令和6(ワ)6010特許権侵害差止等請求事件
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| 裁判所 |
請求棄却 大阪地方裁判所
|
| 裁判年月日 |
令和8年3月12日 |
| 事件種別 |
民事 |
| 当事者 |
原告株式会社シー・オー・コンヴ 被告株式会社ワッセイ・ソフトウエア・テクノロジー
|
| 法令 |
特許権
特許法101条2号2回 特許法102条2項1回 特許法100条1項1回
|
| キーワード |
侵害15回 進歩性12回 無効9回 特許権8回 実施8回 間接侵害6回 損害賠償4回 差止2回
|
| 主文 |
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
| 事件の概要 |
1 本判決で用いる呼称(略語)
(1) 本件特許(権)
:特許第4808275号に係る特許(権)
。
(本件特許権にか
かる明細書及び図面は
「本件明細書」
。
本件明細書の内容は、
別紙特許公報記載
のとおり。なお、本件明細書中の段落は、
【
(4桁の数字)
】として示す。
) |
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判決文
令和8年3月12日判決言渡 同日原本受領 裁判所書記官
令和6年(ワ)第6010号 特許権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日 令和7年12月18日
判 決
原告 株式会社シー・オー・コンヴ
代表者代表取締役
訴訟代理人弁護士 田上洋平
同 小野夏海
10 訴訟代理人弁理士 森脇正志
同 安藤康浩
被告 株式会社ワッセイ・ソフトウエア・
テクノロジー
15 代表者代表取締役
訴訟代理人弁護士 紋谷崇俊
同 宮下佳之
同 井深大
主 文
20 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 被告は、別紙被告製品目録記載1の製品を輸入し、製造し、販売し、又は販売
25 の申出をしてはならない。
2 被告は、別紙被告製品目録記載1の製品を廃棄せよ。
3 被告は、原告に対し、1億円及び内6266万8629円に対する令和2年3
月31日から支払済みまで年5分の、内3733万1371円に対する令和6年
5月31日から支払済みまで年3パーセントの各割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
5 1 本判決で用いる呼称(略語)
(1) 本件特許(権)
:特許第4808275号に係る特許(権)。
(本件特許権にか
かる明細書及び図面は「本件明細書」。本件明細書の内容は、別紙特許公報記載
のとおり。なお、本件明細書中の段落は、【(4桁の数字)】として示す。)
(2) 本件発明:本件特許の特許請求の範囲請求項1の発明
10 (3) 被告製品:別紙被告製品目録記載1ないし3の製品の総称。なお、同記載1
ないし3のものを個別にいうときは、その番号を用いて被告製品1等という。
(4) 第1要件(等)
:最高裁平成6年(オ)第1083号同10年2月24日第三
小法廷判決・民集52巻1号113頁において判示された、均等侵害が成立す
るための各要件(第1要件:非本質的部分、第2要件:置換可能性、第3要件:
15 置換容易性、第4要件:容易推考性、第5要件:意識的除外)。
(5) 乙12発明:特開平9-34825号(乙12。以下「乙12文献」という。
平成9年2月7日公開)に記載の発明
(6) 乙13発明:特開2000-57039号(乙13。以下「乙13文献」と
いう。平成12年2月25日公開)に記載の発明
20 (7) 乙20発明:特開2007-179178号(乙20。以下「乙20文献」
という。平成19年7月12日公開)に記載の発明
(8) 乙21発明:特開2007-148906号(乙21。以下「乙21文献」
という。平成19年6月14日公開)に記載の発明
2 原告の請求
25 被告製品が原告の特許権を侵害することを前提とする、
(1) 特許法100条1項に基づく被告製品1の販売等の差止め
(2) 同条2項に基づく被告製品1の廃棄
(3) 不法行為(民法709条)に基づく損害賠償請求及びこれに対する平成29
年法律第44号による改正施行前日(令和2年3月31日)までに発生した損
害に対する同日から支払済みまで年5分の、施行日から令和6年5月31日ま
5 で発生した損害に対する同日から支払済みまで年3パーセントの割合による
遅延損害金の支払請求(明示的一部請求)
3 前提事実
(1) 当事者
ア 原告は、コンピュータソフトウェア開発及びソフトウェア販売等を目的と
10 する株式会社である。
イ 被告は、インターネットを利用した通信販売業並びに情報提供等を目的と
する株式会社である。
(2) 本件特許権の書誌的事項等
原告は、本件特許権を有している。
15 本件特許権の書誌的事項は、次のとおりである。
ア 特許番号 特許第4808275号
イ 優先日 平成19年11月26日
ウ 出願日 平成20年5月5日
エ 登録日 平成23年8月26日
20 オ 発明の名称 ネットワークブートシステム
(3) 本件発明の構成要件の分説
本件発明は、次のとおり構成要件に分説される(以下各構成要件を「構成要
件A」などという。)。
A クライアント端末上で動作するオペレーティングシステムを提供するネ
25 ットワークブートサーバと、物理的な記憶装置を備えたクライアント端末と
がネットワークを通じて接続され、
B 前記クライアント端末は、前記オペレーティングシステム起動中に必要な
データを一時的に保存することができる物理メモリと、前記ネットワークを
介して前記サーバにアクセスするためのネットワークインターフェースと
を備えていると共に、
5 C 前記オペレーティングシステムは、
C1 前記ネットワークインターフェースを駆動するためのネットワークド
ライバと、
C2 前記クライアント端末のローカルバスに対するアクセスを前記ネット
ワークに対するアクセスに変換するためのフィルタドライバと、
10 C3 前記記憶装置を駆動するためのリードキャッシュドライバを備えてお
り、
D 前記リードキャッシュドライバが、
D1 前記クライアント端末から読み出し要求信号を受けた際には前記フィ
ルタドライバによって前記サーバから読み出されたデータを前記記憶装置
15 の読み出しキャッシュ領域にキャッシュデータとして保存し、
D2 前記読み出しキャッシュ領域に対して書き込み要求信号を受けた際に
は
D2-1 書き込み要求信号を受けたことを記憶すると共に
D2-2 その領域に対するキャッシュデータを使用しないように制御する
20 ことを特徴とする
E ネットワークブートシステム。
(4) 被告の行為等
ア 被告製品の販売の申出等
被告は、平成29年7月6日、被告のウェブサイト上で、被告製品2が発
25 売されることを告知した。また、被告は、令和5年12月8日、同様に、被
告製品1が発売されることを告知した。
イ 原告による警告書の送付
原告は、令和元年7月24日、被告に対し、被告製品2が本件特許権を侵
害しているとの内容の警告書を送付した(甲7)。
(5) 消滅時効の援用
5 原告は、令和6年6月18日、本件訴訟を提起した。
被告は、本件手続において、令和3年6月17日以前の被告の行為に係る損
害賠償請求権について、消滅時効を援用する旨の意思表示をした。
(6) 被告製品の構成に関する主張
被告製品ないし被告製品を組み込んだシステムの構成に関する当事者の主
10 張は別紙「被告製品が組み込まれたシステムの構成に関する主張の対比」のと
おりである(一部同じ語が異なる意義で用いられることがあるものを含む。)。
4 争点
被告は、ソフトウェアを提供するのみで、
「サーバ」や「クライアント端末」な
どを含む「システム」の輸入、製造、販売及びその申出を行っていないとする一
15 方で(この主張を踏まえ、原告は、予備的に間接侵害の主張(争点2)をしてい
る。)、被告製品を組み込んだシステムに関しても構成要件充足性を正面から争っ
ている。これを踏まえた争点は、次のとおりである。
(1) 被告製品が、本件特許の技術的範囲に属するか(争点1)
ア 構成要件A、B及びEを充足するか(争点1-1)
20 イ 構成要件C1を充足するか(争点1-2)
ウ 構成要件C2、C3及びDを充足するか(争点1-3)
エ 構成要件C2を充足するか(争点1-4)
オ 構成要件C3及びDを充足するか(争点1-5)
カ 構成要件D1及びD2を充足するか(争点1-6)
25 キ 構成要件D2-1を充足するか(争点1-7)
ク 構成要件D2-2を充足するか(争点1-8)
ケ 構成要件D1、D2及びD2-2における「読み出しキャッシュ領域」に
関し、被告製品の構成が均等なものか(争点1-9)
(2) 間接侵害が成立するか(争点2)
(3) 本件特許に次の無効理由があるか(争点3)
