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令和7(行ケ)10043審決取消請求事件

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裁判所 知的財産高等裁判所
裁判年月日 令和8年3月26日
事件種別 民事
当事者 原告リケンテクノス株式会社
被告特許庁長官
対象物 光拡散層形成用塗料、プロジェクションスクリーン用フィルム、及びプロジェクションスクリーン
法令 特許権
特許法153条2項9回
特許法150条5項6回
特許法36条1回
特許法29条2項1回
キーワード 審決131回
実施89回
進歩性18回
特許権5回
刊行物4回
無効1回
抵触1回
優先権1回
主文 1 特許庁が不服2023-21513号事件について令和7年3月7
2 訴訟費用は、被告の負担とする。
事件の概要 1 特許庁における手続の経緯等 ⑴ 原告による出願と拒絶理由通知の発出、意見書及び手続補正書の提出等 原告は、令和元年11月6日(優先権主張平成30年11月6日)を出願 日とし、名称を「光拡散層形成用塗料、プロジェクションスクリーン用フィ ルム、及びプロジェクションスクリーン」とする発明につき特許出願(特願 2019-201113号。以下「本願」という。請求項の数10)をし、 令和4年9月28日、手続補正書を提出して(甲21) 、特許請求の範囲を補 正したが (請求項の数14) 、 令和5年6月22日付けで拒絶理由通知書を受 領した(甲10) 。これに対し、原告は、同年8月14日付けで意見書を提出 したが(甲11)

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判決文

令和8年3月26日判決言渡

令和7年(行ケ)第10043号 審決取消請求事件

口頭弁論終結日 令和8年1月27日

判 決

原 告 リケンテクノス株式会社

同訴訟代理人弁護士 浅 村 昌 弘

同 松 川 直 樹

同 和 田 研 史

同訴訟代理人弁理士 井 上 洋 一

同 亀 岡 幹 生

被 告 特 許 庁 長 官

同 指 定 代 理 人 道 祖 土 新 吾

同 小 川 将 之

同 岡 田 吉 美

同 濱 野 隆

同 後 藤 亮 治

同 阿 曾 裕 樹

主 文

1 特許庁が不服2023-21513号事件について令和7年3月7

日にした審決を取り消す。

2 訴訟費用は、被告の負担とする。

事 実 及 び 理 由

第1 請求

主文同旨

第2 事案の概要

1 特許庁における手続の経緯等

⑴ 原告による出願と拒絶理由通知の発出、意見書及び手続補正書の提出等原告は、令和元年11月6日(優先権主張平成30年11月6日)を出願日とし、名称を「光拡散層形成用塗料、プロジェクションスクリーン用フィルム、及びプロジェクションスクリーン」とする発明につき特許出願(特願2019-201113号。以下「本願」という。請求項の数10)をし、令和4年9月28日、手続補正書を提出して(甲21)、特許請求の範囲を補正したが(請求項の数14)、令和5年6月22日付けで拒絶理由通知書を受領した(甲10)。これに対し、原告は、同年8月14日付けで意見書を提出したが(甲11)、同年10月26日付けで拒絶査定(以下「本件拒絶査定」という。甲12)を受けた。原告は、令和5年12月19日、本件拒絶査定に対し不服の審判請求(不服2023-21513号。甲13)をし、同日付けで手続補正書(甲23)を提出し、特許請求の範囲を補正した(請求項の数11)。

⑵ 審決と原告による本件訴訟提起令和7年3月7日、特許庁は、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。その内容は別紙審決書(写し)のとおりである。)をし、その謄本は同年4月1日、原告に送達された。原告は、令和7年4月30日、本件訴訟を提起した。2 発明の内容令和5年12月19日提出の手続補正書により補正された本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」といい、その明細書を「本願明細書」、その明細書及び図面を「本願明細書等」という。甲9)は、以下のとおりである。「(A)活性エネルギー線硬化性樹脂 100質量部;及び、(B)希土類燐酸塩微粒子 0.1~50質量部;を含むプロジェクションスクリーンの光拡散層形成用塗料。」3 本件審決の内容

⑴ 本件審決の内容は別紙審決書(写し)のとおりであるところ、その理由の要点は、本願発明は、引用文献1(国際公開第2018/147042号。甲1)に記載された発明(以下「引用発明」という。)に基づき、周知技術及び技術常識を適用して当業者が容易に発明をすることができたから、特許法29条2項により特許を受けることができない、というものである。

⑵ なお、本件審決は、上記判断をするに当たり、引用発明の内容、本願発明と引用発明との一致点及び相違点、周知技術並びに技術常識を、次のとおり認定した。ア 引用発明の内容([]は引用文献1の明細書中の段落を示す。)「有機溶媒とバインダ樹脂と光散乱粒子とを混合したコート液であって、([0044])光散乱層(コート層)を配置させた光散乱部材を得るために、ローラーやスプレーガン等を用いて基材の表面に塗工又は塗布されるものであり、([0044])ディスプレイ、プロジェクタのスクリーン、ヘッドアップディスプレイ等に用いられる透明スクリーンとして好適に製造することができる光散乱シートを得るためのものであり、([0045]。なお、本件審決記載の[0016]は誤記。)光散乱シートは、樹脂中に光散乱粒子が分散された樹脂成形体からなり、前記光散乱粒子は希土類リン酸塩の粒子であり、前記樹脂成形体の単位体積当たりの前記光散乱粒子の表面積が0.600m2/cm3以下である、光散乱シートであって、([請求項1])光散乱粒子は、基材の表面に設けられたコート層からなる樹脂成形体の内部に均一に分散した状態で配置されたものであり、([0009])光散乱シート(光散乱体)における光散乱粒子の配合量は、該光散乱シート(光散乱体)に対して0.01質量%以上30質量%以下であり、([0016])光散乱シート(光散乱体)における樹脂の配合量は、該光散乱シート(光散乱体)に対して70質量%以上99.99質量%以下である、([0016])コート液。」イ 一致点「(A)樹脂 100質量部;及び、(B)希土類燐酸塩微粒子 0.01~50質量部;を含むプロジェクションスクリーンの光拡散層形成用塗料」の発明である点。ウ 相違点<相違点1>本願発明においては、「樹脂」が「活性エネルギー線硬化性」であるとの限定があるのに対して、引用発明においては、「樹脂」の硬化・軟化特性については特定されていない点。<相違点2>「樹脂100質量部(判決注:「重量部」は誤記)」に対する「希土類燐酸塩微粒子」の配合量が、本願発明においては、0.1~50質量部であるのに対して、引用発明においては、0.01~42.9質量部である点。エ 周知技術<周知技術1>「透過光の視認性と投影される映像の視認性が求められる透明スクリーンにおいて、光散乱材料となる粒子を含有させる樹脂として、電離放射線硬化樹脂や紫外線硬化樹脂を用いること。」オ 技術常識<技術常識1>「短時間で硬化する、無溶剤型にできる等の長所を有する、紫外線硬化樹脂を含むエネルギー線硬化樹脂には様々な種類があり、光学的な分野を含む幅広い分野で利用されていること。」<技術常識2>「ポリウレタンアクリレートは、高屈折率にするために特別の化学構造を導入しない限り、屈折率は、概して1.54以下であること。」4 原告の主張する本件審決の取消事由原告は、相違点2に係る容易想到性について、本件審決の判断を争わず、本件審決の取消事由として、以下のとおり主張する。

⑴ 取消事由1「樹脂」の種類に関する引用発明の認定の誤り

⑵ 取消事由2「用途」に関する引用発明の認定の誤り

⑶ 取消事由3相違点の容易想到性判断の誤り

⑷ 取消事由4予測できない顕著な効果の判断の誤り

⑸ 取消事由5審判手続の瑕疵

第3 当事者の主張

1 取消事由1(「樹脂」の種類に関する引用発明の認定の誤り)

〔

(原告の主張)

〕

⑴ 本件審決は、引用発明の認定に当たり「バインダ樹脂」の種類について、

引用文献1の段落[0010]は「本発明の、光散乱シートをはじめとする光散乱体で用いられる樹脂は、透明性の高いものであることが好ましい。・・・シートやフィルムへの成形の容易さの点からは、熱可塑性樹脂を用いることが有利である。」と記載しているにもかかわらず、引用発明における「樹脂」を熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂及び活性エネルギー線硬化性樹脂の上位概念である「バインダ樹脂」と敢えて特定した。「樹脂」の種類について、「発明を実施するための形態」記載の「有利」な態様によって特定すべきであり、引用文献1請求項1記載の「光散乱シート」は「樹脂中に光散乱粒子が分散された樹脂成形体からな」るから、引用発明の「樹脂」は「シートやフィルムへの成形の容易さの点から・・・有利」な「熱可塑性樹脂」と特定するのが自然である。そうすると、本件審決が誤って認定した本願発明と引用発明との相違点1は、正しくは下記のとおりの相違点1´として認定されるべきであった。〈相違点1´〉「本願発明においては、『樹脂』が「活性エネルギー線硬化性樹脂」であるのに対して、引用発明においては、『樹脂』が熱可塑性樹脂である点。」引用文献1は、明確に当業者に熱可塑性樹脂の使用を動機付けており、阻害要因となるから、熱可塑性樹脂を活性エネルギー線硬化性樹脂とすることは容易に想到し得ない。引用文献1請求項1記載の「光散乱シート」は「樹脂中に光散乱粒子が分散された樹脂成形体からな」るから、当業者は「樹脂成形体」を製造するのに有利な樹脂を選択するはずであるところ、引用文献1の段落[0010]は「シートやフィルムへの成形の容易さの点からは、熱可塑性樹脂を用いることが有利である。」と明記しており、当業者は、シートやフィルムへの成形の容易さの点で有利な熱可塑性樹脂をわざわざ熱硬化性樹脂や活性エネルギー線硬化性樹脂に変更するはずがない。

⑵ この点につき、本件審決は、上記引用文献1の段落[0010]の記載は、「熱

可塑性樹脂が有する、当業者にとって周知な一般的特性を記載したにすぎないものであって、活性エネルギー線硬化性樹脂への変更を阻害するものではない。実際、引用文献1には『特に、本発明で用いられる樹脂は、無色透明であることが好ましい。このような特性を有する限りにおいて樹脂の種類に特に制限はな[い]』ことも記載されている(段落[0010])。」とする。しかし、本件審決が述べるように、熱可塑性樹脂が他の樹脂に対してシートやフィルムへの成形の容易さの点で有利という特性が当業者にとって周知な一般的特性であれば、当業者は当該周知技術に基づき益々熱可塑性樹脂の使用を動機付けられ、その結果、活性エネルギー線硬化性樹脂への変更は益々阻害されることになる。また、本件審決が引用する段落[0010]は、正確には「本発明の、光散乱シートをはじめとする光散乱体で用いられる樹脂は、透明性の高いものであることが好ましい。また本発明で用いられる樹脂は、無色のものであることも好ましい。特に、本発明で用いられる樹脂は、無色透明であることが好ましい。このような特性を有する限りにおいて樹脂の種類に特に制限はなく、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂のいずれを用いてもよい。シートやフィルムへの成形の容易さの点からは、熱可塑性樹脂を用いることが有利である。」と記載されているのであり、文の順番に鑑みて、望ましい樹脂の特性につき述べた上で、最後に熱可塑性樹脂が有利であるという結論を述べたものである。同段落は、全体として、当業者に熱可塑性樹脂の使用を明確に動機付けていると読むほかない。さらに、同段落は「このような特性を有する限りにおいて樹脂の種類に特に制限はなく」としつつも、活性エネルギー線硬化性樹脂については何ら言及しておらず、「熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂及び活性エネルギー線硬化性樹脂のいずれを用いてもよい。」とは敢えて述べていない。したがって、同段落のいう「樹脂の種類に特に制限はな(い)」の意味は「熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂のいずれを用いてもよい」ということにすぎず、「活性エネルギー線硬化性樹脂」を用いても良いという趣旨と読むことはできない。

⑶ 本件審決は、前記第2の3⑵のとおり、技術常識1及び周知技術1を認定

したが、これらが技術常識ないし周知技術に該当することの根拠は本件審決中に示されておらず、本件審決が相違点につき設計変更にすぎないとした認定は、前提を欠き失当である。また、本件審決の引用文献4(甲4。石川英宣「バインダー基礎講座(第X講)エネルギー線硬化樹脂」色材協会誌65巻7号441~452頁(1992))及び引用文献5(甲5。舞幹子、緑川俊文「紫外線(UV)硬化技術を利用した市場」色材協会誌85巻11号453~458頁(2012))は、活性エネルギー線硬化性樹脂の短所として、「a)エナメル化における硬化性(が)不十分」であること、「b)複雑な形状のものに不適当」であること、「c)価格が他の系に比べ高価である」こと、「d)一般的に付着性が不十分である」こと、「e)一般的に硬化性と機械的物性のバランスが不十分である」こと(甲4表-8)、プラスチックへの密着性低下を招くこと(甲5、455頁左欄)を指摘している。特に、付着性が不十分で密着性低下を招くことは、引用文献1が開示するローラーやスプレーガン等を用いて基材の表面に塗工又は塗布される光散乱シートを得るためのコート液(塗料)に使用する場合には看過できない重大な欠点である。相違点1´に係る「熱可塑性樹脂」に代えて「電離放射線や紫外線等の活性エネルギー線で硬化する樹脂」を用いるには阻害要因があり、当業者が容易に想到できた設計変更ということはできない。さらにいえば、引用文献1請求項1記載の「光散乱シート」は「樹脂中に光散乱粒子が分散された樹脂成形体からな」るところ、「成形体」という語からはある程度立体的な形状(例えば部分的に局面や屈曲部などがある形状)を排除していないと解される。かかる立体的形状の場合には、付着性が不十分で密着性低下を招くという上記欠点が更に強く懸念される上に、引用文献4(甲4)が活性エネルギー線硬化性樹脂は「b)複雑な形状のものに不適当」としているから、「電離放射線や紫外線等の活性エネルギー線で硬化する樹脂」への変更はより一層強く回避されるはずである。〔

(被告の主張)

〕

⑴ 原告は、周知技術1及び技術常識1の成立を争っているが、その認定に誤

りはない。ア 周知技術1の認定の妥当性「透過光の視認性と投影される映像の視認性が求められる透明スクリーンにおいて、光散乱材料となる粒子を含有させる樹脂として、電離放射線硬化樹脂や紫外線硬化樹脂を用いること」(前記第2の3⑵の周知技術1)が周知技術であることは、本決審決において示した引用文献2(国際公開2016/203915号。甲2。[0101]参照)、引用文献3(国際公開2016/068087号。甲3。[0082]~[0087]参照)に加えて、本願明細書等において特許文献2として引用された、特開2017-215355号公報(乙12)の段落【0036】にも、「ナノダイヤモンド層におけるナノダイヤモンド粒子は、バインダー中に分散して存在していることが好ましい。当該バインダーとしては、アクリル系樹脂、アクリルウレタン系樹脂、ポリエステルアクリレート系樹脂、ポリウレタンアクリレート系樹脂、・・・及びフッ素系樹脂等の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、ならびに紫外線若しくは電子線硬化性樹脂等を用いることができる。」と開示されているように明らかであって、本件審決の認定に誤りはない。この点は、そのほかの文献(乙15(特開2016-109778号公報(段落【0028】、【0063】~【0064】等参照)、乙16(国際公開2018/012433号([0037]、[0095]~[0100]等参照)、乙17(特開2014-153708号公報(【請求項7】、【0034】、【0037】等参照)、乙18(特開2016-160394号公報(段落【0044】~【0047】、【0077】~【0093】等参照)、乙19(特開2018-100999号公報(【請求項1】、【0023】、【0030】~【0034】等参照))にも記載がある。イ 技術常識1の認定の妥当性本決審決は、「短時間で硬化する、無溶剤型にできる等の長所を有する、紫外線硬化樹脂を含むエネルギー線硬化樹脂には様々な種類があり、光学的な分野を含む幅広い分野で利用されていること」(前記第2の3⑵の技術常識1)が技術常識であることを、甲4及び5により示した。甲4は、その題名に「基礎講座」と記載されていることから読者として初学者が想定されていることが分かる。またその発行年が1992年(平成4年)であることから、本願の優先日において、その内容が当業者に広く知られた事項であることは明らかである。この点は、他の文献(乙20(「『機能性プラスチック』のキホン」(2011)(144-145頁))、乙21(特開2013-195548号公報。【0017】等参照)、乙22(「平成17年度 特許流通支援チャート「プラスチックレンズ 設計及び成形・加工技術」」(独立行政法人 工業所有権情報・研修館)(4頁))からも明らかである。

