令和7(ネ)10075特許権侵害差止等請求控訴事件
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| 裁判所 |
控訴棄却 知的財産高等裁判所
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| 裁判年月日 |
令和8年3月23日 |
| 事件種別 |
民事 |
| 法令 |
特許権
特許法36条6項2号3回 特許法126条5項3回 特許法126条7項2回 特許法104条の31回 特許法100条1項1回
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| キーワード |
実施9回 新規性7回 特許権5回 無効4回 訂正審判3回 差止2回 侵害2回
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| 主文 |
1 本件各控訴をいずれも棄却する。
2 控訴人らの当審における拡張請求をいずれも棄却する。
3 当審における訴訟費用は全て控訴人らの負担とする。 |
| 事件の概要 |
1⑴ 本件は、本件特許に係る特許権の特許権者である原告A及びその専用実施
権者である原告会社が、被告に対し、被告製品は本件各発明の技術的範囲に
属するもので、被告による被告製品の輸出等をする行為は、原告らの有する
特許権、専用実施権を侵害するものであるなどと主張して、特許法100条 |
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判決文
令和8年3月23日判決言渡
令和7年(ネ)第10075号 特許権侵害差止等請求控訴事件
(原審・大阪地方裁判所令和5年(ワ)第11704号)
口頭弁論終結日 令和8年1月26日
5 判 決
控 訴 人 株式会社シャリティー
10 控 訴 人 X
上記両名訴訟代理人弁護士 弓 削 田 博
同 小 林 幸 夫
同 平 田 慎 二
同補佐人弁理士 木 森 有 平
被 控 訴 人 コ ク ヨ 株 式 会 社
同訴訟代理人弁護士 速 見 禎 祥
同 溝 内 伸 治 郎
20 同訴訟代理人弁理士 石 田 知 里
主 文
1 本件各控訴をいずれも棄却する。
2 控訴人らの当審における拡張請求をいずれも棄却する。
3 当審における訴訟費用は全て控訴人らの負担とする。
25 事 実 及 び 理 由
(注)本判決の本文中で用いる主な略語は、別に定めるほか、次のとおりである。
原告会社 :控訴人株式会社シャリティー
原告A :控訴人X。原告会社と併せて「原告ら」という。
被告 :被控訴人
本件特許 :原告Aを特許権者とする特許第5080691号(発明の名
5 称:紙の綴じ込み用金型セット)
本件各発明:本件特許の請求項1から3までに係る各発明の総称。本件各発
明を順に「本件発明1」の要領で表記する。
訂正発明1:訂正の再抗弁に係る訂正後の本件特許の請求項1に係る発明
訂正発明3:訂正の再抗弁に係る訂正後の請求項3に係る本件特許の発明。
10 訂正発明1と併せて「本件各訂正発明」という。
本件明細書:本件特許に係る特許公報の明細書及び図面(甲2)。【】は本
件明細書の段落番号を、【図】は本件明細書の図面番号を示
す。
被告製品 :原判決別紙被告製品目録記載の製品
15 PW製品 :Paper Welder Inc.の製造した製品(乙16。
製品名:「PaperWelder」)
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被告は、被告製品を輸出し、輸入し、製造し、譲渡し、譲渡の申出をし、又
20 は譲渡のために展示してはならない。
3 被告は、被告製品及びその半製品(被告製品の構造を具備しているが製品と
して完成するに至らないもの)を廃棄せよ(原告らは、当審において、原審に
おける被告製品の廃棄請求を、このように拡張した。)。
4 被告は、原告らに対し、6000万円及びこれに対する令和6年1月23日
25 から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要等
1⑴ 本件は、本件特許に係る特許権の特許権者である原告A及びその専用実施
権者である原告会社が、被告に対し、被告製品は本件各発明の技術的範囲に
属するもので、被告による被告製品の輸出等をする行為は、原告らの有する
特許権、専用実施権を侵害するものであるなどと主張して、特許法100条
5 1項に基づき、被告製品の輸出等の差止めを、同条2項に基づき、被告製品
の廃棄をそれぞれ求めるとともに、民法703条又は同法709条に基づき、
6000万円及びこれに対する令和6年1月23日(訴状送達日の翌日)か
ら支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払を求める事
案である(一部請求)。
10 被告は、被告製品の本件各発明の技術的範囲への属否を争うとともに、特
許法104条の3第1項の規定に基づく抗弁(無効の抗弁)を主張している。
⑵ 原審は、① 被告製品は、本件発明1及び3の技術的範囲に属するものの、
本件発明2の技術的範囲に属するとはいえない、② 本件発明1及び3に係
る本件特許にはPW製品を公然実施品とする新規性欠如の無効理由が存在す
15 るとして、原告らの請求をいずれも棄却した。
原告らは、これを不服として控訴を提起し、当審において、原審における
被告製品の廃棄請求を、控訴の趣旨第3項記載のとおり拡張した。
2 前提事実、争点、争点に関する当事者の主張は、原判決4頁23行目末尾を
