ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 令和5(ワ)70738 特許権侵害差止等請求事件
| 裁判所 | 請求棄却 東京地方裁判所 |
|---|---|
| 裁判年月日 | 令和7年11月26日 |
| 事件種別 | 民事 |
| 当事者 | 原告さくら製作所株式会社 被告株式会社デバイスタイルマーケティング |
| 対象物 | ワインセラー及び霜取り制御方法 |
| 法令 |
特許権 特許法101条1号4回 特許法100条1項1回 |
| キーワード | 侵害17回 実施11回 特許権9回 間接侵害8回 進歩性4回 差止2回 無効1回 損害賠償1回 刊行物1回 |
| 主文 | 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
| 事件の概要 | 1 事案の概要 本件は、発明の名称を「ワインセラー及び霜取り制御方法」とする特許(特 許第6347076号。以下「本件特許」という。 )に係る特許権(以下「本 件特許権」という。 )を有する原告が、被告に対し、被告による別紙被告製品 目録記載1及び2の製品(以下、同目録記載1の製品を「イ号製品」 、同目録 記載2の製品を「ロ号製品」といい、これらを「被告製品」と総称する。 )の 販売及び販売の申出が本件特許権を侵害するとして、特許法100条1項及び 2項に基づき、被告製品の販売及び販売の申出の差止め並びに廃棄を求めると ともに、民法709条に基づき、損害賠償金9949万9340円(対象期間 は令和4年12月5日から令和5年12月22日まで)及びこれに対する不法 行為以後の日である令和6年3月22日から支払済みまで民法所定の年3パー |
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令和7年11月26日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
令和5年(ワ)第70738号 特許権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日 令和7年9月10日
判 決
原 告 さ く ら 製 作 所 株 式 会 社
同訴訟代理人弁護士 福 田 匡 剛
同 補 佐 人 弁 理 士 松 下 恵 三
被 告 株式会社デバイスタイルマーケ
ティング
同訴訟代理人弁護士 岸 田 洋 一
同 補 佐 人 弁 理 士 川 村 憲 正
主 文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 被告は、別紙被告製品目録記載の製品を販売し、販売のための申出をしてはならない。2 被告は、前項の製品を廃棄せよ。3 被告は、原告に対し、9949万9340円及びこれに対する令和6年3月22日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。
第2 事案の概要等
1 事案の概要本件は、発明の名称を「ワインセラー及び霜取り制御方法」とする特許(特許第6347076号。以下「本件特許」という。)に係る特許権(以下「本件特許権」という。)を有する原告が、被告に対し、被告による別紙被告製品
5 目録記載1及び2の製品(以下、同目録記載1の製品を「イ号製品」、同目録記載2の製品を「ロ号製品」といい、これらを「被告製品」と総称する。)の販売及び販売の申出が本件特許権を侵害するとして、特許法100条1項及び2項に基づき、被告製品の販売及び販売の申出の差止め並びに廃棄を求めるとともに、民法709条に基づき、損害賠償金9949万9340円(対象期間は令和4年12月5日から令和5年12月22日まで)及びこれに対する不法行為以後の日である令和6年3月22日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める事案である。2 前提事実(当事者間に争いがないか、後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実。以下、枝番号のある証拠について枝番号を記載しない場合は、全ての枝番号を含む。)
⑴ 当事者(甲1)ア 原告は、家庭用電化製品、日用雑貨品の企画、設計、開発、輸出入、売買、販売代行、アフターサービス業務等を目的とする株式会社である。イ 被告は、家庭用及び業務用電気製品の輸出入、販売、企画及び開発等を目的とする株式会社である。
⑵ 本件特許権本件特許権は、平成29年4月5日を出願日(特願2017-74863。以下「本件出願日」という。)、平成30年6月8日を登録日とする特許権である。原告は、本件特許権を保有する。(甲2)
⑶ 特許請求の範囲の記載本件特許の請求項1記載の発明(以下「本件発明」という。)に係る特許請求の範囲の記載は、以下のとおりである(以下、本件特許に係る明細書及び図面(甲2の2)を、「本件明細書」という。)。「コンプレッサーを使用した冷却方式を採用し、冷却サイクルによって冷却器に付着した霜を溶かす霜取り機能を有するワインセラーにおいて、
5 前記冷却器の近傍に配置され、冷却器周辺温度を検知する温度センサーと、前記冷却器に付着した霜を溶かすために冷却器周辺温度を上昇させる加温ヒーターと、所定のタイミングに達した場合に、前記コンプレッサーを停止するとともに前記温度センサーにより検知された冷却器周辺温度をチェックし、当該冷却器周辺温度に基づいて前記加温ヒーターを起動するか否かを判断する制御部と、を備え、前記制御部は、前記所定のタイミングで前記温度センサーにより検知された冷却器周辺温度が、前記冷却器に霜が付着する可能性のある温度として規定された「第1の温度」以下の場合に、前記加温ヒーターを起動し、前記加温ヒーターを起動した後の冷却器周辺温度が「第2の温度(「第1の温度」<「第2の温度」)」に達した場合に、前記加温ヒーターを停止し、さらに、前記加温ヒーターを停止した後の冷却器周辺温度が「第3の温度(「第2の温度」<「第3の温度」)」に達した場合に、前記コンプレッサーを再起動する、ことを特徴とするワインセラー。」