⑵ 以下のアからエに示すように、本件審決が、樹脂を「熱可塑性樹脂」とは

認定せず「バインダー樹脂」と認定したことに誤りはない。ア 引用文献1における中心的な技術思想が現れている請求項1、及び他の請求項を参照しても、「樹脂」という語は現れるものの、「熱可塑性樹脂」という語は現れないのであるから、引用文献1において、樹脂が「熱可塑性樹脂」に限定されないこと、及び「熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂」に限定されないことは明らかである。イ 一般に、文献に記載された発明の認定に当たっては、解決しようとする課題も踏まえて客観的に理解すべきものであるところ、引用文献1が解決しようとする課題は「高い光散乱性を有する光散乱シートを提供すること」(段落[0006])であって、光の散乱を問題としている。ここで、光の散乱現象には、屈折率の空間分布n(r)が影響するのであって、樹脂が熱硬化性樹脂か熱可塑性樹脂か光硬化性樹脂かは直接的に影響しない。すなわち、引用文献1の樹脂の屈折率を上記課題が解決できるような値に定めれば、その樹脂がどのような種類であるかということは課題解決とは関係がないから、引用発明において樹脂が熱可塑性樹脂に限定されないことは明らかである。ウ 一般に、文献に記載された発明は、周知技術等を含む技術常識を踏まえて客観的に理解すべきものである。「透過光の視認性と投影される映像の視認性が求められる透明スクリーンにおいて、光散乱材料となる粒子を含有させる樹脂として、電離放射線硬化樹脂や紫外線硬化樹脂を用いること」(周知技術1)は、当業者に周知の技術事項であるから、引用文献1の段落[0010]の「特に、本発明で用いられる樹脂は、無色透明であることが好ましい。このような特性を有する限りにおいて樹脂の種類に特に制限はな[い]」という記載を、熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂だけでなく、電離放射線硬化樹脂や紫外線硬化樹脂までも含めて制限がないと理解して読むことに誤りはない。エ 審決における引用発明の認定は、引用文献1における中心的な技術思想が現れている請求項1を踏まえつつ、具体的に開示されている段落[0044]~[0045]の記載を基礎として、これらの記載だけでは欠落している情報を補うために[0016]等にも基づいて行ったものであり、恣意的なものではなく、客観的に当業者が認識できるものである。具体的には、段落[0044]の「基材の表面に光散乱体の一実施形態である光散乱層(コート層)を配置させた光散乱部材を得るためには、例えば、有機溶媒とバインダ樹脂と光散乱粒子とを混合してコート液を作製し、該コート液をローラーやスプレーガン等を用いて基材の表面に塗工又は塗布すればよい。」との記載から、引用発明として「有機溶媒とバインダ樹脂と光散乱粒子とを混合し」た「コート液」の発明が把握でき、「光散乱層(コート層)を配置させた光散乱部材を得るために」、かかる「コート液」が「ローラーやスプレーガン等を用いて基材の表面に塗工又は塗布」されることが把握できる。そして、段落[0045]の「以上の各種の方法で得られた本発明の光散乱シートは、例えば、ディスプレイ、照明用部材、窓用部材、電飾部材、導光板部材、プロジェクタのスクリーン、ヘッドアップディスプレイ等に用いられる透明スクリーン、ビニールハウス等の農業用資材などとして好適に製造することができる。」との記載から、「以上の各種の方法」の一つである段落[0044]記載の「コート液」が、「ディスプレイ」、「プロジェクタのスクリーン、ヘッドアップディスプレイ等に用いられる透明スクリーン」「として好適に製造することができる」「光散乱シート」を得るためのものと把握できる。かかる「光散乱シート」は、[請求項 1]に記載されるとおり、「樹脂中に光散乱粒子が分散された樹脂成形体からなり、前記光散乱粒子は希土類リン酸塩の粒子であり、前記樹脂成形体の単位体積当たりの前記光散乱粒子の表面積が0.600m2/cm3以下である」「光散乱シート」であって、「光散乱粒子」に関し、段落[0009]の記載から、「基材の表面に設けられたコート層からなる樹脂成形体の内部に均一に分散した状態で配置され」ることが理解できる。また、段落[0044]には、かかる「コート液」中の「バインダ樹脂」と「光散乱粒子」との配合量が明示されていないところ、段落[0016]の記載を踏まえて、「光散乱シート(光散乱体)における光散乱粒子の配合量は、該光散乱シート(光散乱体)に対して0.01質量%以上30質量%以下であ」ること、及び、「光散乱シート(光散乱体)における樹脂の配合量は、該光散乱シート(光散乱体)に対して70質量%以上99.99質量%以下である」ことを認定したものである。以上のとおり、引用発明の認定に何ら恣意的なものはなく、引用文献1に接した当業者が客観的に認識するものである。

⑶ 本件審決に相違点の看過はなく、仮に引用発明の樹脂を「熱可塑性樹脂」

と認定したとしても進歩性はない。本件審決がした引用発明の認定に誤りはないから、引用発明の認定の誤りを前提とする相違点の看過の主張には根拠がなく、

(原告の主張)

は失当である。なお、仮に引用発明における樹脂を、

(原告の主張)

するとおりに、引用発明の認定に際して樹脂の種類を限定して「熱可塑性樹脂」と認定したとしても、

(原告の主張)

は以下のとおり失当である。ア 引用文献1(甲1)の段落[0010]の記載に基づく阻害要因はないこと前記の理由により、樹脂が「熱可塑性樹脂」に限定されないことは明らかであるから、原告がいうところの引用文献1(甲1)の段落[0010]の記載に基づく阻害要因は存在しない。また、前述したとおり、本件審決が周知技術1として認定した内容が周知技術であるとの認定に誤りはないから、かかる知識を有する当業者にとって、「熱可塑性樹脂」に代えて「電離放射線硬化樹脂」や「紫外線硬化樹脂」を用いることは、自明の選択肢であって、自ずと想起されることにすぎない。イ 活性エネルギー線硬化性樹脂の短所に基づく阻害要因はないこと(ア) 付着性又は密着性が不十分という阻害要因はないことa エネルギー線硬化性樹脂の長所について、例えば、2007年(平成19年)に刊行され、「光学用樹脂」の技術分野における代表的な実務参考書である乙23「光学用透明樹脂における材料設計と応用技術」(技術情報協会、2007年)238頁の記載によれば、「光学用樹脂」の技術分野において、「基材上に、柔軟性が必要とされる光学機能フィルムを形成するために、光硬化性樹脂を使用すること」は、技術常識であるといえる。かかる技術常識を有する当業者であれば、引用発明において「光散乱粒子は、基材の表面に設けられたコート層からなる樹脂成形体の内部に均一に分散した状態で配置されたものであ[る]」から、引用発明の「光散乱層(コート層)を配置させた光散乱部材を得るため」の「コート液」の「バインダ樹脂」として、(熱可塑性樹脂に代えて)、「電離放射線や紫外線等の活性エネルギー線で硬化する樹脂」へ変更することに、阻害要因はないというべきであって、当業者に自明の選択肢である「電離放射線や紫外線等の活性エネルギー線で硬化する樹脂」を採用することは、むしろ自然である。b また、一般論としては、活性エネルギー線硬化性樹脂に「付着性又は密着性が十分でないこと」の短所があるとしても、付着性又は密着性は基材が具体的にどのようなものであるかに応じて変化し(乙24-2の各種プラスチック基材向けグレード一覧_ダイセル・オルネクス_202405 の「基材適合一覧」に示された組合せを参照 )、PET(ポリエチレンテレフタレート樹脂)の場合は密着性は悪い方でなく、コロナ放電処理やプライマー処理等の表面処理を行うことにより密着性が改善されることも知られており(羽田正紀「プラスティックフィルムの表面改質」日本印刷学会誌47巻2号(2010)(乙25)78頁)、一口に活性エネルギー線硬化性樹脂といっても様々な種類があり、使用する個々の活性エネルギー線硬化性樹脂や、基材、表面処理に応じて、付着性又は密着性が劣るものとは必ずしもいえない。したがって、

(原告の主張)

は、阻害要因たりえない。仮に、「電離放射線や紫外線等の活性エネルギー線で硬化する樹脂」と基材の組合せの全てが付着性又は密着性が悪いならば、本願発明も「付着性又は密着性が十分でないこと」となるところ、本願発明においては、これを解決する手段が特定されておらず、「付着性又は密着性が十分でないこと」を許容して使用するものも含んでいることとなるところ、このような場合に容易に想到できると判断されるべきことは、知的財産高等裁判所平成14年(行ケ)495号、同年(行ケ)251号、平成17年(行ケ)10187号、平成14年(行ケ)483号の各裁判例の示すとおりである。(イ) 成形体に起因する阻害要因はないことそもそも、引用発明の「コート液」は、「光散乱層(コート層)を配置させた光散乱部材を得るために、ローラーやスプレーガン等を用いて基材の表面に塗工又は塗布されるものであ[る]」から、かかる「光散乱層(コート層)」を形成するために、特殊な立体的形状を成形可能であることは要求されていない。よって、引用発明が成形体であることに起因する阻害要因が存在する旨の

(原告の主張)

は、失当である。その点を措くとしても、引用文献4(甲4)の(表9)には、エネルギー線硬化型樹脂の用途として、レンズ、ディスク成形等の成形材に利用可能であることが示されているし、「平成17年度 特許流通支援チャート『プラスチックレンズ 設計及び成形・加工技術』」(独立行政法人工業所有権情報・研修館)(乙22)の4頁の記載によれば、成形体であるからといって光硬化性樹脂等のエネルギー線硬化型樹脂の使用が阻害されないことは、自明のことである。したがって、樹脂成形体の観点から、「熱可塑性樹脂」に代えて「電離放射線や紫外線等の活性エネルギー線で硬化する樹脂」を用いることは、当業者が容易に想到できた設計変更とは到底いえないとの

(原告の主張)

は失当である。

2 取消事由2(「用途」に関する引用発明の認定の誤り)

〔

(原告の主張)

〕

⑴ 本件審決は、引用発明における「コート液」の用途に関し、

「ディスプレイ、プロジェクタのスクリーン、ヘッドアップディスプレイ等に用いられる透明スクリーンとして好適に製造することができる光散乱シートを得るためのもの」と認定したが、誤りである。「ディスプレイ、プロジェクタのスクリーン」と「ヘッドアップディスプレイ等に用いられる透明スクリーン」とでは、想定される使用状況が異なる。すなわち、映像コンテンツがスクリーンに投影されている状況において、スクリーンの背後からの自然光又は室内照明光の存在を想定しているか、という点において全く相違する。「ディスプレイ」及び「プロジェクタのスクリーン」においてはスクリーンの背後から自然光又は室内照明光が射し込むことは通常はない。これに対し、「ヘッドアップディスプレイ」とは、典型的には自動車運転時に進行方向から目を離すことなくドライバーの視野内に情報を直接表示する拡張現実(AR)の一種であり(甲15)、フロントガラスの背後から自然光が入ってくる状況で映像コンテンツを表示しなければならない。そのため、「ディスプレイ、プロジェクタのスクリーン」と比して、「ヘッドアップディスプレイ等に用いられる透明スクリーン」においては、透過視認性と映像表示性の両立が高いレベルで求められることになる。引用文献1には、請求項1の「光散乱シート」が「ヘッドアップディスプレイ等に用いられる透明スクリーン」としても使用可能な程度に透過視認性と映像表示性を両立していることを読み取ることのできる記載も示唆もない。かえって、引用文献1の段落[0045]は、用途に関し、「以上の各種の方法で得られた本発明の光散乱シートは、例えば、ディスプレイ、照明用部材、窓用部材、電飾部材、導光板部材、プロジェクタのスクリーン、ヘッドアップディスプレイ等に用いられる透明スクリーン、ビニールハウス等の農業用資材などとして好適に製造することができる。また、樹脂中に光散乱粒子が分散された樹脂成形体を、シート状にすることに代えて、シート以外の形態を有する光散乱体として用いてもよい。」として、種々の用途を一緒くたに記載しており、請求項1の「光散乱シート」は、特段透過視認性と映像表示性とを高いレベルで両立しているものではないことが読み取れる。このように、引用発明として認定された「ヘッドアップディスプレイ等に用いられる透明スクリーンとして好適に製造することができる光散乱シートを得るためのコート液」が、当業者において実施可能な程度に引用文献1に開示されているとはいえず、引用文献1に実施可能な程度に開示されている用途は、せいぜい「ディスプレイ、プロジェクタのスクリーン」である。

⑵ 上記のとおり、引用発明における「コート液」の用途は「ディスプレイ、

プロジェクタのスクリーンとして好適に製造することができる光散乱シートを得るためのもの」と認定すべきである。そして、この正しい引用発明の認定を前提とし、本願発明の「プロジェクションスクリーン」は商業施設のガラス窓等に映像コンテンツを投影するためのものであり(本願明細書等の段落【0002】)、「ヘッドアップディスプレイ」と同様に、スクリーンの背後から自然光又は室内照明光が入ってくる状況で映像コンテンツを表示することが想定されていることからすると、「ディスプレイ」及び「プロジェクタのスクリーン」においてはスクリーンの背後から自然光又は室内照明光が射し込むことは通常はないから、正しい引用発明の認定を前提とすると、次の新たな相違点(以下「相違点3」という。)が生じる。〈相違点3〉「引用発明における『コート液』の用途は『ディスプレイ、プロジェクタのスクリーンとして好適に製造することができる光散乱シートを得る』ことであるのに対し、本願発明における『塗料』の用途は『プロジェクションスクリーンの光拡散層形成用』である点」そして、引用文献1には、請求項1の「光散乱シート」が「ヘッドアップディスプレイ」としても使用可能な程度に透過視認性と映像表示性を両立していることを読み取ることのできる記載も示唆もなく、同様に、引用文献1記載の「コート液」を「プロジェクションスクリーンの光拡散層形成用」に用いることができると理解することができる記載も示唆もない。したがって、引用発明における用途を正しく認定した場合、新たに生じる相違点3に係る「ディスプレイ、プロジェクタのスクリーンとして好適に製造することができる光散乱シートを得る」という用途を、本願発明における「プロジェクションスクリーンの光拡散層形成用」とすることは当業者にとって容易想到であるとはいえない。〔

(被告の主張)

〕

⑴ 引用発明の認定に誤りはないこと

ア 実施可能に記載されていること引用文献1(甲1)には、「光散乱性が高く、透明性も高く」([0024])との記載、「光散乱シート(光散乱体)の透明性を維持しつつ、散乱の程度を高くし得ることが判明した」([0026])との記載があり、[0070]の表1において平行線透過率とヘイズ値を開示して評価しているように、引用文献1(甲1)は、原告がいうところの「透過視認性」と「映像表示性」とにそれぞれ対応する「透明性」と「光散乱性」を高いレベルにするとの技術思想を開示しており、その上で「透明スクリーン用途として有用であることが判る」([0071])としている。また、「光を散乱させることに関し、光散乱粒子は、前方散乱及び後方散乱のいずれか又は双方に用いられる」([0009])との記載もあり、透明プロジェクションスクリーンであるヘッドアップディスプレイを含めた「透明スクリーン用途」であることが理解できる。以上の記載から、引用文献1(甲1)には、「ヘッドアップディスプレイ等に用いられる透明スクリーン」に好適な光学特性が記載されており、光散乱シートの用途として「ヘッドアップディスプレイ等に用いられる透明スクリーン」が記載されており、引用文献1(甲1)には、「透明性」と「光散乱性」を高いレベルにするとの技術思想が記載されている。イ 本願発明との対比に必要な程度に実施し得る程度の記載であることまた、実際に車に実装するための安全規制等の要件を満たす程度までの性能が得られるような設計情報の開示がなくとも、少なくとも曲がりなりにも「ヘッドアップディスプレイ」といい得るようなものが作れる程度の記載ではあるから、「特許出願当時の技術水準を基礎として、当業者が当該刊行物を見たときに、特許を受けようとする発明の内容との対比に必要な限度において、その技術的思想を実施し得る程度に技術的思想の内容が開示されている」といえるものであり(知的財産高等裁判所平成22年(行ケ)第10121号、同22年(行ケ)第10163号、同19年(行ケ)

第10250号及び同24年(行ケ)第10150号各判決等参照)、本件

審決が認定した引用発明が引用文献1に記載されていない旨の原告の主張は失当である。ウ 一定の技術思想が読み取れるから引用発明として認定して差し支えないこと仮に原告のいう意味で実施可能でないとしても、一定の技術思想が記載されていれば、引用発明として認定できることは、裁判例(知的財産高等裁判所平成23年(行ケ)第10201号、同21年(行ケ)第10111号各判決等参照)の示すとおりであり、

(原告の主張)

は失当である。エ 引用文献1の記載からは、「透明スクリーン」のうち、少なくとも、自動車用のものでない「後方散乱を利用してプロジェクション表示するとともに背景を視認可能な透明スクリーン」は認識できるのであって、この場合、本件審決の認定した一致点に誤りはなく、相違点の看過はない。また、仮に、原告主張の相違点3があったとしても、引用文献1の[0009]、[0071]等の記載に基づけば、引用発明の用途として、「プロジェクションスクリーン」は、当業者が当然に想到し得たものともいえる。

⑵ 「プロジェクタのスクリーン」と認定しても新たな相違点は生じない

前記検討のとおり、そもそも、本願発明は、「プロジェクションスクリーンの光拡散層形成用」であって、「透明」スクリーンとさえ特定していないのであるから、「プロジェクタのスクリーン」と引用発明を認定したところで、新たな相違点は生じない。よって、

(原告の主張)

は、請求項の記載に基づかないものであって、失当である。

3 取消事由3(相違点の容易想到性判断の誤り)

〔

(原告の主張)

〕

⑴ 本件審決が、相違点1に関し、容易想到とした判断は誤りである。

前記のとおり、引用発明の「バインダ樹脂」として、敢えて「活性エネルギー線硬化性」樹脂を選択することは、当業者が容易に想到できた設計変更ではない。引用文献1請求項1記載の「光散乱シート」は「樹脂中に光散乱粒子が分散された樹脂成形体からな」るから、当業者は「樹脂成形体」を製造するのに有利な樹脂を選択するはずであるところ、引用文献1の段落[0010]は「シートやフィルムへの成形の容易さの点からは、熱可塑性樹脂を用いることが有利である。」と明記している。当業者は、シートやフィルムへの成形の容易さの点で有利な熱可塑性樹脂を差し置いて、わざわざ熱硬化性樹脂や活性エネルギー線硬化性樹脂を選択するはずがない。

⑵ 前記1〔

(原告の主張)

〕のとおり、引用文献1において、熱可塑性樹脂が他の樹脂に対してシートやフィルムへの成形の容易さの点で有利という特性が当業者にとって周知な一般的特性であれば、当業者は当該周知技術に基づき益々熱可塑性樹脂の使用を動機付けられ、その結果、活性エネルギー線硬化性樹脂の選択は益々阻害される(阻害要因)ことになる。

⑶ 本件審決が認定した技術常識1及び周知技術1の認定が前提を欠き失当

であること、引用文献4(甲4)及び引用文献5(甲5)に係る主張についても、前記1〔

(原告の主張)

〕のとおりである。

⑷ 以上のとおり、本件審決が、相違点1に関し、当業者が容易に想到できた

設計変更にすぎないとした判断には誤りがある。〔

(被告の主張)

