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令和7(行ケ)10087審決取消請求事件

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裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所
裁判年月日 令和8年2月12日
事件種別 民事
当事者 原告日本マタイ株式会社同訴訟代理人弁理士小松秀彦
被告特許庁長官同指定代理人富永亘
法令 意匠権
意匠法4条2項1回
意匠法3条1項3号1回
意匠法24条2項1回
キーワード 審決34回
拒絶査定不服審判1回
意匠権1回
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。
事件の概要 1 特許庁における手続の経緯等 ⑴ 原告は、令和5年6月7日、意匠に係る物品を「米宅配用袋」として、意 匠登録出願をした(意願2023-11686。以下、その出願を「本願」 といい、出願に係る意匠登録を受けようとするものにつき、 「本願意匠」とい う。特記事項として、意匠法4条2項の規定の適用を受けようとする意匠登 録出願との記載がある。甲1) 。 ⑵ 原告は、令和6年1月25日付け拒絶理由通知書(甲2)を受領し、同年 3月12日、意見書(甲3)を提出したが、同年6月20日付けの拒絶査定 (甲4)を受けたことから、同年9月26日、拒絶査定不服審判を請求した (不服2024-15411号) 。 ⑶ 原告は、令和6年11月8日付け手続補正書(甲5)を提出したが、特許 庁は、令和7年7月22日、

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判決文

令和8年2月12日判決言渡

令和7年(行ケ)第10087号 審決取消請求事件

口頭弁論終結日 令和7年12月17日

判 決

原 告 日 本 マ タ イ 株 式 会 社

同訴訟代理人弁理士 小 松 秀 彦

被 告 特 許 庁 長 官

同 指 定 代 理 人 富 永 亘

同 前 畑 さ お り

同 清 野 貴 雄

同 渡 邉 久 美

同 阿 曾 裕 樹

主 文

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は、原告の負担とする。

事 実 及 び 理 由

第1 請求

1 特許庁が不服2024-15411号事件について令和7年7月22日にした審決を取り消す。2 訴訟費用は、被告の負担とする。

第2 事案の概要

1 特許庁における手続の経緯等

⑴ 原告は、令和5年6月7日、意匠に係る物品を「米宅配用袋」として、意匠登録出願をした(意願2023-11686。以下、その出願を「本願」といい、出願に係る意匠登録を受けようとするものにつき、「本願意匠」という。特記事項として、意匠法4条2項の規定の適用を受けようとする意匠登録出願との記載がある。甲1)。

⑵ 原告は、令和6年1月25日付け拒絶理由通知書(甲2)を受領し、同年3月12日、意見書(甲3)を提出したが、同年6月20日付けの拒絶査定(甲4)を受けたことから、同年9月26日、拒絶査定不服審判を請求した(不服2024-15411号)。

⑶ 原告は、令和6年11月8日付け手続補正書(甲5)を提出したが、特許庁は、令和7年7月22日、「本件審判の請求は、成り立たない。」とする審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は、同年8月5日に原告に送達された。

⑷ 原告は、令和7年9月3日、本件審決の取消しを求めて、本件訴えを提起した。2 本件審決の理由の要旨本件審決の理由は、別紙審決書(写し)のとおりであるが、要するに、本願意匠は、別紙審決書(写し)別紙第1のとおりであるところ、これは本願出願前に公知の意匠(以下「引用意匠」という。乙3及び別紙審決書(写し)別紙

第2のとおり。その意匠は、別紙審決書(写し)別紙第2、22頁の2枚の写

真に「引用意匠」として示すとおり。以下、その正面を示す写真を「正面写真」、正面側斜視を示す写真を「正面側斜視写真」という。)に類似するものであるから、意匠法3条1項3号により意匠登録を受けることができないというものである。3 原告主張の取消事由原告は、本件審決の取消事由として、本願意匠と引用意匠(以下「両意匠」という。)との類似性判断(共通点と相違点の評価)の誤りを主張する。なお、原告は、本件審決における本願意匠の認定は認め(ただし、具体的態様として認定されている背面の態様については、基本的態様に含まれる旨を主張する。)、両意匠の対比(意匠に係る物品の対比、共通点及び相違点の認定を含む形状等の対比)についても認める。

第3 取消事由についての当事者の主張

〔

(原告の主張)

〕

1 本件審決は、形状等の共通点が両意匠の類否判断に与える影響が大きいとし

たところ、当該共通点として掲げる正面形状は、本願意匠に係る物品が当然に採り得る形状ないしは行い得る設計変更の範囲内の内容であり、両意匠の類否判断に与える影響は小さい。また、同じく共通点として掲げる模様を黒色としたことも、通常とり得る色にすぎず、両意匠の類否判断に与える影響は小さい。

