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令和6(ワ)2606特許権侵害差止等請求事件

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裁判所 請求棄却 大阪地方裁判所
裁判年月日 令和8年2月9日
事件種別 民事
当事者 原告
被告株式会社千石 日本エー・アイ・シー株式会社
法令 特許権
特許法70条1回
特許法36条6項2号1回
特許法36条6項1号1回
特許法17条の21回
特許法102条3項1回
特許法100条1項1回
キーワード 特許権24回
無効18回
実施14回
侵害14回
進歩性10回
差止3回
訂正審判1回
損害賠償1回
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 1 本判決で用いる略称 (1) 被告製品:別紙被告製品目録記載の製品 (2) 本件特許1(本件特許権1) :特許第6376369号(に係る特許権) (3) 本件特許2(本件特許権2) :特許第6593723号(に係る特許権) (4) 本件明細書1:本件特許1に係る公報の明細書又は図面 (5) 本件明細書2:本件特許2に係る公報の明細書又は図面 (6) 本件発明1:後記訂正後の本件特許1の請求項1及び2に係る発明の総称 (なお、各請求項1に係る発明は「本件発明1-1」 、請求項2に係る発明は 「本件発明1-2」 ) (7) 本件発明2:本件特許2の請求項1に係る発明 (8) 乙17文献

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判決文

令和8年2月9日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
令和6年(ワ)第2606号 特許権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日 令和7年11月10日
判 決
原告 A
被告 株式会社千石
代表者代表取締役
被告 日本エー・アイ・シー株式会社
代表者代表取締役
被告ら訴訟代理人弁護士 平野 惠稔
同 古庄 俊哉
15 同 手代木 啓
同 細野 真史
被告ら訴訟代理人弁理士 河野 英仁
同 新井 景親
同 安田 恵
20 主 文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
25 1 被告らは、別紙被告製品目録記載の製品を輸入し、製造し、販売し、又は販売
の申出をしてはならない。
2 被告らは、前項の製品及び同製品の製造に供する金型を廃棄せよ。
3 被告らは、原告に対し、連帯して3000万円及びこれに対する令和6年2月
29日から支払い済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
5 1 本判決で用いる略称
(1) 被告製品:別紙被告製品目録記載の製品
(2) 本件特許1(本件特許権1):特許第6376369号(に係る特許権)
(3) 本件特許2(本件特許権2):特許第6593723号(に係る特許権)
(4) 本件明細書1:本件特許1に係る公報の明細書又は図面
10 (5) 本件明細書2:本件特許2に係る公報の明細書又は図面
(6) 本件発明1:後記訂正後の本件特許1の請求項1及び2に係る発明の総称
(なお、各請求項1に係る発明は「本件発明1-1」、請求項2に係る発明は
「本件発明1-2」)
(7) 本件発明2:本件特許2の請求項1に係る発明
15 (8) 乙17文献:米国特許出願公開2017/0079465号明細書(乙17。
乙17文献記載の発明は「乙17発明」)
(9) 本件意見書:平成30年4月28日付け意見書(甲8)
(10)第1要件(等)
:最高裁平成6年(オ)第1083号同10年2月24日第三
小法廷判決・民集52巻1号113頁において判示された、均等侵害が成立す
20 るための各要件(第1要件:非本質的部分、第2要件:置換可能性、第3要件:
置換容易性、第4要件:容易推考性、第5要件:意識的除外)
2 原告の請求(訴訟物)
被告製品の譲渡等が本件特許権1及び本件特許権2の侵害であることを理由
とする、原告の被告に対する、①特許法100条1項に基づく被告製品の譲渡等
25 の差止請求権、②同条2項に基づく被告製品及びその金型の廃棄請求権、③民法
709条に基づく損害賠償請求権(明示的一部請求)
3 前提事実(争いのない事実及び後掲証拠(枝番の明示のないものは枝番を含む)
により容易に認定できる事実)
(1) 当事者等(以降、被告らの「株式会社」は省略する。)
ア 原告は、複数の企業において、家庭用電気機器の開発や設計等を行ってい
5 た者である。
イ 被告千石は、家庭用電気製品及び金属プレス製品の製造等を目的とする株
式会社である。
ウ 被告エー・アイ・シーは、家庭用日用品雑貨の製造、販売並びに輸出入等
を目的とする株式会社であり、被告千石の子会社であって、被告千石の製造
10 等に係る製品の販売を行っている。
(2) 本件特許権1及び本件特許権2(甲1の1・2、甲2の1・2)
原告は、本件特許権1及び本件特許権2を保有しているところ、本件特許1
及び本件特許2の書誌的事項は、次のとおりである。
ア 本件特許1
15 出願番号:特願2017-219503
出願日:平成29年10月26日
登録日:平成30年8月3日
発明の名称:電気コーヒーメーカー
イ 本件特許2
20 出願番号:特願2018-147202
出願日:平成30年7月18日
登録日:令和元年9月2日
発明の名称:電気コーヒーメーカー
(3) 本件特許権1の訂正(甲1の3)
25 本件特許権1について、令和5年5月1日、訂正前の特許請求の範囲請求項
1に記載された「コーヒーを淹れる方法であって、」を「コーヒーを淹れるコー
ヒーメーカーであって」に訂正することを内容とする訂正審判が請求され(訂
正2023-390052)、同年9月25日、これを認める審判がされ、同審
判は確定した。
(4) 構成要件の分説(本件発明1-1)
5 本件発明1-1の構成要件は、次のとおり分説される。
A-1 水タンクとボイラーの間に配置した電動ポンプと、湯を容易に自然落
下させるために上位から下位へ鉛直的に前記ボイラーとドリッパーとコー
ヒーカップを配置し、
B-1 ボイラーと前記ドリッパーの間に配置した電磁弁Aと、ボイラーと前
10 記コーヒーカップの間に配置した電磁弁Bを有した構成であって、
C-1 前記電動ポンプの作動時間を制御することによって淹れたいコーヒ
ーの分量だけの水量をボイラーへ給水して保持することができるものであ
って、
D-1 ボイラーで沸かした湯はスチームが発生する前に湯温度が90~1
15 00℃に達したときにヒータをOFFしてスチーム圧力を発生させない、
E-1 次に蒸らしを行うために最初に前記電磁弁Aを開いて「開」時間を制
御することによって給湯口Aからドリッパーへ蒸らしに必要な湯量を給湯
したあと電磁弁Aを閉じて蒸らし行程に入る、
F-1 蒸らし時間が終了したとき電磁弁Aは再び開いてドリッパーへ給湯
20 してコーヒーをコーヒーカップにドリップする、
G-1 このときドリップする分量は電磁弁Aの「開」時間を制御して淹れた
いコーヒー分量の30~70%になったとき閉じて濃いコーヒーを淹れる、
H-1 次に前記電磁弁Bを開いて「開」時間を制御することによってボイラ
ーの湯を給湯口Bから直接コーヒーカップに給湯して淹れたい分量のコー
25 ヒーを淹れるコーヒーメーカーであって、
I-1 以上のコーヒー淹れ方行程が完了したときボイラーに残湯が残って
いないことを特徴とする、
J-1 このようなコーヒーの淹れ方行程を制御する制御回路を備えたドリ
ップ式電気コーヒーメーカー。
(5) 構成要件の分説(本件発明1-2)
5 本件発明1-2の構成要件は、次のとおり分説される。
K-1 操作スイッチの一つであるエスプレッソスイッチを設けて、エスプレ
ッソスイッチをONにしたとき給湯口Bからコーヒーカップへ給湯しない
濃いコーヒーの淹れ方を選択できる請求項1記載のドリップ式電気コーヒ
ーメーカー。
10 (6) 構成要件の分説(本件発明2)
本件発明2の構成要件は、次のとおり分説される。
A-2 水タンクとボイラーの間に配置した電動ポンプと、湯を容易に自然落
下させるために上位から下位へ鉛直的にボイラーとドリッパーとコーヒー
カップを配置し、
15 B-2 ボイラーとドリッパーの間に配置した電磁弁Aと、ボイラーとコーヒ
ーカップの間に配置した電磁弁Bを有して、
C-2 電動ポンプの作動時間を制御することによって淹れたいコーヒー分
量に必要な水量をボイラーに給水して保持して湯沸かしすることができる、
D-2 次に沸かした湯は最初に蒸らしを行うために電磁弁Aを開いて「開」
20 時間を制御することによって給湯口Aからドリッパーへ蒸らしに必要な湯
量を給湯したあと電磁弁Aを閉じて蒸らし行程に入る、
E-2 次に蒸らし時間が終了したとき電磁弁Aは再び開いてドリッパーへ
給湯してコーヒーをコーヒーカップにドリップする、
F-2 このとき電磁弁Aの「開」時間を制御してドリップする分量が淹れた
25 いコーヒー分量の30~70%になったとき閉じて濃いコーヒーを淹れる、
G-2 次に電磁弁Bを開いて「開」時間を制御することによってボイラーの
湯を給湯口Bから直接コーヒーカップに給湯して淹れたい分量のコーヒー
を淹れることができるものに於いて、
H-2 ボイラーはヒータを内蔵してボイラー容器の中空に吊り下げ、ボイラ
ー容器の底面に給湯孔Aと給湯孔Bを設ける、
5 I-2 ボイラーの容積は1コーヒーカップの淹れたいコーヒー分量に必要
な容積として、コーヒーの淹れ方行程が完了したとき残湯が残らないように
する、
J-2 またボイラーへ給水するときや湯沸かしするときにボイラー内に圧
力が発生しないようにボイラー容器の上部に通気のための排気孔を設ける、
10 K-2 また排気孔はボイラーの湯が自然落下によって給湯されるときに吸
気してボイラー内が負圧になることを防止する、
L-2 さらに排気孔は排気管に連接されて器体の外郭に設けた排気口に導
かれる構成を特徴とする、
M-2 家庭用のドリップ式の電気コーヒーメーカー。
15 (7) 被告製品の販売等(甲3、4)
ア 被告らは、令和5年3月24日から、公式ウェブサイトや百貨店等におい
て、被告製品を業として、輸入し、製造し、販売し、販売の申出を開始した。
イ 被告製品は、構成要件C-1、D-1、I-1、K-1、C-2、H-2、
I-2、J-2及びL-2を除く構成要件を充足する。
20 (8) 被告製品の構成
被告製品の構成に関する当事者の主張は、別紙「被告製品の構成」記載の「原
告の主張」欄及び「被告の主張」欄のとおりである。
(構成について原告と被告
らが認識を異にする点は、いずれも当該構成を備えるかどうかとの後記の各争
点に収れんされ、構成それ自体を争点とすることが必要な点は見当たらない。)
25 (9) 共同開発の解消及び原告の警告
ア 原告は、令和2年10月19日、被告千石に対し、コーヒーメーカーの共
同開発、製造及び販売を行うことを提案し、試作品を提供の上、令和3年1
月6日、被告千石との間で、共同開発に関する覚書(令和2年12月21日
付け)を締結した。令和3年8月中旬に共同で制作した試作品が完成した(甲
11ないし13)。
5 その後、製造を担当する中国企業への対価について問題が生じ、原告は、
上記提案を取下げ、令和4年2月21日、被告千石との間で共同開発継続の
ための最後の交渉を行ったが、共同開発は終了した。被告千石は、原告に対
し、共同開発期間中の顧問料として合計67万6500円(月額5万500
0円)を支払った。
10 イ 原告は、令和5年10月19日付け通知書により、被告らに対し、被告製
品の製造及び販売等が本件特許権1及び本件特許権2の侵害であるとして、
被告製品の製造販売等の差止め等を求めたが、被告らは、特許権侵害はない
旨を回答した(甲16ないし22)。
4 争点
15 (1) 被告製品が本件発明1の技術的範囲に属するか(争点1)
ア 構成要件C-1を充足するか(争点1-1)
イ 構成要件D-1を充足するか(争点1-2)
ウ 構成要件I-1を充足するか(争点1-3)
エ 構成要件D-1記載の構成と均等な構成を備えるか(争点1-4)
20 (2) 被告製品が本件発明2の技術的範囲に属するか(争点2)
ア 構成要件C-2を充足するか(争点2-1)
イ 構成要件H-2を充足するか(争点2―2)
ウ 構成要件I-2を充足するか(争点2-3)
エ 構成要件J-2を充足するか(争点2-4)
25 オ 構成要件L-2を充足するか(争点2-5)
カ 構成要件H-2記載の構成と均等な構成を備えるか(争点2-6)
(3) 本件特許1に次の無効理由があるか(争点3)
ア サポート要件違反(争点3-1)
イ 明確性要件違反(争点3-2)
ウ 補正要件違反(争点3-3)
5 エ 乙17発明を主引例とする進歩性欠如(争点3-4)
(4) 本件特許2に乙17発明を主引例とする進歩性欠如の無効理由があるか(争
