令和7(行ケ)10082審決取消(特許)請求事件
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| 裁判所 |
請求棄却 知的財産高等裁判所
|
| 裁判年月日 |
令和8年4月22日 |
| 事件種別 |
民事 |
| 当事者 |
原告ニプロ株式会社 被告ベーリンガーインゲルハイムインターナショナルゲゼルシャフトミッ
|
| 対象物 |
DPP-4阻害剤(リナグリプチン)を任意で他の抗糖尿病薬と組み合わせて含む抗糖尿病薬 |
| 法令 |
特許権
特許法36条4項1号4回 特許法36条6項1号2回
|
| キーワード |
実施36回 審決19回 進歩性12回 新規性10回 無効5回 特許権2回 無効審判1回 分割1回 優先権1回
|
| 主文 |
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
| 事件の概要 |
以下の事実は、当事者間に争いがないか、又は後掲の証拠及び弁論の全趣旨に
より容易に認められる。 |
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判決文
令和8年4月22日判決言渡
令和7年(行ケ)第10082号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 令和8年3月16日
判 決
原 告 ニ プ ロ 株 式 会 社
同訴訟代理人弁護士 吉 澤 敬 夫
同訴訟代理人弁理士 紺 野 昭 男
10 同 井 波 実
同 田 村 慶 政
被 告 ベーリンガー インゲルハイム イン
15 ターナショナル ゲゼルシャフト ミッ
ト ベシュレンクテル ハフツング
同訴訟代理人弁護士 高 石 秀 樹
20 同 渡 邊 由 水
同訴訟代理人弁理士 松 田 七 重
同 星 野 貴 光
同訴訟復代理人弁理士 市 川 さ つ き
同 田 代 玄
25 同 佐 々 木 康 匡
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
5 特許庁が無効2024-800031号事件について令和7年7月3日にした
審決を取り消す。
第2 事案の概要
以下の事実は、当事者間に争いがないか、又は後掲の証拠及び弁論の全趣旨に
より容易に認められる。
10 1 特許庁における手続の経緯等
(1) 被告は、発明の名称を「DPP-4阻害剤(リナグリプチン)を任意で他
の抗糖尿病薬と組み合わせて含む抗糖尿病薬」とする発明についての特許第
6556767号(請求項の数21。以下「本件特許」という。)の特許権
者である。本件特許は、平成29年1月12日に分割出願され(原出願日は
15 平成22年2月12日、以下「本件出願日」という。パリ条約による優先権
主張は平成21年2月13日。)、令和元年7月19日に特許権の設定登録が
された。
(2) 原告は、令和6年3月19日、本件特許について、無効審判請求をした
(無効2024-800031号)。
20 被告は、令和7年5月26日付で、本件特許の請求項1~21につき、訂
正(このうち請求項13及び同16については削除)の請求をした(以下
「本件訂正」という。)。
特許庁は、令和7年7月3日、本件訂正を認めた上、「請求項1~12、
14、15、17~21に係る発明についての本件審判の請求は、成り立た
25 ない。請求項13、16に係る発明についての本件審判の請求を却下す
る。」との審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は、同年7月1
5日、原告に送達された。
(3) 原告は、同年8月13日、本件審決の取消しを求めて本件訴えを提起し
た。
2 本件特許に係る発明の概要
5 (1) 特許請求の範囲
本件特許における、本件訂正後の特許請求の範囲の記載は、次のとおりで
ある(以下、本件特許の各請求項に係る発明を請求項番号に対応して「本件
発明1」などといい、総称して「本件発明」という。)。
【請求項1】
10 それを必要とする患者において、
-2型糖尿病を治療するための、または
-血糖コントロールを改善するための、および/または、空腹時血漿グルコ
ース、摂食後の血漿グルコースおよび/もしくはグリコシル化ヘモグロビン
HbA1cを低下させるための、または
15 -糖尿病合併症、例えば白内障、ならびに微小血管性および大血管性疾患、
例えば腎症、網膜症、ニューロパシー、学習障害および記憶障害、神経変性
障害もしくは認知障害、心臓血管もしくは脳血管の疾患、組織虚血、糖尿病
性足病変もしくは胃潰瘍、動脈硬化、高血圧、内皮障害、心筋梗塞、急性冠
不全症候群、不安定狭心症、安定狭心症、脳卒中、末梢性動脈閉塞性疾患、
20 心筋症、心不全、心臓リズム障害および血管再狭窄からなる群から選択され
る状態もしくは障害を予防、その進行を緩徐、遅延、または治療するための
医薬組成物であって、
(a)リナグリプチンであるDPP-4阻害剤、又はその医薬的に許容さ
れる塩を含み、
25 (b)ビグアニド、チアゾリジンジオン、スルホニル尿素、グリニド、α
-グルコシダーゼ阻害剤およびGLP-1類縁体または医薬的に許容される
その塩からなる群から選択される第2の抗糖尿病薬と組み合わせて投与さ
れ、
(c)ビグアニド、チアゾリジンジオン、スルホニル尿素、グリニド、α
-グルコシダーゼ阻害剤およびGLP-1類縁体または医薬的に許容される
5 その塩からなる群から選択される(b)と異なる第3の抗糖尿病薬、と組み合
わせて投与されてもよく、
第2の抗糖尿病薬、または存在する場合には第3の抗糖尿病薬のいずれか
がスルホニル尿素であり、
患者が、第2の抗糖尿病薬を用いた単剤療法にもかかわらず、血糖コント
10 ロールが不十分であり、または、
患者が、第2および第3の抗糖尿病薬を用いた2剤療法にもかかわらず、
血糖コントロールが不十分であり、
例えば低血糖の発症を低下させるため、DPP-4阻害剤と組み合わせた
際にスルホニル尿素が削減された量で用いられてもよく、
15 患者が、肝臓疾患、に対してより高いリスクを示すか、または有する、
医薬組成物。
【請求項2】
それを必要とする患者において、
-2型糖尿病を治療するための、または
20 -血糖コントロールを改善するための、および/または、空腹時血漿グルコ
ース、摂食後の血漿グルコースおよび/もしくはグリコシル化ヘモグロビン
HbA1cを低下させるための、または
-糖尿病合併症、例えば白内障、ならびに微小血管性および大血管性疾患、
例えば腎症、網膜症、ニューロパシー、学習障害および記憶障害、神経変性
25 障害もしくは認知障害、心臓血管もしくは脳血管の疾患、組織虚血、糖尿病
性足病変もしくは胃潰瘍、動脈硬化、高血圧、内皮障害、心筋梗塞、急性冠
不全症候群、不安定狭心症、安定狭心症、脳卒中、末梢性動脈閉塞性疾患、
心筋症、心不全、心臓リズム障害および血管再狭窄からなる群から選択され
る状態もしくは障害を予防、その進行を緩徐、遅延、または治療するための
医薬組成物であって、
5 (a)リナグリプチンであるDPP-4阻害剤、またはその医薬的に許容
される塩と、
(b)ビグアニド、チアゾリジンジオン、スルホニル尿素、グリニド、α
-グルコシダーゼ阻害剤およびGLP-1類縁体または医薬的に許容される
その塩からなる群から選択される第2の抗糖尿病薬とを含み、
10 (c)ビグアニド、チアゾリジンジオン、スルホニル尿素、グリニド、α
-グルコシダーゼ阻害剤およびGLP-1類縁体または医薬的に許容される
その塩からなる群から選択される(b)と異なる第3の抗糖尿病薬と組み合わ