2 本願意匠に係る物品は米宅配袋であり、これを購入して内容物を実際に封入

する作業等を行う米取引の中間業者が需要者に含まれる。中間業者は、物品(米宅配袋)を選択するに当たり、袋に内容物を封入・出荷確認し、それが最終顧客のところまでの輸送に適したものかどうかを重視する。中間業者にとって、封入や輸送等に適していなければ、購入し難い。そうすると、中間業者は、正面より、内容物の封入をどのようにして行うのか、封入部がどのような形状となっているか、封入後どのように取り扱うのか等を確認できる背面に重きをおいて、客観的な印象をもって観察することになる。また、袋の正面には、「お米宅配袋」との表示がなされる一方、背面にはそのような記載はない。内容物封入後、【意匠の説明】の記載のとおり「中身が視認されない」ので、最終顧客には、内容物が、お米の入った袋であることが容易に分かるようにしておく必要性があるところ、中間業者には、分かるようにしておく必要がないためである。一方で、中間業者が背面側を表側に向けて糊代を織り込み、デザインの一部を構成する縦縞模様のように調和した位置・大きさでバーコード(背面右下にしたことで、バーコードスキャナーを右手に持つ形で容易にスキャンできる。)を付し、表面と背面の表示・記載のバランスをとれるようにしている。このことからも、中間業者は、背面側を表にして使用していることが分かる。この正面と背面で見る人が変わることを想定して分けた表示は、創意工夫がなされており、本願意匠の当業者の立場から見て、着想の新しさや独創性がある。また、【意匠の説明】において、本願意匠が「正面上部の糊代と、この糊代が折り込まれる背面側の部分には糊が付いている。・・・この糊代が折り込まれる背面側の部分の幅は5.5~6.5cmである。」とあるように、正面の上部の糊代部分は、内容物を封入した後、背面側に織り込まれる構成となっているが、この糊代の有無、大きさ等は一切検討されていない。つまり、本願意匠に係る物品においては、背面の態様は両意匠の類否判断に与える影響が大きいところ、その背面の態様が不明な引用意匠を以って両意匠の形状等を類似と判断するのは、背面の態様の類否判断に与える影響を無視ないしは過小評価しており、誤りである。加えて、参考図からも明らかなように、本願意匠の正面とされる部分と背面とされる部分の間に明確な境界は存在しない。六面図上、内容物のないまま意匠を図面化し、図面上、折りたたんだような形となっているので、正面とされる部分と背面とされる部分の間に境界があるように見えるが、正面とされる部分と背面とされる部分の間に境界はなく、実質一体になる構成(面)である。ここからみても、背面図を何ら確認・検討することなく、実質一面の一部のみを見て、意匠の類否判断をすることは不当である。【意匠に係る物品の説明】においても、本願意匠が「正面のマチ形成域から背面にかけては、その中央部に沿って開封用のカット糸が、・・・固定されている。」と記載され、正面から背面までカット糸が面に沿う形で固定されている。そのため、正面と背面において区別するところがなく、これらは実質一体であることを示している。

3 実際に、意匠登録1529885号(意匠に係る物品「窓付封筒」、甲6)で

は、正面図は特徴性の乏しい横棒一本線が描かれているのみであり、底面図と平面図以外に特徴が見出し難いにもかかわらず、登録に至っている。そして、この登録意匠にかかる物品と本願の意匠に係る物品は、内容物を封入・保管するという用途は共通し、封状の物品として類似している。また、同様に本願の意匠に係る物品「米宅配用袋」に近い製品として、意匠登録1284016号及び同1284017号(いずれも、平成13年9月5日の同日出願で、意匠に係る物品は「封筒」。甲7、8)においては、背面以外が同じ意匠が、関連意匠としてではなく、通常の意匠として意匠登録を受けている。同じ意匠権者の同じ意匠に係る物品において、意匠登録1205423号、同1205424号及び同1205425号(甲9ないし11)についても同様である。これらの意匠は、審査において非類似と認定されたと考えられる。また、仮にこれらの意匠が類似し、関連意匠であったとしても、正面が同じである以上、背面に基づいて類否判断が行われる必要がある。このように、審査において、意匠に係る物品が本願と類似している他の出願については、公知意匠との対比において背面図の違いを考慮しているにも関わらず、本願については、公知意匠との対比において背面図の違いが考慮されていない。さらにいえば、本願については、公知意匠において背面図が公開され、その背面図と比較して相違点が認定されているのではなく、背面図として比較の対象がないまま判断がされている。そして、本願に関しては、出願に係る意匠と公知意匠との間で背面図について違いがあるにも関わらず、形状等の共通点が両意匠の類否判断に与える影響が大きく、形状等の相違点がその判断に与える影響は小さいとされている。このように、本願について、当初から背面図の比較対象がないのに意匠登録を受けられないのは、他の意匠登録出願に対する判断との間で公平性を欠く。〔