5 ア 乙12発明を主引例、乙13発明を副引例とする進歩性欠如(争点3-1)
イ 乙12発明を主引例、乙20発明を副引例とする進歩性欠如(争点3-2)
ウ 乙12発明を主引例、乙21発明を副引例とする進歩性欠如(争点3-3)
エ 乙12発明を主引例とし、これに周知技術を組み合わせる進歩性欠如(争
点3-4)
10 オ 明確性要件違反(争点3-5)
カ サポート要件違反(争点3-6)
(4) 原告の被った損害(争点4)
なお、被告は、令和3年6月17日以前の損害賠償請求権につき、消滅時効の
主張をしている。
15 第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1-1(構成要件A、B及びEを充足するか)について
【原告の主張】
(1) 本件発明における「ネットワークブートシステム」とは、ネットワークを介
してオペレーティングシステムを起動するシステムを意味する(【0002】)。
20 被告製品も、ネットワークを介してオペレーティングシステムを起動するシ
ステムであるから、本件発明における「ネットワークブートシステム」に該当
する。実施例に記載されている、サーバ上の仮想ディスクからオペレーティン
グシステムを起動することを基本とするシステムに限定して解釈すべき理由
はない。
25 被告製品においても、サーバに仮想ディスクの実体が保存されている。そう
すると、被告製品においては、仮想ディスクテーブルがクライアント端末上に
常駐していたとしても、サーバに仮想ディスクが存在するから、被告製品は、
本件発明における「ネットワークブートシステム」に該当する。
よって、被告製品は、構成要件Eを充足する。
(2) 被告の主張について
5 被告は、被告製品が、本件発明における「ネットワークブートシステム」に
該当しないことを前提として、構成要件Aにおける「ネットワークブートサー
バ」、構成要件Bにおける「前記サーバ」を備えていないと主張する。しかし、
上記のとおり、被告製品は、本件発明における「ネットワークブートシステム」
に該当するから、構成要件A及び構成要件Bを充足する。
10 【被告の主張】
(1) 本件明細書に記載されている実施例は、いずれも、サーバ上の仮想ディスク
からオペレーティングシステムを起動するシステムとなっており、本件発明も、
そのことが前提となっている。よって、本件発明における「ネットワークブー
トシステム」とは、ネットワークを介してサーバ上の仮想ディスクからオペレ
15 ーティングシステムを起動することを基本とするシステムをいうものと解す
べきである。
一方、被告製品を組み込んだシステムは、クライアント端末に常駐された仮
想ディスクテーブルからオペレーティングシステムを起動するシステムであ
り、仮想ディスクをクライアント端末上に常駐させており、サーバ上には仮想
20 ディスクがない。この点、原告は、被告製品においても仮想ディスクの実体が
サーバに保存されていることを指摘する。しかし、サーバに保存されている実
体データは、オペレーティングシステムを起動する際に用いられるものではな
いから、本件明細書上の概念としての「仮想ディスク」には該当しない。
よって、被告製品を組み込んだシステムは、本件発明における「ネットワー
25 クブートシステム」には該当しないから、被告製品は、構成要件Eを充足しな
い。
(2) 構成要件Aにおける「ネットワークブートサーバ」及び構成要件Bにおける
「前記サーバ」とは本件発明における「ネットワークブートシステム」の機能
を提供するサーバであるが、上記のとおり、被告製品を組み込んだシステムは、
本件発明における「ネットワークブートシステム」には該当しないから、被告
5 製品は、同「ネットワークブートサーバ」を備えない。
(3) よって、被告製品は、構成要件A、B及びEを充足しない。
2 争点1-2(構成要件C1を充足するか)について
【原告の主張】
構成要件C1における「ネットワークインターフェースを駆動するためのネッ
10 トワークドライバ」とは、イーサネットカード等のネットワークインターフェー
スを駆動させるためのソフトウェア(ドライバ)を意味するところ、被告製品も、
ネットワークブートシステムであり、ネットワークを介してディスクイメージを
マウントすることを当然の前提としているから、ネットワークインターフェース
を備える。そして、ネットワークインターフェースは、ネットワークドライバな
15 しでは駆動し得ないから、被告製品は、当然、
「ネットワークインターフェースを
駆動するためのネットワークドライバ」を備える。
この点、被告は、
「ネットワークドライバ」の意義を、実施例に関する段落【0
024】から、サーバ側に設けられる仮想ディスクの実体データと通信するドラ
イバに限定して解釈しているが、そのように限定して解釈しなければ本件発明の
20 課題が解決できないといった事情は存在しないから、根拠がない限定解釈である。
よって、被告製品は、構成要件C1を充足する。
【被告の主張】
前記のとおり、本件発明は、サーバ上の仮想ディスクからオペレーティングシ
ステムを起動することを前提としている。よって、構成要件C1における「ネッ
25 トワークドライバ」は、サーバ上の仮想ディスクと通信をする機能を提供するも
のと解釈される。
一方、被告製品は、仮想ディスクテーブルがクライアント端末に常駐し、これ
を、オペレーティングシステムを格納したディスクとして認識させており、サー
バ側に仮想ディスクが保存されることはないから、構成要件C1における「ネッ
トワークドライバ」を備えない。
5 よって、被告製品は構成要件C1を充足しない。
3 争点1-3(構成要件C2、C3及びDを充足するか)について
【原告の主張】
構成要件C2の「クライアント端末のローカルバスに対するアクセスを」「ネ
ットワークに対するアクセスに変換するためのフィルタドライバ」とは、被告製
10 品の構成では、
「エミュレータドライバ」と「フィルタドライバ」を併せたものに
対応する。また、被告製品も、クライアント端末の記憶装置を駆動させる以上、
構成要件C3及びDの「リードキャッシュドライバ」を有する。
この点、被告は、本件発明において「フィルタドライバ」と「リードキャッシ
ュドライバ」が区別されていることを踏まえ、これらがそれぞれ単体として存在
15 するドライバでなければならないと主張する。しかし、
「ドライバ」とはプログラ
ムであって、プログラムとしてフィルタドライバとリードキャッシュドライバを
個別に作成するか、両者をまとめて一体のものとして作成するかは、当業者にお
いて適宜実施可能な設計事項に過ぎないし、本件発明の課題解決のために、これ
らが独立したものと解すべき必然性もない。
20 よって、被告製品は、構成要件C2、C3及びDの「フィルタドライバ」及び
「リードキャッシュドライバ」を備えているから、同各構成要件を充足する。
【被告の主張】
原告は、被告製品における「エミュレータドライバ」及び「フィルタドライバ」
を併せると、構成要件C2における「フィルタドライバ」並びに構成要件C3及
25 びDの「リードキャッシュドライバ」を有すると主張する。
ここで、本件発明では「リードキャッシュドライバ」と「フィルタドライバ」
は、それぞれ独立して異なる処理を行うためのプログラムとして定義されており、
それぞれが単体として存在するドライバであることが前提とされている。しかし、
原告は、被告製品における「エミュレータドライバ」及び「フィルタドライバ」
を以て本件発明における「フィルタドライバ」及び「リードキャッシュドライバ」
5 に該当すると主張しており、
「フィルタドライバ」及び「リードキャッシュドライ
バ」を区別できていない。
そうすると、被告製品は、構成要件C2、C3及びDにいう、相互に独立した
「フィルタドライバ」及び「リードキャッシュドライバ」を備えないから、同各
構成要件を充足しない。
10 4 争点1-4(構成要件C2を充足するか)について
【原告の主張】
被告製品における「フィルタドライバ」及び「エミュレータドライバ」
(具体的
なファイル名は「PhantosysClient1.sys」及び「WdapiNicFilter.sys」)は、ネッ
トワークを介してサーバからデータを読み込む機能を有しており、これは、クラ
15 イアント端末のローカルバスに対するアクセスをネットワークに対するアクセ
スに変える機能にほかならない。
よって、被告製品は、構成要件C2を充足する。
【被告の主張】
本件発明における「フィルタドライバ」が提供する「ローカルバスに対するア
20 クセスを」
「ネットワークに対するアクセスに変換」するとは、
「ローカルディス
クにアクセスすることに代えて、サーバのディスクイメージにアクセスする」こ
とを意味する(【0023】)。
ここで、被告製品におけるデータの読み出し要求は、クライアント端末に備え
られた仮想ディスクに対して行われるが、ここにいう仮想ディスクとは、ローカ
