化される。一実施形態では、二重特異性抗体は、大腸菌宿主細胞中で産生される。一実施形態では、二重特異性抗体は、1つ以上のFcエフェクター機能を欠く。一実施形態では、二重特異性抗体はADCC活性を欠く。【発明を実施するための形態】【0084】アミノ酸残基/位置の「修飾」は、本明細書中で用いる場合、出発アミノ酸配列と比較した場合の一次アミノ酸配列の変化を指し、ここで、変化は、上記アミノ酸残基/位置に関連した配列変更に起因する。例えば典型的な修飾としては、別のアミノ酸残基による当該残基(または上記位置)の置換(例えば保存的または非保存的置換)、上記残基/位置に隣接する1つ以上の(一般的には5または3より少ない)アミノ酸の挿入、ならびに上記残基/位置の欠失が挙げられる。「アミノ酸置換」またはその変形は、異なるアミノ酸残基による既定(出発)アミノ酸配列中の現存アミノ酸残基の取替えを指す。一般的には、そして好ましくは、修飾は、出発(または「野生型」)アミノ酸配列を含むポリペプチドと比較して、変異体ポリペプチドの少なくとも1つの物理生物化学的活性における変更を生じる。例えば抗体の場合、変更される物理生物化学的活性は、結合親和性、結合能力および/または標的分子に及ぼす結合作用で5 あり得る。【0142】「補体依存性細胞傷害性」または「CDC」は、補体の存在下での標的細胞の溶解を指す。古典的補体経路の活性化は、補体系(Clq)の第一構成成分と、それらの同種の抗原と結合される(適切なサブクラスの)抗体との結合により開始される。補体活性化を査定するために、例えば Gazzano-Santoro et al., J. Immunol. Methods 202:163 (1996)に記載されたようなCDC検定が実施され得る。変更されたFc領域アミノ酸配列を有するポリペプチド変異体(変異体Fc領域を有するポリペプチド)、ならびに増大されたまたは低減されたClq結合能力は、例えば米国特許第6,194,551 B1号およびWO 1999/51642に記載されている。例えば、Idusogie et al. J. Immunol. 164: 4178-4184 (2000)も参照されたい。【0285】一態様では、ヒト化抗体およびキメラ抗体はともに一価である。一実施形態では、ヒト化およびキメラ抗体はともに、Fc領域と連結される単一Fab領域を含む。一実施形態では、参照キメラ抗体は、ヒトFc領域と結合される図2(配列番号11)および図4(配列番号13)に示される可変ドメイン配列を含む。一実施形態では、ヒトFc領域は、IgGのもの(例えば、IgG1、2、3または4)である。【0364】A. 抗FcRH5抗体一実施形態では、本発明は、治療薬として本明細書中で用途を見出し得る抗FcRH5抗体を提供する。抗体の例としては、ポリクローナル、モノクローナル、ヒト化、二重特異性および異種接合体抗体が挙げられる。【0412】5. 二重特異性抗体二重特異性抗体は、少なくとも2つの異なるエピトープに対する結合特異性を有する抗体である。例となる二重特異性抗体は、本明細書中に記載されるようなFcRH5タンパク質の25 つの異なるエピトープと結合し得る。他のこのような抗体は、別のタンパク質に対する結合部位を有するFcRH5結合部位を併有し得る。代替的には、抗FcRH5アームは、FcRH5発現細胞に細胞性防御機序を集中し、限局するために、T細胞受容体分子(例えば、CD3)、あるいはIgGに対するFc受容体(FcγR)、例えばFcγRI(CD64)、FcγRII(CD32)およびFcγRIII(CD16)のような白血球上のトリガー分子と結合するアームと組合され得る。二重特異性抗体は、FcRH5を発現する細胞に細胞傷害剤を限局するためにも用いられ得る。これらの抗体は、FcRH5結合アーム、ならびに細胞傷害剤(例えば、サポリン、抗インターフェロン-α、ビンカアルカロイド、シリンA鎖、メトトレキサートまたは放射性同位体ハプテン)に結合するアームを有する。二重特異性抗体は、全長抗体または抗体断片(例えばF(ab‘) 2 二重特異性抗体)として調製することができる。【0413】WO96/16673は二重特異性抗ErbB2/抗FcγRIII抗体を記載し、米国特許第5,837,234号は二重特異性抗ErbB2/抗FcγRI抗体を開示する。二重特異性抗ErbB2/抗Fcα抗体は、WO98/02463に示されている。米国特許第5,821,337号および第6,407,213号は、二重特異性抗ErbB2/抗CD3抗体を教示する。CD3抗原上のエピトープおよび第二エピトープと結合する付加的二重特異性抗体が記載されている。例えば、米国特許第5,078,998号(抗-CD3/腫瘍細胞抗原);第5,601,819号(抗-CD3/IL-2R;抗-CD3/CD28;抗-CD3/CD45);第6,129,914号(抗-CD3/悪性疾患B細胞抗原);第7,112,324号(抗-CD3/CD19);第6,723,538号(抗-CD3/CCR5);第7,235,641号(抗-CD3/EpCAM);第7,262,276号(抗-CD3/卵巣腫瘍抗原);および第5,731,168号(抗-CD3/CD4IgG)を参照されたい。【0414】二重特異性抗体を作製するための方法は、当該技術分野で既知である。全長二重特異性抗体5 の伝統的産生は、2つの免疫グロブリン重鎖-軽鎖対の同時発現に基づいており、ここで、2つの鎖は異なる特異性を有する(Millstein et al., Nature 305:537-539 (1983))。免疫グロブリン重鎖および軽鎖の無作為組合せのため、これらのハイブリドーマ(クアドローマ)は

10の異なる抗体分子の潜在的混合物を産生し、そのうち、1つだけが正しい二重特異性構造を有する。通常はアフィニティークロマトグラフィー段階により実行される正しい分子の精製は、かなり厄介であり、その生成収率は低い。類似の手順は、WO 93/08829に、そして Traunecker et al., EMBO J. 10:3655-3659 (1991)に開示されている。【0417】米国特許第5,731,168号に記載された別のアプローチによれば、抗体分子の対の間の界面は、組換え細胞培養から回収されるヘテロ二量体のパーセンテージを最大にするよう操作され得る。好ましい界面は、CH3ドメインの少なくとも一部を含む。この方法では、第一抗体分子の界面からの1つ以上の小アミノ酸側鎖が、より大きい側鎖(例えば、チロシンまたはトリプトファン)で置き換えられる。大型アミノ酸側鎖をより小さいもの(例えば、アラニンまたはトレオニン)で置き換えることにより、大きい側鎖(単数または複数)と同一または類似のサイズの代償性「空洞」が第二抗体分子の界面上に作られる。これは、ホモ二量体のような他の望ましくない最終産物に対してヘテロ二量体の産生を増大するための機序を提供する。このアプローチに従って産生される二重特異性抗体は、本明細書中では「空洞への隆起」抗体として言及される。【0423】6. ヘテロ接合体抗体ヘテロ接合体抗体も、本発明の範囲内である。ヘテロ接合体抗体は、2つの共有結合抗体からなる。このような抗体は、例えば、免疫系細胞を望ましくない細胞に向けることが(米国特許第4,676,980号)、ならびにHIV感染の治療のために(WO 91/00360、WO 92/200373およびEP 03089)、提案されている。抗体は、架橋剤が関与するものも含めて、合成タンパク質化学における既知の方法を用いて、in vitro で調製され得る。例えば、免疫毒素は、ジスルフィド交換反応を用いて、またはチオエーテル結合5 を形成することにより、構築され得る。この目的のための適切な試薬の例としては、イミノチオレートおよびメチル-4-メルカプトブチルイミデート、ならびに例えば米国特許第4,676,980号に開示されたものが挙げられる。【0425】8. エフェクター機能操作例えば、抗体の抗源依存性細胞媒介性細胞傷害性(ADCC)(当裁判所注:甲第10号証の対応日本語文献である「特表2012-522512号公報」では、「抗源依存性細胞媒介性細胞傷害性(ADCC)」と記載されているが、「抗体依存性細胞媒介性細胞傷害性(ADCC)」の誤りである。)および/または補体依存性細胞傷害性(CDC)を増強するために、エフェクター機能に関して本発明の抗体を修飾することが望ましい。これは、抗体のFc領域に1つ以上のアミノ酸置換を導入することにより達成され得る。代替的には、または付加的に、システイン残基(単数または複数)をFc領域に導入し、それにより、この領域における鎖間ジスルフィド結合形成を可能にし得る。このようにして生成されるホモ二量体抗体は、内在化能力が改良され得、および/または補体媒介性細胞殺害および抗体依存性細胞性細胞傷害(ADCC)を増大し得る(Caron et al., J. Exp Med. 176:1191-1195 (1992)および Shopes,B. J. Immunol. 148:2918-2922 (1992)参照)。抗腫瘍活性増強を示すホモ二量体抗体は、Wolff et al., Cancer Research 53:2560-2565 (1993)に記載されるようなヘテロ二官能性架橋剤を用いても調製され得る。代替的には、抗体は操作され、これは、二元性Fc領域を有し、それにより、増強された補体溶解およびADCC能力を有し得る(Stevenson et al.,Anti-Cancer Drug Design 3:219-230 (1989)参照)。抗体の血清半減期を増大するために、例えば、米国特許第5,739,277号に記載されたような抗体(特に抗体断片)中にサルベージ受容体結合エピトープを組み入れ得る。本明細書中で用いる場合、「サルベージ受容体結合エピトープ」という用語は、IgG分子の in vivo 血清半減期を増大するのに関与するIgG分子(例えば、IgG1、IgG2、IgG3またはIgG4)のFc領域のエピトープを指す。【0651】5 特に、グリコシル化およびFcエフェクター機能が必要とされない場合、例えば、治療用抗体が細胞傷害性物質(例えば、毒素)と接合され、免疫接合体それ自体が腫瘍細胞崩壊において有効性を示す場合、全長抗体、抗体断片および抗体融合タンパク質が細菌中で産生され得る。全長抗体は、より大きな循環中半減期を有する。大腸菌中での産生は、より速く、且つより費用効率が高い。細菌中での抗体断片およびポリペプチドの発現に関しては、例えばU.S. 5,648,237 (Carter et. al.)、U.S. 5,789,199 (Joly etal.)およびU.S. 5,840,523 (Simmons et al.)(これは、発現および分泌を最適化するための翻訳開始領域(TIR)および シグナル配列を記載する)(これらの記載内容は参照により本明細書中で援用される)を参照されたい。発現後、抗体は可溶性分画中の大腸菌細胞ペーストから単離され、例えば、アイソタイプによってプロテインAまたはGカラムを通して精製され得る。最終精製は、例えばCHO細胞中で発現される抗体を精製するためのプロセスと同様に実行され得る。【0744】本発明の抗FcRH5抗体は、本明細書中の「抗体」の定義に包含される種々の形態で存在し得る。したがって、抗体は、全長または無傷抗体、抗体断片、ネイティブ配列抗体またはアミノ酸変異体、ヒト化、キメラまたは融合抗体、免疫接合体、ならびにその機能的断片を包含する。融合抗体では、抗体配列は異種ポリペプチド配列と融合される。抗体は、Fc領域で修飾されて、所望のエフェクター機能を提供し得る。本明細書中の節で詳細に考察されているように、適切なFc領域を用いて、細胞表面に結合された裸抗体は、例えば抗体依存性細胞性細胞傷害性(ADCC)を介して、または補体依存性細胞傷害性において補体を動員することにより、または他のいくつかの機序により、細胞傷害性を誘導し得る。代替的には、副作用または治療的合併症を最小限にするために、エフェクター機能を排除するかまたは低減することが望ましい場合、ある種の他のFc領域が用いられ得る。【0824】一実施形態では、本発明は、いくつかの、しかし全てではない、エフェクター機能を保有する変更された抗体を意図するが、これは in vivo での抗体の半減期が重要であるが、ある種の5 エフェクター機能(例えば、補体およびADCC)は必要でないかまたは有害である多数の用途のための望ましい候補となる。ある実施形態では、抗体のFc活性は、所望の特性のみが維持される、ということを保証するために測定される。in vitro および/または in vivo 細胞傷害性検定は、CDCおよび/またはADCC活性の低減/枯渇を確証するために実行され得る。例えば、Fc受容体(FcR)結合検定は、抗体がFcγR結合を欠く(それゆえ、ADCC活性を欠くと思われる)が、しかしFcRn結合能力を保持する、ということを保証するために実行され得る。ADCCを媒介するための一次細胞、NK細胞はFc(RIII)のみを発現するが、一方、単球はFc(RI)、Fc(RII)およびFc(RIII)を発現する。