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令和7(ネ)10034損害賠償等請求控訴事件

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裁判所 控訴棄却 知的財産高等裁判所
裁判年月日 令和7年9月29日
事件種別 民事
当事者 被控訴人Y
法令 商標権
商標法46条の22回
著作権法61条1項1回
著作権法101条1回
商標法4条1項8号1回
商標法4条1項7号1回
キーワード 商標権57回
ライセンス28回
損害賠償8回
審決8回
無効4回
許諾2回
無効審判2回
侵害2回
主文 1(1) 原判決主文第2項中、原判決別紙商標目録3記載A
2(1) 原判決主文第3項中、原判決別紙商標目録3記載
3 控訴人らのその余の本件控訴をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は第1、2審とも控訴人らの負担とする。
事件の概要 書証については、特に断らない限り枝番を含む。)

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判決文

令和7年9月29日判決言渡

令和7年(ネ)第10034号 損害賠償等請求控訴事件

(原審・東京地方裁判所令和3年(ワ)第32244号、同6年(ワ)第70389

号)

口頭弁論終結日 令和7年7月14日

判 決

控 訴 人 サクラインターナショナル

株式会社

控 訴 人 サクラグループ有限会 社

被 控 訴 人 Y

同訴訟代理人弁護士 成 川 弘 樹

金 子 禄 昌

葛󠄀 谷 滋 基

遠 藤 賢 祐

主 文

1(1) 原判決主文第2項中、原判決別紙商標目録3記載A

の商標権についての控訴人らの被控訴人に対する商標

権返還義務及び返還協力義務が存在しないことの確認

請求に係る部分を取り消す。

(2) 上記取消しに係る控訴人らの訴えをいずれも却下す

る。

2(1) 原判決主文第3項中、原判決別紙商標目録3記載

A、原判決別紙商標目録4及び原判決別紙商標目録5

各記載の商標権についての移転登録請求に係る部分を

取り消す。

(2) 上記取消しに係る被控訴人の訴えをいずれも却下す

る。

3 控訴人らのその余の本件控訴をいずれも棄却する。

4 訴訟費用は第1、2審とも控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第1 控訴の趣旨

1 原判決を取り消す。2 被控訴人は、控訴人サクラインターナショナル株式会社に対し、1億円及びこれに対する令和3年6月19日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。3(1) 主位的請求控訴人サクラインターナショナル株式会社と被控訴人との間において、控訴人サクラインターナショナル株式会社に、原判決別紙著作物目録記載の各著作物について日本国における著作権が帰属することを確認する。

(2) 予備的請求1控訴人サクラインターナショナル株式会社と被控訴人との間において、控訴人サクラインターナショナル株式会社に、原判決別紙著作物目録記載の各著作物について日本国における複製権及び譲渡権が帰属することを確認する。

(3) 予備的請求2控訴人サクラインターナショナル株式会社と被控訴人との間において、控訴人サクラインターナショナル株式会社に、原判決別紙著作物目録記載の各著作物について、同目録記載<A>及び<B>のアルバム「What it isNt」、Cujo Arts and Literature,Inc.並びに丙1の宣伝目的に限定された、日本国における複製権及び譲渡権が帰属することを確認する。4(1) 主位的請求控訴人サクラインターナショナル株式会社と被控訴人との間において、控訴人サクラインターナショナル株式会社に、原判決別紙著作物目録記載の各著作物について米国における著作権が帰属することを確認する。

(2) 予備的請求1控訴人サクラインターナショナル株式会社と被控訴人との間において、控訴人サクラインターナショナル株式会社に、原判決別紙著作物目録記載の各著作物について米国における複製権及び譲渡権が帰属することを確認する。

(3) 予備的請求2控訴人サクラインターナショナル株式会社と被控訴人との間において、控訴人サクラインターナショナル株式会社に、原判決別紙著作物目録記載の各著作物について、同目録記載<A>及び<B>のアルバム「What it isNt」、Cujo Arts and Literature,Inc.並びに丙1の宣伝目的に限定された、米国における複製権及び譲渡権が帰属することを確認する。5 控訴人らと被控訴人との間において、控訴人らの被控訴人に対する原判決別紙商標目録1~3記載の各商標権に関する商標権返還義務及び返還協力義務が存在しないことを確認する。6 控訴人サクラグループ有限会社と被控訴人との間において、控訴人サクラグループ有限会社の被控訴人に対する、控訴人サクラグループ有限会社と被控訴人との間で締結した2010年12月8日付け LICENSING AGREEMENT に関する債務不履行に基づく損害賠償義務が存在しないことを確認する。7 被控訴人の反訴請求をいずれも棄却する。