改行の上、次のとおり加え、第3のとおり当審における当事者の追加主張を加
20 えるほかは、原判決「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の3及び4
(原判決2頁20行目から5頁7行目まで)並びに「第3 争点に関する当事
者の主張」の1から6まで(同頁9行目から17頁1行目まで)に記載のとお
りであるから、これを引用する(なお、原判決に「本件発明」とあるのは「本
件各発明」と読み替える。)。
25 「⑹ 原告Aは、控訴提起後であり当審の口頭弁論終結前である令和7年11
月9日、本件特許に係る特許請求の範囲を別紙「訂正事項」のとおり訂
正することについて、訂正審判の請求をした(甲105。以下、これを
「本件訂正」という。)。」
第3 当審における当事者の追加主張(訂正の再抗弁)
1 本件訂正の適否について
5 (原告らの主張)
⑴ 原告Aは、令和7年11月9日、特許請求の範囲の減縮を目的として、
本件特許に係る特許請求の範囲を訂正することについて訂正審判の請求を
した(本件訂正)。本件各訂正発明を構成要件に分説すると、次のとおり
である(以下、各構成要件を「構成要件A’」の要領で表記する。なお、
10 下線部は、本件訂正による訂正箇所である。)。
[訂正発明1]
A’ 対向して配置され、対向面に互いに噛み合い可能な歯部(5、6)を
有する一対の金型(1、2)からなり、この一対の金型(1、2)で重ね
た複数枚の紙(15)を厚さ方向両側から加圧し、一対の金型の歯部(5、
15 6)を噛み合わせることにより、複数枚の紙(15)を綴じ込む紙の綴じ
込み用金型セットであって、
B’ 前記一対の金型(1、2)のそれぞれの対向面に有する歯部(5、6)
は、断面略三角形で所定の歯幅を有し、対向面に複数連なって設けられて
おり、
20 C1’ 前記一対の金型(1、2)のそれぞれの対向面に有する歯部(5、
6)にあっては、歯幅方向の一側または両側が、歯部(5、6)の山頂部
(7)に向かって狭幅方向に傾斜する傾斜面部(9)となっており、かつ、
E’ 山頂部(7)の歯幅方向の両側の端部(7a、7b)は曲面形状とな
っており、
25 C3 一対の歯部(5、6)を噛み合わせたときにおいては、
一方の歯部(5)にあっては、前記山頂部(7)における前記曲面
形状の一方の端部(7a)と他方の端部(7b)との間に位置する部
分の少なくとも一部が、対向する他方の歯部(6)の他方の曲面形状
の端部(7a)を越えて前記傾斜面部(9)側の谷底部(8)に掛か
る位置に存在しており、かつ、
5 他方の歯部(6)にあっては、前記山頂部(7)における前記曲面
形状の一方の端部(7a)と他方の端部(7b)との間に位置する部
分の少なくとも一部が、対向する一方の歯部(5)の一方の曲面形状
の端部(7a)を越えて前記傾斜面部(9)側の谷底部(8)に掛か
る位置に存在していることを特徴とする紙の綴じ込み用金型セット。
10 [訂正発明3]
A’ 訂正発明1の構成要件A’に同じ
B’ 訂正発明1の構成要件B’に同じ
C1’ 訂正発明1の構成要件C1’に同じ
E” 前記歯部(5、6)の山頂部(7)の幅方向の両側端部(7a、7b)
15 と谷底部(8)の幅方向の両側端部(8a、8b)は曲面形状であるとと
もに、
F 対向する山頂部(7)の長さが略同じ長さとされており、
C2’ 一方の金型(1)に有する歯部(5)に対向する他方の金型(2)
に有する歯部(6)にあっては、少なくとも、歯部の山頂部(7)が前記
20 一方の金型(1)に有する歯部(5)における傾斜面部(9)側の谷底部
(8)に掛かる位置まで存在しているとともに、
G 一方の金型(1)と他方の金型(2)の歯部幅方向の対向軸をずらし、
H 一対の歯部(5、6)を噛み合わせるときには、一方の歯部(5)に有
する前記山頂部(7)の両側の曲面形状の各端部(7a、7b)と当該各
25 端部(7a、7b)と対向する他方の歯部(6)に有する前記山頂部(7)
の両側の曲面形状の各端部(7a、7b)とが、歯部幅方向縦断面視にお
いて一度も重なり合うことがないことを特徴とする紙の綴じ込み用金型セ
ット。
⑵ 被告は、本件訂正は特許法126条5項及び7項の規定に適合しない旨の
主張をする。
5 しかしながら、本件訂正は、本件発明1につき、訂正前の請求項を具体的
に特定し、これを限定するもの、本件発明3につき、独立形式請求項へ改め、
あるいは、訂正前の請求項を具体的に特定し、これを限定するもので、願書
に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正
であり、特許法126条5項の規定に適合する。また、本件訂正が特許法1
10 26条7項の規定に適合することについては、次のとおりであり、仮に、本
件特許にPW製品を公然実施品とする新規性欠如の無効理由が存在するとし
ても、これは本件訂正により解消された。
ア 明確性要件について
本件各訂正発明は、いずれも明確であり、明確性要件に適合する。
15 (ア)「傾斜面部側の谷底部」、「両端部は曲面形状」
原判決10頁23行目から11頁6行目までのとおり
(イ)「曲面形状の端部」
台形の上辺の両側が曲面形状であり、続いて傾斜面に移行している場
合には、山頂部と傾斜面部との間に一定の領域が存在することが必要
20 不可欠であるから、「曲面形状の端部」は、直線状の上辺が曲面形状
に変化し始める点から、傾斜面へ完全に移行し終わる点までの一定の
領域を指すものと一義的に解釈することができ、当業者において、そ
の意味を明確に理解することができる。
