知財判決速報/裁判例集知的財産に関する判決速報,判決データベース

ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 令和7(行ケ)10073 審決取消請求事件

この記事をはてなブックマークに追加

令和7(行ケ)10073審決取消請求事件

判決文PDF

▶ 最新の判決一覧に戻る

裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所
裁判年月日 令和8年2月10日
事件種別 民事
当事者 原告興和株式会社
被告東亜薬品株式会社
対象物 医薬製剤
法令 特許権
特許法29条2項1回
キーワード 審決21回
無効9回
進歩性5回
特許権2回
刊行物2回
優先権2回
無効審判1回
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 本件は、特許権者である原告が、特許を無効とした審決の取消しを求める事 案である。争点は、進歩性に関する判断の誤りである。

▶ 前の判決 ▶ 次の判決 ▶ 特許権に関する裁判例

本サービスは判決文を自動処理して掲載しており、完全な正確性を保証するものではありません。正式な情報は裁判所公表の判決文(本ページ右上の[判決文PDF])を必ずご確認ください。

判決文

令和8年2月10日判決言渡
令和7年(行ケ)第10073号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 令和7年12月18日
判 決
原 告 興 和 株 式 会 社
同訴訟代理人弁理士 中 嶋 俊 夫
高 野 登 志 雄
10 中 嶋 真 也
被 告 東 亜 薬 品 株 式 会 社
同訴訟代理人弁護士 古 城 春 実
15 牧 野 知 彦
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
20 第1 請求
特許庁が無効2023-800005号事件について令和7年6月18日に
した審決のうち、特許第6244038号の請求項1から7まで、9及び10
に係る部分を取り消す。
第2 事案の概要
25 本件は、特許権者である原告が、特許を無効とした審決の取消しを求める事
案である。争点は、進歩性に関する判断の誤りである。
1 特許庁における手続の経緯等(当事者間に争いがないか、又は当裁判所に顕
著な事実)
⑴ 原告は、平成27年9月25日、発明の名称を「医薬製剤」とする発明に
ついて、特許出願(特願2016-550378号。出願日:平成27年9
5 月25日、優先権主張日:平成26年9月25日(以下「本件優先日」とい
う。)、優先権主張国:日本)をし、平成29年11月17日、特許権の設定
登録(特許第6244038号。請求項の数10。以下、この特許を「本件
特許」という。)を受けた。
⑵ 被告は、令和5年1月13日、本件特許につき、無効審判を請求した(無
10 効2023-800005号)。
原告は、令和6年10月28日、同事件において、本件特許の特許請求の
範囲を訂正する旨の訂正(以下「本件訂正」という。)を請求した(訂正後の
請求項の数9。請求項8は削除。)。
特許庁は、令和7年6月18日、本件訂正を認めた上で、
「特許第6244
15 038号の請求項1~7、9、10に係る発明についての特許を無効とする。
特許第6244038号の請求項8に係る発明についての本件審判の請求を
却下する。」との審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は、同月
30日、原告に送達された。
⑶ 原告は、同年7月28日、本件審決のうち本件特許の請求項1から7まで、
20 9及び10に係る部分の取消しを求める本件訴訟を提起した。
2 特許請求の範囲及び本件明細書の記載
本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1から7まで、9及び10の記載は、
別紙1「本件訂正後の特許請求の範囲」のとおりであり(以下、本件訂正後の
請求項1から7まで、9及び10に係る発明を請求項の番号に応じて「本件訂
25 正発明1」等といい、これらを併せて「本件各訂正発明」という。甲81)、本
件特許に係る明細書(以下「本件明細書」という。)の記載は、別紙2(本件特
許に係る特許公報。甲1)に記載のとおりである。
3 本件審決の理由の要旨
上記審判手続において主張された無効理由のうち、無効理由3-2、4及び
5(甲2を主引用例とする進歩性欠如)の無効理由についての判断の要旨は、
5 次のとおりである。
⑴ 甲2に記載された発明
本件優先日前に頒布された刊行物である甲2(Current Eye Research,2014
年,Vol.39,No.8,pp.813-822)には、次の発明が記載されていると認められる。
ア 下記の構造式で表されるK-115を含有する局所点眼液(以下「甲2
10 発明1」という。)。

イ 下記の構造式で表されるK-115を、K-115点眼薬のビヒクルに
溶解させる工程からなる、K-115を含有する局所点眼液製造方法(以
下「甲2発明2」という。)。