せて投与されてもよく、
第2の抗糖尿病薬、または存在する場合には第3の抗糖尿病薬がスルホニ
15 ル尿素であり、
患者が、第2の抗糖尿病薬を用いた単剤療法にもかかわらず、血糖コント
ロールが不十分であり、または、
患者が、第2および第3の抗糖尿病薬を用いた2剤療法にもかかわらず、
血糖コントロールが不十分であり、
20 例えば低血糖の発症を低下させるため、DPP-4阻害剤と組み合わせた
際にスルホニル尿素が削減された量で用いられてもよく、
患者が、肝臓疾患、に対してより高いリスクを示すか、または有する、
医薬組成物。
【請求項3】
25 (b)第2の抗糖尿病薬が、ビグアニド(特にメトホルミン)、チアゾリ
ジンジオン、スルホニル尿素、グリニドおよびα-グルコシダーゼ阻害剤ま
たは医薬的に許容されるその塩からなる群から選択され、
存在する場合、(c)(b)と異なる第3の抗糖尿病薬が、メトホルミン、スル
ホニル尿素、ピオグリタゾン、ロシグリタゾン、レパグリニド、ナテグリニ
ド、アカルボース、ボグリボースおよびミグリトールまたは医薬的に許容さ
5 れるその塩からなる群から選択される、請求項1又は2に記載の医薬組成
物。
【請求項4】
(b)第2の抗糖尿病薬が、メトホルミン、スルホニル尿素、ピオグリタ
ゾン、ロシグリタゾン、レパグリニド、ナテグリニド、アカルボース、ボグ
10 リボースおよびミグリトールまたは医薬的に許容されるその塩からなる群か
ら選択され、
存在する場合、(c)(b)と異なる第3の抗糖尿病薬が、ビグアニド(特にメ
トホルミン)、チアゾリジンジオン、スルホニル尿素、グリニドおよびα-
グルコシダーゼ阻害剤または医薬的に許容されるその塩からなる群から選択
15 される、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項5】
(b)第2の抗糖尿病薬が、メトホルミン、スルホニル尿素およびピオグ
リタゾンまたは医薬的に許容されるその塩からなる群から選択され、
存在する場合、(c)(b)と異なる第3の抗糖尿病薬が、メトホルミン、スル
20 ホニル尿素、ピオグリタゾン、ロシグリタゾン、レパグリニド、ナテグリニ
ド、アカルボース、ボグリボースおよびミグリトールまたは医薬的に許容さ
れるその塩からなる群から選択される、請求項1、2、3又は4に記載の医
薬組成物。
【請求項6】
25 (b)第2の抗糖尿病薬が、メトホルミンおよびピオグリタゾンまたは医
薬的に許容されるその塩からなる群から選択され、
(c)(b)と異なる第3の抗糖尿病薬が存在し、かつ、メトホルミン、スルホ
ニル尿素およびピオグリタゾンまたは医薬的に許容されるその塩からなる群
から選択される、請求項1から5のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
5 第2および/または第3の抗糖尿病薬が、メトホルミン、ピオグリタゾ
ン、ロシグリタゾン、トログリタゾン、シグリタゾン、グリベンクラミド、
トルブタミド、グリメピリド、グリピジド、グリキドン、グリボルヌリド、
グリブリド、グリソエピド、グリクラジド、ナテグリニド、レパグリニド、
ミチグリニド、アカルボース、ボグリボース、ミグリトール、エクセナチ
10 ド、リラグルチド、タスポグルチド、セマグルチド、アルビグルチドおよび
リキシセナチドまたはその医薬的に許容される塩からなる群から選択され
る、請求項1、2、3又は4に記載の医薬組成物。
【請求項8】
1つまたは複数の医薬的に許容される担体をさらに含む、請求項1から7
15 のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
(a)、(b)、及び存在する場合には(c)の各々が、同時使用または逐次使用
に適している、請求項1から7のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
20 (a)、(b)、及び存在する場合には(c)の各々が、が1つの単一の剤形内に
存在するか、または別個の剤形内に存在する、請求項1から7のいずれか1
項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
DPP-4阻害剤および第2の抗糖尿病薬が単一の剤形内に存在し、第3
25 の抗糖尿病薬が、別個の剤形内に存在する、請求項1から7のいずれか1項
に記載の医薬組成物。
【請求項12】
DPP-4阻害剤と、請求項1から7のいずれか1項に記載の第2の抗糖
尿病薬と、任意で請求項1から7のいずれか1項に記載の第3の抗糖尿病薬
とが、交互投与を含む併用投与により患者に投与されることを特徴とする、
5 必要とする患者における、
-2型糖尿病を治療するための、または
-血糖コントロールを改善するための、および/または、空腹時血漿グルコ
ース、摂食後血漿グルコースおよび/またはグリコシル化ヘモグロビンHb
A1cを低下させるための、または
10 -糖尿病の合併症、例えば白内障、ならびに微小血管性および大血管性疾
患、例えば腎症、網膜症、ニューロパシー、組織虚血、糖尿病性足病変、動
脈硬化、心筋梗塞、急性冠不全症候群、不安定狭心症、安定狭心症、脳卒
中、末梢性動脈閉塞性疾患、心筋症、心不全、心臓リズム障害および血管再
狭窄からなる群から選択される状態または障害を予防、その進行を緩除、遅
15 延、または治療するための、請求項1から7のいずれか1項に記載の医薬組
成物。
【請求項13】
(削除)
【請求項14】
20 患者が、第2の抗糖尿病薬を用いた単剤療法にもかかわらず、血糖コント
ロールが不十分である、請求項1から13のいずれか1項に記載の医薬組成
物。
【請求項15】
患者が、第2および第3の抗糖尿病薬を用いた2剤療法にもかかわらず、
25 血糖コントロールが不十分である、請求項1から13のいずれか1項に記載
の医薬組成物。
【請求項16】
(削除)
【請求項17】
第2の抗糖尿病薬がメトホルミン又はその医薬的に許容可能な塩である、
5 請求項1から16のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項18】
第3の抗糖尿病薬がスルホニル尿素又はその医薬的に許容可能な塩であ
る、請求項1から17のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項19】
10 (b)第2の抗糖尿病薬がメトホルミン又はその医薬的に許容可能な塩で
あり、(c)第3の抗糖尿病薬が存在し、かつ、スルホニル尿素又はその医
薬的に許容可能な塩である、請求項1から18のいずれかに記載の医薬組成
物。
【請求項20】
15 患者が、NAFLDを有する2型糖尿病である、請求項1から19のいず
れか1項に記載の医薬組成物。
【請求項21】
DPP-4阻害剤の1日投与量が5mgである、請求項1から20のいず
れか1項に記載の医薬組成物。
20 (2) 本件特許に係る明細書等の記載事項
本件特許に係る明細書(以下「本件明細書」という。甲13)の抜粋を、
別紙「本件明細書の記載事項(抜粋)」に掲げる。これによれば、本件発明
について、以下のとおりの事項が開示されているものと認められる(【】内
の4桁の数字は段落番号を表す。以下同じ。)。
25 ア 技術分野
1型糖尿病、2型糖尿病、耐糖能障害、空腹時血糖障害及び高血糖から
選択される1つ又は複数の状態の治療又は予防に適したDPP-4阻害
剤、同剤と任意で1つ又は複数の他の活性物質とを含む医薬組成物又は組
