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令和7(ワ)10786等特許権侵害差止請求事件

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裁判所 請求棄却 大阪地方裁判所
裁判年月日 令和8年3月3日
事件種別 民事
対象物 腹部不快感の処置のためのプロスタグランジン誘導体
法令 特許権
特許法2条3項3回
特許法68条の21回
特許法100条1項1回
キーワード 特許権127回
実施50回
無効31回
差止8回
審決8回
無効審判7回
抵触3回
侵害3回
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とし、参加によって生じた費用は原告補助参加人の負
事件の概要 ・ 本件特許1:発明の名称を「腹部不快感の処置のためのプロスタグランジン 誘導体」とする特許(特許第4889219号) ・ 本件特許2:発明の名称を「15-ケト-プロスタグランジン類を含む薬物 誘発性便秘処置用組成物」とする特許(特許第4332353 号)(本件特許1と併せて「本件各特許」) ・ 本件特許権1、同2:本件特許1、同2に係る特許権(これらの総称は「本 件各特許権」) ・ 本件専用実施権1、同2:本件特許権1、同2に係る専用実施権(これらの 総称は「本件各専用実施権」) ・ 本件発明1-1:本件特許1の【特許請求の範囲】【請求項1】に係る発明 ・ 本件発明1-14:本件特許1の【特許請求の範囲】【請求項14】に係る 発明(本件発明1-1と併せて「本件各発明1」) ・ 本件訂正前発明2:本件特許2の訂正前の【特許請求の範囲】【請求項1】 に係る発明 ・ 本件訂正後発明2:本件特許2の訂正後の【特許請求の範囲】【請求項4】

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判決文

令和8年3月3日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
令和7年(ワ)第10786号、同第10790号 特許権侵害差止請求事件
口頭弁論終結日 令和8年2月4日
判 決
5 当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり
主 文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とし、参加によって生じた費用は原告補助参加人の負
担とする。
10 事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 被告は、別紙被告製品目録記載の製品を生産し、譲渡し、譲渡の申出をし、
又は輸入してはならない。
2 被告は、別紙被告製品目録記載の製品を廃棄せよ。
15 3 被告は、別紙被告製品目録記載の製品について薬価基準収載を求める申請を
してはならない。
第2 本判決における略称
・ 本件特許1:発明の名称を「腹部不快感の処置のためのプロスタグランジン
誘導体」とする特許(特許第4889219号)
20 ・ 本件特許2:発明の名称を「15-ケト-プロスタグランジン類を含む薬物
誘発性便秘処置用組成物」とする特許(特許第4332353
号)(本件特許1と併せて「本件各特許」)
・ 本件特許権1、同2:本件特許1、同2に係る特許権(これらの総称は「本
件各特許権」)
25 ・ 本件専用実施権1、同2:本件特許権1、同2に係る専用実施権(これらの
総称は「本件各専用実施権」)
・ 本件発明1-1:本件特許1の【特許請求の範囲】【請求項1】に係る発明
・ 本件発明1-14:本件特許1の【特許請求の範囲】【請求項14】に係る
発明(本件発明1-1と併せて「本件各発明1」)
・ 本件訂正前発明2:本件特許2の訂正前の【特許請求の範囲】【請求項1】
5 に係る発明
・ 本件訂正後発明2:本件特許2の訂正後の【特許請求の範囲】【請求項4】
に係る発明(本件訂正前発明2と併せて「本件各発明2」)
・ 原告製品24μg、同12μg:原告が製造・販売する医薬品であるアミテ
ィーザカプセル24μg、同12μg
10 ・ 被告製品:別紙「被告製品目録」記載の製品
・ 本件延長登録1-1:平成25年1月30日に登録された本件特許権1の存
続期間の延長登録(延長の期間:6月6日)
・ 本件延長登録1-2:令和元年10月16日に登録された本件特許権1の存
続期間の延長登録(延長の期間:5年)
15 ・ 本件延長登録2-1:平成25年12月4日に登録された本件特許権2の存
続期間の延長登録(延長の期間:3年2日)
・ 本件延長登録2-2:令和元年10月23日に登録された本件特許権2の存
続期間の延長登録(延長の期間:5年)
・ 薬機法:医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法
20 律(平成25年法律第84号による改正前の題名は、薬事法)
・ 政令処分:特許法67条4項(平成28年法律第108号による改正前の特
許法67条2項)の政令で定める処分
・ 本件24μg処分:原告製品24μgを対象の物とする政令処分
・ 本件12μg処分:原告製品12μgを対象の物とする政令処分
25 ・ ベバシズマブ最高裁判決:最高裁判所平成27年11月17日第三小法廷判
決・民集69巻7号1912頁
・ ベバシズマブ知財高裁判決:知的財産高等裁判所平成25年(行ケ)第10
195号同26年5月30日特別部判決
・ オキサリプラチン知財高裁判決:知的財産高等裁判所平成29年1月20日
特別部判決
5 ・ 補助参加人:原告補助参加人
第3 事案の概要
本件は、補助参加人から本件各特許権につき本件各専用実施権の設定を受け
た原告が、被告製品は本件各発明1及び同2の技術的範囲に属し、かつ、存続
期間の延長登録を受けた本件各特許権の効力(ひいては本件各専用実施権の効
10 力)は、被告による被告製品の生産・譲渡等に及ぶとして、被告に対し、特許
法100条1項及び2項に基づき、①被告製品の生産・譲渡等の差止め、②被
告製品の廃棄、③被告製品についての薬価基準収載申請の差止めを求める事案
である。
1 前提事実(争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に
15 認められる事実)
(1) 当事者等
ア(ア) 原告は、医薬品等の製造、販売、輸出及び輸入を主たる事業とする合
同会社であり、補助参加人から、令和6年4月4日から存続期間満了ま
で(延長登録期間を含む。)を対象期間として、その保有に係る本件各
20 特許権につき専用実施権(本件各専用実施権)の設定を受けた(甲A7、
B7)。
(イ) 原告は、有効成分をルビプロストンとする医薬品である原告製品24
μg及び同12μgを製造・販売している。原告製品24μgについて
は、平成24年6月29日に製造販売承認がされており(本件24μg
25 処分)、原告製品12μgについては、平成30年9月21日に製造販
売承認がされている(本件12μg処分)。なお、原告製品12μgは、
原告製品24μgの製造販売承認審査に係る 国内長期投与試験におい
て、患者に減量・休薬等の処置が行われた例が相当数生じ、医薬品医療
機器総合機構側から低用量製剤の開発について検討していく必要がある
旨の意見が出されたことを受けて、開発に至ったものである。(甲A5
5 0、87、丙A19、20)
イ 被告は、医薬品の製造・販売及び輸出入、健康食品の製造・販売を主た
る事業とする株式会社である。
(2) 本件特許権1及びその延長登録並びに無効審判請求
ア 本件特許権1の書誌的事項は、次のとおりである(甲A7)。
10 (ア) 登録番号 特許第4889219号
(イ) 出願日 平成15年12月26日
(ウ) 登録日 平成23年12月22日
(エ) 発明の名称 腹部不快感の処置のためのプロスタグランジン誘導体
イ 補助参加人は、次のとおり、本件特許権1の存続期間の延長登録の出願
15 をし、その登録を受けた(甲A7)。
(ア) 本件延長登録1-1
a 出願日 平成24年9月26日
b 延長の期間 6月6日(令和6年7月2日まで)
c 延長登録日 平成25年1月30日
20 d 政令処分の内容
(a) 特許権の存続期間の延長登録の理由となる処分
薬事法14条1項に規定する医薬品に係る同項の承認(本件24
μg処分)
(b) 処分を特定する番号
25 承認番号 22400AMX00733000
(c) 処分の対象となった物
販売名:アミティーザカプセル24μg(原告製品24μg)
有効成分:ルビプロストン
(d) 処分の対象となった物について特定された用途
慢性便秘症(器質的疾患による便秘を除く)
5 (イ) 本件延長登録1-2
a 出願日 平成30年12月20日
b 延長の期間 5年(令和10年12月26日まで)
c 延長登録日 令和元年10月16日
d 政令処分の内容
10 (a) 特許権の存続期間の延長登録の理由となる処分
薬機法14条1項に規定する医薬品に係る同項の承認(本件12
μg処分)
(b) 処分を特定する番号
承認番号 23000AMX00816000
15 (c) 処分の対象となった物
販売名:アミティーザカプセル12μg(原告製品12μg)
一般名:ルビプロストン
(d) 処分の対象となった物について特定された用途
慢性便秘症(器質的疾患による便秘を除く)
20 ウ 被告は、令和6年4月3日、特許庁に対し、本件延長登録1-2に無効
理由があるとして、延長登録無効審判請求をした(無効2024-800
052号)(甲A7)。
(3) 本件特許権2及びその延長登録並びに無効審判請求
ア 本件特許権2の書誌的事項は、次のとおりである(甲B7)。
25 (ア) 登録番号 特許第4332353号
(イ) 出願日 平成14年4月26日
(ウ) 登録日 平成21年6月26日
(エ) 発明の名称 15-ケト-プロスタグランジン類を含む薬物誘発性
便秘処置用組成物
イ 補助参加人は、次のとおり、本件特許権2の存続期間の延長登録の出願
5 をし、その登録を受けた(甲B7)。
(ア) 本件延長登録2-1
a 出願日 平成24年9月26日
b 延長の期間 3年2日(令和7年4月28日まで)
c 延長登録日 平成25年12月4日
10 d 政令処分の内容
前記(2)イ(ア)dと同じ
(イ) 本件延長登録2-2
a 出願日 平成30年12月20日
b 延長の期間 5年(令和9年4月26日まで)
15 c 延長登録日 令和元年10月23日
d 政令処分の内容
前記(2)イ(イ)dと同じ
ウ(ア) 被告は、令和5年12月9日、特許庁に対し、本件特許2に無効理由
があるとして、特許無効審判請求をした(無効2023-800077
20 号)(甲B7)。
補助参加人は、上記審判において、本件特許2の特許請求の範囲(請