25 ルバスに接続されていない論理ドライブである。よって、仮想ディスクへのアク
セスは、
「ローカルバスに対するアクセス」を意味しないから、被告製品において
は「ローカルバスに対するアクセス要求」がない。
また、被告製品においては、仮想ディスクテーブルにアクセスすることでデー
タの保存位置が把握され、その後、把握されたデータの保存位置に実際にアクセ
スすることでデータが読み出されるに過ぎないから、アクセスの変換がない。
5 よって、被告製品は、構成要件C2を充足しない。
5 争点1-5(構成要件C3及びDを充足するか)について
【原告の主張】
(1) 構成要件C3及びDにおける「リードキャッシュドライバ」とは、記憶装置
を駆動するためのドライバである。ここで、被告は、被告製品におけるフィル
10 タドライバである「PhantosysClient1.sys」が、データの読み出し又は書き込
み等の処理を行うものであることを認めている。そして、データの読み出し又
は書き込み等の処理は、データがローカル上(クライアント端末上)にある場
合は、クライアント端末の物理的な記憶装置に対して行われるから、同フィル
タドライバは、記憶装置を駆動するものに他ならない。
15 そして、被告製品においては、クライアント端末から読み出し要求信号を一
時的に受け付けたエミュレータドライバが、当該信号をそのままフィルタドラ
イバに転送し、フィルタドライバが必要な制御を行うのであるから、構成要件
Dにおいては、被告製品におけるフィルタドライバ及びエミュレータドライバ
で、本件発明における「リードキャッシュドライバ」を構成する。
20 (2) よって、被告製品の「フィルタドライバ」及び「エミュレータドライバ」は、
構成要件C3及びDの「リードキャッシュドライバ」に該当するから、被告製
品は、構成要件C3及びDを充足する。
【被告の主張】
被告製品における「フィルタドライバ」は、読み出しキャッシュ領域に対する
25 読み出しキャッシュを行うためのプログラムではない上に(そもそも、後記のと
おり、被告製品は、構成要件D1の「読み出しキャッシュ領域」を備えない。)、
後記のとおり、構成要件D1、D2-1及びD2-2に規定される技術的特徴を
備えていないから、構成要件C3の「リードキャッシュドライバ」には該当しな
い。
また、被告製品における「エミュレータドライバ」は、
「記憶装置を駆動する」
5 構成を有さず、単に、クライアント端末のオペレーティングシステムに仮想的に
ディスク装置を提供し、クライアント端末のオペレーティングシステムと仮想的
なディスク装置との間のデータ受け渡しをするものに過ぎない。
そもそも、原告は、構成要件C3においては、被告製品における「フィルタド
ライバ」 が、構成要件Dにおいては、被告製品における「フィルタドライバ」 及
10 び「エミュレータドライバ」が「リードキャッシュドライバ」に該当すると主張
しており、本件発明における「リードキャッシュドライバ」と被告製品の構成と
の対応関係を十分に特定できていない。
よって、被告製品は、構成要件C3及びDを充足しない。
6 争点1-6(構成要件D1及びD2を充足するか)について
15 【原告の主張】
構成要件D1及びD2における「読み出しキャッシュ領域」は、フィルタドラ
イバによってサーバから読み出されたデータをキャッシュデータとして保存す
るものであり、かつ、それで足りる。
被告製品では、64KBごとの単位で管理しているCU(キャッシュユニット)
20 と呼ばれるブロックごとに、サーバから読み出したデータしか存在しないブロッ
クであるか(「読み出しキャッシュ領域」に対応)、サーバから読み出したデータ
とクライアント端末が書き込んだデータが混在しているブロック(「書き込みキ
ャッシュ領域」に対応)であるかが区別され、その情報は、マッピングテーブル
の所定のアドレスに値が記録されることで管理されている。このように、被告製
25 品では、
「読み出しキャッシュ」として管理されたCUが、
「読み出し専用のキャ
ッシュ」の「領域」として存在することになるから、被告製品は、構成要件D1
にいう「読み出しキャッシュ領域」を備えており、同構成要件を充足する。
この点、被告は、本件明細書の実施例の記載等に基づき、
「読み出しキャッシュ
領域」が、予め書き込みキャッシュ領域と明確に区別して設けられた領域(パー
ティション)である必要がある、仮想ディスクのコピーを保存する連続した特定
5 領域である必要があると主張するが、そのような実施例に限定して解釈しなけれ
ば本件発明の課題が解決できないといった理由はない。
よって、被告製品は、構成要件D1及びD2を充足する。
【被告の主張】
本件発明における「特別の技術的特徴」は、
「読み出し単位」とは異なる、明確
10 に区別された「読み出しキャッシュ領域」を客体として確保し、その領域に対し、
構成要件Dに記載された所定の制御を行うことである。そうすると、構成要件D
1及びD2における「読み出しキャッシュ領域」は、制御対象としてサーバから
読み出したデータが保存される前に予め確保されていなければならないし、書き
込みキャッシュ領域と明確に区別して設けられた領域(パーティション)でなけ
15 ればならない。また、本件明細書の記載等に鑑みれば、「読み出しキャッシュ領
域」は、仮想ディスクのコピーを保存する連続した特定領域であることが認めら
れる。
一方、被告製品を組み込んだシステムでは、実体データが保存されているブロ
ックに、128個のセクタのデータが保存されているが、当該ブロックには、サ
20 ーバから取得したデータとクライアント端末が書き込んだデータとが保存され
ていくことになる。また、被告製品では、予め、読み出したデータを保存するた
めの領域(パーティション)を確保していない。
以上のとおり、当該ブロックは、予め書き込みキャッシュ領域と区別し、読み
出しキャッシュを記憶するために特別に区画された領域ではないから、「読み出
25 しキャッシュ領域」に該当しない。
よって、被告製品は、構成要件D1及びD2を充足しない。
7 争点1-7(構成要件D2-1を充足するか)について
【原告の主張】
構成要件D2-1では「リードキャッシュドライバ」が、読み出しキャッシュ
領域が書き込み要求信号を受けたことを記憶する機能を有していることを定め
5 る。
ここで、被告製品においては、読み出しデータに対して書き込みが行われると、
マッピングテーブルの所定のアドレスの値が書き換えられ、書き込み要求信号を
受けたことが記録される。そして、被告製品では、この処理をフィルタドライバ
が担っている。また、前記のとおり、被告製品における「フィルタドライバ」は、
10 本件発明における「リードキャッシュドライバ」にも相当する。
よって、被告製品は、構成要件D2-1を充足する。
【被告の主張】
前記のとおり、被告製品には「読み出しキャッシュ領域」がないから、当該領
域が書き込み要求信号を受けたことを記憶すること自体がありえない。
15 また、原告は、マッピングテーブルの値が書き換えられる点を指摘する。しか
し、これは、ブロックの位置情報の判別方法を特定するための値に過ぎず、
「読み
出しキャッシュ領域」と「書き込みキャッシュ領域」の区別を示すものではない。
そもそも、被告製品におけるブロックには、サーバから読み出したデータと書き
込みが行われたデータが混在しており、読み出したデータのみが区別されている
20 わけではない。加えて、被告製品では、サーバからのデータの読み出しがなされ
ていない段階、すなわち、サーバから読み出したデータがブロックに保存されて
いない段階でクライアント端末から特定のセクタに対するデータの書き込み要
求が初めてあった場合であってもブロックの位置情報の判別方法を特定するた
めの値を変更するから、書き込み要求があった場合に、パーティションや読み出
25 しキャッシュが保存されていることを前提としていない(「読み出しキャッシュ
領域」と「書き込みキャッシュ領域」が区別されていないことから当然である。)。
よって、被告製品は構成要件D2-1を充足しない。
8 争点1-8(構成要件D2-2を充足するか)について
【原告の主張】
構成要件D2-2は、書き込み要求信号を受けた読み出しキャッシュ領域に対
5 し、キャッシュデータを使用しないように制御することを定めている。
被告製品においては、特定のセクタに対してデータの書き込み要求があった場
合、当該セクタのデータが記録されたブロックを特定し、データ処理をしたうえ
で、記憶領域内の別のブロックを選択して、書き込み要求があったセクタのデー
タが上書きされた更新ブロックデータを、当該別のブロックに記録する。その結
10 果、以後、更新ブロックデータが使用されることになるから、書き込み前のブロ
ックデータは使用されないこととなる。実際、読み出しデータに対して書き込み
が行われると、マッピングテーブルの所定のアドレスの値が書き換えられ、書き
込み要求信号を受けたことが記録されており、書き込み前のデータのブロックが
