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令和5(ワ)70207損害賠償請求事件

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裁判所 請求棄却 東京地方裁判所
裁判年月日 令和8年2月13日
事件種別 民事
当事者 原告株式会社グッドライフ
被告株式会社ASAP A B C D E F GことG’
法令 不正競争
不正競争防止法2条1項7号5回
不正競争防止法5条2項3回
民事訴訟法232条1回
不正競争防止法4条1回
不正競争防止法2条1項8号1回
キーワード 損害賠償13回
無効4回
侵害1回
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 1 事案の概要 本件は、不動産事業を営む原告が、不動産事業を営む被告ASAP及び原告 の元従業員であった同被告以外の被告(以下「被告従業員ら」という。 )に対 し、被告従業員らが、原告から示された営業秘密である別紙「営業秘密目録」 記載1及び2の各情報(以下「本件顧客情報1」などといい、 「本件各顧客情 報」と総称する。 )を被告ASAPに開示し、被告ASAPが本件各顧客情報 を使用したとして、被告従業員らの行為が、不正競争防止法2条1項7号所定 の不正競争、債務不履行及び不法行為(共同不法行為)に、被告ASAPの行 為が同法2条1項8号所定の不正競争及び不法行為(共同不法行為)に当たる と主張して、同法4条若しくは民法415条又は719条に基づく損害賠償金 合計1億8894万6000円の一部である1億0225万円及びこれに対す る不法行為以後の日又は請求の日の後の日(訴状送達の日の翌日)から支払済

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判決文

令和8年2月13日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
令和5年(ワ)第70207号 損害賠償請求事件
口頭弁論終結日 令和7年10月10日
判 決
原 告 株式会社グッドライフ
同 訴 訟代 理 人 弁 護 士 千 葉 直 人
同 諏 訪 貴 紘
10 同 木 村 洋 介
同訴訟復代理人弁護士 稲 田 瑞 穂
被 告 株 式 会 社 A S A P
(以下「被告ASAP」という。)
被 告 A
(以下「被告A」という。)
20 被 告 B
(以下「被告B」という。)
被 告 C
(以下「被告C」という。)
被 告 D
(以下「被告D」という。)
被 告 E
(以下「被告E」という。)
被 告 F
(以下「被告F」という。)
被 告 GことG’
10 (以下「被告G」という。)
上記8名訴訟代理人弁護士 澤 井 康 生
主 文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
15 事 実 及 び 理 由
第1 請求
被告らは、原告に対し、連帯して1億0225万円並びにこれに対する被告
ASAP、被告G及び被告Fについては令和5年5月26日から、被告C及び
被告Dについては同月27日から、被告Eについては同月29日から、被告B
20 については同月30日から、被告Aについては同月31日から各支払済みまで
年3パーセントの割合による金員を支払え。
第2 事案の概要等
1 事案の概要
本件は、不動産事業を営む原告が、不動産事業を営む被告ASAP及び原告
25 の元従業員であった同被告以外の被告(以下「被告従業員ら」という。)に対
し、被告従業員らが、原告から示された営業秘密である別紙「営業秘密目録」
記載1及び2の各情報(以下「本件顧客情報1」などといい、「本件各顧客情
報」と総称する。)を被告ASAPに開示し、被告ASAPが本件各顧客情報
を使用したとして、被告従業員らの行為が、不正競争防止法2条1項7号所定
の不正競争、債務不履行及び不法行為(共同不法行為)に、被告ASAPの行
5 為が同法2条1項8号所定の不正競争及び不法行為(共同不法行為)に当たる
と主張して、同法4条若しくは民法415条又は719条に基づく損害賠償金
合計1億8894万6000円の一部である1億0225万円及びこれに対す
る不法行為以後の日又は請求の日の後の日(訴状送達の日の翌日)から支払済
みまで同法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の連帯支払を求める
10 事案である。
2 前提事実(当事者間に争いがないか、後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容
易に認められる事実。以下、枝番号のある証拠について枝番号を記載しない場
合は、全ての枝番号を含む。)
⑴ 当事者等
15 ア 原告及び関連会社
原告は、関東圏を中心にマンションの売買等の不動産事業を営む株式会
社である。原告は、本社(以下「原告本社」という。)及び横浜支社(以
下、単に「横浜支社」という。)を有する。
株式会社グラップ(以下「グラップ」という。)は原告の子会社であっ
20 た。
イ 被告ら(甲3)
(ア) 被告ASAPは、不動産の売買等を目的とする株式会社であり、被
告Aが令和3年8月2日に設立した。代表取締役は、同年8月2日から
令和4年10月10日までは被告B、同日からは被告Aである。
25 (イ) 被告Aは、平成27年10月1日から平成30年2月9日までは原
告において、同月10日から令和2年2月末日まではグラップにおいて、
同年3月1日から原告において営業職として勤務し、令和3年8月6日
に退職した。
(ウ) 被告Bは、平成29年11月13日から令和3年7月8日までは原
告において、同月9日からはグラップにおいて事務職として勤務し、同
5 月29日に退職した。
(エ) 被告Cは、令和2年2月1日から令和3年8月31日までグラップ
において、同年9月1日からは原告において営業職として勤務し、同月
30日に退職して、同年10月1日以降被告ASAPにおいて勤務して
いる。
10 (オ) 被告Dは、令和2年3月23日から令和3年8月31日までグラッ
プにおいて、同年9月1日からは原告において営業職として勤務し、同
年12月19日に退職して、令和4年1月5日以降被告ASAPにおい
て勤務している。
(カ) 被告Eは、平成28年4月4日から原告において営業職として勤務
15 し、令和4年7月28日に退職して、同日以降被告ASAPにおいて勤
務している。
(キ) 被告Fは、令和4年4月1日から原告において勤務し、同年8月3
日に退職して、令和4年9月1日から令和5年5月頃までは被告ASA
Pにおいて勤務していた。
20 (ク) 被告Gは、平成30年2月13日から原告において勤務し、令和4
年5月11日に退職して、同年9月1日以降被告ASAPにおいて勤務
している。
⑵ 原告の就業規則(甲14。以下「原告就業規則」という。)には以下の定
めがあった。
25 ア 第19条(機密情報等の漏洩禁止)
1項 正社員は、在職中、自己の職務に関すると否とを問わず、会社の内
部事情又は業務上知り得た機密に関わる事項及び会社の不利益となる
事項を他に漏らし、又は漏らそうとしてはならない。退職後も同様と
する。
3項 正社員は会社の許可なくして、会社の業務及び職務に関連し、作成
5 した事業計画、その他の資料、顧客等の名簿その他会社の重要事項に
関わる文書等を社外に持ち出し、又は持ち出そうとしてはならず、あ