求項1ないし8)につき訂正請求をした。
特許庁は、令和7年4月22日付けで、上記訂正を認めた上で(本件
訂正後発明2は、かかる訂正によるものである。)、上記無効審判請求
25 が成り立たない旨(及び訂正により削除された請求項2及び3について
の審判請求を却下する旨)の審決をした(甲B9)。
上記審決については、被告が提起した審決取消請求訴訟が知的財産高
等裁判所に係属中であり、上記審決は確定していない。
(イ) 被告は、令和5年9月28日、特許庁に対し、本件延長登録2-1及
び2-2に無効理由があるとして、それぞれ延長登録無効審判請求をし
5 た(無効2023-800062号、無効2023-800063号)
(甲B7)。
特許庁は、令和7年6月4日付けで、上記各無効審判請求が成り立た
ない旨の各審決をした(甲B23、24)。
上記各審決については、口頭弁論終結時において、被告が提起した審
10 決取消請求訴訟が知的財産高等裁判所に係属中であり、上記各審決は確
定していない。
(4) 本件各発明1の特許請求の範囲と構成要件の分説
ア 本件発明1-1
本件特許1に係る本件発明1-1の特許請求の範囲(請求項1)の記載
15 は、別紙「特許請求の範囲」記載1のとおりであるところ(このうち「下
記一般式(II)」は、以下、(4)の項においては単に「一般式(II)」として内
容を省略する。)、同発明の構成要件は、次のとおり分説される。
1-1A:一般式(II)で示される化合物を含む、
1-1B:哺乳類対象における機能性胃腸疾患による腹部不快感の処置の
20 ための
1-1C:医薬組成物
イ 本件発明1-14
本件特許1に係る本件発明1-14の特許請求の範囲(請求項14)の
記載は、別紙「特許請求の範囲」記載2のとおりであるところ、同発明の
25 構成要件は、次のとおり分説される(本件発明1-1と同内容の構成要件
については同一符号を用いる。)。
1-1A :一般式(II)で示される化合物を含む、
1-14B:機能性胃腸疾患の処置のための
1-1C :医薬組成物
(5) 本件各発明2の特許請求の範囲と構成要件の分説
5 ア 本件訂正前発明2
本件特許2に係る本件訂正前発明2の特許請求の範囲(請求項1)の記
載は、別紙「特許請求の範囲」記載3のとおりであるところ(このうち「一
般式(II)」は、以下、(5)の項においては単に「一般式(II)」として内容を
省略する。)、同発明の構成要件は、次のとおり分説される。
10 2-1A:一般式(II)で示される13,14-ジヒドロ-15-ケト-1
6-モノ-またはジ-ハロゲン-プロスタグランジンE化合物
を有効成分として含む
2-1B:オピオイド化合物または抗コリン作用薬による薬物誘発性便秘
処置用
15 2-1C:組成物
イ 本件訂正後発明2
本件特許2に係る本件訂正後発明2の特許請求の範囲(請求項4)の記
載は、別紙「特許請求の範囲」記載4のとおりであるところ、同発明の構
成要件は、便宜順序を入れ替えて次のとおり分説される(本件訂正前発明
20 2と同内容の構成要件については同一符号を用いる。)。
2-1A:一般式(II)で示される13,14-ジヒドロ-15-ケト-1
6-モノ-またはジ-ハロゲン-プロスタグランジンE化合物
を有効成分として含み
2-4A:13,14-ジヒドロ-15-ケト-16-モノ-またはジ-
25 ハロゲン-プロスタグランジンE化合物が、13,14-ジヒ
ドロ-15-ケト-16,16-ジフルオロ-プロスタグラン
ジンE1である
2-1B:オピオイド化合物または抗コリン作用薬による薬物誘発性便秘
処置用
2-1C:組成物
5 (6) 被告の行為及び被告製品の構成
ア 被告の行為
被告は、令和5年2月24日、厚生労働省に対し、原告製品24μgの
後発医薬品として、被告製品についての製造販売承認申請をした(同月2
7日受付)。なお、後発医薬品は、毎年2月と8月に製造販売承認の機会
10 があるところ、被告製品は、令和7年8月には製造販売承認がされなかっ
たが、令和8年2月に製造販売承認がされた場合は、同年6月の薬価基準
収載が見込まれる。(甲A9の1・2、弁論の全趣旨)
イ 被告製品の構成
被告製品の構成は、以下のとおりであるところ、被告製品の構成a及び
15 cは、本件各発明1のうち構成要件1-1A及び1-1C、本件各発明2
のうち構成要件2-1A、2-4A及び2-1Cをそれぞれ充足するが、
その余の構成要件充足性(被告製品の構成bが、本件各発明1のうち構成
要件1-1B及び1-14B、本件各発明2のうち構成要件2-1Bをそ
れぞれ充足するか)につき争いがある。
20 a 有効成分としてルビプロストンを含有する
b 慢性便秘症(器質的疾患による便秘を除く)の改善を用途とする
c 医薬組成物
(7) 本訴提起及び仮処分申立て並びにこれら事件の進行
ア 原告は、令和7年10月10日、本件訴訟(10786号事件及び10
25 790号事件、後に弁論併合)を提起するとともに、これらの各請求とそ
れぞれ同内容の仮の処分を求める保全事件の申立て(後に併合)をした。
イ 本件訴訟においては、令和7年10月31日の進行協議期日で、上記保
全事件と併せて手続進行の協議を行った結果、前記(6)アの状況を踏まえて、
保全事件については、遅くとも令和8年5月までに決定をし、その前提と
して、遅くとも同年3月までに当事者双方の主張及び疎明を尽くすこと、
5 本件訴訟についても、遅くとも同月までに弁論を終結の上で、保全事件と
同時に判決をすることも念頭において進行することが確認されるとともに、
令和7年12月12日までに被告として必要な主張・立証はおおむね尽く
す予定(訴状においては、想定される被告の反論を踏まえた原告の主張も
既にされていた。)とされた。被告が同日までに予定どおり包括的な反論
10 の準備書面等を提出した後、同月18日の進行協議期日では、令和8年1
月30日までに原告及び補助参加人が反論するとされるとともに、受命裁
判官において、当事者双方との協議を踏まえた上で、前回期日で確認した
進行を前提にすると、最も期日を重ねる場合でも、次回期日の後は2期日
であり、被告の反論の機会は残り1回、原告の再反論の機会は、次回期日
15 を除くと、特許延長登録の無効関係に限定して短期間での1回となること
を告げた。その上で、受命裁判官は、今回の被告の反論をもって、双方の
立場は明瞭になったと理解するので、本件の審理(保全事件を含む。)を
どのように尽くし、判決ないし決定をするかについて、より具体的なとこ
ろを、裁判所として詰めた合議を行い、次回期日に臨むこととすると告げ
20 て、同年2月4日に第1回口頭弁論期日を指定した。
そして、原告及び補助参加人が予定どおり同年1月30日に網羅的な反
論の準備書面等を提出した後、同年2月4日に行われた第1回口頭弁論期
日において、当裁判所は、存続期間が延長された特許権の効力範囲につい
て、原告及び補助参加人にとって最終機会となる上記主張(反論)を踏ま
25 えても、被告製品が、延長登録の理由となった政令処分の対象となった物
と実質同一で、上記特許権の効力範囲に含まれるとの原告及び補助参加人
の主張は採用できないとの心証に至ったものであり、したがって、同主張
に対する被告の反論の機会を設けるまでもなく、本件訴訟は裁判をするの
に熟したものと認め、その旨を各当事者に告げた上で、弁論を終結した(保
全事件についても数日内に決定する旨を告げ、同年2月6日に却下決定を
5 した。同決定は、当事者の主張欄を民事保全規則9条4項に基づく引用の
形式としたもので、裁判所の判断欄は、争点1について若干の差異がある
ことを除き、本判決と同じ内容となっている。)。
2 争点
(1) 被告製品は本件各発明1及び同2の技術的範囲に属するか(争点1)
10 (2) 本件延長登録1-2及び同2-2により存続期間が延長された本件特許権
1及び同2の効力は被告製品の生産・譲渡等に及ぶか(争点2)
(3) 本件延長登録1-2及び同2-2に無効理由があるか(争点3)
(4) 差止め等の必要性(争点4)
第4 争点に関する当事者の主張
15 1 争点1(被告製品は本件各発明1及び同2の技術的範囲に属するか)につい

【原告の主張】
(1) 本件各発明1の構成要件1-1B及び1-14Bについて
ア(ア) 構成要件1-14Bの「機能性胃腸疾患」には、「慢性便秘症(器質
20 的疾患による便秘を除く)」が含まれる。一例として挙げれば、「機能
性胃腸疾患」及び「慢性便秘症(器質的疾患による便秘を除く)」のい
ずれにもIBS-C(便秘型過敏性腸症候群)が含まれる(甲11の1)。
また、医薬品は承認された適応症の全体に対して有効なものとして販売
されるものであり、実際に臨床現場において、アミティーザカプセルは、
25 IBS-Cの処置に用いられている(甲11の1)。
したがって、被告製品の構成bは構成要件1-14Bを充足する。
(イ) さらに、構成要件1-1Bの「機能性胃腸疾患による腹部不快感」に
も、「慢性便秘症(器質的疾患による便秘を除く)」が含まれる。本件
特許1に係る明細書の段落【0003】には「我々の日常生活において
は腹部不定愁訴または腹部不快感は非常によく経験され、これは例えば、
5 …便秘…を含む。」との記載、同【0004】には「機能性胃腸疾患を
患う患者はしばしば腹部不快感を訴える。」との記載があることなどか
らすれば、「機能性胃腸疾患」において「腹部不快感」を伴う場合(例
えば便秘)の処置は構成要件1-1Bに該当することになり、そのよう
な場合である「便秘」には「慢性便秘症(器質的疾患による便秘を除く)」
10 が含まれる。
したがって、被告製品の構成bは構成要件1-1Bを充足する。
イ 被告は、これら構成要件の充足性について、用途発明の実施におけるい
わゆる専ら論やラベル論を根拠に否定するが、乙A18の東京地裁決定を
曲解するものであるほかラベルは用途発明の充足判断に当たっての1つの
15 考慮要素にすぎない。そして、被告製品が、その効能・効果として掲げる
「慢性便秘症(器質的疾患による便秘を除く)」の治療に用いられる場合
には、後方視的に確認するとその患者群の中に結果として「機能性胃腸疾
患」患者が一定数含まれるというだけでなく、「機能性胃腸疾患」の処置
を目的として被告製品が使用されることが、必然的に発生するのであって、
20 このことを前提に被告製品は製造販売されるものであるから、被告製品が
「機能性胃腸疾患の処置」に用いる物として製造販売されるものであるこ
とは明らかで、被告の主張は理由がない。
また、被告は、出願経過を見ると特許請求の範囲から「便秘の処置」を
意識的に除外して特許査定を受けていたものであると主張するが、被告の
25 摘示する意見書(乙A25、特許庁の特許審査過程における拒絶理由通知
書に対するもの。)の記載は、引用文献の発明が分類の不特定な便秘一般
に対するものを開示するのに対し、本件発明1―1の医薬用途は機能性胃
