令和7(行ケ)10092審決取消請求事件
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| 裁判所 |
請求棄却 知的財産高等裁判所
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| 裁判年月日 |
令和8年2月25日 |
| 事件種別 |
民事 |
| 当事者 |
原告株式会社ディーエイチシー 被告特許庁長官
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| 法令 |
商標権
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| キーワード |
審決19回 拒絶査定不服審判1回
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| 主文 |
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
| 事件の概要 |
1 特許庁における手続の経過等(当事者間に争いがないか、又は当裁判所に
顕著である。 |
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判決文
令和8年2月25日判決言渡
令和7年(行ケ)第10092号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 令和8年1月19日
判 決
原 告 株式会社ディーエイチシー
同訴訟代理人弁理士 加 藤 勉
同 熊 坂 美 由 紀
10 同 今 井 雅 夫
被 告 特 許 庁 長 官
同 指 定 代 理 人 目 黒 潤
15 同 高 野 和 行
同 山 根 ま り 子
同 吉 田 聡 一
主 文
1 原告の請求を棄却する。
20 2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
特許庁が不服2023-698号事件について令和7年8月6日にした審決
を取り消す。
25 第2 事案の概要
1 特許庁における手続の経過等(当事者間に争いがないか、又は当裁判所に
顕著である。)
原告は、平成29年7月20日、別紙「商標目録」記載の商標(以下「本
願商標」という。)について、第3類「クレンジングオイル」を指定商品とし
て商標登録出願をしたが(商願2017-96949号)、令和4年10月1
5 3日付けで拒絶査定を受けたため、令和5年1月16日、拒絶査定不服審判
を請求した。
特許庁は、これを不服2023-698号事件として審理し、令和7年8
月6日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下「本件審決」
という。)をし、その謄本は、同月25日、原告に送達された。
10 原告は、同年9月22日、本件審決の取消しを求めて本件訴訟を提起した。
2 本件審決の理由の要旨
本件審決は、以下のとおり、本願商標は、商品の品質を普通に用いられる
方法で表示する標章のみからなる商標であるから商標法(以下「法」という。)
3条1項3号に該当し、また、原告により使用された結果需要者が何人かの
15 業務に係る商品であることを認識することができるものとはいえず、法3条
2項に規定する要件を具備するとはいえないとして、商標登録を受けること
ができないと判断した。
(1) 法3条1項3号について
本願商標は、これをその指定商品である「クレンジングオイル」に使用す
20 る場合、需要者に、その文字部分より、毛穴の汚れや古い角質などの皮膚の
深部の汚れを落とすオイル状の洗浄剤という商品の品質を表示したものと認
識、理解させるにとどまる。
本願商標の横長長方形部分は、特異な態様からなるものとはいい難く、指
定商品を取り扱う業界では、一般的に使用される文字部分の輪郭枠及び白色
25 の背景色を表したものと認識されるから、出所識別標識としての機能を果た
すものとはいえない。
(2) 法3条2項について
原告は、平成7年12月より、本願商標を付したクレンジングオイル(以
下「本件商品」という。)を販売し、本願商標を、現在に至るまで長年にわ
たって継続的に使用しているが、本件商品の販売本数、販売実績及びブラン
5 ドシェアは減少傾向にあることに加え、多数の化粧品メーカーが、毛穴の汚
れや古い角質など皮膚の深部の汚れを落とすオイル状の洗浄剤の意味合いの
