知財判決速報/裁判例集知的財産に関する判決速報,判決データベース

ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 令和6(ワ)70064 特許権侵害差止等請求事件

この記事をはてなブックマークに追加

令和6(ワ)70064特許権侵害差止等請求事件

判決文PDF

▶ 最新の判決一覧に戻る

裁判所 請求棄却 東京地方裁判所
裁判年月日 令和7年12月17日
事件種別 民事
当事者 原告大日本除蟲菊株式会社
被告アース製薬株式会社
対象物 蚊類防除用エアゾール、及び蚊類防除方法
法令 特許権
特許法36条6項2号1回
特許法102条2項1回
特許法100条1項1回
キーワード 実施66回
特許権10回
進歩性8回
新規性5回
無効4回
侵害3回
差止2回
無効審判1回
損害賠償1回
刊行物1回
分割1回
優先権1回
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 1 事案の概要 本件は、発明の名称を「蚊類防除用エアゾール、及び蚊類防除方法」とする 特許(特許第7026270号。以下「本件特許」という。 )に係る特許権 (以下「本件特許権」という。 )を有する原告が、被告に対し、被告による別 紙物件目録記載1ないし9の製品(以下「被告製品1」などといい、これらを 「被告製品」と総称する。 )の製造、譲渡、輸出及び譲渡の申出が本件特許権 を侵害するとして、特許法100条1項及び2項に基づき、被告製品の製造、 譲渡、輸出及び譲渡の申出の差止め並びに廃棄を求めるとともに、民法709 条に基づく損害賠償金(特許法102条2項による算定)17億0215万5 968円(対象期間は令和4年2月16日から令和6年2月15日までであ る。 )の一部である1億円及びこれに対する不法行為以後の日である令和6年

▶ 特許権に関する裁判例

本サービスは判決文を自動処理して掲載しており、完全な正確性を保証するものではありません。正式な情報は裁判所公表の判決文(本ページ右上の[判決文PDF])を必ずご確認ください。

判決文

令和7年12月17日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官

令和6年(ワ)第70064号 特許権侵害差止等請求事件

口頭弁論終結日 令和7年9月3日

判 決

原 告 大日本除蟲菊株式会社

同訴訟代理人弁護士 森 本 純

同訴訟代理人弁理士 沖 中 仁

被 告 ア ー ス 製 薬 株 式 会 社

同訴訟代理人弁護士 鮫 島 正 洋

同 髙 見 憲

同 森 下 梓

同 高 玉 峻 介

主 文

1 原告の請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

事 実 及 び 理 由

第1 請求

1 被告は、別紙物件目録記載1ないし9の各製品を製造し、譲渡し、輸出し、又は譲渡の申出をしてはならない。2 被告は、別紙物件目録記載1ないし9の各製品を廃棄せよ。3 被告は、原告に対し、1億円及びこれに対する令和6年3月30日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。

第2 事案の概要等

1 事案の概要本件は、発明の名称を「蚊類防除用エアゾール、及び蚊類防除方法」とする特許(特許第7026270号。以下「本件特許」という。)に係る特許権

5 (以下「本件特許権」という。)を有する原告が、被告に対し、被告による別紙物件目録記載1ないし9の製品(以下「被告製品1」などといい、これらを「被告製品」と総称する。)の製造、譲渡、輸出及び譲渡の申出が本件特許権を侵害するとして、特許法100条1項及び2項に基づき、被告製品の製造、譲渡、輸出及び譲渡の申出の差止め並びに廃棄を求めるとともに、民法709条に基づく損害賠償金(特許法102条2項による算定)17億0215万5968円(対象期間は令和4年2月16日から令和6年2月15日までである。)の一部である1億円及びこれに対する不法行為以後の日である令和6年3月30日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める事案である。2 前提事実(当事者間に争いがないか、後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実。以下、枝番号のある証拠について枝番号を記載しない場合は、全ての枝番号を含む。)

⑴ 当事者ア 原告は、除虫菊及びその製品並びに防虫殺虫剤等の製造販売等を目的とする株式会社である。イ 被告は、医薬品及び医薬部外品等の製造販売及び輸出入等を目的とする株式会社である。

⑵ 本件特許権(甲3、4)本件特許権は、令和3年3月2日を出願日(特願2019-182596の分割。優先日/平成26年3月4日(以下「本件優先日」という。)。優先権主張国/日本国)、令和4年2月16日を登録日とする特許権である。原告は、本件特許権を保有する。

⑶ 特許請求の範囲の記載本件特許に係る特許請求の範囲請求項1、7及び8の記載は、以下のとおりである(以下、請求項1記載の発明を「本件発明1」と、請求項1を引用

5 する請求項7及び8記載の発明を「本件発明2」、「本件発明3」といい、これらを「本件発明」と総称する。また、本件特許に係る明細書及び図面(甲4)を、「本件明細書」という。)。ア 請求項1「害虫防除成分と有機溶剤とを含有するエアゾール原液、及び噴射剤を封入してなる定量噴射バルブが設けられた耐圧容器と、前記定量噴射バルブに接続される噴射口が設けられた噴射ボタンと、を備えた蚊類防除用エアゾールであって、前記害虫防除成分は、メトフルトリン及び/又はトランスフルトリンであり、前記エアゾール原液は、前記害虫防除成分を14.3重量%以上含有し、前記噴射ボタンを1回押下したときの噴射容量が0.1~0.4mLとなり、前記噴射距離20cmにおける噴射力が25℃において0.3~10.0g・fとなるように調整され、前記エアゾール原液は、前記噴射口から、少なくとも一部が処理空間内における蚊類が止まる露出部に付着する付着性粒子として噴射され、前記エアゾール原液を処理空間に1回噴射した場合、前記害虫防除成分の噴射量が4.5~8畳あたり5.0~30mgに調整される蚊類防除用エアゾール(但し、自動噴霧装置本体に装着されてなる蚊類防除用エアゾールを除く)。」イ 請求項7「前記エアゾール原液を処理空間に1回噴射した場合、前記害虫防除成分の効果持続時間は、33m 3 以下の空間に対して10時間以上である請求項1~6の何れか一項に記載の蚊類防除用エアゾール。」

5 ウ 請求項8「前記エアゾール原液を処理空間に1回噴射した場合、前記害虫防除成分の効果持続時間は、33m 3 以下の空間に対して20時間以上である請求項1~6の何れか一項に記載の蚊類防除用エアゾール。」

⑷ 構成要件の分説本件発明は、以下のとおり分説することができる(以下、分説に従い、「構成要件1A」などという。)。ア 本件発明11A 害虫防除成分と有機溶剤とを含有するエアゾール原液、及び噴射剤を封入してなる定量噴射バルブが設けられた耐圧容器と、前記定量噴射バルブに接続される噴射口が設けられた噴射ボタンと、を備えた蚊類防除用エアゾールであって、1B 前記害虫防除成分は、メトフルトリン及び/又はトランスフルトリンであり、1C 前記エアゾール原液は、前記害虫防除成分を14.3重量%以上含有し、1D 前記噴射ボタンを1回押下したときの噴射容量が0.1~0.4mLとなり、1E 前記噴射距離20cmにおける噴射力が25℃において0.3~10.0g・fとなるように調整され、1F 前記エアゾール原液は、前記噴射口から、少なくとも一部が処理空間内における蚊類が止まる露出部に付着する付着性粒子として噴射され、1G 前記エアゾール原液を処理空間に1回噴射した場合、前記害虫防除成分の噴射量が4.5~8畳あたり5.0~30mgに調整される1H 蚊類防除用エアゾール(但し、自動噴霧装置本体に装着されてな

5 る蚊類防除用エアゾールを除く)。イ 本件発明22A 前記エアゾール原液を処理空間に1回噴射した場合、前記害虫防除成分の効果持続時間は、33m 3 以下の空間に対して10時間以上である2B 請求項1~6の何れか一項に記載の蚊類防除用エアゾール。ウ 本件発明33A 前記エアゾール原液を処理空間に1回噴射した場合、前記害虫防除成分の効果持続時間は、33m 3 以下の空間に対して20時間以上である3B 請求項1~6の何れか一項に記載の蚊類防除用エアゾール。

⑸ 被告の行為被告は、被告製品の製造、譲渡及び譲渡の申出をしている。

⑹ 被告製品の構成等ア 被告製品は、少なくとも以下の構成を有している(争いがない。)。1a 害虫防除成分と有機溶剤とを含有するエアゾール原液、及び噴射剤を封入してなる定量噴射バルブが設けられた耐圧容器と、前記定量噴射バルブに接続される噴射口が設けられた噴射ボタンとを備えた蚊類防除用エアゾールである。1b 前記害虫防除成分は、トランスフルトリンである。1c 前記エアゾール原液は、前記害虫防除成分を14.3重量%以上含有する。1d 前記噴射ボタンを1回押下したときの噴射容量が0.1~0.4mLである。1h 自動噴霧装置本体に装着されてなる蚊類防除用エアゾールではない。

5 イ 噴射力に関する試験(甲12)原告は、被告製品1、2及び4ないし9について、噴射力に関する試験を実施した(以下「甲12の試験」という。)。ウ 付着量に関する試験(甲6、15、乙44)(ア) 原告は、被告製品2、7及び9について、壁面への付着量を測定するために、試験室内で上記製品を噴射して壁面に設置したアルミ箔への付着量を分析する試験を実施した(以下「甲6の試験」という。)。(イ) 原告は、被告製品2、7及び9について、試験室内で上記製品を噴射して、壁面から離して設置された金網内に放った蚊のKT 50 値(供試虫の50%をノックダウンさせるのに要する時間(分)を示し、この数値が小さいほどノックダウン効果、すなわち、対象とする有害生物の防除効果が高いことを意味している。)(金網法)と試験室内に放った蚊のKT 50 値(放逐法)を比較する試験を実施した(以下「甲15の試験」という。)。(ウ) 被告は、被告製品2及び7について、前記(イ)と同様試験を実施した(以下「乙44の試験」という。)。

⑺ 先行製品及び先行文献ア 本件優先日前に不特定多数の者に販売された製品として、以下の商品名及び販売名(括弧内の記載)の蚊類防除用エアゾールが存在した。(ア) 「おすだけノーマット 90日セット」(アース殺虫エアゾールA3。以下「先行製品1」といい、先行製品1によって公然実施をされた発明を「先行製品1発明」という。)(イ) 「おすだけノーマットスプレータイプ 120日分」(アース殺虫エアゾールA5。以下「先行製品2」といい、先行製品2によって公然実施をされた発明を「先行製品2発明」という。)イ 本件優先日前に頒布された刊行物として、以下のものが存在した。

5 (ア) 特開2014-19674公報(乙34。平成26年2月3日公開。以下「乙34公報」といい、乙34公報記載の発明を「乙34発明」という。)(イ) 特開2010-280633公報(乙35。平成22年12月16日公開。以下「乙35公報」といい、乙35公報記載の発明を「乙35発明」という。)3 争点

⑴ 被告製品が本件発明の技術的範囲に属するか(争点1)ア 「噴射力」の充足性(構成要件1E)(争点1-1)イ 「付着性粒子」の充足性(構成要件1F)(争点1-2)ウ 「噴射量」の充足性(構成要件1G)(争点1-3)エ 「効果持続時間」の充足性(構成要件2A、3A)(争点1-4)