(ウ)「山頂部の長さが略同じ長さ」
25 訂正発明3の「対向する山頂部(7)の長さが略同じ長さ」との構
成(構成要件F)は、本件明細書の図面(【図2】【図5】【図7】
【図9】【図13】~【図15】)に示されており、当業者であれば、
これは、対向する山頂部の直線状の部分の長さが略同じであることを
意味すると当然に理解することができる。
また、本件明細書の記載(「この傾斜面部にあっては、一方の金型
5 に有する歯部の幅方向の一側に設けられ、そして他方の金型に有する
歯部には、対向する一方の金型の歯部の傾斜面部の対角線上にある一
側に設けられてもよく」【0020】)や図面によれば、一方の歯部
と、対向する他方の歯部とが「略対称形」の構成であると理解され、
その「略対称形」の一部である「山頂部の長さ」は、「略対称形」に
10 準じた「略同じ長さ」であると理解される。そして、歯部の寸法に公
差が存在することは技術常識であるから、「略」という用語が付され
ているとしても、当業者であれば、これは公差を含む意味であると理
解することができる。
被告は、原審において、「山頂部の長さ」が何を意味するか理解し
15 た上、被告製品の本件各発明の技術的範囲への属否や、PW製品を公
然実施品とする新規性欠如に係る主張をしていたのであり、そうであ
るにもかかわらず、「山頂部の長さ」が何を意味するか理解し得ない
旨の主張をするのは信義則に反する。
イ サポート要件について
20 本件各訂正発明は、いずれもサポート要件に適合する。
ウ PW製品を公然実施品とする新規性の欠如について
被告による測定結果(乙16)に基づき、PW製品の山頂部(7)、
山頂部の曲面形状の端部(7a、7b)、傾斜面部(9)を特定すると、
次の[図・甲106]のとおりとなる。
25 そして、これによれば、訂正発明1は、「一対の歯部(5、6)を噛
み合わせたときにおいては、一方の歯部(5)にあっては、前記山頂部
(7)における前記曲面形状の一方の端部(7a)と他方の端部(7b)
との間に位置する部分の少なくとも一部が、対向する他方の歯部(6)
の他方の曲面形状の端部(7a)を越えて前記傾斜面部(9)側の谷底
部(8)に掛かる位置に存在しており、かつ、他方の歯部(6)にあっ
5 ては、前記山頂部(7)における前記曲面形状の一方の端部(7a)と
他方の端部(7b)との間に位置する部分の少なくとも一部が、対向す
る一方の歯部(5)の一方の曲面形状の端部(7a)を越えて前記傾斜
面部(9)側の谷底部(8)に掛かる位置に存在している」との構成
(構成要件C3)を備えるのに対し、PW製品については、山頂部(7)
10 における曲面形状の一方の端部(7a)と他方の端部(7b)との間に
位置する部分が、対向する他方の歯部(6)の他方の曲面形状の端部
(7a)を超えず、他方の歯部(6)にあっても、山頂部(7)におけ
る曲面形状の一方の端部(7a)と他方の端部(7b)との間に位置する
部分が、対向する一方の歯部(5)の一方の曲面形状の端部(7a)を超
15 えていないことから、構成要件C3を備えないことになる。
また、訂正発明3は、「対向する山頂部(7)の長さが略同じ長さ」
との構成(構成要件F)を備えるのに対し、PW製品については、対向
する山頂部(7)の長さが異なることから、上記構成を備えないことに
なる。
20 さらに、訂正発明3は、「一対の歯部(5、6)を噛み合わせるとき
には、一方の歯部(5)に有する前記山頂部(7)の両側の曲面形状の
各端部(7a、7b)と当該各端部(7a、7b)と対向する他方の歯
部(6)に有する前記山頂部(7)の両側の曲面形状の各端部(7a、
7b)とが、歯部幅方向縦断面視において一度も重なり合うことがない」
25 との構成(構成要件H)を備えるのに対し、PW製品については、一対
の歯部(5、6)を噛み合わせるときには、一方の歯部(5)に有する
山頂部(7)の両側の曲面形状の各端部(7a、7b)と当該各端部
(7a、7b)と対向する他方の歯部(6)に有する山頂部(7)の両
側の曲面形状の各端部(7a、7b)とが、歯部幅方向縦断面視におい
て重なり合うことから、構成要件Hを備えないことになる。
5 したがって、本件各訂正発明はPW製品に係る発明と同一の発明とは
いえない。
[図・甲106]
5
6
(被告の主張)
本件訂正は、次のとおり訂正の要件に適合しない。
⑴ 新規事項の追加について
本件訂正は、訂正発明1に「山頂部(7)における前記曲面形状の一方の
15 端部(7a)と他方の端部(7b)との間」との構成を、訂正発明3に「山
頂部(7)の両側の曲面形状の各端部(7a、7b)」との構成をそれぞれ
追加し、「曲面形状の端部(7a、7b)」は「端部の曲面形状の全体」と
いう領域を指すとの理解を前提として、「曲面形状の端部」を特定するもの
であるが、本件明細書に「山頂部の端部(7a、7b)」との記載はあるも
のの、「曲面形状の端部」については何らの記載もなく、本件明細書の図面
5 を見ても、「曲面形状の端部(7a、7b)」が「端部の曲面形状の全体」
を指すものと理解することはできない。
また、訂正発明1は、「曲面形状の端部(7a、7b)」という概念を用
いて、「山頂部(7)における前記曲面形状の一方の端部(7a)と他方の
端部(7b)との間に位置する部分の少なくとも一部が、対向する他方の歯
10 部(6)の他方の曲面形状の端部(7a)を越えて前記傾斜面部(9)側の
谷底部(8)に掛かる位置に存在しており」との構成を特定し、訂正発明3
も、「曲面形状の端部(7a、7b)」という概念を用いて、「一方の歯部