点4)
(5) 損害の有無及び額(争点5)
第3 争点に関する当事者の主張
10 1 争点1-1(被告製品が本件発明1の構成要件C-1を充足するか)について
【原告の主張】
(1) 意義
ア 「淹れたいコーヒーの分量だけの水量」
本件明細書1(【0014】
【0022】)には、コーヒー粉を蒸らすことが
15 明記されており、構成要件E-1にも蒸らし工程に入ることが明示されてお
り、蒸らし等によりコーヒー粉やペーパーフィルターに湯が吸収されること
は技術常識である。また、本件明細書1の記載よって、
「淹れたいコーヒーの
分量だけの水量」とは、最終的にコーヒーカップに淹れたいコーヒーの分量
に対応する水量、すなわち、コーヒー粉やフィルター等に吸収される水量も
20 加味した水量を意味する。
イ 「給水」
本件明細書1には、給水回数を1回に限定する記載はない(実施例(【00
20】
【0021】)の記載をもって、限定解釈すべきではない。)。また、美
味しいコーヒーを淹れることを目的として給湯量や給湯時間を制御すると
25 ともに、コーヒードリップ用の給湯口と湯だけをコーヒーカップに注ぎ足す
ことができる給湯口の二つを設けることとした(本件明細書1【0008】
【0009】)との本件発明1の解決課題に照らしても、ボイラーへの給水
回数を限定解釈すべき理由はない。
ウ 「保持することができるもの」
「保持」とは、
「たもちつづけること」を意味する。給水した水をボイラー
5 に保持しなければ、構成要件D-1で規定するボイラーにより湯を沸かすこ
とは不可能であるが、このような保持は複数回に分けて保持される場合も含
まれる。
(2) 被告製品の充足性
被告製品では、電動ポンプの作動時間を制御することによって、2回又は3
10 回に分けて淹れたいコーヒーの分量だけの水量をボイラーへ給水して保持し
ているから、構成要件C-1を充足する。
【被告らの主張】
(1) 意義
ア 「淹れたいコーヒーの分量だけ」
15 構成要件C-1の記載は、ボイラーへ給水され保持される水の量は、「淹
れたいコーヒーの分量だけ」であるところ、
「だけ」とは、
「①それと限る意。
のみ。②及ぶ限度・限界を示す。」を意味する。ボイラーへ給水され保持され
る水の量について、あえて「淹れたいコーヒーの分量だけ」と記載している
ことを勘案すると、その場合の水の量は、淹れたいコーヒーの分量に限られ
20 ると解すべきである。また、本件明細書1の実施例(【0020】
【0021】)
には、淹れたい量のコーヒーと同量の水をボイラー内でたもちつづけること
を前提にして、湯沸かし行程が実施されると理解できる。
イ 「給水」
本件発明1の特許請求の範囲に記載されたボイラーへの水の給水・保持行
25 程は構成要件C-1の1回のみであり、この構成要件C-1の行程において、
「淹れたいコーヒーの分量だけ」の水がボイラーに給水され保持されるので
あるから、構成要件C-1にて特定された「給水」以外でボイラーに給水さ
れることは想定されていない。この点、本件明細書1の実施例(【0020】)
では、給水回数が1回であることが開示されている。よって、構成要件C-
1の「給水」は1回で行われることを意味する。
5 ウ 「保持」
「保持」とは、一般的に、
「たもちつづけること」という意味を有するから、
構成要件C-1の「保持することができる」とは、ボイラーが、コーヒーの
分量と同量の水をたもちつづけることができる構成を意味する。
(2) 被告製品の充足性
10 前記の構成要件の文言の意義からすると、構成要件C-1の「淹れたいコー
ヒーの分量だけの水量をボイラーへ給水して保持することができる」とは、淹
れたいコーヒーの分量と同量の水の全量を1回でボイラーに給水してたもち
つづけることを意味する。
被告製品では、コーヒーの淹れ方行程が完了するまでに、コールドスタート
15 の場合は2回、ホットスタートの場合は3回に分けてボイラーへの給水がなさ
れる。それぞれの給水時に給水される水の量は、使用者によるテイストダイヤ
ル(クリア、マイルド、ストロング又はデミタス)の選択、カップサイズ(レ
ギュラーカップ又はマグカップ)の選択、及びコールドスタートかホットスタ
ートかの組み合わせにより異なるが、いずれの給水時においても、給水量は、
20 淹れたいコーヒーの分量と同量ではないから、被告製品は、淹れたいコーヒー
の分量と同量の水の全量をボイラーに1回で給水する構成ではない。また、被
告製品では、複数回に分けてボイラーに給水がなされ、ボイラーが淹れたいコ
ーヒーの分量と同量の水をたもちつづけることもない。
よって、被告製品は、構成要件C-1を充足しない。
25 仮に、構成要件C-1の「淹れたいコーヒーの分量だけの水量」が「コーヒ
ー粉やフィルター等に吸収される水量も加味した水量」を意味するとの原告の
クレーム解釈を前提としても、被告製品では、ボイラーに給水される量は「コ
ーヒー粉やフィルター等に吸収される水量」のほか、
「スチーム」として排出さ
れる水量(2ml)も加味されているから、
「コーヒー粉やフィルター等に吸収
される水量も加味した水量」をボイラーに給水して保持する構成とはなってお
5 らず、構成要件C-1を充足しない。
2 争点1-2(被告製品が本件発明1の構成要件D-1を充足するか)について
【原告の主張】
(1) 意義
ア 「湯温度が90~100℃に達したときにヒータをOFFして」
10 水は、1気圧(1013.25hPa)下では、100℃で沸騰するため、
100℃を超える温度になることはあり得ないことは、技術常識である。水
の沸点は1気圧(1013.25hPa)下では100℃であることから、
構成要件D-1は、「水を沸騰させることにより蒸気が発生する前にヒータ
をOFFして、コーヒーを抽出するための蒸気による圧力を発生させない」
15 との意義を有するものである。
イ 「スチーム圧力を発生させない」の意義
原告は、本件意見書において、
「(注:拒絶理由通知書記載の)引用文献1
はスチーム圧力が必要なエスプレッソマシンであって…本願発明はドリッ
プ式コーヒーメーカーに係る発明であるが、湯を沸騰させてスチーム圧力を
20 発生させることはないのでボイラーに通気のための小孔を設けることがで
きる…湯温度が90~100℃に達したときにヒータをOFFするのでス
チーム圧力を利用していないことは明白である。」と主張し、構成要件D-
1について、スチーム圧力を利用して抽出を行うエスプレッソメーカーと、
本件発明1に係るドリップ式電気コーヒーメーカーとの相違を意味するこ
25 とを主張した。そうすると、構成要件D-1の「スチーム圧力を発生させな
い」とは、エスプレッソマシンではないことを明確化したものである以上の
意義はない。
(2) 被告製品の充足性
上記のとおり、湯温度は1気圧(1013.25hPa)を超えなければ1
00℃を超えることはないから、被告製品は90~100℃の湯温度が一定時
5 間持続した後、ヒータをOFFとしていることは自明であり、原告の実験結果
(甲45、46)からも明らかである。仮に、湯温度が100.7℃にならな
ければヒータをOFFしないのであれば、気圧が1039.06hPaになる
必要があるが、そのような気圧になることはない。
そして、被告製品もスチーム圧力を利用せず、ドリップによりコーヒーを抽
10 出している以上、被告製品の構成d-1は、本件発明1の構成要件D-1を充
足する。なお、被告製品は、ドリップ前(電磁弁Aを開く前)に、スチームを
ドリッパーに当てているが、当該構成は本件発明1との関係では単なる付加に
すぎない上、上記のとおり、
「スチーム圧力」はエスプレッソマシンとの対比に
おいて本件発明1がドリップ式コーヒーメーカーであることを強調するため
15 の意義を有するにすぎないから、構成要件D-1充足性を否定するものではな
い。
【被告らの主張】
(1) 意義
「スチーム」とは、一般的に、
「蒸気。湯気。」を意味するところ、
「スチーム」
20 に関する構成要件D-1の記載によれば、
「スチーム」は、
「湯温度が90~1
00℃に達したときにヒータをOFFし」たときには発生していないもの、逆
にいえば、湯温度が100℃を超えた場合に発生するものが「スチーム」であ
ると解される。したがって、
「スチーム」とは、ボイラーで沸かした湯の湯温度
が100℃を超えた場合に発生する蒸気又はこれが空気中で冷やされて液体
25 となった湯気を意味するものと解される。
また、「スチーム圧力」とは造語であって一般的な意味を有するものではな
く、また、特許請求の範囲及び本件明細書1には「スチーム圧力」に関する記
載はない。一方で、
「スチーム」は、ボイラーで沸かした湯の湯温度が100℃
を超えた際に発生する蒸気又はこれが空気中で冷やされて液体となった湯気
を意味するところ、構成要件D-1の記載によれば、「スチームが発生してい
5 ること」、
「湯温度が100℃を超えること」との「スチーム圧力」の発生条件
とは、ボイラーで沸かした湯の湯温度が100℃を超えた場合に発生する蒸気
又はこれが空気中で冷やされて液体となった湯気が発生していることにある
と解される。すなわち、
「スチーム圧力」とは、上記発生条件を有する構成であ
ると特定される。
10 (2) 被告製品の充足性
被告製品のボイラー内の気圧は加熱時に1気圧を超え、同ボイラー内の湯は
沸騰して100℃を超えたあと(被告の実験結果〔乙34〕によれば、100.
7℃)にヒータがOFFになる。なお、被告製品はサーミスタが97℃を計測
した時点でヒータをOFFにする設計であるが、サーミスタの検知温度は検知
15 時点の「湯」の温度を示していないため、当該設計が構成要件D-1充足性と
の関係で意義を有しない上、理論値(計算値)
、実測値及び設計思想のいずれの
側面からみても被告製品のヒータがOFFとなる時点でボイラー内の湯の温
度は100℃を超えスチームが発生することが明らかである。
また、被告製品では、ボイラーで沸かした湯の湯温度が100℃を超えた際
20 に発生する蒸気又はこれが空気中で冷やされて液体となった湯気が発生して
いるため、構成要件D-1にいう「スチーム圧力」なるものの発生条件を満た
している。
よって、被告製品は、構成要件D-1の「ボイラーで沸かした湯はスチーム
が発生する前に湯温度が90~100℃に達したときにヒータをOFFして
25 スチーム圧力を発生させない」を充足しない。
3 争点1-3(被告製品が本件発明1の構成要件I-1を充足するか)について
【原告の主張】
(1) 「ボイラーに残湯が残っていない」の意義
構成要件I-1の「ボイラーに残湯が残っていない」とは、構成要件C-1
の「淹れたいコーヒーの分量だけの水量をボイラーへ給水」した水量を全量使
5 いきるとの意義であり、一切の湯が存在しないこと(0mLであること)を意
味するものではない。そもそも、水には表面張力が存在することから、吸引す
る力(バキューム力)等を働かさなければ、ボイラー内の残湯をゼロとするこ
とは不可能であるから、構成要件I-1の「残湯」には、意図せず構造上不可
避的に生じる残湯は含まれない。
10 (2) 被告製品の充足性
被告製品は、コーヒーの抽出後にボイラーに微量の湯(約9mL。甲30)
が残るが、ボイラー内の残湯は、コーヒー抽出時に不可避的に発生する表面張
力によって不可避的に残るものであり、淹れたいコーヒーの分量だけの水量を
ボイラーへ給水した水量を全量使いきっているから、構成要件I-1の「残湯」
15 は残っていない。
よって、被告製品は、構成要件I-1を充足する。
【被告らの主張】
(1) 意義
構成要件I-1の「コーヒー淹れ方行程が完了したときボイラーに残湯が残
20 っていない」とは、字義どおり、コーヒーの淹れ方行程が完了した時点で、ボ
イラー内には湯が残っていないとの構成を意味すると解される。
(2) 被告製品の充足性
被告製品は、コーヒーの淹れ方行程が完了したときにボイラー内に約9ml
の水が残る。したがって、被告製品は、構成要件I-1の「コーヒー淹れ方行
25 程が完了したときボイラーに残湯が残っていない」を充足しない。
4 争点1-4(被告製品が本件発明1の構成要件D-1記載の構成と均等な構成
を備えるか)について
【原告の主張】
被告製品が、構成要件D-1の「湯温度が90~100℃に達したときにヒー
タをOFFして」との構成を充足しないとしても、被告製品は構成要件D-1の
5 構成に関し、均等侵害の要件を満たす。
(1) 第1要件
本件明細書1の記載(【0001】ないし【0016】)によれば、本件発明
1の本質的部分は、従来の電気コーヒーメーカーは蒸らし時間を十分にとらず、
また、ドリップ後半の美味しくない部分(雑味)までドリップするコーヒーに
10 なっていたとの課題(【0006】
【0007】)を解決することを目的として、
コーヒードリップ最後の美味しくない雑味(【0005】)を除去することを目
的として、2つの電磁弁を設け、電磁弁の開閉時間を制御することにより蒸ら
し時間を十分設けるとともに(【0011】ないし【0014】)、コーヒーのド
リップ量を30~70%に設定するとともに、不足分の湯量(70~30%)
