令和7(行ケ)10059等審決取消請求事件
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| 裁判所 |
請求棄却 知的財産高等裁判所
|
| 裁判年月日 |
令和8年4月9日 |
| 事件種別 |
民事 |
| 対象物 |
15-ケト-プロスタグランジン類を含む薬物誘発性便秘処置用組成物 |
| 法令 |
特許権
特許法125条の220回 特許法67条2項2回
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| キーワード |
実施90回 無効64回 審決53回 特許権17回 無効審判11回 進歩性1回 侵害1回
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| 主文 |
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用(補助参加により生じた費用を含む。)は、 |
| 事件の概要 |
本件は、原告が、特許権の存続期間の延長登録の無効審判請求を不成立とした
2件の審決の各取消しを求める事案である。 |
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判決文
令和8年4月9日判決言渡
令和7年(行ケ)第10059号 審決取消請求事件(A事件)
令和7年(行ケ)第10064号 審決取消請求事件(B事件)
口頭弁論終結日 令和8年2月10日
5 判 決
当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり
主 文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用(補助参加により生じた費用を含む。)は、
10 両事件を通じ原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 A事件
特許庁が無効2023-800062号事件について令和7年6月4日にし
15 た審決を取り消す。
2 B事件
特許庁が無効2023-800063号事件について令和7年6月4日にし
た審決を取り消す。
第2 事案の概要
20 本件は、原告が、特許権の存続期間の延長登録の無効審判請求を不成立とした
2件の審決の各取消しを求める事案である。
1 特許庁における手続の経緯等(証拠を掲記していない事実は、当事者間に争い
がないか、又は当裁判所に顕著である。以下、証拠番号は、特記しない限りA事
件のものを指す。また、枝番号の表記は省略した。)
25 ⑴ 特許
スキャンポ・アーゲー(後に「スキャンポ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシ
ュレンクテル・ハフツング」と商号変更。以下、商号変更の前後を問わず、
「脱
退被告」という。)は、発明の名称を「15-ケト-プロスタグランジン類を含
む薬物誘発性便秘処置用組成物」とする発明について、平成14年4月26日
を国際出願日とする特許出願(特願2002-586947号)をし、平成2
5 1年6月26日、設定登録を受けた(特許第4332353号。請求項の数8。
以下「本件特許」といい、本件特許に係る特許権を「本件特許権」という。ま
た、特許請求の範囲記載の請求項のうち、唯一の独立請求項である請求項1に
記載された発明を「本件発明」という。)。
⑵ 医薬品の製造販売の承認
10 ア 株式会社スキャンポファーマは、平成22年9月24日付けで、厚生労働
大臣に対し、アミティーザカプセル24μg(以下「本件医薬品A」という。)
について、薬事法(平成25年法律第84号による改正後の題名は「医薬品、
医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」。以下、改正
の前後を問わず「薬機法」という。)14条1項の規定による医薬品の製造
15 販売の承認を申請し、平成24年6月29日、その承認を得た(承認番号2
2400AMX00733000。甲35、36)。
イ マイランEPD合同会社は、平成29年12月15日付けで、厚生労働大
臣に対し、アミティーザカプセル12μg(以下「本件医薬品B」といい、
本件医薬品Aと併せて「本件各医薬品」という。)について、薬機法14条1
20 項の規定による医薬品の製造販売の承認を申請し、平成30年9月21日、
その承認を得た(承認番号23000AMX00816000。B事件甲4
9、50)。
⑶ 本件特許権の存続期間の延長登録
ア 脱退被告は、平成24年9月26日、本件特許権について存続期間の延長
25 登録出願(特願2012-700142号)をして、平成25年12月4日、
存続期間の延長登録(以下「本件延長登録A」という。)がされた(甲1、
3)。
本件延長登録Aに係る延長の期間及び特許法(平成28年法律第108号
による改正前のもの。以下同じ。)67条2項の政令で定める処分(以下「本
件処分A」という。)の内容は、次のとおりである(甲1)。
5 延長の期間:3年2日
処分の内容:
(ア) 特許権の存続期間の延長登録の理由となる処分
薬機法14条1項に規定する医薬品に係る同項の承認
(イ) 処分を特定する番号
10 22400AMX00733000
(ウ) 処分の対象となったもの
販売名:アミティーザカプセル24μg(本件医薬品A)
有効成分:ルビプロストン
(エ) 処分の対象となったものについて特定された用途
15 慢性便秘症(器質的疾患による便秘を除く)
イ 脱退被告は、平成30年12月20日、本件特許権について存続期間の延
長登録出願(特願2018-700479号)をして、令和元年10月23
