ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 令和6(ワ)70096等 特許権侵害差止等請求本訴事件不正競争行為差止等請求反訴事件
| 裁判所 | 一部認容 東京地方裁判所 |
|---|---|
| 裁判年月日 | 令和7年10月9日 |
| 事件種別 | 民事 |
| 対象物 | 凹凸素材の遮熱構造 |
| 法令 |
特許権 特許法102条2項6回 特許法2条3項1号4回 特許法102条3項4回 特許法100条1項1回 民法719条1項1回 |
| キーワード | 侵害94回 特許権37回 無効21回 差止17回 実施15回 進歩性6回 新規性4回 損害賠償3回 訂正審判1回 無効審判1回 ライセンス1回 |
| 主文 | 1 被告山創は、原告に対し、371万0485円及びこれに対する令和 6年4月24日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 2 被告山創は、別紙物件目録記載の遮熱構造を生産してはならない。 3 原告は、被告ライフテックに対し、330万円及びこれに対する令和 6年6月1日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 4 原告は、被告山創に対し、110万円及びこれに対する令和6年6月 1日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 5 原告は、 6 原告のその余の請求をいずれも棄却する。 7 被告ライフテックのその余の請求をいずれも棄却する。 8 被告山創のその余の請求をいずれも棄却する。 9 訴訟費用は、本訴及び反訴を通じ、原告に生じた費用の2分の1と被 10 この判決は、 |
| 事件の概要 | 1 事案の概要 本訴事件は、発明の名称を「凹凸素材の遮熱構造」とする特許第544580 8号の特許(以下「本件特許」という。)に係る特許権(以下「本件特許権」と いう。)を有する原告が、被告山創が生産する遮熱構造は、本件特許の特許請求 の範囲の請求項1に係る発明 (以下 「本件発明」 という。 ) の技術的範囲に属し、 本件特許権を侵害すると主張して、 被告らに対し、 特許法100条1項に基づき、 別紙物件目録記載の遮熱構造の生産の差止めを求めるとともに、特許権侵害の不 法行為に基づき、損害金1000万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(被 |
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令和7年10月9日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
令和6年(ワ)第70096号 特許権侵害差止等請求本訴事件
令和6年(ワ)第70274号 不正競争行為差止等請求反訴事件
口頭弁論終結日 令和7年8月25日
判 決
本訴原告兼反訴被告 日 本 遮 熱 株 式 会 社
(以下「原告」という。)
同訴訟代理人弁護士 堀 籠 佳 典
同訴訟代理人弁護士 服 部 謙 太 朗
同訴訟代理人弁護士 足 立 梓
同訴訟代理人弁理士 福 田 伸 一
同補佐人弁理士 高 橋 克 宗
本訴被告兼反訴原告 株式会社ライフテック
(以下「被告ライフテック」という。)
本訴被告兼反訴原告 山 創 株 式 会 社
(以下「被告山創」という。)
上記両名訴訟代理人弁護士 笠 原 基 広
上記両名訴訟代理人弁護士 野 村 信 之
上記両名訴訟復代理人弁理士 榊 原 靖
上記両 名補 佐人 弁理 士 木 村 満
上記両名補佐人弁理士 佐 藤 彩 秋
上記両名補佐人弁理士 庄 野 寿 晃
上記両名補佐人弁理士 橋 本 幸 治
上記両名補佐人弁理士 加 藤 道 幸
上記両名補佐人弁理士 中 嶋 幸 江
上記両名補佐人弁理士 長 谷 川 陽 子
主 文
1 被告山創は、原告に対し、371万0485円及びこれに対する令和
6年4月24日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。
2 被告山創は、別紙物件目録記載の遮熱構造を生産してはならない。
5 3 原告は、被告ライフテックに対し、330万円及びこれに対する令和
6年6月1日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。
4 原告は、被告山創に対し、110万円及びこれに対する令和6年6月
1日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。
5 原告は、別紙文言目録記載1及び3の文言を第三者に告知してはなら
ない。
6 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
7 被告ライフテックのその余の請求をいずれも棄却する。
8 被告山創のその余の請求をいずれも棄却する。
9 訴訟費用は、本訴及び反訴を通じ、原告に生じた費用の2分の1と被
告ライフテックに生じた費用はこれを12分し、その11を原告の負担
とし、その余は被告ライフテックの負担とし、原告に生じたその余の費
用と被告山創に生じた費用は、これを2分し、その1を原告の負担とし、
その余は被告山創の負担とする。
10 この判決は、第1項ないし第5項に限り、仮に執行することができる。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 本訴事件
⑴ 被告らは、別紙物件目録記載の遮熱構造を生産してはならない。
⑵ 被告らは、原告に対し、連帯して、1000万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで、年3分の割合による金員を支払え。2 反訴事件
⑴ 原告は、別紙文言目録記載の各文言を第三者に告知してはならない。
⑵ 原告は、被告らに対し、それぞれ330万円及びこれに対する令和6年6月1日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。
⑶ 原告は、別紙謝罪文目録記載の内容の謝罪文を、自ら運営するウェブサイト
5 (http://以下省略)のトップページに、180日間掲載せよ。
第2 事案の概要等
1 事案の概要本訴事件は、発明の名称を「凹凸素材の遮熱構造」とする特許第5445808号の特許(以下「本件特許」という。)に係る特許権(以下「本件特許権」という。)を有する原告が、被告山創が生産する遮熱構造は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)の技術的範囲に属し、本件特許権を侵害すると主張して、被告らに対し、特許法100条1項に基づき、別紙物件目録記載の遮熱構造の生産の差止めを求めるとともに、特許権侵害の不法行為に基づき、損害金1000万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(被告山創につき令和6年4月24日、被告ライフテックにつき同月26日)から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。反訴事件は、被告らが、原告がその取引先に対して、被告らが原告の保有する特許権を侵害し又は侵害している可能性がある旨の電子データを配布した行為(以下「本件告知」という。)が、不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項21号にいう不正競争を構成すると主張して、原告に対し、同法3条1項に基づき、同行為の差止めを求めるほか、同行為により被告らに損害が生じたと主張して、同法4条に基づき、被告らそれぞれに対し、損害金330万円及びこれに対する令和6年6月1日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求め、さらに、同行為により営業上の信用を毀損されたと主張して、同法14条に基づき、原告が運営するウェブサイトへの謝罪文の掲載を求める事案である。2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の各証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実をいう。なお、証拠を摘示する場合には、特に記載のない限り、枝番を含むものとする。)
5 ⑴ 当事者ア 原告は、一般建築工事業、省エネルギー機器の製造・販売、土木建築用資材の製造・販売、土木建設業等を業とする株式会社である。イ 被告山創は、建設業、土木一式工事業等を業とする株式会社である。ウ 被告ライフテックは、建築資材及び機械の販売、インテリア用品の販売等を業とする株式会社である。
⑵ 本件特許(甲1、2)ア 原告は、以下の本件特許を有している(本件特許出願の願書に添付された明細書及び図面を「本件明細書」という。)。特許番号 :特許第5445808号発明の名称:凹凸素材の遮熱構造出願日 :平成25年6月10日登録日 :平成26年1月10日イ 本件特許の特許請求の範囲の請求項1(本件発明)の記載内容は、以下のとおりである。なお、原告は、令和6年9月27日付けで本件特許に係る特許請求の範囲の訂正を求める訂正審判請求をした(以下、当該請求による訂正を「本件訂正」といい、訂正後の発明を「本件訂正発明」という。甲23)。表面が熱源側を向いており、該熱源側に位置する凹部と非熱源側に位置する凸部とが交互に設けられた凹凸のある素材と、該凹凸のある素材の裏面側に位置するアルミホイル等輻射熱に対して高反射率の素材とからなり、前記凹凸のある素材の凸部の裏面に対してのみ前記アルミホイル等輻射熱に対して高反射率の素材を接着手段により取り付けた遮熱構造であって、前記凹部とアルミホイル等輻射熱に対して高反射率の素材との間に空間を存在させていることを特徴とする凹凸素材の遮熱構造ウ 本件発明を構成要件に分説すると、次のとおりとなる(以下、分説した構成要件をその符号に従い「構成要件A」などという。)。
5 【A】 表面が熱源側を向いており、該熱源側に位置する凹部と非熱源側に位置する凸部とが交互に設けられた凹凸のある素材と、【B】 該凹凸のある素材の裏面側に位置するアルミホイル等輻射熱に対して高反射率の素材とからなり、【C】 前記凹凸のある素材の凸部の裏面に対してのみ前記アルミホイル等輻射熱に対して高反射率の素材を接着手段により取り付けた遮熱構造であって、【D】 前記凹部とアルミホイル等輻射熱に対して高反射率の素材との間に空間を存在させている【E】 ことを特徴とする凹凸素材の遮熱構造。
⑶ 本件遮熱構造ア 当初施工に係る遮熱構造(乙6、9、弁論の全趣旨)被告山創は、令和2年4月20日、訴外BX紅雲株式会社の工場屋根の遮熱工事(以下「当初施工」という。)に着工し、同年5月20日に竣工した(以下、当初施工の竣工直後の遮熱構造を「当初施工に係る遮熱構造」という。)。その施工の概要は、①折板屋根の下に施してあるぺフ(ポリオレフィンフォーム)を一部除去し、②折板屋根のガルバリュウム鋼板に両面テープを貼り付け、③両面テープにサーモバリアSを貼り合わせることにより取り付け、
④強力な磁石(ネオジム磁石)を遮熱シートの内部に入れ込みさらに固定するというものである。なお、当初施工に係る遮熱構造が、別紙物件目録記載の構成を有すること、本件発明の構成要件A、B、C、Eを充足することについては当事者間に争いがない。イ 是正工事に係る遮熱構造(甲6、乙7、弁論の全趣旨)被告山創は、訴外BX紅雲株式会社から遮熱シートが剥がれている旨の苦
5 情を受けたことから、両面テープの増し貼りといった手直し工事を何度か行ったものの、サーモバリアSの捲れが修復されなかったことから、令和3年3月31日から、上記工場屋根に係るサーモバリアシートの是正工事(以下「是正工事」という。)に着工し、同年6月4日に竣工した(以下、是正工事の竣工直後の遮熱構造を「是正工事に係る遮熱構造」といい、当初施工に係る遮熱構造と総称して「本件遮熱構造」という。)。その施工の概要は、折板屋根の凹部に下地鋼材を敷設し、当該下地鋼材にサーモバリアSをタッピングビスで固定するというものである。なお、是正工事に係る遮熱構造が、本件発明の構成要件A、B、Eを充足することについては当事者間に争いがない。
⑷ 先行文献ア 本件特許出願の基礎出願日(平成25年1月10日)より前に、発明の名称を「断熱折版屋根構造」とする公開特許公報(特開平6-336790、公開日平成6年12月6日。乙13。以下「乙13公報」といい、同公報に記載された発明を「乙13発明」という。)が公刊されていた。イ 本件特許出願の基礎出願日(平成25年1月10日)より前に、発明の名称を「住宅の断熱材保護用遮熱材」とする公開特許公報(特開2004-11240、公開日平成16年1月15日。乙17。以下「乙17公報」といい、同公報に記載された発明を「乙17発明」という。)が公刊されていた。ウ 本件特許出願の基礎出願日(平成25年1月10日)より前に、発明の名称を「主に折板屋根を有する建築物に内側断熱処理を施工する方法」とする公開特許公報(特開2008-190311、公開日平成20年8月21日。乙18。以下「乙18公報」といい、同公報に記載された発明を「乙18発明」という。)が公刊されていた。