そのまま記録されている。
15 このような制御は、「その保存されている前記サーバから読み出されたブロッ
クデータを使用しないようにする」ものであるから、被告製品は、構成要件D2
-2を充足する。
【被告の主張】
被告製品では、特定のセクタへのデータ書き込み要求を受けた場合、当該セク
20 タにキャッシュデータが存在すれば、そのデータを含むブロックデータを全て読
み出してデータ処理し、書き込み要求のあったセクタのデータが上書きされて更
新された更新ブロックデータが空きブロックに保存される。また、キャッシュデ
ータが存在しないときは、書き込み要求信号に従ってデータが書き込まれる。
一方、本件発明では、読み出しキャッシュ領域に対して書き込み要求信号を受
25 けた場合、当該読み出しキャッシュ領域のキャッシュデータは使用しないように
制御されるが、上記のとおり、被告製品では、更新ブロックデータを作成する過
程で、書き込み要求信号を受けたキャッシュ領域のデータを使用している上に、
サーバから読み出したデータが保存されていないブロックに対して書き込み要
求信号があった場合、当該ブロックにデータが書き込まれるものの、当該ブロッ
クのデータに対し、使用されないように制御することはない。
5 被告製品においては、世代管理のため、更新されたデータを別ブロックに保存
し、更新ブロックデータが保存されたブロックの位置情報を更新するが、一方で、
書き込み要求があったキャッシュ領域に対するキャッシュデータを「使用しない
ように制御」することは行っていない。
よって、被告製品は構成要件D2-2を充足しない。
10 9 争点1-9(構成要件D1、D2及びD2-2における「読み出しキャッシュ
領域」に関し、被告製品の構成が均等なものか)について
【原告の主張】
仮に、本件発明のD1、D2及びD2-2における「読み出しキャッシュ領域」、
「そのキャッシュ領域」が特定のパーティションに割り当てられる領域を意味し、
15 被告製品における「空きブロック」、
「読み出されたデータが保存されたブロック」
が文言上、本件発明の構成要件D1、D2及びD2-2を充足しないとしても、
以下のとおり、被告製品は、本件発明と均等である。
(1) 第1要件
本件発明の本質的部分は、クライアント端末に読み込み専用の「リードキャ
20 ッシュ」を設け、サーバから読み込んだデータをリードキャッシュデータとし
て保存しつつ(【0010】
【0016】)、リードキャッシュデータが存在する
領域に対して書き込みが行われたときは、それ以降、書き込みが行われた領域
のリードキャッシュデータを使用しない点(【0053】
【0054】)にある。
この点、被告製品は、
「空きブロック」や「読み出されたデータが保存された
25 ブロック」を用いる点で本件発明とデータ構造が相違するとしても、サーバか
ら読み込んだデータをブロックに保存しつつ、読み出されたデータが保存され
たブロックに対して書き込み要求信号を受けた際には、「書き込み要求信号を
受けたこと」を、マッピングテーブルの所定のアドレスの値を変更することで
記憶し、その値を用いて、それ以降書き込みが行われたブロックに読み出され
たデータを使用しないという本件発明の本質的部分については共通している。
5 よって、本件発明と被告製品の相違点は、本件発明の本質的部分に該当しな
い。
(2) 第2要件
本件発明の作用効果は、クライアント端末のローカルディスクの一部にキャ
ッシュデータを備えることで、同じデータを再度読み出すときには、ネットワ
10 ークアクセスが一切生じないようにし、サーバへのネットワークアクセスを劇
的に減らすことにある。
被告製品も、クライアント端末のローカルディスクの一部にキャッシュデー
タを備えることで、ネットワークアクセスを減少させるという点で、本件発明
と同一の作用効果を生じさせる。
15 よって、本件発明と被告製品の相違点については、置換可能性が認められる。
(3) 第3要件
キャッシュの保持単位が512バイト単位であるか64KB単位であるか
といった点や、リードキャッシュとライトキャッシュを単一のパーティション
内に設けるか別個のパーティションに設けるかは、実装上の相違に過ぎない。
20 また、読み出しキャッシュ領域をブロックごとに構成することは、被告製品の
製造時に、当業者であれば容易に想到可能な構成に過ぎない。
よって、本件発明と被告製品の相違点については置換が容易である。
(4) 第4要件及び第5要件
争う。
25 【被告の主張】
(1) 第1要件
本件発明の本質的部分は、出願経緯等に鑑みれば、①フィルタドライバによ
るサーバ側の仮想ディスク(vDisk)へのアクセス変換の制御と、リード
キャッシュドライバによる端末側(ローカルディスク)の読み出しキャッシュ
領域の制御とを有機的に関連付けていること(すなわち、二重構造を有するシ
5 ステムであること)、②リードキャッシュドライバによって構成要件Dに記載
された「所定の制御」を行うものであることに認められる。すなわち、本件発
明は、出願経緯によれば、特許庁から「ネットワークブートシステム」に単な
る「キャッシュ」を用いただけの技術は公知である等として拒絶理由通知を受
け、構成要件D所定の「特別な技術的特徴」による減縮補正により特許査定に
10 至っている。その際、原告は、減縮補正時の意見書において、
「いずれも出願当
初明細書の記載に基づいて限定するためのもので・・・特別な技術的特徴である」
としたうえで、
「『リードキャッシュドライバ』の動作をより具体的に説明する
ため」構成要件Dのクレーム文言「を新たに発明特定事項として追加」した。
このような経過を踏まえると、リードキャッシュドライバとフィルタドライ
15 バの有機的一体の相互関係や、所定の制御及びそのためのデータ構造は、いず
れも本件発明の本質的部分に該当する。
そして、前記のとおり、被告製品は、予め書き込みキャッシュ領域と明確に
区別して特定のパーティションに割り当て制御される「読み出しキャッシュ領
域」を備えないし、書き込み要求信号を受けたときに、以後、当該特定領域に
20 保存されたキャッシュデータを使用しないように制御するプログラムも備え
ていない。
よって、本件発明と被告製品の相違点は、本件発明の本質的部分に関する相
違点である。
(2) 第2要件
25 本件発明は、読み出しキャッシュ領域を設け、その領域内の読み出し単位ご
とに管理フラグと一対一対応をした制御を行うことで、ネットワークアクセス
を劇的に減らすことができるものである。
そうすると、被告製品のように、特定領域がなく、単に、ブロック単位で制
御する場合、ネットワークアクセスを減らすことはできない。
よって、本件発明と被告製品の相違点を置換して本件発明と同一の作用効果
5 を得ることはできない。
(3) 第3要件
被告製品におけるブロックは無数に点在しており、複数のパーティション領
域に分け、その領域に対して制御を行う技術を採用しているものではない。そ
うすると、特定の「読み出しキャッシュ領域」内の読み出し単位ごとに管理フ
10 ラグで制御することを所与の前提として構成要件Dの所定の制御を行ってい
る本件発明の構成を、上記のように、ブロックが点在している中で制御する構
成に置換することを、被告製品の製造当時における当業者が容易に想到できた
ものとはいえない。
(4) 第4要件
15 後記のとおり、原告が主張するように、本件発明の技術的範囲を記録媒体に
記録する記録単位に対するマッピングテーブルの変更処理にまで拡大解釈す
るならば、本件発明は、公知技術から当業者が容易に想到できたものであり、
被告製品も、本件特許出願時における公知技術から容易に推考できたものであ
る。
20 (5) 第5要件
原告は、本件特許出願の減縮補正における意見書において、「リードキャッ
シュドライバ」の動作が特別な技術的特徴と述べた上、当初クレームの「記憶
装置に読み出しキャッシュする」との文言について、リードキャッシュドライ
バの制御対象に係る「読み出しキャッシュ領域」という文言を新たに追加し、
25 記憶装置内の「読み出しキャッシュ領域」という所与の特定領域に「保存」し
「制御」することを明確にした。また、原告が補正の根拠として指摘した【0
048】には「物理ディスクの第2のパーティションP2に割り当てられてい
る『読み出しキャッシュ領域』に」と、
「読み出しキャッシュ領域」が予め設け
られている構成であることが記載されている。
そうすると、
「読み出しキャッシュ領域」なる領域を設けることなく、単に記
5 憶装置にキャッシュデータを保存する構成は、原告が、本件特許出願時に意識
的に除外したものであり、かかる構成を備えない被告製品に対し、均等侵害を
主張することは許されない。
10 争点2(間接侵害が成立するか)について
【原告の主張】
10 以下のとおり、被告製品の譲渡等は、特許法101条2号所定の間接侵害に該
当する。
(1) 被告製品がインストールされたサーバとクライアント端末からなるネット