⑷ 構成要件の分説本件発明は、以下のとおり分説することができる(以下、分説に従い、「構成要件A」などという。)。A コンプレッサーを使用した冷却方式を採用し、冷却サイクルによって冷却器に付着した霜を溶かす霜取り機能を有するワインセラーにおいて、B 前記冷却器の近傍に配置され、冷却器周辺温度を検知する温度センサーと、C 前記冷却器に付着した霜を溶かすために冷却器周辺温度を上昇させる加
5 温ヒーターと、D 所定のタイミングに達した場合に、前記コンプレッサーを停止するとともに前記温度センサーにより検知された冷却器周辺温度をチェックし、当該冷却器周辺温度に基づいて前記加温ヒーターを起動するか否かを判断する制御部と、を備え、E1 前記制御部は、前記所定のタイミングで前記温度センサーにより検知された冷却器周辺温度が、前記冷却器に霜が付着する可能性のある温度として規定された「第1の温度」以下の場合に、前記加温ヒーターを起動し、E2 前記加温ヒーターを起動した後の冷却器周辺温度が「第2の温度(「第1の温度」<「第2の温度」)」に達した場合に、前記加温ヒーターを停止し、E3 さらに、前記加温ヒーターを停止した後の冷却器周辺温度が「第3の温度(「第2の温度」<「第3の温度」)」に達した場合に、前記コンプレッサーを再起動する、F ことを特徴とするワインセラー。
⑸ 被告の行為被告は、令和4年12月5日から被告製品の販売及び販売の申出をしている。
⑹ 被告製品の構成ア 基本的な構成(甲4、5、10及び11)イ号製品は、コンプレッサーを使用した冷却方式を採用するワインセラーであり、冷却器の近傍に配置された温度センサーと、冷却器周辺温度を上昇させる加温ヒーターと、所定のタイミングに達した場合にコンプレッサーを停止する制御部を備えている。ロ号製品は、コンプレッサーを使用した冷却方式を採用する上下二室構造のワインセラーであり、各室の冷却器の近傍に配置された温度センサー
5 と、各室の冷却器周辺温度を上昇させる加温ヒーターと、所定のタイミングに達した場合にコンプレッサーを停止する制御部を備えている。イ 加温ヒーターの停止及びコンプレッサーの再起動に係る設定被告製品は、加温ヒーターの停止とコンプレッサーの再起動を冷却器周辺温度によって制御している。また、被告製品の動作を制御するパラメータ(以下「パラメータ」という。)のうちP6(霜取りを停止する冷却器温度)とP11(ヒータ停止冷却器温度)は同じ温度に設定されている(イ号製品につき5℃又は20℃、ロ号製品につき3℃)。また、被告製品には、上記各パラメータの設定にかかわらず、コンプレッサーの停止からコンプレッサーの再起動までの間にコンプレッサーを保護するための待機時間を設ける構成(以下「コンプレッサーの保護機能」という。)を有している。(甲4、5)
⑺ 先行文献本件出願日前に頒布された刊行物として、以下のものが存在した。ア 特開2017-26236公報(乙3。平成29年2月2日公開。以下「乙3公報」といい、乙3公報に記載された発明を「乙3発明」という。)イ 特開2017-15296公報(乙4。平成29年1月19日公開。以下「乙4公報」といい、乙4公報に記載された発明を「乙4発明」という。)3 争点
⑴ 被告製品が本件発明の技術的範囲に属するかア 構成要件E3の充足性(争点1)イ 均等侵害の成否(争点2)
⑵ 間接侵害の成否(争点3)
⑶ 本件特許の無効の抗弁の成否ア 乙3発明に基づく進歩性の欠如(争点4)
5 イ 乙4発明に基づく進歩性の欠如(争点5)
⑷ 損害の発生及びその額(争点6)4 争点に関する当事者の主張
⑴ 争点1(構成要件E3の充足性)について(原告の主張)ア 構成要件E3の意義構成要件E3の「冷却器周辺温度が「第3の温度(「第2の温度」<「第3の温度」)」に達した場合に」とは、冷却器周辺温度が設定温度を超えるか否かに着目した動作制御を行うものであるから、結果的に冷却器周辺温度が設定温度を幾分超過した場合であっても、構成要件E3の充足性は左右しない。このことは、【請求項4】の所定のタイミングについての記載及び本件明細書の【0056】において第3の温度に達しない場合にコンプレッサーが再起動されることが想定されていることからもいえる。イ 被告製品の構成原告の実験(甲10、11)により確認された被告製品の動作(温度の実測値)に照らせば、実際には、①「P11の設定温度未満の温度」で加温ヒーターを起動し、②「P11の設定温度プラス1℃の温度」で加温ヒーターを停止し、③「P6の設定温度プラス1℃の温度より高い温度」でコンプレッサーを再起動するよう制御されている。したがって、上記①の温度<上記②の温度<上記③の温度となる。このように、被告製品では、被告製品のパラメータについて、加温ヒーターを停止させる温度(P11)とコンプレッサーを再起動させる温度(P6)が同じ温度に設定されていても、コンプレッサーを再起動させる温度(上記③の温度)は加温ヒーターを停止させる温度(上記②の温度)を上回り、上記②の温度<上記③の温度である。
5 なお、被告製品の冷却器周辺温度センサーは、仕様上0.1525℃ごとの刻みで温度変化を計測するから(甲15)、冷却器周辺温度センサーの仕様上、上記③の「いずれか高い方の温度を超えた温度」とは、具体的には、「P6の設定温度プラス1℃プラス0.1525℃」となり、上記③の温度は上記②の温度を上回る。ウ 構成要件E3の充足性(ア) 上記①の温度は「第1の温度」に、上記②の温度は「第2の温度」に、上記③の温度は「第3の温度」に相当するから、「「第2の温度」<「第3の温度」」であり、被告製品は、構成要件E3を充足する。(イ) 被告は、コンプレッサーの保護機能を理由に構成要件E3の充足性を争うが、本件発明は、冷却器周辺の温度変化に応じて加温ヒーターの起動、停止及びコンプレッサーの再起動が段階的に生じることにより加温ヒーター停止後の露の滴下時間を確保するものであり、被告製品もそのような動作をしている以上、コンプレッサーが停止した後、所定の時間が経過するまでコンプレッサーが再起動しないことがあることは、構成要件E3の充足性を左右しない。なお、P13はコンプレッサーの保護機能のパラメータではなく、コンプレッサーの保護機能による待機時間は原告の実測実験(甲16)の結果、3分20秒である。(ウ) 被告の実験(乙8)において、加温ヒーターの停止とコンプレッサーの再起動が同時に動作しているのは、冷却器周辺温度が第2の温度及び第3の温度を超えている場面であり、これは、被告製品が構成要件E3を充足しないことを示すものではない。エ なお、被告製品は、前記2⑹アの構成を有し、また、制御部が冷却器周辺温度に基づいて加温ヒーターを起動するか否かを判断する構成も有しているから、構成要件AないしD、E1、E2及びFを充足する。したがって、被告製品は、本件発明の技術的範囲に属する。
