令和5(ワ)70083等意匠権侵害損害賠償請求事件
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| 裁判所 |
請求棄却 東京地方裁判所
|
| 裁判年月日 |
令和8年2月27日 |
| 事件種別 |
民事 |
| 法令 |
意匠権
意匠法39条1項1回
|
| キーワード |
意匠権29回 侵害21回 実施8回 損害賠償6回 許諾1回
|
| 主文 |
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は、第1事件及び第2事件を通じて、原告の負担とする。 |
| 事件の概要 |
1 事案の要旨
本件は、意匠に係る物品を「スライドファスナー用スライダーの胴体」とす
る意匠登録第1270572号の意匠権(以下「本件意匠権」といい、本件意
匠権に係る意匠を「本件意匠」という。
)を有する原告が、被告らに対し、主位
的に、被告らが、①別紙被告製品目録記載1ないし4のスライダー(以下、同
目録記載の番号に応じて「被告製品1」などといい、これらを併せて「被告各
製品」という。なお、後述のとおり、被告各製品が被告らの製造、販売した製
品であるかどうかについて一部争いがある。
)を日本国外で製造、販売し、これ
が付された製品が日本国内で販売されたこと、及び②被告各製品について、日
本国内において譲渡の申出をしたことにより、本件意匠権が侵害されたと主張
して、民法709条及び719条に基づき、連帯して損害金2億7500万円
(意匠法39条1項により算定される損害額2億5000万円及び弁護士費用
2500万円)及び各訴状送達日の翌日から支払済みまで民法所定の年3%の |
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判決文
令和8年2月27日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
令和5年(ワ)第70083号 意匠権侵害損害賠償請求事件(第1事件)
令和6年(ワ)第70246号 意匠権侵害損害賠償請求事件(第2事件)
口頭弁論終結日 令和7年12月5日
5 判 決
第1事件原告兼第2事件原告 Y K K 株 式 会 社
(以下「原告」という。)
同訴訟代理人弁護士 大 野 浩 之
第 1 事 件 被 告 大 興 拉 錬 廠 有 限 公 司
10 (以下「被告THG」という。)
第 2 事 件 被 告 東莞大興拉錬廠有限公司
(以下「被告東莞」という。)
上記両名訴訟代理人弁護士 林 圭 介
長 谷 部 陽 平
15 水 野 真 孝
池 田 幸 来 子
主 文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は、第1事件及び第2事件を通じて、原告の負担とする。
20 事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 主位的請求
被告らは、原告に対し、連帯して、2億7500万円及びこれに対する令和
5年10月4日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
25 2 予備的請求
被告らは、原告に対し、連帯して、2億円及びこれに対する令和5年10月
4日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 事案の要旨
本件は、意匠に係る物品を「スライドファスナー用スライダーの胴体」とす
5 る意匠登録第1270572号の意匠権(以下「本件意匠権」といい、本件意
匠権に係る意匠を「本件意匠」という。)を有する原告が、被告らに対し、主位
的に、被告らが、①別紙被告製品目録記載1ないし4のスライダー(以下、同
目録記載の番号に応じて「被告製品1」などといい、これらを併せて「被告各
製品」という。なお、後述のとおり、被告各製品が被告らの製造、販売した製
10 品であるかどうかについて一部争いがある。)を日本国外で製造、販売し、これ
が付された製品が日本国内で販売されたこと、及び②被告各製品について、日
本国内において譲渡の申出をしたことにより、本件意匠権が侵害されたと主張
して、民法709条及び719条に基づき、連帯して損害金2億7500万円
(意匠法39条1項により算定される損害額2億5000万円及び弁護士費用
15 2500万円)及び各訴状送達日の翌日から支払済みまで民法所定の年3%の
割合による遅延損害金の支払を、予備的に、被告らが上記①及び②により本件
意匠権を侵害しているにもかかわらず、原告に対して実施料を支払わないと主
張して、民法703条及び704条に基づき、連帯して実施料相当額に当たる
利得金2億円及びこれに対する各訴状送達日の翌日から支払済みまで上記割合
20 による利息の返還を求める事案である。
なお、第2事件は、TH Zipper Limited(以下「訴外会社」
という。)を共同被告として提起されたものであるところ、訴外会社に対する外
国送達が未了であったことから、令和6年9月19日に被告東莞についての口
頭弁論が分離され、第1事件に併合された。
25 2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨に
より容易に認定できる事実)
(1) 当事者
ア 原告は、ファスニング、建材、ファスニング加工機械及び建材加工機械
等の製造、販売を業とする株式会社である。
イ 被告THGは、ファスナー用スライダー、服飾副資材等の製造、販売を
5 業とする香港の企業であり、被告THGの代表者が100%株主である。
ウ 被告東莞は、ファスナー用スライダー、服飾副資材等の製造、販売を業
とする中国の企業であり、その代表者は、被告THGの代表者と同じであ
る。
エ 訴外会社は、ファスナー用スライダー、服飾資材等の販売等を業とする
10 香港の企業であり、被告東莞の取締役が代表者兼100%株主であり、被
告らの代表者が取締役を務めている。
(2) 本件意匠権
原告は、次の本件意匠権を保有していた。本件意匠権は令和3年3月24
日に存続期間が満了した。
15 意匠に係る物品 スライドファスナー用スライダーの胴体
登録番号 第1270572号
出願日 平成17年12月6日
登録日 平成18年3月24日
図面 別紙本件意匠図面目録のとおり
20 (3) 訴外会社によるイベントへの出展
訴外会社は、令和元年10月2日から同月4日にかけて、東京ビックサイ
トにおいて開催された「ファッションワールド東京」(メーカー、商社等が出
展し、経営者、バイヤー等が来場する仕入れ、選定のための展示会。以下、
同展示会を「本件イベント」という。)において、訴外会社名の展示ブース
25 (以下「本件展示ブース」という。)を出展し、別紙パンフレット目録記載の
パンフレット(以下「本件パンフレット」という。)を配布した。(甲3、4、
24、27)
(4) 被告THGのホームページにおけるスライダーの掲載
被告THGのホームページ(以下「本件ホームページ」という。)には、本
件意匠権の存続期間満了日である令和3年3月24日の時点で、別紙被告製
5 品目録記載3の図4の写真が掲載されていた。(甲6)