(被告の主張)

〕

1 原告は、共通する正面形状が当然に採り得る形状であること、行い得る設計

変更の範囲内の内容であることを理由として、類否判断における正面形状の影響は小さいと過小評価するが、上記事項の根拠は何ら示されていないから、失当である。本件審決が共通点として挙げる文字構成、略横長長方形太枠及び矢印模様と、それらのレイアウトを含めた態様は、当該物品が当然に取り得る形状ないしは、行い得る設計変更の範囲内の内容ではなく、なおかつ、両意匠を特徴付け、強く注意を惹く部分であって、両意匠の類否判断に大きな影響を与えるものである。また、【意匠に係る物品の説明】に「米宅配用袋を開ける際には、カット糸に沿って袋を破いて開封する。」と記載され、原告による令和6年3月12日付け意見書(甲3)の3「(1)本願意匠の特徴」欄において、「本願意匠に係る物品である米宅配用袋は、・・・正面のマチ形成域から背面にかけて、その中央部に沿って開封用のカット糸が、太さ4~6mmのビニールテープにて貼り合わされ、固定されています。・・・つまり、本願意匠は、袋において、そのような開封可能なカット糸をビニールテープにて貼り合わされ、固定していることが特徴となります。」と記載されているように、正面図下部に形成されたカット糸に関する部分は、本願意匠の特徴的部分であることを、原告自ら認めている。そして、当該部分は、本件審決の挙げる両意匠の共通点の(ウ)(本件審決第6の2(2)ア(ウ))中の「下方寄り中央付近に右斜め下向きの矢印とその上側の左寄りに小文字列を2段に形成している点」にほかならないから、本願意匠において、正面側に含まれる形状及び模様が重要視される部分であることは、原告も自認していることである。なお、本願意匠の背面図に、上記カット糸及びビニールテープの存在を窺わせる形状及び模様は見当たらない。また、需要者には、最終顧客が含まれるところ、原告も「最終顧客には、内容物が、お米の入った袋であることが容易にわかるようにしておく必要性がある」とするとおり、需要者たる最終顧客は、正面側に注目して本物品を観察するものである。よって、正面側の形状及び模様を含む共通点が両意匠の類否判断に与える影響が大きいとした本件審決の判断に誤りはない。

2 原告は、本願意匠に係る物品の需要者に含まれる米取引の中間業者は、正面

より背面に重きを置くから、背面図を確認・検討することなく類否判断することは不当である旨主張する。原告主張のように、本願物品の需要者に、中間業者が含まれることに異論はないが、中間業者は、米宅配用袋を選択する際、中間業者自身の作業時の観点だけでなく、その袋が最終顧客の手に渡った際に、内容物の種類や袋の開封方法について、分かりやすく、また、美的に構成されているかとの観点からも意匠を評価し、選択する需要者であるから、最終顧客の視点を検討する必要があることに変わりはない。また、本願物品は、最終顧客が直接選定して購入するものではないが、この種の物品分野においては、「意匠の造形において、内容物の種類や開封の仕方等分かりやすく表示する等、米宅配用袋を受領する最終顧客の視点を重視した工夫をする」(本件審決第6の3(2))ものであるから、当然、需要者には最終顧客が含まれる。したがって、需要者には、中間業者だけではなく、最終顧客も含まれるのであって、最終顧客の視点を検討する必要があることに変わりはないから、中間業者の視点のみをことさら重視すべきとする

(原告の主張)