5 (被告の主張)ア 構成要件E3の意義構成要件E3は、第2の温度より高い任意の温度でコンプレッサーを再起動するというものではなく、予め設定された「第3の温度」という一定の温度に達した場合に、その定められた温度で必ずコンプレッサーが再起動されるというものである。イ 被告製品の構成(ア) 被告製品において、加温ヒーターを停止させる温度(P11)とコンプレッサーを再起動させる温度(P6)は同じ温度に設定されており、「第2の温度」より高く設定された「第3の温度」による制御は行われていない。(イ) 原告の実験(甲10)では、コンプレッサーが再起動する温度として設定された温度(P6)と、実際にコンプレッサーが再起動したときの温度が異なっており、温度による制御がどのように行われているかが明らかではない。また、わずか1回の実験結果から、被告製品の制御部が、ある一定の温度に達した場合に加温ヒーターを停止し、当該温度より高い温度に達した場合にコンプレッサーを再起動するという温度制御に係る構成を有していることを認めることはできない。(ウ) 被告製品において、コンプレッサーの再起動時の温度が加温ヒーターの停止時の温度より高くなり得るが、これは、コンプレッサーの保護機能が優先される結果であって、原告の主張する温度による制御が行われていることを裏付けるものではない。コンプレッサーの保護機能は、P13のパラメータ(コンプレッサー停止から次回起動までの遅延時間)により設定され、待機期間は約6分である。被告が行った複数回の実験(乙8)において、加温ヒーターの停止とコンプレッサーの再起動が同時に動作する様子が観察されており、これ
5 は、被告製品の制御部が、ある一定の温度に達した場合に加温ヒーターを停止し、当該温度より高い温度に達した場合にコンプレッサーを再起動するという制御をしていないことを示している。ウ 構成要件Eの充足性以上によれば、被告製品は、少なくとも構成要件E3を充足しない。
⑵ 争点2(均等侵害の成否)について(原告の主張)ア 仮に、本件発明がコンプレッサーが再起動する「第3の温度」を加温ヒーターが停止する「第2の温度」より高い温度とするのに対し、被告製品は、加温ヒーターを停止させる温度(P11)とコンプレッサーを再起動させる温度(P6)が同じ温度に設定され、コンプレッサーを再起動させる温度(P6)となっても遅延時間が経過するまではコンプレッサーが再起動しないという構成(以下「相違点に係る構成」という。)を有している点で本件発明と相違するとしても、以下のとおり、被告製品は本件発明と均等なものであり、均等侵害が成立する。イ 本件発明の技術的思想の本質は、ワインセラーとしてのきめ細やかな温度制御にある。すなわち、本件発明は、加温ヒーターが停止した後、直ちにコンプレッサーを起動して冷却を開始するのではなく、あえて冷却開始を遅らせることで温度上昇を緩やかにして温度制御をしやすくし、冷却器上の露を落とす時間を確保しつつ、ワインの劣化が生じないようにしたものであり、このような温度制御による課題解決が本質的部分であって、構成要件E3のみが本質的部分であるということはできない。そうすると、被告製品が前記の点で本件発明と相違するとしても、コンプレッサーの保護機能の結果として、加温ヒーターが停止した後の露の滴下時間を確保するという本件発明と同一の目的を達成することができ、同一の作用効果を奏するから、相違部分は本件発明の本質的部分ではな
5 く、均等の第1要件(非本質的部分)を充足する。ウ 本件発明の「第3の温度」を「第2の温度」より高い温度とする構成を、相違点に係る構成に置き換えたとしても、冷却器周辺温度が「第2の温度」に達して加温ヒーターが停止してから「第3の温度」を超過してコンプレッサーが再起動するまでに一定時間を確保することができるから、本件発明と同一の目的を達成することができ、同一の作用効果を奏するものであり、均等の第2要件(置換可能性)を充足する。エ コンプレッサーの再起動の際に遅延時間を設けることは公知技術であり、本件発明の「第3の温度」を「第2の温度」より高い温度とする構成を、相違点に係る構成に置き換えることは、当業者が容易に想到することができたから、均等の第3要件(置換容易性)を充足する。(被告の主張)ア 本件発明の本質的部分は、加温ヒーターを停止した後の冷却器周辺温度が「第3の温度」(>「第2の温度」)に達した場合にコンプレッサーが再起動するという制御処理の部分(構成要件E3)である。前記⑴(被告の主張)のとおり、被告製品は、上記制御処理を行う構成を有していないから、本件発明と本質的部分において相違しており、均等の第1要件(非本質的部分)を充足しない。イ 原告は、被告製品は冷却器周辺が「第2の温度」に達してヒーターが停止してから「第3の温度」を超過してコンプレッサーが再起動するまでに一定時間を確保することができると主張するが、冷却器周辺温度が所定の温度に達した場合、加温ヒーターの停止とコンプレッサーの再起動が同時に行われ、冷却器に残存する露が落ちる時間は確保されないのが通常であって、本件発明と同一の目的を達成することはできず、同一の作用効果を奏するものでもないから、均等の第2要件(置換可能性)を充足しない。
⑶ 争点3(間接侵害の成否)について
5 (原告の主張)被告は、業として、被告製品の生産に用いる制御基板(以下「被告制御基板」という。)を生産又は輸入している。被告制御基板は、被告製品の生産にのみ用いる物であるか、少なくとも本件発明の温度制御による課題の解決に不可欠な物であり、被告は、本件発明が特許発明であること及び被告制御基板が本件発明の実施に用いられることを知っていた。したがって、被告の上記行為について特許法101条1号又は2号の間接侵害が成立する。(被告の主張)否認ないし争う。前記⑴、⑵(被告の主張)のとおり被告製品は本件発明の技術的範囲に属するものではないから、被告制御基板の生産又は輸入について特許法101条1号又は2号の間接侵害は成立しない。
