令和7(ヨ)20008等特許権侵害差止仮処分命令申立事件
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| 裁判所 |
大阪地方裁判所
|
| 裁判年月日 |
令和8年2月6日 |
| 事件種別 |
民事 |
| 対象物 |
腹部不快感の処置のためのプロスタグランジン誘導体 |
| 法令 |
特許権
特許法68条の21回
|
| キーワード |
特許権91回 実施23回 無効15回 審決8回 無効審判7回 差止4回 抵触3回 侵害1回
|
| 主文 |
1 本件申立てをいずれも却下する。
2 申立費用は債権者の負担とし、参加によって生じた費用は債権者補助参加人
1 債務者は、別紙債務者製品目録記載の製品を生産し、譲渡し、譲渡の申出を
2 債務者は、別紙債務者製品目録記載の製品を廃棄せよ。
3 債務者は、別紙債務者製品目録記載の製品について薬価基準収載を求める申
195号同26年5月30日特別部判決
1 前提事実(疎明資料を掲げていない事実は、審尋の全趣旨により容易に認め
7、B7)。
24μg及び同12μgを製造・販売している。債権者製品24μgに
4μg処分)、債権者製品12μgについては、平成30年9月21日
12μgは、債権者製品24μgの製造販売承認審査に係る国内長期投
0052号)(甲A7)。
7号)(甲B7)。
1-1A:一般式(II)で示される化合物を含む、
1-1B:哺乳類対象における機能性胃腸疾患による腹部不快感の処置の
1-1C:医薬組成物
1-1A :一般式(II)で示される化合物を含む、
1-14B:機能性胃腸疾患の処置のための
1-1C :医薬組成物
2-1A:一般式(II)で示される13,14-ジヒドロ-15-ケト-1
6-モノ-またはジ-ハロゲン-プロスタグランジンE化合物
2-1B:オピオイド化合物または抗コリン作用薬による薬物誘発性便秘
2-1C:組成物
2と同内容の構成要件については同一符号を用いる。)。
2-1A:一般式(II)で示される13,14-ジヒドロ-15-ケト-1
6-モノ-またはジ-ハロゲン-プロスタグランジンE化合物
2-4A:13,14-ジヒドロ-15-ケト-16-モノ-またはジ-
2-1B:オピオイド化合物または抗コリン作用薬による薬物誘発性便秘
2-1C:組成物
2 争点
1及び同2の効力は債務者製品の生産・譲渡等に及ぶか(争点2)
3 争点に関する当事者の主張
0日付け債権者主張書面(1)記載のとおりであり、補助参加人の主張は、令
2通(それぞれ、冒頭に「令和7年(ヨ)第20008号」、「令和7年(ヨ)
1 争点1(債務者製品は本件各発明1及び同2の技術的範囲に属するか)につ
25、乙B1の1)及び債務者製品の添付文書案(乙A1)に照らせば、器
2 争点2(本件延長登録1-2及び同2-2により存続期間が延長された本件
1による延長期間は既に終了していることを前提としつつ、本件12μg
2によって延長された本件特許権1の効力は及ぶと主張する(甲A16の
1~4、甲A17も参照)のに対し、債務者は、本件の医薬品にとって、
2倍に及ぶ分量の違いは僅かな差異や全体的にみて形式的な差異にとどま
10~12も参照)ものである。
1つの医薬品を対象とする政令処分を理由に延長登録がされれば、その後
67条4項の政令で定める処分の対象となった物」の実施に対してのみ及
1-2によって延長された本件特許権1の効力が、分量を24μgとする
5年12月26日とし、元々の存続期間は令和5年12月26日までであ
6年7月2日まで)において、延長登録が認められた。しかし、債権者の
3 結論
1 本件発明1-1(請求項1)
2 本件発明1-14(請求項14)
3 本件訂正前発明2(請求項1)
4 本件訂正後発明2(請求項4)
13,14-ジヒドロ-15-ケト-16-モノ-またはジ-ハロゲン-プロ |
| 事件の概要 |
・ 本件特許1:発明の名称を「腹部不快感の処置のためのプロスタグランジン
誘導体」とする特許(特許第4889219号)
・ 本件特許2:発明の名称を「15-ケト-プロスタグランジン類を含む薬物
誘発性便秘処置用組成物」とする特許(特許第4332353
号)(本件特許1と併せて「本件各特許」)
・ 本件特許権1、同2:本件特許1、同2に係る特許権(これらの総称は「本
件各特許権」)
・ 本件専用実施権1、同2:本件特許権1、同2に係る専用実施権(これらの
総称は「本件各専用実施権」)
・ 本件発明1-1:本件特許1の【特許請求の範囲】【請求項1】に係る発明
・ 本件発明1-14:本件特許1の【特許請求の範囲】【請求項14】に係る
発明(本件発明1-1と併せて「本件各発明1」)
・ 本件訂正前発明2:本件特許2の訂正前の【特許請求の範囲】【請求項1】
に係る発明
・ 本件訂正後発明2:本件特許2の訂正後の【特許請求の範囲】【請求項4】 |
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判決文
令和7年(ヨ)第20008号、同第20009号
特許権侵害差止仮処分命令申立事件
(本案事件:令和7年(ワ)第10786号、同第10790号)
決 定
5 当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり
主 文
1 本件申立てをいずれも却下する。
2 申立費用は債権者の負担とし、参加によって生じた費用は債権者補助参加人
の負担とする。
10 理 由
第1 申立ての趣旨
1 債務者は、別紙債務者製品目録記載の製品を生産し、譲渡し、譲渡の申出を
し、又は輸入してはならない。
2 債務者は、別紙債務者製品目録記載の製品を廃棄せよ。
15 3 債務者は、別紙債務者製品目録記載の製品について薬価基準収載を求める申
請をしてはならない。
第2 本決定における略称
・ 本件特許1:発明の名称を「腹部不快感の処置のためのプロスタグランジン
誘導体」とする特許(特許第4889219号)
20 ・ 本件特許2:発明の名称を「15-ケト-プロスタグランジン類を含む薬物
誘発性便秘処置用組成物」とする特許(特許第4332353
号)(本件特許1と併せて「本件各特許」)
・ 本件特許権1、同2:本件特許1、同2に係る特許権(これらの総称は「本
件各特許権」)
25 ・ 本件専用実施権1、同2:本件特許権1、同2に係る専用実施権(これらの
総称は「本件各専用実施権」)
・ 本件発明1-1:本件特許1の【特許請求の範囲】【請求項1】に係る発明
・ 本件発明1-14:本件特許1の【特許請求の範囲】【請求項14】に係る
発明(本件発明1-1と併せて「本件各発明1」)
・ 本件訂正前発明2:本件特許2の訂正前の【特許請求の範囲】【請求項1】
5 に係る発明
・ 本件訂正後発明2:本件特許2の訂正後の【特許請求の範囲】【請求項4】
に係る発明(本件訂正前発明2と併せて「本件各発明2」)
・ 本件明細書1、同2:本件特許1、同2に係る明細書及び図面