15 を直接カップに注ぐ構成を採用した点にある(【0009】
【0015】
【001
6】)。
そして、上記のとおり、構成要件D-1は、コーヒーの抽出にスチーム圧力
を利用しないドリップ式コーヒーメーカーに係る発明であることを明確化す
るためのものであることから、コーヒーの抽出にスチーム圧力を用いなければ
20 足り、湯温度が100℃以下でヒータをOFFにするか否かは、本件発明の本
質的部分ではない。
よって、第1要件を充足する。
(2) 第2要件
被告製品は、本件発明1と同様に、コーヒーの抽出にスチーム圧力を用いな
25 いドリップ式コーヒーメーカーであり、かつ、コーヒー抽出時の湯温は10
0℃以下であること、電磁弁の開閉時間を制御することにより蒸らし時間を十
分設け、コーヒーのドリップ量を30~70%に設定するとともに、不足分の
湯量(70~30%)を直接カップに注ぐとの構成を採用している。
よって、被告製品は本件発明1の目的を有し、その作用効果も本件発明1と
同一であるから、第2要件を充足する。
5 (3) 第3要件
ヒータを100℃でOFFすることに代え、わずかに上昇した100.7℃
でOFFとすることは、被告製品の製造時に当業者であれば容易に想到可能な
構成である。また、被告千石は、原告とコーヒーメーカーを共同開発していた
関係にあり、本件特許1の存在を知っていたことからすれば、いわゆる不完全
10 利用とも認められる。
よって、第3要件を充足する。
(4) 第4要件、第5要件
被告製品は、本件特許1出願時における公知技術とは同一ではなく、かつ、
当業者が当該公知技術から容易に推考できたものではない。また、本件特許1
15 の出願手続において、被告製品の構成を意識的に除外したような特段の事情は
存在しない。
【被告らの主張】
被告製品は、構成要件D-1の構成につき均等の要件を充足しない。
(1) 第1要件
20 原告は、本件特許1の出願経過において、従来技術と本件発明1の相違とし
て構成要件D-1の構成を追加しているから、従来技術に見られない部分が本
件発明1の本質的部分を構成するというべきである。そして、本件発明1-1
は後述のとおり進歩性を欠くものであり、新たに特有の技術的思想を開示する
ものではなく、その貢献の程度は限りなく小さいことからすれば、本件発明1
25 -1の本質的部分は、特許請求の範囲の記載と同一であるというべきである。
よって、被告製品の有する「ボイラーに給水した水を100℃を超える温度
にて沸騰させ、100℃を超える温度にてヒータをOFFにし、当該沸騰によ
ってスチームを発生させ、ボイラー内に同スチームによる圧力が発生する」と
いう相違点に係る構成は、本件発明1の本質的部分に当たるから、第1要件を
充足しない。
5 (2) 第2要件
被告製品が上記の相違点にかかる構成を採用したのは、ボイラー内の湯を一
定時間沸騰させてスチームを発生させ、当該スチームをコーヒー粉に当てて蒸
らすことでより美味しいコーヒーを淹れることが可能となるという、本件発明
1にはない独自の技術思想に基づくものである。
10 よって、被告製品は本件発明1と「同一の作用効果」を奏するものとはいえ
ないから、第2要件を充足しない。
(3) 第3要件
上記相違点に係る構成は、ボイラー内の湯を一定時間沸騰させてスチームを
発生させ、当該スチームをコーヒー粉に当てて蒸らすことでより美味しいコー
15 ヒーを淹れることが可能となるという独自の技術思想に基づき採用されたも
のであり、被告製品の製造時において、本件発明1に接した当業者において容
易に思い付くものではない。
よって、本件発明1と被告製品との上記相違部分は、被告製品の製造時にお
いて、当業者にとって容易想到でもないことは明らかであり、第3要件を充足
20 しない。
(4) 第5要件
原告は、本件特許1の出願過程において提出した本件意見書において、本件
発明1が「湯を沸騰させ」ない、すなわち「湯温度が90~100℃に達した
ときにヒータをOFFする」ことにより「スチーム圧力を発生させ」ないこと
25 こそが本件発明1の進歩性を基礎付けると主張している。そうすると、「湯を
沸騰させる」構成又は「湯温度が100℃を超えてからヒータをOFFにする」
構成は、「スチーム圧力」を発生させるものとして本件発明1から意識的に除
外されているといえる。
よって、「ボイラーに給水した水を100℃を超える温度にて沸騰させ、1
00℃を超える温度にてヒータをOFFにし、当該沸騰によってスチームを発
5 生させ、ボイラー内に同スチームによる圧力が発生する」という被告製品の構
成は、本件特許1の出願手続において、特許請求の範囲の記載から意識的に除
外されているといえるから、第5要件を充足しない。
5 争点2-1(被告製品が本件発明2の構成要件C-2を充足するか)について
【原告の主張】
10 (1) 意義
ア 「淹れたいコーヒー分量に必要な水量」
構成要件C-2の「淹れたいコーヒー分量に必要な水量」とは、その文言
からも、最終的にコーヒーカップに淹れたいコーヒーの分量に必要な水量、
すなわち、コーヒー粉やフィルター等に吸収される水量も加味した水量を意
15 味することは自明である。また、構成要件D-2には、蒸らし工程に入るこ
とが明示されており、本件明細書2の記載(【0005】
【0010】
【002
8】)には、コーヒー粉を蒸らすことが明記されている。そして、蒸らし等に
よりコーヒー粉やペーパーフィルターに湯が吸収されることは技術常識で
ある。
20 イ 「給水」
本件明細書には、給水回数を1回に限定する記載はない(給水回数を1回
とする実施例【0026】は、実施例にすぎない。)。また、本件発明2は、
美味しいコーヒーを淹れることができる家庭用のドリップ式の電気コーヒ
ーメーカーであり、淹れたいコーヒー分量に必要な水量をボイラーに給水・
25 保持して湯沸かしを行い、一部の湯を蒸らし行程に、一部の湯をコーヒード
リップ行程に、残り湯を足し湯に使用してボイラーの湯を使い切り、給水孔
と二つの給湯孔を設け、ボイラー内に圧力や負圧が発生しないように排気孔
を設けた構成にしたものであり(本件明細書2【0001】
【0005】ない
し【0007】)、このような解決課題からも、ボイラーへの給水回数を限定
解釈すべき理由はない。
5 (2) 被告製品の充足性
被告製品では、ボイラーへの給水が2回又は3回に分けて行われているが、
電動ポンプの作動時間を制御することによって、淹れたいコーヒーの分量に必
要な水量をボイラーへ給水して保持していることから、構成要件C-2を充足
する。
10 【被告らの主張】
(1) 意義
次のとおり、構成要件C-2の「淹れたいコーヒー分量に必要な水量をボイ
ラーに給水して保持して湯沸かしすることができる」とは、淹れたいコーヒー
の分量に必要な水の全量をボイラーに1回で給水し、ボイラーが淹れたいコー
15 ヒーの分量に必要な水の全量をたもちつづけて湯沸かしをすることができる、
ことを意味する
ア 「淹れたいコーヒー分量に必要な水量」
構成要件C-2には「淹れたいコーヒー分量に必要な水量をボイラーに給
水して」との記載があるから、字義どおり、使用者が望む分量のコーヒーを
20 抽出するのに必要な量の水をボイラーに給水することを意味する。また、本
件明細書2の実施例(【0026】
【0027】)の記載によれば、淹れたい量
のコーヒーに必要な水の全量をボイラー内でたもちつづけることを前提に
して、湯沸かし行程が実施されると理解できる。
イ 「給水」及び「保持」
25 本件発明2の特許請求の範囲の記載をみると、ボイラーへの水の給水・保
持行程は構成要件C-2の1回のみであり、この構成要件C-2の行程にお
いて、「淹れたいコーヒー分量に必要な水量」の水がボイラーに給水され保
持されるのであるから、構成要件C-2にて特定された「給水」以外でボイ
ラーに給水されることが想定されていない。また、
「保持」とは、上記のとお
り、一般的に「たもちつづけること」という意味を有する。
5 また、本件明細書2の記載(【0009】)によれば、
「淹れたいコーヒー分
量に必要な水量をボイラーへ給水して、電磁弁Aと電磁弁Bが閉じていると
き水量を保持して湯沸かしすること」が本件発明2の課題解決手段であり、
本件発明2の実施例(【0026】)として、淹れたいコーヒーの分量に必要
な水の全量が1回でボイラーに給水される構成が開示されている。他方で、
10 本件明細書2には、他にボイラーへの給水を行う行程に関する記載はないが、
実施例(【0026】【0027】)には、上述の記載がある。
(2) 被告製品の充足性
被告製品は、淹れたいコーヒーの分量に必要な水量よりも少量の水を2又は
3回に分けてボイラーに給水し、合計すると淹れたいコーヒーの分量に必要な
15 水量よりも多い水を給水する。また、被告製品では、複数回に分けてボイラー
に給水がなされ、淹れたいコーヒーの分量に必要な水の全量をボイラーに1回
で給水することはなく、ボイラーが淹れたいコーヒーの分量に必要な水量をた
もちつづけることもない。
よって、被告製品は、構成要件C-2の「淹れたいコーヒー分量に必要な水
20 量をボイラーに給水して保持して湯沸かしすることができる」を充足しない。
6 争点2-2(被告製品が本件発明2の構成要件H-2を充足するか)について
【原告の主張】
(1) 意義
「中空」とは、空洞を意味する。
「ボイラーはヒータを内蔵してボイラー容器
25 の中空に吊り下げ」とは、
「ヒータがボイラー容器の空洞部分に、つるして下げ
られている」ことを意味する(甲40)。
(2) 被告製品の充足性
被告製品では、ヒータがボイラーの底2箇所にロウ付けされて固定されてい
るものの、ボイラー容器の空洞部に存在し、ボイラー容器の中空部に配置され
て中空に吊り下げられているから、構成要件H-2を充足する。
5 【被告らの主張】
(1) 意義
構成要件H-2には「ボイラーはヒータを内蔵してボイラー容器の中空に吊
り下げ」との記載があり、
「中空」とは、一般的に、
「なかぞら。虚空。中天。」
を意味し、
「なかぞら」とは、
「空の中ほど。中天。どちらともきまらないこと。
10 中途。中途半端。」を意味し、
「吊り下げ」とは、一般的に、
「つるして下げる。
つるす。」を意味する。よって、
「ボイラーはヒータを内蔵してボイラー容器の
中空に吊り下げ」とは、ヒータはボイラーの中ほど、すなわち上面でも底面で
もない中途に、つるして下げられているとの構成を意味する。
また、本件明細書2の実施形態の図【図4】
【図5】には、ボイラーの上面に
15 も底面にも接触しない形で中ほどにつるして下げられる形で内蔵されている
ことが示されている。
以上から、構成要件H-2の「ボイラーはヒータを内蔵してボイラー容器の
中空に吊り下げ」とは、ヒータがボイラー容器の中ほど、すなわち上面でも底
面でもない中途に、つるして下げられている、ことを意味すると解すべきであ
20 る。
(2) 被告製品の充足性
被告製品のボイラーに設けられたヒータは、ボイラーの底面に沿う形でボイ
ラー底部を2周する上面視円状に構成され、ボイラーの底に固定されており、
ボイラーの底面に底面と接触する形で固定されている。
25 よって、被告製品は、構成要件H-2の「ボイラーはヒータを内蔵してボイ
ラー容器の中空に吊り下げ」を充足しない。
7 争点2-3(被告製品が本件発明2の構成要件I-2を充足するか)について
【原告の主張】
(1) 意義
構成要件I-2は、「ボイラーの容積は1コーヒーカップの淹れたいコーヒ
5 ー分量に必要な容積として、」と記載されているから、1コーヒーカップの淹
れたいコーヒー分量に必要な容積であれば足り、コーヒーの淹れ方工程が完了
したときのコーヒーの容積全量を1回で保持するものと限定して解釈しなけ
ればならない理由はない。
(2) 被告製品の充足性
10 上記「構成要件I-1」に関する【原告の主張】のとおりの理由から、被告
製品は、構成要件I-2の「コーヒーの淹れ方行程が完了したとき残湯が残ら
ないようにする」を充足する。
【被告らの主張】
(1) 意義
15 構成要件I-2には「ボイラーの容積は1コーヒーカップの淹れたいコーヒ
ー分量に必要な容積として」との記載があり、字義どおりに、ボイラーがコー
ヒーカップ1杯分の淹れたいコーヒーの分量を抽出するのに必要な容積を有
している、という構成を意味する。また、上記のとおり、
「コーヒーの淹れ方行
程が完了したとき残湯が残らないようにする」とは、コーヒーの淹れ方行程が
20 完了した時点で、ボイラー内には湯が残っていない、という構成を意味する。
(2) 被告製品の充足性
被告製品では、カップサイズをマグカップと選択した場合の淹れたいコーヒ
ーの分量である250mlを1回でボイラー(最大容積330ml)に給水し
た場合(実際の被告製品では、2回又は3回に分けて給水を行っているが、あ
25 えて、被告製品において、淹れたいコーヒーの分量である250mlを1回で
ボイラーに給水する制御を行った場合)、被告製品の通常の使用手順にしたが
って湯を沸騰させると、水が沸騰した時点で沸騰による水位上昇で水がボイラ
ー内から吹き出してしまい、ボイラーは、淹れたいコーヒーの分量と同量の水