るいは複写し、又は複写しようとしてはならない。
イ 第21条(個人情報保護)
4項 退職後1年間は、会社の書面による許可なしに、東京都内で競業他
10 社の役員若しくは従業員となり、又は自ら競業する事業を営んではな
らない(以下、後記⑶イの規定と併せて「競業避止条項」という。)。
ウ 第22条(引き抜き行為の禁止)
1項 正社員は、いかなる理由があっても会社の従業員を引き抜き、又は
引き抜こうとしてはならない。
15 2項 引き抜き行為を行い、会社に損害を与えた場合はこれを賠償しなけ
ればならない。
⑶ 原告と被告A、被告B、被告E、被告F及び被告Gは、原告就職時に、大
要、以下の規定を含む秘密保持・競業禁止に関する誓約書(以下「本件各誓
約書」という。甲15~19)を作成した。
20 ア 秘密保持の誓約に関する規定
原告就業規則及びその他の規程を遵守し、次に示される原告の技術上又
は営業上の情報(以下「秘密情報」という。)について、原告の書面によ
る事前の許可なく、いかなる方法をもってしても、開示、漏洩又は使用
しないことを約束いたします。秘密情報については、原告を退職した後
25 においても、自身のため、あるいは他の事業者その他の第三者のために
開示いたしません。
顧客及び取扱い物件に関する情報
イ 競業避止義務に関する規定
原告を退職した場合、退職後3年間は、原告の書面による事前の許可を
得ることなく、東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県の1都3県で次の行
5 為を行いません。
原告と競業関係に立つ事業者に在籍、就職若しくは役員に就任すること。
ウ 引抜行為の禁止に関する規定
原告に在職中及び退職後5年間にわたり、原告の役員若しくは従業員を
勧誘し、原告からの退職を促し、あるいはその他何らの働きかけも行わ
10 ないことを約束いたします。
エ 損害賠償に関する規定
(ア) 被告A、被告E及び被告Fの誓約書
競業避止義務に関する規定又は引抜行為の禁止に関する規定に違反す
る行為を行ったときは、当該行為によって得た利益の額は、原告が被っ
15 た一切の損害を遅滞なく賠償するとともに、本件各誓約書に違反して原
告に損害を与えた場合には、原告が懲戒解雇などの懲戒処分、損害賠償
請求、刑事告訴などの法的処分をとる場合もあることを十分に理解し、
本件各誓約書を遵守することを誓います。
(イ) 被告B及び被告Gの誓約書
20 競業避止義務に関する規定又は引抜行為の禁止に関する規定に違反す
る行為を行ったときは、当該行為によって得た利益の額は、原告に生じ
た損害の額と推定されることに同意します。
⑷ 被告ASAPは、別紙「損害額一覧表」の「仕入日」欄又は遅くとも「販
売日」欄記載の日までに、「物件」欄記載の物件(以下、番号欄の番号に従
25 って「本件物件1」などといい、「本件各物件」と総称する。)を、「顧客」
欄記載の所有者から購入した(同別紙記載の顧客及び物件は、別紙「顧客・
物件リスト」記載の顧客及び物件と同じである。)。
3 争点
⑴ 不正競争防止法4条に基づく損害賠償請求
ア 本件各顧客情報が「営業秘密」に該当するか(争点1)
5 イ 被告ASAPが本件各顧客情報を使用したか(争点2)
ウ 被告Eが本件顧客情報1を被告ASAPに開示したか(争点3)
エ 被告Eが原告本社の見込帳と呼ばれるノート(以下「見込帳」という。)
に記載されていた本件顧客情報2を被告ASAPに開示したか(争点4)
オ 被告A、被告C及び被告Dが、横浜支社の見込帳に記載されていた本件
10 顧客情報2を被告ASAPに開示したか(争点5)
カ 被告従業員らが、被告従業員らの記憶に残っていた本件各顧客情報を被
告ASAPに開示し、又は使用したか(争点6)
キ 不正競争防止法5条2項により推定される原告の損害額(争点7)
⑵ 債務不履行に基づく損害賠償請求
15 ア 被告従業員らが労働契約上の秘密保持義務に違反したか(争点8)
イ 被告従業員らが労働契約上の競業避止義務に違反したか(争点9)
ウ 競業避止条項が公序良俗に違反し、無効であるか(争点10)
エ 被告Aが労働契約上の引抜行為禁止義務に違反したか(争点11)
オ 債務不履行による原告の損害の発生及びその額(争点12)
20 ⑶ 不法行為に基づく損害賠償請求
ア 被告らの共同不法行為の成否(争点13)
イ 共同不法行為による原告の損害の発生及びその額(争点14)
4 争点に関する当事者の主張
⑴ 争点1(本件各顧客情報が「営業秘密」に該当するか)について
25 (原告の主張)
ア 営業秘密の保有
(ア) 本件顧客情報1は原告本社の顧客管理システム(以下「原告本社シ
ステム」という。)に記録されていた。
(イ) 本件顧客情報2は、原告本社又は横浜支社の営業担当者が作成した
見込帳に記録されていた。これらの見込帳は持ち出されたため、見込帳
5 の冊数及び記載内容、どの見込帳にどの顧客情報が記載されていたかな
どを具体的に特定することはできない。
イ 秘密管理性
(ア) 本件各顧客情報は、「業務上知り得た機密に関わる事項」(原告就業規
則19条1項)及び「顧客等の名簿その他会社の重要事項に関わる文書
10 等」(同条3項)に該当するとともに、「顧客及び取扱い物件に関する情
報」(本件各誓約書)に該当し、本件各顧客情報の漏洩、複写及び社外
への持出しは禁止されていた。
(イ) 原告本社システムへのアクセスには、原告本社のインサイドセールス
課(以下、単に「インサイドセールス課」という。)の従業員40~5
15 0名程度に付与されるID及びパスワードが必要とされていた。
(ウ) 見込帳については、原告本社及び令和3年9月以降の横浜支社のいず
れにおいても、使用中は、各営業担当者が机の施錠可能な引出しで管理
され、使用の終了後は、施錠可能な共用スペースのキャビネットで管理
されていた。これらはいずれも終業時に施錠するものとされ、原告本社
20 では、被告Eが、令和3年5月1日から原告を退職した令和4年7月2
8日までの間その鍵を保有して管理していた。
(エ) 以上によれば、本件各顧客情報は秘密として管理されていたものとい
える。
ウ 有用性
25 本件各顧客情報は、原告が多大な費用及び時間を投じて電話営業を行い、
成約の見込みがある顧客の情報を収集及び分析したものであり、原告及
び被告ASAPは、いずれも一般消費者から物件を買い取り、転売する
というビジネスモデルを採用しており、成約の見込みのある顧客情報は、
原告及び被告ASAPにおける営業活動の効率を高めるものであるから、
有用性がある。
5 エ 非公知性
本件各顧客情報は、原告が多大な費用及び時間を投じて電話営業を行
い、成約の見込みがある顧客の情報を収集及び分析したものであり、登
記情報等を除き、公然と知られていないものである。
したがって、本件各顧客情報について、非公知性が認められる。
10 オ 以上によれば、本件各顧客情報について、秘密管理性、有用性及び非公
知性が認められるから、「営業秘密」に該当する。
(被告らの主張)
ア 営業秘密の保有
原告が本件各顧客情報を保有していたことは不知。
15 イ 秘密管理性
(ア) 原告本社システムのアクセスに原告の営業担当者のID及びパスワ
ードが必要であったことは認めるが、営業担当者であれば誰でもアク
セスできるもので、他に秘密管理措置は取られていなかった。
(イ) 見込帳には、外見上営業秘密であると分かるような記載はなかった。
20 また、営業担当者は、見込帳を使用して営業活動をしている間は、見