(5) 原告の訴外会社に対する通知
原告は、令和元年11月21日付け通知書(以下「本件通知書」という。)
をもって、訴外会社に対し、別紙被告製品目録記載1(【図1】)及び2(【図
2】及び【図3】)並びに別紙ブランド製品目録記載1及び2に各掲記の写真
10 と同一の写真を掲記した上で、訴外会社が製造及び販売したスライダーを用
いたこれらのようなブランド製品が日本国内において販売されており、当該
スライダーは本件意匠に類似し、本件意匠権を侵害するものであることから、
当該スライダーの製造及び販売を直ちに中止することを求める旨を通知した
が、訴外会社から原告に対する回答はなかった。(甲8)
15 (6) 特許庁による判定
原告は、令和元年12月17日、別紙被告製品目録記載1の図1の意匠が
本件意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属することについて判定請求を申
し立てたところ、特許庁は、令和2年5月19日、当該意匠が本件意匠及び
これに類似する意匠の範囲に属する旨の判定をした。なお、被告THGは、
20 上記手続において、そもそも別紙被告製品目録記載1の図1の製品を販売し
ていないとして、被告THGが販売するスライダーの意匠を争っていたが、
特許庁の判定においてこの点は判断されていなかった。(甲7、61)
(7) 消滅時効援用の意思表示
被告らは、原告が本件イベントにおいて意匠権侵害を認識したのであれば、
25 原告の損害賠償請求の少なくとも一部については消滅時効が完成していると
して、被告THGは令和6年2月21日の本件第1回弁論準備手続期日おい
て、被告東莞は令和7年12月5日の本件第14回弁論準備手続期日におい
て、それぞれ上記消滅時効を援用する旨の意思表示をした。
3 争点
(1) 本件意匠と被告各製品の意匠(以下「被告意匠」という。)の類否(争点1)
5 (2) 被告各製品が付されたブランド製品の日本国内での流通に係る被告らの不
法行為責任の有無(争点2)
(3) 被告各製品の日本国内における譲渡の申出に係る被告らの不法行為責任の
有無(争点3)
ア 本件イベントにおける展示による譲渡の申出(争点3-1)
10 イ 本件パンフレットの配布による譲渡の申出(争点3-2)
ウ 本件ホームページへの掲載による譲渡の申出(争点3-3)
(4) 原告の損害等(争点4)
(5) 被告らの不当利得(争点5)
(6) 消滅時効(争点6)
15 4 争点に関する当事者の主張
(1) 本件意匠と被告意匠の類否(争点1)
(原告の主張)
本件意匠と被告意匠は、別紙原告の主張(本件意匠と被告意匠の類否)の
とおり、類似する意匠といえる。
20 (被告らの主張)
不知ないし争う。
(2) 被告各製品が付されたブランド製品の日本国内での流通に係る被告らの不
法行為責任の有無(争点2)
(原告の主張)
25 ア 被告各製品が付されたブランド製品の日本国内での流通
被告各製品は、いずれも被告らが製造、販売したものであり、別紙被告
製品目録1ないし4記載の構成態様を有し、文章による特定で示したとお
り、本体に特定の文字が刻まれているか(被告製品1~3)、文字が一切刻
まれていないか(被告製品4)の違いがあるほかは、その要部は概ね同一
である。被告各製品は、次のとおり、マイケル・コースやケイト・スペー
5 ド(以下、これらを併せて「本件ブランド会社」という。)の製品に付され、
同製品が日本国内で流通していた。
(ア) 被告製品1
被告製品1は、本件ブランド会社の日本の代理店からスライダーのみ
を入手したものであり、本件ブランド会社の製品に付されて日本国内で
10 流通していた。
なお、被告製品1が付されていた製品の特定はできていない。
(イ) 被告製品2
被告製品2は、別紙対象製品目録1ないし7(以下、同目録記載の番
号に応じて「対象製品1」などという。)に付されていたものである。
15 このうち、対象製品1は、原告が令和元年10月に日本で購入したマ
イケル・コースの財布であり、本件通知書に掲記された別紙ブランド製
品目録記載1の製品(以下、同目録記載の番号に応じて「ブランド製品
1」などという。)の財布と同一である。
また、対象製品2は、原告が令和元年10月に日本で購入したケイ
20 ト・スペードのバッグであり、本件通知書中のブランド製品2と同一で
ある。
さらに、対象製品3ないし7については、具体的な流通時期は特定で
きないが、対象製品3ないし5は、ブランド製品3と、対象製品6はブ
ランド製品4と同じデザインであり、ブランド製品3及び4は、本件展
25 示ブースで展示されていたものであるから、対象製品3ないし6は令和
元年秋頃には日本で流通していた。なお、マイケル・コースのバッグへ
の被告各製品の採用は遅くとも令和3年3月24日までには終了してい
るが、本件意匠権の存続期間満了前に製造、販売されたものである。
(ウ) 被告製品3
被告製品3は、被告THGのホームページに掲載されているものであ
5 り、本件ブランド会社の製品に付されて日本国内で流通していた。
(エ) 被告製品4
被告製品4は、対象製品8に付されていたものである。対象製品8に
ついては、調査依頼書(甲59)において対象となっていた財布(甲5
8)であり、遅くとも令和元年8月には日本で流通していた。なお、原
10 告は、平成28年6月頃に別紙スライダー目録記載の各スライダーを入
手しており、同スライダーは被告製品4に含まれる。
イ 被告らの不法行為責任
被告らは、外形上は別会社であるが、被告THGの100%株主兼代表
者と訴外会社の100%株主兼代表者が共に被告東莞の取締役であること、
15 被告東莞が工場を保有し、製品の製造を主に行い、被告THGが販売を主
に行っていることなどからすれば、その法人格は形骸化しており、実質的
に同一の会社である。そして、被告らは、本件ブランド会社向けに被告各
製品を製造、販売し、被告各製品が付されたバッグや財布等が日本で流通
しているところ、以下のとおり、被告ら及び本件ブランド会社は、客観的
20 に関連し共同して、又は被告らの本件ブランド会社に対する教唆若しくは
幇助行為により本件意匠権の侵害という結果を発生させている。また、原
告から被告らに対する本件通知書の送付、判定請求の結果等からすれば、
被告らは、遅くとも令和元年末には本件意匠権の侵害行為を認識しており、
故意又は過失がある。
25 すなわち、被告THGのホームページには本件ブランド会社が顧客とし
て表示されているほか、ブランド会社は自身で使用するスライダー等の副
資材を指定、承認することが一般的であるところ、被告THGがマイケ
ル・コース宛てに価格見積書(甲69)を送付していることからすれば、
被告らは本件ブランド会社に対し直接営業をしていたことが裏付けられる。
また、被告各製品は原告製品のデッドコピー品であるところ、被告らは、
5 当該被告各製品が日本で流通する可能性があることを認識し、本件ブラン
ド会社に対し、被告各製品が日本で流通しないよう積極的に働きかける義
務があるにもかかわらず、これを果たしていない。加えて、被告らは、被
告各製品が付された本件ブランド会社のバッグ及び財布を展示会において
積極的に展示している。これらの事実からすれば、被告らは、被告各製品