をたもちつづけることができない。また、被告製品では、カップサイズのレギ
ュラーカップ又はマグカップのいずれを選択した場合でも、コーヒーの淹れ方
5 行程が完了した時点でのボイラーには約9mlの湯が残る。
以上によれば、被告製品は、構成要件I-2を充足しない。
8 争点2-4(被告製品が本件発明2の構成要件J-2を充足するか)について
【原告の主張】
(1) 意義
10 構成要件J-2は、「ボイラーへ給水するときや湯沸かしするときにボイラ
ー内に圧カが発生しないようにボイラー容器の上部に通気のための排気孔を
設ける、」というものであり、被告らの主張するとおり、①給水のときに容易に
排気されて内圧が発生しない、及び、②湯沸かしするときにボイラー内に蒸気
による圧力が発生しないという目的をいずれも達成することができる、ボイラ
15 ー容器の上部に設けられた孔を意味する。
(2) 被告製品の充足性
被告製品のスチーム排出孔は、ボイラーの上部に設けられて、スチームルー
トに連接されて、器体の給湯口近傍に設けられたバッファーを通じて外気と連
通している(スチームルートに電磁弁等は存在しない)ことから、①給水のと
20 きに容易に排気されて内圧が発生しない、及び、②湯沸かしするときにボイラ
ー内に蒸気による圧力が発生しないという目的をいずれも達成することがで
きる、ボイラー容器の上部に設けられた孔である。
よって、被告製品は、構成要件J-2を充足する。
【被告らの主張】
25 (1) 意義
構成要件J-2には、「ボイラーへ給水するときや湯沸かしするときにボイ
ラー内に圧力が発生しないようにボイラー容器の上部に通気のための排気孔」
との記載があり、これによれば、
「排気孔」は、給水時や湯沸かし時に「ボイラ
ー内に圧力が発生しないように」するものであると解される。換言すると、
「排
気孔」が存在することにより給水時や湯沸かし時に「ボイラー内に圧力が発生
5 しない」ものと解される。
また、本件明細書2(【0022】ないし【0024】)の記載によれば、本
件発明2において排気孔24をボイラーの給水した水量の水位より高い位置
に設けることで、「給水のときに容易に排気されて内圧が発生せず淹れたいコ
ーヒー分量に必要な水量を給水可能にする」こと、「湯沸かしするときボイラ
10 ー10内にスチーム圧力が発生しないようにする」こと、及び、
「コーヒーカッ
プ7へ給湯するときボイラー10内が負圧にならないように吸気する」ことが
可能となり、排気孔24は、①給水のときに容易に排気されて内圧が発生しな
い、②湯沸かしするときボイラー10内にスチーム圧力が発生しない、及び、
③コーヒーカップ7へ給湯するときボイラー10内が負圧にならないという
15 目的をいずれも達成することができる構成であると解される(なお、構成要件
J-2は「ボイラーへ給水するときや湯沸かしするときに」と規定しているか
ら、構成要件J-2との関係で考慮すべきは、①及び②である。)。
以上から、構成要件J-2の「ボイラーへ給水するときや湯沸かしするとき
にボイラー内に圧力が発生しないようにボイラー容器の上部に通気のための
20 排気孔」とは、①給水のときに容易に排気されて内圧が発生しない、及び、②
湯沸かしするときにボイラー内に蒸気による圧力が発生しないという目的を
いずれも達成することができる、ボイラー容器の上部に設けられた孔を意味す
ると解すべきである。
(2) 被告製品の充足性
25 被告製品のボイラーの上部には発生したスチームを吐出するためのスチー
ム排出孔が設けられているが、ボイラー内では、水が100℃を超える温度に
て沸騰させることによってスチームが発生する。そして、被告製品のスチーム
排出孔の内径は約5mmであり、スチーム排出孔によってスチームの流れが制
限されるため、発生したスチームが直ちにボイラー外に吐出されるわけではな
いため、ボイラー内には、スチームが溜まり、スチームによる圧力が発生する。
5 よって、被告製品のスチーム排出孔は、少なくとも、②湯沸かしするときに
ボイラー内に蒸気による圧力が発生しないという目的を達成できない。被告製
品は、構成要件J-2の「ボイラーへ給水するときや湯沸かしするときにボイ
ラー内に圧力が発生しないようにボイラー容器の上部に通気のための排気孔」
を充足しない。
10 9 争点2-5(被告製品が本件発明2の構成要件L-2を充足するか)について
【原告の主張】
(1) 意義
構成要件L-2の「器体の外郭に設けた排気口」とは、本件明細書2の記載
(【0024】)によれば、「蒸気や水滴が器体内の構成部品に悪影響を及ぼさ
15 ない」ことを目的とするものであり、
「排気孔が排気管に連接されて、器体の外
部を囲うかこいに設けた排気口に導かれる構成」であると解される。
(2) 被告製品の充足性
被告製品のバッファーは、取り外し可能な部材(ドリッパー及びドリッパー
カバー)に覆われているが、被告製品の本体から露出しており、被告製品の本
20 体内に蒸気や水滴が当たらない構成を有するものであるから、構成要件L-2
の「器体の外郭に設けた排気口」にあたる。
よって、被告製品は、構成要件L-2を充足する。
【被告らの主張】
(1) 意義
25 構成要件L-2には「排気孔は排気管に連接されて器体の外郭に設けた排気
口に導かれる」との記載があり、
「外郭」とは、一般的に、
「外部を囲むかこい」
を意味する。したがって、
「器体の外郭に設けた排気口」とは、器体の外部を囲
む、すなわち、器体の表面を構成する部材に排気口が設けられていることを意
味する。
本件明細書2の記載(【0024】
【図1】
【図2】)によれば、本件発明2に
5 おいて排気口を外郭に設けた技術的意義は排気口から排出される「蒸気や水滴
が器体内の構成部品へ悪影響を及ぼさない」ことにある。また、実施例には、
排気口が器体の表面を構成する部品の表面側に設けられ、機体内部の構成部品
から物理的に隔離された場所に設置された構成が開示されている。
以上によれば、構成要件L-2の「排気孔は排気管に連接されて器体の外郭
10 に設けた排気口に導かれる」とは、排気孔が排気管に連接されて、器体の表面
を構成する部品の表面側で、機体内部の構成部品からは物理的に隔離された場
所に設けられた排気口に導かれる構成を意味する。
(2) 被告製品の充足性
被告製品のスチーム吐出口は、外側からは視認できない機体内部の部品であ
15 るバッファーに設けられている。バッファーは、ドリッパーカバーの内側のド
リッパーよりもさらに内側に設けられている機体内部を構成する部品である。
また、バッファーの直上には電磁弁A、電磁弁B及びこれらを制御するための
内部部品が設けられており、バッファーから吐出されるスチームが及び得る範
囲内に内部部品が存在する。被告製品においては、このようなスチームが内部
20 部品に及ぼす悪影響を回避するために、バッファーやその直上のカバー等の外
部部品を耐水蒸気性の部材にすることによって悪影響を回避している。すなわ
ち、被告製品は、排気口の位置を器体の表面を構成する部品に設けることで上
記の悪影響を回避するという技術的思想を採用していない。
このように、被告製品の排気口は、器体の表面を構成する部品の表面側で、
25 機体内部の構成部品からは物理的に隔離された場所には設けられていないか
ら、被告製品は、構成要件L-2「排気孔は排気管に連接されて器体の外郭に
設けた排気口に導かれる」を充足しない。
10 争点2-6(被告製品が本件発明2の構成要件H-2記載の構成と均等な構
成を備えるか)について
【原告の主張】
5 次のとおり、被告製品は構成要件H-2の構成に関し、均等侵害の要件を満た
す。
(1) 第1要件
本件明細書2の記載(【0002】、
【0003】、
【0005】ないし【001
7】)によれば、本件発明2の本質的部分は、電気式コーヒーメーカーにおい
10 て、ドリップコーヒーの後半の美味しくないコーヒーをドリップしないことを
目的として、ボイラーにドリップ用と足し湯用の二つの給湯孔を設け、電磁弁
の作動タイミングと作動時間を制御するだけで湯の自然落下によってコーヒ
ードリップと足し湯を可能とした点にある。
一方、構成要件H-2は、ボイラーの底面に2個の給湯孔を設けることを目
15 的とするものであり(甲10)、本件発明2はヒータの固定位置を限定してい
ないし、ヒータがボイラーの中空に設けられていれば足りる。
そうすると、上記相違点は本質的部分に係る相違点ではない。
(2) 第2要件
被告製品は、仮にヒータをボイラー容器の底面に固定していても、そこから
20 中空に浮かせているために底面に2個の給湯孔を設けており、電磁弁の作動タ
イミングと作動時間を制御するだけで湯の自然落下によってコーヒードリッ
プと足し湯を可能としていることから、本件発明2の目的を有し、その作用効
果も本件発明2と同一である。
(3) 第3要件
25 ヒータをボイラーの中空に配置するために、固定位置をボイラー容器の底面
とすることは、被告製品の製造時に当業者であれば容易に想到可能な構成であ
り、設計事項にすぎない。
(4) 第4要件
被告製品は、本件特許2の出願時における公知技術とは同一ではなく、かつ、
当業者が当該公知技術から容易に推考できたものではない。
5 (5) 第5要件
本件特許2の出願手続において、被告製品の構成を意識的に除外したような
特段の事情は存在しない。
【被告らの主張】
被告製品は、次のとおり、構成要件H-2の相違点に関し均等侵害の各要件を
10 充足しない。
(1) 第1要件
本件発明2の本質的部分には「ボイラーにドリップ用と足し湯用の二つの給
湯孔を設け」ることが含まれ、本件発明2においては、このようにボイラー容
器の底面に2つの給湯孔が必要であり、そのためにボイラー容器の底面のいず
15 れにおいても2つの給湯孔を設けられるような構成であることが前提となっ
ている。したがって、ボイラーの底面の全面が2つの給湯孔のために使用可能
であることも本件発明2の本質的部分であり、ヒータがボイラー内の底面に沿
って底面に接触する形で固定されている構成では、給湯孔2つを底面に自由に
設けることができない。
20 したがって、上記相違点は、本件発明2の本質的部分に当たり、第1要件を
充足しない。
(2) 第2要件
被告製品がヒータをボイラーの底面に固定する構成を採用したのは、ヒータ
を中空に吊り下げる構成では、ヒータがボイラーの底面から離れているためボ
25 イラー底部の水が十分に温まらず、美味しいコーヒーが淹れられないという課
題に直面したためである。よって、上記構成に係る被告製品の技術的意義・目
的は本件発明2と全く異なる。また、上記のとおり、ボイラーの底面に給湯孔
2つを自由に設けることができるように、ボイラーの底面の全面が使用可能で
あることも本件発明2の作用効果であり、相違部分を被告製品の構成と置き換
えると、まさにこの作用効果は失われることとなる。
5 以上から、第2要件も充足しない。
(3) 第3要件
本件発明2のヒータを中空に吊り下げる構成の技術的意義は、ボイラーの全
底面を給湯孔設置のために使用できることにあるところ、ヒータをボイラーの
底面に沿って底面に固定する被告製品の構成では、ヒータの固定箇所との関係
10 で給湯孔2つを設置できる範囲が限定されることから、被告製品の構成はまさ
に本件発明2の技術的意義を自ら減殺するものである。
よって、本件発明2の相違点を被告製品の構成に置換することは、自ら作用
効果を減殺するものであるため、被告製品の製造時に、当業者においてこのよ
うな構成に想到することはあり得ない。
15 (4) 第5要件
原告が、審査過程で提出した令和元年5月30日付け意見書(甲10)によ
れば、構成要件H-2の技術的意義はボイラー底全面を給湯孔のために使用で
きる点にあるといえる。そうすると、被告製品のヒータをボイラーの底面に沿
って固定する構成は、本件特許2の出願手続において特許請求の範囲から意識
20 的に除外されている。
11 争点3-1(本件特許1にサポート要件違反の無効理由があるか)について
【被告らの主張】
本件発明1-1の構成要件D-1の「ボイラーで沸かした湯はスチームが発生
する前に湯温度が90~100℃に達したときにヒータをOFFしてスチーム
25 圧力を発生させない」、特に「スチームが発生する前に・・・ヒータをOFFして」
「スチーム圧力を発生させない」に対応する構成は、本件明細書1に何ら記載も
示唆もされていない。すなわち、本件明細書1には、
「ボイラー10へ予定水量が
給水されたとき電動ポンプ11は停止して、ボイラー10の内部に設備されてい
るヒータ12がONして湯沸かし行程になる。ボイラー10内の湯が90~10
0℃になったときヒータ12はOFFする。」(【0021】)との記載があるが、
5 「スチーム」や「スチーム圧力」については何ら言及されておらず、
「スチームが
発生する前に…ヒータをOFFして」することや「スチーム圧力を発生させない」
ことについての記載や示唆はない。
したがって、本件発明1-1は、本件明細書1の発明の詳細な説明に記載した
範囲を超えるものであり、本件発明1及びこれに従属する本件発明1-2は、サ