日、存続期間の延長登録(以下「本件延長登録B」といい、本件延長登録A
と併せて「本件各延長登録」という。)がされた(甲1、B事件甲3)。
20 本件延長登録Bに係る延長の期間及び特許法67条2項の政令で定める
処分(以下「本件処分B」といい、本件処分Aと併せて「本件各処分」とい
う。)の内容は、次のとおりである(甲1)。
延長の期間:5年
処分の内容:
25 (ア) 特許権の存続期間の延長登録の理由となる処分
薬機法14条1項に規定する医薬品に係る同項の承認
(イ) 処分を特定する番号
23000AMX00816000
(ウ) 処分の対象となったもの
販売名:アミティーザカプセル12μg(本件医薬品B)
5 一般名:ルビプロストン
(エ) 処分の対象となったものについて特定された用途
慢性便秘症(器質的疾患による便秘を除く)
⑷ 延長登録無効審判請求及び審決
ア 原告は、令和5年9月28日、本件延長登録Aについて延長登録無効審判
10 を請求した(甲44)。特許庁は、これを無効2023-800062号事
件として審理し、令和7年6月4日、「本件審判の請求は、成り立たない。」
との審決(以下「本件審決A」という。)をして、その謄本は、同月10日、
原告に送達された。
イ 原告は、令和5年9月28日、本件延長登録Bについて延長登録無効審判
15 を請求した(B事件甲58)。特許庁は、これを無効2023-80006
3号事件として審理し、令和7年6月4日、「本件審判の請求は、成り立た
ない。」との審決(以下「本件審決B」といい、本件審決Aと併せて「本件各
審決」という。)をして、その謄本は、同月10日、原告に送達された。
⑸ 審決取消訴訟の提起
20 原告は、令和7年6月19日、本件審決Aの取消しを求める訴えを提起し(A
事件)、同年7月8日、本件審決Bの取消しを求める訴えを提起した(B事件)。
当裁判所は、両事件を併合審理した。
⑹ 本件特許権の移転と訴訟引受け
脱退被告は、本件特許権を被告に譲渡し、令和7年12月16日受付をもっ
25 て、本件特許権の移転登録がされた。
当裁判所は、令和8年2月6日、脱退被告の申立てにより、被告に本件訴訟
を引き受けさせる旨の決定をした。
脱退被告は、同月10日の本件第1回口頭弁論期日において、原告の承諾を
得て本件訴訟から脱退した。
2 特許請求の範囲の記載(本件発明)
5 本件特許に係る特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。
なお、本件特許につき原告が請求した無効審判請求事件(無効2023-80
0077号事件)において、脱退被告は、請求項1を含む特許請求の範囲の記載
につき訂正請求をし、特許庁は、同訂正を認めた上で、無効不成立の審決をした
が、原告が同審決の取消しを求める訴訟を提起し(当庁令和7年(行ケ)第10
10 055号)、同事件は当庁に係属中であるため、上記訂正は確定していない。
【請求項1】
一般式(II):
【化1】
15 [式中、Lはオキソ、Mはヒドロキシ;
Aは、-COOHまたはその塩、エステルもしくはアミド;
Bは、-CH2-CH2-;
X1およびX2は、水素、低級アルキルまたはハロゲンであって、X1および
X2の少なくとも一方はハロゲンである;
20 R1は、非置換の二価の飽和または不飽和の炭素数1〜14の直鎖または分
枝鎖を有する脂肪族炭化水素(ただし、側鎖は炭素数1〜3のものである);
R2は、単結合または低級アルキレン;そして、
R3は、低級アルキル]
で示される13,14-ジヒドロ-15-ケト-16-モノ-またはジ-ハ
ロゲン-プロスタグランジンE化合物を有効成分として含む、オピオイド化合
物または抗コリン作用薬による薬物誘発性便秘処置用組成物。
3 原告が審判段階で主張した無効理由(両事件共通)
5 ⑴ 無効理由1(特許法125条の2第1項1号所定の無効理由)
次の理由1-1及び1-2のとおり、本件発明の実施に、本件処分A又はB
を受けることが必要であったとは認められないから、本件各延長登録にはいず
れも特許法125条の2第1項1号所定の無効理由がある。
ア 理由1-1(本件発明の実施とはいえない用途)
10 本件各処分の対象である本件各医薬品につき特定された用途である「慢性
便秘症(器質的疾患による便秘を除く)」には、本件発明の発明特定事項で
ある「オピオイド化合物または抗コリン作用薬による薬物誘発性便秘」以外
にも、オピオイド化合物又は抗コリン作用薬以外の薬物による慢性便秘症や、
薬剤性便秘以外の「機能性便秘(慢性特発性便秘)」、
「IBS便秘」及び「症
15 候性便秘」が含まれている。
本件発明は医薬品用途発明であるところ、医薬品用途発明を実施したとい
えるかは、
「ラベル論」、すなわち、特定された用途に使用することを明記し
たラベル等が付された物の販売等が「実施」に当たるとする考え方によって
判断されるべきである。
20 これを本件についてみると、本件各医薬品は、効能・効果の注意書きにお
いて、薬剤性便秘については有効性も安全性も確立されていないどころか使
用経験がないとまで記載されているから、本件各医薬品の製造販売は、薬物
誘発性便秘の処置に用いることを発明特定事項とする本件発明の実施には
当たらない。
25 したがって、本件各延長登録は、いずれも、「その延長登録がその特許発
明の実施に第67条第2項の政令で定める処分を受けることが必要であっ
たとは認められない場合の出願」に対してされたものである。
イ 理由1-2(承認の内容との関係)
本件各医薬品の製造販売の承認申請において、薬剤性便秘患者に対する臨
床試験は行われていないことや、本件各医薬品の添付文書その他の各種文書
5 の記載によると、本件各医薬品は、その効能又は効果から薬剤性便秘が除外