込帳を机の引出し、机上及びロッカーで個別に保管していたのであり、
施錠可能なキャビネット等に見込帳をまとめて保管していたことはな
い。もっとも、終了した営業活動が記載されている見込帳は、施錠可
能なキャビネットにまとめて保管されていた。
25 (ウ) 以上によれば、本件各顧客情報は、秘密として管理されていたもの
とはいえない。
ウ 有用性
本件各顧客情報は、名簿業者等から仕入れた不動産所有者の一覧表に、
原告において営業の電話をかけた経過に係る記録を付加したものにすぎ
ない。
5 したがって、本件各顧客情報は、原告の営業活動にとって極めて重要
な取引を現にしており、今後も継続的な取引を期待することができる顧
客に関する情報ではなく、単に取引勧誘の対象となり得る顧客に関する
情報にとどまっており、有用性があるとはいえない。
エ 非公知性
10 本件各顧客情報の元となる不動産所有者の一覧表は、名簿業者や不動
産会社の間で出回っているものである。原告は、当該一覧表に、営業の
電話をかけた際の他愛のない会話内容を記録しているにすぎない。
したがって、本件各顧客情報について、非公知性は認められない。
オ 以上によれば、本件各顧客情報について、秘密管理性、有用性及び非公
15 知性が認められないから、「営業秘密」に該当しない。
⑵ 争点2(被告ASAPが本件各顧客情報を使用したか)について
(原告の主張)
ア 被告ASAPは、効率的に営業電話をかけることができるコールシステ
ムも使用せずに、令和3年10月から令和4年7月までの間に、被告A、
20 被告C及び被告Dというわずか3名の人員で63件の物件について成約し
ている(乙27)のであり、その成約率は異常に高い。
一般に流通する名簿に含まれる情報は膨大であり、重複もあるから、名
簿から物件の所有者を抽出し、その上で、成約には、長期間の多数回にわ
たる営業電話による接触が必要である。被告ASAPが、本件各顧客情報
25 を使用せず、一般に流通する名簿を使用して、原告が見込顧客として接触
していた本件各顧客情報に係る物件の所有者とばかり成約したというのは
不自然である。
以上に加え、被告ASAPが、後記⑶~⑹(原告の主張)のとおり、本
件各顧客情報を持ち出すことができた被告従業員らを雇用していることか
らすれば、被告ASAPは本件各物件を購入するために本件各顧客情報を
5 使用したとしか考えられないのであり、被告ASAPが入手先を明らかに
できないような名簿を使用し遵法意識が欠如していることもこれを裏付け
る。
イ 被告ASAPは、後記⑶~⑹(原告の主張)のとおり被告従業員らから
本件各顧客情報を開示されたものであるが、営業秘密不正開示行為である
10 ことを知りながら、開示された本件各顧客情報を使用して本件各物件を購
入したものといえるから、被告ASAPによる本件各顧客情報の使用は、
不正競争防止法2条1項8号に定める不正競争に該当する。
ウ 被告ASAPは、本件訴えの提起前における証拠保全の期日において、
原告の顧客情報に係る資料等について検証物提示命令を受けたが、これに
15 従わなかったのであるから、前記イ記載の事実が真実と認められるべきで
ある。
(被告らの主張)
ア 被告ASAPが、本件各顧客情報を使用して本件各物件を購入したこと
は否認する。
20 イ 被告ASAPは、被告らが同業者又は名簿業者から入手した名簿に基づ
いて営業活動をし、これにより、本件各物件を購入した。現時点で、被告
ASAPのシステム上、①本件物件25、31及び34について、データ
は存在するがその入手先を特定することができず、②本件物件24、26、
32、33及び35について、データ及びその入手先を確認することがで
25 きないが、これは、被告ASAPにおいて令和4年9月にコールシステム
を導入するためにデータを統合した際に退職者が管理していた顧客情報へ
のアクセスができなかったことや、紙媒体の名簿には統合されなかった部
分があることなどに起因する。このうち、上記②の物件に係る情報は他の
不動産会社も保有していたことを確認できている。
ウ 検証物提示命令における真実擬制に関する主張は争う。
5 ⑶ 争点3(被告Eが本件顧客情報1を被告ASAPに開示したか)について
(原告の主張)
ア 被告Eは、原告本社システムについて管理者用アカウントの付与を受け
ており、原告本社システムの全てのページにアクセスすることができたか
ら、原告から本件顧客情報1を示されていたものであり、また、これを持
10 ち出すことができた。
被告Eは、退職する約1か月前の令和4年6月15日午前0時15分か
ら午前1時15分まで原告本社に入室するという不審な行動をした。
イ 上記アの事情に加え、被告ASAPが本件各顧客情報を使用したこと
(前記⑵(原告の主張))、被告Eが原告を退職した後に被告ASAPに就
15 職していることからすれば、被告Eが本件顧客情報1を被告ASAPに開
示したことを推認することができる。
原告本社システムのログイン履歴は残っておらず、被告Eが本件顧客情
報1を社外に持ち出した時期や態様を具体的に特定することは困難である
ものの、業績が悪化した令和4年3月から5月頃が疑われる。
20 ウ 被告ASAPは原告と競争関係にある事業者であり、このような者に原
告の営業秘密を開示した被告Eの行為には、「不正の利益を得る目的」な
いし「営業秘密保有者に損害を加える目的」があるといえるから、被告E
による開示行為は、不正競争防止法2条1項7号に定める不正競争に該当
する。
25 (被告らの主張)
ア 被告Eは、原告本社システムに記録されていた本件顧客情報1を被告A
SAPに開示していない。被告Eは、令和4年6月15日深夜、原告本社
に入室していない。
イ 前記⑵(被告らの主張)のとおり、被告ASAPが本件各物件を購入し
たことは、被告Eが被告ASAPに本件顧客情報1を開示したことを推認
5 させる事実ではない。
⑷ 争点4(被告Eが原告本社の見込帳に記載されていた本件顧客情報2を被
告ASAPに開示したか)について
(原告の主張)
ア 原告本社の見込帳には、少なくとも、本件物件4、5、7~9、11、
10 21、23、25、26及び36に係る情報が記載されていた。なお、見
込帳が持ち出されたため、見込帳の冊数及び記載内容を具体的に特定する
ことはできない。
イ 被告Eは、原告から見込帳に記載された本件顧客情報2を示され、また、
令和3年5月1日から退職までの間、原告本社の見込帳が保管されていた
15 キャビネットの鍵を保有して、原告本社の見込帳を管理していた。
原告は、全ての見込帳を破棄せず厳重に保管していたが、原告本社にあ
るはずの見込帳が現存しない。
ウ 上記ア及びイの事情に加え、被告Eが不審な行動をしたこと(前記⑶
(原告の主張)ア)、被告ASAPが本件各顧客情報を使用したこと(前
20 記⑵(原告の主張))及び被告Eが原告を退職した後に被告ASAPに就
職していることからすれば、被告Eが、原告本社の見込帳に記載されてい
た本件顧客情報2を被告ASAPに開示したことを推認することができる。
エ 被告ASAPは原告と競争関係にある事業者であり、このような者に原
告の営業秘密を開示した被告Eの行為には、「不正の利益を得る目的」な
25 いし「営業秘密保有者に損害を加える目的」があるといえるから、被告E
による開示行為は、不正競争防止法2条1項7号に定める不正競争に該当
する。
(被告らの主張)
ア 原告本社の見込帳に記載されていた内容は不知。