10 が付された本件ブランド会社のバッグや財布等の日本における販売につき、
本件ブランド会社の共同不法行為者として損害賠償責任を負う。
また、被告らは、本件意匠の権利範囲に入り、原告製品のデッドコピー
品である被告各製品を製造、販売し、本件ブランド会社といった顧客に被
告各製品を提供しており、本件ブランド会社といった顧客が被告各製品を
15 採用するに際し、被告らはこれら顧客に対して当然何らかの営業行為を行
っているはずであるし、本件ブランド会社が被告各製品が付されたバッグ
や財布を日本で流通させることを容易ならしめている。したがって、被告
らは、本件ブランド会社による本件意匠の侵害行為を教唆又は幇助してお
り、損害賠償責任を負う。
20 なお、日本国内で意匠権侵害が発生している以上、仮に海外において共
同不法行為又は教唆若しくは幇助行為が行われたとしても、被告らは当然
に責任を負うと解すべきである。
(被告らの主張)
ア 被告各製品が付されたブランド製品の日本国内での流通
25 (ア) 被告製品1
原告の主張は否認する。
被告製品1は付されていた製品が何か分からず、その商流は全く不明
であって、被告らが製造、販売した製品であるか否かも分からない。
(イ) 被告製品2
原告の主張は否認する。
5 被告製品2は、被告らの製造、販売する製品であるか否かを確認する
ことができない。
対象製品1及び2の製品は、ブランド製品1及び2のものとは色が異
なり同一ではない。
対象製品3ないし7については、具体的な流通時期が特定されておら
10 ず、本件意匠の存続期間中に流通していたということはできない。そも
そも、対象製品3ないし7の写真は、スライダーの一部分を写したもの
で全体の形状が不明であり、被告らの製造、販売する製品であるか否か
を確認しようがない。
また、原告が同一のデザインであると主張する対象製品3ないし5と
15 ブランド製品3は、明らかに本体の色が異なっており、同一のものであ
るか否か明らかでない。そもそも、色違いのバッグ等は、基本的なデザ
インが同様でも、用いられる素材や付属される服飾資材などのディテー
ルが異なることが多く、製作を担当する縫製工場自体が異なることも多
いし、バッグ等は四半期ごとにそのデザインや用いられる服飾資材が変
20 動するものであり、本体の色が異なれば、仮に同じデザインであっても、
多かれ少なかれモデルチェンジをして異なる時期に製造、販売されるも
のである。
さらに、原告が同一のデザインであると主張する対象製品6とブラン
ド製品4も、明らかに本体の色が異なっており、上述のとおり同じであ
25 るかどうかは不明である。
(ウ) 被告製品3
別紙被告製品目録記載3の図4の写真が本件ホームページに掲載され
ていることは認めるが、その余は否認する。
なお、被告THGのホームページに「Non Lock Slide
r」として掲載されているスライダーは、正面視において右上部分が欠
5 けており、原告が主張する形状ではない。
(エ) 被告製品4
原告の主張は否認する。
原告主張の財布(甲58)と対象製品8は色が異なり同一のものとは
いえない。また、対象製品8のスライダーと別紙スライダー目録記載の
10 各スライダーが同一であるともいえない。さらに、当該各スライダーの
入手時期が平成28年6月頃であることを裏付ける証拠は、原告従業員
の陳述書(甲60)しかなく、具体的な入手時期、経路を裏付ける客観
的な証拠は一切提出されていない。
イ 被告らの不法行為責任
15 原告の主張は否認ないし争う。
被告らは、日本国内において被告製品を譲渡等していない。スライダー
等の製品について、被告らの主な取引先は中国や東南アジアの商社や縫製
工場であり、引渡しは中国及びカンボジア国内で行っている。被告らの取
り扱うスライダー等の服飾副資材の販売と特定ブランドの特定の製品との
20 間に一本道のつながりはなく、他のブランドやノーブランドの他の製品と
結び付く様々な分岐、可能性が存在するところ、被告らは、縫製工場等が
被告らの製品をどのように使用するのか、どのような製品に付されて、ど
こで販売されるのかを認識していない。
被告THGのホームページに本件ブランド会社が顧客として表示されて
25 いるのは、過去に本件ブランド会社のロゴが入った服飾副資材(乙9)を
取り扱ったことから顧客として表示しているものである。また、価格見積
書(甲69)は個別・特定の商品の価格を示すものではなく、一定のカテ
ゴリーの商品の大きさと色の組合せに対する標準価格を示すものであり、
取引の有無に関係なく、縫製工場や商社、ファッションブランド等に広く
頒布しているものである。
5 (3) 被告各製品の日本国内における譲渡の申出に係る被告らの不法行為責任の
有無(争点3)
ア 本件イベントにおける展示による譲渡の申出(争点3-1)
(原告の主張)
(ア) 譲渡の申出
10 訴外会社は、令和元年(2019年)秋に開催された本件イベントに
おいて、被告各製品が取り付けられた財布及びバッグを展示しており、
当該行為は被告各製品の譲渡の申出(譲渡のための展示)に当たるから、
本件意匠権を侵害するものである。本件展示ブースの訪問者は、本件ブ
ランド会社の製品において、ジッパーに関する被告らの製品が採用され
15 ていると認識することからも、上記展示行為が譲渡の申出に該当すると
いえる。
(イ) 被告らの不法行為責任
本件イベントの出展者は訴外会社であるものの、以下の事情によれば、
訴外会社の法人格は形骸化しており、訴外会社と被告らは実質的に同一
20 の会社である。すなわち、①平成29年(2017年)に開催されたフ
ァッションワールド東京において、被告THGの従業員が訴外会社の展
示会に参加し、接客をしていたこと、②被告THG及び訴外会社は共通
のブランドを用いていること、③対外的に示されている問合せのための
e-mailアドレス及び電話番号が共通していること、④対外的に示
25 されている住所が共通していること、⑤本件イベントの翌年である令和
2年(2020年)に開催されたファッションワールド東京には、訴外
会社ではなく被告THGが参加したほか、令和5年(2023年)の春
には被告THGが、同年の秋には訴外会社がそれぞれファッションワー
ルド東京に参加していること、⑥被告THGのチャンネルにおいて「T
H Zipper」が被告THGを構成するものとして紹介されている
5 こと、⑦訴外会社が著作権者として示されているホームページにおける
ドメインネームの権利者が被告THGであり、会社住所として被告TH
Gの住所が記載されていること、⑧被告THGのホームページで「TH
Zipper」を示す写真が用いられていること、⑨被告東莞が保有す
る「TH」という商標が被告ら及び訴外会社で共通して用いられている
10 ことが認められるから、これらの事実からすれば、被告THGと訴外会
社は、特に区別することなく事業が行われているといえる。
以上に加え、被告THGの100%株主兼代表者と訴外会社の10
0%株主兼代表者が共に被告東莞の取締役であること、被告THGの代
表者は過去に訴外会社の秘書を務めており人的に密接に関連しているこ
15 と、被告東莞が工場を保有し、製品の製造を主に行い、被告THGと訴