されて承認されたものとみるべきである。
したがって、本件各処分においては、薬剤性便秘を効能又は効果とするも
のは対象とされていないと解すべきであり、本件各医薬品の製造販売は、本
件発明の実施には当たらない。
10 よって、本件各延長登録は、いずれも、「その延長登録がその特許発明の
実施に第67条第2項の政令で定める処分を受けることが必要であったと
は認められない場合の出願」に対してされたものである。
⑵ 無効理由2(特許法125条の2第1項3号所定の無効理由)
次のとおり、本件各延長登録により延長された期間は、本件発明の実施をす
15 ることができなかった期間を超えているから、本件各延長登録にはいずれも特
許法125条の2第1項3号所定の無効理由がある。
すなわち、特許権の存続期間の延長制度は、処分を受けるために特許発明を
実施することができなかった期間を回復することを目的とするものであるか
ら、医薬品の用途発明の特許について延長期間を算定する基礎となる「処分を
20 受けるのに必要な試験」は、当該用途についての試験であることを要すると解
すべきである。また、
「特許発明を実施することができなかった期間」とは、特
許発明を実施する意思及び能力があってもなお特許発明を実施することがで
きなかった期間をいうと解すべきであり、意思の発現として、当該用途につい
ての臨床試験を実施することを要すると解すべきである。
25 ここで、本件発明は「薬物誘発性便秘処置用組成物」という用途発明である
が、本件各処分を受けるに当たり、薬物誘発性便秘の患者を対象とした臨床試
験は行われていない。
したがって、本件発明について「処分を受けるのに必要な試験」は実施され
ておらず、「特許発明を実施することができなかった期間」を観念できないか
ら、本件各延長登録は、その延長期間が、本件特許発明を実施することができ
5 なかった期間を超えているといえる。
4 本件審決の理由の要旨
⑴ 無効理由1(特許法125条の2第1項1号所定の無効理由)について
ア 本件医薬品の製造販売行為が本件発明の実施に当たるかについて
本件各医薬品は、本件発明の「一般式(II)…で示される13,14-ジ
10 ヒドロ-15-ケト-16-モノ-またはジ-ハロゲン-プロスタグラン
ジンE化合物を有効成分として含む」「組成物」という発明特定事項を備え
ている。
一般に、慢性便秘には、器質性便秘のほか、特発性便秘、症候性便秘及び
薬剤性便秘などを含むとされるから、本件各医薬品の効能又は効果である
15 「慢性便秘症(器質的疾患による便秘を除く)」は、慢性便秘のうち特発性
便秘、症候性便秘及び薬剤性便秘をいうと認められる。便秘を誘発する薬物
としてオピオイド化合物や抗コリン作用薬は一般に知られていたから、本件
各医薬品は、本件各発明の「オピオイド化合物または抗コリン作用薬による
薬物誘発性便秘処置用」という発明特定事項を備えている。
20 このように、本件各医薬品は、本件発明の発明特定事項の全てを備えてい
るから、本件各医薬品の製造販売行為は本件発明の実施行為に当たる。
イ 理由1-1(本件発明の実施とはいえない用途)について
本件発明の発明特定事項である「オピオイド化合物または抗コリン作用薬
による薬物誘発性便秘処置用」という用途が、本件各医薬品の効能又は効果
25 である「慢性便秘症(器質的疾患による便秘を除く)」に含まれる以上、本件
発明を実施するためには、本件各医薬品の製造販売承認(本件各処分)を受
けることが必要であったといえる。このことは、本件各医薬品の効能又は効
果が本件発明の処置対象以外を含むことにより左右されるものではない。
「ラベル論」は、特許権の効力が及ぶ特許発明の技術的範囲を画する手法
にすぎず、政令で定める処分によって禁止が解除された行為が特許発明の実
5 施行為に該当するか否かの判断において採用すべき根拠はない。
ウ 理由1-2(承認の内容との関係)について
薬機法14条3項は、医薬品の製造販売承認申請に当たって臨床試験の試
験成績に関する資料の提出を求めてはいるが、臨床試験が実施された個別具
体的な効能又は効果についてしか製造販売の承認をしない旨の規定はない。
10 医薬品の添付文書の内容は、承認制度の対象とはなっておらず、処分内容
とは別の位置付けがされていることが明らかである。念のため本件各医薬品
の処分当時の添付文書の内容をみても、「使用上の注意」欄に、薬剤性便秘
に対する「有効性及び安全性は確立されていない」という記載があるにすぎ
ず、これはあくまで「注意」であるから、薬剤性便秘には効能又は効果がな
15 いとか、薬剤性便秘への使用を制限する趣旨の記載とは認められない。
その他、本件各処分に関連する文書の記載をみても、本件各処分の内容が
限定されているものとは認められない。
したがって、本件各処分において、薬剤性便秘を効能又は効果とするもの
は対象とされていないとする原告の主張には理由がない。
20 ⑵ 無効理由2(特許法125条の2第1項3号所定の無効理由)について
特許発明の実施をすることができなかった期間とは、臨床試験を開始した日
又は特許権の設定登録の日のいずれか遅い方の日から、承認が申請者に到達し
た日の前日までの期間である。特許発明の実施をすることができなかった期間
には、製造販売承認(処分)を受けるのに必要不可欠で、製造販売承認(処分)
25 を受けることに密接に関係した臨床試験を行った期間が含まれる。
これを本件についてみると、本件各医薬品の製造販売承認申請に当たり、各
種臨床試験が実施され、その試験成績に関する資料が提出されたと認められ
る。そして、
「審議結果報告書」の「審査結果」に「提出された資料から、本薬
の慢性的な便秘症状を有する患者に対する有効性は示され、認められたベネフ
ィットを踏まえると、安全性は許容可能と判断する。」
