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令和6(ワ)70368損害賠償請求事件

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裁判所 一部認容 東京地方裁判所
裁判年月日 令和8年3月5日
事件種別 民事
当事者 原告
被告株式会社スカパー・エンターテイメント スカパーJSAT株式会社 AXN株式会社 株式会社アイキャスト 株式会社ジャパネットブロードキャスティング 株式会社フィールドワークス
法令 著作権
著作権法19条2項3回
著作権法19条3項2回
キーワード 許諾94回
侵害28回
損害賠償4回
商標権4回
主文 1 被告フィールドワークスは、原告に対し、30万円及びこれに対する
2 被告フィールドワークスは、原告に対し、20万円及びこれに対する
3 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用(補助参加によって生じた費用を除く。)は、原告に生じた
5 この判決は、第1項及び第2項に限り、仮に執行することができる。
事件の概要 1 事案の概要 本件は、外国語の映画である別紙映画目録記載の映画(以下「本件映画」 という。)を翻訳して日本語の字幕データ(以下「本件字幕」という。)を 制作した原告が、被告SPE、被告SPJ及び被告アイキャストが運営する 各プラットフォームにおいて、字幕の翻訳者として原告の氏名を表示するこ となく本件字幕を付した本件映画を公衆送信した行為が、本件字幕について の原告の著作権(公衆送信権)及び著作者人格権(氏名表示権)を侵害する と主張して、上記各被告、上記各被告に本件映画を供給した被告AXN及び 被告ジャパネット並びに本件字幕を付した本件映画を制作した被告フィール ドワークスに対し、不法行為に基づき、①被告SPE、被告SPJ、被告A XN、被告アイキャスト及び被告フィールドワークスに対し、損害賠償金2 747万6740円(著作権侵害に基づく損害金2647万6740円と著 作者人格権侵害に基づく慰謝料100万円の合計額)及びこれに対する令和 元年7月1日(最終不法行為日の翌日)から支払済みまで平成29年法律第 44号による改正前の民法(以下「改正前民法」という。)所定の年5分の

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判決文

令和8年3月5日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
令和6年(ワ)第70368号 損害賠償請求事件
口頭弁論終結日 令和7年12月23日
判 決

原 告 A
同訴訟代理人弁護士 小 倉 秀 夫
被 告 株式会社スカパー・エンターテイメント
10 (以下「被告SPE」という。)

被 告 スカパーJSAT株式会 社
(以下「被告SPJ」という。)

上記両名訴訟代理人弁護士 三 好 豊
上記両名訴訟代理人弁護士 渡 邉 峻
上記両名訴訟代理人弁護士 平 田 憲 人
20 被 告 A X N 株 式 会 社
(以下「被告AXN」という。)
同訴訟代理人弁護士 柴 原 多
同訴訟代理人弁護士 大 日 方 史 野

被 告 株式会社アイキャスト
(以下「被告アイキャスト」という。)
同訴訟代理人弁護士 藤 谷 護 人
同訴訟代理人弁護士 本 澤 陽 一

被 告 株式会社ジャパネットブロードキャスティング
(以下「被告ジャパネット」という。)
同訴訟代理人弁護士 金 子 剛 大
10 同訴訟代理人弁護士 細 沼 萌 葉
同訴訟代理人弁護士 田 村 紀 之
被 告 株式会社フィールドワークス
(以下「被告フィールドワークス」という。)

同訴訟代理人弁護士 大 栗 悟 史
同訴訟代理人弁護士 池 田 真 理
被告ら補助参加人 株 式 会 社 東 北 新 社
20 (以下「補助参加人東北新社」という。)
同訴訟代理人弁護士 稲 垣 勝 之
同訴訟代理人弁護士 高 藤 真 人
同訴訟復代理人弁護士 宮 本 龍 太 朗

被告ら補助参加人 株式会社ニュージャパンフィルム
(以下「補助参加人ニュージャパンフィルム」という。)
同訴訟代理人弁護士 田 中 伸 一 郎
同訴訟代理人弁護士 外 村 玲 子

被告ら補助参加人 B
(以下「補助参加人B」という。)
同訴訟代理人弁護士 増 子 和 毅
主 文
10 1 被告フィールドワークスは、原告に対し、30万円及びこれに対する
令和元年7月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告フィールドワークスは、原告に対し、20万円及びこれに対する
平成29年2月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
15 4 訴訟費用(補助参加によって生じた費用を除く。)は、原告に生じた
費用の6分の1と被告フィールドワークスに生じた費用はこれを100分
し、その99を原告の負担とし、その余は被告フィールドワークスの負担
とし、原告に生じたその余の費用と被告SPE、被告SPJ、被告AXN
、被告アイキャスト及び被告ジャパネットに生じた費用は原告の負担とし
20 、補助参加人東北新社の補助参加によって生じた費用は、これを100分
し、その99を原告の負担とし、その余は補助参加人東北新社の負担とし
、補助参加人ニュージャパンフィルムの補助参加によって生じた費用は、
これを100分し、その99を原告の負担とし、その余は補助参加人ニュ
ージャパンフィルムの負担とし、補助参加人Bの補助参加によって生じた
25 費用は、これを100分し、その99を原告の負担とし、その余は補助参
加人Bの負担とする。
5 この判決は、第1項及び第2項に限り、仮に執行することができる。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 被告SPE、被告SPJ、被告AXN、被告アイキャスト及び被告フィー
5 ルドワークスは、原告に対し、連帯して、2747万6740円及びこれに
対する令和元年7月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告SPE、被告SPJ、被告アイキャスト、被告ジャパネット及び被告
フィールドワークスは、原告に対し、連帯して、1728万5100円及び
これに対する平成29年2月1日から支払済みまで年5分の割合による金員
10 を支払え。
第2 事案の概要等
1 事案の概要
本件は、外国語の映画である別紙映画目録記載の映画(以下「本件映画」
という。)を翻訳して日本語の字幕データ(以下「本件字幕」という。)を
15 制作した原告が、被告SPE、被告SPJ及び被告アイキャストが運営する
各プラットフォームにおいて、字幕の翻訳者として原告の氏名を表示するこ
となく本件字幕を付した本件映画を公衆送信した行為が、本件字幕について
の原告の著作権(公衆送信権)及び著作者人格権(氏名表示権)を侵害する
と主張して、上記各被告、上記各被告に本件映画を供給した被告AXN及び
20 被告ジャパネット並びに本件字幕を付した本件映画を制作した被告フィール
ドワークスに対し、不法行為に基づき、①被告SPE、被告SPJ、被告A
XN、被告アイキャスト及び被告フィールドワークスに対し、損害賠償金2
747万6740円(著作権侵害に基づく損害金2647万6740円と著
作者人格権侵害に基づく慰謝料100万円の合計額)及びこれに対する令和
25 元年7月1日(最終不法行為日の翌日)から支払済みまで平成29年法律第
44号による改正前の民法(以下「改正前民法」という。)所定の年5分の
割合による遅延損害金の支払を求め、②被告SPE、被告SPJ、被告アイ
キャスト、被告ジャパネット及び被告フィールドワークスに対し、損害賠償
金1728万5100円(著作権侵害に基づく損害金1578万5100円
と著作者人格権侵害に基づく慰謝料150万円の合計額)及びこれに対する
5 平成29年2月1日(最終不法行為日の翌日)から支払済みまで改正前民法
所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の各証拠及び弁論の全趣
旨により認められる事実をいう。なお、証拠を摘示する場合には、特に記載
のない限り、枝番を含むものとする。)
10 ⑴ 当事者等
ア 原告は、外国映画の日本語字幕翻訳を業とする者である。
イ 被告SPEは、「スカパープレミアムサービス」という名称のプラッ
トフォームを運営する放送事業者である。
ウ 被告SPJは、「スカパー!プレミアムサービス光」という名称のプ
15 ラットフォームを運営するほか、「スカパー!オンデマンド」という名
称の配信サービスを行う株式会社である。
エ 被告アイキャストは、「ひかりTV」という名称のプラットフォーム
を運営するほか、配信サービスを行う株式会社である。
オ 被告AXNは、テレビ番組、映画及びビデオ等の放送、上映、配給等
20 を行う株式会社であり、洋画専門チャンネルである「ザ・シネマ」を運
営している。
カ 被告ジャパネットは、有料放送チャンネル事業等を行う株式会社であ
り、映画専門有料チャンネルである「スターチャンネル」を運営してい
る。
25 キ 被告フィールドワークスは、映画DVDやBlu-ray等の開発、
販売等を行う株式会社である。
ク 補助参加人Bは、C(以下「C」という。)と共同して、シネ・マイ
スター・エスエルシーの屋号で字幕制作の業務等を行っていた者である。
ケ 補助参加人ニュージャパンフィルムは、映画及びテレビ映画の国内販
売及び版権輸入、外国映画の日本語吹替版・字幕版製作等を業とする株
5 式会社である。
コ 補助参加人東北新社は、外国映画の輸入配給、字幕版製作等を業とす
る株式会社である。