⑵ 本件訂正発明1について
ア 本件訂正発明1と甲2発明1との一致点・相違点(なお、本件審決が認
定した相違点3に関する容易想到性の判断については、当事者間に争いが
5 ないため、記載を省略する。)
(一致点)
リパスジル若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含有する組成物。
(相違点1)
本件訂正発明1は、組成物が「水性組成物」であるのに対し、甲2発明
10 1では、対応する事項が特定されていない点。
(相違点2)
本件訂正発明1は、組成物が、
「一次包装体に収容されてなり、前記一次
包装体の内表面の総面積に対し50%以上の部分が、波長300~335
nmの光線の透過率の平均値が10%以下となるように当該光線を
15 遮断するものであり、前記平均値は、波長300~335nmの範囲内に
おいて0.5nm毎に空気中での包装体の光透過率を分光光度計で測定し
た後にその平均値を算出することにより測定される値である、医薬製剤」
であるのに対し、甲2発明1では、対応する事項が特定されていない点。
イ 相違点1について
20 甲2には、様々な濃度のK-115を組換えROCKという酵素ととも
にTris-HCl緩衝液(pH7.5)中でインキュベートすることに
よって、組換えROCKに対する50%阻害濃度(IC 50 )を決定したこ
と、K-115が選択的かつ強力なROCK阻害剤であって、動物実験に
おいて眼圧を低下させる効果が確認されたことが記載されている。ここで、
5 Tris-HCl緩衝液(pH7.5)は、トリスヒドロキシメチルアミ
ノメタンと塩酸を含む水性組成物であって、当該分野において生体分子を
用いる実験においてよく用いられる緩衝液であることは、当業者に明らか
な技術的事項である。そうすると、甲2に接した当業者は、甲2に記載さ
れたK-115は水性組成物となりうるもので、水性組成物中にあること
10 でROCK阻害活性(眼圧低下効果)を発揮する化合物であると理解する。
他方、甲2にはK-115を含む組成物が油性組成物であることは記載
されておらず、K-115を含む組成物を油性組成物とすることが技術常
識であったという事情も見当たらない。
したがって、甲2に記載されたK-115を含む組成物は、動物実験で
15 用いられた組成物も含めて、いずれも水性組成物であると解することが相
当であるから、相違点1は、実質的な相違点ではない。
相違点1が実質的な相違点であるとしても、甲2には、K-115が水
性組成物中でROCK阻害活性を示すことが記載されているから、当業者
は、相違点1に係る本件訂正発明1の構成に容易に到達し得た。
20 ウ 相違点2について
リパスジルを有効成分とする点眼薬という製剤として薬事承認を受ける
ためには、当業者には、リパスジルが曝光の影響を受けないことを実証で
きる点眼剤用容器を選択しようとする動機付けがある。
容器の遮光性は、一次包装体である容器自体に紫外線吸収剤や紫外線散
25 乱剤等の紫外線の透過を妨げる物質を添加した熱収縮フィルムを、容器外
側面に巻き付ける方法等で実現できるものであるし、本件明細書を見ても、
本件訂正発明1における「一次包装体の内表面の総面積に対し50%以上」
及び「波長300~335nmの光線の透過率の平均値が10%以下」と
いう数値限定に臨界的意義があるとはいえない。
容器全体又は一次包装体の約70%の部分において波長300~335
5 nmの光線の透過率の平均値が10%以下となるように当該光線を遮断
する容器は、本件優先日前から容易に入手可能であって、当業者が通常用
いていたものである。
そうすると、当業者は、甲2発明1において、リパスジルを有効成分と
する点眼薬に用いる容器の材質として、種々の材質を検討し当業者に容易
10 に入手可能なものとして流通していた波長300~335nmを含む紫
外線の透過が抑制された容器を選択し、相違点2に係る本件訂正発明1の
構成に容易に到達し得た。
エ 効果について
遮光保存をうたっていない点眼薬についても、直射日光を避けるなどの
15 遮光保存が求められるものであって、薬物がどの波長に特に不安定かによ
り、適切な遮光波長特性を持つ点眼瓶や遮光袋の選択がなされることが一
般的であったことから、当業者は薬物の安定性を損なう光の波長が存在し
得ることを認識していたといえる。300nm以上の波長の光線を照射す
るD65蛍光ランプや白色蛍光灯を光源として積算照射量が120万l
20 ux・hrとなるように照射するという条件は、薬事承認を受けるために
求められる薬物の光に対する安定性を評価するための周知の条件の一つ
である。そうすると、300nm以上の波長の光線を照射するD65蛍光
ランプや白色蛍光灯を光源として積算照射量が120万lux・hrとな
るように照射した場合において、300nm以上の波長の光をある程度遮
25 断できる容器に収容することによって、透明の容器に収容した場合より光
による劣化を抑制できるという本件明細書に記載された効果は、当業者が
予測し得る程度の効果である。
また、リパスジルを有効成分とする点眼薬という製剤として薬事承認を
受けるためには、当業者は容器の材質を検討して特定した製剤の安定性試
験を行う必要があるから、当業者が必ず行う製剤の光安定性試験によって
5 おのずと明らかになる性質を確認したにすぎない。
したがって、本件明細書に記載された効果は、本件訂正発明1の進歩性
の存在を推認できるような効果とまではいえない。
⑶ 本件訂正発明2から7までについて
本件訂正発明2から7までは、本件訂正発明1を更に特定するものである
10 ところ、当業者は、甲2発明1において、リパスジルを有効成分とする点眼
薬に用いる容器の材質として、種々の材質を検討し、当業者に容易に入手可
能なものとして流通していた内部が視認可能であるスリットを有するポリ
オレフィン系樹脂製容器やポリエステル系樹脂製容器を選択し、また、紫外
線の透過を妨げる物質を含有する部材や袋を備えるものとして、本件訂正発
15 明2から7までの構成に容易に到達し得た。そして、その効果も格別なもの
とはいえない。
⑷ 本件訂正発明9について
ア 本件訂正発明9と甲2発明2との一致点・相違点(なお、本件審決が認
定した相違点6に関する容易想到性の判断については、当事者間に争いが
20 ないため、記載を省略する。)
(一致点)
リパスジル若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含有する組成物を
容器に収容する工程を含む、方法。
(相違点4)
25 本件訂正発明9は、組成物が「水性組成物」であるのに対し、甲2発明
2では、対応する事項が特定されていない点。
(相違点5)
「容器に収容する工程を含む、方法」について、本件訂正発明9では容
器が「前記一次包装体の内表面の総面積に対し50%以上の部分が、波
長300~335nmの光線の透過率の平均値が10%以下となるように
5 当該光線を遮断するものであり、前記平均値は、波長300~335nm
の範囲内において0.5nm毎に空気中での包装体の光透過率を分光光度
計で測定した後にその平均値を算出することにより測定される値である」
「一次包装体」であり、方法が「水性組成物中での光安定性を向上させる
方法」であるのに対し、甲2発明2では、容器の材質が特定されない「局
10 所点眼液製造方法」である点。
イ 相違点4について
前記⑵イ(相違点1)と同様にして、相違点4は、実質的な相違点では
ないか、実質的な相違点であるとしても、当業者は、相違点4に係る本件
訂正発明9の構成に容易に到達し得た。
15 ウ 相違点5について
相違点5のうち、容器に関する部分については、リパスジルを有効成分
