令和7(行ケ)10091審決取消請求事件
判決文PDF
▶ 最新の判決一覧に戻る
| 裁判所 |
請求棄却 知的財産高等裁判所
|
| 裁判年月日 |
令和8年3月10日 |
| 事件種別 |
民事 |
| 当事者 |
原告ヤマハ発動機株式会社 被告特許庁長官
|
| 法令 |
意匠権
意匠法4条2項6回 意匠法4条3項5回 意匠法3条1項4回 意匠法3条1項3号3回 意匠法4条1項2回 意匠法3条1項1号2回 意匠法2条1項2回 意匠法24条2項1回
|
| キーワード |
審決39回 新規性25回 刊行物12回 分割2回 許諾1回 拒絶査定不服審判1回
|
| 主文 |
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。 |
| 事件の概要 |
1 特許庁における手続の経緯等
⑴ 原告は、令和5年8月31日、意匠に係る物品を「自動二輪車」として、
意匠登録出願をした(意願2023-17706、甲25の1。以下、この
出願を「本願」といい、出願に係る意匠登録を受けようとするものを「本願
意匠」という。
)
。原告は、同年9月1日、別紙1のとおりの「意匠の新規性
喪失の例外規定の適用を受けるための証明書」
(以下
「本件証明書」
という。
)
を特許庁に提出した。公開意匠の内容は、本件証明書の添付資料(写真)の
とおりである(以下、本件証明書における公開意匠を、単に「公開意匠」と
いう。 |
▶ 前の判決 ▶ 次の判決 ▶ 意匠権に関する裁判例
本サービスは判決文を自動処理して掲載しており、完全な正確性を保証するものではありません。正式な情報は裁判所公表の判決文(本ページ右上の[判決文PDF])を必ずご確認ください。
判決文
令和8年3月10日判決言渡
令和7年(行ケ)第10091号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 令和8年1月20日
判 決
原 告 ヤマハ発動機株式会社
同訴訟代理人弁理士 梅 澤 修
同 齋 藤 孝 惠
被 告 特 許 庁 長 官
同 指 定 代 理 人 綿 貫 浩 一
同 前 畑 さ お り
同 清 野 貴 雄
15 同 月 野 洋 一 郎
同 渡 邉 久 美
同 阿 曾 裕 樹
主 文
1 原告の請求を棄却する。
20 2 訴訟費用は、原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
特許庁が不服2024-12953号事件について令和7年8月12日に
した審決を取り消す。
25 第2 事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等
⑴ 原告は、令和5年8月31日、意匠に係る物品を「自動二輪車」として、
意匠登録出願をした(意願2023-17706、甲25の1。以下、この
出願を「本願」といい、出願に係る意匠登録を受けようとするものを「本願
意匠」という。)。原告は、同年9月1日、別紙1のとおりの「意匠の新規性
5 喪失の例外規定の適用を受けるための証明書」
(以下「本件証明書」という。)
を特許庁に提出した。公開意匠の内容は、本件証明書の添付資料(写真)の
とおりである(以下、本件証明書における公開意匠を、単に「公開意匠」と
いう。)。(甲25の2・3)
⑵ 本願について、令和5年11月16日付けで拒絶理由が通知された。原告
10 が同年12月19日付けで意見書を提出したところ、令和6年3月25日付
けで新たな拒絶理由が通知された。この新たな拒絶理由は、本願意匠が、そ
の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された意匠又
は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった意匠に類似するものと認め
られるため、意匠法3条1項3号に規定する意匠に該当するとしたものであ
15 り、拒絶の理由に引用した意匠(以下「引用意匠」という。)は、別紙2審決
書(写し)の別紙第2「引用意匠」のとおりである。引用意匠が掲載された
ウェブページは、株式会社内外出版社が運営するウェブサイト「WEBヤン
グマシン」に掲載された記事(以下「本件記事」という。)であり、令和5年
8月30日に公開された。引用意匠の具体的内容は、別紙2審決書(写し)
20 の別紙第2に参考として添付された本件記事のうち、下に「↑引用意匠」の
付せんが貼られているコンピューターグラフィックス(以下「CG」という。)
に表されている。このCGは、本件記事を作成したヤングマシン編集部が作
成したものである。(甲25の5・6)
⑶ 原告は、令和6年4月26日付けで意見書を提出したが、同年7月18日
25 付けで拒絶査定がされた。(甲25の7・8)
⑷ 原告は、令和6年8月8日付けで拒絶査定不服審判請求をした(不服20
24-12953号)。(甲25の9)
⑸ 特許庁は、令和7年8月12日、結論を「本件審判の請求は、成り立たな
い。」とする審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は、同月27
日に原告に送達された。
5 ⑹ 原告は、令和7年9月19日、本件審決の取消しを求めて、本件訴えを提
起した。
⑺ 意匠法4条3項は、令和5年法律第51号により改正されたが、同改正の
施行日は令和6年1月1日とされ(令和5年法律第51号附則1条2号、令
和5年政令第337号)、同改正後の意匠法4条3項の規定はその施行日以
10 後にする意匠登録出願について適用し、同日前にした意匠登録出願について
はなお従前の例によるとされた(令和5年法律第51号附則4条)。本願の出
願日は令和5年8月31日であるから、令和5年法律第51号による改正前
の意匠法4条3項が適用される。同号による改正前の意匠法4条3項の規定
は以下のとおりである。
15 「前項の規定の適用を受けようとする者は、その旨を記載した書面を意匠登
録出願と同時に特許庁長官に提出し、かつ、第3条第1項第1号又は第2号
に該当するに至った意匠が前項の規定の適用を受けることができる意匠であ
ることを証明する書面(次項及び第60条の7において「証明書」という。)
を意匠登録出願の日から30日以内に特許庁長官に提出しなければならな
20 い。」
2 本件審決の理由の要旨
本件審決の理由は、別紙2審決書(写し)のとおりであるが、その要旨は次
のとおりである。
⑴ 新規性の喪失の例外規定の適用の認否について
25 公開意匠と引用意匠とは、意匠に係る物品は共通するものの、色彩、保安
部品の有無、フロントカウル部の開口部、サイドカバー部、マフラー、フロ
ント周り及びリア周りにおいて差異があるため、公開意匠と引用意匠とは同
一の意匠とは言えない。
したがって、本願は、意匠法4条2項の適用を受けようとする意匠登録出
願であるものの、引用意匠は、提出された新規性の喪失の例外の規定の適用
5 を受けるための証明書に添付された資料に掲載された写真とは、色彩及び構
成等が明らかに異なり、当該証明書に記載された事実に基づく派生的な公開
によるものとも認められず、新規性の喪失の例外の規定の適用の対象となら
ないから、本願意匠の新規性の判断の資料から除外されるべきものとは言え
ない。また、引用意匠は、冒認的な創作物であり出願人の意に反する公開で
10 ある、とは認められないため、意匠法4条1項の規定も適用されない。
⑵ 本願意匠と引用意匠の類否について
本願意匠と引用意匠は、意匠に係る物品は同一であって、形状等において
も類似するものであるから、本願意匠と引用意匠とは類似する。
⑶ 結論
15 本願意匠は、新規性の喪失の例外規定の適用を受けることができず、その
結果、本願出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載され
た意匠又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった意匠に類似するも
のと認められ、意匠法3条1項3号に掲げる意匠に該当するものであるから、
同項の規定により、意匠登録を受けることができない。
20 3 取消事由
⑴ 取消事由1
新規性の喪失の例外規定の適用に関する判断の誤り
⑵ 取消事由2
本願意匠と引用意匠の類否の判断の誤り