外会社が販売を主に行っていることからすれば、訴外会社の法人格は形
骸化しており、訴外会社と被告らは実質的に同一の会社であるか、仮に
実質的に同一の主体であると認められなくても、被告ら及び訴外会社は
極めて密接な関係があることから、訴外会社による譲渡の申出は、訴外
20 会社との共同不法行為に当たるか、少なくとも、被告らは、訴外会社に
よる譲渡の申出につき、教唆者又は幇助者としての不法行為責任を負う。
(被告らの主張)
否認ないし争う。
(ア) 譲渡の申出
25 本件展示ブースにおけるバッグ等の展示は、スライダーの譲渡等の申
出に該当しない。すなわち、本件展示ブースにおいて、スライダーは、
エレメント(ファスナーにおける噛み合わせの歯の部分)やテープ(ス
ライダー及びエレメントが取り付けられた布の部分)と違い、ファイリ
ングされた製品サンプルは展示されておらず、被告らのスライダーが付
されていたと原告が主張するバッグ等については、ブースの奥に設置さ
5 れている棚に並べられていただけであり、バッグ等に付されたスライダ
ーについての説明すら見受けられないから、スライダーについての譲渡
等を目的とした展示がされていたとはいえない。バッグ等の展示は、訴
外会社が取り扱っている製品が有名ブランドの製品に使用されているこ
とをアピールし、訴外会社自身やその取扱製品の信用を高め、製品サン
10 プルが並べられていたエレメントやテープ等の販売促進、営業を行う目
的で行われたものである。
(イ) 被告らの不法行為責任
本件展示ブースは、被告らが設営したものではなく、被告ら及び被告
らの代表者とは資本関係のない別会社である訴外会社が設営したもので
15 ある。被告らは、訴外会社に服飾副資材を販売しているが、単なる売買
取引の相手方であり、代理店契約等は存在しない。そもそも、訴外会社
は、他の服飾副資材メーカーの製品も広く扱っており、展示会では被告
ら以外の他社の商品も展示されている。被告らは、訴外会社が展示ブー
スで何を展示したか把握しておらず、原告が主張するバッグに取り付け
20 られたスライダーが被告らの製品かは不明である。
被告ら及び訴外会社間には実質的な支配関係はなく、営業所の所在地
は異なり、当然ながら決算や税務申告も別々に行われている。また、被
告らと訴外会社が共同で被告らの商品の販売を行うこともなく、会社法
等により要求される手続の無視、不遵守等もないから、被告ら及び訴外
25 会社について法人格が形骸化しているような事情は認められない。
以上によれば、被告らが訴外会社による本件展示ブースにおけるバッ
グ等の展示について不法行為責任を負うことはない。
イ 本件パンフレットの配布による譲渡の申出(争点3-2)
(原告の主張)
訴外会社は、本件イベントにおいて、本件パンフレットを配布していた
5 ところ、本件パンフレット中に掲載された黒色のバッグに付されたスライ
ダーは被告各製品であるから、本件パンフレットの配布は被告各製品の譲
渡の申出に当たり、本件意匠権を侵害するものである。上記ア(原告の主
張)で述べたことからすれば、上記アと同様に、被告らは、訴外会社によ
る譲渡及び譲渡の申出につき、共同不法行為者若しくは教唆者又は幇助者
10 として責任を負う。
また、仮に上記スライダーが他社のものであるとしても、被告各製品に
類似したスライダーが付されたバッグを掲載した行為は、事実上、被告各
製品に関するカタログを用いた勧誘又はパンフレットの配布に該当し、被
告各製品に関する譲渡の申出といえる。
15 (被告らの主張)
否認ないし争う。
本件パンフレットは、訴外会社が発行したものであり、被告らは見たこ
とがない。
なお、原告が主張するスライダーは他社(RACCAGNI CHIU
20 SURE LAMPO社)の製品であり、被告らの製品ではない。
ウ 本件ホームページへの掲載による譲渡の申出(争点3-3)
(原告の主張)
被告THGは、自らのホームページにおいて、被告製品3を掲載してお
り、日本国内において譲渡の申出を行っている。そして、上記ア(原告の
25 主張)で述べた被告ら及び訴外会社の関係からすれば、同主張で述べたと
おり、被告THGによる譲渡及び譲渡の申出につき、被告THGと被告東
莞は共同不法行為者に当たるか、少なくとも被告東莞は、被告THGの教
唆者又は幇助者として共同不法行為責任を負う。
(被告らの主張)
否認ないし争う。
5 本件ホームページは、英語又は中国語の表示しかなく、日本向けのもの
ではないから、日本国内において譲渡の申出があったとはいえない。
また、上記ホームページは、被告THGのものであって、被告東莞は無
関係である。
(4) 原告の損害等(争点4)
10 (原告の主張)
被告らは、業として、遅くとも平成28年1月から本件意匠の存続期間の
満了日である令和3年3月24日まで、被告各製品を生産、使用、譲渡及び
譲渡の申出をしていたところ、原告は、本件意匠に対応する製品であるDF
Hシリーズを本件意匠の登録日である平成18年3月24日から、またDF
15 H4シリーズを平成25年12月からそれぞれ現在まで継続して製造、販売
している。原告が、被告らの侵害の行為がなければ販売することができた物
品の単位数量当たりの利益の額に、被告らが譲渡した被告製品の数量を乗じ
て得た額は2億5000万円を下らない。また、弁護士費用として上記金額
の10%に当たる2500万円につき、被告らの不法行為と因果関係がある。
20 (被告らの主張)
否認ないし争う。
(5) 被告らの不当利得(争点5)
(原告の主張)
被告らは、本件意匠権を侵害する行為を行っているにもかかわらず、原告
25 に対して実施料の支払を行っておらず、不当な利得を得ている。被告各製品
が日本国内で流通し、現に本件意匠を有する原告のスライダーが被告各製品
に置き換わってしまっている現状を踏まえると、原告が完全に競合他社であ
る被告らに対して平均的な実施料率で使用許諾する関係にはなく、実施料率
は10%を下らない。被告らは、遅くとも平成28年1月から本件意匠の存
続期間の満了日である令和3年3月24日までに売上ベースで被告各製品を
5 20億円以上販売しているから、被告らは、少なくとも原告に対する2億円
の実施料の支払を免れており、被告らは、不当利得として同額を原告に返還
すべきである。
(被告らの主張)
否認ないし争う。
10 (6) 消滅時効(争点6)
(被告らの主張)
原告が、令和元年(2019年)秋に開催された本件イベントにおいて意
匠権侵害を認識したのであれば、それから3年が経過した時点で原告が主張
する損害賠償請求権の一部については消滅時効が完成しているから、予備的
15 に消滅時効を援用する。
(原告の主張)
否認ないし争う。
第3 当裁判所の判断
事案に鑑み、争点2及び3から判断する。
20 1 争点2(被告各製品が付されたブランド製品の日本国内での流通に係る被告
らの不法行為責任の有無)について
(1) 被告各製品が付されたブランド製品の日本国内での流通
ア 被告製品1について
原告自身が認めているとおり、被告製品1が付されていた製品は特定さ
25 れておらず、被告製品1が本件ブランド会社の製品に付されていたことを
認めるに足りる証拠はない。
したがって、被告製品1が付された本件ブランド会社の製品が日本国内