〕

⑴ 原告がいうところの阻害要因が存在しないことは、既に前記1〔被告の主

張〕で述べたとおりである。そして、本件審決における周知技術1及び技術常識1の認定に誤りはなく、このような知識を有する当業者にとって、「熱可塑性樹脂」に代えて「電離放射線硬化樹脂」や「紫外線硬化樹脂」を用いることが自明の選択肢であって、自ずと想起されることにすぎないことも、既に述べたとおりである。したがって、原告の取消事由3の主張は失当であり、本件審決の判断に誤りはない。

⑵ 引用発明は、本願発明と同様に、微粒子として希土類リン酸塩を採用する

ことによって、散乱性を向上させるものであるところ、本願発明よりも前に特許出願がされ、特許第6533879号として特許権が設定登録されている(乙26)。引用文献1において活性エネルギー線硬化性樹脂への言及がないことを奇貨として、実施例の熱可塑性樹脂等を周知の活性エネルギー線硬化性樹脂に置き換えたにすぎない本願発明について特許権を取得することを許容することは、先行発明者である引用発明の特許権者が活性エネルギー線硬化性樹脂を用いた光散乱シートを実施できなくなる結果を招き、先行発明者の利益を著しく害するものである。かかる観点からも、本件審決の判断は適切であり、誤りはない。

4 取消事由4(予測できない顕著な効果の判断の誤り)

〔

(原告の主張)

〕本件審決が、本願発明の効果につき、当業者が予測困難な効果とはいえないとした判断は誤りである。

⑴ 本願発明の効果1

ア 本願発明は「高い透過視認性(高い透明性)と投影表示される映像が鮮明に見えること(高い映像表示性)という、相反する特性の両立」という効果を有する。本願明細書等は、「本発明の課題は、プロジェクションスクリーンの光拡散層形成用塗料であって、高い透明性と高い映像表示性とのバランスに優れたプロジェクションスクリーンを得ることのできる塗料・・・を提供することにある。」(段落【0004】)と述べ、本願発明の効果につき「本発明の塗料を用いて形成された光拡散層を含むプロジェクションスクリーン用フィルムは、高い透明性と高い映像表示性とのバランスに優れる」、「本発明の塗料を用いて形成された光拡散層を含むプロジェクションスクリーンは、高い透明性と高い映像表示性とのバランスに優れる。」と述べる(段落【0016】及び【0017】)。本願明細書の一連の記述を総合すると、効果に係る「高い透明性と高い映像表示性とのバランスに優れる」とは、背景技術に係る「高い透過視認性(高い透明性)と投影表示される映像が鮮明に見えること(高い映像表示性)という、相反する特性の両立」を意味することが理解できる。この「高い透過視認性(高い透明性)と投影表示される映像が鮮明に見えること(高い映像表示性)という、相反する特性の両立」という本発明の効果は、実施例によって裏付けられている。すなわち、実施例(例1~例4)も比較例(例5)も全て「高い透過視認性(高い透明性)」を有するところ、「投影表示される映像が鮮明に見えること(高い映像表示性)」の指標である「ヘーズ」、「拡散率」及び「視野角」をみると、実施例(例1~例4)では「ヘーズ」9.3%以上、「拡散率」7%台、「視野角」は120°まで「○」となっているのに対し、比較例(例5)では「ヘーズ」5.3%、「拡散率」4.7%、「視野角」は120°で「△」であり全ての項目において実施例に大きく劣っている。以上のとおり、「活性エネルギー線硬化性樹脂」を用いた本願発明の実施例では「高い透過視認性(高い透明性)と投影表示される映像が鮮明に見えること(高い映像表示性)という、相反する特性」を「両立」できるのに対し、熱硬化性樹脂を用いた比較例では「高い透過視認性(高い透明性)」と「投影表示される映像が鮮明に見えること(高い映像表示性)」が「両立」できないことが、本願明細書等に明示されている。イ 原告は、基材樹脂として活性エネルギー線硬化性樹脂(多官能ポリ(メタ)アクリレート)を使用した場合と熱可塑性樹脂を使用した場合に関し、全光線透過率、拡散率及び視野角を比較した追試験を行った。追試験の内容及び結果は2024年(令和6年)5月1日付け実験成績証明書(甲16)のとおりであり、活性エネルギー線硬化性樹脂(多官能ポリ(メタ)アクリレート)を使用したFilm(1) for projection screen(プロジェクションスクリーン用フィルム(1))と、引用文献1の実施例におけるように熱可塑性樹脂を使用したFilm(2)for projection screen(プロジェクションスクリーン用フィルム(2))とでは、全光線透過率は同程度であったが、拡散率及び視野角においては前者(活性エネルギー線硬化性樹脂)が後者(熱可塑性樹脂)を大きく上回った(甲16「6. Results」)。すなわち、引用文献1にて用いられたような熱可塑性樹脂に代えて活性エネルギー線硬化性樹脂を基材樹脂として使用することにより、「高い透過視認性(高い透明性)と投影表示される映像が鮮明に見えること(高い映像表示性)という、相反する特性」の「両立」を達成できるという本願明細書等に記載の効果が実際に得られることが、当該追試験結果でも支えられている。当該追試験結果は、本願の欧州対応出願(欧州特許出願第19881677.9号)の審査過程で原告が提出したものであり(甲17)、欧州では、その後特許が付与されることが確実な状況となっている(甲18)。ウ この本願発明の効果は、本願優先日当時に、本願発明の構成が奏するものとして当業者が予測できた効果と比較して、予測できない顕著な効果である。本件審決は、本願発明の効果が「高い透過視認性(高い透明性)と投影表示される映像が鮮明に見えること(高い映像表示性)という、相反する特性の両立」という顕著なものであるにもかかわらず、これを予測し得たとする根拠を何ら示していない。本件審決は、「拡散率」及び「視野角」のみに着目した議論を行い、高い透明性と高い映像表示性の両立(バランスの向上)については何ら検討していない。また、本件審決が「一般に、光散乱体と周りの樹脂との屈折率が高いほど光は散乱されやすく、逆に屈折率差が小さいほど散乱されにくい。」と述べた上で「本願の例5においては、樹脂の屈折率が比較的高く、そのため樹脂よりも高屈折率である希土類燐酸塩微粒子との屈折率差が例1~4に比較して相対的に低くなり、その結果として光の散乱能が比較的小さくなり、本願明細書等に記載の『拡散率』と『視野角』という指標において劣ることとなったことは、理論どおりであって、当業者は容易に推察できるのであって、当該実験結果は何ら驚くべきことでない。」とした判断は、それ自体誤りである。なぜなら、引用文献1の実施例1~15は、本件審決が根拠とする上記「一般に、光散乱体と周りの樹脂との屈折率が高いほど光は散乱されやすく、逆に屈折率差が小さいほど散乱されにくい。」とは逆の結果を示しているからである。すなわち、引用文献1はリン酸イットリウム、リン酸ガドリニウム、又はリン酸ランタンからなる光散乱粒子を含む熱可塑性樹脂シートを製造した実施例1~15(段落[0052]~[0060])を開示しており、そのうち実施例1~5はポリカーボネート樹脂を、実施例6~10はアクリル樹脂(商品名:「パラペットEH」)を、実施例11~15はポリエチレンテレフタレート樹脂をそれぞれ用いたものである。各熱可塑性樹脂の屈折率は、ポリカーボネート樹脂が1.59(甲2の段落[0091]1文目、甲19の段落【0013】)、アクリル樹脂(商品名:「パラペットEH」)が1.49(甲20物性表1上部)、ポリエチレンテレフタレート樹脂が1.65(甲19の段落【0013】)であり、小さい順にアクリル樹脂<ポリカーボネート樹脂<ポリエチレンテレフタレート樹脂である。基材樹脂の屈折率とヘーズの関係を見ると、基材樹脂の屈折率が大きいほどヘーズは大きくなっている。これは、本件審決のいう「一般に、光散乱体と周りの樹脂との屈折率 が高いほど光は散乱されやすく、逆に屈折率差が小さいほど散乱されにくい。」という「理論」とは逆の結果である。なぜなら、屈折率は、小さい順にアクリル樹脂(1.49)、ポリカーボネート樹脂(1.59)、ポリエチレンテレフタレート樹脂(1.65)であり、「光散乱体と周りの樹脂との屈折率(差)が高い」のもこの順番だから、本件審決が述べる理論によればヘーズはアクリル樹脂が最も大きく、次いでポリカーボネート樹脂が2番目に大きく、ポリエチレンテレフタレート樹脂が最小という順番となるはずである。しかし、実際にはこれとは真逆となっている。引用文献1の表1が本件審決のいう「理論」の真逆の結果を開示しているのだから、本願優先日当時において当業者は本願発明の構成が奏する効果を当該「理論」に基づき予測することはできなかった。以上の次第であるから、「熱硬化性樹脂」に代えて「活性エネルギー線硬化性樹脂」を用いた、あるいは「熱可塑性樹脂」に代えて「活性エネルギー線硬化性樹脂」を用いた本願発明における「高い透過視認性(高い透明性)と投影表示される映像が鮮明に見えること(高い映像表示性)という、相反する特性」を「両立」できるという効果は、予測できない顕著な効果である。エ なお、屈折率については、次のとおりである。

① 本願明細書の段落【0123】~【0124】に記載された各樹脂の

うち、(A1-1)、(A1-2)及び(A1-3)の屈折率はいずれも1.5であり、(A1-4)の屈折率は1.49であり、(A1-5)の屈折率は1.60である。

② 本願明細書の段落【0125】に記載された燐酸イットリウムの屈折

率は、1.8である。

⑵ 本願発明の効果2

本願発明には、本願発明の効果1とは別に、耐湿熱性に優れるという効果がある。すなわち、本願明細書等の表1の「評価結果」の「耐湿熱性」に着目すると、本願発明の実施例(活性エネルギー線硬化性樹脂)である例1~4は分類0又は分類1であるのに対し、比較例である例5(熱硬化性樹脂)は分類3である。ここで「耐湿熱性」は、本願明細書等の段落【0122】に記載のとおり、「湿熱処理後の碁盤目試験」 に基づき分類0~分類5までの6段階で評価される。最高評価である分類0は「カットの縁が完全に滑らかで、どの格子の目にも剥れがない。」ことを示し、次に良い評価である分類1は「カットの交差点における塗膜の小さな剥れ。クロスカット部分で影響を受けるのは、明確に5%を上回ることはない。」ことを示す。他方、低評価の部類に入る分類3は「塗膜がカットの縁に沿って、部分的又は全面的に大剥れを生じており、及び/又は目のいろいろな部分が、部分的又は全面的に剥れている。クロスカット部分で影響を受けるのは、明確に15%を超えるが35%を上回ることはない。」ことを意味する。この点につき、実施例(例1~4)に対して、比較例(例5)の「耐湿熱性」は大きく劣る。この本願発明の効果は、本願優先日当時に、本願の構成が奏するものとして当業者が予測できた効果と比較して、予測できない顕著な効果である。なぜなら、本願優先日当時、活性エネルギー線硬化性樹脂の短所として、「一般的に付着性が不十分」(甲4の451頁表8「短所」d))であり、プラスチックへの密着性低下を招くこと(甲5の455頁左欄)が指摘されており、当業者は、引用文献1に基づく引用発明の樹脂を「活性エネルギー線硬化性樹脂」としたときは「湿熱処理後の碁盤目試験」において熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂を用いた場合と比して劣った結果となるはずと予測するはずである。しかしながら、当該予測に反し、本願発明の実施例(活性エネルギー線硬化性樹脂)である例1~4は、比較例である例5(熱硬化性樹脂)に対して、圧倒的な好成績を収めているのであって、これは予測できない顕著な効果である。〔

(被告の主張)

〕

⑴

(原告の主張)

する本願発明の効果1についてア 効果1は特定の実施例に基づく効果であって、本願発明の効果ではないこと光の散乱には、屈折率の空間分布が影響するのであって、微粒子の周りの物質が熱可塑性樹脂であるか光硬化性樹脂であるか自体は、散乱現象に対して直接的に影響するものではなく、原告のいう顕著な効果は、実施例1~4の比較例5に比較しての効果であって、a)樹脂と微粒子の屈折率の差やb)微粒子の大きさ(代表値及び粒径分布の指標)を捨象した本願発明の範囲にまで、本願発明が奏する効果として拡張できるものとはいえない。例えば、原告が主張する効果1は、活性エネルギー線硬化性樹脂として実施例1~4(例1~例4)の多官能ポリ(メタ)アクリレート系樹脂のうちの特定の製品を用いたものを、熱硬化性樹脂として比較例5(例5)の非晶性ポリエステル樹脂のうちの特定の製品を用いたものと比較した場合のものであって、あらゆる活性エネルギー線硬化性樹脂を含む本願発明の効果であるとはいえない。したがって、原告主張の顕著な効果は、本願発明の効果でなく、本件審決が「さらに、相違点1、2を総合的に勘案しても、本願発明が奏する効果としては、当該構成のものとして当業者が予測・発見困難であり、かつ、格別顕著な効果を認めることはできない」と判断したことに誤りはない。イ 追加の実験例と欧州における対応出願(ア)a 追加の実験例が提供されたところで、前記アの議論に変更はないから、本件審決の判断に誤りはない。b 光散乱においては、散乱体となる微粒子の大きさも大きな要因となり、微粒子が凝集して二次粒子を形成することの有無及びその程度も光散乱の程度に影響するところ、粒子分散系にはできあがったときの状態がいつまでも継続することが難しく、微粒子が凝集することがある(乙27「トコトンやさしい粒子分散の本」の24~25頁参照)。例1~例4と例5(本願明細書等)とAd(甲16追加実験で熱可塑性樹脂を用いたフィルム(2))において、二次粒子の形成の有無及びその程度が明らかにされていないから、実験結果の解釈を正確にすることができない。したがって、Adを追加した実験結果を根拠として進歩性を主張することは、不当である。c また、仮に、追加の実験例の存在により、効果の顕著性の評価が変更されるとしたならば、当該実験の追加は、本願明細書等の開示を実質的に変更するものとなるから、当該実験例の追加に基づく主張は、許容されるべきではない。(イ) 欧州での審査状況は特許請求の範囲が異なり参考とならない。原告は「追試験結果は、本願の欧州対応出願(欧州特許出願第19881677.9号)の審査過程で原告が提出したものであり(甲17)欧州ではその後特許が付与されることが確実な状況となっている」と主張する。しかしながら、欧州対応出願では、「樹脂が多官能性(メタ)アクリレートである点」が特定されており、活性エネルギー線硬化性樹脂であればおよそどのような樹脂であっても良い本願発明とは、前提となる特許請求の範囲が異なることから、参考とならない。(なお、前記アで述べたように、原告主張の効果は、上記特定の範囲においても、その効果と認められないこと、「光学用樹脂」の技術分野において、分散用のバインダ樹脂として、多官能性(メタ)アクリレートは、周知の選択肢であること(例えば、乙17【0037】、乙18【0044】~【0047】参照)に鑑みると、上記特定をしたとしても、依然として進歩性は認めがたい。)ウ 本件審決は

(原告の主張)

を正解していないとの主張は失当であること(ア) 原告は、審判請求書及び意見書において、次のとおり説明していた。「本願明細書実験例の例1~4と例5とを比較すると、活性エネルギー線硬化性樹脂を用いることにより、透明性(全光線透過率)は同等でありながら、拡散率及び視野角がプロジェクションスクリーンとしてより優れた値になることが分かります(段落0111、0113~0115、0123~0134、0140、表1)。」(イ) 本件審決は、上記(ア)の原告の説明、及び、例1~4と例5は透明性(全光線透過率)の観点で同等であることを踏まえて、結果が異なる「拡散率及び視野角」に注目して、その予測・発見困難性を評価したのであるから、審決の判断は正当であり、本件審決は

(原告の主張)

を正解していないとの主張は失当である。エ 本件審決のいう理論は誤っておらず、審決の説示は正当であること(ア) 審決が判断の前提としたことは誤っていないことa 電磁気学の基本法則から導かれるものであるから誤っていないこと審決が「一般に、光散乱体と周りの樹脂との屈折率差が大きいほど光は散乱されやすく、逆に屈折率差が小さいほど散乱されにくい」と述べたことに誤りのないことは電磁気学の基本法則から導かれるものであるから、誤りはない。b 引用文献1(甲1)の表1に示された事項は反証にならないこと「透明樹脂」といっても、微粒子を取り囲む樹脂自体もミクロに見ると均一ではないから、完全な透明ではなく、光散乱性を有している。例えば、アクリル系樹脂のポリメチルメタクリレート(PMMA)は透明樹脂の中でも最も透明度が高く(「トコトンやさしいプラスチック材料の本」(乙28)42、43頁)、ポリカーボネート(PC)はPMMAに次ぐ透明性を有している((乙28)48、49頁)。原告は、引用文献1(甲1)の樹脂の屈折率は、ポリカーボネート樹脂(以下「PC」という。)が1.59、アクリル樹脂(以下「PMMA」という。)が1.49、ポリエチレンテレフタレート樹脂(以下「PET」という。)が1.65であり、屈折率は小さい順にPMMA<PC<PETであるところ、ヘーズも小さい順にPMMA<PC<PETとなっており、審決がいう「一般に、光散乱体と周りの樹脂との屈折率差が大きいほど光は散乱されやすく、逆に屈折率差が小さいほど散乱されにくい」とは逆の結果を示していると主張するが、PMMAは透明樹脂の中でも最も透明度が高く、PCはPMMAに次ぐ透明性を有していることを考慮すれば、引用文献1(甲1)の表1の実験結果、すなわち、PET>PC>PMMAの順に散乱効果(ヘイズ値)が大きいことは、理解できないことではない。仮にこのような実験結果の解釈が正しくないとしても、「一般に、光散乱体と周りの樹脂との屈折率差が大きいほど光は散乱されやすく、逆に屈折率差が小さいほど散乱されにくい。」ということは電磁気学の基本法則から導かれるものであるから、誤りはなく、引用文献1(甲1)の表1の実験結果は、例えば光散乱体の二次粒子の形成の有無やその程度など、他の要因の影響を考えるべきであり、屈折率差が大きいほど散乱が大きくなること自体は誤りではない。(イ) 実験例の屈折率の事実認定a 原告は次のとおり主張する。「① 本願明細書の段落【0123】~【0124】に記載された各樹脂のうち、(A1-1)、(A1-2)及び(A1-3)の屈折率はいずれも1.5であり、(A1-4)の屈折率は1.49であり、(A1-5)の屈折率は1.60である。