⑵ 本件映画(甲1、2)
本件映画は、「ゾンビ ディレクターズカット版」とのタイトルが付さ
10 れる映像作品(本編139分・英語)である。
⑶ 本件字幕を付した本件映画の公衆送信(弁論の全趣旨)
ア 被告SPEは、運営する「スカパープレミアムサービス」において、
株式会社ザ・シネマ(被告AXNは、令和5年4月1日付けで株式会社
ザ・シネマの地位を承継した。以下、同じ。)が提供する番組である
15 「ザ・シネマ」を通じ、別紙放送実績目録記載1の日時に本件字幕を付
した本件映画の衛星放送を行った。
イ 被告SPJは、運営する「スカパー!プレミアムサービス光」におい
て、株式会社ザ・シネマが提供する番組である「ザ・シネマ」を通じ、
別紙放送実績目録記載1の日時に本件字幕を付した本件映画の有線放送
20 (上記衛星放送の同時再送信(同時再放送))を行った。
ウ 被告アイキャストは、運営する「ひかりTV」において、株式会社
ザ・シネマが提供する番組である「ザ・シネマ」を通じ、別紙放送実績
目録記載1の日時に本件字幕を付した本件映画のIPマルチキャスト配
信を行った。
25 エ 被告SPE(平成28年12月1日以前は株式会社スカパー・ブロー
ドキャスティングをいう。被告SPEは、同日付けで株式会社スカパ
ー・ブロードキャスティングの地位を承継した。以下同じ。)は、運営
する「スカパープレミアムサービス」において、株式会社スター・チャ
ンネル(被告ジャパネットは、令和6年8月1日付けで株式会社スタ
ー・チャンネルの地位を承継した。以下同じ。)が提供する番組である
5 「スターチャンネル」を通じ、別紙放送実績目録記載2の日時に本件字
幕を付した本件映画の衛星放送を行った。
当該放送は、株式会社スター・チャンネルの委託を受けた補助参加人
東北新社が、衛星経由で契約世帯に対し、本件字幕を付した本件映画の
データを送信する態様で行われた。
10 オ 被告SPJ(平成26年4月1日以前は株式会社オプティキャスト。
被告SPJは、同日付けで株式会社オプティキャストの地位を承継した。
以下同じ。)は、運営する「スカパー!プレミアムサービス光」におい
て、株式会社スター・チャンネルが提供する番組である「スターチャン
ネル」を通じ、別紙放送実績目録記載2の日時に本件字幕を付した本件
15 映画の有線放送(衛星放送の同時再送信(同時再放送))を行った。
当該放送は、株式会社スター・チャンネルの委託を受けた補助参加人
東北新社が、光回線経由で契約世帯に対し、本件字幕を付した本件映画
のデータを送信する態様で行われた。
カ 被告アイキャストは、運営する「ひかりTV」において、株式会社ス
20 ター・チャンネルが提供する番組である「スターチャンネル」を通じ、
別紙放送実績目録記載2の日時に本件字幕を付した本件映画のIPマル
チキャスト配信を行った。
同放送は、株式会社スター・チャンネルの委託を受けた補助参加人東
北新社が、本件字幕を付した本件映画のデータを、被告アイキャストに
25 納品し、被告アイキャストが光回線経由で契約世帯に送信する態様で行
われた。
キ 被告SPJは、同社が運営する「スカパー!オンデマンド」の「ザ・
シネマ オンデマンド」において、平成30年8月3日から令和元年6
月30日まで、「スカパー!オンデマンド」の「スターチャンネル」に
おいて、平成28年8月5日から平成29年1月31日まで、本件字幕
5 を付した本件映画の配信を行った。
ク 被告アイキャストは、配信されたコンテンツを任意のタイミングで後
から視聴できるビデオ・オン・デマンド(VOD)サービスを提供して
おり、「ザ・シネマ」につき、平成30年8月3日から令和元年6月3
0日まで、「スターチャンネル」につき、平成28年8月5日から平成
10 29年1月31日まで、別紙放送実績目録記載1及び2⑻~⒃の数日後
から約1か月の間、本件字幕を付した本件映画の配信を行った(甲20
6)。
ケ 上記アないしクの各放送又は配信において、字幕の翻訳者として、原
告の氏名は表示されていない(弁論の全趣旨)。
15 ⑷ 公衆送信に至る経緯
ア 本件字幕の制作等
被告フィールドワークスは、補助参加人Bに対し、本件映画の字幕翻
訳の制作を委託した。
補助参加人Bは、平成21年12月9日、原告に対し、本件映画の字
20 幕制作を依頼し、同月10日、原告はこれを承諾した(甲4ないし甲7、
乙E1、乙E18)。
原告は、平成22年3月31日、補助参加人Bに対し、本件字幕を制
作し、納品した。補助参加人Bは、原告から納品された本件字幕を付し
た本件映画のデータを、被告フィールドワークスに納品した。(以上に
25 つき、甲177、甲178、甲187、乙E1、乙E18、弁論の全趣
旨)。
イ 「ザ・シネマ」を通じた放送又は配信
被告フィールドワークスは、平成29年7月25日、本件字幕を付し
た本件映画について、補助参加人ニュージャパンフィルムに対し、第三
者に許諾・販売する権利を許諾し、補助参加人ニュージャパンフィルム
5 は、同年8月31日、補助参加人東北新社に対し、株式会社ザ・シネマ
が提供する番組である「ザ・シネマ」を再許諾の対象として、本件字幕
を付した本件映画を放送又は配信する権利(CSベーシックテレビ権、
有料BS放送権、キャッチアップVOD権、IPリニアサービス)を許
諾した(丙1、丙A1、丙A2)。
10 補助参加人東北新社は、平成29年10月31日、株式会社ザ・シネ
マに対し、同社が提供する番組である「ザ・シネマ」を許諾の対象とし
て、本件字幕を付した本件映画を放送又は配信する権利(放送権、有料
BS放送権、SVOD(キャッチアップ)権、IPリニアサービス権)
を許諾した(乙B4)。
15 ウ 「スターチャンネル」を通じた放送又は配信
(ア) 被告フィールドワークスは、平成24年4月1日、本件字幕を付し
た本件映画について、補助参加人東北新社に対し、株式会社スター・
チャンネルが運営する番組を再許諾の対象として、本件字幕を付した
本件映画を放送する権利(CS/BSペイテレビ権)を許諾した(丙
20 2)。
補助参加人東北新社は、平成24年7月1日、株式会社スター・チ
ャンネルに対し、本件字幕を付した本件映画を放送する権利(CS/
BSペイテレビ権)を許諾した(乙D2の1)。
(イ) 被告フィールドワークスは、平成28年6月30日、本件字幕を付
25 した本件映画について、補助参加人東北新社に対し、CS/BSペイ
テレビ権については対象の限定なく、キャッチアップVOD権につい
ては「スカパー、J:COM、ひかりTV、スターチャンネルが運営
するオンデマンドサービス」を再許諾の対象として、本件字幕を付し
た本件映画を放送又は配信する権利(CS/BSペイテレビ権、キャ
ッチアップVOD権)を許諾した(丙3)。
5 補助参加人東北新社は、平成28年6月30日、株式会社スター・
チャンネルに対し、本件字幕を付した本件映画を放送又は配信する権
利(CS/BSペイテレビ権、キャッチアップVOD権)を許諾した
(乙D2の2)。
⑸ 被告SPE、被告SPJ、被告アイキャスト及び被告ジャパネットは、
10 令和6年12月2日の第1回弁論準備手続期日において、被告AXN及び
被告フィールドワークスは令和7年6月3日の第2回弁論準備手続期日に
おいて、それぞれ消滅時効を援用する旨の意思表示をした(顕著な事実)。
3 争点
⑴ 権利侵害の成否(争点1)
15 ア 公衆送信権
公衆送信に対する許諾の有無(争点1-1)
イ 氏名表示権
(ア) 氏名を表示しない許諾の有無(争点1-2)
(イ) 著作権法19条2項の適用の有無(争点1-3)
20 (ウ) 著作権法19条3項の適用の有無(争点1-4)
⑵ 過失の有無(争点2)
⑶ 客観的関連共同性(争点3)
⑷ 消滅時効の成否(争点4)
⑸ 損害額(争点5)
25 ⑹ 過失相殺の要否(争点6)
4 争点に関する当事者の主張
争点に関する当事者の主張は、別紙1ないし3記載のとおりである。
第3 当裁判所の判断
1 争点1-1(公衆送信に対する許諾の有無)及び争点1-2(氏名を表示
しない許諾の有無)
5 ⑴ 認定事実
ア 本件字幕の納品までの経緯
(ア) 補助参加人Bは、平成21年12月9日、原告に対し、ゆうばり映画
祭での上映のため、本件映画の翻訳を依頼した。その際、DVD販売
が予定されているとして、これに伴うものとしてイタリア語のコメン
10 タリーのヒアリングをしてもらえないか打診した。(以上につき、甲
4、乙E14)
これに対し、原告は、同月10日、本件映画の翻訳については「ぜ
ひやらせていただきたい」とした上で、納期、希望料金(英語では1
0分1万7000円、イタリア語等では10分1万9000円で受け
15 ている。)を述べ、イタリア語のコメンタリーのヒアリングは受けら
れないが、コメンタリーの翻訳は引き受ける旨回答した(甲5、乙E
2)。
補助参加人Bは、同日、原告に対し、DVDの発売に際しては、コ
メンタリーもお願いしたい旨予告した上、まずは本件映画の翻訳を依
20 頼した(甲6、丙4)。
(イ) Cは、同月11日、被告フィールドワークスのD(以下「D」とい
う。)に対し、翻訳者と交渉中であるが、翻訳費は「18,000円
×14+TV転用で40,000円」になりそうである旨報告し、T
Vは、地上波、BS、CS全てであるか確認を求めた。これに対し、
25 Dは、同日、Cに対し、翻訳費の件は了解した旨伝えるとともに、T
Vは全てでありインターネットブロードバンドも含まれる形にしてほ
しい旨要望した(甲210)。
(ウ) 補助参加人Bは、同月13日、原告に対し、DVDの発売に関し、
本件映画(本編139分)のほか、北米公開版(本編127分。以下
「北米版」という。)、ダリオ・アルジェント監修版(本編119分。
5 以下「アルジェント版」という。)の翻訳も随時お願いしたい旨を伝
え、原告は、同日、補助参加人Bに対し、「119分版、127分版