⑸ 本件告知原告は、令和6年3月27日付けで、原告のフランチャイズ加盟店に対し、
5 別紙文言目録1ないし3の記載(以下、順に「文言1」などという。)がある「遮熱ニュース」と題する電子データ(以下「本件遮熱ニュース」という。)を送付した(乙1、30、弁論の全趣旨)。3 争点
⑴ 本訴請求についてア 当初施工に係る遮熱構造の構成要件充足性及び実施行為該当性(争点1)(ア) 当初施工に係る遮熱構造が「凹部と…素材との間に空間」(構成要件1D)を存在させているか(争点1-1)(イ) 被告山創が当初施工に係る遮熱構造を「生産」したか(争点1-2)イ 是正工事に係る遮熱構造の構成要件充足性(争点2)(ア) 是正工事に係る遮熱構造が「凸部の裏面に…素材を接着手段により取り付けた」(構成要件1C)といえるか(争点2-1)(イ) 是正工事に係る遮熱構造が「凹部と…素材との間に空間」(構成要件1D)を存在させているか(争点2-2)ウ 無効事由の有無(争点3)(ア) 乙13発明を主引例とする無効事由の有無(争点3-1)(イ) 乙17発明を主引例とする無効事由の有無(争点3-2)(ウ) 乙18発明を主引例とする無効事由の有無(争点3-3)エ 訂正の再抗弁(争点4)(ア) 本件遮熱構造が本件訂正発明の特許請求の範囲に属するか(争点4-1)(イ) 独立特許要件の充足性(争点4-2)オ 被告ライフテックの侵害主体性及び不法行為該当性(争点5)カ 差止めの必要性(争点6)キ 原告が受けた損害の額(争点7)
⑵ 反訴請求についてア 不正競争(不競法2条1項21号)該当性及び故意又は過失の有無(争点
5 8)イ 被告らが受けた損害の額(争点9)ウ 差止め及び信用回復措置の必要性(争点10)
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1-1(当初施工に係る遮熱構造が「凹部と…素材との間に空間」(構成
要件1D)を存在させているか)
(原告の主張)
当初施工に係る遮熱構造は、折板屋根の凹部と遮熱シートとの間に空間が存在するから「凹部と…素材との間に空間」(構成要件1D)が存在するといえる。当該構成要件は、凹部と…素材との間の「空間」に何らかの部品を配置することを排除するものではない。(被告らの主張)本件明細書の記載(段落【0006】、【0022】~【0026】)によれば、「凹部と…素材との間の空間」(構成要件1D)とは、輻射熱の移動を妨げない程度・性質の空隙であることを要する。当初施工に係る遮熱構造のうち、折板屋根材のガルバリューム鋼板に敷設されているペフは、輻射熱の移動を著しく妨げるため、輻射熱の移動を妨げない程度・性質の空隙が存するとはいえない。
2 争点1-2(被告山創が当初施工に係る遮熱構造を「生産」したか)
(原告の主張)
被告山創は、当初施工に係る遮熱構造を生産した。この事実は、その後に是正工事が行われたとしても否定されない。(被告らの主張)「生産」(特許法2条3項1号)とは、物の性質や用途を考慮し、その物本来の有用性、効能を発揮できる程度に完成する必要があるから、建造物の一部が完成したというためには、相当期間の使用に耐えるものである必要がある。当初施工に係る遮熱構造は、引渡し直後から遮熱シートが剥落したため、数次
5 にわたる修正工事が必要となったが、これらによっても完成に至ることはなく、
異なる態様に修正されて完成をみたのであるから、特許法上の「生産」があったということはできない。
3 争点2-1(是正工事に係る遮熱構造が「凸部の裏面に…素材を接着手段によ
り取り付けた」(構成要件1C)といえるか)
(原告の主張)
⑴ 是正工事に係る遮熱構造では、折板屋根材の裏面の凸部に、黒色の両面テー
プが貼られ、そこに遮熱シートが貼り付けられているから、「凸部の裏面に…素材を接着手段により取り付けた」(構成要件1C)といえる。是正工事の時点で、両面テープはなお粘着力を有しており、是正工事の様子を示す写真(乙7)からも、折板屋根材の裏面の凸部に張り付けられた両面テープが遮熱シートを接着していることが見て取れる。
⑵ 被告らは、遮熱シートは是正工事段階で挿入した下地鋼材にタッピングビス
で固定されているところ、タッピングビスを用いた場合には「接着手段により取り付けた」(構成要件1C)とはいえない旨主張する。しかしながら、本件明細書の記載(段落【0001】【0016】【0017】)は、遮熱材を取り付ける下地や余分な金具等を必要としないと述べているにとどまり、取付手段として「接着手段」以外の手段を排除しているものではない。したがって、アルミ遮熱シートの取付けにタッピングビスが併用されていたとしても、それは付加的構成にすぎない。(被告らの主張)
⑴ 遮熱シートは是正工事段階で挿入した下地鋼材にタッピングビスで固定さ
れているのであり、両面テープで接着していない。両面テープは、是正工事時に接着力を失っていた。したがって、是正工事に係る遮熱構造は「凸部の裏面に…素材を接着手段により取り付けた」(構成要件1C)とはいえない。
⑵ 仮に両面テープに接着力が残っていたとしても、本件明細書の記載(段落【0
5 016】~【0020】)によれば、「接着手段により取り付けた」(構成要
件1C)とは、下地や余分な金具等の使用を排除する趣旨であると解すべきである。そうすると、下地鋼材を敷設して遮熱シートをタッピングビスで固定する是正工事に係る遮熱構造の構成は、上記構成要件を充足しない。
4 争点2-2(是正工事に係る遮熱構造が「凹部と…素材との間に空間」(構成
要件1D)を存在させているか)
(原告の主張)
是正工事に係る遮熱構造は、折板屋根の凹部と遮熱シートとの間に空間が存在するから「凹部と…素材との間に空間」(構成要件1D)が存在するといえる。当該構成要件は、凹部と…素材との間の「空間」に何らかの部品を配置することを排除するものではない。(被告らの主張)本件明細書の記載(段落【0006】、【0022】~【0026】)によれば、「凹部と…素材との間の空間」(構成要件1D)とは、輻射熱の移動を妨げない程度・性質の空隙であることを要する。是正工事に係る遮熱構造のうち、折板屋根材と遮熱シートの間にはペフ及び下地鋼材が存在しているところ、ペフは、輻射熱の移動を著しく妨げ、下地鋼材は、折板屋根の凸部の空隙の大半を占めている。以上によれば、是正工事における遮熱構造には、輻射熱の移動を妨げない程度・性質の空隙があるとはいえず、「凹部と…素材との間の空間」(構成要件1D)を充足しない。
5 争点3-1(乙13発明を主引例とする無効事由の有無)
(被告らの主張)
⑴ 概要
本件発明の構成は、乙13発明にいずれも開示されているから、新規性がなく無効である。仮に「接着手段」(構成要件C)に係る構成が相違点であるとしても、容易想到であるから、進歩性がなく無効である。
5 ⑵ 「凹凸のある素材」(構成要件A~C)
ア 乙13発明は、折板屋根鋼板1の裏面にその折曲形状に沿って一面側が固着されたシート状断熱材2とその他面側にシート状断熱材2の厚み方向に貫通する糸6により縫着された面ファスナーとから構成される第1の部分が存在している。上記第1の部分は、全体として凹凸のある折板屋根素材であるといえるから、乙13発明には「凹凸のある素材」(構成要件A~C)に該当する構成の開示がある。イ 原告は、上記第1の部分は、加工された工作物であるから「凹凸のある素材」に当たらない旨主張する。しかしながら、本件明細書の実施例には加工が施されているものも含まれており、本件発明にいう「素材」とは、一定の加工や他の部材と組み合せたものも含まれると解すべきであるから、上記第1の部分は「素材」に該当する。
⑶ 「輻射熱に対して高反射率の素材」(構成要件B~D)
「素材」の解釈は、上記⑵記載のとおりであるところ、乙13発明には、板状断熱材5の一側の面に面ファスナー4が板状断熱材の厚み方向に貫通する糸7等により固着されて構成される第2の部分が存在している。そして、乙13公報には、上記第2の部分は、折板屋根構造の家屋内側に配置され、この断熱材はアルミ箔10で包まれていてもよいと記載されている。したがって、乙13発明には、「輻射熱に対して高反射率の素材」(構成要件B~D)に該当する構成の開示がある。
⑷ 「接着手段」(構成要件C)
ア 乙13発明は、第1の部分に縫着された面ファスナー3と、これと対向する第2の部分の面ファスナー4が相互に係合することにより、第1の部分の凸部の裏面に対してのみ断熱材が取り付けられているといえるから、「凹凸のある素材の凸部の裏面に対してのみ前記アルミホイル等輻射熱に対して高反射率の素材を接着手段により取り付けた」(構成要件C)に該当する構
5 成の開示がある。
イ 本件明細書の記載(段落【0034】【0039】【0085】)からは接着手段の意義は不明であるが、「接着」の語義が「くっつくこと。また、くっつけること。」であることからすれば、対向する面を「くっつける」手段である「面ファスナー」は、接着手段に該当する。また、本件明細書の記載(段落【0016】~【0020】)によれば、本件発明の効果は、①誰でも簡単に施工でき施工コストが大幅に削減できること、②下地も、又余分な金具等も一切必要としないので大幅なコスト削減が可能であること、③金属素材に係わりなく、コンクリートやプラスチック等あらゆる素材に使用でき、広範囲の使用が可能であることにあるところ、接着手段として面ファスナーを用いた場合であっても、上記効果を同様に奏することができるから、作用効果を鑑みても、面ファスナーが「接着手段」から除外されるべき事情もない。ウ 仮に乙13発明の面ファスナーが「接着手段」に当たらないとしても、固定手段として接着手段を使用することは周知技術であるほか、公開特許公報(発明の名称を「断熱装置およびそれを用いた工場」とするもの。特開2009-79449。公開日平成21年4月16日。乙40。以下「乙40公報」という。)の記載に基づき、面ファスナーを接着手段に置換することは容易である。
(原告の主張)
⑴ 「凹凸のある素材」(構成要件A~C)
本件発明にいう「素材」とは、その語義及び本件明細書の記載(段落【0001】、【0014】、【0016】、【0018】、【0019】、【0025】、【0031】、【0034】)によれば、屋根材や遮熱材の基となる材料のことをいうと解されるから、所定の目的のために別部材を組み合わせたものや加工したものは含まれない。しかるところ、乙13発明の第1の部分は、
5 その下方に第2の部分を連結固定するという目的のために加工された工作物
であり、第1の部分を構成する各部材も独立性を失っていないのであるから、工作物である第1の部分全体を「凹凸のある素材」(構成要件A~C)ということはできない。
⑵ 「輻射熱に対して高反射率の素材」(構成要件B~D)
「素材」の解釈は、上記⑴記載のとおりであるところ、乙13の第2の部分は、第1の部分の下方に連結固定できるようにするという目的のために加工された工作物であるから、「輻射熱に対して高反射率の素材」(構成要件B~D)に当たらない。
⑶ 「接着手段」(構成要件C)
ア 接着とは、二つの物体が接したときに働く、分子を引き付ける力で起こる現象を意味する語であり、本件発明にいう「接着」もこれと異ならない。乙13発明の面ファスナーは2つの面ファスナーの相互の係合により2つの物を連結固定するものであり、本件発明の「接着手段」(構成要件C)には該当しない。イ 被告らは、乙13発明の面ファスナーが「接着手段」に当たらないとしても、周知技術である接着剤等の接着手段を乙13発明に適用することは容易想到である旨主張する。しかしながら、乙13発明は、脱着可能であるとするために面ファスナーの構成を採用したものであり、当該構成を接着剤等の接着手段に代えた場合には脱着が不可能となってしまうから、被告ら主張の周知技術を適用することには阻害事由がある。また、乙40公報には、面ファスナーと両面テープが置換可能であるとは記載されておらず、その動機付けも示されていない。
6 争点3-2(乙17発明を主引例とする無効事由の有無)
(被告らの主張)
⑴ 概要
5 本件発明の構成は、乙17発明にいずれも開示されているから、新規性がな
く無効である。
⑵ 「凹凸のある素材」(構成要件A~C)
乙17発明は、フレーム10内の空気層空間Sに屈曲立体化した自立片15を挿入し、その一端又は両端で空間Sの隅端部SEに当接して接着剤Adを点付与して止着されている。そして、「素材」の解釈は、上記5(被告らの主張)記載のとおりであるから、乙17発明には「凹凸のある素材」(構成要件A~C)に該当する構成の開示がある。また、自立片15のみに着目した場合は、原告の「素材」の解釈によっても「凹凸のある素材」に該当する。
⑶ 「凸部の裏面に対してのみ…接着手段により取り付けた」(構成要件C)
本件発明にいう「前記凹凸のある素材の凸部の裏面に対してのみ…接着手段により取り付けた」(構成要件C)とは、素材凸部の裏面全てに取り付けられていることを要せず、凸部の一部であっても接着手段によって高反射率の素材に取り付けられていれば足りると解すべきである。そして、乙17発明の自立片15は、輻射熱反射層Reが、その凸部の一部にのみ取り付けられているから、上記要件を充足する。
(原告の主張)
⑴ 「凹凸のある素材」(構成要件A~C)
素材の解釈は、上記5
(原告の主張)