② 本願明細書の段落【0125】に記載された燐酸イットリウム

の屈折率は、1.8である。」b 被告は、上記原告の説明する事実について争わない。c 前記aの事実は、審決の7(3)イにおいて、甲6に基づいて認定した技術常識2、及び、甲7、8を用いて、(A1-5)の屈折率を1.60、(A1-1)から(A1-3)の屈折率を1.54以下、(A-4)の屈折率を1.49と認定した事実と合致するものであり、審決の上記事実認定に誤りはない。d 技術常識2の認定は必要なくなったので、被告は追加の立証は行わない。(ウ) 請求人が顕著な効果として主張する効果の予測困難性の否定の妥当性繰り返しになるが、審決が「一般に、光散乱体と周りの樹脂との屈折率差が大きいほど光は散乱されやすく、逆に屈折率差が小さいほど散乱されにくい」と述べたことに誤りはなく、審決が認定した実験例の屈折率の事実関係についても誤りはない。そして、光の散乱には、散乱体となる粒子の大きさも重要な要素であるところ、本願明細書等には段落【0125】に平均粒子径の記載はあるものの二次粒子の有無についての開示がなく、段落【0130】~【0134】記載の塗料の混合攪拌に関する限られた記載からは、二次粒子の形成の有無については、各実験例で共通すると推測するのは妥当なことである。そうすると、本願明細書等の開示する実験結果について、本件審決が「例5においては、樹脂の屈折率が比較的高く、そのため樹脂よりも高屈折率である希土類燐酸塩微粒子との屈折率差が例1~4に比較して相対的に低くなり、その結果として光の散乱能が比較的小さくなり、本願明細書に記載の「拡散率」と「視野角」という指標において劣ることとなったことは、理論どおりであって、当業者は容易に推察できるのであって、当該実験結果は何ら驚くべきことでない。」と判断したことに誤りはない。(エ) まとめ前記(ア)から(ウ)のとおりであるから、

(原告の主張)

に根拠はなく、本件審決が、「前記(3)において検討したとおり、請求人が顕著な効果として主張する効果は、予測困難な効果ではない」と判断したことに誤りはなく、

(原告の主張)

は失当である。オ 仮に予測困難な効果あったとしても顕著な効果でないこと(ア) 大審院昭和6年6月24日判決(昭和5年(オ)1293号)が示すとおり、たとえ本願発明の構成が奏するものとして予測困難な効果があったとしても、当該構成に想到することが極めて容易である場合には、進歩性を認めないことは妥当であって、このような場合には、「構成の想到容易性があっても進歩性を認めるべきほどの顕著な効果」とはいえないとして、効果の顕著性は否定されるべきである。(イ) ここで、本件審決が周知技術1として認定したことに誤りはなく、当該周知技術に照らせば、光散乱体である微粒子と透明樹脂からなるスクリーンにおいて、透明樹脂としては、熱可塑性樹脂だけでなく光硬化性樹脂や電離放射線硬化樹脂も用いることができることは自明の選択肢であって、極めて容易であるから、効果の予測困難性を考慮するまでもなく、本願発明は当業者が容易に想到し得たものである。(ウ) したがって、本件審決が、本願発明が奏する効果として、「当該構成のものとして当業者が予測・発見困難であり、かつ、格別顕著な効果」を認めることはできないと判断した上で、「したがって、本願発明は、引用発明及び周知技術1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである」と判断したことに誤りはない。

⑵ 効果2について

ア 効果2は実施例に基づく効果であって、本願発明の効果ではないこと本願明細書等の段落【0141】の【表2】をみると、例12は、基材樹脂として、実験例1と同じエネルギー線硬化性樹脂を使用しており、本願発明の実施例であるにもかかわらず、分類5になっている。分類0とか分類1が得られるのは、実施例1~4の効果であるとはいえたとしても、本願発明の効果ではない。すなわち、耐湿熱性に優れるとの効果が読み取れたとしても、当該効果は、実施例1~4の効果にすぎず、本願発明の効果に拡張できるものではない。したがって、本件審決の判断に誤りはなく、

(原告の主張)

は失当である。イ 予測困難な効果を検討するまでもなく、顕著な効果でないこと仮に、原告主張の効果2が予測困難な効果であったとしても、前記と同様の理由により、本件審決の判断に誤りはない。

5 取消事由5(審判手続の瑕疵)

〔

(原告の主張)

〕

⑴ 予測できない顕著な効果に関する審判手続の瑕疵

取消事由4で論じたとおり、予測できない顕著な効果に関する本件審決の認定には多数の誤りがあるが、これは審査及び審判手続の経過における手続的不備に起因するものである。すなわち、本願の審査官は令和5年6月22日付け拒絶理由通知書(甲10)では本願発明の効果につき言及せず、原告は同年8月14日付け意見書(甲11)で「活性エネルギー線硬化性樹脂を用いることにより、高い透明性と高い映像表示性とのバランスが向上すること、及び視野角が広くなることが実証されてい」ることを予測できない顕著な効果として主張したが、本件拒絶査定(甲12)では予測できない顕著な効果に係る言及は一切なされなかった(形式的な「予測できない顕著な効果を奏するとは認められない」との言及すらなかった)。そこで原告は同年12月19日付け審判請求書(甲13)に、以上の経緯を指摘した上で、同年8月14日付け意見書と同旨の予測できない顕著な効果の主張を行ったが、令和6年3月28日付け前置報告書(甲14)では予測できない顕著な効果に係る言及は一切なされなかった(形式的な「予測できない顕著な効果を奏するとは認められない」との言及すらなかった)。結果的に、予測できない顕著な効果に関する判断が本件審決において初めて示されるに至り、原告には審査段階及び審判段階において本件審判の判断の各誤謬を指摘する機会が与えられなかった。特許法153条2項は、当事者等が申し立てていない理由につき審理したときは審理の結果を当事者等に通知して意見を申し立てる機会を与えなければならないことを規定している。その趣旨は、自己に不利な材料が知らない間に審判官の手元に集められ、何ら弁明の機会を与えられないうちに審判官の心証形成の基礎となるという不利益が生じるのを防ぐためである。審判事件の合議体は本件審決において予測できない顕著な効果に関して原告に不意打ちとなる判断を示したものであり、本件審決が特許法153条2項の趣旨に反することは明らかである。また、審判事件の合議体は、新たに職権で引用文献4(甲4)、引用文献5(甲5)、引用文献6(甲6)、特開2004-42328号公報(甲7)及び南有紀外3名「ジルコニアナノ粒子含有ポリアクリレート薄膜の作製とその光学特性」高分子論文集67巻7号(2010)(甲8)を取り調べた。これらに基づき、合議体は、ポリウレタンアクリレートの屈折率に関する技術常識2及び「KAYARAD DPHA」の屈折率を認定し、予測できない顕著な効果に関する判断の基礎とした。特許法150条5項は「審判長は、第一項・・・の規定により職権で証拠調……をしたときは、その結果を当事者及び参加人に通知し、相当の期間を指定して、意見を申し立てる機会を与えなければならない。」と定めており、その趣旨は、当事者の知らない間に不利な証拠が集められ当事者の利益が害されるという事態を防ぐことにある。それにもかかわらず、原告は、甲4ないし8に関し、意見を申し立てる機会を与えられなかった。甲4ないし8は本件審決29頁~30頁「イ 請求人の主張する顕著な効果についての検討」における判断の根拠となる原告にとって不利な証拠であり、同箇所における本件審決の判断は原告にとって不意打ちである。本件審決の審判手続には、特許法150条5項違反の瑕疵がある。

⑵ 瑕疵の重大性

仮に審判事件の合議体が原告に審判段階で反論の機会を与えていたとすれば、原告は取消事由4で述べた内容を審判段階で提出することができ、その場合、本願発明が引用発明及び周知技術1に基づいて容易に発明をすることができたとの判断には至らなかったはずであることは、既に取消事由4で論じたとおりである。〔

(被告の主張)

〕

⑴ 特許法153条2項の趣旨等に照らして審決の判断に誤りはないこと

ア 特許法153条2項の趣旨について特許法153条2項は、審判において当事者が申し立てない理由について審理したときは、審判長は、その審理の結果を当事者に通知し、相当の期間を指定して、意見を申し立てる機会を与えなければならないと規定している。これは、当事者の知らない間に不利な資料が集められて、何ら弁明の機会も与えられないうちに心証が形成されるという不利益から当事者を救済するための手続を定めたものであると解される(特許庁総務部総務課制度審議室編「工業所有権法(産業財産権法)逐条解説」(乙29))。このような特許法153条2項の趣旨に照らすと、審判長が当事者に対し意見を申し立てる機会を与えなければならない「当事者が申し立てない理由」とは、新たな無効理由の根拠法条の追加、主要事実の差し替えや追加等、不利な結論を受ける当事者にとって不意打ちとなり予め告知を受けて意見を述べる機会を与えなければ手続上著しく不公平となるような重大な理由がある場合のことを指し、当事者が本来熟知している周知技術の指摘や間接事実及び補助事実の追加等の軽微な理由はこれに含まれないと解される。イ 特許法153条2項の下で何ら違法性はないこと(ア) 審決は間接事実を述べたにすぎないこと上記の規範をもとに検討すると、本決審決では、審査段階から、根拠法条である特許法29条2項、主要事実である引用発明の変更を行っていない。そして、審決が新たに提示した事実に関し、甲4及び5に関する事実は、当業者が本来熟知している技術常識という補助事実であり、甲6ないし8に関する事実は、市販されている樹脂製品の屈折率に関するもので、原告が行った実験についての設定条件ともいうべき樹脂の屈折率を明らかにするための間接事実であり、原告が当然に知っていてしかるべき事項又は当該技術分野で周知性が高く技術の理解の上で当然又は暗黙の前提となる知識である上(参考裁判例:平成20年(行ケ)10433号)、その認定にいずれも誤りはないから、前記アにおける規範に照らして特許法153条2項の趣旨に反しないことは明らかである。(イ) 請求人に証明責任があるので、不意打ちに当たらないこと前記(ア)の拒絶の理由に関し、原告は、審判請求書において光の散乱効果に関わる顕著な効果があることを主張しているから、拒絶の理由に対して、意見を述べる機会が与えられている。そして、「発明の構成が奏するものとして当業者が予測困難であること」を裏付けるに当たっては、効果を明確に定義してこれを明らかにするだけでなく、構成が明らかにされなければならないから、原告が行った実験についての散乱現象に直接影響する樹脂及びこれに分散された微粒子の屈折率は、効果の予測困難性を主張するに当たって出願人に証明責任がある事実であり、本来、明細書の発明の詳細な説明において開示されるべきものであり、原告が当然に知っていてしかるべき事項でもある。したがって、樹脂中及びこれに分散された微粒子の屈折率を明らかにした上で意見を述べる機会が原告に与えられていたといえ、それを怠ったのは原告であるから、本来請求人である原告が明らかにすべきことを明らかにして審理したことは不意打ちには当たらず、特許法153条2項の「当事者が申し立てない理由」にも当たらないことは明らかである。(ウ) 原告のいう効果は、本願発明の効果でなく、検討の必要がないこと既に述べたとおり、原告のいう顕著な効果は、あったとしても実施例1~4の比較例5に比較しての効果であって、かかる樹脂の特定がない本願発明の効果ではないから、そもそも進歩性の評価において考慮する必要のない効果である。したがって、実施例1~4の比較例5に比較しての効果についての検討は、進歩性の判断に影響を与えるようなものではないから、審理の過程に特許法153条2項の下での違法性はない。(エ) 相違点は極めて容易であり進歩性を肯定できないこと既に示したように、大審院昭和6年6月24日判決(昭和5年(オ)1293号)が示すとおり、たとえ発明の構成が奏するものとして予測困難な効果があったとしても、当該構成に想到することが極めて容易である場合には、進歩性がないと判断すべきであり、<構成の想到容易性があっても進歩性を認めるべきほどの顕著な効果>とはいえない。そして、最高裁判所昭和30年(オ)第101号同31年4月24日判決(裁判集民事21号853頁)は、効果について吟味するまでもなく、当業者であれば引用例から容易に実施できるという意味で構成に困難性がないことが明らかである事例については、効果の検討が必要ない旨判示している。本件審決が周知技術1として認定したことに誤りはなく、当該周知技術を踏まえると、光散乱体である微粒子と透明樹脂からなるスクリーンにおいて、透明樹脂としては、熱可塑性樹脂だけでなく光硬化性樹脂や電離放射線硬化樹脂も用いることができることは、当業者に自明の選択肢であり、極めて容易である。したがって、効果の予測困難性を検討するまでもなく、本願発明は当業者が容易に想到し得たものであり、効果について検討しなかったとしても違法性がないのであるから、実施例1~4の比較例5に比較しての効果についてどのように検討したとしても、「当事者が申し立てない理由」を審理したことにはならず、審理の過程に特許法153条2項の下での違法性はない。

⑵ 特許法150条5項の違反はないこと

ア 特許法150条5項の趣旨特許法150条5項の趣旨は、当事者の知らない間に、不利な証拠が集められ、当事者の利益が害されるという事態を防ぐためである(特許庁総務部総務課制度審議室編「工業所有権法(産業財産権法)逐条解説(乙30))。イ 特許法150条5項の下で何ら違法性はないこと(ア) 請求人に証明責任のあることを明らかにしたにすぎないこと前記のとおり、「発明の構成が奏するものとして当業者が予測困難であること」を裏付けるに当たっては、効果を明確に定義してこれを明らかにするだけでなく、構成が明らかにされなければならないから、原告が行った実験についての散乱現象に直接影響する樹脂及びこれに分散された微粒子の屈折率は、効果の予測困難性を主張するに当たって出願人に証明責任がある事実であり、本来、明細書の発明の詳細な説明において開示すべきものである。本件審決は甲4ないし8を示したところ、実施例1~4及び比較例5の屈折率の認定に誤りはなく、原告が当然に知っていてしかるべき事項であり、本来、明細書の発明の詳細な説明において開示すべき実験結果の設定条件を明らかにするために示したにすぎないことから、特許法150条5項における「証拠調」には該当しない。(イ) 相違点は極めて容易であり進歩性を肯定できないこと

(原告の主張)

する効果は本願発明の効果でなく、また、本願発明は効果の予測困難性を検討するまでもなく当業者が極めて容易に想到し得たものであるから、審理の過程に特許法150条5項に抵触する違法性はない。

第4 当裁判所の判断

1 本願明細書等の記載内容

⑴ 本願明細書等(甲9)には別紙審決書(写し)2ないし13頁に記載のほか、次のとおりの記載がある(下線は原文に付記)。「本発明者は、鋭意研究した結果、特定の塗料により、上記課題を達成できることを見出した。」(段落【0005】)「上記成分(A1)のゲル浸透クロマトグラフィー(以下、『GPC』と略すことがある。)により測定した微分分子量分布曲線(以下、『GPC曲線』と略すことがある。)から算出したポリスチレン換算の質量平均分子量(Mw)は、上記成分(B)を良好に分散し、形成される塗膜の表面外観を良好にする観点から、好ましくは1千以上、より好ましくは2千以上、更に好ましくは3千以上、最も好ましくは4千以上であってよい。一方、上記成分(A1)を含む塗料の塗工性の観点から、好ましくは10万以下、より好ましくは7万以下、更に好ましくは5万以下であってよい。」(段落【0041】)「上記成分(A1)のGPC曲線から算出したポリスチレン換算のZ平均分子量(Mz)は、上記成分(B)を良好に分散し、形成される塗膜の表面外観を良好にする観点から、好ましくは2千以上、より好ましくは4千以上、更に好ましくは6千以上、最も好ましくは8千以上であってよい。一方、上記成分(A1)を含む塗料の塗工性の観点から、好ましくは20万以下、より好ましくは15万以下、更に好ましくは12万以下であってよい。」(段落【0042】)「上記成分(B)の平均粒子径は、塗膜の透明性を保持する観点から、通常20μm以下、好ましくは10μm以下、より好ましくは6μm以下、更に好ましくは3μm以下、最も好ましくは1μm以下であってよい。一方、映像コンテンツを鮮明に投影表示することができるようにする観点から、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.05μm以上、更に好ましくは0.08μm以上であってよい。」(段落【0048】)「(C)シランカップリング剤:上記成分(C)シランカップリング剤は、加水分解性基(例えば、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;アセトキシ基等のアシルオキシ基;クロロ基等のハロゲン基;など)、及び有機官能基(例えば、ビニル基、エポキシ基、メタクリロキシ基、アクリロキシ基、アミノ基、メルカプト基、イソシアネート基、ウレイド基、及びイソシアヌレート基など)の少なくとも2種類の異なる反応性基を有するシラン化合物である。上記成分(C)は、上記成分(A)と上記成分(B)との混和性を高め、ひいては光拡散性塗料から形成される塗膜(光拡散層)の表面外観、耐湿熱性を向上させる働きをする。」(段落【0053】)「(D)イソシアネート基とイソシアネート基以外の重合性官能基を有する化合物:上記成分(D)イソシアネート基とイソシアネート基以外の重合性官能基を有する化合物は、1分子中に1個以上のイソシアネート基(-N=C=O)を有し、かつ1個以上のイソシアネート基以外の重合性官能基を有する化合物である。なお本明細書において、多官能(メタ)アクリレート又は多官能ポリ(メタ)アクリレートであって、イソシアネート基を有する化合物は、上記成分(A)ではなく、上記成分(D)に分類されるものとする。上記成分(D)は、上記成分(A)と上記成分(B)との混和性を高め、ひいては光拡散性塗料から形成される塗膜(光拡散層)の表面外観、耐湿熱性を向上させる働きをする。」(段落【0067】)

