令和6(ワ)70225民事訴訟 特許権
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| 裁判所 |
請求棄却 東京地方裁判所
|
| 裁判年月日 |
令和8年1月30日 |
| 事件種別 |
民事 |
| 当事者 |
原告A
株式会社JBF 被告株式会社リクルート
|
| 対象物 |
未確定の将来クレジット債権の買い取りによるクレジットカード加盟店への無担保のファンディングシステム |
| 法令 |
特許権
民法709条3回 特許法102条3項1回 民法656条1回
|
| キーワード |
実施18回 特許権10回 侵害9回 損害賠償7回 分割6回 無効1回 優先権1回
|
| 主文 |
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。 |
| 事件の概要 |
1 事案の概要
本件は、①発明の名称を「未確定の将来クレジット債権の買い取りによるク
レジットカード加盟店への無担保のファンディングシステム」とする特許(特
許第5785272号。以下「本件特許」といい、本件特許に係る特許権を
「本件特許権」という。
)について独占的通常実施権の設定を受けたとする原
告会社が、被告に対し、被告による別紙被告システム目録記載のシステム(以
下「被告システム」という。
)の生産及び使用は上記独占的通常実施権を侵害
するとして、民法709条(対象期間は令和3年4月1日から令和6年4月3
0日まで)に基づく損害賠償金4400万円(一部請求)及び遅延損害金の支
払を求め、②原告会社の代表者である原告Aが、被告に対し、別紙営業秘密目
録1及び2記載の情報(以下「本件情報1」
、
「本件情報2」といい、 |
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判決文
令和8年1月30日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
令和6年(ワ)第70225号 特許権侵害等に基づく損害賠償請求事件
口頭弁論終結日 令和7年10月21日
判 決
原 告 A
(以下「原告A」という。)
原 告 株 式 会 社 J B F
10 (以下「原告会社」という。)
上記両名訴訟代理人弁護士 高 橋 隆 二
同訴訟復代理人弁護士 高 村 知 子
15 被 告 株 式 会 社 リ ク ル ー ト
同 訴 訟代 理 人 弁 護 士 松 山 智 恵
同訴訟復代理人弁護士 津 城 尚 子
中 村 優 介
20 熊 谷 仁 孝
同 補 佐 人 弁 理 士 伊 藤 健 太 郎
長 沼 弘
主 文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
25 2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 被告は、原告会社に対し、4400万円及びこれに対する令和6年7月17
日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。
2 被告は、原告Aに対し、1100万円及びこれに対する令和6年7月17日
5 から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。
第2 事案の概要等
1 事案の概要
本件は、①発明の名称を「未確定の将来クレジット債権の買い取りによるク
レジットカード加盟店への無担保のファンディングシステム」とする特許(特
10 許第5785272号。以下「本件特許」といい、本件特許に係る特許権を
「本件特許権」という。)について独占的通常実施権の設定を受けたとする原
告会社が、被告に対し、被告による別紙被告システム目録記載のシステム(以
下「被告システム」という。)の生産及び使用は上記独占的通常実施権を侵害
するとして、民法709条(対象期間は令和3年4月1日から令和6年4月3
15 0日まで)に基づく損害賠償金4400万円(一部請求)及び遅延損害金の支
払を求め、②原告会社の代表者である原告Aが、被告に対し、別紙営業秘密目
録1及び2記載の情報(以下「本件情報1」、「本件情報2」といい、「本件情
報」と総称する。)は原告Aらの営業秘密であり、被告が本件情報を使用した
ことは不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項7号所定の不正競
20 争に当たり、また、原告Aと被告の間の合意に反するとして、不競法4条又は
債務不履行に基づく損害賠償金1100万円(一部請求)及び遅延損害金の支
払を求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いがないか、後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容
易に認められる事実。以下、枝番号のある証拠について枝番号を記載しない場
25 合は、全ての枝番号を含む。)
⑴ 当事者
ア 原告Aは、原告会社の代表取締役である。
イ 原告会社は、投融資に関する評価計算事務及び信用審査の受託、貸金業、
企業経営上のリスクマネジメントのコンサルティング、経営相談の受託、
資産運用に関するコンサルティング業等を目的とする株式会社である。
5 ウ 被告は、人材紹介等の事業を営む株式会社であり、令和3年4月1日、
子会社である株式会社リクルートライフスタイル(以下「被告子会社」と
いう。)を吸収合併した。(甲19)
⑵ 本件特許権(甲1、2)
本件特許権は、平成25年4月10日を出願日(特願2013-5520
10 42。優先日/平成24年8月10日。優先権主張国/日本国)、平成27
年7月31日を登録日とする特許権である。原告Aは、本件特許権を保有す
る。
⑶ 特許請求の範囲の記載
本件特許に係る特許請求の範囲請求項1の記載は、以下のとおりである
15 (以下、請求項1記載の発明を「本件発明」という。また、本件特許に係る
明細書及び図面(甲2)を、「本件明細書」という。)。
「クレジットカード加盟店の端末装置及び前記クレジットカード加盟店が
加盟するクレジットカード会社の情報処理サーバと通信ネットワークで接続
されたファンディング事業者が使用するサーバを備えたシステム・センター
20 による未確定の将来クレジット債権の買い取りを用いたクレジットカード加
盟店への無担保のファンディングシステムであって、
前記システム・センターのサーバは、
前記クレジットカード加盟店のクレジットカード決済取引による売上デー
タを用いて、前記クレジットカード加盟店のクレジットカード決済取引によ
25 る一定期間の実績クレジットカード決済取引売上高を計算し、前記クレジッ
トカード加盟店において将来発生すると予測されるクレジット債権を債券化
する対象期間を設定して、該債券化対象期間に対応する前年度期間の実績ク
レジットカード決済取引売上高に債券化割合を乗じて将来クレジット債権の
買取債券の額面を設定して、これらをデータベースに保存する債権化パター
ン設定部と、
5 前記債券化対象期間の開始月以降の前記クレジットカード加盟店のクレジ
ットカード決済取引による売上データをクレジットカード会社毎に集計して
クレジットカード会社毎の月間実績決済高を算出し、当該月間実績決済高に
前記債券化割合を乗じて、クレジットカード会社毎の前記債権買取債券の当
月償還金額を設定し、これらをデータベースに保存して、
10 前記償還金額を累積して求めた償還金額累積額が前記債権買取債券の額面
額と一致するか否かを判断し、
前記償還金額累積額と前記債権買取債券の額面額が一致したと判断した場
合、前記債権買取債券の償還の終了をクレジットカード会社の情報処理サー
バに通知し、
15 前記対象債券化期間を経過しても前記償還金額累積額と前記将来クレジッ
ト債権買取債券の額面額が一致していないと判断した場合、前記将来クレジ
ット債権買取債券の償還期間の延長をクレジットカード会社の情報処理サー
バに通知する償還管理部と、
を有することを特徴とする未確定の将来クレジット債権の買い取りによる
20 クレジットカード加盟店への無担保のファンディングシステム。」
⑷ 構成要件の分説
本件発明は、以下のとおり分説することができる(以下、分説に従い、
「構成要件A」などという。)。
A クレジットカード加盟店の端末装置及び前記クレジットカード加盟店
25 が加盟するクレジットカード会社の情報処理サーバと通信ネットワーク
で接続されたファンディング事業者が使用するサーバを備えたシステ
ム・センターによる未確定の将来クレジット債権の買い取りを用いたク
レジットカード加盟店への無担保のファンディングシステムであって、
B 前記システム・センターのサーバは、
C 前記クレジットカード加盟店のクレジットカード決済取引による売上
5 データを用いて、前記クレジットカード加盟店のクレジットカード決済
取引による一定期間の実績クレジットカード決済取引売上高を計算し、
前記クレジットカード加盟店において将来発生すると予測されるクレジ
ット債権を債券化する対象期間を設定して、該債券化対象期間に対応す
る前年度期間の実績クレジットカード決済取引売上高に債券化割合を乗
10 じて将来クレジット債権の買取債券の額面を設定して、これらをデータ
ベースに保存する債権化パターン設定部と、
D 前記債券化対象期間の開始月以降の前記クレジットカード加盟店のク
レジットカード決済取引による売上データをクレジットカード会社毎に
集計してクレジットカード会社毎の月間実績決済高を算出し、当該月間
15 実績決済高に前記債券化割合を乗じて、クレジットカード会社毎の前記
債権買取債券の当月償還金額を設定し、これらをデータベースに保存し
て、
E 前記償還金額を累積して求めた償還金額累積額が前記債権買取債券の
額面額と一致するか否かを判断し、
20 F 前記償還金額累積額と前記債権買取債券の額面額が一致したと判断し
た場合、前記債権買取債券の償還の終了をクレジットカード会社の情報
処理サーバに通知し、
G 前記対象債券化期間を経過しても前記償還金額累積額と前記将来クレ
ジット債権買取債券の額面額が一致していないと判断した場合、前記将
25 来クレジット債権買取債券の償還期間の延長をクレジットカード会社の
情報処理サーバに通知する償還管理部と、
H を有することを特徴とする未確定の将来クレジット債権の買い取りに
よるクレジットカード加盟店への無担保のファンディングシステム。
⑸ 他社のサービスの概要及び被告子会社との業務連携に向けた協議等
ア 株式会社クレディセゾン(以下「セゾン」という。)は、平成28年頃、
5 クレジットカード加盟店のクレジットカード利用者に対する将来の売上債
権の買い取りによるクレジットカード加盟店向けのファンディングサービ
ス(以下「セゾンのサービス」という。)の提供を開始した。(甲8)
イ セゾンは、平成29年9月29日付けで、原告会社と業務提携契約(以
下「本件業務提携契約」という。)を締結した。本件業務提携契約には、
10 開示されたビジネスプラン、ファイナンスストラクチャー、金融戦略、顧
客情報、ファンディングの提供条件及び付帯サービス等を機密情報とし、
機密情報を外部に漏洩しないとする合意(第3.6条)が含まれていた。
(甲4)
ウ セゾンは、令和元年12月23日、被告子会社の役員らに対し、セゾン
15 のサービスの概要を説明するとともに、後記⑹の被告の決済代行サービス