造血系細胞上でのFcR発現は、Ravetch and Kinet, Annu. Rev. Immunol. 9:457-92(1991)の464ページの表3に要約されている。当該分子のADCC活性を査定するためのin vitro 検定の一例は、米国特許第5,500,362号または第5,821,337号に記載されている。このような検定のために有用なエフェクター細胞としては、末梢血単核細胞(PBMC)およびナチュラルキラー(NK)細胞が挙げられる。代替的には、または付加的には、当該分子のADCC活性は、in vivo で、例えば Clynes et al. PNAS (USA) 95:652-656 (1998)に開示されたような動物モデルで査定され得る。C1q結合検定は、抗体がC1qを結合できず、それゆえCDC活性を欠く、ということを確証するためにも用いられ得る。補体活性化を査定するために、例えば、Gazzano-Santoro et al., J. Immunol. Methods202:163 (1996)に記載されたようなCDC検定が実施され得る。FcRn結合および in vivoクリアランス/半減期確定も、当該技術分野で既知の方法を用いて実施され得る。【0828】実施例1:FcRH5を結合する抗体の調製この実施例は、FcRH5を特異的に結合し得るモノクローナル抗体の調製を例証する。【0829】モノクローナル抗体を産生するための技法は当該技術分野で知られており、例えば、Goding(上記)に記載されている。用いられ得る免疫原としては、精製FcRH5、FcRH5を含有する融合タンパク質、ならびに細胞表面に組換えFcRH5を発現する細胞が挙げら5 れる。免疫原の選択は、過度の実験を伴なわずにう、当業者によりなされ得る。【0849】D. ヒト化抗ヒトFcRH5抗体10A8の生成残基番号は、カバト(Kabat et al., Sequences of proteins of immunologicalinterest, 5th Ed., Public Health Service, National Institutes of Health,Bethesda, MD (1991))に従った。一文字アミノ酸記号を用いる。IUBコードを用いて、DNA縮重を表す(N=A/C/G/T、D=A/G/T、V=A/C/G、B=C/G/T、H=A/C/T、K=G/T、M=A/C、R=A/G、S=G/C、W=A/T、Y=C/T)。【0850】1.ヒト化抗-FcRH5 抗体移植片種々のヒト化抗FcRH5抗体を生成した。ネズミFcRH5抗体(10A8)からのVLおよびVHドメインを、ヒト共通VLカッパ(huKI)およびヒト亜群III共通VH(huIII)ドメインと整列させた。ヒト共通配列カッパIを伴うネズミ10A8の軽鎖可変ドメインのアラインメントを、図9に示す。ネズミ10A8(mu10A8)からの超可変領域を、受容体ヒト共通フレームワーク中に操作して、MA10A8の直接HVR移植片(本明細書中では、「10A8移植片」または10A8移植「ヒト化抗体」または「hu10A8移植片」と呼ぶ)を生成した。哺乳類シグナル配列、ヒトVカッパI可変ドメインに関する共通配列、およびヒト定常カッパIドメインを含有する哺乳類発現ベクター上に、10A8のCDRを操作した。ネズミ残基は、ドナーmAbから受容体プラスミドへは移入されなかった。Kunkle 突然変異誘発プロトコールに従って、各CDRをコードする単一オリゴヌクレオチド、および受容体プラスミドのssDNAを用いて、CDRを移入した。移植した残基、ならびにその結果生じたヒト10A8バージョン(hu10A8v1)軽鎖可変ドメイン(配列番号19)を、図9に示す。【0851】同様に、哺乳類シグナル配列、ヒト重鎖亜群IIIの共通配列、および全長ヒトIgG1定5 常ドメインをコードする配列を含有するベクター上に、ネズミ10A8(mu10A8)の重鎖可変ドメインのCDRを操作した。ネズミ残基は、ドナーmAbから受容体プラスミドへは移入されなかった。ネズミ10A8重鎖可変ドメイン、移植されたヒト亜群III可変ドメイン残基のアラインメント、ならびにその結果生じたヒト10A8バージョン(hu10A8v1)重鎖可変ドメイン(配列番号21)を、図10に示す。【0920】実施例11: FcRH5二重特異性抗体の産生および特性化抗CD3/FcRH5二重特異性抗体の構築および産生 FcRH5二重特異性抗体、具体的には抗CD3/FcRH5 空洞への隆起二重特異性抗体の構築を、以下に記載する。【0921】種々の空洞への隆起二重特異性抗体は、以前に記載されている(例えば米国特許第5,731,168号および第7,183,076号;Ridgway et al., Prot. Eng. 9:617-621(1996);Atwell et al., J. Mol. Biol. 270:26-35 (1997);Merchant et al., Nat.Biotechn. 16:677-681 (1998)参照)。ある場合には、Chamow et al. J. Immunol. 153:4268(1994)により前に記載されたヒト化抗CD3/CD4-IgGキメラ間のCH3界面を操作して、発現構築物で同時トランスフェクトされた哺乳類細胞株から回収され得るヘテロ多量体のパーセンテージを最大にした。本明細書中で用いる場合、「ヘテロ多量体」は、少なくとも第一のポリペプチドおよび第二のポリペプチド(ここで、第二のポリペプチドはアミノ酸配列の少なくとも1つのアミノ酸残基が第一のポリペプチドと異なる)を含む分子、例えば二重特異性抗体を指す。【0922】前段落中で引用した文書に記載されているように、ヘテロ多量体形成を行なうために用いる戦術は、第一ポリペプチド、例えば抗体H鎖のCH3ドメイン中に1つ以上の「隆起」を導入すること、そしてさらにまた、第二ポリペプチド、例えば第二抗体H鎖のCH3ドメイン中に1つ以上の対応する「空洞」を導入することに頼っている。「隆起」突然変異は、小アミノ酸をより大きいものに置き換え、そして「空洞」突然変異は、大型アミノ酸をより小さいもので5 置き換えた。さらに、隆起および空洞突然変異のほかに、遊離チオール含有残基が2つのポリペプチド、例えば2つのCH3ドメインの界面に導入されたが、これは、ヘテロ多量体の形成を増強することが示された。ポリペプチド界面に導入される種々の例となる空洞への隆起突然変異および遊離チオール含有残基が記載されている。例えば米国特許第5,731,168号および第7,183,076号;Ridgway et al., Prot. Eng. 9:617-621 (1996);Atwellet al., J. Mol. Biol. 270:26-35 (1997);Merchant et al., Nat. Biotechn. 16:677-681 (1998)を参照されたい。【0923】以下の工程を実行して、抗CD3/FcRH5二重特異性抗体を産生した。ネズミ抗CD3モノクローナルAb UCHT1のヒト化抗CD3軽鎖(L)および重鎖(H)変異体をコードする大腸菌発現プラスミド(米国特許第5,821,337号および第6,407,213号;Shalaby et al., J. Exp. Med. 175: 217 [1992]および Rodrigues et al., Int. J.Cancer (Suppl.) 7: 45 [1992]))を構築する。多数の適切な大腸菌発現プラスミド、例えばpAK19が、当該技術分野で知られている(Carter et al., Bio/Tehcnology 10:163-167(1992))。ヒト化抗CD3H鎖の(上記のような)CH3ドメイン中に隆起または空洞を導入する突然変異は、例えば部位特異的突然変異誘発により成される。種々の部位特異的突然変異誘発方法が、当該技術分野で周知である(例えば Kunkel et al., Methods Enzymol.154:367-382 (1987)参照)。さらに、ヒト化抗FcRH5軽鎖および重鎖、例えば本明細書中に記載されるようなヒト化抗FcRH5軽鎖および重鎖をコードする大腸菌発現プラスミドが、構築される。ヒト化抗FcRH5H鎖の(上記のような)CH3ドメイン中に対応する空洞(抗CD3ドメインが隆起突然変異を有する場合)または対応する隆起(抗CD3ドメインが空洞突然変異を有する場合)を導入する突然変異は、例えば部位特異的突然変異誘発により作製される。【0924】二重特異性抗CD3/FcRH5抗体は、当該技術分野で知られている方法を用いて、上記のような大腸菌発現プラスミドを、適切な大腸菌株、例えば33B6中で形質転換することに5 より産生される(例えば Rodrigues et al., Cancer Res. 55:63-70 (1995)参照)。前に記載されたように、10L発酵器中で増殖させた形質転換大腸菌により、抗体は分泌される(Carter et al., Bio/Technology 10:163-167 (1992))。当該技術分野で既知の手法を用いて、抗体は精製され、分析される(例えば Atwell et al., J. Mol. Biol. 270:26-35(1997)参照)。【0925】細胞結合検定:B細胞およびT細胞を結合する抗CD3/FcRH5二重特異性抗体の能力を査定するために、当該技術分野で既知の標準手法に従ってフィコール勾配を用いて、ヒト末梢白血球を健常ドナーからの全血から単離する。約100万個の細胞を、PBS中に0.5%BSAおよび2mMのEDTAを含有する緩衝液中で氷上で、抗CD3/FcRH5二重特異性抗体とともにインキュベートする。次いで、細胞を洗浄し、メーカーのプロトコールに従って、CD8-APCおよび抗CD138-PEおよび抗CD38-PerCP-Cy5抗体とともにFITC接合ヤギ(Fab’)2抗ヒトIgGで染色し(BD Biosciences, San Diego,CA)、Flowjoソフトウェア(Tree Star, Ashland, OR)を用いて分析を実行する。【0926】in vitro 細胞殺害検定:EJM-FcRH5.LSP.2多発性骨髄腫細胞(ヒトFcRH5で安定的にトランスフェクトされたEJM細胞、DSMZ ACC-560)を標的細胞として用いて、総ヒト末梢白血球またはCD8+T細胞と同時培養する。CD8+T細胞を用いる場合、96ウェル丸底プレート中でCD8プラスT細胞単離キット(Miltenyi Biotech,Auburn, CA)を用いて、陰性選別により、ヒトPBMCからそれらを精製する。20,000EJM-FcRH5.LSP.2細胞を、抗CD3/FcRH5二重特異性抗体とともに、または伴わずに、標的:エフェクター=1:10の比率でウェル当たりで付加する。約19時間後、メーカーのプロトコール(BD Biosciences, San Diego, CA)に従って、細胞を標識化抗CD38-FITCおよび抗CD138-PEで染色し、Fluoresbrite(登録商標)較正等級6.0ミクロンYGマイクロスフェア(Polysciences, Inc., Warrington,PA)と混合する。前方/側方散乱のゲーティングおよびCD38-CD138染色により、F5 ACS分析を実行する。標準手法によりヨウ化プロピジウム染色を用いて、死細胞を排除する。以下の方程式に従って、抗CD3/FcRH5二重特異性抗体の特異的殺害活性を算定する:特異的殺害%=(1-処理を受けた生EJM-FCRH5.LSP.2細胞の数/エフェクター中の生EJM-FCRH5.LSP.2細胞&抗-CD3/FcRH5二重特異性抗体を伴わないEJM-FCRH5.LSP.2の数)x100)。【0927】in vivo 効力:EJM-FcRH5.LSP.2多発性骨髄腫細胞を、末梢血単核球と混合し、雌NOD.CD17-Prkdcscid/Jマウス(Charles Rivers Laboratories,Wilmington, MA)の右胸脇腹部に皮下注射する。次いで、接種マウスを対照および処置群に分ける。対照群には、ビヒクルまたは抗CD3/Her2対照二重特異性抗体を投与する。処置群には、抗CD3/FcRH5二重特異性抗体を投与する。二重特異性抗体を0.01~10mg/kgの範囲で投与する。細胞接種後1~2時間以内に、対照および処置群に静脈内投与し、5連続日の間、毎日反復する。週2回、カリパスを用いて、2つの寸法(長さおよび幅)で腫瘍を測定する。週2回、マウスを臨床的にモニタリングする。実験終了時に、対照-処置動物の腫瘍サイズを、抗CD3/FcRH5二重特異性抗体処置動物の腫瘍サイズと比較して、抗CD3/FcRH5二重特異性抗体処置の効力を査定する。

別紙5