⑵ 以上によれば、本願発明につき、以下の事実が認められる。ア 背景技術と発明が解決しようとする課題、課題を解決するための手段従来、透明性を有するプロジェクションスクリーン用フィルムには高い透過視認性(高い透明性)と投影表示される映像が鮮明に見えること(高い映像表示性)という相反する特性の両立などが求められるが十分に満足できるものではなかったところ(段落【0002】)、本願発明は、高い透明性と高い映像表示性とのバランスに優れたプロジェクションスクリーンを得ることのできる塗料等を提供することを課題とし(段落【0004】)、その構成を「(A)活性エネルギー線硬化性樹脂 100質量部;及び、(B)希土類燐酸塩微粒子 0.1~50質量部;を含むプロジェクションスクリーンの光拡散層形成用塗料」(前記第2の2、特許請求の範囲、請求項1)とすることで、その課題を解決できたもの(段落【0005】)としている。イ 特許請求の範囲記載の成分(A)及び成分(B)に関し上記成分(A)基材樹脂は、上記成分(B)希土類燐酸塩微粒子を包含し、塗膜を形成する働きをするものであり(段落【0022】)、「上記成分(A)中に上記成分(B)を良好に分散させる観点;光拡散層の厚みを均一にし、映像表示性を均一に発現させる観点;及び、プロジェクションスクリーンが物理的な衝撃を受けたとしても、光拡散層の厚みが変化して映像表示性の均一さが損なわれるのを抑制することができるようにする観点から;活性エネルギー線硬化性樹脂及び熱硬化性樹脂などの硬化性樹脂が好まし」く(段落【0023】)、「上記硬化性樹脂としては、高い透明性と高い映像表示性とのバランスをより優れたものにする観点から、上記活性エネルギー線硬化性樹脂が好ましく、多官能(メタ)アクリレートがより好ましく、多官能ポリ(メタ)アクリレートが更に好ましい」(段落【0028】)とされるとともに、分子量は「成分(B)を良好に分散し、形成される塗膜の表面外観を良好にする観点」や「塗料の塗工性の観点」から設定される(段落【0041】、【0042】)。また、「成分(B)希土類燐酸塩微粒子」については、「プロジェクションスクリーンの光拡散層に入射した光を散乱し、映像コンテンツを鮮明に投影表示することができるようにする働きをする」ものであって(段落【0046】)、「高い屈折率と高いアッベ数を有しており、また屈折率の波長依存性が小さいことから、視野角が広く、色収差の生じ難い(色収差が十分に小さい)プロジェクションスクリーンを得ることができる」とともに「白色透明であるため、色味のないプロジェクションスクリーンを得ることができ」(段落【0047】)、また、その平均粒子径や成分(A)100重量部に対する配合量は、「塗膜の透明性を保持する観点」や「映像コンテンツを鮮明に投影表示することができるようにする観点」から設定される(段落【0048】、【0052】)。ウ 実施例実施例に具体的に開示されたものとして、(A)活性エネルギー線硬化性樹脂及び(B)希土類燐酸塩微粒子を用いた例(例1~4、6~12)、熱硬化性樹脂及び(B)希土類燐酸塩微粒子を用いた例(例5)について、全光線透過率、ヘーズ、拡散率、視野角、色収差、黄色度指数、鉛筆硬度、表面外観、マンドレル試験、耐カール性、耐湿熱性を測定し、また、(A)活性エネルギー線硬化性樹脂及び酸化ジルコニウム微粒子を用いた例(例13)について全光線透過率、ヘーズ、拡散率を測定したところ(段落【0130】~【0142】)、本願発明の塗料を用いて光拡散層を形成されたプロジェクションスクリーン用フィルムは、映像表示性に優れ(拡散率が高く)、透明性が高く、視野角が広く、色収差が生じ難く、色味のない(黄色度指数が小さい)ものであった(段落【0143】)とされている。

⑶ 前記⑵によれば、本願発明は、プロジェクションスクリーンの光拡散用形成用塗料に関する発明であり、近年、透過視認性を有する媒体に、透明性を有するプロジェクションスクリーン用フィルムを貼合し、通常は透過視認性を維持しつつ、所望のときに、上記プロジェクションスクリーン用フィルムに映像コンテンツを投影表示することが行われており、このような使用をするためのプロジェクションスクリーン用フィルムには、高い透過視認性(高い透明性)と投影表示される映像が鮮明に見えること(高い映像表示性)という、相反する特性の両立が求められていたが、更に投影表示される映像を鮮明に見ることのできる角度(プロジェクションスクリーンを見る角度)が広いこと(広い視野角)、投影表示される映像に色収差が生じないこと、及びプロジェクションスクリーン用フィルムそのものに色味のないことなども求められるところ、上記のような使用をするためのものとしては、十分に満足できるものではなかった。本願発明は、上記の高い透明性と高い映像表示性とのバランスに優れたプロジェクションスクリーンを得ることのできる塗料等を提供することを課題とし、活性エネルギー線硬化性樹脂及び希土類燐酸塩微粒子の組合せとすることにより、塗布して光拡散層を形成したときに、他の樹脂(熱硬化性樹脂)や他の微粒子(酸化ジルコニウム微粒子)と組み合わせた場合よりも高い透明性と高い映像表示性とのバランスに優れたプロジェクションスクリーンを得ることのできる塗料としたものと解される。

2 引用発明の内容⑴ 引用文献1(甲1)は、発明の名称を「光散乱シート」としたもので、請求の範囲の請求項1には、「樹脂中に光散乱粒子が分散された樹脂成形体からなり、前記光散乱粒子は希土類リン酸塩の粒子であり、前記樹脂成形体の単位体積当たりの前記光散乱粒子の表面積が0.600m2/cm3以下である、光散乱シート」が記載されている。⑵ 引用文献1(甲1)の明細書には、別紙審決書(写し)14ないし17頁に記載のほか、次のとおりの記載がある。「本発明の光散乱シート(光散乱体)においては、それに含まれる光散乱粒子の表面積を制御して該光散乱シート(光散乱体)の光散乱性を高めることが好ましい。詳細には、本発明の光散乱シート(光散乱体)に含まれている個々の光散乱粒子の表面積の総和と、該光散乱粒子が樹脂中に分散された樹脂成形体の単位体積とを、特定の関係に設定することが光散乱性の向上の点から有利であることが本発明者の検討の結果判明した。具体的には、樹脂成形体の単位体積当たりの光散乱粒子の表面積(すなわち個々の光散乱粒子の表面積の総和)を0.600m2/cm3以下に設定することが好ましく、0.500m2/cm3以下に設定することが更に好ましく、0.150m2/cm3以下に設定することが一層好ましい。また、樹脂成形体の単位体積当たりの光散乱粒子の表面積を、0.001m2/cm3以上に設定することが好ましく、0.01m2/cm3以上に設定することが更に好ましく、0.015m2/cm3以上に設定することが更に好ましい。特に、樹脂成形体の単位体積当たりの光散乱粒子の表面積を、0.001m2/cm3以上0.600m2/cm3以下に設定することが好ましく、0.01m2/cm3以上0.500m2/cm3以下に設定することが更に好ましく、0.015m2/cm3以上0.150m2/cm3以下に設定することが一層好ましい。以下の説明においては、樹脂成形体の単位体積当たりの光散乱粒子の表面積のことを便宜的に『単位体積表面積』ともいう。」(段落[0017])「単位体積表面積を上述の範囲に設定することで、本発明の光散乱シート(光散乱体)の光散乱性の向上が図られる。また、単位体積表面積をこの範囲に設定することで、光散乱シート(光散乱体)の着色、特に黄変(黄色に変色する)の発生が防止されるという付加的な効果も奏されることが本発明者の検討の結果判明した。更に詳細には、光散乱粒子として希土類リン酸塩の粒子を用いると、その他の無機物質を用いた場合に比べて光散乱シート(光散乱体)の光散乱性が向上するものの、表面活性が高いことに起因して、樹脂の種類や、光散乱粒子の粒径及び比表面積によっては樹脂が分解されてしまい、光散乱シート(光散乱体)に黄変が生じることがある。この黄変の発生は本発明者が初めて見出したものであるところ、単位体積表面積を上述の範囲に設定することで、光散乱シート(光散乱体)の光散乱性を高めつつ、黄変が発生することを効果的に防止し得ることを本発明者は見出した。」(段落[0018])「本発明の光散乱シートを得るためには、例えば溶融状態の樹脂に希土類リン酸塩の粒子からなる光散乱粒子を練り込むか、又は付着させたペレットを製造し、このペレットを原料として、インフレーション法やTダイ法等の公知のシート成形方法によって成形すればよい。ペレットの作製においては、該ペレット中に光散乱粒子及び樹脂以外の他の成分を配合させ、当該他の成分も含む光散乱シートを製造してもよい。他の成分としては、光散乱シートの各種の特性を向上させ得る添加剤、例えば光散乱粒子を高分散させる分散剤としてシリコーンオイルなどが挙げられる。」(段落[0043])「〔実施例1〕本実施例では、リン酸イットリウムからなる光散乱粒子を含む樹脂シートを製造した。製造の手順は以下に述べるとおりである。ガラス容器1に水600gを計量し、60%硝酸(和光純薬工業社製)61.7g、Y2O3(日本イットリウム社製)18.8gを添加し、80℃に加温して溶解させた。別のガラス容器2に水600g、85%リン酸18.8gを添加した。・・・」(段落[0053])「全質量に対して1%の前記光散乱粒子と、ポリカーボネート樹脂ペレット(住化スタイロンポリカーボネート製、301-22)と、全質量に対して1%のシリコーンオイル(信越化学工業製、KF96-50)とをブレンドして、ポリカーボネート樹脂ペレットの表面に光散乱粒子を固着させた。このペレットを原料としてTダイ押出成形機((株)プラスチック工学研究所製、GT-20-A)を用いて成形を行い、厚さ100μmの光散乱シートを作製した。」(段落[0054])「〔実施例2〕実施例1において、焼成温度を1000℃にした以外は実施例1と同様にしてリン酸イットリウムからなる光散乱粒子を得た。その後は実施例1と同様にして光散乱シートを得た。」(段落[0055])「〔実施例3〕実施例1において、焼成温度を1400℃にした以外は実施例1と同様にしてリン酸イットリウムからなる光散乱粒子を得た。その後は実施例1と同様にして光散乱シートを得た。」(段落[0056])「〔実施例4〕本実施例では、リン酸ガドリニウムからなる光散乱粒子を含む樹脂シートを製造した。実施例1において、Y2O3に代えてGa2O3を30.2g用いた。これ以外は実施例1と同様にしてリン酸ガドリニウムからなる光散乱粒子を得た。その後は実施例1と同様にして光散乱シートを得た。」(段落[0057])「〔実施例5〕本実施例では、リン酸ランタンからなる光散乱粒子を含む樹脂シートを製造した。実施例1において、Y2O3に代えてLa2O3を27.1g用いた。これ以外は実施例1と同様にしてリン酸ランタンからなる光散乱粒子を得た。その後は実施例1と同様にして光散乱シートを得た。」(段落[0058])「〔実施例6ないし10〕実施例1ないし5において、樹脂としてポリカーボネート樹脂を用いる代わりにアクリル樹脂(クラレ社製、パラペットEH)を用いた。全質量に対する光散乱粒子の割合は実施例1ないし5と同様にした。これ以外は実施例1ないし5と同様にして光散乱シートを得た。」(段落[0059])「〔実施例11ないし15〕実施例1ないし5において、樹脂としてポリカーボネート樹脂を用いる代わりにポリエチレンテレフタレート樹脂(帝人社製、TRN-MTJ)を用いた。全質量に対する光散乱粒子の割合は実施例1ないし5と同様にした。これ以外は実施例1ないし5と同様にして光散乱シートを得た。」(段落[0060])「」 ( 段 落 [0070] )「表1に示す結果から明らかなとおり、各実施例で得られた光散乱シートは、光透過性及び光散乱性が高く、且つ黄変度が低いものであることが分かる。これに対して、比較例1の光散乱シートは、光透過性は高いものの光散乱性が低く、黄変度も高くなっている。これは、単位体積表面積が高いため、光散乱性の低下及び光散乱シートの着色、特に黄変の発生を抑制できなかったと考えられる。光散乱粒子として酸化ジルコニウム粒子を用いた比較例2又は4の光散乱シートは、黄変度は低いものの、光透過性と光散乱性とが両立しなかった。光散乱粒子として酸化チタン粒子を用いた比較例3又は5の光散乱シートは、黄変度は高く、且つ光透過性と光散乱性とが両立しなかった。従って、本発明の光散乱シートは、透明スクリーン用途として有用であることが判る。」(段落[0071])⑶ 上記⑴、⑵によれば、引用文献1には、その背景技術として、透明な樹脂中に無機粒子が含有されてなる光散乱シートには、透明性を確保しつつ光散乱性に優れる特性が求められているところ(段落[0002])、先行技術文献の光拡散フィルムは満足すべき光散乱性を有するものではないこと(段落[0005])が記載され、よって、引用文献1に記載の発明は、高い光散乱性を有する光散乱シートを提供することを課題としたものであること(段落[0006])が記載されている。そして、その発明を実施するための形態として、以下の事項が記載されている。まず、光散乱シートをはじめとする光散乱体で用いられる樹脂については、透明性の高いこと、無色であること、特に、無色透明であることが好ましく、「このような特性を有する限りにおいて樹脂の種類に特に制限はなく、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂のいずれを用いてもよい。シートやフィルムへの成形の容易さの点からは、熱可塑性樹脂を用いることが有利である」ことや(段落[0010])、その配合量は光散乱シート(光散乱体)の透明性、保形性及び取り扱い性を高める観点から好適な範囲のあること(段落[0016])が記載されている。一方、光散乱粒子は、樹脂シート等の樹脂成形体の内部に均一に分散した状態で配置されたり、基材の表面に設けられたコート層からなる樹脂成形体の内部に均一に分散した状態で配置されたりして、該樹脂シートや該コート層に入射した光に散乱を生じさせるものであり(段落[0009])、上記樹脂と組み合わせて用いられる希土類リン酸塩の粒子は、従来知られていたジルコニア粒子やチタニア粒子に比べて、光透過性を維持した状態で樹脂中に高充填が可能であり、そのことに起因して、従来品よりも光散乱体に含まれる光散乱粒子の数を増加させることが可能となり、その結果、光散乱性を従来よりも高めることができるものであること(段落[0012])、配合量は光散乱性の観点から好適な範囲のあること(段落[0016])、単位体積表面積の範囲の設定は光散乱性の向上が図られるほか光散乱シート(光散乱体)の着色、特に黄変の発生が防止されるという付加的な効果の奏されるものとなること (段落[0018])が記載されている。また、光散乱シートは、例えば、溶融状態の樹脂ペレットに光散乱性粒子を練り込むか付着させたペレットを公知のシート成形方法により成形して得られること(段落[0043])や、基材の表面に光散乱体の一実施形態である光散乱層(コート層)を配置させた光散乱部材は、「例えば、有機溶媒とバインダ樹脂と光散乱粒子とを混合してコート液を作製し、該コート液をローラーやスプレーガン等を用いて基材の表面に塗工又は塗布すればよ」いこと(段落[0044])が記載されている。そして、実施例には、表面に光散乱粒子を固着した樹脂ペレットをTダイ押出成形機により成形して光散乱シートを作製しており、熱可塑性樹脂及び所定の単位体積表面積の希土類リン酸塩の粒子を組合せたもの(実施例1~15)は、希土類リン酸塩の単位体積表面積が範囲外のもの(比較例1)及び希土類リン酸塩でない光散乱粒子としたもの(比較例2~5)と比較すると、光透過性及び光散乱性が高く、且つ黄変度が低いものであることが分かること(段落[0070]、[0071])が記載されている。

3 取消事由1(「樹脂」の種類に関する引用発明の認定の誤り)について⑴ 原告は、取消事由1として、本件審決が引用発明の光拡散層を形成するための「コート液」に含まれる樹脂を「バインダ樹脂」と認定したことは誤りである旨を主張する。前記2のとおり、引用文献1(甲1)には、高い光散乱性を有する光散乱シートを提供することを課題とし(段落[0006])、希土類リン酸塩の粒子を光散乱粒子として樹脂中に分散含有した樹脂成形体において、その単位体積当たりの前記光散乱粒子の表面積が0.600m2/cm3以下であるものとすることが、前記光散乱性の向上の点で有利であることが判明した旨が記載されている(段落[0017])。さらに、その光散乱シート(光散乱体)(段落[0016])の一実施形態として、基材の表面に光散乱層(コート層)を配置させた光散乱部材が示されるとともに(段落[0009]、[0044])、その光散乱部材を得る方法の一例として、「有機溶媒とバインダ樹脂と光散乱粒子とを混合してコート液を作成し、該コート液をローラーやスプレーガン等を用いて基材の表面に塗工又は塗布すればよい」ことが記載されている(段落[0044])。すなわち、引用文献1には、基材の表面に、希土類リン酸塩の粒子が光散乱粒子として樹脂中に分散された光散乱層(コート層)を設けた光散乱体(光散乱シート)を得るために、その基材の表面に塗工又は塗布される「コート液」が、「バインダ樹脂」を含むことが明記されており、しかも、「有機溶媒とバインダ樹脂と光散乱粒子」を含むコート液であることが、ひとまとまりの技術的思想として記載されているといえる。そうすると、本件審決が、引用文献1に記載された発明(引用発明)として、光拡散層を形成するための「コート液」に含まれる樹脂を「バインダ樹脂」と認定したことに誤りはない。⑵ア 原告は、本件審決が、引用発明の内容において、バインダ樹脂の配合量を引用文献1に記載された好適な範囲に基づき認定していることから、バインダ樹脂の種類についても、引用文献1に「有利」(好適)なものとして記載された「熱可塑性樹脂」に限定して引用発明を認定すべきであり、これにより本件審決が認定していない相違点が生じる旨などを主張する。しかし、引用文献1(甲1)の段落[0010]には、「樹脂」について、「シートやフィルムへの成形の容易さの点からは、熱可塑性樹脂を用いることが有利である」と記載されている。このシートやフィルムといった光散乱シートの「成形」に関して、引用文献1には、光散乱シートを得るためには、溶融状態の樹脂に光散乱粒子を練りこむか又は付着させたペレットを原料として、インフレーション法やTダイ法等の公知のシート成形方法によって「成形」すればよい旨が記載されている(段落[0043])。そうすると、段落[0010]の「シートやフィルムへの成形」とは、上記段落[0043]でいうインフレーション法やTダイ法等の公知のシート成形方法による成形を指していると解される。一方、コート液による光散乱層(コート層)の形成は、例えば、光散乱粒子及びバインダ樹脂に加え有機溶媒が混合されてなるコート液を塗工又は塗布することによりなされることが記載されているが(段落[0044])、「成形」という語は使用されておらず、この「塗工又は塗布」は、上記段落[0043]でいう「成形方法」とは異なると解される。そうすると、段落[0010]の、「シートやフィルムへの成形の容易さの点からは、熱可塑性樹脂を用いることが有利である」との記載は、これを直ちに、塗工又は塗布により形成されるコート液のバインダ樹脂として熱可塑性樹脂を用いることが好適であることを意味して記載されたものであると解することはできない。また、前記2⑵のとおり(別紙審決書(写し)の引用も参照)、配合量(段落[0020])と、樹脂の種類(段落[0011])とは、引用文献1において独立して記載されているから、配合量を好ましい範囲としたときに、樹脂の種類を同時に、好ましい態様として記載されたものに限定して解すべき根拠にはならないというべきである。したがって、原告の上記主張は採用することができない。イ 原告は、技術常識1及び周知技術1の認定についても争うところ、この点については後記5で検討する。