(Airペイ)を利用する加盟店向けのファンディングサービスについて
協業を提案するなどした。(甲16)
エ セゾンと被告子会社(被告)は、令和2年11月頃まで、業務提携に向
けて協議、検討を続けたものの、合意に至らなかった。また、両社間で秘
20 密保持契約書のドラフトが作成されたものの、調印に至らなかった。(甲
24)
⑹ 被告の行為
被告は、「Airペイ加盟店規約」という名称の規約(甲12)に基づい
て個別加盟店契約を締結した販売店等(以下「Airペイ加盟店」という。)
25 に対して、各種のクレジットカードや電子マネー等の複数の支払手段の決済
について、専用の端末を用いて一括して実施、管理することができる「Ai
rペイ」という名称の決済代行サービス(以下「Airペイ」という。)を
提供していた。
被告は、令和3年4月頃、「Airキャッシュ利用規約」という名称の規
約(甲13、乙25。以下「利用規約」という。)に基づく「Airキャッ
5 シュ」という名称のAirペイ加盟店向けのファンディング(資金調達)サ
ービス(以下「被告サービス」という。)の提供を開始し、それ以降、被告
システムの生産及び使用をしている。(甲9~13)
⑺ 被告サービスの概要及び被告システムの構成
ア 被告サービスの概要は以下のとおりである。(甲9~14)
10 (ア) 被告は、Airペイの提供に情報処理サーバ(以下「Airペイの
情報処理サーバ」という。)を使用している。
(イ) 被告サービスは、Airペイ加盟店を債権者、クレジットカード決
済を利用する顧客(以下「カード会員」という。)を債務者とする将来
の販売代金債権の買い取りにより、Airペイ加盟店に資金提供を行う
15 ファンディングサービスである。●(省略)●
(ウ) Airペイ加盟店が、被告サービスの利用の申込みを行い、被告が
これを承諾して両者の間で被告サービスの利用契約が成立すると、Ai
rペイ加盟店を譲渡人、被告を譲受人とする、Airペイ加盟店のカー
ド会員に対する将来の販売代金債権の債権譲渡契約が成立し、被告は、
20 Airペイ加盟店に対し、上記債権譲渡に係る対価の一部としてAir
ペイ加盟店が上記申込み時に選択した「利用金額」(当初支払額)を支
払う(利用規約4条1項、8項、1条17項1号)。
そして、カード会員がAirペイ加盟店でAirペイ決済を用いた取
引を行うと、Airペイ加盟店は、前月締め日から当月締め日前日まで
25 のAirペイ決済による当該Airペイ加盟店の売上代金の合計額から
「個別引落額」(上記売上代金に「引落率」を乗じた金額)を控除した
金額の支払を受ける。「個別引落額」の控除は、その合計額が「本サー
ビス引落総額」(通常は「利用金額」に被告サービスの手数料を加えた
金額である。)に達するまで行われる(利用規約1条11項、14項、
15項、11条1項)。
5 (エ) 被告サービスの利用プランの決定及び被告サービスの利用契約の締
結の手順は以下のとおりである。
①Airペイ加盟店は、アプリケーションの設定画面に表示される
「利用金額」及び「引落率」の各選択肢の提示の中から、いずれかの
「利用金額」及び「引落率」を選択する。②上記①で選択された「利用
金額」及び「引落率」に基づく利用プランとして、「引落開始日」、「引
落終了月(目安)」、「引落率」、「引落金額(目安)/回」等が設定画面
に表示される(上図参照)。③Airペイ加盟店が上記②の設定画面の
5 「同意して申込みする」ボタンを押して被告サービスの申込みをし、こ
れに被告が承諾すると、利用プランが決定される。
イ 被告システムは、少なくとも以下の構成を有している。(争いがない)
a ファンディング事業者が使用するサーバ(すなわち、被告サービスの
サーバ)を備えたシステム・センターによる未確定の将来債権(すなわ
10 ち、Airペイ加盟店のカード会員に対する将来の販売代金債権)の買
い取りを用いたAirペイ加盟店への無担保のファンディングシステム
である。
c 利用金額を設定して、当該利用金額をデータベースに保存している。
h 未確定の将来債権(すなわち、Airペイ加盟店のカード会員に対
15 する将来の販売代金債権)の買い取りによるAirペイ加盟店への無担
保のファンディングシステムである。
3 争点
(民法709条関係)
⑴ 被告システムが本件発明の技術的範囲に属するか(争点1)
20 ア 被告システムの構成(争点1-1)
イ 構成要件Aの充足性(争点1-2)
ウ 構成要件Bの充足性(争点1-3)
エ 構成要件Cの充足性(争点1-4)
オ 構成要件Dの充足性(争点1-5)
25 カ 構成要件Eの充足性(争点1-6)
キ 構成要件Fの充足性(争点1-7)
ク 構成要件Gの充足性(争点1-8)
ケ 構成要件Hの充足性(争点1-9)
⑵ 損害の発生及びその額(争点2)
(不競法4条関係)
5 ⑶ 被告に不正競争(不競法2条1項7号)が成立するか(争点3)
ア 本件情報は原告Aが保有する営業秘密に該当するか(争点3-1)
イ 被告が不正の利益を得る目的で本件情報を使用したか(争点3-2)
⑷ 本件情報2について原告Aの営業上の利益が侵害されたか(争点4)
⑸ 損害の発生及びその額(争点5)
10 (債務不履行関係)
⑹ 被告に債務不履行が成立するか(争点6)
ア 被告の原告Aに対する義務の発生(争点6-1)
イ 被告が本件情報を不正に使用したか(争点6-2)
⑺ 損害の発生及びその額(争点7)
15 4 争点に関する当事者の主張
⑴ 争点1(被告システムが本件発明の技術的範囲に属するか)
ア 争点1-1(被告システムの構成)について
(原告会社の主張)
被告システムの構成は、別紙被告システムの構成の「原告会社の主張」
20 欄のとおりである(以下、原告会社の主張する被告製品の構成を、同別
紙の符号に対応させて「構成a」などという。)。
(被告の主張)
原告会社の主張に対する認否は、別紙被告システムの構成の「被告の主
張」欄のとおりである。
25 イ 構成要件Aの充足性(争点1-2)
(原告会社の主張)
(ア) 「クレジットカード会社」
特許権は技術的思想を保護するものであるから、「クレジットカード
会社」は、その技術的意義を重視して「クレジットカード会社としての
機能を有する主体」と解すべきである。また、発明上の利用主体や当事
5 者の法的・社会的属性を多少変更しただけで特許権侵害の責任を回避で
きるという不当な結論を防ぐという観点から、「法人」に限定して解釈
すべきでなく、その運営主体が個人や会社の部門等でも当該主体に含ま
れると解すべきである。そして、クレジットカード決済代行サービス
(会社ないし部門)は、「クレジットカード会社」の決済機能を抜き出
10 して代行し、クレジットカード決済に関する情報を一時的に管理・収集
し、同サービスの情報処理サーバが「クレジットカード会社」の情報処
理サーバの役割を代替するから、「クレジットカード会社」に該当する
といえ、本件明細書【0016】、【0017】も、「クレジットカード
会社」にクレジットカード決済代行サービスが含まれることを示してい
15 る。
Airペイはクレジットカード決済代行サービスであり、「クレジッ
トカード会社」に含まれるから、構成aの①「Airペイ加盟店」、②
「Airペイの情報処理サーバ」及び③「未確定のAirペイ債権」は、
それぞれ、❶「クレジットカード加盟店」、❷「クレジットカード会社
20 の情報処理サーバ」及び❸「未確定の将来クレジット債権」に該当する。
(イ) 「通信ネットワークで接続」
「通信ネットワークで接続」は、常時直接通信をしていることを意味
するものではなく、通信可能なネットワークで接続されていれば足りる。
●(省略)●構成aのファンディング事業者が使用するサーバは、
25 「クレジットカード会社の情報処理サーバと通信ネットワークで接続さ
れたファンディング事業者が使用するサーバ」に該当する。
(ウ) よって、被告システムは構成要件Aを充足する。
(被告の主張)
(ア) 「クレジットカード会社」
「クレジットカード会社」は、その文言から想起される通常の意味の
5 とおり、法人格を有する主体と解され、また、「クレジットカード会社
毎」(構成要件D)と複数存在することが前提とされていることや本件
明細書の記載(【0016】等)にも照らせば、クレジットカード発行
会社(イシュア)と解すべきである。
したがって、Airペイのようなクレジットカード決済代行サービス
10 やクレジットカード決済代行会社は「クレジットカード会社」に当たら
ないから、「Airペイの情報処理サーバ」は「クレジットカード会社
の情報処理サーバ」に当たらない。
また、「クレジットカード会社の情報処理サーバ」、「ファンディング
事業者が使用するサーバ」との記載からは、クレジットカード会社とフ
15 ァンディング事業者が同一の事業体である場合を含まないところ、被告
サービスについては、Airペイと「ファンディング事業者」が同一事
業体によるものである点で、構成要件Aを充足しない。
(イ) 「通信ネットワークで接続」
「通信ネットワークで接続」は、その文言や本件明細書の記載(【0
20 019】)に照らせば、公衆回線網・専用回線等の通信回線でつながれ
た状態と解すべきである。
●(省略)●「クレジットカード会社の情報処理サーバ通信ネットワ
ークで接続された」を充足しない。
ウ 構成要件Bの充足性(争点1-3)
25 (原告会社の主張)
前記イ(原告会社の主張)のとおり、被告システムは、「クレジットカ
ード会社の情報処理サーバと通信ネットワークで接続されたファンディ
ング事業者が使用するサーバ」(構成要件A)を有するから、構成bの
「システム・センターのサーバ」も「前記システム・センターのサーバ」
(構成要件B)を充足する。
5 (被告の主張)
前記イ(被告の主張)のとおり、被告システムは、「クレジットカード
会社の情報処理サーバと通信ネットワークで接続されたファンディング
事業者が使用するサーバ」(構成要件A)を充足しないから、「前記シス
テム・センターのサーバ」(構成要件B)も充足しない。
10 エ 構成要件Cの充足性(争点1-5)
(原告会社の主張)
(ア) 前記イ(原告会社の主張)(ア)によれば、構成cの①「Airペイ
加盟店」、②「Airペイ決済取引」は、それぞれ、❶「クレジットカ
ード加盟店」、❷「クレジットカード決済取引」に該当する。
15 (イ) 「債券化対象期間」
構成cの「引落対象期間」は、Airペイのアプリケーションの設定
画面に表示される「引落開始日」から「引落終了月(目安)」までの期
間であり、当該期間に引落しが行われるから、構成cの「引落対象期間」
が「債券化対象期間」に該当する。
20 なお、被告が「債券化対象期間」に相当すると主張する「債権譲渡期
間」は、令和6年3月11日の利用規約改定以降の設計変更によって採
用された構成であり、損害賠償の対象期間(令和3年4月1日から令和
6年4月30日まで)に存在したかは明らかでなく、仮に存在したとし
ても、例外的な処理方法に係る付加的構成にすぎないから、構成要件C
25 の充足性を左右するものではない。
(ウ) 「将来クレジット債権の買取債券の額面」の設定方法
被告システムでは、「前年度期間の実績Airペイ決済取引売上高に
引落率を乗じて本サービス引落総額(利用金額に手数料を加えた金額)
を設定」するが、①「引落率」及び②「本サービス引落総額」は、それ
ぞれ、❶「債券化割合」及び❷「将来クレジット債権の買取債券の額面」