・ 債権者製品24μg、同12μg:債権者が製造・販売する医薬品であるア
10 ミティーザカプセル24μg、同12μg
・ 債務者製品:別紙「債務者製品目録」記載の製品
・ 本件延長登録1-1:平成25年1月30日に登録された本件特許権1の存
続期間の延長登録(延長の期間:6月6日)
・ 本件延長登録1-2:令和元年10月16日に登録された本件特許権1の存
15 続期間の延長登録(延長の期間:5年)
・ 本件延長登録2-1:平成25年12月4日に登録された本件特許権2の存
続期間の延長登録(延長の期間:3年2日)
・ 本件延長登録2-2:令和元年10月23日に登録された本件特許権2の存
続期間の延長登録(延長の期間:5年)
20 ・ 薬機法:医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法
律(平成25年法律第84号による改正前の題名は、薬事法)
・ 政令処分:特許法67条4項(平成28年法律第108号による改正前の特
許法67条2項)の政令で定める処分
・ 本件24μg処分:債権者製品24μgを対象の物とする政令処分
25 ・ 本件12μg処分:債権者製品12μgを対象の物とする政令処分
・ ベバシズマブ最高裁判決:最高裁判所平成27年11月17日第三小法廷判
決・民集69巻7号1912頁
・ ベバシズマブ知財高裁判決:知的財産高等裁判所平成25年(行ケ)第10
195号同26年5月30日特別部判決
・ オキサリプラチン知財高裁判決:知的財産高等裁判所平成29年1月20日
5 特別部判決
・ 補助参加人:債権者補助参加人
第3 事案の概要
本件は、補助参加人から本件各特許権につき本件各専用実施権の設定を受け
た債権者が、債務者製品は本件各発明1及び同2の技術的範囲に属し、かつ、
10 存続期間の延長登録を受けた本件各特許権の効力(ひいては本件各専用実施権
の効力)は、債務者による債務者製品の生産・譲渡等に及ぶとして、債務者に
対し、①債務者製品の生産・譲渡等の差止め、②債務者製品の廃棄、③債務者
製品についての薬価基準収載申請の差止めの仮処分を求める事案である。
1 前提事実(疎明資料を掲げていない事実は、審尋の全趣旨により容易に認め
15 られる事実)
(1) 当事者等
ア(ア) 債権者は、医薬品等の製造、販売、輸出及び輸入を主たる事業とする
合同会社であり、補助参加人から、令和6年4月4日から存続期間満了
まで(延長登録期間を含む。)を対象期間として、その保有に係る本件
20 各特許権につき専用実施権(本件各専用実施権)の設定を受けた(甲A
7、B7)。
(イ) 債権者は、有効成分をルビプロストンとする医薬品である債権者製品
24μg及び同12μgを製造・販売している。債権者製品24μgに
ついては、平成24年6月29日に製造販売承認がされており(本件2
25 4μg処分)、債権者製品12μgについては、平成30年9月21日
に製造販売承認がされている(本件12μg処分)。なお、債権者製品
12μgは、債権者製品24μgの製造販売承認審査に係る国内長期投
与試験において、患者に減量・休薬等の処置が行われた例が相当数生じ、
医薬品医療機器総合機構側から低用量製剤の開発について検討していく
必要がある旨の意見が出されたことを受けて、開発に至ったものである。
5 (甲A50、87、丙A19、20)
イ 債務者は、医薬品の製造・販売及び輸出入、健康食品の製造・販売を主
たる事業とする株式会社である。
(2) 本件特許権1及びその延長登録並びに無効審判請求
ア 本件特許権1の書誌的事項は、次のとおりである(甲A7)。
10 (ア) 登録番号 特許第4889219号
(イ) 出願日 平成15年12月26日
(ウ) 登録日 平成23年12月22日
(エ) 発明の名称 腹部不快感の処置のためのプロスタグランジン誘導体
イ 補助参加人は、次のとおり、本件特許権1の存続期間の延長登録の出願
15 をし、その登録を受けた(甲A7)。
(ア) 本件延長登録1-1
a 出願日 平成24年9月26日
b 延長の期間 6月6日(令和6年7月2日まで)
c 延長登録日 平成25年1月30日
20 d 政令処分の内容
(a) 特許権の存続期間の延長登録の理由となる処分
薬事法14条1項に規定する医薬品に係る同項の承認(本件24
μg処分)
(b) 処分を特定する番号
25 承認番号 22400AMX00733000
(c) 処分の対象となった物
販売名:アミティーザカプセル24μg(債権者製品24μg)
有効成分:ルビプロストン
(d) 処分の対象となった物について特定された用途
慢性便秘症(器質的疾患による便秘を除く)
5 (イ) 本件延長登録1-2
a 出願日 平成30年12月20日
b 延長の期間 5年(令和10年12月26日まで)
c 延長登録日 令和元年10月16日
d 政令処分の内容
10 (a) 特許権の存続期間の延長登録の理由となる処分
薬機法14条1項に規定する医薬品に係る同項の承認(本件12
μg処分)
(b) 処分を特定する番号
承認番号 23000AMX00816000
15 (c) 処分の対象となった物
販売名:アミティーザカプセル12μg(債権者製品12μg)
一般名:ルビプロストン
(d) 処分の対象となった物について特定された用途
慢性便秘症(器質的疾患による便秘を除く)
20 ウ 債務者は、令和6年4月3日、特許庁に対し、本件延長登録1-2に無
効理由があるとして、延長登録無効審判請求をした(無効2024-80
0052号)(甲A7)。
(3) 本件特許権2及びその延長登録並びに無効審判請求
ア 本件特許権2の書誌的事項は、次のとおりである(甲B7)。
25 (ア) 登録番号 特許第4332353号
(イ) 出願日 平成14年4月26日
(ウ) 登録日 平成21年6月26日
(エ) 発明の名称 15-ケト-プロスタグランジン類を含む薬物誘発性
便秘処置用組成物
イ 補助参加人は、次のとおり、本件特許権2の存続期間の延長登録の出願
5 をし、その登録を受けた(甲B7)。
(ア) 本件延長登録2-1
a 出願日 平成24年9月26日
b 延長の期間 3年2日(令和7年4月28日まで)
c 延長登録日 平成25年12月4日
10 d 政令処分の内容
前記(2)イ(ア)dと同じ
(イ) 本件延長登録2-2
a 出願日 平成30年12月20日
b 延長の期間 5年(令和9年4月26日まで)
15 c 延長登録日 令和元年10月23日
d 政令処分の内容
前記(2)イ(イ)dと同じ
ウ(ア) 債務者は、令和5年12月9日、特許庁に対し、本件特許2に無効理
由があるとして、特許無効審判請求をした(無効2023-80007
20 7号)(甲B7)。
補助参加人は、上記審判において、本件特許2の特許請求の範囲(請
求項1ないし8)につき訂正請求をした。
特許庁は、令和7年4月22日付けで、上記訂正を認めた上で(本件
訂正後発明2は、かかる訂正によるものである。)、上記無効審判請求