とする点眼薬という製剤として薬事承認を受けるためには、当業者には、
リパスジルが曝光の影響を受けないことを実証できる点眼剤用容器を選
択しようとする動機付けがあるし、容器全体又は一次包装体の約70%の
20 部分において波長300~335nmの光線の透過率の平均値が10%
以下となるように当該光線を遮断する容器は、本件優先日前から容易に入
手可能であって、当業者が通常用いていたものである。
また、相違点5のうち、
「水性組成物中での光安定性を向上させる方法」
の部分については、本件明細書の試験例7及び9には、リパスジルを含有
25 する水性組成物をポリエチレン(PE)製、ポリプロピレン(PP)製等
のポリオレフィン系樹脂製容器やポリエチレンテレフタレート(PET)
製等のポリエステル系樹脂製容器に収容した場合に、リパスジルの保存安
定性が優れることが記載されていることから、相違点5の「光安定性を向
上させる方法」は、上記の当業者が通常用いていた容器を用いることに
よっておのずと達成されるものであるといえる。
5 そうすると、当業者は、甲2発明2において、リパスジルを有効成分と
する点眼薬に用いる容器の材質として、種々の材質を検討し、当業者に容
易に入手可能なものとして流通していた波長300~335nmを含む
紫外線の透過が抑制された容器を選択し、相違点5に係る本件訂正発明9
の構成に容易に到達し得た。
10 エ 効果について
前記⑵エ(効果)と同様にして、本件明細書に記載された効果は、いず
れも「光安定性を向上させる方法」に係る本件訂正発明9の進歩性の存在
を推認できるような効果とまではいえない。
⑸ 本件訂正発明10について
15 ア 本件訂正発明10と甲2発明2との一致点・相違点(なお、本件審決が
認定した相違点9に関する容易想到性の判断については、当事者間に争い
がないため、記載を省略する。)
一致点及び相違点7は本件訂正発明9の一致点及び相違点4(前記⑷ア)
と同様であり、その余の相違点は以下のとおりである。
20 (相違点8)
「容器に収容する工程を含む、方法」について、本件訂正発明10では、
容器が「前記一次包装体の内表面の総面積に対し50%以上の部分が、
波長300~335nmの光線の透過率の平均値が10%以下となるよう
に当該光線を遮断するものであり、前記平均値は、波長300~335n
25 mの範囲内において0.5nm毎に空気中での包装体の光透過率を分光光
度計で測定した後にその平均値を算出することにより測定される値である」
「一次包装体」であり、方法が「リパスジル若しくはその塩又はそれらの
溶媒和物の保存方法」であるのに対し、甲2発明2では、容器の材質が特
定されない「局所点眼液製造方法」である点。
イ 相違点8について
5 前記⑵ウ(相違点2)と同様にして、当業者は、甲2発明2において、
リパスジルを有効成分とする点眼薬に用いる容器の材質として、種々の材
質を検討し、当業者に容易に入手可能なものとして流通していた波長30
0~335nmを含む紫外線の透過が抑制された容器を選択し、相違点8
に係る本件訂正発明10の構成に容易に到達し得た。
10 ウ 効果について
前記⑵エ(効果)と同様にして、本件明細書に記載された効果は、いず
れも「保存方法」に係る本件訂正発明10の進歩性の存在を推認できるよ
うな効果とまではいえない。
⑹ 結論
15 以上のとおり、本件各訂正発明は、いずれも甲2に記載された発明及び周
知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、本件各訂正発明に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反し
てされたものであるから、同法123条1項2号に該当し、無効とすべきも
のである。
20 第3 原告主張の審決取消事由
1 取消事由1(本件訂正発明1と甲2発明1の相違点に関する容易想到性及び
顕著な効果の判断の誤り)
⑴ 相違点1についての判断の誤り
甲2には、K-115をウサギ及びサルに局所点眼した動物試験(in vivo
25 試験)で使用したサンプルの溶媒種に関する記載は一切ない。Tris-H
Cl緩衝液(pH7.5)については、組み換えROCKに対する50%阻
害濃度を決定する試験(in vitro 試験)のインキュベートに使用したという
言及があるのみであり、この実験の条件は、動物実験に使用するサンプルの
溶媒種を決定するというようなものではない。また、Tris-HCl緩衝
液(pH7.5)のように生体分子を用いる実験によく用いられるものが、
5 動物やヒトに点眼するときの溶媒として必ずしも使用されるというわけでは
ない。
甲2は、K-115点眼液が新規かつ強力な緑内障治療薬となることを専
ら示唆するのみであり、動物実験に用いた溶媒種の記載については一切文献
中に記載されておらず、ましてや、水性組成物とすることとROCK阻害活
10 性との関連については何の記載も示唆もないのであるから、K-115を含
む組成物が、動物実験で用いられた組成物も含めて、いずれも水性組成物で
あると解することが相当であるとして、相違点1は実質的な相違点ではない
か、実質的な相違点であるとしても相違点1に係る本件訂正発明1の構成に
容易に到達し得たとする本件審決の判断は誤りである。
15 ⑵ 相違点2についての判断の誤り
ア 甲2には具体的な処方が記載されていないから、甲2に接した当業者が
甲2発明1に基づき薬事承認を受けようとするならば、まず処方の検討が
必要である。点眼薬の安定性の確保は、原則として処方設計を中心に行わ
れるべきであるから(甲12)、当業者としては、処方設計により安定性を
20 確保しようとする方がはるかに自然であり、甲2に接した当業者において、
リパスジルが曝光の影響を受けないことを実証できる点眼剤用容器を選
択しようとする動機付けはない。遮光による安定性確保は、光による影響、
すなわち曝光による安定性低下が処方設計により十分に解決できなかっ
た場合に採用される手段であり、薬事承認を受ける際に何らかの容器に収
25 容することが仮に必要であるとしても、リパスジルを含有する水性組成物
を、本件訂正発明1の「内表面の総面積に対し50%以上の部分が、波長
300~335nmの光線の透過率の平均値が10%以下となるように
当該光線を遮断する、一次包装体」に収容することに当業者が着目するこ
とはない。
イ 新有効成分含有医薬品の製造承認申請における安定性試験で分解生成物
5 が1.0%以上存在する場合には、構造決定や安全性確認が必要になるこ
とがあるものであるところ、下記図A(甲77図A)のとおり、120万
lux・hrの光線を照射した場合、波長300~335nmの光線の透
過率の平均値が0.3%の場合は類縁物質量が0.28%(本件明細書・
試験例6)、同平均値が7.2%の場合は同物質量が0.55%(本件明細
10 書・試験例5)、同平均値が13.7%の場合は同物質量が1.71%(甲
77・追加比較例1)、同平均値が28.0%の場合は同物質量が2.93%
(甲77・追加比較例2)である。このとき、試験例5と追加比較例1の
プロット間を結ぶ線(赤)の傾きは、試験例6と試験例5のプロット間を
結ぶ線(緑)の傾きの約4.6倍、追加比較例1と追加比較例2のプロッ
15 ト間を結ぶ線(青)の傾きの約2倍の値となる。このように、波長300
~335nmの光線の透過率の平均値10%近傍で類縁物質量が大きく
変わり、上記透過率の平均値が10%以下であるときに類縁物質量が1.
0%未満になるということが図Aからはっきりと読み取れるから、「波長
300~335nmの光線の透過率の平均値が10%以下」という数値限
20 定には臨界的意義がある。