合せ、特に抗糖尿病薬として使用に関する。(【0001】)
イ 背景技術
5 従来から治療(1次治療、2次治療、単剤療法、併用療法)に使用され
てきた経口の抗糖尿病薬として、メトホルミン、スルホニル尿素、チアゾ
リジンジオン、グリニド及びα-グルコシダーゼ阻害剤が挙げられ、非経
口の抗糖尿病薬として、GLP-1又はGLP-1類縁体、及びインスリ
ン又はインスリン類縁体が挙げられる。メトホルミン、スルホニル尿素又
10 はインスリンを用いた集中治療は、結果として、限られた血糖コントロー
ルの改善(HbA1cの差は約0.9%)をもたらすだけであり、加え
て、集中治療の治療群内の患者でさえ、血糖コントロールは、時間の経過
とともに有意に悪化し、これにより、β細胞機能の悪化を引き起こすこと
が分かった。したがって2型糖尿病の多くの患者は、処置が不十分なまま
15 であり、その原因の一部は、現在の血糖上昇抑制治療の長期的効果に限界
があること、耐性が生じること、及び投薬が不便であることにある。(【0
006】、【0007】)
ウ 発明が解決しようとする課題
本件発明の目的は、代謝障害、特に2型糖尿病を予防する、進行を緩徐
20 にする、治療するための薬物及び方法を提供することである。また、特に
2型糖尿病を患う患者における、血糖コントロールを改善するための薬物
及び方法を提供する。また、例えばメトホルミンなどの抗糖尿病薬を用い
た単剤療法及び併用療法にもかかわらず、血糖コントロールが不十分な患
者における、血糖コントロールを改善するための薬物及び方法を提供す
25 る。また、糖尿病合併症の発症を予防する、進行を緩徐にする、治療する
ための薬物及び方法を提供する。(【0011】、【0012】)
エ 課題を解決するための手段
本件明細書中に定義されたDPP-4阻害剤、同剤を含む医薬組成物、
これを1つ又は複数の他の活性物質と組み合わせることが、代謝障害を予
防する、進行を緩除にする(例えば開始を遅延させる)、治療する、特に
5 患者の血糖コントロールを改善するために、有利に使用することができる
ことが判明している。これにより、2型糖尿病、過体重、肥満、糖尿病及
び類似の疾患状態の合併症の治療及び予防における新しい治療の可能性が
開かれる。(【0013】)
オ 発明を実施するための形態
10 DPP-4阻害剤は、酵素ジペプチジルペプチダーゼⅣ(DPP-4)
を抑制する化合物であり、これによりGLP-1レベルが増加し、患者の
グルカゴン分泌を低下させることで肝臓のグルコース産生を制限する。
(【0061】、【0135】)
特に好ましいDPP-4阻害剤は、1-[(4-メチル-キナゾリン-
15 2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-
(3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン、特にその
遊離塩基(リナグリプチン又はBI1356としても知られている)であ
る。(【0070】、【0071】、【0083】)
DPP-4阻害剤であるシタグリプチンとビルダグリプチンについて、
20 それぞれメトホルミンと組み合わせた製剤が市販されており、同じくDP
P-4阻害剤であるテネリグリプチンの併用療法が、公知の文献に記載さ
れている。(【0083】、【0084】、【0086】、【0087】、【009
0】、【0109】、【0110】)
スルホニル尿素の効果は、治療の経過と共に徐々に消えるので、DPP
25 -4阻害剤とスルホニル尿素との組合せは、より良い血糖コントロールの
点から患者に追加の利益をもたらすことができる。また、スルホニル尿素
を用いた治療は、通常、治療の経過と共にゆっくりとした体重増加を伴う
ので、DPP-4阻害剤は、スルホニル尿素を用いた治療のこの副作用を
最小限に抑えることができる。したがって、DPP-4阻害剤とスルホニ
ル尿素との組合せによって、スルホニル尿素を用いた経口単剤療法、また
5 はメトホルミンとの経口併用療法にもかかわらず、血糖コントロールが不
十分な患者でさえも、血糖コントロールの改善が達成できる。(【012
2】、【0143】)
脂肪肝は、2型糖尿病を患う患者の特徴であり、NAFLD(非アルコ
ール性脂肪肝疾患)の原因と基礎となる。食餌誘発性肥満モデルのマウス
10 (DIOマウス)において、リナグリプチンの治療効果を調査した結果、
肝臓脂肪含有量が有意に低下した。また、ob/obマウスにおいて、リ
ナグリプチンの治療効果を調査した結果、肝臓の脂肪変性及び炎症が少な
いことが判明した。結論として、リナグリプチンは、2つの異なる齧歯類
モデルにおいて、いずれもDPP-4活性を阻害するとともに、肝臓の脂
15 肪含有量及びNAFLDを有意に低下させており、これらの結果は、2型
糖尿病及びNAFLDを患う患者におけるリナグリプチンの使用を支持す
る。(例13、【0242】、【0243】)
カ なお、本件明細書の発明の詳細な説明には、リナグリプチンとスルホニ
ル尿素の組合せについて、治療効果を確認した薬理試験結果は示されてい
20 ない。
3 本件審決の理由の要旨
原告は、本件発明に係る特許の無効理由として、実施可能要件違反及びサポ
ート要件違反を主張したところ、本件審決は、上記各無効理由には理由がない
と判断した。本件審決の理由の要旨は、以下のとおりである。
25 (1) 実施可能要件について
ア(ア) 本件発明1について、本件明細書の発明の詳細な説明には、例13と
して、リナグリプチンを食餌誘発性肥満モデルのマウス及びob/o
bマウスに投与して、リナグリプチンがDPP-4阻害剤であるこ
と、2型糖尿病に対する治療効果を奏するものであることを確認した
薬理データが記載されている(【0242】、【0243】)。上記両マウ
5 スが、2型糖尿病の動物モデルであり、肝臓疾患に対してより高いリ
スクを示すことは技術常識であるから、当業者は、上記薬理データの
記載から、リナグリプチンであるDPP-4阻害剤を含む医薬組成物
により2型糖尿病の治療等を必要とする患者であって、肝臓疾患に対
してより高いリスクを示すか、又は肝臓疾患を有する患者における2
10 型糖尿病の治療等をできることを理解できる。
(イ) また、発明の詳細な説明には、スルホニル尿素を用いた治療は、時間
とともに血糖コントロールが悪化し、長期的効果に限界があったとこ
ろ、DPP-4阻害剤とスルホニル尿素の組合せは、スルホニル尿素
を用いた治療によっても血糖コントロールが不十分であった患者であ
15 っても、血糖コントロールの改善ができることが記載されている(【0
006】、【0122】、【0143】)。
さらに、DPP-4阻害剤であるリナグリプチンと組み合わせる抗糖
尿病薬として、スルホニル尿素やメトホルミンが記載され(【013
0】の表1、【0132】の表2中、実施形態E2.2、E2.5~E
20 2.7)、さらに、DPP-4阻害剤を他の経口抗糖尿病薬(メトホル
ミン)と組み合わせた製剤が市販されていること(【0086】、【00
90】)、DPP-4阻害剤を用いた併用療法が本件出願当時公知の文
献に記載されていること(【0110】)も、発明の詳細な説明に記載
されている。
25 そして、2型糖尿病治療薬の分野では、作用機序の異なる経口抗糖尿
病薬の併用は、作用機序の違いから相加・相乗的な薬効増加が期待さ
れ、実際、多くの組合せにおいて血糖改善効果が報告されていたこと
は技術常識であり、DPP-4阻害剤とスルホニル尿素が異なる作用
機序の経口抗糖尿病薬であることも技術常識である。
そうすると、発明の詳細な説明の記載及び技術常識に基づいて、スル