第2 事案の概要等(以下、略語は特記するもののほか原判決の例による。また、

書証については、特に断らない限り枝番を含む。)1 請求の要旨本件は、控訴人らによる本訴請求と被控訴人による反訴請求からなる。

(1) 本訴請求本訴請求は、控訴人らが被控訴人に対して次の請求をするものである。ア 本訴請求の主位的請求(ア) 不法行為に基づく損害賠償請求(本件請求1、控訴の趣旨2項)控訴人サクラインターナショナル株式会社(以下「控訴人SI」という。)が、被控訴人に対し、被控訴人又は株式会社SHIFFON(SHIFFON社)の代表取締役である丙2(丙2)との共同不法行為により控訴人SIの名誉権及び営業権が侵害されたとして、損害賠償金1億円(逸失利益2億6532万8253円の一部である9000万円及び無形損害1億1623万3122円の一部である1000万円の合計額)及びこれに対する不法行為後の日である令和3年6月19日から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払(イ) 著作権の確認請求(本件請求2、控訴の趣旨3項(1)、4項(1))控訴人SIが、被控訴人に対し、原判決別紙著作物目録記載の各著作物(本件各著作物)に係る日本及び米国における著作権が控訴人SIに帰属することの確認(ウ) 商標権の確認請求(本件請求3)控訴人SIが、被控訴人に対し、原判決別紙商標目録1~3記載の各商標(本件本訴商標)に係る各商標権(本件本訴商標権)が控訴人SIに帰属することの確認(エ)商標権返還義務等の不存在確認請求(本件請求4、控訴の趣旨5項)控訴人らが、被控訴人に対し、本件本訴商標権について、控訴人らの被控訴人に対する商標権返還義務及び返還協力義務が存在しないことの確認(オ) 2010年12月8日付け「LICENSING AGREEMENT」(本件ライセンス契約)に基づく損害賠償義務の不存在確認請求(本件請求5、控訴の趣旨6項)控訴人サクラグループ有限会社(以下「控訴人SG」という。)が、被控訴人に対し、控訴人SGの被控訴人に対する本件ライセンス契約の債務不履行による損害賠償義務が存在しないことの確認(控訴人SGは、当審の口頭弁論において、債務の存否のみの確認を求める趣旨である旨述べた。このため、控訴人SGに損害賠償義務が認められる場合に、その損害賠償額の数額の確定までも求める趣旨とは解されない。)イ 本訴請求2の予備的請求(控訴の趣旨3項(2)、(3)、4項(2)、(3))控訴人SIは、前記ア(イ)の本件請求2について、予備的請求1として、被控訴人に対し、本件各著作物に係る日本及び米国における複製権及び譲渡権が控訴人SIに帰属することの確認を求めている。また、控訴人SIは、本件請求2について、予備的請求2として、被控訴人に対し、本件各著作物に係る、原判決別紙著作物目録記載<A>及び<B>のアルバム「Whatit isNt」、Cujo Arts and Literature, Inc.(Cujo社)及び丙1(丙1)の宣伝目的(本件宣伝目的)に限定された、日本及び米国における複製権及び譲渡権が控訴人SIに帰属することの確認を求めている。

(2) 反訴請求反訴請求は、被控訴人が、本件ライセンス契約に基づき、控訴人SIに対し、原判決別紙商標目録1~5記載の各商標に係る商標権(本件各商標権)につき商標権移転登録手続を求めるものである。2 原判決原判決は、本訴請求のうち、本件請求2の予備的請求2及び本件請求3を却下し、その余の本訴請求をいずれも棄却し、反訴請求をいずれも認容した。これに対し、控訴人らが原判決を不服として控訴した。ただし、控訴人SIは、原判決が本件請求3を却下した部分については、不服を申し立てていない。3 前提事実本件の前提事実は、原判決の「事実及び理由」第2の1(4頁4行目~5頁22行目)及び4(7頁16行目~19頁20行目)に記載のとおりであるからこれらを引用する(ただし、引用する原判決の「事実及び理由」9頁26行目と10頁5行目にいずれも「再生」とあるのを「再製」と改める。)。なお、当審で提出された証拠により、原判決の「事実及び理由」第2の1の(3)を次のとおり改める。「(3) なお、被控訴人は、控訴人SI出願に係る別紙商標目録3記載のA(以下「本件商標3のA」といい、同Bを「本件商標3のB」という。)、本件商標4及び5に対し、商標登録無効審判を請求したところ、特許庁は、上記各商標は、公正な商標秩序を乱すものというべきであり、かつ、健全な法感情に照らし条理上も許されないというべきものであるから、商標法4条1項7号にいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当するとして、同法46条1項1号により、商標登録を無効とする旨の審決をした。控訴人SIは、同審決の取消しを求める審決取消訴訟を知財高裁に提起したが請求棄却の判決がされ、同判決に対する上告及び上告受理申立ては、令和7年6月6日、棄却及び不受理となった。これにより、上記審決は確定し、上記各商標(本件商標3のA、4及び5)に係る商標権は、初めから存在しなかったものとみなされる(商標法46条の2第1項)。他方、被控訴人は、控訴人SI出願に係る本件商標1及び2についても商標登録無効審判を請求したが、特許庁は、同請求は成り立たない旨の審決をした。被控訴人は、同審決の取消しを求める審決取消訴訟を知財高裁に提起したが請求棄却の判決がされ、同判決に対する上告及び上告受理申立ては棄却及び不受理となった。(乙172、193、194)」4 争点本件の争点は、原判決の「事実及び理由」第2の5(19頁21行目~20頁24行目)に記載のとおりであるからこれを引用する(ただし、本件請求3「商標権の確認請求」に関する部分を除く。)。