5 に該当する。
被告システムでは、「α×Airペイの引落対象期間の決済高×引落
率」という計算式によって算出された複数の「本サービス引落総額」が
提示され、利用者がその中から選択しているから、「本サービス引落総
額」が「引落対象期間に対応する前年度期間の…売上高」に「引落率」
10 を乗じて算出されていることに変わりはなく、「該債券化対象期間に対
応する前年度期間の実績クレジットカード決済取引売上高に債券化割合
を乗じて将来クレジット債権の買取債券の額面を設定」(構成要件C)
を充足する。
(被告の主張)
15 (ア) 「債券化対象期間」
「債券化対象期間」はファンディング事業者が買い取る対象である将
来クレジット債権の発生期間を意味する。
原告会社が主張する「引落対象期間」は、設定画面に「引落開始
日」・「引落終了月(目安)」と表示されているように、将来クレジット
20 債権から被告が回収する期間の目安にすぎず、「債券化対象期間」に該
当しない。
「債券化対象期間」に対応する被告システムの構成は「債権譲渡期間」
である。「債権譲渡期間」は令和6年3月11日の利用規約改定前から
一貫して採用されていた。
25 (イ) 「将来クレジット債権の買取債券の額面」の設定方法
構成要件Cの文言、記載順のとおり、「買取債券の額面」は、「債券化
対象期間」が設定されることに伴い、「債券化対象期間に対応する前年
度期間の…売上高」に「債券化割合」を乗じて自動的に算出され、「債
券化割合」と無関係に定まることはない。
●(省略)●「該債券化対象期間に対応する前年度期間の実績クレジ
5 ットカード決済取引売上高に債券化割合を乗じて将来クレジット債権の
買取債券の額面を設定」(構成要件C)を充足しない。
オ 構成要件Dの充足性(争点1-5)
(原告会社の主張)
(ア) 前記イ(原告会社の主張)(ア)によれば、構成dの①「Airペイ
10 加盟店」、②「Airペイ決済取引」は、それぞれ、❶「クレジットカ
ード加盟店」、❷「クレジットカード決済取引」に、前記エ(原告会社
の主張)(ア)(ウ)によれば、③「引落対象期間」、④「引落率」は、それ
ぞれ、❸「債券化対象期間」、❹「債権化割合」に該当する。
(イ) 「クレジットカード会社毎」
15 構成dの「決済サービス提供会社毎」は「クレジットカード会社毎」
に該当する(主位的請求)。また、前記イ(原告会社の主張)(ア)のとお
り、Airペイのようなクレジットカード決済代行サービスも「クレジ
ットカード会社」に含まれるところ、被告システムは、Airペイを単
位として売上データの集計、月間売上実績決済高の算出、当月償還金額
20 の設定等を行っているから、「Airペイを単位として」は、「クレジッ
トカード会社毎」に該当する(予備的請求)。
(ウ) 「当月償還金額」
構成dの「当月引落金額」は「前記債権買取債券の当月償還金額」に
該当する(主位的請求)。また、被告システムは、毎月の実績決済高や
25 引落金額をより短い期間に分割して算出しているにすぎないから、「ひ
と月を分割した期間の引落金額」が「当月償還金額」に該当する(予備
的主張)。
(被告の主張)
(ア) 「クレジットカード会社毎」
前記イ(被告の主張)(ア)のとおり、「クレジットカード会社」は、ク
5 レジットカード発行会社(イシュア)と解すべきところ、●(省略)●
(イ) 「当月償還金額」
「当月償還金額」は、「当月」の通常の意味からすれば、少なくとも
1か月毎の引落金額と解されるところ、被告システムでは、1か月毎の
実績決済高に基づいて引落金額が算定されておらず、「ひと月を分割し
10 た期間の引落金額」は「当月償還金額」に該当しない。
カ 構成要件Eの充足性(争点1-6)
(原告会社の主張)
前記エ(原告会社の主張)(ウ)によれば、構成eの①「引落金額」及び
②「本サービス引落総額」は、それぞれ、❶「償還金額」及び❷「債権
15 買取債券の額面額」に該当し、前記オ(原告会社の主張)(ウ)のとおり、
被告システムは「当月償還金額」を設定しているから、被告システムは
構成要件Eを充足する。
(被告の主張)
前記オ(被告の主張)(イ)のとおり、被告システムは、「当月償還金額」
20 を設定していないから、「前記償還金額を累積して求めた償還金額累積額
が前記債権買取債券の額面額と一致するか否かを判断」しておらず、構
成要件Eを充足しない。
キ 構成要件Fの充足性(争点1-7)
(原告会社の主張)
25 (ア) 「クレジットカード会社の情報処理サーバに通知」
構成fの「決済サービス提供会社の情報処理サーバ」は「クレジット
カード会社の情報処理サーバ」に該当する(主位的請求)。
また、前記イ(原告会社の主張)(ア)によれば、「Airペイの情報処
理サーバ」は「クレジットカード会社の情報処理サーバ」に該当し、●
(省略)●
5 (イ) 「債権買取債券の償還の終了を…通知」
「債権買取債券の償還の終了を…通知」は、通知方法が特に限定され
ておらず、本件明細書【0039】も参酌すると、積極的に償還完了を
通知する方法のみならず、これまで償還が継続されてきた加盟店を償還
の対象から除外したリストを提供する方法も含まれる。
10 ●(省略)●「当該Airペイ加盟店を除外した精算対象店舗のリス
ト」の提供は「債権買取債券の償還の終了を…通知」を充足する。
(ウ) 「前記償還金額累積額と前記債権買取債券の額面額が一致したと判断
した場合…通知」
●(省略)●前記カ(原告会社の主張)によれば、構成fの①「利用
15 金額」(主位的請求)・「本サービス引落総額」(予備的請求)、②「本サ
ービス引落総額」は、それぞれ、❶「償還金額」及び❷「債権買取債券
の額面額」に該当するから、「前記引落金額累積額と前記本サービス引
落総額が一致したと判断した場合…通知」を充足する。
(被告の主張)
20 (ア) 「クレジットカード会社の情報処理サーバに通知」
●(省略)●
(イ) 「債権買取債券の償還の終了を…通知」
●(省略)●
(ウ) 「前記償還金額累積額と前記債権買取債券の額面額が一致したと判断
25 した場合…通知」
●(省略)●
ク 構成要件Gの充足性(争点1-8)
(原告会社の主張)
(ア) 「クレジットカード会社の情報処理サーバに通知」
構成gの「決済サービス提供会社の情報処理サーバ」(主位的主張)・
5 「Airペイの情報処理サーバ」(予備的主張)は「クレジットカード
会社の情報処理サーバ」に該当する。
●(省略)●「クレジットカード会社の情報処理サーバに通知」に当
たる(予備的主張)。
(イ) 「将来クレジット債権買取債券の償還期間の延長を…通知」
10 ●(省略)●
(ウ) 「前記対象債券化期間を経過しても前記償還金額累積額と前記将来
クレジット債権買取債券の額面額が一致していないと判断した場合…通
知」
本件明細書【0039】を参酌すると、「債券化対象期間」を経過し
15 ているか否かの判断は必須ではない。
●(省略)●
(被告の主張)
(ア) 「クレジットカード会社の情報処理サーバに通知」
前記キ(被告の主張)(ア)のとおり、被告システムは「クレジットカ
20 ード会社の情報処理サーバに通知」していない。
(イ) 「将来クレジット債権買取債券の償還期間の延長を…通知」
前記エ(被告の主張)(ア)のとおり、原告会社が主張する「引落対象
期間」は「債券化対象期間」に該当せず、「債券化対象期間」に対応す
る被告システムの構成は「債権譲渡期間」であるところ、被告システム
25 では「債権譲渡期間」を経過して「本サービス引落総額」が回収されて
いない場合であっても、「償還期間」が延長されることはないから、「A
irペイの情報処理サーバ」が「クレジットカード会社の情報処理サー
バ」であると仮定しても、「将来クレジット債権買取債券の償還期間の
延長を…通知」することはない。
(ウ) 「前記対象債券化期間を経過しても前記償還金額累積額と前記将来
5 クレジット債権買取債券の額面額が一致していないと判断した場合…通
知」
●(省略)●
ケ 構成要件Hの充足性(争点1-9)
(原告会社の主張)
10 前記イ(原告会社の主張)(ア)によれば、構成hの①「Airペイ債権」
及び②「Airペイ加盟店」は、それぞれ、❶「クレジット債権」及び
❷「クレジットカード加盟店」に該当するから、被告システムは構成要
件Hを充足する。
(被告の主張)
15 被告システムは、構成要件AないしGを充足しないから、構成hのよう
に「を有することを特徴とする」とはいえず、構成要件Hを充足しない。
⑵ 争点2(損害の発生及びその額)について
(原告会社の主張)
原告会社は、原告Aから本件特許権について独占的通常実施権の設定を受
20 け、被告が被告システムを生産及び使用したことによって独占的通常実施権
を侵害され、以下の損害が発生した。
ア 特許法102条3項の損害
被告は、令和3年4月1日以降、被告システムによって年100億円を
下らない将来債権を回収しており、特許法102条3項により算定される
25 損害額は、被告が回収した将来債権3年分の5パーセントに相当する15
億円を下らない。原告会社は被告に対し、このうち4000万円の支払を
請求する。
イ 弁護士費用に係る損害
被告の行為と相当因果関係がある弁護士費用に係る損害額は、400万
円を下らない。
5 (被告の主張)
原告会社が独占的通常実施権の設定を受けたことは不知。その余は否認な
いし争う。
⑶ 争点3(被告に不正競争(不競法2条1項7号)が成立するか)について
ア 本件情報は原告Aが保有する本件情報に該当するか(争点3-1)
10 (原告Aの主張)
以下のとおり、本件情報は原告Aが保有する営業秘密(不競法2条6項)
に該当する。
(ア) 本件情報の存在
原告Aは、本件情報を保有していた。すなわち、①原告Aは、セゾン
15 と協力し、知人が運営する株式会社ビッグパートナー(以下「ビッグパ
ートナー」という。)を通して、別紙営業秘密目録1記載1のとおり金
融庁に照会し、金融庁から、同目録記載2のとおり口頭で回答を得た。
このことは、金融庁に対する確認手続に係る照会書(甲6。以下「甲6
照会書」という。)や金融庁との打合せの議事録(甲23。以下「甲2
20 3議事録」という。)等によって裏付けられている。②また、原告Aは、
セゾンと共同で、金融庁に対し、加盟店が計画的に資金提供後に倒産す
るなどの悪質な場合を除いて、加盟店から一切回収しないスキームであ
れば、将来債権譲渡によるビジネスファンディングが貸金業法上の貸金
業に該当しないか確認し、同目録記載2のとおり回答を得た。このこと
25 は、甲23議事録等によって裏付けられている。
(イ) 秘密管理性
原告Aは、本件情報を秘密として管理していた。このことは、①原告
Aは、本件情報を自身のPC、自宅の書棚及び記憶上でのみ管理し、第
三者が本件情報にアクセスすることはなかったこと、②セゾンは、本件
業務提携契約における契約締結前の機密情報も含めて開示先を限定する
5 旨の合意に基づき、また、原告Aが代表を務める外国法人との間で締結
した相互守秘義務契約(甲33)に基づき、本件情報につき秘密保持義
務を負っていたこと、③ビッグパートナーも、原告らから新規事業につ
き金融庁に対する確認手続を受任しており、準委任契約に係る善管注意
義務(民法656条、644条)の一内容として、また、情報の性質及
10 び内容等に照らして秘密にすることを社会通念上求められる状況にあり、
ビッグパートナーもそのことを認識していたことに基づき、本件情報1