腸疾患によるものであることが特定された腹部不快感(例えばIBSによ
る慢性便秘)である点で相違し、容易想到でもない旨反論したにすぎず、
特許請求の範囲から「便秘の処置」が意識的に除外されたとは解されない。
5 (2) 本件各発明2の構成要件2-1Bについて
本件各発明2の用途である構成要件2-1Bに係る「オピオイド化合物ま
たは抗コリン作用薬による薬物誘発性便秘」とは、薬剤性便秘の一種であり、
これは慢性便秘に分類される(甲12)。
したがって、本件訂正前発明2の用途は、「慢性便秘症(器質的疾患によ
10 る便秘を除く)」という被告製品の用途に含まれるから、被告製品の構成b
は、構成要件2-1Bを充足する。
被告が主張する専ら論及びラベル論に理由がないことは前記のとおりであ
るし、被告製品が、その効能・効果として掲げる「慢性便秘症(器質的疾患
による便秘を除く)」の治療に用いられる場合には、後方視的に確認すると
15 その患者群の中に結果として「薬物誘発性便秘」患者が一定数含まれるとい
うだけでなく、「薬物誘発性便秘」の処置を目的として被告製品が使用され
ることが、必然的に発生するのであり、このことを前提に被告製品は製造販
売されるもので、とりわけ被告製品の添付文書案には、オピオイド誘発性便
秘症患者に対するルビプロストンカプセルの有効性が記載されている。した
20 がって、被告製品が「薬物誘発性便宜処置用」に用いる物として製造販売さ
れるものであることは明らかである。
【補助参加人の主張】
(1) 本件各発明1の構成要件1-1B及び1-14Bについて
被告は、いわゆるラベル論の主張をするところ、本件特許1に係る明細書
25 には、便秘型IBSの処置が典型例として記載されている一方、被告製品の
添付文書案には効能・効果として「慢性便秘症(器質的疾患による便秘を除
く)」と記載されているが、これは便秘の鑑別診断に関する医学的知見に照
らせば、事実上、便秘型IBS(過敏性胃腸症候群)への処方を示すラベル
として機能しているといえる。また、原告製品24μgのインタビューフォ
ームには便秘型IBSへのルビプロストンの処方が明示的に記載され、添付
5 文書の効能・効果とともに便秘型IBSへの処方を示すラベルとして機能し
ていたところ、被告製品は原告製品24μgの後発医薬品として、同一の用
法、用量、効能、効果について製造販売が認められたものであるから、同様
に便秘型IBSに処方することを目的の一つとして製造販売されるものであ
ることは明らかである。
10 また、本件特許1の出願経過において、拒絶理由通知に対する意見として、
分類が不特定な便秘一般と機能性胃腸疾患(例えばIBS)によるものであ
ることが特定された腹部不快感(例えば慢性便秘)が異なることを指摘した
にとどまるのであって、医薬用途から機能性胃腸疾患による便秘の処置が意
識的に除外されたなどということはない。
15 したがって、被告製品は本件各発明1の技術的範囲に属する。
(2) 本件各発明2の構成要件2-1Bについて
被告製品の添付文書案には、効能・効果として「慢性便秘症(器質的疾患
による便秘を除く。)」と記載されているが、これは鑑別診断に関する医学
的知見に照らせば、薬物性便秘(薬物誘発性便秘)への処方が実質的に記載、
20 ラベルされているといえる。また、被告製品の添付文書案には、オピオイド
で誘発された便秘に対してルビプロストンが優れた薬効を持つことを示す臨
床試験結果が記載されており、本件各発明2において特定された用途である
「オピオイド化合物による薬物誘発性便秘処置用」に被告製品を用いること
を示す具体的な記載、ラベルがある。このように、いわゆるラベル論の観点
25 に照らしても、被告製品が本件各発明2の技術的範囲に属することは明らか
である。
【被告の主張】
(1) 本件各発明1の構成要件1-1B及び1-14Bについて
本件発明1-1は、「機能性胃腸疾患による腹部不快感の処置のための医
薬組成物」という用途に係る用途発明であり、本件発明1-14は、「機能
5 性胃腸疾患の処置のための医薬組成物」という用途に係る用途発明である。
そして、用途発明についての特許法2条3項にいう「実施」とは、専ら新規
な用途に使用するために既知の物質を生産、使用、譲渡等をする行為をいう
ものと解するのが相当である(乙A18の東京地裁決定参照)。
また、対象の医薬品の用途をいかに判断すべきかについては、一般に、特
10 定の用途に使用する物であることを明記したラベル等を付して譲渡等をする
場合に当該ラベルの表示内容に従って「用途」を判断すべきである。
こうしたいわゆる専ら論やラベル論に基づいて検討すると、本件各発明1
における特許法2条3項にいう「実施」とは、専ら「機能性胃腸疾患による
腹部不快感の処置」ないし「機能性胃腸疾患の処置」用として、プロスタグ
15 ランジン化合物を生産、使用、譲渡等をする行為をいうものと解するべきで
ある一方、被告製品は、添付文書案の効能・効果として、「慢性便秘症(器
質的疾患による便秘を除く)」に用いられる旨の記載があるにとどまり、専
ら「機能性胃腸疾患による腹部不快感の処置」ないし「機能性胃腸疾患の処
置」に用いるべき旨の記載、ラベルは一切存在しない。
20 また、特許出願人は、本件特許発明の出願経過(拒絶理由通知書に対する
意見書、乙A25)において、「便秘と腹部不快感は別の概念」「『便秘の
処置』と『機能性胃腸疾患による腹部不快感の処置』並びに『機能性胃腸疾
患の処置』は異なる医薬用途」などと主張して特許査定を受けたのであるか
ら、出願当時の特許請求の範囲から、「便秘の処置」を意識的に除外したも
25 のといえる。
以上のことからすると、被告製品は、本件各発明1の技術的範囲に属さな
い。
(2) 本件各発明2の構成要件2-1Bについて
本件訂正前発明2は、「オピオイド化合物または抗コリン作用薬による薬
物誘発性便秘処置用」という用途に係る用途発明である。本件訂正後発明2
5 は、上記化合物をさらに構成要件2-4Aで規定するプロスタグランジンE
₁化合物に限定するものである。そして、前記(1)で述べたのと同様に、本件
訂正前発明2における特許法2条3項にいう「実施」とは、専ら「薬物誘発
性便秘処置用」として、プロスタグランジン化合物を生産、使用、譲渡等を
する行為をいうものと解するべきである。
10 この点、被告製品は、添付文書案の効能・効果として、「慢性便秘症(器
質的疾患による便秘を除く)」に用いられる旨の記載があるにとどまるとこ
ろ、慢性便秘に含まれる機能性便秘、IBS便秘、薬剤性便秘などがそれぞ
れ異なる用途として分類されていることなども踏まえると、専ら「薬物誘発
性便秘の処置」に用いるべき旨の記載、ラベルは一切存在しないといえる。
15 したがって、被告製品は、本件各発明2の技術的範囲に属さない。
2 争点2(本件延長登録1-2及び同2-2により存続期間が延長された本件
特許権1及び同2の効力は被告製品の生産・譲渡等に及ぶか)について
【原告の主張】
(1) オキサリプラチン知財高裁判決は、存続期間が延長された特許権に係る特
20 許発明の効力は、政令処分で定められた「成分、分量、用法、用量、効能及
び効果」によって特定された「物」(医薬品)のみならず、これと医薬品と
して実質同一なものにも及ぶというべきであるとし、政令処分で定められた
上記構成中に対象製品と異なる部分が存する場合であっても、当該部分が僅
かな差異又は全体的にみて形式的な差異にすぎないときは、対象製品は、医
25 薬品として政令処分の対象となった物と実質同一なものに含まれ、存続期間
が延長された特許権の効力の及ぶ範囲に属するものと解するのが相当である
とした。そして、医薬品の成分を対象とする物の特許発明において、政令処
分で定められた「成分」に関する差異、「分量」の数量的差異又は「用法、
用量」の数量的差異のいずれか一つないし複数があり、他の差異が存在しな
い場合に限定してみれば、僅かな差異又は全体的にみて形式的な差異かどう
5 かは、特許発明の内容(当該特許発明が、医薬品の有効成分のみを特徴とす
る発明であるのか、医薬品の有効成分の存在を前提として、その安定性ない
し剤型等に関する発明であるのか、あるいは、その技術的特徴及び作用効果
はどのような内容であるのかなどを含む。)に基づき、その内容との関連で、
政令処分において定められた「成分、分量、用法、用量、効能及び効果」に
10 よって特定された「物」と対象製品との技術的特徴及び作用効果の同一性を
比較検討して、当業者の技術常識を踏まえて判断すべきであるとした。また、
対象製品が実質同一なものに含まれる類型として4類型を挙げ、類型④とし
て、政令処分で特定された「分量」は異なるけれども、「用法、用量」も併
せてみれば、同一であると認められる場合を挙げた。
15 この裁判例に従って検討するに、原告製品12μgと被告製品についてみ
れば、「分量」の数量的差異があり、「成分、用法、用量、効能及び効果」に
ついては差異が存在しない。そうすると、上記のとおり、本件各特許の内容
との関連において、政令処分において定められた「成分、分量、用法、用量、
効能及び効果」によって特定された原告製品12μgと被告製品の技術的特
20 徴及び作用効果の同一性を比較検討することにより、実質同一な医薬品とし
て被告製品が延長後の本件特許権1の効力範囲に含まれるかを検討すること
になる。
本件特許1は有効成分及びその用途(機能性胃腸疾患又はこれによる腹部
不快感の処置用)にのみ特徴を持つ医薬発明であり、本件特許2は有効成分
25 及びその用途(薬物誘発性便秘処置用)にのみ特徴を持つ医薬発明である。
そして、原告製品12μgと被告製品とは、有効成分がルビプロストンで同
一であり、争点1について主張したとおり、用途においても「慢性便秘症(器
質的疾患による便秘を除く)」で同一である以上、技術的特徴において同一
であるし、作用効果も同一である。
そうすると、被告製品は、類型④に該当するものとして原告製品12μg
5 と実質同一といえる。臨床現場における相互互換性の観点等からも、原告製
品12μgに基づいて延長された特許にかかる発明の効力が被告製品に及ぶ、
との結論が支持される。
(2)ア 被告の主張は、全体として、延長登録の要件と延長特許権の効力範囲(実
質同一範囲)を連動させる、すなわち、処分によって「禁止が解除される
10 特許発明の実施の範囲」と「延長特許権の効力範囲」が一致すると考える
立場に依拠していると解されるが、このような連動論の考え方は、オキサ
リプラチン知財高裁判決等において明確に否定されており、実務的にも、
このような考え方が採られないことについて決着している。
イ 被告は、被告製品が、オキサリプラチン知財高裁判決の例示する実質同
15 一の4類型のいずれにも該当せず、特に類型④に該当しないとして、原告
製品12μgの製造販売承認に基づいて延長された特許権の効力範囲に被
告製品は含まれないと主張する。
