令和7(ワ)70146商標権侵害による不法行為損害賠償請求事件
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| 裁判所 |
請求棄却 東京地方裁判所
|
| 裁判年月日 |
令和8年3月18日 |
| 事件種別 |
民事 |
| 当事者 |
原告Aⅰ 被告関ケ原町
Bⅰ
Cⅰ
Dⅰ
|
| 法令 |
商標権
商標法36条1項2回 商標法5条1項1回
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| キーワード |
商標権21回 侵害20回 差止9回 ライセンス7回 実施6回 損害賠償2回
|
| 主文 |
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
| 事件の概要 |
1 事案の要旨
本件は、別紙商標目録記載1ないし3の各商標(以下、同目録の項番に従い
「原告商標1」ないし「原告商標3」といい、これらを併せて「原告各商標」
という。
)に係る商標権(以下、原告商標1から3までに係る商標権を「原告
商標権1」ないし「原告商標権3」といい、これらを併せて「原告各商標権」
という。
)を有する原告が、原告各商標の登録出願後に警告書を送付したにも
かかわらず、被告らが無断で原告各商標を使用した旨主張して、被告らに対し、
①商標法36条1項及び2項に基づき、原告各商標を付した物品の頒布の差止
め及び同物品の廃棄並びに原告各商標を使用した事業の差止めを求めるととも
に、②商標法13条の2に基づき、損失相当額105万円及びこれに対する被
告らによる商標使用行為の後である令和5年10月26日から支払済みまで民
法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 |
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判決文
令和8年3月18日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
令和7年(ワ)第70146号 商標権侵害による不法行為損害賠償請求事件
口頭弁論終結日 令和8年1月16日
判 決
5 原 告 Aⅰ
被 告 関 ケ 原 町
(以下「被告関ケ原町」という。)
被 告 Bⅰ
(以下「被告Bⅰ」という。)
10 被 告 Cⅰ
(以下「被告Cⅰ」という。)
被 告 Dⅰ
(以下「被告Dⅰ」という。)
上記4名訴訟代理人弁護士 池 田 智 洋
15 主 文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
20 1 被告らは、別紙商標目録記載の商標や呼称を用いた物品を頒布してはならな
い。
2 被告らは、別紙商標目録記載の商標や呼称を用いた物品を廃棄せよ。
3 被告らは、原告に対し、連帯して、105万円及びこれに対する令和5年1
0月26日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
25 4 被告らは、別紙商標目録記載の商標や呼称を用いた事業を行ってはならない。
第2 事案の概要等
1 事案の要旨
本件は、別紙商標目録記載1ないし3の各商標(以下、同目録の項番に従い
「原告商標1」ないし「原告商標3」といい、これらを併せて「原告各商標」
という。)に係る商標権(以下、原告商標1から3までに係る商標権を「原告
5 商標権1」ないし「原告商標権3」といい、これらを併せて「原告各商標権」
という。)を有する原告が、原告各商標の登録出願後に警告書を送付したにも
かかわらず、被告らが無断で原告各商標を使用した旨主張して、被告らに対し、
①商標法36条1項及び2項に基づき、原告各商標を付した物品の頒布の差止
め及び同物品の廃棄並びに原告各商標を使用した事業の差止めを求めるととも
10 に、②商標法13条の2に基づき、損失相当額105万円及びこれに対する被
告らによる商標使用行為の後である令和5年10月26日から支払済みまで民
法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いのない事実、当裁判所に顕著な事実並びに後掲証
拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
15 ⑴ 当事者等
ア 原告は一級建築士の資格を持つデザイナーである。
イ 被告関ケ原町は公共団体であって関ケ原検定と称する事業(以下「関ケ
原検定事業」という。)の実施主体であり、被告Bⅰは被告関ケ原町の町
長、被告Cⅰ及び被告Dⅰは被告関ケ原町の職員であり、関ケ原検定事業