追加比較例2

試験例5
試験例6 追加比較例1

甲77(実験成績証明書)図A
(原告においてプロットの補足説明及びプロット間を結ぶ線を追加したもの)
5 ウ 本件審決は、容器全体又は一次包装体の約70%の部分において波長30
0~335nmの光線の透過率の平均値が10%以下となるように当該光線
を遮断する容器は、本件特許の優先日前から容易に入手可能であって、当業
者が通常用いていたと認定したが、この認定は、本件訂正発明1の解決手段
の一部(波長300~335nmの光線の透過率の平均値)を見た後で、こ
10 れに近づけるように無理やり甲14の技術を理解・認定したものであって、
後知恵に該当し失当である。
また、紫外線吸収剤を配合した容器や遮光袋などの遮光手段を設けた容器
が、請求項1で特定する「内表面の総面積に対し50%以上の部分が、波長
300~335nmの光線の透過率の平均値が10%以下となるように当該
光線を遮断する、一次包装体」に必ず該当するというものでは決してなく、
本件審決の、紫外線吸収剤を配合した容器や遮光袋などの遮光手段を設けた
5 容器は、優先日当時において当業者に周知の技術的事項であったとの認定は、
請求項1で特定する一次包装体を「紫外線吸収剤を配合した容器や遮光袋な
どの遮光手段」に誤って上位概念化して認定したに他ならないものである。
⑶ 顕著な効果についての判断の誤り
本件審決は、当業者は薬物の安定性を損なう光の波長が存在し得ることを
10 認識していたと認定したが、この認定は、甲12の記載が、点眼薬の液温を
大幅に上昇させ得るという直射日光の特性について述べたものにすぎないに
もかかわらず、光の波長に関連することを述べたものと曲解したものである。
本件訂正発明1は、
「波長300~335nm」という特定範囲の波長の光
線を遮断する一次包装体に収容するというものであり、300nm以上の波
15 長の光をある程度遮断できる容器に収容した場合に、曝光された場合におけ
る分解が必ず十分に抑制されるというものではないことは、甲77図Aの結
果から明らかである。
点眼薬の薬事承認を受けるために、曝光された場合に有効成分が不安定に
なる光線の波長を見出すこと又は記載することが必要という事実は一切ない。
20 2 取消事由2から7まで(本件訂正発明2から7までと甲2発明1の相違点に
関する容易想到性及び顕著な効果の判断の誤り)
本件訂正発明1に係る相違点1及び2並びに顕著な効果についての判断の
誤り(前記1)と同様である。
3 取消事由8(本件訂正発明9と甲2発明2の相違点に関する容易想到性及び
25 顕著な効果の判断の誤り)
⑴ 相違点4及び顕著な効果についての判断の誤り
本件訂正発明1に係る相違点1及び顕著な効果についての判断の誤り(前
記1⑴及び⑶)と同様である。
⑵ 相違点5についての判断の誤り
相違点5のうち、容器に関する部分については、本件訂正発明1に係る相
5 違点2についての判断の誤り(前記1⑵)と同様である。
相違点5のうち、
「水性組成物中での光安定性を向上させる方法」に関する
部分については、本件訂正発明9は、
「内表面の総面積に対し50%以上の部
分が、波長300~335nmの光線の透過率の平均値が10%以下となる
ように当該光線を遮断する、一次包装体」という特定の一次包装体への収容
10 が、リパスジルをフリー体換算で0.05~5w/v%含有する水性組成物
中のリパスジルの光安定性を向上させるという、上記特定の一次包装体の新
たな属性を見出したことに基づく、
「リパスジルをフリー体換算で0.05~
5w/v%含有する水性組成物中のリパスジルの光安定性を向上させる方法」
に関する発明であり、用途発明であるから、使用態様においても甲2発明2
15 のような試料溶液の調製方法と明確に区別されるものである。甲2、14及
び他の文献には、上記特定の一次包装体に収容することと水性組成物中のリ
パスジルの光安定性を向上させる効果との関連性については何の記載も示唆
もないから、相違点5に係る本件訂正発明9の構成に容易に到達し得たとの
認定には誤りがある。
20 4 取消事由9(本件訂正発明10と甲2発明2の相違点に関する容易想到性及
び顕著な効果の判断の誤り)
相違点7、相違点8のうち容器に関する部分及び顕著な効果については、本
件訂正発明1に係る相違点1、2及び顕著な効果についての判断の誤り(前記
1)と同様である。
25 第4 被告の反論
1 取消事由1(本件訂正発明1と甲2発明1の相違点に関する容易想到性及び
顕著な効果の判断の誤り)について
⑴ 相違点1について
本件審決は、甲2で使用されているTris-HCl緩衝液(pH7.5)
は水性組成物であるから、甲2に接した当業者はK-115は「水性組成物
5 となり得るもの」と理解すると認定しているのであって、Tris-HCl
緩衝液(pH7.5)が、動物やヒトに点眼するときの溶媒として使われる
と述べているわけではない。
⑵ 相違点2について
原告が指摘する甲12の記載は、甲12の対象が、光安定性を含めた点眼
10 薬の安定性全般であるために、そのような点眼薬の安定性全般に係る一般論
としての処方設計の重要性を述べているだけであって、むしろ、当該記載で
は、特に、光による影響についてのみ、「『遮光』により安定性を維持するこ
とも必要である。薬物がどの波長に特に不安定かにより、適切な遮光波長特
性をもつ点眼瓶や遮光袋の選択がなされることになる。」と記載されている
15 ことが重要である。この点、有効成分が決まっている状態において、光安定