(5)に有する前記山頂部(7)の両側の曲面形状の各端部(7a、7b)
と当該各端部(7a、7b)と対向する他方の歯部(6)に有する前記山頂
15 部(7)の両側の曲面形状の各端部(7a、7b)とが、歯部幅方向縦断面
視において一度も重なり合うことがない」との構成を特定するものであるが、
「曲面形状の端部」との概念を用い、一方の歯部と対向する歯部(以下、そ
れぞれ「下歯」、「上歯」ということがある。)の位置関係を特定すること
の技術的意義については、本件明細書に何らの記載もなく、当業者において、
20 「曲面形状の端部」との概念の意味や、これを用いた構成を自明のものとし
て導き出すことはできない。
そうすると、本件訂正は、本件明細書の全ての記載を総合しても導かれな
い新たな技術的事項を導入するものというべきであり、特許法126条5項
の規定に適合しない。
25 ⑵ 明確性要件について
ア 「傾斜面部側の谷底部」、「両端部は曲面形状」
原判決10頁2行目から12行目までのとおり、本件発明1の備える
「傾斜面部側の谷底部」との構成は不明確であり、当業者において、そ
の技術的範囲を画定することができない。そして、このことは本件各訂
正発明についても妥当する。
5 また、原判決10頁14行目から18行目までのとおり、本件発明3
の備える「歯部の山頂部の幅方向の両端部と谷底部の幅方向の両端部は
曲面形状」との構成は、どの部分が曲面形状であるのか不明確であり、
当業者において、その技術的範囲を画定することができない。そして、
このことは訂正発明3についても妥当する。
10 イ 「曲面形状の端部」
訂正発明1は「曲面形状の一方の端部(7a)と他方の端部(7b)」
との構成(構成要件C3)を、訂正発明3は「曲面形状の各端部(7a、
7b)」との構成(構成要件H)を、それぞれ備える。
そして、「端」は、「物の末の部分。先端」又は「中心から遠い、外
15 に近い所。へり。ふち」との意味を有する用語であるから、「曲面形状
の端部」との用語の有する普通の意味は、「曲面形状という領域の端
(境界)」又は「曲面形状の縁部」すなわち「曲面形状という領域のへ
り部分の一定範囲」と解釈すべきである。
このように、「曲面形状の端部」との用語は、その文言上、「点(境
20 界)」との意味を有するとも、「領域」との意味を有するとも解釈可能
であるし、これを「領域」との意味を有すると解釈した場合においても、
曲面形状のどの範囲を指すのか一義的に明確とはいえない。本件明細書
には、「山頂部の幅方向の両側の端部」が曲面形状となっているとの記
載はあるものの(【0013】【0026】等)、「曲面形状の端部」
25 については何らの記載もなく、本件明細書の図面を見ても、「曲面形状
の端部」が、どの位置ないし範囲を指すのか理解するのは困難である。
そして、本件明細書には、訂正発明1が構成要件C3を備えることや、
訂正発明3が構成要件Hを備えることの技術的意義について何らの記載
もない。
そうすると、当業者は、本件明細書の記載や図面を考慮しても、「曲
5 面形状の端部」との用語の意味を明確に理解することができず、本件各
訂正発明の技術的範囲を明確に把握することもできない。
ウ 「山頂部の長さが略同じ長さ」
訂正発明3は、「前記歯部(5、6)の山頂部(7)の幅方向の両側
端部(7a、7b)と谷底部(8)の幅方向の両側端部(8a、8b)
10 は曲面形状である」との構成(構成要件E’’)、及び、「対向する山頂部
(7)の長さが略同じ長さ」との構成(構成要件F)を備えるところ、
そもそも、「山頂部の長さ」が曲面形状の部分を含むのか不明である。
また、山頂部が直線状の部分と曲面形状の部分とで構成されるのであ
れば、「山頂部の長さ」が、山頂部の直線状の部分のみの長さを意味す
15 るのか、山頂部の直線状の部分と曲面形状の部分の全部を合わせた長さ
を意味するのか、あるいは、山頂部の直線状の部分と曲面形状の部分の
一部を含む長さを意味するのか不明であるし、「山頂部の長さ」が曲面
形状の部分の全部又は一部を含むのであれば、これが、曲面の外周に沿
った長さ(曲線長)を意味するのか、あるいは、曲面の両端を結ぶ直線
20 距離を意味するのかも不明である。
さらに、「略同じ長さ」との用語についても、これが、どの程度の差異
まで許容されるのか不明確といわざるを得ない。
そうすると、当業者は、本件明細書の記載や図面を考慮しても、「山
頂部の長さが略同じ長さ」との構成の意味を明確に理解することができ
25 ない。
⑶ サポート要件について
本件明細書の記載(【0009】【0010】【0017】)によれば、
本件各訂正発明の課題は「紙の破れを抑えながら複数枚の紙を圧縮すること
が可能となり、紙の圧縮部に強い結着力が得られることから、複数枚の紙を、
破れを抑えた状態で強い結着力で確実に綴じ込むこと」にあると解される。
5 そして、本件明細書に、本件各訂正発明の作用効果に関する記載(【00
09】【0010】)はあるものの、これが生ずるための具体的条件や構成
(歯部の凹凸の深さ、幅、傾斜面部の角度、山頂部の長さ、谷底部の形状、
歯の数、配置間隔や、押圧力の範囲、上歯の山頂部と下歯のそれのずれの程
度)については何らの記載もなく、上記作用効果が生ずることを裏付ける技
10 術常識も存在しない。
そうすると、本件各訂正発明は、本件明細書の記載により、当業者におい
て当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものではなく、また、当
業者において出願時の技術常識に照らし、当該発明の課題を解決できると認