5 ホニル尿素を用いた療法にもかかわらず血糖コントロールが不十分な
患者に対して、スルホニル尿素とは作用機序が異なるDPP-4阻害
剤をスルホニル尿素と組み合わせて投与することにより、2型糖尿病
の治療等をできることを、当業者は理解すると認められる。
(ウ) そして、本件発明1の「患者」である上記(ア)及び(イ)の者(リナグ
10 リプチンであるDPP-4阻害剤を含む医薬組成物により2型糖尿病
の治療等を必要とする患者であって、肝臓疾患に対してより高いリス
クを示すか、又は肝臓疾患を有し、スルホニル尿素を用いた療法にも
かかわらず、血糖コントロールが不十分な患者。以下「本件患者」と
いう。)における2型糖尿病の治療等をできないとする理由、例えば、
15 リナグリプチンが有するDPP-4阻害作用が阻害され治療効果を奏
しないことや、重篤な副作用等の不具合が生じ得ることは、証拠上確
認できない。
(エ) したがって、発明の詳細な説明の記載及び技術常識に基づいて、本件
発明1の医薬組成物を使用できることを、当事者は理解できる。
20 イ 本件発明2~12、14、15、17~21についても、発明の詳細な
説明の記載は、これらを実施することができる程度に明確かつ十分に記載
されているといえる。
(2) サポート要件について
【0011】、【0012】及び本件発明の特許請求の範囲の記載からみ
25 て、本件発明の解決しようとする課題は、以下のとおりであると認められ
る。
「それを必要とする患者において、
-2型糖尿病を治療するための、又は
-血糖コントロールを改善するための、及び/又は、空腹時血漿グルコー
ス、摂食後の血漿グルコース及び/若しくはグリコシル化ヘモグロビンHb
5 A1cを低下させるための、又は
-糖尿病合併症、例えば白内障、並びに微小血管性及び大血管性疾患、例
えば腎症、網膜症、ニューロパシー、学習障害及び記憶障害、神経変性障害
若しくは認知障害、心臓血管若しくは脳血管の疾患、組織虚血、糖尿病性足
病変若しくは胃潰瘍、動脈硬化、高血圧、内皮障害、心筋梗塞、急性冠不全
10 症候群、不安定狭心症、安定狭心症、脳卒中、末梢性動脈閉塞性疾患、心筋
症、心不全、心臓リズム障害及び血管再狭窄からなる群から選択される状態
若しくは障害を予防、その進行を緩徐、遅延、又は治療するための医薬組成
物であって、
(a)リナグリプチンであるDPP-4阻害剤、又はその医薬的に許容され
15 る塩を含み、
(b)ビグアニド、チアゾリジンジオン、スルホニル尿素、グリニド、α-
グルコシダーゼ阻害剤及びGLP-1類縁体又は医薬的に許容されるそ
の塩からなる群から選択される第2の抗糖尿病薬と組み合わせて投与され、
(c)ビグアニド、チアゾリジンジオン、スルホニル尿素、グリニド、α-
20 グルコシダーゼ阻害剤及びGLP-1類縁体又は医薬的に許容されるそ
の塩からなる群から選択される(b)と異なる第3の抗糖尿病薬、と組み合
わせて投与されてもよく、
第2の抗糖尿病薬、又は存在する場合には第3の抗糖尿病薬のいずれかが
スルホニル尿素であり、
25 患者が、第2の抗糖尿病薬を用いた単剤療法にもかかわらず、血糖コント
ロールが不十分であり、又は、
患者が、第2及び第3の抗糖尿病薬を用いた2剤療法にもかかわらず、血
糖コントロールが不十分であり、
患者が、肝臓疾患に対してより高いリスクを示すか、又は有する、
医薬組成物を提供すること」
5 当業者は、前記(1)アのとおり、発明の詳細な説明の記載及び技術常識に
基づいて、リナグリプチンとスルホニル尿素を組み合わせて投与すること
で、本件患者を治療できると理解する。
したがって、本件発明1~12、14、15、17~21は、発明の詳細
な説明の記載及び出願時の技術常識に照らして、当業者が前記課題を解決で
10 きると認識できる範囲のものといえる。
第3 原告の主張する取消事由及びこれに対する被告の主張
1 取消事由1(実施可能要件に関する判断の誤り)について
【原告の主張】
(1)ア 薬理効果の有無とその程度の予測が困難な医薬発明については、当業者
15 が、その創作能力を発揮せずとも、薬理効果の有無とその程度を具体的に
認識して初めて実施可能であると評価することができる。そのためには、
単に、医薬が、その医薬用途に使用できる可能性があるとか、有効性を期
待できるとか、予備的な試験で参考程度のデータながら有望な結果が得ら
れているといったレベルでは足りず、その予測の困難から生じる疑いを超
20 える程度の信頼するに足る裏付けが明細書等に記載されている必要があ
る。医薬用途の発明にあっては、そのような裏付けは薬理試験結果、すな
わち薬理試験によって得られたデータによるしかない。
しかし、本件明細書の【0242】、【0243】に記載されている実験
は、リナグリプチン単剤を齧歯類(食餌誘発性肥満モデル)に投与したも
25 のにすぎず、本件発明で特定される組合せ投与(併用)、患者、対象疾病
につき、予防、その進行を緩徐、遅延又は治療することが可能であること
を裏付ける薬理試験ではない。
それにもかかわらず、本件審決は、実施可能要件を充足すると判断した
のであり、特許法36条4項1号の解釈及び判断を誤った違法がある。
イ また、本件審決は、本件患者に対し、リナグリプチンとスルホニル尿素
5 等を併用した場合、2型糖尿病の治療等をできないとする理由は証拠上確
認できないとしたが、誤りである。
すなわち、単剤として安全に使用できることがそれぞれ知られている薬
剤であっても、併用した場合には、安全性の観点から使用禁忌となること
がある。本件出願日当時、本件発明の医薬組成物において必須の薬剤であ
10 るスルホニル尿素は、重篤な肝機能障害のある患者には禁忌であり、肝臓
病患者に対して慎重に投与すべきとする技術常識があった上(甲32)、
スルホニル尿素にメトホルミン(ビグアナイド薬)を追加すると、糖尿病
関連死が96%増加するとの報告があった(甲31)。
(2) 特許法36条4項1号は、新規性・進歩性があり従来技術に比べて優れた
15 属性や効果(有用性)を有する発明について、当該有用性につき明細書の裏
付けを要求していると解すべきである。本件審決は、実施可能要件の対象で
ある発明は新規性・進歩性とは無関係であり、新規性・進歩性がなく高度の
技術的思想とはいえない発明であっても、技術常識によって実施可能であれ
ば実施可能要件を充足すると解釈した点に、基本的な誤りがある。
20 【被告の主張】
(1) 本件審決は、本件明細書中の薬理試験の結果、本件出願日当時の技術常識
に照らして、本件患者に対するアドオン併用療法において、高血糖状態に作
用し、2型糖尿病に対する治療効果(利益)を提供するために、DPP-4
阻害剤の中でも、ひときわ優れた作用強度及び持続性効果、有利な薬理学的
25 特性等を有するリナグリプチンを使用することについての根拠を理解するこ
とができると認定、判断したものであり、誤りはない。
原告が指摘する甲第32号証については、本件発明はこれまでスルホニル
尿素を含むバックグランド薬による治療実績がある2型糖尿病患者を対象と
しており、重篤な肝機能障害のためにスルホニル尿素が禁忌である患者は対
象外である上、甲第32号証の内容は肝臓疾患を有する2型糖尿病患者に対
5 するスルホニル尿素の投与を否定するものではない。甲第31号証について
は、スルホニル尿素とメトホルミン(ビグアノイド薬)との組合せについ
て、「臨床試験はいくつか報告があり、いずれもスルホニル尿素とビグアノ
イド薬やグルコシダ-ゼの併用療法は空腹時血糖やHbA1cの改善効果が