につき秘密保持義務を負っていたこと等によって裏付けられている。
(ウ) 有用性
本件情報は、有用な営業上の情報である。すなわち、本件情報1は、
15 新規のビジネスモデルが適法に実施可能であることを裏付ける情報であ
り、また、本件情報2は、当該新規のビジネスにおいてファンディング
事業者が十分に利益を上げることができるのか、貸し倒れのような状態
を防ぎつつサービスを展開できるのかなどを検討する上で必要不可欠な
情報であって、これらの情報を利用すれば金融庁等の公的機関に照会す
20 る手間を省くこともできる。
(エ) 非公知性
本件情報は、公然と知られていなかった。このことは、①ビッグパー
トナー及びセゾンが秘密保持義務を課されていたこと(前記(イ)②③)、
②本件情報のような新規事業に係る内容を金融庁に照会するというアイ
25 デアを得ること自体が困難であること等によって裏付けられている。
(被告の主張)
以下のとおり、本件情報は原告Aが保有する営業秘密(不競法2条6項)
に該当するとはいえない。
(ア) 本件情報の存在
原告Aが本件情報を保有していたとはいえない。①金融庁が本件情報
5 1のような事業一般について貸金業法上の貸金業者の登録が不要である
との回答をすることは考えにくく、特定の契約内容を前提とせずに本件
情報2のような一般論を回答することも考えにくいこと、②甲6照会書
及び甲23議事録から本件情報の全てを読み取ることができないこと、
③本件情報2はセゾンの情報であること等からすると、本件情報が存在
10 するかも不明である。
(イ) 秘密管理性
本件情報は、秘密として管理性されていたとはいえない。このことは、
①甲6照会書に記載されているとおり、原告らは、本件情報の公表に同
意していたこと、②原告らが、ビッグパートナー及びセゾンに対し、秘
15 密保持義務を課すことなく本件情報を開示し又はアクセス可能な状態に
していたこと等から明らかである。
(ウ) 有用性
貸金業法上の貸金業に該当するかを判断する際には、個別具体的な事
実関係を踏まえる必要があるから、金融庁が本件情報のような一般論を
20 回答したというのであれば、それは虚偽又は不正確な内容であり、有用
な営業上の情報であるとはいえない。
(エ) 非公知性
本件情報は、公然と知られていなかったとはいえない。このことは、
①ビッグパートナー及びセゾンに秘密保持義務が課されておらず、第三
25 者はビッグパートナー又はセゾンから本件情報を取得できたこと、②金
融庁からの回答については、第三者が金融庁に照会すれば容易に知るこ
とができたこと等から明らかである。
イ 被告が不正の利益を得る目的で本件情報を使用したか(争点3-2)
(原告Aの主張)
以下のとおり、被告は、不正の利益を得る目的で本件情報を使用してお
5 り、不競法2条1項7号の不正競争が成立する。
(ア) 被告子会社は、セゾンとの業務提携の検討の過程で、令和元年12
月23日から令和2年11月頃まで数回にわたり、セゾンから本件情報
を示された。
(イ) ところが、業務提携が破談になると、被告子会社の地位を吸収合併
10 によって承継した被告は、セゾンの同意を得ることなく、不正の利益を
得る目的で本件情報を使用し、令和3年4月に被告サービスの提供を開
始した。
被告が本件情報を使用して被告サービスの提供を開始したことは、①
被告サービスとセゾンのサービスが、未確定の将来クレジット債権を買
15 い取ってクレジットカード加盟店へ無担保で資金提供を行うサービスで
あり、特に将来債権が発生しない場合も、例外的な場合を除いて将来債
権の買戻等の義務を定めて加盟店から資金を回収しない点で、同じ内容
であるところ、セゾンのサービスは、少なくとも約5年にわたる適法性
及び収益性の検討を経て提供が開始されたのに対し、被告サービスは、
20 セゾンとの協議から一、二年足らずで提供が開始されており、本件情報
を使用したとしか考えられないこと、②被告が罰則のある貸金業法や多
大な経済的リスクを伴う利息制限法の解釈について金融庁の公的な見解
を得ることなく被告サービスの提供を開始するのは不自然であること等
によって裏付けられている。
25 (被告の主張)
以下のとおり、被告は、不正の利益を得る目的で本件情報を使用してお
らず、不競法2条1項7号の不正競争は成立しない。
(ア) 被告子会社は、セゾンから、本件情報を示されていない。このこと
は、被告が令和2年7月に本件情報のような金融庁の見解に言及するこ
となくセゾンのサービスの法的性質等を弁護士に質問していること等か
5 らも明らかである。
(イ) 被告サービスは、被告社内及び二つの法律事務所による検討を経て
提供を開始されたものであり、被告は、本件情報を使用していない。
被告サービスがセゾンのサービスと比べて速やかに提供開始に至った
のであれば、それは、被告の優秀な人材が、豊富なアセットを活用して
10 準備検討を進めたこと等によるものであり、本件情報を使用したことに
よるものではない。また、法令違反の可能性が低ければ、時間やコスト
をかけて官公庁の見解を取得しないことも十分に考えられる。
⑷ 争点4(本件情報2について原告Aの営業上の利益が侵害されたか)につ
いて
15 (原告Aの主張)
被告が本件情報2を使用したことによって原告Aの営業上の利益が侵害さ
れた。原告Aは、本件情報2をセゾンと共同で保有し、セゾンのサービスに
よって利益を得ていた。
(被告の主張)
20 本件情報2は、セゾンが保有する情報であるから、仮に被告が本件情報2
を使用したとしても、原告Aの営業上の利益が侵害されたとはいえない。
⑸ 争点5(損害の発生及びその額)について
(原告Aの主張)
原告Aは、被告の不正競争によって営業上の利益を侵害され、以下の損害
25 が発生した。
ア 不競法5条3項の損害
被告は、本件情報を使用して被告システムを構築したことにより、少な
くとも4年間の準備期間の短縮の利益を得ており、不競法5条3項によ
って算定される損害額は、被告の年間将来債権回収額100億円4年分
の5パーセントに相当する20億円を下らない。原告Aは被告に対し、
5 このうち1000万円の支払を請求する。
イ 弁護士費用に係る損害
被告の行為と相当因果関係のある弁護士費用に係る損害額は、100万
円を下らない。
(被告の主張)
10 否認ないし争う。
⑹ 争点6(被告に債務不履行が成立するか)について
ア 被告の原告Aに対する義務の発生(争点6-1)
(原告Aの主張)
(ア) セゾンは、業務提携の検討の過程で、被告子会社に対し、セゾンの
15 サービスに関する営業秘密について、秘密保持契約を締結した上でなら
開示することができる旨伝えたところ、被告子会社は、後日秘密保持契
約書を作成すると述べ、これをもって、両者は、秘密保持契約書に記載
されるべき内容について口頭で合意をした(以下「本件合意」という。)。
秘密保持契約書の案(甲24の1)には、被告子会社が本件情報をセゾ
20 ンとの協業の検討以外に使用しないことを意味する条項が含まれていた
から、本件合意は、被告子会社が、本件情報をセゾンとの協業の検討以
外に使用しない義務を含むものである。
そして、本件合意は、本件情報の保有者である原告Aとの関係では、
第三者のための契約であり(民法537条1項)、原告Aは、受益の意
25 思表示をした。
したがって、被告子会社を吸収合併した被告は、本件合意に基づき、
原告Aに対し、本件情報を自ら不正に使用しない義務を負う。
(イ) 仮に本件合意の成立が認められなかったとしても、本件情報は、そ
の内容及び性質に照らして秘匿性の高い情報であり、社会通念上秘密に
することが求められ、被告子会社も、そのことを当然に認識していたと
5 いうべきであるから、被告は、信義則に基づき秘密保持義務(少なくと
もセゾンとの協業の検討以外に本件情報を使用しない義務)を負う。
(被告の主張)
否認ないし争う。
セゾンと被告子会社との間に本件合意は成立していない。ビジネスの現
10 場で、口頭で契約が締結されることはまずなく、契約書を作成するのが
通例であるし、仮に、被告子会社が後日書面で秘密保持契約書を作成す
ることを約束したとしても、これは、同時点で合意が成立していないこ
とを示すものである。
イ 被告が本件情報を不正に使用したか(争点6-2)
15 (原告Aの主張)
(ア) 前記⑶イ(原告Aの主張)のとおり、被告は、被告サービスの提供
を開始するため、本件情報を不正に使用した。
(イ) これは本件合意に基づく義務違反の債務不履行である。また、本件
合意が成立していないとしても、これは前記ア(原告Aの主張)(イ)の
20 義務違反であるところ、信義則上の義務に違反したことは債務不履行に
当たる。
(被告の主張)
否認ないし争う。被告(被告子会社)が本件情報を使用していないこと
は前記⑶イ(被告の主張)のとおりである。
25 ⑺ 争点7(損害の発生及びその額)について
(原告Aの主張)
原告Aは、被告の債務不履行(秘密保持義務違反)によって、前記⑸(原
告Aの主張)(ア)と同様に20億円を下らない損害が発生した。原告Aは被
告に対し、このうち1000万円の支払を請求する。また、弁護士費用に係
る損害額は100万円を下らない。
5 (被告の主張)
否認ないし争う。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(被告システムが本件発明の技術的範囲に属するか)について
⑴ 本件明細書の記載
10 本件明細書には、次の記載がある(発明の詳細な説明における表及び図面
は別紙本件図面目録のとおりである。)。
ア 技術分野
【0001】本発明は、未確定の将来クレジット債権の買い取りによる
クレジットカード加盟店への無担保のファンディングシステムに関する。
15 イ 背景技術
【0002】クレジットカードによる決済システムは、物品やサービス
を提供する店舗等がクレジットカード会社の加盟店となり、クレジットカ
ード会社の会員ユーザーが、加盟店においてクレジットカードにより決済
をできるようにしたシステムである。
20 このようなクレジットカードによる決済システムでは、クレジットカー
ド会社の加盟店が販売代金を回収するのに、およそ30日~50日の日数
を要しており、この間のカード決済による売上は、売掛の状態となってい
る。
【0003】そのため、クレジットカード会社の加盟店では、この売掛
25 金が決済されるまで手元流動性の資金として活用できないという不都合
があり、特に、現金仕入れの多い業種の加盟店においては仕入れ資金の
不足という問題が生じていた。
【0004】そこで、クレジットカード決済の取引がクレジットカード
会社によって承認されると、発生したクレジット債権をクレジットカー
ド会社が買い取り、取引金額からクレジットカード利用手数料とファク
5 タリングサービス利用手数料を差引いた金額を、加盟店へ支払うという
売掛金の早期回収方法(特許文献1(判決注:特開2003-0065
41号公報)参照)や、クレジット取引にかかる合計取引金額に応じて
融資を受けられるようにした加盟店のキャッシュフローの改善方法(特
許文献2(判決注:特開2003-242429号公報)参照)が提案
10 されている。
【0005】しかしながら、売掛債権のファクタリングによる方法では、
取引がクレジットカード会社により承認された直後にファクタリングサ
ービスを利用しなかった場合には、その後、加盟店の売上状況等の変化
によりファクタリングサービスの利用が必要になったとしても、クレジ