は失当である。米宅配用袋を購入する中間業者等は、最終顧客の注目する点(顧客アピールという点)を意識して正面側に注目するから、米宅配用袋を選択するに当たり、その意匠が、最終顧客の手に渡った際に、内容物の種類や袋の開封方法について、分かりやすく、美的に構成されているかとの観点からも、意匠を評価し、選択する。加えて、引用意匠(乙3)は、原告ホームページにおいて、原告製品である「お米宅配用袋」を説明するものであるところ、当該ホームページは、お米宅配用袋を購入する中間業者を対象にしたものといえる。当該ホームページにおいては、正面を示す写真(正面図)が、大きく紙面を割いて紹介される一方で、背面図はなく、背面は、使用態様を示す参考図にて、理解できるにとどまる。このことは、本願意匠の需要者たる中間業者にとって、背面図よりも正面図が重要視される部分であること、及び、当該事項を原告が認識していることの証左といえる。そして、本願意匠の特徴的部分は、正面側の形状及び模様であって、需要者たる最終顧客は、正面側に注目して本物品を観察するものであるから、最終顧客及び中間業者を含む需要者にとって、正面側の形状及び模様が重要視される部分であることに変わりはない。したがって、「正面側の構成態様を評価するとともに、袋の全体形状及び各部の具体的態様を評価し、それらを総合して意匠全体として形状等を評価」(本件審決第6の3(2))した判断枠組みに誤りはない。原告は、中間業者は背面側に糊代を織り込むため、背面側を表向きにして使用する前提で背面右下寄りにバーコードを付したものであって、この点に創意工夫があり、本願意匠の当業者の立場から見て、着想の新しさや独創性がある旨主張する。しかしながら、専ら情報伝達のためだけに使用される文字及び標識は意匠の構成要素として扱わないとされている(乙1)ところ、本願意匠に配されるバーコードについては、日本産業規格(JIS)により規格化されているEANシンボル(乙2)であって、専ら情報伝達のための標識であるから、意匠の構成要素とはみなされない。その配置を含めて検討したとしても、包装用袋の裏面の右下寄りに配置することは、例えば、乙3ないし5のように、ありきたりな配置であって、特徴的部分たりえないから、依然として、意匠の構成要素とはみなされず、類否判断の要素として取り上げる必要はない。よって、バーコードに関する構成を模様に含めなかった本件審決の第6の1

(1)イ(イ)cの認定に看過はない。

次に、のりしろ部の存在について、本願の意匠の説明には、「正面上部の糊代と、この糊代が折り込まれる背面側の部分には糊が付いている。」との記載があることから、本願意匠は、のりしろ部に予めのりが付されていることが分かり、また、「糊代は4.5~5.5cm、この糊代が折り込まれる背面側の部分の幅は5.5~6.5cmである。」との記載から、正面上部ののりしろの幅よりも、折り込まれる背面側の部分ののりしろの幅のほうが若干幅広であることが理解できる。しかし、本願意匠の背面図には、のりに関する態様が何ら表されていない。つまり、のりが付いている箇所及びその形状に関して、背面図には何も特定されておらず、本願意匠では単に機能として「のり付き」であることが特定されているにとどまる。あるいは、仮に、背面図は、のりが塗られた態様を表しているとすると、のりはほとんど透明なものであって、視覚上、周囲の塗られていない箇所と容易に区別し、認識することのできない態様を表したものに過ぎないといえる。よって、本件審決の第6の1(1)イ(イ)bの背面の態様及び同cの模様において、のりに関する背面の態様を認定していないことに誤りはなく、本願意匠の背面視の認定に看過はないから、形状等の認定及びその評価は適切であり、本件審決に誤りはない。さらにいえば、梱包用袋及び包装用袋の分野においては、袋の口部を折り返して封をするのりしろ部(フラップ。封緘部)と、このフラップ(封緘部)が折り込まれる背面部に、予めのりが付いた意匠は、乙6のように、本願出願前に公然知られていることから、機能として「のり付き」であるという点は、本願意匠のみの特徴とはいえない。また、従来から、フラップ(封緘部)及びこれが折り込まれる背面部にのりの付いていない袋も当然存在していることから、両のりしろ部が、のり付きであるか否かの点は、類否判断を左右する程の影響を及ぼすものではない。したがって、機能として「のり付き」であることには、何ら特徴はなく、類否判断に与える影響はないから、審決の類否判断に誤りはない。なお、原告は、背面の態様が不明な引用意匠を以って両意匠の形状等を類似と判断するのは、背面の態様の類否判断に与える影響を無視ないしは過小評価しており、誤っていると主張する。確かに、引用意匠(乙3)は、正面写真と正面側斜視写真のみであり、同ホームページ内の背面側の写真は引用意匠に含めていないが、本願意匠と引用意匠の類否を判断するに当たっては、引用意匠の写真のみならず、同じ頁に記載された記事、説明文及び他の図版を参照して検討するところ(乙7)、引用意匠についても、同ホームページ内の背面側の写真をもって、背面を推認しているものである。その上で、上記したとおり、本願意匠において、バーコードは類否判断の要素として採り上げる必要はなく、のり付きの機能も、類否判断に与える影響がないことから、引用意匠についても、これらの事項を、類否判断の要素としなかったものであり、本件審決の認定及び評価に誤りはない。また、仮に、本願意匠において、バーコードの配置も、意匠の構成要素であるとした場合、引用意匠の背面は、上記推認したものとなり、バーコードの配置について、両意匠の間に異なるところはないから、両意匠が類似するとした審決の結論に誤りはない。本願意匠の正面部分及び背面部分との境界をなす、側部及び底部のマチは、ハッキリとした折り目によって、マチが明確に窺えることから、正面とされる部分と背面とされる部分の間に境界がなく、両者は実質一体である、とする原告の主張は失当である。また、本願意匠の背面部には、意匠の特徴というべき構成態様がほとんどみられず、正面部に特徴的構成態様が集中していることは、これまで論じてきたとおりであるから、正面部の構成態様に係る共通点(ア)ないし(エ)が両意匠の類否判断に与える影響が大きく、相違点(ア)及び(イ)は、これら相違点が相まって生じる視覚的効果を考慮しても、共通点が与える共通の印象を覆すに至らないとした本件審決の判断(本件審決第6の3(2))に誤りはない。

