ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 令和6(ワ)12861 不正競争行為差止等請求事件
| 裁判所 | 請求棄却 大阪地方裁判所 |
|---|---|
| 裁判年月日 | 令和7年12月11日 |
| 事件種別 | 民事 |
| 当事者 | 原告株式会社千鳥屋宗家 被告株式会社千鳥饅頭総本舗 |
| 法令 |
不正競争 商標法46条1項1号1回 商標法4条1項10号1回 |
| キーワード | 商標権11回 差止6回 損害賠償5回 無効2回 侵害1回 |
| 主文 | 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
| 事件の概要 | 1 本判決で用いる呼称(略語) (1) 本件商品等表示:「千鳥屋」との文字で構成される表示 (2) 本件事業:原告及び被告の事業の祖業に当たる饅頭等の製造販売業 (3) ●●●●(原告代表者の母、被告代表者の祖母):A (4) ●●●●(被告代表者の父、原告代表者の兄):B (5) 原告商標(権): :商標登録第4682688号に係る商標(権)及び商標登 録第5128664号に係る商標(権)の総称 (6) 被告商標(権):商標登録第5820605号に係る商標(権) (7) 甲6事件: :当庁平成28年: (ワ) 第5374号販売差止等請求事件及びその 控訴事件である大阪高等裁判所平成30年(ネ)第1605号事件 (8) 甲4文書:: |
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令和7年12月11日判決言渡 同日原本受領 裁判所書記官
令和6年(ワ)第12861号 不正競争行為差止等請求事件
口頭弁論終結日 令和7年10月14日
判 決
原告 株式会社千鳥屋宗家
代表者代表取締役
訴訟代理人弁護士 辻本希世士
同 辻本良知
同 松田さとみ
被告 株式会社千鳥饅頭総本舗
代表者代表取締役
訴訟代理人弁護士 田中雅敏
同 高山大地
同 鶴利絵
同 宇加治恭子
同 高田亜朱華
同 石井靖子
同 早崎裕子
同 森進吾
同 小栁美佳
同 堀田明希
同 安田裕明
同 松浦駿
同 辻陽加里
同 原慎一郎
同 オドノバンショーン塁
同 柏田剛介
同 山腰健一
主 文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
被告は、大阪府、兵庫県、京都府、滋賀県及び和歌山県において、菓子に「千
鳥屋」の表示を使用し、「千鳥屋」の表示を付した菓子を販売し、又は販売のた
めの展示をしてはならない。
被告は、原告に対し、5500万円及びこれに対する令和6年12月27日か
ら支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本判決で用いる呼称(略語)
(1) 本件商品等表示:「千鳥屋」との文字で構成される表示
(2) 本件事業:原告及び被告の事業の祖業に当たる饅頭等の製造販売業
(3) ●●●●(原告代表者の母、被告代表者の祖母):A
(4) ●●●●(被告代表者の父、原告代表者の兄):B
(5) 原告商標(権):
:商標登録第4682688号に係る商標(権)及び商標登
録第5128664号に係る商標(権)の総称
(6) 被告商標(権):商標登録第5820605号に係る商標(権)
(7) 甲6事件:
:当庁平成28年:
(ワ)第5374号販売差止等請求事件及びその
控訴事件である大阪高等裁判所平成30年(ネ)第1605号事件
(8) 甲4文書::
「千鳥屋販売株式会社」の代表者としてのAが平成7年5月30
日に作成した「確約書」と題する文書
(9) 甲5文書:Bと原告代表者が平成11年1月19日に作成した「誓約書」と
題する文書
(10) 被告商品:被告が製造する商品
2 原告の請求
被告が請求の趣旨第1項掲記の区域において本件商品等表示を用いて菓子を
販売等する行為が不正競争(不競法2条1項1号)に当たることを前提とする
(1) 同法3条1項に基づく販売等の差止請求
(2) 同法4条及び5条2項に基づく5500万円の損害賠償請求及び同額に対
する不正競争の後日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合によ
る遅延損害金の支払請求
前提事実
(1) 当事者
原告及び被告は、いずれも、菓子の製造販売等を業とする会社である。
(2) 本件事業等(甲9、争いのない事実)
本件事業は、寛永7年に創業され、戦前の頃から福岡において:
「千鳥屋」の
屋号でAの配偶者において営まれてきたが、昭和29年に同人が死亡した後は、
