令和6(行ウ)5003等手続却下処分取消等請求事件裁決取消等請求事件
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| 裁判所 |
請求棄却 東京地方裁判所
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| 裁判年月日 |
令和8年2月5日 |
| 事件種別 |
民事 |
| 法令 |
特許権
特許法184条の419回 特許法3条2項2回 特許法184条の52回 特許法184条の32回 特許法18条の22回 特許法195条の31回
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| キーワード |
優先権6回 実施1回
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| 主文 |
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は、第1事件及び第2事件を通じて、原告の負担とする。 |
| 事件の概要 |
本件は、原告が、千九百七十年六月十九日にワシントンで作成された特許協力
条約(以下「特許協力条約」という。)に基づく国際出願について、特許法18
4条の5第1項に規定する国内書面(以下「本件国内書面」という。)及び同法1
84条の4第1項に規定する明細書、請求の範囲、図面及び要約の日本語による
翻訳文(以下「本件翻訳文」という。)を提出したところ、特許庁長官から、本件
国内書面に係る手続を却下する処分(以下「本件処分」という。)を受け、その
後、特許庁長官から、本件処分に対してした審査請求を棄却する裁決(以下「本
件裁決」という。)を受けたことから、被告に対し、本件処分の取消し(第1事
件)及び本件裁決の取消し(第2事件)を求める事案である。 |
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判決文
令和8年2月5日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
令和6年(行ウ)第5003号 手続却下処分取消等請求事件(第1事件)
令和6年(行ウ)第5004号 裁決取消等請求事件(第2事件)
口頭弁論終結日 令和7年11月27日
5 判 決
第1事件原告兼第2事件原告 ブレンボ・ナームローゼ・ヴェンノーツハプ
(以下「原告」という。)
同訴訟代理人弁護士 清 水 正 憲
同訴訟代理人弁理士 松 谷 道 子
10 同 中 野 晴 夫
第1事件被告兼第2事件被告 国
(以下「被告」という。)
同代表者法務大臣 平 口 洋
第1事件処分行政庁兼第2事件裁決行政庁
15 特 許 庁 長 官
河 西 康 之
同 指 定 代 理 人 市 原 麻 衣
同 洞 田 亮
同 岡 田 健 斗
20 同 坂 本 千 鶴 子
同 山 本 晃 司
同 中 島 あ ん ず
主 文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
25 2 訴訟費用は、第1事件及び第2事件を通じて、原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 第1事件
特許庁長官が令和4年3月16日付けでした、特願2019-536564に
関し、令和元年7月4日付けで原告が提出した国内書面に係る手続を却下する処
5 分を取り消す。
2 第2事件
特許庁長官が令和6年3月1日付けでした、原告の令和4年5月23日付けの
行政不服審査法による審査請求(令和4年行服第99号)を棄却する裁決を取り
消す。
10 第2 事案の概要等
本件は、原告が、千九百七十年六月十九日にワシントンで作成された特許協力
条約(以下「特許協力条約」という。)に基づく国際出願について、特許法18
4条の5第1項に規定する国内書面(以下「本件国内書面」という。)及び同法1
84条の4第1項に規定する明細書、請求の範囲、図面及び要約の日本語による
15 翻訳文(以下「本件翻訳文」という。)を提出したところ、特許庁長官から、本件
国内書面に係る手続を却下する処分(以下「本件処分」という。)を受け、その
後、特許庁長官から、本件処分に対してした審査請求を棄却する裁決(以下「本
件裁決」という。)を受けたことから、被告に対し、本件処分の取消し(第1事
件)及び本件裁決の取消し(第2事件)を求める事案である。
20 1 関係法令の定め
⑴ 国際出願及び国内移行手続等に関する特許協力条約の定め
ア 国際出願
特許協力条約3条(1)は、締約国における発明の保護のための出願は、
この条約による国際出願としてすることができると規定し、同条約11条
25 (3)は、同条(1)(i)から(iii)までに掲げる要件(出願人が国
際出願をする資格を欠いている者でないこと等)を満たし、かつ、国際出願
日(国際出願の受理の日)の認められた国際出願は、国際出願日から各指定
国(国際出願に基づいて発明の保護が求められている一又は二以上の締約国
をいう。同条約4条(1)(ii)参照)における正規の国内出願の効果を
有するものとし、国際出願日は、各指定国における実際の出願日とみなすと
5 規定している。
イ 国内移行手続
特許協力条約22条は、同条約に基づく国際出願を各指定国の国内手続に
係属させるための手続(以下「国内移行手続」という。)について規定して
いる。同条(1)は、出願人は、優先日から30か月を経過する時までに各
10 指定国の国内官庁(指定官庁)に対し、国際出願の写し及び所定の翻訳文を
提出し、該当する場合には、国内手数料を支払う旨規定している。そして、
国内移行手続を履行しない場合について、特許協力条約24条(1)(ⅲ)
は、出願人が同条約22条に規定する行為を該当する期間内にしなかった場
合には、同条約第11条(3)に定める国際出願の効果は、指定国において、