⑷ 争点4(乙3発明に基づく進歩性の欠如)について(被告の主張)ア 乙3発明乙3公報には次の乙3発明が記載されている(以下、引用発明の構成について、「構成3a」、「構成3b」などということがある。)。3a 圧縮機(コンプレッサー)、凝縮器、流路の開閉を行う開閉弁、冷媒の圧力を減圧する減圧装置、蒸発器を順に配管で接続した冷媒の循環流路(冷却サイクル)を備え、前記循環流路に冷媒を循環させる通常運転と前記蒸発器の除霜を行う除霜運転とを切り替えて運転を行う冷凍サイクル装置である。3b ヘッダー9(冷却器8の各伝熱管から流出したガス冷媒を合流させる例えば円筒形状の容器)には、ヘッダー9内の冷媒温度を検出するヘッダーサーミスタ9aが取り付けられている。
5 3c 冷却器8の近傍には除霜ヒータ11が配置されている。3d ヘッダーサーミスタ9aの検出温度が例えば-30℃(第2規定値)に達した場合に、圧縮機をON状態からOFF状態に切り替えるとともに除霜ヒータ11の加熱運転を開始することを判断する制御装置10を備えている。3e1 ヘッダーサーミスタ9aの検出温度が例えば-30℃(第2規定値)になると制御装置10は低圧側の冷媒が回収されたと判断し、除霜ヒータ11を運転し、冷却器8の除霜を行う。3e2 除霜ヒータ11の運転によりヘッダーサーミスタ9aの検出温度が、例えば0℃(第3規定値{第2規定値<第3規定値})まで上昇すると、除霜ヒータ11の運転を停止する。3e3 検出温度が例えば10℃(第4規定値{第3規定値<第4規定値})まで上昇したところで圧縮機を再駆動し、通常冷却運転に復帰する。イ 本件発明と乙3発明の相違点(ア) 本件発明と乙3発明は、以下の相違点3-1及び3-2において相違し、その余の点において一致する。(相違点3-1)本件発明は、コンプレッサーを使用した冷却方式を採用し、冷却サイクルによって冷却器に付着した霜を溶かす霜取り機能を有する装置が「ワインセラー」であるのに対して、乙3発明は、「冷凍サイクル装置」である点。(相違点3-2)本件発明は、コンプレッサーの停止が「所定のタイミングに達した場合」に実施され、加温ヒーターの起動が「所定のタイミングに達した場合」に温度センサーにより検知された冷却器周辺温度のチェック結果に
5 基づいて実施されるのに対して、乙3発明は、圧縮機(コンプレッサー)の停止及び除霜ヒータ11の起動が、いずれも第2規定値に達した場合に実施される点。(イ) 原告の主張する相違点3-3ないし3-8は認められない。ウ 相違点3-1について乙4公報には、コンプレッサーを使用した冷却方式を採用し、冷却サイクルによって冷却器に付着した霜を溶かす霜取り機能を有するワインセラーが記載されている。乙3発明の冷凍サイクル装置と乙4公報記載のワインセラーは技術分野及び物理的構造が共通する。したがって、相違点3-1の構成は、乙3発明に乙4公報記載の事項を適用することにより、当業者が容易に想到することができた。エ 相違点3-2について(ア) 構成要件Dの「所定のタイミングに達した場合」には、温度センサーにより検知された冷却器周辺温度が「第1の温度」に達した場合も含まれる。したがって、相違点3-2は実質的な相違点ではない。(イ) 除霜運転の開始に際し、タイマの設定時間に到達した場合に、圧縮機(コンプレッサー)を停止させることは周知技術(乙5~7等)であるから、これを乙3発明に適用することは当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎない。したがって、相違点3-2の構成は、乙3発明に上記周知技術を適用することにより、当業者が容易に想到することができた。オ 小括(争点4)以上によれば、本件発明は、本件出願日当時の当業者が乙3発明に基づいて容易に発明することができた。(原告の主張)ア 本件発明と乙3発明の相違点本件発明と乙3発明は、被告の主張する相違点3-1及び3-2に加え
5 て、以下の相違点3-3ないし3-8において相違する(被告の主張する相違点3-1についても、本件発明はワインセラーであるのに対して、乙3発明は冷凍サイクル装置である点で相違することは認めるが、その余は争う。)。(ア) 相違点3-3本件発明(構成要件B)では、温度センサーは冷却器の近傍に配置されているのに対し、乙3発明(構成3b)では、ヘッダーサーミスタ9aが冷却器8の近傍に配置されていない点。(イ) 相違点3-4本件発明(構成要件C等)の加温ヒーターは、霜取りのほか、ワインセラー内部の温度を上げるためにも用いられるのに対して、乙3発明の除霜ヒータ11(構成3c等)は、冷凍サイクル装置の内部を加温しない点。(ウ) 相違点3-5本件発明(構成要件D)では、温度センサーにより冷却器周辺温度が検知されるのに対して、乙3発明(構成3d)では、ヘッダーサーミスタ9aにより検知されるのはヘッダー9内の冷媒温度であり、冷却器8周辺温度ではない点。(エ) 相違点3-6本件発明(構成要件E1)では、冷却器に霜が付着する可能性のある温度として規定された「第1の温度」以下の場合に加温ヒーターを起動するのに対して、乙3発明(構成3e1)では、除霜運転開始の温度(第1規定値)を超えても除霜ヒーター11による加温が開始しない点。(オ) 相違点3-7本件発明(構成要件E2)では、冷却器周辺温度に基づき加温ヒーターが停止するのに対して、乙3発明(構成3e2)では、冷却器8周辺
5 温度に基づく動作制御がされていない点。(カ) 相違点3-8本件発明(構成要件E3)では、冷却器周辺温度に基づきコンプレッサーを再起動するのに対して、乙3発明(構成3e3)では、冷却器8周辺温度に基づく動作制御がされていない点。イ 相違点3-1について乙3発明の冷凍サイクル装置と乙4公報記載のワインセラーは、凍結の有無及び装置内部の加温の有無等の点で根本的に異なるものであり、技術分野及び物理的構造が全く異なる。したがって、相違点3-1の構成について、乙3発明に乙4公報記載の事項を適用することにより、当業者が容易に想到することができたとはいえない。ウ 相違点3-2について乙3発明に周知技術(乙5~7等)を適用する動機付けはなく、相違点3-2の構成について、乙3発明に周知技術(乙5~7等)を適用することにより、当業者が容易に想到することができたとはいえない。エ 小括(争点4)以上によれば、本件発明は、本件出願日当時の当業者が、乙3発明に基づいて容易に発明することができたものとはいえない。