25 第3 取消事由に関する当事者の主張
(判決注:原告は、本件審決及び本判決にいう「引用意匠」につき、これが意
匠に該当しないとして、
「本件CG画像」の語を用いて主張をしているので、以
下、原告の主張の摘示部分及び当裁判所の判断(後記第4)の中で原告の主張
に言及する箇所では、「本件CG画像」の語を用いることがある。)
1 取消事由1(新規性の喪失の例外規定の適用に関する判断の誤り)について
5 〔原告の主張〕
⑴ア 公開意匠と本件CG画像との共通点としては、本件審決が認定したもの
のほか、①フロントカウル部について、着色によって、前面部中央に『左
右が曲線状の略台形の塗分け模様』を形成し、フロントカウルには『縦斜
めに分割する塗分け模様』を形成している点、②サイドカバー部について、
10 略台形状からなり、着色により、斜めの直線状境界線で分割された塗分け
模様を形成している点、③マフラーについて、その着色が、エキゾースト
パイプは略金色、サイレンサー部の両端部は略銀色でサイレンサー部の本
体周面は略黒色となっている点がある。
イ 公開意匠と本件CG画像との相違点につき、本件審決が認定する相違点
15 (本件審決第5の1⑷イ(イ)、審決書15頁)は認める。しかし、フロント
カウル部の開口部について、本件CG画像の側面部下方に開口部を有して
いるかどうかは不明であるが、薄く陰影がある。サイドカバー部について、
本件CG画像がリアカウル部との接合箇所に段差を有するのは写真の撮
影角度による相違と推認され、また、前方側に膨らみを持たせていないの
20 は、公開意匠の写真において運転者のため隠れた部分の相違と推認される。
マフラーについて、公開意匠は、
『直線状に延びる』のに対し、本件CG画
像は、
『やや湾曲しながら延びる』相違は、写真の角度によるものと推認さ
れ、
『エキゾーストパイプの屈曲部とサイレンサー部との境界には、略楕円
形状からなる保護部材が鋲止めされている』か否かの相違は、本件CG画
25 像が『略灰色』で全体を塗りつぶした結果不明瞭になったものと推認され
る。また、これらの相違点は微細な相違である。したがって、これらの相
違点は、それを総合しても、両者の形状等の実質的な同一性を変更するま
でのものではない。
⑵ 本件CG画像は、公開意匠に基づく派生的な公開である。
本願出願時の意匠審査基準(以下「意匠審査基準(令和2年)」という。)」
5 第Ⅲ部第3章5頁には、「第三者の公開が『該当するに至った意匠』(公開意
匠)の公開に基づくことが明らかなときは、その公開によっても、その意匠
は公知意匠に該当するに至らなかったものとする。」と規定されており、その
例として、「意匠登録を受ける権利を有する者が見本市に出品したことによ
って公開された意匠と、その出品情報が新聞に掲載されたことによって公開
10 された意匠」が挙げられている。
公開意匠は、本件証明書に記載された展示会(令和5年(2023年)7
月13日に英国で開催された「GOODWOOD Festival of Speed」という名称
のイベント、以下「本件展示会」という。)で展示された現実の自動二輪車の
意匠である。本願について最初にされた令和5年11月16日付拒絶理由通
15 知(前記第2の1⑵)は、本件展示会で公開された自動二輪車をヤングマシ
ン編集部が撮影した写真を引用意匠としていた。上記拒絶理由通知に対して
原告が提出した意見書で主張したとおり、この写真は明らかに公開意匠に基
づく派生的な公開である。本件記事には、上記写真のほか、本件展示会で公
開された自動二輪車を撮影した5点の写真があるが、これらも公開意匠の公
20 開に基づくことが明らかである。
公開意匠と本件CG画像とは、形状等について、色彩、保安部品(ウイン
カー、バックミラー、オレンジ色の反射板、リヤフェンダー)の有無におい
て差異があるが、その他の多くの部分を占める「ほとんどの形状及び模様」
において共通し、全体として実質的に同一の形状等である。
25 本件CG画像は、本件記事から明らかなように、公開意匠を雑誌社が撮影
した写真に基づきCGを施したものであり、公開意匠に基づく派生的な「画
像」である。本件CG画像の作成や公開は、出願人の許諾なく行われ、出願
人は本件記事の存在を拒絶理由通知で初めて知ったものである。
したがって、本件CG画像についても、第三者の公開が公開意匠の公開に
基づくことが明らかなときに該当し、その公開によっても、本願意匠につい
5 ての意匠法3条1項及び2項の規定の適用については、同条1項1号又は2
号に該当するに至らなかったものとみなすべきである。
⑶ 仮に、本件CG画像の全体は、公開意匠を撮影した写真に加工を施した結
果、新たな創作となっていると解する場合でも、利用された公開意匠の写真
部分は、公開意匠そのものであり、本件CG画像のうち公開意匠の写真部分
10 の形状等については、新規性喪失の例外規定が適用されるべきである。
令和5年12月に改訂された意匠審査基準(以下「意匠審査基準(令和5
年)」という。)第Ⅲ部第3章8頁は、【事例2】において、「公開意匠Aの一
部と同一又は類似の部品・部分に4条2項の規定の適用を認める」としてい
る。産業構造審議会知的財産分科会意匠制度小委員会の第22回意匠審査基
15 準ワーキンググループ(令和5年8月30日)の議事録9頁には、上記【事
例2】等に関し、
「今までももちろん証明書に記載された公開意匠をこのよう
に扱っていたことの御説明になるのですが、今般、公知意匠同士の対比をす
るということになりましたので、改めてその取扱いを文章として明記する」
と記載されている(甲7)。したがって、意匠審査基準(令和5年)の規定は、
20 「又は類似」の部分を除き、令和5年法律第51号による改正前の意匠法4
条2項の規定にも適用される。
意匠審査基準(令和5年)の上記規定によれば、本件CG画像のうち、公
開意匠の写真部分は意匠法3条1項1号又は2号に該当するに至らなかった
ものとみなされ、本願意匠の新規性及び創作非容易性についての登録要件判
25 断の資料から除外される。そうすると、本件CG画像において、本願意匠の
登録要件判断の資料となるのは、公開意匠の写真部分を除いた残りの部分、
すなわち、
「サイドミラー」、
「ウインカーライト」及び「リヤフェンダー」の
部分の形状等となり、それらを総合したとしても、本願意匠とは明らかに類
似しないものである。
また、公開意匠の写真部分は、色彩において本件CG画像と相違するが、
5 塗分け模様は共通している。意匠審査基準(令和5年)第Ⅲ部第3章5頁に
は「『証明する書面』に記載された公開意匠に係る物品等の中で分離して識別
可能な部品・付属品等があり、当該部品・付属品等が公開意匠である場合は、
それらについても証明されているものとして扱い(一部が物品又は建築物の
内部に隠れている場合は外部に表れた箇所のみを公知意匠として扱う)、『証
10 明する書面』に記載された公開意匠に係る物品等の各部分についても、物品
等の中で示された位置、大きさ、範囲となる物品等の部分がそれぞれ証明さ
れているものとして扱う。」との記載がある。したがって、本件CG画像のう
ち、公開意匠の写真部分の形状及び模様は、本願意匠についての意匠法3条
1項及び2項の規定の適用については、同条1項2号に該当するに至らなか
15 ったものとみなすべきである。
⑷ 上記⑵及び⑶のとおり、本願意匠は、本件CG画像における「公開意匠に
基づく写真部分の形状等」について意匠法4条2項の新規性の喪失の例外の
規定の適用を受けることができるものである。
したがって、新規性の喪失の例外規定の適用に関する本件審決の認定判断
20 には誤りがある。
〔被告の主張〕
⑴ 公開意匠と引用意匠(原告の主張する本件CG画像)とは、本件審決(第
5の1⑷イ(イ)、15頁9~37行)に記載のとおり、色彩や各部の形状にお
いて、複数の相違が存在するのであって、両者の形状等が同一又は実質的に
25 同一であるとは言えない。特に、
「各部の保安部品について、引用意匠は、保
安部品であるウインカーやバックミラー等を有するが、公開意匠には保安部
品は設けられていない点」及び「リア周りについて、引用意匠は、リアフェ
ンダーがシートカウル部から水平方向よりわずかに下方に向けて、タイヤと
ホイールに対する庇のように取り付けられているのに対して、公開意匠には