当事者の主張1 取消事由1(甲2に基づく新規性・進歩性欠如に係る認定・判断の誤り)について5 【原告の主張】(1) 甲2発明の認定の誤りア 相違点1がないこと(ア) 本件審決は、甲第2号証の記載に関し、①前記アミノ酸変異を欠く親ポリペプチド(IgG1抗体)と比較してFcγ受容体に対する結合活性が低下していることの記載を認めた一方で、②IgG1のFc領域を構成するアミノ酸においてD265A変異が生じていることの記載は認めなかった(相違点1)。しかし、上記②は、甲第2号証の段落【0269】から【0275】までに記載されている。甲2発明にいう「安定性」は、③Fc領域のうち「EU付番慣例によるアミノ酸位置240、255、262~266、267~271、292~299、302~309、379、397~399、409、412、および427」等のアミノ酸を変異させる(置換する)ことで達成でき、かつ「変異は、アラニン(A)による置換である」というアプローチも示されていた(【0269】~【0275】、下線は原告による。)。そして、上述の記載で、本件訂正発明の請求項1の「該Fc領域を構成するアミノ酸のうち、EUナンバリングに従って特定される265位のアスパラギン酸がアラニンに変異している」という構成要件が開示されていることは、当業者の理解に照らして明らかであった。(イ) さらに、③D265A変異によってFcγ受容体に対する結合活性が低下していることも、甲第2号証の段落【0230】、【0222】及び【0223】に記載されているか、記載されているに等しい事項である。この点、甲2発明は、従来技術で知られた課題を解決するために、抗体のFc領域が発揮するエフェクター機能が低下している一方で、当該5 抗体が安定であるということを主眼とするものであった。まず、甲第2号証では、甲2発明がなされた「背景技術」として、「抗体のFc領域によって媒介される幾つかのエフェクタ機能または活性がある。」ことが知られており、かかる機能は、「幾つかの臨床上の適用において、これらの応答は、抗体の効力にとって重要であるが、他の場合において、これらは、望まれない副作用を引き起こす。エフェクタによって媒介された副作用の1つの例は、急性発熱反応をもたらす炎症サイトカインの放出である。」ということも知られていることが指摘されている(【0003】)。すなわち、Fc領域が発揮するエフェクター機能は、有用である場合もある一方で、炎症サイトカインの放出等の望ましくない副作用をも発揮してしまうという問題が、当業者において認識されていた。上述の問題を解決するための従来技術の一つとして、甲第2号証では、Fc領域自体を欠く抗体を利用することが示されているが、かかる抗体は、同時に、「腎臓を通る迅速なクリアランスにより減少した半減期を有」するなどといった別の問題が生じてしまうことも指摘されている(【0004】)。このような従来技術の課題を踏まえて、甲2発明は、主に、「低下したエフェクタ機能、および改善された安定性を有する、改善された抗体」を提供するという課題を解決すべく(【発明が解決しようとする課題】【0007】、下線は原告による。)、「Fc領域の向上した安定性をもたらす親Fc領域内における、特定のアミノ酸残基位置で、変異体を導入するための方法を提供」し、かつ当該抗体が「低下したエフェクタ機能」をも有することを志向するものであった(【0008】(発明の概要))。換言すると、甲第2号証には、「低下したエフェクタ機能」を実現しつつも「安定性」をも満たした、Fc領域内にアミノ酸変異を有する抗体が、具体的な技術的思想として示されていたのである。5 そのうえで、甲2発明の「低下したエフェクタ機能」は、「FcγRI、FcγRII、およびFcγRIIIからなる群から選択されるFc受容体(FcR)への低下した結合」により実現されることも示されていた(【0034】、【0230】)。かかるFcγ受容体に対する結合能の低下は、①Fc領域のうちEU付番で「234、236、239、241、251、252、261、265、268、293、294、296、298、299、301、326、328、332、334、338、376、378、および435」のいずれかの位置のアミノ酸の少なくとも1つを変異させる(置換する)か(【0230】、下線は原告による。)、又は②「エフェクタ機能の変化を与えることが周知の当技術分野において承認されている置換を使用」する(【0222】、【0223】)などといった手法で達成できることが示されていた。そして、本件訂正発明の請求項1の「Fcγ受容体に対する結合活性が低下している、Fc領域を含むドメイン」及び「該Fc領域を構成するアミノ酸のうち、EUナンバリングに従って特定される265位のアスパラギン酸がアラニンに変異している」という構成要件が、上述の①・②の記載において示されていることは、当業者の理解に照らして明らかであった。以上の説明のとおり、当業者が甲第2号証の記載全体を通じて甲2発明を理解すれば、甲2発明は、本件審決が相違点1として認定した具体的な技術的思想をも含むものであることが理解できた。イ 相違点2がないこと(ア) また、本件審決は、本件訂正発明1と甲2発明の対比において、相違点2を認定し、甲2発明が、④変異しているFc領域を構成する二つのポリペプチドの配列が互いに異なる配列を有するものであることを認定しなかった。(イ) しかし、甲第2号証の段落【0128】には「2つの非同一のFc5 部分のヘテロ二量体であり得る」こと、段落【0207】には「本発明のポリペプチドは、異なる配列組成である少なくとも2つのFc部分を含むFc領域(すなわち、本明細書において「異種Fc領域」と称される)を含むことができる」ことが記載されている。また、段落【0485】では、いわゆる「Knob into Hole」の説明があり、これは「異種Fc領域」の具体的実施形態の1つが、その導入根拠と共に、説明されていることに他ならない。よって、甲2発明が「該変異しているFc領域を構成する二つのポリペプチドの配列が互いに異なる配列を有する」ことは甲第2号証に記載されており、相違点2は認められず、本件審決はこの点でも誤っている。(ウ) これに対し、被告は、甲第2号証に記載される「異種Fc領域」について、何らの技術的意義も記載されていないから、具体的な技術的思想として抽出できないなどと主張する。しかし、本件訂正発明において、Fc領域が互いに異なることの技術的意義など、どこにも記載されていない。特殊な調整をした場合にはKnob into Hole 変異として技術的意義を持ち得るが、Fc領域が互いに異なるなどということは、ほぼ特定の意義をなさないほどに広範な、発明特定事項のうちのごく一部の話である。仮に、本件訂正発明において、Fc領域が互いに異なるとの構成要素が認定できたとしても、Fc領域に変異を導入することは、その目的が安定化であるにせよ、Fcγ受容体に対する結合活性の低下であるにせよ、甲第2号証に明確に開示されている事項なのであるから、そのような実施形態の一例として必然的に「異種Fc領域」が想定できることはあまりにも明らかである。したがって、「異種Fc領域」の記載が抽象的であり、具体的な技術的思想が抽出できないなどということはあり得ない。5 ウ 被告主張の更なる相違点が存在しないこと(ア) 被告は、甲2発明には「癌抗原及びT細胞受容体複合体に結合する」「典型的なWhole IgG型の二重特異性抗体」が記載されていないと主張し、この点を更なる相違点(相違点A)として認定すべきであると主張する。(イ) しかしながら、甲第2号証には「典型的なWhole IgG型」の「抗体」が記載されている。甲第2号証の記載から明らかなように、甲2発明が主として技術的範囲に含むものは抗体である 。そして、完全長抗体などは抗体の最たる例であり、当業者が真っ先に想定するものであって、何ら特殊な実施形態ではない。したがって、甲 第2号証には、完全長抗体であるIgG型の抗体、すなわち被告が「典型的なWhole IgG型の」「抗体」などと表現する具体的な技術的思想が記載されていたことは明らかである。(ウ) そして、甲第2号証の段落【0391】及び【0392】には、「腫瘍細胞抗原に対する少なくとも1つのアーム、および細胞毒性誘引分子に対する少なくとも1つのアームを有する二重特異性の変化した結合タンパク質」として、CD3(T細胞受容体複合体の一部を構成する補助分子)と癌抗原に結合する二重特異性抗体が 、具体例により多数列挙されており、甲第2号証には「癌抗原及びT細胞受容体に結合する」「二重特異性抗体」が記載されている。甲第2号証のこれらの段落では、「癌抗原及びT細胞受容体複合体に結合する典型的なWhole IgG型の二重特異性抗体」が、むしろ主要な実施形態の1つとして、具体的に記載されているものである。(エ) したがって、被告が主張する更なる相違点は認められない。(2) 本件訂正発明1と甲2発明の相違点の認定(新規性があると判断したこと)の誤り5 ア 相違点1について本件審決は、本件訂正発明1と甲2発明の対比において相違点1を認定したが、このような相違点が存在しないことは、前記(1)アで説明した甲第2号証の記載から明らかである。よって、本件審決が本件訂正発明についてそのような誤った要旨認定に基づいて相違点1を認定したことは誤りである。なお、前記(1)ア(イ)で説明した甲第2号証の段落【0222】及び【0223】における記載に基づけば、仮に、本件訂正発明に関する本件審決の誤った要旨認定を前提としても、相違点1は存在しない。本件審決がこれを看過して本件訂正発明の新規性を認めたことは誤りである。イ 相違点2についてまた、本件審決は、相違点2も認定しているが、甲第2号証において、変異しているFc領域を構成する二つのポリペプチドの配列が互いに異なる配列を有する構成が示されていることは、前記(1)イで説明したとおりである。したがって、本件審決が相違点2を認定し、新規性を認めたことも誤りである。(3) 進歩性の判断の誤りア 仮に、本件審決の認定する相違点1が存在したとしても、以下に述べるとおり、本件訂正発明1は、甲2発明に基づき、甲第7号証等の副引例及び周知技術又は技術常識を踏まえ、当業者において相違点1に係る本件訂正発明1の構成を容易に想到することができた。これに対し、被告は、本件優先日当時のTR抗体を研究する当業者にとって、Fcγ受容体への結合を介したエフェクター機能がTR抗体における技術的特徴として不可欠なものとして認識されていたことは明らかであるなどと主張しているが、後記エ(ア)のとおり、本件優先日当時に5 おいて、被告が主張するような当業者における共通認識はなかった。したがって、相違点1について進歩性を認めた本件審決の認定は誤りである。イ 甲2発明に甲第7号証記載の発明を組み合わせる動機付けがあること(ア) 本件審決は、甲第7号証のTable1には、Fc受容体に対するヒトIgG1の結合部位が記載されており、表中に記載された結合定数によると、D265AはFcγ受容体への結合を低下させる変異であることが示されていることを認定しながら、甲第7号証のTable1には、Fcγ受容体への結合が低下するものだけではなく、Fcγ受容体への結合が増加するものや、一部のFcγ受容体にのみ作用するもの、FcRn結合のみに作用し、Fcγ受容体には作用しないものなど、様々な結合特性を有するアミノ酸変異が多岐にわたって記載されており、265位以外にも多数のアミノ酸位置が掲載されていることから、甲第7号証等に従って265位のアミノ酸に着目し、265位のアミノ酸をアラニンで置換することの動機付けがあることを認めなかった。(イ) しかし、本件審決が指摘する点は、甲第7号証の記載が多角的かつ詳細に記載されていることを意味するものであって、「低下したFcγR結合親和性」の達成という課題が明示された甲第2号証に記載された発明に触れた当業者が、当該課題に適した変異を甲第7号証の記載から見出して適用することを促進することはあっても、その逆は起こり得ない。さらにいえば、前記のとおり、甲第2号証の段落【0223】には、国際公表第WO00/42072A2(甲31の2)で示されているアミノ酸位置の変異によりFcγ受容体の結合活性が変化することが示されており、国際公表第WO00/42072A2(甲31の2)には、5 D265A変異がFcγ受容体に対する結合活性を低下させることが示されていた。したがって、甲第2号証の段落【0223】は、D265A変異がFcγ受容体に対する結合活性を低下させることを少なくとも示唆するものであるから、当業者であれば、かかる示唆を踏まえて、甲2発明に甲第7号証記載の発明(D265AはFcγ受容体への結合を低下させる変異であること)を組み合わせることを容易に想到できた。よって、甲第7号証に265位以外のアミノ酸変異の選択肢が複数列挙されているとしても、甲第2号証に接した当業者であれば、段落【0223】の記載等を踏まえて、265位のアミノ酸変異を容易に選択し得た。さらに、Fc領域におけるD265A変異は周知であり、2000年代に当業者によって検証されていたものであって、このことは、本件優先日前に公開された複数の論文に明確に示されている(甲40の段落20〜25)。したがって、Fc領域におけるD265A変異は、当業者にとって自明な手段であり、甲第7号証に示されるD265A変異を甲2発明に容易に導入することができた。