⑸ 争点5(乙4発明に基づく進歩性の欠如)について(被告の主張)ア 乙4発明乙4公報には次の乙4発明が記載されている。4a コンプレッサーを使用した冷却方式を採用し、冷却サイクルによって冷却器に付着した霜を溶かす霜取り機能を有するワインセラーである。4b 冷却器の近傍に配置され、冷却器周辺温度を検知する霜取り温度
5 センサー24a、24bを備える。4c 冷却器に一体化して設置され、周辺温度を上昇させる加温ヒーター25a、25bを備える。4d 定期的に霜取り制御を行う制御回路21を備え、冷却器の温度が上がって霜取りが終了した場合にこれを検知した霜取り温度センサー24a、24bは制御回路21に通知する。イ 本件発明と乙4発明の相違点本件発明と乙4発明は、以下の相違点4-1及び4-2において相違し、その余の点において一致する。(相違点4-1)本件発明では、所定のタイミングに達した場合に、コンプレッサーを停止するとともに、温度センサーにより検知された冷却器周辺温度をチェックし、当該冷却器周辺温度に基づいて加温ヒーターを起動するかどうかを制御部が判断するのに対して、乙4発明では、この点に関して何ら特定されていない点。(相違点4-2)構成要件E1ないしE3に関して、乙4発明では何ら特定されていない点。ウ 相違点4-1について(ア) 前記⑷(被告の主張)エ(ア)と同様に、相違点4-1は実質的な相違点ではない。(イ) 前記⑷(被告の主張)ウ及びエ(イ)のとおり、乙4発明と乙3公報記載の冷凍サイクル装置は技術分野及び物理的構造が共通し、また、除霜運転の開始に際し、タイマの設定時間に到達した場合に、コンプレッサー(圧縮機)を停止させることは周知技術(乙5~7等)である。したがって、相違点4-1の構成は、乙4発明に乙3公報記載の構成3d
5 を適用し、更に上記周知技術を適用することにより、当業者が容易に想到することができた。エ 相違点4-2について前記⑷(被告の主張)ウのとおり、乙4発明のワインセラーと乙3公報記載の冷凍サイクル装置は技術分野及び物理的構造が共通する。したがって、相違点4-2の構成は、乙4発明に乙3公報記載の構成3eないし3gを適用することにより、当業者が容易に想到することができた。オ 小括(争点5)以上によれば、本件発明は、本件出願日当時の当業者が乙4発明に基づいて容易に発明することができた。(原告の主張)ア 相違点4-1及び4-2について前記⑷(原告の主張)アのとおり、乙3公報記載の冷凍サイクル装置では、ヘッダーサーミスタ9aはヘッダー9内の冷媒温度を測定しており、冷却器8周辺温度を測定していないから、乙4発明に乙3公報記載の事項を適用し、これを被告の主張する周知技術と組み合わせたとしても、相違点4-1及び4-2の構成には至らない。もとより、乙3公報記載の冷凍サイクル装置は、冷媒温度が第4規定値となったときに圧縮機を運転するものであり、これを相違点4-1及び4-2の構成とするためには、冷媒温度を基準として圧縮機の制御を行う構成から冷却器周辺温度を基準として圧縮機の制御を行う構成へと根本的に変更しなければならず、そのような変更は困難である。乙4発明に乙3公報記載の事項を適用する動機付けもない。したがって、相違点4-1及び4-2の構成について、当業者が容易に想到することができたとはいえない。イ 小括(争点5)
5 以上によれば、本件発明は、本件出願日当時の当業者が、乙4発明に基づいて容易に発明することができたものとはいえない。
⑹ 争点6(損害の発生及びその額)について(原告の主張)ア 特許法102条1項1号の損害原告は、被告製品に対応する製品を販売しているところ、令和4年12月から令和5年9月までの被告製品の譲渡数量(イ号製品は1475台、ロ号製品は1590台である。)及び原告の製品の利益額(イ号製品に対応する製品は2万1728円、ロ号製品に対応する製品は3万9906円である。)に照らすと、特許法102条1項1号の損害は、イ号製品につき3204万8800円(1475台×2万1728円)、ロ号製品につき6345万0540円(1590台×3万9906円)の合計9549万9340円である。イ 弁護士費用及び弁理士費用被告による不法行為と相当因果関係が認められる弁護士費用及び弁理士費用相当の損害額は400万円を下らない。(被告の主張)否認ないし争う。なお、令和4年12月から令和5年9月までの被告製品の譲渡数量はイ号製品につき39台、ロ号製品につき45台である。
第3 当裁判所の判断
1 本件明細書の記載
⑴ 本件明細書には、次の記載がある(図面は別紙本件図面目録のとおりであ
ると認められる。)。ア 技術分野【0001】本発明は、冷却器に付着した霜を溶かす霜取り機能を有するワインセラーに関する。
5 イ 背景技術
【0002】従来から下記特許文献1〔判決注:特開2003-35483号公報〕に記載されているような霜取り制御が知られている。たとえば、下記特許文献1に記載された冷蔵庫は、冷却器に付着した霜を溶かすための霜取りヒーターと、冷却器の近傍に設置されたサーミスタとを有する構成とし、定期的に霜取りヒーターを起動して霜取り運転を実行する。そして、霜取り運転中に、サーミスタにて検出された温度が所定温度以上となった場合、または、霜取りヒーターの通電時間が設定時間に達した場合に、霜取りヒーターを停止して霜取り運転を終了する。ウ 発明が解決しようとする課題【0004】上記特許文献1においては、庫内を低温(零下)に保持可能な冷蔵庫の霜取り制御について記載されており、具体的には、冷却器に必ず霜が付着することを前提とした利用環境において、冷却器に付着した霜を取るために定期的に霜取りヒーターを起動する霜取り制御が開示されている。【0005】しかしながら、冷却器に霜が付着しない程度の庫内温度設定で動作可能なワインセラーには、上記従来の霜取り制御を一律に適用することは効率的ではない。すなわち、無駄な霜取り運転動作を回避する観点から上記従来の霜取り制御には改善の余地がある。【0006】また、ワインセラーは、庫内湿度を保持する目的から庫内の水分を排水せずに溜める構造(水を溜める皿等の設置)になっており、冷蔵庫と異なり、長時間運転後も庫内湿度が高い。そのため、高湿度を保持するワインセラーにおいては、従来のように霜取りヒーターを利用して霜を露にするだけでは冷却器に露が付着した状態での再霜化が繰り返されることになり、残存する露による霜に新たな霜が付着して結果的に冷却器に付着する霜が増殖してしまう、という問題があった。