記載のとおりであるところ、乙17発明のうち、フレーム10内の空気層空間Sに屈曲立体化した自立片15を挿入し、その一端又は両端で空間Sの隅端部SEに当接して接着剤Adを点付与して止着されたものは、自立片15がフレーム10の立体形態を強固に、かつ、充分に保持するという目的に従って加工された工作物であって、「凹凸のある素材」(構成要件A~C)ではない。また、乙17発明の自立片15はシート材であって、それ自体は特定の形状
5 を有するものではなく、それのみでは立体形態を保持することができないから、
自立片15は「凹凸のある素材」に当たらない。
⑵ 「凸部の裏面に対してのみ…接着手段により取り付けた」(構成要件C)
乙17公報には、フレーム10の下面シート12に輻射熱反射層Reを付与することは記載されているが(段落【0006】)、どのような手段により付与しているかは記載されておらず、「接着手段により取り付け」(構成要件C)の開示はない。また、輻射熱反射層Reが付与されるのはフレーム10の下面シート12であって、自立片15ではなく、自立片15(単体)を本件発明の「凹凸のある素材」に対応させるのであれば、「前記凹凸のある素材の凸部の裏面に対してのみ・・・接着手段により取り付けた」の開示はない。
7 争点3-3(乙18発明を主引例とする無効事由の有無)
(被告らの主張)
⑴ 概要
本件発明は、乙18発明から容易想到であるから、進歩性がなく無効である。
⑵ 相違点
本件発明と乙18発明は、次の点で相違し、その余は一致する。ア 本件発明が「輻射熱に対して高反射率の素材」を有するのに対し、乙18発明は断熱材を用いる点(以下「相違点1」という。)イ 本件発明が「遮熱構造」であるのに対し、乙18発明は断熱構造である点(以下「相違点2」という。)
⑶ 相違点に対する容易想到性
ア 相違点1熱源側と非熱源側とを隔てる空間を形成する素材として、アルミホイル等の輻射熱に対して高反射率の素材を用いることは、乙19ないし22の発明等に記載された周知技術である。また、これらの発明等は家屋の遮熱構造に
5 関するものであり、作用効果が同一であるともに、遮熱構造体の構成も類似
するから、当該周知技術を乙18発明に適用するための動機付けがある。同様に、アルミホイルを家屋等の断熱材に用いることも乙20、23ないし27の発明等に記載された周知技術であり、乙18発明に適用するための動機付けがある。したがって、乙18発明の断熱材において、アルミホイル等の「輻射熱に対して高反射率の素材」を用いることは容易想到である。イ 相違点2本件発明は遮熱構造に関するものであるが、「遮熱」構造であることは単なる特性の記載であるから、構成要件AないしDを充足する特定の構造を有していれば、これに該当する。したがって、本相違点は進歩性の判断に寄与しない。
⑷ 原告主張の相違点について
原告は、本件発明が「前記凹凸のある素材の凸部の裏面に対してのみ前記アルミホイル等輻射熱に対して高反射率の素材を接着手段により取り付け」る構成を有するのに対し、乙18発明は当該構成を有しない点が相違点である旨主張する(以下「相違点3」という。)。しかし、乙18公報(段落【0003】【0006】)には、接着剤を用いた接着加工の記載があるから、「接着手段により」という構成の開示がある。また、乙28に記載された発明には、凹凸構造を有する屋根素材の室内側の凸部分に、鋼板を粘着剤で貼着した構成が開示されているところ、乙18発明と乙28発明は構成の主要部分が同一であり、凹凸のある屋根素材を用いる断熱構造である点でも共通するから、乙18発明の留め具Hを乙28記載の発明の「粘着剤」に置換することは容易である。そのほか、乙18発明と主要な構造を同じくする構造体に接着手段を使用することは、乙13、17及び28の発明等に記載された周知技術であるから、当業者が乙18発明の留め具Hを周
5 知技術である接着手段に置換することは容易である。
(原告の主張)
⑴ 相違点1の認定
乙18発明の折板建材Aに取り付けられているのは、断熱材Bに、磁石Cとの間に緩衝材Gを挟んで、磁石Cを有する留め具HのピンEを貫通させて貫通させたピンEの先端にカバーを付けたものであって、これは乙18発明の目的に従って加工された工作物であるから、本件発明の「素材」ではない。したがって、被告ら主張の相違点1のみならず、本件発明が「素材」を有するのに対し、乙18発明はこれに相当する構成を有しない点も、相違点1に含むべきである。
⑵ 相違点に対する容易想到性
ア 相違点1乙19~22に記載された発明等には、屋根材の下方に、アルミニウムの遮熱シートを配置することは記載されているものの、「凹凸のある素材」と「アルミホイル等輻射熱に対して高反射率の素材」の取り付けに関するものではなく、ましてや、「凹凸のある素材の凸部の裏面に対してのみ」に「アルミホイル等輻射熱に対して高反射率の素材を接着手段により取り付け」ることは記載されていないから、上記⑴記載の相違点1を想到し得る周知技術は記載されていない。また、アルミニウムは金属であり高い熱伝導性を有するから、アルミホイルを断熱材として使用することは不可能であり、乙20、23ないし27にそのような記載もない。イ 相違点2遮熱とは、熱輻射を防ぐことであるのに対し、断熱とは、熱伝導を減らすことであり、両者は全く異なる概念である。また、断熱については、断熱材を厚くすることで断熱効果を高めることができるが、遮熱については、その
5 ようなことは当てはまらない。したがって、断熱構造であるからといって、
遮熱構造になるわけではないから、相違点2は、容易想到であるとはいえない。ウ 相違点3乙18発明には、接着剤を用いた具体的な遮熱構造は記載されておらず、建材加工や接着加工といった専門的な工事を実施したとされる従来技術の構成も不明である。したがって、乙18公報に「接着手段により」の開示があるとの被告らの主張は誤りである。また、乙28に記載された発明は、いわゆる断熱材を用いるのではなく、石綿スレート材の下面に平板状の鋼板を貼着することにより、石綿スレート材の下面に空気層17を形成し、保温効果を高めるものであり、同発明の平板状の鋼板は、乙18発明の断熱材Bとは全く性質を異にするものであるから、乙28に記載された発明を乙18発明に適用することはできない。そもそも、乙18発明は、「断熱材Bは緩衝材Gによって直接建材Aと接することがない」ようにしており、これに乙28に記載された発明を適用した場合には、断熱材Bが直接建材Aと接することになってしまうから、同発明を乙18発明に適用することには、阻害事由がある。さらに、乙13、17及び28に記載された発明等には、相違点3の構成を想到する周知技術は記載されていない。のみならず、乙18発明は、あえて、「断熱材Bは緩衝材Gによって直接建材Aと接することがない」ようにしており、これに接着手段を適用した場合には、断熱材Bが直接建材Aと接することになってしまうから、当該周知技術を乙18発明に適用することには阻害事由がある。
8 争点4-1(本件遮熱構造が本件訂正発明の特許請求の範囲に属するか)
(原告の主張)
⑴ 訂正後の本件発明の内容(本件訂正発明)は以下のとおりである(訂正部分
5 に下線を付した。以下、分説した構成要件をその符号に従い「構成要件A´」
などという。)。【A´】 表面が熱源側を向いており、該熱源側に位置する凹部と非熱源側に位置する凸部とが交互に設けられた凹凸のある素材と、【B´】 該凹凸のある素材の裏面側に位置するアルミホイル等輻射熱に対して高反射率の素材とからなり、【C´】 前記凹凸のある素材の凸部の裏面に対してのみ前記アルミホイル等輻射熱に対して高反射率の素材を接着手段により取り付けた遮熱構造であって、【F】 前記接着手段は、接着剤、熱溶着、両面テープから選択される接着手段であり、【D´】 前記凹部とアルミホイル等輻射熱に対して高反射率の素材との間に空間を存在させている【E´】 ことを特徴とする凹凸素材の遮熱構造。
⑵ 本件遮熱構造は、いずれも凹凸のある屋根材(折板屋根材)の凸部に両面テ
ープが張られ、そこにアルミ遮熱シートが貼り付けられており、両面テープを接着手段としているから、「接着手段は、接着剤、熱溶着、両面テープから選択される接着手段」(構成要件F)である。その他の構成要件充足性は、上記1~4
(原告の主張)
記載のとおりである。(被告らの主張)否認する。なお、上記1~4(被告らの主張)記載のとおり、構成要件F以外の構成要件についても充足しない。
9 争点4-2(独立特許要件の充足性)
(原告の主張)
⑴ 上記5~7
(原告の主張)
記載のほか、以下のとおりである。
⑵ 乙13発明を理由とする無効事由について
5 乙13発明は「接着手段は、接着剤、熱溶着、両面テープから選択される接
着手段」(構成要件F)ではない点で本件訂正発明と相違する。乙13発明は、脱着可能とするために第1の部分と第2の部分を連結固定する手段として面ファスナーを採用したものと解される。そうすると、面ファスナーの構成を接着剤等の接着手段に代えることが周知事項であるとはいえず、さらに、面ファスナーの構成を接着剤等の接着手段に代えた場合には脱着が不可能となるので阻害事由がある。
⑶ 乙18発明を理由とする無効事由について
乙18発明は、断熱材Bの取り付けにつき、屋根部を構成する折板建材Aに、磁石Cを有する留め具Hを磁力で固定し、磁石Cとの間に緩衝材Gを挟んで、断熱材Bに対してピンEを貫通させて貫通したピンEの先端にカバーFを取り付ける取付構造を採用しているところ、当該取付構造を接着剤等の接着手段に代えることが周知の事項であるとはいえず、また、当該取付構造を接着剤等の接着手段に代えた場合には、脱着が不可能となること、断熱材Bの重量を支えることができるか不明となること、断熱材Bが直接建材Aと接することから阻害事由がある。(被告らの主張)接着手段を接着剤、熱溶着、両面テープに限定することは、当業者が容易に選択し得る設計事項であり、この減縮による有利な効果、異質な効果、優れた効果は存しない。したがって、この減縮によって進歩性が付与されることはあり得ず、上記5~7(被告らの主張)記載の無効事由が解消されたとはいえないから、独立特許要件を満たさない。
10 争点5(被告ライフテックの侵害主体性及び不法行為該当性)
(原告の主張)
⑴ 被告ライフテックは、当初施工に係る遮熱構造の写真を施工実績としてホー
ムページ(甲4、5)に掲載している。したがって、この掲載行為は、侵害品
5 である当初施工に係る遮熱構造の「譲渡の申出」に該当する。
⑵ 被告ライフテックは、被告山創が行った当初施工の内容を認識していたから、
是正工事においても、サーモバリアSが両面テープの貼り付けられた折板屋根材の凸部裏側に取り付けられる可能性を認識しつつ、遮熱シートを納入したといえる。そうすると、被告ライフテックは、侵害の可能性を認識しつつ、被告山創の実施した是正工事を容易にしたといえるから、狭義又は幇助による共同不法行為が成立する(民法719条1項、2項)。(被告らの主張)いずれも争う。「譲渡の申出」に該当するためには、譲渡の意思表示が必要であるところ、被告ライフテックのホームページ(甲4)は、譲渡価格や条件に関する記載がなく、掲載写真も是正工事の模様を写したものであるにすぎない。したがって、当該ホームページへの掲載をもって「譲渡の申出」に該当するとはいえない。
11 争点6(差止めの必要性)
(原告の主張)
被告らは、一度は当初施工に係る遮熱構造を採用し、当該構造が特許権の範囲に属するかを争っており、被告らが主張する問題点を解決すれば再び実施する可能性があることからすれば、当該遮熱構造の生産の差止めを行う必要性がある。(被告らの主張)当初施工に係る遮熱構造は、被告ライフテックの推奨する標準的な工法ではないことに加え、結果として、是正工事を要することになり顧客との間でトラブルになったのであるから、被告らがあえて不完全な当初施工に係る遮熱構造を生産する理由はない。
12 争点7(原告が受けた損害の額)
(原告の主張)
原告が受けた損害の額は、以下の⑴及び⑵によって推定される金額のうち、最
5 も高い金額である。
⑴ 特許法102条2項に基づく推定額
被告山創が、当初施工に係る遮熱構造を生産した当初施工により得た請負代金は660万円である。そして、被告山創が受けた利益の額は、上記金額から材料費(164万1365円)及び藤野氏への人件費(3万8500円)を差し引いた492万0135円とするべきである。したがって、特許法102条2項に基づく推定額は、492万0135円である。
⑵ 特許法102条3項に基づく推定額
本件発明に係る実施料率は、一般的な業界の標準ライセンス料率(3.8%)の2倍が相当である。したがって、特許法102条3項に基づく推定額は、当初施工により得た請負代金660万円に上記実施料率(7.6%)を乗じた50万1600円となる。(被告らの主張)
⑴ 特許法102条2項に基づく推定額
ア 当初施工は目的物の完成に貢献していないから、上記請負代金は侵害行為と因果関係のある利益ではない。イ 仮に因果関係のある利益であるとしても、上記請負代金は、当初施工のみならず、是正工事完了までの対価であるから、当初施工及び是正工事の経費をいずれも控除すべきである。具体的には、当初施工に係る経費として、材料費(164万1365円)、高所作業車等のレンタル費用(47万7050円)、藤野氏への人件費(3万8500円)、株式会社アイルに対する人件費等(56万4300円)、有限会社インテリアタムラに対する人件費等(16万8300円)、被告山創の人件費(155万4682円)を、是正工事に係る経費として、佐藤建装への材料費(80万0580円)、工事車