リアフェンダーは取り付けられていない点」の相違は、原告の主張する「C
5 G加工(カラーリングや形状を変更)」によっては、公開意匠にはない各部品
が引用意匠に存在することについて、合理的説明がつかない上、引用意匠は、
単に保安部品等を任意に付加したものでなく、完成品としての自動二輪車の
デザインに資するよう考慮されたものであって、決して細部の相違とはいえ
ず、実質的な相違であるから、公開意匠と引用意匠とは同一の意匠ではない。
10 以上のとおり、引用意匠は公開意匠と形状等を異にする意匠であって、そ
の作成及び公開は第三者によって行われたものである。この第三者による引
用意匠の作成及び公開行為は、公開意匠の公開行為に対して行為主体が相違
する点及び同一の意匠ではない点から、原告の公開意匠の公開行為に基づい
て行われたものとはいえず、意匠法4条2項に規定する「意匠登録を受ける
15 権利を有する者の行為に起因して第3条第1項第1号又は第2号に該当する
に至った意匠」には該当しない。
したがって、引用意匠が公開意匠に基づいて公開されたものであり、新規
性喪失の例外規定の適用を受けられるものであるとする原告の主張は失当で
ある。
20 原告は、公開意匠と引用意匠(本件CG画像)との共通点として、本件審
決が認定するもののほかに、塗分け模様の共通点があると主張するが、この
ような細部の共通点である塗分け模様を追加的に認定したところで、公開意
匠と引用意匠が同一ではないとの判断は左右されない。
⑵ 原告は、第三者が作成し公開した引用意匠のうち、原告の公開意匠と形状
25 等が共通する部分については、意匠法4条2項の適用が認められる旨を主張
するが、その主張は誤った法の解釈に基づくものであって根拠がない。
「意匠」とは、
「物品・・・の形状、模様若しくは色彩若しくはこれらの結
合(形状等)
・・・であって、視覚を通じて美感を起こさせるものをいう」
(法
2条1項)のであって、物品全体の形状等に係る意匠について意匠登録の要
件の充足性を検討する場合は、その意匠全体から表出する美感を総合的に扱
5 うべきものである。そうした基本的考え方に対し、意匠全体から恣意的に部
分を切り分け、この部分は新規性を喪失している、また別の部分は新規性を
喪失していない、などとする原告の分裂した考えは相容れないものであって、
原告は、自己の主張に適うように都合良く述べているにすぎない。
また、原告がその主張の根拠とする意匠審査基準(令和5年)は、令和5
10 年法律第51号による改正後の意匠法(令和6年1月1日施行)に対応する
よう改訂されたもので、当該意匠審査基準は同日以降の意匠登録出願に適用
されるものであるところ(甲6の18頁「意匠審査基準の一部改訂について」
令和5年12月)、本願には適用されないから、原告の主張はその前提を欠く
ものである。
15 さらに、意匠審査基準の適用期日の問題を措くとしても、原告は、本願に
適用されるべきと主張する意匠審査基準の規定を誤って解し、その誤った解
釈に基づいて、独自の見解を述べるにすぎない。すなわち、原告が〔原告の
主張〕⑶において本願に適用すべき事例とする【事例2】
(甲6)は、図版の
記載において明らかなように、出願の意匠が、乗用自動車の部品の意匠(フ
20 ロントグリル)又は乗用自動車の部分の意匠(フロントグリル部分)である
意匠登録出願の場合の取扱いを示したものであり、自動二輪車の全体の意匠
である本願にそのまま適用できないものである。むしろ、本願の事情に適合
する事例は、同頁に掲載され、全体の意匠の出願の例を示した【事例3】で
あるといえる。なお、【事例3】が示す取扱いは、「証明書に記載された公開
25 意匠Aで開示されていない箇所や、形状等が特定できない箇所については4
条2項の規定の適用を認めない」とされている。
以上のとおり、意匠審査基準(令和5年)は、その適用期日において、本
願はその対象でないばかりか、内容としても、原告の主張を裏付けるもので
はなく、原告の主張は根拠のない独自の見解であって失当である。
2 取消事由2(本願意匠と引用意匠の類否の判断の誤り)について
5 〔原告の主張〕
⑴ 本件CG画像は、画像であるが、自動二輪車を描いたウェブサイトに掲載
された画像のコンテンツであり、「機器の操作の用に供されるもの又は機器
がその機能を発揮した結果として表示されるもの」
(意匠法2条1項)ではな
いから、意匠法上の「意匠」ではなく、同法3条1項2号に規定する「電気
10 通信回線を通じて公衆に利用可能となった意匠」には該当しない。
意匠法3条1項及び2項によれば、登録要件判断の資料は2種類あり、公
知の「意匠」と公知の「形状又は画像」であり、本件審決の「『CG画像』で
あろうと写真であろうと、それが本願出願前に雑誌やカタログ、インターネ
ット等で掲載され、公知意匠となれば、新規性の判断の基礎とする資料とし
15 て取り扱われる」との判断は誤りである。
⑵ 意匠審査基準(令和2年)第Ⅲ部第2章第3節1、2頁は、「『刊行物に
記載された意匠』(創作非容易性の判断の場合は『形状等又は画像』を含
む。本項においては以下同じ。)とは、刊行物に記載されている事項及び
刊行物に記載されているに等しい事項から把握される意匠をいう。」とし
20 「刊行物に記載されているに等しい事項とは、刊行物に記載されている
事項から、本願の出願時のその意匠の属する分野の通常の知識に基づい
て当業者が導き出せる事項をいう。」と規定する(甲11)。(意匠審査基
準(令和5年)第Ⅲ部第2章第3節1、2頁も同一(甲10)。)。
「刊行物に記載されているに等しい事項」の具体的内容について、意匠
25 審査基準(令和2年)第Ⅳ部第1章30頁は、「6.2.1 公知資料に
掲載された物品又は建築物の表示部等に画像が表されている場合の扱い」
として、「新規性の判断をする場合は、物品等の中で分離して識別可能な
部品等がある場合は、当該部品についても公知意匠となったものとして
扱い(一部が物品又は建築物の内部に隠れている場合は外部に表れた部
分のみを公知意匠として扱う)、各部分についても、物品等の中で示され
5 た位置、大きさ、範囲となる物品等の部分について意匠登録を受けようと
する意匠としてそれぞれ公知意匠となったものとして扱う。」とし、
「腕時
計型情報端末機の意匠が公知となったときに新規性を失う意匠の例」を挙げ
て、「腕時計型情報端末機や操作画像の部分について意匠登録を受けよう
とする意匠として考えられるものも含まれる。」と規定している(甲15)。
10 この基準によれば、
「外部に表れた部分のみを公知意匠」と認定し、また、
各部分については「物品等の部分について意匠登録を受けようとする意
匠として」すなわち「部分意匠」として公知意匠を認定することを規定し
ている。
また、意匠審査基準(令和5年)第Ⅲ部第3章5頁は、
「4.3.3 『証
15 明する書面』に記載された公開意匠の認定」として、
「『証明する書面』に
記載された公開意匠に係る物品等の中で分離して識別可能な部品・付属
品等があり、当該部品・付属品等が公開意匠である場合は、それらについ
ても証明されているものとして扱い( 一部が物品又は建築物の内部に隠
れている場合は外部に表れた箇所のみを公知意匠として扱う )、『証明す
20 る書面』に記載された公開意匠に係る物品等の各部分についても、物品等
の中で示された位置、大きさ、範囲となる物品等の部分がそれぞれ証明さ
れているものとして扱う。例えば、以下のように、『証明する書面』に記
載された公開意匠が、フレーム、タイヤ、サドル等の部品を組み立てた自
転車である場合、意匠法第4条第2項の規定を適用する意匠には、自転車
25 の意匠だけではなく、自転車の部品として識別可能なフレーム、タイヤ、
サドル等の部品の意匠や、自転車のサドルの部分や自転車のフレームの
一部を構成する部分について意匠登録を受けようとする意匠として考え
られるものも含まれる。」と規定する(甲6)。この基準は、令和5年に追
加された規定であるが、従来の運用を明記したものとの説明がある(甲
7)。意匠審査基準(令和5年)の上記規定でも、
「外部に表れた箇所のみ
5 を公知意匠」と認定すること、及び、「フレームの一部を構成する部分に
ついて意匠登録を受けようとする意匠として考えられるもの」すなわち
「部分意匠」として意匠登録出願することができる意匠を「公開意匠」と