5 【0007】本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、利用環境
に応じて最適な霜取り運転を行うワインセラーを提供することを目的とする。エ 課題を解決するための手段【0008】上述した課題を解決し、目的を達成するために、本願に開示されたワインセラーは、コンプレッサーを使用した冷却方式を採用し、冷却サイクルによって冷却器に付着した霜を溶かす霜取り機能を有することとし、前記冷却器の近傍に配置され冷却器周辺温度を検知する温度センサーと、前記冷却器に付着した霜を溶かすために冷却器周辺温度を上昇させる加温ヒーターと、所定のタイミングに達した場合に前記コンプレッサーを停止するとともに前記温度センサーにより検知された冷却器周辺温度をチェックし、当該冷却器周辺温度に基づいて前記加温ヒーターを起動するか否かを判断する制御部と、を備え、前記制御部は、前記所定のタイミングで前記温度センサーにより検知された冷却器周辺温度が、前記冷却器に霜が付着する可能性のある温度として規定された「第1の温度」以下の場合に、前記加温ヒーターを起動し、前記加温ヒーターを起動した後の冷却器周辺温度が「第2の温度(「第1の温度」<「第2の温度」)」に達した場合に、前記加温ヒーターを停止し、さらに、前記加温ヒーターを停止した後の冷却器周辺温度が「第3の温度(「第2の温度」<「第3の温度」)」に達した場合に、前記コンプレッサーを再起動する、ことを特徴とする。オ 発明の効果【0010】本願に開示のワインセラーは、利用環境に応じて最適な霜取り運転を行うことができる、という効果を奏する。カ 実施例【0052】<霜取り制御の具体例>以下、本実施例の霜取り制御方法
5 をフローチャートに従い詳細に説明する。図9は、本実施例の霜取り制
御方法を示すフローチャートである。【0053】定常状態…において(図9、ステップS31,No)、たとえば、通電累積時間Z1が6hの倍数に達した場合(ステップS31,Yes)、制御回路11は、コンプレッサー31を停止(OFF)するとともに(すでにコンプレッサー31がOFFのときにOFF状態を維持する場合、を含む)、霜取り温度センサー24から得られる冷却器36の周辺温度Eをチェックする(ステップS32)。本実施例のワインセラー1は、Z1の検出(ステップS31,Yes)を起点として通常動作モードから霜取りモードへ移行し、その後、コンプレッサー31の動作再開(ON)と同時に霜取りモードから通常動作モードへ移行するものとする。…【0054】ステップS32により冷却器36の周辺温度Eをチェックした結果、Eが1℃以下の場合(ステップS33,Yes)、制御回路11は、加温ヒーター25を起動(ON)し(ステップS34)、その後、冷却器36の周辺温度Eを監視する(ステップS35,No、ステップS36,No)。加温ヒーター25ONにより、冷却器36の霜取りが開始される。なお、本実施例では、加温ヒーター25を起動する条件を「E≦1℃」としているが、これに限るものではなく、たとえば、用途および利用環境等を考慮し、冷却器36に霜が付着する可能性のある値として規定されたものであれば、どのような値であってもよい。また、この条件により、後述する「E=2℃」および「E=3℃」等の条件も可変となる。【0055】ステップS35により冷却器36の周辺温度Eを監視中に、たとえば、Eが2℃に達した場合(ステップS35,Yes)、制御回路11は、加温ヒーター25を停止(OFF)し(ステップS37)、
5 さらに、冷却器36の周辺温度Eを監視する(ステップS38,No)。
制御回路11は、たとえば、Eが2℃に達した時点で、冷却器36に付着した霜が溶け、露に変化したものと判断する。【0056】そして、ステップS38により冷却器36の周辺温度Eを監視中に、たとえば、Eが3℃に達した場合(ステップS38,Yes)、制御回路11は、コンプレッサー31を再起動(ON)し(ステップS39)、霜取りモードから通常動作モードへ移行する。本実施例では、Eが2℃から3℃に達するまでの時間を、露として冷却器36に残存する水滴を落とすための時間として使用する。これにより、冷却器36に残存する水滴(露)を減らすことができ、さらに、冷却器36を再冷却したとき(冷却サイクルを再起動したとき)の霜の増殖を回避することができる。なお、本実施例では、冷却器36の周辺温度Eが2℃から3℃まで上昇することを前提としているが、たとえば、室内温度が非常に低い場合等、利用環境によって2℃から3℃へ上昇するまでに時間がかかるケース、または3℃まで上昇しないケースを想定し、加温ヒーター25の稼働時間に制限を持たせ(たとえば、30分等)、制限時間内に3℃まで上昇しない場合にはコンプレッサー31を強制的に再起動(通常動作モードへ移行)することとしてもよい。
⑵ 前記⑴によれば、本件発明の技術的意義は次のとおりである。
本件発明は、冷却器に付着した霜を取るために定期的に霜取りヒーターを起動するという冷蔵庫の霜取り制御に関する従来技術について、これを庫内温度及び庫内湿度が異なるワインセラーに適用すると、無駄な霜取り運転動作を回避する観点から改善の余地があったほか、霜取りヒーターを利用して霜を露にするだけでは冷却器に露が付着した状態での再霜化が繰り返され、残存する露による霜に新たな霜が付着して結果的に冷却器に付着する霜が増殖してしまうという課題があったところ、これを解決するため、制御部が、
5 冷却器に霜が付着する可能性のある温度として規定された「第1の温度」以