3 原告は、本願意匠と類似する物品において、正面図に特徴性が乏しく、底面

図と平面図以外に特徴が見出しにくい登録意匠として、甲6があり、同様に、甲7ないし11のように、本願意匠に近い物品である「封筒」でも、背面以外が同じ意匠が、関連意匠ではなく、通常の意匠として意匠登録を受けている旨、審査において、意匠に係る物品が本願と類似している他の出願については、公知意匠との対比において背面図の違いを考慮しているにも関わらず、本願については背面図の違いが考慮されておらず、さらにいえば、背面図として比較の対象がないまま判断されており、本願について意匠登録を受けられないのは、他の意匠登録出願に対する判断との間で公平性を欠く旨を主張する。しかし、意匠の類似性の判断は本願意匠自体につき観察すべきものであるところ、他の類似の商品に係る意匠の登録やその他事情に羈束されるものではないから、

(原告の主張)

は前提を欠くものである。また、この点を措くとしても、以下のとおり、

(原告の主張)

には理由がない。まず、原告が示す、甲6ないし11の意匠に係る物品は、いずれも封筒の意匠である。封筒は、書類や手紙を入れ封をして、保管したり、通信したりする用途及び機能を有するものである上、形状、構造、模様及び寸法には一定の制約と定型性を有するものである。甲6ないし11の意匠の形状は、いずれも定型性の範囲内から逸脱しない封筒型であり、正面側には特徴がなく、背面側の口部の形状に特徴を有していることから、背面側の形状によって類否が判断されているものである。一方、本願意匠の意匠に係る物品は、米宅配用袋であり、米袋を内包して輸送したり、最終顧客へ提供したりするための、梱包用袋及び包装用袋であるから、前記の封筒とは用途及び機能が異なる。また、梱包用袋及び包装用袋の分野には、形状、構造、模様及び寸法に制約はないことから、前記した封筒の類否判断とは異なり、正面側、背面側に関係なく、特徴のある形状等に注目して類否を判断する必要がある。以上のとおり、本願意匠の類否判断に当てはめるべく、用途及び機能の異なる意匠の登録例を取り上げる

(原告の主張)

は失当である。次に、甲6ないし11の意匠に係る物品である「封筒」と、本願の意匠に係る物品である「米宅配用袋」は、用途及び機能が異なり、意匠の要部が異なるから、封筒の類否判断をそのまま参酌することは適切でなく、

(原告の主張)

は、その前提において失当である。

第4 当裁判所の判断

1 取消事由(本件審決の本願意匠と引用意匠との類似性判断の誤り)について

⑴ 原告は、本件審決における本願意匠の認定は認め(ただし、具体的態様として認定されている背面の態様については基本的態様に含まれる旨を主張する。)、本願意匠と引用意匠の対比についても認める。