4 取消事由2(「用途」に関する引用発明の認定の誤り)について⑴ 原告は、取消事由2として、本件審決が、引用発明のコート液の用途に「ヘッドアップディスプレイ等に用いられる透明スクリーン」を含めて認定したことは誤りである旨を主張する。引用文献1には、「ヘッドアップディスプレイ等に用いられる透明スクリーンには、高品位の画質を得る観点から高い光散乱性が要求されている」との記載がなされており(段落[0005])、コート層(光散乱層)を有する光散乱シート(光散乱体)の用途として「ヘッドアップディスプレイ等の透明スクリーン」を含んだ記載がなされている(段落[0045])。また、実施例の光散乱シートについて、光透過性、光散乱性及び黄変度を評価し、その結果、光透過性及び光散乱性は高く、且つ黄変度は低いものが得られており、「透明スクリーン用途として有用」であるとの評価が記載されている(段落[0070]、[0071])。これらによれば、引用文献1には、その光散乱体が、光透過性及び光散乱性の高さが求められる「ヘッドアップディスプレイ等の透明スクリーン」用途を含むものとして明示的に記載されているといえる。そうすると、本件審決が、上記引用文献1の記載に基づき、引用発明のコート液の用途に、「ヘッドアップディスプレイ等に用いられる透明スクリーン」を含めて認定したことに、誤りはない。以上の検討(前記3の検討を含む)によれば、本件審決が引用発明の内容を、前記第2の3⑵のとおり認定したことに誤りはない。⑵ア 原告は、引用文献1が、透過視認性と映像表示性の両立が高いレベルで求められる「ヘッドアップディスプレイ等に用いられる透明スクリーン」の用途を、スクリーン背後からの自然光又は室内照明光の存在を想定していない「ディスプレイ、プロジェクタのスクリーン」や、「ビニールハウス等の農業用資材」を含む様々な用途と同時に記載していることから、引用文献1の請求項1の「光散乱シート」は、特段透過視認性と映像表示性とを高いレベルで両立しているものではないことが読み取れるとして、本件審決が認定した「ヘッドアップディスプレイ等に用いられる透明スクリーン」は、実施可能な程度に開示された用途ではない旨を主張する。しかし、それぞれの用途において求められる透過視認性や映像表示性の程度が異なるものと一般的に解される物についての記載があるとしても、それで直ちに、低いレベルでの透過視認性や映像表示性を備えたものしか実施可能に記載されていないということはできない。引用文献1において、ヘッドアップディスプレイは、透明スクリーンとして従前知られた一例として示されたものであって、上記性能の両立が求められるものであることは当業者に明らかであり、加えて、前記2⑵、⑶のとおり、引用文献1には、その光散乱体が、光透過性及び光散乱性の高いレベルでの両立の達成を課題として記載されており、実施例の結果を総括して、そのような透明スクリーン用途として有用である旨も記載されていることからすれば、求められる透過視認性や映像表示性が異なるものと一般に解される用途が複数併記されているとしても、実質的には、上記透明スクリーン用途についても記載されているといえるから、本件審決の認定に誤りがない点に変わりはない。したがって、原告の上記主張は採用することができない。イ 原告は、引用発明の用途として「ヘッドアップディスプレイなどの透明スクリーン」を認定できないことを前提として、用途についての新たな相違点3がある旨を主張する。しかし、前記アのとおり、本件審決が引用発明のコート液の用途に「ヘッドアップディスプレイ等に用いられる透明スクリーン」を含めて認定したことに誤りはなく、原告の主張は前提を欠くものである。したがって、原告の上記主張は採用することができない。

5 取消事由3(相違点の容易想到性判断の誤り)及び取消事由4(予測できない顕著な効果の判断の誤り)について原告は、取消事由3として相違点の容易想到性判断の誤りを、取消事由4として予測できない顕著な効果の判断の誤りを主張するところ、これらは本願発明の進歩性判断の前提として相互に関連することから、以下これらを併せ、本件審決における本願発明の進歩性判断の是非について検討する。⑴ 周知技術1の認定について本件審決は、相違点1に係る構成の容易想到性の判断に当たり、引用文献2、3に基づき周知技術1を認定したところ、原告はその認定を争い、被告は本件訴訟において周知技術を認定する書証として乙12、15ないし19を提出するので、本件審決の周知技術1の認定について検討する。ア 引用文献2(甲2)の記載(ア) 甲2には、以下の記載がある(下線は判決で付記)。・技術分野「本発明は、光源から出射される投影光を異方的に散乱反射することにより投影光の視認性と透過光の視認性とを両立できる透明スクリーンに関する。また、当該透明スクリーンと、投射装置とを備える映像投影システムにも関する。」[0001]・課題を解決するための手段「すなわち、本発明の一態様によれば、バインダと、微粒子とを含む光拡散層を備えた透明スクリーン・・・が提供される。」[0009]・発明を実施するための形態「光拡散層は、透明性の高いフィルムを得るために、透明性の高い有機系バインダまたは無機系バインダを用いることが好ましい。透明性の高い有機系バインダとしては、樹脂、例えば、熱可塑性樹脂や、熱硬化性樹脂および、電離放射線硬化性樹脂等の自己架橋性樹脂を用いることができる。透明性の高い樹脂としては、例えば、アクリル系樹脂、アクリルウレタン系樹脂、ポリエステルアクリレート系樹脂、ポリウレタンアクリレート系樹脂、エポキシアクリレート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、セルロース系樹脂、アセタール系樹脂、ビニル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、メラミン系樹脂、フェノール系樹脂、シリコーン系樹脂、およびフッ素系樹脂等が挙げられる。」[0034](イ) 上記記載によれば、甲2には、投影光の視認性と透過光の視認性とを両立できる透明スクリーンが、バインダと微粒子とを含む光拡散層を備えており、そのバインダとしては、透明性の高いフィルムを得るために、透明性の高い有機系バインダまたは無機系バインダを用いることが好ましく、透明性の高い有機系バインダとしては、樹脂、例えば、熱可塑性樹脂や、熱硬化性樹脂及び電離放射線硬化性樹脂等の自己架橋性樹脂を用いることができることが、記載されているといえる。イ 引用文献3(甲3)の記載(ア) 甲3には、以下の記載がある。・技術分野「本発明は、投影機から投射された映像光を投影機と反対側にいる観察者に映像として視認可能に表示する透過型透明スクリーン、ならびにこれを用いた映像表示システムおよび映像表示方法に関する。」[0001]・背景技術「・・・透明部材として、下記のものが提案されている。観察者側から見て透明部材の向こう側に見える光景を透視でき、かつ・・・投影機から投射された映像光を観察者に映像として視認可能に表示する映像表示透明部材(いわゆる透明スクリーン)。」[0002]・発明が解決しようとする課題「本発明は、投影機から映像光を投射しない状態では、観察者から見て透明スクリーンの向こう側の光景の透視性に優れ、投影機から映像光を投射している状態では、観察者から見て透明スクリーンに表示される映像の視認性に優れる透過型透明スクリーン、ならびにこれを用いた映像表示システムおよび映像表示方法を提供する。」[0009]・課題を解決するための手段「本発明は、以下の構成を有する。[1]第1の面およびこれとは反対側の第2の面を有し、透明樹脂及び光散乱材料を含む光散乱層を有する透過型透明スクリーンであって、・・・・。」[0010]・発明を実施するための形態「(光散乱層) 光散乱層34は、透明樹脂32、光散乱材料33および光吸収材料を含む。」[0031]「透明樹脂32としては、光硬化性樹脂(光硬化性アクリル樹脂、光硬化性エポキシ樹脂等)の硬化物、熱硬化性樹脂(熱硬化性アクリル樹脂、熱硬化性エポキシ樹脂等)の硬化物、熱可塑性樹脂(ポリカーボネート、熱可塑性ポリエステル、トリアセチルセルロース、シクロオレフィンポリマー、ポリメチルメタクリレート等。そのほか、ポリオレフィン樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、熱可塑性ウレタン、アイオノマー樹脂、エチレン・酢酸ビニルコポリマー、ポリビニルブチラール、ETFE、熱可塑性シリコーン等が挙げられる。)が好ましい。透明樹脂のイエローインデックスは、スクリーン1における窓としての機能が損なわれないように透明感を維持する点から、10以下が好ましく、5以下がより好ましい。」[0032](イ) 上記記載によれば、甲3には、投影機から投射された映像光を投影機と反対側にいる観察者に映像として視認可能に表示する透過型透明スクリーンが、透明樹脂32、光散乱材料33及び光吸収材料を含む光散乱層34を有し、該透明樹脂32としては、光硬化性樹脂の硬化物、熱硬化性樹脂の硬化物、熱可塑性樹脂が好ましいことが、記載されているといえる。ウ 乙12の記載(ア) 乙12には、以下の記載がある。「【0008】・・・本発明は、透明性を有し、透過型及び反射型のいずれにも適用可能なスクリーンフィルム及び当該スクリーンフィルムを具備するスクリーンを提供することを目的とする。【課題を解決するための手段】【0009】上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明者らは、表面光沢度及び透過率が所定値以上のフィルムと、ナノダイヤモンド粒子を所定のメジアン径で含有するナノダイヤモンド層とを組み合せると、上記課題が解決できることを見出した。」「【0036】ナノダイヤモンド層におけるナノダイヤモンド粒子は、バインダー中に分散して存在していることが好ましい。当該バインダーとしては、アクリル系樹脂、アクリルウレタン系樹脂、ポリエステルアクリレート系樹脂、ポリウレタンアクリレート系樹脂、エポキシアクリレート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、セルロース系樹脂、アセタール系樹脂、ビニル系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、メラミン系樹脂、フェノール系樹脂、シリコーン系樹脂、及びフッ素系樹脂等の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、ならびに紫外線若しくは電子線硬化性樹脂等を用いることができる。これらの中でも、熱可塑性樹脂を用いることが、フィルムの成形性の観点から好ましい。これらの樹脂は、1種単独又は2種以上を組み合わせて、あるいは共重合体として用いることができる。」(イ) 上記記載によれば、乙12には、透明性を有し、透過型及び反射型のいずれにも適用可能なスクリーンフィルムが、特定のフィルムと特定のナノダイヤモンド層とを組み合わせたものであり、該ナノダイヤモンド層は、ナノダイヤモンド粒子がバインダー中に分散して存在していることが好ましく、当該バインダーとしては熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂並びに紫外線若しくは電子線硬化性樹脂等を用いることができ、これらの中でも熱可塑性樹脂を用いることがフィルムの成形性の観点から好ましいことが、記載されているといえる。エ 乙15の記載(ア) 乙15には、以下の記載がある。「【0009】 本発明は、観察者から見て透明スクリーンの向こう側の光景を透視でき、観察者から見て透明スクリーンに表示される映像を視認でき、かつ赤外線の透過が抑えられた透過型透明スクリーン、ならびにこれを用いた映像表示システムおよび映像表示方法を提供する。」「【0010】 本発明は、以下の構成を有する。【1】光散乱層と、赤外線遮蔽層とを有する、透過型透明スクリーン。・・・【3】前記光散乱層が、透明樹脂および光散乱材料を含む、【1】または【2】の透過型透明スクリーン。・・・」「【0027】(光散乱層)光散乱層34は、たとえば、透明樹脂32、光散乱材料33、および必要に応じて光吸収材料を含む。【0028】 透明樹脂32としては、光硬化性樹脂(アクリル樹脂、エポキシ樹脂等)の硬化物、熱硬化性樹脂の硬化物、熱可塑性樹脂が好ましい。・・・」「【0063】 (例1)紫外線硬化性樹脂(日立化成社製、ヒタロイド(登録商標)7981、比重1.1)に、酸化チタン微粒子(平均粒子径:0.2μm、比重4.2)を0.05体積%となるように混合した例1のペーストを用意した。【0064】 透明なポリエチレンテレフタレート(以下、PETと記す。)フィルム(東洋紡社製、コスモシャイン(登録商標)A4300、厚さ:75μm)の表面に、アルミニウムを真空蒸着法によって物理蒸着し、アルミニウム薄膜(厚さ:8nm)からなる赤外線遮蔽層を形成した。赤外線遮蔽層の表面に例1のペーストを塗布し、該ペーストの上に別のPETフィルムを重ねた。ペーストに紫外線を照射し、紫外線硬化性樹脂を硬化させて、厚さ20μmの光散乱層を形成し、例1の光散乱シートを得た。」(イ) 上記記載によれば、乙15には、観察者から見て透明スクリーンの向こう側の光景を透視でき、観察者から見て透明スクリーンに表示される映像を視認でき、かつ赤外線の透過が抑えられた透過型透明スクリーンが、透明樹脂および光散乱材料を含む光散乱層を有しており、該透明樹脂としては光硬化性樹脂の硬化物、熱硬化性樹脂の硬化物、熱可塑性樹脂が好ましいことが記載され、紫外線硬化性樹脂を採用した実施例が記載されているといえる。オ 乙16の記載(ア) 乙16には、以下の記載がある。「[0001] 本発明は、電子黒板装置、デジタルサイネージ装置等の画像表示装置に対し、レーザーポインタ等のレーザー光照射装置から照射される光を鮮明に視認することができる視認性向上フィルムに関する。・・・」「[0020]<視認性向上フィルム>本発明にかかる視認性向上フィルムは、画像表示装置の表示画面に照射されたレーザー光の視認性を向上させるために用いられるものであって、透明光散乱層を備えてなる。透明光散乱層は、バインダと、光反射性微粒子および光拡散性微粒子の少なくともいずれか一方を含んでなる。なお、本発明において、「透明」とは、用途に応じた透過視認性を実現できる程度の透明性があれば良く、半透明であることも含まれる。」「[0024](透明光散乱層)当該透明光散乱層は、ヘイズ値が、好ましくは35%以下・・・全光線透過率が、好ましくは70%以上・・・拡散透過率が、好ましくは1.5%以上50%以下・・・ヘイズ値、および全光線透過率が上記範囲内であれば、透明性が高く、表示された画像の視認性を維持することができ、拡散透過率が上記範囲内であれば、入射光を効率よく拡散させるため、レーザー光鮮明性に優れる。・・・」「[0028] (バインダ)透明光散乱層を形成するバインダとしては、透明性が高いものであればどのような材料を用いてもよく、無機系バインダまたは有機系バインダを用いることが好ましい。」「「0037]透明性の高い有機系バインダとしては、樹脂、例えば熱可塑性樹脂、電離放射線硬化性樹脂、熱硬化性樹脂、および粘着剤を挙げることができる。・・・」「[0089]<視認性向上フィルムの作製>・・・」「[0095][実施例4]バインダとして市販のポリマーアクリレートUV硬化型樹脂・・・を用い、・・・」(イ) 上記記載によれば、乙16には、画像表示装置に付す視認性向上フィルムが、表示画像の視認性を維持できる透明性と、レーザーポインタ等のレーザー光照射装置から照射される光を拡散させるレーザー光鮮明性を備えたフィルムであって、その透明光散乱層は、バインダと、光反射性微粒子及び光拡散性微粒子の少なくともいずれか一方を含んでなり、そのバインダとしては、透明性が高いものであればどのような材料を用いてもよく、透明性の高い有機系バインダとしては、樹脂、例えば熱可塑性樹脂、電離放射線硬化性樹脂、熱硬化性樹脂及び粘着剤が挙げられ、UV硬化型樹脂を用いた実施例も記載されているといえる。カ 乙17の記載(ア) 乙17には、以下の記載がある。「【請求項1】高屈折ナノ粒子(A)を分散媒体(B)中に分散させた高屈折率ナノ粒子・ナノコンポジットであって、前記分散媒体(B)と同質または類似した材料(D)を含む高屈折率ナノ粒子複合体(C)の平均サイズが40~4000nmであることを特徴とする高屈折率ナノ粒子複合体を含有する透明光拡散体。」「【請求項4】請求項1乃至請求項3の高屈折率ナノ粒子複合体を含有する透明光拡散体において、高屈折率ナノ粒子(A)がダイヤモンド(屈折率2.4)、チタン酸バリウム(屈折率2.4)、酸化ジルコニウム(屈折率2.4)、酸化チタニウム(屈折率2.7)から選ばれるナノ粒子である高屈折率ナノ粒子複合体を含有する透明光拡散体。」「【請求項5】請求項1の高屈折率ナノ粒子複合体を含有する透明光拡散体において、該透明光拡散体のシート表面を顕微鏡観察の画像から得られた粒子の平均サイズが40~4000nmで、粒子の画像視野に占める割合が1~50%であることを特徴とする高屈折率ナノ粒子複合体を含有する透明光拡散体。」「【請求項6】請求項1の分散媒体(B)がポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、2酢酸セルロース、3酢酸セルロース、エチレンビニルアルコール共重合体、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂の中から一つ以上からなる熱可塑性樹脂であることを特徴とする高屈折率ナノ粒子複合体を含有する透明光拡散体。」「【請求項7】請求項1の分散媒体(B)がエポキシ系、アクリル系、シリコーン系の中から一つからなる光硬化性樹脂であることを特徴とする高屈折率ナノ粒子複合体を含有する透明光拡散体。」「【0001】本発明は、光学部材または光学デバイスに好適に使用できる高屈折率ナノ粒子を含有する透明光拡散体に関する。【0002】また、本発明は、当該透明光拡散体を利用したディスプレイ用の光拡散膜や情報表示用の透過型スクリーンに関する。」「【0033】複合体(C)の分散媒体(B)としては、公知の樹脂やガラスの屈折率が1.35~1.85であることを想定して上述の検討を行っているので、現実的に考えられる分散媒体に制約はなく、以下の分散媒体を例示することができる。【0034】分散媒体(B)としては、熱可塑性ポリマー、熱硬化性ポリマー、光硬化性ポリマーとして知られる各分散媒体(B)を使用することができる。【0035】熱可塑性ポリマーとしては、ポリエチレン、・・・等が挙げられる。【0036】熱硬化性ポリマーとしては、ポリイミド樹脂、・・・等が使用できる。【0037】光硬化性ポリマーとしては、例えば、紫外線硬化性樹脂及び電子線硬化性樹脂のいずれであってもよい。紫外線硬化型樹脂又は電子線硬化型樹脂としては、・・・が使用される。なお、光硬化性樹脂には、通常配合される光重合開始剤等を配合してもよい。」「【0038】また上述の複合体はオフセット印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷、インクジェット印刷、スプレー印刷など公知の方法により適当な厚みの薄膜や板として射出成形法、押出成形法、カレンダー成形法、ブロー成形法、圧縮成形法、キャスト法など公知の方法により成型加工されるが、透明光拡散体として機能するだけではなく、同時に透過型スクリーンとして好適に使用することができる。」「【0051】本発明によって得られる透明光拡散体は自動車等のランプカバー、LEDなどの照明光源のカバー、表示・広告灯のカバー等として好適に使用できる。またヘッドアップディスプレイ、ショッピングウインドウや高層ビルなどの窓材を利用し透過型スクリーンとして好適に機能する。しかも薄膜とすることができるため、スマートフォンやタッチ・パネルのディスプレイ用などに好適に使用できる。」(イ) 上記記載によれば、乙17には、公知の方法により成形加工されることで透過型スクリーンとして好適に機能する、高屈折ナノ粒子(A)を分散媒体(B)中に分散させた高屈折率ナノ粒子・ナノコンポジットであって、前記分散媒体(B)としては、例えば、熱可塑性ポリマー、熱硬化性ポリマー、光硬化性ポリマーを使用することのできることが、記載されているといえる。キ 乙18の記載(ア) 乙18には、以下の記載がある。「【0001】本発明は、光拡散フィルムを得るうえで有用な、高屈折率微粒子を含有するエマルション組成物、該組成物から得られる光拡散フィルム、及び該光拡散フィルムを利用した透過型スクリーンに関する。」「【0008】・・・本発明の目的は、高い光透過性と優れた光拡散性をともに備えた光拡散フィルムを簡易に得るための材料として有用なエマルション組成物を提供することにある。また、本発明の他の目的は、高い光透過性と優れた光拡散性をともに備えるとともに、簡易な方法で作製できる光拡散フィルム、及びこれを利用した透過型スクリーンを提供することにある。本発明のさらに他の目的は、上記特性を有するとともに、表面硬度が高く、したがって耐久性に優れた光拡散フィルム、及びこれを利用した透過型スクリーンを提供することにある。【課題を解決するための手段】【0009】本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、高屈折率ナノ粒子と硬化性化合物の乳化粒子とを含有するエマルションを薄膜化し、乾燥、硬化させると、高い光透過性と優れた光拡散性をともに備えた光拡散体を簡易に作製できることを見いだし、本発明を完成した。」「【0044】[硬化性化合物]前記硬化性化合物としては、光等の活性エネルギー線または熱により硬化する化合物であれば特に限定されない。硬化性化合物の代表的な例として、例えば、ラジカル重合性不飽和基含有化合物、エポキシ基含有化合物、オキセタニル基含有化合物、ビニルエーテル基含有化合物、及びアルコキシシリル基若しくはヒドロキシシリル基含有化合物などが挙げられる。これらの硬化性化合物は単独で用いてもよく、2以上を組み合わせて用いてもよい。【0045】前記硬化性化合物としては、硬化により架橋構造を形成し、フィルムの硬度を高めるという点からは、分子内に硬化性基を2個以上(好ましくは3個以上、さらに好ましくは4個以上、特に好ましくは6個以上)有する多官能の硬化性化合物が好ましい。【0046】前記ラジカル重合性不飽和基含有化合物としては、例えば、分子内に(メタ)アクリロイル基を有する化合物[例えば、(メタ)アクリル酸エステル構造を有する化合物]、オレフィン系化合物、スチレン系化合物などが挙げられる。これらの中でも、分子内に(メタ)アクリロイル基を有する化合物が好ましい。【0047】分子内に(メタ)アクリロイル基を有する化合物には、単官能(メタ)アクリレート、多官能(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルシリコーンなどが含まれる。」【0077】~【0093】には、調製例1~5として、いずれも硬化性化合物の乳化粒子として、水系紫外線硬化性樹脂を用いた例が示されている。(イ) 上記記載によれば、乙18には、光拡散フィルムを利用した透過型スクリーンにおいて、高屈折率ナノ粒子と硬化性化合物の乳化粒子とを含有するエマルションを薄膜化し、乾燥、硬化させることにより、高い光透過性と優れた光拡散性をともに備えると同時に表面硬度が高く耐久性に優れた光拡散体を簡易に作製できることが記載され、その硬化性化合物としては、光等の活性エネルギー線又は熱により硬化する化合物であれば特に限定されないこと、また、具体例では、紫外線硬化性樹脂の乳化粒子を用いたことが、記載されている。ク 乙19の記載(ア) 乙19には、以下の記載がある。「【請求項1】一対の対向させた板又はフィルム状の透明支持体、前記透明支持体の対向面間に塗布した光硬化性の透明接着剤、及び前記透明接着剤中に混入した光散乱微粒子を備えてなり、前記透明接着剤中の光散乱微粒子の混入量により光透過性及び光散乱反射性を調整可能としてなる透明スクリーン。」「【0001】本発明は透明スクリーン及びその製造方法に関し、とくに正面側から背面側を透視させつつプロジェクタから投影された映像を表示できる透明スクリーン及びその製造方法に関する。」「【0011】そこで本発明の目的は、光透過性と光散乱反射性という2つの相反する特性のバランスを簡単に調整できる透明スクリーン及びその製造方法を提供することにある。」「【0023】図示例の光硬化性接着剤16は、光透過性を有するものであればとくに限定されず、従来技術に属する様々な光硬化性(例えば紫外線硬化性)のプラスチック接着剤を用いることができる。また、透明接着剤16中に混入させる光散乱微粒子17の一例は、屈折率の相違により接着剤16中で光を乱反射させる酸化金属粒子等の無機微粒子であるが、接着剤16中で光を乱反射させる有機微粒子を用いることもできる。無機微粒子と有機微粒子とを混合して用いることも有効である。混入させる光散乱微粒子17の配合量は、透明スクリーン10に付与する光透過性及び光散乱反射性に応じて適宜調節することができる。」「【0025】光硬化性接着剤16は、光(通常は紫外線)の照射によりポリマー間に新たな結合が生じて硬化するものであり、光を照射する前は低粘性である。従って、光照射前の光硬化性接着剤16に光散乱微粒子17を混入させることにより、比較的容易に接着剤16中の微粒子17を均一に分散させることができ、図4(E)に示す従来の透明スクリーン5bに比して光散乱微粒子の分散工程(混練工程)を簡単化できる。」【0030】~【0034】の実施例では、光硬化性接着剤として紫外線硬化性の透明接着剤を用い、光照射前の光硬化性接着剤に光散乱微粒子を混入し、紫外線照射により硬化させるなどして透明スクリーンを作製した例が記載されている。(イ) 上記記載によれば、乙19には、正面側から背面側を透視させつつプロジェクタから投影された映像を表示できる透明スクリーンについて、一対の対向させた板又はフィルム状の透明支持体、前記透明支持体の対向面間に塗布した光(通常は紫外線)硬化性の、光を照射する前は低粘性である透明接着剤、及び前記透明接着剤中に混入した光散乱微粒子を備えてなるようにすることで、光透過性と光散乱反射性という二つの相反する特性のバランスを簡単に調整できるようにしたことが、記載されているといえる。⑵ 上記⑴の各文献の記載内容によれば、甲2、3、乙12、15ないし19には、いずれも、「透過光の視認性と投影される映像の視認性が求められる透明スクリーン」における「光散乱材料となる粒子を含有させる樹脂」に関する技術事項が記載されているといえる。しかし、このうち、甲2、3、乙12、15~18には、その樹脂として、光(紫外線又は電離放射線)硬化性樹脂は、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂と併せて並列的に記載されているにとどまり、光硬化性樹脂を用いることによる特質等が記載されているものではない。乙19については、光硬化性接着剤を用いることが記載されているものの、光透過性と光散乱反射性とのバランスを調整できるようにするために、光を照射する前は低粘性である光硬化性接着剤の性質を利用し、その利用に特徴のある透明スクリーンの製造技術が記載されているものであり、樹脂として活性エネルギー線硬化性樹脂を用いた例についての記載があるにとどまる。そうすると、これら本件審決における引用文献及び本件訴訟における周知技術の立証に係る被告提出の書証によっても、甲2、3、乙12、15ないし19に基づき認定できる周知技術(技術的事項)は、透明スクリーンに用いられる樹脂の選択肢として、本件審決が周知技術1として認定した、活性エネルギー線硬化性樹脂である「電離放射線硬化樹脂や紫外線硬化樹脂」のみではなく、「熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、又は活性エネルギー線硬化性樹脂」が知られている、ということであるといえる。なお、この点につき、原告は、本件審決が認定した周知技術1に関し、引用文献2(甲2)の記載によれば、前記⑴ア(ア)のとおり、「樹脂」として「無機系バインダー」を選択肢に含むと主張する。しかし、甲2の記載において、「無機系バインダー」は、「バインダ」の一例として示されているのに対し、「樹脂」は、「バインダ」の他の例である「有機系バインダー」の例として記載されている(前記⑴ア(ア)の下線部分)から、甲2には、透明スクリーンの「樹脂」の選択肢として、「無機系バインダー」が記載されているとはいえない。そうすると、原告が本件審決の周知技術1とは異なる内容として主張する、「熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、活性エネルギー線硬化性樹脂、又は無機系バインダーなどの様々な材料」が透明スクリーンに用いられる樹脂の種類の選択肢として知られているとすることはできない。したがって、原告の上記主張は採用することができない。⑶ 上記を前提として、本願発明と引用発明とを対比すると、前記のとおり、本件審決が認定した引用発明の内容には誤りがない(前記3⑴及び4⑴))から、本願発明と引用発明とを対比すると、本件審決が認定したとおりの一致点及び相違点1が存するものと認められる(ただし、一致点に係る内容は、配合比を含まず、樹脂及び希土類燐酸塩微粒子を含むプロジェクションスクリーンの光拡散層形成用塗料の発明である点で一致すると認めるのが相当であり、相違点に係る内容は、樹脂の硬化・軟化特性ではなく、樹脂の種類と認めるのが相当であり、相違点1は、「本願発明においては、樹脂が『活性エネルギー線硬化性樹脂』であるのに対して、引用発明においては樹脂の種類が特定されていない点。」とするのがより相当であるものと解されるが、この点は直ちに結論に影響を与えるものではない。)。