下の場合に、加温ヒーターを起動し、加温ヒーターを起動した後の冷却器周辺温度が「第2の温度(「第1の温度」<「第2の温度」)」に達した場合に、加温ヒーターを停止し、さらに、加温ヒーターを停止した後の冷却器周辺温度が「第3の温度(「第2の温度」<「第3の温度」)」に達した場合に、前記コンプレッサーを再起動する構成を採用したものであり、第1の温度以下の場合でなければ加温ヒーターを起動しないことで無駄な霜取り運転動作を回避し、また、冷却器周辺温度が第2の温度から第3の温度に達するまでの時間を、露として冷却器に残存する水滴を落とすための時間として使用して、冷却器に残存する水滴(露)を減らすことができ、さらに、冷却器を再冷却したとき(冷却サイクルを再起動したとき)の霜の増殖を回避することができるとの効果を奏する(【0004】~【0008】、【0056】)。
2 争点1(構成要件E3の充足性)について
⑴ 構成要件E3の意義
ア 構成要件E3は、「前記加温ヒーターを停止した後の冷却器周辺温度が「第3の温度(「第2の温度」<「第3の温度」)」に達した場合に、前記コンプレッサーを再起動する」というものであり、これは「制御部」(構成要件D及びE1)が行う動作を規定するものである。また、「第2の温度」は、冷却器周辺温度が当該温度に達した場合に制御部において加温ヒーターを停止する温度(構成要件E2、D及びE1)である。以上の特許請求の範囲の記載の文言によれば、構成要件E3は、制御部が、加温ヒーターを停止した後の冷却器周辺温度が、当該温度に達した場合に制御部において加温ヒーターを停止する所定の温度(「第2の温度」)より高い所定の温度(「第3の温度」)に達した場合にコンプレッサーを再起動することをいうものと解される(以下、このような構成を「構成要件E3の構成」という。)。
5 本件明細書の、冷却器36の周辺温度Eを監視中に、Eが2℃に達した
場合、制御回路11は、加温ヒーター25を停止すること(【0055】)、Eが3℃に達した場合、制御回路11は、コンプレッサー31を再起動すること(【0056】)の記載もこのような解釈に沿うものである。イ これに対し、原告は、構成要件E3の「冷却器周辺温度が「第3の温度(「第2の温度」<「第3の温度」)」に達した場合に」とは、冷却器周辺温度が設定温度を超えるか否かによって動作制御を行うものであるから、結果的に冷却器周辺温度が設定温度を幾分超過した場合であっても、構成要件E3の充足性は左右しないと主張する。その主張の趣旨は必ずしも明らかではないが、上記アのとおり、第2の温度及び第3の温度は、いずれも、所定の温度を指すものであるから、第3の温度を超える任意の温度でコンプレッサーを再起動することを意味するものではない。
⑵ 被告製品の構成及び構成要件E3の充足性
ア 原告は、被告製品の制御部は、「P11の設定温度プラス1℃の温度」(②の温度)で加温ヒーターを停止し、「P6の設定温度プラス1℃の温度より高い温度」(③の温度)、具体的には「P6の設定温度プラス1℃プラス0.1525℃」でコンプレッサーを再起動するという構成(以下「本件構成」という。)を有していると主張する。イ そこで検討するに、原告の実験によれば、①イ号製品(P11=P6=20℃)について、加温ヒーターが停止した際の温度が21℃、コンプレッサーが再起動した際の温度が23℃、②ロ号製品(P11=P6=3℃)について、加温ヒーターが停止した際の温度が4℃、コンプレッサーが再起動した際の温度が10℃という結果が確認されたことが認められる(甲10、11及び弁論の全趣旨)。また、被告の複数回にわたる実験によれば、❶「コンプレッサー停止か
5 ら次回起動までの遅延時間」のパラメータであるP13の設定を変更する
ことにより、コンプレッサーの停止からコンプレッサーの再起動までの時間(以下「遅延時間」という。)の設定が変更できること、❷コンプレッサーの停止から加温ヒーターの停止までの時間が遅延時間を超える場合には、加温ヒーターの停止とコンプレッサーの再起動が同時であり、その際の温度は同じであること、❸コンプレッサーの停止から加温ヒーターの停止までの時間が遅延時間より短い場合には、加温ヒーターが停止した後にコンプレッサーが再起動し、イ号製品(P11=P6=20℃)では加温ヒーターが停止した際の温度よりコンプレッサーが再起動した際の温度の方が低く、ロ号製品(P11=P6=3℃)では加温ヒーターが停止した際の温度よりコンプレッサーが再起動した際の温度の方が高いが、コンプレッサーが再起動した際の温度は複数の実験によってまちまちであり、他方、コンプレッサーの停止からコンプレッサーの再起動までの時間は遅延時間と一致することが確認されたことが認められる (甲4、5、乙8)。ウ そこで検討するに、原告の実験は、コンプレッサーが再起動した際の温度は、加温ヒーターが停止した際の温度より2℃(イ号製品)ないし6℃(ロ号製品)高いというものであり、被告製品の制御部が、加温ヒーターを停止させる温度より「0.1525℃」高い温度でコンプレッサーを再起動させる構成を有していることをうかがわせるものではないから、被告製品が本件構成を有することを示すものとはいえない。また、被告の実験も、被告製品の制御部が、加温ヒーターを停止させる温度より「0.1525℃」高い温度でコンプレッサーを再起動させる構成を有していることをうかがわせるものではなく、被告製品が本件構成を有することを示すものとはいえない。また、原告の実験及び被告の実験の一部(❸のロ号製品)において、加温ヒーターを停止した際の温度よりコンプレッサーを再起動した際の温度
5 の方が高いという結果が得られているが、コンプレッサーの再起動の際の
温度はまちまちであり、被告製品の制御部が、加温ヒーターを停止する所定の温度より高い所定の温度に達した場合にコンプレッサーを再起動するという構成要件E3の構成を有することを基礎付けるものとはなっていない。さらに、被告の実験の一部(❸のイ号製品)においては加温ヒーターを停止した際の温度よりコンプレッサーを再起動した際の温度の方が低いから、被告製品が構成要件E3の構成を有することと整合しない。以上によれば、被告製品が本件構成を有しているとは認められないし、被告製品が構成要件E3の構成に相当する構成を有していることを認めることもできない。エ よって、被告製品が構成要件E3を充足するとはいえないから、被告製品について、本件発明の技術的範囲に属するということはできない。
3 争点2(均等侵害の成否)について