表示として、「DEEP CLEANSING OIL」、「Deep Clea
nsing Oil」及び「ディープクレンジングオイル」の文字を使用し
ていることからすれば、本願商標が、需要者の間において、原告の業務に係
10 る商品を表示する商標として、広く認識されるに至っているとは認められな
い。
第3 取消事由及びこれに関する当事者の主張
1 取消事由1(法3条1項3号該当性に関する判断の誤り)
【原告の主張】
15 本願商標は、黒色の太枠、白色の背景、黒色の太文字、すなわち黒白黒と
いう明度差が最も大きい配色を用いて、極限までコントラストを高め、これ
らが一体となった1つのロゴ商標として把握されるべきである。また、「D
EEP CLEANSING OIL」を3段に横書きした使用例は他社商品に
ないし、本願商標の指定商品であるクレンジングオイルについて、文字部分
20 を長方形の枠線で囲う使用例はわずかしかないから、「普通に用いられる方
法で表示する」ものでもない。したがって、本願商標は出所識別標識として
の機能を有しており、同号に該当しない。
本件審決は、色彩部分を本願商標の構成要素とせず、文字商標であること
を前提に、毛穴の汚れや古い角質などの皮膚の深部の汚れを落とすオイル状
25 の洗浄剤という商品の品質を表示したものと判断をした点において誤りがあ
る。
【被告の主張】
本願商標は、指定商品との関係で、需要者に「DEEP CLEANSIN
G OIL」という一連の語として理解され、一般的に商品の品質を表示する
ものと認識されるにとどまる。
5 また、本願商標の構成中、黒い枠線の横長長方形でその中を白色とするこ
とは、当該長方形内に表示された文字を目立たせるために、取引上一般に行
われていることから、出所識別標識としての機能を有するものとはいえない。
2 取消事由2(法3条2項該当性に関する判断の誤り)
【原告の主張】
10 本件審決は、原告以外の化粧品メーカーが「DEEP CLEANSING
OIL」などの標章を使用しているから、本件商標には独占適用性が認めら
れないとする。しかし、他の化粧品メーカーが使用する標章は、いずれも本
願商標とは外観上顕著な差異を有しており、類似していない。
また、原告は、約30年間にわたって継続的に、本願商標を本件商品に使
15 用しており、本件商品の販売本数及び販売実績が一定程度あるのであれば、
法3条2項に規定する要件を具備するはずである。本件審決は、近年の販売
本数、販売実績及びブランドシェアが減少傾向にあることを理由として2項
該当性を否定したが、これらの傾向が必ずしも本願商標の知名度の低下に結
びつくものではなく、本件審決の判断は誤りである。
20 【被告の主張】
本件商品の容器には、本願商標とともに「DHC」の文字が表されており、
出所識別標識としての機能を有するのは、この文字部分である。他の化粧品
メーカーが本願商標と類似する標章を付したクレンジングオイルを販売して
いることからしても、本願商標が特定の事業者に係る固有の商標であるとの
25 印象を与えるとはいえない。したがって、本件商品の広告宣伝活動が、本願
商標の認知度や知名度、すなわち出所識別標識としての機能の向上につな
がったとはいえない。
第4 当裁判所の判断
1 取消事由1(法3条1項3号該当性に関する判断の誤り)について
(1) 本願商標は、別紙のとおりの構成からなり、「クレンジングオイル」を指
5 定商品とするものである。
本願商標には「DEEP CLEANSING OIL」との欧文字が含ま
れるところ、deepは深いさま(乙3、4)、cleansing oi
lは化粧や顔の汚れを落とすために使う液剤(乙9、10)を意味する普通
名詞である。また、商品名に「DEEP CLEANSING OIL」、「D
10 eep Cleansing Oil」又は「ディープクレンジングオイル」
を含むクレンジングオイルの中には、毛穴の中まで浸透して汚れを落とすこ
と(甲332、乙12~15、17、21、24~26、28~30、61
の1)、古い角質を浮き上がらせて除去すること(乙20、23、27、2
8、60の1)をうたうものが相当数存在する。
15 これらの事実からすると、「DEEP CLEANSING OIL」との
欧文字部分は、本願商標の指定商品である「クレンジングオイル」に使用さ
れた場合、需要者に、毛穴の汚れや古い角質など皮膚の深部の汚れを落とす