この点、上記4類型は実質同一が認められる場合の例示にすぎないもの
であるが、その点を措くとしても、被告製品が類型④(「④政令処分で特
20 定された『分量』は異なるけれども、『用法、用量』も併せてみれば、同
一であると認められる場合」)に該当することは明らかである。
また、被告は、被告製品と原告製品12μgは用いられる治療場面が全
く異なるとも主張するが、臨床現場における実態に反する誤った事実主張
であるし、そもそも、治療場面の同一性は、類型④の考慮要素として挙げ
25 られているものではない。
ウ 被告は、後行処分である原告製品12μgの承認に基づく延長登録の効
力が被告製品に及ぶとすれば、先行処分である原告製品24μgに基づく
延長登録の効力がその後の原告製品12μgの承認に基づいて実質的にさ
らに延長されるとして、その結論が不当である旨主張するが、そのような
事態はベバシズマブ知財高裁判決なども想定、許容している。また、延長
5 期間は5年を超えることはない以上、このことをもって、特許権者以外の
者との利益調整は済んでいる一方、後行処分に基づく延長を認めないこと
には、原告製品12μgの実施期間の回復が図られないのであるから、原
告製品12μgについての延長登録が認められる点にも、当該延長特許権
の効力が含量違い製剤に及ぶことにも、不合理な点はない。
10 エ なお、「原告製品24μgに基づく延長登録期間の満了後には、原告製
品24μg固有の権利が消滅していることから、原告製品12μgについ
ての延長特許権の効力が被告製品に及ばない」との考え方は成り立たない。
このことは、原告製品24μgについて延長登録出願がされず、原告製品
12μgについてのみ延長登録出願がされた場合の帰結との均衡を考えれ
15 ば明らかである。
【補助参加人の主張】
(1) オキサリプラチン知財高裁判決における「分量」の扱いとしては、特許発
明の技術的特徴や作用効果に「分量」が影響を与える例外的な場合を除き、
「分量」のみの違いは延長された特許権の効力を制限しないものと解するこ
20 とができる。そして、本件各特許における発明の技術的特徴や作用効果に「分
量」が影響しないことは明らかであるから、その帰結として、後行医薬品(原
告製品12μg)に対する政令処分に基づいて延長登録が認められている場
合、その延長に係る本件各特許権の効力は、上記医薬品と分量違いである被
告製品が実質同一であるとして、その製造販売にも及ぶものといえる。「分
25 量」のみが異なり、「成分、用法、用量、効能、効果」が同一である医薬品同
士は、多くの場合、一回あたりに服用するカプセルや錠剤の数を変えるだけ
で簡単に相互置換できるため、後行処分に基づく特許権の延長登録の意義が
阻却されないようにするためにも、このような解釈が妥当である。
一方、後発医薬品の製造販売業者は、先行処分に基づいて延長された存続
期間が満了しているにも関わらず、先行処分と同一分量の後発医薬品の製造
5 販売が後行処分の延長登録によって禁止されることになるが、特許権者と第
三者の衡平の観点から、特許法は延長登録の期間に5年という上限を設けて
いるので、後行処分を受けるために特許権者が特許発明を実施できなかった
期間が5年を遥かに越えていたとしても、通常の存続期間満了から5年後に
は後発医薬品の製造販売が許容されることになり、それによって特許権者と
10 第三者の利益・不利益のバランスが制度上図られているから、不合理とはい
えない。また、先行処分に基づいて延長された存続期間が満了したとしても、
分量のみが異なる後行処分に基づいて延長された存続期間がまだ続いている
場合は、その効力範囲に入ることを第三者は予期すべきであり、上記のよう
に解しても、第三者にとっての不意打ちや、その期待権の保護に反するとい
15 うこともない。ベバシズマブ知財高裁判決なども、このような事態を想定、
許容するものといえる。
この点、先行処分に基づく延長登録による存続期間が満了した場合、それ
と同一分量の後発医薬品については、オキサリプラチン知財高裁判決の類型
④の例外とすべきとの考え方もあるかもしれないが、そのような考え方をと
20 ると、分量違いの先行処分と後行処分がある場合、先行処分に基づく延長登
録を出願したときに、それをしなかったときに比べてかえって特許権の効力
範囲が狭くなり、不合理な結果を招くこととなって、妥当ではない。
(2) 被告は、被告製品の添付文書案に記載された用法・用量と、原告製品12
μgの承認審査で認められた用法・用量がいずれも同一であることは争って
25 いない。また、本件特許権は、いずれも医薬組成物(本件特許1)または薬
物誘発性便秘処置用組成物(本件特許2)という「物」の発明であり、その
効力範囲が問題となるのは、医師による使用の場面というよりは、被告製品
のような医薬品の製造販売の場面である。製造販売の対象たる「物」(医薬
品)を特定しているのは添付文書等であるから、被告製品の添付文書に記載
された用法、用量が原告製品12μgの添付文書に記載された用法、用量と
5 一致する以上、オキサリプラチン知財高裁判決でいう類型④に該当すること
は明らかである。
【被告の主張】
(1) オキサリプラチン知財高裁判決は、存続期間が延長された特許権に係る特
許発明の効力は、政令処分で定められた「成分、分量、用法、用量、効能及
10 び効果」によって特定された「物」(医薬品)のみならず、これと医薬品と
して実質同一なものにも及び、政令処分で定められた上記構成中に対象製品
と異なる部分が存する場合であっても、当該部分が僅かな差異又は全体的に
みて形式的な差異にすぎないときは、対象製品は、医薬品として政令処分の
対象となった物と実質同一なものに含まれ、存続期間が延長された特許権の
15 効力の及ぶ範囲に属すると判示し、実質同一とする4類型のうち類型④とし
て、政令処分で特定された「分量」は異なるけれども、「用法、用量」も併
せてみれば、同一であると認められる場合を挙げている(類型①ないし③は
本件には当てはまらない。)。しかし、飽くまでも僅かな差異又は全体的に
みて形式的な差異にすぎない場合を実質同一とするものであるという上記趣
20 旨を踏まえて考えると、被告製品は類型④に該当せず、実質同一とはいえな
い。
すなわち、被告製品と原告製品12μgは、「通常、成人にはルビプロス
トンとして1回24μgを1日2回、朝食後及び夕食後に経口投与する。な
お、症状により適宜減量する。」との用法・用量を同一とするものである。
25 しかしながら、注意すべきは、基本的な用法・用量である1日2回、1回2
4μgを患者に投与する場合は単純に1カプセル中にルビプロストン24μ
gを含有する被告製品を処方すればそれで足りるところ、1回24μgの用
量を達成するためにわざわざ、1カプセルのサイズが被告製品より大きい原
告製品12μgを2カプセル投与することは患者が服用し難くなるだけであ
る。そのため、原告製品12μgは、上記の「症状により適宜減量する。」
5 との記述、つまり患者に対して基本的な用法・用量を下回るルビプロストン
の投与が必要となる場合に用いられるものということになる。
また、原告製品12μgは、医師が原告製品24μgでは患者にその症状
に応じた適切な処方ができないという場合に対応するために、基本的な用法・
用量よりも少ない処方をする場合に限って用いられることを想定した低含量
10 製剤として開発されたものである。
そうすると、被告製品と原告製品12μgは用いられる治療場面が全く異
なるということになるから、両者の分量の差異は、オキサリプラチン知財高
裁判決のいう「僅かな差異又は全体的にみて形式的な差異」などではないこ
とは明らかである。
15 (2) 仮に、被告製品と原告製品12μgが実質同一であるとした場合には、後
行の原告製品12μgの処分に基づく延長登録出願は、先行の原告製品24
μgの処分の存在により無効理由を有することとなってしまう。
すなわち、仮に被告製品と原告製品12μgが実質同一であるとした場合、
先行処分である原告製品24μgが原告製品12μgを包含する関係にある
20 ということになり、特許法67条の7第1項1号が規定する「その特許発明
の実施に第67条第4項の政令で定める処分を受けることが必要であったと
は認められないとき」に該当し、原告製品12μgについての延長登録は特
許法125条の3第1項1号に該当し無効ということになる。しかし、この
ような無効理由がないという立場に立つのであれば、元をたどって、実質同
25 一という前提が誤りというほかない。
(3) さらに、延長登録の時期に着目すると、本件では原告製品12μgは平成
30年9月に承認を受けているところ、先行する原告製品24μgの承認は
平成24年6月であって、その承認時期に6年以上も開きがある。そして、
後行処分である原告製品12μgの承認に基づき延長登録された特許権の効
力が被告製品に及ぶとすれば、先行処分である原告製品24μgに基づき延
5 長登録された特許権がその後の原告製品12μgの承認に基づいて実質的に
さらに延長されるに等しいことになり、延長登録の制度趣旨から考えてもあ
り得ない。
(4) なお、ベバシズマブ知財高裁判決で示された延長された特許権の効力に関
する説示は傍論であり、ベバシズマブ最高裁判決では延長された特許権の効
10 力について何ら言及されなかったのであるから、これら判決は、原告及び補
助参加人の法的主張の根拠となるものではない。
(5) 以上のとおり、被告製品は原告製品12μgと実質同一ではなく、原告製
品12μgを対象物として延長された本件各特許権の効力は、被告製品には
及ばない。
15 3 争点3(本件延長登録1-2及び同2-2に無効理由があるか)について
【被告の主張】
(1) 臨床試験の実施時期との関係(先行処分に係る試験期間の算入)による無
効理由(本件延長登録1-2及び同2-2について)
本件延長登録1-2及び同2-2は、先行医薬品である原告製品24μg
20 の含量を単に半分にしただけの剤形追加(原告製品12μg)に係るもので
あって、承認に事実上必要な試験も生物学的同等性試験及び安定性試験のみ
であるにもかかわらず、先行処分である原告製品24μgの試験期間も含め
て後行処分についての延長期間を認めるもので、先行処分よりも長い延長期
間、それも法定上限一杯の5年間もの延長期間が認められている。このよう
25 な延長登録の審査の結論は、特許権者に二重の開発コスト回収を許すに等し
いもので、特許の存続期間延長登録制度の趣旨や社会通念に照らして到底是
認できない。存続期間の延長が正当化されるのは、特許発明を実施する意思
及び能力があってもなお実施できなかった期間に限られるのであって、そう
ではなく、そのような意思や能力を欠いたことにより生じた空白期間は、延
長期間から除外されるべきものともいえる。
5 特許権者と第三者との衡平の観点からは、本件延長登録1-2及び同2-