(甲30)と記載されて
5 いることから、慢性的な便秘症状を有する患者に対する有効性を示す臨床試験
の試験成績に関する資料を主たる材料として、「慢性便秘症(器質的疾患によ
る便秘を除く)」という効能又は効果で製造販売が承認されたと認められる。
このような事情に照らせば、少なくとも、本件各医薬品について行われた、
慢性的な便秘症状を有する患者に対する有効性を示す臨床試験は、本件各処分
10 を受けるのに必要不可欠で、本件各処分を受けることに密接に関係した臨床試
験であるというべきである。そして、当該臨床試験が行われた期間は、本件発
明の実施をすることができなかった期間であるといえる。
このことは、薬物誘発性便秘についての臨床試験が行われたかにより左右さ
れるものではない。
15 第3 原告主張の審決取消事由
1 取消事由1(特許法125条の2第1項1号該当性の判断の誤り)
⑴ 理由1-1(本件発明の実施とはいえない用途)
本件各審決は、承認に係る医薬品の効能又は効果に特許発明の用途又は効能
若しくは効果が含まれていれば、その医薬品の製造販売行為は特許発明の実施
20 に当たる旨解釈しているが、医薬品用途発明の特殊性からすると、このような
解釈は誤りである。
すなわち、医薬品用途発明は、特許発明の発明特定事項に係る用途に用いら
れる点においてのみ特徴を有するのであり、
「専ら論」
(専ら当該用途に用いる
場合にのみ特許発明を実施したと認定する手法)又は「ラベル論」(当該用途
25 に用いることが表示されている場合に特許発明を実施したと認定する手法)に
より、実施の有無が決せられるべきである。
「実施」の意義を、特許権侵害の場
面と延長登録の要件の場面とで別異に解する理由はない。
これを本件についてみると、本件各医薬品は、効能又は効果を「慢性便秘症
(器質的疾患による便秘を除く)」とするものであるが、本件医薬品Aの添付
文書(初版。甲32)の「効能・効果」欄には、目立つ態様で、
「<効能・効果
5 に関連する使用上の注意>薬剤性及び症候性の便秘に対する使用経験はなく、
有効性及び安全性は確立されていない。」と記載されている。同様の記載は、
本件医薬品Bの添付文書にも存在し、令和3年に削除されるまで維持されてい
た(甲31、32、B事件甲45、46)。したがって、本件各医薬品の効能又
は効果からは、薬剤性便秘(薬物誘発性便秘と同義)は除外されていたという
10 べきである。
そうすると、本件各医薬品の製造販売行為は、本件発明の実施には当たらず、
本件発明の実施のために、本件各処分が必要であったとはいえないから、本件
各延長登録には、特許法125条の2第1項1号の無効理由がある。これと異
なり、本件各医薬品の製造販売行為が本件発明の実施に当たるとした上で、本
15 件各処分が本件発明の実施のために必要であったとした本件各審決の判断は
誤っている。
⑵ 理由1-2(承認の内容との関係)
薬機法の目的に照らすと、非臨床試験で足りる旨の例外規定のない限り、臨
床試験が実施されていない効能又は効果については承認されるべきではない。
20 特許発明の実施に政令で定める処分を受けることが必要であったか否かは、処
分の内容を検討して判断されるべきであり、医薬品の製造販売の承認の場面で
は、①どのような内容や意図での承認申請であったか、②承認申請に当たって
どのような内容の資料が提出されたか、③承認申請の審査過程においてどのよ
うな検討、評価がされたかを検討すべきである。
25 これを本件についてみると、承認申請時のコモン・テクニカル・ドキュメン
ト(甲4。医薬品の承認申請時に提出する国際共通化された資料群を指す。以
下「CTD」という。)によると、本件医薬品Aの当初の効能又は効果は「慢性
特発性便秘症」とされ、その添付文書案には、
「使用上の注意(案)<効能・効
果に関連する使用上の注意>薬剤性及び症候性の便秘に対する使用経験はな
く、有効性及び安全性は確立されていない。設定根拠 臨床試験による有効性・
5 安全性の検証が行われていないことより、使用すべきではない対象として示し
た。」と記載されていた。また、審議の議事録(甲15)でも「国内臨床試験で
対象とされた患者層に対して本薬が使用されるよう」にとの意向が示された。
以上の事実関係からうかがわれる承認申請の内容及び意図や提出された資
料の内容、審査過程に照らすと、本件各処分は、本件各医薬品につき、慢性特
10 発性便秘症を用途とすることに限定してその製造販売を承認したものであっ
て、薬物誘発性便秘を用途とすることは承認の内容に含まれていなかったとい
うべきである。
そうすると、本件発明の実施のために、本件各処分が必要であったというこ
とはできず、本件各延長登録には、特許法125条の2第1項1号の無効理由
15 がある。これと異なり、添付文書の重要性や、申請者が「薬物誘発性便秘」を
意識的に除外していたかなどを判断しないまま、本件各処分が本件発明の実施
のために必要であったとした本件各審決の判断は誤っている。
2 取消事由2(特許法125条の2第1項3号該当性の判断の誤り)
⑴ 本件各審決に共通する取消事由
20 延長期間の起算日は、特許の設定登録の日又は臨床試験の開始日のいずれか
遅い日とされるべきである。
もっとも、本件では、本件各医薬品の製造販売の承認申請に際し、薬物誘発
性便秘の患者を対象とした臨床試験は実施されていないのであるから、これら
の承認申請は、「薬物誘発性便秘処置用」の用途発明である本件発明の実施と
25 は無関係であって、臨床試験の開始日を観念することができない。
したがって、「その特許発明の実施をすることができなかった期間」はない
こととなる。そうすると、本件各延長登録により延長された期間がこれを上回