で流通していたとは認められない。
イ 被告製品2について
原告は、被告製品2が対象製品1ないし7に付されていたと主張するが、
5 対象製品1ないし7の写真(甲22、23、26)からは、対象製品1な
いし7に付されたスライダーが被告製品2であるか否かを判別することは
できない。
他方で、前提事実(5)のとおり、本件意匠権を侵害するスライダーとして、
別紙被告製品目録記載2の図2及び図3と同一の写真が使用されていると
10 認められることから、原告は、遅くとも本件通知書の作成日である令和元
年11月21日までに、上記スライダーが付いた製品を入手していたこと
が認められるところ、証拠(甲8、12、16)からすれば、上記図2の
スライダーはブランド製品1に、図3のスライダーはブランド製品2に付
されていたと認めるのが相当である(ただし、同写真のみでは、ブランド
15 製品1と対象製品1、ブランド製品2と対象製品2とが同一のものかは判
別することができない。)。
したがって、被告製品2については、ブランド製品1及び2に付されて
いたという限度で、日本国内において存在していたことを認めることがで
きる。
20 ウ 被告製品3について
被告製品3については、前提事実(4)のとおり、別紙被告製品目録記載3
の図4が、被告THGのホームページに掲載されていたことが認められる
ものの、本件ブランド会社の製品に被告製品3が付されていたことを認め
るに足りる証拠はない。
25 したがって、本件製品3が付された本件ブランド会社の製品が日本で流
通していたとは認められない。
エ 被告製品4について
原告は、被告製品4が対象製品8に付されていたと主張するが、証拠
(甲55)によっても、対象製品8のスライダーについては、エレメント
に係合されている状態の側面図しかなく、正面、平面、底面、側面、背面
5 のいずれについても、その全体を観察することはできないから、対象製品
8に付されているスライダーが被告製品4であると認めることはできない。
また、原告は、被告製品4として、別紙スライダー目録記載の各スライ
ダーを例として挙げるが、上記各スライダーについてはいずれも斜視図し
かなく、正面、平面、底面、側面、背面のいずれについても、その全体を
10 観察することはできないから、別紙スライダー目録記載の各スライダーが
被告製品4の構成を有するとは認められない。そして、その他、被告製品
4が本件ブランド会社の製品に付されていたことを認めるに足りる証拠は
ない。
したがって、被告製品4が付された本件ブランド会社の製品が日本で流
15 通していたとは認められない。
(2) 被告らの不法行為責任
上記(1)のとおり、被告製品2以外の被告各製品については、これが付され
た本件ブランド会社の製品が日本で流通していたとは認められないから、そ
の余の点について判断するまでもなく、被告らが不法行為責任を負うとは認
20 められない。他方で、被告製品2については、ブランド製品1及び2に付さ
れて日本国内において存在していたことから、被告らが不法行為責任を負う
か否かについて検討する。
ア 原告は、被告各製品が付された本件ブランド会社の製品が日本国内で流
通していたとして、被告らは本件ブランド会社の共同不法行為者として、
25 又は、本件ブランド会社に対する教唆者若しくは幇助者として責任を負う
と主張する。
しかし、本件ブランド会社の製品に付されていたと主張する被告各製品
の商流については何ら特定されておらず、被告らの行為や被告らと本件ブ
ランド会社との関係につき、その具体的な態様を基礎付けるに足りる証拠
もない。
5 これに対し、原告は、被告らと本件ブランド会社との関係や被告らの本
件ブランド会社に対する働きかけを示すものとして、本件ブランド会社が
顧客として表示されている被告THGのホームページ(甲28)や、マイ
ケル・コースを宛名とする被告THGの価格見積書(甲69)を挙げる。
しかし、原告提出の被告THGのホームページ(甲28)の表示は、単
10 に本件ブランド会社が顧客であると示されているだけであって、被告TH
Gと本件ブランド会社との接点を示すものであるとはいえても、被告各製
品に係る具体的な取引等の関係性は不明であるし、価格見積書(甲69)
についても、カタログ様のものであって、原告が問題とするバッグや財布
の流通等に関し、被告らによる積極的な関与や被告らと本件ブランド会社
15 との具体的な関係を直ちに基礎付けるものとはいえない。
イ また、弁論の全趣旨によれば、被告らにおけるスライダー等の製品の製
造は、中国など日本国外において行われており、その販売も日本国外の縫
製工場や商社に対するものであって、日本国内における製造、販売がある
とは認められないところ、被告らが日本国外において製造、販売したスラ
20 イダーがどのような製品に用いられ、どの地域で流通するのかなど、それ
以降の商流については本件における全証拠によっても不明といわざるを得
ない。
そうすると、仮に被告らの製造、販売するスライダーの意匠が本件意匠
に類似するものであることが認められたとしても、当該販売行為自体は日
25 本国外で行われているものであるから、意匠権についての属地主義の原則
に照らし、本件意匠権の効力は被告らによる上記販売行為には及ばず、本
件意匠権を侵害するものとは認められない。
これに対し、原告は、被告各製品が付された本件ブランド会社のバッグ
や財布が日本国内で流通していることをもって、被告らが本件ブランド会
社と客観的に関連し共同して本件意匠権の侵害を発生させることになると
5 主張するが、このような場合にまで被告らが共同不法行為責任を負うとす
れば、日本国の意匠権の効力が及ばない国外での行為であるにもかかわら
ず、当該行為の結果が日本国内での侵害行為に何らかの形で結び付きさえ
すれば、当該行為者に対し、同人の侵害行為に対する関与や認識の程度に
関係なく責任を負わせることとなり、実質的に見て、日本国外の行為にま
10 で無限定に日本国の意匠権の効力を及ぼすこととなることから、属地主義
の原則を没却するものといえ、失当といわざるを得ない。
ウ その他、被告らが、本件ブランド会社と共同し、又は本件ブランド会社
に対し何らかの教唆若しくは幇助行為をしたことを認めるに足りる証拠は
ないから、被告らについて、共同不法行為者又は教唆者若しくは幇助者と
15 しての責任を認めることはできないし、このことは、被告らが、本件ブラ
ンド会社の製品が日本で流通していることを認識しているか否かによって
左右されるものではない。
(3) 小括
以上によれば、被告各製品が付された本件ブランド会社の製品が日本国内
20 で流通しており、被告らが不法行為責任を負うとの原告の主張は理由がない。
2 争点3-1(本件イベントにおける展示による譲渡の申出)
(1) 証拠(甲4、24、27)及び弁論の全趣旨によれば、本件展示ブースに
おいて、エレメント及びテープについて様々なデザインのものがファイリン
グされ展示されていたこと、配布されたパンフレット(甲4)において、エ
25 レメントやテープの紹介がされているのに対し、スライダーについては同様
の展示やパンフレットでの紹介はなかったこと、バッグや財布の展示は、い
ずれもマイケル・コースの製品が各1点限りであり、展示されたバッグや財