10 ポート要件(特許法36条6項1号)を充足しないから、本件特許1には、サポ
ート要件違反の無効理由がある。
【原告の主張】
本件明細書1(【0021】
【0022】)には、ボイラーで沸かした湯温が90
~100℃に達した時に、ヒータをOFFすることが明記されている。また、原
15 告は本件特許1の出願過程において、従来技術(甲6)との相違の説明として、
「スチームが発生する前に湯温度が90~100℃に達したときにヒータをO
FFしてスチーム圧力を発生させない、」との限縮補正を行ったものであるから
(甲7、8)、湯温度が90~100℃に達したときにヒータをOFFすれば、水
の沸点との関係でスチーム(蒸気)が継続的に発生することはなく、その結果、
20 スチーム圧力が発生しないこと、は明細書の発明の詳細な説明に記載されている
に等しい事項である。さらに、
「スチームが発生する前に」、
「スチーム圧力を発生
させない、」との文言が本件明細書に記載されていないことは、サポート要件充
足性を否定する理由にはなり得ない。
よって、サポート要件違反の無効理由はない。
25 12 争点3-2(本件特許1に明確性要件違反の無効理由があるか)について
【被告らの主張】
構成要件D-1の「ボイラーで沸かした湯はスチームが発生する前に湯温度が
90~100℃に達したときにヒータをOFFしてスチーム圧力を発生させな
い」との記載は、以下のとおり不明確である。
すなわち、構成要件D-1の記載は、主語が「ボイラーで沸かした湯」である
5 にもかかわらず、述語とみられる部分が「スチーム圧力を発生させない」とされ
ており、
「ボイラーで沸かした湯は・・・スチーム圧力を発生させない」という主
語と述語が対応していない文章となっている点で日本語として不完全である。ま
た、構成要件D-1の記載は、①「ボイラーで沸かした湯は」、②「スチームが発
生する前に」、③「湯温度が90~100℃に達したときにヒータをOFFして」、
10 ④「スチーム圧力を発生させない」という構成要素に分けることができるが、こ
れらの①~④が相互にどのような関係にあるかも不明である。さらに言えば、②
「スチームが発生する前」という文言からは、
「スチーム」の不発生、④「スチー
ム圧力を発生させない」という文言からは、
「スチーム圧力」の不発生を特定して
いるようにも読めるところ、
「スチーム」及び「スチーム圧力」のいずれについて
15 も、いかなる条件でどの場所に発生する何であるのかについての記載が特許請求
の範囲になく、本件明細書1の記載及び図面を参酌しても、これらの用語の意義
を理解する手がかりになる記載は一切ないため、
「スチーム」
「スチーム圧力」の
意味を理解することができない。したがって、当業者は構成要件D-1の「ボイ
ラーで沸かした湯はスチームが発生する前に湯温度が90~100℃に達した
20 ときにヒータをOFFしてスチーム圧力を発生させない」という記載がどのよう
な構成を特定したものであるのかを客観的に判断できず、このような不明確な特
許請求の範囲の記載により特定される本件発明1-1が明確でないことは明ら
かである。
よって、本件発明1-1及びこれに従属する本件発明1-2は、明確性要件(特
25 許法36条6項2号)を充足せず、本件特許1には無効理由がある。
【原告の主張】
本件件明細書1の「ボイラー10内の湯が90~100℃になったときヒータ
12はOFFする」
(【0021】)との記載によれば、本件特許1の発明に係るド
リップ式コーヒーメーカーは、スチーム圧力を利用していないことは明白である。
また、本件発明1-1は、構成要件J-1に記載されたとおり「ドリップ式電気
5 コーヒーメーカー」の発明であり、コーヒーメーカーの構成として「スチーム圧
力」を発生させないものであること、湯温度が90~100℃になったときヒー
タをOFFしてスチーム(蒸気)による圧力を発生させていないこと、スチーム
が発生する前に湯温度が90~100℃になったときヒータをOFFすればス
チーム圧力が発生しないことを特定したものであることは自明であり、スチーム
10 圧力が蒸気による圧力を意味するものであることも明確である。
以上によれば、「スチームが発生する前に湯温度が90~100℃に達したと
きにヒータをOFFしてスチーム圧力を発生させない、」との本件発明1-1の
特許請求の範囲の記載は、明確性要件に違反するものではない。
よって、本件特許1に明確性要件違反の無効理由はない。
15 13 争点3-3(本件特許1に補正要件違反の無効理由があるか)について
【被告らの主張】
本件特許1について平成30年4月28日付けで行われた手続補正は、願書に
最初に添付した明細書等に記載した事項の範囲を超えて行われた補正である。す
なわち、同日付け手続補正書により、出願当初の請求項1の記載である「ボイラ
20 ーで沸かした湯は、最初に蒸らしを行うために電磁弁Aを開いて『開』時間を制
御することによって給湯口Aからドリッパーへ蒸らしに必要な湯量が給湯され、
電磁弁Aを閉じて蒸らし行程に入る」は、「ボイラーで沸かした湯はスチームが
発生する前に湯温度が90~100℃に達したときにヒータをOFFしてスチ
ーム圧力を発生させない、次に蒸らしを行うために最初に前記電磁弁Aを開いて
25 『開』時間を制御することによって給湯口Aからドリッパーへ蒸らしに必要な湯
量を給湯したあと電磁弁Aを閉じて蒸らし行程に入る」との記載に補正されてい
る。しかし、補正により追加された技術的事項である「スチームが発生する前に
…ヒータをOFFして」「スチーム圧力を発生させない」は、出願当初の明細書
(乙16)には明示的に記載されておらず、当初明細書等の記載に接した当業者
であれば、出願時の技術常識に照らして、補正された事項が当初明細書等に記載
5 されているのと同然であると理解する事項でもないから、当初明細書等に記載し
た事項の範囲を超えて追加された事項である。
また、構成要件D-1の「ボイラーで沸かした湯はスチームが発生する前に湯
温度が90~100℃に達したときにヒータをOFFしてスチーム圧力を発生
させない」との記載は当業者に理解できない不明瞭な技術的事項であり、このよ
10 うな不明瞭な事項を追加する補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲を超え
るものである。
よって、本件発明1-1及びこれに従属する本件発明1-2は、補正要件(特
許法17条の2第3項)を充足せず、本件特許1には無効理由がある。
【原告の主張】
15 構成要件D-1に関する構成、すなわち、湯温度が90~100℃に達したと
きにヒータをOFFすれば、水の沸点との関係でスチーム(蒸気)が継続的に発
生することはなく、その結果、スチーム圧力が発生しないことは、本件特許1の
当初の明細書(乙16【0021】
【0022】)に明示的に記載されている、又
は、記載されているに等しい事項といえる。
20 よって、本件特許1に係る補正について補正要件違反はない。
14 争点3-4(本件特許1に進歩性欠如の無効理由があるか)について
【被告らの主張】
(1) 乙17発明の構成
乙17文献には、次の構成が開示されている。
25 a-1 加熱貯水槽22と、ドリップコーヒーメーカーにおいて抽出飲料を保
持するための抽出漏斗のような抽出室30と、受取容器(コップ)84を配置
し、
b-1 加熱貯水槽22と、抽出室30及び受取容器(コップ)84の間に配
置した制御可能な弁34を有した構成であって、
c-1 加熱貯水槽22は注水管路24に接続され水を保持することができ
5 るものであって、
d-1 加熱貯水槽22の温度は華氏200度(摂氏93.3度)前後に設定
され、加熱貯水槽22で沸かした湯はスチームが発生する前に湯温度が93.
3℃前後に達したときにヒータをOFFしてスチーム圧力を発生させない、
e-1 次に蒸らしを行うために最初に弁34の第1の吐出管路36側を開
10 いて「開」時間を制御することによって、給湯口Aから抽出室30へ蒸らしに
必要な湯量を給湯したあと弁34を閉じて蒸らし行程に入る、
f-1 蒸らし時間が終了したとき弁34の第1の吐出管路36側は再び開
いて抽出室30へ給湯してコーヒーを受取容器(コップ)84にドリップする、
g-1 このときドリップする分量は弁34の第1の吐出管路36側の「開」
15 時間を制御して淹れたいコーヒー分量(X量+Y量)より少ないX量になった
とき閉じて濃いコーヒーを淹れる、
h-1 次に弁34の第2の吐出管路38側を開いて「開」時間を制御するこ
とによって加熱貯水槽22の湯を吐出孔74から直接受取容器(コップ)84
に給湯して淹れたい分量のコーヒーを淹れるコーヒーメーカーであって、
20 i-1 -(コーヒー淹れ方工程完了時のボイラー残湯量については記載がな
い。)
j-1 このようなコーヒーの淹れ方行程を制御する制御装置54を備えた
ドリップ式電気コーヒーメーカー。
k-1 制御インターフェース60を設けて、ユーザは、飲料抽出システムに
25 より生成される飲料46の強さ、飲料の種類(エスプレッソ/アメリカーノな
ど)を制御することができるドリップ式電気コーヒーメーカー。
(2) 相違点
本件発明1-1の構成と乙17発明の構成は、以下の点で相違する。なお、
本件発明1-2は、本件発明1-1に従属する関係にあるところ、本件発明1
-2の構成要件K-1と乙17発明の構成k-1は一致点であるから、本件発
5 明1-2と乙17発明の相違点も同様である。
ア 相違点1
本件発明1-1は、「水タンクとボイラーの間に配置した電動ポンプ」を
有し、「湯を容易に自然落下させるために上位から下位へ鉛直的に前記ボイ
ラーとドリッパーとコーヒーカップを配置」する構成であるのに対して、乙
10 17発明は「水タンク」及び「電動ポンプ」を備えず、
「ボイラー」及び「ド
リッパー」に対応する「加熱貯水槽22」及び「抽出室30」が横並びに配
置されている点。
イ 相違点2
本件発明1-1は、「ボイラーと前記ドリッパーの間に配置した電磁弁A
15 と、ボイラーと前記コーヒーカップの間に配置した電磁弁B」を有する構成
であるのに対して、乙17発明は、3方弁である「弁34」を有する点。
ウ 相違点3
本件発明1-1は、「淹れたいコーヒー分量の30~70%になったとき
閉じて濃いコーヒーを淹れる」構成であるのに対して、乙17発明は、
「淹れ
20 たいコーヒー分量よりも少ないX量になったとき閉じて濃いコーヒーを淹
れる」構成であり、X量が30~70%を含む構成であるか不明である点。
エ 相違点4
本件発明1-1は、「前記電動ポンプの作動時間を制御することによって
淹れたいコーヒーの分量だけの水量をボイラーへ給水して保持することが
25 できるもの」であり、「コーヒー淹れ方行程が完了したときボイラーに残湯
が残っていない」構成であるのに対して、乙17発明は、加熱貯水槽22は
接続された注水管路24にて給水されるものであり、コーヒー淹れ方行程が
完了したときに「加熱貯水槽22」に残湯が残るか不明である点。
(3) 容易想到性
相違点1については、乙17発明に乙18発明を適用することによって、水
5 タンクと加熱貯水槽22の間に配置した電動ポンプを備え、湯を容易に自然落
下させるために上位から下位へ鉛直的に加熱貯水槽22と抽出室30と受取
容器(コップ)8とを配置する構成とすること(すなわち、相違点1に係る構
成に至ること)は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する
者が容易に想到し得るものである。
10 相違点2は、当業者が適宜し得る設計的事項に過ぎず、相違点2に係る本件
発明1-1及び1-2の構成は、乙17発明及び周知技術に基づいて、当業者
が容易にし得るものである。
相違点3に係る本件発明1-1及び1-2の構成は、乙17発明、乙31及
び乙32に開示されたコーヒー抽出方法に基づいて、当業者が容易にし得るも
15 のである。
相違点4に係る本件発明1-1及び1-2の構成は、乙17発明及び乙18
発明に基づいて、当業者が容易にし得るものである。
以上から、本件発明1-1及び1-2は、乙17発明に乙18発明、周知技
術、乙31の1及び乙32の1に開示されたコーヒー抽出方法を適用すること
20 により、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が特許出
願前に容易に発明をすることができたものである。
(4) 小括
よって、本件発明1には、進歩性欠如の無効理由がある。
【原告の主張】
25 (1) 被告らの主張する引例には、本件特許1の課題や課題解決のための手段に関
する記載は一切ない。
(2) 相違点の認定の誤り
相違点3は次のとおり認定されるべきことに加え、本件発明1と乙17発明
には、相違点5及び6も存在する。
ア 相違点3
5 本件発明1-1は、
「電磁弁Aの「開」時間を制御して淹れたいコーヒー分
量の30~70%になったとき閉じて濃いコーヒーを淹れる」構成であるの
に対して、乙17発明は、
「淹れたいアメリカーノ分量(X+Y)の分量より