ある点では共通している。」と記載されており、スルホニル尿素とメトホル
10 ミンとの組合せの実施可能性を否定するものではない。
(2) 新規性・進歩性の各要件は、公知の発明又は当業者が公知の発明から容易
に想到することができた発明に対して独占的、排他的な権利を発生させない
ようにするために、そのような発明を特許付与の対象から排除するものであ
り、実施可能要件とは趣旨を異にする独立の要件であるから、実施可能要件
15 を充足するか否かという判断の枠組みに、新規性・進歩性の判断を取り込む
べきではない。
2 取消事由2(サポート要件に関する判断の誤り)について
【原告の主張】
本件審決は、本件発明の課題について、従来技術であるリナグリプチンが有
20 していた課題をそのまま認定したため、本件発明に有用性があるかどうか、そ
の裏付けがあるかどうかについての判断を欠落させた。その結果、本件審決に
は、本件発明が従来技術より優れた属性や作用効果を持つ有用性ある発明とし
てサポートされているかの判断をせず、技術常識が記載されているにすぎない
本件明細書の記載をもってサポート要件を充足すると判断した点において、特
25 許法36条6項1号の解釈を誤った違法がある。
【被告の主張】
原告の主張は、サポート要件の判断に進歩性の判断を取り込むものであり、
理由がない。サポート要件における課題は、課題に関する記載が全くないとい
った例外的な事情がない限り、発明の詳細な説明に記載された課題に従って判
断すれば十分なのであって、出願時の技術水準を考慮するなどという名目で、
5 あえて周知技術や技術常識を取り込み、発明の詳細な説明に記載された課題と
は異なる課題を認定することは必要ではないし、相当でもない。
第4 当裁判所の判断
1 取消事由1(実施可能要件に関する判断の誤り)について
(1) 特許法36条4項1号は、明細書の発明の詳細な説明の記載は、その発明
10 の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)がその実施を
することができる程度に明確かつ十分に記載したものでなければならないと
定める。この「実施」とは、物の発明においては、その物の生産、使用等を
する行為をいうものであるから(同法2条3項1号)、実施可能要件を充た
すためには、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術
15 常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、当該発明に係る物を作
り、使用をすることができる程度の記載があることを要する。
そして、本件発明は、既知の医薬品の用法、投与対象者等を特定したいわ
ゆる医薬用途発明であるところ、一般に医薬用途発明においては、医薬の有
効量、投与方法等が記載されていても、それだけでは、当業者において当該
20 医薬が実際にその用途において使用できるかを予測することは困難であるか
ら、実施可能要件を満たすというためには、明細書において、当該物質が当
該用途に使用できることにつき薬理データ又はこれと同視することができる
程度の事項を記載し、出願時の技術常識に照らして、当該物質が当該用途の
医薬として使用できることを当業者が理解できるようにする必要があると解
25 するのが相当である。
(2) これを本件についてみると、特許請求の範囲の記載によれば、本件発明1
は、リナグリプチンを含む医薬組成物であって、本件患者に対し、2型糖尿
病等の治療のために、少なくともスルホニル尿素と組み合わせて投与される
医薬組成物の発明であると認められる。
そして、本件明細書には、前記第2の2(2)のとおり、①DPP-4阻害
5 剤は、酵素ジペプチジルペプチダーゼⅣ(DPP-4)を抑制する化合物で
あり、これによりGLP-1レベルが増加し、患者のグルカゴン分泌を低下
させることで肝臓のグルコース産生を制限すること、他の抗糖尿病薬との併
用療法が知られており、併用医薬の製剤が市販されていたこと(【006
1】、【0083】、【0084】、【0086】、【0087】、【0090】、【0
10 109】、【0110】、【0135】)、②DPP-4阻害剤であるリナグリプ
チンを、食餌誘発性肥満モデルのマウス及びob/obマウスに投与したと
ころ、いずれもDPP-4活性を阻害するとともに、肝臓の脂肪含有量及び
非アルコール性脂肪肝疾患を有意に低下させ、2型糖尿病及び非アルコール
性脂肪肝疾患に対して治療効果を奏したこと(【0242】、【0243】)、
15 ③スルホニル尿素の効果は、治療の経過と共に徐々に消える上、通常、体重
増加の副作用を伴うが、DPP-4阻害剤とスルホニル尿素との組合せは、
スルホニル尿素を用いた治療にもかかわらず血糖コントロールが不十分な患
者に対し、血糖コントロールの改善及び副作用の軽減が達成できること
(【0122】、【0143】)が、それぞれ記載されている。
20 また、証拠(甲4、5、7~9)によれば、本件出願日当時、①食餌誘発
性肥満モデルのマウスは2型糖尿病の動物モデルであり、肥満に関連する脂
肪肝とそれに続く炎症を発症するリスクがあること、②ob/obマウスは
糖尿病かつ非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)の動物モデルであり、
自発的に脂肪肝を発症するリスクがあること、③スルホニル尿素とDPP-
25 4阻害剤は、いずれも2型糖尿病における経口抗高血糖薬であり、前者の作
用機序は、膵ランゲルハンスβ細胞からのインスリン分泌を促進させること
によるものであるのに対し、後者の作用機序は、GLP-1の作用を増強し
てグルコース依存性インスリンの分泌を促進することによるものであって、
両者の作用機序が異なること、④2型糖尿病治療薬の分野では、作用機序の
異なる経口抗糖尿病薬を組み合わせる併用療法が広く行われており、DPP
5 -4阻害剤とスルホニル尿素の併用療法も試みられ、3種類以上の経口血糖
降下薬の併用も行われていたこと、⑤作用機序の異なる経口血糖降下薬の併
用は、作用機序の違いから相加・相乗的な薬効増加が期待され、実際、多く
の組合せにおいて血糖改善効果が報告されていたことという技術常識が存在
したと認められる。
10 加えて、本件の関係各証拠上、本件出願日当時、本件患者に対し、リナグ
リプチンとスルホニル尿素を併用して投与した場合、著しい副作用又は有害
事象が発生することをうかがわせる事情は看取できない。
そうすると、本件明細書に接した当業者は、本件明細書の記載及び本件出
願日当時の技術常識に基づいて、DPP-4阻害剤であるリナグリプチンを
15 作用機序が異なるスルホニル尿素と併用し、本件患者に投与することによ
り、両剤の作用が補完し合い、それぞれ単独で用いた場合に比べて2型糖尿
病等に対する治療効果が向上すると理解できるものと認められる。
(3) また、本件発明2~12、14、15、17~21についても、これらは
いずれもリナグリプチンとスルホニル尿素を併用した上で、投与対象、用法
20 及び用量を特定したものであって、本件発明1について上記(2)で説示した
のと同様の理由により、本件明細書の記載及び本件出願日当時の技術常識に
基づき、当業者が、当該用途に使用できることを理解できるように記載され
ているといえ、本件審決の判断に誤りはない。
(4) これに対し、原告は、①医薬用途発明の医薬用途は具体的な薬理試験結果
25 によって裏付けられる必要がある、②単剤として安全に使用できることが知
られている薬剤であっても、併用した場合には使用禁忌となることがある