布自体を販売するものではなかったことが認められる。
以上の認定事実によれば、当該バッグや財布は、エレメントやテープの販
売促進のために、これらの商品が採用された製品の一例として、参考に展示
5 されていたものであって、スライダーに関しては、本件展示ブースにおいて
販売又は販売を目的とした展示が行われたものではないと認めるのが相当で
ある。
そして、意匠法2条2項1号が規定する意匠の実施としての譲渡のための
展示には、展示だけを目的とする行為は含まれないから、仮に上記バッグや
10 財布に付されたスライダーの意匠が本件意匠に類似するものであったとして
も、当該スライダーに関し、意匠の実施に該当する譲渡のための展示があっ
たと認めることはできない。
また、証拠(甲3、27)によれば、本件展示ブースにおいて展示されて
いたバッグと財布はブランド製品3及び4であると認められるものの、上記
15 証拠中のブランド製品3及び4の写真からは、これらの製品のスライダーが
被告各製品であるのかは不明であるから、その意味においても、被告各製品
について譲渡のための展示があったと認めることはできない。
(2) 原告は、訴外会社の法人格は形骸化しており、被告らと訴外会社は実質的
に同一であるから、訴外会社の展示行為についても被告らが共同不法行為責
20 任を負うと主張するので、この点についても念のため検討する。
法人格の形骸化とは、法人格が全く形骸にすぎない場合をいい、法人とは
名ばかりで会社が実質的には株主の個人営業である状態、又は、子会社が親
会社の営業の一部門にすぎない状態がその典型であると解される。このよう
な法人格の形骸化の判定のためには、株主が当該法人を実質的に支配してい
25 ることに加えて、①会社財産と支配株主等の財産の混同(営業所や住所の共
有、会計区分の欠如等)、②会社と支配株主等の業務の混同(外見による区分
困難、同種事務の遂行等)、③株主総会・取締役会の不開催、株券の違法な不
発行など会社法、商法等により要求される手続の無視、不遵守といった徴表
がみられるかどうかに着目することが相当である。
これを本件についてみると、前提事実(1)のとおり、被告ら及び訴外会社に
5 は人的な繋がりがあり、また、証拠(甲17、18、47)によれば、被告
THG及び訴外会社が同じロゴを使用していることが認められることから、
被告ら及び訴外会社に一定の関係があることがうかがわれるが、原告が訴外
会社の法人格の形骸化を示すものとして主張する事情を併せ考慮しても、こ
れらは、いずれも被告ら及び訴外会社がそれぞれ独立の法主体として活動し
10 ていることと矛盾するものではなく、その他、被告ら及び訴外会社に関し、
何らかの支配関係があることや、財産、業務の混同等があることを認めるに
足りる証拠もないから、訴外会社の法人格が形骸化していると認めることは
できない。
また、被告らと訴外会社との間に、上記証拠からうかがわれる一定の関係
15 性があることを前提にしても、訴外会社による本件展示ブースでの展示行為
については、被告らの具体的な関与を認めるに足りる証拠はないから、仮に
訴外会社による展示行為が本件意匠権を侵害するものであるとしても、被告
らにおいて共同不法行為又は教唆若しくは幇助行為をしたものとして責任を
負うとは認められない。したがって、原告の上記主張は採用することができ
20 ない。
3 争点3-2(本件パンフレットの配布による譲渡の申出)について
証拠(甲4)及び弁論の全趣旨によれば、本件パンフレットに掲載された黒
色のバッグの付されたスライダーについては、そもそもその形状が明確ではな
く、これが被告各製品であるか不明であり、被告各製品について譲渡の申出が
25 あったとは認められない。
これに対し、原告は、当該スライダーが他社のものであるとしても、被告各
製品に類似したスライダーが付されたバッグを掲載したことが、被告各製品に
関する勧誘等に該当すると主張するが、その法的根拠は不明といわざるを得ず、
採用することができない。
また、本件パンフレットを配布したのは訴外会社であるところ、被告ら及び
5 訴外会社が実質的に同一であると認められないことは上記2のとおりであり、
本件パンフレットの作成、配布に関し、被告らの関与を認めるに足りる証拠も
ない。
したがって、本件パンフレットの配布につき、被告らが不法行為責任を負う
とは認められない。
10 4 争点3-3(本件ホームページへの掲載による譲渡の申出)
証拠(甲6、乙8)及び弁論の全趣旨によれば、本件ホームページには日本
語での表示機能はなく、英語又は中国語でのみ表示がされており、日本におけ
る連絡先の記載もないことが認められる。
そうすると、本件ホームページにおける別紙被告製品目録記載3の図4のス
15 ライダーの掲載をもって、被告らが日本国内において当該スライダーの譲渡の
申出を行っていると認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はな
い。
また、本件ホームページは被告THGのホームページであるところ、被告ら
が実質的に同一であると認めることができないことは上記2のとおりであり、
20 上記掲載行為につき、被告東莞の関与を認めるに足りる証拠もない。
したがって、上記ホームページの掲載につき、被告らが不法行為責任を負う
とは認められない。
5 小括
以上によれば、その余の争点について判断するまでもなく、原告の請求はい
25 ずれも理由がない。
第4 結論
よって、原告の請求はいずれも理由がないから、これらを棄却することとし
て、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官
澁 谷 勝 海
裁判官
本 井 修 平
裁判官
塚 田 久 美 子
(別紙)
被告製品目録
1 図1の構成態様を有するスライダー。
5 【図1】
【図1に示すスライダーの文章による特定】
A 本体部が、正面図及び背面図において、上端から左右の中央付近までを略半円
弧状としたあと、下に向かって凹弧状にくびれながら垂下し、全体がやや凸弧状
10 に膨出した下辺の両端と隅丸状に繋がった形状となっている。
B 本体部は、上翼板と、下翼板と、これら上翼板と下翼板を互いに連結する連結
柱とを有している。連結柱は、右側面図の上端側で設けられ、上翼板と下翼板を
正面図及び背面図における左右方向の中心で連結している。
C 引手部の基端が、上翼板の右側面図の左側の面(上面)に右側面図の上端側で
設けられている。引手部は右側面図において略縦長C字状となっており、右側面
図の下端側まで延び、その先端は上翼板の上面から離間している。
D 上翼板は、右側面図における中心を含む位置から下端側にかけて、右側面図の
5 右側(下方)に突出した上部フランジ部を有している。
E 下翼板は、右側面図における中心を含む位置から下端側にかけて、右側面図の
左側(上方)に突出した下部フランジ部を有している。
F 上翼板は上記Dの上部フランジ部を正面図の左側にも有し、一対の上部フラン
ジ部を有している。下翼板は上記Eの下部フランジ部を正面図の左側にも有し、
10 一対の下部フランジ部を有している。一対の上部フランジ部と一対の下部フラン
ジ部は互いに対向して設けられている。