15 当該指定国における国内出願の取下げの効果と同一の効果をもって消滅す
る旨規定している。
なお、優先日とは、国際出願が、①同条約8条の規定による優先権の主張
を伴う場合には、その優先権の主張の基礎となる出願の日を、②同条約8条
の規定による二以上の優先権の主張を伴う場合には、それらの優先権の主張
20 の基礎となる出願のうち最先のものの日を、③同条約8条の規定による優先
権の主張を伴わない場合には、その出願の国際出願日を、それぞれいう(特
許協力条約2条(xi)(a)ないし(c))。
⑵ 国際出願及び国内移行手続等に関する特許法(以下断りのない限り、令和3
年法律第42号による改正前のものを指す。)の定め
25 ア 国際出願による特許出願
特許法184条の3第1項は、特許協力条約11条(1)等の規定に基づ
く国際出願日が認められた国際出願であって、同条約4条(1)(ii)の
指定国に日本国を含むものは、その国際出願日にされた特許出願(国際特許
出願)とみなすと規定している。
イ 外国語特許出願の翻訳文提出
5 特許法184条の4第1項は、外国語でされた国際特許出願(外国語特許
出願)の出願人は、特許協力条約2条(xi)の優先日から2年6月(国内
書面提出期間)以内に、国際出願日における特許協力条約3条(2)に規定
する明細書等の日本語による翻訳文を、特許庁長官に提出しなければならな
い旨規定している。
10 ただし、外国語特許出願の翻訳文の提出期間に係る特例として、特許法1
84条の4第1項ただし書は、国内書面提出期間の満了前2月から満了の日
までの間に、後記の国内書面が提出された外国語特許出願であるときは、当
該書面の提出の日から2月(翻訳文提出特例期間)以内に、当該翻訳文を提
出することができる旨規定している。
15 また、特許法184条の4第3項は、国内書面提出期間内に同条1項に規
定する明細書の翻訳文及び同項及び同条2項に規定する請求の範囲の翻訳
文(以下「明細書等翻訳文」という。)の提出がなかったとき、又は翻訳文
提出特例期間内に明細書等翻訳文の提出がなかったときは、その国際特許出
願は、取り下げられたものとみなす旨規定している。
20 ウ 国内書面の提出
特許法184条の5第1項は、国際特許出願の出願人は、国内書面提出期
間内に、出願人及び発明者の氏名等を記載した同項各号所定の書面(国内書
面)を特許庁長官に対し提出しなければならない旨規定している。
エ 期間徒過後の救済規定
25 (ア) 特許法184条の4第4項は、同条3項の規定により取り下げられたも
のとみなされた国際特許出願の出願人は、国内書面提出期間内に同条1項
に規定する明細書の翻訳分及び同項及び同条第2項に規定する請求の範
囲の翻訳文(以下「明細書等翻訳文」という。)を提出することができな
かったことについて正当な理由があるときは、経済産業省令で定める期間
内に限り、明細書等翻訳文並びに同条1項に規定する図面及び要約の翻訳
5 文を特許庁長官に提出することができる旨規定していた。そして、同項を
受け、特許法施行規則(令和3年経済産業省令第72号による改正前のも
の。以下同じ。)38条の2第2項は、上記経済産業省令で定める期間は、
特許法184条の4第4項に規定する正当な理由がなくなった日から2
月とし、ただし、当該期間の末日が国内書面提出期間の経過後1年を超え
10 るときは、国内書面提出期間の経過後1年とする旨規定していた。
(イ) 特許法184条の4第4項は令和3年法律第42号により改正され、手
続期間を徒過した場合に救済を認める要件につき、国内書面提出期間内に
明細書等翻訳文を提出しなかったことが故意によるものではないことに
改められた(同項ただし書)。
15 もっとも、経過措置により、同法律の施行日である令和5年4月1日前
に特許法184条の4第3項の規定により取り下げられたものとみなさ
れた国際特許出願については、なお従前の例によることとされた(令和3
年法律第42号改正附則2条10項、令和4年政令第250号)。
⑶ 不適法な手続の却下に係る特許法の定め
20 特許法18条の2第1項本文は、特許庁長官は、不適法な手続であって、そ
の補正をすることができないものについては、その手続を却下するものとする
と規定し、同条2項は、同条1項の規定により却下しようとするときは、手続
をした者に対し、その理由を通知し、相当の期間を指定して、弁明を記載した
書面を提出する機会を与えなければならないと規定する。
25 2 前提事実(争いのない事実又は後掲証拠及び弁論の全趣旨により容易に認めら
れる事実)
⑴ 原告は、平成29年10月30日(国際出願日)に、イタリアにおける特許
出願を優先権の基礎となる出願として、特許協力条約に基づき、優先日(同条
約2条(xi))を平成28年11月4日とし、世界知的所有権機関の国際事
務局を受理官庁として、外国語により国際出願(以下「本件国際出願」という。)
5 をした。
⑵ 本件国際出願は、特許協力条約4条(1)(ii)の指定国に日本国を含む
ものであったことから、特許法184条の3第1項の規定により、当該国際出
願日にされた特許出願(特願2019-536564。以下「本件国際特許出
願」という。)とみなされた。
10 ⑶ア イタリアの弁理士事務所であるA(以下「本件現地代理人事務所」という。)
は、平成31年4月15日、原告から、本件国際出願の日本国を含む各国へ
の国内移行手続を行うよう依頼を受けた(甲5)。
イ 本件現地代理人事務所における担当弁理士(以下「本件担当弁理士」とい
う。)は、補助者である担当秘書(以下「本件担当秘書」という。)と協議し、
15 本件国際特許出願の日本国代理人であるB (以下「本件日本代理人事務所」
という。)に対して本件国際出願の日本国への国内移行手続の依頼メールの
送信期限を平成31年4月29日に設定した。
⑷ 原告は、本件国際特許出願について、国内書面提出期間(優先日である平成
28年11月4日の翌日から起算して2年6月の期間)の末日である令和元年