して認定することが規定されている。
そして、意匠審査基準(令和2年)第Ⅱ部第1章1頁は、「どのような
10 意匠について意匠登録を受けようとするのかは、願書の記載及び願書に
添付した図面等の内容から定められるものであって、開示されていない
範囲の形状等(他の図と同一又は対称の説明記載により図示省略された
形状等を除く。)については、意匠登録を受けようとする部分の形状等と
して取り扱わない。」と規定する(甲17)
(意匠審査基準(令和5年)第
15 Ⅱ部第1章1頁も同一(甲18)。)。また、「意匠審査基準(令和2年)」
第Ⅲ部第1章9頁は、
「意匠に係る物品等の全体の形状等が図面に表され
ていない場合、審査官は、図面において開示されていない範囲の形状等
(規則に従い省略した場合を除く。)については意匠登録を受けようとす
る部分として取り扱わず、図面において表された部分について意匠登録
20 を受けようとする部分とする意匠として取り扱う。」と規定する(甲19)
(「意匠審査基準(令和5年)」第Ⅲ部第1章9頁も同一(甲20)。)。
以上のように、
「同一又は対称の説明記載により図示省略された形状等」
以外の「開示されていない範囲の形状等」は、「意匠登録を受けようとす
る部分の形状等」すなわち出願意匠の構成とは認定されず、「図面におい
25 て表された部分について意匠登録を受けようとする部分とする意匠」と
認定される。したがって、公知意匠や公開意匠についても、部分意匠とし
て意匠登録出願することができる意匠の構成として「開示されている範
囲の形状等」すなわち「表された部分」のみが公知の形状等として認定さ
れるべきである。
本件CG画像は、自動二輪車を斜め横から見た構図であり、自動二輪車
5 の片側部分の形状等が表された画像である。自動二輪車の片側の形状等
のみが「表された部分」であり、公知の形状等として認定できるのは、そ
の「片側の形状等」のみである。したがって、本件審決の「意匠が一方向
から表されたものであっても、造形的特徴は十分に看取でき」との認定、
また、「マフラー等を除けば、自動二輪車は車体に対して左右対称が一般
10 的であり、自動二輪車の片側の形状等が特定できれば、見えない反対側の
形状等も推認できるものである」との認定は、本件CG画像における公知
の形状等の認定として誤りであり、その結果、本願意匠が 引用意匠と類似
するとの誤った判断をしたものであり、本件審決は取り消されるべきで
ある。
15 〔被告の主張〕
⑴ 引用意匠とした自動二輪車の図は、自動二輪車の具体的な形状等を充
分に認定できるものである。また、引用意匠の掲載記事の内容からも、将
来発売が予想される自動二輪車の実車を想定して作成されたものである
ことが明白なものであって、当該図は、自動二輪車の意匠を表したもので
20 あることに疑いの余地はない。
原告は、引用意匠の図が自動二輪車の意匠に該当しない、画像のコンテ
ンツであると主張するが、かかる主張は、原告独自の見解であって、本件
争点とは無関係な論点である、画像意匠(法2条1項)などに関する言説
を殊更に援用し、詭弁を弄するものにすぎない。
25 ⑵ 原告は、画像意匠の審査基準等を示し、公知意匠や公開意匠について
も、部分意匠として意匠登録出願することができる意匠の構成として、開
示されている範囲の形状すなわち表された部分のみが公知の形状等とし
て認定されるべきと主張するが、引用意匠は画像意匠ではなく、実車を想
定しCGによって表された自動二輪車の公知意匠であるから、物品の意
匠とは異なる性質を有する画像意匠について定められた当該審査基準を
5 引用意匠の認定にそのまま適用すべきとするその主張は失当である。
また、従前から、「刊行物に記載された意匠が意匠登録の要件としての
いわゆる新規性を判断するための対比資料となり得るためには、当該刊
行物に記載された意匠を全体的に観察して、その意匠の主要な部分、少な
くとも看者が最も注意を引く意匠の要部を構成する態様が明らかである
10 ことを要するが、その構成態様のすべてが当該刊行物に現れていなくと
も、その意匠に属する物品の分野において通常の知識経験を有する者で
あればその態様を想定できる程度に記載されているときは、その意匠は、
意匠法3条1項3号にいう『刊行物に記載された意匠』に該当するという
べきである。」
(知財高裁平成7年(行ケ)第133号事件判決・乙2)と
15 されており、この分野における通常の知識を有する者であれば、引用意匠
のエキゾーストパイプの取り回し等から、引用意匠には現れていない車
両反対側にはマフラーが存在しないことを理解することができ、また、特
性上、自動二輪車は一般的には車体に対して左右対称であり、自動二輪車
の片側の形状等が特定できれば、見えない反対側の形状等も推認できる
20 ものであり(原告が示す左右非対称の自動二輪車の意匠登録事例(甲23、
甲24の1~21)をみても、片側の形状等に基づいて反対側の形状等を
推認することに重大な問題があるとは考えられない。)、引用意匠は、意匠
の認定ができるものであるから、その認定及び判断に基づく本審決に誤
りはなく、原告の主張は失当である。
25 そして、本件審決(21頁33行ないし22頁2行)が説示するとおり、
「バックミラーの取付位置とマフラーのサイレンサー部の形状の違いも、
本願出願人の先行意匠である、意匠登録第1712827号(乙第3号証)
にも同様の態様が見られ、当該分野においては本願出願前よりよく知ら
れた態様であるため、これらの相違をもってしても両意匠を別異のもの
とする程の大きな相違とはいえない」から、この点からも、本願意匠が引
5 用意匠に類似しないとする原告の主張は失当である。
第4 当裁判所の判断
1 取消事由1(新規性の喪失の例外規定の適用に関する判断の誤り)について
⑴ 原告は、本願について本件証明書を提出したが、本件証明書に記載された
公開意匠は、令和5年(2023年)7月13日に英国で開催された本件展
10 示会において公開された自動二輪車に係る意匠である(前記第2の1⑴)。こ
れに対し、引用意匠は、本件記事に掲載されたものであり(前記第2の1⑵)、
本件記事は、令和5年8月30日にインターネット上で公開されたものであ
る(甲5、弁論の全趣旨)。
原告は、公開意匠と引用意匠(原告のいう本件CG画像)は実質的に同一
15 であるから、本件証明書の提出により、本願について意匠法4条2項の新規
性喪失の例外規定が適用される旨主張するので、以下検討する。
⑵ 公開意匠と引用意匠との対比
ア 公開意匠について
公開意匠は、本件証明書(別紙1)の添付資料(写真)のとおりであり、
20 上記添付資料(写真)には自動二輪車が撮影された3枚の写真が添付され
ていて、それぞれに公開意匠が表されている。
本件審決は、公開意匠について、以下のとおり認定しているところ(審
決書10~12頁)、本件証明書の添付資料(写真)に照らし、以下の認定
は相当であると認められる。
25 フロントカウル部について、上方に湾曲する透明部を備え、そこから連
続するように前方まで略球面状となるように前面部を形成し、その左右方
向にエンジン上部を隠すように略平行四辺形状の側面部を設け、前面部と
左右側面部との間には、略三角錐形状の風よけ部が前面部及び側面部に対
して鋲止めで固定されている。前面部の中央下方に横長矩形状、側面部下
方に略台形状の開口部を有している。色彩について、前面部中央略台形部
5 分と左右側面部後端部は略黒色に、それ以外の部分は略灰色に着色されて
おり、左右側面部の開口部脇には、白色で数字とアルファベットが明記さ
れている。なお、写真大及び写真中の開口部上方に略楕円形状をした略灰
色のゼッケンプレートが設けられているが、写真小には設けられていない。
タンク部について、上面を略丘陵状とした側面視略台形状からなり、約
10 中央部に縦方向の溝部を設け、タンク後方下部を凹ませたような立体形状
となっている。タンク部は略黒色に着色されており、上方隅にYAMAH
Aの文字が白色で表されている。
シートカウル部について、タンク部に接し、後方に向けて湾曲しつつせ
り上がった形状のシート部とシート部後方を囲むように設けられた側面
15 視略台形状をした立体形状からなるリアカウル部から成り、シート部とリ
アカウル部とが接する垂直部分には、横長略オーバル形状からなる背当て