⑴ 特許請求の範囲に記載された構成中に相手方が製造等をする製品(対象製
品)と異なる部分が存する場合であっても、①同部分が特許発明の本質的部分ではなく、②同部分を対象製品におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏するものであって、③上記のように置き換えることに、当業者が、対象製品の製造等の時点において容易に想到することができたものであり、④対象製品が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから同出願時に容易に推考できたものではなく、かつ、⑤対象製品が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは、同対象製品は、特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当である(最高裁平成6年(オ)第1083号同10年2月24日第三小法廷判決・民集52巻1号113頁、最高裁平成28年(受)第1242号同29年3月24日第二小
5 法廷判決・民集71巻3号359頁参照)。
⑵ 本件発明と被告製品の相違
前記2⑵によれば、被告製品は、制御部が、加温ヒーターを停止した後に、冷却器周辺温度が「第2の温度」(当該温度に達した場合に制御部において加温ヒーターを停止する温度)より高い「第3の温度」に達した場合にコンプレッサーを再起動する構成を有していない点で本件発明と相違する。
⑶ 第1要件の充足性
均等の第1要件にいう特許発明の本質的部分とは、当該特許発明の特許請求の範囲の記載のうち、従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分であると解され、第1要件、すなわち対象製品との相違部分が非本質的部分であるかどうかを判断する際には、上記のとおりの特許発明の本質的部分を対象製品が共通に備えているかどうかを判断し、これを備えていると認められる場合には、相違部分は本質的部分ではないというべきである。前記1⑵に認定した本件発明の技術的意義に照らせば、本件発明は、霜取り制御の従来技術をワインセラーに適用した場合の、無駄な霜取り運転動作及び冷却器に付着した露の再霜化による冷却器に付着する霜の増殖という課題を解決するため、制御部が、冷却器に霜が付着する可能性のある温度として規定された「第1の温度」以下の場合に、前記加温ヒーターを起動し、加温ヒーターを起動した後の冷却器周辺温度が「第2の温度(「第1の温度」<「第2の温度」)」に達した場合に、加温ヒーターを停止し、さらに、加温ヒーターを停止した後の冷却器周辺温度が「第3の温度(「第2の温度」<「第3の温度」)」に達した場合に、前記コンプレッサーを再起動する構成を解決手段とし、これにより、無駄な霜取り運転動作を回避し、また、冷却器に残存する水滴を減らして冷却器を再冷却したときの霜の増殖を回避するという効果が得られるものである。以上のとおりの本件発明の課題及び解決手段とその効果に照らすと、本件
5 発明の本質的部分(特許請求の範囲に記載された構成のうち従来技術に見ら
れない特有の技術的思想を構成する特徴的部分)は、制御部が、冷却器に霜が付着する可能性のある温度として規定された「第1の温度」以下の場合に加温ヒーターを起動し、加温ヒーターを起動した後の冷却器周辺温度が「第2の温度(「第1の温度」<「第2の温度」)」に達した場合に、加温ヒーターを停止し、加温ヒーターを停止した後の冷却器周辺温度が「第3の温度(「第2の温度」<「第3の温度」)」に達した場合に、前記コンプレッサーを再起動するという構成を採用することにより、無駄な霜取り運転動作を回避し、また、冷却器に残存する水滴を減らして冷却器を再冷却したときの霜の増殖を回避することを可能とした点にあると解するのが相当である。そうすると、被告製品は、本件発明の本質的部分を共通に備えているとはいえず、前記⑵の相違部分が非本質的部分であるとはいえないから、均等の
第1要件を充足しない。
⑷ これに対し、原告は、被告製品のコンプレッサーの保護機能の結果、加温
ヒーターが停止した後の露の滴下時間を確保するという本件発明と同一の目的を達成することができ、同一の作用効果を奏するから、第1要件を充足すると主張する。しかしながら、被告製品において、コンプレッサーの保護機能によって加温ヒーターが停止した後に露の滴下時間が確保され、冷却器に残存する水滴を減らすという本件発明と同様の結果が得られるとしても、被告製品が、本件発明の本質的部分を共通に備えていないことに変わりはないから、原告の主張は採用することができない。
⑸ 以上によれば、その余の点について検討するまでもなく、被告製品につい
て、本件発明の構成と均等なものとして、本件発明の技術的範囲に属するということはできない。
4 争点3(間接侵害の成否)について
5 原告は、被告制御基板が被告製品の生産にのみ用いる物であるか、少なくと
も課題解決に不可欠な物であるとして、被告が被告制御基板を業として生産又は輸入する行為について特許法101条1号又は2号の間接侵害が成立すると主張する。しかしながら、前記2で説示したとおり、被告制御基板を含むとされる被告製品が構成要件E3を充足することは認められないから、原告の上記主張は前提を欠くものであって、採用することはできない。したがって、被告制御基板の生産又は輸入について特許法101条1号又は2号の間接侵害が成立するということはできない。
5 小括
以上のとおり、
(原告の主張)
する特許権侵害(文言侵害、均等侵害及び間接侵害)はいずれも成立しない。
第4 結論
以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がないから、これらを棄却することとして、主文のとおり判決する。東京地方裁判所民事第46部裁判長裁判官 髙 橋 彩裁判官 西 山 芳 樹裁判官 瀧 澤 惟 子(別紙)被告製品目録
1 ワインセラー
製品番号 WG-C32W
2 ワインセラー
製品番号 DWG-C27W(別紙)本件図面目録【図9】以上
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