25 が成り立たない旨(及び訂正により削除された請求項2及び3について
の審判請求を却下する旨)の審決をした(甲B9)。
上記審決については、債務者が提起した審決取消請求訴訟が知的財産
高等裁判所に係属中であり、上記審決は確定していない。
(イ) 債務者は、令和5年9月28日、特許庁に対し、本件延長登録2-1
及び2-2に無効理由があるとして、それぞれ延長登録無効審判請求を
5 した(無効2023-800062号、無効2023-800063号)
(甲B7)。
特許庁は、令和7年6月4日付けで、上記各無効審判請求が成り立た
ない旨の各審決をした(甲B23、24)。
上記各審決については、債務者が提起した審決取消請求訴訟が知的財
10 産高等裁判所に係属中であり、上記各審決は確定していない。
(4) 本件各発明1の特許請求の範囲と構成要件の分説
ア 本件発明1-1
本件特許1に係る本件発明1-1の特許請求の範囲(請求項1)の記載
は、別紙「特許請求の範囲」記載1のとおりであるところ(このうち「下
15 記一般式(II)」は、以下、(4)の項においては単に「一般式(II)」として内
容を省略する。)、同発明の構成要件は、次のとおり分説される。
1-1A:一般式(II)で示される化合物を含む、
1-1B:哺乳類対象における機能性胃腸疾患による腹部不快感の処置の
ための
20 1-1C:医薬組成物
イ 本件発明1-14
本件特許1に係る本件発明1-14の特許請求の範囲(請求項14)の
記載は、別紙「特許請求の範囲」記載2のとおりであるところ、同発明の
構成要件は、次のとおり分説される(本件発明1-1と同内容の構成要件
25 については同一符号を用いる。)。
1-1A :一般式(II)で示される化合物を含む、
1-14B:機能性胃腸疾患の処置のための
1-1C :医薬組成物
(5) 本件各発明2の特許請求の範囲と構成要件の分説
ア 本件訂正前発明2
5 本件特許2に係る本件訂正前発明2の特許請求の範囲(請求項1)の記
載は、別紙「特許請求の範囲」記載3のとおりであるところ(このうち「一
般式(II)」は、以下、(5)の項においては単に「一般式(II)」として内容を
省略する。)、同発明の構成要件は、次のとおり分説される。
2-1A:一般式(II)で示される13,14-ジヒドロ-15-ケト-1
10 6-モノ-またはジ-ハロゲン-プロスタグランジンE化合物
を有効成分として含む
2-1B:オピオイド化合物または抗コリン作用薬による薬物誘発性便秘
処置用
2-1C:組成物
15 イ 本件訂正後発明2
本件特許2に係る本件訂正後発明2の特許請求の範囲(請求項4)の記
載は、別紙「特許請求の範囲」記載4のとおりであるところ、同発明の構
成要件は、便宜順序を入れ替えて次のとおり分説される(本件訂正前発明
2と同内容の構成要件については同一符号を用いる。)。
20 2-1A:一般式(II)で示される13,14-ジヒドロ-15-ケト-1
6-モノ-またはジ-ハロゲン-プロスタグランジンE化合物
を有効成分として含み
2-4A:13,14-ジヒドロ-15-ケト-16-モノ-またはジ-
ハロゲン-プロスタグランジンE化合物が、13,14-ジヒ
25 ドロ-15-ケト-16,16-ジフルオロ-プロスタグラン
ジンE1である
2-1B:オピオイド化合物または抗コリン作用薬による薬物誘発性便秘
処置用
2-1C:組成物
(6) 債務者の行為及び債務者製品の構成
5 ア 債務者の行為
債務者は、令和5年2月24日、厚生労働省に対し、債権者製品24μ
gの後発医薬品として、債務者製品についての製造販売承認申請をした(同
月27日受付)(甲A9の1・2)。なお、後発医薬品は、毎年2月と8
月に製造販売承認の機会があるところ、令和7年8月には債務者製品の製
10 造販売承認はされなかった。
イ 債務者製品の構成
債務者製品の構成は、以下のとおりであるところ、債務者製品の構成a
及びcは、本件各発明1のうち構成要件1-1A及び1-1C、本件各発
明2のうち構成要件2-1A、2-4A及び2-1Cをそれぞれ充足する
15 が、その余の構成要件充足性(債務者製品の構成bが、本件各発明1のう
ち構成要件1-1B及び1-14B、本件各発明2のうち構成要件2-1
Bをそれぞれ充足するか)につき争いがある。
a 有効成分としてルビプロストンを含有する
b 慢性便秘症(器質的疾患による便秘を除く)の改善を用途とする
20 c 医薬組成物
(7) 本件申立て
債権者は、令和7年10月10日、本件仮処分命令申立事件を申し立てた。
2 争点
(1) 債務者製品は本件各発明1及び同2の技術的範囲に属するか(争点1)
25 (2) 本件延長登録1-2及び同2-2により存続期間が延長された本件特許権
1及び同2の効力は債務者製品の生産・譲渡等に及ぶか(争点2)
(3) 本件延長登録1-2及び同2-2に無効理由があるか(争点3)
(4) 保全の必要性(争点4)
3 争点に関する当事者の主張
争点に関し、債権者の主張は、仮処分命令申立書2通(併合前の令和7年(ヨ)
5 第20008号事件及び同第20009号事件に係るもの)、令和8年1月3
0日付け債権者主張書面(1)記載のとおりであり、補助参加人の主張は、令
和8年1月30日付け補助参加人第1主張書面記載のとおりであり、債務者の
主張は、答弁書2通(同上)、令和7年12月12日付け債務者主張書面(1)
2通(それぞれ、冒頭に「令和7年(ヨ)第20008号」、「令和7年(ヨ)
10 第20009号」と記載のあるもの)記載のとおりであるから、これらを引用
する。
第4 当裁判所の判断
1 争点1(債務者製品は本件各発明1及び同2の技術的範囲に属するか)につ
いて
15 (1) 本件各発明1:「哺乳類対象における機能性胃腸疾患による腹部不快感の
処置のための」(構成要件1-1B)及び「機能性胃腸疾患の処置のための」
(構成要件1-14B)の充足性
債務者製品は、「慢性便秘症(器質的疾患による便秘を除く)の改善を用
途とする」(構成b)ものである(前提事実(6)イ)が、技術常識(甲A11
20 の1)に照らせば、器質的疾患による便秘を除く慢性便秘症の一態様として、
機能性消化管疾患であるところの便秘(機能性便秘症)をも用途としている
と解される上、一般に機能性消化管疾患は機能性胃腸疾患と同義といえるこ
と、便秘が腹部不快感を伴うものであることも踏まえれば、「哺乳類対象に
おける機能性胃腸疾患による腹部不快感の処置のための」及び「機能性胃腸
25 疾患の処置のための」との各構成要件を充足する。
また、特許出願人(補助参加人)が、出願当時の特許請求の範囲から、「便
秘の処置」を意識的に除外したとまでは解することができず、この点に関す
る債務者の主張も採用できない。
(2) 本件各発明2:「オピオイド化合物または抗コリン作用薬による薬物誘発
性便秘処置用」(構成要件2-1B)の充足性
5 債務者製品は、「慢性便秘症(器質的疾患による便秘を除く)の改善を用