第3 争点についての当事者の主張

次のとおり当審における当事者の補充主張を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」第3(20頁25行目~70頁18行目)に記載のとおりであるからこれを引用する(ただし、本件請求3「商標権の確認請求」に関する部分を除く。)。

1 控訴人らの補充主張

(1) 本件請求2の予備的請求2について(争点1-3の補充主張)

原判決は、本件宣伝目的(アルバム「What it isNt」、Cujo社及び丙1の宣伝目的)という一義的に明確とはならない事情に左右された複製権及び譲渡権というものは、確認の対象とすべき権利関係とはいえないとして、本件請求2の予備的請求2を却下した。しかし、控訴人SIと被控訴人との間では、本件各著作物に係る著作権の帰属が争われ、本件音楽契約2条3項の文言解釈が争点となっているところ、本件の紛争を抜本的に解決するには、控訴人SIに、本件各著作物の著作権が帰属するか(本件請求2の主位的請求)、複製権及び譲渡権が帰属するか(本件請求2の予備的請求1)、本件宣伝目的での複製権及び譲渡権が帰属するか(本件請求2の予備的請求2)を全て確認し、控訴人SIにどのような範囲で著作権が帰属するかを明らかにすることが必要である。そして、著作権の可分性の原則からすれば、本件音楽契約に基づき、控訴人SIに何らかの著作権が帰属していることは明らかであり、その範囲を確認することは、確認の対象として適切である。したがって、本件請求2の予備的請求2を却下した原判決は、確認の利益の解釈を誤っているから、本件は、民訴法307条本文により、第一審裁判所に差し戻されるべきである。

(2) 職務著作該当性について(争点6-1の補充主張)

原判決は、本件各著作物の職務著作該当性を判断するに際して、その準拠法を、日本で保護される著作権については日本法、米国で保護される著作権には米国法と判断した。しかし、職務著作に該当するかは、著作物の創作以前に存した関係に依存し、著作権発生国の労働契約に左右されるから、労働契約の準拠法の国の著作権法を準拠法とすべきである。本件では、Cujo社と被控訴人との間で締結された労働契約の準拠法であるワイオミング州法の国の著作権法である米国著作権法が適用される。そして、米国著作権法の解釈によると、本件各著作物は、職務著作としてCujo社、又は控訴人SI、Cujo社及び丙1の三者からなるグループ(以下「SCTグループ」という。)に著作権が帰属していたと認定されるべきであり、これに反する証拠(乙148の1)は、控訴人SIとCujo社との間の本件権利譲渡契約(甲23)の完全合意条項に反するから、証拠排除されるべきである。また、Cujo社の存在により節税効果を享受していた被控訴人が、職務著作を否定することは、信義則に反して許されないというべきである。

(3) 著作権の移転について(争点6-2、6-3の補充主張)

ア 原判決は、本件音楽契約2条3項(Sakura shall have the exclusive rightsto reproduce and sell any and all album cover artwork and/or photographs. . . .)について、著作権の譲渡(帰属を含む。)を意味するものではないと認定した。しかし、本件音楽契約の準拠法であるカリフォルニア州法の契約解釈ルール(平易な意味の原則、パロール・エビデンス・ルール、四隅の原則)によると、契約の解釈は、可能な限り契約書の文言によってされるべきであって、司法による恣意的な「当事者の合理的意思解釈」は許されない。本件音楽契約に完全合意条項が規定されているから、なおさら契約書の文言に反した解釈は許されない。そして、本件音楽契約の文言解釈によると、同契約2条1項が著作権の移転時期を定め、同条2項及び3項がその具体的権利発生・移転の内容を定めたものと解すべきであって、アルバムカバーアート等の著作権が原始的に誰に帰属していたとしても、いずれにしても、本件音楽契約により控訴人SIに帰属することになるものである。イ 原判決は、米国著作権法の解釈において、独占排他的ライセンスの設定は、著作権の譲渡には該当しないとした。しかし、米国著作権法101条は、日本の著作権法と異なり、「著作権を構成する排他的権利のいずれか一つに関して、その特定の権利の所有者」を「著作権者」と規定し、独占的(排他的)利用許諾を「著作権所有権の移転」の一類型と定義しているのであるから、原判決の解釈によっても、控訴人SIは、本件音楽契約により、少なくとも米国における著作権を有している。さらに、控訴人SIは、Cujo社及び丙1との間で、両名に残存していた一切の権利の譲渡を受ける契約を締結したから(甲23、75、95)、日本における著作権も保有していることが明らかである。

(4) 商標権返還義務について(争点7の補充主張)

ア 原判決は、本件各商標権の違いを考慮することなく、その全てについて、本件ライセンス契約により、控訴人らが被控訴人に対して返還義務及び返還協力義務を負うと判断した。しかし、本件各商標権は、①エンジェルに関する商標(本件音楽契約の成果物たる著作物の商標。本件商標1)、②「(what it isNt)」の商標(本件音楽契約の成果物であるが、著作物ではないもの。本件商標3のB)及び③被控訴人の氏名に関連する商標(本件音楽契約及び被控訴人の同意を根拠に控訴人SIが商標登録出願したもの。本件商標2)に区別されるべきところ、本件ライセンス契約には、本件音楽契約の成果物を返還の対象とすべき旨の記載は一切ないし、本件ライセンス契約と本件音楽契約は契約当事者も異なり、本件音楽契約の全当事者の合意なくその内容を変更できないこと、控訴人ら間の商標権譲渡契約においても被控訴人への返還を予定していなかったこと(甲109)等からして、本件各商標権が、本件ライセンス契約によって返還の対象となったということはできない。イ 原判決は、控訴人SIによる本件商標権1及び2の取得時効について、本件ライセンス契約を根拠に、「自己のためにする意思」を否定したが、控訴人SIが本件商標権1及び2の準占有を開始したのは商標登録時であり、本件ライセンス契約の時点で占有の意思を認定したことは誤りである。