の翻訳も、ぜひやらせていただきたい」旨回答した(甲8、甲9、丙
5、弁論の全趣旨)。
(エ) Cは、同月22日、被告フィールドワークスに対し、同日付けの見
10 積書を送信した。同見積書には、本件映画、北米版及びアルジェント
版の翻訳料やスポッティングの費用の記載があり、本件映画の翻訳料
の項目にのみ「(VIDEOGRAM+TV)」との記載があった。
(以上につき、甲199、甲211ないし甲213、乙E4)
補助参加人Bは、同日、原告に対し、原告の作業単価(翻訳につい
15 ては原告が上記(ア)で提示したものに沿ったもの。スポッティングは1
0分当たり4000円)と作業時間、納品希望日等が記載された作業
表と題するエクセルファイルを送信した。そこでは、アルジェント版
については、「DVD字幕データ制作」との項目の下に、本件映画と
の差分でお願いしたいとして、トータル約10分の追加翻訳料1万7
20 000円(1.0分×@17,000)と、字幕及びスポッティング
料4万8000円(12.0分×@4,000)とされていた。その
他に、本件映画の翻訳料23万8000円(14.0分×@17,0
00)、コメンタリーの翻訳料22万8000円(12.0分×@1
9,000)、ドキュメンタリーの翻訳料5万7000円(3.0分
25 ×@19,000)、予告編他の翻訳料5万1000円(3.0分×
@17000)が記載され、コメンタリー、ドキュメンタリー及び予
告編他の納品希望は平成22年2月末とされていた。(以上につき、
甲12、弁論の全趣旨)
(オ) Dは、平成21年12月28日、 Cに対し、上記(エ)の電子メール
に返信し、「本編3本が、劇場も含めたオールライツの翻訳でしたら、
5 このままの見積額で結構です。」と回答した(甲199、甲213、
乙E4)。
Cは、同日、補助参加人Bに対し、「3バージョンすべて、オール
ライツ・クリアで」、原告と交渉するようメールで指示した(甲19
9、甲213、乙E4)。
10 (カ) Cは、平成22年1月22日、原告及び補助参加人Bに対し、仮ミ
ックスDVD-Rをメール便で発送する旨連絡した。これに対し、原
告は、仮ミックスの件を聞いておらず、 補助参加人Bに問い合わせを
したが返事がない旨返信した。そこで、 Cは、原告に対し、仮ミック
スのDVD-Rを送付したこと、翌週に特典映像のCD-Rを補助参
15 加人B経由で送付することなどを伝えた。そして、補助参加人Bも、
同日、原告に対し、アルジェント版の作業を終了後、仮ミックスDV
D-Rを確認するよう再度依頼した。(以上につき、甲55ないし甲
57、甲60)
(キ) 補助参加人Bは、同月28日、原告に対し、北米版について、原告
20 の本件映画の翻訳を使用して字幕を作成したいこと、転用料として、
4000円×13=52000円でスポッティング、字幕入れの作業
を依頼したいことを伝えた。これに対し、原告は、同日、補助参加人
Bに対し、北米版のスポッティングと字幕入れの作業につき、「是非
やらせてください。」と回答し、金額も補助参加人Bの提示した額で
25 よい旨返信した。(以上につき、甲67、甲68、乙E3)
(ク) Cは、同年2月14日、原告との間で、コメンタリーや北米版のア
ップの時期についてやり取りをし、「4月23日にDVDを発売しま
すので、2月末には、すべての翻訳アップができればと思っておりま
した。」と送信した。これに対し、原告は、同日、Cに対し、北米版
を同月22日にアップする旨を回答した。(以上につき、甲105、
5 甲106)
(ケ) 原告は、同年3月16日、 補助参加人Bに対し、北米版の字幕及び
スポッティング料金(10分当たり4000円、130分で5万20
00円)と、コメンタリーの翻訳料(10分当たり1万9000円、
120分で22万8000円)の請求予定額につき、間違いがないか
10 どうかを確認するよう求めた(甲173)。
(コ) 原告は、同月31日、本件字幕等を補助参加人Bに納品した(甲1
76ないし甲189)。
イ 本件字幕の納品後のやり取り
(ア) Cは、平成22年7月13日、原告に対し、「ゾンビでは大変お世
15 話になりました。大ヒットとはいきませんでしたが、おかげさまで、
BOXもそこそこ売れており、秋にはバラ売り発売の予定です。」と
連絡した(乙E8)。
(イ) 補助参加人Bは、同年9月16日、原告に対し、Cからの10月と
11月で本件映画、北米版、アルジェント版がそれぞればら売りされ
20 る旨の記載がある電子メールを転送した上、「DVD発売の件、下記
をご確認ください。」と送信した(この場合にいう「下記」とは、オ
リジナルメッセージ中の「ゾンビも10月と11月で3バージョンが
バラ売りされます。」を指しているものと認められる。)(乙E9)。
(ウ) 補助参加人Bは、平成23年10月20日、原告に対し、「去年だ
25 と思いますが、翻訳をお願いしました「ゾンビ」がWOWOWでの放
送がきまりました。放送日などわかりましたらご連絡いたします。」
と送信した。これに対し、原告は、同日、補助参加人 Bに対し、
「「ゾンビ」がWOWOWで放送されるんですね。嬉しいです。放送
日のご連絡、楽しみにしてます。」と回答した。(以上につき、甲2
03、甲204、乙E7)
5 (エ) 補助参加人Bは、平成24年10月24日、原告に対し、「チキ
ン・オブ・ザ・デッド」(邦題)という映画の翻訳を依頼し、「ブル
ーレイにて単館劇場上映、BD、DVDになります。」と注記したと
ころ、原告は、「是非やらせてください。」として承諾した(乙E1、
乙E18)。
10 (オ) 補助参加人Bは、同年11月20日、原告に対し、「今回の翻訳料
17,000×10の本編翻訳料金で翻訳のオールライツ込みでの料
金ということでご了解をお願いできますでしょうか。」と問い合わせ
た。これに対し、原告は、同日、補助参加人Bに対し、「チキン・デ
ッドに関して「翻訳料17,000×10」のオールライツ込みで結
15 構です。」と返信した。(以上につき、乙E5、乙E6)
ウ 本件訴訟に至る経緯
(ア) 原告は、平成30年5月10日、補助参加人Bに対し、著作権法と下
請法を学んだとした上、今後の仕事については、翻訳料とは別に、用
途に応じた「著作権の譲渡料」又は「翻訳の使用許諾料」を請求する
20 と伝え、用途の例示として、「劇場予告」、「地上波テレビ放送広
告」、「ネット配信広告」、「ビデオグラム(DVD等)収録」を挙
げた(乙E10)。
(イ) 原告は、令和3年5月27日、被告アイキャスト及び東北新社メディ
アサービスに対し、「ひかりTV」をプラットフォームとする「ザ・
25 シネマ」の放送及び配信において、本件字幕が無許諾で使用されたこ
とが発覚したとして、「ザ・シネマ」における本件映画の放送日又は
配信期間、当該放送に係る事業者の名称等を尋ねる質問状を送付した。
当該質問状には、侵害の事実を確認したのは令和元年6月28日であ
る旨の記載があることに加え、資料として、本件映画が放送又は配信
された様子(被告SPEによる放送につき平成31年4月5日放送分、
5 被告アイキャストによる配信につき令和元年6月28日配信分)を撮
影した写真が添付されていた。(以上につき、乙E13、丙7、弁論
の全趣旨)
これに対し、被告アイキャストは、令和3年6月23日付けで、
「ひかりTV」においては、株式会社ザ・シネマが運営する「ザ・シ
10 ネマ」で同社から供給を受けた本件映画を放送又は配信したこと、放
送日が別紙放送実績目録記載1であること、配信期間が平成30年8
月3日から令和元年6月30日までであること、株式会社スター・チ
ャンネル社が運営する「スターチャンネル」でも同社から供給を受け
た本件映画を放送又は配信したこと、放送日が別紙放送実績目録記載
15 2⑻ないし⒃であること、配信期間が平成28年8月5日から平成2
9年1月31日であることなどについて回答した(甲206)。
(ウ) 原告は、上記(イ)の回答を受け、令和3年6月27日、株式会社スタ
ー・チャンネルに対し、BS放送「スターチャンネル」において、本
件字幕が無許諾で使用されたとして、本件映画の放送及び配信の実績、
20 当該放送又は配信に係る事業者の名称等を尋ねる質問状を送付した
(甲208)。
これに対し、株式会社スター・チャンネルの担当者は、原告に対し、
令和3年7月21日、本件映画の権利処理は被告フィールドワークス
において行うものとされていること、上記(イ)記載の「スターチャンネ
25 ル」における放送又は配信に係る実績に誤りがないことを回答したほ
か、同年8月30日、「スターチャンネル」においては、上記(イ)に加
え、別紙放送実績目録記載2⑴ないし⑺の日時にも放送を行ったこと
を、それぞれメールで回答した(甲209)。
(エ) 原告は、被告らに対し、本件字幕の公衆送信権及び氏名表示権の侵害
につき、損害の賠償をするよう催告し、同催告は、被告AXN、被告
5 ジャパネット及び被告フィールドワークスにつき令和6年5月29日、
被告アイキャストにつき同月30日、被告SPE及び被告SPJにつ
き同年7月9日にそれぞれ到達した(乙B2、弁論の全趣旨)。
⑵ 公衆送信に対する許諾の有無(争点1-1)
原告は、本件字幕の翻訳につき受領した金銭が翻訳料に限られると主張
10 するのに対し、被告らは、上記金銭が翻訳料のほかに、使用許諾料(DV
D販売及びTV放送)を含むと主張するため、以下検討する。
前記認定事実によれば、当時原告との間で直接交渉をしていたのは、シ
ネマイスターの屋号でCと一緒に事業を行っていた補助参加人Bであった
ところ、本件字幕に関する委託者である被告フィールドワークスのDは、
15 Cに対し、平成21年12月28日、「本編3本が、劇場も含めたオール
ライツの翻訳でしたら、このままの見積額で結構です。」と回答したこと
から、Cは、補助参加人Bに対し、本件字幕につき「オールライツ・クリ