性を担保するために遮光することは直接的で確実な対策として自然である一
方、処方設計は、薬物移行性や熱安定性、溶解性等様々な要素を考慮してな
されるため、これらに加えて光安定性についても処方設計により確保しよう
とすることには確実性がないばかりか、処方設計の難度をいたずらに高める
20 だけであって、処方設計によって光安定性に対策する場合には不必要な困難
性を伴うことは常識的にも理解できる事柄である。
⑶ 顕著な効果について
甲77図Aを参照しても数値限定に臨界的意義が認められない本件訂正発
明1の効果は、要するに、
「『波長300~335nmの光線』を遮断する程、
25 類縁物質の発生を抑えられる」という程度のものにすぎず、この程度の効果
は当業者が予測できる効果にすぎない。
2 取消事由2から7まで(本件訂正発明2から7までと甲2発明1の相違点に
関する容易想到性及び顕著な効果の判断の誤り)について
取消事由1に係る被告の主張と同様である。
3 取消事由8(本件訂正発明9と甲2発明2の相違点に関する容易想到性及び
5 顕著な効果の判断の誤り)について
取消事由1に係る被告の主張と同様である。
本件訂正発明9はいわゆる「用途発明」ではなく、本件審決に誤りはない。
4 取消事由9(本件訂正発明10と甲2発明2の相違点に関する容易想到性及
び顕著な効果の判断の誤り)について
10 取消事由1に係る被告の主張と同様である。
第5 当裁判所の判断
1 本件各訂正発明の概要
本件訂正後における本件特許の特許請求の範囲及び本件明細書の記載(前記
第2の2)によると、本件各訂正発明の概要は以下のとおりと認められる。
15 すなわち、眼科用剤等は、通常、水を含有する組成物(水性組成物)である
が、リパスジルを眼科用剤等として製剤化するに当たり、リパスジルの光安定
性を評価したところ、リパスジル自体は光に対して安定であるにもかかわらず、
これを水性組成物中に配合するによって光に対して不安定化し、曝光によって
徐々に分解物が増加することが明らかとなったことから、リパスジルの水性組
20 成物中での光に対する安定性を改善する技術を提供することが課題であった
(【0009】、
【0010】)。本件各訂正発明は、リパスジルを含有する水性組
成物を、300nm付近の波長の光線を遮断する包装体に収容することでこの
課題を解決し(【0011】)、光安定性の改善された医薬製剤を提供できるとい
う効果を奏するものであり(【0015】)、医薬品産業等において好適に利用で
25 きるという産業上の利用可能性を有するものである(【0110】)。
2 甲2に記載された発明及び本件各訂正発明との対比
本件優先日前に頒布された刊行物である甲2には、本件審決が認定した発明
(甲2発明1及び2)が記載されており、これと本件各訂正発明とを対比する
と、本件審決が認定した一致点及び相違点が認められる(前記第2の3⑴、⑵
ア、⑷ア、⑸ア参照)。
5 3 取消事由1(本件訂正発明1と甲2発明1の相違点に関する容易想到性及び
顕著な効果の判断の誤り)について
⑴ 相違点1について
原告は、甲2はK-115点眼液が新規かつ強力な緑内障治療薬となるこ
とを専ら示唆するのみであり、動物実験に用いた溶媒種の記載については一
10 切文献中に記載されておらず、水性組成物とすることとROCK阻害活性と
の関連については何の記載も示唆もないことなどから、本件審決が、相違点
1は実質的な相違点ではないか、実質的な相違点であるとしても相違点1に
係る本件訂正発明1の構成に容易に到達し得たと判断したことは誤りである
などと主張する。
15 そこで検討するに、甲2には、K-115によるROCK阻害活性試験(in
vitro 試験)を、Tris-HCl緩衝液(pH7.5)中でのインキュベー
トにより確認したことが記載されているから、K-115は、溶媒として水
が用いられているTris-HCl緩衝液(pH7.5)に溶解された水性
組成物の状態で上記試験が行われ、その水性組成物中でROCK阻害活性が
20 確認されたものと認められる。そうすると、当業者は、K-115は、水性
組成物となり得るものであり、水性組成物中にあることでROCK阻害活性
を発揮する化合物であると理解するということができる。
そして、甲2に記載された動物実験(in vivo 試験)では、有効成分が溶
解された局所点眼液が用いられているところ、K-115化合物の溶解性に
25 関する上記理解に加え、甲2には非水性組成物であることは記載されておら
ず、K-115を含む組成物を非水性組成物とすることが技術常識であった
という事情も見当たらないことを併せ考慮すると、甲2発明1の「K-11
5を含有する局所点眼液」が水性組成物であることは、当業者においては甲
2に記載されているのと同様であると評価できるのであり、そうでなくとも、
「K-115を含有する局所点眼液」を水性組成物とすることは当業者であ
5 れば自然に想起し得るものということができる。
したがって、相違点1は、実質的な相違点ではないか、実質的な相違点で
あるとしても、当業者は、相違点1に係る本件訂正発明1の構成に容易に到
達し得たと認められるのであり、原告の上記主張は採用することができない。
⑵ 相違点2について
10 ア リパスジルは、抗緑内障薬という点眼薬としての使用が予定されていた
化学物質であるところ(甲2)、リパスジルを有効成分とする点眼薬という
製剤として薬事承認を受けるためには、その製剤が曝光の影響を受けない