イ 被告Eは、原告において自ら営業を担当していた当時、見込帳を作成し
5 たが、見込帳を持ち出したことはなく、原告を退職した際、被告Eが作成
及び管理していた見込帳を全て原告に返却したから、被告ASAPに見込
帳に記載されていた情報を開示していない。
被告Eは、原告本社において、見込帳が管理されていたキャビネットの
鍵を管理していなかった。
10 ⑸ 争点5(被告A、被告C及び被告Dが、横浜支社の見込帳に記載されてい
た本件顧客情報2を被告ASAPに開示したか)について
(原告の主張)
ア 横浜支社の見込帳には本件顧客情報2が記載されていた。なお、見込帳
が持ち出されたため、見込帳の冊数及び記載内容を具体的に特定すること
15 はできない。
イ 被告A、被告C及び被告Dは、原告から、横浜支社の見込帳に記載され
た本件顧客情報2を示され、また、横浜支社の見込帳を管理していた。
原告は、全ての見込帳を破棄せず厳重に保管していたが、被告A、被
告C及び被告Dが作成及び管理していた見込帳が原告に現存しない。
20 すなわち、被告Aが平成27年10月1日から令和3年8月6日まで
の間に原告本社又は横浜支社において作成した見込帳のうち、原告に現
存するのは、平成31年4月2日から令和元年5月19日までの間に係
る横浜支社の見込帳1冊のみであり、被告Cが平成31年2月1日から
令和3年9月30日までの間にグラップ又は横浜支社において作成した
25 見込帳のうち、原告に現存するのは、平成31年2月6日から令和2年
5月9日までの間に係る見込帳3冊のみであり、被告Dが令和2年3月
23日から令和3年12月19日までの間にグラップ又は横浜支社にお
いて作成した見込帳のうち、原告に現存するのは、令和2年3月から令
和3年9月28日までの間に係る見込帳4冊のみである。
ウ 上記ア及びイの事情に加え、被告ASAPが本件各顧客情報を使用した
5 こと(前記⑵(原告の主張))、被告Aが原告を退職する直前に被告ASA
Pを設立し、被告C及び被告Dが原告を退職した後に被告ASAPに就職
していることからすれば、被告A、被告C及び被告Dが、横浜支社の見込
帳に記載されていた本件顧客情報2を被告ASAPに開示したことを推認
することができる。
10 被告A、被告C及び被告Dが、横浜支社の見込帳を持ち出したのは、そ
れぞれの退職日(被告Aは令和3年8月6日、被告Cは同年9月30日、
被告Dは同年12月19日)頃である。
エ 被告ASAPは原告と競争関係にある事業者であり、このような者に原
告の営業秘密を開示した被告A、被告C及び被告Dの行為には、「不正の
15 利益を得る目的」ないし「営業秘密保有者に損害を加える目的」があると
いえるから、被告A、被告C及び被告Dによる開示行為は、不正競争防止
法2条1項7号に定める不正競争に該当する。
(被告らの主張)
ア 横浜支社の見込帳に記載されていた内容は不知。
20 イ 被告A、被告C及び被告Dは、次のとおり、見込帳を作成したが、見込
帳を持ち出したことはなく、原告を退職した際、見込帳を全て原告に返却
したから、被告ASAPに見込帳に記載されていた情報を開示していない。
すなわち、被告Aは、平成27年10月1日から平成30年2月9日ま
での間に原告本社において2冊の見込帳を作成したが、平成30年2月に
25 原告からグラップへ転籍した際、これらを原告に返却し、また、令和3年
5月1日から同年8月6日までの間に横浜支社において見込帳を作成した
が、原告を退職した際、これを原告に返却した。被告Cは、平成31年2
月1日から令和3年9月30日までの間に、原告に現存するとされる見込
帳以外に2冊の見込帳を作成したが、原告を退職した際、これらを原告に
返却した。被告Dは、令和2年3月23日から令和3年12月19日まで
5 の間に、原告に現存するとされる見込帳以外に3冊の見込帳を作成したが、
原告を退職した際、これらを原告に返却した。
⑹ 争点6(被告従業員らが、被告従業員らの記憶に残っていた本件各顧客情
報を被告ASAPに開示し、又は使用したか)について
(原告の主張)
10 前記⑵〜⑷(原告の主張)のとおり、被告Eは、原告本社システムに記録
された本件顧客情報1及び原告本社の見込帳に記載されていた本件顧客情報
2を、被告A、被告C及び被告Dは、横浜支社の見込帳に記載された本件顧
客情報2を、それぞれ原告から示されていた。
被告B、被告F及び被告Gは、原告在職時、原告本社システムや原告の見
15 込帳を直接取り扱っていないが、原告がいつ誰とどのような条件や経緯で成
約したかの情報を知ることができた。
被告従業員らは、原告において勤務していた際、本件各顧客情報の内容を
記憶し、記憶に残っていた本件各顧客情報を、被告ASAPに開示し、又は
使用した。
20 被告ASAPは原告と競争関係にある事業者であり、これらの行為は「不
正の利益を得る目的」ないし「営業秘密保有者に損害を加える目的」がある
といえるから、不正競争防止法2条1項7号に定める不正競争に該当する。
(被告らの主張)
被告従業員らは、原告で勤務していた際、膨大な件数の顧客情報に接して
25 おり、この中から成約の見込みのある顧客情報を記憶することはできない。
被告従業員らは、記憶に残っていた情報を被告ASAPに開示し、又は使
用していない。
⑺ 争点7(不正競争防止法5条2項により推定される原告の損害額)につい

(原告の主張)
5 被告らは、本件各物件を購入することによって、別紙「損害額一覧表」の
「粗利益」「原告主張」欄記載のとおり、合計1億8894万6000円の
利益を得た。被告らが侵害行為により受けた利益の額は、不正競争防止法5
条2項により原告の損害額と推定されるところ、原告は、被告らに対し、こ
のうち1億0225万円の支払を求める。
10 (被告らの主張)
別紙「損害額一覧表」の各「被告主張」欄記載のとおり、被告ASAPが
受けた利益の額は否認する。
⑻ 争点8(被告従業員らが労働契約上の秘密保持義務に違反したか)につい

15 (原告の主張)
ア 本件各顧客情報は、「業務上知り得た機密に関わる事項」(原告就業規則
19条1項)及び「顧客等の名簿その他会社の重要事項に関わる文書等」
(同条3項)並びに本件各誓約書の「顧客及び取扱い物件に関する情報」
に該当する。
20 イ 前記⑶及び⑷(原告の主張)のとおり、被告Eは、原告本社システム又
は原告本社の見込帳に記録された本件各顧客情報を持ち出し、被告ASA
Pに開示することにより、本件各顧客情報を「漏らし」若しくは「持ち出
し」(原告就業規則19条1項及び3項)又は「漏洩」(本件各誓約書の秘
密保持の誓約に関する規定)した。
25 前記⑸(原告の主張)のとおり、被告A、被告C及び被告Dは、横浜支
社の見込帳を持ち出し、被告ASAPに開示することにより、本件顧客情
報2を「漏らし」若しくは「持ち出し」又は「漏洩」した。
前記⑹(原告の主張)のとおり、被告従業員らは、被告従業員らの記憶
に残っていた本件各顧客情報を被告ASAPに開示し、又は使用すること
により、本件各顧客情報を「漏らし」若しくは「持ち出し」又は「漏洩」
5 した。
ウ 以上によれば、被告従業員らは、労働契約上の秘密保持義務に違反した
ものであり、債務不履行が成立する。
(被告従業員らの主張)
ア 前記⑴(被告らの主張)のとおり、本件各顧客情報は、「業務上知り得
10 た機密に関わる事項」には該当しない。
イ 前記⑶及び⑷(被告らの主張)のとおり、被告Eは、原告本社の見込帳
又は原告本社システムに記録された本件各顧客情報を持ち出していない。