識し得る範囲のものでもない。
15 ⑷ PW製品を公然実施品とする新規性の欠如について
「曲面形状の端部」との用語を普通の意味に基づいて解釈すると、これは
「曲面形状の端っこ」、すなわち、直線状の部分と曲面形状の部分との境界
を意味するものと理解され、これを前提とすると、PW製品は、下歯にあっ
ては、山頂部における曲面形状の一方の端部と他方の端部との間に位置する
20 部分が、上歯の曲面形状の端部を越えて傾斜面部側の谷底部に掛かる位置に
存在し、上歯にあっては、山頂部における曲面形状の一方の端部と他方の端
部との間に位置する部分が、後側の下歯の曲面形状の端部を越えて傾斜面部
側の谷底部に掛かる位置に存在する構成であるといる。
本件各訂正発明はPW製品に係る発明と同一の発明であり、少なくとも、
25 訂正発明1は新規性欠如の無効理由を有する。
2 被告製品の訂正発明1及び3の技術的範囲への属否について
(原告らの主張)
⑴ 被告製品が、原判決別紙「被告製品の構成(裁判所の認定)」記載の構
成を備えることを前提として、木場フォーム印刷株式会社(以下「木場フ
ォーム印刷」という。)による測定結果(甲107)に基づき、被告製品
5 の「山頂部(7)」、「曲面形状の端部(7a、7b)」、「傾斜面部
(9)」をそれぞれ特定すると、次の[図・上歯]、[図・下歯]のとお
りとなる。
そして、被告製品の上歯と下歯を噛み合わせたときの状態は、次の
[図・上歯及び下歯を噛み合わせたとき]のとおりであるから、被告製品
10 は、「一対の歯部を噛み合わせたときにおいては、一方の歯部にあっては、
山頂部における曲面形状の一方の端部と他方の端部との間に位置する部分
の少なくとも一部が、対向する他方の歯部の他方の曲面形状の端部を越え
て傾斜面部側の谷底部に掛かる位置に存在しており、かつ、他方の歯部に
あっては、山頂部における曲面形状の一方の端部と他方の端部との間に位
15 置する部分の少なくとも一部が、対向する一方の歯部の一方の曲面形状の
端部を越えて傾斜面部側の谷底部に掛かる位置に存在している」との構成
(以下「構成c3」という。)を備えていることになる。
[図・上歯]
(実際の長さは右に記載のとおり)
[図・下歯]
(実際の長さは右に記載のとおり)
5 [図・上歯及び下歯を噛み合わせたとき]
⑵ 被告製品の下歯の「山頂部の長さ」(山頂部の直線状の部分の長さ)は0.
74mm(740μm)、上歯のそれは0.73mm(730μm)であり、
歯部を有する山頂部の長さの公差は±0.1mmであるから、被告製品は
10 「対向する山頂部の長さが略同じ長さ」との構成(以下「構成f」という。)
を備えているといえる。
また、被告製品は、歯部を有する一方の金型と他方の金型の歯部幅方向の
対向軸をずらす構成(以下「構成g」という。)を備えるとともに、一対の
歯部を噛み合わせるときに、一方の歯部に有する山頂部の両側の曲面形状の
各端部と当該各端部と対向する他方の歯部に有する山頂部の両側の曲面形状
の各端部とが、歯部幅方向縦断面視において重なり合うことがないとの構成
(以下「構成h」という。)も備えている。
⑶ 被告製品が構成要件A’、B’、C1’、C2’及びE’’をそれぞれ充足
5 することは、原審の判断のとおりであるところ、前記⑴及び⑵のとおり、被
告製品の構成c3、f、g、hは、構成要件C3、F、G、Hをそれぞれ充
足する。したがって、被告製品は、本件各訂正発明の構成要件を全て充足し、
その技術的範囲に属するといえる。
(被告の主張)
10 被告製品が、本件各訂正発明の技術的範囲に属することは争う。原告らは、
木場フォーム印刷による測定結果(原告らの提供した画像に木場フォーム印
刷が測定結果等を追記したもの)に基づき、被告製品は構成c3、f、g、
hをいずれも備えている旨の主張をするが、上記測定結果は、画像の撮影者、
撮影対象、撮影方法、撮影経緯、被告製品の状況等が一切不明であり、信用
15 性を欠くものであるし、この点を措くとしても、被告製品の上歯と下歯の前
側の山頂部の前側の端部の位置が前後方向で揃っていることは、被告訴訟代
理人作成の写真撮影報告書(乙6)のとおりであるから、被告製品は構成c
3、g、hをいずれも備えるものではない。
また、木場フォーム印刷による測定結果を前提にしても、「山頂部の長さ」
20 が山頂部の直線状の部分のみの長さを意味するのであれば、被告製品の下歯
の「山頂部の長さ」は740μm、上歯のそれは730μmであり、これが
山頂部の直線状の部分と曲面形状の部分の全部を合わせた長さを意味するの
であれば、被告製品の下歯の「山頂部の長さ」は890μm、上歯のそれは
930μmであるから、被告製品は構成fを備えるものでもない。
25 第4 当裁判所の判断
1 当裁判所も、原告らの請求は、当審における拡張請求を含めて、いずれも理
由がないと判断する。その理由は、2のとおり当審における当事者の追加主張
に対する判断を加えるほかは、原判決「事実及び理由」欄の「第4 判断」の
1、2及び4(原判決17頁3行目から28頁24行目まで、29頁22行目
から26行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
5 2 当審における当事者の追加主張に対する判断
⑴ 本件各訂正発明の内容
本件各訂正発明の特許請求の範囲の記載は、別紙「訂正事項」の請求項1
及び3のとおりである。そして、本件明細書(甲2)には、本件発明1及び
3について要旨次の記載があるところ、これらは本件各訂正発明についても
10 妥当する。
ア 技術分野