(5) 不法行為について(争点2-1~4-4の補充主張)

ア 原判決は、被控訴人が丙2に対して情報を提供したことを認めるに足りないとした。しかし、丙2の告知(本件告知行為1)に係る内容(本件告知事実1)には、本件ライセンス契約の条文や、同契約に関する控訴人らと被控訴人との間の行為が含まれており、控訴人ら以外には被控訴人しか知り得ない情報であるから、被控訴人がこれらの情報を丙2に提供したことは明らかである。イ また、原判決は、被控訴人が控訴人SIのサブライセンシー等に対して本件警告書面を送付した行為(本件告知行為2)について、控訴人SIが本件各著作物の著作権を取得していないとの誤った事実認定を前提に、真実性を認め、違法性が阻却されるとした。しかし、控訴人SIが本件各著作物の著作権を取得していることは、既に主張したとおりであって、原判決の認定は誤っているし、控訴人らの営業が著しく阻害されている本件においては、そもそも違法性の阻却を認めること自体が不相当である。

2 被控訴人の補充主張

(1) 本件請求2の予備的請求2について(争点1-3の補充主張)

本件宣伝目的に限定された複製権及び譲渡権といった、過度に細分化された著作権の譲渡を認めることは、その権利範囲をめぐる紛争が繰り返される社会的不利益や、著作権侵害という刑事罰の対象となる行為が不明確となることから、日本及び米国のいずれにおいても認められるべきではない。そのような法律関係として成り立たないものを確認の対象とする本件請求2の予備的請求2は不適切であるから、これを却下した原判決は相当である。

(2) 職務著作該当性について(争点6-1の補充主張)

著作権に関する各国の法制には、各国の政策的判断に基づく様々な差異が存在すること等から、職務著作を含む原始的著作権者の決定は、保護国の法令を準拠法とすべきであり、原判決による準拠法の選択に誤りはない。そして、Cujo社が事業実態のない節税目的の会社であったことや、被控訴人は現実にはCujo社の従業員の立場になかったことからすると、米国・日本のいずれの著作権法上も、本件各著作物が職務著作としてCujo社に原始的に帰属するということはない。なお、控訴人らの補充主張のうち、本件各著作物が職務著作として、SCTグループに原始的に帰属した旨の主張は、時機に後れた攻撃防御方法として却下されるべきである。

(3) 著作権の移転について(争点6-2、6-3の補充主張)

ア 著作権の移転という著作物の支配関係の変動に関する問題については、日本の著作権は日本の法令、米国の著作権は米国の法令が準拠法とされるべきである。本件音楽契約は、そもそも、控訴人SI、Cujo社及び丙1による契約であって、被控訴人は契約の当事者ではないから、被控訴人が原始的に取得した著作権が当然に控訴人SIに移転するものではない。また、本件音楽契約2条3項は、本件音楽契約に基づいて制作される音響作品に関連して新たに創作されたカバーワーク等を対象とするものであって、被控訴人が本件音楽契約に先立ち創作したものは対象とならない。さらに、本件音楽契約2条の文言からすれば、同条1項は著作権そのものに関する規定であり、同条2項以下は著作権以外の権利に関する規定であることは明らかであるから、同条3項は、日本・米国いずれの著作権法によっても、控訴人SI以外に利用許諾をしないという意味で独占的な、本件宣伝目的での利用に限定された契約上の利用権を設定したものと解釈すべきである。イ 米国著作権法上、「exclusive license」と「assignment」は区別されているから、本件音楽契約2条3項によっては、被控訴人が、本件各著作物の複製権及び譲渡権、又は本件宣伝目的に限ったこれらの権利を控訴人SIに譲渡したと解釈することはできない。控訴人SIがCujo社及び丙1とそれぞれ権利の譲渡を受ける契約を締結したとしても、Cujo社及び丙1が本件各著作物の著作権を取得したことはないのであるから、控訴人SIが本件各著作物の著作権をこれらの者から承継取得することはない。なお、控訴人SIとCujo社との間で新たに締結された契約(甲95)に基づく主張は、時機に後れた攻撃防御方法として却下されるべきである。

(4) 商標権返還義務について(争点7の補充主張)

ア 本件ライセンス契約上の義務を控訴人SGのみならず控訴人SIも負うことについては、自白が成立している。そして、本件ライセンス契約11条は、控訴人らが返還義務を負う対象を「"Gonzo Cuntry", "Mark Gonzales" and Y's designs」としており(甲2)、本件各商標がこれらに含まれることは文言上明らかである。このような解釈は、被控訴人が控訴人SIに対する訴訟を準備する中で締結されたという経緯からも裏付けられる。イ 商標権の時効取得は法律上認められないと解すべきであるが、仮に認められるとしても、控訴人SIは、本件ライセンス契約が締結された時点で、既に「自己のためにする意思」を喪失していたというべきである。