5 両のガソリン代(5万4713円)、総合管理匠に対する人件費(153万
6000円)、被告山創の人件費(507万円)、高所作業車等のレンタル費用(43万1585円)、廃棄物費用(16万4450円)を、それぞれ控除すべきである。
⑵ 特許法102条3項に基づく推定額
上記⑴記載のとおり、上記請負代金は侵害行為と因果関係がなく、実施料率を観念することができない。仮に実施料を定めるとしても、その実施料率は1.9%が相当である。
13 争点8(不正競争(不競法2条1項21号)該当性及び故意又は過失の有無)
(被告らの主張)
⑴ 競争関係
「競争関係」とは、現実に競争関係がある場合に限られず、将来現実化する関係であれば足りると解される。そして、被告らと原告は、どちらも遮熱工事に関する事業者であって、事業の性質が共通しており、営業活動上顧客を共通にする可能性があるから、「競争関係」にある。
⑵ 告知し又は流布する行為
告知とは、不特定又は多数の者に対して流布しなくても、特定の者に対し告知さえすれば成立するものと解されるから、本件告知は不競法上の「告知」に該当する。
⑶ 営業上の信用を害する虚偽の事実
ア 文言1ないし3は、一般読者の普通の注意と読み方を基準とすれば、いずれも被告らが特許権侵害をし、又はその可能性があると読み取ることができる一方、被告らが特許権を侵害した事実はないから、これらはいずれも「虚偽の事実」に該当する。イ 上記アのほか、文言1は「壁に両面テープを使用して直貼りした件」についての訴訟を提起したとされているが、本件発明は壁に対する施工を対象と
5 するものではないから、訴訟の帰趨にかかわらず、「虚偽」を含むものであ
る。また、文言1は、被告ライフテックがあちこちで特許権侵害を行っているが、今回は室内天井や壁に両面テープを使用して直貼りした件に限定して訴訟提起を行ったと受け取られるものであるが、被告ライフテックは、あちこちで特許権侵害をした事実もないのであるから、「虚偽」を含むものである。ウ 上記アのほか、文言2は、「サーモバリアを使用して特許侵害に当たると思われる会社が複数社あった」としているが、原告が本件特許権を侵害したと主張する施工例は1例にすぎないのであって、「虚偽」を含むものであることが明らかである。エ 上記アのほか、文言3は、サーモバリアを用いる全ての会社が、その態様に関わらず、特許権侵害に当たり得ると読み取れるものである。しかし、汎用品であるサーモバリアの使用がおよそ特許権侵害になるわけではなく、特許権侵害に該当し得るのはごく一部であるから、文言3は「虚偽」を含むものである。オ 文言1ないし3に記載された虚偽の事実は、被告らの社会的評価を低下させるものであるから「営業上の信用」を害するものである。そして、これらは、いずれも社会通念上必要と認められる範囲を超えた内容及び態様となっており、その実質は、被告らの信用を毀損し市場での競争において優位に立つことを目的としてなされたものであることは明らかである。
⑷ 故意又は過失
上記の不正競争の態様に鑑みれば、原告に故意又は過失が認められることは明らかである。
(原告の主張)
⑴ 競争関係
被告ライフテックと原告は、それぞれ完結した販売網を構築しており、その
5 構成員は相互に他方から遮熱材を購入することはない。したがって、被告らと
原告との間には「競争関係」がない。
⑵ 告知し又は流布する行為
不競法上の「告知し、又は流布する行為」とは、他人の営業上の信用を害するおそれのある態様でなされたものをいうと解すべきところ、被告らと原告はそれぞれ完結した販売網を構築しており、その構成員は相互に他方から遮熱材を購入することはないから、原告の加盟店に対し、第三者への開示を禁止した上で「遮熱ニュース」を配布する行為は、被告らの営業上の信用を害するおそれはなく、不競法上の「告知し、又は流布する行為」に当たらない。
⑶ 営業上の信用を害する虚偽の事実
ア 文言1は、原告が特許権侵害訴訟を提起した事実を、原告のフランチャイズ加盟店に報告するものであるにすぎない。また、本件訴訟の対象に「壁」が含まれるかどうかは重要な点ではないし、仮にこの点が虚偽であったとしても「営業上の信用」を毀損しない。さらに、文言1は「見受けられる」という表現を用いており、あくまで原告が見て特許権侵害に当たると判断されるものがあったことを述べたにすぎず、それ自体は何ら客観的事実に反するものではないから「虚偽」ではない。イ 文言2は、被告らを本件訴訟の相手方とした経緯ないし理由を説明するものにすぎず、それ自体は何ら事実に反しない。また、「サーモバリアを使用して特許侵害に当たると思われる会社が複数社有りました」という部分は、「思われる」と記載があるとおり、原告の認識した事実を述べたものであるから「虚偽」ではないし、被告らの「信用を害する」ものでもない。ウ 文言3は、原告の意見を述べたものにすぎず、意見ないし論評の範疇に属するから「虚偽の事実」に当たらない。
⑷ 故意又は過失
争う。
5 14 争点9(被告らが受けた損害の額)
(被告らの主張)本件遮熱ニュースは、被告らの潜在的需要者に対し、相当数が配布されており、その内容は到底論評といえるものではない。本件遮熱ニュースを送付する行為(本件告知)により、被告らの社会的評価は低下し、営業上の信用が害された結果、被告らが被った損害はそれぞれ300万円を下らない。そして、弁護士費用は、その1割である30万円を下らない。これに対し、原告は、本件遮熱ニュースは原告のフランチャイズ加盟店のみに配布され、第三者に頒布されていないこと、加盟店は競業避止義務を負うなど販売網が独立していることから、被告らの営業上の信用が毀損されることはないと主張する。しかしながら、本件遮熱ニュースは被告らが入手したように加盟店以外の第三者も事実上入手できる。また、加盟店がフランチャイズを離脱することもあり得るから、加盟店が被告らの潜在的顧客であることは否定されない。
(原告の主張)
本件遮熱ニュースは、原告のフランチャイズ加盟店に対してのみ配布されるものであり、第三者への頒布は禁止されている。そして、原告のフランチャイズ加盟店は競業避止義務を負うなど原告と被告らの販売網は独立しており、本件遮熱ニュースを配信された加盟店が被告らから遮熱シートを購入することはない。したがって、原告が本件遮熱ニュースを送付する行為により、被告らの営業上の信用が毀損されることはなく、仮に信用が毀損されたとしてもその損害はほとんどない。
15 争点10(差止め及び信用回復措置の要否)
(被告らの主張)
⑴ 上記のとおり、本件遮熱ニュースの送付は、不競法2条1項21号所定の不
正競争に該当し、被告らの営業上の利益を侵害するから、同法3条1項に基づ
5 き、別紙文言目録記載の各文言の告知を差し止める必要性がある。
⑵ また、遮熱ニュースは既にメールで配布されており、これを削除することは
できない。そうすると、被告らの社会的評価の低下と、営業上の信用の毀損は継続し、新たな損害が発生し続ける具体的な危険性がある。今後の損害発生を予防し、被告らの信用を回復するためには、謝罪文の掲載が必要である。
(原告の主張)
いずれも争う。上記14
(原告の主張)
記載のとおりであるから、謝罪文を掲載する必要性はない。
第4 当裁判所の判断
1 認定事実本件明細書(甲2)には、次のとおりの記載があることが認められる。
⑴ 技術分野「本発明は、折板屋根材やスレート屋根材等凹凸のある素材に直接遮熱材を貼る事により、安くて簡単に省エネルギー効果を産むことが出来る遮熱構造を提供するものである。」(段落【0001】)
⑵ 背景技術「工場や倉庫等の建物は金属製の折板屋根材やスレート屋根材を使用しているのが殆どである。しかし特許文献1のように、スレート屋根に薄い結露防止層を設けているものは存在するが、断熱施工は殆ど施されていない。」(段落【0002】)「近年、鉄骨建物の屋根の下側に軽天材にて天井を作り、その天井に遮熱材を貼る工法も増えてきつつある。」(段落【0003】)「又、折板屋根等凹凸のある素材の室内側に、遮熱材を凹凸面に沿って密着させて貼る方法や、特許文献2のように、車の内側や物置の屋根などに密着させて用いられる遮熱シートが開発されている。」(段落【0004】)
⑶ 発明が解決しようとする課題
5 「工場や倉庫等の建物は、金属製折板屋根材やスレート屋根材が殆どであるが、これらの素材は放射率が高く室内に大量の輻射熱が放射されている。しかし、スレート屋根に薄い結露防止層を設けているものはあるが、断熱施工は殆ど施されていない状況にある為、夏場の室内は非常に暑く、逆に冬場は寒い劣悪な作業環境におかれている。」(段落【0006】)「屋根の下側に軽天材にて天井を作り、その天井に遮熱材を貼る施工法もあるが、軽天材による天井を作る費用が大きく費用対効果を見ても大きなメリットを生み出す事は難しい。」(段落【0007】)「折板屋根材等凹凸のある素材の室内側に、凹凸面に沿って遮熱材を直接貼る方法は、放射率が低下させるので大きな省エネ効果をもたらす事が可能である。しかし、この場合凹凸のある全ての面に連続的に密着して遮熱材を貼る必要がある為、必要面積例えば水平面での屋根面積と遮熱施工面積では大きな差が出来、大幅なコストアップとなる。(中略)又、新築用の屋根材や外壁材等は工場にて施工するので問題はないが、既設の建物でしかも凹凸の大きいものは、凹部の奥まで器具が届かず施工不可能であった。本発明は、これらの問題を解決する為になされたものである。」(段落【0008】)
⑷ 発明の効果「本発明は、金属製の折板屋根材や角波外壁材、縦葺き屋根等凹凸のある素材にボンド等の接着剤で貼れば良く、誰でも簡単に施工でき施工コストが大幅に削減できる。」(段落【0016】)「工場や倉庫等では、軽天材等で組むアルミホイル等輻射熱に対して高反射率の素材を取り付ける下地も、又余分な金具等も一切必要としないので大幅なコスト削減が可能である。」(段落【0017】)
⑸ 発明を実施するための形態「本発明は、種々の素材の輻射熱に対する高反射の性能のみを利用するものでなく、逆に低放射率の性能にだけに着目したものでもない。この両者の利点
5 を組み合わせて利用しようとするものである。」(段落【0024】)「図1の様な凹凸のある折板屋根材1を例に説明する。熱は図1の上部から来るものとする。高反射の性能を引き出す方法として、折板屋根材1凹部2とアルミホイル等輻射熱に対して高反射率の素材5との間に輻射熱を反射する空気層4が必要である。」(段落【0025】)「又、低放射の性能を引き出す方法として、熱源からの熱は一端折板屋根材1凸部3に吸収させ、その後折板屋根材1から再び熱源側に放射して戻すものである。即ち、アルミホイル等輻射熱に対して高反射率の素材5は熱源側にはなく、熱源と反対側の折板屋根材1の裏面に取り付けて使用するものである。」(段落【0026】)「施工方法は非常に簡単で、例えばあらゆる素材の凸部に接着剤を塗布、その上からアルミホイル等輻射熱に対して高反射率の素材5を貼ればよい。(中略)ここで、あらゆる素材の凸部に対する、アルミホイル等輻射熱に対して高反射率の素材5の接着方法には、上記のような接着剤による接着の他に熱溶着、両面テープなどによる接着方法がある。なお、あらゆる素材の凸部に対する、アルミホイル等輻射熱に対して高反射率の素材5の接着を工場にて行う場合は、熱溶着又は接着剤による接着が主体であり、現地工事の場合は、接着剤による接着又は両面テープによる接着が主体となる。」(段落【0034】)【図1】
2 争点1-1(当初施工に係る遮熱構造が「凹部と…素材との間に空間」(構成要件1D)を存在させているか)⑴ 本件発明の構成要件Dは、「前記凹部と…素材との間に空間を存在させている」と規定している。そして、特許請求の範囲及び本件明細書には、上記「空間」の中に部品を配置しないという限定は、何ら記載されておらず、これを示唆するような記載も存在しない。これを当初施工に係る遮熱構造についてみると、折板屋根材と遮熱シートとの間に空隙が存在することについては、当事者間に争いがない。そして、上記空隙は、明らかに「空間」といえるから、当初施工に係る遮熱構造は、構成要件Dを充足するものといえる。⑵ これに対し、被告らは、本件明細書の記載(段落【0006】、【0022】ないし【0026】)の記載によれば、構成要件Dにおける「空間」は、輻射熱の移動を妨げない程度・性質の空隙をいうと解される一方、当初施工に係る遮熱構造の上記空隙には、輻射熱の移動を妨げるペフが敷設されており、輻射熱の移動を妨げているから、「空間」には該当しない旨主張する。しかしながら、被告らの主張する解釈を前提としても、証拠(乙6)によれば、当初施工に係る遮熱構造の施工により天井部の温度が大きく低下したことが認められるから、当初施工に係る遮熱構造の上記空隙は、輻射熱の移動を妨げない程度・性質のものというべきであって、被告らの主張は、その前提を欠くものである。したがって、被告らの主張は、採用することができない。
3 争点1-2(被告山創が当初施工に係る遮熱構造を「生産」したか)