っていることは明らかであるから、本件各延長登録には、特許法125条の2
第1項3号の無効理由がある。
これと異なり、承認申請に際し、(薬物誘発性便秘の患者を対象としない)
5 臨床試験の成績に関する資料が提出され、その結果、承認がされたという結果
のみに依拠し、本件発明と臨床試験との関係を考慮、検討することなく、本件
発明の実施をすることができなかった期間を認定した本件各審決は誤ってい
る。
⑵ 本件審決Bに固有の取消事由
10 本件審決Bは、本件医薬品Aに関する資料を根拠として、本件処分Bとの関
係で「特許発明の実施をすることができなかった期間」を認定しているが、仮
に、本件医薬品Aについて「政令で定める処分を受けるのに必要な試験」を観
念できるとしても、それが当然に本件医薬品Bについても「政令で定める処分
を受けるのに必要な試験」となるわけではないから、この点についての理由の
15 記載を欠く本件審決Bには、理由不備の違法がある。
3 取消事由3(本件審決Bに固有の取消事由:本件延長登録Bには無効理由2-
2があること)
⑴ 無効理由2-2
本件延長登録Bに関して、本件処分Bの対象となった本件医薬品Bとの関係
20 で「特許発明の実施をすることができなかった期間」の始期は、早くとも本件
医薬品Bに固有の生物学的同等性試験が開始された平成28年10月3日で
ある。本件医薬品Bの製造販売承認日は平成30年9月21日であるから、
「特
許発明の実施をすることができなかった期間」は、せいぜい1年11月17日
にとどまる。そうすると、本件延長登録Bの延長期間(5年)がこれを上回っ
25 ていることは明らかであるから、本件延長登録Bには、特許法125条の2第
1項3号の無効理由がある(以下、この無効理由を「無効理由2-2」という。)。
⑵ 無効理由2-2の主張が許されるべきこと
原告は、本件延長登録Bの無効審判請求書(B事件甲58)には、無効理由
2-2と同旨の理由を記載していなかったが、その後の口頭審理陳述要領書
(B事件甲65)には予備的主張としてこれを記載した。これに対し、脱退被
5 告から、そのような主張の追加は許されない旨の指摘がされた。原告は、審判
長からの促しに応じ、無効理由2-2の主張を取り下げた。
もっとも、一般に行政処分の取消訴訟については、当事者の主張には制限が
なく、裁判所の審理範囲にも制限がない。特許無効審判に対する審決取消訴訟
には、いわゆるメリヤス編機事件最高裁判決(最高裁昭和42年(行ツ)第2
10 8号同51年3月10日大法廷判決・民集30巻2号79頁)による審理範囲
の制限が認められ得るものの、同最判は、審決取消訴訟において、抗告審判の
手続で審理判断されなかった公知事実との対比における無効原因を主張する
ことが許されないとするものにすぎない。本件のように、特許無効審判ではな
く延長登録無効審判の審決取消訴訟であり、また、進歩性判断のような技術的
15 判断を要する必要が少なく、ほぼ法律判断であるといえる延長登録の無効理由
については、審判手続で審理判断されなかった主張を審決取消訴訟において主
張し、裁判所が審理判断することも許されるというべきである。
したがって、裁判所は、無効理由2-2についても審理判断すべきである。
第4 被告及び被告補助参加人の反論
20 1 取消事由1(特許法125条の2第1項1号該当性の判断の誤り)について
⑴ 理由1-1(本件発明の実施とはいえない用途)について
特許権の存続期間の延長登録が特許法125条の2第1項1号により無効
となるか否かは、当該特許発明の実施に政令で定める処分を受けることが必要
であったか否かにより判断される。そして、政令で定める処分を受けることが
25 必要であったというには、①当該処分を受けたことによって禁止が解除された
こと、②当該処分によって禁止が解除された行為が特許発明の実施に該当する
行為に含まれることを要する。
これを本件についてみると、本件各医薬品は、本件各処分によりいずれも効
能又は効果を「慢性便秘症(器質的疾患による便秘を除く)」とされていると
ころ、これに、本件発明の発明特定事項である「オピオイド化合物または抗コ
5 リン作用薬による薬物誘発性便秘処置用」が含まれているといえるか(上記②)
が問題となる。そして、本件各審決は、本件医薬品AのCTD(甲4)中の慢
性便秘の鑑別診断表又は慢性便秘症診療ガイドライン(B事件甲4)中の慢性
便秘の分類に依拠して、慢性便秘には薬剤性便秘が含まれると判断した。この
判断が正当であることは、医師の意見書(甲41、43)や、各種医学誌の記
10 載(乙7、8)により、本件各医薬品が、医療の現場において、実際に薬物誘
発性便秘処置用として用いられてきたことからも裏付けられる。
したがって、本件発明の実施のために本件各処分を受けることが必要であっ
たといえるから、原告の主張する理由1-1によっては、特許法125条の2
第1項1号の規定により本件各延長登録を無効とすべきとはいえない。
15 ⑵ 理由1-2(承認の内容との関係)について
医薬品がその製造販売承認により承認される効能又は効果は、承認書や審議
結果報告書等の記載により客観的に定まるものであり、申請の内容や申請者の
意図等によって左右されるものではない。
これを本件についてみると、本件医薬品Aについての審議結果報告書(甲6
20 1)には、その審査結果として、提出された資料から、本件医薬品Aの慢性的
な便秘症状を有する患者に対する有効性が示され、安全性は許容可能と判断し
た旨が記載されている。その結果、効能又は効果を「慢性便秘症(器質的疾患
による便秘を除く)」として製造販売の承認がされたものである。審査資料や
承認の結果には、効能又は効果を慢性特発性便秘症に限定すべきとか、薬物誘
25 発性便秘を除外すべきであることを示す記載はない。むしろ、審議結果報告書