途とする」(構成b)ものである(前提事実(6)イ)が、技術常識(甲B12、
25、乙B1の1)及び債務者製品の添付文書案(乙A1)に照らせば、器
質的疾患による便秘を除く慢性便秘症の一態様として、抗コリン薬、抗うつ
薬、オピオイド系薬、Ca拮抗薬などの薬剤性便秘をも用途としていると解
10 されるところ、「オピオイド化合物または抗コリン作用薬による薬物誘発性
便秘処置用」との構成要件を充足する。
(3) まとめ
以上より(その余の構成要件を充足することについては前記のとおりであ
る。)、債務者製品は、本件各発明1及び同2のいずれの技術的範囲にも属
15 する。
2 争点2(本件延長登録1-2及び同2-2により存続期間が延長された本件
特許権1及び同2の効力は債務者製品の生産・譲渡等に及ぶか)について
(1) 本件延長登録1-2により存続期間が延長された本件特許権1の効力は債
務者製品の生産・譲渡等に及ぶか
20 ア 問題の所在
本件特許権1は、出願日を平成15年12月26日とするもので、特許
の存続期間は令和5年12月26日までであったが、本件24μg処分を
理由とする本件延長登録1-1によって、その存続期間が6月6日延長さ
れ、令和6年7月2日までとなった。また、本件特許権1は、本件12μ
25 g処分を理由とする本件延長登録1-2によって、その存続期間が5年延
長され、令和10年12月26日までとなった。
このように本件特許権1の存続期間が、2つの政令処分を理由として
個々に延長される中で、債務者は、債権者製品24μgの後発医薬品とし
て、債務者製品(分量は債権者製品24μgと同じく24μg)の製造販
売等を行うべく、厚生労働省に対する製造販売承認の申請を行っている。
5 これに対し、債権者が、本件24μg処分を理由とする本件延長登録1-
1による延長期間は既に終了していることを前提としつつ、本件12μg
処分を理由とする本件延長登録1-2によって延長された本件特許権1の
効力が、分量を24μgとする債務者製品にも及ぶとして、その生産・譲
渡等の差止め等を求めている。
10 ここで本件の問題の所在を整理するに、上記のように特許法67条4項
の規定により存続期間が延長された場合の特許権の効力は、「その延長登
録の理由となった特許法67条4項の政令で定める処分の対象となった物
(その処分においてその物の使用される特定の用途が定められている場合
にあっては、当該用途に使用されるその物)」についての当該発明の実施
15 のみに及ぶ(特許法68条の2)ところ、分量を24μgとする債務者製
品が、本件12μg処分の対象となった物である債権者製品12μgと同
一であるとして特許権の効力が及ぶといえるかをめぐる争点である。しか
も、本件では、これらの分量の差異をどう評価するかの問題のみならず、
本件24μg処分を理由とする本件延長登録1-1の延長期間は既に終了
20 している中で、これと分量を同じくする債務者製品に対し、本件12μg
処分という別の理由で延長登録された本件特許権1の効力が及ぶのかとい
う問題もあわせ検討する必要がある。
この点、債権者及び補助参加人は、債務者製品は、本件12μg処分の
対象となった債権者製品12μgとの間で分量の差異があるにとどまり、
25 実質同一といえるため、本件12μg処分を理由とする本件延長登録1-
2によって延長された本件特許権1の効力は及ぶと主張する(甲A16の
1~4、甲A17も参照)のに対し、債務者は、本件の医薬品にとって、
2倍に及ぶ分量の違いは僅かな差異や全体的にみて形式的な差異にとどま
るものではなく、医学的に実質的な意味を有するなど本件固有の具体的事
情を挙げるに加え、本件24μg処分を理由とする本件延長登録1-1の
5 延長期間が既に終了しているにもかかわらず、本件12μg処分を理由と
する本件延長登録1-2によって延長された本件特許権1の効力が及ぶと
することは、延長登録制度の想定を超えた存続期間延長を再度付与するに
等しく、特許権者と第三者との衡平を損ねるなどの主張を展開する(乙A
10~12も参照)ものである。
10 つまるところ、特許法68条の2の「その延長登録の理由となった特許
法67条4項の政令で定める処分の対象となった物」における「物」との
同一性の範囲をどのように解するかの法律論に収れんされる問題ではある
が、その解釈にあたっては、特許権存続期間の延長登録制度全体に対する
考察、すなわち、延長登録の範囲・単位をどのように解すべきかにも立ち
15 返りつつ、存続期間を延長された特許権の効力範囲をどのように解するこ
とが、延長特許の範囲・単位についての解釈と整合的で、特許権者と第三
者との衡平にも適うものであるかという観点で検討することが、本問題の
性質上不可欠といえる。
イ 延長登録の範囲・単位
20 特許権存続期間の延長登録制度は、政令処分を受けることが必要であっ
たために特許発明の実施をすることができなかった期間を回復することを
目的とするものである上、延長登録出願について、特許発明の実施に政令
処分を受けることが必要であったとは認められないことが拒絶査定の要件
とされている(特許法67条の7第1項1号)ことからすると、医薬品の
25 製造販売について、当該特許の技術的範囲に属する複数の医薬品があり、
それぞれに政令処分がされる場合において、先行処分の対象となった医薬
品の製造販売が、後行処分の対象となった医薬品の製造販売をも包含する
と認められるときには、特許発明の実施に政令処分(後行処分)を受ける
ことが必要であったとは認められないこととなるから、後行処分を理由と
する別個の延長登録は認められないものといえる。そして、両処分の包含
5 関係を決するにあたっては、薬機法に基づく医薬品の製造販売承認におけ
る審査事項のうち医薬品としての実質的同一性に直接関わる事項である医
薬品の成分、分量、用法、用量、効能及び効果について、両処分を比較し
て判断すべきと解される(ベバシズマブ最高裁判決参照)。
これを延長登録の範囲・単位として表現し直せば、成分、分量、用法、
10 用量、効能及び効果を異にする医薬品は、薬機法に基づく製造販売承認の
審査においてのみならず、特許権の延長登録出願上も別の物として扱われ、
延長登録の可否及び延長期間が、それぞれ個別に審査、査定されることに
なるものといえる。
その意味するところは、従前の特許庁実務と対比することでより明瞭に
15 なる。すなわち、従前の特許庁実務は、有効成分と効能及び効果を同じく
する複数の医薬品については、例えば、分量を異にし、薬機法に基づく製
造販売承認の審査上は別の医薬品として扱われるものであったとしても、
1つの医薬品を対象とする政令処分を理由に延長登録がされれば、その後
に別の医薬品を対象とする政令処分を理由とする別の延長登録は認めない
20 とするものであった。このような解釈運用は、条文文言(現行特許法67
条の7第1項1号)との整合性に加え、実質論としても、後行処分に係る
医薬品について、特許権存続中の実施可能期間が存続期間延長登録制度の