2については、同登録に係る政令で定める処分の対象となった物である原告
製品12μgとの関係において「特許発明の実施をすることができなかった
期間」の始期は、早くとも原告製品12μg固有の生物学的同等性試験の治
験計画が届け出られ、臨床試験が開始された平成28年10月3日と認定す
10 べきである。そして、原告製品12μgの製造販売承認日は平成30年9月
21日であり、「特許発明の実施をすることができなかった期間」はこの間
のせいぜい1年11月17日というべきであるから、5年もの延長登録は、
「その延長登録により延長された期間がその特許発明の実施をすることがで
きなかった期間を超えているとき」(特許法125条の3第1項3号)に該
15 当し、無効にされるべきである。
(2) 出願経過(包袋禁反言)との関係による無効理由(本件延長登録1-2に
ついて)
争点1において述べたとおり、特許出願人は、本件特許1の出願経過にお
いて、特許請求の範囲から「便秘の処置」を意識的に除外して特許査定を受
20 けていた。
そうすると、本件延長登録1-2において、処分の対象となった物につい
て特定された用途は「慢性便秘症(器質的疾患による便秘を除く)」であり、
当該用途は特許出願人が出願経過において意識的に除外していたものである
から、本件延長登録1-2には、特許法125条の3第1項1号規定の無効
25 理由(その延長登録がその特許発明の実施に67条4項の政令で定める処分
を受けることが必要であったとは認められない場合の出願に対してなされた
とき。)がある。
【原告の主張】
(1) 臨床試験の実施時期との関係(先行処分に係る試験期間の算入)による無
効理由(本件延長登録1-2及び同2-2について)
5 ア 最高裁判所平成11年10月22日第二小法廷判決(民集53巻7号1
270頁)等に照らすと、原告製品24μgに関する臨床試験が原告製品
12μgの承認を受けるのに必要な試験であることは明らかである。
そのため、原告製品24μgの第I相試験は、原告製品12μgの「承
認を受けるのに必要な試験」であり、その開始日より特許権設定登録日(本
10 件特許1が平成23年12月22日、本件特許2が平成21年6月26日)
が遅いことになるところ、その各登録日が「特許発明の実施をすることが
できなかった期間」の始期となり、原告製品12μgの製造販売承認日(平
成30年9月21日)までの期間は5年を超える。
したがって、本件延長登録1-2及び同2-2に無効理由は認められな
15 い。
イ 仮に、原告製品12μgのみのために実施された試験の開始時期を延長
登録期間算定の始期とすべきなどといった被告主張の枠組みによるとして
も、結論は変わらない。
すなわち、原告製品12μgのみのために実施された試験である原告製
20 品24μgとの生物学的同等性試験(溶出試験)は、上記特許権設定登録
日よりも後で、原告製品12μgの製造販売承認日(平成30年9月21
日)より5年以上前に開始されているから、「特許発明の実施をすること
ができなかった期間」は5年を超えることになるものである。また、原告
製品12μgの承認に至るまでの具体的経緯に照らすと、申請者は、医薬
25 品医療機器総合機構の要請に応じて真摯かつ誠実に原告製品12μgの開
発を進めたもので、「特許発明の実施をすることができなかった期間」か
ら除外されるべきであるような、実施の意思及び能力を欠く「空白期間」
は存在しない。
したがって、本件延長登録1-2及び同2-2に無効理由は認められな
いとの結論は左右されない。
5 (2) 出願経過(包袋禁反言)との関係による無効理由(本件延長登録1-2に
ついて)
本件特許1の出願経過において、特許請求の範囲から「便秘の処置」が除
外されたようなことがないことは、争点1について主張したとおりである。
【補助参加人の主張】
10 (1) 臨床試験の実施時期との関係(先行処分に係る試験期間の算入)による無
効理由(本件延長登録1-2及び同2-2について)
被告の主張は、本件のような先行医薬品と剤型違い(分量違い)の医薬品
における「承認を受けるのに必要な試験」が、剤型違いの医薬品で行う臨床
試験に限られるという誤った理解を前提にしている。剤型違いの医薬品が「承
15 認を受けるのに必要な試験」には、臨床試験ではない生物学的同等性試験が
含まれるし、先行医薬品の臨床試験等も含まれ得る。
また、原告製品12μgの承認に至る経緯には、剤型違いの医薬品として
も種々の特別な事情があったものであり、申請者は原告製品24μgの承認
直後から生物学的同等性試験に着手していたが、有効成分であるルビプロス
20 トンの特殊性から試験は困難を極めた結果、承認まで5年を超える期間を要
したものである。
本件で原告製品12μgの承認のために行われた生物学的同等性試験は、
先行処分である原告製品24μgの第Ⅰ相試験から第Ⅲ相試験と一連一体の
試験として行われたもので、原告製品12μgの承認に必要不可欠で、かつ、
25 密接に関連していた。そうすると、「政令で定める処分を受けるのに必要な
試験を開始した日」よりも特許権設定登録日(本件特許1が平成23年12
月22日、本件特許2が平成21年6月26日)が遅いことになり、これら
各登録日が「その特許発明の実施をすることができなかった期間」の始期と
なるところ、製造販売承認日である平成30年9月21日まで5年を超える
期間であることから、5年の延長登録が認められることになる。
5 また、仮にこの主張が認められなかったとしても、原告製品12μgの承
認のために行われた生物学的同等性試験は、「政令で定める処分を受けるた
めに必要な試験」に当たるもので、このうち最初の試験である溶出試験は、
上記特許権設定登録日よりも後にして、上記製造販売承認日よりも5年以上
前に開始されたものであるから、上記試験開始日を始期として、「その特許
10 発明の実施をすることができなかった期間」は5年を超えるもので、5年の
延長登録が認められるとの結論に違いはない。
(2) 出願経過(包袋禁反言)との関係による無効理由(本件延長登録1-2に
ついて)
本件特許1の特許出願人は、拒絶理由通知に対する意見書(乙A25)に
15 おいて、本件各発明1の医薬用途から機能性胃腸疾患による便秘の処置を除
外していない。したがって、出願経過(包袋禁反言)に基づく被告の主張に
理由はなく、被告が主張する本件特許1の延長登録に対する無効理由は成り
立たない。
4 争点4(差止め等の必要性)について
20 【原告の主張】
被告製品の生産、譲渡、譲渡の申出及び輸入は、延長登録後の本件各特許権
の侵害を構成する。したがって、本件各特許権の専用実施権者である原告は、
被告に対し、同専用実施権に基づき、被告製品の生産、譲渡、譲渡の申出及び
輸入に関する差止請求権(特許法100条1項)及び廃棄請求権(同条2項)
25 を有する。
さらに、被告が、被告製品について薬価基準収載を求める申請(薬価基準収
載希望書の提出)をすることは、医薬品の製造販売行為そのものとは異なる行
為であるとはいえ、少なくとも医薬品製造販売行為の準備行為として位置づけ
ることができ、製造販売目的を離れては意味を持たない行為であるから、上記
申請の差止めを求めることは、本件各特許権に対する侵害の予防に必要な行為
5 (同条2項)として認められるべきである。
【被告の主張】
争う。
第5 当裁判所の判断
1 争点1(被告製品は本件各発明1及び同2の技術的範囲に属するか)につい
10 て
(1) 本件各発明1:「哺乳類対象における機能性胃腸疾患による腹部不快感の
処置のための」(構成要件1-1B)及び「機能性胃腸疾患の処置のための」
(構成要件1-14B)の充足性
被告製品は、「慢性便秘症(器質的疾患による便秘を除く)の改善を用途
15 とする」(構成b)ものである(前提事実(6)イ)が、技術常識(甲A11の
1)に照らせば、器質的疾患による便秘を除く慢性便秘症の一態様として、
機能性消化管疾患であるところの便秘(機能性便秘症)をも用途としている
と解される上、一般に機能性消化管疾患は機能性胃腸疾患と同義といえるこ
と、便秘が腹部不快感を伴うものであることも踏まえれば、「哺乳類対象に
20 おける機能性胃腸疾患による腹部不快感の処置のための」及び「機能性胃腸
疾患の処置のための」との各構成要件を充足する。
また、特許出願過程で特許出願人が提出した意見書(乙A25)を踏まえ
ても、出願当時の特許請求の範囲から、「便秘の処置」を意識的に除外した
とまでは解することができず、この点に関する被告の主張も採用できない。
25 (2) 本件各発明2:「オピオイド化合物または抗コリン作用薬による薬物誘発
性便秘処置用」(構成要件2-1B)の充足性
被告製品は、「慢性便秘症(器質的疾患による便秘を除く)の改善を用途
とする」(構成b)ものである(前提事実(6)イ)が、技術常識(甲B12、
25、乙B1の1)及び被告製品の添付文書案(乙A1)に照らせば、器質
的疾患による便秘を除く慢性便秘症の一態様として、抗コリン薬、抗うつ薬、
5 オピオイド系薬、Ca拮抗薬などの薬剤性便秘をも用途としていると解され
るところ、「オピオイド化合物または抗コリン作用薬による薬物誘発性便秘
処置用」との構成要件を充足する。
(3) まとめ
以上より(その余の構成要件を充足することについては前記のとおりであ
10 る。)、被告製品は、本件各発明1及び同2のいずれの技術的範囲にも属す
る。
2 争点2(本件延長登録1-2及び同2-2により存続期間が延長された本件
特許権1及び同2の効力は被告製品の生産・譲渡等に及ぶか)について
(1) 本件延長登録1-2により存続期間が延長された本件特許権1の効力は被
15 告製品の生産・譲渡等に及ぶか
ア 問題の所在
本件特許権1は、出願日を平成15年12月26日とするもので、特許
の存続期間は令和5年12月26日までであったが、本件24μg処分を
理由とする本件延長登録1-1によって、その存続期間が6月6日延長さ
20 れ、令和6年7月2日までとなった。また、本件特許権1は、本件12μ
g処分を理由とする本件延長登録1-2によって、その存続期間が5年延
長され、令和10年12月26日までとなった。
このように本件特許権1の存続期間が、2つの政令処分を理由として
個々に延長される中で、被告は、原告製品24μgの後発医薬品として、
25 被告製品(分量は原告製品24μgと同じく24μg)の製造販売等を行
うべく、厚生労働省に対する製造販売承認の申請を行っている。これに対
し、原告が、本件24μg処分を理由とする本件延長登録1-1による延
長期間は既に終了していることを前提としつつ、本件12μg処分を理由
とする本件延長登録1-2によって延長された本件特許権1の効力が、分
量を24μgとする被告製品にも及ぶとして、その生産・譲渡等の差止め
5 等を求めている。
ここで本件の問題の所在を整理するに、上記のように特許法67条4項
の規定により存続期間が延長された場合の特許権の効力は、「その延長登