⑵ 本件特許の無効の抗弁の成否(争点2)ア 明確性要件違反(本件発明)(争点2-1)イ 明確性要件違反(本件発明2及び3)(争点2-2)ウ サポート要件違反(本件発明)(争点2-3)エ サポート要件違反(本件発明2及び3)(争点2-4)オ 実施可能要件違反(本件発明)(争点2-5)カ 実施可能要件違反(本件発明2及び3)(争点2-6)キ 先行製品に基づく新規性及び進歩性の欠如(ア) 先行製品1発明(争点2-7)(イ) 先行製品2発明(争点2-8)ク 先行文献に基づく進歩性の欠如(ア) 乙34発明(争点2-9)(イ) 乙35発明(争点2-10)

⑶ 損害の発生及びその額(争点3)

5 4 争点に関する当事者の主張

⑴ 争点1(被告製品が本件発明の技術的範囲に属するか)ア 争点1-1(「噴射力」の充足性)(構成要件1E)について(原告の主張)構成要件1Eの「噴射力」は、「噴射距離20cm」、「25℃において」と測定条件である噴射距離及び温度が具体的に特定されており、この噴射距離及び温度で荷重測定器に向けて噴射して測定すれば足りる。そして、本件優先日当時、荷重測定器として、甲12の試験で使用されたデジタルフォースゲージが存在することは技術常識であった。したがって、当業者は、上記測定条件の下、技術常識によって測定方法を理解することができた。甲12の試験の結果、噴射力は0.3~10.0g・fの範囲内であった(3回の平均値)から、被告製品は、噴射距離20cmにおける噴射力が25℃において0.3~10.0g・fとなるように調整される構成を有している(前記2⑹イ)。したがって、被告製品は、構成要件1E(「噴射力」)を充足する。(被告の主張)「噴射力」は、特許請求の範囲や本件明細書に具体的な測定方法が記載されておらず、特定の測定方法が本件優先日当時の技術常識であったともいえないから、測定方法を理解することができない不明確なものである。デジタルフォースゲージを使用する測定方法は本件明細書に記載されておらず、本件優先日当時の技術常識であったともいえないから、甲12の試験の結果を被告製品の構成の認定に用いることはできない。したがって、被告製品が構成要件1E(「噴射力」)を充足するとはいえない。

5 イ 争点1-2(「付着性粒子」の充足性)(構成要件1F)について(原告の主張)(ア) 「付着性粒子として噴射され」の意義a 構成要件1Fの「付着性粒子」は、処理空間内にエアゾール原液が噴射されて形成された薬剤粒子であって、処理空間内の露出部(例えば、処理空間内に存在する床面や壁面、家具等の構造物の表面等)に付着し、時間が経過しても付着した状態を維持し、露出部に止まる蚊を駆除・防除する粒子であり、また、粒子に含まれる害虫防除成分の一部が、時間の経過とともに、揮散することがあるが、処理空間内(壁面等を含まない。)で防除効果を発揮するほどに揮散することはないものをいう。このことは、本件明細書【0013】、【0045】~【0050】、【図1】(以下、本件明細書の記載について、単に「【0013】」などということがある。)の記載に加え、粒子に含まれる有機溶剤が揮発性化合物の場合(【0038】のアルコール類等)には、有機溶剤は、時間の経過とともに揮発していき、有機溶剤が揮発した後、粒子は、害虫防除成分のみで構成された粒子の状態(凝集体)となって壁面等への付着を維持して壁面等に止まった蚊を防除すること、揮発性が低い化合物の場合(【0038】の「高級脂肪酸エステル」等)、有機溶剤の揮発は遅く、壁面等に付着した粒子は、害虫防除成分と有機溶剤を含んだ粒子の状態(液滴)で壁面等への付着を維持し,壁面等に止まった蚊を防除することからいえる。b そして、「付着性粒子として噴射され」は、噴射される粒子の「少なくとも一部」が、噴射後、「付着性粒子」となるように噴射されれば足りる。1回の噴射で噴射される粒子径はある程度の幅を持った数値範囲で分布するから、噴射時において、1回に噴射された粒子の一つ一つの

5 挙動を個別に把握することができないことは、当業者であれば当然に理解することであり、噴射時に「付着性粒子」と「浮遊性粒子」が区別されていることを要しない。被告の指摘する本件明細書の【0046】は、「付着性粒子」が含まれる粒子群の90%粒子径の数値範囲に関する記載であり、90%粒子径が当該範囲であれば、粒子群に含まれる少なくとも一部の粒子が「付着性粒子」となることを示すものであるから、噴射時における「付着性粒子」と「浮遊性粒子」の区別可能性を問題とするものではない。(イ) 被告製品の構成a 甲6の試験によって測定されたトランスフルトリンの付着量(被告製品2及び9の噴射から10時間経過後の処理空間の壁6面の付着量は0.074mg/m 2 ないし0.148mg/m 2 、被告製品7の噴射から24時間経過後の付着量は0.103mg/m 2 ~0.144mg/m 2 )は、露出部に止まっている蚊類に対し充分な防除効果を奏することを示すものといえる(【0047】参照)。また、甲15の試験の結果によれば、時間が経過した後の防除効果は壁面等に付着した粒子(すなわち「付着性粒子」)によるものであり、揮散した害虫防除成分は僅少であって有効な防除効果を奏するものではないことが分かる。b これに対し、乙44の試験は、供試された蚊の系統が示されておらず、具体的な換気回数も明示されていないから、測定方法の適正性に疑義がある。また、再揮散型定量噴射エアゾールである先行製品1及び2について無換気で実施された試験と同等の結果であることからすると、換気がほとんど機能していなかったこと、換気の影響を受けなかったことが原因として考えられる。さらに、放逐法によるKT 50値は十分に小さい値であり、噴射10時間後及び22時間後に、この

5 ようなKT 50 値をもたらすようなトランスフルトリンがこれから蒸散することを予定して壁面等に付着し続けていることは考え難い。c 被告製品2、7及び9以外の被告製品も、被告製品2、7又は9と販売名が同一であるから、被告製品は同一の構成を有するものと推認することができる。(ウ) 小括(争点1-2)したがって、被告製品は、構成要件1F(「付着性粒子」)を充足する。(被告の主張)(ア) 「付着性粒子として噴射され」の意義a 「付着性粒子」は、本件優先日当時に従来技術として知られていたような、噴射した薬剤の一部が壁面や床面に付着し、その後再揮散して防除効果を示すような粒子を意味するものではなく、時間が経過しても再揮散せずに付着した状態を維持する粒子である必要がある。b そして、本件明細書の90%粒子径に係る記載(【0046】、【0048】)は、「付着性粒子」と「浮遊性粒子」という2種類の90%粒子径を別々に測定できることを前提としているし、本件明細書のその他の記載(【0013】、【0049】、【図1】(b)等)に照らしても、構成要件1Fは、その噴射時において、「浮遊性粒子」と区別された「付着性粒子」を噴射することを要件とするものである。(イ) 被告製品の構成a 被告製品は、本件優先日前から用いられてきた一般的な噴射機構を備えたエアゾール製品であり、「付着性粒子」と「浮遊性粒子」という2種類の異なる粒子を噴射するように構成されたものではない。被告製品が噴射する粒子は、壁面等に付着した場合であっても、その後、再揮散して防除効果を発揮する従来技術と同様のものである。b 甲6の試験は本件明細書に記載がなく、再揮発する粒子も測定対象

5 とするものであるから、「付着性粒子」の測定方法として不適切である。甲15の試験も本件明細書に記載がなく、「付着性粒子」の測定方法として不適切である。かえって、被告が甲15の試験と同様の測定方法で実施した乙44の試験では、被告製品2及び7の金網法によるKT 50 値がいずれも20分以内であり、十分な防除効果が確認されているから、被告製品が噴射する粒子は、再揮散して防除効果を発揮する粒子であり、「付着性粒子」ではない。c 原告は、被告製品2、7及び9以外の被告製品も同一の構成を有していると主張するが、否認する。被告製品2、7及び9についての試験結果によってほかの被告製品が同一の構成を有すると推認することはできない。(ウ) 小括(争点1-2)したがって、被告製品が構成要件1F(「付着性粒子」)充足するとはいえない。ウ 争点1-3(「噴射量」の充足性)(構成要件1G)について(原告の主張)本件発明は、家庭用の定量噴射エアゾールに関する発明であるから、構成要件1Gは、4.5~8畳の部屋での噴射という一般的な使用方法を想定して、5.0~30mgの噴射をすることをいうものと解するのが合理的であって、噴射量を処理空間の広さに応じた所定の量になるように調整することを求めるものではない。被告製品の製品パッケージ(甲5)には、噴射方法(4.5~8畳あたり壁際から部屋中央に向かって1回噴射する。)や1回の噴射で蚊が駆除される時間(被告製品1ないし6及び9につき12時間、被告製品7及び8につき24時間。)の記載があり、これによれば、被告製品は、エアゾ

5 ール原液を処理空間に1回噴射した場合、害虫防除成分の噴射量が4.5~8畳あたり5.0~30mgに調整される構成を有している。したがって、被告製品は、構成要件1G(「噴射量」)を充足する。(被告の主張)本件明細書の記載に照らせば、構成要件1Gは、エアゾール原液を処理空間に1回噴射した場合の害虫防除成分の噴射量を処理空間の広さに応じた所定の量になるように調整するものと解される。被告製品は、そのように噴射量を調整する構成を有していないから、構成要件1G(「噴射量」)を充足するとはいえない。エ 争点1-4(「効果持続時間」の充足性)(構成要件2A、3A)について(原告の主張)(ア) 本件明細書の実施例及び比較例の記載及び本件優先日当時の技術常識に照らせば、構成要件2A及び3Aの「効果持続時間」は、KT 50値が「>120」であるか否かによって判定されるものである。本件明細書の【表2】の実施例は、噴射直後、10時間後、14時間後及び20時間後の効果をそれぞれ確認して効果が長く持続することを確認したものであり(【0055】)、また、構成要件2A及び3Aの「33m 3以下の空間」は、8畳以下の広さの居間を含み(【0051】)、上記実施例における25m 3 の部屋も含むものであるから、本件明細書の実施例の記載から「効果持続時間」が不明確であるということはできない。(イ) 前記ウ(原告の主張)のとおりの製品パッケージの記載によれば、エアゾール原液を処理空間に1回噴射した場合、前記害虫防除成分の効果持続時間は、4.5~8畳(約18.5~33.0m 3 )の空間に対して、12時間(被告製品1ないし6及び9)又は24時間(被告製品7及び8)である構成を有している。製品パッケージに記載して効果が

5 持続することを自ら宣伝広告しておきながら、その効果持続時間を否認するのは不合理である。(ウ) したがって、被告製品は、構成要件2A(「効果持続時間」)を充足し、被告製品7及び8は、構成要件3A(「効果持続時間」)も充足する。(被告の主張)(ア) 本件明細書の実施例の記載を踏まえても、「効果持続時間」は不明確である。すなわち、本件明細書の【表2】の実施例及び比較例の数値を見ても、どのような場合に「効果持続時間」が「10時間以上」又は「20時間以上」となるか明らかでない。また、本件明細書の実施例は、暴露時間を2時間から順に長くしているだけで、効果が長く持続することについての試験ではなく、また、25m 3 の部屋における試験であり、「33m 3 以下の空間」における「効果持続時間」の裏付けとなるものでもない。(イ) 原告の主張する被告製品の構成は否認する。被告製品の製品パッケージの記載に基づいて上記構成要件に対応する構成を認定することはできない。(ウ) したがって、被告製品が構成要件2A及び3A(「効果持続時間」)を充足するとはいえない。