意図するところよりも短くなってしまうという問題があったと考えられる
が、その点はおくとして、存続期間を延長された当該特許権の効力として
25 は、有効成分と効能及び効果を同じくする医薬品であれば、例えば、分量
を異にしても「物」(現行特許法68条の2)として同一であり、広く効
力範囲に含まれると解するのが整合的ということになる。言い換えれば、
そのように特許権の効力範囲を広く解さなければ、上記のように延長登録
出願に係る範囲・単位を広く扱い、有効成分と効能及び効果を同じくする
限り、別途の延長登録を認めないとする解釈運用を正当化することは困難
5 であったと考えられる。
他方で、ベバシズマブ最高裁判決によって定立されたというべき前記の
ような延長登録の範囲・単位は、薬機法に基づく医薬品の製造販売承認の
審査と全く同一までではないものの、実質においてはこれと近似したもの
となり、成分、分量、用法、用量、効能及び効果をもって、物としての特
10 定要素とし、これを異にする医薬品については、それぞれごとに、特許権
の存続期間延長の可否及びその期間の長短を審査、査定することとなる。
これは、延長登録の範囲・単位について、薬機法に基づく製造販売承認に
概ね近似する単位とし、従前の特許庁実務に比べると相当にいわば短冊化
したものといえ、存続期間延長登録制度のもとでの特許権者と第三者との
15 衡平を、よりきめ細やかに行うことを可能にするものと捉えることができ
る。
そして、このような存続期間延長登録制度の短冊化に照らして考えると、
延長された特許権の効力範囲についても、このような短冊化された範囲内
にとどまると解するのが整合的とはなる。すなわち、延長登録出願の段階
20 において、存続期間延長の可否や期間の長短を、上記のように相当に狭い
範囲・単位に区分けして扱うとしながら、仮に延長された特許権の効力が、
この区分けされた範囲をいわば越境して及ぶこととなれば、延長登録出願
段階で上記のように範囲・単位を区分けし、特許権者と第三者との衡平を、
その範囲・単位できめ細やかに調整することを可能とする上記法的枠組み
25 の意義が大きく損なわれることになるものといえる。
ウ 特許法68条の2の文言からの考察
他方、延長された特許権の効力範囲は、あくまで特許法68条の2の規
定するところであり、同条は、特許法67条4項の規定により存続期間が
延長された特許権の効力について、「その延長登録の理由となった特許法
67条4項の政令で定める処分の対象となった物」の実施に対してのみ及
5 ぶとするものである。
そこで、この「物」の意義が問題となるが、前記イのとおり、延長登録
出願の段階において、延長の理由とされた政令処分上で定められた成分、
分量、用法、用量、効能及び効果をもって、医薬品たる物としての特定要
素とし、これを異にする医薬品については、別に存続期間の延長登録をす
10 ることができることに照らせば、特許法68条の2の規定における「物」
も、政令処分上で定められた成分、分量、用法、用量、効能及び効果をも
って特定されると解される。そうすると、存続期間が延長された特許権に
基づく権利行使の対象製品について、延長登録の理由となった政令処分の
対象とする物との比較として、これら特定要素の一部でも異なる部分が存
15 在する場合には、当該特許権の効力が及ばないとするのが条文文言に照ら
しての形式的な帰結とはなる。しかしながら、このような解釈は、あまり
に形式的にすぎ、第三者において、延長された特許権の効力範囲を容易に
回避することが可能となり、延長登録制度の趣旨を没却することにもなる
ため、特許権者と第三者との衡平の観点から、延長登録の理由となった政
20 令処分の対象となった物と、権利行使の対象製品との間に、上記特定要素
につき何らかの異なる部分があったとしても、当該部分が僅かな差異又は
全体的にみて形式的な差異にすぎないときは、権利行使の対象製品は、延
長登録の理由となった政令処分の対象となった物と実質同一として、延長
された特許権の効力が及ぶと解することが相当であるし、これをもって、
25 第三者の予見性を損なうものでもないといえる。
そして、医薬品の成分を対象とする物の特許発明において、政令処分で
定められた「成分」に関する差異、「分量」の数量的差異又は「用法、用
量」の数量的差異のいずれか一つないし複数があり、他の差異が存在しな
い場合に限定してみれば、僅かな差異又は全体的にみて形式的な差異かど
うかは、特許発明の内容に基づき、その内容との関連で、政令処分におい
5 て定められた「成分、分量、用法、用量、効能及び効果」によって特定さ
れた「物」と対象製品との技術的特徴及び作用効果の同一性を比較検討し
て、当業者の技術常識を踏まえて判断すべきと解される(オキサリプラチ
ン知財高裁判決参照)。
エ 総合的考察
10 以上のとおり、延長登録出願の段階における延長登録の範囲・単位は、
成分、分量、用法、用量、効能及び効果を特定要素とするものであるのに
対し、存続期間を延長された特許権の効力は、その範囲を画する「物」の
特定要素を上記と同じくするものではありながらも、その形式的な適用が
第三者による回避を過度に容易とし、特許権者の権利行使を困難とし、ひ
15 いては延長登録制度の趣旨である両者間の衡平を失することになるとの観
点から、物として実質同一といえる範囲にまで広げて解するものである。
このように、延長登録出願の段階での延長登録の範囲・単位と、存続期間
が延長された特許権の効力範囲は、規範やその背景事情を異にするもので、
両者の範囲は必ずしも一致するものではなく、むしろ、一般的にいえば、
20 後者の方が広がりをもった範囲を有するといえる。
しかしながら、延長登録の範囲・単位とその結果存続期間が延長された
特許権の効力範囲は、存続期間の延長登録制度全体の中で、整合的に解釈
運用され、相互に調和することで、初めて特許権者と第三者との衡平とい
う同制度の目的の実を果たすことができるというべきであるところ、特許
25 権の効力範囲については、前記イ及びウで検討したところを総合考慮し、
実質同一といえる範囲で広がりを有するとはいえ、その広がりは、存続期
間の延長登録の範囲・単位と抵触しないという制約の中で解釈されるべき
ものといえる。すなわち、医薬品に係る同一の特許権について、複数の政
令処分を理由とする延長登録がされている場合、後れて延長登録された特
許権の効力範囲は、前記ウで説示の規範のもと一定の広がりを有するもの
5 ではあるものの、少なくとも、先行する延長登録の理由となった政令処分
の対象とする物と成分、分量、用法、用量、効能及び効果として同一の物
は、後行する延長登録の理由となった政令処分の対象とする物と実質同一
ではなく、その生産・譲渡等にまでは効力が及ばないものとして解される
べきである(さらにいえば、後行する延長登録の理由となった政令処分の
10 対象とする物を基準としたときに、①先行する延長登録の理由となった政
令処分の対象とする物との数量的差異よりも、数量的差異が大きい物〔例