Aを中心として展開されるようになり、Aが平成7年に死亡して後は、原告代
表者、Bを含むAの4人の子らを中心に、東京、大阪、兵庫、福岡等において
継続された。
昭和48年に本件事業につき大阪支店が設けられた際、原告代表者がこれを
担当することになり、その後の昭和61年に、Aから独立を許され、近畿地方
において菓子製造販売業を営んでいる。
被告もまた本件事業を祖業とし、福岡県内で和菓子等の製造販売を行ってい
る。
(3) 甲4文書、甲5文書の記載
ア 甲4文書は、Aが、千鳥屋販売株式会社の代表取締役として、原告代表者
に差し入れた書面であり、原告代表者の兄弟が関西で「千鳥屋」等の屋号で
千鳥屋の商品を売ることはさせない旨が記載されていた。
イ 甲5文書は、株式会社チロリアンの業務執行権等に関し、原告代表者とB
の間で交わされた文書であるところ、:
「千鳥屋」の名称を用いた営業地域に
ついてBは福岡地区を、原告代表者は大阪地区を担当し、経営に関する一切
をそれぞれ取り仕切りお互いに干渉しないものとする旨の条項が記載され
ていた。
(4) 甲6事件の概要(甲6、乙13)
甲6事件は、原告が、被告及びほか1名を相手取り、被告に対しては本件の
請求の1項と同旨の販売差止を求めた訴訟である。原告は、甲6事件において、
甲4文書、甲5文書等も根拠として、Bと原告代表者が、おのおの展開する地
域以外の地域で「千鳥屋」の屋号の下に菓子類の販売をしない旨を合意した、
あるいは、Aが原告代表者に、関西地域で、「千鳥屋」の登録商標に基づく事
業を独占的に行う権利を与えたことから、被告は関西地域において千鳥屋の屋
号を使用して競業することを避止する義務を負う等と主張したが、そのような
合意や義務は認められないと判断された。
争点
(1) 本件商品等表示につき、近畿地方において、原告の商品等表示としての周
知性があるか(争点1・請求原因)
(2) 被告による本件商品等表示の使用が被告商標権の行使として許容されるか
(争点2・抗弁)
(3) 被告による被告商標権の行使が権利濫用となるか(争点3・争点2に関す
る再抗弁)
(4) 原告の損害賠償請求権について、消滅時効が成立するか(争点4・抗弁)
(5) 原告の被った損害額(争点5)
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1(本件商品等表示につき、近畿地方において、原告の商品等表示として
の周知性があるか)について【
(原告の主張)
】
5 (1) 原告の事業態様等
ア 経緯原告代表者は、Aから近畿地方における本件事業を承継し、昭和61年11月、大阪市を本店所在地とする「株式会社千鳥屋」を設立した。同社は、その後、商号や本店所在地を変更し、現在の原告に至っている。また、原告代表者は、平成10年10月、「有限会社神戸千鳥屋」を設立し、平成18年8月、兵庫県尼崎市を本店所在地とする「千鳥屋宗家株式会社」を設立し、両社においても菓子の製造販売等の事業を営んでいたところ、原告は、平成21年12月、両社を吸収合併した。これら事業により、原告は、平成以降、巨額の売上を継続して上げている。イ 原告の店舗設置の状況原告は、近畿地方において新規出店を継続しており、平成22年までに150以上の店舗を開店しており、現在でも、100軒を超える店舗が存在する。また、原告の代表店舗は、主要なターミナル駅、住宅密集地及び大規模商業施設内に集中しており、取引者及び需要者に対する訴求度合いが極めて高い。
(2) 広告宣伝等
原告は、平成以降、年間多額の費用を支出して、以下のような広告宣伝を継続してきた。このような継続的な宣伝広告活動により、近畿地方において、原告が取引者及び需要者に圧倒的な知名度を得た。ア 店舗看板原告は、店舗において、極めて大きく「千鳥屋」等の看板を掲げ続けている。また、原告は、昭和49年から平成30年頃まで、電柱等の看板広告に、「千鳥饅頭」等の主力商品を広報し続けた。イ チラシ、パンフレット及び会社案内(インターネットを含む)原告は、新規開店の際などに多数のチラシを配布し続けるとともに、パン
5 フレットも発行し続け、「千鳥屋」としての原告の周知を試みてきた。この
ようなチラシやパンフレットの作成枚数は、令和2年以降、毎年数百万枚にも及ぶ。このような宣伝活動は、原告のウェブサイトやインスタグラムのアカウントにおいても行われている。ウ テレビコマーシャル原告は、「千鳥屋」のブランドや主力商品を需要者に印象付けるテレビコマーシャルで広報し続けてきており、平成27年以降はコロナ禍を除く全期間で継続して放映していた。
(3) 関係者による独占使用の誓約等