ことを実証できるまで、容器の変更と安定性試験を繰り返し行う必要があ
るから(甲7~9)、当業者には、リパスジルが曝光の影響を受けないこと
15 を実証できる点眼剤用容器を選択しようとする動機付けがあると認めら
れる。
ここで、甲12には、
「点眼薬の安定性の確保は、原則として処方設計を
中心に行われるべきであるが、特に、光による影響に対しては「遮光」に
より安定性を維持することも必要である。薬物がどの波長に特に不安定か
20 により、適切な遮光波長特性をもつ点眼瓶や遮光袋の選択がなされること
になる。」と記載されている。
原告はこの記載を根拠として、遮光による安定性確保は、「光による影
響」すなわち曝光による安定性低下が処方設計により十分に解決できな
かった場合に採用される手段であり、当業者としては、処方設計により安
25 定性を確保しようとするほうがはるかに自然であるから、甲2に接した当
業者に、リパスジルが曝光の影響を受けないことを実証できる点眼剤用容
器を選択しようとする動機付けはないと主張する。
しかし、甲12の上記記載自体からは光安定性について処方設計と遮光
との間に優先順位があることはうかがわれず、光安定性に関して処方設計
による確保が遮光による安定性確保よりも優先されるとする技術的根拠
5 も示されていない。このことに加え、製剤の光安定性試験結果の判定にお
いて、容器包装での対応と処方設計での対応に優先順位は設けられてはい
ないこと(甲7・別添1)などからすると、遮光による安定性確保が処方
設計により解決できなかった場合に採用される手段ということはできず、
甲2に接した当業者が、リパスジルが曝光の影響を受けないことを実証で
10 きる点眼剤用容器を選択しようとする動機付けがないということはでき
ない。
イ 原告は、新有効成分含有医薬品の製造承認申請における安定性試験で分
解生成物が1.0%以上存在する場合には構造決定や安全性確認が必要に
なることがあるものであるところ、甲77図Aのとおり、波長300~3
15 35nmの光線の透過率の平均値10%近傍で類縁物質量が大きく変わ
り、平均値が10%以下であるときに類縁物質量が1.0%未満になるこ
とから、「波長300~335nmの光線の透過率の平均値が10%以下」
という数値限定には臨界的意義があると主張する。
しかし、原告が指摘する甲77図Aを見ると、類縁物質の生成量が上記
20 波長の光線の透過率(以下「光透過率」ともいう。)の平均値におおむね正
比例的に増加することは理解されるが、光透過率の平均値が10%の前後
で類縁物質量の増加に顕著な差があるとは認められないから、上記の図は、
リパスジルを含有する水性組成物を収容する容器の光透過率の平均値を
低減させるほど類縁物質の生成を抑制できることを示しているものにす
25 ぎず、原告が主張する数値限定に臨界的意義があるとはいえない。
そして、新有効成分含有医薬品の製造承認申請における安定性試験で分
解生成物が1.0%以上存在する場合には構造決定や安全性確認が必要に
なることがあるのであれば、当業者は、生成する分解生成物の量等の点も
考慮して、好適な容器を選択するための通常の安定性試験を行って、
「波長
300~335nmの光線の透過率の平均値が10%以下」という数値を
5 適宜設定することができるというべきである。
ウ さらに、証拠(甲12、13、15、19、32、46、47)による
と、本件優先日当時、点眼剤容器として、ポリエチレン又はポリプロピレ
ンを材質とする容器や、これに更にラベルやシュリンクフィルムを有する
容器は、当業者が容易に入手可能なものとして流通しており、紫外線吸収
10 剤を配合した容器や遮光袋などの遮光手段を設けた容器は、本件優先日当
時において当業者に周知の技術的事項であったと認められる(なお、この
認定は甲14を根拠とするものではなく、本件訂正発明1を上位概念化し
て認定したものでもない。)。
エ 以上によると、当業者は、甲2発明1において、リパスジルを有効成分
15 とする点眼薬に用いる容器の材質として種々の材質を検討し、許容できる
類縁物質の量に応じて光透過率を適宜設定し、それに適した容器や包装を
設計することにより、相違点2に係る本件訂正発明1の構成に容易に到達
し得たと認められる。
⑶ 顕著な効果について
20 ア 本件明細書には、リパスジル1塩酸塩2水和物を含有する水性組成物に
対して、300nm以上の波長の光線を照射するD65蛍光ランプ又は白
色蛍光灯を光源として、25℃の条件下で積算照射量が120万lux・
hrとなるように照射した場合に、ポリプロピレン製の透明の容器を用い
た場合(試験例2)と比較して、300~335nmでの光透過率の平均
25 値が7.2%である紫外線吸収剤を配合したポリプロピレン製の点眼剤用
容器を用いた場合(試験例5)や、300~335nmでの光透過率の平
均値が0.3%である酸化チタンを含有するシュリンクフィルムを巻き付
け、容器側面の下半分に、幅5mm程のスリットを設け、内容物量を視認
できるようにしたポリプロピレン製の点眼剤用容器を用いた場合(試験例
6)のほうが、相対的に類縁物質が生じ難いこと、すなわち、類縁物質の
5 量の点で光安定性に優れるという効果が記載されている。
イ この効果について検討するに、甲12には、
「薬物がどの波長に特に不安
定かにより、適切な遮光波長特性をもつ点眼瓶や遮光袋の選択がなされる
ことになる。」、
「遮光保存をうたっていない製品についても、直射日光の下
に置かないほうがよいことはいうまでもない。」と記載されているから、当