20 5月7日(なお、同月4日から6日までが行政機関の休日に関する法律1条1
項各号に掲げる日に該当するため、特許法3条2項の規定により、同期間の末
日は同月7日となる。以下「本件国内書面提出期間」という。)までに、明細
書等翻訳文を提出しなかった(以下「本件期間徒過」という。)。そのため、
本件国際特許出願は、同条3項の規定により、取り下げられたものとみなされ
25 た。
⑸ 原告は、特許庁長官に対し、令和元年7月4日付けで、特許法施行規則38
条の2第3項所定の回復理由書を提出するとともに、本件国内書面及び本件翻
訳文に係る提出手続(以下「本件手続」という。)をした(甲2、3)。
⑹ 特許庁長官は、令和2年5月7日付けで、原告に対し、本件期間徒過につき
特許法184条の4第4項の「正当な理由」があるとはいえず、本件翻訳文に
5 係る提出手続は同項に規定する要件を満たしていないから、国内書面提出期間
の経過後にされた本件手続は、特許庁に係属していない出願に対して行われた
不適法な手続であり却下されるべきものである旨記載した却下理由通知(以下
「本件却下理由通知」という。)を送付した。
本件却下理由通知には、要旨、電子メールの通信手段としての不確実性に照
10 らすと、電子メールで指示をする場合には、当該指示が相手方に到達したかを
確認しなければ、相応の措置を講じていたとはいえないところ、本件担当秘書
は、本件日本代理人事務所へ国内移行手続を依頼する電子メールにつき、不達
メールが届いていないことを確認するのみで、電子メールの送信が正常に行わ
れたと判断しており、本件担当弁理士が本件担当秘書に対し本件日本国代理人
15 事務所に電子メールが到達したかを確認するよう指示・指導していたとは考え
られず、本件担当弁理士において期間徒過を回避するための相応の措置が講じ
られたとは認められない旨の記載があった(甲4)。
⑺ 原告は、前記⑹の本件却下理由通知を受けて、令和2年6月30日付けで、
特許庁長官に対し、弁明書を提出した(甲5)。
20 ⑻ 令和3年10月28日、原告の日本国代理人であるC弁理士及びD弁護士と
特許庁審査業務部審査業務課回復班との間でウェブ面接(以下「本件面接」と
いう。)が行われ、同代理人らから、本件期間徒過に至った経緯及び原因につ
いて説明がされた(甲6、7)。
⑼ 特許庁長官は、令和4年3月16日付け(同月22日発送)で、本件却下理
25 由通知に記載した理由によって、特許法18条の2第1項本文により、本件手
続につき本件処分をした(甲1)。
⑽ 原告は、令和4年5月23日付けで、特許庁長官に対し、本件処分の取消し
を求めて、行政不服審査法2条の規定に基づく審査請求(以下「本件審査請求」
という。)をした(甲12)。そして、原告は、令和5年1月13日付けで、
本件審査請求を審理する審理員に対し、反論書を提出し、同年3月3日、口頭
5 意見陳述が行われた(甲14)。また、原告は、令和6年1月15日付けで、
行政不服審査会に対し、主張書面を提出した(甲18)。
⑾ 特許庁長官は、令和5年12月5日付け審理員意見書の提出及び特許庁長官
による諮問に対する行政不服審査会からの「本件審査請求は棄却すべきである
との諮問に係る判断は妥当である」旨の令和6年2月6日付け答申を受けた上
10 で、同年3月1日、本件裁決をした(甲17、21、46)。
⑿ 原告は、令和6年9月2日、第1事件及び第2事件に係る訴えを提起した。
3 争点及び当事者の主張
争点及び当事者の主張は、次のとおりである。なお、原告は、本件処分の裁量
権の逸脱又は濫用の主張をしているものの、口頭弁論において、特許法184条
15 の4第4項の「正当な理由」の判断の誤りをいう趣旨であり、別個の違法事由と
として主張するものではないと整理された(第2回口頭弁論調書参照)。
⑴ 第1事件の争点
ア 本件期間徒過について特許法184条の4第4項の「正当な理由」がある
か(争点1-1)
20 (原告の主張)
本件期間徒過に至った経緯は、平成31年4月29日、本件現地代理人事
務所の本件担当秘書が本件担当弁理士の指示に基づき、本件日本代理人事務
所に、本件国際特許出願の国内移行手続を依頼する内容の電子メールを送信
したところ、本件現地代理人事務所の入居する建物の改装工事により、全く
25 予定されていなかったデータ線の短時間の遮断が突発的に生じ、当該電子メ
ールが未送信フォルダに格納されたまま、送信されなかったことによるもの
である。同日、上記依頼メールの前後で送信された米国及び中国への依頼メ
ールは送信されていることからすれば、本件の不達は、極めて異例の状況下
で発生したものといえる。
特許法条約で救済の基準とされている「正当な理由」
(Due Care)
5 とは、「基本的(標準的)な注意」を意味するものであり、平均的な企業が
合理的と思われる措置をとっていれば、それは「Due Care」を払っ
ていると認定されるべきものである。PCT出願の受理官庁の「Due C
are」の判断基準であるPCT受理官庁ガイドラインは、当該システムが
過去確実に作動していること、いずれの者も当該障害を予期することができ
10 なかったことを証明できれば、電子メールの予期せぬ送信障害について、相
当な注意を払って行動していたとされ得ることを示している。
被告が必要であるとして指摘するような、送信した電子メールの受領確認
を行っていれば、電子メールの送受信に関する期間徒過は発生し得ない。受
領確認を送るか否か、また、どのタイミングで送るかは、本件現地代理人事
15 務所ではなく、各国代理人の行動に委ねられているものであるから、受領確
認が届くか否かは本件現地代理人事務所の合理的措置を超えたものである。
そのような受領確認を行っていないことを理由に相当な注意が払われてい
なかったとして「正当な理由」がないとした判断には誤りがある。このよう
に相当な注意を厳格に解釈運用することは、特許法条約(PLT)の趣旨に