前記⑸(被告らの主張)のとおり、被告A、被告C及び被告Dは、横浜
支社の見込帳を持ち出していない。
15 前記⑹(被告らの主張)のとおり、被告従業員らは、被告従業員らの記
憶に残っていた本件各顧客情報を被告ASAPに開示し、又は使用してい
ない。
⑼ 争点9(被告従業員らが労働契約上の競業避止義務に違反したか)につい

20 (原告の主張)
ア 原告就業規則及び本件各誓約書の競業避止条項によれば、被告従業員ら
は、原告に対し、退職後の競業避止義務を負っていた。
イ 被告Aは、100%株主として被告ASAPを設立して原告と競業する
事業を行うとともに、被告Bと共に被告ASAPの代表取締役に就任した
25 こと、その余の被告従業員らが被告ASAPの従業員となったことは、労
働契約上の競業避止義務に違反するものであり、債務不履行が成立する。
(被告従業員らの主張)
原告と被告ASAPは、いずれも不動産会社であるが、原告は、ファミリ
ータイプマンションの買取り及び賃料取得によるリースバックを行うのに対
し、被告ASAPは、中古の投資用のワンルームマンションの買取り及び転
5 売を行うから、両者は競業関係にない。
したがって、被告Aが100%株主として被告ASAPを設立して、被告
Bと共に被告ASAPの代表取締役に就任したこと、その余の被告従業員ら
が被告ASAPの従業員となったことは、労働契約上の競業避止義務に違反
するものではなく、債務不履行は成立しない。
10 ⑽ 争点10(競業避止条項が公序良俗に違反し、無効であるか)について
(被告従業員らの主張)
被告従業員らに競業避止義務を負わせる具体的必要性が明らかではなく、
代償措置も設けられていないこと、後記⑿の原告の主張を前提とすると約1
億8894万円という過酷な賠償額の予定がされていることから、競業避止
15 条項は、労働者の職業選択の自由を過度に制約するものであって、公序良俗
に違反し、無効である。
(原告の主張)
①原告の顧客情報を用いた競業行為を制限すべき必要性が高いこと、②一
般に不動産については5年以上所有される傾向にあるところ、原告の顧客情
20 報が陳腐化するまでの期間として、退職後1年間又は3年間という期間は、
必要最小限のものであること、③原告が東京都及び神奈川県に事務所を設置
し、首都圏を中心に広汎な地域の物件を取り扱っていることから、東京都、
神奈川県、埼玉県及び千葉県という場所的範囲は、原告の取引と市場が競合
する範囲として必要最小限のものであること及び④原告において取引を成約
25 させた場合には、巨額の成功報酬を得ることができたことをもって代償措置
が講じられていたことからすれば、競業避止条項は公序良俗に違反しない。
仮に競業避止条項の一部について合理的な制限の範囲を超えるとしても、
当該一部のみが無効となるというべきであり、少なくとも、本件各誓約書及
び原告就業規則が定める時間的・場所的範囲において、引抜禁止義務や他の
競業避止義務と重なる範囲、すなわち、①原告の許可なく、原告の元従業員
5 を雇い入れて競業を営むことや、②原告の元従業員が営む競合他社に就職す
ることは、競業避止義務に反するというべきである。
⑾ 争点11(被告Aが労働契約上の引抜行為禁止義務に違反したか)につい

(原告の主張)
10 被告Aは、被告B、被告C、被告D、被告E、被告F及び被告Gが原告の
従業員であった当時、これらの被告らに対し、原告からの退職を促し、被告
ASAPの役員又は従業員となるよう勧誘した。かかる行為は、原告就業規
則及び本件各誓約書の定める引抜行為禁止義務に違反するものであり、債務
不履行が成立する。
15 (被告Aの主張)
被告Aは、原告の主張に係る引抜行為をしていない。例えば、被告C、被
告D及び被告Eは、原告においてパワーハラスメントを受け、原告からの退
職を余儀なくされ、被告ASAPに入社したにすぎない。したがって、被告
Aは、原告就業規則及び本件各誓約書の定める引抜行為禁止義務に違反して
20 おらず、債務不履行は成立しない。
⑿ 争点12(被告従業員らの債務不履行による原告の損害の発生及びその額)
について
(原告の主張)
ア 被告A、被告B、被告E、被告F及び被告Gの競業避止義務及び引抜行
25 為義務違反について
本件各誓約書は競業避止義務及び引抜行為義務に違反する行為をした場
合、「当該行為によって得た利益の額」を賠償額と予定するものであると
ころ、被告ASAPが本件各物件により得た転売利益は、「当該行為によ
って得た利益」に当たる。そして、被告ASAPが得た転売利益は、別
紙「損害額一覧表」の「粗利益」「原告主張」欄記載の合計1億8894
5 万6000円であるから、上記被告らによる競業避止義務違反及び引抜
行為義務違反の債務不履行による賠償額は、合計1億8894万600
0円である。
イ 被告従業員らの秘密保持義務、競業避止義務及び引抜義務違反について
原告は、本件各顧客情報を使用して、本件各物件に係る取引を成約させ
10 る見込みがあり、特に、本件物件1、4、5、16、23~25、28、
34及び35については、原告の営業担当者が、長期間かつ多数回にわ
たり電話営業をしていたのであり、成約の見込みが高かったといえる。
そうすると、被告従業員らの債務不履行がなければ、原告は、本件各
物件を購入することができ、被告ASAPが得た転売利益と同額の1億
15 8894万6000円の転売利益を得ることができたものといえる。
ウ したがって、原告は、原告が被った損害(転売利益に係る逸失利益)損
害の一部である1億0225万円の支払を求める。
(被告従業員らの主張)
別紙「損害額一覧表」の各「被告主張」欄記載のとおり、否認し、争う。
20 ⒀ 争点13(被告らの共同不法行為の成否)について
(原告の主張)
被告従業員らが本件各顧客情報を被告ASAPに開示した行為及び被告A
SAPがこれにより取得した本件各顧客情報を使用して本件各物件を購入し
た行為は、自由競争の範囲を逸脱したものであるから、共同不法行為に該当
25 する。
(被告らの主張)
否認し、争う。
⒁ 争点14(被告らの共同不法行為による原告の損害の発生及びその額)に
ついて
(原告の主張)
5 前記⑿(原告の主張)イのとおり、原告は、被告らによる不法行為がなけ
れば、本件各物件を購入して転売利益を得ることができたといえるから、原
告は、被告らの共同不法行為により、1億8894万6000円の損害を被
った。
したがって、原告は、被告らに対し、原告が被った損害(転売利益に係る
10 逸失利益)の一部である1億0225万円の支払を求める。
(被告らの主張)
別紙「損害額一覧表」の各「被告主張」欄記載のとおり、否認し、争う。
前記⑿(被告らの主張)で主張する事情によれば、被告らの共同不法行為と
損害との間に因果関係があるとはいえない。
15 第3 当裁判所の判断
1 認定事実
前提事実に加え、証拠(後掲各証拠のほか、証人H、被告A、被告E、被告
C、被告D、甲54、55、乙38〜40、55(ただし、後記認定に反する
部分を除く。))及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
20 ⑴ 原告本社について
ア 原告は、物件の所有者に接触して物件を購入し、これを他に転売するビ
ジネスモデルの不動産業を営んでいるところ、原告本社では、インサイド
セールス課が物件の所有者に対する電話営業を行い、訪問の約束を取り付
けると、訪問営業を担当するバイヤーという部署に引き継ぐという方法を