えば、分量の違いがより大きい物〕や、②先行する政令処分の対象とする
物と同じだけの数量的差異に加えて別の質的な差異も存在する物〔例えば、
同じだけの分量の差異に加えて成分にも一定の差異がある物〕は、物とし
15 ての遠近がより離れることになるため、やはり実質同一といえないと解す
るのが、一貫した解釈として相当である。)。
仮に、後れて延長登録された特許権の効力が、前記ウの規範のもと、先
行する延長登録の理由となった政令処分の対象とする物と成分、分量、用
法、用量、効能及び効果として同一の物の生産・譲渡等にまで及ぶとすれ
20 ば、先行する存続期間の延長の方が短かった場合において、その対象とす
る物の第三者による実施が、存続期間延長制度が規律する以上の期間にわ
たって禁じられることになる。このような帰結は、延長登録出願段階での
範囲・単位を成分、分量、用法、用量、効能及び効果で短冊的に区分けし、
特許権者と第三者との衡平を、その範囲・単位できめ細やかに調整しよう
25 とする存続期間延長制度の趣旨を大きく損なうものであるとともに、既に
延長期間が終了した延長登録の理由となった政令処分の対象とする物と成
分、分量、用法、用量、効能及び効果として同一の物に対して特許権の行
使を受けるということは、第三者の予期を期待できるものではなく、特許
権の効力を及ぼす実質的正当性に欠けるものともいえる。
オ 本件へのあてはめ
5 債権者及び補助参加人は、本件12μg処分を理由とする本件延長登録
1-2によって延長された本件特許権1の効力が、分量を24μgとする
債務者製品の生産・譲渡等にも及ぶ旨主張するところ、証拠(甲A3の2、
甲A4、乙A1)及び審尋の全趣旨によれば、本件12μg処分の対象と
なった債権者製品12μgと債務者製品は、分量こそ12μgと24μg
10 という違いがあるものの、成分、用法、用量、効能及び効果は同一である
上、本件各発明1の内容に照らせば、上記分量の差異が技術的特徴や作用
効果に違いをもたらすとはいい難いと考えられるところ、上記差異そのも
のの評価としては、前記ウの規範でいうところの僅かな差異又は全体的に
みて形式的な差異と見る余地があることは否定できない。
15 しかしながら、証拠(甲A3の2、甲A4、乙A1)及び審尋の全趣旨に
よれば、債務者製品は、まさに先行する本件延長登録1-1の理由とされ
た本件24μg処分の対象となった債権者製品24μgと成分、分量、用
法、用量、効能及び効果が同一の物であるところ、上記延長登録に係る延
長期間は既に終了したものである。後行する本件延長登録1-2によって
20 存続期間を延長された本件特許権1の効力は、その延長登録の理由となっ
た本件12μg処分の対象である債権者製品12μgと分量のみを異にす
る医薬品を実質同一の範囲に含むものとして一定の広がりを有するとまで
はいえるものの、前記エでの説示に照らせば、債権者製品24μgとの同
一性に係る上記一事をもって、少なくとも、債務者製品は債権者製品12
25 μgと実質同一ではなく、その生産・譲渡等にまで効力は及ばないという
べきである(債務者製品と債権者製品24μgとの間で、仮に添加剤の違
いがあり、これをもって「成分」に一定の差異があると評価されるのであ
れば、実質同一をより否定する要素といえる。)。
なお、この点で、仮に債権者及び補助参加人の主張を認めた場合、次の
ような帰結となるもので、実質的な妥当性・衡平を欠くことが具体的にも
5 浮かび上がるものといえる。すなわち、本件特許権1は、出願日を平成1
5年12月26日とし、元々の存続期間は令和5年12月26日までであ
ったが、特許登録日である平成23年12月22日から6月6日の間、薬
機法に基づく製造販売承認を受けるまでの期間として、債権者製品24μ
gについての実施をすることができなかったため、その期間の限り(令和
10 6年7月2日まで)において、延長登録が認められた。しかし、債権者の
主張によれば、本件延長登録1-2によって存続期間が延長された本件特
許権1の効力として、さらに令和10年12月26日までの間、債務者製
品その他債権者製品24μgと成分、分量、用法、用量、効能及び効果を
同じくする物の第三者による生産・譲渡等を差し止めることができること
15 になる。これは、本来、政令処分を受けるまでの失われた期間に限り、存
続期間の延長を許容する存続期間延長制度の趣旨、想定とは異なり、失わ
れた期間の回復を超えて、延長登録の理由となった政令処分の対象とする
物についての実施権の専有を認めるに等しく、実質において、特許権者と
第三者との衡平を損なう結果を招くものといえる。
20 カ オキサリプラチン知財高裁判決に関する債権者及び補助参加人の主張に
ついて
これに対し、債権者及び補助参加人は、オキサリプラチン知財高裁判決
が定立した実質同一の規範に照らせば、本件延長登録1-2によって存続
期間を延長された本件特許権1の効力は、債務者製品の生産・譲渡等にも
25 及ぶ旨主張する。
しかし、前記イないしエで説示したとおり、存続期間を延長された特許
権の効力範囲については、延長登録の理由とした政令処分の対象となった
物と実質同一の物の生産・譲渡等にまで及ぶものではあるものの、存続期
間の延長登録制度全体の中での整合的解釈として、延長登録の範囲・単位
と抵触しないという制約の中で解釈されるべきものであるところ、債権者
5 の主張は、この点への考慮を欠いたものというほかない。
また、オキサリプラチン知財高裁判決自身が、実質同一の範囲を定める
にあたっての均等論の法理の適用ないし類推適用を否定する文脈において、
「特許発明の技術的範囲における均等は、特許発明の技術的範囲の外延を
画するものであり、法68条の2における、具体的な政令処分を前提とし
10 て延長登録が認められた特許権の効力範囲における前記実質同一とは、そ
の適用される状況が異なるものであるため、その第1要件ないし第3要件
はこれをそのまま適用すると、法68条の2の延長登録された特許権の効
力の範囲が広がり過ぎ、相当ではない。」とした上、「本件各処分につい
てみれば明らかなように、各政令処分によって特定される「物」について
15 の「特許発明の実施」について、第1要件ないし第3要件をそのまま適用
して均等の範囲を考えると、それぞれの政令処分の全てが互いの均等物と
なり、・・・法68条の2の延長登録された特許権の効力範囲としては広
がり過ぎることが明らか」とし、さらに、「均等の5要件の類推適用につ
いても、仮にこれを類推適用するとすれば、政令処分は、本件各処分のよ
20 うに、特定の医薬品について複数の処分がなされることが多いため、政令
処分で特定される具体的な「物」について、それぞれ適切な範囲で一定の
広がりを持ち、なおかつ、実質同一の範囲が広がり過ぎないように(例え
ば、本件各処分にみられるような複数の政令処分について、分量が異なる
一部の処分に係る物が実質同一となることはあっても、その全てが互いに