G1 少なくとも、引手部の基端部の側面に「TH」の文字が刻まれ、先端部の側面
に「F」の文字が刻まれている。
2 図2又は図3の構成態様を有するスライダー。
【図2】
【図3】
【図2及び図3に示すスライダーの文章による特定】
A 本体部が、正面図及び背面図において、上端から左右の中央付近までを略半円
5 弧状としたあと、下に向かって凹弧状にくびれながら垂下し、全体がやや凸弧状
に膨出した下辺の両端と隅丸状に繋がった形状となっている。
B 本体部は、上翼板と、下翼板と、これら上翼板と下翼板を互いに連結する連結
柱とを有している。連結柱は、右側面図の上端側で設けられ、上翼板と下翼板を
正面図及び背面図における左右方向の中心で連結している。
10 C 引手部の基端が、上翼板の右側面図の左側の面(上面)に右側面図の上端側で
設けられている。引手部は右側面図において略縦長C字状となっており、右側面
図の下端側まで延び、その先端は上翼板の上面から離間している。
D 上翼板は、右側面図における中心を含む位置から下端側にかけて、右側面図の
右側(下方)に突出した上部フランジ部を有している。
15 E 下翼板は、右側面図における中心を含む位置から下端側にかけて、右側面図の
左側(上方)に突出した下部フランジ部を有している。
F 上翼板は上記Dの上部フランジ部を正面図の左側にも有し、一対の上部フラン
ジ部を有している。下翼板は上記Eの下部フランジ部を正面図の左側にも有し、
一対の下部フランジ部を有している。一対の上部フランジ部と一対の下部フラン
ジ部は互いに対向して設けられている。
G2 少なくとも、引手部の先端部の側面に「TH」の文字が刻まれている。
3 図4の構成態様を有するスライダー。
【図4】
5 【図4に示すスライダーの文章による特定】
A 本体部が、正面図及び背面図において、上端から左右の中央付近までを略半円
弧状としたあと、下に向かって凹弧状にくびれながら垂下し、全体がやや凸弧状
に膨出した下辺の両端と隅丸状に繋がった形状となっている。
B 本体部は、上翼板と、下翼板と、これら上翼板と下翼板を互いに連結する連結
10 柱とを有している。連結柱は、右側面図の上端側で設けられ、上翼板と下翼板を
正面図及び背面図における左右方向の中心で連結している。
C 引手部の基端が、上翼板の右側面図の左側の面(上面)に右側面図の上端側で
設けられている。引手部は右側面図において略縦長C字状となっており、右側面
図の下端側まで延び、その先端は上翼板の上面から離間している。
15 D 上翼板は、右側面図における中心を含む位置から下端側にかけて、右側面図の
右側(下方)に突出した上部フランジ部を有している。
E 下翼板は、右側面図における中心を含む位置から下端側にかけて、右側面図の
左側(上方)に突出した下部フランジ部を有している。
F 上翼板は上記Dの上部フランジ部を正面図の左側にも有し、一対の上部フラン
20 ジ部を有している。下翼板は上記Eの下部フランジ部を正面図の左側にも有し、
一対の下部フランジ部を有している。一対の上部フランジ部と一対の下部フラン
ジ部は互いに対向して設けられている。
G3 少なくとも、引手部の先端部の側面に「TH」の文字が刻まれ、基端部の側面
に「S」の文字が刻まれている。
4 少なくとも以下の要件を満たすスライダー。
(図1~図4で示した被告製品目録1~3において、G1~G3の要件以外の要件を
少なくとも満たすスライダー。)
5 A 本体部が、正面図及び背面図において、上端から左右の中央付近までを略半円
弧状としたあと、下に向かって凹弧状にくびれながら垂下し、全体がやや凸弧状
に膨出した下辺の両端と隅丸状に繋がった形状となっている。
B 本体部は、上翼板と、下翼板と、これら上翼板と下翼板を互いに連結する連結
柱とを有している。連結柱は、右側面図の上端側で設けられ、上翼板と下翼板を
10 正面図及び背面図における左右方向の中心で連結している。
C 引手部の基端が、上翼板の右側面図の左側の面(上面)に右側面図の上端側で
設けられている。引手部は右側面図において略縦長C字状となっており、右側面
図の下端側まで延び、その先端は上翼板の上面から離間している。
D 上翼板は、右側面図における中心を含む位置から下端側にかけて、右側面図の
15 右側(下方)に突出した上部フランジ部を有している。
E 下翼板は、右側面図における中心を含む位置から下端側にかけて、右側面図の
左側(上方)に突出した下部フランジ部を有している。
F 上翼板は上記Dの上部フランジ部を正面図の左側にも有し、一対の上部フラン
ジ部を有している。下翼板は上記Eの下部フランジ部を正面図の左側にも有し、
20 一対の下部フランジ部を有している。一対の上部フランジ部と一対の下部フラン
ジ部は互いに対向して設けられている。
(別紙)
本件意匠図面目録
【正面図】 【A-A断面図】
【平面図】 【右側面図】
【底面図】 【背面図】
(別紙)
パンフレット目録
(別紙)
ブランド製品目録
1
2
3
15 4
(別紙)
対象製品目録
1
2
3
4
5
6
7
8
(別紙)
スライダー目録
スライダーA
スライダーB
スライダーC
スライダーD
スライダーE
スライダーF
(別紙)
原告の主張(本件意匠と被告意匠の類否)
(1)本件意匠の説明
本件意匠は、意匠に係る物品を「スライドファスナー用スライダーの胴体」とし、
5 その形態の要旨を、次のとおりとする(甲2参照)。
すなわち、
ア.基本的な構成態様は、本体部は正面図及び背面図の上方において幅広形状と
なり、下方において幅狭形状となり、両形状は遷移部分において滑らかな曲線
によって連結され、いずれにおいても丸みを帯びた形状となっている。本体部
10 の正面図及び背面図の上下方向の長さ(進行方向の長さ)と左右方向の長さ
(幅方向の長さ)の差は小さくなり、本体部の正面図及び背面図の上下方向の
長さ(進行方向の長さ)と左右方向の長さ(幅方向の長さ)の比は約1.1
7:1となっている。引手部も、正面図及び背面図において、丸みを帯びた形
状となっている。右側面図及びA-A断面図に示すとおり、本体部は、上翼板
15 と、下翼板と、これら上翼板と下翼板を互いに連結する連結柱とを有している。
この本体部の上面に引手部が設けられている。上翼板は、右側面図において、
連結柱と重複しない位置で、下方に突出した上部フランジ部を有している。下
翼板は、右側面図において、連結柱と重複しない位置で、上方に突出した下部
フランジ部を有している。平面図及び底面図で示すとおり、連結柱は、上翼板
20 と下翼板を左右方向の中心で連結している。
イ.具体的な構成態様は、右側面図及びA-A断面図に示すとおり、連結柱は本
体部の端部(右側面図及びA-A断面図の上側端部)で上翼板と下翼板とを連
結している。右側面図において、連結柱の逆側の端部(右側面図及びA-A断
面図の下側端部)と上部フランジ部及び下部フランジ部の端部(右側面図及び
25 A-A断面図の上側端部)との間には若干の間隙が設けられている。引手部の
根本部が本体部に連結されているが、根本部と逆側端部である先端部は、右側
面図及びA-A断面図において、幅が大きくなっている。平面図及び底面図で
示すとおり、引手部の左右方向の幅は、連結柱の左右方向の幅と比較して若干