⑵ 争点2(本件特許の無効の抗弁の成否)についてア 争点2-1(明確性要件違反(本件発明))について(被告の主張)(ア) 前記⑴ア(被告の主張)のとおり、「噴射力」は、測定方法を理解することができないものであり、特定の製品がこれを充足するかを判断することができない。(イ) 前記⑴イ(被告の主張)(ア)bのとおり、「付着性粒子」は、その噴射時において「浮遊性粒子」と区別されるものであるところ、①本件明

5 細書は、いずれも粒子径に幅がある多数の粒子からなる「付着性粒子」及び「浮遊性粒子」の好ましい範囲を90%粒子径により記載しており(【0046】、【0048】)、両者の粒度分布は重複するから、任意の粒子につき、粒子径によって「付着性粒子」と「浮遊性粒子」を判別することはできないこと、②同一成分の粒子が処理空間内の露出部に向かい、そこに付着するかどうかは噴射後の偶然に左右されること等からすると、「付着性粒子」と「浮遊性粒子」を区別することはできない。(ウ) したがって、本件発明は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確である。(原告の主張)(ア) 前記⑴ア(原告の主張)のとおり、「噴射力」は、所定の噴射距離及び温度で荷重測定器に向けて噴射して測定すれば足り、当業者は、上記測定条件の下、技術常識によって測定方法を理解することができた。(イ) 前記⑴イ(原告の主張)(ア)のとおり、「付着性粒子」は、処理空間内にエアゾール原液が噴射されて形成された薬剤粒子であって、処理空間内の露出部に付着し、時間が経過しても付着した状態を維持し、露出部に止まる蚊を駆除・防除する粒子であり、また、粒子に含まれる害虫防除成分の一部が、時間の経過とともに、付着性粒子に含まれる害虫防除成分が揮散することがあるが、処理空間内(壁面等を含まない。)で防除効果を発揮するほどに揮散することはないものをいう。「付着性粒子」について、その噴射時において「浮遊性粒子」と区別されていることを要するものではないから、噴射後の挙動によって、「浮遊性粒子」と明確に区別することができる。イ 争点2-2(明確性要件違反(本件発明2及び3)について(被告の主張)前記⑴エ(被告の主張)(ア)のとおり、「効果持続時間」は、どのような

5 場合に「10時間以上」又は「20時間以上」となるか理解できないものであり、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確である。(原告の主張)前記⑴エ(原告の主張)のとおり、「効果持続時間」は、KT 5 0 値が「>120」であるか否かによって判定されるものであり、本件明細書の実施例の記載からこれを不明確であるということはできない。ウ 争点2-3(サポート要件違反(本件発明))について(被告の主張)(ア) 本件明細書の発明の詳細な説明に、実施例記載の5種類の有機溶剤(以下「特定有機溶剤」と総称する。)を使用しなかった場合に特定有機溶剤を使用した場合と同様の効果を奏することは示されていないところ、有機溶剤の種類が蚊類防除用エアゾールの性能に大きな影響を与えることは本件優先日当時の技術常識であったから、当業者は、特定有機溶剤以外の有機溶剤を含有する場合に、蚊類に対して優れた防除効果を長時間にわたって発揮するという本件発明の課題(以下「課題①」という。)を解決できると認識することはできない。また、特定有機溶剤を使用したとしても、防除効果を長時間にわたって発揮しない場合があるから、どのような場合に課題①を解決できると認識することはできない。(イ) 前記⑴ア(被告の主張)のとおり、「噴射力」は、どのような測定方法を用いて測定されたか理解することができないものであり、本件明細書の発明の詳細な説明にも、噴射力の測定方法が記載されていないから、当業者は、課題①のほか、人体やペットへの影響を低減するという本件発明の課題(以下「課題②」という。)を解決する手段を特定できず、課題①及び②を解決できると認識することはできない。また、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された本件発明の技術的範囲に属する実施例は、噴射力が最大でも5.0g・fであるから、噴

5 射力がこれを超える範囲について、課題①及び②を解決できると認識することはできない。(ウ) 前記⑴イ(被告の主張)のとおり、「付着性粒子」は不明確であり、当業者は、「付着性粒子」を噴射することによって課題①及び②を解決できると認識することはできない。また、本件明細書の発明の詳細な説明に、「付着性粒子」の防除効果の持続性や、「付着性粒子」によって処理空間内の「浮遊性粒子」の量を低減することを確認できる実施例が記載されていないことからも、当業者は、「付着性粒子」によって課題①及び②を解決できると認識することはできない。(エ) 前記⑴ウ(被告の主張)のとおり、構成要件1Gは、エアゾール原液を処理空間に1回噴射した場合の害虫防除成分の噴射量を処理空間の広さに応じた所定の量になるように調整するものと解されるが、本件明細書の発明の詳細な説明には、そのような構成について記載も示唆もされていない。(オ) したがって、本件発明は、当業者が課題を解決できると認識できる範囲のものであるということができない。(原告の主張)(ア) 有機溶剤の種類が蚊類防除用エアゾールの性能に大きな影響を与えるという技術常識は認められず、特定有機溶剤を使用しても防除効果を長時間にわたって発揮しない場合があるともいえない。被告の主張は前提を欠き、「有機溶剤」についてのサポート要件違反は認められない。(イ) 前記⑴ア(原告の主張)のとおり、「噴射力」は、所定の噴射距離及び温度で荷重測定器に向けて噴射して測定すれば足り、当業者は、上記測定条件の下、技術常識によって測定方法を理解することができた。また、本件明細書の発明の詳細な説明には、噴射力が構成要件1Eの数値範囲の略中央値である5.0g・fの実施例が示されているから、

5 当業者は、すべての数値範囲について実施例が示されていなくても、構成要件1Eの数値範囲について課題を解決できると認識することができる。(ウ) 前記⑴イ(原告の主張)のとおり、「付着性粒子」が不明確であるとはいえない。また、本件明細書の発明の詳細な説明に、「付着性粒子」が壁面等に付着することによって20時間も防除効果が持続することを確認した実施例(噴射2時間後の気中残存率が2.9%以下であり、これは「付着性粒子」が壁面等に付着したことを示すものである(【表1】))。)が記載されており、当業者は、これらの記載や【0013】、【0050】の記載を参酌して、課題①及び②を解決できると認識することができる。(エ) 前記⑴ウ(原告の主張)のとおり、構成要件1Gは、4.5~8畳の部屋での噴射を想定して、5.0~30mgの噴射をすることをいうものと解され、噴射量を処理空間の広さに応じた所定の量になるように調整することを求めるものではないから、サポート要件違反は認められない。エ 争点2-4(サポート要件違反(本件発明2及び3))について(被告の主張)前記⑴エ(被告の主張)(ア)のとおり、本件明細書の【表2】の実施例は、効果が長く持続することについての試験ではなく、また、25m 3の部屋における試験であり、「33m 3 以下の空間」における「効果持続時間」の裏付けとなるものではないから、当業者は、課題①を解決できると認識することはできない。したがって、本件発明2及び3は、当業者が課題を解決できると認識できる範囲のものであるということができない。(原告の主張)

5 前記⑴エ(原告の主張)のとおり、本件明細書の【表2】の実施例は、効果が長く持続することを確認したものであり、構成要件2A及び3Aの「33m 3 以下の空間」は25m 3 の部屋も含むものであるから、当業者は、課題①を解決できると認識することができる。したがって、「効果持続時間」についてのサポート要件違反は認められない。オ 争点2-5(実施可能要件違反(本件発明))について(被告の主張)前記ウ(被告の主張)のとおり、本件明細書の発明の詳細な説明に、特定有機溶剤以外の有機溶剤を含有する場合に、蚊類に対して優れた防除効果を長時間にわたって発揮することを理解できる程度の記載はなく、また、特定有機溶剤を使用したとしても、防除効果を長時間にわたって発揮することを理解できる程度の記載があるともいえないから、当業者は、構成要件1Aを充足する蚊類防除用エアゾールを生産することはできない。前記⑴ア(被告の主張)のとおり、「噴射力」は、測定方法を理解することができないものであり、本件明細書の詳細な説明にも、噴射力の測定方法が記載されていないから、当業者は、構成要件1Eを充足する蚊類防除用エアゾールを生産することはできない。前記イ(被告の主張)のとおり、「付着性粒子」は不明確であり、本件明細書の発明の詳細な説明に、「付着性粒子」と「浮遊性粒子」という2種類の粒子を形成するように噴射する具体的な手段は記載されていないから、当業者は、構成要件1Fを充足する蚊類防除用エアゾールを生産することはできない。また、本件明細書の発明の詳細な説明に、人体やペットが吸入するエアゾール原液の粒子(浮遊性粒子)の量を低減することを確認できる実施例

5 等も記載されていないから、当業者は、構成要件1Fを充足する蚊類防除用エアゾールを生産することはできない。前記⑴ウ(被告の主張)のとおり、構成要件1Gは、エアゾール原液を処理空間に1回噴射した場合の害虫防除成分の噴射量を処理空間の広さに応じた所定の量になるように調整するものと解されるが、本件明細書の発明の詳細な説明には、そのように調整する具体的な手段は記載されていないから、当業者は、構成要件1Gを充足する蚊類防除用エアゾールを生産することはできない。そうすると、本件明細書の記載は、発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているものとはいえない。(原告の主張)前記ア及びウ(原告の主張)によれば、「有機溶剤」、「噴射力」、「付着性粒子」のいずれについても、本件明細書の記載は、発明を実施することができる程度に記載されているといえる。カ 争点2-6(実施可能要件違反(本件発明2及び3))について(被告の主張)前記⑴エ(被告の主張)(ア)のとおり、「効果持続時間」は、どのような場合に「10時間以上」又は「20時間以上」となるか理解できないものであるから、本件明細書の記載は、発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているものとはいえない。(原告の主張)前記イ及びエ(原告の主張)によれば、「効果持続時間」について、本件明細書の記載は、発明を実施することができる程度に記載されているといえる。キ 争点2-7(先行製品1発明に基づく新規性及び進歩性の欠如)について

5 (被告の主張)(ア) 先行製品1発明先行製品1により次の先行製品1発明が公然実施をされていた(以下、本件発明1に対応する発明を「先行製品1発明1」と、本件発明2に対応する発明を「先行製品1発明2」と、本件発明3に対応する発明を「先行製品1発明3」とそれぞれいう。)。このことは、噴霧粒子の壁面等への付着量及び効果持続時間等に関する被告の試験結果(乙29~32)によって裏付けられている。a 先行製品1発明11a① 害虫防除成分であるトランスフルトリンと有機溶剤であるエタノールとを含有するエアゾール原液、及びLPG(液化石油ガス)を封入してなる定量噴射バルブが設けられた耐圧容器と、前記定量噴射バルブに接続される噴射口が設けられた噴射ボタンと、を備えた蚊類防除用エアゾールであって、1b① 前記害虫防除成分は、トランスフルトリンであり、1c① 前記エアゾール原液は、前記害虫防除成分を●(省略)●含有し、1d① 前記噴射ボタンを1回押下したときの噴射容量が0.20mLとなり、1e① 甲12の試験の測定方法で、前記噴射距離20cmにおける噴射力が25℃において6.1g・fとなるように調整され、1f① 前記エアゾール原液は、前記噴射口から、エアゾールの噴射から24時間が経過した時点で、トランスフルトリンが、エアゾール原液に換算して●(省略)●に相当する量で付着する粒子として噴射され、1g① 前記エアゾール原液を処理空間に1回噴射した場合、前記害