ア」の条件で、原告と交渉するよう指示していたことが認められる。そう
すると、補助参加人Bは、Cからの指示を受け、原告に対し、その頃、本
20 件字幕につき「オールライツ・クリア」の条件の申込みをしていたものと
推認するのが相当である。
のみならず、前記認定事実によれば、原告は、Cから、平成22年7月
には「おかげさまで、BOXもそこそこ売れており」との連絡を、同年1
0月には「DVD発売の件、下記をご確認ください。」とのメールの送信
25 を、それぞれ受けていたほか、補助参加人Bから、平成23年10月には
「翻訳をお願いしました「ゾンビ」がWOWOWでの放送がきまりまし
た。」とのメールの送信を受けていたことが認められる。それにもかかわ
らず、前記認定事実によれば、原告は、補助参加人B又はCに対し、直ち
に別途の使用許諾料を請求していなかったことが認められ、かえって、原
告が補助参加人Bに対し、著作権法と下請法を学んだとして、翻訳料とは
5 別途使用許諾料を請求するようになったのは、平成30年5月10日にな
ってからのことであったと認められる。その他にも、前記認定事実によれ
ば、原告は、別の映画作品に係る翻訳についても、本件と同じ条件(英
語・10分当たり1万7000円)において、「オールライツ込み」の合
意をしていたことが認められる。
10 そして、補助参加人Bは、原告から、平成21年12月28日に本件字
幕につき「オールライツ・クリア」の合意を取り付けたという証言(甲2
00、丙6)をしており、上記認定に係る事実経過を踏まえると、その信
用性は高いものというべきである。
これらの事情の下においては、原告は、補助参加人Bから、本件字幕に
15 つき「オールライツ・クリア」の条件の申込みをし、原告は、当該申込み
に対し、同意をしていたものと認めるのが相当である。そして、上記にい
う「オールライツ・クリア」とは、前記認定事実によれば、Dは、DVD
販売とTV放送を許諾対象とするように明確に指示をしていた事情を考慮
すると、その通常の用語の意味に照らしても、少なくともDVD販売とT
20 V放送における本件字幕の利用を含むものと解するのが相当である。
したがって、原告は、平成21年12月28日、本件字幕の公衆送信に
対し許諾していたものと認めるのが相当である。
⑶ 氏名を表示しない許諾の有無(争点1-2)
前記認定事実(前記⑵)によれば、「オールライツ・クリア」の内容に
25 つき、DとCとの間、C及び補助参加人Bと原告との間でも、氏名表示権
不行使を許諾の対象としていた形跡は一切うかがわれず、 補助参加人B
(甲200〔3及び4頁〕)及びCの証言(甲201〔2、42頁〕)に
よっても、「オールライツ・クリア」の内容につき、氏名表示権不行使が
含まれていたものと認めることはできない。一般に、翻訳を業とする字幕
翻訳業者には翻訳に自身の氏名表示を付する人格的利益があるところ、前
5 記認定事実によれば、原告には、DVD販売とTV放送が現にされるまで
は、氏名表示権に関する主張をする機会がなかったことからすると、本件
字幕に係る使用料相当額に関する前記説示に係る事情とは異なり、原告に
おいて本件字幕に氏名表示が付されないことまでをも容認していた事情を
認めることはできない。
10 これらの事情の下においては、「オールライツ・クリア」に関する上記
合意には、氏名表示権の不行使は含まれていなかったものと認めることが
相当である。
したがって、原告は、本件字幕の公衆送信に当たり、氏名表示権の不行
使を許諾したものとはいえない。
15 これに対し、被告らは、「オールライツ」とはその語義や語感からも明
らかなとおり、氏名表示権の不行使も合意の対象に含んでいた旨主張する。
しかしながら、一般に翻訳を業とする字幕翻訳業者には翻訳に自らの氏名
表示を付する人格的利益があり、前記認定事実によれば、前記判断に係る
使用許諾料とは異なり、原告には、DVD販売とTV放送が現にされるま
20 では、氏名表示権に関する主張をする機会がなかったことからすると、被
告らの主張は、字幕翻訳業者の氏名表示に係る人格的利益の重要性を看過
するものであり、上記判断を左右するものとはいえない。したがって、被
告らの主張は、採用することができない。
⑷ 原告の主張に対する判断
25 原告は、「オールライツ・クリア」の合意という重要な事柄を証拠化せ
ずに、電話連絡のみとすることは不自然であるから、「オールライツ・ク
リア」の合意を取り付けたとする補助参加人Bの証言(甲200)を信用
することはできない旨主張する。しかしながら、その当時は、12月28
日という仕事納めの日であり、メールであれば気づかれずに放置される可
能性があるから確実に連絡を取るために電話連絡をしたという説明が、直
5 ちに不合理であるとまではいえず、前記認定に係る事実経過を踏まえても、
原告の主張は、前記判断を左右するものとはいえない。
また、原告は、Cが補助参加人Bに対し、「オールライツ・クリア」の
合意を取り付けるよう指示するメール(甲199、乙E4)を送信した時
刻は、平成21年12月28日午後7時25分過ぎであり、補助参加人B
10 が一般企業の仕事納めの日の上記時刻以降に原告に電話連絡したとは考え
られない旨主張する。しかしながら、証拠(乙E16、乙E17、乙E3
0ないし32)及び弁論の全趣旨によれば、当時上記メールを送信したC
がマレーシアに滞在していたことからすると、上記メールに記載された時
刻表示(December 28,2009 10:25:11AM)は、
15 マレーシア標準時であるといえる。そうすると、Cが上記メールを送信し
た時刻は、日本時間でいえば同日午前11時25分11秒であると認める
のが相当である。そうすると、原告の主張は、その前提を欠くものである。
さらに、原告は、WOWOWで放送される旨の連絡を受けたものの、そ
の後に放送日の連絡とともに著作権利用許諾の申込みがあると考えていた
20 旨主張する。しかしながら、補助参加人Bは、放送が決まった旨連絡して
いるのであるから、その時期は、そもそも使用許諾の交渉が始まる時期で
あるとはいえない上、原告においてその後速やかに使用許諾の交渉を求め
た形跡もうかがわれないことからすると、原告がDVD使用においても販
売日が決まったのに使用許諾料を請求していなかった同種事情を併せ考慮
25 しても、その後に申込みがあると考えていたという原告の主張は、取引の
実情に照らし、明らかに不自然である。
したがって、原告の主張は、いずれも採用することができない。
2 争点1-3(著作権法19条2項の適用の有無)
被告らは、字幕翻訳者からの要望がない限り、氏名表示の要否は、当該映
画作品の制作者又は販売者の裁量に委ねられるにもかかわらず、原告が氏名
5 表示を求めることはなかったのであるから、本件字幕は、原告によって著作
者名を表示しないという選択がなされたものであり、被告らが原告の氏名を
表示しなかったことは、著作権法19条2項にいう「すでに著作者が表示し
ているところに従って」、著作者名を表示しなかったものとして、本件には
同項が適用される旨主張する。
10 しかしながら、無名の著作物にも同項が適用されると解したとしても、本
件全証拠によっても、本件字幕につき原告が無名で使用許諾をしていた事実
を認めることはできず、被告らの主張は、その適用の前提を欠く。仮に、被
告らが主張するように、番組供給事業者が翻訳者の氏名を記載するという業
界慣行(乙D5、乙E19ないし27、乙E36、乙E38)があったとし
15 ても、氏名表示の要否が上記番組供給事業者の裁量に委ねられているという
ことはできず、被告らの主張は、翻訳を業とする字幕翻訳業者に係る人格的
利益の重要性を看過するものであり、著作権法19条2項の趣旨目的を正解
するものとはいえない。
したがって、被告らの主張は、採用することができない。
20 3 争点1-4(著作権法19条3項の適用の有無)
被告らは、字幕翻訳者からの要望がない限り、氏名表示の要否は、当該映
画作品の制作者又は販売者の裁量に委ねられるにもかかわらず、原告が氏名
表示を求めることはなかったから、本件字幕は、原告自ら著作者名を表示し
ない選択をしたものであり、被告らが原告の氏名を表示しなかったことは、
25 著作権法19条3項にいう「著作者が創作者であることを主張する利益を害
するおそれがない」ものとして、本件には同項が適用される旨主張する。
しかしながら、前記認定に係る事実経過によれば、原告には、DVD販売
とTV放送が現にされるまでは、氏名表示権に関する主張をする機会がなか
ったことからすると、原告自ら著作者名を表示しない選択をしたものという
ことはできず、被告らの主張は、その適用の前提を欠く。仮に、被告らが主
5 張するように、番組供給事業者が翻訳者の氏名を記載するという業界慣行
(乙D5、乙E19ないし27、乙E36、乙E38)があったとしても、
氏名表示の要否が上記番組供給事業者の裁量に委ねられているということは
できず、被告らの主張は、翻訳を業とする字幕翻訳業者に係る人格的利益の
重要性を看過するものであり、著作権法19条3項の趣旨目的を正解するも
10 のとはいえない。
したがって、被告らの主張は、採用することができない。
4 争点2(過失の有無)
⑴ 認定事実
ア 被告SPEについて
15 (ア) 「ザ・シネマ」の放送に関する契約関係
被告SPEは、株式会社スカパー・ブロードキャスティングとベー
シック・エンターテイメント株式会社(株式会社ザ・シネマは、平成
23年5月1日付けで株式会社ベーシック・エンターテイメント株式
会社の地位を承継した。以下同じ。)との間で締結された平成21年
20 9月10日付けチャンネル供給基本契約に基づき、前記前提事実⑶ア
記載の衛星放送を行った(乙A1、弁論の全趣旨)。
同契約に係る契約書には、「チャンネル供給者(注:ベーシック・
エンターテイメント株式会社。以下、この項において同じ。)は、H