録の理由となった特許法67条4項の政令で定める処分の対象となった物
(その処分においてその物の使用される特定の用途が定められている場合
10 にあっては、当該用途に使用されるその物)」についての当該発明の実施
のみに及ぶ(特許法68条の2)ところ、分量を24μgとする被告製品
が、本件12μg処分の対象となった物である原告製品12μgと同一で
あるとして特許権の効力が及ぶといえるかをめぐる争点である。しかも、
本件では、これらの分量の差異をどう評価するかの問題のみならず、本件
15 24μg処分を理由とする本件延長登録1-1の延長期間は既に終了して
いる中で、これと分量を同じくする被告製品に対し、本件12μg処分と
いう別の理由で延長登録された本件特許権1の効力が及ぶのかという問題
もあわせ検討する必要がある。
この点、原告及び補助参加人は、被告製品は、本件12μg処分の対象
20 となった原告製品12μgとの間で分量の差異があるにとどまり、実質同
一といえるため、本件12μg処分を理由とする本件延長登録1-2によ
って延長された本件特許権1の効力は及ぶと主張する(甲A16の1~4、
甲A17も参照)のに対し、被告は、本件の医薬品にとって、2倍に及ぶ
分量の違いは僅かな差異や全体的にみて形式的な差異にとどまるものでは
25 なく、医学的に実質的な意味を有するなど本件固有の具体的事情を挙げる
に加え、本件24μg処分を理由とする本件延長登録1-1の延長期間が
既に終了しているにもかかわらず、本件12μg処分を理由とする本件延
長登録1-2によって延長された本件特許権1の効力が及ぶとすることは、
延長登録制度の想定を超えた存続期間延長を再度付与するに等しく、特許
権者と第三者との衡平を損ねるなどの主張を展開する(乙A10~12も
5 参照)ものである。
つまるところ、特許法68条の2の「その延長登録の理由となった特許
法67条4項の政令で定める処分の対象となった物」における「物」との
同一性の範囲をどのように解するかの法律論に収れんされる問題ではある
が、その解釈にあたっては、特許権存続期間の延長登録制度全体に対する
10 考察、すなわち、延長登録の範囲・単位をどのように解すべきかにも立ち
返りつつ、存続期間を延長された特許権の効力範囲をどのように解するこ
とが、延長特許の範囲・単位についての解釈と整合的で、特許権者と第三
者との衡平にも適うものであるかという観点で検討することが、本問題の
性質上不可欠といえる。
15 イ 延長登録の範囲・単位
特許権存続期間の延長登録制度は、政令処分を受けることが必要であっ
たために特許発明の実施をすることができなかった期間を回復することを
目的とするものである上、延長登録出願について、特許発明の実施に政令
処分を受けることが必要であったとは認められないことが拒絶査定の要件
20 とされている(特許法67条の7第1項1号)ことからすると、医薬品の
製造販売について、当該特許の技術的範囲に属する複数の医薬品があり、
それぞれに政令処分がされる場合において、先行処分の対象となった医薬
品の製造販売が、後行処分の対象となった医薬品の製造販売をも包含する
と認められるときには、特許発明の実施に政令処分(後行処分)を受ける
25 ことが必要であったとは認められないこととなるから、後行処分を理由と
する別個の延長登録は認められないものといえる。そして、両処分の包含
関係を決するにあたっては、薬機法に基づく医薬品の製造販売承認におけ
る審査事項のうち医薬品としての実質的同一性に直接関わる事項である医
薬品の成分、分量、用法、用量、効能及び効果について、両処分を比較し
て判断すべきと解される(ベバシズマブ最高裁判決参照)。
5 これを延長登録の範囲・単位として表現し直せば、成分、分量、用法、
用量、効能及び効果を異にする医薬品は、薬機法に基づく製造販売承認の
審査においてのみならず、特許権の延長登録出願上も別の物として扱われ、
延長登録の可否及び延長期間が、それぞれ個別に審査、査定されることに
なるものといえる。
10 その意味するところは、従前の特許庁実務と対比することでより明瞭に
なる。すなわち、従前の特許庁実務は、有効成分と効能及び効果を同じく
する複数の医薬品については、例えば、分量を異にし、薬機法に基づく製
造販売承認の審査上は別の医薬品として扱われるものであったとしても、
1つの医薬品を対象とする政令処分を理由に延長登録がされれば、その後
15 に別の医薬品を対象とする政令処分を理由とする別の延長登録は認めない
とするものであった。このような解釈運用は、条文文言(現行特許法67
条の7第1項1号)との整合性に加え、実質論としても、後行処分に係る
医薬品について、特許権存続中の実施可能期間が存続期間延長登録制度の
意図するところよりも短くなってしまうという問題があったと考えられる
20 が、その点はおくとして、存続期間を延長された当該特許権の効力として
は、有効成分と効能及び効果を同じくする医薬品であれば、例えば、分量
を異にしても「物」(現行特許法68条の2)として同一であり、広く効
力範囲に含まれると解するのが整合的ということになる。言い換えれば、
そのように特許権の効力範囲を広く解さなければ、上記のように延長登録
25 出願に係る範囲・単位を広く扱い、有効成分と効能及び効果を同じくする
限り、別途の延長登録を認めないとする解釈運用を正当化することは困難
であったと考えられる。
他方で、ベバシズマブ最高裁判決によって定立されたというべき前記の
ような延長登録の範囲・単位は、薬機法に基づく医薬品の製造販売承認の
審査と全く同一までではないものの、実質においてはこれと近似したもの
5 となり、成分、分量、用法、用量、効能及び効果をもって、物としての特
定要素とし、これを異にする医薬品については、それぞれごとに、特許権
の存続期間延長の可否及びその期間の長短を審査、査定することとなる。
これは、延長登録の範囲・単位について、薬機法に基づく製造販売承認に
概ね近似する単位とし、従前の特許庁実務に比べると相当にいわば短冊化
10 したものといえ、存続期間延長登録制度のもとでの特許権者と第三者との
衡平を、よりきめ細やかに行うことを可能にするものと捉えることができ
る。
そして、このような存続期間延長登録制度の短冊化に照らして考えると、
延長された特許権の効力範囲についても、このような短冊化された範囲内
15 にとどまると解するのが整合的とはなる。すなわち、延長登録出願の段階
において、存続期間延長の可否や期間の長短を、上記のように相当に狭い
範囲・単位に区分けして扱うとしながら、仮に延長された特許権の効力が、
この区分けされた範囲をいわば越境して及ぶこととなれば、延長登録出願
段階で上記のように範囲・単位を区分けし、特許権者と第三者との衡平を、
20 その範囲・単位できめ細やかに調整することを可能とする上記法的枠組み
の意義が大きく損なわれることになるものといえる。
ウ 特許法68条の2の文言からの考察
他方、延長された特許権の効力範囲は、あくまで特許法68条の2の規
定するところであり、同条は、特許法67条4項の規定により存続期間が
25 延長された特許権の効力について、「その延長登録の理由となった特許法
67条4項の政令で定める処分の対象となった物」の実施に対してのみ及
ぶとするものである。
そこで、この「物」の意義が問題となるが、前記イのとおり、延長登録
出願の段階において、延長の理由とされた政令処分上で定められた成分、
分量、用法、用量、効能及び効果をもって、医薬品たる物としての特定要
5 素とし、これを異にする医薬品については、別に存続期間の延長登録をす
ることができることに照らせば、特許法68条の2の規定における「物」
も、政令処分上で定められた成分、分量、用法、用量、効能及び効果をも
って特定されると解される。そうすると、存続期間が延長された特許権に
基づく権利行使の対象製品について、延長登録の理由となった政令処分の
10 対象とする物との比較として、これら特定要素の一部でも異なる部分が存
在する場合には、当該特許権の効力が及ばないとするのが条文文言に照ら
しての形式的な帰結とはなる。しかしながら、このような解釈は、あまり
に形式的にすぎ、第三者において、延長された特許権の効力範囲を容易に
回避することが可能となり、延長登録制度の趣旨を没却することにもなる
15 ため、特許権者と第三者との衡平の観点から、延長登録の理由となった政
令処分の対象となった物と、権利行使の対象製品との間に、上記特定要素
につき何らかの異なる部分があったとしても、当該部分が僅かな差異又は
全体的にみて形式的な差異にすぎないときは、権利行使の対象製品は、延
長登録の理由となった政令処分の対象となった物と実質同一として、延長
20 された特許権の効力が及ぶと解することが相当であるし、これをもって、
第三者の予見性を損なうものでもないといえる。
そして、医薬品の成分を対象とする物の特許発明において、政令処分で
定められた「成分」に関する差異、「分量」の数量的差異又は「用法、用
量」の数量的差異のいずれか一つないし複数があり、他の差異が存在しな
25 い場合に限定してみれば、僅かな差異又は全体的にみて形式的な差異かど
うかは、特許発明の内容に基づき、その内容との関連で、政令処分におい
て定められた「成分、分量、用法、用量、効能及び効果」によって特定さ
れた「物」と対象製品との技術的特徴及び作用効果の同一性を比較検討し
て、当業者の技術常識を踏まえて判断すべきと解される(オキサリプラチ
ン知財高裁判決参照)。
5 エ 総合的考察
以上のとおり、延長登録出願の段階における延長登録の範囲・単位は、
成分、分量、用法、用量、効能及び効果を特定要素とするものであるのに
対し、存続期間を延長された特許権の効力は、その範囲を画する「物」の
特定要素を上記と同じくするものではありながらも、その形式的な適用が
10 第三者による回避を過度に容易とし、特許権者の権利行使を困難とし、ひ
いては延長登録制度の趣旨である両者間の衡平を失することになるとの観
点から、物として実質同一といえる範囲にまで広げて解するものである。
このように、延長登録出願の段階での延長登録の範囲・単位と、存続期間
が延長された特許権の効力範囲は、規範やその背景事情を異にするもので、
15 両者の範囲は必ずしも一致するものではなく、むしろ、一般的にいえば、
後者の方が広がりをもった範囲を有するといえる。
しかしながら、延長登録の範囲・単位とその結果存続期間が延長された
特許権の効力範囲は、存続期間の延長登録制度全体の中で、整合的に解釈
運用され、相互に調和することで、初めて特許権者と第三者との衡平とい
20 う同制度の目的の実を果たすことができるというべきであるところ、特許
権の効力範囲については、前記イ及びウで検討したところを総合考慮し、
実質同一といえる範囲で広がりを有するとはいえ、その広がりは、存続期