(ウ) よって、仮に、相違点1があるとしても、甲2発明に甲第7号証記載の発明を組み合わせる動機付けは十分に存在し、当業者であれば、当該組み合わせにより本件訂正発明1(相違点1)を容易に想到できた。本件訂正発明1を容易に想到できないとした審決の判断は誤りである。ウ 周知技術又は技術常識を斟酌しても、甲第2号証に基づく進歩性の欠如が認められることまた、甲2発明に対して、甲第2号証の段落【0223】が言及する周知技術又はそれを含めた技術常識を組み合わせることでも、本件訂正発5 明1(相違点1)を容易に想到することができた。すなわち、甲第2号証の段落【0223】には、「エフェクタ機能の変化を与えることが周知の当技術分野において承認されている置換」という記載があり、その周知である置換として、国際公表第WO00/42072A2(甲31の2)で示されているFc領域のアミノ酸変異(D265A)が例示されていた。したがって、甲第2号証に接した当業者であれば、国際公表第WO00/42072A2(甲31の2)で示されているFc領域のアミノ酸変異(D265A)が周知の置換であると認識し、かつ同文献によりD265AによってFcγ受容体の結合活性が変化することが示されているわけであるから、これを周知の置換として導入し、本件訂正発明1の相違点1に係る構成を容易に想到できた。そして、アスパラギン酸(D)のような酸性アミノ酸を 、 ア ラ ニ ン(A)のような疎水性のアミノ酸に変異させることは、ポリペプチドの結合性を変化させるために行うタンパク質工学上の通常の技法(アラニンスキャニング)であることが、本件優先日当時知られていた(甲34)。したがって、甲2発明に対して、甲第2号証の段落【0223】で言及されていた周知技術又は技術常識を組み合わせることでも、本件訂正発明1の相違点1に係る構成を容易に想到することができた。よって、この点からも、本件訂正発明1を容易に想到できないとした審決の判断は誤りである。エ 被告の主張について(ア) 被告主張の技術常識について被告は、甲第12号証を引用して、「癌抗原及びT細胞受容体複合体に結合するWhole IgG型の二重特異性抗体」(すなわち、Whole IgG型のTR抗体)については、癌細胞の破壊を目的とするためにFc領域を介したエフェクター機能が重要だと考えられていたな5 どと主張する。そのうえで、被告は、エフェクター機能が重要である当該TR抗体を記載する甲第2号証の段落【0390】から【0392】までは、エフェクター機能を低下させる技術である甲2発明と整合するものではなく、当該段落の記載から「癌抗原及びT細胞受容体複合体に結合するWhole IgG型の二重特異性抗体」(Whole IgG型のTR抗体)である甲2発明を認定できないと主張する。しかしながら、「癌抗原及びT細胞受容体複合体に結合するWhole IgG型の二重特異性抗体」(Whole IgG型のTR抗体)であれば、必ずFc領域を介したエフェクター機能を利用しなければならないというわけではない。甲第2号証が公開される前から、抗CD3もしくは抗TCRモノクローナル抗体(mAb)と、抗標的細胞mAbを化学的に結合した二重特異性抗体を、T細胞に添加することにより、癌細胞とT細胞を架橋すると、抗CD3もしくは抗TCR部分自体がT細胞上のCD3やTCRと結合してT細胞を活性化し、その結果として架橋した癌細胞に対する高い抗癌活性が奏され得ることが、公知文献により示されていた(甲50、甲53、甲54等)。すなわち、二重特異性抗体は、Fc領域への結合を介したエフェクター機能を必ずしも利用せずとも、癌細胞とT細胞(エフェクター細胞)の架橋によって、その抗癌活性を奏し得ることが知られていたのである。実際に、Fc領域を欠くBiTEも二重特異性抗体の一種類であるが、これが「強い抗腫瘍効果を発揮すること」は本件明細書の段落【0005】及び【0006】で記載されているとおりである。また、Fc領域を欠くF(ab’)2が抗腫瘍特性を有することも確認されている(甲50、54)。 したがって、「癌抗原及びT細胞受容体複合体に結合するWhole IgG型の二重特異性抗体」(Whole IgG型のTR抗体)一般について、Fc領域を介するエフェクター機能の維持が抗腫瘍活性に重要5 だったという技術常識はなかったのであるから、エフェクター機能が低下している甲2発明の一態様として「癌抗原及びT細胞受容体複合体に結合するWhole IgG型の二重特異性抗体」が含まれ得ると当業者が考えることが本件優先日当時の技術常識と矛盾するわけではない。そして、当業者は、甲第2号証の段落【0390】から【0392】までの記載から、甲2発明の一態様として「癌抗原及びT細胞受容体複合体に結合するWhole IgG型の二重特異性抗体」が含まれると理解できた。さらに、このような「癌抗原及びT細胞受容体複合体に結合するWhole IgG型の二重特異性抗体」についても、本件優先日以前に、Fc領域におけるFcγ受容体への結合により発生する副作用や欠点が知られていた。かかる副作用や欠点の解決のために、当該抗体に対してFc領域により引き起こされるエフェクター機能低下を導入することが実際に想到され、さらには実際に作製された例は複数存在した。このことは、甲第48号証の段落52から54までにおいて、甲第51号証やその引用文献の記載も踏まえつつ説明されている。よって、被告主張の上記技術常識は存在しない。(イ) 甲第2号証の「安定化」の課題について被告は、甲第2号証の「安定化」という課題の観点からるる主張する が、甲2発明は、安定性のみならず、Fc領域を介するエ フ ェ クター機能の低下をも解決すべき課題とし、これを実現するFc領域内のアミノ酸変異を有する抗体を開示するものである。甲2発明と副引例等を組み合わせるための動機付けを考察するにおいては、「安定化」のみならずFc領域を介するエフェクター機能の低下という観点からも検討し得る。したがって、当業者が、Fcγ受容体への結合活性の低下のためのアミノ酸変異を有し、かつ「安定化」している甲2発明5 から出発し、甲第7号証や本件優先日当時の技術常識を当てはめて、同じくFcγ受容体への結合活性の低下のためにD265Aを有し、かつ「安定化」している本件訂正発明に至ることは、何ら妨げられていない。したがって、専ら「安定化」の観点から動機付けの有無を検討して、動機付けがないと結論付ける被告の主張は、誤りである。むしろ、甲第7号証や周知技術等は、甲2発明のFc領域を介したエフェクター機能を低下させるという課題の一つを解決するものであり、かつ当該課題の観点からみたときに、両者の技術分野は同一である上に、その作用・機能も同じといえるのであるから、両者を組み合わせる動機付けがあることは明らかである。(ウ) 多数のアミノ酸位置の掲載さらに、被告は、国際公表第WO00/42072A2(甲31の2)のTable6等を含む表には、Fcγ受容体への結合が低下するものだけではなく、Fcγ受容体への結合が増加するものや、一部のFcγ受容体にのみ作用するもの、FcRn結合のみに作用し、Fcγ受容体には作用しないものなど、様々な結合特性を有するアミノ酸変異が多岐にわたって記載されており、265位以外にも多数のアミノ酸位置が掲載されているのであって、D265A変異をこの多数の列挙から選択するような動機付けも存在しないなどと主張する。しかし、甲2発明にはFcγ受容体への結合活性を低下させることが記載されているのだから、そのような変異としてD265Aを採用するだけであり、他の結合活性を示す変異など関係がない。(4) 小括以上のとおり、本件審決は、甲2発明の認定、甲第2号証に基づく本件訂正発明1の新規性・進歩性に関する認定及び判断のいずれも誤っており、5 その結果として本件訂正発明1の新規性・進歩性の欠如を認めなかったことは誤りである。そして、本件訂正発明1についての認定及び判断が誤っていることは上述のとおりであるから、これを理由に本件訂正発明2から18まで、23から25まで及び27から70までについての新規性・進歩性の欠如を認めなかった本件審決の結論も誤りである。【被告の主張】(1) 甲2発明の認定についてア 原告の主張について原告は、本件審決が、甲2発明の認定において、①D265A変異及びこれによるFcγ受容体に対する結合活性低下に係る構成を認定していない点(相違点1)、②変異しているFc領域を構成する二つのポリペプチドの配列が互いに異なる配列を有するものであることを認定しなかった点(相違点2)で誤っていると主張している。しかし、原告の主張は、本件訂正発明の構成要件に合致するよう、甲第2号証の広範な記載の中に散らばる膨大な数の選択肢、更には引用文献外の内容から、都合の良い要素を拾い出して組み合わせることによって甲2発明を認定しようとするものであって、引用発明の認定として許されない、誤ったものである。甲第2号証には、原告が主張するような構成①、②を有する発明が記載されているとはいえない。それ以前に、本件審決は、原告側に極めて有利な認定を不適法に行った上で、それでも、本件訂正発明が甲第2号証に対して新規性及び進歩性を有すると判断したものである。後述するとおり、本件審決は、重要な相違点(相違点A)を認定しておらず、この相違点をも考慮すれば、本件訂正発明に新規性及び進歩性が認められることは一層明らかである。イ 甲第2号証には、相違点1は記載されていないこと5 (ア) 原告は、甲第2号証の段落【0269】以下において、Fc領域内の1以上のアミノ酸位置を変異させることによってポリペプチドを安定化することが記載されており、段落【0272】に記載されている変異の例示的な位置の中に265位が含まれていること、段落【0275】に当該変異がアラニンによる置換である実施形態の記載があることを挙げ、甲2発明において「IgG1のFc領域を構成するアミノ酸においてD265A変異が生じている」構成を採る形態が甲第2号証に記載されていることは明らかである旨主張する。しかし、原告は、上記段落のうち、ごく一部をあえて抜き出して恣意的に引用しているが、これらの記載全体を見れば、これが様々な選択肢を単に列挙しただけであり、技術的思想の構成としてD265A変異が具体的に開示されていないことは明白である。(イ) まず、甲第2号証の段落【0272】及び【0273】の記載では、265位の変異は、単に変異の候補となりうる35か所ものアミノ酸位置を並べて記載した包括表現の中に含まれるにすぎず、あえてこれを選択することの技術的意義は全く明らかでない。したがって、265位を変異箇所として積極的あるいは優先的に選択すべきことを甲第2号証から理解することはできない。むしろ、後続する記載(それでもなお、数多くの選択肢が列挙されている)では265位が明確に除外されていることからすれば、甲第2号証に接した当業者は、幅広く記載された変異位置の候補の中から265位を選択することについては消極的になるといえる。したがって、この記載に接した当業者が、甲2発明の構成として、265位を変異させるという具体的な技術的思想を読み取ることができないことは明らかである。(ウ) 加えて、変異の方法としてアラニンによる置換を選択することについても、甲第2号証の段落【0274】及び【0275】には、多種5 多様な変異方法、変異位置、置換アミノ酸が列挙されており、アラニンによる置換は、その多数の選択肢の中の一つにすぎない。 これらの記載からは、あえてアラニンによる置換を選択することの技術的意義は全く明らかでない。むしろ、段落【0275】においては、理論上考え得る選択肢が19通りであるのに対して、そのうちの3分の1近い6通りを単純列挙するものであり、各選択肢のうちのいずれを、どういう理由から優先的に選択すべきかについての何ら示唆もない。(エ) 以上の点を併せて考えれば、甲第2号証の段落【0272】の冒頭に抽象的に列挙された35か所のアミノ酸位置と、段落【0274】及び【0275】に列挙された様々な変異の組み合わせが採りうる構成は膨大なものであるところ、当業者は、その中から特に、「265位」を「アラニンで置換する」という組み合わせを選び出し、D265A変異に係る具体的な構成を採用すべき理由を甲第2号証から読み取ることはできない。したがって、IgG1のFc領域を構成するアミノ酸においてD265A変異が生じていることは、甲第2号証には記載されていない。ウ 甲第2号証には、相違点2に係る構成は記載されていないこと原告は、本件審決が、甲2発明について相違点2に係る構成を有するものとして認定しなかった点でも誤っていると述べているが、失当である。甲第2号証の段落【0128】には「2つの非同一のFc部分のヘテロ二量体であり得る」こと、段落【0207】には「本発明のポリペプチドは、異なる配列組成である少なくとも2つのFc部分を含むFc領域(すなわち、本明細書において『異種Fc領域』と称される)を含むことができる」と記載されているにすぎず、当該構成とすることの技術的意義について甲第2号証には何の説明も存在しない。それゆえ、当該構成を備えた発明を、甲第2号証の記載から具体的な技術的思想として抽5 出できるものではない。