25 とっていた。原告においては、電話営業で顧客と信頼関係を築くことに重
点を置いており、訪問約束取り付けるまで数週間から長いと数年かかるこ
とがあった。
令和3年から令和4年までの原告本社の従業員数は、約120〜150
名であり、そのうちインサイドセールス課の従業員数は、約40〜60名
であった。
5 イ 原告本社は、平成30年に原告本社システムを導入し、市販の名簿の情
報を重複しないように処理して記録し、数十万件の物件及び所有者の情報
を記録していた。原告本社システムには、物件ごとに、❶所有者の氏名、
住所、電話番号、物件名、築年及び面積(以下「物件等情報」という。)、
❷備考欄(所有者の発言等)、❸架電/対応履歴一覧(営業担当者が電話
10 をかけた日時と「留守」、「進展なし」などの対応結果)を記録することが
できる。
原告本社システムにアクセスするためには、原告本社システムの管理者、
一部の役員及びインサイドセールス課の管理職に付与される管理者用アカ
ウント又はインサイドセールス課の従業員に付与される一般アカウントの
15 ID及びパスワードが必要であり、これら以外の者は、原告本社システム
にアクセスすることができず、横浜支社から原告本社システムにアクセス
することもできなかった。(甲31〜53)
ウ インサイドセールス課では、営業担当者が、見込帳に、電話をかけた所
有者の氏名、住所、電話番号及び所有する物件名等を記載していた。原告
20 本社システムの導入前は、主に見込帳を使用した営業活動が行われていた
が、導入後も見込帳を使用することがあった。インサイドセールス課では、
在職者の見込帳は各自のキャビネットで管理し、退職者の見込帳は共用の
キャビネットで管理していたが、見込帳を管理する管理簿は存在しなかっ
た。(甲5、7、11、12)
25 エ 被告Eは、令和3年5月1日、インサイドセールス課に異動し、原告本
社システムの管理者用アカウントを保有していた。被告B、被告F及び被
告Gは、原告在職時、原告本社システムを取り扱っていなかった。
⑵ 横浜支社について
ア 被告Aは、令和3年5月頃、横浜支社に異動し、見込帳を使用して営業
を行っていた。被告Aが原告を退職する同年8月6日まで、横浜支社の従
5 業員は被告Aのみであり、被告Aは、自身の机で見込帳を管理していた。
イ 被告D及びCは、令和3年9月1日、グラップから横浜支社に異動した。
同日以降の横浜支社では、見込帳を使用して営業活動を行い、各自のキャ
ビネットで管理していた。被告Dは、原告を退職する令和3年12月19
日の一、二か月前に原告本社の販売部署に異動した。
10 ⑶ 原告が管理していた顧客の情報について
ア 原告本社システムには、本件顧客情報1が記録されている。本件顧客情
報1はいずれも投資用の物件に関するものであり、23件の物件(本件物
件1〜11、16、18、21、23〜26、28、30及び34〜36)
の❶物件等情報、❷備考欄及び❸架電/対応履歴一覧であり、その記載は
15 別紙顧客管理システム画面の各欄記載のとおりである。本件顧客情報1に
は、被告従業員らが原告を退職した頃に、これらの物件の所有者との間で、
成約に向けた具体的な交渉を正に行っていたことを示す記載はない。
イ 原告が現在所持している見込帳(甲12、61、62)には、本件物件
16、23及び26の情報が、原告の横浜支社で令和3年9月1日以降使
20 用しているシステム(甲56〜60)には、本件物件23、24、28、
34及び35の情報が記載されているが、被告従業員らが原告を退職した
頃に、これらの物件の所有者との間で、成約に向けた具体的な交渉を正に
行っていたことを示す記載はない。
⑷ 被告ASAPについて
25 ア 被告Aは、原告を退職する直前である令和3年8月2日に被告ASAP
を設立した。被告Aは、同年10月頃に知り合いの同業者から(①)、被
告ASAPは、令和4年に名簿業者「めいぼや」から(②)、令和4年1
月18日に名簿業者株式会社森遊舎から(③)、同月17日に名簿業者N
EXEL株式会社から(④)、同月14日に名簿業者株式会社ターゲット
から(⑤)、それぞれ名簿を購入した(以下、これらの名簿を併せて「被告
5 名簿」という。)。被告名簿には、本件物件1〜23、28、30及び3
7の物件等情報が記載されている。
また、被告名簿に記載のない本件物件24、26、32、33及び35
の物件等情報については、他の不動産会社もこれらの情報を保有してい
る。(乙1、2、4〜22、41、42、44、46、48、53、54)
10 イ 被告ASAPは、令和4年9月、コールシステムを導入するためにデー
タを統合した。(乙3)
ウ 被告ASAPは、電話営業において、話を聞いてくれそうな所有者との
間ですぐに訪問約束を取り付けて訪問し、早ければ訪問日に不動産の売買
契約を締結し、翌日に決済等の手続を行うという、原告と異なる営業手法
15 をとっていた。
2 争点1(本件各顧客情報が「営業秘密」に該当するか)について
⑴ 事案にかんがみ、原告が本件顧客情報2を保有していたかについて検討す
る。
原告は、別紙「営業秘密目録」記載2のとおり、本件顧客情報2について、
20 「原告本社で作成又は管理された見込帳及び原告横浜支社で作成又は管理さ
れた見込帳(グラップから移管されたものを含む。)」(以下「本件見込帳」
という。)に記載された37件の物件の所有者に係る一定の情報として特定
する。原告は、本件見込帳は被告従業員らにより持ち出されたと主張するか
ら、本件見込帳は原告が現在所持するもの以外の見込帳を指すものであるも
25 のと解される。
そこで検討するに、原告には見込帳の冊数等を管理する管理簿すら存在せ
ず(認定事実⑴エ)、持ち出されたとする本件顧客情報2が記載された本件
見込帳の存在を裏付ける客観的証拠はない。前記認定事実によれば、原告本
社及び横浜支社において見込帳が利用されていたこと(同⑴ウ及び⑵)、原
告本社システムに本件顧客情報2の全37件の物件のうち23件に関する情
5 報が記録されていること(同⑶ア)や、原告が現在所持する見込帳及び横浜
支社で後に導入されたシステムに、上記23件の物件のうち7件に関する情
報が記録ないし記載されていること(同イ)は認められるが、原告の主張に
よっても、本件顧客情報2の具体的内容は不明であり、本件見込帳の冊数、
作成及び作成時期も不明であることからすれば、上記の事実から、本件顧客
10 情報2が記載された本件見込帳の存在を推認することはできず、本件全証拠
によっても、このような本件見込帳の存在を認めることはできない。
以上によれば、原告が、本件見込帳に記載された情報として特定される本
件顧客情報2を保有していたことを認めることができない。
⑵ したがって、本件顧客情報2に係る不正競争、債務不履行(秘密保持義務
15 違反)及び共同不法行為に基づく原告の請求は、争点2、4〜8、12〜1
4について判断するまでもなく、いずれも理由がない。
そこで、以下においては、本件顧客情報1について検討する。
3 争点2(被告ASAPが本件各顧客情報を使用したか)について
⑴ 被告ASAPは、本件顧客情報1に係る物件(本件物件1〜11、16、
20 18、21、23〜26、28、30及び34〜36の合計23件)を購入
したこと(前提事実⑷)が認められる。
そこで検討するに、本件顧客情報1のうちの備考欄には、物件の売却の意
向がないこと、物件の賃貸状況、家族構成、資金需要に関する事情、過去の
代金額の提案及び希望などが記載され、架電/対応履歴一覧には当該物件の