大きくなっている。引手部の根本部の端部が上翼板の端部から若干ずれて設け
られ、引手部の先端部の端部が先細形状となっている。
5 ウ.上記説明で用いた各部分を図面の該当箇所で示しておく(参考図)。
(2)被告製品の説明
被告製品は、以下のような形状となっている。
すなわち、
ア.基本的な構成態様は、本体部は正面図及び背面図の上方において幅広形状と
5 なり、下方において幅狭形状となり、両形状は遷移部分において滑らかな曲線
によって連結され、いずれにおいても丸みを帯びた形状となっている。本体部
の正面図及び背面図の上下方向の長さ(進行方向の長さ)と左右方向の長さ
(幅方向の長さ)の差は小さくなり、本体部の正面図及び背面図の上下方向の
長さ(進行方向の長さ)と左右方向の長さ(幅方向の長さ)の比は約1.2
10 1:1となっている。引手部も、正面図及び背面図において、丸みを帯びた形
状となっている。右側面図に示すとおり、本体部は、上翼板と、下翼板と、こ
れら上翼板と下翼板を互いに連結する連結柱とを有している。この本体部の上
面に引手部が設けられている。上翼板は、右側面図において、連結柱と重複し
ない位置で、下方に突出した上部フランジ部を有している。下翼板は、右側面
15 図において、連結柱と重複しない位置で、上方に突出した下部フランジ部を有
している。平面図及び底面図で示すとおり、連結柱は、上翼板と下翼板を左右
方向の中心で連結している。
イ.具体的な構成態様は、右側面図に示すとおり、連結柱は本体部の端部(右側
面図の上側端部)で上翼板と下翼板とを連結している。右側面図において、連
20 結柱の逆側の端部(右側面図の下側端部)と上部フランジ部及び下部フランジ
部の端部(右側面図の上側端部)との間には若干の間隙が設けられている。引
手部の根本部が本体部に連結されているが、根本部と逆側端部である先端部は、
右側面図において、幅が大きくなっている。平面図及び底面図で示すとおり、
引手部の左右方向の幅は、連結柱の左右方向の幅と比較して若干大きくなって
25 いる。引手部の根本部の端部が上翼板の端部に合致し設けられ、引手部の先端
部の端部が平らな形状となっている。
(3)本件意匠と被告製品との比較説明(甲2及び甲12)
ア.両意匠の共通点
(ア)両意匠は、意匠に係る物品が「スライダーの胴体」で一致している。
(イ)基本的な構成態様において、本体部は正面図及び背面図の上方において幅広
5 形状となり、下方において幅狭形状となり、両形状は遷移部分において滑らか
な曲線によって連結され、いずれにおいても丸みを帯びた形状となっている。
本体部の正面図及び背面図の上下方向の長さ(進行方向の長さ)と左右方向の
長さ(幅方向の長さ)の差は小さくなり、本体部の正面図及び背面図の上下方
向の長さ(進行方向の長さ)と左右方向の長さ(幅方向の長さ)の比は約1.
10 2:1となっている。引手部も、正面図及び背面図において、丸みを帯びた形
状となっている。右側面図に示すとおり、本体部は、上翼板と、下翼板と、こ
れら上翼板と下翼板を互いに連結する連結柱とを有している。この本体部の上
面に引手部が設けられている。上翼板は、右側面図において、連結柱と重複し
ない位置で、下方に突出した上部フランジ部を有している。下翼板は、右側面
15 図において、連結柱と重複しない位置で、上方に突出した下部フランジ部を有
している。平面図及び底面図で示すとおり、連結柱は、上翼板と下翼板を左右
方向の中心で連結している。
(ウ)具体的な構成態様において、右側面図に示すとおり、連結柱は本体部の端部
(右側面図の上側端部)で上翼板と下翼板とを連結している。右側面図におい
20 て、連結柱の逆側の端部(右側面図の下側端部)と上部フランジ部及び下部フ
ランジ部の端部(右側面図の上側端部)との間には若干の間隙が設けられてい
る。引手部の根本部が本体部に連結されているが、根本部と逆側端部である先
端部は、右側面図において、幅が大きくなっている。平面図及び底面図で示す
とおり、引手部の左右方向の幅は、連結柱の左右方向の幅と比較して若干大き
25 くなっている。
イ.両意匠の差異点
(ア)本件意匠では、引手部の根本部の端部が上翼板の端部から若干ずれて設けら
れているのに対して、被告製品では、引手部の根本部の端部が上翼板の端部に
合致している。
(イ)本件意匠では、引手部の先端部の端部が先細形状とはなっているのに対して、
5 被告製品では、引手部の先端部の端部が平らな形状となっている。
ウ.本件意匠の要部
上記先行周辺意匠のように、従来の意匠においては、本体部の進行方向に沿っ
た長さが、当該進行方向に直交する幅方向の長さと比較して、相当程度、長くな
っており、細長い印象を与えるものとなっている。これに対して、本件意匠では、
10 本体部の進行方向に沿った長さと当該進行方向に直交する幅方向の長さとの差が
小さく、本体部の進行方向に沿った長さが進行方向に直交する幅方向の長さの1.
2倍程度となり、全体として、丸みを帯びた印象を与えるものとなっている。こ
の印象は、本体部の幅広形状及び幅狭形状とこれらを連結する遷移部分のいずれ
においても丸みを帯びた形状となり、引手部も丸みを帯びていることによって、
15 より強調されている。
スライダーがバッグ等で利用される場合、スライダーのうち本体部の正面図に
おける形状を需要者は最も目にすることになることも鑑みると、本件意匠では、
本体部の幅広形状及び幅狭形状とこれらを連結する遷移部分のいずれにおいても
丸みを帯びた形状となり、本体部の進行方向に沿った長さと当該進行方向に直交
20 する幅方向の長さとの差が小さくなり、本体部の進行方向に沿った長さが進行方
向に直交する幅方向の長さの1.2倍程度となる点は、需要者に対いて最も印象
を与える形状である。
エ.本件意匠と被告製品との類否の考察
そこで、本件意匠と被告製品の共通点及び差異点を比較検討するに、
25 (ア)両意匠の共通点は、特に、本体部の正面図及び背面図の上下方向の長さ(進
行方向の長さ)と左右方向の長さ(幅方向の長さ)の差が小さくなり、本体部
の進行方向に沿った長さが当該進行方向に直交する幅方向の長さの1.2倍程
度になり、かつ本体部の幅広形状及び幅狭形状とこれらを連結する遷移部分の
いずれにおいても丸みを帯びた形状となっている点である。
両意匠の各々において引手部が丸みを帯びていることも相まって、両意匠は、
5 全体として丸みを帯びた印象を与えるものとなっている。
これらの形状は、両意匠の類否判断に大きな影響を与えるものである。
(イ)両意匠の差異点の(3)イについては、わずかな差異であり、上記共通点が
与える印象を考慮すれば、類否の判断に与える影響は微弱である。
(ウ)以上の認定、判断を前提として両意匠を全体的に考察すると、両意匠の差異
10 点は、類否の判断に与える影響はいずれも微弱なものであって、共通点を凌駕
しているものとはいえず、それらが纏まっても両意匠の類否判断に及ぼす影響
は、その結論を左右するまでには至らないものである。
(4)小括
以上の次第であるので、被告製品は少なくとも本件意匠に類似する意匠の範囲に
15 属する。
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