20 反し、そのような解釈を前提に行われたのであれば、本件処分は憲法98条
に違反する。
被告がその判断の根拠とする「一週間以上連絡がなかったのであるから、
本件メールが本件日本代理人事務所に届いていないことを十分に疑うべき
状況であった」という点は、本件日本代理人事務所の休業連絡があったこと
25 を踏まえれば、事実誤認がある。仮に受領確認の期限管理を行っていたとし
ても、本件日本代理人事務所が業務を再開するのは、国内移行期限当日の令
和元年5月7日であったから、被告の要求する措置を行っていても、本件期
間徒過は防ぎようがなかった。
被告は、本件現地代理人事務所が本件日本代理人事務所の休業連絡を考慮
せず、適切なタイミングで指示を行わなかったことを問題にする。しかし、
5 特許法3条2項の規定を最大限利用して期限間近に手続を行う実務慣行や、
特許庁自身が特許協力条約の制度の利点として優先日から30月が経過す
るまで各国に移行する判断を留保できることを宣伝していることを考慮す
れば、国内移行期間の終了間際に国内移行指示を行うことは特許協力条約の
制度上当然に予定されているものであり、平成31年4月29日に依頼を指
10 示したこと自体を不適切と断じることはできない。
したがって、本件期間徒過について特許法184条の4第4項の「正当な
理由」がある。
(被告の主張)
特許法の改正経緯、特許法184条の4第4項が、第三者の監視負担に配
15 慮しつつ実効的な救済を確保できる要件として、特許法条約(PLT)12
条の「Due Care」(相当な注意)基準を採用したものであることを
踏まえると、「正当な理由」があるときとは、特段の事情のない限り、出願
人(代理人を含む。)として、相当な注意を尽くしていたにもかかわらず、客
観的にみて国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出することができな
20 かったときをいうと解するのが相当である。
国内書面提出期間内に明細書等翻訳文が提出されなかった場合の国際特
許出願が取り下げられたものとみなされるという重大な事態を招来するこ
とからすれば、国際出願の日本国への国内移行手続を受任した代理人は、移
行期限を徒過することのないよう、日本国内での国内移行手続の進捗状況を
25 正確に把握し、その依頼及び手続の完了の確認を確実に行うことが求められ
る。
本件期間徒過の原因となった事象として原告が主張する電子メールの不
達は、そもそも当然に想定されるものであるといえるから、本件現地代理人
事務所においては、あらかじめ、電子メールの到達及びその内容が認識され
たことについて確認する措置を事前に講じておくべきであった。それにもか
5 かわらず、本件現地代理人事務所においては、受領確認より送信確認を重要
視するという方針を採用し、依頼メールが実際に到達したか、その内容を認
識したかについて確認していなかった。そうすると、上記のような措置が講
じられていたとはいえないから、相当な注意を尽くしていたということはで
きない。
10 また、仮に原告が主張する依頼メールの不達が当然に想定されるものであ
ったとはいえないとしても、本件現地代理人事務所において相手方の受領の
確認を行っていないことに加え、本件日本代理人事務所が休業連絡を行って
いたにもかかわらず、本件担当弁理士は、漫然と休業期間内の平成31年4
月29日に依頼メールの送信期限として依頼メールの送信を指示し、本件担
15 当秘書も当該指示に従い同日に依頼メールの送信操作を行っているのであ
るから、各国の代理人から知らされる休業期間等についてのメールを確認し、
その内容を集約して管理する体制をとっていなかったといえる。
そうすると、本件現地代理人事務所において、本件期間徒過を回避するた
めに相当な注意を尽くしていたにもかかわらず、客観的にみて本件国内書面
20 提出期間の末日までに明細書等翻訳文を提出することができなかったと認
めることはできない。
したがって、本件期間徒過について特許法184条の4第4項の「正当な
理由」があるということはできない。
イ 本件処分が平等原則に違反するか(争点1-2)
25 (原告の主張)
「正当な理由」があると判断された他の事例においては、「平均的な企業
(出願人・代理人等)が合理的と思われる措置を取っていたかにより、救済が
認められている。特に、中国からの通信遮断が理由で、電子メールによる訂
正指示が日本国関連会社の担当者に届かずに納付期間を徒過した事例にお
いては、受領確認までは要求されていない。本件でも、本件現地代理人事務
5 所では、平均的な企業(出願人・代理人等)が採用すべき合理的と思われる措
置が執られており、受領確認を求めることは、これらの事案に比して原告を
特に不利益に扱うものであり、本件処分は平等原則に違反する。
また、特許庁においては、令和2年4月から令和5年5月9日までの間、
新型コロナウイルス感染症により影響を受けた手続について、「期間徒過後
10 の救済規定に係るガイドライン」の運用に変更を加えることなく、相当な注
意の基準をもって、救済を認めていた。これらは予測困難な外部要因によっ
て生じた期間徒過について相当な注意を行ったとして救済を認めるもので
あるところ、本件のような外部要因による予期せぬ通信障害によって生じた
本件期間徒過について救済を認めないのは、同様の性質を有する事案に対し、
15 不合理な区別を行うものであり、本件処分は平等原則に違反する。
(被告の主張)
原告が根拠とする事例は、いずれも本件とは事案を異にするものである。
また、新型コロナウイルス感染症が世界的に甚大な影響を生じさせたこと
は明らかであって、令和5年5月頃まではその世界的な流行が継続していた
20 ことからすれば、その影響を受けた期間徒過の場合と本件のような個別事象
に起因する本件期間徒過とは比較に値するものではない。
したがって、これらとの比較において平等原則違反をいう原告の主張は、
理由がない。
ウ 本件処分が適正手続に違反するか(争点1-3)