オイル状の洗浄剤を認識させるということができるから、商品の品質を表示
する標章に当たる。
20 また、別紙商標目録記載のとおり、上記欧文字部分は、幾分デザイン化さ
れているとはいえ、その字体や配置に外観上顕著な特徴があるということは
できない。さらに、上記欧文字部分は、欧文字とほぼ同じ太さの長方形の枠
に囲われ、枠内の背景は白色とされているが、文字部分を枠で囲み、枠内の
背景色を文字部分とコントラストをつけた色とすることは、当該文字部分を
25 目立たせるためのありふれた手法であり、本願商標の指定商品と類似する化
粧品についても、そのような表示を採用する商品は複数存在することが認め
られる(乙32、35~39、41)から、この点も「普通に用いられる方
法」の域を出ないと解される。
したがって、本願商標が法3条1項3号に該当するとした本件審決の判断
に誤りはない。
5 (2) これに対し、原告は、本願商標は、黒色の太枠、白色の背景、黒色の太文
字が一体となったロゴ商標として把握されるべきであり、出所識別標識とし
ての機能を有している旨主張する。
しかしながら、上記(1)で述べたとおり、文字部分を枠で囲み、枠内の背
景色を文字部分とコントラストをつけた色とすることはありふれた手法であ
10 るから、商品の品質を表示するにすぎない「DEEP CLEANSING
OIL」との欧文字部分に、枠及び白色の背景色を付したとしても、これに
よって本願商標に出所識別標識としての機能が生じるとは評価できない。
2 取消事由2(法3条2項該当性に関する判断の誤り)について
(1) 後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば、原告による本願商標の使用につき、
15 次の事実が認められる。
ア 原告は、平成7年12月、本願商標を付した本件商品の販売を開始し、
本件審決当時(令和7年8月6日)も販売を継続していた(甲153、
322、乙57、63)。本件商品は、原告が開設する通販サイトを通じ
て、また平成15年頃からは直営店を通じて、全国において販売された
20 (甲323、324)。
平成29年から令和6年における本件商品の販売本数、販売実績、及
びクレンジングオイル部門における ブランドシェアは、次のとおりで
あった(甲325~330)。
販売本数 販売実績 ブランドシェア
平成29年 52億円 13.4%
平成30年 51億円 10.9%
平成31年 約182万本 41億円 8.7%
令和 2年 約115万本 31億円 8.3%
令和 3年 約115万本 29億5000万円 7.9%
令和 4年 約106万本 28億5000万円 7.5%
令和 5年 約 99万本 26億9000万円 6.3%
イ 原告は、本件商品を宣伝・広告する目的で、平成11年9月から令和
4年9月までの間に新聞(全国紙を含む)への広告掲載を少なくとも5
0回(甲1~44、253~257、308~318)、平成13年11
月から令和6年7月までの間に折り込みチラシの配布を少なくとも50
5 回(甲188~197、228~252、293~307)、及び平成1
3年から平成23年2月までの間に街頭配布チラシの配布を少なくとも
11回(甲198~208)行った。
また、平成7年12月から令和5年7月までの間、原告が販売する化
粧品や健康食品等の愛用者向けの会報誌において、本件商品の紹介記事
10 や広告を掲載した(甲151~186、261~281、319~32
4)。
これらの広告においては、本願商標を付した本件商品の外観の写真が
掲載されるとともに(なお、本件商品の表面には、上部に本願商標が、
下部に原告の企業名を表す「DHC」との欧文字が表示されている。)本
15 件商品の商品名を「DHC薬用ディープクレンジングオイル」又は「D
HCディープクレンジングオイル」と表記し、原告の企業名のロゴマー
ク(背景色紺色の長方形に、白字で「DHC」と表記するもの)も表示
するなど、原告の販売する商品である旨が明記されていた。また、本件
商品の特徴として、落ちにくいメイクや毛穴の中の汚れを落とすことが
20 できる旨が強調して記載されていた(上記各証拠)。
ウ 本件商品は、平成10年9月頃から平成23年2月頃までの間、女性
雑誌に少なくとも120回取り上げられ、うち十数件の記事では、読者
が選ぶ人気ランキング等においてクレンジング部門の1位に選出されて
いた(甲45~150、209~222)。