本発明は、金属製の綴じ針、糊、糸、紐などを使用しないで、複数枚
の紙を綴じ込むことができる紙の綴じ込み用金型セットに関する。
(【0001】)
15 イ 背景技術
従来、冊子や帳票などの多くが金属製の綴じ針や糊などで綴じられて
作成されているところ、金属製の綴じ針には、綴じ針の端部が飛び出し
て危険な場合がある、シュレッダーにより裁断する際、シュレッダーの
刃の損傷を避けるため、金属製の綴じ針を外す必要がある、糊で綴じら
20 れたものは、その糊が樹脂系糊である場合、焼却の際、有害ガスが発生
するため、糊部分を切り落とす必要があるという問題点がある。これに
対応するため、金属製の綴じ針や糊を使用しないで、一枚一枚の紙に水
分を供給し、凹凸が連なった綴じ部材で上下から圧力を掛けて綴じ込む
方法と綴じ込む装置が開示されているが、この方法では、水分により綴
25 じ合わせ部分が波を打ってしまうため、美的な物品には適用できない、
水分をむらなく供給するため、綴じ合わせ加工の前工程に、精巧で複雑
な装置を設置しなければならないといった問題がある。(【0002】
【0003】【0005】)
ウ 発明が解決しようとする課題
本発明は、一般消費者のみならず生産者側において、紙製品全般に関
5 して、金属製の綴じ針や糊等を使用せず、安全性及び生産性やコスト面
で優れ、かつ、廃棄処分が容易な紙を綴じ込む為の機器に使用する金型
セットを提供することにある。(【0006】)
エ 課題を解決するための手段
上記ウの目的を達成するために、本件発明1及び3は、それぞれ請求
10 項1及び3に記載された構成を有することを特徴とする。(【0007】
【0013】)
オ 発明の効果
(ア)本件発明1によれば、対向する一対の金型の歯部にあっては、一方
の金型の歯部の傾斜面部側の山頂部の端部は、他の金型の歯部の山頂
15 部の幅内にあり、対向する一対の金型の歯部を噛み合わせたとき、一
方の金型の歯部の傾斜面部側の山頂部の端部側が他方の金型の歯部の
山頂部の幅内で噛み合い、一方の金型の歯部の傾斜面部側の谷底部と
他方の金型の歯部の山頂部と噛み合うことになる。(【0008】)
このような一対の金型で重ねた複数枚の紙を厚さ方向両側から加圧
20 し、一対の金型の歯部を噛み合わせたとき、紙の最も破れ易い部分で
ある歯部の山頂部の端部において、傾斜面部側の山頂部の端部側が他
方の金型の歯部の山頂部の幅内で噛み合い、山頂部の端部同士が対向
して噛み合わないので、強い圧力を加えても紙の破れを抑えることが
でき、また、前記他方の金型の歯部の山頂部の幅内で噛み合う一方の
25 歯部の山頂部の端部が傾斜面部となっているので、金型の歯部を噛み
合わせたときの圧力を傾斜面部が緩衝し、これによっても紙の破れを
抑えることができる。(【0009】【0030】)
また、一方の金型の歯部の傾斜面部側の谷底部の端部が他方の金型
の歯部の山頂部と噛み合うので、紙は金型の歯部の山頂部の端部間と
谷底部の端部間で圧縮されることになり、紙の圧縮部に強い結着力が
5 得られ、複数枚の紙を確実に綴じ込むことができる。(【0010】
【0031】)
(イ)本件発明3によれば、前記歯部の山頂部の幅方向の両側端部と谷底
部の幅方向の両側端部は曲面形状となっているので、歯部を噛み合わ
せたとき、紙に特に強い負荷が掛かる前記歯部の山頂部の幅方向の両
10 側端部と谷底部の幅方向の両側端部による紙の破れを効果的に防止し、
あるいは減少させることができる。(【0014】【0035】)
(ウ)本件各発明によれば、複数枚の紙の綴じ込みに際し、一対の金型
に強い力を加えて、紙の破れを抑えながら複数枚の紙を圧縮すること
が可能となり、紙の圧縮部に強い結着力が得られることから、複数枚
15 の紙を、破れを抑えた状態で強い結着力で確実に綴じ込むことができ
る。(【0017】)
⑵ 本件訂正の適法性
ア 特許法126条7項は、訂正審判における特許請求の範囲の減縮を目的
とする訂正は、訂正後における特許請求の範囲の記載事項により特定さ
20 れる発明が特許出願の際、独立して特許を受けることができるものでな
ければならない旨(独立特許要件)を定め、同法36条6項2号は、特
許要件に関し、特許請求の範囲の記載は「特許を受けようとする発明が
明確であること」との要件(明確性要件)に適合するものでなければな
らない旨を定める。そして、同号が特許請求の範囲の記載において発明
25 の明確性を要求しているのは、これが明確でない場合、特許に係る特許
請求の範囲等を読む者において、発明の内容を理解することができず、
権利者の有する独占権の範囲を予想することもできない結果、その利益
が不当に害されるおそれがあることによるものと解され、そうすると、
発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載のみならず、願書に
添付した明細書の記載及び図面をも考慮し、また、当業者の出願当時に
5 おける技術常識をも基礎としても、特許請求の範囲の記載が当業者の利
益を不当に害するほどに不明確であるか否かという観点から判断するの
が相当である。
イ(ア)これを訂正発明1について見ると、訂正発明1は、「一対の歯部
(5、6)を噛み合わせたときにおいては、一方の歯部(5)にあって
10 は、前記山頂部(7)における前記曲面形状の一方の端部(7a)と他
方の端部(7b)との間に位置する部分の少なくとも一部が、対向する
他方の歯部(6)の他方の曲面形状の端部(7a)を越えて前記傾斜面
部(9)側の谷底部8に掛かる位置に存在しており、かつ、他方の歯部
(6)にあっては、前記山頂部(7)における前記曲面形状の一方の端