25 (原告の主張)
本件処分が、弁明書の記載を引用するのみで、本件現地代理人事務所の体
制について納得が得られていたという本件面接の結果が考慮されずに、本件
却下理由通知に何ら表れておらず、かつ、本件面接においても言及のなかっ
た「「受領確認の期限管理を行う」旨の指導及び指示を本件現地代理人事務
所で怠っていた」という理由でなされたものであって、このような新たな却
5 下理由による本件処分を行うことは、行政手続法14条に違反する。
したがって、本件処分は適正手続に違背し違法である。
(被告の主張)
本件処分において行政手続法14条は適用されない。その点を措くとして
も、本件却下理由通知書において、特許庁長官は、本件現地代理人事務所が
10 採用していた体制(受領確認より送信確認を重要視するという方針)では、本
件現地代理人事務所が、補助者たる本件担当秘書に対し、相手方に電子メー
ルが到達したかを確認するよう指導及び指示を行っていたとはいえない旨
を指摘しており、これに対して原告は、弁明書において、本件現地代理人事
務所におけるメールのチェック体制について補足説明している。そして、特
15 許庁長官は、以上を踏まえても、本件現地代理人事務所が、補助者たる本件
担当秘書に対し、相手方に電子メールが到達したかを確認するよう指導及び
指示を行っていたとはいえない旨示して、本件処分を行っているのであって、
これは何ら新たな却下理由ではない。
したがって、本件処分に手続違背がある旨の原告の主張は理由がない。
20 ⑵ 第2事件の争点
ア 本件裁決に裁決固有の瑕疵があるか(争点2-1)
(原告の主張)
本件においては、本件審査請求において口頭意見陳述を担当した審理員と、
審理員意見書を作成した審理員が相違しているところ、交代後の審理員意見
25 書中に、口頭意見陳述においてのみ原告が陳述した内容が何ら言及されてお
らず、「諮問事件の係属等について(通知)」にも、原告が口頭意見陳述で陳
述した内容や質問事項が添付されていなかった。このことから、新たに選任
された審理員は、口頭意見陳述内容等を前任の審理員から引き継がずに審理
員意見書を作成したことが明白である。
また、行政不服審査会が発送した「主張書面及び資料の提出について」に
5 は「資料28」ないし「資料44」までの記載がなく、特許庁長官から何が
提出されたのか明らかにされておらず、閲覧する機会もなかった。
さらに、行政不服審査会は、令和6年1月25日に「主張書面の提出につ
いて」を本件日本代理人事務所に発送したが、原告が審査庁の主張書面を確
認する間もなく「答申書の写しの送付について」が発送されており、再反論
10 の機会が与えられなかった。
以上の各点において、本件裁決には手続違背があり、裁決固有の瑕疵があ
る。
(被告の主張)
原告の各主張は、いずれも誤解に基づくものであり、理由がないことは明
15 らかである。
本件においては、口頭意見陳述以降に当時の審理員の指名が取り消され、
新たな審理員が指名されている。そして、新たに指名を受けた審理員は、そ
れまでの審理手続を引き継ぐこととなるのであって、その際、事件記録、証
拠書類等の引継ぎを受けており、甲16を含め口頭意見陳述に関連する資料
20 についても、同様に引継ぎを受け、確認を行っている。
また、「諮問事件の係属等について(通知)」に関しては、行政不服審査会
事務局より訂正の申出があったとおり、事件記録等の写しの一部が漏れてい
たのは、行政不服審査会ではなく行政不服審査会事務局の手違いによるもの
であり、しかも、この点は令和6年1月16日付けで速やかに訂正されてい
25 るから、原告の主張は、その前提を誤るものである。
原告のいう「資料28」ないし「資料44」は、審査会事務局が、原告(審
査請求人)から令和6年1月15日に提出された主張書面及び資料について、
令和6年1月16日付けの特許庁総務部総務課行政不服班宛ての事務連絡
「主張書面又は資料の提出について」において付した番号であるから、特許
庁長官が提出した資料に付されたものではなく、原告の主張は、この点にお
5 いても前提を誤っている。
さらに、「主張書面の提出について」の発送から「答申書の写しの送付に
ついて」の発送までに10日以上の期間が空けられているところ、これは審
査請求人から閲覧等請求がないかを確認するために設けられている通常の
期間と同等である。
10 イ 審理員の判断に裁量権の逸脱又は濫用があるか(争点2-2)
(原告の主張)
審理員は、違法か否かだけではなく、不当か否かの観点からも判断すべき
ところ、裁決時における特許法改正の施行とその背景を考慮した上、旧法に
基づく本件処分が、令和3年改正法との均衡、新型コロナウイルス感染症の
15 場合の正当な理由の判断基準との均衡を著しく欠き、不当と判断すべきであ
ったことは明らかである。このような判断を遺漏したことは、審理員の裁量
権の逸脱又は濫用に当たる。
(被告の主張)
本件処分が適法であることは、前記⑴で主張したとおりである。原告の主
20 張は、本件処分には適用のない令和3年改正後の特許法が適用される事案と
の均衡を欠くとの抽象的かつ独自の見解を述べるものにすぎず、理由がない。
第3 当裁判所の判断
1 第1事件の争点
⑴ 争点1-1(本件期間徒過について特許法184条の4第4項の「正当な理
25 由」があるか)
ア 認定事実
前記前提事実に加え、後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件期間徒過
に至る経緯等に関し、以下の事実が認められる。
(ア) 本件現地代理人事務所では、マニュアルに従い、各国代理人へ国内移行
手続を依頼する電子メールには、受領メールを求める文言を記載するよう
5 に指導及び指示していた。また、本件現地代理人事務所においては、各国
代理人が受領メールを返信する時期が分からないなどとして、受領確認よ
り送信確認を重要視し、送信後は、案件管理システム内の予定表の当該委