(5) 不法行為について(争点2-1~4-4の補充主張)

控訴人らの主張は争う。

第4 当裁判所の判断

1 本件商標3のA、4及び5に係る商標権に関する訴えについて前記第2の3のとおり改めた上で引用する原判決の「事実及び理由」第2の1(本件に至る経緯)のとおり、本件商標3のA、4及び5につき、商標登録を無効とする旨の審決が確定したため、これらの各商標に係る商標権は、初めから存在しなかったものとみなされる(商標法46条の2第1項)。そうすると、控訴人らの本訴請求のうち、控訴人らが被控訴人に対して本件商標3のAに係る商標権(以下「本件商標権3のA」という。)の返還義務及び返還協力義務を負わないことの確認を求める訴えと、被控訴人の反訴請求のうち、本件商標権3のA並びに本件商標権4及び5の商標権移転登録手続を求める訴えは、原審の口頭弁

論終結後、訴えの利益を欠くに至ったことが当裁判所に明らかである。

したがって、原判決の主文中、上記訴えに関する部分を取り消した上、訴えをいず

れも却下することとする。

上記1を除く本訴請求及び反訴請求について

本件商標権3のA並びに本件商標権4及び5に関する訴えを除く本訴請求及び反訴

請求について、当裁判所は、控訴人らの本訴請求にはいずれも理由がなく、被控訴人

の反訴請求にはいずれも理由があると判断する。その理由は、下記(1)のとおり補正し、

下記(2)~(6)のとおり当審における控訴人らの補充主張に対する判断を示すほかは、

原判決の「事実及び理由」第4~第9(70頁19行目~104頁17行目。ただし、

控訴人が不服を申し立てていない本件請求3に関する国際裁判管轄についての第5の

(3)、後記(2)で当審の判断を示す争点1-3関係についての第6の1(2)、控訴人が

不服を申し立てていない本件請求3の訴えの適法性に係る第7の1を除く。)に記載

のとおりであるから、これを引用する。

(1) 原判決の補正

ア 本件音楽契約に基づく著作権の移転に係る準拠法の点につき、原判決の「事実

及び理由」第6の2(1)(76頁9行目~同頁15行目)を次のとおり改める。

「(1) 準拠法

著作権の移転について適用されるべき準拠法については、移転の原因関係である契

約等の債権行為と、目的である著作権の物権類似の支配関係の変動とを区別し、それ

ぞれの法律関係について別個に準拠法を決定すべきである。

控訴人SIにおいて本件各著作物の著作権が移転した(帰属するに至った旨を含む。)

と主張する原因関係である本件音楽契約について適用されるべき準拠法は、法の適用

に関する通則法(以下「通則法」という。)7条により当事者の選択によるところ、

本件音楽契約12条6項により指定された米国カリフォルニア州法となる(甲9)。

次に、著作権又はその一部という物権類似の支配関係の変動について適用されるべ

き準拠法については、通則法には、著作権の存否、内容又は効力の問題を直接適用の

対象とする規定はないが、通則法13条1項に準じて、当該著作物が保護される国の

法令(以下「保護国法」という。)とするのが相当である。したがって、本件各著作

物の著作権(一部を含む。)の移転については、日本で保護される著作権については

日本法が、米国で保護される著作権については米国法が、それぞれ適用されると解す

るのが相当である。」

イ 共同著作者性の法律関係に係る準拠法の点につき、原判決の「事実及び理由」

第6の3(1)(80頁25行目~81頁14行目)を次のとおり改める。

「(1) 準拠法

著作権の支配関係の存否、内容又は効力について適用されるべき準拠法については、

通則法13条1項に準じて、当該著作物が保護される国の法令(保護国法)とするの

が相当である。したがって、本件F以外著作物の共同著作者性を判断する際の準拠法

としては、日本で保護される著作権については日本法が、米国で保護される著作権に

ついては米国法が、それぞれ適用されると解するのが相当である。」

ウ 職務著作性の法律関係に係る準拠法の点につき、原判決の「事実及び理由」第

の4(1)(84頁8行目~同頁17行目)を次のとおり改める。

「(1) 準拠法

著作権の支配関係の存否、内容又は効力について適用されるべき準拠法については、

通則法13条1項に準じて、当該著作物が保護される国の法令(保護国法)とするの

が相当である。したがって、本件各著作物の職務著作該当性を判断する際の準拠法と

しては、日本で保護される著作権については日本法が、米国で保護される著作権につ

いては米国法が、それぞれ適用されると解するのが相当である。」

エ 原判決の「事実及び理由」第7の2(90頁7行目)の末尾に行を改めて、本

件ライセンス契約に基づく商標権の移転に係る法律関係の点につき、次のとおり(1)