5 虫防除成分の噴射量は10mgとなり、パッケージには「1日1回使用の場合」、「4.5~8畳あたり1回噴射する」との記載がある1h① 蚊類防除用エアゾール(但し、自動噴霧装置本体に装着されてなる蚊類防除用エアゾールを除く)。b 先行製品1発明22a① 前記エアゾール原液を25.2m 3 の処理空間に1回噴射した場合、10時間経過後にアカイエカを導入した場合のKT 50 値は4.7分である2b① 構成1a①~1h①を有する蚊類防除用エアゾール。c 先行製品1発明33a① 前記エアゾール原液を25.2m 3 の処理空間に1回噴射した場合、20時間経過後にアカイエカを導入した場合のKT 50値は10.5分である3b① 構成1a①~1h①を有する蚊類防除用エアゾール。(イ) 本件発明と先行製品1発明の対比被告製品が本件発明の構成要件を全て充足するという原告の主張を前提とすると、本件発明1と先行製品1発明1、本件発明2と先行製品1発明2、本件発明3と先行製品1発明3はいずれも全ての構成が一致するから、本件発明は新規性を欠く。仮に何らかの相違点が認められたとしても、本件優先日当時の当業者が先行製品1発明に基づいて容易に発明することができたから、本件発明は進歩性を欠く。(原告の主張)否認ないし争う。先行製品1発明の公然実施は認められない。被告の試験結果(乙29~32)は、①製造から13年以上が経過しており製品の品質に経年変化が生じていること、②「付着性粒子」が噴射24時間後に

5 壁面等に付着していたことが示されているとはいえないこと、③本件発明が想定する環境ではなく、高度に密閉されたチャンバー室を閉め切った状態で行った試験結果であること等から、公然実施を裏付けるものではない。ク 争点2-8(先行製品2発明に基づく新規性及び進歩性の欠如)について(被告の主張)(ア) 先行製品2発明先行製品2により次の先行製品2発明が公然実施をされていた(以下、本件発明1に対応する発明を「先行製品2発明1」と、本件発明2に対応する発明を「先行製品2発明2」と、本件発明3に対応する発明を「先行製品2発明3」とそれぞれいう。)。このことは、噴霧粒子の壁面等への付着量及び効果持続時間等に関する被告の試験結果(乙29~32)によって裏付けられている。a 先行製品2発明11a② 害虫防除成分であるトランスフルトリンと有機溶剤であるミリスチン酸イソプロピルとを含有するエアゾール原液、及びLPG(液化石油ガス)を封入してなる定量噴射バルブが設けられた耐圧容器と、前記定量噴射バルブに接続される噴射口が設けられた噴射ボタンと、を備えた蚊類防除用エアゾールであって、1b② 前記害虫防除成分は、トランスフルトリンであり、1c② 前記エアゾール原液は、前記害虫防除成分を●(省略)●含有し、1d② 前記噴射ボタンを1回押下したときの噴射容量が0.20mLとなり、1e② 甲12に記載の試験方法で、前記噴射距離20cmにおける噴射力が25℃において9.1g・fとなるように調整され、

5 1f② 前記エアゾール原液は、前記噴射口から、エアゾールの噴射から24時間が経過した時点で、トランスフルトリンが、エアゾール原液に換算して●(省略)●に相当する量で付着する粒子として噴射され、1g② 前記エアゾール原液を処理空間に1回噴射した場合、前記害虫防除成分の噴射量は16mgとなり、パッケージには「1日1回使用」、「4.5~8畳あたり1回噴射する」との記載がある1h② 蚊類防除用エアゾール(但し、自動噴霧装置本体に装着されてなる蚊類防除用エアゾールを除く)。b 先行製品2発明22a② 前記エアゾール原液を25.2m 3 の処理空間に1回噴射した場合、10時間経過後にアカイエカを導入した場合のKT 50 値は4.6分である2b② 構成1a②~1h②を有する蚊類防除用エアゾール。c 先行製品2発明33a② 前記エアゾール原液を25.2m 3 の処理空間に1回噴射した場合、20時間経過後にアカイエカを導入した場合のKT 50 値は5.9分である3b② 構成1a②~1h②を有する蚊類防除用エアゾール。(イ) 本件発明と先行製品2発明の対比被告製品が本件発明の構成要件を全て充足するという原告の主張を前提とすると、本件発明1と先行製品2発明1、本件発明2と先行製品2発明2、本件発明3と先行製品2発明3はいずれも全ての構成が一致するから、本件発明は新規性を欠く。仮に何らかの相違点が認められたとしても、本件優先日当時の当業者が先行製品2発明に基づいて容易に発明することができたから、本件発明は進歩性を欠く。

5 (原告の主張)否認ないし争う。先行製品2発明の公然実施は認められない。前記キ(原告の主張)のとおり、被告の試験結果(乙29~32)は公然実施を裏付けるものではない。ケ 争点2-9(乙34発明に基づく進歩性の欠如)について(被告の主張)(ア) 乙34発明乙34公報には次の乙34発明が記載されている(以下、本件発明1に対応する発明を「乙34発明1」と、本件発明2に対応する発明を「乙34発明2」と、本件発明3に対応する発明を「乙34発明3」とそれぞれいう。)。a 乙34発明11a③ ピレスロイド系殺虫成分とエタノールとを含有するエアゾール原液、及び液化石油ガスを加圧充填してなる定量噴霧用エアゾールバルブ付きエアゾール容器と、前記定量噴霧用エアゾールバルブに接続される噴射口が設けられた噴射ボタンと、を備えた、アカイエカ、ヒトスジシマカ等の蚊類を含む飛翔害虫防除用エアゾールであって、1b③ 前記ピレスロイド系殺虫成分は、メトフルトリンであり、1c③ 前記エアゾール原液は、前記ピレスロイド系殺虫成分を5.0重量%含有し、1d③ 前記噴射ボタンを1回押下したときの噴射容量が0.4mLとなり、1e③ 前記噴射距離20cmにおける噴射力が25℃において6.5g・fとなるように調整され、1f③ 前記エアゾール原液は、前記噴射口から、時間の経過とと

5 もに、室内の壁や床に付着する薬剤粒子として噴射され、1g③ 前記エアゾール原液を4.5~8畳の処理空間に1回噴射した場合、前記ピレスロイド系殺虫成分の噴射量が4.8mgとなる1h③ 蚊類を含む飛翔害虫防除用エアゾール(但し、自動噴霧装置本体に装着されてなる蚊類を含む飛翔害虫防除用エアゾールを除く)。b 乙34発明22a③ 6畳の部屋に1回噴射した場合、3時間以上にわたり防除効果を示すことが確認されている2b③ 構成1a③~1h③を有する蚊類を含む飛翔害虫防除用エアゾール。c 乙34発明33a③ 6畳の部屋に1回噴射した場合、3時間以上にわたり防除効果を示すことが確認されている3b③ 構成1a③~1h③を有する蚊類を含む飛翔害虫防除用エアゾール(イ) 本件発明と乙34発明の相違点a 本件発明1と乙34発明1は、以下の相違点③1及び③2において相違し、その余の点において一致する。本件発明2と乙34発明2は、相違点③1及び③2に加えて、以下の相違点③3において相違し、その余の点において一致する。本件発明3と乙34発明3は、相違点③1及び③2に加えて、以下の相違点③4において相違し、その余の点において一致する。(相違点③1)本件発明1は、エアゾール原液が害虫防除成分を14.3重量%以

5 上含有するのに対し、乙34発明1は、エアゾール原液がピレスロイド系殺虫成分を5.0重量%含有する点。(相違点③2)本件発明1は、エアゾール原液を処理空間に1回噴射した場合の害虫防除成分の噴射量が5.0~30mgであるのに対し、乙34発明1は、エアゾール原液を処理空間に1回噴射した場合のピレスロイド系殺虫成分の噴射量が4.8mgである点。(相違点③3)本件発明2は、エアゾール原液を処理空間に1回噴射した場合の害虫防除成分の効果持続時間が33m 3 以下の空間に対して10時間以上であるのに対し、乙34発明2は、6畳の部屋に対して1回噴射した場合、効果が3時間以上にわたることが確認されているものの、それより長い時間については確認されていない点。(相違点③4)本件発明3は、エアゾール原液を処理空間に1回噴射した場合の害虫防除成分の効果持続時間が33m 3 以下の空間に対して20時間以上であるのに対し、乙34発明3は、6畳の部屋に対して1回噴射した場合、効果が3時間以上にわたることが確認されているものの、それより長い時間については確認されていない点。b 原告の主張する相違点③Aは存在せず(仮に存在するとしても、適宜なし得る設計事項にすぎない。)、また、相違点③Bのように相違点

③1及び③2を一体の相違点とみるべきではなく、そのうち「付着性粒子」は相違点にならない。(ウ) 相違点③1について相違点③1の構成は、乙34公報の【0012】を参照して適宜なし得る設計事項にすぎない。また、ピレスロイド系殺虫成分を高濃度

5 に含有することによって長期にわたり防除効果を維持することができることが知られていたから、相違点③1の構成に変更する動機付けもある。したがって、相違点③1の構成は、当業者が容易に想到することができた。(エ) 相違点③2について相違点③2は、2桁で示される噴射量の数値範囲において、2桁目がわずか0.2mg異なるのみであり、実質的な相違点ではない。実質的な相違点であるとしても、乙34公報の【0023】や実施例2等を参酌して適宜なし得る設計事項にすぎない。したがって、相違点

③2の構成は、当業者が容易に想到することができた。(オ) 相違点③3について相違点③3の効果持続時間は、乙34公報の【0023】において既に達成されており、実質的な相違点ではない。実質的な相違点であるとしても、乙34公報の【0023】等を参酌して容易に達成することができた。したがって、相違点③3の構成は、当業者が容易に想到することができた。(カ) 相違点③4について相違点③4の効果持続時間は、乙34公報の実施例においてKT 50値の試験時間を20時間という長時間に設定しなかったというだけで、既に達成されており、実質的な相違点ではない。実質的な相違点であるとしても、乙34公報の実施例や技術常識等を参酌して容易に達成することができた。顕著な効果を奏する構成でもない。したがって、相違点③4の構成は、当業者が容易に想到することができた。(キ) 顕著な効果相違点に係る本件発明1の構成は、顕著な効果を奏するものではない。(ク) 小括(争点2-9)

5 以上によれば、本件優先日当時、本件発明1は乙34発明1に基づき、本件発明2は乙34発明2に基づき、本件発明3は乙34発明3に基づき、いずれも当業者が容易に発明することができた。(原告の主張)(ア) 本件発明と乙34発明の相違点a 本件発明1と乙34発明1は、以下の相違点③A及び③Bにおいて相違する。また、本件発明2と乙34発明2は被告の主張する相違点

③3において、本件発明3と乙34発明3は被告の主張する相違点③4において、それぞれ相違する。(相違点③A)本件発明1は、蚊類を防除対象とした定量噴射エアゾールに関する発明であるのに対し、乙34発明1は、飛翔害虫を防除対象とした定量噴射エアゾールに関する発明であり、蚊類を防除対象に含むが、特にハエ類やコバエ類を防除対象とした発明である点(相違点③B)本件発明1は、エアゾール原液が害虫防除成分を14.3重量%以上含有し、エアゾール原液を処理空間に1回噴射した場合の害虫防除成分の噴射量が4.5~8畳あたり5.0~30mgであり、エアゾール原液の少なくとも一部が、処理空間内における蚊類が止まる露出部に付着する付着性粒子として噴射される構成を備えた発明であるのに対し、乙34発明1は、エアゾール原液がピレスロイド系殺虫成分を5.0重量%含有し、エアゾール原液を処理空間に1回噴射した場合のピレスロイド系殺虫成分の噴射量が4.5~8畳あたり4.8mgであり、付着性粒子を噴射する構成を備えていない発明である点b 被告の主張する相違点③1及び2における害虫防除成分の濃度や噴