15 ットカード会社に当該クレジット取引により発生したクレジット債権の
買い取りをしてもらえないなどという問題があり、又、融資によるキャ
ッシュフローの改善方法では、定額返済のため、一時的な売り上げの減
少等の売上高の変動により、手元資金が不足する場合があるという問題
があった。
20 ウ 発明が解決しようとする課題
【0007】本発明は、上記従来の問題点に鑑みてなされたものであっ
て、本発明の目的は、一定期間の売上実績に基づく未確定の将来クレジ
ット債権を債券化して、無担保で加盟店の短期的な売上高の変動に影響
されない、クレジットカード加盟店へのファンディングシステムを提供
25 することにある。
エ 課題を解決するための手段
【0008】上記目的を達成するためになされた本発明の一態様による
将来クレジット債権の買い取りによるクレジットカード加盟店への無担
保のファンディングシステムは、クレジットカード加盟店の端末装置及
び前記クレジットカード加盟店が加盟するクレジットカード会社の情報
5 処理サーバと通信ネットワークで接続されたファンディング事業者が使
用するサーバを備えたシステム・センターによる未確定の将来クレジッ
ト債権の買い取りを用いたクレジットカード加盟店への無担保のファン
ディングシステムであって、前記システム・センターのサーバは、前記
クレジットカード加盟店のクレジットカード決済取引による売上データ
10 を用いて、前記クレジットカード加盟店のクレジットカード決済取引に
よる一定期間の実績クレジットカード決済取引売上高を計算し、前記ク
レジットカード加盟店において将来発生すると予測されるクレジット債
権を債券化する対象期間を設定して、該債券化対象期間に対応する前年
度期間の実績クレジットカード決済取引売上高に債券化割合を乗じて将
15 来クレジット債権の買取債券の額面を設定して、これらをデータベース
に保存する債権化パターン設定部と、前記債券化対象期間の開始月以降
の前記クレジットカード加盟店のクレジットカード決済取引による売上
データをクレジットカード会社毎に集計してクレジットカード会社毎の
月間実績決済高を算出し、当該月間実績決済高に前記債券化割合を乗じ
20 て、クレジットカード会社毎の前記債権買取債券の当月償還金額を設定
し、これらをデータベースに保存して、前記償還金額を累積して求めた
償還金額累積額が前記債権買取債券の額面額と一致するか否かを判断し、
前記償還金額累積額と前記債権買取債券の額面額が一致したと判断した
場合、前記債権買取債券の償還の終了をクレジットカード会社の情報処
25 理サーバに通知し、前記対象債券化期間を経過しても前記償還金額累積
額と前記将来クレジット債権買取債券の額面額が一致していないと判断
した場合、前記将来クレジット債権買取債券の償還期間の延長をクレジ
ットカード会社の情報処理サーバに通知する償還管理部と、を有するこ
とを特徴とする。
オ 発明の効果
5 【0010】本発明の将来クレジット債権の買い取りによるクレジット
カード加盟店への無担保のファンディングシステムによれば、一定期間
の売上実績に基づく未確定の将来クレジット債権を債券化してクレジッ
トカード加盟店の資金調達を行うものであり、クレジットカードの加盟
店は、売上高の変動の影響を受けることなく手元流動性資金を潤沢に確
10 保することが可能となり、その資金を新規の仕入れや設備投資等に利用
することができ、資金繰りに余裕がもてるようになる。
また、債券の償還方法は、売上高に対する定率返済であるので、クレジ
ットカードの加盟店は、売上高の一時的な減少等の売上高の変動により
償還が困難になるといった問題を避けることができる。
15 カ 発明を実施するための最良の形態
【0012】以下、本発明によるシステム・センターにおける将来クレ
ジット債権の買い取りによる無担保のクレジットカード加盟店への早期
還元システムを実施するための形態の具体例を、図面を参照して詳細に
説明する。
20 【0013】図1は、本発明の第1の実施形態による将来クレジット債
権の買い取りによるクレジットカード加盟店への無担保のファンディン
グシステムのスキーム(ファクタリング方式)を説明するための図であ
る。
【0014】本スキームは、クレジットカード加盟店10とファンディ
25 ング事業者40の間での債権買取代金譲渡契約の締結を前提としている。
図1を参照して、本スキームの流れを説明する。クレジットカード加盟
店10はファンディング事業者40に未確定の将来クレジット債権を債
券として売却し、ファンディング事業者40はクレジットカード加盟店
10に将来クレジット債権の債券買取代金を支払う。これにより、クレ
ジットカード加盟店10は、無担保で必要な手元流動性の資金を確保す
5 る。
【0015】クレジットカード加盟店10がファンディング事業者40
に売却した将来クレジット債権の対象期間において、カード会員20が
クレジットカード加盟店10でクレジットカードによる商品やサービス
等の購入を行い対象となる売掛債権が発生すると、クレジットカード会
10 社30は、カード会員からクレジットカード取引代金の支払いを受けて、
一定期間ごとのクレジットカード加盟店10へのクレジットカード取引
代金の支払時に、クレジットカード加盟店10への支払いと共に、クレ
ジットカード取引代金の支払の一定割合の金額を将来クレジット債権の
債券の償還分として、ファンディング事業者40に支払う。この債券の
15 償還は、ファンディング事業者40が買い取った債券の額面額と、ファ
ンディング事業者40が償還を受けた償還累積額とが一致するまで続け
られる。
【0016】本スキームにおいて、クレジットカード加盟店10は、ク
レジットカード決済可能な店舗であればよく、インターネットを介して
20 行うオンラインショッピングにおけるオンラインショップであってもよ
い。
本スキームにおいて、クレジットカード加盟店10とクレジットカード
会社30の間に、クレジットカード管理会社やクレジットカード決済代
行会社を含んでよい。
25 【0017】また、本スキームにおいて、クレジットカード会社30か
らのクレジットカード加盟店10及びファンディング事業者40への支
払いは、間に第3者の立場の信託会社、サーバサー若しくは事業会社を
介在させてもよい。
また、クレジットカード会社30からのクレジットカード加盟店10及
びファンディング事業者40への支払いは、カード会社30がファンデ
5 ィング事業者40にクレジットカード取引代金を全額支払い、将来クレ
ジット債権の債券の償還分を差し引いた残りのクレジットカード取引代
金をファンディング事業者40がクレジットカード加盟店10に支払う
ことでもよく、クレジットカード会社30がクレジットカード加盟店1
0にクレジットカード取引代金を全額支払い、クレジットカード加盟店
10 10が将来クレジット債権の債券の償還分をファンディング事業者40
に支払うことでもよい。
【0018】図2は、本発明の第1の実施形態による未確定の将来クレ
ジット債権の買い取りによるクレジットカード加盟店への無担保のファ
ンディングシステムのためのシステム・センターのサーバの構成を説明
15 するためのブロック図である。
【0019】図2において、システム・センターのサーバ100は、フ
ァンディング事業者のサーバとして使用され、クレジットカード加盟店
の端末装置15及びクレジットカード会社の情報処理サーバ25と公衆
回線網・専用回線等の通信ネットワークを介して接続され、通信部10
20 5、データベース110、債券化パターン設定部120、償還管理部1
30を有する。
【0020】システムセンターのサーバ100は、市販のPC(パーソ
ナルコンピュータ)等を用いて構成することができ、PCを構成するC
PU(中央制御装置)、メモリ、データベースを構成するハードディスク
25 等の記憶装置、管理用として画像やテキスト等を表示する表示装置、キ
ーボードやマウス等の入力装置、及び通信に関連するその他の入力装置
等の説明及びその構成図面は省略する。また、これらを用いてソフトウ
ェアプログラムの実行により機能する各構成部についても詳細な説明は
省略する。
【0021】通信部105は、クレジットカード加盟店の端末装置15、
5 クレジットカード会社の情報処理サーバ25、ファンディング事業者の
メインバンク(図示せず)等との接続、メール・サーバ業務を始めFT
P処理、電話、FAX、及びLANを含む専用回線通信処理を含めて、
通信全般を管理する。
【0022】データベース110は、クレジットカード会社情報を保存
10 するクレジットカード会社データベース112、クレジットカード加盟
店情報を保存するクレジットカード加盟店データベース114、各クレ
ジットカード加盟店のクレジットカード決済取引の実績データを保存す
る実績売上データベース116、各クレジットカード加盟店の日々のク
レジットカード決済取引の売上データを保存する日次売上データベース
15 118を有する。
【0023】クレジットカード会社情報を保存するクレジットカード会
社データベース112には、クレジットカード会社毎に、カード会社流
通コード、クレジットカード会社名称、クレジットカード会社資金運用
担当銀行の銀行コード、銀行支店コード、口座種目、口座番号等の運用
20 担当銀行データ、クレジットカード会社振込担当銀行の銀行支店コード、
口座種目、口座番号等の振込担当銀行データを含むデータファイルが保
存されている。
クレジットカード会社データベース112には、また、クレジットカー
ド管理会社及びクレジットカード決済代行会社についてのデータファイ
25 ルも保存されている。
【0024】クレジットカード加盟店情報を保存するクレジットカード
加盟店データベース114には、クレジットカード加盟店毎に、加盟店
コード、名称、住所、電話番号、FAX番号、担当者氏名、担当者メー
ルアドレス等のクレジットカード加盟店のデータ及び各加盟店の振込銀
行コード、振込銀行名、振込銀行支店コード、振込銀行支店名、振込口
5 座種目、振込口座番号、振込口座名義、将来クレジット債権の債券パタ
ーン、契約日、将来クレジット債権買取債券額面額、将来クレジット債
権の債券償還開始日等を含んだデータファイルが保存されている。
【0025】クレジットカード決済取引の実績データを保存する実績売
上データベース116には、クレジットカード加盟店別に、過去のクレ
10 ジットカード決済取引について、カード会社流通コード、加盟店コード、
代理店コード、売上年月日、取引コード、売上件数、売上合計等を含ん
だデータファイルが保存されている。
【0026】クレジットカード決済取引の売上データを保存する日次売
上データベース118には、クレジットカード加盟店毎に、日々のクレ
15 ジットカード決済取引についてカード会社流通コード、加盟店コード、
代理店コード、売上年月日、取引コード、売上件数、売上合計等を含ん
だデータファイルが保存されている。
【0027】債券化パターン設定部120は、クレジットカード加盟店
の端末装置15からファンディング申請情報を受信する受付部122、
20 将来クレジット債権買取債券の額面及び償還開始日を設定する債券額面
設定部124、クレジットカード加盟店からの債券購入価格を設定する
債券購入価格設定部126、クレジットカード加盟店に債券化パターン
を通知する債券化パターン通知部128を有する。