の項を挿入し、以下、原判決の「事実及び理由」第7の2(1)~(4)を順次(2)~(5)と

繰り下げる。

「(1) 準拠法

商標権の移転について適用されるべき準拠法については、移転の原因関係である契

約等の債権行為と、目的である商標権の物権類似の支配関係の変動とを区別し、それ

ぞれの法律関係について別個に準拠法を決定すべきである。

本件各商標権(本件商標権3のA、4及び5を除く。以下同じ。)について返還義

務が生じたか否かの原因関係である本件ライセンス契約について適用されるべき準拠

法は、通則法7条により当事者の選択によるところ、本件ライセンス契約15条eに

より指定された米国ニューヨーク州法となる(甲2)。

次いで、商標権という物権類似の支配関係の変動について適用されるべき準拠法は、

通則法13条1項に準じて、当該商標権が登録されている国の法令とするのが相当で

ある。本件商標権は、いずれも日本で登録されたものであるから、その移転について

は日本法が準拠法となる。」

(2) 本件請求2の予備的請求2について(争点1-3関係)

ア 本件請求2の予備的請求2は、控訴人SIが、被控訴人との間で、本件各著作

物につき、控訴人SIが日本及び米国において本件宣伝目的に限定された複製権及び

譲渡権を有することの確認を求める訴えである。

原判決は、本件宣伝目的に限定された複製権及び譲渡権というものは、取引の実情

に鑑みると、その権利範囲が極めて不明確になるため、社会通念に照らし、著作物の

公正な利用を損なうおそれがあるから、確認の対象とすべき権利関係とはいえないと

して、同訴えを却下した。

しかし、日本の著作権法上、著作権の一部を譲渡することは許容されており(著作

権法61条1項)、米国の著作権法上も同様であるところ(米国著作権法201条

(d)(1))、本件宣伝目的という限定が付されたとの一事をもって、直ちにそのような

権利関係がおよそ成り立ちえないとまではいい難い。本件では、控訴人SIが本件宣

伝目的に限定された複製権及び譲渡権を有すると主張し、被控訴人がこれを否認して

いるのであるから、同主張の成否について判断することが、紛争の直接的な解決に資

するといえる。

したがって、本件請求2の予備的請求2には、確認の利益が認められる。

イ もっとも、引用する原判決の「事実及び理由」第6並びに後記(3)及び(4)のと

おり、控訴人SIが、本件各著作物について、本件宣伝目的に限定された複製権及び

譲渡権を有するとは認められない。

なお、原判決は、本件音楽契約2条3項の解釈において、アルバムカバーアート等

については独占的に使用する権利が付与されるにとどまり、その著作権は譲渡されて

いない旨認定しているのであるから(原判決の「事実及び理由」第6の2(3)(77頁

行目~78頁8行目)、本件宣伝目的に限定された複製権及び譲渡権の存否につ

いては、第一審で実質的に審理されているといえ、本件について更に弁論をする必要

はない。したがって、本件を第一審裁判所に差し戻す必要はない(民訴法307条た

だし書)。

そして、前記のとおり、控訴人SIによる本件請求2の予備的請求2には理由がな

く、棄却を免れないところ、被控訴人が控訴又は附帯控訴をしていない本件において

は、不利益変更禁止の原則(民訴法304条)により、控訴人SIの控訴を棄却する

にとどめるほかない。

(3) 職務著作該当性(争点6-1(本件各著作物に係る著作権の原始的帰属))に

ついて

ア 控訴人SIは、本件各著作物の職務著作該当性を判断するに際し、労働契約の

準拠法の国の著作権法、すなわち米国著作権法を準拠法とすべき旨主張する。

しかし、補正して引用する原判決の「事実及び理由」第6の4(1)のとおり、職務著

作性という法律関係の性質は、著作権という物権類似の支配関係の存否、内容又は効

力の問題に含まれると解されるから、当該著作物が保護される国の法令、すなわち保

護国法を準拠法とするのが相当である。控訴人SIの主張は採用することができない。

イ 控訴人SIは、米国著作権法の解釈によると、本件各著作物は、職務著作とし

てCujo社又はSCTグループに帰属していたと認定されるべきであるし、これに

反する証拠(乙148)は証拠排除されるべき旨主張する。

しかし、乙148を証拠として採用することの是非について、控訴人SIが主張す

る理由は、Cujo社と控訴人SIとの間で締結された本件権利譲渡契約(甲23)

に完全合意条項(7条)があるというものであるが、本件では、同契約の内容は争点

ではなく、日本及び米国の著作権法上、本件各著作物が職務著作に該当すると認めら

れるか、換言すれば、被控訴人とCujo社との間に雇用者と被用者といえるだけの

実質的な事実関係が認められるかが問題となっているものであるから、本件権利譲渡

契約に完全合意条項があるとしても、上記事実関係を認定するための証拠方法が制限

されることはないというべきである。そして、前記認定事実(引用する原判決の「事

実及び理由」第6の4(2))、証拠(乙114、148)及び弁論の全趣旨によると、

Cujo社に事業の実態はなく、被控訴人に対する指揮監督等もなく、被控訴人は自

らの裁量で本件各著作物を創作したものと認められるから、日本法上も米国法上も、

本件各著作物が職務著作としてその著作権がCujo社に帰属したとはいえない。ま

た、Cujo社の米国法人所得税申告書には、Cujo社が被控訴人に役員報酬を支

払った旨が記載されている事実が認められるものの(前提事実(2)イ)、同事実のみを

もって、被控訴人が本件各著作物の職務著作該当性を否定することが、控訴人SIと

の関係で信義則に反するということはできない。

なお、控訴人SIは、本件各著作物について、職務著作としてSCTグループに著

作権が帰属していたとも主張するが、控訴人SI及び丙1と被控訴人との間に、雇用

類似の法律関係が存在したことを認めるに足りる証拠はないから、控訴人SIの主張

を時機に後れた攻撃防御方法として却下するまでもなく、同主張には理由がない。

したがって、控訴人SIの主張はいずれも採用することができない。

(4) 著作権の移転について(争点6-2、6-3関係)