部が設けられている。色彩について、シートカウル後方の略台形状部分と
背当て部は略黒色に、それ以外は略灰色に着色されており、略台形状部分
の中央にはゼッケンプレートが設けられている。
20 サイドカバー部について、前方側に膨らみを持たせた略台形状からなり、
着色については、リアカウル部から繋がるように、斜めの境界線で略灰色
に着色され、それ以外の部分は略黒色に着色されている。
エンジンについて、自動二輪車の略中心に位置し、垂直方向から前方に
前傾させるようにフレームに取り付けられており、シリンダー部分は略黒
25 色に、その他の部分は略銀色に着色されている。
フレームについて、フロントカウル部とタンク部の間に設けられ,全体
を略L字形状に形成し、タンク部下方とフレーム屈曲部、フレーム端部に
凹部を備えている。全体は、略銀色に着色されている。
マフラーについて、エンジンから複数本のエキゾーストパイプが垂直に
延び、屈曲部でそれらが1本にまとまりそのままエンジン下方を水平方向
5 に直線状に延び、フレーム端部周辺で斜め上方に屈曲し、エキゾーストパ
イプよりも口径の太い略円柱状のサイレンサー部が装着されている。エキ
ゾーストパイプの屈曲部とサイレンサー部との境界には、略楕円形状から
なる保護部材が鋲止めされている。着色については、エキゾーストパイプ
は略金色、保護部材は略黒色、サイレンサー部の両端部は略銀色で本体周
10 面は略黒色となっており、サイレンサー部後端部には略金色の記号が描か
れている。
フロント周りについて、フロントフェンダー、タイヤ、ホイール、ディ
スクブレーキ、フロントフォーク、ハンドルで構成され、タイヤとホイー
ルの領域を約1/5覆うように、フロントフェンダーがフロントフォーク
15 に接合されている。
リア周りについて、スイングアーム、タイヤ、ホイール、ディスクブレ
ーキで構成され、リアフェンダーは取り付けられていない。
イ 引用意匠について
引用意匠は、別紙2審決書(写し)の別紙第2「引用意匠」のとおりで
20 あり、同別紙第2に参考として添付された本件記事のうち、下に「↑引用
意匠」の付せんが貼られているCGに具体的な意匠が表されている。
本件審決は、引用意匠について、以下のとおり認定しているところ、引
用意匠の内容に照らし、以下の認定は相当であると認められる。
フロントカウル部について、上方に湾曲する透明部を備え、そこから連
25 続するように前方まで略球面状となるように前面部を形成し、その左右方
向にエンジン上部を隠すように略平行四辺形状の側面部を設け、前面部と
左右側面部との間には、略三角錐形状の風よけ部が前面部及び側面部に対
して鋲止めで固定されている。前面部の中央下方に横長矩形状の開口部を
有しているが、側面部下方に開口部を有しているかどうかは不明である。
色彩について、前面部中央略台形部分は略黄色に、輪郭を略黒色で縁取っ
5 た外側は略白色に着色されている。フロントカウル左右側面部後端部は略
白色に、それ以外の部分は略朱色に着色されている。左右側面部の下方に
は略朱色からなる略王冠形状の模様を付し、そこには黒色のアルファベッ
トが明記されている。側面部の配色が切り替わる辺りに、略細長矩形状の
ウインカーが設置されている。また、フロントカウル部上方の透明部との
10 境界付近に、略楕円形状からなる略黒色のバックミラーが棒状体からなる
アームを介して取り付けられている。
タンク部について、上面を略丘陵状とした側面視略台形状からなり、約
中央部に縦方向の溝部を設け、タンク後方下部を凹ませたような立体形状
となっている。タンク部は略白色をベースに、フロントカウル部の色彩の
15 切り替え線の延長上に、略朱色の着色を有している。また、タンク部上方
隅にYAMAHAの文字が略黒色で表されている。
シートカウル部について、タンク部に接し、後方に向けて湾曲しつつせ
り上がった形状のシート部とシート部後方を囲むように設けられた側面
視略台形状をした立体形状からなるリアカウル部から成り、シート部とリ
20 アカウル部とが接する垂直部分には、横長略オーバル形状からなる背当て
部が設けられている。色彩について、シートとその下方のシートカウル部
と背当て部は略黒色に着色され、リアカウル部は全体を略朱色としつつ、
略台形状部分は略黄色に着色され、その周囲は略黒色で縁取られている。
サイドカバー部について、タンク部及びシートカウル部に接する箇所を
25 延長させた略台形状からなり、リアカウル部との接合箇所には段差を有し
ている。着色については、リアカウル部から繋がるように、斜めの境界線
で略朱色に着色され、それ以外の部分は略白色に着色されている。
エンジンについて、自動二輪車の略中心に位置し、垂直方向から前方に
前傾させるようにフレームに取り付けられており、シリンダー部分は略黒
色に、その他の部分は略灰色に着色されている。
5 フレームについて、フロントカウル部とタンク部の間に設けられ,全体
を略L字形状に形成し、タンク部下方とフレーム屈曲部、フレーム端部に
凹部を備えている。全体は、略銀色に着色されている。
マフラーについて、エンジンから複数本のエキゾーストパイプが垂直に
延び、屈曲部でそれらが1本にまとまりそのままエンジン下方をやや湾曲
10 しながら水平方向に延び、フレーム端部周辺で斜め上方に屈曲し、エキゾ
ーストパイプよりも口径の太い略円柱状のサイレンサー部が装着されて
いる。着色については、エキゾーストパイプは略金色、サイレンサー部の
両端部は略銀色でサイレンサー部の本体周面は略黒色となっている。
フロント周りについて、フロントフェンダー、タイヤ、ホイール、ディ
15 スクブレーキ、フロントフォーク、ハンドルで構成され、タイヤとホイー
ルの領域を約1/5覆うように、フロントフェンダーがフロントフォーク
に接合されており、ディスクブレーキ近傍には、略円盤状からなるオレン
ジ色の反射板が取り付けられている。
リア周りについて、リアフェンダー、スイングアーム、タイヤ、ホイー
20 ル、ディスクブレーキで構成され、リアフェンダーはシートカウル部から
水平方向よりわずかに下方に向けて、タイヤとホイールに対する庇のよう
に取り付けられている。
ウ 公開意匠と引用意匠との対比
公開意匠及び引用意匠は、いずれもその意匠に係る物品は自動二輪車で
25 あり、共通する。
そして、公開意匠と引用意匠の形状等を比較すると、共通点及び相違点
は以下のとおりであると認められる。
(ア) 共通点
フロントカウル部について、上方に湾曲する透明部を備え、そこから
連続するように前方まで略球面状となるように前面部を形成し、その左
5 右方向にエンジン上部を隠すように略平行四辺形状の側面部を設け、前
面部と左右側面部との間には、略三角錐形状の風よけ部が前面部及び側
面部に対して鋲止めで固定されている点。
タンク部について、上面を略丘陵状とした側面視略台形状からなり、
約中央部に縦方向の溝部を設け、タンク後方下部を凹ませたような立体
10 形状となっている点。
シートカウル部について、タンク部に接し、後方に向けて湾曲しつつ
せり上がった形状のシート部とシート部後方を囲むように設けられた側
面視略台形状をした立体形状からなるリアカウル部から成り、シート部
とリアカウル部とが接する垂直部分には、横長略オーバル形状からなる
15 背当て部が設けられている点。
エンジンについて、自動二輪車の略中心に位置し、垂直方向から前方
に前傾させるようにフレームに取り付けられている点。
フレームについて、フロントカウル部とタンク部の間に設けられ,全
体を略L字形状に形成し、タンク部下方とフレーム屈曲部、フレーム端
20 部に凹部を備えている点。
マフラーについて、エンジンから複数本のエキゾーストパイプが垂直
に延び、屈曲部でそれらが1本にまとまりそのままエンジン下方を通っ
て後方に延びている点。
フロント周りについて、フロントフェンダー、タイヤ、ホイール、デ
25 ィスクブレーキ、フロントフォーク、ハンドルで構成され、タイヤとホ
イールの領域を約1/5覆うように、フロントフェンダーがフロントフ
ォークに接合されている点。
リア周りについて、スイングアーム、タイヤ、ホイール、ディスクブ
レーキで構成されている点。
(イ) 相違点
5 色彩について、公開意匠は、主に略黒色と略灰色の色彩を有している
のに対して、引用意匠は、主に略朱色、略白色及び略黄色の色彩を有し