⑵ 証拠(甲1)及び弁論の全趣旨によれば、本願意匠及び引用意匠について、次の各事実を認めることができる。ア 本願意匠本願意匠の意匠に係る物品は、「米宅配用袋」である。本願意匠の形状等については以下のとおりであると認められるところ、その内容自体については当事者間に争いがいない(本願意匠の【意匠に係る物品の説明】及び【意匠の説明】は、別紙審決書(写し)17頁に記載のとおりである。)。本願意匠の全体は、折り畳んだ状態において、上端を開口した正面視略縦長長方形の薄厚の角底袋で、正面側上端に両角を小さく斜めに切り欠いた略横帯状のフラップ(封緘部)を一体状に形成している。全体の縦(高さ)、横の長さ及び厚みの比率は、約2:1:0.02で、フラップの高さは、全高の約1/13である。背面の上端両隅から略直角台形状のマチの先端が突出している。正面の中央やや下側に“お米宅配袋”の大文字列、そのすぐ下に内側に“10kg”の大文字列を配置した略横長長方形太枠を形成し、下方寄り中央やや左より付近に右斜め下向きの矢印とその上側の左寄りに小文字列を2段に形成している。特定の色彩は表されておらず、全体は暗調子であり、模様は黒色である。イ 引用意匠引用意匠の意匠に係る物品は、「お米宅配袋」である。引用意匠の形状等については以下のとおりであると認められるところ、その内容は当事者間に争いがいない。全体は、折り畳んだ状態において、上端を開口した正面視略縦長長方形の薄厚の角底袋で、正面側上端に両角を小さく斜めに切り欠いた略横帯状のフラップ(封緘部)を一体状に形成している。全体の縦(高さ)、横の長さの比率は、約2:1で、フラップの高さは、全高の約1/13である。背面視の態様は不明である。正面の中央やや下側に“お米宅配袋”の大文字列、そのすぐ下に内側に“10kg”の大文字列を配置した略横長長方形太枠を形成し、下方寄り中央付近に右斜め下向きの矢印とその上側の左寄りに小文字列を2段に形成している。全体は、薄茶色に着色し、模様は黒色に着色している。ウ 両意匠の対比両意匠の意匠に係る物品は、いずれも米袋を収容しそのまま宅配することを目的とした米宅配用袋であるから、同一である。両意匠の形状等を対比すると、以下のとおりの共通点及び相違点があることが認められるところ、その内容についても当事者間に争いがない。(ア) 共通点a 全体は、折り畳んだ状態において、上端を開口した正面視略縦長長方形の薄厚の角底袋で、正面側上端に両角を小さく斜めに切り欠いた略横帯状のフラップ(封緘部)を一体状に形成している点b 全体の縦(高さ)、横の長さの比率は、約2:1で、フラップの高さは、全高の約1/13である点c 正面の中央やや下側に“お米宅配袋”の大文字列、そのすぐ下に内側に“10kg”の大文字列を配置した略横長長方形太枠を形成し、下方寄り中央付近に右斜め下向きの矢印とその上側の左寄りに小文字列を2段に形成している点d 模様は黒色である点(イ) 相違点a 本願意匠は、背面の上端両隅から略直角台形状のマチの先端が突出しているのに対し、引用意匠の背面視における態様は不明である点b 色彩について、本願意匠は特定の色彩はなく暗調子であるのに対し、引用意匠は薄茶色に着色している点

⑶ 両意匠の類否判断ア 登録意匠とそれ以外の意匠が類似であるか否かの判断は、需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行われる(意匠法24条2項参照)。両意匠の意匠に係る物品はいずれも米宅配用の袋であるから、その物品の分野においては、内容物の種類や袋の開封の仕方を分かりやすく表示するなど、米宅配用袋を受領する最終顧客としての消費者の視点も重視して、意匠上の工夫をするものといえる。そうすると、その需要者には、当事者間に争いのない米取引の中間業者だけではなく、最終顧客である消費者も含まれるものと認められる。