ア 控訴人SIは、本件音楽契約の文言解釈によると、同契約2条1項が著作権の

移転時期を定めたものであり、同条2項及び3項はその具体的権利発生・移転の内容

を定めたものであるから、同条3項により、控訴人SIに本件各著作物の著作権(複

製権及び譲渡権、又は本件宣伝目的に限定された複製権及び譲渡権を含む。)が帰属

することになる旨主張する。

しかし、本件音楽契約(甲9)の2条1項が、「Copyrights of the Music Works

and the Sound Recordings shall be transferred to Sakura at the time of delivery

of the Delivery Materials set forth in Article 4.」と、明示的に音楽作品及び録

音物を対象としてその著作権が控訴人SIに移転することを規定し、2条2項が、

「Sakura shall have the exclusive rights to reproduce . . . the Sound

Recordings」と、1項で著作権移転の対象とされた録音物を媒体(音響作品)により

全世界を対象に再製等ができる旨を規定しているのに対して、2条3項は、「Sakura

shall have the exclusive rights to reproduce and sell any and all album cover

artwork and/or photographs created in conjunction with the Audio Works」とし

て、アルバムカバーアート等を対象として、控訴人SIが独占的な権利を保有する旨

を規定するにとどめているのであるから、契約文言の通常の意味に照らして、控訴人

SIが、著作権者の権利を排して、アルバムカバーアート等の著作権又はその一部を

取得する旨が規定されたものと解することは困難である。その文脈をみても、2条3

項は、「for promotional purpose of the Audio Works and the Artists」として、

本件宣伝目的すなわち音響作品とアーティストを宣伝するために控訴人SIがアルバ

ムカバーアート等を再製及び販売する権利を有するというのであるから、アーティス

トが有する複製権及び譲渡権を失わせた上でこれらの権利を控訴人SIが排他的に取

得する旨の条項と読み取ることは困難である。

そうすると、日本で保護される著作権の移転等についての準拠法である日本の著作

権法上、本件音楽契約2条3項により、本件各著作物に係る著作権又はその一部が控

訴人SIに移転したということはできない。

米国で保護される著作権の移転等についての準拠法である米国法上も、上記のとお

り、本件音楽契約は、著作権者又はアーティストの有する複製権及び譲渡権を失わせ

た上でこれらの権利を控訴人SIが排他的に取得する旨の条項であると解することは

できない。

したがって、控訴人SIの主張は採用することができない。

イ 控訴人SIは、Cujo社及び丙1との間で、両名に残存していた一切の権利

の譲渡を受ける契約を締結したから、本件各著作物に係る日本における著作権を保有

していることが明らかであると主張する。

しかし、引用に係る原判決の「事実及び理由」第6の3及び4(80頁22行目~

頁2行目)のとおり、本件各著作物は、被控訴人と丙1の共同著作物とは認めら

れず、職務著作としてCujo社に帰属するとも認められないのであるから、その主

張の一部を時機に後れた攻撃防御方法として却下するまでもなく、控訴人SIの主張

には理由がなく、採用することができない。

ウ 以上によると、控訴人SIは、本件各著作物に係る日本・米国における著作権

(その一部を含む。)を有しているということはできないから、本件請求2は、予備

的請求1・2を含めていずれも理由がない。

(5) 商標権返還義務について(争点7関係)