ワークは、本件発明の構成要件を充足する。そして、本件発明が解決しようと
する課題に対する解決手段である、「クライアント端末から読み出し要求信号
15 を受けた際にはフィルタドライバによってサーバから読みだされたデータを
クライアント端末の物理的な記憶装置の読み出しキャッシュ領域にキャッシ
ュデータとして保存し、当該読み出しキャッシュ領域に対して書き込み要求信
号を受けた際には書き込み要求信号を受けたことを記憶するとともにその領
域にあるキャッシュデータを使用しないように制御する」との構成を備えるネ
20 ットワークブートシステムは、被告製品をサーバ及びクライアント端末にイン
ストールすることによってはじめて実現される。
よって、被告製品は、本件発明による課題の解決に不可欠なものである。
(2) 被告は、遅くとも令和元年7月24日には、本件発明が特許発明であること
及び被告製品が本件発明の実施に用いられることを知った。
25 (3) よって、被告が被告製品の譲渡等を行うことは、特許法101条2号により
本件特許権を侵害するものとみなされる。
【被告の主張】
本件発明は、サーバに保存された仮想ディスクからオペレーティングシステム
を起動することを前提とするシステムである。一方、被告製品を組み込んだシス
テムでは、クライアント端末は、クライアント端末に常駐された仮想ディスクテ
5 ーブルからオペレーティングシステムを起動するシステムであり、技術的課題の
解決方法や技術的思想が全く異なる。
よって、被告製品は、本件発明による課題の解決に不可欠なものではないから、
間接侵害も成立しない。
11 争点3-1(乙12発明を主引例、乙13発明を副引例とする進歩性欠如)
10 について
【被告の主張の要旨】
(1) 乙12発明について
乙12文献の記載(特許請求の範囲請求項1、同9、【0011】、【002
0】、
【0021】、
【0033】ないし【0035】、
【図1】ないし【図6】)に
15 よると、同文献には、次の発明が開示されている。
構成a クライアント52上で動作するオペレーティングシステムを提供す
るサーバー54と、データ・キャッシュ64を備えたクライアント52とが
ネットワーク56を通じて接続され、
構成b クライアント52は、オペレーティングシステム起動中に必要なデー
20 タを一時的に保存することができる物理メモリと、ネットワーク56を介し
てサーバー54にアクセスするためのネットワークインターフェースとを
備えていると共に、
構成c オペレーティングシステムは、
構成c1 ネットワークインターフェースを駆動するためのネットワークド
25 ライバと、
構成c2 クライアント52のローカルバスに対するアクセスをネットワー
ク56に対するアクセスに変換するためのフィルタドライバと、
構成c3 データ・キャッシュ64を駆動するためのリードキャッシュドライ
バを備えており、
構成d リードキャッシュドライバが、
5 構成d1 クライアント52から読み出し要求信号を受けた際にはネットワ
ーク上でサーバー54から読み出されたデータをデータ・キャッシュ64の
要求されたデータのために割り当てられたスペースにキャッシュデータと
して保存する、
構成e ネットワークブートシステム。
10 (2) 本件発明と乙12発明の対比
乙12発明と本件発明は、本件発明における構成要件AないしD1及びEに
おいて一致し、構成要件D2に相当する構成を有しない点において相違する。
(3) 乙13発明について
乙13文献の記載(【0016】、【0020】ないし【0022】、【002
15 7】)によると、乙13文献には、キャッシュであることを除き、仮に本件発明
を記録媒体に記録する記録単位であるCUを管理するマッピングテーブルの
値を変化させると共にマッピングテーブルの指す先を変更することに拡大解
釈した場合における構成要件D2が開示されている。
(4) 容易想到性
20 乙13発明は、乙12発明と同様に、読み出し要求を受けた際にデータを読
み出し、書き込み要求を受けた際にデータを記憶する記憶装置のリード・ライ
ト管理に関するものであるから、乙12発明と技術分野が共通する。
また、乙12発明と同様にネットワークブートシステムにおいてキャッシュ
を備えるものにおいて、キャッシュのリード・ライト管理を乙13文献に記載
25 された発明のようにマッピングテーブルにより行うことは周知である(乙14
ないし19)。
したがって、乙12発明のネットワークブートシステムのクライアント端末
が備えるキャッシュがマッピングテーブルによりリード・ライト管理されてい
ることは、周知であって単に明示されていないだけであって記載されているに
等しい事項である。そして、乙12発明のキャッシュのマッピングテーブルに
5 よるリード・ライト管理として乙13文献に記載された発明における不揮発メ
モリのマッピングテーブルによるリード・ライト管理を用いることは、乙13
文献に記載された発明の不揮発メモリをキャッシュとして用いることが周知
であることから、当業者であれば容易である。
(5) 小括
10 上記構成の乙13発明を乙12発明に適用して、本件発明と同様の構成とす
ることは、当業者が容易に想到し得るものであるから、本件特許は、進歩性欠
如の無効理由がある。
【原告の主張の要旨】
(1) 乙12発明について
15 乙12発明の認定、一致点及び相違点の認定は争わないが、乙12発明は書
き込み要求が稀であるUNIX系システムにおけるネットワークブートシス
テムのみを前提としており、大量に行われる書き込み処理について何らかの知
見を与えるものでない点で、基本的な技術思想が大きく相違する。
(2) 乙13発明について
20 乙13文献の【0027】に記載のとおり、ライト要求がされたブロックは、
ガベージ状態として無効化されるとともに、ガベージコレクションが行われる
と対象ユニットがイレースされることになる(【0028】
【0029】)から、
乙13発明において「読み出しキャッシュ領域にキャッシュデータとして保存
される」ことはなく、本件発明の「読み出しキャッシュ領域」
(構成要件D2)
25 に相当する構成を開示していない。
よって、乙12発明に乙13発明を適用しても、本件発明に至らない。
(3) 容易想到性について
乙13発明が前提とする記録媒体はFlashROMであり、ハードディス
クやSSDといった記録媒体には存在しない、リード動作に不要な処理時間が
加わるという本質的な技術的課題を有し、ネットワークアクセスを低減させる
5 ために使用されるキャッシュ用の媒体としては不適当であるから、そのような
置き換えをしようとすること自体合理的でないし、前述のUNIX系システム
を前提とする乙12発明に適用することが容易であるともいえない。
また、課題の共通性、作用・機能の共通性、引用発明の内容中の示唆もない
ことから、乙12発明に乙13発明を適用する動機付けも存在しない。
10 12 争点3-2(乙12発明を主引例、乙20発明を副引例とする進歩性欠如)
について
【被告の主張の要旨】
(1) 乙20発明
乙20文献の記載(【0008】、
【0013】、
【0020】、
【0065】、
【0
15 066】及び【0068】)から、
「計算機からデータの書き込み要求を受ける
と、そのデータを、更新後データとして更新前データとは異なるキャッシュ領
域へ格納し、キャッシュに格納されている更新データと同じアドレスの更新前
データについて更新前LBAポインタで管理しているキャッシュ部を解放す
ると共に、更新キャッシュ部ポインタで管理しているキャッシュ部を参照キャ
20 ッシュ部ポインタで管理する様に変更して更新後データを更新前データに変
更し、更新フラグを変更することで変更前の更新前データを使用しないように
制御する」構成(乙20発明)が開示されており、これは、原告の主張による
構成要件D2に相当する構成に当たる。
(2) 容易想到性
25 乙20発明は、乙12発明と同様に、計算機とディスク装置との間のデータ
のキャッシュへの格納を制御するキャッシュ制御方法に関するものであるか
ら、乙12発明と技術分野が共通する。また、前述のとおり、乙12発明と同
様にネットワークブートシステムにおいてキャッシュを備えるものにおいて、
キャッシュがマッピングテーブルによりリード・ライト管理されていることは
前述したとおり周知であって記載されているに等しい事項である。
5 そして、乙12発明のネットワークシステムのキャッシュのマッピングテー
ブルによるリード・ライト管理を、同じネットワークシステムのキャッシュの
マッピングテーブルによるリード・ライト管理である乙20発明の管理とする
ことは、当業者であれば容易である。
(3) 小括
10 したがって、本件発明は進歩性欠如の無効理由を有する。
【原告の主張の要旨】
(1) 乙20発明について
乙20発明は、NASといったネットワークストレージシステムについての
発明であり(【0001】