20 の担当者である。
⑵ 原告の商標権
原告は、別紙商標目録の「出願日」欄記載の各日に、原告各商標に係る商
標登録出願を行い、同目録の「登録日」欄記載の各日に、原告各商標権の設
定登録を受け、現在も原告各商標権を有している。(甲7~9、10、12、
25 15)
⑶ 本件訴えに至る経緯
ア 被告関ケ原町は、令和2年7月頃から、関ケ原検定事業を企画し、令和
3年1月20日から同年3月12日までの間、その一環としてプレ検定を
実施した。
その際、被告関ケ原町は、原告商標1の一部を構成する「一級合戦士」
5 の表示、原告商標2の一部を構成する二体の甲冑を着た人物のイラスト
(なお、二体のイラストのうち一体は左右が反転している。)及び原告商
標3の一部を構成する「関ケ原検定!(セキケン)」の表示を含むポスタ
ーを作成し、これを頒布した。(甲2)
イ 原告は、令和3年6月17日、名宛人を「関ケ原役場地域振興課Dⅰ課
10 長様、関ケ原歴史民俗学習館Cⅰ館長様」として、被告Dⅰ及び被告Cⅰ
に対し、関ケ原検定の実施に際して原告の著作権及び商標権を侵害してお
り、当該侵害行為の差止めを求める旨を記載した「知的財産侵害警告」と
題する文書(以下「本件警告書」という。)を送付した。(乙1)
3 争点
15 ⑴ 差止請求の成否(争点1)
⑵ 商標法13条の2に基づく金銭請求の成否(争点2)
ア 商標法13条の2の要件該当性の有無(争点2-1)
イ 損失の発生及び損失額(争点2-2)
第3 争点に関する当事者の主張
20 1 争点1(差止請求の成否)について
(原告の主張)
被告らは、令和2年12月から令和3年8月までの間、原告に無断で原告各
商標を関ケ原検定事業に使用し、収益を得ていた。よって、被告らは、原告各
商標権を侵害し、また、侵害するおそれがあるから、請求の趣旨第1項、第2
25 項及び第4項記載の差止等を命じる必要がある。
(被告らの主張)
否認ないし争う。
被告関ケ原町は、原告各商標の設定登録前である令和3年7月15日に関ケ
原検定事業を中止し、それ以降、同事業を実施していないから、原告各商標権
を侵害したことはなく、また今後侵害するおそれもない。よって、原告による
5 差止等の請求は認められない。
(被告Bⅰ、被告Cⅰ及び被告Dⅰの主張)
関ケ原検定事業は、被告関ケ原町の事業であり、被告Bⅰ、被告Cⅰ及び被
告Dⅰが個人として実施するものではない。
2 争点2-1(商標法13条の2の要件該当性の有無)について
10 (原告の主張)
商標法13条の2に基づく請求の要件は、①商標登録出願していること、②
商標登録出願人が出願内容を記載した書面で相手方に警告していること、③警
告後に相手方がその商標を使用したこと、④相手方がその商標を使用したこと
により、出願人が業務上の損失を受けたことであるところ、原告は、原告各商
15 標の商標登録出願を行い(①)、令和3年6月17日に本件警告書を被告らに
対して送付した(②)にもかかわらず、被告は、少なくとも同年8月まで原告
各商標を原告に無断で使用したため(③)、これにより、原告は、原告各商標
のライセンス料相当額の損失を受けた(④)。
(被告らの主張)
20 ⑴ 原告商標3の商標登録出願が本件警告書の送付よりも後であること
商標法13条の2に基づく請求は、商標登録出願後に警告することが必要
であるところ、原告商標3の商標登録出願日は、本件警告書の送付日である
令和3年6月17日よりも後である同月18日であるから、原告商標3につ
いては、そもそも商標登録出願後の警告が存在しない。
25 ⑵ 本件警告書の内容が商標法13条の2の求める内容となっていないこと
商標法13条の2の警告書面には、出願番号、商標、指定商品及び指定役
務等の商標登録出願の具体的な内容や、警告の相手方のどの使用行為が問題
となっているのかが記載されている必要があるが、本件警告書には、原告に
よる商標登録出願の具体的な内容はなく、原告各商標は、本件警告時は設定
登録前であるにもかかわらず、登録済みなどと虚偽の内容が記載されている
5 ほか、具体的な侵害行為を指摘する記載もない。
⑶ 以上によれば、原告の商標法13条の2に基づく請求は、その要件を満た
していない。
3 争点2-2(損失の発生及び損失額)について
(原告の主張)
10 原告各商標の制作・登録・ライセンス使用料は、それぞれ35万円であるこ
とから、原告各商標に係る原告の損失額の合計は105万円である。
(被告らの主張)
否認ないし争う。
第4 当裁判所の判断
15 事案に鑑み、争点2から判断する。
1 争点2-1(商標法13条の2の要件該当性の有無)について
⑴ 認定事実
証拠(乙1)によれば、本件警告書には、次の記載がある。