ている点。
各部の保安部品について、引用意匠は、保安部品であるウインカーや
バックミラー等を有するが、公開意匠には保安部品は設けられていない
10 点。
フロントカウル部の開口部について、公開意匠は、前面部の中央下方
に横長矩形状、側面部下方に略台形状の開口部を有しているが、引用意
匠は、前面部の中央下方に横長矩形状の開口部を有しているが、側面部
下方に開口部を有しているかどうかは不明である点。
15 サイドカバー部について、公開意匠は、前方側に膨らみを持たせた略
台形状をしているのに対して、引用意匠は、タンク部及びシートカウル
部に接する箇所を延長させた略台形状からなり、リアカウル部との接合
箇所には段差を有している点。
マフラーについて、公開意匠は、エンジン下方を水平方向に直線状に
20 延び、フレーム端部周辺で斜め上方に屈曲し、エキゾーストパイプより
も口径の太い略円柱状のサイレンサー部を装着しており、エキゾースト
パイプの屈曲部とサイレンサー部との境界には、略楕円形状からなる保
護部材が鋲止めされているのに対して、引用意匠は、エンジン下方をや
や湾曲しながら水平方向に延び、フレーム端部周辺で斜め上方に屈曲し、
25 エキゾーストパイプよりも口径の太い略円柱状のサイレンサー部を装着
しており、略楕円形状からなる保護部材が設けられていない点。
フロント周りについて、引用意匠のディスクブレーキ近傍には、略円
盤状からなるオレンジ色の反射板が設けられているのに対して、公開意
匠にはそのような反射板が設けられていない点。
リア周りについて、引用意匠は、リアフェンダーがシートカウル部か
5 ら水平方向よりわずかに下方に向けて、タイヤとホイールに対する庇の
ように取り付けられているのに対して、公開意匠にはリアフェンダーは
取り付けられていない点。
エ 以上によれば、公開意匠と引用意匠は、意匠に係る物品が共通し、一致
点も存在するが、上記ウ(イ)のとおり複数の箇所において相違点があり、こ
10 れらの相違点があることによれば、公開意匠と引用意匠が同一又は実質的
に同一であるとはいえない。
オ 原告は、前記第3の1〔原告の主張〕⑴アのとおり、公開意匠と引用意
匠には、本件審決が認定した一致点に加えて、複数の一致点があり、かつ、
同イのとおり、本件審決が認定した相違点は微細な相違であって、公開意
15 匠と引用意匠の形状等は実質的に同一である旨主張する。
しかし、原告が前記第3の1〔原告の主張〕⑴アにおいて挙げる①ない
し③の点は、公開意匠と引用意匠の一部についての色の塗分けや着色に関
するものであるところ、全体として彩色が異なることは前記ウ(イ)のとお
りであって、仮に公開意匠と引用意匠の一部における色の塗分けや着色の
20 共通点を、公開意匠と引用意匠の共通点と捉えたとしても、公開意匠と引
用意匠の形状等が実質的に同一であると解されることにはならない。
また、相違点について、原告が前記第3の1〔原告の主張〕⑴イにおい
て、フロントカウル部の開口部、サイドカバー部及びマフラーに関する相
違点について主張する内容は、その主張する内容が認められないか、又は
25 その主張内容を考慮しても、公開意匠と引用意匠の形状等が実質的に同一
であるといえないとの判断を左右しないものである。しかも、前記ウ(イ)の
とおり、公開意匠と引用意匠の形状等の相違点としては、上記各部位の相
違点のほか、彩色、ウインカーやバックミラー等の保安部品の有無、フロ
ント周り及びリア周りに相違点があるのであって、これらの相違点がある
にもかかわらず公開意匠と引用意匠の形状等が実質的に同一であると解
5 すべき根拠は認められない。
したがって、原告の主張は採用することができない。
⑶ 原告は、前記第3の1〔原告の主張〕⑵のとおり、引用意匠は、第三者の
公開が公開意匠の公開に基づくことが明らかなときに該当し、その公開によ
っても、本願意匠についての意匠法3条1項及び2項の規定の適用について
10 は、同条1項1号又は2号に該当するに至らなかったものとみなすべきであ
ると主張する。
しかし、本件証明書に記載された公開意匠が本件展示会で公開された自動
二輪車に係る意匠であり、引用意匠は本件展示会で公開された自動二輪車を
撮影した写真を基に作成されたCGであることは認められるものの、引用意
15 匠はその形状等が公開意匠の形状等と同一又は実質的に同一であるといえな
いものとなっているのであるから、本願意匠について、意匠登録を受ける権
利を有する者の行為に起因して意匠法3条1項1号又は2号に該当するに至
った(同法4条2項)ものとはいえない。
また、本願意匠について、意匠法4条1項の要件を満たさないことは、本
20 件審決の判断するとおりである。
したがって、原告の上記主張は採用することができない。
⑷ 原告は、前記第3の1〔原告の主張〕⑶のとおり、仮に、本件CG画像の
全体は、公開意匠を撮影した写真に加工を施した結果、新たな創作となって
いると解する場合でも、利用された公開意匠の写真部分は、公開意匠そのも
25 のであり、本件CG画像のうち公開意匠の写真部分の形状等については、新
規性喪失の例外規定が適用されるべきであると主張する。
この点、原告は、意匠審査基準(令和5年)の記載を挙げて、その内容に
基づいて上記主張をしているところ、意匠審査基準は法規範性を有するもの
ではなく、かつ、原告が挙げる意匠審査基準(令和5年)は、令和5年法律
第51号による意匠法の改正に基づいて従前の意匠審査基準を改訂して策定
5 されており、令和6年1月1日以降の意匠登録出願に適用されるものであっ
て、第Ⅲ部第3章「新規性喪失の例外」に関する部分も従前の審査基準の内
容から改訂されているから(甲6)、意匠審査基準(令和5年)の第Ⅲ部第3
章「新規性喪失の例外」の箇所に記載された基準が本願に適用されることも
ない。
10 上記の点を措くとしても、原告が上記主張の根拠として挙げる第Ⅲ部第3
章8頁の【事例2】は、改正後の意匠法4条3項に規定された証明書におけ
る公開意匠が、乗用自動車の部分的公開による公開意匠であって、意匠登録
出願が乗用自動車部品に係る意匠登録出願又は乗用自動車の部分に係る意匠
登録出願の事例である。本願においては、本件証明書における公開意匠も、
15 本願意匠も、自動二輪車全体の意匠であって、自動二輪車の部品又は自動二
輪車の部分の意匠ではないから、上記【事例2】の考え方が本願に適用され
ると解することはできない。
そして、原告の上記主張の根拠となる意匠法上の根拠は見当たらない。
したがって、原告の上記主張は採用することができない。
20 ⑸ 取消事由1に関する結論
以上によれば、新規性の喪失の例外規定の適用に関する本件審決の判断に
誤りがあるとは認められず、取消事由1には理由がない。
2 取消事由2(本願意匠と引用意匠の類否の判断の誤り)について
⑴ 本願意匠と引用意匠との対比
25 ア 本願意匠について
本願意匠の意匠に係る部品は、自動二輪車である(甲25の1)。
本願意匠の形状等は、別紙2本件審決(写し)別紙第1「本願意匠(意
願2023-017706)」に挙げられている斜視図1、斜視図2、正面
図、背面図、左側面図、右側面図及び平面図のとおりである。本件審決は、
本願意匠の形状等について、以下のとおり認定しているところ、原告は上
5 記認定を争っておらず、上記各図面の内容に照らし、以下の認定は相当で
あると認められる。
全体形状について、本願意匠は、濃淡を有する写真で現され、主に、フ
ロントカウル部、タンク部、シートカウル部、サイドカバー部からなる外
装部品、エンジン、フレーム、マフラー、フロント周り及びリア周りの各
10 部品から構成されている。
フロントカウル部について、上方に湾曲する透明部を備え、そこから連
続するように前方まで略球面状となるように前面部を形成し、その左右方
向にエンジン上部を隠すように略平行四辺形状の側面部を設け、前面部と
左右側面部との間には、略三角錐形状の風よけ部が前面部及び側面部に対
15 して鋲止めで固定されている。前面部の中央下方に横長矩形状の開口部を、
側面部下方に略台形状の開口部を有している。側面部の前方寄りに、略細
長矩形状のウインカーが設置されている。
タンク部について、上面を略丘陵状とした側面視略台形状からなり、約
中央部に縦方向の溝部を設け、タンク後方下部を凹ませたような立体形状