D役務会社(注:株式会社スカパー・ブロードキャスティング。以下、
25 この項において同じ。)が本件チャンネル(注:ザ・シネマHD。以
下、この項において同じ。)を本契約の規定に従い、HD方式で衛星
役務利用放送することに同意する。…」(第2条)、「HD役務会社
は、本件チャンネルを本契約の条件に従ってのみ放送し、チャンネル
供給者の事前の承諾なしに本件チャンネルの放送番組の改変、カット、
編成替え等を行わないものとする」(第6条4項)、「HD役務会社
5 は…供給された本件チャンネルの信号に関し、圧縮、変換、その他の
信号の技術的操作のみを加え、かつ、かかる改変を加えた信号を送信
することができる。但し、当該信号は、チャンネル契約者が視聴する
本件チャンネルの映像及び音声表現に変更を引き起こすものであって
はならない。」(第6条6項)、「本件チャンネルに含まれる番組に
10 関する著作権の取得、その他HD役務会社による放送にかかる著作権
その他一切の権利の処理は、チャンネル供給者の責任と費用負担にお
いて行う。」(第9条1項)との記載がある(乙A1)。
(イ) 「スターチャンネル」の放送に関する契約関係
被告SPE(平成28年12月1日以前は株式会社スカパー・ブロ
15 ードキャスティング)は、株式会社スカパー・ブロードキャスティン
グと株式会社スター・チャンネルとの間で締結された平成22年10
月25日付けチャンネル供給基本契約に基づき、前記前提事実⑶エ記
載の衛星放送を行った(乙A4、弁論の全趣旨)。
同契約に係る契約書には、「チャンネル供給者(注:株式会社スタ
20 ー・チャンネル。以下、この項において同じ。)は、HD役務会社
(注:株式会社スカパー・ブロードキャスティング。以下、この項に
おいて同じ。)が本件チャンネル(注:スター・チャンネル プラス
ハイビジョン。以下、この項において同じ。)を本契約の規定に従い、
HD方式で衛星役務利用放送することに同意する。…」(第2条)、
25 「HD役務会社は、本件チャンネルを本契約の条件に従ってのみ放送
し、チャンネル供給者の事前の承諾なしに本件チャンネルの放送番組
の改変、カット、編成替え等を行わないものとする」(第6条4項)、
「HD役務会社は…供給された本件チャンネルの信号に関し、圧縮、
変換、その他の信号の技術的操作のみを加え、かつ、かかる改変を加
えた信号を送信することができる。但し、当該信号は、チャンネル契
5 約者が視聴する本件チャンネルの映像及び音声表現に変更を引き起こ
すものであってはならない。」(第6条6項)、「本件チャンネルに
含まれる番組に関する著作権の取得、その他HD役務会社による放送
にかかる著作権その他一切の権利の処理は、チャンネル供給者の責任
と費用負担によって行う。」(第9条1項)との記載がある(乙A
10 4)。
イ 被告SPJについて
(ア) 「ザ・シネマ」の放送に関する契約関係
被告SPJは、株式会社オプティキャストとベーシック・エンター
テイメント株式会社との間で締結された平成18年4月1日付け番組
15 供給基本契約に基づき、前記前提事実⑶イ記載の有線放送(衛星放送
の同時再送信(同時再放送))を行った(乙A2、弁論の全趣旨)。
同契約に係る契約書には、「番組供給者(注:ベーシック・エンタ
ーテイメント株式会社。以下、この項において同じ。)は、OPTI
(注:株式会社オプティキャスト。以下、この項において同じ。)に
20 対し、OPTIが視聴者に番組を送信できるよう【別紙】番組内容
(注:【ザ・シネマ】(ch.706))に定める番組を供給する…」
(第6条1項)、「OPTIは、番組供給者が別途指定しない限り、
番組供給者の番組の全てを受信し、その全てに変更、その他一切の改
変を加えることなく、受信と同時に電気通信役務利用放送または有線
25 テレビジョン放送により視聴者に再送信するもの…とする。」(第7
条1項)、「番組に関する知的財産権の処理は、再送信に際しての音
楽著作権の処理を除き、番組供給者が自己の責任と費用において行う
ものとする。」(第9条)との記載がある(乙A2)。
(イ) 「スターチャンネル」の放送に関する契約関係
被告SPJは、株式会社オプティキャストと株式会社スター・チャ
5 ンネルとの間で締結された平成18年4月1日付け番組供給基本契約
に基づき、前記前提事実⑶オ記載の有線放送(衛星放送の同時再送信
(同時再放送))を行った(乙A5、弁論の全趣旨)。
同契約に係る契約書には、「番組供給者(注:株式会社スター・チ
ャンネル。以下、この項において同じ。)は、OPTI(注:株式会
10 社オプティキャスト。以下、この項において同じ。)に対し、OPT
Iが視聴者に番組を送信できるよう【別紙】番組内容(注:【スタ
ー・チャンネル】(ch.315)、【スター・チャンネル プラス】
(ch.316)、【スター・チャンネル クラシック】(ch.3
17))に定める番組を供給する…」(第6条1項)、「OPTIは、
15 番組供給者が別途指定しない限り、番組供給者の番組の全てを受信し、
その全てに変更、その他一切の改変を加えることなく、受信と同時に
電気通信役務利用放送または有線テレビジョン放送により視聴者に再
送信するもの…とする。」(第7条1項)、「番組に関する知的財産
権の処理は、再送信に際しての音楽著作権の処理を除き、番組供給者
20 が自己の責任と費用において行うものとする。」(第9条)との記載
がある(乙A5)。
(ウ) 「ザ・シネマ」の配信に関する契約関係
被告SPJは、株式会社ザ・シネマとの間で締結された平成27年
4月16日付けIP通信網向け配信サービスに関わる契約に基づき、
25 前記前提事実⑶キ記載の配信を行った(乙A3、弁論の全趣旨)。
同契約に係る契約書には、「甲(注:株式会社ザ・シネマ。以下、
この項において同じ。)は、乙(注:被告SPJ。以下、この項にお
いて同じ。)に対し、本契約に定める諸条件のもとで、乙が日本国内
で本コンテンツ(注:本契約に基づき甲が乙に対して利用を許諾する
一切のコンテンツであって、甲及び乙が事前に合意したものとし、別
5 途甲が発行するメタシートにて特定されるコンテンツ)を本サービス
(注:スカパー!オンデマンド)において利用するために必要な本権
利を非独占的に許諾する。」(第3条)、「甲は、乙に対し、本契約
締結時および本契約期間中において、甲が、本権利およびこれを乙に
対して許諾する権限を適法かつ正当に有していることを表明し、保証
10 する。」(第8条2項)との記載がある(乙A3)。
(エ) 「スターチャンネル」の配信に関する契約関係
被告SPJは、株式会社スター・チャンネルとの間で締結された平
成26年9月30日付けIP通信網向け配信サービスに関わる契約に
基づき、前記前提事実⑶キ記載の配信を行った(乙A6、弁論の全趣
15 旨)。
同契約に係る契約書には、「甲(注:株式会社スター・チャンネル。
以下、この項において同じ。)は、乙(注:被告SPJ。以下、この
項において同じ。)に対し、本契約に定める諸条件のもとで、乙が日
本国内で本コンテンツ(注:本契約に基づき甲が乙に対して利用を許
20 諾する一切のコンテンツであって、甲及び乙が事前に合意したものと
し、別途甲が発行するメタシートにて特定されるコンテンツ)を本サ
ービス(注:スカパー!オンデマンド)において利用するために必要
な本権利を非独占的に許諾する。」(第3条1項)、「甲は、乙に対
し、本契約締結時および本契約期間中において、甲が、本権利および
25 これを乙に対して許諾する権限を適法かつ正当に有していることを表
明し、保証する。」(第8条2項)との記載がある(乙A6)。
ウ 被告アイキャストについて
(ア) 「ザ・シネマ」の放送に関する契約関係
被告アイキャストは、株式会社ザ・シネマとの間で締結された平成
24年4月27日付け番組供給基本契約に基づき、前記前提事実⑶ウ
5 記載のIPマルチキャスト配信を行った(乙C1、弁論の全趣旨)。
同契約に係る契約書には、「甲(注:株式会社ザ・シネマ。以下、
この項において同じ。)は、乙(注:被告アイキャスト。以下、この
項において同じ。)に対し、本番組(注:甲が乙に対して本サービス
上において視聴者に対する配信を非独占的に委託する番組であり…別
10 途甲乙間で締結する個別契約に掲げるチャンネルにおいて放送される
個々の番組の総合体としてのチャンネルサービス。以下、この項にお
いて同じ。)を本サービス上で、…放送法に基づき提供することがで
きる非独占的権利…を許諾するものとする。」(第3条1項)、「乙
は、甲より提供された本番組を甲の事前許諾を得ずして、複製・編
15 集・改変しないものとする(本番組に挿入された甲の営業によるコマ
ーシャル、コピーライト表示、クレジット表示を含む。)…」(第3
条2項⑴)、「甲は、乙に対し、本番組の著作権、著作隣接権、商標
権を含む知的財産権及びプライバシーの権利、肖像権を含む人格権、
その他一切の権利が、甲に帰属するか又は甲が正当な権利者から乙が
20 本サービス上で提供するために必要な権利の許諾を得ており、乙が本
番組を加入者に提供することにより、これらの権利を侵害しないもの
であることを保証するものとする。」(第4条)との記載がある(乙
C1)。
(イ) 「スターチャンネル」の放送に関する契約関係
25 被告アイキャストは、株式会社スター・チャンネルとの間で締結さ
れた平成24年3月31日付け番組供給基本契約に基づき、前記前提
事実⑶カ記載のIPマルチキャスト配信を行った(乙C4、弁論の全
趣旨)。
同契約に係る契約書には、「甲(注:株式会社スター・チャンネル。
以下、この項において同じ。)は、乙(注:被告アイキャスト。以下、
5 この項において同じ。)に対し、本番組(注:甲が乙に対して本サー
ビス上において使用を許諾する番組であり…別途甲乙間で締結する個