(甲31、32)、③実施可能要件の判断においては、新規性・進歩性があ
り、従来技術に比べて優れた属性や効果を有する発明につき、当該優れた属
性や効果について、当業者が実施可能であると理解できるだけの裏付けが明
細書に記載されていることを要すると主張するが、以下のとおり、いずれも
5 採用することができない。
上記①について、前記(1)で述べたとおり、物の発明である医薬用途発明
については、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に照ら
して、当該物質が当該用途の医薬として使用できることを当業者が理解でき
れば足り、薬理データの記載を欠くことから直ちに実施可能要件を満たさな
10 いことにはならない。そして、本件発明について、明細書の記載及び技術常
識から当該医薬用途に使用できると解されることは、前記(2)及び(3)で説示
したとおりである。
上記②について、本件発明は、重篤な肝機能障害があってスルホニル尿素
が使用禁忌である患者を対象とするものではない上(甲32)、原告が指摘
15 する証拠(甲31、32)には、スルホニル尿素とメトホルミンの併用が禁
忌である旨の記載はなく、当業者が、肝臓疾患を有する患者に対してリナグ
リプチンとスルホニル尿素、あるいは両薬剤に加えてメトホルミンなどの他
の抗糖尿病薬を更に併用して投与した場合に、著しい副作用又は有害事象が
発生すると理解したことを認めるに足りない。
20 上記③について、実施可能要件(特許法36条4項1号)は、発明の詳細
な説明に、当業者が容易にその実施をできる程度に発明の構成等が記載され
ていない場合には、発明が公開されていないことになり、発明者に対して独
占的、排他的権利を付与する前提を欠くため、発明の詳細な説明の記載の要
件として規定されていると解されるのに対し、新規性・進歩性(同法29条
25 1項及び2項)は、公知発明や、当業者が公知の技術から容易に想到するこ
とができた発明に対して独占的、排他的な権利を発生させないようにするた
めに、そのような発明を特許付与の対象から排除するものであり、特許の要
件として規定されている。そうすると、実施可能要件を充足するか否かとの
判断は上記の観点から行われるべきであり、その枠組みに新規性・進歩性の
判断を取り込むべきではない。
5 2 取消事由2(サポート要件に関する判断の誤り)について
(1) 特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範
囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載され
た発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載
により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである
10 か否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照ら
し当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものであるか否かを検討
して判断すべきものであると解される。
これを本件についてみると、前記第2の2(2)イ及びウのとおり、本件明
細書には、メトホルミン、スルホニル尿素又はインスリンを用いた従来の2
15 型糖尿病の治療は長期的効果に限界があり(【0006】)、従来の抗糖尿病
薬を用いた単剤療法及び併用療法にもかかわらず、血糖コントロールが不十
分な患者における、血糖コントロールを改善するための薬物及び方法を提供
する旨の記載(【0011】、【0012】)があることに加え、特許請求の範
囲の記載を勘案すれば、併用医薬である本件発明の課題は、本件審決が認定
20 したとおりである(前記第2の3)。
そして、前記1(2)及び(3)で述べたとおり、当業者においては、本件明細
書の発明の詳細な説明の記載及び技術常識に基づき、リナグリプチンとスル
ホニル尿素を本件患者に併用投与すると、それぞれ単独で用いた場合に比べ
て2型糖尿病に対する治療効果が向上すると理解することができると解され
25 るから、上記課題を解決できることを認識し得るということができる。
(2) これに対し、原告は、本件審決は、本件発明の課題について、従来技術で
あるリナグリプチンが有していた課題をそのまま認定したため、本件発明が
従来技術より優れた属性や作用効果をもつ発明としてサポートされているか
否かの判断を欠落させた点に違法がある旨主張する。
しかしながら、サポート要件(特許法36条6項1号)は、発明の詳細な
5 説明に記載していない発明を特許請求の範囲に記載すると、公開されていな
い発明について独占的、排他的な権利が発生することになるので、これを防
止するために、特許請求の範囲の記載の要件として規定されているのに対
し、新規性・進歩性(同法29条1項及び2項)は、前記1(4)③につき述
べたとおり、特許の要件として規定されている。そうすると、サポート要件
10 を充足するか否かとの判断は上記の観点から行われるべきであり、その枠組
みに新規性・進歩性の判断を取り込むべきではない。
原告の主張は、従来技術では解決できない課題を認定し、当業者が、明細
書の記載から、特許請求の範囲に記載された発明がこの課題を解決できると
認識できたか否かを検討すべきとのするものであるから、サポート要件の判
15 断に進歩性の判断を取り込むものとして、採用することができない。
3 結論
以上のとおり、本件審決についての原告の取消事由に関する主張は採用でき
ず、そのほかに本件において本件審決を取り消すべき事由は認められない。よ
って、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり
20 判決する。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官
25 長 谷 川 浩 二
裁判官
岩 井 直 幸
5 裁判官
安 岡 美 香 子
(別紙)
本件明細書の記載事項(抜粋)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
5 【0001】
本発明は、とりわけ、1型糖尿病、2型糖尿病、耐糖能障害、空腹時血糖障害及び高血糖から
選択される1つ又は複数の状態の治療又は予防に適したDPP-4阻害剤、さらに本明細書中に
定義されているそのようなDPP-4阻害剤と、任意で1つ又は複数の他の活性物質とを含む医
薬組成物又は組合せ、代謝障害の治療における、特に抗糖尿病薬としてのその使用に関する。
10 【背景技術】
【0006】
UKPDS(United Kingdom Prospective Diabetes S
tudy)は、メトホルミン、スルホニル尿素又はインスリンを用いた集中治療は、結果として、
限られた血糖コントロールの改善(HbA1cの差は約0.9%)をもたらすだけであったこと
15 を実証した。加えて、集中治療の治療群内の患者でさえ、血糖コントロールは、時間の経過とと
もに有意に悪化し、これにより、β細胞機能の悪化を引き起こした。重要なことに、集中治療は、
大血管性合併症、すなわち心血管イベントの有意な減少を伴わなかった。したがって2型糖尿病
の多くの患者は、処置が不十分なままであり、これは、一部には、現在の血糖上昇抑制治療に長
期的効果に限界があること、耐性が生じること及び投薬が不便であるためである。
20 【0007】