平成7年に、Aは、原告代表者に対し、甲4文書をもって、原告が近畿地方において本件商品等表示を独占的に使用することを認めている。また、平成11年には、被告の元代表者であるBは、原告代表者との間で、甲5文書において、本件商品等表示を用いた営業地域につき、原告が大阪地区を担当し、お互いに干渉しない旨を誓約している。その後、被告が近畿地方において本件商品等表示を用いて菓子を販売した際は、原告が指摘しこれを中止させたことが複数回あった。
(4) 小括
以上から、近畿地方において、本件商品等表示は、原告の商品等表示として周知性を獲得している。【
(被告の主張)
】
(1)
(原告の主張)
についてア 売上額に関しては、菓子に関心のある需要者は広く一般の消費者を含むものであるから、需要者の数に比してその売上額は決して多いものとはいえない。イ 店舗数については、証拠上どのような店舗が存在しているのかが明らかでなく、店舗における訪問者や売上も不明である上、それらのうち本件商品等
5 表示が確認できるものはごく一部である。
ウ 広告資料についても、配布範囲や数量が不明であり、その実績を把握することはできない。エ 甲4文書、甲5文書は、被告を当事者とするものではなく、被告が関西地域において被告商標(ひいては、本件商品等表示)を使用することは何ら禁止されない。
(2) 原告の屋号の変遷等
原告は、平成20年1月15日に、「株式会社千鳥屋」から「株式会社千鳥屋宗家」に商号変更し、遅くとも平成23年には屋号自体も「千鳥屋」から「千鳥屋宗家」に変更した。以降現在に至るまで、原告は、広告資料、ウェブサイト、商品の包装、店舗の看板・のれん等において一貫して:「千鳥屋宗家」の表示を使用している。なお、原告代表者は原告商標権の商標登録を受けているが、登録に当たっては、「千鳥屋」の漢字を縦書きしてなる商標とは類似しないと判断されており、本件商品等表示と「千鳥屋宗家」とは明確に異なる表示である。
(3) 小括
したがって、原告が自己の商品等表示と主張する本件商品等表示は、近畿地方において、平成22年当時において周知であったことはなく、まして、原告が商号を変更して後は、なおさらである。
2 争点2(被告による本件商品等表示の使用が、商標権の行使として許容される
か)について【
(被告の主張)
】平成5年法律第47号による改正前の不競法6条では、商標法により権利の行使と認められる行為については、不競法の差止請求権、損害賠償請求権に関する規定が適用されないこととされていた。改正後の不競法には、これに対応する明文の規定は置かれなかったものの、権
5 利の行使は濫用にわたるものでない限り許されるとの一般原則のもと、商標権の
権利行使と認められる行為は不正競争に当たらない。被告は、被告商標権の権利者であり、被告商標は、「千鳥屋」の文字を縦書きしてなるものであるところ、被告がこれを用いて(結果的には本件商品等表示を使用して)菓子を販売する行為は、自己の商標権に基づく正当なものである。【
(原告の主張)
】登録商標使用の抗弁は、法的、判例法理、学説の諸点から確立されているとはいえず、商標権侵害訴訟においてこれを抗弁と扱うべき場面は限定的である。また、被告主張の平成5年の不競法の改正により旧6条が削除されたことからすれば、その反対解釈として、この抗弁は認められなくなったと解される。
3 争点3(被告による被告商標権の行使が権利濫用となるか)について
【
(原告の主張)
】
(1) 被告は、原告の周知な商品等表示である本件商品等表示を使用するから、
被告商標は無効理由を包含するところ(商標法46条1項1号、同法4条1項10号)、無効理由を包含する登録商標に基づき登録商標の権利行使をすることは、権利の濫用として許されない。
(2) 実質的にも、近畿地方において、本件商品等表示を使用する被告の行為は、
長年にわたり蓄積された原告の信用にフリーライドする行為であるから、登録商標の権利行使をすることにつき正当性は認められず、権利の濫用として許されない。【
(被告の主張)
】そもそも前記のとおり、本件商品等表示は原告の周知表示とはいえないところ、被告は、平成9年に設立されて以来、現在に至るまで長年にわたって「千鳥屋」を屋号として使用しており、これは原告の屋号である「千鳥屋宗家」とは明確に区別されることから、近畿地方において被告が「千鳥屋」を使用したとしても、原告の業務に係る信用にただ乗りすることにはならない。
5 これに加え、原告が、被告商標の出願に対して、商標法4条1項10号に該当
する旨を主張しないまま除斥期間を経過したことや、甲6事件において不正競争を問題としなかったことからすると、被告の商標権行使は権利濫用に当たらない。
4 争点4(原告の損害賠償請求権について、消滅時効が成立するか)について
【
(被告の主張)
】