【0028】受付部122は、クレジットカード加盟店の端末装置15
25 から新規のファンディング申請を受信すると、加盟店コード、名称、住
所、電話番号、FAX番号、担当者氏名、担当者メールアドレス等のク
レジットカード加盟店のデータ及び各加盟店の振込銀行コード、振込銀
行名、振込銀行支店コード、振込銀行支店名、振込口座種目、振込口座
番号、振込口座名義、希望債券化対象期間及び希望債券化額及び過去1
年間のクレジットカード決済取引の売上データを取得し、データベース
5 110に保存する。
受付部122におけるクレジットカード決済取引の売上データの取得は、
申請加盟店の指示を受けたクレジットカード管理会社又はクレジットカ
ード決済代行会社から取得するものであってよい。
【0029】債券額面設定部124は、データベース110に保存され
10 た希望債券化対象期間及び前年度クレジットカード決済取引の売上デー
タを用いて、希望債券化対象期間に対応する前年度実績売上高を計算す
る。
続いて、債券額面設定部124は、希望債券化対象期間に対応する前年
度実績売上高をクレジットカード加盟店の希望債券化額で除して、前年
15 度実績売上高に対する希望債券化額の割合を算出する。
【0030】計算された前年度実績売上高に対する希望債券化額の割合
が1より大きい場合、すなわち希望債券化額が希望債券化対象期間の前
年度実績売上高を上回る場合には、計算する対象期間を延長して、対応
する前年度実績売上高の計算及び前年度実績売上高に対する希望債券化
20 額の割合の算出を行い、前年度実績売上高に対する希望債券化額の割合
が1より小さくなるまで繰り返す。
前述の計算において、計算の対象期間の延長は、1カ月単位の延長とす
ることが好ましく、債券化対象期間は1年以内とすることが好ましい。
【0031】債券額面設定部124は、前年度実績売上高に対する希望
25 債券化額の割合が1より小さくなる対象期間が見出されれば、その期間
を債券化対象期間として設定し、希望債券化額を将来クレジット債権買
取債券額面額と設定し、将来クレジット債権買取債券額面額を債券化対
象期間に対応する前年度の実績売上高で除した値を債券化割合として設
定し、これらをデータベース110に保存する。
償還開始月は債券化対象期間の開始月以降であれば特に制限されないが、
5 クレジットカード会社の支払時期と対応させて、債券化対象期間の開始
月の翌月とすることが好ましい。
【0032】債券化対象期間は、特に制限されるものではないが、通常
1年に設定され、繁忙期に対応した手元流動性資金の調達等の目的で、
対象期間を3カ月、6か月等の期間を設定してもよい。また、債券化対
10 象期間は債券化、償還管理のしやすさから月単にとすることが好ましい。
債券化割合は特に制限はないが、通常、10~30%であり、債券化割
合はまた、債券化対象期間におけるクレジット取引の売上高の債券償還
割合に相当するため、償還による加盟店の手元流動資金の不足を防止す
るために、債券化割合に上限を設けることが好ましく、債券化割合の上
15 限としては債券化対象期間に対応する前年度の実績売上高の50%に相
当する値とすることが好ましい。
【0033】債券購入価格設定部126は、将来クレジット債権買取債
券の額面から手数料、利息を差し引いてクレジットカード加盟店からの
債券購入価格を設定し、債券化対象期間の開始月の翌月に償還開始月を
20 設定しデータベース110に保存する。
債券額面設定部124、債券購入価格設定部126で設定してデータベ
ース110に保存された債券の額面額、債券化割合及び債券償還割合、
償還開始月、購入価格は、債券化パターン通知部128から通信部10
5を介してクレジットカード加盟店の端末装置15へ送信される。
25 【0034】次に、本実施形態によるシステム・センターのサーバ10
0の償還管理部130の機能、動作について説明する。
将来クレジット債権買取債券の償還管理を行う償還管理部130は、償
還対象取引データを選別する償還対象選別部132、一定期間ごとの償
還金額を計算する償還金額設定部134、償還の終了及び償還期間の延
長を判断する償還状況判断部136、償還金額、償還終了及び償還期間
5 延長を通知する償還通知部138を有する。
【0035】クレジットカード加盟店とファンディング事業者との間で、
債権買取代金譲渡契約が締結され、当該将来クレジット債権買取債券の
債券化対象期間がスタートすると、システム・センターのサーバ100
には、クレジットカード加盟店の端末装置15より債券化対象期間開始
10 後のクレジットカード決済取引の日次売上データが送信される。
システム・センターのサーバ100は、受信したクレジットカード決済
取引の日次売上データを償還管理部130の償還対象選別部132にお
いて、償還対象取引データ、償還対象最終取引データ、償還対象外取引
データに選別するとともにこれらのデータをデータベース110に保存
15 する。
【0036】償還対象取引データの選別は、クレジットカード加盟店の
クレジットカード決済取引の債券化対象期間開始以降の日次売上データ
について、クレジット会社の別なく時系列順に取引額を累積し、その累
積額に債券償還割合を乗じた金額が債券額面額以上となった時点の取引
20 データを償還対象最終取引データとし、累積額に債券償還割合を乗じた
金額が債券額面額未満の取引データを償還対象取引データとし、最終取
引データ以降の取引データを償還対象外取引データとして行う。
【0037】償還金額設定部134は、償還対象選別部132で選別さ
れた償還対象取引データ及び償還対象最終取引データをクレジットカー
25 ド会社毎に集計して、クレジットカード会社毎の月毎の実績決済高を算
出し、当該月間実績決済高に償還割合(債券化割合と同率)を乗じて、
クレジットカード会社毎の当月償還金額を設定し、データベース110
に保存する。
償還対象最終取引データについては、償還金額が債券額面額と同額とな
る分に相当する取引額を償還対象取引額とし、償還金額と債券額面額と
5 が同額になるようにする。
【0038】償還終了を判断する償還状況判断部136は、償還金額設
定部134で設定されたクレジットカード会社毎の当月償還金額に償還
対象最終取引データが含まれれば、債券の償還を終了とし、債券化対象
期間を過ぎてもクレジットカード会社毎の当月償還金額に償還対象最終
10 取引データが含まれなければ、償還期間を延長する。
償還期間の延長は、クレジットカード会社毎の当月償還金額に償還対象
最終取引データが含まれるまで続けられる。
【0039】償還通知部138は、償還金額設定部134で設定した当
期償還金額及び償還状況判断部136で判断した債券の償還の終了及び
15 償還期間の延長をクレジットカード会社の情報処理サーバ25及びクレ
ジットカード加盟店の端末装置15に当月償還金額の通知として通信部
105を介して通知する。
償還通知部138から通信部105を介してクレジットカード会社の情
報処理サーバ25及びクレジットカード加盟店の端末装置15に通知す
20 る当月償還金額通知は、当月償還金額、債券の償還の終了の有無及び償
還期間の延長の有無の他に、将来クレジット債権買取債券額面額、債券
化割合、債券化対象期間、償還開始月、当月償還金を含む累積償還金額、
償還残額を含む。
⑵ 争点1-1(構成要件Aの充足性)について
25 ア 「クレジットカード会社の情報処理サーバ」について
(ア) 「クレジットカード会社」の意義
a 本件発明は、「クレジットカード加盟店の端末装置及び前記クレジ
ットカード加盟店が加盟するクレジットカード会社の情報処理サーバ
と通信ネットワークで接続されたファンディング事業者が使用するサ
ーバを備えた」(構成要件A)を発明特定事項とするところ、原告会
5 社は、「クレジットカード会社」は、その技術的意義を重視して「ク
レジットカード会社としての機能を有する主体」であり、「法人」に
は限定されず会社の部門を含むところ、「クレジットカード会社」に
はクレジットカード決済代行サービス(会社ないし部門)が含まれる
と主張する。
10 そこで検討するに、クレジットカード決済事業者については、一般
に、クレジットカード会員に対してクレジットカードを発行し、クレ
ジットカード会員の利用代金を管理するイシュア(クレジットカード
発行会社)及びクレジットカード加盟店と契約をし、加盟店のクレジ
ット決済取引の売上げを管理するアクワイアラ(加盟店契約会社)を
15 同一の会社が兼ねる場合と別会社が行う場合があるが、別会社の場合
でも両社が連携して決済サービスを提供することになる。また、クレ
ジットカード決済代行サービスとは、加盟店とクレジットカード決済
事業者の間に立ち、加盟店契約、データ処理、精算などを一括提供す
るサービスであるが、一般的な語義としては、「クレジットカード会
20 社」が、クレジットカード決済代行会社やクレジットカード決済代行
サービス部門を含むものではない(甲30、弁論の全趣旨)。
特許請求の範囲には、「クレジットカード加盟店が加盟するクレジ
ットカード会社」(構成要件A)との記載があり、また、クレジット
カード加盟店のクレジットカード決済取引による売上データの集計、
25 月間実績決済高の算出及び当月償還金額の設定(以下、これらの作業
を一括して「償還金額の設定等」と総称する。)を「クレジットカー
ド会社毎」に行い(構成要件D)、債権買取債券の償還の終了や償還
期間の延長を「クレジットカード会社の情報処理サーバ」に通知する
構成(構成要件F、G)が記載されているものの、イシュア及びアク
ワイアラの別についての記載はなく、特許請求の範囲の記載からは、
5 「クレジットカード会社」がクレジットカード決済事業者のうちイシ
ュアとアクワイアラのいずれを示すのかは一義的に明らかではないが、
これがクレジット決済代行会社やクレジット決済代行サービス部門を
含むことを示す記載はない。
本件明細書にもクレジットカード会社の意義を示す記載はないが、
10 「本スキームにおいて、クレジットカード加盟店10とクレジットカ
ード会社30の間に、クレジットカード管理会社やクレジットカード
決済代行会社を含んでよい。」(【0016】)、「クレジットカード会社
データベース112には、また、クレジットカード管理会社及びクレ
ジットカード決済代行会社についてのデータファイルも保存されてい
15 る。」(【0023】)として、クレジットカード会社とクレジットカー
ド決済代行会社を別の主体として明確に区別している。また、本件明
細書の実施例の記載においても、償還金額の設定等をクレジットカー
ド会社毎に行い、償還の終了や償還期間の延長をクレジットカード会
社の情報処理サーバに通知する実施例(【0012】~【0039】、
20 【図1】、【図2】)が示され、「クレジットカード加盟店のクレジット
カード決済取引による売上データ」(構成要件C)の取得方法につい
て、「クレジットカード決済取引の売上データの取得は、申請加盟店
の指示を受けたクレジットカード管理会社又はクレジットカード決済
代行会社から取得するものであってよい」こと(【0028】)が示さ
25 れているが、クレジットカード会社に代えてクレジットカード決済代
行会社やクレジットカード決済代行サービス部門とすることについて
は何らの記載もない。
以上の特許請求の範囲及び本件明細書の記載に照らせば、本件発明
の「クレジットカード会社」が、クレジットカード決済代行会社やク