従来から治療に使用されてきた経口の抗糖尿病薬(例えば、1次治療若しくは2次治療、及び
/又は単剤療法若しくは(初期療法又は追加療法)併用療法)として、メトホルミン、スルホニ
ル尿素、チアゾリジンジオン、グリニド及びα-グルコシダーゼ阻害剤が挙げられるが、これら
に限定されない。
25 従来から治療に使用されてきた非経口の抗糖尿病薬として(例えば、1次治療若しくは2次治
療、及び/又は単剤療法若しくは(初期療法又は追加療法)併用療法)として、GLP-1又は
GLP-1類縁体、及びインスリン又はインスリン類縁体が挙げられるが、これらに限定されな
い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
5 【0011】
本発明の目的は、代謝障害、特に2型糖尿病を予防、その進行を緩徐、遅延、又は治療するた
めの薬物及び/又は方法を提供することである。
本発明のさらなる目的は、それを必要とする患者、特に2型糖尿病を患う患者における、血糖
コントロールを改善するための薬物及び/又は方法を提供することである。
10 本発明の別の目的は、例えばメトホルミンなどの抗糖尿病薬を用いた単剤療法にもかかわらず、
又は2若しくは3つの抗糖尿病薬を用いた併用療法にもかかわらず、血糖コントロールが不十分
な患者における、血糖コントロールを改善するための薬物及び/又は方法を提供することである。
本発明の別の目的は、耐糖能障害(IGT)、空腹時血糖障害(IFG)、インスリン抵抗性
及び/又はメタボリックシンドロームから、2型糖尿病への進行を予防、緩徐、又は遅延させる
15 ための薬物及び/又は方法を提供することである。
【0012】
本発明のさらに別の目的は、糖尿病合併症からなる群からの状態又は障害を予防、その進行を
緩徐、遅延、又は治療するための薬物及び/又は方法を提供することである。
本発明のさらなる目的は、それを必要とする患者における、体重を減少させ、又は体重の増加
20 を予防するための薬物及び/又は方法を提供することである。
本発明の別の目的は、代謝障害、特に糖尿病、耐糖能障害(IGT)、空腹時血糖障害(IF
G)、及び/又は高血糖の治療に高い効果がある薬物を提供することであり、この薬物は、薬理
学的及び/又は薬物動態学的及び/又は物理化学的特性を、優れたものから非常に優れたものま
で有する。
25 本発明のさらなる目的は、本明細書中のこれより前及び以下の記載により、並びに例から、当
業者には明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の範囲内で、驚くべきことに、本明細書中に定義されたDPP-4阻害剤、並びに本明
細書中に定義されたDPP-4阻害剤を含む医薬組成物又は組合せ、及び任意で1つ又は複数の
5 他の活性物質が、代謝障害を予防、進行を緩除、遅延(例えば開始を遅延させる)、又は治療す
るため、特に患者の血糖コントロールを改善するために有利に使用することができることが現在
判明している。これにより、2型糖尿病、過体重、肥満、糖尿病及び類似の疾患状態の合併症の
治療及び予防における新しい治療の可能性が開かれる。
【0061】
10 本発明の範囲で「DPP-4阻害剤」という用語は、酵素ジペプチジルペプチダーゼIV(D
PP-4)について抑制活性を示す化合物に関する。このような抑制活性は、IC50値により
特徴づけることができる。DPP-4阻害剤は、好ましくは10000nM未満、好ましくは1
000nM未満のIC50値を示す。あるDPP-4阻害剤は、100n M未満、さらには≦5
0nMのIC50値を示す。DPP-4阻害剤のIC50値は、通常0.01nMを超え、さら
15 には0.1nMを超える。DPP-Ⅳ害剤は、生物及び非生物、特に非ペプチド性化合物を含み
得る。DPP-4に対する抑制効果は、文献において既知の方法、特に、その全体が本明細書に
参照により組み込まれている、出願WO02/068420又はWO2004/018468(3
4頁)に記載されている通りもとめることができる。「DPP-4阻害剤」という用語はまた、
それぞれの結晶形態を含めた、任意の医薬的に許容されるその塩、水和物及び溶媒和物を含む。
20 【発明を実施するための形態】
【0070】
第1の実施形態(実施形態A)に関して、好ましいDPP-4阻害剤は、以下の化合物及び医
薬的に許容されるその塩のいずれか又はすべてである:
・1-[(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1
25 -イル)-8-(3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン(WO2004/
018468の実施例2 (142)と比較のこと):
【0071】
【化5】
(中略)
5 【0083】
本発明の実施形態A の上述のDPP-4阻害剤の中で、より好ましいDPP-4阻害剤は、1
-[(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イ
ル)-8-(3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン、特にその遊離塩基(リ
ナグリプチン又はBI1356としても知られている) である。
10 さらなるDPP-4阻害剤として、以下の化合物を挙げることができる:
- 以下の構造式Aを有するシタグリプチン(MK-0431)は、(3R)-3-アミノ-1-
[3-(トリフルオロメチル)-5,6,7,8-テトラヒドロ-5H-[1,2,4]トリア
ゾロ[4,3-a]ピラジン-7-イル]-4-(2,4,5-トリフルオロフェニル)ブタン
-1-オン、又は、(2R)-4-オキソ-4-[3-(トリフルオロメチル)-5 、6-ジヒ
15 ドロ[1,2,4]トリアゾロ[4,3-a ]ピラジン-7(8H)-イル]-1-(2,4,
5-トリフルオロフェニル)ブタン-2-アミンと称する。
【0084】
【化17】
20 【0086】
この化合物又はその塩を、例えば製造、製剤化又は使用するための方法の詳細については、こ
れら文献が上で参照されている。
シタグリプチンの錠剤製剤は、Januvia(登録商標)という商品名で市販されている。
シタグリプチン/メトホルミンの組合せの錠剤製剤は、Janumet(登録商標)という商品
5 名で市販されている。
-以下の構造式Bを有するビルダグリプチン(LAF-237)は、(2S)-{[(3-ヒド
ロキシアダマンタン-1-イル)アミノ]アセチル}ピロリジン-2-カルボニトリルであり、
(S)-1-[(3-ヒドロキシ-1-アダマンチル)アミノ]アセチル-2-シアノ-ピロリ
ジンとも称する。
10 【0087】
【化18】
【0090】
ビルダグリプチンの錠剤製剤は、Galvus(登録商標)という商品名で市販されることが
15 見込まれている。ビルダグリプチン/メトホルミンの組合せの錠剤製剤は、Eucreas(登
録商標)という商品名で市販される。
-以下の構造式Cを有するサクサグリプチン(BMS-477118)は、(1S,3S ,5
S)-2-{(2S)-2-アミノ-2-(3-ヒドロキシアダマンタン-1-イル)アセチル}
-2-アザビシクロ[3.1.0]ヘキサン-3-カルボニトリルであり、(S)-3-ヒドロ
20 キシアダマンチルグリシン-L-cis-4 ,5-メタノプロリンニトリルとも称する。
【0109】
-3-{(2S,4S)-4-[4-(3-メチル-1-フェニル-1H-ピラゾール-5-