託依頼欄に「送付済」と記載し、データベースに送信メールを保存し、秘
書部門長等が確認するとともに、本件担当秘書を含む4名の秘書が電子メ
10 ールアドレスを共用し、電子メールソフトの受信トレイにエラーメッセー
ジが届いた場合に手続依頼の電子メールが届いていないと判断するチェ
ック体制を採っていた。(甲5、12)
(イ) 前記前提事実⑶のとおり、本件国際出願の日本への国内移行手続の依頼
メールの送信期限が平成31年4月29日に設定され、案件管理システム
15 に登録された(甲5)。
(ウ) 本件日本代理人事務所は、平成31年4月19日、本件現地代理人事務
所を含む取引関係者に対し、日本国特許庁が同年4月27日から令和元年
5月6日まで10日連続で休日であり(行政機関の休日に関する法律のほ
か、天皇の即位の日及び即位礼正殿の儀の行われる日を休日とする法律参
20 照)、本件日本代理人事務所も休業日となること(以下、平成31年4月2
7日から令和元年5月6日までの休業期間を「本件休業期間」という。)及
びこの間に期限を迎える案件等があれば、平成31年4月26日正午(日
本時間)までに指示、要求をいただければ幸いである旨を電子メールで連
絡した(以下「本件休業連絡」という)。また、同月4日付けで、同事務所
25 のウェブサイトにも同様の内容について掲載を行った。(甲14、15)
(エ) 本件担当弁理士は、平成31年4月26日、本件担当秘書が作成した、
本件日本代理人事務所宛ての国内移行依頼の草稿について承認した(甲
5)。
(オ) 本件担当秘書は、平成31年4月29日、本件国際出願の日本への国内
移行手続を依頼する電子メール(以下「本件依頼メール」という。)を、宛
5 先を本件日本代理人事務所所属のE弁理士、宛先のCCを本件日本代理人
事務所の代表メールアドレスとする送信操作をした。本件依頼メールには、
前記(ア)のとおり、受領メールを返信するよう記載していた(甲3)。しか
しながら、本件依頼メールは、後記(キ)のとおり、送信先に届かなかった
(甲5)。
10 (カ) 本件担当秘書は、本件依頼メールの送信操作の後、不達のエラーメッセ
ージが届かなかったため、管理システムに「指示送信済」と入力し、デー
タベースに本件依頼メールを保存した。そして、本件担当秘書は、平成3
1年4月30日から令和元年5月19日まで休暇を取った(甲3、5)。
(キ) 本件担当秘書は、令和元年5月20日、休暇を終えて出勤したが、本件
15 日本代理人事務所からの国内移行手続の完了報告が届いていなかったた
め、本件依頼メールのチェックを行ったところ、正常に送信されず、通常
は閲覧できない未送信フォルダ内に保存されていることを発見し、本件期
間徒過を認識した。そして、調査の結果、本件依頼メールが送信されなか
った原因は、本件現地代理人事務所が入居する建物で、平成31年4月2
20 9日から同月30日まで改装工事が行われ、電気パネルの交換によりデー
タ線が一時的に遮断されたことによるものであることが判明した。なお、
同工事は停電を伴うものではなく、工事業者から本件現地代理人事務所に
対し、事前にそのような連絡はされていなかった。また、データ線の遮断
は短時間であり、平成31年4月29日、本件依頼メールの前後に送信し
25 たメールは正常に送信されていた。(甲3、5)
(ク) 特許庁「期間徒過後の救済規定に係るガイドライン(令和3年4月26
日改訂版)」には、特許法184条の4第4項の「正当な理由」の判断に
当たり、期間徒過の原因となった事象が予測可能であるといえない場合に、
期間徒過の原因となった事象の発生前に講じた措置及び発生後に講じた
措置が相応の措置といえるか否かについて、回復理由書の記載に基づき判
5 断する旨が記載されており、さらに、救済が認められない事例として、
「出
願人等と代理人等との間で、電子メールやファクシミリ等により、手続実
行に係る依頼を行ったが、誤送付や通信状況の悪化、システム上のトラブ
ル等の理由により、その依頼が伝わらなかった場合であって、送信者が相
手方の受領の確認や受任の意思の確認を行っていなかったとき」などが記
10 載されている(乙3・20~22頁)。
イ 争点に対する判断
(ア) 特許法184条の4第4項の「正当な理由」とは、第三者の監視負担に
配慮しつつ実効的な救済を確保する観点から、特許法条約12条に規定す
る「Due Care(いわゆる相当な注意)を払っていた」と同旨をいう
15 ものとして規定されたものである。そうすると、同項の「正当な理由」が
あるときとは、国際特許出願を行う出願人(代理人を含む。以下同じ。)
が、相当な注意を尽くしていたにもかかわらず、客観的にみて国内書面提
出期間内に明細書等翻訳文を提出することができなかったときをいうも
のと解するのが相当である(知的財産高等裁判所平成28年(行コ)第1
20 0002号平成29年3月7日判決参照)。
(イ) これを本件についてみると、前記認定事実によれば、本件日本代理人事
務所は、本件現地代理人事務所を含む取引関係者に対し、平成31年4月
27日から令和元年5月6日まで10日連続で休業日となることを通知
していたにもかかわらず、本件担当秘書は、その休業日中である平成31
25 年4月29日に本件依頼メールを送信していたことが認められる。のみな
らず、前記認定事実によれば、本件担当秘書は、その送信の翌日から令和
元年5月19日まで休暇を取得しており、本件現地代理人事務所は、本件
日本代理人事務所からの返信がない中で本件依頼メールが到達したこと
を確認し得る唯一の日である同月7日においても、その確認すら怠ってい
たことが認められ、結局、本件依頼メールが送信されなかった事実が発覚
5 したのは、本件担当秘書の休暇明けである令和元年5月20日であったこ
とが認められる。
そうすると、本件現地代理人事務所においては、本件日本代理人事務所
からの返信がない中で本件依頼メールが到達したことを確認し得る唯一