別契約に掲げるチャンネルにおいて放送される個々の番組の総称。以
下、この項において同じ。)を本サービス上で、…放送法に基づき提
供することができる非独占的権利…を許諾するものとする。…」(第
10 3条1項)、「乙は、甲より提供された本番組を甲の事前許諾を得ず
して、複製・編集・改変しないものとする(本番組に挿入された甲の
営業によるコマーシャル、コピーライト表示、クレジット表示を含
む。)…」(第3条2項⑴)、「甲は、乙に対し、本番組の著作権、
著作隣接権、商標権を含む知的財産権及びプライバシーの権利、肖像
15 権を含む人格権、その他一切の権利が、甲に帰属するか又は甲が正当
な権利者から乙が本サービス上で提供するために必要な権利の許諾を
得ており、乙が本番組を提供することにより、これらの権利を侵害し
ないものであることを保証するものとする。」(第4条)との記載が
ある(乙C4)。
20 (ウ) 「ザ・シネマ」の配信に関する契約関係
被告アイキャストは、株式会社ザ・シネマとの間で締結された平成
30年3月30日付け「テレビオンデマンド」の提供に関する覚書及
び平成31年3月29日付け「テレビオンデマンド」の提供に関する
覚書に基づき、前記前提事実⑶ク記載の配信を行った(乙C2、乙C
25 3、弁論の全趣旨)。
上記各覚書は、上記(ア)記載の平成24年4月27日付け番組供給基
本契約及び同契約に基づく番組供給個別契約に関するものであり、
「本サービス(注:テレビオンデマンド。以下、この項において同
じ。)で提供されるコンテンツの編成内容については、甲(注:ザ・
シネマ。以下、この項において同じ。)が決定するものとする。」
5 (第4条)、「甲は、乙(注:被告アイキャスト。以下、この項にお
いて同じ。)に対し、本コンテンツ(注:第4条に規定するコンテン
ツ。以下、この項において同じ。)の著作権、著作隣接権、商標権を
含む知的財産権及びプライバシーの権利、肖像権を含む人格権、その
他一切の権利が、甲に帰属するか又は甲が正当な権利者から乙が本サ
10 ービス上で提供するために必要な権利の許諾を得ており、乙が本コン
テンツを提供することにより、これらの権利を侵害しないものである
ことを保証するものとする。」(第7条1項)、「本覚書に特に定め
のない事項については、基本契約・個別契約を優先するものとする。」
(第10条1項)との記載がある(乙C2、乙C3)。
15 (エ) スターチャンネルの配信についての契約関係
被告アイキャストは、株式会社スター・チャンネルとの間で締結さ
れた平成26年12月16日付け「テレビオンデマンド」の提供に関
する覚書及び平成28年9月30日付け「テレビオンデマンド」の提
供に関する覚書に基づき、前記前提事実⑶ク記載の配信を行った(乙
20 C5、乙C6、弁論の全趣旨)。
上記各覚書は、上記(イ)記載の平成24年3月31日付け番組供給基
本契約及び同契約に基づく番組供給個別契約に関するものであり、
「甲(注:株式会社スター・チャンネル。以下、この項において同
じ。)は、乙(注:被告アイキャスト。以下、この項において同じ。)
25 に対し、乙が日本国内で本契約に基づいて編成される甲のコンテンツ
を本サービス(注:テレビオンデマンド)において利用するために必
要な権利を非独占的に許諾する。」(第1条1項)、「本コンテンツ
(注:第1条1項に規定するコンテンツ)の編成内容については、甲
乙協議の上、合意により決定するものとする。」(第5条)、「甲は、
乙に対し、本コンテンツの著作権、著作隣接権、商標権を含む知的財
5 産権及びプライバシーの権利、肖像権を含む人格権、その他一切の権
利が、甲に帰属するか又は甲が正当な権利者から乙が本サービス上で
提供するために必要な権利の許諾を得ており、乙が本コンテンツを提
供することにより、これらの権利を侵害しないものであることを保証
するものとする。」(第8条1項)、「本覚書に特に定めのない事項
10 については、基本契約・個別契約を優先するものとする。」(第11
条1項)との記載がある(乙C5、乙C6)。
エ 被告AXNについて
株式会社ザ・シネマは、前記前提事実⑷イ記載のとおり、平成29年
10月31日付け契約に基づき、補助参加人東北新社から、本件字幕を
15 付した本件映画を送信又は放送する権利の許諾を受けた(乙B4)。
同契約書には、「乙(注:補助参加人東北新社。以下、この項におい
て同じ。)は、甲(注:株式会社ザ・シネマ。以下、この項において同
じ。)に対して、下記作品(注:本件映画をいう。以下、この項におい
て同じ。)を、送信または放送する権利…を、下記の条件で許諾する。」
20 (第1条)、「乙は、甲に対し、以下の通り保証する。⑴本件作品につ
いて、乙は第1条の権利を保有すると共に、本件作品を甲が自己の送信
および放送方法に利用することを許諾する権限を適法に有すること。⑵
甲が本件作品を放送するについて、本件作品の製作者…ほか乙から供給
された一切の素材に関する著作権、著作隣接権、著作者人格権の保有者、
25 並びに字幕翻訳者等に対する権利の処理またはテレビ放送についての承
諾のとりつけは、乙の責任と負担において既に行われ、もしくは甲の放
送までに確実に行われるものであって、これらの関係者から何らクレー
ムが生じないこと。」(第3条1項⑴⑵)との記載がある(乙B4)。
オ 被告ジャパネットについて
(ア) 株式会社スター・チャンネルは、前記前提事実⑷ウ記載のとおり、平
5 成24年7月1日付け覚書に基づき、補助参加人東北新社から、本件
字幕を付した本件映画を送信又は放送する権利の許諾を受けた(乙D
2の1)。
同覚書には、「乙(注:補助参加人東北新社。以下、この項におい
て同じ。)は、甲(注:株式会社スター・チャンネル。以下、この項
10 において同じ。)に対して、下記作品(注:本件映画をいう。以下、
この項において同じ。)を、送信又は放送する権利を、下記の条件で
許諾する。」(第1条)、「乙は、甲に対し、以下の通り保証する。
⑴本件作品について、乙は前述の第1条の権利を保有すると共に、本
件作品を甲が自己の送信及び放送方法に利用することを許諾する権限
15 を適法に有するものである。⑵甲が本件作品を放送するについて、本
件作品の製作者…ほか乙から供給された一切の素材に関する著作権
(音楽著作物の放送権を除く)、著作隣接権、著作者人格権の保有者
等に対する権利の処理、又はテレビ放送についての承諾のとりつけは、
乙の責任と負担において既に行われ、もしくは甲の放送までに確実に
20 行われるものであって、これらの関係者から何らクレームが生じない
こと。但し、日本語字幕スーパー版における翻訳者(二次使用料)の
権利処理および日本語吹替え版における転用処理は甲の責任と負担に
おいて行われること」(第3条1項⑴⑵)との記載がある(乙D2の
1)。
25 (イ) 株式会社スター・チャンネルは、前記前提事実⑷ウ記載のとおり、平
成28年6月30日付け覚書に基づき、補助参加人東北新社から、本
件字幕を付した本件映画を送信又は放送する権利の許諾を受けた(乙
D2の2)。
同覚書には、「乙(注:補助参加人東北新社。以下、この項におい
て同じ。)は、甲(注:株式会社スター・チャンネル。以下、この項
5 において同じ。)に対して、下記作品(注:本件映画をいう。以下、
この項において同じ。)を、送信又は放送する権利を、下記の条件で
許諾する。」(第1条)、「乙は、甲に対し、以下の通り保証する。
⑴本件作品について、乙は前述の第1条の権利を保有すると共に、本
件作品を甲が自己の送信及び放送方法に利用することを許諾する権限
10 を適法に有するものである。⑵甲が本件作品を放送するについて、本
件作品の製作者…ほか乙より供給された一切の素材に関する著作権
(音楽著作物の放送権を除く)、著作隣接権、著作者人格権の保有者
等に対する権利の処理、又はテレビ放送についての承諾のとりつけは、
乙の責任と負担において既に行われ、もしくは甲の放送までに確実に
15 行われるものであって、これらの関係者から何らクレームが生じない
こと。但し、日本語字幕スーパー版における翻訳者(二次使用料)の
権利処理および日本語吹替え版における転用処理は甲の責任と負担に
おいて行われること」(第3条1項⑴⑵)との記載がある(乙D2の
2)。
20 カ 被告フィールドワークスについて
(ア) 「ザ・シネマ」の放送又は配信に関する契約関係
被告フィールドワークスは、前記前提事実⑷イ記載のとおり、平成
25年4月1日付け基本契約書及び平成29年7月25日付け覚書に
基づき、本件字幕を付した本件映画について、補助参加人ニュージャ
25 パンフィルムに対し、本件字幕を付した本件映画を放送又は配信する
権利(地上波、BS放送、CS放送、有線放送(CATV、IPマル
チキャスト、SMATV)、IPリニア、配信、SVOD、見逃し配
信)を許諾した(丙A1、丙A2)。
上記基本契約書には、「甲(注:被告フィールドワークス。以下、
この項において同じ。)は、…個別覚書によって特定された映像著作
5 物について、そのテレビ放送権を、個別覚書に規定する範囲内で甲の
ために第三者に対し許諾・販売をなす独占的権利を、乙(注:補助参
加人ニュージャパンフィルム。以下、この項において同じ。)に対し、
許諾する。」(第2条1項)、「甲は、乙に対し、以下の通り保証す
る。…⑵乙との契約に基づきテレビ局等の第三者が本映画をテレビ放
10 送することについて、本映画の製作者、原作者…その他の権利者、並
びに乙に供給する一切の素材に関する文芸、美術、音楽の各著作権、
著作人格権、著作隣接権の権利者との間で権利の処理が全て完了して
おり、乙または乙との契約に基づき本映画をテレビ放送し、またはテ
レビ放送を許諾するテレビ局等の第三者が如何なる者からも何の請求
15 も受けないこと。…」(第6条⑴)との記載があり、上記覚書には、
上記許諾の対象となる作品名として、本件映画が記載されている(丙