エ 本件審決が看過した相違点Aも存在すること以上のとおり、本件審決の相違点1及び2の認定は概ね正しく、原告の主張に理由がないことは明らかである(ただし、甲2において「297D」が安定化アミノ酸変異であることは開示されていないから、本件審決が、相違点1において、甲2発明として「297D変異」を認定しているのは誤りである。)。もっとも、本件審決は、相違点1及び2以外の部分について具体的な技術的思想を十分に検討することなく、一般的かつ抽象的な記載を基に引用発明の認定を行った結果、重大な相違点を看過している。そのため、引用発明の認定及び対比において、非常に原告に有利な認定となっている。具体的にいえば、本件審決は、誤って過剰に一致点を認定しており、一致点で認定した(e)の構成は甲第2号証に開示されていない。すなわち、本件審決は、甲2発明として、「腫瘍細胞抗原に対する少なくとも1つのアーム、および細胞毒性誘引分子に対する少なくとも1つのアームを有する二重特異性結合抗体である、安定化ポリペプチド」を認定した上で、この部分を、本件訂正発明の「癌抗原結合ドメインを構成する一価の Fab の重鎖 Fv 断片が CHl 領域を介して Fc 領域を構成する一方のポリペプチドに連結され、当該 Fab の軽鎖 Fv 断片が CL 領域と連結され、T細胞受容体複合体結合ドメインを構成する Fab の重鎖 Fv 断片が CHl 領域を介して Fc 領域を構成する他方のポリペプチドに連結され、当該 Fab の軽鎖 Fv 断片が CL 領域と連結された、ポリペプチド会合体」との一致点としている。しかし、甲第2号証は、具体的な技術的思想として、かかる構成を備えた発明を開示しておらず、この点に関する審決の認定は誤りである。5 何らの構造上の限定もない「ポリペプチド」は上位概念であり、これをもって下位概念である特定の構成の「ポリペプチド会合体」に該当するとしていることのみからして、誤りであることが明白である。甲第2号証では、「(結合)ポリペプチド」については、単に、「標的分子と特異的に結合する少なくとも1つの標的結合部位または結合ドメインを含むポリペプチド」という意味で用いられており(【0146】)、また、その形態には、同段落に記載されるように、様々な形態のものが含まれる。これに対して、本件訂正発明1の「(1)癌抗原結合ドメイン(ただし癌抗原はCD3ではない)及び(3)T細胞受容体複合体結合ドメインを含むポリペプチド会合体であって、癌抗原結合ドメイン、及び、T細胞受容体複合体結合ドメインは各々一価のFabであり、癌抗原結合ドメインを構成するFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域を構成する一方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結され、T細胞受容体複合体結合ドメインを構成するFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域を構成する他方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結された、ポリペプチド会合体」は、ポリペプチドの特定の構造(すなわち、典型的なWhole IgG型の二重特異性抗体)を規定したものであり、明らかに、ポリペプチドの下位概念である。この点について、本件審決は、甲第2号証の請求項42を引用して、「完全長抗体二重特異性結合抗体」が記載されていると述べているが、誤りである。請求項42には、「安定化完全長抗体である、請求項39に記載の安定化ポリペプチド。」と記載されているが、これは、単に請求項に抽象的な記載がされたにすぎず、それ以上の何らの具体的な技術も開示されていない。これをもって具体的技術的思想の開示と見ることはできない。また、請求項42にも、あるいはその他の請求項にすら、「二重5 特異性結合抗体」は、全く記載されていない。ここにそのような技術的思想は記載されていないからこそ、本件審決も、甲2発明として、「完全長抗体二重特異性結合抗体」は認定できず、「ポリペプチド」との認定しかできなかったものである。このように、上位概念しか読み取れないにもかかわらず、下位概念との一致を認定しているのは、明らかに誤りである。そして、甲第2号証の段落【0390】から【0392】までには、極めて多数の「多特異性結合ポリペプチド」が抽象的に例示列挙されているのみであり、ここには、抗原含め、具体的な技術思想としての発明の開示はないから、ここから「癌抗原及び T 細胞受容体複合体に結合するWhole IgG型の二重特異性抗体」を認定することはできない。したがって、本件訂正発明と甲第2号証との間には、以下の相違点Aが存在する(同相違点を踏まえて正しく認定されたものを、以下「甲第2号証に記載された発明」という。)。<相違点A>本件訂正発明1では、「(1)癌抗原結合ドメイン及び(3)T細胞受容体複合体結合ドメインを含むポリペプチド会合体であって、T細胞受容体複合体結合ドメインがFabであり、癌抗原結合ドメインを構成する一価のFabの重鎖Fv断片がCHl領域を介してFc領域を構成する一方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結され、T細胞受容体複合体結合ドメインを構成するFabの重鎖Fv断片がCHl領域を介してFc領域を構成する他方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結された、ポリペプチド会合体」であるのに対し、甲2発明はそのような構成を有しない点。オ 二重特異性のT細胞リクルート抗体に関する技術常識甲第2号証に記載された発明の認定に関して重要なのは、本件特許出願5 時には、癌を治療することを目的とする二重特異性のT細胞リクルート抗体(TR抗体)が開発されていたが、このような抗体においては、Fcγ受容体への結合を介したエフェクター機能が重要であることが技術常識であったことである。すなわち、TR抗体は、「T細胞リクルート」という文字どおり、がん細胞と免疫細胞であるT細胞のそれぞれに結合し、がん細胞に免疫細胞を動員させる(リクルートする)ことによって免疫の力でがん細胞を駆逐しようとするものである。本件特許出願時には、TR抗体の技術分野では、抗体のFc領域がFcγ受容体に結合することが積極的に活用されていた。このことは例えば甲第12号証(〔乙2〕)や、甲第7号証及び甲第31号証の1によっても明らかである。標的細胞の破壊には、エフェクター機能の低下ではなく、エフェクター機能の増強が必要であることが様々な文献により明らかにされており、この技術分野における技術常識を形成していたものと考えられる。これを前提に、後記の進歩性についても検討すべきである。なお、このことは、甲第2号証自体からも裏付けられている。すなわち、甲第2号証の段落【0230】には、「低下したFcγR結合親和性を有するFcポリペプチドは、エフェクタ機能を低下させることが見込まれ、そのような分子も、標的細胞破壊が望ましくない状態、例えば、正常細胞が標的分子を発現する場合、またはポリペプチドの慢性投与によって好ましくない免疫系活性化が引き起こされる可能性がある場合の治療に有用である。」と記載されているが、この記載は、低下したFcγR結合親和性を有し、エフェクター機能を低下させた分子は、TR細胞のように標的細胞破壊を行うのではなく、「標的細胞破壊が望ましくない」場合に有用であるとしたものである。これは、TR細胞のように標的細胞破壊を行う場合には、高いFcγR結合親和性や、エフェクター機能が必要であることを前提としたものである。5 付言するに、このようなTR抗体は、Trifunctional antibody(三機能性抗体、三官能性抗体)とも呼ばれていたことが、甲第12号証を含む多数の文献に記載されている技術常識である。三機能性とはすなわち、①がん抗原(がん細胞)に結合する機能、②CD3(T細胞)に結合する機能、③Fc領域を介したエフェクター機能、の3つの機能を持つという意味である。つまり、Trifunctional antibody という技術呼称のみから考えても、本件優先日当時のTR抗体を研究する当業者にとって、Fc領域を介したエフェクター機能がTR抗体における技術的特徴として不可欠なものと認識されていたことは明らかである。このように、腫瘍細胞などの標的細胞破壊に用いるTR抗体にとって、エフェクタ ー機能が重要であることは、本件 優先日当時 の技術常識であった。なお、当然ながら、「癌抗原及び T 細胞受容体複合体に結合するWhole IgG型の二重特異性抗体」もTR抗体であり、エフェクター機能が重要と認識されていた。(2) 甲第2号証に記載された発明に基づく新規性欠如の主張について以上のとおり、本件訂正発明1と甲2発明との間には上記相違点1、相違点2及び相違点Aが存在するから、本件訂正発明1は、甲第2号証に記載された発明とはいえない。また、本件訂正発明2から18まで、27から40までは、いずれも本件訂正発明1を直接的又は間接的に引用するものであるから、本件訂正発明1と同様の理由により、甲第2号証に記載された発明とはいえない。同様に、独立請求項である本件訂正発明23、24、41、53、65並びにこれらの発明を直接的又は間接的に引用する本件訂正発明25、42から52まで、54から64まで、66から70までは、いずれも、甲第2号証に記載された発明との間に、少なくとも本件訂正発明1と同5 様に上記相違点1、相違点2及び相違点Aが存在するから、本件訂正発明1に対するものと同様の理由により、甲第2号証に記載された発明とはいえない。よって、原告の甲第2号証に記載された発明に基づく新規性欠如の主張も失当である。(3) 甲2発明に基づく進歩性欠如の主張についてア 甲第2号証及び甲第7号証に基づく進歩性判断について(ア) 本件審決が正しく認定したように、甲第2号証に甲第7号証を組み合わせる動機付けは全く存在していない。すなわち、甲第7号証(特にTable1)には、Fcγ受容体への結合が低下するものだけではなく、Fcγ受容体への結合が増加するものや、⼀部のFcγ受容体にのみ作用するもの、FcRn結合のみに作用し、Fcγ受容体には作用しないものなど、様々な結合特性を有するアミノ酸変異が多岐にわたって記載されているものであり、265位以外にも多数のアミノ酸位置が掲載されている。当業者は、これらの中から、D265Aをピックアップして、これを甲第2号証に組み合わせることはできない。さらに、本件審決が指摘するとおり、甲第2号証と甲第7号証の記載は互いに食い違っており、整合していないから、この点からも、当業者がこれらの文献を組み合わせる動機付けはない。(イ) さらに、課題の観点からしても、動機付けが存在し得ないことは明らかである。前記のとおり、甲第2号証に記載された発明の課題は、エフェクター機能の低下のためにFc領域からのオリゴ糖を除去したり、IgG4のFc領域を用いたりすると、抗体の安定性が損失又は低下するという問題を解決するために、変更された、もしくは低下したエフェクター機能、及び改善された安定性を有する、改善された抗体を提供することである。5 甲第2号証では、当該発明課題を前提とした上で、発明構成の一要件として、IgG1抗体のFc領域にT299K変異を導入することによって、非グリコシル化を達成してエフェクター機能を低下させると共に、改善された安定性を有する抗体が得られている。ここで、甲第2号証に記載された発明は、安定性の改善に焦点を当てて成された発明であることは、甲第2号証の発明の詳細な説明及び実施例に基づけば明らかであり、甲2発明に甲第7号証を組み合わせることの可否を判断する際には、甲第7号証に記載されるアミノ酸変異が安定性について検討されたものであるかどうかを考慮する必要がある。しかしながら、甲第7号証には、安定性の観点から評価したデータは一切開示されていない。そのため、甲第7号証のTable1に記載されるD265A変異について検討する以前に、そもそも甲第7号証を甲2発明に組み合わせる動機付けが一切存在しないのである。(ウ) また、甲第2号証に記載された発明におけるT299K変異は、すでに非グリコシル化によって低下したエフェクター機能を有しているため、さらにD265Aのようなエフェクター機能を低下させる変異を導入する動機付けも何ら存在しない。甲第2号証は、あくまでも、非グリコシル化によって低下したエフェクター機能を有する抗体が不安定であることに基づいて、抗体を安定化させることを課題としているからである。したがって、この観点からしても、甲第2号証に甲第7号証を組み合わせる動機付けは存在しない。(エ) 加えて、甲第7号証は、他の相違点2及び相違点Aに関する不足を何ら補うものではない。(オ) したがって、本件訂正発明は、甲第2号証及び甲第7号証に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。