【0010】
【図1】)、クライアント端末の物理的な記
15 憶装置をキャッシュに用いる発明ではない。クライアント端末の物理的な記憶
装置に読み出しキャッシュ領域を設けることについて記載も示唆もない。
また、乙20発明は、更新したデータを有効にする場合には、更新前データ
をキャッシュから無効にし(【0013】
【0020】)、更新前データは解放さ
れることになる(【0065】)から、
「前記サーバから読みだされたデータを前
20 記記憶装置の読み出しキャッシュ領域にキャッシュデータとして保存し、」と
の構成を備えない。
したがって、乙20発明は、本件発明の構成要件D2に相当する構成を備え
ない。
(2) 乙12発明に適用する動機付けの不存在
25 乙12発明は、サーバーのディスクスペースを節減する点を課題とする発明
であり、ネットワークストレージに関する発明である乙20発明を適用すると、
乙12発明がその目的に反することになり、阻害要因がある。また、技術分野
の関連性もない。
また、課題の共通性、作用・機能の共通性、引用発明の内容中の示唆もない
ことから、乙12発明に乙20発明を適用する動機付けも存在しない。
5 13 争点3-3(乙12発明を主引例、乙21発明を副引例とする進歩性欠如)
について
【被告の主張の要旨】
(1) 乙21発明
乙21文献の記載(【0012】、【0014】、【0015】、【0020】~
10 【0022】から、乙21文献には、
「アクセス先アドレスのデータの記憶領域
に対して書き込み要求信号を受けた際にはアクセス先アドレスに対応するマ
ッピングテーブルに相当する環境管理情報の更新フラグの値を変化させるこ
とで書き込み要求信号を受けたことを記憶すると共に、その環境管理情報のア
クセス先アドレスを置換先アドレスへと変更することでアクセス先アドレス
15 のデータの記憶領域のデータを使用しないようにする」構成(乙21発明)が
開示されている。
そして、乙21発明は、原告の主張による構成要件D2に相当する。
(2) 容易想到性
乙21発明は、乙12発明と同様に、読み出し要求を受けた際にデータを読
20 み出し、書き込み要求を受けた際にデータを記憶する記憶装置のリード・ライ
ト管理に関するものであるから、乙12発明と技術分野が共通する。また、前
述のとおり、乙12発明と同様にネットワークブートシステムにおいてキャッ
シュを備えるものにおいて、キャッシュがマッピングテーブルによりリード・
ライト管理されていることは周知であって記載されているに等しい事項であ
25 る。
そして、乙12発明のネットワークシステムのキャッシュのマッピングテー
ブルによるリード・ライト管理を、乙21発明による管理とすることは、当業
者であれば容易である。
(3) 小括
したがって、本件発明は進歩性欠如の無効理由を有する。
5 【原告の主張の要旨】
(1) 乙21発明
乙21発明は、1台のコンピューターを複数の動作環境に切り替えて利用す
る場合のプログラムに関する発明であり(【0001】
【0002】)、多数のク
ライアント端末がネットワークを通じて1台ないし数台のサーバーに接続さ
10 れたネットワークブートシステムについての発明ではない。
それゆえ、本件発明の構成要件D1における「前記サーバから読み出された
データを前記記憶装置の読み出しキャッシュ領域にキャッシュデータとして
保存し」との構成を有するものではないから、構成要件D2の「前記読み出し
キャッシュ領域に対して書き込み要求信号を受けた際」との構成を有しない。
15 (2) 乙12発明に適用する動機付けの不存在
上記の乙21発明の内容に照らすと、乙12発明とは、技術分野の関連性が
ない。
また、課題の共通性、作用・機能の共通性、引用発明の内容中の示唆もない
ことから、乙12発明に乙21発明を適用する動機付けも存在しない。
20 14 争点3-4(乙12発明を主引例とし、これに周知技術を組み合わせる進歩
性欠如)について
【被告の主張】
前記のとおり、乙13発明、乙20発明及び乙21発明は、いずれも、書き込
み要求を受けた際には更新前データを管理するマッピングテーブルの値を変化
25 させることで書き込み要求信号を受けたことを記憶すると共に、そのマッピング
テーブルの指す先を更新後データに変更することで更新前データを使用しない
ようにすることを開示しており、原告の主張による構成要件D2に相当する構成
である。
このように、構成要件D2は、乙13文献、乙20文献、乙21文献等に示さ
れるように相当数の文献に開示されていることから周知技術であって、乙12発
5 明に適用することは当業者にとって容易に想到できる。
したがって、本件発明は進歩性欠如の無効理由がある。
【原告の主張】
前記のとおり、乙13発明、乙20発明及び乙21発明は、いずれも本件発明
の構成要件D2の構成に相当するものではない。
10 15 争点3-5(明確性要件違反)について
【被告の主張】
本件発明は、構成要件Cにて「リードキャッシュドライバ」及び「フィルタド
ライバ」を必須の構成として明記すると共に、構成要件Dにて「リードキャッシ
ュドライバ」と「フィルタドライバ」に係る所定の相互関係及び段階構造(「二段
15 構造」)を明確に規定しており、クレーム上これらの動作及び役割を明確に区別
している。
とすれば、第三者が、これらがそれぞれ異なる動作及び役割を有する独立かつ
単独のドライバとして存在すると理解するのは当然であり、仮に本件特許所定の
「リードキャッシュドライバ」及び「フィルタドライバ」の所定の相互関係及び
20 段階構造を無視し、これらの動作及び役割を何ら特定しないまま本件発明の技術
的範囲に含まれるかのような原告のクレーム解釈を前提とすれば、第三者に不測
の不利益を及ぼすから、明確性要件に違反する。
【原告の主張】
本件発明において、
「フィルタドライバ」は構成要件C2において「クライアン
25 ト端末のローカルバスに対するアクセスを前記ネットワークに対するアクセス
に変換する」ものであること、構成要件D1においてサーバからデータを読み出
すものであることは明確に特定されている。これらはいずれも、本件発明の前提
である「ネットワークブートシステム」を構成するために必要な構成を規定する
ための発明特定事項である。
また、
「リードキャッシュドライバ」は、構成要件C3によってクライアント端
5 末の物理的な記憶装置を駆動するとともに、構成要件Dによって所定の制御がさ
れるためのドライバであることが特定されている。
したがって、本件発明が明確性要件に違反することはない。
16 争点3-6(サポート要件違反)について
【被告の主張】
10 次の点において、本件特許の特許請求の範囲は本件明細書に記載がなく、サポ
ート要件を満たさないから、本件特許には無効理由がある。
(1) 「仮想ディスク」に関するもの
本件明細書は、各所において「仮想ディスク」の実体はサーバ側の記憶装置
の一部であって「クライアント端末からみるとネットワーク越しに見える論理
15 ドライブ」である旨を示している一方(段落【0014】、
【0019】、
【00
22】、【0029】、【0032】、【0040】及び図1等)、「仮想ディスク」
がクライアント端末上に存在する構成を一切開示していない。
本件発明の課題解決手段からすると、
「ネットワークブートサーバ」
(構成要
件A)は仮想ディスクを保存しており、また、本件発明における「ネットワー
20 クブートシステム」
(構成要件E)は、ネットワークを介してサーバ上の仮想デ
ィスクからオペレーティングシステムを起動することを基本とするシステム
を意味すると解釈するのが整合的である。
したがって、仮にクライアント端末上に「仮想ディスク」が存在するネット
ワークブートシステムについても本件発明の技術的範囲に属するとの原告の
25 クレーム解釈を前提とすれば、発明の詳細な説明に記載したものでなく、サポ
ート要件に違反する。
(2) 「リードキャッシュドライバ」と「フィルタドライバ」に関するもの
「リードキャッシュドライバ」と「フィルタドライバ」の構成及び相互関係
(所定の動作及び役割)を特定せず、単に概括的な機能のみ言及し本件発明の
技術的範囲に含まれるかのような原告のクレーム解釈を前提とすれば、システ
5 ム発明としての具体的な課題解決手段を無視することになるから、クレーム文
言及び発明の詳細な説明の記載に矛盾し、当業者が本件発明の課題を解決でき
ると認識できる範囲を超えることになるから、サポート要件に違反する。
(3) 「読み出しキャッシュ領域」に関するもの
本件明細書の発明の詳細な説明(【0038】
【0047】
【0053】
【00
10 55】)には、書き込み要求信号を受けた際には書き込み管理フラグの状態を
0から1に変更し、以後読み出し要求信号に対してはキャッシュにアクセスせ
ずサーバ側からデータの読み出しを行うことのみ記載されている。
したがって、原告が主張する、記録媒体に記録する記録単位であるCUを管