25 所有者に原告の営業担当者が繰り返し電話をかけてきたことが記載されてい
るが(認定事実⑶ア)、それぞれの内容を見ても、成約に不可欠な情報では
ないばかりか、当該物件に係る成約率を有意に上昇させるような情報である
とも認め難い。
また、本件顧客情報1のうちの物件等情報は、不動産会社の間で流通して
いる種類の情報であることがうかがわれ(同⑴イ)、少なくとも上記23件
5 の物件のうちの6件を除いては被告名簿に記載され、記載されていない物件
のうち少なくとも3件の物件等情報は他の不動産会社も保有していたことが
確認されている(同⑷ア)。
以上のとおりの本件顧客情報1の内容に照らせば、被告ASAPが本件顧
客情報1に係る物件を購入した事実から、被告ASAPが本件顧客情報1を
10 使用したことを推認することはできない。
なお、6件の物件の物件等情報は被告名簿に記載がなく、被告ASAPは
被告名簿のうち1つ(①の名簿)の入手先を明らかにしていないが、本件顧
客情報1の内容について上記したところに加え、被告ASAPが設立後にシ
ステムを統合していること(同⑷イ)からすれば、被告ASAPが、すべて
15 の物件の物件等情報の入手先を本件訴訟の時点で明らかにできていないこと
から、被告ASAPが本件顧客情報1を使用したことを推認することはでき
ない。
⑵ 原告の主張について
ア 原告は、被告ASAPが本件顧客情報1を使用したことの根拠として、
20 被告ASAPの成約率が異常に高いことを指摘し、証人Hは、一般に流通
する名簿から電話をかける場合には1件の成約に対し営業電話1万回が必
要であるところ、令和3年8月6日から令和4年7月31日までの間の被
告ASAPの成約数は63件であり、被告ASAPがコールシステムを導
入した後の1人当たりの1日の架電回数377回を前提にしても1件の成
25 約に対する営業電話が4825回であるとして、これに沿う供述及び陳述
(甲54)をする。
証拠(乙24、27)及び弁論の全趣旨によれば、被告ASAPが、コ
ールシステムを導入する前である令和3年10月から令和4年7月までの
間に、被告A、被告C及び被告Dにより63件の物件について成約したこ
と、コールシステム導入後の被告ASAPの1人当たりの1日の架電回数
5 が377回であることが認められる。しかし、上記証人の供述及び陳述の
うち、一般に流通する名簿から電話をかける場合に1件の成約に対し営業
電話1万回が必要であるとの点は客観的な裏付けを伴うものではないから、
被告ASAPの成約率の高さを客観的に示すものとはいえない。また、被
告ASAPの成約率が原告の想定する成約率より高いとしても、原告と被
10 告ASAPの営業手法の違い(認定事実⑴ア及び⑷ウ)からも一定の説明
がつくものといえる。
また、原告は、一般に流通する名簿に含まれる情報は膨大であり、物件
を購入するためには、名簿から抽出した所有者に、長期間の多数回にわた
る営業電話による接触をすることが必要であるところ、被告ASAPが、
15 本件顧客情報1ではなく、一般に流通する名簿を使用し、短期間に原告の
見込顧客ばかりと成約したというのは不自然であると主張する。
原告の主張が、被告従業員らが原告本社システムに記録された顧客情報
の中から本件顧客情報1を選択して被告ASAPに開示し、これを同社が
使用したというものなのか、被告ASAPが、開示された原告本社システ
20 ムに記録された顧客情報の中から本件顧客情報1を使用したというもので
あるのかは不明であるが、いずれにしても、被告ASAPが本件顧客情報
1を使用するためには、被告らの側で、原告本社システムに記録された数
十万件の顧客情報から本件顧客情報1を選択(抽出)する作業が必要であ
り、この点は、流通する名簿から本件顧客情報1に係る物件の所有者を選
25 択して接触する場合と変わりはない。また、本件顧客情報1の内容からは、
原告が本件顧客情報1に係る物件の所有者と成約に向けた具体的な交渉を
正に行っていたとは認められず(同⑶ア)、これらの物件の所有者が原告
の見込顧客であったという評価は当たらないし、成約までの期間及び接触
回数といった点は、営業手法の問題にすぎない。以上によれば、被告AS
APが、本件顧客情報1を使用することなく、流通する名簿を使用して本
5 件顧客情報1に係る物件を購入したことが不自然であるとはいえない。
以上によれば、原告の主張する点は、前記⑴の判断を左右するものでは
なく、その他、原告が主張するその余の点も前記⑴の判断を左右するには
足りない。
イ 原告は、被告ASAPが証拠保全の期日において検証物提示命令を拒絶
10 したから、被告ASAPが本件顧客情報1を使用したことを真実と認める
べきであるとも主張する。
しかし、民事訴訟法232条が準用する同法224条3項の規定は、裁
判所が、審理における当事者の主張及び証拠関係を考慮して、裁量的に、
相手方が主張する事実を真実と認めることができるとするものであるとこ
15 ろ、以上に説示したところに照らし、上記規定を適用して、原告の上記主
張を真実と認めることは相当ではない。
⑶ したがって、被告ASAPが本件顧客情報1を使用したとは認められない
から、争点1及び7について判断するまでもなく、本件顧客情報1に係る被
告ASAPの不正競争に基づく損害賠償請求は理由がない。
20 4 争点3(被告Eが本件顧客情報1を被告ASAPに開示したか)について
⑴ 被告ASAPが本件顧客情報1を使用したことを認められないのは前記3
のとおりであり、被告Eが、原告本社システムに記録された本件顧客情報1
にアクセスすることができた(認定事実⑴イ、エ)からといって、被告Eが
本件顧客情報1を持ち出して、被告ASAPに開示したことを推認すること
25 はできない。
⑵ 原告の主張について
原告は、被告Eが、令和4年6月15日の夜中に原告本社に入室したこと
を主張するが、被告ASAPが本件物件1〜8、21、23〜26、28及
び30を購入したのは同日より以前であるから、被告Eが同日に本件顧客情
報1を持ち出し、被告ASAPに開示し、上記各物件を購入したという時系
5 列になく、同日に被告Eが原告本社に入室したとしても、本件顧客情報1の
持ち出し及び開示の事実を推認することはできない。原告が主張するその余
の点も前記⑴の判断を左右するには足りない。
⑶ したがって、被告Eが本件顧客情報1を持ち出し、被告ASAPに開示し
たとは認められない。
10 5 争点6(被告従業員らが被告従業員らの記憶に残っていた本件各顧客情報を
被告ASAPに開示し、又は使用したか)について
⑴ 被告従業員らが本件顧客情報 1 を記憶し、被告ASAPに開示し、又は使
用したことを示す客観的証拠はないところ、本件顧客情報1の内容に照らし、
被告従業員らがこれを記憶することができたとは考え難い。
15 この点を措くとしても、被告Dは横浜支社及び原告本社の販売部署に、被
告Cは横浜支社に、被告Aは原告を退職する直前は横浜支社に所属しており、
原告本社システムにアクセスすることができなかったこと(認定事実⑴イ、
⑵ア及びイ)、被告B、被告F及び被告Gが原告本社システムにアクセスす
ることができたとは認められないこと(同⑴エ)からすれば、被告E以外の
20 被告従業員らが原告から本件顧客情報1を示されたと認めることはできない。
また、前記2及び3に説示したところに照らせば、被告Eやその余の従業員
が本件顧客情報1を被告ASAPに開示し、又は使用したことを認めること
はできない。