イ 甲第2号証及び周知技術又は技術常識に基づく進歩性判断について5 (ア) 原告は、本件訂正発明1について、甲第2号証、及び甲第2号証の段落【0223】が言及する周知技術又はそれを含めた技術常識に基づき当業者が容易に発明をすることができたと主張しているが、前記のとおり、甲第2号証に記載された発明は、「改善された安定性」を提供することを課題とし、安定性に着目したものであり、甲第2号証の段落【0223】で言及されている国際公表第WO00/42072A2(甲31の2)には、安定性の観点から評価したデータは一切開示されていないから、甲第31号証の2に記載される発明を安定性の改善を目的とする甲第2号証に記載された発明に適用するための動機付けは存在しない。(イ) また、国際公表第WO00/42072A2(甲31の2)のTable6等を含む表には、Fcγ受容体への結合が低下するものだけではなく、Fcγ受容体への結合が増加するものや、一部のFcγ受容体にのみ作用するもの、FcRn結合のみに作用し、Fcγ受容体には作用しないものなど、様々な結合特性を有するアミノ酸変異が多岐にわたって記載されており、265位以外にも多数のアミノ酸位置が掲載されているのであって、D265A変異をこの多数の列挙から選択するような動機付けも存在しない。(ウ) そうすると、甲第2号証に記載された発明のFc領域において、特に甲第31号証の2のTable6にある265位のアミノ酸に着目し、265位のアミノ酸をアラニンで置換することを当業者に動機付けるものであるとは認められない。(エ) 加えて、甲第7号証や甲第31号証の2は、相違点2及び相違点Aに関する不足を何ら補うものではない。(オ) その上、Whole IgG型TR抗体におけるFcγR陽性細胞への結合が抗腫瘍効果の十分な発揮に必須であることを指摘する甲第15 2号証に鑑みれば、D265AのようなFcγRへの結合能を顕著に低下させる変異を、Whole IgG型TR抗体に導入することが甲第2号証から動機付けられたということはできないし、多数記載されたFcγRへの結合能を低下させる変異(結合能の低下の程度の異なる様々な変異が存在する)の中から、FcγRへの結合能を顕著に低下させるD265Aを選択できた事情があったということもできない。(カ) したがって、本件訂正発明1は、甲第2号証に記載された発明と副引例及び本件優先日の技術水準に基づいて当業者が容易に想到できたものであるとはいえない。ウ 本件審決における甲2発明の認定を前提にしても、本件訂正発明は進歩性を有すること以上のア及びイで主張したことは、仮に本件審決における甲2発明の認定を前提としても同様にいえることである。すなわち、本件審決における甲2発明の認定によっても相違点1が認められるが、多数記載されたFcγRへの結合能を低下させる変異(結合能の低下の程度の異なる様々な変異が存在する。)の中から、相違点1に係るFcγRへの結合能を顕著に低下させるD265Aを選択できた事情があったということができず、本件訂正発明に甲第2号証、甲第7号証、甲第31号証の2から容易に想到し得たということはできない。エ 小括以上のとおり、本件訂正発明1は、甲第2号証に記載された発明と、甲第2号証、甲第7号証、甲第31号証の2(原告が主張する周知技術)及び本件優先日の技術水準から、当業者が容易に発明をすることができたものであったということはできない。また、本件訂正発明2から18まで、27から40までは、いずれも本件訂正発明1を直接的又は間接的に引用するものであるから、本件訂5 正発明1と同様の理由により、甲第2号証に記載された発明と、甲第2号証、甲第7号証、甲第31号証の2(原告が主張する周知技術)及び本件優先日の技術常識に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであったということはできない。また、独立請求項である本件訂正発明23、24、41、53、65並びにこれらの発明を直接的又は間接的に引用する本件訂正発明25、42から52まで、54から64まで、66から70までは、いずれも、甲第2号証に記載された発明との間に、本件訂正発明1と同様に上記相違点1、相違点2及び相違点Aを有するものであるから、本件訂正発明1に対するものと同様の理由により、甲第2号証に記載された発明と、甲第2号証、甲第7号証、甲第31号証の2(原告が主張する周知技術)及び本件優先日の技術常識に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであったということはできない。以上に述べたとおり、取消事由1(甲2に基づく進歩性欠如)は理由がない。2 取消事由2(甲10に基づく新規性・進歩性欠如に係る認定・判断の誤り)について【原告の主張】(1) 本件審決は、甲10発明と本件訂正発明1の間において、D265A変異に係る相違点3を認定したが、甲第10号証(訳文)の段落【0744】に「抗体は、Fc領域で修飾されて、所望のエフェクター機能を提供し得る。本明細書中の節で詳細に考察されているように、①適切なFc領域を用いて、細胞表面に結合された裸抗体は、例えば抗体依存性細胞性細胞傷害性(ADCC)を介して、または補体依存性細胞傷害性において補体を動員することにより、または他のいくつかの機序により、細胞傷害性を誘導し得る。②代替的には、副作用または治療的合併症を最小限にするために、エフェクター5 機能を排除するかまたは低減することが望ましい場合、ある種の他のFc領域が用いられ得る。」(下線、①及び②の付番は原告による。)と示唆されていることからすれば、甲第10号証に甲第2号証及び甲第7号証の記載並びに甲第31号証の1及び2に記載された周知技術又は技術常識を適用し、エフェクター機能を排除するためにFcγR結合親和性を低下させるものとしてD265A変異を導入することは、甲第10号証に記載されているに等しいか、容易に想到することができた事項といえる。すなわち、文面を読めば明らかなように、上記の①は、抗体依存性細胞性細胞傷害性(ADCC)を介して、又は補体依存性細胞傷害性において補体を動員することにより、又は他のいくつかの機序により、細胞傷害性を誘導する場合の話であって、②がこれと異なる話をしているとしても、細胞傷害性を誘導しない場合の話であるということにはならない。②にはこのようなエフェクター機能に関連しない機序で細胞傷害性を誘導する場合も当然に含まれ、すなわちTR抗体一般がこれに該当する。そして、この場合に、技術常識として知られていたD265Aを「エフェクター機能を排除するかまたは低減する」ために導入すればよいだけである。さらに、甲第10号証の段落【0084】には「例えば典型的な修飾としては、別のアミノ酸残基による当該残基(または上記位置)の置換(例えば保存的または非保存的置換)…が挙げられる。一般的には、そして好ましくは、修飾は、出発(または「野生型」)アミノ酸配列を含むポリペプチドと比較して、変異体ポリペプチドの少なくとも1つの物理生物化学的活性における変更を生じる。例えば抗体の場合、変更される物理生物化学的活性は、結合親和性、結合能力および/または標的分子に及ぼす結合作用であり得る。」とあって、段落【0744】とあわせてアミノ酸置換によるエフェクター機能の低下を読み取れる。それが二重特異性抗体にも適用されることは「一実施形態では、二重特異性抗体は、1つ以上のFcエフェクター機能を5 欠く。」(【0050】)とあるとおりである。むしろ、二重特異性TR抗体にフォーカスする同段落には、エフェクター機能の増強など一切記載されていない。他にも甲第10号証の段落【0651】は、「特に、グリコシル化およびFcエフェクター機能が必要とされない場合、例えば、治療用抗体が細胞傷害性物質(例えば、毒素)と接合され、免疫接合体それ自体が腫瘍細胞崩壊において有効性を示す場合」と説明し、TR抗体が、一方のアームにおいて細胞傷害性T細胞と結合したものであることを考えれば、まさに「治療用抗体が細胞傷害性物質と接合され、免疫接合体それ自体が腫瘍細胞崩壊において有効性を示す場合」に該当するのだから、TR抗体が「Fcエフェクター機能が必要とされない場合」であることは明確に記載されている。ここで、細胞傷害性T細胞は、一般的には毒素と分類されるものではないが、毒素はあくまで腫瘍細胞を攻撃する物質の例示にすぎず、腫瘍細胞を攻撃する細胞傷害性T細胞を除外したものでないことはいうまでもない。甲第10号証の段落【0865】の実施例2から段落【0936】の実施例13までには、多数の抗FcRH5抗体薬剤接合体の試験例が記載されているところ、その途中に現れる段落【0920】の実施例11の「抗CD3/FcRH5二重特異性抗体」には薬剤は接合されていない。このことからも、TR抗体における細胞傷害性T細胞が、抗体薬剤接合体における薬剤(すなわち毒素)に相当するものであることは自明である。甲第10号証では、実施例11で唯一二重特異性抗体が作製されており、これは本件審決が、「実施例11では、その製造方法からみて、ヒト化抗体である、抗CD3/FcRH5二重特異性抗体の製造方法が記載されている。」、「甲10発明におけるFcRH5は、甲10bの【0007】~【0

011】からみて、骨髄腫等の癌細胞の表面で特異的に発現する細胞表面受容体であると認められる」と述べるとおり、TR抗体である(それゆえに被5 告は相違点Aを甲10について主張していないのである。)。してみれば、甲第10号証において、二重特異性抗体とは、TR抗体が基本的には想起されていたものであり、上記の甲第10号証の記載も踏まえると、このような二重特異性TR抗体にアミノ酸置換によるエフェクター機能の低下を導入することも明確に記載されていたということができる。実際、実施例11では、アミノ酸変異の手法ではないものの、「二重特異性抗CD3/FcRH5抗体は、当該技術分野で知られている方法を用いて、上記のような大腸菌発現プラスミドを、適切な大腸菌株、例えば33B6中で形質転換することにより産生される」(甲10【0924】)とあるとおり、大腸菌内で抗体を発現させていることから、特にエフェクター機能が必要とされない場合の実施例を示すと解釈される。したがって、甲第10号証に記載されるエフェクター機能の低下の一環として、「C1q結合および補体依存性細胞傷害性」の低下を実現するために、甲第10号証のガイダンスに従って甲第52号証記載のD265A変異を導入すれば足り、D265A変異を導入することは、甲第10号証に記載されているに等しいか、容易に想到することができた事項といえる。(2) また、本件審決は、相違点4として、「本件訂正発明1では、『該変異しているFc領域を構成する二つのポリペプチドの配列が互いに異なる配列を有する』のに対し、甲10発明では、上記のような特定がされていない点。」と認定したが、甲第10号証の段落【0423】には「ヘテロ接合体抗体も、本発明の範囲内である」ことが記載されているから、本件審決は相違点4を誤って認定したものであり、かかる相違点は存在しない。なお、被告は、甲第10号証の段落【0423】の上記記載だけでは、Fc領域が互いに異なるとの具体的な技術的思想を見出せないと主張するが、甲第10号証でも Knob into Hole は開示されており、「ヘテロ多量体形成を行なうために用いる戦術は、第一ポリペプチド、例えば抗体H鎖のCH3ド5 メイン中に1つ以上の『隆起』を導入すること、そしてさらにまた、第二ポリペプチド、例えば第二抗体H鎖のCH3ドメイン中に1つ以上の対応する『空洞』を導入することに頼っている。『隆起』突然変異は、小アミノ酸をより大きいものに置き換え、そして『空洞』突然変異は、大型アミノ酸をより小さいもので置き換えた。」(【0922】)と記載されるとおりである。これがごくごく抽象的な記載であるはずがない。(3) したがって、本件審決は、本件訂正発明1について甲第10号証に基づく新規性・進歩性に関する認定及び判断のいずれも誤っており、これを理由に本件訂正発明1の新規性・進歩性の欠如を認めなかった審決の結論は誤りである。そして、本件審決は、本件訂正発明2から18まで、23から25まで及び27から70までについても、本件訂正発明1と同じ理由により新規性・進歩性の欠如を認めなかった。しかしながら、本件訂正発明1についての認定及び判断が誤っていることは上述のとおりであるから、これを理由に本件訂正発明2から18まで、23から25まで及び27から70までについての新規性・進歩性の欠如を認めなかった審決の結論も誤りである。【被告の主張】(1) 原告は、D265A変異に係る審決の相違点3について、甲第10号証の【0744】に「抗体は、Fc領域で修飾されて、所望のエフェクター機能を提供し得る。本明細書中の節で詳細に考察されているように、①適切なFc領域を用いて、細胞表面に結合された裸抗体は、例えば抗体依存性細胞性細胞傷害性(ADCC)を介して、または補体依存性細胞傷害性において補体を動員することにより、または他のいくつかの機序により、細胞傷害性を誘導し得る。