5 ⑴ 証拠(乙6、7)及び弁論の全趣旨によれば、当初施工が令和2年5月20日に竣工し、工場屋根に当初施工に係る遮熱構造が取り付けられたこと、その後、数次の手直し工事を行ったが遮熱シートの捲れが改善されず、是正工事が令和3年3月31日に着工し、同年6月4日に竣工したこと、以上の事実が認められる。上記認定事実によれば、当初施工に係る遮熱構造は、是正工事が着工するまでの間、工場屋根に取り付けられていたのであるから、その後に是正工事が行われたとしても、本件発明の構成要件を充足する遮熱構造を新たに作り出したものと認められる。これらの事情の下においては、被告山創による当初施工に係る遮熱構造の取り付けは、特許法2条3項1号にいう「生産」に該当するものと認めるのが相当である。⑵ これに対し、被告らは、特許法2条3項1号にいう「生産」とは、その物本来の有用性、効能を発揮できる程度に完成する必要があり、建造物の一部が完成したというためには、相当期間の使用に耐えるものである必要があると主張する。しかしながら、上記にいう「生産」とは、当該発明の構成を充足する物を作り出す行為をいうものであり、その物が相当期間の使用に耐えることを必ずしも要件とするものではない。仮に、被告らの主張を前提としても、当初施工に係る遮熱構造が相当期間工場屋根に取り付けられていたことは上記説示のとおりであるから、被告らの主張は、前記判断を左右するものとはいえない。したがって、被告らの主張は、採用することができない。
4 争点2-1(是正工事に係る遮熱構造が「凸部の裏面に…素材を接着手段により取り付けた」(構成要件1C)といえるか)⑴ 本件発明の構成要件Cは、「凸部の裏面に…素材を接着手段により取り付けた」と規定しており、その文言上、「接着手段」のみによって取り付けることまでを規定するものではなく、他方、「接着手段」と他の固定手段とを併用し
5 た構造をどの程度まで許容するものであるかは明らかにされていない。そして、本件明細書の記載によれば、構成要件Cは「軽天材による天井を作る費用が大きく費用対効果を見ても大きなメリットを生み出す事は難しい」(段落【0007】)という従来技術の課題に対する解決手段として備えられており、「軽天材等で組むアルミホイル等輻射熱に対して高反射率の素材を取り付ける下地も、又余分な金具等も一切必要としないので大幅なコスト削減が可能である」(段落【0017】)ことが、その効果として直接記載されている。上記構成要件及び本件明細書の各記載によれば、本件発明の課題及び効果に鑑みると、構成要件Cの「接着手段」は、他の固定手段として、軽天材等で組む下地又は金具等を併用することを排除するものであると解するのが相当である。これを是正工事に係る遮熱構造についてみると、証拠(甲6、乙7、42の2、42の3)及び弁論の全趣旨によれば、是正工事は、折板屋根材の凹部に下地鋼材を敷設し、当該下地鋼材に遮熱シートをタッピングビスで固定するものであること、当初施工時に張り付けられた両面テープには、少なくとも部分的には遮熱シートに貼り付く程度の粘着力が残っていること、以上の事実が認められる。上記認定事実によれば、是正工事に係る遮熱構造の接着手段は、両面テープによる「接着手段」のほか、他の固定手段として、下地鋼材及びタッピングビスを併用していることが認められるから、軽天材等で組む下地及び金具を併用するものであるといえる。したがって、是正工事に係る遮熱構造は、構成要件Cを充足するものとはいえない。⑵ これに対し、原告は、構成要件Cは、「接着手段」以外の他の固定手段を排除しておらず、遮熱シートの固定手段にタッピングビスが併用されていたとしても、付加的構成にすぎない旨主張する。しかしながら、構成要件Cの「接着
5 手段」が、軽天材等で組む下地又は金具等を併用することを排除するものと解すべきであり、是正工事に係る遮熱構造に係る下地鋼材及びタッピングビスがその併用を排除されたものに該当することは、上記において説示したとおりである。したがって、原告の主張は、本件発明の課題解決手段を正解しないものに帰し、採用することができない。⑶ 以上によれば、是正工事に係る遮熱構造は、本件発明の技術的範囲に属しないから、その余の争点を判断するまでもなく、是正工事に係る遮熱構造による特許権侵害をいう原告の請求には理由がない。
5 争点3-1(乙13発明を主引例とする無効事由の有無)⑴ 認定事実ア 乙13発明の内容証拠(乙13)によれば、乙13公報には、以下の記載があることが認められる。(ア) 請求項の記載「折版屋根鋼板の裏面にその折曲形状に沿って一面側が固着されたシート状断熱材とその他面側にシート状断熱材の厚み方向に貫通する糸により縫着された面ファスナーとから構成される第1の部分と、板状断熱材の一側の面に面ファスナーが板状断熱材の厚み方向に貫通する糸等により固着されて構成される第2の部分とを有し、第1の部分の面ファスナーと
第2の部分の面ファスナーとを対向して相互に係合することにより第1
の部分と第2の部分とが連結固定されることを特徴とする断熱折版屋根構造。」(請求項1)「前記第1の部分の面ファスナーは、シート状断熱材の折曲部間に形成された下方の辺の下面に折曲部の折線方向に配置されていることを特徴とする請求項1の断熱折版屋根構造。」(請求項2)「前記シート状断熱材を折版屋根鋼板に固着する手段として、接着剤が
5 用いられていることを特徴とする請求項1の断熱折版屋根構造。」(請求項4)(イ) 発明が解決しようとする課題「本発明は、これらの問題点を解決し、高い断熱効果が得られるとともに、構造が簡単で安価に製造でき、また、屋根施工を安全かつ容易に行うことのできる、新規な断熱折版屋根構造を提供することを目的としている。」(段落【0006】)(ウ) 作用「板状断熱材は、面ファスナーにより、シート状断熱材に連結・固定され、折版屋根鋼板に支持される。シート状断熱材の面ファスナー部分は、糸により縫着されているため、その厚み方向に貫通する糸により補強され、面ファスナー部分に加わる荷重によって、シート状断熱材内で層間剥離が生じてシート状断熱材から板状断熱材が脱落することが防止される」(段落【0008】)(エ) 実施例・ 「(省略)1は折版屋根【図】鋼板、2はシート状断熱材、5は板状断熱材である。3、4はそれぞれ、シ
5 ート状断熱材及び板状断熱材に糸6、7により縫着されている面ファスナーである。(中略)シート状断熱材2は折版屋根鋼板1の裏面に、その一面側が屈曲形状にそって固着されている。(省略)」(段落【0009】~【0010】)「折版屋根鋼板1とシート状断熱材2との間の固着手段としては(中略)接着剤による接着のほか、シート状断熱材2自体の材質によっては、熱接着あるいは、熱融着等の周知の手段を用いることもできる(省略)」(段落【0012】)「シート状断熱材2には、面ファスナー3が適所に(中略)糸6によって縫いつけられ、(省略)」(段落【0013】)「板状断熱材5の上面には、シート状断熱材2側の面ファスナー3と係合できる位置に、面ファスナー4が配置され、これと対向する板状断熱材5の下面位置には補強用の裏当て9が施され、板状断熱材5の厚み方向に貫通する糸7により、(中略)一体的に縫着されている。」(段落【0017】)「(省略)板状断熱材5をアルミ箔10で包むことも可能である。」(段落【0019】)(オ) 発明の効果「本発明の断熱折版屋根構造によれば、板状断熱材が面ファスナーによって、折版屋根側に支持されているので、従来板状断熱材を保持するために必要とされたハット鋼ジョイナーなどの受け部材が不要となり、板状断熱材間の隙間をなくすことができるので、高い断熱効果が得られ、従来の
5 断熱折版屋根構造と比較して、構造が簡略化されているために、製造時及び屋根施工時の両面において、大幅なコストの低減を図れる。」(段落【0023】)「しかも、シート状断熱材にの面ファスナーを糸により縫着固定したことにより、面ファスナーの固定部分が補強されて、長期の使用においてもシート状断熱材に層間剥離が生ずることが防止されるので、板状断熱材が脱落するようなことがなく、断熱折版屋根構造の簡略化を行っても、安全性や耐久性の低下が起らない効果もある。」(段落【0024】)イ 乙13発明の構成上記認定事実及び弁論の全趣旨によれば、乙13公報には、次に掲げる構成が開示されていることが認められる。〔構成13A〕 折版屋根鋼板1の裏面にその折曲形状に沿って一面側が接着剤等で固着されたシート状断熱材2とその他面側かつ折板屋根鋼板1の折曲形状の下方の辺に位置する箇所にシート状断熱材2の厚み方向に貫通する糸6により縫着された面ファスナー3とから構成される第1の部分を有し〔構成13B〕 シート状断熱材2の下方に配置され、アルミ箔10で包まれた板状断熱材5とその一側の面に板状断熱材5の厚み方向に貫通する糸7により縫着された面ファスナー4とから構成される第2の部分とを有し〔構成13C〕 第1の部分の面ファスナー3と第2の部分の面ファスナー4とを対向して相互に係合することにより第1の部分と
第2の部分とが連結固定されており、
〔構成13D〕 第1の部分の面ファスナー3が縫着されていない箇所と第2の部分の間に空間が存在する
5 〔構成13E〕 断熱折版屋根構造⑵ 判断ア 乙13発明の構成13D、13Eが本件発明の構成要件D、Eの構成にそれぞれ相当することは、当事者間に争いがなく、証拠上も明らかである。そこで、争いがある構成について、以下検討する。イ 凹凸のある素材(構成要件A~C)上記認定事実によれば、乙13発明は、折板屋根鋼板1の裏面にその折曲形状に沿って一面側が接着剤等で固着されたシート状断熱材2とその他面側にシート状断熱材2の厚み方向に貫通する糸6により縫着された面ファスナー3とから構成される第1の部分が存在している(構成13A)。そうすると、当該第1の部分の形状によれば、同部分は、「表面が熱源側を向いており、該熱源側に位置する凹部と非熱源側に位置する凸部とが交互に設けられた凹凸のある素材」(構成要件A~C)であるといえるから、乙13発明には上記「凹凸のある素材」に該当する構成の開示があるものといえる。これに対し、原告は、当該第1の部分は、加工された工作物であるから上記「凹凸のある素材」に当たらない旨主張する。しかしながら、特許請求の範囲の記載によれば、上記「凹凸のある素材」は、その凸部の裏面に「高反射率の素材」を取り付けられるものであれば足り、本件明細書の記載(段落【0014】【0016】)によれば、上記「素材」には、屋根材のもととなる材料のみならず、工作物である屋根材自体(折板屋根材、スレート屋根材)も含まれている。そうすると、上記「凹凸のある素材」が上記にいう工作物を除外するものと解することはできない。したがって、原告の主張は、採用することができない。ウ 高反射率の素材(構成要件B~D)上記認定事実によれば、乙13発明は、シート状断熱材2の下方に配置され、アルミ箔で包まれた板状断熱材5とその一側の面に板状断熱材5の厚み
5 方向に貫通する糸7により縫着された面ファスナー4とから構成される第2の部分を有している(構成13B)。そうすると、当該第2の部分の構成によれば、同部分は、「凹凸のある素材の裏面側に位置するアルミホイル等輻射熱に対して高反射率の素材」(構成要件B~D)であるといえるから、乙13発明には、上記「高反射率の素材」に該当する構成の開示があるものといえる。これに対し、原告は、当該第2の部分は、第1の部分の下方に連結固定できるようにするという目的のために加工された工作物であり、上記「高反射率の素材」に当たらない旨主張する。しかしながら、特許請求の範囲の記載によれば、上記「高反射率の素材」は、「凹凸のある素材」の凸部の裏面に取り付けられるものであれば足り、本件明細書の記載(段落【0031】)によれば、上記「高反射率の素材」には、「ポリエステルやガラス等化学繊維シートの両面にアルミ箔等を取り付けたもの」という複数の材料の組合せからなる工作物が含まれている。そうすると、上記「高反射率の素材」が、上記にいう工作物を除外するものと解することはできない。したがって、原告の主張は、採用することができない。エ 接着手段(構成要件C)上記認定事実記載のとおり、乙13発明は、第1の部分の面ファスナー3と第2の部分の面ファスナー4とを対向して相互に係合することにより第1の部分と第2の部分とが連結固定されている(構成13C)。そして、証拠(乙14、15)及び弁論の全趣旨によれば、一般に、「接着」の通常の用語の意味は、「くっつくこと、くっつけること」をいうものと認められるところ、特許請求の範囲の文言及び本件明細書(段落【0034】)の記載には、「接着手段」を格別限定するものはない。そうすると、構成要件1Cの「接着手段」は、通常の用語の意味と異なるものとして使用されるものとはいえず、くっつく又はくっつける手段を広く含むものと解す
5 ることが相当であるから、面ファスナーによる係合を除外していないというべきである。したがって、第1の部分と第2の部分は、「接着手段により取り付けた」といえるから、乙13発明は、「前記凹凸のある素材の凸部の裏面に対してのみ前記アルミホイル等輻射熱に対して高反射率の素材を接着手段により取り付けた遮熱構造」(構成要件1C)であるといえる。オ 小括以上によれば、本件発明は、乙13発明と同一の構成を有しているから、新規性を欠いており、本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものと認められる。