には、本件医薬品Aの経口投与によりモルヒネ誘発性便秘が抑制されることが
説明されている。また、本件医薬品Bの製造販売の承認申請においても、これ
らの資料が参照された上で同一の効能又は効果により承認がされているので
あるから、本件医薬品Aと同様に、その効能又は効果には、薬物誘発性便秘が
含まれることが明らかである。
5 原告は、臨床試験が実施されていない効能又は効果は、例外規定がない限り
承認されるべきではないと主張するが、薬機法上、臨床試験が実施された個別
具体的な効能又は効果についてしか製造販売の承認をしない旨の規定はない
から、原告の主張には理由がない。
したがって、この意味からも、本件発明の実施のために本件各処分を受ける
10 ことが必要であったといえるから、原告の主張する理由1-2によっては、特
許法125条の2第1項1号の規定により本件各延長登録を無効とすべきと
はいえない。
2 取消事由2(特許法125条の2第1項3号該当性の判断の誤り)について
⑴ 本件各審決に共通する取消事由について
15 原告は、薬物誘発性便秘の患者を対象とした臨床試験が実施されていないか
ら、本件各医薬品の製造販売の承認申請は本件発明の実施と無関係であり、臨
床試験の開始日を観念することができないなどと主張する。
しかし、ある試験が延長登録期間に算入されるか否かの検討に当たっては、
当該試験と処分を受けることとの関連性を検討すれば足りるものである。そし
20 て、本件医薬品Aについて臨床試験が行われたことは明白であり、その結果が
参照されて本件各処分がされたことも自明である。
したがって、本件特許の設定登録の日から本件各処分に係る承認が申請者に
到達した日の前日まで(最長5年)を延長登録期間としたことに誤りはなく、
これを是認した本件各審決にも誤りはない。よって、原告の主張する理由によ
25 っては、特許法125条の2第1項3号の規定により、本件各延長登録を無効
とすべきとはいえない。
⑵ 本件審決Bに固有の取消事由について
原告は、仮に、本件医薬品Aについて「政令で定める処分を受けるのに必要
な試験」を観念できるとしても、それが当然に本件医薬品Bについても「政令
で定める処分を受けるのに必要な試験」となるわけではないと主張するが、上
5 記⑴のとおり、本件医薬品Aについての臨床試験の開始日が、本件医薬品Bに
ついても「政令で定める処分を受けるのに必要な試験を開始した日」となるこ
とは明白であるから、原告の主張には理由がない。
3 取消事由3(本件審決Bに固有の取消事由:本件延長登録Bには無効理由2-
2があること)について
10 原告は、本件訴訟において、無効理由2-2を主張するが、この主張は、原告
が審判請求書に記載せず、その後の口頭審理陳述要領書に記載したものであり、
審判請求の趣旨及び理由の要旨を変更するものとして許されないものであった。
このようなこともあり、原告は、審判段階では無効理由2-2を取り下げたもの
である。
15 ここで、審判段階で最終的に主張もされず、審理の対象となっていなかった無
効理由2-2を審決取消訴訟の審理対象とすることは、前掲最高裁昭和51年3
月10日大法廷判決の趣旨に照らして許されないというべきである。
また、裁判所は、本件の第2回弁論準備手続期日において、無効理由2-2に
ついては被告及び被告補助参加人の反論は要しない旨の訴訟指揮をしたところ
20 であり、これは実質的には民訴法147条の3第1項に規定する「審理の計画」
を定めたものといえる。これに反して原告からされた無効理由2-2の主張は、
訴訟手続の進行に著しい支障を生ずるおそれがあるから、民訴法157条の2の
規定により却下されるべきである。さらに、上記のような審理の経過に照らすと、
原告による無効理由2-2の主張は、時機に後れた攻撃防御方法として却下され
25 るべきである(被告補助参加人による申立て)。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(特許法125条の2第1項1号該当性の判断の誤り)について
⑴ 理由1-1(本件発明の実施とはいえない用途)について
ア 原告は、本件各医薬品の当初の添付文書の「効能・効果」欄に「<効能・
効果に関連する使用上の注意>薬剤性及び症候性の便秘に対する使用経験
5 はなく、有効性及び安全性は確立されていない。」と記載されていたこと等
を根拠に、本件各医薬品の効能又は効果から薬剤性便秘が除外されていたと
主張し、また、用途発明の実施に関する「専ら論」や「ラベル論」の考えに
従うと、本件各医薬品の製造販売行為は本件発明の実施行為には当たらない
から、本件発明の実施のために本件各処分が必要であったとはいえない旨主
10 張する。
イ そこで検討すると、特許法67条2項にいう「その特許発明の実施」に政
令で定める処分を受けることが必要であったというには、当該政令で定める
処分によって禁止が解除された行為と、当該特許発明の実施行為との間に、
重複する部分があることを要するものと解される。このような場合には、当
15 該特許発明の実施行為は、当該処分を受けるまでの間、禁止されていたとい
えるからである。
また、特許権の存続期間の延長登録出願の理由となった薬機法の規定によ
る医薬品の製造販売の承認に先行して、同一の特許発明につき同法の規定に
よる医薬品の製造販売の承認がされている場合において、延長登録出願に係
20 る特許発明の種類や対象に照らして、医薬品としての実質的同一性に直接関
わることとなる審査事項について両承認を比較した結果、先行する承認の対
象となった医薬品の製造販売が、延長登録出願の理由となった承認の対象と
なった医薬品の製造販売を包含すると認められるときは、延長登録出願に係