レジットカード決済代行サービス部門を含むものであると解すること
5 はできない。
b 原告会社は、①本件明細書【0016】、【0017】は、「クレジ
ットカード会社」にクレジットカード決済代行サービスが含まれるこ
とを示していること、②クレジットカード決済代行サービス(会社な
いし部門)は、「クレジットカード会社」の決済機能を抜き出して代
10 行し、クレジットカード決済に関する情報を一時的に管理・収集し、
同サービスの情報処理サーバが「クレジットカード会社」の情報処理
サーバの役割を代替するから、「クレジットカード会社」に該当する
ことも主張する。
しかしながら、①について、これらの記載は、クレジットカード加
15 盟店とクレジットカード会社の間に「クレジットカード決済代行会社」
(【0016】)や「第3者の立場の信託会社、サーバサー若しくは事
業会社」(【0017】)を介在させてもよいというにとどまるもので
あって、クレジットカード会社とクレジットカード決済代行会社を同
一視するものと理解することはできない。また、②について、前記a
20 のとおりの特許請求の範囲の記載及び本件明細書の記載に照らせば、
クレジットカード決済代行サービス(会社ないし部門)が、クレジッ
トカード決済事業者の役割の一部を代行するからといって、クレジッ
トカード会社にクレジットカード決済代行サービス(会社ないし部門)
が含まれるということにはならない。
25 (イ) 被告システムについて
前提事実⑹、⑺ア(ア)、(イ)のとおり、被告サービスは、クレジットカ
ードを含む複数の支払手段の決済代行サービスであるAirペイを前提
とする、Airペイ加盟店向けのファンディングサービスであり、Ai
rペイの提供にAirペイの情報処理サーバ、●(省略)●原告会社は、
「Airペイ」(部門)が「クレジットカード会社の情報処理サーバ」
5 に該当すると主張する。
しかしながら、本件発明の「クレジットカード会社」に、クレジット
カード決済代行会社やクレジットカード決済代行サービス部門が含まれ
ないことは前記説示のとおりであるから、決済代行サービスである「A
irペイ」が「クレジットカード会社」(構成要件A)に該当するとい
10 うことはできない。
イ 「通信ネットワークで接続」について
(ア) 「通信ネットワークで接続」の意義
本件発明(構成要件A)の発明特定事項は前記ア(ア)のとおりである
ところ、原告会社は、「通信ネットワークで接続」は、通信可能なネッ
15 トワークで接続されていれば足り、業務担当者の端末を介して両サーバ
が通信できる態様も含まれると主張する。
そこで検討するに、特許請求の範囲の記載によれば、クレジットカー
ド会社の情報処理サーバとファンディング事業者が使用するサーバが
「通信ネットワークで接続」(構成要件A)されていることは、ファン
20 ディング事業者が使用するサーバ(「前記システム・センターのサーバ」)
が、「前記債権買取債券の償還の終了」及び「債権買取債券の償還期間
の延長をクレジットカード会社の情報処理サーバに通知する償還管理部」
(構成要件B、D、F)を有する構成の前提となっていること、本件発
明が「ファンディングシステム」の発明であり(構成要件A、H)、上
25 記構成もシステムの一部であることを理解することができる。以上によ
れば、「通信ネットワークで接続」とは、ファンディング事業者が使用
するサーバの償還管理部がクレジットカード会社のサーバに通知をする
ことができるように通信回線で接続されていることを意味するものと理
解するのが自然である。
そして、本件明細書の「システム・センターのサーバ100は、ファ
5 ンディング事業者のサーバとして使用され、クレジットカード加盟店の
端末装置15及びクレジットカード会社の情報処理サーバ25と公衆回
線網・専用回線等の通信ネットワークを介して接続され」(【0019】)、
「システム・センターのサーバ100の償還管理部130の機能、動作
について…将来クレジット債権買取債券の償還管理を行う償還管理部1
10 30は、…償還金額、償還終了及び償還期間延長を通知する償還通知部
138を有する。」(【0034】)、「償還通知部138は、償還金額設定
部134で設定した当期償還金額及び償還状況判断部136で判断した
債券の償還の終了及び償還期間の延長をクレジットカード会社の情報処
理サーバ25及びクレジットカード加盟店の端末装置15に当月償還金
15 額の通知として通信部105を介して通知する」(【0039】)及び
【図2】の記載も上記理解と整合するといえる。
(イ) 被告システムについて
証拠(乙17、18、23)及び弁論の全趣旨によれば、●(省略)
●
20 したがって、被告サービスのサーバは、「クレジットカード会社の情
報処理サーバと通信ネットワークで接続された」に該当する構成を有し
ていると認めることはできない。
ウ 小括(争点1-1)
以上のとおり、被告システムは、「クレジットカード会社の情報処理サ
25 ーバと通信ネットワークで接続されたファンディング事業者が使用するサ
ーバ」に対応する構成を有しておらず、また、Airペイの情報処理サー
バが「クレジットカード会社の情報処理サーバ」に該当すると仮定しても、
「通信ネットワークで接続されたファンディング事業者が使用するサーバ」
に対応する構成を有していると認められない。
したがって、被告システムは、「クレジットカード会社の情報処理サー
5 バと通信ネットワークで接続されたファンディング事業者が使用するサー
バ」(構成要件A)を充足するとはいえない。
⑶ まとめ(争点1)
以上のとおり、被告システムは、構成要件Aを充足するとはいえないから、
本件発明の技術的範囲に属するものとはいえない。
10 よって、原告会社による民法709条に基づく損害賠償請求は理由がない。
2 争点3(被告に不正競争(不競法2条1項7号)が成立するか)について
⑴ 争点3-1(本件情報は原告Aが保有する営業秘密に該当するか)につい
て
ア 原告Aは、別紙営業秘密目録1及び2記載のとおり、①未確定の将来ク
15 レジット債権の買い取りによるクレジットカード加盟店への無担保のファ
ンディングを行う事業について、原告Aが平成23年9月頃に金融庁にお
ける法令適用事前確認手続を利用して、貸金業法上の貸金業者の登録が必
要か否か、将来債権の買取手数料が利息制限法上の利息に該当するか否か
を照会したところ、金融庁から、平成27年末までに上記事業の実施に当
20 たって貸金業法上の貸金業者の登録は不要である旨、将来債権の買取手数
料が利息制限法上の利息に該当しない旨及び上記照会事項を公表しない旨
の回答を受けた事実(本件情報1)、②将来債権が発生しない場合は、加
盟店に帰責事由があるときでも、計画倒産等の場合を除いて加盟店に遡求
しないという将来債権譲渡によるビジネスファンディング事業における買
25 取債券の回収方法について、金融庁から、貸金業に該当しないと評価され
た事実(本件情報2)に係る情報を保有していたと主張し、これに沿う陳
述(甲3)をする。また、このことは甲6照会書及び甲23議事録等によ
って裏付けられているとも主張する。
イ そこで検討すると、甲6照会書は、照会者をビッグパートナーとして平
成23年9月付けで作成された金融庁における法令適用事前確認手続に係
5 る照会書であり、将来発生するクレジットカードによる売上予定額に基づ
く、クレジットカード加盟店がクレジットカード会社ないし決済代行業者
から将来取得する債権買取代金請求権ないし立替金請求権の一部の購入に
よるファクタリング事業について、貸金業法上の貸金業の登録が不要であ
るかを照会事項とするものの、将来債権の買取手数料が利息制限法上の利
10 息に該当するかは照会事項として記載されていない。
また、甲23議事録は、平成27年3月30日に実施されたセゾンと金
融庁の会合(以下「本件会合」という。)に係る議事録であり、同議事録
によると、本件会合において、金融庁の担当者からセゾンに対し、本件
については、債務不履行時において、将来債権の譲受人に、譲渡人に対
15 する買戻請求権があるとはいえないから、貸金業法上の貸付けには該当
せず、貸金業法の適用は受けないものと考えている旨の見解が伝えられ
た(以下、この金融庁の回答を「本件回答」という。)ものの、当該見解
はそれまでに送られた契約書の内容に基づいて判断されたと説明されて
おり、また、金融庁から、将来債権の買取手数料が利息制限法上の利息
20 に該当しない旨の回答があったことは認められない。
これらのほかに、金融庁に対する照会事項や金融庁からの回答の具体的
な内容について、原告Aの前記アの主張及び陳述を裏付ける端的な証拠
は見当たらない。
ウ もとより、ファクタリング事業が貸金業法2条1項本文の「貸金業」に
25 該当するかについては、契約の形式にとどまらず、経済的側面に照らして
実質的に検討する必要があるというべきところ、未確定の将来クレジット
債権の買い取りによるクレジットカード加盟店への無担保のファンディン
グを行う事業(本件情報1)、将来債権が発生しない場合は加盟店にその
帰責事由があるときでも計画倒産等の場合を除いて加盟店に遡求しない
(本件情報2)といった概括的、一般的な事業内容に係る情報のみに基づ
5 いて特定される事業全般について、金融庁が確定的な見解を示すことは通
常は困難であると考えられる。本件回答についても、前記イのとおりそれ
までに送られた契約書の内容に基づいて判断されたと説明されているとお
り、上記のような事業全般について、個別の契約内容にかかわらず、貸金
業法上の貸金業に該当しないという趣旨を含むものであったと認めること
10 はできない。
また、前記イのとおり、甲6照会書に照会事項として記載されていない
以上、原告Aが金融庁における法令適用事前確認手続を利用して将来債権
の買取手数料が利息制限法上の利息に該当するかを照会したと認めること
はできない。そして、金融庁に対して照会したと認められず、本件会合に
15 おいて金融庁から明示的な言及もされていない以上、将来債権の買取手数
料が利息制限法上の利息に該当しない旨の回答があったと認めることも困
難である。
エ 以上に照らせば、本件情報1については、「未確定の将来クレジット債
権の買い取りによるクレジットカード加盟店への無担保のファンディング
20 を行う事業」という概括的な事業全般に関して「貸金業法上の貸金業者と
しての登録が必要であるか否か」の照会及び回答がされた事実が認められ
ないし、また、「将来債権の買取手数料が利息制限法上の利息に該当する
か否か」に関しては、そもそも何ら照会及び回答がされた事実が認められ
ない。また、本件情報2については、「将来債権が発生しない場合は、加
25 盟店にその帰責事由があるときでも、(計画倒産などの場合を除いて)加
盟店に遡求しないという、将来債権譲渡によるビジネスファンディング事
業」という概括的な事業全般に関して金融庁から「貸金業に該当しないと
評価」がされた事実が認められない。
そうすると、本件情報はその前提となる基本的な事実関係が認められず、
原告Aが本件情報を保有していたと認めることはできない。
5 ⑵ 争点3-2(被告が不正の利益を得る目的で本件情報を使用したか)につ
いて
事案にかんがみ、原告Aが本件情報を保有していたと仮定した上で、争点
3-2についても検討する。
ア 前記前提事実、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認め