20 となっている。
シートカウル部について、タンク部に接し、後方に向けて湾曲しつつせ
り上がった形状のシート部と、シート部後方を囲むように設けられた側面
視略台形状をした立体形状からなるリアカウル部から成り、シート部とリ
アカウル部とが接する垂直部分には、横長略オーバル形状からなる背当て
25 部が設けられており、リアカウル部の後方面には略楕円形状からなる2つ
の微小孔部が縦に並んでいる。
サイドカバー部について、前面側に膨らみを持たせた略台形状からなり、
リアカウル部との接合箇所にはわずかな隙間はあるものの、リアカウル部
と面一になるような平面処理が行われている。
エンジンについて、自動二輪車の略中心に位置し、垂直方向から前方に
5 前傾させるようにフレームに取り付けられている。
フレームについて、フロントカウル部とタンク部の間に設けられ,全体
を略L字形状に形成し、タンク部下方と屈曲部、フレーム端部に凹部を備
えている。
マフラーについて、エンジンから複数本のエキゾーストパイプが垂直に
10 延び、屈曲部でそれらが1本にまとまりそのままエンジン下方を水平方向
に直線状に延び、フレーム端部後方の位置に略扁平三角柱状のサイレンサ
ー部を設けている。
フロント周りについて、フロントフェンダー、タイヤ、ホイール、ディ
スクブレーキ、フロントフォーク、ハンドルで構成され、タイヤとホイー
15 ルの領域を約1/5覆うように、フロントフェンダーがフロントフォーク
に接合されており、ハンドル端部に、略楕円形状からなるバックミラーが
略矩形状接続部を介して取り付けられている。
リア周りについて、リアフェンダー、スイングアーム、タイヤ、ホイー
ル、ディスクブレーキで構成され、リアフェンダーはシートカウル部から
20 水平方向よりわずかに下方に向けて、タイヤとホイールに対する庇のよう
に取り付けられている。
イ 引用意匠について
引用意匠は、前記1⑵イに認定のとおりである。
ウ 本願意匠と引用意匠との対比
25 本願意匠及び引用意匠は、いずれもその意匠に係る物品は自動二輪車で
あり、共通する。
そして、本願意匠と引用意匠の形状等を比較すると、共通点及び相違点
は以下のとおりであると認められる。
(ア) 共通点
a フロントカウル部について、上方に湾曲する透明部を備え、そこか
5 ら連続するように前方まで略球面状となるように前面部を形成し、そ
の左右方向にエンジン上部を隠すように略平行四辺形状の側面部を設
け、前面部と左右側面部との間には、略三角錐形状の風よけ部が前面
部及び側面部に対して鋲止めで固定されている点。
b タンク部について、上面を略丘陵状とした側面視略台形状からなり、
10 約中央部に縦方向の溝部を設け、タンク後方下部を凹ませたような立
体形状となっている点。
c シートカウル部について、タンク部に接し、後方に向けて湾曲しつ
つせり上がった形状のシート部とシート部後方を囲むように設けられ
た側面視略台形状をした立体形状からなるリアカウル部から成り、シ
15 ート部とリアカウル部とが接する垂直部分には、横長略オーバル形状
からなる背当て部が設けられている点。
d エンジンについて、自動二輪車の略中心に位置し、垂直方向から前
方に前傾させるようにフレームに取り付けられている点。
e フレームについて、フロントカウル部とタンク部の間に設けられ、
20 全体を略L字形状に形成し、タンク部下方と屈曲部、フレーム端部に
凹部を備えている点。
f マフラーについて、エンジンから複数本のエキゾーストパイプが垂
直に延び、屈曲部でそれらが1本にまとまりそのままエンジン下方を
通っている点。
25 g フロント周りについて、フロントフェンダー、タイヤ、ホイール、
ディスクブレーキ、フロントフォーク、ハンドルで構成され、タイヤ
とホイールの領域を約1/5覆うように、フロントフェンダーがフロ
ントフォークに接合されている点。
h リア周りについて、リアフェンダー、スイングアーム、タイヤ、ホ
イール、ディスクブレーキで構成され、リアフェンダーはシートカウ
5 ル部から水平方向よりわずかに下方に向けて、タイヤとホイールに対
する庇のように取り付けられている点。
(イ) 相違点
a 本願意匠は、濃淡を有する写真で現されているのに対して、引用意
匠は、色彩を有する点。
10 b フロントカウル部の開口部について、本願意匠は、前面部の中央下
方に横長矩形状、側面部下方に略台形状の開口部を有しているが、引
用意匠は、前面部の中央下方に横長矩形状の開口部を有しているが、
側面部下方に開口部を有しているかどうかは不明である点。
c フロントカウル部のウインカーの位置について、本願意匠は側面部
15 の前方寄りであるのに対して、引用意匠は、側面部の配色が切り替わ
る辺りに設置されている点。
d バックミラーについて、本願意匠は、ハンドル端部に略矩形状接続
部を介して取り付けられているのに対して、引用意匠は、フロントカ
ウル部上方の透明部との境界付近に、棒状体からなるアームを介して
20 取り付けられている点。
e サイドカバー部について、本願意匠は、前方側に膨らみを持たせた
略台形状からなり、リアカウル部との接合箇所にはわずかな隙間はあ
るものの、リアカウル部と面一になるような平面処理が行われている
のに対して、引用意匠は、タンク部及びシートカウル部に接する箇所
25 を延長させた略台形状からなり、リアカウル部との接合箇所には段差
を有している点。
f マフラーについて、本願意匠は、フレーム端部後方の位置に略扁平
三角柱状のサイレンサー部を設けているのに対して、引用意匠は、フ
レーム端部周辺で斜めに屈曲しエキゾーストパイプよりも口径の太い
略円柱状のサイレンサー部を装着している点。
5 エ 本願意匠と引用意匠との類否判断
(ア) 登録意匠とそれ以外の意匠が類似であるか否かの判断は、需要者の視
覚を通じて起こさせる美感に基づいて行われる(意匠法24条2項参
照)。
本願意匠と引用意匠の意匠に係る物品はいずれも自動二輪車であり、
10 その需要者は、自動二輪車の取引等に携わる者の他、自動二輪車に関心
を有する一般の消費者であり、本願意匠と引用意匠との類否判断は、こ
れらの需要者の視覚を通じて起こさせる美感の観点から行われることと
なる。以下、この観点から検討する。
(イ) 本願意匠と引用意匠は、いずれも意匠に係る物品は自動二輪車であっ
15 て、共通する。
そして、本願意匠と引用意匠の形状等は、前記ウ(ア)aないしhのとお
り、自動二輪車の意匠の多数の箇所において共通点を有している。
共通点aは、フロントカウル部に関するものであって、自動二輪車の
前面部という、需要者が注目する箇所における共通点であり、かつ、前
20 面部における特徴的な形状にかかる共通点であるから、需要者の視覚を
通じて起こさせる美感に与える影響が大きいと解され、共通点aが本願
意匠と引用意匠の類否判断に与える影響は大きい。
共通点bは、タンク部に関するものであるところ、タンク部はフレー
ムを介してフロントカウル部に続く部分であり、このような部位におけ
25 る特徴的な形状に関する共通点であるから、共通点aと相まって、需要
者に共通の印象を与えるものであるといえる。
共通点cは、シートカウル部に関するものであるところ、シートカウ
ル部はタンク部に接する部分であり、これを構成するシート部、リアカ
ウル部及び背当て部について、シート部は後方に向けて湾曲しつつせり
上がった形状であり、リアカウル部はシート部とシート部後方を囲むよ
5 うに設けられた側面視略台形状をした立体形状からなり、背当て部は横
長略オーバル形状からなるというように、これらの形状が全て共通して
いるから、共通点a及びbと相まって、需要者の視覚を通じて起こさせ
る美感に与える影響が大きいと解され、共通点cが本願意匠と引用意匠
の類否判断に与える影響は大きい。
10 以上のとおり、本願意匠と引用意匠は、複数の共通点を有しており、
特に共通点a、b及びcは、需要者の目を引きやすい部分に係るもので
あり、需要者に共通の印象を与え、本願意匠と引用意匠の類否判断に大
きな影響を与える共通点であるといえる。
(ウ) 相違点aは、本願意匠は濃淡を有する写真で現されているのに対して、
15 引用意匠は色彩を有するとの相違点であるが、需要者は、本願意匠が実
際に自動二輪車として製品となる際にはこれに何らかの着色がされる