る特許発明の実施にその出願の理由となった承認を受けることが必要であ
25 ったとは認められない(最高裁平成26年(行ヒ)第356号同27年11
月17日第三小法廷判決・民集69巻7号1912頁)。
ウ これを本件についてみると、まず本件処分Aに関し、証拠(甲4、42、
55)によると、慢性便秘は、医学上、原因や病態により、機能性便秘(慢
性特発性便秘とも呼ばれる。)、症候性便秘、薬剤性便秘、器質性便秘などに
分類されることが認められる。すなわち、本件医薬品Aの効能又は効果であ
5 る「慢性便秘症(器質的疾患による便秘を除く)」の中には、本件発明の発明
特定事項に係る「薬物誘発性便秘」が含まれている。そうすると、本件医薬
品Aの製造販売行為は、少なくともそれがオピオイド化合物又は抗コリン薬
による薬物誘発性便秘の処置に用いられる場合には、本件発明の実施行為に
当たるということができる。そして、証拠(甲41、43、乙7、8)によ
10 ると、本件発明の有効成分であるルビプロストンが実際に臨床現場において
オピオイド化合物による薬物誘発性便秘の処置に用いられている事実も認
められる。
したがって、本件処分Aによって禁止が解除された行為(本件医薬品Aの
製造販売行為)は、本件発明の実施行為を含んでいるといえる。
15 そして、本件処分Aに先行して、本件発明につき医薬品の製造販売の承認
がされていたことを認めるに足りる証拠はない。
よって、本件発明の実施には、本件処分Aを受けることが必要であったと
いえる。
エ 次に、本件処分Bに関しては、上記ウに述べたところによると、本件処分
20 Bによって禁止が解除された行為(本件医薬品Bの製造販売行為)は、本件
発明の実施行為を含んでいるといえる。
また、本件発明については、本件処分Bに先行して本件処分Aがされてい
る。しかるところ、本件発明は、13,14-ジヒドロ-15-ケト-16
-モノ-又はジ-ハロゲン-プロスタグランジンE化合物を有効成分とし
25 て含む、オピオイド化合物又は抗コリン作用薬による薬物誘発性便秘を処置
するための医薬品の成分を対象とする物の発明であり、医薬品としての実質
的同一性に直接関わることとなる両承認の審査事項は、医薬品の成分、分量、
用法、用量、効能及び効果である。そして、証拠(甲35、36、B事件甲
49、50)によると、本件処分Aの対象となった医薬品(本件医薬品A)
は、その分量を「0.024mg」とするものであるのに対し、本件処分B
5 の対象となった医薬品(本件医薬品B)は、その分量を「0.012mg」
とするものである。そうすると、本件処分Aの対象となった医薬品の製造販
売が、本件処分Bの対象となった医薬品の製造販売を包含するとは認められ
ない。
よって、本件発明の実施には、本件処分Bを受けることが必要であったと
10 いえる。
オ 以上に対し、原告は、本件各医薬品の当初の添付文書に「<効能・効果に
関連する使用上の注意>薬剤性及び症候性の便秘に対する使用経験はなく、
有効性及び安全性は確立されていない。」と記載されていることを指摘する。
しかし、この記載は、裏を返せば、薬剤性及び症候性の便秘が本件各医薬
15 品の効能又は効果に含まれているからこそ、有効性及び安全性が確立されて
いない旨を注記したものと認められるのであって、薬剤性便秘が本件各医薬
品の効能又は効果から除外されていることを示すものとはいえない。
また、原告は、用途発明の実施に関する「専ら論」や「ラベル論」の考え
方に従うと、本件各医薬品の製造販売行為は本件発明の実施行為に当たらな
20 いとも主張する。
しかし、特定の行為が特許発明の技術的範囲に含まれるかを判断する場面
とは異なり、特許発明の実施に政令で定める処分を受けることが必要であっ
たというには、前記イのとおり、当該処分によって禁止が解除された行為と、
当該特許発明の実施行為との間に重複する部分があることを要し、かつ、そ
25 れで足りるというべきである。このような場合には、たとえ特許発明に規定
された用途と処分に係る物の用途との間に重複しない部分があるとしても、
特許発明の実施行為は、当該処分を受けるまでの間、なお禁止されていたと
いえるからである。
カ よって、原告の主張する理由1-1によっては、本件各延長登録が、その
特許発明の実施に政令で定める処分を受けることが必要であったとは認め
5 られない場合の出願に対してされたものということはできない。
⑵ 理由1-2(承認の内容との関係)について
原告は、薬機法の目的に照らすと、非臨床試験で足りる旨の例外規定のない
限り、臨床試験が実施されていない効能又は効果については承認されるべきで
はないと主張し、また、特許発明の実施に政令で定める処分を受けることが必
10 要であったか否かは、承認申請の内容及び意図、提出された資料の内容並びに
審査過程における検討及び評価の内容等を検討すべきであって、本件各処分で
は、本件各医薬品について慢性特発性便秘症を用途とすることに限定して製造
販売の承認がされ、薬物誘発性便秘を用途とすることは承認の内容に含まれて
いなかったとして、本件発明の実施のために本件各処分が必要であったとはい
15 えない旨主張する。
そこで検討すると、まず、薬機法上、厚生労働大臣が、申請に係る医薬品の
効能又は効果として、臨床試験の対象となった特定の具体的疾患についてのみ
しか承認することができないとする根拠は見当たらない。
次に、医薬品の製造販売の承認の内容は、医薬品製造販売承認書及びこれが
20 引用する医薬品製造販売承認申請書の記載に基づき、外形的、客観的に定めら
れるべきであって、原告が主張するように承認申請の意図及び審査の経緯を考
慮に入れるべきものではない。本件処分Aは、本件医薬品Aについて、有効成
分の成分名を「ルビプロストン」、その分量を「0.024mg」、用法及び用