⑷ ここで、本願発明と引用発明との相違点1が上記⑶のとおりであり、その余の相違点である相違点2について容易想到(設計事項)とする本件審決の判断には誤りがなく(当事者間に争いがない)、かつ、上記⑵のとおり、本願の優先日当時の技術常識として、透明スクリーンに用いられる樹脂の選択肢として、「熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、又は活性エネルギー線硬化性樹脂」が知られていたものとすると、本願発明は、いわゆる選択発明である可能性があることに加え、その相違点1が、後掲⑺の本願発明の効果に関連した構成要件に係るものであることを考慮すると、本願発明の相違点1の容易想到性の判断に際しては、いわゆる選択発明における判断手法が妥当する可能性がある。いわゆる選択発明は、構成要件の中の全部又は一部が上位概念で表現された先行発明に対し、その上位概念に包含される下位概念で表現された発明であって、先行発明が記載された刊行物中に具体的に開示されていないものを構成要件として選択した発明をいい、この発明が先行発明を記載した刊行物に開示されていない顕著な効果、すなわち、先行発明によって奏される効果とは異質の効果、又は同質の効果であるが際立って優れた効果を奏する場合には先行発明とは独立した別個の発明として特許性を認めるのが相当である。以下、この観点から本件について検討する。

⑸ 引用文献1の段落[0010]には、光散乱シート(光散乱体)の樹脂について、透明性の高いものであることが好ましく、無色のものであることも好ましく、特に無色透明であることが好ましく、そのような特性を有する限りにおいて樹脂の種類に特に制限はなく、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂のいずれを用いてもよく、シートやフィルムへの成形の容易さの点からは、熱可塑性樹脂を用いることが有利であることが記載され、続く段落[0011]には、熱可塑性樹脂の例が示され、具体例ではいずれも熱可塑性樹脂が用いられているが、引用文献1には、上記の樹脂の種類として、活性エネルギー線硬化性樹脂は記載されていない。また、上記段落[0010]の「特に制限はなく」との記載は、その直後に「熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂のいずれを用いてもよい」と続くことからすれば、無色あるいは透明な樹脂であれば熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂以外の樹脂であってもよいことまで含むことを意図した記載と解することは直ちにはできない。そうすると、引用発明の樹脂として、引用文献1には、活性エネルギー線硬化性樹脂に関する記載も示唆もないため、この点につき先行する発明が記載された引用文献1に具体的に開示されていない本件において、活性エネルギー線硬化性樹脂を採用する動機付けがある、すなわち先行技術に基づき容易にその存在を認識し採用可能性があるとすることはできない。

⑹ 上記⑵で本件審決が認定した周知技術1に関して検討したとおり、透明スクリーンに散乱性粒子とともに含まれる樹脂の種類として、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂及び活性エネルギー線硬化性樹脂は知られているといえる。しかし、その活性エネルギー線硬化性樹脂は、選択肢の一つとして知られているにとどまり、活性エネルギー線硬化性樹脂が、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂と比べて好適であるとか、上記樹脂として熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂ではなく活性エネルギー線硬化性樹脂が選択されることが一般的であるなど、その周知の選択肢群のなかから、活性エネルギー線硬化性樹脂を積極的あるいは優先的に選択すべき事情のあることまでは、知られていたとはいえない。そうすると、引用発明における樹脂として、活性エネルギー線硬化性樹脂を選択しようとする動機付けは、上記周知技術から導き出されるとはいえないし、最適又は好適なものとしての選択ということもできない。

⑺ 上記⑷ないし⑹によれば、本願の優先日当時、透明スクリーンに用いられる樹脂の選択肢として「熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、又は活性エネルギー線硬化性樹脂」が知られていたものの、引用発明及び周知技術によっては、このうち活性エネルギー線硬化性樹脂を採用する動機付けがあったとは認められないところ、本願発明が、このうちの活性エネルギー線硬化性樹脂(成分(A))を採用することにより、仮に、先行発明を記載した刊行物(引用文献1)に開示されていない顕著な効果、すなわち、先行発明によって奏される効果とは異質の効果、又は同質の効果であるが際立って優れた効果を奏する場合には先行発明とは独立した別個の発明として特許性が認められる余地があるものというべきである。