イル)ピペラジン-1-イル]ピロリジン-2-イルカルボニル}チアゾリジン(テネリグリプ
チンとも称する)又は医薬的に許容されるその塩:
【0110】
この化合物及びその調製の方法は、WO02/14271で開示されている。特定の塩は、W
5 O2006/088129及びWO2006/118127で開示されている(中でも塩酸塩、
臭化水素酸塩が含まれる)。この化合物を用いた併用療法がWO2006/129785に記載
されている。この化合物又はその塩を、例えば製造、製剤化又は使用するための方法の詳細につ
いては、これら文献が上で参照されている。
【0122】
10 群G3は、スルホニル尿素を含む。スルホニル尿素の例は、グリベンクラミド、トルブタミド、
グリメピリド、グリピジド、グリキドン、グリボルヌリド、グリブリド、グリソキセピド及びグ
リクラジドである。好ましいスルホニル尿素は、トルブタミド、グリキドン、グリベンクラミド
及びグリメピリド、特にグリベンクラミド及びグリメピリドである。スルホニル尿素の効果は、
治療の経過と共に徐々に消えるので、DPP-4阻害剤とスルホニル尿素との組合せは、より良
15 い血糖コントロールの点から患者に追加の利益をもたらすことができる。また、スルホニル尿素
を用いた治療は、通常、治療の経過と共に、ゆっくりとした体重増加を伴うので、DPP-4阻
害剤は、スルホニル尿素を用いた治療のこの副作用を最小限に抑え、及び/又はメタボリックシ
ンドロームを改善することができる。また、スルホニル尿素と組み合わせたDPP-4阻害剤は、
スルホニル尿素の別の望ましくない副作用である低血糖を最小限に抑えることができる。この組
20 合せはまたスルホニル尿素の投与量の削減を可能とすることができ、これは低血糖の低下へとつ
ながり得る。
【0129】
一実施形態(実施形態E1)では、本発明による医薬組成物、組合せ、方法及び使用は、DP
P-4阻害剤と、第2の抗糖尿病薬とが、好ましくは表1の記入項目に従い選択される組合せに
25 関する。
【0130】
【表1】
【0131】
ある特定の実施形態では(実施形態E2)、本発明による医薬組成物、組合せ、方法及び使用
は、DPP-4阻害剤がリナグリプチンである組合せに関する。実施形態E2によると、第2
5 の抗糖尿病薬は、好ましくは表2 の記入項目に従い選択される。
【0132】
【表2】
【0135】
10 本発明によるDPP-4阻害剤は、活性のあるGLP-1レベルの増加を介して、患者のグル
カゴン分泌を低下させることができる。したがって、これにより肝臓のグルコース産生を制限す
ることになる。さらに、DPP-4阻害剤により生じた、活性のあるGLP-1の上昇レベル
は、β 細胞再生及び新生に対して有利な効果を生じることになる。DPP-4阻害剤のすべて
のこれらの特徴により、本発明の医薬組成物又は組合せ又は方法は、かなり有用で、治療上関連
性のあるものとなることができる。
5 本発明が、治療又は予防を必要とする患者に言及している場合、これは、主にヒトにおける治
療及び予防に関するが、医薬組成物は、哺乳動物における獣医薬にも適宜使用することができ
る。本発明の範囲では、成人患者は、18才以上の年齢のヒトであることが好ましい。同様に本
発明の範囲内では、患者は青年のヒト、すなわち年齢10から18才未満のヒト、好ましくは年
齢13から18才未満である。
10 【0143】
したがって、本発明による医薬組成物又は組合せを使用することによって、メトホルミン、チ
アゾリジンジオン(例えばピオグリタゾン)若しくはスルホニル尿素を用いた最大耐容性を示す
投与量の経口単剤療法、又はメトホルミンとスルホニル尿素、メトホルミンとチアゾリジンジオ
ン(例えばピオグリタゾン)、若しくはチアゾリジンジオン(例えばピオグリタゾン)とスルホ
15 ニル尿素を用いた経口併用療法にもかかわらず、血糖コントロールが不十分な患者でさえも血糖
コントロールの改善が達成できることが認められる。
本発明による組合せを使用することによって、特に、DPP-4阻害剤又はDPP-4阻害剤
と、第2若しくは第3の抗糖尿病薬との組合せを用いた治療、例えばDPP-4阻害剤を用いた
最大の耐容性を示す投与量の経口単剤療法、又はDPP-4阻害剤と第2若しくは第3の抗糖尿
20 病薬の2剤併用を用いた治療にもかかわらず、血糖コントロールが不十分な患者でさえ、血糖コ
ントロールの改善が達成できることをさらに認めることができる。
【0152】
本発明による医薬組成物又は組合せは、特に本明細書中のDPP-4阻害剤が原因で、優れた
安全性プロファイルを示す。したがって、本発明による治療若しくは予防は、例えばメトホルミ
25 ンなどの別の抗糖尿病薬を用いた単剤療法が禁忌である患者、及び/又は治療量でのそのような
薬剤に対し不耐性である患者において可能である。特に、本発明による治療又は予防は、以下の
障害のうちの1 つ又は複数に対し、より高いリスクを示す又は有する患者において好都合にも
可能であってよい: 腎不全又は疾患、心疾患、心不全、肝臓疾患、肺性心疾患、異化状態及び
/ 又は乳酸アシドーシスの危険、又は女性患者が妊娠中若しくは授乳中である。
【0242】
5 (例13)
リナグリプチンが齧歯類モデルの脂肪肝を改善
脂肪肝は、2型糖尿病を患う患者の特徴であり、非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)の
原因の基礎となる。リナグリプチンは、ジペプチジルペプチダーゼ-4(DPP-4)の選択的
及び非腎臓排出性阻害剤である。食餌誘発性肥満モデル(DIO、2カ月又は3カ月餌を与え
10 た)において、リナグリプチン(3及び30mg/kg/d、n=10)を用いた4週間の治療
の効果を調査する。肝臓脂質含有量を、インビボの及びエキソビボで、肝臓トリグリセリドの分
析により、磁気共鳴法(MRS)で検出する。DPP-4活性は、対照と比較して、67% ~
80%及び79%~89%(それぞれ3及び30mg/kg)の分だけ、有意に(p<0.00
1)阻害する。OGTT(AUC) に続く血糖値レベルは、16%~20%(3mg/kg/
15 d)及び20%~26%(30mg/kg/d)の範囲で有意に抑制される(p<0.01)。
2カ月餌を与えたDIOマウスにおける3mg/kg投与以外は、肝臓脂肪含有量(MRS検
出)は、有意に低下している。肝臓脂肪含有量(MRS)の有意な低下は、早くも治療2週間目
には目に見える。MRSで測定した肝臓脂質含有量と、エキソビボで測定した肝臓トリグリセリ
ドレベルとの間の相関関係は、r2= 0.565(p<0.0001)である。
20 【0243】
3番目の試験で、14日間のリナグリプチン治療(3mg/kg/d)後にob/obマウス
を分析し、盲検法の組織学的採点法を実施する(重症度及び脂肪含有量の程度、炎症のマーカ
ー)。DPP-4活性は、80%阻害され、血糖値AUCの低下は、25%である。組織学的採
点法により、リナグリプチン群(2.2±0.13、n=9、p<0.01)と、対照群(3±
25 0.18、n=10)では、肝臓の脂肪変性及び炎症が少ないことが明らかである。結論とし
て、リナグリプチンは、2つの異なる齧歯類モデルにおいて、恐らく肝臓に特異的なインスリン
感作効果が原因で、肝臓の脂肪含有量及び組織学的NAFLDを有意に低下させている。肝臓の
脂肪変性の寛解は、2型糖尿病並びにNAFLDを患う患者におけるリナグリプチンの使用を支
持している。
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