間の延長登録の範囲・単位と抵触しないという制約の中で解釈されるべき
ものといえる。すなわち、医薬品に係る同一の特許権について、複数の政
25 令処分を理由とする延長登録がされている場合、後れて延長登録された特
許権の効力範囲は、前記ウで説示の規範のもと一定の広がりを有するもの
ではあるものの、少なくとも、先行する延長登録の理由となった政令処分
の対象とする物と成分、分量、用法、用量、効能及び効果として同一の物
は、後行する延長登録の理由となった政令処分の対象とする物と実質同一
ではなく、その生産・譲渡等にまでは効力が及ばないものとして解される
5 べきである(さらにいえば、後行する延長登録の理由となった政令処分の
対象とする物を基準としたときに、①先行する延長登録の理由となった政
令処分の対象とする物との数量的差異よりも、数量的差異が大きい物〔例
えば、分量の違いがより大きい物〕や、②先行する政令処分の対象とする
物と同じだけの数量的差異に加えて別の質的な差異も存在する物〔例えば、
10 同じだけの分量の差異に加えて成分にも一定の差異がある物〕は、物とし
ての遠近がより離れることになるため、やはり実質同一といえないと解す
るのが、一貫した解釈として相当である。)。
仮に、後れて延長登録された特許権の効力が、前記ウの規範のもと、先
行する延長登録の理由となった政令処分の対象とする物と成分、分量、用
15 法、用量、効能及び効果として同一の物の生産・譲渡等にまで及ぶとすれ
ば、先行する存続期間の延長の方が短かった場合において、その対象とす
る物の第三者による実施が、存続期間延長制度が規律する以上の期間にわ
たって禁じられることになる。このような帰結は、延長登録出願段階での
範囲・単位を成分、分量、用法、用量、効能及び効果で短冊的に区分けし、
20 特許権者と第三者との衡平を、その範囲・単位できめ細やかに調整しよう
とする存続期間延長制度の趣旨を大きく損なうものであるとともに、既に
延長期間が終了した延長登録の理由となった政令処分の対象とする物と成
分、分量、用法、用量、効能及び効果として同一の物に対して特許権の行
使を受けるということは、第三者の予期を期待できるものではなく、特許
25 権の効力を及ぼす実質的正当性に欠けるものともいえる。
オ 本件へのあてはめ
原告及び補助参加人は、本件12μg処分を理由とする本件延長登録1
-2によって延長された本件特許権1の効力が、分量を24μgとする被
告製品の生産・譲渡等にも及ぶ旨主張するところ、証拠(甲A3の2、甲
A4、乙A1)及び弁論の全趣旨によれば、本件12μg処分の対象とな
5 った原告製品12μgと被告製品は、分量こそ12μgと24μgという
違いがあるものの、成分、用法、用量、効能及び効果は同一である上、本件
各発明1の内容に照らせば、上記分量の差異が技術的特徴や作用効果に違
いをもたらすとはいい難いと考えられるところ、上記差異そのものの評価
としては、前記ウの規範でいうところの僅かな差異又は全体的にみて形式
10 的な差異と見る余地があることは否定できない。
しかしながら、証拠(甲A3の2、甲A4、乙A1)及び弁論の全趣旨に
よれば、被告製品は、まさに先行する本件延長登録1-1の理由とされた
本件24μg処分の対象となった原告製品24μgと成分、分量、用法、
用量、効能及び効果が同一の物であるところ、上記延長登録に係る延長期
15 間は既に終了したものである。後行する本件延長登録1-2によって存続
期間を延長された本件特許権1の効力は、その延長登録の理由となった本
件12μg処分の対象である原告製品12μgと分量のみを異にする医薬
品を実質同一の範囲に含むものとして一定の広がりを有するとまではいえ
るものの、前記エでの説示に照らせば、原告製品24μgとの同一性に係
20 る上記一事をもって、少なくとも、被告製品は原告製品12μgと実質同
一ではなく、その生産・譲渡等にまで効力は及ばないというべきである(被
告製品と原告製品24μgとの間で、仮に添加剤の違いがあり、これをも
って「成分」に一定の差異があると評価されるのであれば、実質同一をよ
り否定する要素といえる。)。
25 なお、この点で、仮に原告及び補助参加人の主張を認めた場合、次のよ
うな帰結となるもので、実質的な妥当性・衡平を欠くことが具体的にも浮
かび上がるものといえる。すなわち、本件特許権1は、出願日を平成15
年12月26日とし、元々の存続期間は令和5年12月26日までであっ
たが、特許登録日である平成23年12月22日から6月6日の間、薬機
法に基づく製造販売承認を受けるまでの期間として、原告製品24μgに
5 ついての実施をすることができなかったため、その期間の限り(令和6年
7月2日まで)において、延長登録が認められた。しかし、原告の主張に
よれば、本件延長登録1-2によって存続期間が延長された本件特許権1
の効力として、さらに令和10年12月26日までの間、被告製品その他
原告製品24μgと成分、分量、用法、用量、効能及び効果を同じくする
10 物の第三者による生産・譲渡等を差し止めることができることになる。こ
れは、本来、政令処分を受けるまでの失われた期間に限り、存続期間の延
長を許容する存続期間延長制度の趣旨、想定とは異なり、失われた期間の
回復を超えて、延長登録の理由となった政令処分の対象とする物について
の実施権の専有を認めるに等しく、実質において、特許権者と第三者との
15 衡平を損なう結果を招くものといえる。
カ オキサリプラチン知財高裁判決に関する原告及び補助参加人の主張につ
いて
これに対し、原告及び補助参加人は、オキサリプラチン知財高裁判決が
定立した実質同一の規範に照らせば、本件延長登録1-2によって存続期
20 間を延長された本件特許権1の効力は、被告製品の生産・譲渡等にも及ぶ
旨主張する。
しかし、前記イないしエで説示したとおり、存続期間を延長された特許
権の効力範囲については、延長登録の理由とした政令処分の対象となった
物と実質同一の物の生産・譲渡等にまで及ぶものではあるものの、存続期
25 間の延長登録制度全体の中での整合的解釈として、延長登録の範囲・単位
と抵触しないという制約の中で解釈されるべきものであるところ、原告の
主張は、この点への考慮を欠いたものというほかない。
また、オキサリプラチン知財高裁判決自身が、実質同一の範囲を定める
にあたっての均等論の法理の適用ないし類推適用を否定する文脈において、
「特許発明の技術的範囲における均等は、特許発明の技術的範囲の外延を
5 画するものであり、法68条の2における、具体的な政令処分を前提とし
て延長登録が認められた特許権の効力範囲における前記実質同一とは、そ
の適用される状況が異なるものであるため、その第1要件ないし第3要件
はこれをそのまま適用すると、法68条の2の延長登録された特許権の効
力の範囲が広がり過ぎ、相当ではない。」とした上、「本件各処分につい
10 てみれば明らかなように、各政令処分によって特定される「物」について
の「特許発明の実施」について、第1要件ないし第3要件をそのまま適用
して均等の範囲を考えると、それぞれの政令処分の全てが互いの均等物と
なり、・・・法68条の2の延長登録された特許権の効力範囲としては広
がり過ぎることが明らか」とし、さらに、「均等の5要件の類推適用につ
15 いても、仮にこれを類推適用するとすれば、政令処分は、本件各処分のよ
うに、特定の医薬品について複数の処分がなされることが多いため、政令
処分で特定される具体的な「物」について、それぞれ適切な範囲で一定の
広がりを持ち、なおかつ、実質同一の範囲が広がり過ぎないように(例え
ば、本件各処分にみられるような複数の政令処分について、分量が異なる
20 一部の処分に係る物が実質同一となることはあっても、その全てが互いに
実質同一の範囲に含まれることがないように)検討する必要がある。」と
している。これら説示は、複数の政令処分を理由とした存続期間の延長登
録がされている場合に、そのような延長登録の並立状態を考慮しないまま、
存続期間を延長された特許権の効力範囲は決せられないとの理解を前提と
25 するものというべきであって、前記エの説示は、これと軌を一にするもの
といえる。
以上より、原告及び補助参加人の上記主張は、オキサリプラチン知財高
裁判決全体の趣旨を正確に解するものではなく、採用できないというべき
である。
キ ベバシズマブ知財高裁判決に関する原告及び補助参加人の主張について
5 原告及び補助参加人は、ベバシズマブ最高裁判決の原判決であるベバシ
ズマブ知財高裁判決の、以下の部分を引用しつつ、存続期間の延長登録が
複数並立している場合に、1つの延長登録に係る特許権の効力が、他の延
長登録の理由となった政令処分の対象とした物と同一の物の生産・譲渡等
に及ぶことは、特許法制上想定されている旨主張する。
10 「なお、政令で定める処分を受けることによって禁止が解除された特許発
明の実施が、先行処分に基づき存続期間が延長された当該特許権の効力が
及ぶ特許発明の実施の範囲に含まれるような場合は、重複して延長の効果
が生じ得ることとなる。後行処分による延長期間が先行処分による延長期
間より長い場合には、これに対応する期間、当該特許権の存続期間が延長
15 されるが、当該期間については、当該特許発明の実施が禁止されていた部
分があることに照らすと、上記のように解することに何ら不合理な点はな
い。」
しかし、上記説示部分が傍論であることをおくとしても、その文脈や射
程が正確に理解されるべきである。
20 まず、上記説示は、先行する政令処分によって存続期間が延長された特
許権の効力範囲が、後行する政令処分の対象とする物と同一の物の生産・
譲渡等に及び得ること、そのように解したとして特段不合理な点はないと
いうことを述べるものである。すなわち、先行する政令処分とこれに基づ
く延長登録の際には、まだ後行の延長登録がされているわけではなく、延
25 長登録の並列状態及びこれに伴う効力範囲の制約がない中で延長登録がさ
れることになるため、後行する政令処分の対象とする物と同一の物の生産・
譲渡等を包含するように効力範囲が及ぶ可能性があるといえる。また、結
果として、後行する政令処分の対象とする物の実施については、観念上、
重複して延長の効果が生じ得ることにはなるが、後行の延長登録による延
長期間は、元々当該物の実施が薬機法上禁止されていた期間に対応するも
5 のにとどまるから、延長登録制度の趣旨、想定を超える期間にわたって実
施権の専有が得られるわけでもない。
しかし、これと逆の方向性、つまり、後行する政令処分によって存続期
間が延長された特許権の効力範囲が、先行する政令処分の対象とする物と
同一の物の生産・譲渡等にまで及び得るかについては、上記説示部分は何
10 ら言及するものではなく、実際上も利害状況が大きく相違する。すなわち、
後行する延長登録の際には、先行する延長登録(少なくとも、その出願)