理するマッピングテーブルの値を変化させると共にマッピングテーブルの指
15 す先を変更するようなマッピングテーブルの変更処理については、一切開示さ
れておらず、これは、発明の詳細な説明に記載された範囲を超えている。
よって、原告の主張する本件発明の構成要件の解釈によると、その範囲は発
明の詳細な説明に記載されておらず、サポート要件を満たさない。
【原告の主張】
20 次のとおり、本件特許にはいずれのサポート要件違反もない。
(1) 「仮想ディスク」について
仮想ディスクがクライアント端末上に存在する構成は、本件明細書の【00
19】、
【0027】、
【0028】、
【0031】、
【図1】、
【図3】等に明示的に
記載されている。
25 (2) 「リードキャッシュドライバ」及び「フィルタドライバ」について
「リードキャッシュドライバ」及び「フィルタドライバ」の動作及び役割は、
クレーム上特定されており、当該動作及び役割は本件明細書の記載(【003
0】、【0047】ないし【0049】)にもサポートされている。
(3) 「読み出しキャッシュ領域」について
物理的アドレスと論理アドレスをマッピングテーブルを用いて結びつける
5 ブロックの制御は周知技術であるし(乙14ないし16)、
「読み出しキャッシ
ュ領域」と「書き込みキャッシュ領域」の保持単位や、単一のパーティション
内に設けるかそれとも別個のパーティションに設けるかは本件発明を実施す
るうえでの実装上の相違にすぎない。
したがって、本件発明における読み出しキャッシュ領域は、ブロック(CU)
10 を含むものと当業者は当然に理解する。
17 争点4(原告の被った損害額)について
【原告の主張】
(1) 特許法102条2項に基づく損害額
被告は、平成25年4月3日から令和6年5月31日までに被告製品3を、
15 平成29年7月6日から令和6年5月31日までに被告製品2を、令和5年1
2月8日から令和6年5月31日までに被告製品1を、少なくとも16万75
48本(年平均1万5000本)販売している。
被告製品の平均販売価格は、1本あたり1万円であり、利益率は少なくとも
80パーセントであるから、原告が被った損害額は13億4038万4000
20 円である。
(2) 弁護士費用
被告に対する損害賠償請求のために必要かつ相当な弁護士費用は、1億40
00万円を下回らない。
(3) 消費税
25 上記合計額14億8038万4000円に対する消費税(ただし、判決が確
定した日の税率が適用されるため、販売時期を問わず税率は10パーセントで
ある。)は1億4803万8400円である。
(4) 一部請求
原告は、本件訴訟において、上記合計16億2842万2400円の一部に
当たる、令和2年3月31日までに発生した損害6266万8629円及び同
5 年4月1日から令和6年5月31日までに発生した損害3733万1371
円の合計1億円の賠償を請求する。
【被告の主張】
争う。
第4 判断
10 1 判断の大要
当裁判所は、被告製品は、本件発明における本質的部分を構成する構成要件D
2-2(争点1-8)を充足するとは認められず、
「その領域に対するキャッシュ
データを使用しないように制御する」ことを備えない被告製品について均等侵害
も成立しない(争点1-9)ことから、被告製品は本件発明の技術的範囲に属さ
15 ず、その余の争点(これ以外の構成要件充足性、間接侵害、無効論、損害論)に
ついて判断するまでもなく、原告の被告に対する請求は理由がないと判断する。
2 争点1-8(構成要件D2-2を充足するか)について
(1) 構成要件D2-2の構成
構成要件D2-2は、
「リードキャッシュドライバ」の機能に関し、サーバか
20 ら読み出されたデータがキャッシュデータとして保存されている領域のうち、
ある領域に対し、書き込み要求信号を受けた際には、当該「領域に対するキャ
ッシュデータを使用しないように制御する」との構成を定めている。
ここで、
「使用しないように制御する」とは、文字どおり、その領域を使用し
ないことを意味し、当該領域に存するデータは読み込まれることがないことに
25 なる。
(2) 被告製品の構成
証拠(甲16、17)及び弁論の全趣旨によれば、被告製品における特定の
セクタへのデータ書き込み要求を受けた場合におけるデータの書き込みに関
する挙動は、次のようなものであると認められる。
ア 当該セクタにキャッシュデータが存在する場合
5 既存のデータを含むブロックデータを全て読み出してデータ処理し、書き
込み要求のあったセクタのデータが上書きされて更新された更新ブロック
データを、元のブロックとは異なるアドレスにある空きブロックに保存する。
元のブロックのデータは、書き込みがされないまま、世代管理のために保存
され続ける。
10 クライアント端末が、データにアクセスする際に参照される、アクセス先
のアドレスが記録されたマッピングテーブルのアクセス先アドレスの値を、
更新ブロックデータが保存されたアドレスに変更する。その結果、クライア
ント端末からは、更新ブロックデータが使用されることとなる。また、マッ
ピングテーブルの所定のアドレスの値が変更されることで、当該ブロックに
15 対し、サーバから取得したデータが書き込まれたか否かが区別できる。
イ 当該セクタにキャッシュデータが存在しない場合
書き込み要求信号に従ってデータが書き込まれる。
これからすると、被告製品では、データを管理する単位であるブロックごと
に、サーバからのデータが書き込まれたか否かが区別でき、書き込みによって
20 データが更新されたときは、マッピングテーブルの値が更新されることで、ク
ライアント端末は、更新後のデータが保存されたブロックを利用することとな
ることが認められる。
(3) 構成要件D2-2との対比
構成要件D2-2は、このような書き込み要求信号を受けたか否かを明らか
25 にすることにとどまらず、書き込み要求信号を受けた領域は、以後、
「使用でき
ないように制御すること」を定めているところ、被告製品において、そのよう
な制御がされていると認めるに足りる証拠はない。
すなわち、被告製品では、既存データが更新された場合、既存データがその
まま保存されるとともに、更新後のデータが空きブロックに保存され、以後、
マッピングテーブルの値が変更されるから、書き込み要求信号を受けたあとは、
5 更新後のデータが使用されている。しかし、被告製品は、複数の環境を切り替
えたり、世代管理をしたりする機能を提供しているところ(甲4ないし6)、こ
のような機能を実現するためには、更新前のデータを使用していた環境に復元
するために、当該データを残しつつ、更新後のデータを使用する構成を備える
ことを要すると解される。したがって、書き込み要求信号を受けた後に、更新
10 前のデータが残り、かつ、更新後のデータが使用されるときは、更新前のデー
タが使用されないからといって、当該更新前のデータが、以後、読み込むこと
も禁止されているとは認められない。
(4) 小括
以上から、被告製品が、書き込み要求信号を受けた「領域に対するキャッシ
15 ュデータを使用しないように制御する」構成を備えているとは認められないか
ら、被告製品は構成要件D2-2を充足しない。
3 争点1-9(構成要件D1、D2及びD2-2における「読み出しキャッシュ
領域」に関し、被告製品の構成が均等なものか)について
(1) 本件明細書の記載
20 本件明細書によれば、本件発明が解決しようとする課題等は、以下のとおり
である。
ア 技術分野(【0001】)
本件発明は、ネットワークを介してオペレーティングシステムを起動する
システムに関するものである。
25 イ 発明が解決しようとする課題(【0007】【0008】)
ネットワークブートシステムにおいては、多数のクライアント端末が一斉
に起動するケースを想定した場合、一般に考えられているよりも深刻な性能
の低下が起こる。そこで、本件発明は、サーバへのネットワークアクセスを
大幅に軽減することを可能にする新規な仕組みを提供することを技術的課
題とする。
5 ウ 課題を解決するための手段(【0009】ないし【0011】)
本件発明に係るネットワークブートシステムは、クライアント端末上で動
作するオペレーティングシステムを提供するネットワークブートサーバと、
物理的な記憶装置を備えたクライアント端末とがネットワークを通じて接
続され、前記クライアント端末は、前記オペレーティングシステム起動中に
10 必要なデータを一時的に保存することができる物理メモリと、前記ネットワ
ークを介して前記サーバにアクセスするためのネットワークインターフェ
ースとを備えていると共に、前記オペレーティングシステムは、前記ネット
ワークインターフェースを駆動するためのネットワークドライバと、前記ク
ライアント端末のローカルバスに対するアクセスを前記ネットワークに対
15 するアクセスに変換するためのフィルタドライバと、前記記憶装置を駆動す
るためのリードキャッシュドライバを備えており、前記リードキャッシュド