5 射量の数値は、他のパラメータと相まって粒子の特性を定める要素となるから、相違点③Bのとおり一体的な相違点と理解すべきである。(イ) 相違点③Aについて乙34発明1に接した当業者が、防除対象を置き換えて、蚊類を防除対象とする定量噴射エアゾールとすることは想到しないから、相違点③Aの構成は、当業者が容易に想到することができたものではない。(ウ) 相違点③Bについて本件発明1の「付着性粒子」と乙34公報記載の壁面等に落下した薬剤粒子は、技術思想を異にする。また、乙34公報には、壁面等に落下した薬剤粒子が、時間が経過しても付着した状態を維持し、露出部に止まる蚊を駆除・防除する「付着性粒子」の構成について、記載も示唆もない。パラメータの数値の相違(害虫防除成分の濃度、噴射量(4.5~8畳あたり)についても、当業者であれば、乙34発明1の害虫防除成分の濃度を高くし、害虫防除成分の4.5~8畳あたりの噴射量を多くすれば、人体やペットへの影響が増大するものと当然に理解するから、相違点③Bの構成に変更する動機付けがない。したがって、相違点③Bの構成は、「付着性粒子」に限っても、また、パラメータの数値についても、当業者が容易に想到し得たものではない。(エ) 相違点③1及び③2について仮に相違点③1及び③2のように個別に相違点を把握したとしても、乙34発明1では、各パラメータの調整やバランスを図ることが不可欠であるから、噴射量の差が実質的な相違点でないとはいえず、各パラメータの値の設定が単なる設計事項であるともいえない。したがって、相違点③1及び③2の構成は、いずれも、当業者が容易に想到することができたものではない。

5 (オ) 相違点③3について乙34発明2の効果持続時間は、乙34公報の記載からは、3時間以上かつ7時間未満であると理解されるから、相違点③3が実質的な相違点でないということはできない。また、乙34発明2において噴射されるピレスロイド系殺虫成分の量を増やすことには阻害要因がある。したがって、相違点③3の構成は、当業者が容易に想到することができたものではない。(カ) 相違点③4について相違点③4の効果持続時間が乙34公報の実施例において既に達成されているということはできない。また、乙34発明3において噴射されるピレスロイド系殺虫成分の量を増やすことには阻害要因がある。したがって、相違点③4の構成は、当業者が容易に想到することができたものではない。(キ) 顕著な効果相違点に係る本件発明1の構成は、①処理空間内にいる人やペットがエアゾール原液の粒子を吸入する量を低減し、人やペットにとって安全な蚊類防除用エアゾールを実現しつつ、長時間の防除効果を維持することができるという点、②蚊類に対する長時間の防除効果という点で、顕著な効果を奏する。(ク) 小括(争点2-9)以上によれば、本件発明は、いずれも、本件優先日当時の当業者が乙34発明に基づいて容易に発明することができたものとはいえない。コ 争点2-10(乙35発明に基づく進歩性の欠如)について(被告の主張)(ア) 乙35発明乙35公報には次の乙35発明が記載されている(以下、本件発明1

5 に対応する発明を「乙35発明1」と、本件発明2に対応する発明を「乙35発明2」と、本件発明3に対応する発明を「乙35発明3」とそれぞれいう。)。a 乙35発明11a④ 害虫防除成分とイソプロパノールとを含有するエアゾール原液、並びに液化石油ガス及びジメチルエーテルを加圧充填してなる定量噴霧用エアゾールバルブ付きエアゾール容器と、前記定量噴霧用エアゾールバルブに接続される噴射口が設けられた噴射ボタンと、を備えた、アカイエカ、ヒトスジシマカ等の蚊類を含む害虫防除用エアゾールであって、1b④ 前記害虫防除成分は、トランスフルトリンであり、1c④ 前記エアゾール原液は、前記害虫防除成分を6.2重量%含有し、1d④ 前記噴射ボタンを1回押下したときの噴射容量が0.6mLとなり、1e④ 前記噴射距離20cmにおける噴射力が5.6g・fとなるように調整され、1f④ 前記エアゾール原液は、前記噴射口から、噴霧した害虫防除成分の47%が床面及び壁面に付着する薬剤粒子として噴射され、1g④ 前記エアゾール原液を4.5~8畳の処理空間に1回噴射した場合、前記害虫防除成分の噴射量が15mgとなる1h④ 蚊類を含む害虫防除用エアゾール(但し、自動噴霧装置本体に装着されてなる蚊類を含む害虫防除用エアゾールを除く)。b 乙35発明22a④ 前記エアゾールを閉めきった部屋に1回噴射した場合、前記害虫防除成分の効果は、25m 3 の空間に対して7時間後のKT 50

5 値が9.0分である2b④ 構成1a④~1h④を有する蚊類を含む害虫防除用エアゾール。c 乙35発明33a④ 前記エアゾールを閉めきった部屋に1回噴射した場合、前記害虫防除成分の効果は、25m 3 の空間に対して7時間後のKT 50値が9.0分である3b④ 構成1a④~1h④を有する蚊類を含む害虫防除用エアゾール。(イ) 本件発明と乙35発明の相違点a 本件発明1と乙35発明1は、以下の相違点④1ないし④3において相違し、その余の点において一致する。本件発明2と乙35発明2は、相違点④1ないし④3に加えて、以下の相違点④4において相違し、その余の点において一致する。本件発明3と乙35発明3は、相違点④1ないし④3に加えて、以下の相違点④5において相違し、その余の点において一致する。(相違点④1)本件発明1は、エアゾール原液が害虫防除成分を14.3重量%以上含有するのに対し、乙35発明1は、エアゾール原液が害虫防除成分を6.2重量%含有する点。(相違点④2)本件発明1は、噴射ボタンを1回押下したときの噴射容量が0.1~0.4mLであるのに対し、乙35発明1は、0.6mLである点。(相違点④3)本件発明1は、噴射力の測定温度が25℃であるのに対し、乙3

5 5発明1は、測定温度が明示されていない点。(相違点④4)本件発明2は、エアゾール原液を処理空間に1回噴射した場合の害虫防除成分の効果持続時間はが33m 3 以下の空間に対して10時間以上であるのに対し、乙35発明2は、25m 3 の空間に対して7時間後のKT 50 値が9.0分であり、害虫防除成分の効果が10時間以上持続するか不明である点。(相違点④5)本件発明3は、エアゾール原液を処理空間に1回噴射した場合の害虫防除成分の効果持続時間が33m 3 以下の空間に対して20時間以上であるのに対し、乙35発明3は、25m 3 の空間に対して7時間後のKT 50 値が9.0分であり、害虫防除成分の効果が20時間以上持続するか不明である点。b 原告の主張する相違点④Aは存在せず(仮に存在するとしても、適宜なし得る設計事項にすぎない。)、相違点④Bのように相違点④1及び④2を一体の相違点とみるべきではない。(ウ) 相違点④1について相違点④1の構成は、乙35公報の【0011】を参照して適宜なし得る設計事項にすぎない。また、外虫防除成分を高濃度に含有することによって長期にわたり防除効果を維持することができることが知られていたから、相違点④1の構成に変更する動機付けもある。したがって、相違点④1の構成は、当業者が容易に想到することができた。(エ) 相違点④2について相違点④2の構成は、乙35公報の【0023】等を参酌して適宜なし得る設計事項にすぎないから、当業者が容易に想到することができた。(オ) 相違点④3について

5 相違点④3の構成は、技術常識を参酌すれば乙35公報に記載されているに等しく、実質的な相違点ではない。実質的な相違点であるとしても、適宜なし得る設計事項にすぎない。したがって、相違点④3の構成は、当業者が容易に想到することができた。(カ) 相違点④4について相違点④4の効果持続時間は、乙35公報の【0018】において既に達成されている程度のものであり、実質的な相違点ではない。実質的な相違点であるとしても、乙35公報の【0018】等を参酌して容易に達成することができた。したがって、相違点④4の構成は、当業者が容易に想到することができた。(キ) 相違点④5について相違点④5の効果持続時間は、乙35公報において既に達成されており、実質的な相違点ではない。実質的な相違点であるとしても、技術常識等を参酌して容易に達成することができた。したがって、相違点④5の構成は、当業者が容易に想到することができた。(ク) 顕著な効果相違点に係る本件発明1の構成は、顕著な効果を奏するものではない。(ケ) 小括(争点2-10)以上によれば、本件優先日当時、本件発明1は乙35発明1に基づき、本件発明2は乙35発明2に基づき、本件発明3は乙35発明3に基づき、いずれも当業者が容易に発明することができた。(原告の主張)(ア) 本件発明と乙35発明の相違点a 本件発明と乙35発明は被告の主張する相違点④3ないし5に加えて、以下の相違点④A及び③Bにおいて相違する。(相違点④A)

5 本件発明1が、「前記エアゾール原液は、前記噴射口から、少なくとも一部が処理空間内における蚊類が止まる露出部に付着する付着性粒子として噴射され」る構成を備えているのに対し、乙35発明1は、エアゾール原液が、噴射口から、少なくとも一部が処理空間内における匍匐害虫が存する床や壁に付着する粒子として噴射される構成を備えている点。(相違点④B)本件発明1は、エアゾール原液が害虫防除成分を14.3重量%以上含有し、噴射ボタンを1回押下したときの噴射容量が0.1~0.4mLであるのに対し、乙35発明1は、エアゾール原液が害虫防除成分を6.2重量%含有し、噴射ボタンを1回押下したときの噴射容量が0.6mLである点。b 被告の主張する相違点④1及び2における害虫防除成分の濃度や噴射容量の数値は、他のパラメータと相まって粒子の特性を定める要素となるから、相違点④Bのとおり一体的な相違点と理解すべきである。(イ) 相違点④Aについて乙35公報には、付着性粒子を壁面等に付着させ、蚊類が壁面等に止まるのを待ち伏せして蚊類に対する防除効果を得る構成等について、記載も示唆もなされていない。本件優先日前に上記のような構成は知られておらず、相違点④Aの構成に変更する動機付けがない。したがって、相違点④Aの構成は、当業者が容易に想到することができたものではない。(ウ) 相違点④Bについて乙35発明1では、各パラメータの調整やバランスを図ることが不可欠であり、当業者において、あえて各パラメータの値を変更して相違点

④Bの構成に変更する動機付けがない。したがって、相違点④Bの構成

5 は、当業者が容易に想到することができたものではない。(エ) 相違点④3について相違点④3が実質的な相違点でないことは争わない。(オ) 相違点④4について乙35発明2の効果持続時間は、乙35公報に具体的に記載されていないから、相違点④4が実質的な相違点でないということはできない。また、乙35発明2が定める各パラメータは、同発明が定める噴霧粒子を形成するための諸条件を定めたものであり、一体となった技術事項であるから、当業者において、同発明の噴射される害虫防除成分の量を適宜調整すること想定されない。防除効果の持続時間を長くしようとして、噴射される害虫防除成分の量を増やせば、長時間浮遊残存する噴霧粒子数も増え、人やペットに対する影響を低減することができないから、阻害要因もある。したがって、相違点④4の構成は、当業者が容易に想到することができたものではない。(カ) 相違点④5について乙35発明3の効果持続時間は、乙35公報の記載から導くことは困難であるから、相違点④4が実質的な相違点でないということはできない。また、当業者において、同発明の噴射される害虫防除成分の量を適宜調整すること想定されないこと、噴射される害虫防除成分の量を増やすことに阻害要因があることは前記(オ)のとおりである。したがって、相違点④5の構成は、当業者が容易に想到することができたものではない。(キ) 顕著な効果前記ケ(被告の主張)(キ)のとおり、相違点に係る本件発明1の構成は、顕著な効果を奏する。(ク) 小括(争点2-10)