中間業者においては、米を梱包し封をする作業のために、米宅配用袋の背面に関心を払う場合もあると解されるが、中間業者が米宅配用袋を選択する際には、中間業者自身の作業時の観点のみならず、当該米宅配用袋が最終顧客である消費者の手に渡った際に、内容物の種類や袋の開封方法が分かりやすく、また美的に構成されているかとの観点からも意匠を評価し、選択するといえる。そうすると、需要者が最終顧客である消費者及び中間業者であることを踏まえた上で意匠の形状等の類否判断をするに当たっては、袋の内容物についての記載等も踏まえて正面側の構成態様を評価するとともに、袋の全体形状及び各部の態様を評価し、それらを総合して意匠全体として形状等を評価すべきである。上記によると、両意匠を対比する際においては、まず正面視における態様を観察し、合わせて外観全体及び各部の態様を観察し、需要者の視覚を通じて起こさせる美感の観点から、両意匠の共通点及び相違点が類否判断に与える影響を検討すべきである。イ 前記アのとおり、意匠に係る物品は同一であり、両意匠の共通点及び相違点については前記⑵ウのとおりである。ウ そこで両意匠の共通点について検討すると、まず共通点 a について、全体を正面視略縦長長方形の角底袋とし、上端に両角を小さく斜めに切り欠いたフラップ(封緘部)を形成した態様は、両意匠の骨格を成すものであり、共通点 b の長さの比率、共通点 c 及び共通点 d の模様における態様と相まって、これらは需要者の注意を強く惹くものといえるから、両意匠の類否判断に与える影響は大きい。共通点 b については、その種物品の分野においては様々な構成比率のものが存するとみられるところ、全体の縦横の長さの比率を約2:1、フラップの高さを全高の約1/13とした点は、全体的な観点からして両意匠の共通性を強めるものであり、この点も、両意匠の類否判断に与える影響は大きいものといえる。共通点 c については、文字列の内容は、意匠の類否判断に与える影響は小さいものの、記号と合わせて、それらの模様は、需要者が関心を持って観察する部位に係るものであるから、これらの共通点が両意匠の類否判断に与える影響は大きい。共通点 d についても、模様をすべて黒色とした点は、共通点 c が与える印象をより強固にするものであるから、この共通点が両意匠の類否判断に与える影響は少ないとはいえない。エ 一方、両意匠の相違点について検討すると、相違点 a について、本願意匠は、背面の上端両隅から略直角台形状のマチの先端が突出しているのに対し、引用意匠の背面視における態様は不明ではあるものの、引用意匠に係る写真のうちの正面側斜視写真には、袋の側面にマチが表れており、一定容量の物を封緘することを前提とした米宅配用の袋にマチがあることは通常のことといえ、本願意匠の背面に表れたマチの形状について、特段の意匠的特徴のあるものとはいえないから、相違点 a が両意匠の類否判断に与える影響は小さいものといえる。相違点 b については、両意匠ともに明度は同程度であり、両意匠について需要者に別異の印象を起こさせる程のものではないといえるから、両意匠の類否判断に与える影響は小さい。オ こうした両意匠の形状等における共通点及び相違点の評価に基づき、両意匠を全体として総合的に観察した場合、両意匠は、共通点 a ないし共通点 d が、前記ウのとおり両意匠の類否判断に与える影響は大きいのに対し、相違点 a 及び相違点 b が両意匠の類否判断に与える影響については、前記エのとおり小さいものといえる。したがって、これら相違点が相まって生じる視覚的効果を考慮しても、共通点が与える共通の印象を覆すには至らないから、両意匠の形状等は類似する。そうすると、前記需要者の観点からみた場合、両意匠は類似するというべきである。これと同旨の本件審決の認定及び判断に誤りはない。