も少ないX量になったときに制御可能な弁34により第1の吐出管路36
からの加圧温水の供給を止めてコーヒーを淹れる」構成である点。
10 イ 相違点5
本件発明1-1は、
「蒸らしを行うために電磁弁Aを開いて「開」時間を制
御することによって給湯口Aからドリッパーへ蒸らしに必要な湯量を給湯
したあと電磁弁Aを閉じて蒸らし行程に入る」構成であるのに対して、乙1
7発明は、「制御装置54の設定により蒸らしが行われる」構成である点。
15 ウ 相違点6
本件発明1-1は、
「ドリップ式電気コーヒーメーカー」であるのに対し、
乙17発明は「アメリカーノ飲料等の希釈飲料抽出システム」である点。
(3) 容易想到性
そして、本件発明1と乙17発明との相違点については、乙17発明と被告
20 らの主張する引例の構成とを組合せて本件発明1の構成とすることについて、
当業者が容易に想到することはできない上、組合せについて阻害要因があると
もいえる。
(4) よって、本件発明1には、乙17発明を主引例とする進歩性欠如の無効理由
はない。
25 15 争点4(本件特許2に進歩性欠如の無効理由があるか)について
【被告らの主張】
(1) 乙17発明の構成
乙17文献には、次の構成が開示されている(なお、構成要件Iから同Lに
対応する構成に関する明示的な記載はない。)。
a-2 加熱貯水槽22と、ドリップコーヒーメーカーにおいて抽出飲料を保
5 持するための抽出漏斗のような抽出室30と、受取容器(コップ)84を配置
し、
b-2 加熱貯水槽22と、抽出室30及び受取容器(コップ)84の間に配
置した制御可能な弁34(例えば、3方弁)を有して、
c-2 加熱貯水槽22は注水管路24に接続され水を保持することができ
10 るものであって、
d-2 次に沸かした湯は最初に蒸らしを行うために最初に弁34の第1の
吐出管路36側を開いて「開」時間を制御することによって、給湯口Aから抽
出室30へ蒸らしに必要な湯量を給湯したあと弁34を閉じて蒸らし行程に
入る、
15 e-2 蒸らし時間が終了したとき弁34の第1の吐出管路36側は再び開
いて抽出室30へ給湯してコーヒーを受取容器(コップ)84にドリップする、
f-2 このとき弁34の第1の吐出管路36側の「開」時間を制御してドリ
ップする分量が淹れたいコーヒー分量(X量+Y量)より少ないX量になった
とき閉じて濃いコーヒーを淹れる、
20 g-2 次に弁34の第2の吐出管路38側を開いて「開」時間を制御するこ
とによって加熱貯水槽22の湯を吐出孔74から直接受取容器(コップ)84
に給湯して淹れたい分量のコーヒーを淹れることができるものに於いて、
h-2 加熱貯水槽22は加熱装置26を内蔵して加熱貯水槽22の中空に
有し、加熱貯水槽22の側面に給湯孔を設ける、
25 m-2 家庭用のドリップ式電気コーヒーメーカー。
(2) 相違点
乙17発明と本件発明2とは、次の点で相違する。
ア 相違点1
本件発明2は、
「水タンクとボイラーの間に配置した電動ポンプ」を有し、
「湯を容易に自然落下させるために上位から下位へ鉛直的にボイラーとド
5 リッパーとコーヒーカップを配置」する構成であるのに対して、乙17発明
は「水タンク」及び「電動ポンプ」を備えず、
「ボイラー」及び「ドリッパー」
に対応する「加熱貯水槽22」及び「抽出室30」が横並びに配置されてい
る点。
イ 相違点2
10 本件発明2は、「ボイラーとドリッパーの間に配置した電磁弁Aと、ボイ
ラーとコーヒーカップの間に配置した電磁弁B」を有する構成であるのに対
して、乙17発明は、3方弁である「弁34」を有する点。
ウ 相違点3
本件発明2は、
「電磁弁Aの「開」時間を制御してドリップする分量が淹れ
15 たいコーヒー分量の30~70%になったとき閉じて濃いコーヒーを淹れ
る」構成であるのに対して、乙17発明は、
「淹れたいコーヒー分量(X量+
Y量)より少ないX量になったとき閉じて濃いコーヒーを淹れる」構成であ
り、X量が30~70%を含む構成であるか不明である点。
エ 相違点4
20 本件発明2は、「電動ポンプの作動時間を制御することによって淹れたい
コーヒー分量に必要な水量をボイラーに給水して保持して湯沸かしするこ
とができる」ものであり、「コーヒーの淹れ方行程が完了したとき残湯が残
らないようにする」構成であるのに対して、乙17発明は、加熱貯水槽22
は接続された注水管路24にて給水されるものであり、コーヒー淹れ方行程
25 が完了したときに「加熱貯水槽22」に残湯が残るか不明である点。
オ 相違点5
本件発明2は、ボイラーに内蔵されたヒータがボイラー容器の中空に「吊
り下げ」られており、
「ボイラー容器の底面に給湯孔Aと給湯孔Bを設ける」
構成であるのに対して、乙17発明は、ヒータに相当する「加熱装置26」
を「加熱貯水槽22」の中空に有し、
「加熱貯水槽22」の側壁に給湯孔を設
5 ける構成である点。
カ 相違点6
本件発明2は、「ボイラーへ給水するときや湯沸かしするときにボイラー
内に圧力が発生しないようにボイラー容器の上部に通気のための排気孔を
設ける」「排気孔はボイラーの湯が自然落下によって給湯されるときに吸気
10 してボイラー内が負圧になることを防止する」「排気孔は排気管に連接され
て器体の外郭に設けた排気口に導かれる」という構成であるのに対して、乙
17発明は「排気孔」「排気口」を備える構成であるか不明である点。
(3) 容易想到性
ア 相違点1ないし4について
15 相違点1ないし4は、本件発明1と乙17発明との相違点1ないし4と同
様であるから、上記のとおり、乙17発明に乙18発明などを適用すること
は、当業者において容易想到である。
イ 相違点5について
相違点5に係る「ボイラーはヒータを内蔵してボイラー容器の中空に吊り
20 下げ」るという構成は、当業者が適宜し得る設計的事項であり、また、
「ボイ
ラー容器の底面に給湯孔Aと給湯孔Bを設ける」という構成も、当業者が乙
17発明に乙18及び周知技術を適用することにより容易に想到できたも
のである。
ウ 相違点6について
25 相違点6に係る本件発明2の構成は、乙17発明及び乙18発明に基づい
て、当業者が容易になし得たものである。
(4) 以上のとおり、本件発明2には、進歩性欠如の無効理由がある。
【原告の主張】
(1) 被告らの主張する引例には、本件特許2の課題や課題解決のための手段に関
する記載は一切ない。
5 (2) 相違点の認定の誤り
原告主張の相違点3と相違点5は、次のとおり認定されるべきであることに
加え、相違点7及び8が存在する。
ア 相違点3
本件発明2は、
「電磁弁Aの「開」時間を制御してドリップする分量が淹れ
10 たいコーヒー分量の30~70%になったとき閉じて濃いコーヒーを淹れ
る」構成であるのに対して、乙17発明は、
「淹れたいアメリカーノ分量(X
+Y)の分量よりも少ないX量になったときに制御可能な弁34により第1
の吐出管路36からの加圧温水の供給を止めてコーヒーを淹れる」構成であ
る点。
15 イ 相違点5
本件発明2は、ボイラーに内蔵されたヒータがボイラー容器の「中空に吊
り下げ」られており、
「ボイラー容器の底面に給湯孔Aと給湯孔Bを設ける」
構成であるのに対して、乙17発明は、ヒータに相当する「加熱装置26」
を「加熱貯水槽22」の側壁に有し、
「加熱貯水槽22」の他方の側壁に接続
20 管路32を設ける構成である点。
ウ 相違点7
本件発明2は、ボイラーの容積は1コーヒーカップの淹れたいコーヒー分
量に必要な容積であるのに対し、乙17発明の「加熱貯水槽22」の容積は
不明である点。
25 エ 相違点8
本件発明2は家庭用のドリップ式電気コーヒーメーカーであるのに対し、
乙17発明は家庭用であるとは認められない点。
(3) 容易想到性
被告らの主張する相違点1ないし6又は原告主張の相違点3及び相違点5
を前提として、乙17発明に被告らの主張する引例を組み合わせて本件発明2
5 の構成に至ることについて、当業者に動機付けがあるとはいえない。
(4) よって、本件発明2には、乙17発明を主引例とする進歩性欠如の無効理由
はない。
16 争点5(損害の有無及び額)について
【原告の主張】
10 被告エー・アイ・シーは、令和5年3月24日(販売開始日)から令和6年2
月29日までの間、被告製品の販売によって少なくとも3億円を売り上げた。
本件特許権1及び本件特許権2の特許権侵害を前提とした実施料相当額は、被
告製品の売上高の10パーセントが相当である。
よって、被告らの特許権侵害行為によって、上記期間に原告が被った損害は、
15 3000万円である(特許法102条3項、4項)。
【被告らの主張】
否認ないし争う。
第4 判断
1 判断の大要
20 当裁判所は、被告製品は、
(1) 本件発明1の少なくとも構成要件D-1(争点1-2)を充足せず、この相
違点に係る均等侵害(争点1-4)も成立しない上、構成要件I-1の構成(争
点1-3)も充足しないことから、その余の構成要件充足性及び本件特許権1
の無効(争点3)を判断するまでもなく、原告の本件特許権1に基づく請求は
25 理由がなく、
(2) 本件発明2の少なくとも構成要件H-2(争点2-2)を充足せず、この相
違点に係る均等侵害(争点2-6)も成立しない上、構成要件I-2の構成(争
点2―3)も充足しないことから、その余の構成要件充足性及び本件特許権2
の無効(争点4)を判断するまでもなく、原告の本件特許権2に基づく請求は
理由がなく、
5 したがって、損害(争点5)を判断するまでもなく、原告の被告らに対する請求
はいずれも理由がないものと判断する。
以下、掲記の争点に対する判断を示すこととする。
2 争点1―2(被告製品が本件発明1の構成要件D-1を充足するか)について
(1) 構成要件の解釈
10 ア 特許請求の範囲及び明細書の記載
本件発明1の特許請求の範囲ないし本件明細書1には、「ボイラーで沸か
した湯はスチームが発生する前に湯温度が90~100℃に達したときに
ヒータをOFFしてスチーム圧力を発生させない」との構成要件D-1の構
成についての具体的な記載はない。また、
「スチーム」は、当業者において水
15 を加熱によって発生する蒸気ないし湯気をいうと解されるとしても、「スチ
ーム圧力」や「湯温度」についての意義は特段見当たらない。
イ 語義等
一般に、
「圧力」とは、
「押さえつける力」
「単位面積あたりの,面を垂直に
押す力」を意味するところ、
「スチーム」と「圧力」を組み合わせた語である
20 「スチーム圧力」とは、
「(単位面積当たりの)蒸気又は湯気が、面を垂直に
押す力」と解することになる。
また、水の沸点が1気圧(1013.25hPa)下でセ氏100度であ
ること、気圧によって沸点が変化すること、水が沸点に至ると、その気化に
より圧力を増加させ得ることは当業者(のみならず一般)にとって常識に属
25 するところ、「スチーム圧力を発生させない」ためにヒータをOFFする温
度として「湯温度」の上限と下限を定めたものと解されることからすると、
構成要件D-1における「湯温度」とは、沸騰に至らない程度の水温程度の
意味に解される。
ウ 補正の経過
原告は、特許庁からの平成30年4月10日付け拒絶理由通知書(甲5)
5 に対し、手続補正書(甲7)及び本件意見書(甲8)を提出し、構成要件D
―1の構成を付加したところ、本件意見書には、
「引用文献1(引用者注:従
来技術)はスチーム圧力が必要なエスプレッソマシンであって…本願発明は
ドリップ式コーヒーメーカーに係る発明であるが、湯を沸騰させてスチーム
圧力を発生させることはないのでボイラーに通気のための小孔を設けるこ
10 とができる。本願明細書【0021】に記述しているように湯温度が90~
100℃に達したときにヒータをOFFするのでスチーム圧力を利用して
いないことは明白である。」との記載がある。
この記載内容によれば、上記手続補正において、本件発明1がドリップ式
電気コーヒーメーカーであって、従来技術(エスプレッソマシン)と相違す
15 るものであることが明らかにされるとともに、従来技術と相違するコーヒー
の抽出過程に係る構成として「湯を沸騰させてスチーム圧力を発生させるこ
とはな」く「湯温度が90~100℃に達したときにヒータをOFFに」し
て「スチーム圧力を利用しない」との構成とされたものと解される。
エ 文言解釈
20 このような技術常識や補正の経過に照らせば、一般に、家庭用コーヒーメ
ーカーの通常の使用条件における水の沸点はセ氏90度からセ氏100度
程度と解されるところ、構成要件D-1は、ボイラー内の水温がセ氏90度
からセ氏100度のうちの所定の温度に達した時点でヒータをOFFにし
て水が沸騰する前に加熱を止め、ボイラー内に、沸騰に起因する水蒸気(ス
25 チーム)の圧力を発生させない、との構成であると解するのが相当である。
(2) 被告製品の充足性
ア 被告らによる実験
被告らは、被告製品の使用する際のボイラー内の湯温度、圧力及びヒータ
のOFFとなる温度を、熱電対(二種類の異なる金属導体で構成された温度
センサ)と、ボイラー内の圧力を計測するためのデジタルマノメーターの端
5 子を被告製品のボイラー内に取り付け、常圧下(測定時の気圧は約1011