A1、丙A2)。
(イ) 「スターチャンネル」の放送に関する契約関係
被告フィールドワークスは、前記前提事実⑷ウ記載のとおり、平成
20 24年4月1日付け契約に基づき、本件字幕を付した本件映画につい
て、補助参加人東北新社に対し、株式会社スター・チャンネルが運営
する番組を再許諾の対象として、本件字幕を付した本件映画を放送す
る権利(CS/BSペイテレビ権)を許諾した(丙2)。
同契約書には、「甲(注:被告フィールドワークス。以下、この項
25 において同じ。)は、乙(注:補助参加人東北新社。以下、この項に
お い て 同じ 。 ) に対し て 、 本書 添 付 の「作 品 リ スト 」 記 載の作 品
(注:本件映画)を放映する権利を…許諾する。」(第1条)、「甲
は、乙に対し、本契約に基づき乙に本権利の許諾を与える充分な権利
を有すること…及び本作品の内容及び本権利の行使が第三者の著作権、
その他の権利を侵害しないものであることを保証する。…」(第9条
5 ⑴)、「乙は、本権利の行使を以下に定めるチャンネル…に再許諾す
る。…【再許諾先】株式会社スター・チャンネルの運営するチャンネ
ル」(第10条)との記載がある(丙2)。
(ウ) 「スターチャンネル」の配信に関する契約関係
被告フィールドワークスは、前記前提事実⑷ウ記載のとおり、平成
10 28年6月30日付け契約に基づき、本件字幕を付した本件映画につ
いて、補助参加人東北新社に対し、株式会社スター・チャンネルが運
営するオンデマンドサービスを再許諾の対象として、本件字幕を付し
た本件映画を配信する権利(キャッチアップVOD権)を許諾した
(丙3)。
15 同契約書には、「甲(注:被告フィールドワークス。以下、この項
において同じ。)は、乙(注:補助参加人東北新社。以下、この項に
お い て 同じ 。 ) に対し て 、 本書 添 付 の「作 品 リ スト 」 記 載の作 品
(注:本件映画)を放映する権利を…許諾する。」(第1条)、「甲
は、乙に対し、本契約に基づき乙に本権利の許諾を与える充分な権利
20 を有すること…及び本作品の内容及び本権利の行使が第三者の著作権、
その他の権利を侵害しないものであることを保証する。…」(第10
条⑴)、「乙は、本権利の行使を以下に定めるチャンネル…に再許諾
する。…【再許諾先】株式会社スター・チャンネルの運営するチャン
ネル チャンネル名:スターチャンネル」(第11条)との記載があ
25 る(丙3)。
⑵ 事実認定に関する補足説明
上記認定事実オに係る被告ジャパネット及び補助参加人東北新社との間
の利用許諾契約において、「日本語字幕スーパー版における翻訳者(二次
使用料)の権利処理および日本語吹替え版における転用処理」につき、株
式会社スター・チャンネルの責任と負担であるとする記載部分については、
5 上記契約の当事者である被告ジャパネット及び補助参加人東北新社がいず
れも誤記であることを自認していることからすれば、上記利用許諾契約の
内容に照らしても、上記記載部分の限度で「甲」とあるのは「乙」の誤記
であると認めるのが相当である。
⑶ 氏名表示権侵害に係る過失の有無
10 前記説示を踏まえ、氏名表示権侵害に係る過失の有無につき、以下検討
する。
ア 被告フィールドワークス
本件字幕は、被告フィールドワークスが海外で製作され公開された外
国映画である「ゾンビ」(本件映画)について、新たに原告に依頼して
15 制作させたものであり、当初から本件映画とともに番組供給事業者又は
放送事業者において放送等されることが予定されていたものである(前
記前提事実⑵及び⑷、上記認定事実カ)。
そして、被告フィールドワークスは、補助参加人ニュージャパンフィ
ルム及び補助参加人東北新社に対し、当該補助参加人らが番組供給事業
20 者又は放送事業者に再許諾することを前提として、本件字幕を付した本
件映画の利用を許諾しているところ、当該許諾に係る契約には、被告フ
ィールドワークスが本件字幕を付した本件映画の権利処理を適正に行う
ことを保証する、いわゆる表明保証条項が含まれていたことが認められ
る(上記認定事実カ)。
25 上記認定事実によれば、被告フィールドワークスは、本件字幕の制作
を原告に依頼した者として、本件字幕に係る権利処理を行う立場にあっ
たものであり、現に、上記許諾に係る契約において、その権利処理を適
正に行うことを表明保証していたのであるから、映画製作を専門とする
業者として、少なくとも本件字幕の放送又は配信に先立って、原告に対
し、氏名表示の要否について確認すべき注意義務を負っていたものと認
5 めるのが相当である。
それにもかかわらず、被告フィールドワークスは、本件映画の放送又
は配信に当たり、原告に対し、氏名表示の要否について一切確認しなか
ったのであるから、上記注意義務に違反する過失があるといえる。
これに対し、被告フィールドワークスは、本件映画の放送又は配信に
10 当たり、氏名表示の有無を決定するのは番組供給事業者であるから、氏
名表示権侵害が表明保証の対象に含まれない旨主張する。
しかしながら、上記認定事実カ(ア)によれば、被告フィールドワークス
は、「ザ・シネマ」に係る放送又は配信に先立って締結された利用許諾
契約において、「本映画の製作者、原作者…その他の権利者、並びに乙
15 に供給する一切の素材に関する文芸、美術、音楽の各著作権、著作人格
権、著作隣接権の権利者との間で権利の処理が全て完了しており、乙ま
たは乙との契約に基づき本映画をテレビ放送し、またはテレビ放送を許
諾するテレビ局等の第三者が如何なる者からも何の請求も受けないこ
と。」を保証しており、また、上記認定事実カ(イ)(ウ)によれば、被告フ
20 ィールドワークスは、「スターチャンネル」に係る放送又は配信に先立
って締結された利用許諾契約において、「本作品の内容及び本権利の行
使が第三者の著作権、その他の権利を侵害しないものであること」を保
証していたことが認められる。そうすると、原告は、本件映画の放送又
は配信に先立って、氏名表示権その他の全ての権利処理を適正に行う旨
25 の表明保証をしていたことが認められる。
これらの事情の下においては、仮に番組供給事業者が翻訳者の氏名を
記載するという業界慣行(乙D5、乙E19ないし27、乙E36、乙
E38)があったとしても、上記表明保証に係る事実経過を踏まえると、
原告の主張は、原告自身が締結した上記各利用許諾契約の内容と整合す
るものとはいえず、前記判断を左右するものとはいえない。
5 したがって、被告フィールドワークスの主張は、採用することができ
ない。
イ 被告AXN及び被告ジャパネット
上記において説示したとおり、被告フィールドワークスは、原告に対
し、氏名表示の要否について確認すべき注意義務を負っていたものとい
10 える。そして、原告は、番組供給事業者の立場にある被告AXN及び被
告ジャパネットにおいても、原告に対し、上記注意義務を負うものであ
る旨主張するため、以下検討する。
前記認定事実エ及びオによれば、被告AXN及び被告ジャパネットは、
補助参加人東北新社から、それぞれ本件映画の利用許諾を受けるに当た
15 り、本件映画に関する権利処理が適正に行われたことを保証する、いわ
ゆる表明保証を受けていたことが認められる。
そして、証拠(丙11、12)及び弁論の全趣旨によれば、平成23
年1月に放送された字幕版の外国映画は、「ザ・シネマ」につき118
作品、「スターチャンネル」につき152作品であり、本件映画の放送
20 又は配信がされた時期においても、その放送に係る作品数において大き
く異なることはないものと認められる。そうすると、「ザ・シネマ」、
「スターチャンネル」を供給する番組供給事業者である被告AXN、被
告ジャパネットにおいて、制作者から利用許諾を受けて供給する全ての
番組について、利用される著作物の全てにつき、著作権者に対しその意
25 向を直接確認するなどして、権利処理が適正に行われたことを確認する
ことは、その膨大な作品数に照らしても極めて困難であり、現実的であ
ったとはいえない。
のみならず、従前までは、そもそも映画の字幕に関する氏名表示権が
格別問題とされたような事情をうかがうことができず、本件字幕につい
ても許諾がないことを疑わせるような事情も認めるに足りないことから
5 すると、被告AXN及び被告ジャパネットが、補助参加人東北新社との
間で締結された上記表明保証条項に基づき、少なくとも当時、本件字幕
の権利処理が適正に行われたものと信頼していたことには、やむを得な
い事情があったものといえる。
これらの事情の下においては、被告AXN及び被告ジャパネットは、
10 原告に対し、氏名表示の要否について確認すべき注意義務を負っていた
ものとはいえず、本件字幕の氏名表示権侵害につき、被告AXN及び被
告ジャパネットには、過失があるものと認めることはできない。
これに対し、原告は、被告AXN及び被告ジャパネットは、字幕翻訳
者の氏名がクレジット表示されていないことを認識し、字幕に関する権
15 利処理に疑問を抱くべきであった旨主張する。しかしながら、仮に番組
供給事業者が翻訳者の氏名を記載するという業界慣行(乙D5、乙E1
9ないし27、乙E36、乙E38)があったとしても、当該番組供給
事業者は、番組制作者が権利処理を適切に行った結果、字幕翻訳者の氏
名がクレジット表示されていないと理解するのが通常であるから、原告
20 主張に係る事情は、本件字幕に関する権利処理に疑問を抱かせるような
事情であるとまでいえず、前記判断を左右するものではない。したがっ
て、原告の主張は、採用することができない。
ウ 被告SPE、被告SPJ及び被告アイキャスト
原告は、放送事業者の立場にある被告SPE、被告SPJ及び被告ア
25 イキャストにおいても、原告に対し、氏名表示の要否について確認すべ
き注意義務を負うものである旨主張するため、以下検討する。