の日である令和元年5月7日においても、その確認すら怠っていたのであ
10 るから、本件現地代理人事務所は、国際特許出願の取下げを左右する本件
依頼メールにつき、本件依頼メールを送信した段階において、そもそも、
本件日本代理人事務所に対し、本件依頼メールが受領されたことを確認す
るための措置を全く講じていなかったことが認められる。
これらの事情の下においては、本件現地代理人事務所が、相当な注意を
15 尽くしていたにもかかわらず、客観的にみて国内書面提出期間内に明細書
等翻訳文を提出することができなかったということはできない。
したがって、本件期間徒過につき、特許法184条の4第4項の「正当
な理由」があるものと認めることはできない。
(ウ) これに対し、原告は、本件依頼メールの不達が極めて異例の状況下で発
20 生したことを指摘し、PCT出願の受理官庁ガイドラインを引用した上、
受領確認を行っていないことを理由として「正当な理由」がないと判断す
ることは誤りである旨主張する。確かに、前記認定事実(前記ア(キ))によ
れば、本件依頼メールの不達の直接の原因は、本件現地代理人事務所が入
居する建物の改装工事に際し、電気工事によりデータ線が一時的に遮断さ
25 れたことにあり、これ自体が予測困難な事態であることは否定できない。
しかしながら、一般に、電子メールの不達自体は通常の判断能力を有する
ものであれば予測可能である上、本件依頼メールは、本件日本代理人事務
所の長期休業中に送信されたため、その受領確認はもとより、本件日本代
理人事務所において国内移行手続を行うことができる日は僅か1日に限
られており、しかも、本件現地代理人事務所においては本件担当秘書も長
5 期休暇を取得しており、その1日ですら何ら確認をしていなかったという、
前記認定に係る事実経過を踏まえると、本件事案においては、本件現地代
理人事務所の本件依頼メールに関する対応は、余りにも杜撰であったとい
うほかなく、原告の上記主張は、上記判断を左右するに至らない。
また、原告は、特許法条約に違反し憲法98条に違反するなどとも主張
10 するが、特許法条約12条は、期間不遵守の救済要件として、
「Due C
are(いわゆる相当な注意)を払っていた」又は「Unintenti
onal(いわゆる故意ではない)であった」のいずれかを選択すること
を認めるものにすぎず、原告の主張を前提としても、少なくとも前記認定
に係る事実経過によれば、実質的にも「Due Care(いわゆる相当
15 な注意)を払っていた」ものと認めることはできず、原告の主張は、その
前提を欠くものといえる。
さらに、原告は、国内移行期間の終了間際に国内移行指示を行うことは
特許協力条約の制度上当然に予定されているものであり、平成31年4月
29日に依頼を指示したこと自体を不適切と断じることはできない旨主
20 張する。しかしながら、本件現地代理人事務所においては、本件日本代理
人事務所からの返信がない中で本件依頼メールが到達したことを確認し
得る唯一の日である令和元年5月7日においても、その確認すら怠ってい
たという、前記認定に係る事実経過を踏まえると、原告の主張は、前記判
断を左右するに至らない。
25 その他に、原告の主張を改めて検討しても、前記認定に係る事実経過を
踏まえると、原告の主張は、いずれも前記判断を左右するものとはいえな
い。
したがって、原告の主張は、いずれも採用することができない。
⑵ 争点1-2(本件処分が平等原則に違反するか)
原告は、特許法184条の4第4項の「正当な理由」が認められた他の事例
5 又は新型コロナウイルス感染症による影響を受けた期間徒過の事例との比較
において、本件処分が平等原則に違反する旨主張する。しかしながら、本件現
地代理人事務所においては、本件日本代理人事務所からの返信がない中で本件
依頼メールが到達したことを確認し得る唯一の日である令和元年5月7日に
おいても、その確認すら怠っていたという、前記認定に係る事実経過を踏まえ
10 ると、原告主張に係る各事例は、本件とは事案を異にするものであり、本件に
適切ではなく、平等原則違反をいう原告の主張は、その前提を欠く。したがっ
て、原告の主張は、採用することができない。
⑶ 争点1-3(本件処分が適正手続に違反するか)
原告は、本件処分が、本件却下理由通知に何ら表れておらず、かつ、本件面
15 接においても言及のなかった「「受領確認の期限管理を行う」旨の指導及び指
示を本件現地代理人事務所で怠っていた」という理由でなされたものであるか
ら、このような新たな却下理由によって本件処分を行うことは、行政手続法1
4条に違反する旨主張する。しかしながら、特許法195条の3の規定によれ
ば、行政手続法14条は、本件処分その他の特許法の規定による処分には適用
20 されないことからすると、原告の主張は、失当というほかない。実質的にみて
も、前記第2の2の前提事実⑹及び⑼によれば、特許庁長官は、本件却下理由
通知において、本件現地代理人事務所において相手方への到達を確認すること
を求めていることなどの事情を踏まえると、新たな却下理由によって本件処分
を行うものとはいえない。したがって、原告の主張は、採用することができな
25 い。
⑷ 小括
以上によれば、本件処分が違法であるということはできない。
2 第2事件の争点
⑴ 争点2-1(本件裁決に裁決固有の瑕疵があるか)
ア 認定事実
5 前記前提事実に加え、後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件裁決に至
る経過に関し、以下の事実が認められる。
(ア) 本件審査請求後、審理員が選任され、特許庁長官が弁明書を、原告が反
論書を提出するなどした(甲13、14)。
(イ) 令和5年3月3日、本件審査請求における口頭意見陳述が実施された。
10 これに先立ち、原告は、口頭意見陳述内容を審理員に対し送付したほか、
口頭意見陳述においてスライド資料を用いて説明をした。
(甲15、16)