10 業者は、薬物の安定性を損なう光の波長が存在し得ることを認識していた
といえる。
そして、点眼剤の薬事承認における光安定性を評価するための試験は、
D65ランプや白色蛍光灯を用いて、総照度として60万lux・hr、
120万lux・hr、240万lux・hrといった光を照射して行わ
15 れているから(甲7~9、55、60~62)、本件明細書において光に対
する安定性を評価するために設定した、300nm以上の波長の光線を照
射するD65蛍光ランプや白色蛍光灯を光源として積算照射量が120
万lux・hrとなるように照射するという条件は、薬事承認を受けるた
めに求められる薬物の光に対する安定性を評価するための周知の条件の
20 一つである。
そうすると、300nm以上の波長の光線を照射するD65蛍光ランプ
や白色蛍光灯を光源として積算照射量が120万lux・hrとなるよう
に照射した場合において、300nm以上の波長の光をある程度遮断でき
る容器に収容することによって、透明の容器に収容した場合より光による
25 劣化を抑制できるという上記の効果は、当業者が予測し得る程度の効果で
あり、当業者が必ず行う製剤の光安定性試験によっておのずと明らかにな
る性質を確認したにすぎないものである。
ウ これに対し、原告は、甲12の上記記載が、点眼薬の液温に関する記載
であり、光の波長には関連性はない旨主張するが、そのように限定して解
する根拠は見当たらない。
5 また、原告は、本件訂正発明1は、
「波長300~335nm」という特
定範囲の波長の光線を遮断する一次包装体に収容するというものであり、
300nm以上の波長の光をある程度遮断できる容器に収容した場合に、
曝光された場合における分解が必ず十分に抑制されるというものではな
いことは、甲77図Aの結果から明らかである旨主張するが、このような
10 数値限定に臨界的意義がなく、当業者が適宜設定することができるという
べきものであることは、前記⑵イにおいて判示したとおりである。
さらに、原告は、点眼薬の薬事承認を受けるために、曝光された場合に
有効成分が不安定になる光線の波長を見出すこと又は記載することが必
要という事実は一切ない旨主張するが、リパスジルの水性組成物中におけ
15 る光安定性は、光に対する安定性を含む薬事承認審査の要求を満たすため
に当業者が必ず行う製剤の光安定性試験によって、おのずと明らかになる
性質なのであるから、上記の必要性とは関係がない。
⑷ 小括
以上のとおり、本件訂正発明1は、甲2発明1及び周知技術に基づいて、
20 当業者が容易に発明をすることができたものであるから、原告の取消事由1
は理由がない。
4 取消事由2から7まで(本件訂正発明2から7までと甲2発明1の相違点に
関する容易想到性及び顕著な効果の判断の誤り)について
前記3に判示したのと同様にして、本件訂正発明2から7までは、甲2発明
25 1及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであ
るから、原告の取消事由2から7まではいずれも理由がない。
5 取消事由8(本件訂正発明9と甲2発明2の相違点に関する容易想到性及び
顕著な効果の判断の誤り)について
⑴ 相違点4、相違点5のうち容器に関する部分及び顕著な効果については、
前記3に判示したとおりである。
5 ⑵ 原告は、相違点5のうち「水性組成物中での光安定性を向上させる方法」
に関する部分について、本件訂正発明9は、
「内表面の総面積に対し50%以
上の部分が、波長300~335nmの光線の透過率の平均値が10%以下
となるように当該光線を遮断する、一次包装体」という特定の一次包装体の
新たな属性を見出したことに基づく、
「リパスジルをフリー体換算で0.05
10 ~5w/v%含有する水性組成物中のリパスジルの光安定性を向上させる方
法」に関する用途発明であることを前提として、甲2、14及び他の文献に
は、上記特定の一次包装体に収容することと水性組成物中のリパスジルの光
安定性を向上させる効果との関連性については何の記載も示唆もないから、
相違点5に係る本件訂正発明9の構成に容易に到達し得たとした本件審決の
15 認定には誤りがあると主張する。
しかし、本件訂正発明9は、リパスジルを含有する水性組成物を一次包装
体に収容する工程を含むリパスジルの水性組成物中での光安定性の向上方法
であるところ、光安定性の向上は一次包装体に収容することによる通常の効
果であるから、このような効果が上記の一次包装体の新たな属性を見出した
20 ものということはできない。原告の上記主張は前提を欠くから採用すること
ができない。
⑶ よって、本件訂正発明9は、甲2発明2及び周知技術に基づいて、当業者
が容易に発明をすることができたものであるから、原告の取消事由8は理由
がない。
25 6 取消事由9(本件訂正発明10と甲2発明2の相違点に関する容易想到性及
び顕著な効果の判断の誤り)について
前記3に判示したのと同様にして、本件訂正発明10は、甲2発明2及び周
知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、
原告の取消事由9はいずれも理由がない。
7 結論
5 以上のとおり、原告が主張する取消事由はいずれも理由がない。
よって、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとお
り判決する。
知的財産高等裁判所第1部