5 以上によれば、本件発明は、いずれも、本件優先日当時の当業者が乙35発明に基づいて容易に発明することができたものとはいえない。

⑶ 争点3(損害の発生及びその額)について(原告の主張)被告は、令和4年2月16日から令和6年2月15日までの間に、以下のとおり被告製品を販売して利益を得た。したがって、本件特許権侵害によって原告に生じた損害(特許法102条2項による算定)は、17億0215万5968円を下らない。製品 販売数量 単 価 ( 税 込 限 界 利 利益額み) 益率被告製品1 54万個 877円 40% 1億8943万2000円被告製品2 270万個 698円 40% 7億5384万円被告製品3 30万個 1848円 40% 2億2176万円被告製品4 30万個 968円 40% 1億1616万円被告製品5 48万個 968円 40% 1億8585万6000円被告製品6 3万個 1188円 40% 1425万6000円被告製品7 51万個 1078円 40% 2億1991万2000円被告製品8 120個 1616円 40% 7万7568円被告製品9 2000個 1078円 40% 86万2400円合計 17億0215万5968円(被告の主張)否認ないし争う。

第3 当裁判所の判断

1 本件明細書の記載

5 本件明細書には、次の記載がある(発明の詳細な説明における表及び図面は

別紙本件図面目録のとおりである。)。

⑴ 技術分野

【0001】本発明は、害虫防除成分と有機溶剤とを含有するエアゾール原液、及び噴射剤を封入してなる定量噴射バルブが設けられた耐圧容器と、定量噴射バルブに接続される噴射口が設けられた噴射ボタンと、を備えた蚊類防除用エアゾール、及びこれを用いた蚊類防除方法に関する。

⑵ 背景技術

【0002】飛翔害虫を駆除する方法として、例えば、殺虫成分を含む薬剤を含浸させた担体から薬剤を蒸散させて処理空間に揮散させる方法、飛翔害虫に薬剤を直接噴霧する方法、飛翔害虫が現われ易い場所に予め薬剤を噴霧しておく方法等がある。これらの方法に関し、屋内に侵入する飛翔害虫を駆除する製品として、殺虫成分を含有するエアゾール殺虫剤が開発されている。エアゾール殺虫剤は処理空間に殺虫成分を簡単に噴霧することができるため、使い勝手の良い製品として広く利用されている。【0003】従来、エアゾール殺虫剤に関して、室内の気中における薬剤の残存率の低下を抑制するものがあった(例えば、特許文献1(注:特開2001-17055号公報)を参照)。特許文献1によれば、薬剤を放出した後、その薬剤を空気中にとどめて気中濃度の低下を抑制することで、物陰に潜む蚊に対して十分な駆除効果を持続させることができるとしている。【0004】また、薬剤を室内に噴霧した場合の粒子径を特許文献1より大きく設定したエアゾール殺虫剤があった(例えば、特許文献2(注:特開

5 2013-99336号公報)を参照)。特許文献2は、特許文献1と同様

の技術思想に基づくエアゾール殺虫剤であり、薬剤を室内の気中にできるだけ長く残存させ、蚊に対する殺虫効果を高めようとするものである。【0005】一方、エアゾール殺虫剤に関し、室内の構造物または備品の表面に付着させることを特徴とする家屋室内における飛翔性害虫の駆除方法があった(例えば、特許文献3(注:特開2001-328913号公報)を参照)。特許文献3によれば、室内の構造物等に付着させた特定の化合物が蒸散するため、繰り返し噴霧や、電気器具等の継続的な運転を必要とせず、簡便な手段によって家屋内飛翔性害虫を効率的に駆除することができるとされている。

⑶ 発明が解決しようとする課題

【0007】特許文献1のエアゾール殺虫剤は、室内に拡散する薬剤の粒子径を調整することによって薬剤が気中に残存する時間を長くし、薬剤の持続時間を長時間にすることが試みられている。しかし、処理開始から12時間以上での薬剤粒子の気中残存率は0.5%以上であり、気中残存率の維持を目的とする特許文献1のエアゾール殺虫剤では、持続時間に限度がある。特許文献2においても、薬剤粒子の気中残存率は特許文献1と同様であり、長期の持続時間を期待できるエアゾール殺虫剤ではない。【0008】ここで、防除対象である蚊類(通常の蚊であるアカイエカ、ヒトスジシマカ等のみならず、カ亜目に属するユスリカ類やチョウバエ類等も含むものとする。)のうち、特に、アカイエカやヒトスジシマカは、吸血するだけでなく感染症を媒介する蚊であるため、これらの蚊から身を守ることが必要であり、従来に増して効果的な駆除方法の確立が求められている。蚊類は、昼夜を問わず屋内に侵入する飛翔害虫であるため、一日中、つまり、効果を奏する持続時間が24時間であるような殺虫剤が理想的である。【0009】ところが、上記のとおり、特許文献1、及び特許文献2に開

5 示されてあるエアゾール殺虫剤では、12時間程度しか効果が持続しない。

また、特許文献1、及び特許文献2は、薬剤の粒子径を調整することにより、気中に積極的に薬剤を残存させるものであるが、薬剤粒子が気中に残存しているということは、処理空間内にいる人やペットが当該薬剤を吸入する環境に長時間置かれるということである。そのため、人体やペットへの影響という点においても、好ましいエアゾール殺虫剤とは言い難い。【0010】特許文献3の駆除方法においても、安定した効果を長時間に亘って維持できるかどうか不明である。空気中に噴射された薬剤粒子は、(A)空気中に浮遊し残存する、(B)床や壁に付着する、(C)(B)の後に再び揮散する、もしくは(D)光等により分解し消失する、の何れかの挙動を辿ると考えられる。これらに照らしてみた場合、特許文献3の駆除方法は、(C)のタイプに該当する。しかしながら、室内の構造物等に付着した薬剤が再び空気中に揮散する場合、温度や風量等の影響を受け易いため、特許文献3の駆除方法では、飛翔害虫の駆除に対して安定した効果を得られるとは限らない。【0011】本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、飛翔害虫の中でも、特に、蚊類に対して優れた防除効果を長時間に亘って発揮することができ、しかも、人体やペットへの影響を低減した蚊類防除用エアゾール、及び当該蚊類防除用エアゾールを用いた蚊類防除方法を提供することを目的とする。

⑷ 課題を解決するための手段

【0013】「発明が解決しようとする課題」にて述べたとおり、従来のエアゾール殺虫剤は、処理空間に積極的に薬剤粒子を拡散させ、気中に残存する時間をできるだけ長期化させる方向で開発が進められていた。しかし、処理空間に浮遊している薬剤粒子の滞留時間が長時間になると、処理空間内に人やペットが立ち入った場合、薬剤粒子を吸入する可能性があるため、健

5 康への影響が懸念される。

ところで、本発明者らの研究により、蚊を代表とする蚊類(…単に「蚊類」と称する。)は飛んでいる時間よりも、壁面等に止まっている時間の方が長いことが判明した。即ち、屋内に侵入してきた蚊類の大半は壁面等に止まり、人を吸血する機会を窺っているということになる。このため、従来のように、処理空間内の薬剤粒子が浮遊する時間を長期化させる手法は、飛翔中の蚊類の防除に対しては一定の効果を奏することができるが、壁面等に止まっている蚊類に対しては薬剤の効果を充分に及ぼすことができず、結果的に、蚊類の防除が不完全となり得る。本発明者らは、上記の研究結果から、壁面等に止まっている蚊類に対する防除の効果を高めることが、人やペットが薬剤を吸入することを抑制しつつ、屋内に侵入してくる蚊類全体の防除の向上に繋がると考えた。そこで、本発明に係る蚊類防除用エアゾールでは、処理空間に噴射されたエアゾール原液の少なくとも一部が、処理空間内の露出部(例えば、処理空間内に存在する床面や壁面、家具等の構造物の表面等)に付着する付着性粒子として形成されるものとした。このため、露出部に止まっている蚊類、及び処理空間を飛んでいる蚊類の両方の蚊類を効果的にノックダウン又は死滅させることができ、蚊類全体の防除効果を向上させることができる。また、付着性粒子以外の粒子(これを、「浮遊性粒子」と称することとする。)が処理空間全体に満遍なく拡散しても、処理空間中のエアゾール原液の濃度は付着性粒子の分だけ低減される。そのため、処理空間内にいる人やペットがエアゾール原液の粒子を吸入する量は極微量となり、人体やペットにとってより安全な蚊類防除用エアゾールとなる。また、本発明に係る蚊類防除用エアゾールは、噴射ボタンを1回押下したときの噴射容量が0.1~0.4mLとなり、且つ噴射距離20cmにおける噴射力が25℃において0.3~10.0g・fとなるように調整されて

5 いる。このように噴射容量、及び噴射力を調整することで、噴射されたエア

ゾール原液の少なくとも一部を付着性粒子として形成することができ、蚊類に対し優れた防除効果を奏することができる。【0014】本発明に係る蚊類防除用エアゾールにおいて、前記付着性粒子は、25℃、噴射距離15cmにおける体積積算分布での90%粒子径が20~80μmであることが好ましい。【0015】本構成の蚊類防除用エアゾールによれば、付着性粒子を上記の最適な範囲に調整することによって、露出部に止まっている蚊類を付着性粒子の害虫防除成分によって確実にノックダウン又は死滅させることができる。【0016】本発明に係る蚊類防除用エアゾールにおいて、前記付着性粒子の付着量は、処理空間内の露出部に1m 2 当たり0.01~0.4mgであることが好ましい。【0017】本構成の蚊類防除用エアゾールによれば、付着性粒子の付着量を上記の最適な範囲に調整することによって、露出部に止まっている蚊類を付着性粒子の害虫防除成分によって確実にノックダウン又は死滅させることができる。

⑸ 発明を実施するための形態

【0045】図1は、処理空間にエアゾール原液を噴射したときのエアゾール原液の粒子の挙動を示したモデル図である。図1(a)は、従来製品に係る蚊類防除用エアゾールを処理空間に噴射した場合のモデル図であり、図1(b)は、本発明に係る蚊類防除用エアゾールを処理空間に噴射した場合のモデル図である。図1(a)に示されるように、従来の蚊類防除用エアゾール製品(単に「従来品」とする)は、エアゾール原液が処理空間に噴射されると、粒子径20μm未満の粒子Mとなって処理空間中に拡散する。噴射して暫く経過す