②代替的には、副作用または治療的合併症を最小限にするために、エフェクター機能を排除するかまたは低減することが望ましい場合、ある種の他のFc領域が用いられ得る。」(下線、①及び②の付番は被告によ5 る。)との記載があり、この②の部分に示唆があるから、これに周知技術又は技術常識を適用して、D265A変異に係る相違点に想到し得たと主張する。(2) しかし、そもそも、上記段落【0744】には、Fc領域内の265位のアスパラギン酸(D)をアラニン(A)に変異させることの示唆など全くない。ここでは、「代替的には…ある種の他のFc領域が用いられ得る」として、「適切なFc領域」を「ある種の他のFc領域」に替えることが抽象的に記載されているだけである。その内の265位のアスパラギン酸(D)を選択してアラニン(A)に変異させることの示唆など、全く存在しない。上述したように、D265A変異は、FcγRへの結合能を顕著に低下させる変異であるが、そのような変異を採用することの動機付けは甲第2号証及び甲第10号証のどこにも見出すことができない。(3) また、甲第10号証において、アミノ酸置換をエフェクター機能に関連付けた記載は段落【0425】のみであるが、そこでは確かに、エフェクター機能操作を行う方法として、アミノ酸置換を導入することが記載されているものの、当該段落では、「抗源依存性細胞媒介性細胞傷害性(ADCC)および/または補体依存性細胞傷害性(CDC)を増強するため」(当裁判所注:甲第10号証の対応日本語文献である「特表2012-522512号公報」では、「抗源依存性細胞媒介性細胞傷害性(ADCC)」と記載されているが、「抗体依存性細胞媒介性細胞傷害性(ADCC)」の誤りである。)にアミノ酸置換を行うのであり、エフェクター機能を低下させるためにアミノ酸置換を行うのではない。また、エフェクター機能を低下させるためのアミノ酸置換については、甲第10号証には記載も示唆も一切存在しない。ましてや、265位のアスパラギン酸(D)をアラニン(A)に変異させることの示唆など、全く存在しない。甲第10号証には、エフェクター機能を低下させるためのアミノ酸置換は全く記載されていないのであるから、甲第75 号証等の他の文献とを組み合わせる動機付けは一切存在しない。(4) さらに、相違点3に関しては、本件審決でも判断されているように、①甲第1号証から甲第7号証までに、抗体のFc領域にアミノ酸変異を導入することでエフェクター機能を減少させることが記載されているが、Fc領域の特に265位のアミノ酸に着目し、265位のアミノ酸をアラニンで置換することを当業者に動機付ける記載や示唆は見当たらず、②甲第8号証及び甲第9号証には、抗体のFc領域にアミノ酸変異を導入することで、エフェクター機能を減少させることに関する記載はないから、甲第1号証から甲第10号証の記載及び本件優先日の技術常識を参酌しても、甲第10号証において示唆に止まる、グリコシル化の標的として役立つアミノ酸残基をコードするコドンの突然変異置換による方法を、甲10発明で敢えて採用し、さらに、この方法の採用を前提に、甲10発明のFc領域を構成するアミノ酸の265位のアスパラギン酸をアラニンに変異させることを当業者が動機付けられるとは認められない。(5) 加えて、前記段落【0744】の記載からして、甲第10号証を出発点にして本件訂正発明に至るに阻害事由があることが明白である。すなわち、原告が依拠する前記②の記載は、「代替的には」(Alternatively)と明示されていることから明らかなとおり、前記①の「細胞傷害性を誘導」する技術とは異なる技術に関する記載である。ここで、本件訂正発明は、癌細胞を傷害する技術を規定したものであるから、まさに、「細胞傷害性を誘導」するものであり、そのような技術については、①でFc領域の機能を積極的に用いるべきことが記載されている。このように、甲第10号証では、本件訂正発明のように「細胞傷害性を誘導」する場合には、Fc領域を積極的に活用すべきことが記載されているのであり、Fc領域の活性を下げることにはむしろ阻害事由があるし、少なくとも、そのような示唆など存在しない。なお、甲第10号証の段落【0651】には、「グリコシル化およびFc5 エフェクター機能が必要とされない場合」の例として、「例えば、治療用抗体が細胞傷害性物質(例えば、毒素)と接合され、免疫接合体それ自体が腫瘍細胞崩壊において有効性を示す場合」とあるが、これは明らかにTR抗体と異なる技術を対象としたものである。(6) また、相違点4(本件訂正発明1では、『該変異しているFc領域を構成する二つのポリペプチドの配列が互いに異なる配列を有する』のに対し、甲10発明では、上記のような特定がされていない点)についても、原告は、何ら実質的な議論はできておらず、単に、甲第10号証の段落【0423】には「ヘテロ接合体抗体も、本発明の範囲内である」との記載があると述べるのみである。このようなごくごく抽象的な記載から「具体的な技術的思想」を認定することはできないことは明らかである。(7) したがって、取消事由2が認められる余地はない。3 取消事由3(サポート要件違反に係る判断の誤り)について【原告の主張】(1) アミノ酸変異について仮に、甲第2号証と甲第7号証を組み合わせることができず、かつ、前記の技術常識又は周知技術が認められないのであれば、本件訂正発明はサポート要件に違反する。すなわち、原告(審判参加人)は、本件審判において、無効理由5として、全ての請求項に関してサポート要件違反を主張し、特に265位のアミノ酸の変異を発明構成要件として含む請求項に関して、「実施例には、ポリペプチドが、IgG1抗体のFc領域(配列番号:23)を有するポリペプチド会合体と比較して、Fcγ受容体に対する結合活性が低下したことを示すデータも全く記載されていない」ことを指摘して、Fcγ受容体に対する結合活性が低下するのか当業者は理解できないと主張した(無効理由5-2)。本件審決は、この主張を排斥したものの、何らかの実験データを示す5 ものでもなく、本件明細書に記されている変異の好ましい態様の記載を抜き出すと共に、D265A変異については、唯一の実験データの裏付けとして甲第7号証のTable1を指摘したにすぎなかった。しかし、①甲第7号証のTable1には、Fcγ受容体への結合が低下するものだけではなく、Fcγ受容体への結合が増加するものや、一部のFcγ受容体にのみ作用するもの、FcRn結合のみに作用し、Fcγ受容体には作用しないものなど、様々な結合特性を有するアミノ酸変異が多岐にわたって記載されているものであり、265位以外にも多数のアミノ酸位置が掲載されている。また、②本件明細書の段落【0130】に記載のある237位、330位の変異は、甲第7号証のTable1には記載がない。さらに、③本件明細書の段落【0125】に267位の変異の記載があるところ、甲第7号証のTable1ではS267Aにより、記載されているすべてのFcγ受容体に対して結合活性の平均値が1を上回ると記載されている(本件訂正発明は、各請求項の記載上、変異を含まない配列との比較において結合活性が低下していることを発明特定事項としている。)。したがって、本件審決の新規性・進歩性の判断に仮に従うのならば、それぞれの文献のFcγ受容体への結合性は判断手法が異なっていると認定されるべきであり、2つの文献の記載を併せて考慮することはできないはずである。このように、本件審決は、周知技術又は技術常識を示す証拠の内容を、新規性・進歩性とサポート要件との間で矛盾する認定を行っている。したがって、本件審決は、サポート要件を満たすと判断した点において誤っていることは明白である。換言すれば、本件訂正発明は、サポートを欠いているか(新規性及び進歩性が認められる場合)、又は新規性及び進歩性を欠いている(サポートが認められる場合)。(2) 抗腫瘍活性についてア 原告は、本件審判において、①本件訂正発明1の(a)及び(b)の会5 合体に対し、癌抗原結合ドメインがGPC3以外(Ep-CAM及びEGFR)の場合についてBiTEとの抗腫瘍活性の比較がされていない上に、むしろ他の実験データから推察するにBiTEより抗腫瘍活性が劣るものと考えられること、②本件訂正発明1の(c)及び(d)の会合体は一切の抗腫瘍活性のデータがなく、(e)の会合体は単独の抗腫瘍活性のデータしかなく、BiTEとの比較がなされていないことを主張したものの(無効理由5-1)、本件審決は、本件訂正発明が、BiTEが持つ強い抗腫瘍活性を有するとの課題を解決できると認識できる範囲のものであり、サポート要件を満たすと認定した。そして、本件審決は、上記①について、実施例7の実験は会合体の構成による腫瘍活性の差異のみに着目したデータとして、「癌結合ドメイン」が実施例7以外のEp-CAM及びEGFR含めその他の癌結合ドメインである場合全体にも一般化できるとし、実施例7により、本件訂正発明の(a)及び(b)の会合体全体が、BiTEが持つ強い抗腫瘍活性を有するものであると認めることができるとした。しかし、そのような論理では、以下の事象を説明できない。まず、本件明細書の図20においては、GPC3の会合体(a)は会合体(b)を抗体濃度0.01nMにおいて大きく上回る抗腫瘍活性を見出している。しかし、本件明細書の図23においては、EpCAMの会合体(a)は、会合体(b)と抗腫瘍活性が抗体濃度0.01nMにおいてほとんど変わらない。有意なものかはともかくとして、むしろ上下は逆になっている。本件審決の論理を借りれば、図20は「癌結合ドメイン」及び「T細胞受容体複合体結合ドメイン」を揃えることで会合体の構成による差異のみを抽出したデータといえるはずであるから、当然図23においても「癌結合ドメイン」及び「T細胞受容体複合体結合ドメイン」が揃っている以上、同様の結果が得られるはずである。このように、ある5 癌結合ドメインにおける会合体ごとの抗腫瘍活性の並びが、その他の癌結合ドメイン(本件訂正発明は癌結合ドメインについて限定を付していない。)の場合においても維持されるなどという予測は、本件明細書の記載それ自体から否定されているし、いかなる癌結合ドメインにおいても会合体ごとの抗腫瘍活性の並びが同一であるとの技術常識が背景にあるわけでもない。イ 次に、前記ア②については、本件審決は、「上記実施例3及び7によれば、IgGを基本骨格とした各種会合体がBiTEが持つ強い細胞傷害活性(抗腫瘍活性)を有することが認められるから、同じくIgGを基本骨格とする、本件訂正発明1の(c)、(d)及び(e)の会合体も同様に、BiTEが持つ強い抗腫瘍活性を有することが優に推測される。」と述べる。しかしながら、そもそも、BiTEとはFc領域を欠くことによってサイトカインストームを防ぐというような欠点を除去するという(副作用に関する)メリットのみならず、「BiTEはそれまでに知られていた様々なTR抗体に比べて優れた抗腫瘍作用を持つことが報告されている」(本件明細書【0005】)という更なるメリットも有するものであった。ここで、TR抗体とは「T細胞上のT細胞レセプター(TCR)複合体の構成サブユニットのいずれかに対する抗体、特にCD3 epsilon鎖に結合する抗体と、標的である癌細胞上の抗原に結合する抗体を含むbi-specific(二重特異性)抗体である」(本件明細書【0003】)ところ、普通の二重特異性抗体(すなわち普通のTR抗体)にエフェクター機能を低下させるためにFc領域にアミノ酸変異を導入しただけの会合体(e)について、何の具体的データもなく、「BiTEが持つ強い抗腫瘍活性を有することが優に推測される」などという結論を導くに足りる技術常識等は、何ら示されていない。5 特に、本件審決の指摘する実施例3の示す抗腫瘍活性のデータとは、本件明細書の段落【0250】記載の図5のものであるが、実験で用いられた抗体の構造は基本骨格であるIgGとは大きく異なっているのである。また、実施例7の示す抗腫瘍活性のデータとは、本件明細書 の 段 落【0302】記載の図20のものであるが、ERY17-2は抗CD3抗体H鎖可変領域及び抗CD3抗体L鎖可変領域が置き換えられており(図19A)、ERY17-3は抗CD3抗体CH1ドメインと抗CD3抗体CLドメインが置き換えられている(図19B)。すなわち、ERY17-2及びERY17-3は2つのドメインが交換されている点で、通常の抗体(会合体(e))の構造(甲35)と異なる。加えて、ERY10-1の構造の特殊性は説明したとおりであるから、実施例7の示す抗腫瘍活性のデータには、基本骨格がIgGであってドメインの置換がなされていない通常の抗体(すなわち会合体(e))についての情報は含まれていない。このように、会合体(e)は通常の抗体に何らかの構造を付加するものでもなく、さらにドメイン置換も含まない基本的な抗体の構成を表現しているものであるのに、単にサイトカインストームを防ぐのみならず優れた抗腫瘍活性を示すことの知られていたBiTEと抗腫瘍活性において並ぶとは、当業者には理解されない。【被告の主張】(1) アミノ酸変異についてア 本件訂正発明は、「Fc領域を構成するアミノ酸のうち、EUナンバリングに従って特定される265位のアスパラギン酸がアラニンに変異している」との発明特定事項、すなわち「D265A変異」を規定している。