裁判長裁判官
増 田 稔

裁判官
伊 藤 清 隆

裁判官
天 野 研 司

(別紙1)
本件訂正後の特許請求の範囲
【請求項1】
リパスジル若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含有する水性組成物が、一次
5 包装体に収容されてなり、
水性組成物中のリパスジル若しくはその塩又はそれらの溶媒和物の含有量が、水
性組成物全容量に対して、フリー体換算で0.05~5w/v%であり、
前記一次包装体の内表面の総面積に対し50%以上の部分が、波長300~33
5nmの光線の透過率の平均値が10%以下となるように当該光線を遮断するもの
10 であり、
前記平均値は、波長300~335nmの範囲内において0.5nm毎に空気中
での包装体の光透過率を分光光度計で測定した後にその平均値を算出することによ
り測定される値である、医薬製剤。
【請求項2】
15 一次包装体の内部が視認可能である、請求項1記載の医薬製剤。
【請求項3】
一次包装体が、紫外線の透過を妨げる物質を含有する容器であり、前記紫外線の
透過を妨げる物質が、前記一次包装体の内表面の総面積に対し50%以上の部分に
おいて波長300~335nmの光線の透過率の平均値が10%以下となるよう当
20 該光線を遮断するように含有されている、請求項1又は2記載の医薬製剤。
【請求項4】
一次包装体が、紫外線の透過を妨げる物質を含有する部材を備える容器である、
請求項1~3のいずれか1項記載の医薬製剤。
【請求項5】
25 一次包装体が、ポリオレフィン系樹脂製容器である、請求項1~4のいずれか1
項記載の医薬製剤。
【請求項6】
一次包装体が、ポリエステル系樹脂製容器である、請求項1~4のいずれか1項
記載の医薬製剤。
5 【請求項7】
二次包装体として、紫外線の透過を妨げる物質を含有する袋を更に備える、請求
項1~6のいずれか1項記載の医薬製剤。
【請求項8】(削除)
【請求項9】
10 リパスジル若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含有する水性組成物を、一次
包装体に収容する工程を含み、
水性組成物中のリパスジル若しくはその塩又はそれらの溶媒和物の含有量が、水
性組成物全容量に対して、フリー体換算で0.05~5w/v%であり、
前記一次包装体の内表面の総面積に対し50%以上の部分が、波長300~33
15 5nmの光線の透過率の平均値が10%以下となるように当該光線を遮断するもの
であり、
前記平均値は、波長300~335nmの範囲内において0.5nm毎に空気中
での包装体の光透過率を分光光度計で測定した後にその平均値を算出することによ
り測定される値である、リパスジル若しくはその塩又はそれらの溶媒和物の水性組
20 成物中での光安定性を向上させる方法。
【請求項10】
リパスジル若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含有する水性組成物を、一次
包装体に収容する工程を含み、
水性組成物中のリパスジル若しくはその塩又はそれらの溶媒和物の含有量が、水
25 性組成物全容量に対して、フリー体換算で0.05~5w/v%であり、
前記一次包装体の内表面の総面積に対し50%以上の部分が、波長300~33
5nmの光線の透過率の平均値が10%以下となるように当該光線を遮断するもの
であり、
前記平均値は、波長300~335nmの範囲内において0.5nm毎に空気中
での包装体の光透過率を分光光度計で測定した後にその平均値を算出することによ
5 り測定される値である、リパスジル若しくはその塩又はそれらの溶媒和物の保存方
法。

(別紙2)

最新の判決一覧に戻る

法域

特許裁判例 実用新案裁判例
意匠裁判例 商標裁判例
不正競争裁判例 著作権裁判例

最高裁判例

特許判例 実用新案判例
意匠判例 商標判例
不正競争判例 著作権判例

今週の知財セミナー (3月2日~3月8日)

来週の知財セミナー (3月9日~3月15日)

3月12日(木) - オンライン

初めての方向け JDreamⅢ体験セミナー

特許事務所紹介 IP Force 特許事務所紹介

久野特許事務所

兵庫県西宮市高木西町18番5号 特許・実用新案 意匠 商標 外国特許 外国意匠 外国商標 訴訟 コンサルティング 

角田特許事務所

〒130-0022 東京都墨田区江東橋4-24-5 協新ビル402 特許・実用新案 意匠 商標 外国特許 外国意匠 外国商標 訴訟 鑑定 コンサルティング 

デライブ知的財産事務所

〒210-0024 神奈川県川崎市川崎区日進町3-4 unicoA 303 特許・実用新案 意匠 商標 外国特許 外国意匠 外国商標 訴訟 鑑定 コンサルティング