15 部(7a)と他方の端部(7b)との間に位置する部分の少なくとも一
部が、対向する一方の歯部(5)の一方の曲面形状の端部(7a)を越
えて前記傾斜面部(9)側の谷底部(8)に掛かる位置に存在している」
との構成(構成要件C3)を備え、「曲面形状の端部(7a、7b)」
の位置に基づき、「前記山頂部(7)における前記曲面形状の一方の端
20 部(7a)と他方の端部(7b)との間に位置する部分」(以下「山頂
部分」という。)、及び、「前記傾斜面部(9)側の谷底部8に掛かる
位置」(以下「傾斜面部側の位置」という。)を特定し、もって、「一
方の歯部(5)」と「対向する他方の歯部(6)」との位置関係を画定
するものであり、したがって、訂正発明1に係る特許請求の範囲の記載
25 が特許法36条6項2号の規定に適合するというためには、山頂部分の
範囲や傾斜面部側の位置、そして、これらを特定する前提となる「曲面
形状の端部(7a、7b)」の位置が、当業者において明確に理解する
ことができるように記載されていることを要するというべきである。
しかるに、「山頂部(7)の両側の端部(7a、7b)は曲面形状に
なっており」(構成要件E’)、「前記山頂部(7)における前記曲面
5 形状の一方の端部(7a)と他方の端部(7b)との間に位置する部分」
(構成要件C3)との特許請求の範囲の記載に照らすと、「曲面形状の
端部(7a、7b)」が山頂部分のいずれかの部分であることは理解可
能であるものの、① 「端」は、「物の末の部分。先端」又は「中心か
ら遠い、外に近い所。へり。ふち」との意味を有する用語(乙31)で
10 あるから、「曲面形状の端部」との用語の有する普通の意味は、「曲面
形状という領域の先端(境界点)」と解釈することも、「曲面形状のへ
り部分(領域)」と解釈することもできること、② 本件明細書には、
「曲面形状の端部(7a、7b)」について、上記のほか、「歯部の山
頂部の幅方向の両側端部と谷底部の幅方向の両側端部は曲面形状となっ
15 ていることが好ましい」(【0021】)、「歯部5、6の山頂部7の
幅方向の両側端部7a、7bと谷底部8の幅方向の両側端部8a、8b
は曲面形状となっている」(【0026】【0035】)程度の記載が
あるにとどまり、その図面も「曲面形状の端部」の位置を明確に指し示
すものではないこと、③ 本件明細書には、発明が解決しようとする課
20 題や発明の効果について、前記⑴ウ、オ(ア)、(ウ)のとおりの記載
があるものの、これによっても、構成要件C3の構成を備えることにつ
いて特段の技術的意義は認められない上、出願時において、「曲面形状
の端部」の特定を可能とするような技術常識が存在したと認めるに足り
る証拠もないことからすると、訂正発明1に係る特許請求の範囲の記載
25 は、本件明細書の記載及び図面を考慮し、当業者の出願当時における技
術常識を基礎としても、当業者の利益を不当に害するほどに不明確であ
るといわざるを得ない。
(イ)この点、原告らは、「曲面形状の端部」について、直線状の上辺が
曲面状に変化し始める点から、傾斜面へ完全に移行し終わる点までの一
定の領域を指すものと一義的に解釈することができる旨の主張をするが、
5 前記(ア)のとおり、「曲面形状の端部」を一義的に解釈することはで
きないし、そもそも、訂正発明1について、山頂部が直線状であると特
定されているわけではなく、現に、本件明細書には、一方の歯部の山頂
部に直線状の部分が存在せず、小円弧状となっている実施例(【004
8】~【0052】【図18】【図19】)も開示されていることから
10 すると、原告らの主張は前提を欠くというべきである。
ウ(ア)また、訂正発明3について見ると、訂正発明3は、「対向する山頂
部(7)の長さが略同じ長さ」(構成要件F)との構成を備え、これ
により、「山頂部の長さ」を特定し、また、「一対の歯部(5、6)
を噛み合わせるときには、一方の歯部(5)に有する前記山頂部(7)
15 の両側の曲面形状の各端部(7a、7b)と当該各端部(7a、7b)
と対向する他方の歯部(6)に有する前記山頂部(7)の両側の曲面
形状の各端部(7a、7b)とが、歯部幅方向縦断面視において一度
も重なり合うことがない」(構成要件H)との構成を備え、かつ、特
定するものであるから、訂正発明3に係る特許請求の範囲の記載が特
20 許法36条6項2号の規定に適合するというためには、「山頂部の長
さ」はどの部分の長さか、「略同じ長さ」はどの程度の差異を許容す
るのかが、当業者において明確に理解できるように記載されているこ
とを要するというべきである。
しかるに、「山頂部の長さ」を特定する前提となる「曲面形状の端
25 部」との用語の意味が不明確であり、したがって、山頂部分の範囲や
傾斜面部側の位置も不明確であることは、訂正発明1と同様であり、
そうすると、「山頂部の長さが略同じ長さ」との用語の意味も不明確
というほかない。そして、本件明細書には、発明が解決しようとする
課題や発明の効果について、前記⑴ウ、オ(イ)、(ウ)のとおりの
記載があるものの、これによっても、構成要件F、Hの構成を備える
5 ことについて特段の技術的意義は認められない上、出願時において、
「山頂部の長さ」の特定を可能とするような技術常識が存在したと認
めるに足りる証拠もないことからすると、訂正発明3に係る特許請求
の範囲の記載も、本件明細書の記載及び図面を考慮し、当業者の出願
当時における技術常識を基礎としても、当業者の利益を不当に害する
10 ほどに不明確であるといわざるを得ない。