6 争点4-1(本件遮熱構造が本件訂正発明の特許請求の範囲に属するか)⑴ 証拠(甲23)によれば、本件訂正発明の内容は、以下のとおりであると認められる(訂正箇所は下線部のとおり)。【A´】 表面が熱源側を向いており、該熱源側に位置する凹部と非熱源側に位置する凸部とが交互に設けられた凹凸のある素材と、【B´】 該凹凸のある素材の裏面側に位置するアルミホイル等輻射熱に対して高反射率の素材とからなり、【C´】 前記凹凸のある素材の凸部の裏面に対してのみ前記アルミホイル等輻射熱に対して高反射率の素材を接着手段により取り付けた遮熱構造であって、【F】 前記接着手段は、接着剤、熱溶着、両面テープから選択される接着手段であり、【D´】 前記凹部とアルミホイル等輻射熱に対して高反射率の素材との間に空間を存在させている【E´】 ことを特徴とする凹凸素材の遮熱構造。⑵ 前記前提事実1⑶アによれば、当初施工に係る遮熱構造は、凹凸のある屋根
5 材(折板屋根材)の凸部に両面テープが張られ、当該凸部の裏面にアルミ遮熱シートが貼り付けられているものと認められることからすると、本件訂正発明の構成要件Fを充足するものといえる。そして、その他の構成要件には、訂正箇所がなく、その充足性が認められることは、前記において説示したとおりである。したがって、当初施工に係る遮熱構造は、本件訂正発明の技術的範囲に属するものといえる。
7 争点4-2(独立特許要件の充足性)⑴ 乙13発明を主引用例とする無効事由ア 相違点の認定上記5⑴記載の乙13発明と、本件訂正発明を対比すると、以下の相違点が認められる。本件訂正発明は、凹凸のある素材と高反射率の素材を「接着剤、熱溶着、両面テープから選択される接着手段」により取り付ける一方、乙13発明は、シート状断熱材2に「糸6により縫着され」た「面ファスナー3」と、板状断熱材5に「糸7により縫着され」た「面ファスナー4」とを対向して相互に係合することにより取り付ける点なお、原告主張のその余の相違点が、相違点であるとはいえないことは、上記5に説示したとおりである。イ 相違点に関する容易想到性乙13発明は、接着手段として、シート状断熱材2の厚み方向に貫通する糸6により縫着された面ファスナー3と、板状断熱材の厚み方向に貫通する糸7により縫着された面ファスナー4とを対向して相互に係合する方法を用いている。そして、面ファスナーがシート状断熱材の厚み方向に貫通する糸により縫着されていることは、屋根施工を安全かつ容易に行うとともに(段落【0006】)、面ファスナー部分に加わる荷重によって、シート状
5 断熱材内で層間剝離が生じてシート状断熱材から板状断熱材が脱落されることを防止するという課題を解決するものである(段落【0008】、【0024】)。そうすると、乙13発明において糸により縫着された面ファスナーは、その課題解決のために不可欠のものであるから、これを「接着剤、熱溶着、両面テープ」のいずれかに置き換えることは、乙13発明の上記技術的意義を失わせるものであり、当業者が適宜選択し得る事項又は単なる設計事項であるということはできない。したがって、乙13発明に接した当業者において、あえて上記の置換えをする動機付けがあったものと認めることはできないから、本件訂正発明が進歩性を欠くものとはいえない。これに対し、被告らは、乙40公報の記載に基づき、乙13発明の面ファスナーは、両面テープに置換可能である旨主張する。しかしながら、乙40公報には、「ファスナー・両面テープなどで断熱体を張り付けたものが知られている」(段落【0002】)という記載があるにすぎず、ファスナーと両面テープを置き換える趣旨の記載や示唆はなく、乙13発明の上記技術的意義に鑑みても、被告らの主張は、上記判断を左右するものではない。その他に、被告らは、接着手段を面ファスナーから「接着剤、熱溶着、両面テープ」に限定することは、当業者が容易に選択し得る設計事項である旨主張するものの、乙13発明の上記技術的意義に照らし、採用の限りではない。したがって、被告らの主張は、いずれも採用することができない。⑵ 乙17発明を主引用例とする無効事由ア 認定事実(ア) 乙17発明の内容証拠(乙17)によれば、乙17公報には、以下の記載があることが認められる。
5 a 発明が解決しようとする課題「本発明は、変形し易い遮熱材を新規な構造とし、遮熱材自体に自立性を付与し、遮熱材の断熱材への被覆保護を簡便にするものである。」(段落【0004】)b 課題を解決するための手段、及び作用「本発明の断熱材保護用遮熱材は、(中略)シート材から成るフレーム10(図2)と、(中略)シート材から成る自立片15とを含み、フレーム10は、少なくとも上面シート11が表面に輻射熱反射層Reを備えた、少なくとも上面シート11と下面シート12を含む複数シートを、シート材から成る倒伏自在の起立片13、14で連結して長手方向に空気流通可能な空気層空間Sを形成したものであり、自立片15は、(中略)長手方向に並行する形態に屈曲立体化したものである(請求項1)。」(段落【0005】)「「輻射熱反射層Re」は、熱反射性の金属箔や金属蒸着膜であり、典型的には(中略)アルミニウム箔である。そして、輻射熱反射層Reは、上面シート11への付与が必須であるが、必要に応じて自立片15の表面及び下面シート12にも付与すれば、(中略)遮熱材1の熱線透過防止機能がいっそう向上する。」(段落【0006】)「自立片15の「屈曲立体化」は、図2の如く折り目によって屈曲立体化させたものや、図6(B)の如く曲げによって屈曲立体化させたもの等、シート面が上下に突出立体化したものを含む広い意味である。(中略)上面シート11と下面シート12の2層であれば、中間に一層の空気層空間Sが、(中略)形成出来る。」(段落【0007】)「自立片15は、端部15Eをフレーム10の空気層空間Sの隅端部SEと止着するのが好ましい。この場合、自立片15をフレーム10の長手方向一端から空気層空間S内に挿入した後、図1(B)の如く、自
5 立片15の一端、又は両端で、端部15Eを空間Sの隅端部SEに当接して接着剤Adを点付与すれば良く、止着作業が簡単である。」(【段落0019】)【図1 B】【図2】 【図6】(イ) 乙17発明の構成上記認定事実及び弁論の全趣旨によれば、乙17公報には、次に掲げる構成が開示されていることが認められる。〔構成17A〕 フレーム10内の空気層空間Sに屈曲立体化した自立片15を挿入し、その一端又は両端で空間Sの隅端部SEに当接して接着剤Adを点付与して止着されており、〔構成17B〕 フレーム10の下面シート12に輻射熱反射層Reが付
5 与されており、〔構成17D〕 屈曲立体化した自立片15と輻射熱反射層Reが付与されたフレーム10の下面シート12の間に空間が存在している〔構成17E〕 住宅の断熱材保護用遮熱材イ 判断(ア) 乙17発明の構成17B、D、Eが本件訂正発明の構成要件B´、D´、E´の構成にそれぞれ相当することは、当事者間に争いがなく、証拠上も明らかである。そこで、争いがある構成について、以下検討する。(イ) 凸部の裏面に対してのみ…取り付けた(構成要件C´)乙17公報には、「自立片15の一端、又は両端で、端部15Eを空間Sの隅端部SEに当接して接着剤Adを点付与すれば良く…」と記載されている(段落【0019】)。しかしながら、乙17公報には、自立片15の端部15Eが凸部状であるとは記載されておらず、図1B、図2のほか、図6に示された変形例でも、端部15Eが凸部状とはされていない。そうすると、乙17発明は、本件訂正発明における「凹凸のある素材」に相当する自立片15が、凸部状でない端部15Eで接着されるものであるから、本件訂正発明における「凹凸のある素材の凸部の裏面に対してのみ・・・接着手段により取り付け」る構成(構成要件C´)を有しているものとはいえない。(ウ) 以上によれば、その余の構成について検討するまでもなく、本件訂正発明は、乙17発明と同一の構成を有しているものとはいえず、新規性を欠くものとはいえない。⑶ 乙18発明を主引用例とする無効事由ア 認定事実
5 (ア) 乙18発明の内容a 発明が解決しようとする課題「建材加工や接着加工といった専門的な工事を実施することなく、また、短時間で断熱処理を簡単に施工できる方法を提供しようとするものである。」(段落【0003】)b 発明を実施するための最良の形態「Aは屋根部を構成する折板建材であり、鉄製である。Bは断熱材である。Cは磁石であり、DはCの磁石に付随するカバーであり、Cの磁石の磁力を保つために金属製とする。DはCに対して接着または溶接などで固定されるものとする。EのピンはBの断熱材を貫通して反対側に先端が突出するものとし、EはDに接着または溶接などで固定されるものとする。Fは突出したEのピンの先端を保護するためのカバーである。」「以下、工事方法を図B-1より説明する。まず、工事を施工する位置を決定し、建材Aに留め具Hを取り付ける。留め具Hは磁石Cを有するため、鉄製の建材Aに磁力で固定される。留め具Hを必要な数量建材Aに取り付ける。次に、図B-2において、断熱材Bを取り付ける。断熱材Bに対してピンEを貫通させる。この時、断熱材Bは緩衝材Gによって直接建材Aと接することがない。図B-3において、断熱材Bを貫通しているピンEの先端に、カバーFを取り付ける。カバーFはピンEの先端を保護するだけでなく、断熱材Bが留め具Hから脱落するのを防ぐ役割も持つ。以上、図B-1より図B-3の手順を繰り返すことにより、建築物に対する断熱工事を施工することができる。」(以上につき、段落【0005】)【図A】 【図B-1】【図B-2】 【図B-3】c 発明の効果「【0005】で記述した工事方法における最大の利点は、現状の屋根や壁に直接手を加えることなく、また特殊な工具や接着剤などを用いることなく、誰でも簡単に内側断熱工事が施工できる点である。」(段落【0006】)(イ) 乙18発明の構成上記認定事実及び弁論の全趣旨によれば、乙18公報には、次に掲げる構成が開示されていることが認められる。〔構成18A〕 屋根部を構成する折板建材Aと、〔構成18B〕 折板建材Aの下方に取り付けられた断熱材Bとを有し、〔構成18C〕 折板建材Aに磁力で固定した留め具HのピンEを断熱材Bに貫通させ、当該ピンEの先端にカバーFが取り付けられることで、折板建材Aに断熱材Bを取りつけており、〔構成18D〕 折板建材Aの凹部と断熱材Bの間には空間がある〔構成18E〕 断熱構造
5 イ 判断(ア) 相違点の認定上記記載の乙18発明と、本件訂正発明を対比すると、以下の相違点が認められる。a 本件訂正発明は、凹凸のある素材に「アルミホイル等輻射熱に対して高反射率の素材」を取り付けた「遮熱構造」である一方、乙18発明は、折板建材Aの下方に「断熱材」が取り付けられた「断熱構造」である点b 本件訂正発明は、「凹凸のある素材の凸部の裏面に対してのみ…高反射率の素材を接着手段により取り付け」るものである一方、乙18発明は、折板建材Aに磁力で固定した留め具HのピンEを断熱材Bに貫通させ、当該ピンEの先端にカバーFが取り付けられることで、折板建材Aに断熱材Bを取りつけている点(イ) 相違点に関する容易想到性本件事案に鑑み、上記bの相違点について判断する。乙18発明は、折板建材Aに磁力で固定した留め具HのピンEを断熱材Bに貫通させ、当該ピンEの先端にカバーFが取り付けられることで、折板建材Aに断熱材Bを取りつけている。そして、当該構成は、接着加工といった専門的な工事や接着材を用いることなく、断熱処理を施すことができるという技術的意義を有するものである(段落【0003】【0006】)。そうすると、乙18発明において、その課題解決のために必須である上記構成を、「接着材、熱溶着、両面テープ」のいずれかに置き換えることは、乙18発明の技術的意義を失わせるものである。したがって、乙18発明に接した当業者において、上記の置換えをするに阻害要因があるといえるから、乙18発明に基づいて本件訂正発明を容易に想到し得たとはいえない。これに対し、被告らは、①公開特許公報(発明の名称を「石綿スレート
5 構造体および石綿スレートの被覆工法」とするもの。特開2007-77741。公開日平成19年3月29日。乙28。以下「乙28公報」という。)に、乙18発明と主要な部分が同一である断熱構造につき、凹凸構造を有する屋根素材の室内側の凸部分に、鋼板を粘着剤で貼着する構成が開示されていること、②乙18公報と主要な部分が同一である構造体に接着手段を用いることは、乙13公報、乙17公報、乙28公報に記載されている周知技術であることから、乙18発明の留め具を用いた上記構成を「接着剤、熱溶着、両面テープ」のいずれかに置換することは容易である旨主張する。しかしながら、乙18発明において、当該構成を「接着材、熱溶着、両面テープ」のいずれかに置き換えることに阻害要因があることは、上記において説示したとおりである。その他に、被告らは、乙18発明には、接着剤によって断熱材を取り付ける構造が従来技術として開示されている(段落【0003】、【0006】)旨主張する。しかしながら、仮に、当該記載部分により乙18発明を認定した場合であっても、「凹凸のある素材の凸部の裏面に対してのみ」に相当する構成が開示されているとはいえない一方、被告らは当該構成について容易想到である旨を主張立証していないのであるから、乙18発明に接した当業者において、本件訂正発明を容易に想到し得たとはいえない。したがって、被告らの主張は、いずれも採用することができない。以上によれば、その余の相違点について検討するまでもなく、本件訂正発明は、乙18発明から容易に想到し得たとはいえないから、進歩性を欠くものとはいえない。⑷ 小括以上によれば、本件訂正発明に無効事由があるとはいえないから、独立特許要件を充足するものと認めるのが相当である