⑻ ただし、本件審決は、前記第2の3⑵のとおり、技術常識1を引用文献4(甲4)及び引用文献5(甲5)に基づき認定しており、その内容は、「短時間で硬化する、無溶剤型にできる等の長所を有する、紫外線硬化樹脂を含むエネルギー線硬化樹脂には様々な種類があり、光学的な分野を含む幅広い分野で利用されていること」とするところ、被告は、本件訴訟において、前記技術常識1は他の文献(乙20ないし22)からも明らかであることに加え、乙23により「基材上に、柔軟性が必要とされる光学機能フィルムを形成するために、光硬化性樹脂を使用すること」は技術常識であり、引用文献1(甲1)に有利と記載される熱可塑性樹脂に代えて「電離放射線や紫外線等の活性エネルギー線で硬化する樹脂」へ変更することに阻害要因はなく、当業者に自明の選択肢である該樹脂を採用することは、むしろ自然である旨を主張するので、以下、この点につき検討する。引用文献4(甲4)には、別紙審決書(写し)21頁ないし22頁に引用のとおりの記載があるところ、これによれば、引用文献4の記載は、「エネルギー線硬化樹脂」(紫外線(UV)や電子線(EB)によって硬化する樹脂のことを一般に指す)についての総論が記載されているものと認められる。引用文献5(甲5)には、別紙審決書(写し)22頁ないし23頁に引用のとおりの記載があるところ、これによれば、引用文献5は、「紫外線(UV)効果技術を利用した市場」についての解説であるものと認められる。乙20には、「光硬化性樹脂は、固める前はモノマーの状態です。これに光開始剤(光があたると重合が始まるもの)が入れてあります。そのため、光をあてると重合が起こり(硬化して)樹脂になります。」等の、乙21には、「光硬化性樹脂や電子線硬化性樹脂を樹脂バインダーとして無溶媒で塗設したりすることが一般に行われる。」等の、乙22には「プラスチックは、基本単位である単量体(モノマー)を多数結合させた重合体(ポリマー)から作られる。例えばポリエチレンは気体のエチレンが単量体である。ポリエチレンは熱で軟化して流動するので型で成形でき、冷却すると固まる。このタイプを熱可塑性樹脂と呼ぶ。一方、熱により網目状分子構造に化学変化する熱硬化性樹脂があり、型の中で熱硬化させる。プラスチックを成形性で大きく分類すると以上の2種類であるが、レンズでは後者の一種である光硬化性樹脂もよく使われ、紫外線などで常温のまま硬化する。」等の、それぞれ光硬化性樹脂についてのごく一般的な記載がある。乙23(「光学用透明樹脂における材料設計と応用技術」・2007年4月27日第1版第1刷発行)の「光学用光硬化性樹脂とその応用」の項には「・・・光学用熱可塑性樹脂は射出成形法により光学部材を作製するため、用途がレンズ等の硬くて厚い光学部材に限定され、フィルム等への適用は難しい。そこで、柔軟性が必要とされるような光学機能フィルムには、紫外線(UV)などの光硬化反応を利用して、基材フィルム上に構造体を形成することができる光硬化性のアクリル系樹脂が使用されている。」等の記載がある。これらの各記載によれば、活性エネルギー線硬化性樹脂は、広く知られた樹脂であって、光学用途のプラスチックに対する塗料(甲4、5、乙20ないし22)や光学機能フィルム材料(乙23)として用いられることや、各証拠に示されたような長所及び短所のあることは、技術常識であると認められる。そうすると、本件審決が認定した、技術常識1の内容(前記第2の3⑵)そのものには誤りはない。しかし、これらの各証拠に示された技術常識(技術常識1)は、いずれも、専ら活性エネルギー線硬化性樹脂について述べることに特化したものであり、その長所・短所や光学用途が示されているからといって、透明スクリーン用途として、一般に知られた他の種類の樹脂ではなく、特に活性エネルギー線硬化性樹脂を用いることが技術常識であることを示すものではなく、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂と同列に並べられた選択肢として周知の活性エネルギー線硬化性樹脂を、特に選び出すことを自然に動機付けるものであるともいえない。本件審決は、技術常識1に示された、短時間で硬化する、無溶剤型にできるといった特徴が、活性エネルギー線硬化樹脂を本願のプロジェクションスクリーンの光拡散層形成用塗料に適用することを動機付ける理由を具体的に示しておらず、これを認めるに足りる証拠もない。そうすると、本件審決は、技術常識1を示し、相違点1に係る構成の容易想到性についての動機付けの根拠とするところ、上記検討のとおり、技術常識1は、特に活性エネルギー線硬化性樹脂を選択させるような動機付けとなるものではなく、容易にその存在を認識し好適材料として選択し得るものでもないから、この点から、本願発明を、直ちに進歩性を欠くものと判断することはできないというべきである。

⑼ そうすると、本願発明の進歩性判断に当たっては、引用文献1に開示されていない顕著な効果、すなわち、先行発明によって奏される効果とは異質の効果、又は同質の効果であるが際立って優れた効果を奏するか否かの検討が必要となるところ、本件審決は、本願発明について請求人である原告の主張する顕著な効果の有無についても検討して判断しており、原告は、その判断の誤りを取消事由4として主張するので、以下、本願発明の効果について検討する。本件審決は、本願明細書等に記載された実験例の例1ないし5の間での拡散率及び視野角(以下「光散乱性効果」ともいう。)の違いは、光散乱体と周りの樹脂との屈折率差が大きいほど光は散乱されやすく、逆に屈折率差が小さいほど散乱されにくい(本件審決は「屈折率が高いほど」(30頁3行目)とするが、「屈折率差が大きいほど」の誤記であると認める。)という一般常識に基づく理論どおりであって、当業者が容易に推察できる(以下、この審決のとる理論を、「屈折率差理論」という。)もので、その実験結果は何ら驚くべきことでなく当業者が予測困難な効果ではないと判断した。しかし、これは、本願発明の奏する効果について、本願発明がいわゆる選択発明として特許性が認められるか否かとの観点から、本願発明は、引用発明によって奏される効果とは異質の効果を奏するのか、あるいは、同質の効果であるが際立って優れた効果を奏するのか、についての検討を行った上でその効果を評価したものではないから、判断の前提において相当でない。その判断の内容についてみても、本願発明と同様に、樹脂及び希土類リン酸塩微粒子を含む透明スクリーンの光拡散層用塗料についての具体例を開示する引用文献1(甲1)の記載を参照すると、樹脂と希土類リン酸塩微粒子との屈折率差の大小によっては、その光散乱性能の違いを説明することができない。すなわち、引用文献1は、前記2⑵のとおり、リン酸イットリウム(段落[0053]ないし[0056])、リン酸ガドリニウム(段落[0057])、又はリン酸ランタン(段落[0058])からなる光散乱粒子を含む熱可塑性樹脂シートを製造した実施例1ないし15を開示しており、そのうち実施例1ないし5は、ポリカーボネート樹脂(段落[0054])を、実施例6ないし10はアクリル樹脂(商品名:「パラペットEH」。段落[0059]))を、実施例11ないし15はポリエチレンテレフタレート樹脂(段落[0060])を、それぞれ用いたものである。各熱可塑性樹脂の屈折率は、ポリカーボネート樹脂が1.59(甲2段落[0091]、甲19段落【0013】)、アクリル樹脂(商品名:「パラペットEH」)が1.49(甲20の物性表1の上部)、ポリエチレンテレフタレート樹脂が1.65(甲19段落【0013】)であり、小さい順にアクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂となっている。希土類リン酸塩微粒子は樹脂よりも高屈折率であるから、光散乱体と周りの樹脂との屈折率差は、アクリル樹脂が大きく、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂の順に小さくなる。ここで、光散乱体と周りの樹脂との屈折率差が大きいほど光は散乱されやすく(ヘイズ率が大きい)、逆に屈折率差が小さいほど散乱されにくい(ヘイズ率が小さい)という屈折率差理論によるとすれば、ヘイズ率は、アクリル樹脂が大きく、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂の順に小さくなるはずである。ところが、引用文献1(甲1)に示された、基材樹脂の屈折率とヘイズ率(光透過性)の関係(甲1段落[0070])を見ると、基材樹脂の屈折率は、ポリエチレンテレフタレート樹脂が大きく、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂の順に小さくなり、ヘイズ率も、ポリエチレンテレフタレート樹脂が大きく、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂の順に小さくなり、基材樹脂の屈折率が大きいほど、ヘイズ率は大きくなっており、これは、本件審決のとる屈折率差理論とは逆の結果を示している。そうすると、屈折率差と光散乱性能との間の一般的な関係として、屈折率差理論が成り立ち得るとしても、引用文献1(甲1)の具体例を参照した当業者は、透明スクリーンとしての光散乱性能は、希土類リン酸塩と樹脂との屈折率差だけで説明することはできないとの理解を有していると解するのが自然である。そうすると、本願明細書等の具体例(例1~5)における樹脂と希土類リン酸塩との組み合わせを参照した当業者は、各例における光散乱性能(ヘーズ値)を、屈折率差理論に基づいて容易に推察できるということはできない。この点に関し被告は、引用文献1(甲1)の光散乱性(ヘイズ(%))の差異は、樹脂の透明性の違いや二次粒子の形成の有無やその程度など、他の要因の影響を考えるべきであり、屈折率差理論自体が誤りであるわけではない旨を述べるにとどまり、屈折率差理論を用いた上で、本願発明に、引用発明に比した顕著な効果があるとはいえないことを説明しているものではない。そうすると、少なくとも、希土類燐酸塩微粒子及び樹脂を含有した光散乱体の光散乱性は、単に屈折率差理論のみにより説明できるものではないとするのが、本願優先日当時の当業者の通常の理解であると認められる。そして、本件審決が、本願発明の例1~5の構成それ自体から、屈折率差理論のみに基づき本願発明の光散乱性効果を容易に推察できると判断したのは、当業者の通常の理解に沿うものとはいえないから、その判断には誤りがある。

⑽ 小括以上の検討によれば、本件審決は、相違点1について、直ちに容易想到であり進歩性を欠くとした判断には、その前提に誤りがあり、本願発明の効果についての判断も、その内容は当業者の通常の理解に反して判断をした点に誤りがあり、しかも、本願発明の効果の予測性・顕著性について実質的にその判断そのものを欠いている点にも誤りがあり、これらの誤りが本件審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。よって、取消事由3及び取消事由4のそれぞれの一部には理由があり、本件審決は取り消すべきものである。

⑾ 原告が本件訴訟において主張する効果2についてア 原告が、審判段階においては主張せず、本件訴訟において初めて主張するに至った、本願発明の効果2の有無について検討する。原告の主張する効果2(本願発明が耐湿熱性に優れるとする点)は、本願明細書等の表1、2に示された例1ないし4と、例5を比較してなされた主張であるところ、被告は、最高レベルの耐湿熱性(分類0)を示した例1と同じ配合比で基材樹脂(A1-1)及び希土類リン酸塩微粒子(B-1)を含む例12は、耐湿熱性が「分類5」と最低ランクであるから、原告主張の効果2は、本願発明の構成に基づく効果であるとはいえない旨を主張する。イ そこで、本願明細書等に示された各例の結果(表1、2。本件審決11頁及び12頁)についてみると、被告主張の例1と例12との原材料の違いは、シランカップリング剤(C-1)及びイソシアネート基とイソシアネート基以外の重合性官能基を有する化合物(D-1)の含有の有無であるところ、本願明細書等の段落【0053】及び【0067】には、成分(C)及び成分(D)がいずれも「耐湿熱性を向上させる働きをする」ものであることが記載されている(なお、成分Eは溶剤、成分F-1~2は光重合開始剤、F-3は1分子中に2個以上のイソシアネート基を有する化合物、F-4はレベリング剤である)。そうすると、本願明細書等の記載に接した当業者は、被告の主張する例1と例12との比較及び段落【0053】、【0067】の記載により、耐湿熱性は、本願発明では特定されていない上述の成分C-1及び成分D-1の含有により影響を受けるものと一応理解するといえる。しかし、例1と例12とを比較しても、同一の樹脂(A1-1)を用いているため、樹脂の種類により耐湿熱性が影響を受けるかについての見解は得られない。そこで例5について見てみると、例5は、その原材料として同一の成分(C):C-1及び成分(D):D-1を例1~4と同量含んでいるにもかかわらず、耐湿熱性は「分類3」に落ちている。その一方で、樹脂は熱硬化性樹脂A-5(非結晶ポリエステル樹脂)であり、他に、1分子中に2個以上のイソシアネート基を有する化合物F-3も含んでいる点が、例1~4とは異なる。そうすると、例5において、成分(C)及び成分(D)を含むにもかかわらず耐湿熱性が低下している要因としては、熱硬化性樹脂A-5を含むこと、ないし、1分子中に2個以上のイソシアネート基を有する化合物F-3を含有すること、である可能性が考えられるものの、単に、熱硬化性樹脂(成分A-5)の含有に起因すると解することはできない。以上によれば、本願発明には予測できない顕著な効果である効果2(耐湿熱性)を有するとする原告の主張は、それが熱硬化性樹脂ではなく活性エネルギー線硬化性樹脂を含有させたことによる効果であることを、本願明細書等の記載から当業者が理解することができるとはいえない。したがって、原告の上記主張は採用することができない。

⑿ 被告の主張に対する判断ア 被告は、引用発明は、本願発明と同様に、微粒子として希土類リン酸塩を採用することによって、散乱性を向上させるものであるところ、本願発明よりも前に特許出願がされ、特許第6533879号として特許権が設定登録されており(乙26)、引用文献1において活性エネルギー線硬化性樹脂への言及がないことを奇貨として、実施例の熱可塑性樹脂等を周知の活性エネルギー線硬化性樹脂に置き換えたにすぎない本願発明について特許権を取得することを許容することは、先行発明者の利益を著しく害するものであるから、かかる観点からも本件審決の判断は適切であり、誤りではない旨を主張する。しかし、既に検討したとおり、本件審決には、活性エネルギー線硬化性樹脂について、引用文献1ないし先行技術等に開示された内容に基づく容易想到性の判断に誤りがあるものということができる。したがって、被告の上記主張は採用することができない。イ 被告は、本願発明が課題とする光散乱効果をもたらす光散乱現象とは、微粒子と樹脂の屈折率差によるものであるところ、本願明細書等にも屈折率差に着目した説明はなく、本願明細書等の段落【0023】、【0028】の記載(引用した別紙審決書(写し)参照)からは樹脂の種類の選択が光の散乱に影響を与えることを読み取ることができないので、本願発明の効果として原告が主張する効果は、樹脂の種類とは関係がない旨を主張する。しかし、本願発明は、既に検討したとおり、本願明細書等において、高い透明性と高い映像表示性とのバランスに優れたプロジェクションスクリーンを得ることのできる塗料等を提供することを課題とし、活性エネルギー線硬化性樹脂及び希土類燐酸塩微粒子の組合せとすることにより、他の樹脂(熱硬化性樹脂)や他の微粒子(酸化ジルコニウム微粒子)と組み合わせた場合よりも、高い透明性と高い映像表示性とのバランスに優れたプロジェクションスクリーンを得ることのできる塗料とし得たものであること、さらに、希土類燐酸塩微粒子を良好に分散させる観点から硬化性樹脂が好ましく(段落【0023】)、そのうち高い透明性と高い映像表示性とのバランスをより優れたものとする観点から活性エネルギー線硬化性樹脂が望ましいこと(段落【0028】)が記載されている。さらに、本願発明の具体例である例1~4(実施例1~4)には、本願発明の具体例でない例5(比較例5)と比べて、高い透明性(光線透過率)と高い映像表示性(拡散率、視野角、ヘーズ)とを両立できたものであることが示されていることは、両当事者に争いのない事実であり、被告が主張する屈折率差理論だけで光散乱効果をはかることができるものとはいえないのが当業者の通常の理解である。また、上記【0023】に記載の粒子分散性は光散乱性に関連する事項でもあることは明らかである。そうすると、本願明細書には、樹脂として活性エネルギー線硬化性樹脂を採用することが、希土類燐酸塩微粒子の分散性や高い透明性と高い映像表示性との両立に寄与しているとの認識が明記され、具体例として、それを裏付けるものが示されているといえる。そうすると、本件審決は、当業者の技術水準を考慮せずに、効果に関係する一要因にすぎない屈折率差理論のみに基づいて本願明細書等に記載の具体例の光散乱性効果の差異の解釈を述べただけで、直ちに本願発明の効果の予測可能性はないと判断したものであって、本願発明について本願明細書等に記載された上記の効果について、引用文献1に開示された発明の効果との必要な対比及び出願時の技術水準を適切に考慮し当業者が予測できたものであるかの検討を欠いたままに、結論を導き出したものといわざるを得ない。したがって、被告の上記主張は採用することができない。ウ 被告は、原告のいう顕著な効果は、あったとしても実施例1~4の比較例5に比較しての効果であって、樹脂の特定のない本願発明の効果ではないこと、光学用樹脂の技術分野のバインダ樹脂として多官能性(メタ)アクリレートは周知の選択肢であることは乙17~18により示されているので、樹脂の種類をさらに特定しても進歩性を認め難い旨も主張する。しかし、被告の上記主張の趣旨が、本願発明の効果を得るために必要な構成が特許請求の範囲の記載において特定されていない、あるいは、特許請求の範囲に規定された構成のみでは本願発明の効果が得られないというのであれば、それは特許法36条が定める明細書の記載要件の問題として検討すべき事柄であるか、又は拒絶理由を通知して原告に意見を述べる機会を与えるべき事項であって、いずれの経緯もなく至った本件審決の判断に誤りがないことの根拠にはなり得ない。したがって、被告の上記主張は採用することができない。エ 被告は、引用発明及び技術常識1、周知技術1に基づくと、相違点1に係る構成は当業者に自明の選択肢であってかかる選択は極めて容易であるから、効果の予測・発見困難性及び顕著性を評価するまでもなく本願発明は容易に想到し得たものと判断されるべきであることを主張する。しかし、引用文献1の記載を検討しても、希土類リン酸塩微粒子と活性エネルギー線硬化性樹脂とを組み合わせたものとすることについて、一般的にも具体的にも記載はない。引用文献1段落[0010]の、無色及び/又は透明といった特性を有していれば樹脂の種類に特に制限はない旨の記載は、無色及び/又は透明でない樹脂の採用は制限されることを示唆するにとどまり、特定の樹脂の種類を選択することを意味するものではない。一方、本件審決が挙げた技術常識1は、甲4、5及び乙20ないし22によっても、活性エネルギー線硬化性樹脂自体が、その用途や長所を含め、一般的に知られた樹脂のひとつであることを示すにとどまり、本件審決が挙げた周知技術1は、甲2、3及び乙12、15ないし22によれば、引用文献1に記載されたのと同様の透明スクリーン用途において、活性エネルギー線硬化性樹脂が、光散乱粒子を分散含有する樹脂の種類のひとつとして、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂などとともに知られていることを示すことにとどまる。そうすると、技術常識1及び周知技術1を考慮しても、引用文献1段落[0010]の記載を主な手掛かりとして、引用発明のバインダ樹脂を活性エネルギー線硬化性樹脂とすることが、引用文献1に記載されているに等しいか、実質的に記載されている事項であるとまでいうことはできない。したがって、被告の上記主張は採用することができない。

6 結論以上のとおり、原告の主張する取消事由1及び2については理由がないが、本件審決の進歩性の判断(取消事由3及び4の各一部)には誤りがあり、その余の点(取消事由5)について判断するまでもなく、本件審決は取り消されるべきものである。よって、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第3部

裁判長裁判官

中 平 健

裁判官

今 井 弘 晃

裁判官

水 野 正 則

(別紙)

省略

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