hPa)で、被告製品のボイラーへの給水後の湯温度、圧力及びヒータのO
N/OFFの別を計測した(乙34、35の1・2)。
この測定方法は、前記の本件発明1が想定する温度、圧力の把握方法と齟
齬、矛盾するところはなく、当業者にとって家庭用コーヒーメーカーの通常
10 の使用条件や使用方法に沿ったものと認められる。
上記測定による結果及び追加実験の結果(乙46、47)によれば、被告
製品は、ボイラー内への給水後、ボイラー内の圧力が加熱時に周囲の大気圧
よりも高くなり(実測値は1035.8hPa)、同ボイラー内の湯が沸騰
し、セ氏100度を超えたあと(実測値はセ氏100.7度)にヒータがO
15 FFになったことが認められる。
このような結果は、被告製品が、給湯された水を加熱して水蒸気を発生さ
せ、これによりボイラー内の圧力が周囲の大気圧よりも高くなるようにボイ
ラーの気密性を設計し、かつこの圧力の上昇によりボイラー内の水温もセ氏
100度を超えるに至ったものとして矛盾なく説明できるものである。
20 なお、このボイラー内の圧力により、蒸気がスチーム排出孔からスチーム
ルートを通ってスチーム吐出口より排出され、コーヒー粉を10秒間温める
こととされている(乙5)。
イ 検討
これによると、被告製品は、ボイラー内の湯をヒータで加熱し、ボイラー
25 内の湯が沸騰し、湯温がセ氏100.7度に至ったところでヒータがOFF
となり、かつ、沸騰により発生した蒸気により、ボイラー内の圧力が周囲の
大気圧を超える1035.8hPaに至り、この圧力により、ボイラー内で
気化した水蒸気がスチーム吐出口より排出されるというのであるから、構成
要件D-1の「スチームが発生する前に湯温度が90~100℃に達したと
きにヒータをOFF」にする構成、及び「スチーム圧力を発生させない」構
5 成のいずれも備えているとは認められない。
ウ まとめ
以上によれば、被告製品は、本件発明1の構成要件D-1を充足しない。
(3) 原告の主張について
これに対し、原告は、①原告の行った試験結果(甲45、46)によれば、
10 被告製品はボイラー内の湯温度がセ氏97度に達したときにヒータがOFF
となっている、②被告製品に用いられているサーミスタがボイラー内のサーミ
スタ温度がセ氏97度を検知した時点でヒータをOFFとする仕様となって
いる(乙42、43)。サーミスタの検知温度を前提とする湯温度の理論値につ
いて、次の公式を用いて算出すれば、被告製品はボイラー内の湯温度がセ氏9
15 0度からセ氏100度の温度に達した時点でヒータがOFFとなる、などと主
張する。
𝑡
𝑇 = (𝑇2 − 𝑇1 )(1 − exp (− )) + 𝑇1
𝜏
しかしながら、①については、原告による試験は、標高892メートルの山
中で行われたものであって、家庭用のコーヒーメーカーの一般的な使用条件と
20 して想定される前記の本件発明1が想定する温度、圧力の把握方法とはそぐわ
ず、また、家庭用のコーヒーメーカーの一般的な使用条件としても、試験が行
われたような標高での使用が想定されているとはいえないから、被告製品の通
常の使用法に沿った測定試験としては採用できない。なお、家電製品一般の設
計において、想定する使用環境下の気圧の変動をある程度見込むことはあり得
25 ることであるとしても、そのことから直ちに特許法70条に即してされる特許
請求の範囲の解釈が左右されるものでもない。
また、上記②については、原告による上記公式を用いた理論値の算出は、上
記公式について、𝑇1 に本件サーミスタの零秒時点の検知温度を代入し、𝑇2 にt
秒後の湯の温度の実測値を代入して、t秒後の湯の温度を理論的に導くという
5 ものであるが、被告製品に給水して加熱すると、ボイラー内の湯温度は経時的
に変化し、被告製品のサーミスタの検知温度も経時的に上昇するものであるか
ら、基本的に、経時的な温度変化を前提としない場合に妥当する上記公式を用
いた原告の推論は、被告製品のサーミスタの検知温度(理論値)の算出方法と
しては必ずしも相当とはいえない。
10 よって、原告の主張はいずれも採用できない。
(4) 小括
被告製品が、本件特許1の構成要件D-1を充足するとの原告の主張は、理
由がない。
3 争点1-3(被告製品が本件発明1の構成要件I-1を充足するか)について
15 (1) 構成要件の解釈
構成要件I-1は、「コーヒー淹れ方行程が完了したときボイラーに残湯が
残っていないことを特徴とする」であるところ、特許請求の範囲の文言には「残
湯が残っていない」と明記されており、本件明細書1にも、上記文言のほかに
「残湯」の意義を明示する記載はない。
20 そして「残湯」とは、
「残った湯」を意味すると解されることからすれば、構
成要件I-1は、文言どおり、コーヒーの淹れ方工程が完了したときにボイラ
ー内に湯(水)が存在しないことを意味すると解される。
(2) 被告製品の充足性
被告製品は、コーヒーの抽出行程が完了した時点でボイラー内に約9mlの
25 湯が残っている(甲30。争いなし)から、構成要件I-1の「残湯が残って
いない」を充足せず、構成要件I-1を充足しない。
(3) 原告の主張について
原告は、構成要件I-1の「残湯」には、技術常識に照らしても、表面張力
により不可避的に残存する湯は含まれないと解し、被告製品に残った湯はこの
不可避的に残存した湯であるから、被告製品は構成要件I-1を充足すると主
5 張する。
しかし、
「残湯」の意義に関し、本件発明1の特許請求の範囲及び本件明細書
1に原告の主張するような「表面張力により不可避的に残存する湯」を許容す
るような記載はなく、技術常識から当然に表面張力による影響を排除すべきで
あると解することもできない上、当業者において、「表面張力により不可避的
10 に残存する湯」と、それ以外の理由により「ボイラー内に(設計上)残存し得
る湯」が明確に区別できるものとも解されない。
したがって、
「残湯が残っていない」とは、ボイラー内に湯(水分)が存在し
ないことをいうとの解釈が左右されることはない。原告の上記主張は採用でき
ない。
15 (4) 小括
被告製品が、本件発明1の構成要件I-1を充足するとの原告の主張は、理
由がない。
4 争点1-4(被告製品が本件発明1の構成要件D-1記載の構成と均等な構成
を備えるか)について
20 (1) 第2要件
本件発明1は、従来技術に開示されていなかった美味しいコーヒーを淹れる
ことができる家庭用のドリップ式のコーヒーメーカーを提供することを課題
とし(【0001】、【0006】)、当該課題を解決する具体的な解決手段とし
て、水タンクから湯沸かしをするボイラーへ給水する電動ポンプを備え、電動
25 ポンプは作動時間を制御して淹れたいコーヒーの分量だけボイラーへ給水し
て、湯沸かしを行うものであり(【0010】)、ボイラーからドリッパーへ給湯
する給湯口とボイラーからコーヒーカップへ直接給湯する給湯口の二つを設
け、一つの電磁弁はドリッパーへの給湯量を制御し、またもう一つの電磁弁は
コーヒーカップへ直接給湯する給湯量を制御し、ボイラー、電磁弁、ドリッパ
ー及びコーヒーカップは電磁弁を開いたとき湯が自然流出するようにほぼ鉛
5 直線上に配置される(【0011】
【0012】)構成を有する。そして、蒸らし
時間を充分にとって濃いコーヒーをドリップすることができ、1カップ分に不
足の分量だけの湯を注ぎ足してコーヒーを淹れたとき、ドリップ後半の美味し
くない部分をドリップせず、従来の方法で淹れたコーヒーと同じ濃さのコーヒ
ーを淹れることができるという効果を奏する(【0005】ないし【0007】、
10 【0013】ないし【0016】、【0030】)ものとされている。
本件発明1の構成要件D-1の構成が、このような本件発明の作用効果にど
のように寄与するものであるかは本件明細書1からは必ずしも明らかではな
いが、湯温度がセ氏90度から100度に至るとヒータがOFFとなり、湯温
度がそれ以上にならないこと、及びこれにより、「スチーム圧力」が発生しな
15 い、との作用を発揮することになる。
他方、被告製品は、蒸らし工程の前に沸騰によりボイラーで発生したスチー
ムを、ボイラー内に生じたスチームの圧力の作用で、スチームがスチーム排出
孔からスチームルートを通ってスチーム吐出口より排出され、コーヒー粉の温
度を上げることで、抽出を安定化するという作用効果を奏するものと解され、
20 本件発明1にはない作用効果を発揮すると認められるから、構成要件D-1及
びその相違点に関し、本件発明1と被告製品とは、同一の作用効果を奏すると
はいえない。
よって、均等の第2要件を充足しない。
(2) 第5要件
25 本件特許1の出願過程において、原告は、拒絶理由通知書(甲5)に対し、
平成30年4月28日付け手続補正書(甲7)によって、構成要件D-1の構
成を追加する補正をし、本件意見書(甲8)において、従来技術が「スチーム
圧力が必要なエスプレッソマシンであって……本願発明はドリップ式コーヒ
ーメーカーに係る発明であるが、湯を沸騰させてスチーム圧力を発生させるこ
とはない…本願明細書【0021】に記述しているように湯温度が90~10
5 0℃に達したときにヒータをOFFするのでスチーム圧力を利用していない
ことは明白である。」と述べていた。このような本件意見書の内容に照らせば、
被告製品の構成である、湯を沸騰させてスチーム圧力を発生させる構成は、本
件発明1から意識的に除外されたと認められる。
よって、均等の第5要件を充足しない。
10 (3) 小括
以上から、少なくとも均等の第2要件及び第5要件を充足しないから、被告
製品は本件発明1と均等とはいえず、均等侵害は成立しない。
5 争点2-2(被告製品が本件発明2の構成要件H-2を充足するか)について
(1) 構成要件の解釈
15 構成要件H-2の「ボイラーはヒータを内蔵してボイラー容器の中空に吊り
下げ」について、特許請求の範囲には、上記文言のほかに具体的な構成に関す
る記載はない。また、本件明細書2にも、上記構成に関する具体的な記載はな
いが、実施形態(【図4】
【図5】)として、ヒータが、ボイラーの上面にも底面
にも接触しない形で中ほどに吊るして下げられる状態で内蔵されている構成
20 が示されている。
ここで、一般的な意義を参酌すると、
「中空」は「なかぞら」であり、
「なか
ぞら」とは「空の中ほど。中天。中途。」を意味し、
「吊り下げ」は「つるして
下げる。つるす。」を意味する(広辞苑第7版)。
以上によれば、構成要件H-2の「ボイラーはヒータを内蔵してボイラー容
25 器の中空に吊り下げ」とは、ボイラー内のヒータはボイラーの中ほど、すなわ
ち、上面でも底面でもない中途につるして下げられていることを意味すると解
される。
(2) 被告製品の充足性
被告製品のヒータは、ボイラーの底面に沿う形でボイラー底部を2周する上
面視円状に構成され、ボイラーの底に固定されており、ボイラーの底面に底面
5 と接触する形で固定されている。
そうすると、被告製品のヒータは、
「ボイラーの容器の中空に吊り下げ」られ
ているとはいえない。
(3) 小括
被告製品が本件発明2の構成要件H-2を充足するとの原告の主張は、理由
10 がない。
6 争点2-3(被告製品が本件発明2の構成要件I-2を充足するか)について
(1) 構成要件の解釈
構成要件I-2は、「ボイラーの容積は1コーヒーカップの淹れたいコーヒ
ー分量に必要な容積として、コーヒーの淹れ方行程が完了したとき残湯が残ら
15 ないようにする」である。この点、後者の「コーヒーの淹れ方行程が完了した
ときボイラーに残湯が残らないようにする」との意義については、特許請求の
範囲の文言には「残湯が残らないようにする」と明記されており、本件明細書
2にも、上記文言のほかに「残湯」の意義を明示する記載はないものの、本件
発明2の課題として「淹れたいコーヒー分量に必要な水量をボイラーに給水・
20 保持して湯沸かしを行い、
・・ボイラーの湯を使い切る。」
(【0005】)ことを
掲げ、その解決手段として「コーヒーの淹れ方行程が完了したときボイラーに
残湯を残さないようにする。」
(【0012】)としていることからすれば、文言
どおり、コーヒーの淹れ方工程が完了したときにボイラー内に残湯(水)が残
らないようにすることを意味すると解される。
25 (2) 被告製品の充足性
被告製品は、コーヒーの抽出行程が完了した時点でボイラー内に約9mlの
湯が残るので、構成要件I-2の「残湯が残らないようにする」を充足せず、
構成要件I-2を充足しない。
(3) 原告の主張について
原告は、構成要件I-2の「残湯が残っていない」につき、表面張力の影響
5 によって不可避的に残る湯は「残湯」に含まれないと主張する。
この点、
「残湯」の意義に関しては、本件発明1において検討したことが同様
に妥当し、本件発明2の特許請求の範囲及び本件明細書2に原告の主張するよ
うな「表面張力により不可避的に残存する湯」がボイラーに残ること許容する
ような記載はなく、技術常識から当然に表面張力による影響を排除すべきであ
10 ると解することもできない上、当業者において、「表面張力により不可避的に