(イ)この点、原告らは、当業者であれば、「山頂部の長さが略同じ」
との用語が、対向する山頂部の直線状の部分の長さが略同じであるこ
とを意味すると当然に理解し得る旨の主張をするが、そもそも、訂正
発明3について、山頂部が直線状であると特定されているわけでない
15 ことは、訂正発明1と同様であり、採用できない。
また、原告らは、被告が「山頂部の長さ」が何を意味するか理解し
得ないとの主張をするのは信義則に反する旨の主張もするが、原告ら
が、当審において、訂正の再抗弁を追加主張していることに照らすと、
被告が、原審において、「山頂部の長さ」に係る自身の理解を前提に、
20 被告製品の本件各発明の技術的範囲への属否や、PW製品を公然実施
品とする新規性欠如に係る主張をしていたからといって、これを信義
則に反するなどということはできない。
エ 以上のとおり、本件各訂正発明に係る特許請求の範囲の記載は、いずれ
も特許法36条6項2号の規定に適合せず、したがって、本件訂正は、
25 同法126条7項の規定に適合しないものであるから、その余の点につ
いて判断するまでもなく、原告らの訂正の再抗弁には理由がない。
3 よって、原判決は相当であって、本件各控訴は理由がないから、これをいず
れも棄却し、また、原告らの当審における拡張請求も理由がないから、これ
をいずれも棄却することとして、主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官
森 冨 義 明
裁判官
菊 池 絵 理
15 裁判官
頼 晋 一
(別紙)
訂正事項
1 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を次のように訂正する。下線部は、主要な訂正箇所
5 である。
【請求項1】
対向して配置され、対向面に互いに噛み合い可能な歯部(5、6)を有する
一対の金型(1、2)からなり、この一対の金型(1、2)で重ねた複数枚の
紙(15)を厚さ方向両側から加圧し、一対の金型の歯部(5、6)を噛み合
10 わせることにより、複数枚の紙(15)を綴じ込む紙の綴じ込み用金型セット
であって、前記一対の金型(1、2)のそれぞれの対向面に有する歯部(5、
6)は、断面略三角形で所定の歯幅を有し、対向面に複数連なって設けられて
おり、前記一対の金型(1、2)のそれぞれの対向面に有する歯部(5、6)
にあっては、歯幅方向の一側または両側が、歯部(5、6)の山頂部(7)に
15 向かって狭幅方向に傾斜する傾斜面部(9)となっており、かつ、山頂部(7)
の歯幅方向の両側の端部(7a、7b)は曲面形状となっており、
一対の歯部(5、6)を噛み合わせたときにおいては、一方の歯部(5)に
あっては、前記山頂部(7)における前記曲面形状の一方の端部(7a)と他
方の端部(7b)との間に位置する部分の少なくとも一部が、対向する他方の
20 歯部(6)の他方の曲面形状の端部(7a)を越えて前記傾斜面部(9)側の
谷底部8に掛かる位置に存在しており、かつ、他方の歯部(6)にあっては、
前記山頂部(7)における前記曲面形状の一方の端部(7a)と他方の端部
(7b)との間に位置する部分の少なくとも一部が、対向する一方の歯部(5)
の一方の曲面形状の端部(7a)を越えて前記傾斜面部(9)側の谷底部(8)
25 に掛かる位置に存在していることを特徴とする紙の綴じ込み用金型セット。
2 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3を次のように訂正する。下線部は、主要な訂正箇所
である。
【請求項3】
対向して配置され、対向面に互いに噛み合い可能な歯部(5、6)を有する
5 一対の金型(1、2)からなり、この一対の金型(1、2)で重ねた複数枚の
紙(15)を厚さ方向両側から加圧し、一対の金型の歯部(5、6)を噛み合
わせることにより、複数枚の紙(15)を綴じ込む紙の綴じ込み用金型セット
であって、前記一対の金型(1、2)のそれぞれの対向面に有する歯部(5、
6)は、断面略三角形で所定の歯幅を有し、対向面に複数連なって設けられて
10 おり、前記一対の金型(1、2)のそれぞれの対向面に有する歯部(5、6)
にあっては、歯幅方向の一側または両側が、歯部(5、6)の山頂部(7)に
向かって狭幅方向に傾斜する傾斜面部(9)となっており、かつ、前記歯部
(5、6)の山頂部(7)の幅方向の両側端部(7a、7b)と谷底部(8)
の幅方向の両側端部(8a、8b)は曲面形状であるとともに、対向する山頂
15 部(7)の長さが略同じ長さとされており、
一方の金型(1)に有する歯部(5)に対向する他方の金型(2)に有する
歯部(6)にあっては、少なくとも、歯部の山頂部(7)が前記一方の金型
(1)に有する歯部(5)における傾斜面部(9)側の谷底部(8)に掛かる
位置まで存在しているとともに、
20 一方の金型(1)と他方の金型(2)の歯部幅方向の対向軸をずらし、一対
の歯部(5、6)を噛み合わせるときには、一方の歯部(5)に有する前記山
頂部(7)の両側の曲面形状の各端部(7a、7b)と当該各端部(7a、7
b)と対向する他方の歯部(6)に有する前記山頂部(7)の両側の曲面形状
の各端部(7a、7b)とが、歯部幅方向縦断面視において一度も重なり合う
25 ことがないことを特徴とする紙の綴じ込み用金型セット。
3 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4を削除する。
以 上
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