25 実質同一の範囲に含まれることがないように)検討する必要がある。」と
している。これら説示は、複数の政令処分を理由とした存続期間の延長登
録がされている場合に、そのような延長登録の並立状態を考慮しないまま、
存続期間を延長された特許権の効力範囲は決せられないとの理解を前提と
するものというべきであって、前記エの説示は、これと軌を一にするもの
といえる。
5 以上より、債権者及び補助参加人の上記主張は、オキサリプラチン知財
高裁判決全体の趣旨を正確に解するものではなく、採用できないというべ
きである。
キ ベバシズマブ知財高裁判決に関する債権者及び補助参加人の主張につい
て
10 債権者及び補助参加人は、ベバシズマブ最高裁判決の原判決であるベバ
シズマブ知財高裁判決の、以下の部分を引用しつつ、存続期間の延長登録
が複数並立している場合に、1つの延長登録に係る特許権の効力が、他の
延長登録の理由となった政令処分の対象とした物と同一の物の生産・譲渡
等に及ぶことは、特許法制上想定されている旨主張する。
15 「なお、政令で定める処分を受けることによって禁止が解除された特許発
明の実施が、先行処分に基づき存続期間が延長された当該特許権の効力が
及ぶ特許発明の実施の範囲に含まれるような場合は、重複して延長の効果
が生じ得ることとなる。後行処分による延長期間が先行処分による延長期
間より長い場合には、これに対応する期間、当該特許権の存続期間が延長
20 されるが、当該期間については、当該特許発明の実施が禁止されていた部
分があることに照らすと、上記のように解することに何ら不合理な点はな
い。」
しかし、上記説示部分が傍論であることをおくとしても、その文脈や射
程が正確に理解されるべきである。
25 まず、上記説示は、先行する政令処分によって存続期間が延長された特
許権の効力範囲が、後行する政令処分の対象とする物と同一の物の生産・
譲渡等に及び得ること、そのように解したとして特段不合理な点はないと
いうことを述べるものである。すなわち、先行する政令処分とこれに基づ
く延長登録の際には、まだ後行の延長登録がされているわけではなく、延
長登録の並列状態及びこれに伴う効力範囲の制約がない中で延長登録がさ
5 れることになるため、後行する政令処分の対象とする物と同一の物の生産・
譲渡等を包含するように効力範囲が及ぶ可能性があるといえる。また、結
果として、後行する政令処分の対象とする物の実施については、観念上、
重複して延長の効果が生じ得ることにはなるが、後行の延長登録による延
長期間は、元々当該物の実施が薬機法上禁止されていた期間に対応するも
10 のにとどまるから、延長登録制度の趣旨、想定を超える期間にわたって実
施権の専有が得られるわけでもない。
しかし、これと逆の方向性、つまり、後行する政令処分によって存続期
間が延長された特許権の効力範囲が、先行する政令処分の対象とする物と
同一の物の生産・譲渡等にまで及び得るかについては、上記説示部分は何
15 ら言及するものではなく、実際上も利害状況が大きく相違する。すなわち、
後行する延長登録の際には、先行する延長登録(少なくとも、その出願)
が存在するのであって、まさに前記エの説示が想定する状況であり、後行
する延長登録によって存続期間が延長された特許権の効力範囲につき、先
行する延長登録との整合性を考慮して解釈しなければ、延長登録制度全体
20 の趣旨を損ねることになるところ、少なくとも、先行する政令処分の対象
とする物と成分、分量、用法、用量、効能及び効果が同一の物の生産・譲
渡等にまで効力は及ばないものと解される。
なお、前記カで引用したとおり、オキサリプラチン知財高裁判決が、延
長登録が複数並列する場合の特許権の効力範囲について、「例えば、本件
25 各処分にみられるような複数の政令処分について、分量が異なる一部の処
分に係る物が実質同一となることはあっても、その全てが互いに実質同一
の範囲に含まれることがないように」とするのも、上記のような一方方向
への片面的な包含関係はあり得ても、双方向に、つまり、「互いに実質同
一の範囲に含まれる」ような効力範囲の解釈は否定されるべきとする趣旨
を含むもので、ベバシズマブ知財高裁判決の上記説示部分に関する当裁判
5 所の理解と同様の趣旨を述べるものと解される。
以上より、1つの延長登録に係る特許権の効力が、他の延長登録の理由
となった政令処分の対象とした物と同一の物の生産・譲渡等に及ぶことは、
特許法制上想定されている旨の債権者及び補助参加人の主張は、特定の文
脈、方向性に関する限りでは誤りではないが、前記エの説示を否定するに
10 足るものではなく、本件の結論を左右するものとはいえない。
ク 債権者提出の意見書等について
債権者は、本件12μg処分を理由として存続期間を延長された本件特
許権1の効力は、債務者製品に及ぶ旨を述べる有識者の意見書(甲A17)
を提出する。しかし、同意見書は、前記ウで説示したオキサリプラチン知
15 財高裁判決の定立した規範のもと、専ら技術的観点からの考察に基づき、
本件12μg処分の対象となった債権者製品12μgと債務者製品との実
質同一性を結論づけているものであるが、延長登録が複数並列している場
合の存続期間が延長された特許権の効力範囲がそのような検討のみで決せ
られないことは前記イないしエで説示したところである。上記意見書の述
20 べるところは、技術的な考察の限りにおいて、当裁判所の見解と特段抵触、
矛盾するものではないが、前提とする法解釈において相違するものであり、
その意味において、当裁判所の採用するところとはいえない。
また、債権者は、自らの法的主張を根拠づけるものとしての学術論文(甲
A16の1~4)も提出するが、その作成者は、債権者代理人弁護士の1
25 人であるところ、その主張について、当裁判所の法解釈と相違ない部分も
あるとはいえ、結論に直結する部分において採用しないことは、既に説示
したところであって、重ねて論じることはしない。
なお、以上の説示を前提としても、先行する政令処分(本件でいえば、
本件24μg処分)を理由とした延長登録をしていない場合に、後行する
政令処分(本件でいえば、本件12μg処分)を理由とする延長登録によ
5 って延長された特許権の効力範囲をどのように解するかという法的問題が
残されている。この点、本件のように、先行する政令処分を理由とした延
長登録をしている場合との均衡を損ねることのないような解釈が検討され
るべきではあるが、本件とは事案を異にするもので、これ以上詳細に検討
することはしない。いずれにしても、そのような法的問題の存在は、本件
10 の事実関係のもとで、存続期間の延長登録制度全体との整合性や権利者と
第三者との衡平の観点から採られた当裁判所の解釈を左右するものではな
く、むしろ、このような解釈も前提に、次の応用的な法的問題として、整
合的な法解釈が検討されるべきものといえる。
ケ 結語
15 以上より、本件延長登録1-2によって存続期間を延長された本件特許