(ウ) その後、前記(ア)の審理員の指名が取り消され、新たな審理員(以下「本
件審理員」という。)が指名された(争いがない)。
(エ) 本件審理員は、令和5年12月5日付けで、要旨、本件依頼メールの受
15 領確認をしていなかったことなどを理由に、「正当な理由」があるという
ことはできず、本件処分は適法かつ妥当であるから、本件審査請求は棄却
するのが相当である旨の審理員意見書(以下「本件意見書」という。)を
特許庁長官に提出した。本件意見書には、口頭意見陳述に関する記載はな
かった。(甲17)
20 (オ) 行政不服審査会は、特許庁長官からの諮問を受け、原告に対し、令和5
年12月26日付けで、諮問事件の係属等について原告に対し通知した。
同通知には、当該諮問事件に関し、審査庁から提出された事件記録の写し
及び諮問説明書の標題が記載された別紙1が添付されていたが、事件記録
の写しの記載が一部漏れていた。(甲43、47)
25 (カ) 行政不服審査会事務局は、令和6年1月16日付けの事務連絡で、原告
に対し、前記(オ)で通知した審査庁から提出された事件記録の写し及び諮
問説明書の標題の一部に記載漏れがあったことが判明したとして、訂正し
た事件記録の写し及び諮問説明書の標題を通知した。訂正により追加され
た資料には、前記原告提出に係る口頭意見陳述内容やスライド資料を含む
口頭意見陳述関連資料(資料1~7)が含まれていた。(甲43)。
5 (キ) 行政不服審査会事務局は、令和6年1月16日付けの事務連絡で、原告
に対し、同日までに審査庁から新たに提出された主張書面等(資料45~
59)について通知した(甲44)。
(ク) 行政不服審査会事務局は、令和6年1月16日付の事務連絡で、特許庁
に対し、同日までに原告から新たに提出された主張書面等(資料28~4
10 4)について通知した(乙9)。
(ケ) 行政不服審査会事務局は、令和6年1月25日付けの事務連絡で、原告
に対し、同日までに審査庁から新たに提出された主張書面について通知し
た(甲45)。
(コ) 行政不服審査会は、令和6年2月6日付けで、原告に対し、行政不服審
15 査法79条の規定に基づき、答申書の写しを送付した(甲46)。
イ 原告の主張に対する判断
原告は、本件審理員が本件意見書を作成するに当たり、口頭意見陳述内容
等が引き継がれていなかったことをもって、手続違背を根拠付ける事実とし
て主張するものと解される。
20 そこで検討すると、前記認定事実(エ)ないし(カ)によれば、令和5年12月
26日付けの通知には、原告提出に係る口頭意見陳述内容やスライド資料を
含む口頭意見陳述関連資料が記載されていなかったことが認められるもの
の、令和6年1月16日付けの通知には、一部に記載漏れがあったことが判
明したとして、上記口頭意見陳述関連資料が含まれていたことが認められる。
25 これらの事情を踏まえると、原告の主張によっては、口頭意見陳述内容等
が引き継がれていなかった事実を推認するには足りず、その他に当該事実を
認めるに足りる証拠はない。
また、原告は、行政不服審査会からの通知では資料28~44までの記載
がなく、資料28~44までの資料を確認する機会を失った旨主張する。し
かしながら、前記認定事実(ク)によれば、資料28~44は、特許庁ではなく
5 原告自らが提出した主張書面等に付された番号であるから、原告においてこ
れらの資料を確認する機会がなかったとしても、原告自身が提出した資料で
あるから、原告に手続上の不利益が生じたということはできない。
さらに、原告は、令和6年1月25日までに審査庁から提出された主張書
面を確認する間もなく答申書が発送されており、同主張書面に再反論の機会
10 が与えられなかった旨主張する。しかしながら、前記認定事実によれば、行
政不服審査会による答申書の送付の間には10日以上の期間があったこと
からすると、原告主張に係る事情が裁決固有の瑕疵を直ちに構成するものと
はいえない。
ウ したがって、原告の主張は、いずれも採用することができず、本件裁決に
15 裁決固有の瑕疵があるということはできない。
⑵ 争点2-2(審理員の判断に裁量権の逸脱又は濫用があるか)
原告は、審理員においては、違法か否かだけではなく、不当か否かという観
点からも判断すべきところ、本件裁決時における特許法改正の施行とその背景
を考慮した上、旧法に基づく本件処分が、令和3年改正法との均衡、新型コロ
20 ナウイルス感染症の場合における正当な理由の基準の判断との均衡を著しく
欠き、不当と判断すべきであったことは明らかであり、このような判断を遺漏
したことは、審理員の裁量権の逸脱又は濫用に当たる旨主張する。
しかしながら、審理員の裁量権の逸脱又は濫用がある旨の原告の主張は、本
件裁決の実体的判断に裁量権の逸脱又は濫用がある旨主張するものに帰し、行
25 政事件訴訟法10条2項が定める原処分主義に違反するものとして、主張自体
失当であるというほかない。仮に、原告の主張を前提として、実質的に検討し
たとしても、証拠(甲17)によれば、本件審理員は、要旨、本件依頼メール
の受領確認をしていなかったことなどを理由として、特許法184条の4第4
項の「正当な理由」があるということはできず、本件処分は適法かつ妥当であ
るとするものであるから、前記2⑴アにおいて認定した事実経過を踏まえると、
5 実質的にみても、審理員の裁量権の逸脱又は濫用がある旨の原告の主張は、採
用の限りではない。
⑶ 小括
以上によれば、本件裁決が違法であるということはできない。
第4 結論
10 よって、原告の請求はいずれも理由がないから、これらを棄却することとして、
主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第40部
15 裁判長裁判官
中 島 基 至
20 裁判官
武 富 可 南
25 裁判官
小 橋 陽 一 郎
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