が存在するのであって、まさに前記エの説示が想定する状況であり、後行
する延長登録によって存続期間が延長された特許権の効力範囲につき、先
行する延長登録との整合性を考慮して解釈しなければ、延長登録制度全体
15 の趣旨を損ねることになるところ、少なくとも、先行する政令処分の対象
とする物と成分、分量、用法、用量、効能及び効果が同一の物の生産・譲
渡等にまで効力は及ばないものと解される。
なお、前記カで引用したとおり、オキサリプラチン知財高裁判決が、延
長登録が複数並列する場合の特許権の効力範囲について、「例えば、本件
20 各処分にみられるような複数の政令処分について、分量が異なる一部の処
分に係る物が実質同一となることはあっても、その全てが互いに実質同一
の範囲に含まれることがないように」とするのも、上記のような一方方向
への片面的な包含関係はあり得ても、双方向に、つまり、「互いに実質同
一の範囲に含まれる」ような効力範囲の解釈は否定されるべきとする趣旨
25 を含むもので、ベバシズマブ知財高裁判決の上記説示部分に関する当裁判
所の理解と同様の趣旨を述べるものと解される。
以上より、1つの延長登録に係る特許権の効力が、他の延長登録の理由
となった政令処分の対象とした物と同一の物の生産・譲渡等に及ぶことは、
特許法制上想定されている旨の原告及び補助参加人の主張は、特定の文脈、
方向性に関する限りでは誤りではないが、前記エの説示を否定するに足る
5 ものではなく、本件の結論を左右するものとはいえない。
ク 原告提出の意見書等について
原告は、本件12μg処分を理由として存続期間を延長された本件特許
権1の効力は、被告製品に及ぶ旨を述べる有識者の意見書(甲A17)を
提出する。しかし、同意見書は、前記ウで説示したオキサリプラチン知財
10 高裁判決の定立した規範のもと、専ら技術的観点からの考察に基づき、本
件12μg処分の対象となった原告製品12μgと被告製品との実質同一
性を結論づけているものであるが、延長登録が複数並列している場合の存
続期間が延長された特許権の効力範囲がそのような検討のみで決せられな
いことは前記イないしエで説示したところである。上記意見書の述べると
15 ころは、技術的な考察の限りにおいて、当裁判所の見解と特段抵触、矛盾
するものではないが、前提とする法解釈において相違するものであり、そ
の意味において、当裁判所の採用するところとはいえない。
また、原告は、自らの法的主張を根拠づけるものとしての学術論文(甲
A16の1~4)も提出するが、その作成者は、原告代理人弁護士の1人
20 であるところ、その主張について、当裁判所の法解釈と相違ない部分もあ
るとはいえ、結論に直結する部分において採用しないことは、既に説示し
たところであって、重ねて論じることはしない。
なお、以上の説示を前提としても、先行する政令処分(本件でいえば、
本件24μg処分)を理由とした延長登録をしていない場合に、後行する
25 政令処分(本件でいえば、本件12μg処分)を理由とする延長登録によ
って延長された特許権の効力範囲をどのように解するかという法的問題が
残されている。この点、本件のように、先行する政令処分を理由とした延
長登録をしている場合との均衡を損ねることのないような解釈が検討され
るべきではあるが、本件とは事案を異にするもので、これ以上詳細に検討
することはしない。いずれにしても、そのような法的問題の存在は、本件
5 の事実関係のもとで、存続期間の延長登録制度全体との整合性や権利者と
第三者との衡平の観点から採られた当裁判所の解釈を左右するものではな
く、むしろ、このような解釈も前提に、次の応用的な法的問題として、整
合的な法解釈が検討されるべきものといえる。
ケ 結語
10 以上より、本件延長登録1-2によって存続期間を延長された本件特許
権1の効力は、被告製品の生産・譲渡等に及ぶものとはいえず、原告及び
補助参加人の主張は採用できない。
(2) 本件延長登録2-2により存続期間が延長された本件特許権2の効力は被
告製品の生産・譲渡等に及ぶか
15 原告及び補助参加人は、本件12μg処分を理由とする本件延長登録2-
2によって延長された本件特許権2の効力が、分量を24μgとする被告製
品の生産・譲渡等にも及ぶ旨主張する。
しかし、証拠(甲A3の2、甲A4、乙A1)及び弁論の全趣旨によれば、
被告製品は、先行する本件延長登録2-1の理由とされた本件24μg処分
20 の対象となった原告製品24μgと成分、分量、用法、用量、効能及び効果
が同一の物であるところ、上記延長登録に係る延長期間は既に終了したもの
である。後行する本件延長登録2-2によって存続期間を延長された本件特
許権2の効力は、その延長登録の理由となった本件12μg処分の対象であ
る原告製品12μgと分量のみを異にする医薬品を実質同一の範囲に含むも
25 のとして一定の広がりを有するとまではいえるものの、前記(1)エでの説示に
照らせば、原告製品24μgとの同一性に係る上記一事をもって、少なくと
も、被告製品は原告製品12μgと実質同一ではなく、その生産・譲渡等に
まで効力は及ばないというべきである(被告製品と原告製品24μgとの間
で、仮に添加剤の違いがあり、これをもって「成分」に一定の差異があると
評価されるのであれば、実質同一をより否定する方向の要素といえる。)。
5 以上より、原告及び補助参加人の上記主張は採用できない。
3 結論
以上によれば、その余の争点につき判断するまでもなく、原告の請求はいず
れも理由がないから、これらを棄却することとして、主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官
松 川 充 康
裁判官
阿 波 野 右 起
裁判官西尾太一は、差支えのため、署名押印することができない。

裁判長裁判官
松 川 充 康
( 別 紙)
当事者目録

5 原告 ヴィアトリス製薬合同会社
同代表者代表社員 アップジョン・グループ・ホールディ
ングス・ビーヴィ
同代表社員職務執行者
同訴訟代理人弁護士 大渕 哲也
10 同 城山 康文
同 山内 真之
同 石井 昭仁
同 出野 智之
同 佐々木 公樹
15 同 篠崎 慎一郎
同訴訟代理人弁理士 安藤 健司
同補佐人弁理士 坪倉 道明

同補助参加人 スキャンポ ゲゼルシャフト ミット
ベシュレンクテル ハフツング
同代表者取締役
同訴訟代理人弁護士 高山 和也
25 同訴訟代理人弁理士 田村 啓
同 松谷 道子
同 落合 康
同 玄番 佐奈恵
同 坂田 啓司
同 林 康次郎
5 同 白江 雄介
被告 沢井製薬株式会社
同代表者代表取締役
同訴訟代理人弁護士 小松 栄二郎
10 同 小山 秀
同 中田 健一
同訴訟復代理人弁護士 川端 さとみ
同 藤野 睦子

(別紙)
被告 製品目録
製品名 ルビプロストンカプセル24μg「サワイ」

(別紙)
特許請求の範囲
1 本件発明1-1(請求項1)
5 下記一般式(II)で示される化合物を含む、哺乳類対象における機能性胃腸疾患
による腹部不快感の処置のための医薬組成物:
【化1】

15 [式中、
Lは、オキソ、Mは、水素またはヒドロキシ;
Aは、-COOHあるいはその塩、エステルあるいはアミド;
Bは、-CH 2 -CH 2 -;
Zは、
20 【化2】

25 または単結合、
ここでR 4 およびR 5 は、水素またはヒドロキシ、ここでR 4 およびR 5 は同時に
ヒドロキシであることはない;
X 1 およびX 2 は、水素またはハロゲン、但しX 1 およびX 2 の少なくとも一方は
ハロゲン:
R 1 は、炭素原子数1~14の直鎖または分岐鎖を有する非置換の飽和または
5 不飽和の二価炭化水素基;
R 2 は、単結合または炭素原子数1~6の直鎖または分岐状の二価飽和炭化水
素基;および、
R 3 は、炭素原子数1~6の直鎖または分岐状の飽和炭化水素基]。
10 2 本件発明1-14(請求項14)
下記一般式(II)で示される化合物を含む、機能性胃腸疾患の処置のための医薬組
成物:
【化3】

[式中、
Lは、オキソ、Mは、水素またはヒドロキシ;
Aは、-COOHあるいはその塩、エステルあるいはアミド;
Bは、-CH 2 -CH 2 -;
25 Zは、
【化4】

または単結合、
ここでR 4 およびR 5 は、水素またはヒドロキシ、ここでR 4 およびR 5 は同時に
ヒドロキシであることはない;
X 1 およびX 2 は、水素またはハロゲン、但しX 1 およびX 2 の少なくとも一方は
10 ハロゲン:
R 1 は、炭素原子数1~14の直鎖または分岐鎖を有する非置換の飽和または
不飽和の二価炭化水素基;
R 2 は、単結合または炭素原子数1~6の直鎖または分岐状の二価飽和炭化水
素基;および、
15 R 3 は、炭素原子数1~6の直鎖または分岐状の飽和炭化水素基]。
3 本件訂正前発明2(請求項1)
一般式(II):
【化1】
25 [式中、Lはオキソ、M はヒドロキシ;
Aは、-COOHまたはその塩、エステルもしくはアミド;
Bは、-CH 2 -CH 2 -;
X 1 およびX 2 は、水素、低級アルキルまたはハロゲンであって、X 1 およびX 2
の少なくとも一方はハロゲンである;
R 1 は、非置換の二価の飽和または不飽和の炭素数1~14の直鎖または分枝
5 鎖を有する脂肪族炭化水素(ただし、側鎖は炭素数1~3のものである);
R 2 は、単結合または低級アルキレン;そして、
R 3 は、低級アルキル]
で示される13,14-ジヒドロ-15-ケト-16-モノ-またはジ-ハロゲ
ン-プロスタグランジンE化合物を有効成分として含む、オピオイド化合物また
10 は抗コリン作用薬による薬物誘発性便秘処置用組成物。
4 本件訂正後発明2(請求項4)
一般式(II):
【化1】
20 [式中、Lはオキソ、M はヒドロキシ;
Aは、-COOHまたはその塩、エステルもしくはアミド;
Bは、-CH 2 -CH 2 -;
X 1 およびX 2 は、水素、低級アルキルまたはハロゲンであって、X 1 およびX 2
の少なくとも一方はハロゲンである;
25 R 1 は、非置換の二価の飽和または不飽和の炭素数1~14の直鎖または分枝
鎖を有する脂肪族炭化水素(ただし、側鎖は炭素数1~3のものである);
R 2 は、単結合または低級アルキレン;そして、
R 3 は、低級アルキル]
で示される13,14-ジヒドロ-15-ケト-16-モノ-またはジ-ハロゲ
ン-プロスタグランジンE化合物を有効成分として含む、オピオイド化合物また
5 は抗コリン作用薬による薬物誘発性便秘処置用組成物であって、
13,14-ジヒドロ-15-ケト-16-モノ-またはジ-ハロゲン-プロ
スタグランジンE化合物が13,14-ジヒドロ-15-ケト-16,16-ジ
フルオロ-プロスタグランジンE 1 である組成物。

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