ア 控訴人らは、本件各商標権について、①エンジェルに関する商標(本件音楽契

約の成果物たる著作物の商標。本件商標1)、②「(what it isNt)」の商標(本件

音楽契約の成果物であるが、著作物ではないもの。本件商標3のB)及び③被控訴人

の氏名に関連する商標(本件音楽契約及び被控訴人の同意を根拠に控訴人SIが商標

登録出願したもの。本件商標2)に区別されるべきところ、本件ライセンス契約には、

本件音楽契約の成果物を返還の対象とすべき旨の記載は一切ないなどと主張する。

しかし、本件ライセンス契約(甲2)11条は、

「Y shall retain all intellectual

property rights to the Materials and the Products」として、被控訴人に「the

Materials and the Products」(「Materials」の定義は、2条により「Y's images,

drawings, poetry, stories and name "Gonzo Cuntry" and "Mark Gonzales"」とさ

れている。)の知的財産権全てが帰属することを確認した上で、

「Sakura may register

"Gonzo Cuntry", "Mark Gonzales" and Y's designs for the protection of the

property on the condition that the registration(s) made by Sakura shall be

returned to Y at Y's request.」として、控訴人らは、被控訴人の求めがあったと

きは登録を返還することを条件として、「Gonzo Cuntry」、「Mark Gonzales」及び被

控訴人のデザインを登録できる旨を規定しているところ、控訴人らが主張する①及び

②はいずれも「被控訴人のデザイン」、③は「Mark Gonzales」に当たることが明らか

であり、また、被控訴人が本件各商標権について返還を求めていることは当裁判所に

顕著である。そして、本件ライセンス契約には、本件音楽契約の成果物を対象から除

外する旨の規定は設けられていない。したがって、控訴人らは、本件ライセンス契約

条に基づき、本件各商標権を返還する義務を負うというべきである。控訴人らの

主張は採用することができない。

イ 控訴人らは、本件ライセンス契約と本件音楽契約は契約当事者も異なり、本件

音楽契約の全当事者の合意なくその内容を変更できないこと、控訴人ら間の商標権譲

渡契約においても被控訴人への返還を予定していなかったこと(甲109)等からし

て、本件各商標権は、本件ライセンス契約による返還の対象とはなっていないと主張

する。

しかし、本件ライセンス契約は、形式的には控訴人SGが契約当事者となっている

が、原審での審理において、控訴人らは、本件ライセンス契約の当事者が控訴人SI

も含むものとして判断されることについて異議はない旨述べているのであるから(令

和5年1月27日の書面による準備手続調書における当事者双方の発言)、契約当事

者が異なることを理由として控訴人SIの義務を否定する主張は、禁反言により許さ

れない。また、引用する原判決の「事実及び理由」第6のとおり、控訴人SIは、本

件音楽契約によっては何らの著作権を取得しておらず、本件音楽契約は商標権が控訴

人らに帰属又は移転することも規定していないのであるから、本件音楽契約の存在は、

控訴人らに商標権返還義務及び返還協力義務があるとの認定を左右するものではない。

なお、控訴人SIが本件商標2を出願するに際し、被控訴人が同意(Consent)をして

いる事実が認められるが(甲12の1・2)、これは商標法4条1項8号の規定によ

り手続上の必要に応じて提出された書面であって、その内容も「私の名前である“Mark

Gonzales”を商標として日本において登録を受けることを確かに承諾致しました。」

というものにすぎず、被控訴人が本件商標権2の返還を求めないとか、被控訴人の氏

名に関する権利を控訴人SIに譲渡した等の趣旨と解することは困難である。控訴人

らの主張は採用することができない。

ウ 控訴人SIは、本件商標権1及び2について時効取得を主張するが、控訴人ら

は、本件ライセンス契約により、本件各商標権の被控訴人への返還を約しているので

あるから、仮に商標権について準占有を観念する余地があるとしても、権利の承認が

あったというべきであるから、控訴人SIの主張は採用することができない。

(6) 不法行為について(争点2-1~4-4関係)

控訴人SIは、被控訴人が丙2に対し、本件告知事実1に係る情報を提供した旨主

張するが、これを認めるに足りる証拠がないことは、引用に係る原判決の「事実及び

理由」第9の1及び2(100頁19行目~102頁5行目)のとおりであって、控

訴人SIの主張は採用することができない。

控訴人SIは、本件音楽契約により控訴人SIが本件各著作物の著作権を取得して

いることを前提に、本件告知行為2につき、真実性を認め、違法性が阻却されるとし

た原判決の認定判断を論難するが、引用に係る原判決の「事実及び理由」第9の3(1

頁6行目~104頁17行目)のとおり、本件告知行為2が摘示する事実(本件

告知事実⑧~⑩)は、その重要な部分についていずれも真実であると認められるとい

うべきであるし、被控訴人の知名度や、控訴人ら及び被控訴人が関連する取引関係者

が多数存在することに照らし、公共の利害に関する事実に係り、その目的が専ら公益

を図ることにあったと認めることができる。その他、本件において違法性を阻却すべ

きでないとする事情はうかがわれない。控訴人SIの主張は採用することができない。

口頭弁論再開の要否について

控訴人SIは、当審の口頭弁論終結後である令和7年8月20日付けで、口頭弁論

の再開を求め、その理由として、当審において被控訴人が新たにした主張に反論する

必要があるとか、原判決や別件判決(知財高裁令和5年(行ケ)第10128号等・

同6年8月8日判決)の認定を前提とした主張(予備的主張を含む。)をする意向が

あるなどと述べる。

しかし、被控訴人の新たな主張と指摘されているものは、既に審理が尽くされた本

件ライセンス契約の解釈についての主張の説明方法が異なるにすぎないものといえる。

また、控訴人SIが更に求める主張は、既に審理が尽くされた上で上記のとおり判断

した本件音楽契約や本件ライセンス契約の主要な解釈とその適用を左右するものとは

認められない。

したがって、弁論を再開すべき必要性は認められない。

結論

以上のとおり、本件商標権3のA並びに本件商標権4及び5に関する訴えは不適法

であるから、原判決中これらの訴えに係る部分を取り消して訴えをいずれも却下する

こととし、控訴人らによるその余の控訴には理由がないからいずれも棄却することと

して、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第1部

裁判長裁判官

本 多 知 成

裁判官

伊 藤 清 隆

裁判官

天 野 研 司

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