「関ケ原役場地域振興課Dⅰ課長様、関ケ原歴史民俗学習館Cⅰ館長様「知
20 的財産侵害警告」」
「3.当方の立場を整理させて頂きます。
-1.関ケ原検定(セキケン)、及び「合戦士」の商標は、当方が所持(登
録)しています。
-2.貴殿らがホームページを含む関ケ原検定と称する事業で、同商標の
25 「使用に関するライセンス契約」を締結せずに、無断使用を行っている状
態と考えられます。」
「4.当方は、貴殿らに対し、同商標及び同デザインの全ての無断使用の
即時差し止めを求めます。
(2021年6月17日発信)」
「6.当方は既に「関ケ原検定問題集3級合戦士編」を出版していますし、
5 同1級編、2級編も順次発刊の準備が進んでいます。
(名称を含め当方に商標権・著作権があります。)」
「7.この内容証明が届く日(6月21日)を考慮し、
-1.2021年6月24日(日付印)までに回答文を返信頂くことを希
望します。
10 -2.回答の内容・有無によって、当方は、7月1日をもって、以下の手
続きに入る予定を考えています。
①:関ケ原町役場のBⅰ町長及び総務課人事に、本文を送付し、「知的財産
権侵害の事実」を伝えます。
②:本件に係る差し止め損害賠償請求の訴えを裁判所及び特許庁に提起し
15 ます。訴訟相手には、関ケ原町長を始め、問題集の作成を請け負う印刷会
社も含まれます。」
⑵ 商標法13条の2の要件該当性の有無
ア 商標法13条の2の警告は、出願に係る商標の使用をした者に対してす
る必要があるところ、被告関ケ原町以外の被告らについては、関ケ原検定
20 事業の主体であることを認めるに足りる証拠はない。
そして、前記前提事実⑶イのとおり、本件警告書の名宛人は、被告関ケ
原町における関ケ原検定事業の担当者である被告Dⅰ及び被告Cⅰであり、
また、上記⑴の認定事実によれば、本件警告書には、被告Dⅰ及び被告C
ⅰの本件警告書による対応次第では、被告関ケ原町の代表者である被告B
25 ⅰに対し、「知的財産権侵害の事実」を通知する旨の記載があること、換
言すれば、本件警告書は、関ケ原検定事業の担当者である被告Dⅰ及び被
告Cⅰにおいて、本件警告書に記載された対応をすることを求める趣旨に
とどまり、これをもって直ちに被告関ケ原ないしその代表者である被告B
ⅰに対して警告を発する趣旨のものではなかったことが認められる。
そうすると、本件警告書に基づく警告は、関ケ原検定事業の主体である
5 被告関ケ原町に対して向けられたものであると認めることはできず、商標
法13条の2所定の要件を満たすものであるということはできない。
イ また、以上の点をおくとしても、上記⑴の認定事実によれば、本件警告
書には、「関ケ原検定(セキケン)」及び「合戦士」の商標登録を得ている
旨の記載は存在するものの、当該記載が原告各商標に係る商標登録出願の
10 内容である旨の記載や、商標登録出願において記載が求められる内容(登
録を受けようとする商標や指定商品又は指定役務(商標法5条1項参照))
に係る記載はないことが認められる。
そして、本件警告書における商標に係る記載内容と原告各商標の内容は
明らかに異なるから、これを受領した者において、本件警告書が、出願中
15 の原告各商標についてその使用を警告するものと理解することはできない
というべきである。
そうすると、本件警告書における上記記載をもって、原告各商標につき
具体的な商標登録出願に係る内容が記載されていると認めることはできず、
その意味においても、本件警告書に基づく警告が商標法13条の2所定の
20 要件を満たすものであるということはできない。
ウ なお、前記前提事実⑶イのとおり、原告は、令和3年6月17日、被告
Dⅰ及び被告Cⅰに対して本件警告書を送付しているところ、前記前提事
実⑵のとおり、原告商標3の商標登録出願日は同月18日であることから
すると、原告商標3との関係においては、そもそも、商標法13条の2所
25 定の商標登録出願後の書面による警告があると認める余地はない。
⑶ 小括
以上によれば、その余を検討するまでもなく、原告による商標法13条の
2に基づく請求はいずれも理由がない。
2 争点1(差止請求の成否)について
原告は、被告らが、令和2年12月から令和3年8月までの間、原告に無断
5 で原告各商標を関ケ原検定事業に使用したから、被告らは原告各商標権を侵害
し、また、今後も侵害するおそれがある旨主張する。
しかしながら、被告関ケ原町以外の被告らについては、関ケ原検定事業の主
体であることを認めるに足りる証拠はなく、そうである以上、同被告らが原告
各商標権を侵害し、又は侵害するおそれがあると認めることはできない。
10 また、被告関ケ原町についてみても、前記前提事実⑵のとおり、原告各商標