10 られる。
(ア) セゾンは、令和元年12月23日、被告子会社の役員らに対し、平
成28年頃から提供されていたセゾンのサービスの概要を説明し、Ai
rペイを利用する加盟店向けのファンディングサービスについて協業を
提案し、その後、業務提携に向けた協議、検討が開始された(甲16、
15 前提事実⑸ウ、エ)。
(イ) 被告子会社は、令和2年2月6日、セゾンに対し、被告(被告子会
社)でもセゾンのサービスに類するサービスの検討は既に進めており、
セゾンから開示される一切の情報が機密扱いになると、既存の業務遂行
に影響する可能性があること等を伝えた。(乙2)
20 (ウ) 被告は、遅くとも同年4月頃には、ファクタリングのスキームを用
いて、事業者の将来の売上債権を売却して早期に現金化するサービスの
事業化を検討していた。Airペイの仕組みを活用した制度設計が検討
され、事業化の準備、検討には、被告の法務部門、リスクマネジメント
部門及び財務部門のみならず、Airペイチーム等に在籍する多数の人
25 員も関与した。(甲17)
(エ) 被告(法務部門)は、同年7月、2つの法律事務所の弁護士に対し、
Airペイの仕組みを活用して被告が加盟店の将来債権を買い取ること
で加盟店に資金提供するサービスが貸金業法2条1項本文の「貸金業」
に該当するかについて意見を求め、同年8月までに、貸金業該当性が高
いとまではいえないと考えられる旨の回答及びリスクが全くないという
5 ことはできないが、一定の条件を満たす前提であれば、貸金業に該当す
ると判断されるリスクは限定的と思われる旨の回答を得た。(乙3〜5)
(オ) セゾンと被告子会社(被告)は、同年11月頃まで、業務提携に向
けて協議、検討を続けたものの、合意に至らず(前提事実⑸エ)、被告
は、令和3年4月頃、被告サービスの提供を開始した(同⑹、⑺ア)。
10 被告サービスは、決済代行サービスであるAirペイを前提とするサ
ービスであり、利用規約上、Airペイ加盟店が正当な理由なくAir
ペイを利用しない場合や、Airペイ加盟店の故意又は過失に基づきA
irペイ加盟店の売上がチャージバック、解除、取消し、無効その他の
事由により不発生となった場合等には、被告から契約を解除することが
15 でき(7条1項1号、10号等)、その場合、被告は、Airペイ加盟
店に対して、既に振込を完了した譲渡対価の全額の返還を求めることが
できるとされている(7条3項)。(甲13)
被告は、被告サービスの提供を開始するに際し、金融庁に対し、貸金
業法上の貸金業としての登録の要否及び被告サービスの手数料が利息制
20 限法上の利息に該当するかについての照会や問い合わせを行っていない。
イ 原告Aは、被告が被告サービスの提供を開始するために本件情報を使用
したと主張し、その根拠として、①被告サービスとセゾンのサービスが、
未確定の将来クレジット債権を買い取ってクレジットカード加盟店へ無担
保で資金提供を行うサービスであり、特に将来債権が発生しない場合も、
25 例外的な場合を除いて将来債権の買戻等の義務を定めて加盟店から資金を
回収しない点で、同じ内容であるところ、セゾンのサービスは、少なくと
も約5年にわたる適法性及び収益性の検討を経て提供が開始されたのに対
し、被告サービスは、セゾンとの協議から一、二年足らずで提供が開始さ
れており、本件情報を使用したとしか考えられないこと、②被告が罰則の
ある貸金業法や多大な経済的リスクを伴う利息制限法の解釈について金融
5 庁の公的な見解を得ることなく被告サービスの提供を開始するのは不自然
であることを指摘する。
そこで検討するに、被告サービスは、カード会員による将来のクレジッ
トカード利用に係る加盟店の債権の買い取りによる加盟店向けのファンデ
ィングサービスであるという点(前提事実⑹、⑺ア(イ))で、本件情報の
10 ファンディング事業と共通するものの、決済代行サービスであるAirペ
イを前提とする点(前記ア(オ))、利用規約上、Airペイ加盟店の故意又
は過失等に基づきAirペイ加盟店の売上が不発生となった場合には、被
告から契約を解除することができ、Airペイ加盟店に対して、既に振込
を完了した譲渡対価の全額の返還を求めることができるとされている点
15 (同)で、本件情報のファンディング事業と相違しており、貸金業法上の
貸金業者に該当するかの判断に影響し得る重要な内容に相違が認められる
から、被告が被告サービスの提供を開始したからといって、被告が本件情
報を使用したということにはならない。
また、原告が指摘する上記①の点について、人員体制や事業規模等によ
20 って事業化に向けた検討時間が異なるのは当然であるところ、被告サー
ビスの事業化の準備、検討状況は前記アで認定したとおりであり、特に
不審な点も見受けられないから、被告サービスの事業化に向けた検討時
間がセゾンのサービスより短期間であったからといって、被告が本件情
報を使用したということにはならない。
25 上記②の点について、セゾンのサービスは被告サービスの約5年前に
提供が開始され、その内容は公知となっていたのであるから(前記ア(ア))、
被告は、セゾンのサービスが適法であることを一応の前提として被告サ
ービスの法律上の問題について検討することができたはずである。そし
て、被告は、貸金業法上の貸金業に該当するかについて2つの弁護士事
務所に意見照会をして回答を取得しているのであるから(同(エ))、上記の
5 ような弁護士の回答内容を踏まえて更に金融庁への意見照会が不要と判
断されたことは特段不自然なこととはいえない。
そうすると、原告の主張を採用することはできず、その他、本件全証拠
によっても、被告が被告サービスの提供を開始するために本件情報を使
用したと認めるに足りないというべきである。
10 ウ したがって、原告Aによる不競法4条に基づく損害賠償請求は理由がな
い。
3 争点6(被告に債務不履行が成立するか)について
原告Aは、被告が本件情報を不正に使用したことが原告Aに対する債務不履
行を構成すると主張する(争点6-2)。
15 前記2で説示したとおり、被告が本件情報を使用したと認められない以上、
被告の原告Aに対する義務の発生(争点6-1)について検討するまでもなく、
被告に債務不履行は成立しない。
したがって、原告Aによる債務不履行に基づく損害賠償請求は理由がない。
第4 結論
20 以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告らの請求はい
ずれも理由がないから、これらを棄却することとして、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 髙 橋 彩
裁判官 西 山 芳 樹
裁判官 瀧 澤 惟 子
(別紙)
被告システム目録
「Airキャッシュ」の名称で提供されるサービスに用いられるシステム
(別紙)
営業秘密目録1
以下の事実に関する情報
5 1 原告Aは、未確定の将来クレジット債権の買い取りによるクレジットカード
加盟店への無担保のファンディングを行う事業を実施するに当たり、貸金業法
上の貸金業者としての登録が必要であるか否か、及び、将来債権の買取手数料
が利息制限法上の利息に該当するか否かについて、平成23年9月頃、金融庁
に対し法令適用事前確認手続を利用して照会した事実
10 2 上記照会に対し、平成27年末までに、金融庁から、上記事業の実施に当た
って貸金業法上の貸金業者としての登録が不要である旨、将来債権の買取手数
料が利息制限法上の利息に該当しない旨及び上記照会事項を公表しない旨の回
答を受けた事実
以上
(別紙)
営業秘密目録2
金融庁から貸金業に該当しないと評価された、将来債権が発生しない場合は、加
5 盟店にその帰責事由があるときでも、(計画倒産などの場合を除いて)加盟店に遡
求しないという、将来債権譲渡によるビジネスファンディング事業における買取債
券の回収方法・回収可否に関する情報
(別紙)
被告システムの構成
原告会社の主張 被告の主張
a Airペイ加盟店の端末装置及び前記A 前記第2の2⑺イaの限度で認
irペイ加盟店が加盟するAirペイの め、その余は否認する。
情報処理サーバと通信ネットワークで接
続されたファンディング事業者が使用す
るサーバを備えたシステム・センターに
よる未確定のAirペイ債権(クレジッ
トカードを用いた取引によってAirペ
イ加盟店がカード会員に対して有するこ
とになる販売代金債権)の買い取りを用
いたAirペイ加盟店への無担保のファ
ンディングシステムであって、
b 前記システム・センターのサーバは、 否認する。
c 前記Airペイ加盟店のAirペイ決済 前記第2の2⑺イcの限度で認
取引による売上データを用いて、前記A め、その余は否認する。被告シ
irペイ加盟店のAirペイ決済取引に ステムは「引落対象期間」を設
よる一定期間の実績Airペイ決済取引 定しておらず、左欄のような
売上高を計算し、引落対象期間を設定し 「利用金額」の算定もしていな
て、該引落対象期間に対応する前年度期 い。
間の実績Airペイ決済取引売上高に引
落率を乗じて本サービス引落総額(利用
金額に手数料を加えた金額)を設定し
て、これらをデータベースに保存する債
権化パターン設定部と、
d (主位的主張)前記引落対象期間の開始 否認する。被告システムは「引
月以降の前記Airペイ加盟店のAir 落対象期間」は設定しておら
ペイ決済取引による売上データを決済サ ず、左欄(主位的請求)のよう
ービス提供会社毎に集計して決済サービ な「当月引落金額」の設定もし
ス提供会社毎の月間実績決済高を算出 ていない。
し、当該月間実績決済高に前記引落率を
乗じて、決済サービス提供会社毎の当月
引落金額を設定し、これらをデータベー
スに保存して、
(予備的主張)前記引落対象期間の開始
月以降の前記Airペイ加盟店のAir
ペイ決済取引による売上データをAir
ペイを単位として集計してAirペイを
単位としてひと月を分割した期間の実績
決済高を算出し、当該ひと月を分割した
期間の実績決済高に前記引落率を乗じ
て、Airペイを単位としてひと月を分
割した期間の引落金額を設定し、これら
をデータベースに保存して、
e 前記引落金額を累積して求めた引落金額 否認する。
累積額が前記本サービス引落総額と一致
するか否かを判断し、
f (主位的主張)前記引落金額累積額と前 否認する。●(省略)●
記利用金額が一致したと判断した場合、 ●(省略)●
引落しの終了を決済サービス提供会社の
情報処理サーバに通知し、
(予備的主張)前記引落金額累積額と前
記本サービス引落総額が一致したと判断
した場合、●(省略)●
g (主位的主張)前記引落対象期間を経過 否認する。●(省略)●
しても前記引落金額累積額と前記利用金
額が一致していないと判断した場合、前
記引落対象期間の延長を決済サービス提
供会社の情報処理サーバに通知する償還
管理部と、
(予備的主張)
前記引落金額累積額と前記本サービス引
落総額が一致していないと判断した場
合、●(省略)●償還管理部と、
h を有することを特徴とする未確定のAi 前記第2の2⑺イhの限度で認
rペイ債権の買い取りによるAirペイ め、その余は否認する。
加盟店への無担保のファンディングシス
テム。
(別紙)
本件図面目録
【図1】
5 【図2】
以上
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