⑵ したがって、被告従業員らが記憶に残っていた本件顧客情報1を被告AS
25 APに開示し、又は使用したとは認められない。以上に加え、前記4に説示
したところによれば、被告従業員らに本件顧客情報1に係る不正競争は認め
られないから、争点1及び7について判断するまでもなく、本件顧客情報1
に係る被告従業員らの不正競争に基づく損害賠償請求は理由がない。
6 争点8(被告従業員らが労働契約上の秘密保持義務に違反したか)について
⑴ 原告は、①被告Eが本件顧客情報1を持ち出し、被告ASAPに開示した、
5 ②被告従業員らが、被告従業員らの記憶に残っていた本件顧客情報1を被告
ASAPに開示し、又は使用したと主張し、これらの行為が、被告従業員ら
が負っていた労働契約上の秘密保持義務に違反すると主張する。
しかし、上記①については前記4に、上記②については前記5に、それぞ
れ説示したとおり、原告の主張の前提となる本件顧客情報1の持ち出し、開
10 示及び使用の事実を認めることができない。
⑵ したがって、被告従業員らが労働契約上の秘密保持義務に違反したとは認
められず、争点12について判断するまでもなく、本件顧客情報1に係る労
働契約上の秘密保持義務違反の債務不履行に基づく損害賠償請求は理由がな
い。
15 7 争点12(債務不履行による原告の損害の発生及びその額)について
⑴ 労働契約上の競業避止義務及び引抜行為禁止義務違反の債務不履行に基づ
く損害賠償請求に関しては、事案にかんがみ、まず、争点12について検討
する。
⑵ 被告A、被告B、被告E、被告F及び被告Gの競業避止義務並びに被告A
20 の引抜行為禁止義務違反について
原告は、本件各誓約書は、競業避止義務及び引抜行為禁止義務に違反した
場合に「当該行為によって得た利益の額」を賠償額として予定することを合
意するものであるとして、被告ASAPが得た転売利益が「当該行為によっ
て得た利益」に当たると主張する。
25 しかし、被告ASAPが本件各物件を転売して得た利益は、上記被告らが
競業避止義務違反の行為により得た利益でも、被告Aが引抜行為禁止義務の
行為により得た利益でもない。
そうすると、仮に、上記被告らに競業避止義務違反及び被告Aに引抜行為
禁止義務違反の債務不履行が認められるとしても、被告ASAPが得た転売
利益は本件各誓約書に定められた「当該行為によって得た利益」ではないか
5 ら、賠償額の予定の合意に基づく原告の主張を採用することができない。
⑶ 被告従業員らの競業避止義務及び被告Aの引抜行為禁止義務違反について
原告は、被告従業員らの競業避止義務又は被告Aの引抜行為禁止義務違反
の債務不履行がなければ、本件各物件を購入して、転売利益を得ることがで
きたから、上記債務不履行により、原告に転売利益に係る損害(逸失利益)
10 が発生したと主張する。
被告Aの引抜行為禁止義務違反の債務不履行がなければ原告が転売利益を
得ることができたとする根拠は不明であり、また、競業避止義務違反の債務
不履行についても、原告が、どの被告の競業避止義務違反の債務不履行とど
の物件に係る逸失利益との間に因果関係があると主張するのかも不明である。
15 この点を措くとしても、原告が、本件各物件を購入できる見込みが高かっ
たことを裏付ける的確な証拠はないところ、電話営業が成功するかは営業手
法及び営業担当者の技量や顧客との相性等に左右されるはずであり、現に、
本件顧客情報1によれば相当長期間にわたり原告の営業担当者が電話営業を
行っても成約に至っていない物件が散見され(認定事実⑶ア)、被告ASA
20 Pが本件各物件を購入できたからといって原告が購入できたということはで
きない。また、物件等情報が不動産会社の間で流通しているとうかがわれる
のは前記3⑴のとおりであるから、他の不動産業者が本件各物件の所有者と
接触して本件各物件を購入することも考えられる。
以上によれば、被告従業員らの競業避止義務又は被告Aの引抜行為禁止義
25 務違反の債務不履行がなかったならば、原告が本件各物件を購入し、転売利
益を得ることができたということについて、相当程度の蓋然性をもって認め
ることはできない。
そうすると、仮に、上記債務不履行が認められるとしても、これによって、
原告に転売利益に係る損害が生じたとは認められない。
⑷ 以上によれば、争点9〜11について判断するまでもなく、労働契約上の
5 競業避止義務及び引抜行為禁止義務違反の債務不履行に基づく損害賠償請求
は理由がない。
8 争点13(被告らの共同不法行為の成否)について
⑴ 原告は、被告従業員らが本件顧客情報1を被告ASAPに開示したこと及
び被告ASAPがこれにより取得した本件顧客情報1を使用して本件顧客情
10 報1に係る物件を購入した行為が不法行為に当たると主張する。
しかし、前記3ないし5に説示したところによれば、被告従業員らが本件
顧客情報1を被告ASAPに開示したとも、被告ASAPが本件顧客情報1
を使用したとも認められない。
したがって、原告の上記主張は、その前提を欠くものであり、採用するこ
15 とができない。
⑵ 原告の主張について
原告は、被告ASAPが証拠保全の期日において検証物提示命令を拒絶し
たから、被告ASAPが被告従業員らと共謀して、被告従業員らから取得し
た本件各顧客情報を使用し、本件各物件を購入するための営業活動を行った
20 ことを真実と認めるべきであると主張する。
しかし、前記3ないし5説示のとおり、被告従業員らが本件顧客情報1を
被告ASAPに開示したとも、被告ASAPが本件顧客情報1を使用したと
も認められない以上、原告の上記主張を真実と認めることは相当ではない。
⑶ 以上によれば、争点14について判断するまでもなく、本件顧客情報1に
25 係る不法行為に基づく損害賠償請求は理由がない。
第4 結論
よって、原告の請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとして、
主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 髙 橋 彩

10 裁判官 西 山 芳 樹

裁判官 瀧 澤 惟 子

(別紙)
営業秘密目録
1 原告本社の顧客管理システムに記録された、別紙「顧客・物件リスト」のう
5 ち1〜11、16、18、21、23〜26、28、30及び34〜36の各
「物件名」欄及び「顧客名」欄で特定される23件の物件及び当該物件の所有
者である顧客に関する、別紙「顧客管理システム画面」の記載1から23まで
の情報
2 原告本社で作成又は管理された見込帳及び原告横浜支社で作成又は管理され
10 た見込帳(グラップから移管されたものを含む)に記載された、別紙「顧客・
物件リスト」の各「物件名」欄及び「顧客名」欄で特定される37件の物件及
び当該物件の所有者である顧客に関する、下記項目に係る情報
⑴ 物件情報(物件名、築年、構造、床面積、集合住宅の戸数及び管理業者名、
所在地、交通の利便、家賃、管理費・修繕積立金、所有形態等)
15 ⑵ 所有者の情報(氏名、住所、電話番号、家族構成、人柄、借入金残額、生
活状況等)
⑶ 原告担当者による交渉情報(交渉内容、交渉経過、交渉時間、当該物件に
ついて原告が提示した代金額、売却についての意向、相場額、顧客が希望す
る代金額、担当者所感)
(別紙)
顧客・物件リスト
省略

(別紙)顧客管理システム画面
省略

(別紙)損害額一覧表
省略

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