5 エ 遅くとも平成21年4月以降、複数の化粧品メーカーが、「DEEP C
LEANSING OIL」、「Deep Cleansing Oil」又
は「ディープクレンジングオイル」を商品名に含むクレンジングオイル
の販売を開始した。本件審決当時においては、原告以外の約20社の化
粧品メーカーによって販売されていた(甲287、乙12~30、60
10 の1、61の1)。
(2) 上記認定事実、すなわち原告が約30年にわたり本願商標を付した本件商
品を継続的かつ大量に販売してきたこと、本件商品について新聞広告等によ
る宣伝活動が活発に行われるとともに、女性雑誌に多数回にわたって取り上
げられ、平成22年までは人気ランキングにおいてクレンジング部門の第1
15 位に選出されたことからすれば、同年ないし平成23年頃の時点においては、
本願商標は、原告の業務に係る本件商品を示す標章として、全国の需要者に
相当程度浸透していたと認めることができる。
一方、遅くとも平成21年以降、複数の化粧品メーカーにより、本願商標
と称呼及び観念を同じくする「DEEP CLEANSING OIL」、「D
20 eep Cleansing Oil」又は「ディープクレンジングオイル」
を商品名に含むクレンジングオイルが販売されるようになったこと、これら
の商品の多くが、毛穴の中まで浸透して汚れを落とすこと、古い角質を浮き
上がらせて除去することをうたっていること(前記1(1))に照らすと、本
願商標中の文字部分は商品の種類ないし品質を示す共通名称と認識されるよ
25 うになったと推認するのが相当である。これに加え、本件商品の表面には本
願商標だけでなく原告の企業名も表示され、広告類でも「DHCディープク
レンジングオイル」等と表示されていることを勘案すると、需要者が、本願
商標により原告の業務に係る商品であることを認識することができると認め
ることは困難である。したがって、本願商標が法3条2項に該当しないとし
た本件審決の判断に誤りはない。
5 (3) これに対し、原告は、①他の化粧品メーカーが使用する標章は、いずれも
本願商標とは外観上顕著な差異を有しており、原告以外の者が本願商標と同
一又は類似する標章を使用している事実は存在しない、②本件審決は、本件
商品に係る近年の販売本数、販売実績及びブランドシェアが減少傾向にある
こと(前記(1)ア参照)を理由として2項該当性を否定したが、これらの事
10 実は必ずしも本願商標の知名度の低下に結びつくものではなく、誤りである
旨主張する。
そこで判断すると、上記①につき、前記1(1)で説示したとおり、文字部
分を枠で囲み、同枠内の背景色を文字部分とコントラストをつけた色とする
ことは、当該文字部分を目立たせるためのありふれた手法である。そうする
15 と、本願商標に接した需要者は、「DEEP CLEANSING OIL」
との欧文字部分に注目することになるところ、同欧文字部分と、他の化粧品
メーカーが用いる標章は、いずれも当該商品の品質(毛穴の汚れや古い角質
など皮膚の深部の汚れを落とすオイル状の洗浄剤)を表示するものとして、
類似しているというべきである。
20 ②について、過去の一時期において本願商標が原告の業務に係る商品を示
すものとして需要者の間に広く認識されていたとしても、それはその時点ま
での宣伝広告や販売実績によるものであって、その後に販売実績やシェアが
低下すれば本願商標に係る需要者の認識の低下に結びつき得る。そうすると、
この点を指摘した本件審決の判断に誤りがあるということはできない。
25 したがって、原告の上記各主張はいずれも採用できない。
3 結論
以上のとおり、本件審決についての原告の取消事由に関する主張は採用でき
ず、そのほかに本件において本件審決を取り消すべき事由は認められない。
よって、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとお
り判決する。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官
10 長 谷 川 浩 二
裁判官
岩 井 直 幸
裁判官
安 岡 美 香 子
(別紙)
商標目録
5 指定商品:
第3類「クレンジングオイル」
黒枠内につき、商標記載欄の色彩と同一の色彩(白色)を付すべき旨の表示が
ある(商標法5条6項ただし書)。
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