5 ると、粒子Mは処理空間全体にさらに拡散し、害虫防除成分を揮散する。こ

れにより、処理空間を飛んでいる蚊類をノックダウン又は死滅させることができる。しかし、上記のとおり、蚊類は飛んでいる時間よりも処理空間内の露出部に止まっている時間の方が長いため、従来品ではこのような処理空間内の露出部に止まっている蚊類まで確実にノックダウン又は死滅させることができない。また、処理空間の窓を開ける等して風が吹き込んできた場合、処理空間中に浮遊している粒子Mの一部は風に流されてしまい、害虫防除成分の効果が大幅に減少する。さらに、粒子Mが処理空間に浮遊している時間が長時間になると、処理空間内にいる人やペットが粒子Mを吸入する量が増えるため、人体やペットに悪影響を及ぼす虞もある。そこで、本発明者らは、鋭意研究の末、これらの問題を解決する蚊類防除用エアゾール製品を開発した。以下、本発明に係る蚊類防除用エアゾール製品の特徴構成である付着性粒子、及び浮遊性粒子について説明する。【0046】[付着性粒子]図1(b)に示されるように、エアゾール原液を処理空間に1回噴射すると、付着性粒子X、及び浮遊性粒子Yが形成される。図1(b)において、白丸で示されているものが付着性粒子Xであり、黒丸で示されているものが浮遊性粒子Yである。両者の粒子径は異なっており、付着性粒子Xの方が浮遊性粒子Yより大きな粒子径として形成される。付着性粒子Xの好ましい粒子径は、25℃、噴射距離15cmにおける体積積算分布での90%粒子径が20~80μmである。この範囲であれば、エアゾール原液が処理空間に噴射された際、速やかに処理空間内の露出部に移動し、付着することができる。そのため、露出部に止まっている蚊類を付着性粒子Xの害虫防除成分によってノックダウン又は死滅させることができる。また、処理空間内に侵入し、露出部に止まろうとしている蚊類に対しても害虫防除効果を奏するため、処理空間外へ追い出すことも可能となる。粒子径が20μm未満であると、粒子径が小さすぎるため、露出部まで到達するこ

5 とが困難となり、その結果、露出部に止まっている、あるいは、止まろうと

している蚊類を防除することが困難となる。一方、粒子径が80μmを超えると、粒子径が大きすぎるため、付着性粒子の挙動をコントロールし難くなり、露出部に適切に付着させることが困難となる。付着性粒子Xのより好ましい粒子径は、25℃、噴射距離15cmにおける体積積算分布での90%粒子径25~70μmである。【0047】また、付着性粒子Xの好ましい付着量は、処理空間内の露出部に1m 2 当たり0.01~0.4mgであり、好ましくは、1m 2 当たり0.05~0.2mgである。このような範囲であれば、露出部に止まっている蚊類を効果的にノックダウン又は死滅することができる。付着量が1m2当たり0.01mg未満であると、露出部に止まっている蚊類に対し充分な防除効果を奏することができず、蚊類をノックダウン又は死滅させることが困難となる。一方、付着量が1m 2 当たり0.4mgを超えても、害虫防除効果は大きく向上することはなく、また、エアゾール原液の使用量も過大となるため、経済的にも不利である。【0048】[浮遊性粒子]浮遊性粒子Yの好ましい粒子径は、25℃、噴射距離15cmにおける体積積算分布での90%粒子径が20μm未満である。このような範囲であれば、エアゾール原液が処理空間に噴射された際、速やかに拡散し、処理空間に浮遊することができる。そのため、処理空間を飛んでいる蚊類を浮遊性粒子Yの害虫防除成分によってノックダウン又は死滅させることができる。また、処理空間内に侵入しようとする蚊類に対しても効果を奏するため、処理空間内への侵入を抑制することも可能となる。浮遊性粒子Yの粒子径が20μm以上の場合は、付着性粒子Xとして機能する。このように、エアゾール原液のうち一部の粒子を浮遊性粒子Yとして粒子径を上記のような最適な範囲に調整することにより、付着性粒子Xとは異なった挙動を示すようになり、付着性粒子Xと共に効果的に蚊類をノックダウン

5 又は死滅させることができる。

【0049】上記のような付着性粒子X、及び浮遊性粒子Yは、図1(b)に示されるように、エアゾール原液を処理空間に1回噴射した直後において、付着性粒子Xは処理空間内の露出部に向かって素早く移動し、浮遊性粒子Yは処理空間全体に拡散し始める。1回噴射してから暫く経過すると、付着性粒子Xは露出部への付着が完了し、付着した状態を維持する。そして、上記のとおり、露出部に止まっている蚊類を害虫防除成分によってノックダウン又は死滅させる。一方、浮遊性粒子Yは、処理空間全体に満遍なく拡散が進行し、害虫防除成分が徐々に揮散してゆき、処理空間を飛んでいる蚊類をノックダウン又は死滅させる。また、処理空間内に侵入しようとする蚊類に対しては、侵入を防ぐことが可能である。万が一、処理空間内に侵入してきた場合であっても、処理空間内の露出部に当該蚊類が止まったり、露出部付近に近づいてきた場合、露出部に付着している付着性粒子Xの害虫防除成分によって、確実にノックダウン又は死滅させることができる。このように、本発明に係る蚊類防除用エアゾールは、噴射されたエアゾール原液から形成される粒子は、挙動の異なる2種類の粒子であるため、夫々の粒子が最適な状態で存在し、夫々の役割を分担して害虫防除効果を最大限発揮することができる。このため、付着性粒子X、及び浮遊性粒子Yによって、処理空間に存在する蚊類、及び処理空間内に侵入しようとする蚊類のどちらにも優れた防除効果を発揮し、ノックダウン又は死滅させることができる。【0050】また、処理空間に風が吹き込んできた場合、浮遊性粒子Yの一部が風に流されてしまったとしても、露出部に付着性粒子Xが留まっている。上記のとおり、処理空間にいる蚊類の大半は露出部に止まっている時間の方が長いため、付着性粒子Xが所望の効果を発揮することができれば、浮遊性粒子Yの量が減少しても、蚊類への防除効果が劣る心配はない。さらに、従来品のように、処理空間に噴射されるエアゾール原液により形成される粒

5 子のうち一部が浮遊性粒子Yとして形成される。このため、処理空間に拡散

しているエアゾール原液(浮遊性粒子Y)の濃度は、付着性粒子Xの分低減しているため、従来品と比較して処理空間の濃度は低いものとなる。従って、浮遊性粒子Yの吸入による人体やペットへの影響は低減され、安全な製品として提供することができる。【0052】<蚊類防除方法>本構成の蚊類防除方法は、上記の蚊類防除用エアゾールを用いて実行される。まず、害虫防除成分と有機溶剤とを含有するエアゾール原液、及び噴射剤を封入してなる定量噴射バルブが設けられた耐圧容器において、定量噴射バルブに接続される噴射口が設けられた噴射ボタンを1回押すと、エアゾール原液が噴射口から処理空間へ噴射される(噴射工程)。このとき、図1(b)に示されるように、エアゾール原液から付着性粒子X、及び浮遊性粒子Yが形成され、処理空間に噴射される。付着性粒子Xは処理空間内の露出部に付着し、浮遊性粒子Yは処理空間に浮遊する。付着性粒子Xは、処理空間内の壁面や床面、構造物等の表面に止まっている蚊類をノックダウン又は死滅させ、あるいは、これらの場所に止まろうとする蚊類に対しても効果を奏し、処理空間外へ追い出す。一方、浮遊性粒子Yは、処理空間を飛んでいる蚊類をノックダウン又は死滅させることができ、また、処理空間内に侵入しようとする蚊類に対しても効果を奏し、処理空間内への侵入を抑制する。上記のような付着性粒子X、及び浮遊性粒子Yの害虫防除効果は、33m 3 以下の空間に対して20時間以上の長時間に亘って持続する。所定の時間が経過した後は、再度、エアゾール原液を処理空間に噴射して、蚊類をノックダウン又は死滅させることができる。

⑹ 実施例

【0054】本発明の蚊類防除用エアゾールについて、蚊類防除効果を確認するため、本発明の特徴構成を備えた複数の蚊類防除用エアゾール(実施例1~10)を準備し、蚊類防除効果確認試験を実施した。また、比較のた

5 め、本発明の特徴構成を備えていない蚊類防除用エアゾール(比較例1~2)

を準備し、同様の蚊類防除効果確認試験を実施した。【0055】実施例1~10として表1に示すように、組成及び条件を各実施例に応じて蚊類防除用エアゾールを調製し、下記に示す試験を行った。比較例1~2についても、表1に示す組成及び条件にて蚊類防除用エアゾールを調製し、実施例と同様の試験を行った。試験結果を表2に示す。

(1)25m3 の部屋での蚊成虫に対する防除効果

閉めきった25m 3 の部屋の中央で蚊類防除用エアゾールを斜め上方に向けて1回噴射し、この直後、アカイエカ雌成虫50匹を放ち、2時間暴露させた後、全ての供試蚊を回収した。その間、時間経過に伴い落下仰転したアカイエカ雌成虫を数え、KT50 値を求めた。そして、同じ部屋で、蚊類防除用エアゾールを1回噴射してから10時間後、14時間後、及び20時間後について同様の操作を行った。

(2)浮遊性粒子の気中残存率

閉めきった25m 3 の部屋の中央に向けて蚊類防除用エアゾールを斜め上方に向けて1回噴射した。部屋の中央より50cm後方(壁面から130cm)、床上120cmの位置に空気捕集管(ガラス管にシリカゲルを充填し、両端を脱脂綿で詰めたもの)を設置し、真空ポンプに接続して噴射処理から2時間経過した後に所定量の空気を吸引した。空気捕集管をアセトンで洗浄し、捕集された害虫防除成分量をガスクロマトグラフィー(株式会社島津製作所製、型式GC1700)により分析した。得られた分析値に基づき、害虫防除成分の気中濃度を算出し、理論上の気中濃度に対する比率を気中残存率として求めた。【0056】【表1】【0057】【表2】【0058】表1、及び表2の結果から、害虫防除成分として、メトフル

5 トリン及び/又はトランスフルトリンを用いた場合(実施例1~7、9、1

0)、蚊類防除用エアゾールを1回噴射してから20時間後もKT 50 値は有意な数値に維持されており、優れた防除効果を示すことが分かった。トランスフルトリンに少量のプロフルトリンを添加したもの(実施例8)についても、防除効果は優れていた。また、害虫防除成分と組み合わせる有機溶剤としては、ミリスチン酸イソプロピルのような炭素数の総数が16~20の高級脂肪酸エステル、及びエタノールのような炭素数2~3程度の低級アルコールが効果的であることが分かった。一方、比較例1~2においては、蚊類防除用エアゾールを1回噴射してから10時間後の時点で、KT 50 値は実施例と比較して劣った数値となり、14時間経過後は、さらに劣った結果を示した。そして、20時間後は、何れの比較例もアカイエカ雌成虫に対する防除効果は略消滅していることが示された。【0059】次に、実施例1~10とは異なる蚊を対象として、本発明の蚊類防除用エアゾールについて、蚊類防除効果を確認する試験を行った。この試験を実施例11とする。実施例11では、害虫防除成分のメトフルトリンを有機溶剤のパルミチン酸イソプロピルに溶解して、メトフルトリン36.0重量%のエアゾール原液を調製した。このエアゾール原液4.0mLと、噴射剤として液化石油ガス16.0mLとを定量噴射バルブ付きエアゾール容器に加圧充填して、本発明の蚊類防除用エアゾールを得た。このエアゾール原液(a)と射剤剤(b)との容量比率(a/b)は、20/80となるように調整した。そして、上記の蚊類防除用エアゾールを略密閉した2.5mの天井高を有する6畳の部屋(約25m 3)で、やや斜め上方に向けてエアゾール原液を0.1mL噴射した。このときの蚊類防除用エアゾールの噴射距離20cmにおける噴射力(25℃)は1.4g・fであった。エアゾール原液によって形成された付着性粒子の25℃、噴射距離15cmにおける体積積算分布での9