権の設定登録日は、原告商標1が令和4年1月27日、原告商標2が令和3年
9月27日、原告商標3が同年12月2日であるから、仮に原告が主張すると
おり、被告関ケ原町が令和3年8月までの間に原告各商標を使用した事実が認
められたとしても、当該使用は、いずれも原告各商標権の設定登録前の使用で
15 あることが明らかである。したがって、当該主張に基づき被告関ケ原町が原告
各商標権を侵害したと認めることはできない。
なお、念のため付言すると、証拠(甲13)によれば、被告Dⅰ及び被告C
ⅰは、本件警告書の送付を受けて、令和3年6月23日付けで、原告に対し、
原告の商標ないし著作物を原告とライセンス契約を締結することなく無断で使
20 用したことを認めるとともに不備や不誠実な対応を深くお詫びし、ライセンス
契約の締結に向けた協議をお願いする旨の書面を送付していることが認められ、
他方で、当該協議の結果、ライセンス契約が締結されたことを認めるに足りる
証拠はない。以上の経緯を踏まえると、被告関ケ原町が、原告のライセンスを
得ないまま、原告各商標を使用することは容易に想定し難いし、その他本件全
25 証拠によっても、原告各商標権の設定登録日以降に被告関ケ原町が原告各商標
を使用した役務である関ケ原検定の実施やその広告等を行った事実を認めるこ
とはできないし、今後、被告関ケ原町が、原告各商標権を侵害するおそれがあ
るということもできない。
以上によれば、被告らが、原告各商標権を侵害し、又は侵害するおそれがあ
ると認めることはできないから、原告による商標法36条1項及び2項に基づ
5 く差止請求はいずれも理由がない。
第5 結論
よって、原告の請求はいずれも理由がないから、これらを棄却することとし
て、主文のとおり判決する。
10 東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官
15 澁 谷 勝 海
裁判官
20 塚 田 久 美 子
裁判官
25 浅 川 浩 輝
(別紙)
商標目録
1 登録番号 商標登録第6504908号
出願日 令和2年7月14日
5 登録日 令和4年1月27日
登録商標
商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務
第41類 セミナーの企画・運営又は開催、電子出版物の提供、図書及び記録
10 の供覧、美術品の展示、庭園の供覧、書籍の制作、教育・文化・娯楽・スポー
ツ用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。)、興行の企画・運
営又は開催(映画・演芸・演劇・音楽の演奏の興行及びスポーツ・競馬・競
輪・競艇・小型自動車競走の興行に関するものを除く。)、映画・演芸・演劇・
音楽又は教育研修のための施設の提供、興行場の座席の手配、図書の貸与、書
15 画の貸与、写真の撮影
2 登録番号 商標登録第6447435号
出願日 令和2年7月16日
登録日 令和3年9月27日
登録商標
商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務
第41類 セミナーの企画・運営又は開催、電子出版物の提供、図書及び記録
の供覧、美術品の展示、庭園の供覧、書籍の制作、教育・文化・娯楽・スポー
ツ用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。)、興行の企画・運
10 営又は開催(映画・演芸・演劇・音楽の演奏の興行及びスポーツ・競馬・競
輪・競艇・小型自動車競走の興行に関するものを除く。)、映画・演芸・演劇・
音楽又は教育研修のための施設の提供、興行場の座席の手配、図書の貸与、書
画の貸与、写真の撮影
3 登録番号 商標登録第6479731号
出願日 令和3年6月18日
登録日 令和3年12月2日
登録商標
商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務
第41類 セミナーの企画・運営又は開催、電子出版物の提供、図書及び記録
の供覧、美術品の展示、庭園の供覧、書籍の制作、教育・文化・娯楽・スポー
ツ用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。)、興行の企画・運
10 営又は開催(映画・演芸・演劇・音楽の演奏の興行及びスポーツ・競馬・競
輪・競艇・小型自動車競走の興行に関するものを除く。)、映画・演芸・演劇・
音楽又は教育研修のための施設の提供、興行場の座席の手配、図書の貸与、書
画の貸与、写真の撮影
以上
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