権1の効力は、債務者製品の生産・譲渡等に及ぶものとはいえず、債権者
及び補助参加人の主張は採用できない。
(2) 本件延長登録2-2により存続期間が延長された本件特許権2の効力は債
務者製品の生産・譲渡等に及ぶか
20 債権者及び補助参加人は、本件12μg処分を理由とする本件延長登録2
-2によって延長された本件特許権2の効力が、分量を24μgとする債務
者製品の生産・譲渡等にも及ぶ旨主張する。
しかし、証拠(甲A3の2、甲A4、乙A1)及び審尋の全趣旨によれば、
債務者製品は、先行する本件延長登録2-1の理由とされた本件24μg処
25 分の対象となった債権者製品24μgと成分、分量、用法、用量、効能及び
効果が同一の物であるところ、上記延長登録に係る延長期間は既に終了した
ものである。後行する本件延長登録2-2によって存続期間を延長された本
件特許権2の効力は、その延長登録の理由となった本件12μg処分の対象
である債権者製品12μgと分量のみを異にする医薬品を実質同一の範囲に
含むものとして一定の広がりを有するとまではいえるものの、前記(1)エでの
5 説示に照らせば、債権者製品24μgとの同一性に係る上記一事をもって、
少なくとも、債務者製品は債権者製品12μgと実質同一ではなく、その生
産・譲渡等にまで効力は及ばないというべきである(債務者製品と債権者製
品24μgとの間で、仮に添加剤の違いがあり、これをもって「成分」に一
定の差異があると評価されるのであれば、実質同一をより否定する方向の要
10 素といえる。)。
以上より、債権者及び補助参加人の上記主張は採用できない。
3 結論
以上によれば、その余の争点につき判断するまでもなく、債権者の申立ては
いずれも理由がないから、これらを却下することとして、主文のとおり決定す
15 る。
令和8年2月6日
大阪地方裁判所第21民事部
20 裁判長裁判官 松 川 充 康
裁判官 阿 波 野 右 起
裁判官 西 尾 太 一
( 別 紙)
当事者目録
5 債権者 ヴィアトリス製薬合同会社
同代表者代表社員 アップジョン・グループ・ホールディ
ングス・ビーヴィ
同代表社員職務執行者
同代理人弁護士 大渕 哲也
10 同 城山 康文
同 山内 真之
同 石井 昭仁
同 出野 智之
同 佐々木 公樹
15 同 篠崎 慎一郎
同代理人弁理士 安藤 健司
同補佐人弁理士 坪倉 道明
同補助参加人 スキャンポ ゲゼルシャフト ミット
ベシュレンクテル ハフツング
同代表者取締役
同代理人弁護士 高山 和也
25 同代理人弁理士 田村 啓
同 松谷 道子
同 落合 康
同 玄番 佐奈恵
同 坂田 啓司
同 林 康次郎
5 同 白江 雄介
債務者 沢井製薬株式会社
同代表者代表取締役
同代理人弁護士 小松 栄二郎
10 同 小山 秀
同 中田 健一
(別紙)
債務者製品目録
製品名 ルビプロストンカプセル24μg「サワイ」
(別紙)
特許請求の範囲
1 本件発明1-1(請求項1)
5 下記一般式(II)で示される化合物を含む、哺乳類対象における機能性胃腸疾患
による腹部不快感の処置のための医薬組成物:
【化1】
15 [式中、
Lは、オキソ、Mは、水素またはヒドロキシ;
Aは、-COOHあるいはその塩、エステルあるいはアミド;
Bは、-CH 2 -CH 2 -;
Zは、
20 【化2】
25 または単結合、
ここでR 4 およびR 5 は、水素またはヒドロキシ、ここでR 4 およびR 5 は同時に
ヒドロキシであることはない;
X 1 およびX 2 は、水素またはハロゲン、但しX 1 およびX 2 の少なくとも一方は
ハロゲン:
R 1 は、炭素原子数1~14の直鎖または分岐鎖を有する非置換の飽和または
5 不飽和の二価炭化水素基;
R 2 は、単結合または炭素原子数1~6の直鎖または分岐状の二価飽和炭化水
素基;および、
R 3 は、炭素原子数1~6の直鎖または分岐状の飽和炭化水素基]。
10 2 本件発明1-14(請求項14)
下記一般式(II)で示される化合物を含む、機能性胃腸疾患の処置のための医薬組
成物:
【化3】
[式中、
Lは、オキソ、Mは、水素またはヒドロキシ;
Aは、-COOHあるいはその塩、エステルあるいはアミド;
Bは、-CH 2 -CH 2 -;
25 Zは、
【化4】
または単結合、
ここでR 4 およびR 5 は、水素またはヒドロキシ、ここでR 4 およびR 5 は同時に
ヒドロキシであることはない;
X 1 およびX 2 は、水素またはハロゲン、但しX 1 およびX 2 の少なくとも一方は
10 ハロゲン:
R 1 は、炭素原子数1~14の直鎖または分岐鎖を有する非置換の飽和または
不飽和の二価炭化水素基;
R 2 は、単結合または炭素原子数1~6の直鎖または分岐状の二価飽和炭化水
素基;および、
15 R 3 は、炭素原子数1~6の直鎖または分岐状の飽和炭化水素基]。
3 本件訂正前発明2(請求項1)
一般式(II):
【化1】
25 [式中、Lはオキソ、M はヒドロキシ;
Aは、-COOHまたはその塩、エステルもしくはアミド;
Bは、-CH 2 -CH 2 -;
X 1 およびX 2 は、水素、低級アルキルまたはハロゲンであって、X 1 およびX 2
の少なくとも一方はハロゲンである;
R 1 は、非置換の二価の飽和または不飽和の炭素数1~14の直鎖または分枝
5 鎖を有する脂肪族炭化水素(ただし、側鎖は炭素数1~3のものである);
R 2 は、単結合または低級アルキレン;そして、
R 3 は、低級アルキル]
で示される13,14-ジヒドロ-15-ケト-16-モノ-またはジ-ハロゲ
ン-プロスタグランジンE化合物を有効成分として含む、オピオイド化合物また
10 は抗コリン作用薬による薬物誘発性便秘処置用組成物。
4 本件訂正後発明2(請求項4)
一般式(II):
【化1】
20 [式中、Lはオキソ、M はヒドロキシ;
Aは、-COOHまたはその塩、エステルもしくはアミド;
Bは、-CH 2 -CH 2 -;
X 1 およびX 2 は、水素、低級アルキルまたはハロゲンであって、X 1 およびX 2
の少なくとも一方はハロゲンである;
25 R 1 は、非置換の二価の飽和または不飽和の炭素数1~14の直鎖または分枝
鎖を有する脂肪族炭化水素(ただし、側鎖は炭素数1~3のものである);
R 2 は、単結合または低級アルキレン;そして、
R 3 は、低級アルキル]
で示される13,14-ジヒドロ-15-ケト-16-モノ-またはジ-ハロゲ
ン-プロスタグランジンE化合物を有効成分として含む、オピオイド化合物また
5 は抗コリン作用薬による薬物誘発性便秘処置用組成物であって、
13,14-ジヒドロ-15-ケト-16-モノ-またはジ-ハロゲン-プロ
スタグランジンE化合物が13,14-ジヒドロ-15-ケト-16,16-ジ
フルオロ-プロスタグランジンE 1 である組成物。
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