(1) 原告は、遅くとも甲6事件の第一審口頭弁論終結の日である平成30年3
月12日には、平成23年5月から平成28年10月22日までの被告製品の販売行為について、損害及び加害者を知っていた。
(2) 令和3年3月12日は経過した。
(3) 被告は、本件口頭弁論期日において、消滅時効を援用した。
【
(原告の主張)
】争う。
5 争点5(原告の被った損害額)について
【
(原告の主張)
】
(1) 被告が得た利益
被告は、主として近畿地方における百貨店の催事において、本件商品等表示を使用して菓子を販売してきたところ、少なくとも過去10年間で200回以上の催事に参加し、1回あたり少なくとも25万円の利益を得た。したがって、被告は、本件商品等表示を使用して菓子を販売したことにより、少なくとも過去10年間で合計5000万円の利益を得た(不競法5条2項)。
(2) 弁護士費用
原告において、被告に対し不競法に基づく権利を行使するために負担する弁護士費用は、(1)の10パーセントに相当する500万円を下らない。
(3) 小括
よって、原告の損害は5500万円と推定される。【
(被告の主張)
】
5 否認し争う。
第4 判断
1 争点1(本件商品等表示につき、近畿地方において、原告の商品等表示として
の周知性があるか)について
(1) 認定事実
証拠(甲3(枝番を含む。以下同じ。)、6、8、9、乙1ないし7)及び弁論の全趣旨に前提事実を総合すると、以下の各事実を認めることができる。ア Aは、昭和29年にその配偶者が死去した後、福岡県飯塚市や福岡市で、「千鳥屋」の屋号で営んでいた本件事業の事業主となり、その後、北九州市に事業範囲を拡大した。昭和39年には東京支店、昭和48年には大阪支店が設けられ、それぞれ、「千鳥屋」の屋号ないし名称で菓子製造業が営まれた。イ 原告は、昭和61年に:「株式会社千鳥屋」の商号で設立され、原告代表者において、本件事業の近畿地方におけるものを行うこととなった。原告は、平成20年1月に、その商号を「株式会社千鳥屋宗家」に変更し、平成15年と平成20年に原告商標権の登録を受けた。この頃(と思料される。)から現在まで、原告の店舗表示、カタログ、パンフレット等においては、:「千鳥屋」との表示と、「千鳥屋宗家」との表示が混在して使用されている。また、:「千鳥屋」との表示が使用される場合には、「創業寛永七年」との表示や、「大阪本店」との表示を伴ってされることも多くあった。ウ ウェブサイト上のフリー百科事典であるウィキペディア:(令和6年12月時点のもの)においては、「千鳥屋」は、:「福岡県飯塚市を拠点に展開していた和菓子店、および和菓子店から発展した製菓業者グループが用いる和菓子店の屋号」であり、平成30年時点で、原告及び被告を含む4社が「千鳥屋」を屋号として店舗を運営する企業と紹介されていた。
5 (2) 検討
前記認定に前提事実を加え検討すると、原告は、そもそもの事業の系譜が本件事業に一体的に由来するものであって、原告自身、本件事業との連続性を営業上利用しているともいえること、Aの存命中、原告が近畿地方を担当し、他の地域を担当する原告代表者の兄弟等から、互いに干渉させないこととしていたが、かかる約束も、少なくとも被告が本件商品等表示を用いて菓子等の販売を行うことは法的には排除されないものとされていたことが各認められる。そうすると、(原告提出のものを含め本件全証拠を考慮しても): 、「千鳥屋」:との文字で構成され、本件事業の屋号と同じである本件商品等表示は、原告が近畿地方における本件事業を担当することとなった後、現在に至るまで、近畿地方においても、原告及び被告の祖業である本件事業、ないし被告を含む本件事業から生じた事業の総体を示すものとして需要者に認識されることが多分にあるといえる。したがって、本件商品等表示は、近畿地方においても、本件事業ないし本件事業に由来する被告の事業と区分された、専ら原告の商品等表示として機能するものとは認め難い。
(3) 小括
以上によると、本件商品等表示は、原告の商品等表示として、需要者の間に広く認識されているとは認められず、争点1に関する
(原告の主張)
は、理由がない。
2 そうすると、その余の争点を判断するまでもなく、被告の行為が不競法2条1
項1号の不正競争に当たることを前提とする原告の差止請求及び損害賠償請求は、いずれも理由がないことに帰する。
第5 結論
以上の次第で、原告の請求は、いずれも理由がない。
5 大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官松 阿 彌 隆裁判官阿 波 野 右 起裁判官西 尾 太 一
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