前記認定事実アないしウによれば、被告SPE、被告SPJ及び被告
アイキャストは、番組供給事業者である被告AXN又は被告ジャパネッ
トから、それぞれ本件映画の利用許諾を受けるに当たり、本件映画に関
する権利処理が適正に行われたことを保証する、いわゆる表明保証を受
5 けていたことが認められる。
そして、前記認定事実アないしウによれば、被告SPE、被告SPJ
及び被告アイキャストは、本件映画を放送するに当たり、そもそも、そ
の利用許諾契約に基づき、番組供給事業者から供給された番組を改変等
することを禁じられていたことが認められる。また、前記認定事実アに
10 よれば、被告SPEの行う衛星放送は、番組供給事業者から供給された
チャンネルの信号に関し、圧縮、変換、その他の信号の技術的操作のみ
を加えるものであり、上記認定事実イによれば、被告SPJの行う有線
放送は、番組供給事業者の番組の全てを受信し、その全てに一切の改変
を加えることなく、受信と同時に視聴者に再送信するものであり、証拠
15 (乙C8、乙C9)及び弁論の全趣旨によれば、被告アイキャストの行
うIPマルチキャスト配信は、番組供給事業者がチャンネル単位で提供
するコンテンツにつき、番組供給事業者が送出するデータを受け取るの
と同時に「ひかりTV」の契約者に配信するものであることが認められ
る。そうすると、被告SPE、被告SPJ及び被告アイキャストは、番
20 組供給事業者から提供された番組につき、その個別の番組の内容を把握
することはなく、機械的に放送する立場にあったものと認めるのが相当
であり、放送を見逃した利用者に対する補完的なサービスである被告S
PJ及び被告アイキャストによる配信についても同様であったと認める
のが相当である。
25 のみならず、従前までは、そもそも映画の字幕に関する氏名表示権が
格別問題とされたような事情をうかがうことができず、本件字幕につい
ても許諾がないことを疑わせるような事情を認めるに足りないことから
すると、被告SPE、被告SPJ及び被告アイキャストが、番組供給事
業者である被告AXN又は被告ジャパネットとの間で締結された上記表
明保証条項に基づき、少なくとも当時、本件字幕の権利処理が適正に行
5 われたものと信頼していたことには、その個別の番組の内容を把握する
ことはなく機械的に放送又は配信するという立場に照らしても、やむを
得ない事情があったものといえる。
これらの事情の下においては、被告SPE、被告SPJ及び被告アイ
キャストは、原告に対し、氏名表示の要否について確認すべき注意義務
10 を負っていたものとはいえず、本件字幕の氏名表示権侵害につき、被告
SPE、被告SPJ及び被告アイキャストには、過失があるものと認め
ることはできない。
これに対し、原告は、被告SPE、被告SPJ及び被告アイキャスト
は、字幕翻訳者の氏名がクレジット表示されていないことを認識し、字
15 幕に関する権利処理に疑問を抱くべきであった旨主張する。しかしなが
ら、仮に番組供給事業者が翻訳者の氏名を記載するという業界慣行(乙
D5、乙E19ないし27、乙E36、乙E38)があったとしても、
当該番組供給事業者は、番組制作者が権利処理を適切に行った結果、字
幕翻訳者の氏名がクレジット表示されていないと理解するのが通常であ
20 るから、原告主張に係る事情は、本件字幕に関する権利処理に疑問を抱
かせるような事情であるとまでいえず、前記判断を左右するものではな
い。したがって、原告の主張は、採用することができない。
5 争点3(客観的関連共同性)
前記認定事実によれば、本件字幕は、本件映画とともに放送又は配信され
25 ることを予定して、被告フィールドワークスが原告に制作を依頼し、被告フ
ィールドワークスから本件映画の利用を許諾された被告AXN及び被告ジャ
パネットが、その提供する番組である「ザ・シネマ」又は「スターチャンネ
ル」において、被告SPE、被告SPJ及び被告アイキャストの運営するプ
ラットフォームを通じて、放送又は配信したものである。
これらの事実関係の下においては、被告フィールドワークスは、本件字幕
5 が放送又は配信されることを当初から予定してその制作を依頼し、被告AX
N及び被告ジャパネットに利用を許諾したのであるから、放送又は配信によ
る本件字幕に係る氏名表示権侵害につき、客観的に共同で行ったものと認め
るのが相当である。
これに対し、被告フィールドワークスは、放送又は配信に当たり、氏名表
10 示の有無を決めるのは番組供給事業者であるから、被告フィールドワークス
は、氏名表示権侵害とは無関係である旨主張する。しかしながら、上記事実
関係の下においては、被告フィールドワークスは、当初から本件字幕が放送
又は配信されることを予定しており、本件字幕の制作は、その放送又は配信
と一体となって氏名表示権侵害を生じさせたといえるから、被告フィールド
15 ワークスは、上記氏名表示権侵害を客観的に共同で行ったものと認めるのが
相当である。したがって、被告フィールドワークスの主張は、採用すること
ができない。
6 争点4(消滅時効の成否)
上記5の判断を前提として、被告フィールドワークスに対する損害賠償請
20 求権に限り、消滅時効の成否を、以下判断する。
弁論の全趣旨によれば、被告フィールドワークスが、本件字幕の放送又は
配信に係る氏名表示権侵害につき、原告から、時効中断のための催告を受け
たのは、令和6年5月29日であったことが認められる。
そして、前記1⑴認定事実ウによれば、原告は、令和3年6月27日、株
25 式会社スター・チャンネルに対し質問状を送付し、同年7月21日、その回
答として、被告フィールドワークスが本件映画の権利処理を行うものである
旨記載されたメールを受領したことが認められ、上記回答を受領する以前に
は、本件字幕の放送又は配信について、被告フィールドワークスが関与して
いたことを示唆するような事情をうかがうことはできない。
上記認定事実によれば、原告が、上記放送又は配信に係る氏名表示権侵害
5 につき、被告フィールドワークスを加害者として認識したのは、令和3年7
月21日であると認めるのが相当である。
そうすると、被告フィールドワークスが催告を受けた時点において、消滅
時効は完成していなかったのであるから、消滅時効が成立したものと認める
ことはできない。
10 その他に、被告フィールドワークスは、「ザ・シネマ」に係る放送又は配
信につき令和元年6月28日又は令和3年5月27日を起算点とする消滅時
効の主張をし、「スターチャンネル」に係る放送又は配信につき、①同放送
につき平成28年12月19日、同配信につき平成29年1月31日、②同
放送又は同配信につき令和元年6月28日又は令和3年5月27日を起算点
15 とする消滅時効の主張をするものの、原告において、本件字幕の放送又は配
信に係る氏名表示権侵害の加害者を認識したのは令和3年7月21日であっ
たことは、上記において説示したとおりであり、当該事実によれば、被告フ
ィールドワークスの主張は、いずれも採用の限りではない。
7 争点5(損害額)及び争点6(過失相殺の要否)
20 ⑴ 損害額
証拠(乙A7)及び弁論の全趣旨によれば、本件字幕は、TV放送につ
き、「ザ・シネマ」を通じて18回(視聴者数は、被告SPJ及び被告SP
Eに係る放送分は不明であるものの、被告アイキャストに係る放送分は合計
10万9477人)、「スターチャンネル」を通じて16回(視聴者数は、
25 被告SPJ及び被告SPEに係る放送分は不明であるものの、被告アイキャ
ストに係る放送分においては合計4877人)、オンデマンド配信につき、
「ザ・シネマ」を通じて5439回(被告SPJ及びSPEに係る配信分が
365回、被告アイキャストに係る配信分が5074回)、「スターチャン
ネル」を通じ1879回(被告SPJ及び被告SPEに係る配信分が161
0回、被告アイキャストに係る配信分が269回)、以上の放送又は配信に
5 使用されたことが認められ、いずれも相当多数の視聴者に反復的かつ継続的
に提示されたものといえる。その他に、本件字幕の内容及びその人格的利益
の性質のほか、本件に顕れた一切の事情を考慮すると、氏名表示権侵害によ
る慰謝料額は、その視聴者数の相違に鑑み、「ザ・シネマ」の放送又は配信
分につき30万円と、「スターチャンネル」の放送又は配信分につき20万
10 円と、それぞれ認めるのが相当である。
⑵ 過失相殺の要否
被告フィールドワークスは、番組供給事業者が氏名表示の有無を判断す
るという上記業界慣行に照らせば、原告が本件映画の放送又は配信に先立
ち、氏名表示を要望しなかったことには過失があるとして、過失相殺によ
15 る減額を主張する。しかしながら、上記業界慣行を踏まえても、本件映画
の放送又は配信に先立ち、氏名表示に係る要望を確認するのは、被告フィ
ールドワークスであったというべきであることは、前記において説示した
とおりである。そうすると、被告フィールドワークスの主張は、字幕翻訳
業者の氏名表示に係る人格的利益の重要性を看過するものであり、過失相
20 殺による減額を認めるのは相当ではない。したがって、被告フィールドワ
ークスの主張は、採用することができない。
第4 結論
よって、原告の請求は、主文掲記の限度で理由があるからこれらを認容す
ることとし、その余の請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することと
25 し、主文第1項及び第2項については、本件事案に鑑み、仮執行宣言を付する
のが相当であるからこれを付することとして、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官

中 島 基 至
裁判官
10 武 富 可 南
裁判官
坂 本 達 也

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