と認識するから、上記相違点は本願意匠が引用意匠と異なるものである
との印象を需要者にもたらすものとはいえない。
相違点bは、フロントカウル部のうち開口部の相違であり、自動二輪
20 車の前面部における相違点ではあるものの、フロントカウル部全体とし
て共通点aのとおりの共通点を有することからすれば、開口部に相違点
があることは、需要者の視覚に通じた美感に与える影響が大きいとはい
えず、相違点bが本願意匠と引用意匠の類否判断に与える影響は大きい
とはいえない。
25 相違点cは、フロントカウル部のうちウインカーの位置の相違である
が、相違点bと同様に、フロントカウル部全体として共通点aのとおり
の共通点を有することからすれば、ウインカーの位置の相違が需要者の
視覚に通じた美感に与える影響が大きいとはいえず、本願意匠と引用意
匠の類否判断に与える影響が大きいとはいえない。
相違点dは、バックミラーの位置と、バックミラーの取り付け部の形
5 状の相違であるが、本願意匠と引用意匠のバックミラーの位置の相違は
それほど大きなものではない上、自動二輪車においてバックミラーの位
置の細かな相違やその取り付け部の形状が需要者の着目する部分である
とは解されないから、相違点dが本願意匠と引用意匠の類否判断に与え
る影響が大きいとはいえない。
10 相違点eは、サイドカバー部の形状及びリアカウル部との接合の態様
の相違であるが、サイドカバー部が略台形状からなることは共通してお
り、サイドカバー部について、前方側に膨らみを持たせたものとなって
いるか否か、タンク部及びシートカウル部に接する箇所を延長させたも
のであるか否か、及びリアカウル部との接合箇所に段差があるか否かの
15 相違は、需要者の視覚を通じて起こさせる美感に与える影響が大きいと
はいえず、相違点eが本願意匠と引用意匠の類否判断に与える影響は大
きいとはいえない。
相違点fは、マフラーに設けられたサイレンサー部の位置及び形状の
相違であるところ、マフラーの形状等に関しては、エンジンから複数本
20 のエキゾーストパイプが垂直に延び、屈曲部でそれらが1本にまとまり
そのままエンジン下方を通っている点は共通しており(上記ウ(ア)f)、
自動二輪車の全体にわたって、その他にも共通点があることからすれば、
サイレンサー部の位置及び形状の相違が、需要者の視覚を通じて起こさ
せる美感に与える影響が大きいとはいえず、相違点fが本願意匠と引用
25 意匠の類否判断に与える影響は大きいとはいえない。
(エ) 上記(イ)、(ウ)によれば、本願意匠と引用意匠とで、その形状等に相違
点aないしfがあることを考慮しても、共通点が与える共通の印象を覆
すには至らないといえる。
そうすると、前記需要者の観点から見た場合、本願意匠と引用意匠は
類似するということができる。
5 ⑵ 原告は、前記第3の2〔原告の主張〕⑴のとおり、本件CG画像は意匠法
上の意匠に当たらないと主張する。
しかし、引用意匠は、自動二輪車という物品の形状、模様若しくは色彩若
しくはこれらの結合(形状等)であって、物品の意匠である。原告が上記主
張において挙げる、意匠法2条1項にある「機器の操作の用に供されるもの
10 又は機器がその機能を発揮した結果として表示されるもの」の文言は、画像
自体が意匠となる場合(画像意匠)に関するものであり、CGを用いて作成
された物品の意匠である引用意匠について、同項の上記文言の内容に該当す
る場合に限り意匠となるなどと解する余地はない。
したがって、原告の上記主張は採用することができない。
15 ⑶ 原告は、前記第3の2〔原告の主張〕⑵のとおり、意匠審査基準の複数の
記載箇所を挙げた上で、本件CG画像は自動二輪車の片側の形状等のみが表
されたものであり、公知の形状等として認定できるのは、その「片側の形状
等」のみであるから、本件審決が、
「意匠が一方向から表されたものであって
も、造形的特徴は十分に看取でき」ると認定し、また、
「マフラー等を除けば、
20 自動二輪車は車体に対して左右対称が一般的であり、自動二輪車の片側の形
状等が特定できれば、見えない反対側の形状等も推認できるものである」と
認定したことは、本件CG画像における公知の形状等の認定として誤りであ
り、その結果、本願意匠が引用意匠と類似するとの誤った判断をしたもので
あると主張する。
25 しかし、本件審決が説示するとおり(審決書17頁)、マフラー等の一部の
部品を除けば、自動二輪車は車体に対して左右対称であるのが一般的であり、
自動二輪車の片側の形状等が特定できれば、見えない反対側の形状等も認定
することが可能であるといえる。また、引用意匠は、向かって右側が自動二
輪車前方となるように表され、静止状態の引用意匠は右斜め前方が手前に来
るような構成となっており、自動二輪車の一方の側面のみが描かれたもので
5 はなく、フロントカウル部についてはその正面部分がおおむね見えるように
描かれているところ、上記フロントカウル部の正面部分の形状等及びバック
ミラーの取り付け位置は左右対称であり、このような引用意匠に接した需要
者は、一般的な自動二輪車と同様、引用意匠の自動二輪車も一部の部品を除
いて車体に対して左右対称であると認識するといえる。したがって、引用意
10 匠に自動二輪車の片側の形状等しか示されていないとしても、そのことをも
って、自動二輪車全体の意匠等を認定することができないとはいえず、本件
審決が引用意匠として自動二輪車全体の形状等を認定して、本願意匠と引用
意匠との類否を判断したことが誤りであるともいえない。
原告は、上記主張において、意匠審査基準(令和2年)第Ⅱ部第1章1
15 頁(甲17)に、「どのような意匠について意匠登録を受けようとするの
かは、願書の記載及び願書に添付した図面等の内容から定められるもの
であって、開示されていない範囲の形状等(他の図と同一又は対称の説明
記載により図示省略された形状等を除く。)については、意匠登録を受け
ようとする部分の形状等として取り扱わない。」と の記載があり、意匠審
20 査基準(令和2年)第Ⅲ部第1章9頁(甲19)に、「意匠に係る物品等
の全体の形状等が図面に表されていない場合、審査官は、図面において開
示されていない範囲の形状等(規則に従い省略した場合を除く。)につい
ては意匠登録を受けようとする部分として取り扱わず、図面において表
された部分について意匠登録を受けようとする部分とする意匠として取
25 り扱う。」との記載があることを挙げる。
しかし、審査基準は法規範性を有しないものである上、本件で問題となっ
ているのは、本件記事の中に存在するCG画像からどのような引用意匠を認
定することができるかについてであり、意匠の出願に際して開示が必要な形
状等に関する審査基準、あるいは意匠に係る物品の全体の形状等が出願の書
類に示されていない場合に特許庁がどのような意匠を認定するかに関する審
5 査基準が、引用意匠の認定に関する上記問題点に対する判断に適用されると
は解されない。
また、原告が上記主張において挙げる意匠審査基準(令和2年)第Ⅳ部第
1章(甲15)は、公知資料に記載された物品又は建築物の表示部等に画像
が表されている場合の扱いについて述べたものであり、意匠審査基準(令和
10 5年)第Ⅲ部第3章5頁(甲6)は、改正後の意匠法4条3項の証明書に記
載された公開意匠に係る物品等の中で分離して識別可能な部品・付属品等が
存在し、当該部品・付属品等が公開意匠である場合に、当該部品・付属品等
が物品等の内部に隠れている場合は外部に表れた箇所のみを公知意匠として
扱うとの記載があるものであって、いずれも本件とは場面が異なるものであ
15 る。
したがって、原告の上記主張は採用することができない。
⑷ 取消事由2に関する結論
以上によれば、本願意匠と引用意匠の類否に関する本件審決の判断に誤り
があるとは認められず、取消事由2には理由がない。
20 3 結論
以上によれば、原告の主張する取消事由はいずれも理由がなく、本件審決に
ついて、これを取り消すべき違法はないから、原告の請求は棄却されるべきで
ある。
よって、主文のとおり判決する。
25 知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官
5 中 平 健
10 裁判官
今 井 弘 晃
裁判官
水 野 正 則
(別紙1)
省略
(別紙2)
省略
最新の判決一覧に戻る