8 争点5(被告ライフテックの侵害主体性及び不法行為該当性)
5 ⑴ 侵害主体性証拠(甲3ないし5)及び弁論の全趣旨によれば、被告ライフテックは、遮熱材であるサーモバリアSを販売する会社であり、サーモバリアSは、「アルミホイル等輻射熱に対して高反射率の素材」(構成要件1B、1C、1D)に該当すること、同製品の実際の販売又は施工は、被告ライフテックが代理店を通じて行っていること、被告山創はサーモバリアSを販売又は施工する代理店の一つであること、被告ライフテックのホームページには「施工実績」の一つとして、被告山創が施工した是正工事の写真及び動画が掲載されており、施工前の様子である当初施工に係る遮熱構造(サーモバリアSが捲れているものも含む。)も撮影されていること、以上の事実が認められる。上記認定事実によれば、被告ライフテックは、当初施工に係る遮熱構造の販売を行っているものではなく、その部品であるサーモバリアSを販売するにとどまることが認められる。もっとも、同社のホームページの掲載内容によれば、当初施工に係る遮熱構造が一部掲載されていることが認められるものの、サーモバリアSを販売するための施工実績の欄に掲載されているにすぎず、譲渡の対象や条件が明記されているものでもなく、しかも、是正工事を施工する前の様子として、随所に剥がれがある当初施工に係る遮熱構造の様子が撮影されているにとどまるものである。そうすると、当該ホームページの掲載内容から、当初施工に係る遮熱構造が販売の対象であったとまで認めることはできない。したがって、被告ライフテックは、当初施工に係る遮熱構造の「譲渡の申出」をしたものと認めることはできない。⑵ 不法行為(幇助)該当性被告ライフテックは、被告山創が当初施工に係る遮熱構造を生産するに当たり、「アルミホイル等輻射熱に対して高反射率の素材」(構成要件1B、1C、1D)に該当するサーモバリアSを提供している。
5 しかしながら、証拠(乙5)及び弁論の全趣旨によれば、被告ライフテックは、同社のホームページにおいて、「工場・店舗向け工法」として本件特許権を侵害しない下地鋼材を用いた施工方法を紹介していることが認められる。そうすると、被告ライフテックは、サーモバリアSが本件特許権を侵害する態様で使用されることを想定していなかったものと推認するのが相当であり、これを覆すに足りる的確な証拠はない。これらの事情を踏まえると、少なくとも被告ライフテックには、過失があるものとはいえない。したがって、被告ライフテックは、被告山創による当初施工に係る遮熱構造の「生産」を幇助したものとはいえない。⑶ 以上によれば、被告ライフテックは、当初施工に係る遮熱構造について、「譲渡の申出」をしたとも、被告山創による「生産」を幇助したともいえない。
9 争点6(差止めの必要性)⑴ 当初施工に係る遮熱構造の内容、被告山創の行為態様及びその他本件に現れた一切の事情を考慮すると、本件においては、被告山創による当初施工に係る遮熱構造の生産の差止めの必要性が認められる。⑵ これに対し、被告らは、当初施工に係る遮熱構造を施工した結果として、是正工事を行うことが必要となったのであるから、今後、当該遮熱構造を施工することはない旨主張するが、当該事情及び被告らの意向をもって、差止めの必要性が否定されるものではない。
10 争点7(原告が受けた損害の額)⑴ 特許法102条2項に基づく損害額ア 売上高証拠(乙9)によれば、当初施工により被告山創が得た売上高(請負代金)は660万円であることが認められる。これに対し、被告らは、当初施工は目的物の完成に貢献していないから、
5 上記請負代金は侵害行為と因果関係のある利益ではない旨主張する。しかしながら、被告山創による当初施工に係る遮熱構造の取り付けが、特許法2条3項1号にいう「生産」に該当することは、前記3において説示したとおりである。そして、前記前提事実⑶及び証拠(乙9)によれば、当初施工は、令和2年5月20日に予定の工程を終えて、当初施工に係る遮熱構造を引き渡したことをもって、上記請負代金が支払われたものと認められる。そうすると、被告山創は、上記にいう侵害の行為により上記請負代金を得ているのであるから、上記請負代金は、特許法102条2項にいう「利益」に該当するものと認めるのが相当である。イ 経費(ア) 被告らの主張被告らは、当初施工に係る遮熱構造について、①材料費(164万1365円)、②藤野氏への人件費(3万8500円)、③高所作業車のレンタル費用等(47万7050円)、④株式会社アイルに対する人件費等(56万4300円)、⑤有限会社インテリアタムラに対する人件費(16万8300円)、⑥被告山創の人件費(155万3682円)は、当該遮熱構造の生産に直接関連して追加的に必要となった経費である旨主張する。このうち、①材料費及び②藤野氏への人件費が控除すべき経費に該当することについては、当事者間に争いがないため、被告ら主張の上記③ないし⑥に係る経費が、当初施工に係る遮熱構造の生産に直接関連して追加的に必要となった経費であるかどうかにつき、以下判断する。(イ) ③高所作業車のレンタル費用等証拠(乙44)及び弁論の全趣旨によれば、被告山創は、当初施工の期間において、株式会社東海大阪レンタルから高所作業車をレンタルし、これに付随する諸費用(基本料、サポート料、納入運搬費用等)と併せ、合計47万7050円を支出したものと認められる(内訳につき被告ら第6
5 準備書面参照)。そして、当初施工が高所作業を伴うものであることからすると、当該費用は、当初施工に係る遮熱構造の生産に直接関連して追加的に必要となった経費であると認めるのが相当である。(ウ) ④株式会社アイルに対する人件費証拠(乙47)及び弁論の全趣旨によれば、被告山創は、当初施工の期間において、株式会社アイルに対し、作業員の派遣を依頼し、これに付随する諸費用(労送車、燃料)と併せ、合計56万4300円を支出したものと認められる。そして、請求書(乙47)には、当初施工の現場の地名である「犬山」や工事の材料である「サーモバリア」との記載があることからすると、当該費用は、当初施工に係る遮熱構造の生産に従事する作業員のために要した費用であって、当該生産に直接関連して追加的に必要となった経費であると認めるのが相当である。(エ) ⑤有限会社インテリアタムラに対する人件費証拠(乙48)及び弁論の全趣旨によれば、被告山創は、有限会社インテリアタムラに作業員の手配を依頼し、合計16万8300円を支出したものと認められる。そして、請求書(乙48)には、当初施工の現場の会社名である「BX紅雲」や工事の内容である「サーモバリア施工」との記載があることからすると、当該費用は、当初施工に係る遮熱構造の生産に従事する作業員のために要した費用であり、当該生産に直接関連して追加的に必要となった経費であると認めるのが相当である。(オ) ⑥被告山創の人件費被告山創の従業員の人件費は、本来的には固定的な経費というべきところ、各従業員の具体的な職務の従事状況等に関する立証はなく、当初施工に係る遮熱構造の生産のために追加的に必要となった経費であると認めるに足りない。したがって、当該費用は、当初施工に係る遮熱構造の生産のために直接
5 関連して追加的に必要となった経費であるとはいえない。(カ) 小括以上によれば、当初施工に係る遮熱構造の生産に当たり、控除すべき費用は、上記①ないし⑤の合計額である288万9515円の限度で認めるのが相当である。(キ) 被告らの主張について被告らは、上記請負代金は、是正工事の完了までを含んだものであるから、限界利益の算定に当たっても、是正工事について生じた費用を控除すべきである旨主張する。しかしながら、上記請負代金は、当初施工に係る遮熱構造を引き渡したことをもって支払われたものであるから、当該事実経過によっても、是正工事を含まないとするのが相当である。のみならず、そもそも是正工事は、当初施工完了から約1年後に行われたものであるから、社会通念上も当初施工とは別個の工事であると認めるのが相当である。そうすると、是正工事に要した費用は、侵害行為に直接関連して追加的に必要になった経費であるとはいえない。したがって、被告らの主張は、採用することができない。ウ 小括以上によれば、被告山創が当初施工に係る遮熱構造の生産によって得た限界利益額は371万0485円であり、この限界利益額は、特許法102条2項により、原告が受けた損害額と推定される。⑵ 特許法102条3項による利益の額本件に顕れた全事情に鑑みれば、実施に対し受けるべき料率は、5%を超えるものとはいえないから、これに上記売上額を乗じた金額(660万円×5%=33万円)が、上記⑴による損害額を超えるものとは認められない。⑶ 小括したがって、原告の被告山創に対する損害賠償の額は、371万0485円
5 と認めるのが相当である。
11 争点8(不正競争(不競法2条1項21号)該当性及び故意又は過失の有無)⑴ 認定事実証拠(乙1、乙30)によれば、本件遮熱ニュースは別紙のとおりであり、その記載内容は以下のとおりであると認められる。「サーモバリア、特許侵害訴訟開始被告::(株)ライフテック、山創(株)今回は、室内側の直貼り工法が対象兼ねてより、(株)ライフテックには特許侵害の疑いありと特許事務所より通告していました。ところが、あちこちで特許侵害が見受けられたので特許侵害訴訟を行うものです。今回は、短期間に終わらすため、室内天井や壁に両面テープを使用して直貼りした件に関しての訴訟とします。前回は大手企業である九州セキスイハイムも絡んだため4年も掛かってしまいました。今回、サーモバリアを使用して特許侵害に当たると思われる会社が複数社有りましたが、販売会社の(株)ライフテック及び山創(株)に絞って訴訟を行います。今回の訴訟で勝利すればサーモバリアを使用している全ての会社が特許侵害の可能性がある事になり、大手企業等からは排除されること大になると思います。又、輸入業者の石蔵商店は、商品名を”IS遮熱シート”に変更しました。特許侵害は犯罪、懲役刑(10年以下)有。特許期間20年の後でも効力を発揮直貼り工法見たら特許侵害を疑う特許侵害を軽く見ている方もいますが、泥棒と同じで犯罪です。特許庁にも、最長10年の懲役又は1000万円以下の罰金刑があります。特許は犯罪で、一度罪人になると ずっと犯罪者の看板を背負って仕事を
5 することになります。又、過去に施工した特許侵害物件が20年後でも発見されれば、さかのぼって弁済義務が生じます。今後は、サーモバリアに関する他の企業や物件も順次調査予定です。もし、加盟店様に置かれましては、直貼りの情報を得ましたら特許侵害の話をすると受注し易くなると思います。又、特許侵害と思われる物件に気づきましたらご一報ください。」⑵ 競争関係ア 争いのない事実、証拠(甲4)及び弁論の全趣旨によれば、原告が遮熱材であるトップヒートバリアを販売する会社であること、被告ライフテックが遮熱材であるサーモバリアを販売する会社であること、被告山創がサーモバリアを販売・施工する代理店であること、以上の事実が認められる。上記認定事実によれば、原告と被告らは、少なくとも遮熱材を販売するという点において、その需要者又は取引者を共通にする可能性があるといえるから、不競法2条1項21号の規定する「競争関係」にあるというべきである。イ これに対し、原告は、原告とフランチャイズ加盟店との間で締結する契約書(甲20)を根拠として、原告と被告らは、それぞれ異なる流通網を構築しているから「競争関係」にない旨主張する。しかしながら、上記競争関係とは、現在の商品販売上の具体的競争関係にとどまらず、その需要者又は取引者を共通にする可能性があれば足りることは、上記において説示したとおりである。そして、原告の主張に立ったとしても、契約期間満了(7条)等の事由によりフランチャイズ契約が終了することもあり得るのであるから、その需要者又は取引者を共通にする可能性を直ちに否定することはできないというべきである。したがって、原告の主張は、採用することができない。
5 ⑶ 告知ア 前記前提事実⑸によれば、原告は、令和6年3月27日付けで、原告のフランチャイズ加盟店に対し、本件遮熱ニュースを送付している。そうすると、不競法2条1項21号にいう「告知」をしたものと認められる。イ これに対し、原告は、同号にいう「告知」とは営業上の信用を害するおそれのある行為に限られるところ、上記⑵記載の事情からすれば、本件遮熱ニュースの送付は被告らの営業上の信用を害するおそれがなく、上記「告知」に当たらない旨主張する。しかしながら、原告の主張を前提としても、後記⑷のとおり、本件遮熱ニュースの内容を踏まえると、被告らの営業上の信用を害するものであることは明らかである。したがって、原告の主張は、採用することができない。⑷ 営業上の信用を害する虚偽の事実ア 虚偽の事実に関する解釈競争関係にある者が、競業者の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し又は流布する行為は、競業者を不利な立場に置き、自ら競争上有利な地位に立とうとするものであるから、公正な競争を阻害することになる。このような結果を防止し、事業者間の公正な競争を確保する観点から、不競法2条1項21号は、上記行為を不正競争の一類型と定めるものである。そして、競