残存する湯」と、それ以外の理由により「ボイラー内に(設計上)残存し得る
湯」が明確に区別できるものとも解されない。
したがって、原告の上記主張は採用できない。
(4) 小括
15 以上から、被告製品は、構成要件I-2を充足しない。
7 争点2-6(被告製品が本件発明2の構成要件H-2記載の構成と均等な構成
を備えるか)について
(1) 第5要件
原告は、本件特許2の出願過程において、平成31年4月22日付け拒絶理
20 由通知に対し、令和元年5月30日付け手続補正書によって特許請求の範囲を
補正するとともに(甲9)、同日付け意見書(甲10)を提出しているところ、
同手続補正書において、本件発明2に係る当初出願の構成を「ボイラーはヒー
タを内蔵してボイラー容器の中空に吊り下げ、ボイラー容器の底面に給湯孔A
と給湯孔Bを設ける、ボイラーの容積は1コーヒーカップの淹れたいコーヒー
25 分量に必要な容積として、コーヒーの淹れ方行程が完了したとき残湯が残らな
いようにする、」と補正した上で、同意見書において、
「本件発明の図4のよう
にヒータはボイラーの水中に吊り下げるように構成するとボイラー底全面が
給湯孔のために使用できるので構成が大変簡単になる。」
「残湯を残さないため
にボイラーの底部に給湯孔Aと給湯孔Bを設けている。」と主張した。
このような出願経過及び補正の内容に照らせば、原告は、上記補正において、
5 「ヒータ」の位置を「ボイラー容器の中空に吊り下げ」られた構成に限定し、
これと異なる構成、とりわけヒータがボイラー容器の底面に固定されている構
成は、
「ボイラー底全面が給湯口(孔)のために使用できる」構成とは相いれな
いものであるから、本件発明2の構成から意識的に除外されたものと認められ
る。
10 そうすると、被告製品の構成は、意識的に除外された構成であると認められ
るから、第5要件を充足しない。
(2) 小括
したがって、均等侵害の他の要件を検討するまでもなく、被告製品は、少な
くとも第5要件を充足しないことにつき被告らの主張は理由がある。
15 第5 結論
以上の次第で、原告の請求はいずれも理由がないから、主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官
松 阿 彌 隆

裁判官
島 田 美 喜 子
裁判官
5 西 尾 太 一

(別紙)
被告製品目録

5 製品名 コーヒーブリュワー
品番 ACO-D01A(□)
□には「G」又は「K」のいずれかが入る

(別紙)
被告製品の構成
1 本件発明1
原告の主張 被告の主張
a-1 水タンクとボイラーの間に配置した電動 水タンクとボイラーの間に配置した電動ポ
ポンプと、湯を容易に自然落下させるた ンプと、湯を容易に自然落下させるために
めに、上から下へ鉛直にボイラーとドリ 上位から下位へ鉛直的に前記ボイラーとド
ッパーとコーヒーカップを配置し、 リッパーとコーヒーカップを配置し、
b-1 ボイラーとドリッパーとの間に、メインル ボイラーと前記ドリッパーの間に配置した
ートを配置し、メインルートに電磁弁Aを 電磁弁Aと、ボイラーと前記コーヒーカッ
設けるとともに、ボイラーとコーヒーカッ プの間に配置した電磁弁Bを有した構成で
プとの間にバイパスルートを設け、バイパ ある。
スルートに電磁弁Bを有し、
c-1 電動ポンプの作動時間を制御することに 前記電動ポンプの作動時間を制御すること
よって、淹れたいコーヒーの分量だけの によって、使用者が選択したパターンに応
水量をボイラーへ給水することができる じて別表のとおりの回数・量の給水をし、
ものであって、 ボイラーは淹れたいコーヒーの分量と同量
の水をたもちつづけない。
d-1 ボイラーで沸かした湯はスチームが発生 1回目の給水後にヒータをONにし、ボイ
する前に湯温度が90~100℃に達し ラーに給水した湯を100℃を超える温度
たときにヒータをOFFしてスチーム圧 にて沸騰させ、湯温度が約100.70℃
力を発生させない、 になった時点でヒータをOFFにする。

e-1 次に蒸らしを行うために最初にメインル 次に蒸らしを行うために最初に前記電磁弁
ートの電磁弁Aを開いて「開」時間を制 Aを開いて「開」時間を制御することによ
御することによってメインルートの給湯 ってスチーム吐出孔からドリッパーへ蒸ら
口Aからドリッパーへ蒸らしに必要な湯 しに必要な湯量を給湯したあと電磁弁Aを
量を給湯したあと、電磁弁Aを閉じて蒸 閉じて蒸らし行程に入る。
らし行程に入る、
f-1 蒸らし時間が終了したとき電磁弁Aは再 蒸らし時間が終了したとき電磁弁Aは再び
び開いてドリッパーへ給湯してコーヒー 開いてドリッパーへ給湯してコーヒーをコ
をコーヒーカップにドリップする、 ーヒーカップにドリップする。
g-1 このときドリップする分量は電磁弁Aの このときドリップする分量は電磁弁Aの
「開」時間を制御して、淹れたいコーヒ 「開」時間を制御して淹れたいコーヒー分
ー分量の約35~約65%になったとき 量の30~70%になったとき閉じて濃い
閉じて濃いコーヒーを淹れる、 コーヒーを淹れる。
h-1 次にバイパスルートの電磁弁Bを開いて 次に前記電磁弁Bを開いて「開」時間を制
「開」時間を制御することによってボイ 御することによってボイラーの湯を差し湯
ラーの湯をバイパスルートの給湯口Bか 口から直接コーヒーカップに給湯して淹れ
ら直接コーヒーカップに給湯して淹れた たい分量のコーヒーを淹れる。
い分量のコーヒーを淹れるコーヒーメー
カーであって、
i-1 コーヒーを淹れた後ボイラーには残湯が 以上のコーヒー淹れ方行程が完了したとき
残っていないことを特徴とする、 ボイラーに約9mLの残湯が残っている。
j-1 このような淹れ方行程を制御する制御回 以上のコーヒーの淹れ方行程を制御する制
路を備えたドリップ式電気コーヒーメー 御回路を備えたドリップ式電気コーヒーメ
カー。 ーカー。

k-1 テイストダイヤルにデミタスを設けて、 テイストダイヤルの一つにデミタスを設け
デミタスのテイストを選択したとき給湯 て、使用者がデミタスを選択したとき、差
口Bからコーヒーカップへ給湯しない濃 し湯口からコーヒーカップへ給湯しない濃
いコーヒーの淹れ方を選択できる上記構 いコーヒーの淹れ方を選択できる上記記載
成a-1ないしj-1からなるドリップ のドリップ式電気コーヒーメーカー。
式電気コーヒーメーカー。

2 本件発明2
原告の主張 被告の主張
a-2 水タンクとボイラーの間に配置した電動 水タンクとボイラーの間に配置した電動ポ
ポンプと、湯を容易に自然落下させるた ンプと、湯を容易に自然落下させるために
めに、上から下へ鉛直にボイラーとドリ 上位から下位へ鉛直的にボイラーとドリッ
ッパーとコーヒーカップを配置し、
(※a- パーとコーヒーカップを配置し、
1 に同じ)
b-2 ボイラーとドリッパーとの間に、メインル ボイラーとドリッパーの間に配置した電磁
ートを配置し、メインルートに電磁弁Aを 弁Aと、ボイラーとコーヒーカップの間に
設けるとともに、ボイラーとコーヒーカッ 配置した電磁弁Bを有している。
プとの間にバイパスルートを設け、バイパ
スルートに電磁弁Bを有し、(※b-1 に同
じ)
c-2 電動ポンプの作動時間を制御することに 電動ポンプの作動時間を制御することによ
よって、淹れたいコーヒーの分量だけの って、使用者が選択したパターンに応じて
水量をボイラーへ給水することができる 別表のとおりの回数・量の給水をし、ボイ
ものであって、
(※c-1 に同じ) ラーに給水した水を湯沸かしすることがで
きるが、ボイラーは淹れたいコーヒーの分
量と同量の水をたもちつづけない。
d-2 ボイラーで沸かした湯は蒸らしを行うた 1回目にボイラーに給水した水を100℃
めに、メインルートに設けた電磁弁Aを を超える温度にて沸騰させ、その湯によっ
開いて「開」時間を制御することによって て最初に蒸らしを行うために電磁弁Aを開
メインルートに設けた給湯口Aからドリ いて「開」時間を制御することによってス

ッパーへ蒸らしに必要な湯量を給湯した チーム吐出口からドリッパーへ蒸らしに必
あと電磁弁Aを閉じて蒸らし行程に入 要な湯量を給湯したあと電磁弁Aを閉じて
る、 蒸らし行程に入る。
e-2 被告製品は蒸らし時間を終了したとき電 次に蒸らし時間が終了したとき電磁弁Aは
磁弁Aを再び開いてドリッパーへ給湯し 再び開いてドリッパーへ給湯してコーヒー
てコーヒーをコーヒーカップにドリップ をコーヒーカップにドリップする。
する、
f-2 このときドリップする分量は電磁弁Aの このとき電磁弁Aの「開」時間を制御して
「開」時間を制御して、淹れたいコーヒー ドリップする分量が淹れたいコーヒー分量
分量の約35~約65%になったとき閉 の30~70%になったとき閉じて濃いコ
じて濃いコーヒーを淹れる、(※g-1 に同 ーヒーを淹れる。
じ)
g-2 次にバイパスルートの電磁弁Bを開いて 次に電磁弁Bを開いて「開」時間を制御す
「開」時間を制御することによってボイ ることによってボイラーの湯を差し湯口か
ラーの湯をバイパスルートの給湯口Bか ら直接コーヒーカップに給湯して淹れたい
ら直接コーヒーカップに給湯して淹れた 分量のコーヒーを淹れることができる。
い分量のコーヒーを淹れるコーヒーメー
カーであって、
(※h-1 に同じ)
h-2 ボイラーはヒータを内蔵してボイラー容 ボイラーに設けられたヒータは、ボイラー
器の底面にヒータを固定して、その中空 容器の底面に沿う形でボイラー底部を2周
にヒータを浮かし、ボイラー容器の底面 する上面視円状に構成され、ボイラーの底
にメインルートにつながる給湯孔Aとバ に固定され、ボイラー容器の底面には給湯
イパスルートにつながる給湯孔Bを設け 孔Aと給湯孔Bが設けられている。
る、

i-2 ボイラーの容積は1コーヒーカップの淹 ボイラーの容積は最大330mLである
れたいコーヒー分量に必要な容積があ が、マグサイズを選択した場合に1杯のコ
り、コーヒーを淹れた後ボイラーには残 ーヒーを淹れるために必要な水の容積(2
湯が残っていない、 50mL)の全量を一度に給水してたもち
つづけることができる容積を有していな
い。レギュラーサイズ、マグサイズのいず
れを選択した場合であっても、コーヒーの
淹れ方行程が完了したときには、約9mL
の残湯が残る、
j-2 ボイラーへ給水するときや湯沸かしする また1回目の給水の湯沸かしをするとき
ときにボイラー内に圧力が発生しないよ に、ボイラー内に、水を100℃を超える
うにボイラー容器の上部に設けられた蓋 温度にて沸騰させることによってスチーム
に通気のための排気孔を設ける、 が発生し、このスチームによる圧力が発生
する。発生したスチームを吐出するために
ボイラー容器の上部にスチーム排出孔が設
けられている。
k-2 排気孔はボイラーの湯が自然落下によっ またスチーム排出孔はボイラーの湯が自然
て給湯されるときに吸気してボイラー内 落下によって給湯されるときに吸気してボ
が負圧になることを防止する、 イラー内が負圧になることを防止する。
l-2 排気孔は排気ホースに連接されて、器体 さらにスチーム排出孔はスチームルートに
の給湯口近傍に設けられたバッファー穴 連接されて器体の内部にあるバッファーの
に導かれている、 さらに内側に設けられたスチーム吐出口及
び吸気口に導かれる。
m-2 家庭用のドリップ式の電気コーヒーメー 家庭用のドリップ式の電気コーヒーメーカ
カー。 ー。

(別表)
レギュラーカップ
クリア マイルド ストロング デミタス
コール ホット コール ホット コール ホット コール ホット
ド ド ド ド
給水量(1 回 +139 +120 +139 +120 +139 +120 +100 +95
目)
スチーム量 -2 -2 -2 -2 -2 -2 -2 -2
給水量(2 回 0 +11 0 +11 0 +11 0 +5
目)
蒸らし -35 -35 -35 -35 -35 -35 -35 -35
給水量(3 回 +11 +21 +11 +21 +11 +21 0 0
目)
ドリップ量 -32 -32 -51 -51 -77 -77 -63 -63
差し湯量 -81 -83 -62 -64 -36 -38 0 0
マグカップ
クリア マイルド ストロング デミタス
コール ホット コール ホット コール ホット コール ホット
ド ド ド ド
給水量(1 回 +139 +120 +139 +120 +139 +120 +139 +120
目)
スチーム量 -2 -2 -2 -2 -2 -2 -2 -2
給水量(2 回 0 +20 0 +20 0 +20 0 +20
目)
蒸らし -45 -45 -45 -45 -45 -45 -45 -45
給水量(3 回 +143 +143 +143 +143 +143 +143 +18 +18
目)
ドリップ量 -76 -76 -113 -113 -163 -163 -111 -111
差し湯量 -159 -159 -122 -122 -72 -72 0 0

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