5 0%粒子径は42μmであった。

【0060】実施例11の蚊類防除用エアゾールを噴射した直後、この部屋の中にユスリカを放虫したところ、ユスリカは直ちにノックダウン又は死滅した。また、害虫防除成分(メトフルトリン)の気中残存率を実施例1~10と同様の手法により求めたところ、0.93%であった。【0061】実施例1~11の試験結果から、本発明の蚊類防除用エアゾール、及びこれを用いた蚊類防除方法によれば、少なくとも25m 3 の空間(約6畳相当)に対して20時間を越える長時間に亘り蚊類に対して優れた防除効果を奏することが明らかとなった。…

2 争点2-1(明確性要件違反(本件発明))について

本件の事案にかんがみ、争点2-1について判断する。

⑴ 特許法36条6項2号の趣旨は、特許請求の範囲に記載された発明が明確

でない場合に、特許の付与された発明の技術的範囲が不明確となることにより生じ得る第三者の不測の不利益を防止することにある。そこで、特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載のみならず、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。

⑵ 本件発明は、「前記エアゾール原液は、前記噴射口から、少なくとも一部

が処理空間内における蚊類が止まる露出部に付着する付着性粒子として噴射される」構成(構成要件1F)を発明特定事項とするところ、原告は、「付着性粒子」が、処理空間内にエアゾール原液が噴射されて形成された薬剤粒子であって、処理空間内の露出部に付着し、時間が経過しても付着した状態を維持し、露出部に止まる蚊を駆除・防除する粒子であって、また、粒子に含まれる害虫防除成分の一部が、時間の経過とともに、揮散することがあるが、処理空間内(壁面等を含まない。)で防除効果を発揮するほどに揮散す

5 ることはないものであることを意味することを前提に、「付着性粒子」は、

噴射後の挙動によって他の粒子と区別することができるから、その意義は明確であると主張する。ア そこで検討するに、特許請求の範囲の「害虫防除成分と有機溶剤とを含有するエアゾール原液」(構成要件1A)及び「前記エアゾール原液は、前記噴射口から、少なくとも一部が処理空間内における蚊類が止まる露出部に付着する付着性粒子として噴射される」(構成要件1F)との記載によれば、「付着性粒子」について、エアゾール原液が噴射されて形成された薬剤粒子であり、処理空間内における蚊類が止まる露出部に付着することが理解できるが、「付着性」の意義については、特許請求の範囲の記載からは明らかではない。本件明細書には、「付着性粒子」について、①「処理空間に噴射されたエアゾール原液の少なくとも一部が、処理空間内の露出部(例えば、処理空間内に存在する床面や壁面、家具等の構造物の表面等)に付着する付着性粒子として形成されるものとした。」(【0013】)、②「エアゾール原液が処理空間に噴射された際、速やかに処理空間内の露出部に移動し、付着することができる。そのため、露出部に止まっている蚊類を付着性粒子Xの害虫防除成分によってノックダウン又は死滅させることができる。また、処理空間内に侵入し、露出部に止まろうとしている蚊類に対しても害虫防除効果を奏するため、処理空間外へ追い出すことも可能となる。」(【0046】)、③「付着性粒子Xは処理空間内の露出部に向かって素早く移動し、…1回噴射してから暫く経過すると、付着性粒子Ⅹは露出部への付着が完了し、付着した状態を維持する。」(【0049】)、④「処理空間に風が吹き込んできた場合、浮遊性粒子Yの一部が風に流されてしまったとしても、露出部に付着性粒子Xが留まっている。」(【0050】))との記載があり、これらの記載及び上記特許請求の範囲の記載によれば、

5 「付着性粒子」とは、処理空間内にエアゾール原液が噴射されて形成され

た薬剤粒子であって、処理空間内の露出部(例えば、処理空間内に存在する床面や壁面、家具等の構造物の表面等)に付着し、時間が経過しても付着した状態を維持し、露出部に止まる蚊を駆除・防除する粒子であると解することができる。なお、原告が「付着性粒子」の意義として主張する、「粒子に含まれる害虫防除成分の一部が、時間の経過とともに揮散することがあるが、処理空間内(壁面等を含まない。)で防除効果を発揮するほどに揮散することはないものである」との点を本件明細書から読み取ることはできない。イ もっとも、「時間が経過しても付着した状態を維持し、露出部に止まる蚊を駆除・防除する粒子」というためには、単に露出部に付着しただけでは足りないから、「時間が経過しても付着した状態を維持」といえるための付着の程度が明らかである必要がある。(ア) 本件明細書には、「付着性粒子」の好ましい付着量(「処理空間内の露出部に1m 2 当たり0.01~0.4mg」(【0016】、【0047】)の記載があるが、付着量を確認する試験方法、測定方法等については何ら記載されておらず、特定の試験方法、測定方法等が本件優先日当時の技術常識であったこともうかがわれないから、上記の記載により、「時間が経過しても付着した状態を維持」といえるための付着の程度を具体的に認識することはできない。(イ) 次に、本件明細書には、実施例及び比較例として、①噴射2時間後に捕集した空気中の害虫防除成分の気中濃度を分析して算出した気中残存率についての試験(【0055】(2)、【0056】【表1】)及び②噴射直後、10時間後、14時間後及び20時間後の各時点について、蚊を放逐して50%がノックダウンされるまでの時間(KT 50 値)を測定する防除効果の試験(【0055】(1)、【0057】【表2】〔判決

5 注:表中に「2時間後」とあるのは「噴射直後」を意味するものと解さ

れる。〕)が記載されている。そこで、上記の①及び②の試験が、「時間が経過しても付着した状態を維持」といえるための付着の程度を示すものかを検討する。本件明細書には、空気中に噴射された薬剤粒子が露出部に付着した後に再び揮散し、蚊類を駆除する従来技術が記載され(【0010】)、これによれば、薬剤粒子が露出部に付着した後に害虫防除成分が揮散して防除効果を発揮し得ることが本件優先日当時の技術常識であったことが認められる。そうすると、上記②の試験のように、放逐した蚊のKT 5

0 値により防除効果を評価するに当たっては、露出部に付着した後に揮

散した害虫防除成分の影響を考慮する必要がある。この点、上記①の試験は薬剤粒子の付着を直接示すものではない上、仮に、害虫防除成分の気中濃度と薬剤粒子の付着に何らかの関連があるとしても、2時間後の気中残存率と、露出部に付着した後に揮散した害虫防除成分の影響との関係や10時間後以降の防除効果との関係は不明であり、さらに、比較例の気中残存率が実施例の気中残存率の数値範囲に含まれていることの意味合いも不明である。そうすると、結局、上記①及び②の試験からは、10時間後以降のKT 50 値(上記②の試験)が、露出部に付着した薬剤粒子が露出部に止まっている蚊を防除したことによるものか、露出部に付着した薬剤粒子に含まれる害虫防除成分が揮散して空中の蚊を防除したことによるものかが不明であって、上記①及び②の試験が、薬剤粒子が、時間が経過しても付着した状態を維持し、露出部に止まる蚊を防除したことを示すものであるということはできない。そうすると、上記の実施例が、「時間が経過しても付着した状態を維持し、露出部に止まる蚊を駆除・防除する粒子」の実施例であるとは認められず、上記の①及び②の試験は、「時間が経過しても付着した状態

5 を維持」といえるための付着の程度を示すものとはいえない。

(ウ) その他、本件明細書に、「時間が経過しても付着した状態を維持」といえるための付着の程度についての具体的な記載はなく、これを確認する試験方法、測定方法等についての記載も見当たらないから、本件明細書の記載をもって、本件発明が規定する「付着性粒子」の意味内容を理解することはできない。ウ なお、原告は、争点2-3(サポート要件(本件発明))に関して、本件明細書の実施例の記載(前記イ(イ))について、噴射2時間後の気中残存率が2.9%以下であり、これは「付着性粒子」が壁面等に付着したことを示すものであり、「付着性粒子」が壁面等に付着することによって20時間も防除効果が持続することを確認したものであると主張する。しかしながら、実施例が、薬剤粒子が、時間が経過しても付着した状態を維持し、露出部に止まっている蚊を防除したことを示すものであるということができないのは前記イに説示したとおりである。

⑶ 以上によれば、本件明細書の記載や本件優先日の技術常識を基礎として、

「少なくとも一部が処理空間内における蚊類が止まる露出部に付着する付着性粒子として噴射され」(構成要件1F)について、当業者が理解することはできないから、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるというべきである。

⑷ したがって、本件発明は、明確性要件を充足せず、本件発明に係る特許は

特許無効審判により無効にされるべきものと認められるから、原告は、被告に対し、本件特許権の権利を行使することができない。

第4 結論

以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がないから、これらを棄却することとして、主文のとおり判決する。

5 東京地方裁判所民事第46部

裁判長裁判官 髙 橋 彩裁判官 西 山 芳 樹裁判官 瀧 澤 惟 子(別紙)物件目録下記商品名及び販売名(括弧内の記載)の蚊類防除用エアゾール

5 記

1 「おすだけノーマット スプレータイプ120日分」(アース殺虫エアゾー

ルFJ1)

2 「おすだけノーマット スプレータイプ200日分」(アース殺虫エアゾー

ルFJ1)

3 「おすだけノーマット スプレータイプ200日分2本入」(アース殺虫エ

アゾールFJ1)

4 「おすだけノーマット スプレータイプ バラの香り 200日分」(アー

ス殺虫エアゾールFJ1(b))

5 「おすだけノーマット スプレータイプ BOTANICAL 200日

分」(アース殺虫エアゾールFJ1(g))

6 「おすだけノーマット スプレータイプ300日分」(アース殺虫エアゾー

ルFJ1)

7 「おすだけノーマットロング スプレータイプ200日分」(アース殺虫エ

アゾールFJ3)

8 「おすだけノーマットロング スプレータイプ300日分」(アース殺虫エ

アゾールFJ3)

9 「おすだけノーマット 200日分セット」(アース殺虫エアゾールFJ

1)以上(別紙)本件図面目録【表1】【表2】【図1】以上

最新の判決一覧に戻る

法域

特許裁判例 実用新案裁判例
意匠裁判例 商標裁判例
不正競争裁判例 著作権裁判例

最高裁判例

特許判例 実用新案判例
意匠判例 商標判例
不正競争判例 著作権判例

今週の知財セミナー (10月19日~10月25日)

10月19日(月) - オンライン

共同研究開発における契約実務と留意点

10月20日(火) - オンライン

数値限定と「除くクレーム」の特許戦略

来週の知財セミナー (10月26日~11月1日)

10月29日(木) - オンライン

第68回東北大学知財セミナー

特許事務所紹介 IP Force 特許事務所紹介

なむら特許技術士事務所

茨城県龍ヶ崎市長山6-11-11 特許・実用新案 意匠 商標 外国特許 訴訟 鑑定 コンサルティング 

特許業務法人 IPX

東京都港区北青山2丁目7番20号 第二猪瀬ビル3F 特許・実用新案 意匠 商標 外国特許 外国意匠 外国商標 訴訟 鑑定 コンサルティング 

デライブ知的財産事務所

〒210-0024 神奈川県川崎市川崎区日進町3-4 unicoA 303 特許・実用新案 意匠 商標 外国特許 外国意匠 外国商標 訴訟 鑑定 コンサルティング