2 原告の主張に対する判断⑴ 原告は、前記第3〔原告の主張〕1のとおり、類否判断における正面形状の影響は小さいと主張する。原告がその根拠とする、当然に採り得る形状ないし行い得る設計変更であるとの点については、これを認めるに足りる証拠はなく、前提を欠くものといえる。両意匠の共通点である正面視における文字構成、略横長長方形太枠及び矢印模様と、それらのレイアウトを含めた態様について、それらの模様ないし態様は、需要者が関心を持って観察する部位に係るものであるところ、それら模様ないし態様は当該物品が当然に取り得る形状ないしは行い得る設計変更の範囲内の内容とはいえず、両意匠を特徴付け、強く注意を惹く部分であるといえるから、両意匠の類否判断に大きな影響を与えるものである。したがって、原告の上記主張は採用することができない。⑵ 原告は、前記第3〔原告の主張〕2のとおり、本願意匠に係る物品は米宅配用袋であり、その需要者に含まれる中間業者は、背面に重きを置くから、背面図を確認・検討することなく類否判断することは不当である旨主張する。前記のとおり、本願意匠の需要者に中間業者は含まれるところ、中間業者は、米宅配用袋を選択する際、中間業者自身の作業時の観点のみならず、当該米宅配用袋が最終顧客である消費者の手に渡った際に、内容物の種類や袋の開封方法が分かりやすく、また美的に構成されているかとの観点からも意匠を評価し、選択するといえるから、両意匠の類否判断に当たっては、最終顧客である消費者の視点も検討する必要がある。したがって、中間業者のみならず、最終顧客である消費者の視点も検討する必要があり、中間業者の視点のみをことさら重視すべきとする原告の主張は前提を欠くものというべきである。また原告は、両意匠の類否判断について、中間業者は表面のみならず裏面も確認することをもって意匠の背面の重要性について主張し、それに沿う証拠として、原告役員の陳述書(甲12)を提出する。なるほど同陳述書(甲12)には、本願意匠に係る物品について、原告の顧客に販売活動を行ったところ、顧客はこれを裏返し裏面(背面)を確認する時間の方が長く、購入に至った顧客は必ず裏面(背面)を見ていた旨の記載がある。しかし、前記のとおり、米宅配用袋を購入する中間業者は、最終顧客である消費者の観点にも注目するものといえるから、米宅配用袋を選択するに当たり、内容物の種類や袋の開封方法について分かりやすく、美的に構成されているかとの観点からも意匠を評価するものといえる。そして、既に述べたように、本願意匠の特徴的部分は、正面側の形状及び模様であって、本願意匠の需要者であり最終顧客たる消費者は、正面側に注目して本物品を観察するものといえる。両意匠の対比において、背面の形状に係る部分は、相違点a のみであるところ、前記1⑶エで述べたとおり、引用意匠に係る写真のうちの正面側斜視写真には袋の側面にマチが表れており、米宅配用の袋にマチがあることは通常のことといえ、本願意匠の背面に表れたマチの形状に特段の意匠的特徴があるものとはいえないことからすれば、引用商標の背面視における態様が不明であることを考慮しても、相違点 a が両意匠の類否判断に与える影響は小さく、全体の色彩に係る相違点 b についても、両意匠の類否判断に与える影響は小さいから、最終顧客(消費者)及び中間業者を含む需要者にとって、正面側の形状及び模様が重要視される部分であることに変わりはない。したがって、本件審決に誤りはなく、原告の上記主張は採用することができない。さらに原告は、中間業者は背面側に糊代(のりしろ)を織り込むため、背面側を表向きにして使用する前提で背面右下寄りにバーコードを付したものであって、この点に創意工夫があり、本願意匠の当業者の立場から見て、着想の新しさや独創性がある旨主張する。しかし、本願意匠の背面図に示されたバーコードは日本産業規格(JIS)により規格化されているEANシンボル(乙2)であって、専ら情報伝達のための標識に過ぎないから、意匠の構成要素とみることはできない。その配置についても、包装用袋の裏面の右下寄りに配置することは、乙4及び5にもみられるように通常みられる配置である。そして、原告の主張にもあり、令和6年11月8日付け手続補正書(甲5)においても説明するとおり、「(バーコードを)背面右下にしたことで、バーコードスキャナーを右手に持つ形で容易にスキャンできます。」として、その配置は商品に普通に求められる機能的観点によるとしているところであって、これも意匠の特徴的部分となることはないから、意匠の類否判断の要素となり得るものではない。糊代(のりしろ)についても、本願意匠の背面図に、のりに関する態様は何ら表されておらず、のりが付いている箇所及びその形状に関しては背面図にも特定されておらず、のりはほとんど透明なものであって、視覚上、周囲の塗られていない箇所と容易に区別し、認識することのできない態様に過ぎず、両意匠の類否判断に与える影響はないものといえる。したがって、原告の上記主張は採用することができない。⑶ 原告は、前記第3〔原告の主張〕3のとおり、本願意匠と類似する物品において、正面図に特徴性が乏しく、底面図と平面図以外に特徴が見出しにくい登録意匠として甲6があり、同様に、甲7ないし11のように、本願意匠に近い物品である「封筒」でも、背面以外が同じ意匠が、関連意匠ではなく、通常の意匠として意匠登録を受けている旨、審査において、意匠に係る物品が本願と類似している他の出願については、公知意匠との対比において背面図の違いを考慮しているにも関わらず、本願については背面図の違いが考慮されておらず、さらにいえば、背面図として比較の対象がないまま判断されており、本願について意匠登録を受けられないのは、他の意匠登録出願に対する判断との間で公平性を欠く旨を主張する。しかし、意匠の類似性の判断は、両意匠について観察すべきものであり、他の意匠登録の例等が、直ちに両意匠の類否判断に影響するものでもない。この点を措くとしても、甲6の意匠に係る物品は窓付封筒、甲7ないし11の意匠に係る物品はいずれも封筒であって、封筒は、書類や手紙を入れて封をするとの用途及び機能を有し、形状、構造、模様及び寸法にも一定の制約と定型性を有する。甲6ないし11の意匠の形状は、いずれもこうした定型性の範囲内から逸脱しない封筒型であり、正面側には特徴がなく、背面側の口部の形状に特徴を有していることから、仮に背面側の形状によって類否が判断されたものとしても、理由があるものといえる。一方、本願意匠の意匠に係る物品は米宅配用袋であり、米袋を内包して輸送したり、最終顧客へ提供したりするための梱包用袋及び包装用袋であるから、甲6ないし11の意匠に係る物品である「封筒」と、本願の意匠に係る物品は用途及び機能が異なり、意匠の要部も異なるものと認められ、そもそも比較の対象とすることが適切ではない。したがって、原告の上記主張は採用することができない。

3 結論以上のとおり、本件審決の認定及び判断に誤りは認められず、原告主張の取消事由は理由がない。よって、原告の請求を棄却することとし、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第3部

裁判長裁判官

中 平 健

裁判官

今 井 弘 晃

裁判官

水 野 正 則

(別紙)

省略

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