争関係にある者において、知的財産権を侵害しないという裁判所の判断が示
される前に、当該知的財産権を侵害する旨を事前に告知し又は流布する行為
は、知的財産権侵害の結果の重大性に鑑みると、競業者の営業上の信用を害
することによって、上記と同様に、公正な競争を阻害することは明らかであ
る。
上記の同号に係る趣旨目的に鑑みると、法的な見解の表明それ自体は、意
見ないし論評の表明に当たるものであるとしても(最高裁平成15年(受)
第1793号、第1794号同16年7月15日第一小法廷判決・民集58
巻5号1615頁参照)、上記行為は、不正競争の一類型に含まれると解す
るのが相当である。
そうすると、競争関係にある者が、知的財産権を侵害しないという裁判所
の判断が示される前に、当該知的財産権を侵害する旨を告知又は流布する行
為は、同号にいう「虚偽の事実」の告知又は流布に該当するものと解するの
が相当である。
イ 本件遮熱ニュースについて
(ア) 上記認定事実によれば、本件遮熱ニュースには、「兼ねてより、(株)
ライフテックには特許侵害の疑いありと特許事務所より通告していまし
た。ところが、あちこちで特許侵害が見受けられたので特許侵害訴訟を行
うものです。」、「今回は、短期間に終わらすため、室内天井や壁に両面
テープを使用して直貼りした件に関しての訴訟とします。」と記載されて
いるほか(文言1)、「今回の訴訟で勝利すればサーモバリアを使用して
いる全ての会社が特許侵害の可能性がある事になり」などと記載されてい
る(文言3)。
(イ) このうち、「兼ねてより、(株)ライフテックには特許侵害の疑いあり
と特許事務所より通告していました。ところが、あちこちで特許侵害が見
受けられたので特許侵害訴訟を行うものです。」(文言1)と記載されて
いる部分は、一般の読み手の普通の注意と読み方を基準とすれば、被告ラ
イフテックが各所で特許権侵害行為をしたものと理解されるものといえる。
しかしながら、被告ライフテックによる特許権侵害が認められないこと
は、上記8において説示したとおりであるから、原告は、特許権を侵害し
ないという裁判所の判断が示される前に、当該特許権を侵害する旨を告知
したものといえるから、上記の送付行為は、不競法2条1項21号にいう
「虚偽の事実」の告知に該当するものといえる。
そして、特許権を侵害したという虚偽の事実は、被告ライフテックの社
会的評価を低下させるものであるから、上記送付行為は、被告ライフテッ
クの「営業上の信用を害する虚偽の事実」の告知に該当する。
(ウ) また、「今回は、短期間に終わらすため、室内天井や壁に両面テープを
使用して直貼りした件に関しての訴訟とします。」(文言1)、「今回の
訴訟で勝利すればサーモバリアを使用している全ての会社が特許侵害の
可能性がある事になり」(文言3)と記載されている部分は、「今回は、
室内側の直貼り工法が対象」、「直貼り工法を見たら特許侵害を疑う」と
いった本件遮熱ニュースのその他の記載と併せてみると、一般の読み手の
普通の注意と読み方を基準とすれば、少なくともサーモバリアを室内側に
直貼りすれば、特許権侵害行為に該当し、被告山創が、室内天井のみなら
ず、室内側の直貼りにより特許権侵害を行ったものと理解されるものとい
える。
しかしながら、本件特許は、折板屋根材等の凹凸のある素材に遮熱材を
接着手段により取り付けた遮熱構造を対象とするものであるにすぎない
から、サーモバリアを室内側に直貼りしたことによって、その態様を問わ
ず、特許権侵害を構成するものではなく、また、被告山創が壁にサーモバ
リアを直貼りしたことによって特許権侵害を行ったと認めることもでき
ない。
そうすると、上記記載のある本件遮熱ニュースを送付した行為は、不競
法2条1項21号にいう「虚偽の事実」の告知に該当するといえる。
そして、上記の事実は、サーモバリアを販売又は施工する被告らの社会
的評価を低下させるものであるから、上記送付行為は、被告らの「営業上
の信用を害する虚偽の事実」の告知に該当するというべきである。
(エ) なお、「サーモバリアを使用して特許侵害に当たると思われる会社が複
数社有りましたが…」との文言(文言2)は、当該記載に係る事実が虚偽
であることが立証されていないことからすると、少なくともこの点につい
ての被告らの主張は、採用の限りではない。
ウ 違法性について
競業者が知的財産権を侵害していないにもかかわらず、その権利者におい
て当該競業者が当該知的財産権を侵害する旨告知し又は流布する行為が、知
的財産権の正当な権利行使の一環としてなされたものと認められる場合に
は、知的財産権の重要性に鑑み、違法性を欠くものというべきである。
しかしながら、本件遮熱ニュースには、上記に掲げた記載のほか、「特許
侵害は犯罪、懲役刑(10年以下)有。」、「サーモバリアを使用している
全ての会社が特許侵害の可能性」、「加盟店様に置かれましては、直貼りの
情報を得ましたら特許侵害の話をすると受注し易くなると思います。」、
「サ
ーモバリアを使用している全ての会社が特許侵害の可能性がある事になり、
大手企業等からは排除されること大になると思います。」などの記載がある
ことが認められる。これらの記載によれば、原告は、外形的には加盟店への
情報提供という形式をとりつつも、「犯罪、懲役刑」という文言を冒頭赤字
の大見出しで掲げた上、「サーモバリアを使用している全ての会社が特許権
侵害の可能性がある」という明らかに根拠なき事実を述べていることからす
ると、実質的には被告らを不利な立場に置き、自ら競争上有利な地位に立と
うとするものであることは明らかであり、その態様は極めて悪質であるとい
わざるを得ない。
これらの事情を踏まえると、原告が本件遮熱ニュースを告知した行為は、
特許権の正当な権利行使の一環としてなされたものであるとは認めること
はできない。
⑸ 小括
したがって、本件遮熱ニュースの送付行為は、不正競争(不競法2条1項2
号)に該当するものといえる。そして、上記認定に係る本件遮熱ニュースの
内容及び態様によれば、原告には明らかに過失があったものと認められる。
12 争点9(被告らが受けた損害の額)
⑴ 被告ライフテックについて
被告ライフテックは、本件遮熱ニュースの送付により、特許権侵害行為をし
ていないにもかかわらず、本件特許権を侵害した旨原告の取引先に虚偽の事実
を告知されている。その内容は、上記にとどまらず、被告ライフテックが各所
で特許権侵害行為をしていること、被告ライフテックの販売する製品(サーモ
バリアS)を室内側に直貼りする態様の全てが特許権侵害に該当するという、
被告ライフテックの営業上の信用を害する虚偽の事実を複数含むものである。
さらに、本件遮熱ニュースには、「特許侵害は犯罪、懲役刑(10年以下)有
り。」、「サーモバリアを使用している全ての会社が特許侵害の可能性」、「加
盟店様に置かれましては、直貼りの情報を得ましたら特許侵害の話をすると受
注し易くなると思います。」などの記載が認められるほか、「犯罪、懲役刑」
という文言が冒頭赤字の大見出しで掲げられていることからすれば、その態様
は、被告ライフテックを不利な立場に置き、自らを競争上有利な地位に立つこ
とを意図した極めて悪質なものである。
上記において説示した本件遮熱ニュースの内容及び態様を踏まえ、本件に現
れた一切の事情を総合考慮して、本件告知行為により被告ライフテックの営業
上の信用が毀損された無形損害の額を算定すれば、その悪質性に鑑みると、無
形損害の額としても少なくとも300万円を下らないと認められる。そして、
本件訴訟の難易度及び係属期間、訴訟態様等に照らせば、弁護士費用相当額3
万円については、原告による侵害行為と相当因果関係のある損害であると認
めるのが相当である。
したがって、本件告知行為による被告ライフテックの損害額は、330万円
の限度で認めるのが相当である。
⑵ 被告山創について
被告山創は、本件遮熱ニュースの送付により、壁にサーモバリアを貼り付け
る工法で特許権侵害行為をしたという虚偽の事実を原告の取引先に告知され
ている。その内容は、被告山創が販売・施工する製品(サーモバリアS)を室
内側に直貼りする態様の全てが特許権侵害に該当するという、被告山創の営業
上の信用を害する虚偽の事実を含むものである。そして、その態様が、被告山
創を不利な立場に置き、自らを競争上有利な地位に立つことを意図した極めて
悪質なものであることは、上記において説示したとおりである。
上記において説示した本件遮熱ニュースの内容及び態様を踏まえ、本件に現
れた一切の事情を総合考慮して、本件告知行為により被告山創の営業上の信用
が毀損された無形損害の額を算定すれば、その悪質性に鑑みると、無形損害の
額としても少なくとも100万円を下らないと認められる。そして、本件訴訟
の難易度及び係属期間、訴訟態様等に照らせば、弁護士費用相当額10万円に
ついては、原告による侵害行為と相当因果関係のある損害であると認めるのが
相当である。
したがって、本件告知行為による被告山創の損害額は、110万円の限度で
認めるのが相当である。
⑶ 原告の主張について
原告は、本件遮熱ニュースの配信先は、原告のフランチャイズ加盟店に限ら
れており、加盟店が被告らの製品を購入することはないから、被告らの信用は
毀損されないなどと主張する。しかしながら、原告のフランチャイズ加盟店も、
被告らの需要者又は取引者となり得る可能性があることは、前記において説示
したとおりであり、また、知的財産権侵害の重大性及び本件告知行為の悪質性
に鑑みると、原告の主張は、いずれも結論を左右するものとはいえない。した
がって、原告の主張は、いずれも採用することができない。
争点10(差止め及び信用回復措置の必要性)
上記に説示したとおり、本件遮熱ニュースの送付による不正競争行為が被告
らの営業上の利益を侵害するものであることは明らかであるから、原告が別紙
文言目録記載1及び3の文言を第三者に告知することを差し止める必要性が認
められる。もっとも、本件全証拠によっても、原告の行為に係る悪質性等が本
判決をもって公的に判断されるほかに、原告に対し、謝罪広告を掲載する方法
による信用回復措置を命じなければならない必要性を認めることができない。
第5 結論
よって、原告の本訴請求については、①差止請求につき、被告山創に対し、別
紙物件目録記載の当初施工に係る遮熱構造の生産の差止めを求める請求は理由
があるからこれを認容し、②損害賠償請求につき、被告山創に対し、371万0
円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である令和6年4月24日から
支払済みまで年3分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある
からこの限度で認容し、③その余の請求にはいずれも理由がないからこれらを棄
却することとし、他方、被告らの反訴請求については、①差止請求につき、原告
に対し、別紙文言目録記載1及び3の文言を第三者に告知することの差止めを求
める請求は理由があるからこの限度で認容し、②損害賠償請求につき、被告ライ
フテックに対する原告の請求は理由があるからこれを認容し、被告山創に対する
原告の請求は110万円及びこれに対する令和6年6月1日から支払済みまで
年3分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこの限度
で認容し、③その余の請求にはいずれも理由がないからこれらを棄却することと
し、主文第1項ないし第5項については、本件事案に鑑み、仮執行宣言を付する
のが相当であるからこれを付すこととして、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官
中 島 基 至
裁判官
坂 本 達 也
裁判官松川春佳は転補のため、署名押印することができない。
裁判長裁判官
中 島 基 至
(別紙)
物件目録[a] 凹凸のある屋根材(折板屋根材)を備えている。
5 [b] 凹凸のある屋根材(折板屋根材)の裏面側にアルミ遮熱シートを設けている。[c] 凹凸のある屋根材(折板屋根材)の凸部に両面テープが張られ、そこにアルミ遮熱シートが貼り付けられている。[d] 凹凸のある屋根材(折板屋根材)の凹部とアルミ遮熱シートの間に空隙が存在する。[e] 凹凸のある屋根材(折板屋根材)の遮熱構造である。
(別紙)
文言目録1 サーモバリア、特許侵害訴訟開始5 被告::(株)ライフテック、山創(株)今回は、室内側の直貼り工法が対象兼ねてより、(株)ライフテックには特許侵害の疑いありと特許事務所より通告していました。ところが、あちこちで特許侵害が見受けられたので特許侵害訴訟を行うものです。今回は、短期間に終わらすため、室内天井や壁に両面テープを使用して直貼りした件に関しての訴訟とします。2 今回、サーモバリアを使用して特許侵害に当たると思われる会社が複数社有りましたが、販売会社の(株)ライフテック及び山創(株)に絞って訴訟を行います。3 今回の訴訟で勝利すればサーモバリアを使用している全ての会社が特許侵害の可能性がある事になり、大手企業等からは排除されること大になると思います。
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