そして、D265A変異は、Fc領域のFcγ受容体への結合活性5 を低下させる変異であるから、この変異を有することで特定された本件訂正発明1は、請求項1の(2)「配列番号:23に記載のFc領域を構成するアミノ酸が変異しているFc領域であって、IgG1抗体のFc領域(配列番号:23)を有するポリペプチド会合体と比較して、Fcγ受容体に対する結合活性が低下しているFc領域を含むドメイン」を有することを当業者であれば十分に理解できる。そして、本件明細書では、Fc領域を有するが、Fcγ受容体への結合活性を低下させたTR抗体が効果を奏することを明らかにしている。また、本件明細書には、「IgG1抗体のFc領域を構成するアミノ酸のうち、EUナンバリングに従って特定される下記のいずれかのアミノ酸;265位が他のアミノ酸によって置換されているFc領域を有するポリペプチド会合体が好適に挙げられる。置換後に存在するアミノ酸の種類は特に限定されないが、265位のアミノ酸がアラニンに置換されているFc領域を有するポリペプチド会合体が特に好ましい。」(【0132】)として、D265A変異が明確に記載されている。そして、D265AがFcγRへの結合能を低下させること自体は、甲第7号証(Table1参照)及び甲第31号証の2(Table2参照)等から明らかである。したがって、本件訂正発明がサポート要件を充足することは明らかである。イ これに対し、原告は、仮に、甲第2号証と甲第7号証を組み合わせることができず、かつ技術常識又は周知技術との組み合わせも認められないのであれば、本件訂正発明はサポート要件に違反するなどと主張し、進歩性欠如の主張が認められないのであれば、サポート要件に違反するとの主張をしている。しかし、進歩性の判断においては、仮に、周知技術であったとしても、その周知技術を引用発明と組み合わせる動機付けが必要である。他方で、5 サポート要件の判断においてはこのような動機付けが問題とならず、明細書の記載を前提に技術常識も考慮して、開示が十分かどうかが問われるものである。両者の判断基準は自ずと異なり、一方を満たせば他方を満たさないという関係にはならない。原告の主張は、進歩性及びサポート要件のそれぞれ判断基準を理解していないか、意図的に両者を混同したものであって、さらに、審決の判断内容も誤解したものであり、失当である。ウ また、原告は、仮に、甲第7号証のTable1が技術的な裏付けになると考えたとしても、それはD265Aの点変異のみが導入された場合に限るものであり、他方、本件訂正発明は、D265A変異に加えて他のアミノ酸変異を含むポリペプチドをその技術的範囲に含むも(現に、たとえば請求項24及び25は、D265A変異に加えて、234位や235位の変異を含んでいる。)、それらの変異が含まれる場合において課題を解決できることが認識できない旨主張する。しかし、本件審決が正しく認定するとおり、本件明細書の段落【0130】及び【0131】の記載からすれば、234位及び235位の変異も、265位と同じく、Fc領域の結合活性を低下させることを理解でき、これらの変異を含んだ場合も、結合活性を低下させることができることは明らかである。(2) 抗腫瘍活性についてア 本件訂正発明の正しい課題(ア) 原告は、本件訂正発明の課題の一つが、BiTEが持つ強い抗腫瘍活性を有することであることを前提として、本件訂正発明の範囲に、BiTEが持つ強い抗腫瘍活性を有するという課題を満たさない発明が含まれるため、本件訂正発明はサポート要件を満たさないことを主張している。5 (イ) しかし、本件訂正発明の課題は、正しくは、本件明細書の段落【0004】から【0008】までに記載された情況に鑑みて、「T細胞を標的癌細胞に近接せしめT細胞による標的癌細胞に対する細胞傷害活性を通じて癌を治療することを可能とするポリペプチド会合体、当該ポリペプチド会合体の製造方法、および当該ポリペプチド会合体を有効成分として含む細胞傷害誘導治療剤を提供すること」、及び「当該細胞傷害誘導治療剤を有効成分として含む、様々な癌を治療または予防するための医薬組成物または当該医薬組成物を用いる治療方法を提供すること」である(【0010】)。より具体的には、T細胞リクルート抗体(TR抗体)として trifunctional 抗体と称される抗体が知られ、癌抗原に結合するFabとT細胞上のCD3イプシロン鎖に結合するFabがそれぞれ片腕に含まれる、Whole IgG型の二重特異性抗体が知られているが、特許権者は、trifunctional 抗体は癌抗原非依存的な各種サイトカインを発現誘導し、副作用に繋がると考えた(【0003】~【0005】)。他方で、二重特異性T細胞エンゲイジャー(BiTE)と称されるTR抗体が知られていたところ、特許権者は、これについて、血中半減期が著しく短いということが問題であると考えた(【0008】)。これらの問題を並べて検討することや、これらの問題に対処しようとすること自体が、課題として新しいのであって、本件訂正発明は、この情況に鑑みて、新しいTR抗体を提供しようとするものである。なお、段落【0011】には、「BiTEが持つ強い抗腫瘍活性と、癌抗原非依存的にサイトカインストームなどを誘導しないという安全性上の優れた性質が維持され、かつ長い血中半減期を持つ新たなポリペプチド会合体を見出した」ことが記載されているが、このように、特に強い効果を有する実施例を見出したとしても、発明がそれに限定されるも5 のではなく、その範囲でしか発明が開示されていないことにはなり得ないし、特に強い効果を奏することが発明の課題とされるわけでもない。(ウ) そして、本件訂正発明は、上記情況の少なくとも1つの問題を解決する手段を提供している。すなわち、BiTEの生体に投与された場合の短い血漿中半減期が改善され、且つ癌抗原非依存的なサイトカイン放出症候群(CRS)等の重篤な副作用が低減された、T細胞を標的癌細胞に近接せしめT細胞による標的癌細胞に対する細胞傷害活性を通じて癌を治療することを可能とするポリペプチド会合体を提供している。よって、本件明細書の【発明が解決しようとする課題】(【0010】)に記載された本件訂正発明の課題を解決していることは明らかである。仮に、このようなポリペプチド会合体がBiTEと同等の効力を有しないものであっても、このようなポリペプチド会合体は、出願日当時の技術水準を超える発明であり、それ自体で価値のある課題を解決したものと評価することができる。イ BiTEが持つ強い抗腫瘍活性を有することが課題だとしてもサポート要件を充足すること(ア) 仮に、本件訂正発明の課題の一つに、「BiTEが持つ強い抗腫瘍活性を有する」ことも含まれるとした場合であっても、本件審決の認定のとおり、本件訂正発明がBiTEが持つ強い抗腫瘍活性を奏することは、本件明細書から理解できる。それゆえ、この点においても、原告の主張は、失当である。(イ) 原告は、本件訂正発明1の会合体(a)と(b)について、本件明細書の【図20】及び【図23】の結果が完全には一致していないことを指摘するが、これらが完全に一致していなくとも、当業者が、これらの会合体が癌抗原を変えた場合でも効果を奏すると認識できることは、何ら否定されない。5 (ウ) さらに、原告は、会合体(e)については実施例のデータを一般化できないと 主張するが、 本件審決が述べるとおり、本件明細 書 で は諸々の構造の会合体について開示し、実施例3及び7で種々の会合体について細胞傷害活性が示されていることからすれば、IgGを基本骨格とした各種会合体が、BiTEが持つ強い細胞傷害活性(抗腫瘍活性)を有することは明らかである。具体的には、実施例7から実施例11までにより、「癌抗原に対するIgGを基本骨格とし、片側のFabを CD3 epsilon に対する結合ドメインに置き換えた分子」が、優れた細胞傷害活性及び抗腫瘍効果を奏することが示されている。そして、本件訂正発明1は、癌抗原結合ドメインもT細胞受容体複合体結合ドメインも、Fab構造を有するWhole IgG型の基本骨格を有する抗体になっているから、「癌抗原に対するIgGを基本骨格とし、片側のFabを CD3 epsilon に対する結合ドメインに置き換えた分子」に対応するものである。したがって、本件訂正発明1は、BiTEと同等以上の細胞傷害活性を奏することを当業者は理解できる。なお、原告は、実施例3及び7の会合体が、会合体(e)と異なると主張するが、特に実施例7の会合体(【図19】)は、会合体(e)に若干の相違が入っただけであり、当業者であれば、これと同様に、また、実施例3で示された会合体とも同様に、会合体(e)も効果を奏することを理解できる。当業者が、各種会合体が効果を奏することを理解できる以上、全てのバリエーションについて逐一、明細書に記載する必要など存在しない。しかも、本件では、そもそも実施例10において、会合体(e)の構造の抗体が作成され、その効果も確認されている。(エ) さらに、本件明細書の段落【0008】に記載されるように、BiTEは、血中半減期が著しく短く、より具体的には生体に投与された場合のBiTEの血中半減期は数時間程度であるという問題を有する。5 実施例においては、ERY9-1とERY10-1(それぞれ図17H及び図17I参照)が優れた血漿中半減期を有することが示されている(図9及び図10参照)。具体的には、本件明細書の段落【0008】によれば、BiTEの血中半減期は数時間程度であるとされているのに対して、図9及び図10では、ERY9-1及びERY10-1が1日以上の血中半減期を有し、段落【0263】によれば2日後でさえ10nM以上の濃度を保っていることが読み取れる。このことは、FcγRへの結合能を低下させたFc領域が、本件訂正発明のポリペプチド会合体の有効血中濃度を長期間維持でき、本件訂正発明のポリペプチド会合体の治療有効性が大きく高まることを意味する。そして、本件明細書では、生体投与後の抗腫瘍効果(細胞傷害活性)に関しても評価し、GPC3 ERY8-2(図17G参照)とERY10-1(図17I参照)が明らかな抗腫瘍効果を奏することが示され(図6~図8参照)、GPC3 ERY17-2(図19A参照)もまた明らかな抗腫瘍効果を奏することが示されている(図21参照)。これらの結果から本件訂正発明のTR抗体の生体内での抗腫瘍効果は明らかであり、これは本件訂正発明のTR抗体が投与後に優れた血中半減期を備えることと整合する。このことは、甲第22号証(〔乙12〕)でも説明されており、想定どおり、GPC3 ERY10-1とERY17-2の血漿中半減期が、非常に長くなっていることを示すデータが得られている(甲22、10頁の項目5-3参照)。血漿中半減期が長くなることによりTR抗体が体内に長く滞留し、長期にTR効果が抗腫瘍効果を発揮することになる。このように、本件訂正発明は、BiTEと同等以上の細胞傷害活性を奏するものであるとともに、Fcγ受容体への結合性が低減されたFc領域を有することによって癌抗原非依存的なサイトカイン誘導などの副5 作用を低減することができるために、生体内において投与量を治療上有効量に引き上げ、有意な薬効を奏することを可能としている。その上、本件訂正発明は、BiTEよりも改善された血漿中滞留性を有するため、体内に長く滞留し、長期に抗腫瘍効果を発揮することができる。(オ) したがって、仮に、本件訂正発明の課題に「BiTEが持つ強い抗腫瘍活性を有する」ことが含まれると認定されたとしても、本件訂正発明のTR抗体は、BiTEが持つ強い抗腫瘍活性を有することは合理的に理解できる。原告の主張するサポート要件に係る取消事由に理由はない。4 取消事由4(実施可能要件違反に係る判断の誤り)について【原告の主張】当業者は、本件訂正発明の全てについて、FcγR結合親和性が低下している(それがゆえにサイトカインストームを抑制できる)と同時に、BiTEが持つ強い抗腫瘍活性を有することを、本件明細書及び技術常識から理解することはできない。これらの性質をいかにして得るかについて、説明やデータは本件明細書中に一切存在しない。したがって、当業者が、Fcγ受容体に対する結合活性が低下しているFc領域を含み、かつBiTEが持つ強い抗腫瘍活性をも保持する、本件訂正発明の構造を決定・生産・使用するには、過度の試行錯誤を要するから、本件訂正発明は実施可能要件に違反する。【被告の主張】取消事由4の実施可能要件違反について、原告は、実質的には取消事由3のサポート要件違反の主張と同一の内容を述べるにすぎず、取消事由3と同様、理由がないことは明らかである。なお、原告は、D265A変異以外の変異を当業者が全て確認する必要があり、それが過度の試行錯誤に当たると述べているが、当業者は、その他のあらゆる全ての変異を確認しなくとも、D265Aの変異を入れ、単に結合活性を確認すれば本件訂正発明を実施できる。全ての変異を確認する必要などなく、原告の主張は明らかに誤りである。

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