ライバが、前記フィルタドライバによって前記サーバから読み出されたデー
タを前記記憶装置に読み出しキャッシュすることを特徴とする。
このシステムにおいて、サーバ上のデータは通常イメージデータとして保
20 存されているが、ここで「読み出しキャッシュ」とは「読み出し専用のキャ
ッシュ」、つまり、上記イメージデータに一切変更が加えられていないコピ
ーをクライアント端末の記憶装置内にキャッシュすることを意味する。この
システムによると、上記「読み出しキャッシュ」がOS及びその上で動作す
るアプリケーションソフトに対して極めて効果的に機能するため、読み取り
25 についてはローカルディスクと同等以上の速度が得られ、また、起動速度が
大幅に改善する。さらに、クライアント端末の2回目以降の起動処理の際に
サーバへのネットワークアクセスが殆ど発生しなくなり、これら結果として
一台のサーバに接続できるクライアント端末を従来よりも飛躍的に増大す
ることができる。
このシステムにおける前記クライアント端末は、前記リードキャッシュド
5 ライバが前記サーバから読み出されたデータが書き込み済であるか否かを
判別するための管理フラグを前記物理メモリに保持すると共に、前記記憶装
置は、前記サーバから受け取ったデータを保持するための読み出しキャッシ
ュ領域を備えることが好ましい。書き込み済であるかを判別する方法にはい
くつかの方法が考えられるが、クライアント端末の物理メモリに管理フラグ
10 を設ける方法が最も簡便でかつ高速だからである。なお、単に「管理フラグ」
という場合は、サーバから読み出そうとする領域に書き込みが行われた否か
を判別するための「書き込み管理フラグ」と、サーバから読み出されたデー
タが前記物理的な記憶装置に書き込み済みであるか否かを判別するための
「読み込み管理フラグ」の2つがある。
15 エ 発明の効果(【0016】)
本件発明に係るネットワークブートシステムによれば、クライアント端末
のローカルディスクがその一部に「読み出しキャッシュ」を備えるため、同
じデータの2度目以降の読み出し時には、ネットワークアクセスが一切発生
せず、サーバへのネットワークアクセスを劇的に減らすことができる。また、
20 一部のクライアント端末側の物理ディスクに障害が発生した場合でも、同様
の障害が他のクライアント端末においても同時に多発しない限り、サーバへ
のネットワークアクセスが急増することはなく、システム全体としてみた場
合のパフォーマンスの問題も生じない。
(2) 第1要件について
25 以上の本件明細書の記載によれば、本件発明は、クライアント端末上の記憶
装置において、サーバから読み出されたデータが書き込み済みであるかを管理
し、書き込み済みとなったデータの使用を禁止する構成を備えることで、サー
バから取得した状態から一切変更が加えられていないコピーをクライアント
端末の記憶装置内にキャッシュすることを確保し、サーバに対するネットワー
クアクセスを劇的に減らすこと(サーバに対するアクセスを要する事態を極限
5 まで減少させること)を実現するものであると認められ、少なくともこの点が
本件発明の本質的部分に該当することについては、当事者間で争いがない。
そうすると、構成要件D2-2に係る、書き込み要求信号を受けた領域に対
し、その領域に対するキャッシュデータを使用しないように制御する構成は、
本件発明における本質的部分であると認められ、この点を備えない被告製品と
10 本件発明とは、その本質的部分において相違するものと認められる。
(3) 小括
よって、被告製品は、第1要件を充足しないから、その余の均等侵害の成立
要件について検討するまでもなく、均等侵害は成立しない。
第5 結論
15 以上の次第で、原告の請求は、いずれも理由がない。
大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官
松 阿 彌 隆
裁判官
阿 波 野 右 起
裁判官西尾太一は、差支えのため署名押印することができない。
5 裁判長裁判官
松 阿 彌 隆
(別紙)
被告製品目録
1 シンクライアントシステム ファンタシー20
2 シンクライアントシステム ファンタシー10
5 3 シンクライアントシステム ファンタシー5
以上
(別紙)
被告製品が組み込まれたシステムの構成に関する主張の対比
原告の主張 被告の主張
構成a クライアント端末上で動作するオペレ サーバと物理的記憶装置を備えたクラ
ーティングシステムを提供するネット イアント端末とがネットワークを通じ
ワークブートサーバと、物理的な記憶 て接続された環境において、クライア
装置を備えたクライアント端末とがネ ント端末上で動作するオペレーティン
ットワークを通じて接続され、 グシステムそのものを当該クライアン
ト端末にインストールすることなく、
当該クライアント端末が当該オペレー
ティングシステムを格納したディスク
と認識する仮想ディスクテーブルをク
ライアント端末に常駐させ、当該仮想
ディスクテーブルを起動ディスクとし
て機能させることにより、当該オペレ
ーティングシステムを起動できるよう
に構成され、
構成b 前記クライアント端末は、前記オペレ 当該クライアント端末は、当該オペレ
ーティングシステム起動中に必要なデ ーティングシステム起動中に必要なデ
ータを一時的に保存することができる ータを一時的に保存するための物理メ
物理メモリと、前記ネットワークを介 モリと、当該ネットワークを介して当
して前記サーバにアクセスするための 該サーバにアクセスするためのネット
ネットワークインターフェースとを備 ワークインターフェースを備えると共
えていると共に、 に、
構成c 前記オペレーティングシステムは、 当該システムは、
構成c1 前記ネットワークインターフェースを 当該ネットワークインターフェースを
駆動するためのドライバと、 駆動するためのドライバと、
構成c2 前記クライアント端末のローカルバス 前記クライアント端末上で起動される
に対するアクセスを前記ネットワーク オペレーティングシステムから特定の
に対するアクセスに変換するためのフ セクタのデータを読み出す指令を受け
ィルタドライバ及び上記ドライバと、 ると、フィルタドライバに伝送し、当
該フィルタドライバにより読みだされ
た当該セクタのデータを、当該オペレ
ーティングシステムに伝送する機能を
有するエミュレータドライバと、
構成c3 前記記憶装置を駆動するためのフィル データの読み出し又は書き込み等の処
タドライバを備えており、 理を行うフィルタドライバとを備え、
構成d 前記エミュレータドライバ及びフィル 当該フィルタドライバは、
タドライバが、
構成d1 前記クライアント端末から読み出し要 当該エミュレータドライバが当該オペ
求信号を受けた際には前記フィルタド レーティングシステムから特定のセク
ライバによって前記サーバから読み出 タのデータを読み出す指令を受けた際
されたデータを前記記憶装置の空きブ には、ブロックの位置を特定するため
ロックにブロックデータとして保存 のテーブルを参照して、当該セクタの
し、 データを含むブロックを特定し、ブロ
ックデータが当該クライアント端末の
記憶領域内に保存されていない場合に
は、当該ネットワークインターフェー
スを駆動して当該サーバから当該ブロ
ックデータを取得し、キャッシュアロ
ケーションテーブルを参照して、当該
記録領域内の空きブロックにブロック
データを保存し、ブロックの位置を特
定するテーブル内の情報が更新され
て、ブロック内の全てのブロックデー
タをクライアント端末のメモリ上に展
開し、当該セクタのデータを抽出し
て、当該エミュレータドライバに伝送
し、
構成d2 前記記憶装置の前記サーバから読みだ 当該エミュレータドライバが特定のセ
されたデータが保存されたブロックの クタに対してデータの書き込み要求を
全体ないしその一部に対して書き込み 受けた際には、当該セクタのデータが
要求信号を受けた際には 記録されたブロックを特定し、(初回の
場合には、当該ブロックの位置情報の
判別方法を特定するための値を変更し
た後に、)当該セクタのデータが保存さ
れたブロック内のブロックデータを全
て読み出してデータ処理し、キャッシ
ュアロケーションテーブルを参照して
記録領域内の空いている別のブロック
を選択して、書き込み要求があったセ
クタのデータが上書きされた更新ブロ
ックデータを、当該別のブロックに記
録し、ブロックの位置を特定するテー
ブル内の情報が更新される
構成d2 前記読みだされたブロックに対して書
-1 き込み要求信号を受けたことを記憶す
ると共に
構成d2 保存されている前記サーバから読み出
-2 されたブロックデータを使用しないよ
うにすることを特徴とする
構成e ネットワークブートシステム 構成aないしd2を備えるシステム
(別紙特許公報 添付省略)
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