量を「通常、成人にはルビプロストンとして1回24μgを1日2回、朝食後
25 及び夕食後に経口投与する。なお、症状により適宜減量する。」、効能又は効果
を「慢性便秘症(器質的疾患による便秘を除く)」として製造販売の承認をす
るものであり(甲35、36)、本件処分Bは、本件医薬品Bについて、有効成
分の成分名を「ルビプロストン」、その分量を「0.012mg」、用法及び用
量を「通常、成人にはルビプロストンとして1回24μgを1日2回、朝食後
及び夕食後に経口投与する。なお、症状により適宜減量する。」、効能又は効果
5 を「慢性便秘症(器質的疾患による便秘を除く)」として製造販売の承認をす
るものである(B事件甲49、50)。そして、前記⑴ウのとおり、本件各医薬
品の効能又は効果である「慢性便秘症(器質的疾患による便秘を除く)」の中
には、本件発明の発明特定事項に係る「薬物誘発性便秘」が含まれているとい
えるから、薬物誘発性便秘を用途とすることが承認の内容に含まれていなかっ
10 たということはできない。
よって、原告の主張する理由1-2によっては、本件各延長登録が、その特
許発明の実施に政令で定める処分を受けることが必要であったとは認められ
ない場合の出願に対してされたものということはできない。
⑶ 取消事由1についてのまとめ
15 以上のとおり、本件各延長登録は、その特許発明の実施に政令で定める処分
を受けることが必要であったとは認められない場合の出願に対してされたも
のということはできないから、特許法125条の2第1項1号の無効理由は認
められない。これと同旨の本件各審決に取り消すべき違法はない。
2 取消事由2(特許法125条の2第1項3号該当性の判断の誤り)について
20 ⑴ 本件各審決に共通する取消事由について
ア 原告は、本件各医薬品の製造販売の承認申請に際し、薬物誘発性便秘の患
者を対象とした臨床試験は実施されていないのであるから、これらの承認申
請は、「薬物誘発性便秘処置用」の用途発明である本件発明の実施とは無関
係であり、本件各処分を受けるのに必要な試験といえる臨床試験の開始日を
25 観念することができない旨主張する。
イ そこで検討すると、まず本件処分Aに関しては、証拠(甲4:CTD、甲
36:承認申請書)によると、平成22年9月24日にされた本件医薬品A
の製造販売承認申請に先立ち、日本国内において、慢性特発性便秘症患者を
対象とする臨床試験として、第Ⅰ相単回投与試験、第Ⅰ相反復投与試験、第
5 Ⅱ相用量反応性試験、第Ⅲ相比較試験及び第Ⅲ相長期投与試験が実施され、
これらの臨床試験の結果や米国における臨床試験の結果が、本件医薬品Aの
製造販売承認申請における評価資料として添付されて審査に供され、その結
果、効能又は効果を「慢性便秘症(器質的疾患による便秘を除く)」として本
件医薬品Aの製造販売の承認がされたことが認められる。
10 そして、前記1⑴ウのとおり、慢性便秘は、医学上、原因や病態により、
機能性便秘(慢性特発性便秘とも呼ばれる。)、症候性便秘、薬剤性便秘、器
質性便秘などに分類されるところ、慢性特発性便秘患者を対象とする臨床試
験によって、上記のとおり効能又は効果を「慢性便秘症(器質的疾患による
便秘を除く)」として製造販売が承認されたのであるから、少なくとも日本
15 国内でされた慢性特発性便秘患者を対象とする上記各臨床試験の結果は、た
とえその対象に薬剤性便秘の患者を含まないとしても、なお本件処分Aに際
して本件医薬品Aの品質、有効性及び安全性に関する事項の検証及び確認に
供された資料であるといえ、本件処分Aを受けるのに必要な試験であったと
いうことができる。
20 ウ 次に、本件処分Bに関しては、証拠(B事件甲27:承認申請書)による
と、本件医薬品Bの製造販売承認申請は、同申請がされた平成29年12月
15日時点で既承認であった本件医薬品Aの剤形追加に係る医薬品(再審査
期間中のもの)としてされたものであり、このため、承認申請書には、臨床
試験成績に関する資料ではなく、生物学的同等性に関する資料を添付すべき
25 とされたものである(B事件甲31:薬食発1121第2号平成26年11
月21日厚生労働省医薬食品局長通知参照)。
もっとも、本件医薬品Bは、上記のとおり本件医薬品Aの剤形追加に係る
医薬品であり、その製造販売の承認審査においては、本件医薬品Aの承認審
査において参照された資料によりその品質、有効性及び安全性が確認された
ことが前提とされ、これに加えて生物学的同等性に関する資料により、本件
5 医薬品Bの品質、有効性及び安全性が確認されるという関係にあったことは
明らかである。そうすると、上記イに認定した本件医薬品Aに関する各種臨
床試験は、本件医薬品Bに関する本件処分Bを受けるためにも必要な試験で
あったということができる。
エ 以上によると、本件各医薬品の製造販売の承認申請に際し、薬物誘発性便
10 秘の患者を対象とした臨床試験が実施されていないとしても、本件各処分を
受けるのに必要な試験を観念することができないとはいえない。原告の主張
は採用することができない。
⑵ 本件審決Bに固有の取消事由について
原告は、本件審決Bが、本件医薬品Bに関する「特許発明の実施をすること
15 ができなかった期間」を、本件医薬品Aに関する資料を根拠として認定した点
に関して、本件医薬品Aについて「政令で定める処分を受けるのに必要な試験」
が、当然には本件医薬品Bについて「政令で定める処分を受けるのに必要な試
験」であるとはいえないとして、この点につき理由を欠く本件審決Bには理由
不備の違法がある旨主張する。
20 しかし、本件審決Bは、各種臨床試験が実施され、その試験成績に関する資
料が提出されたことや、審議結果報告書の記載から、慢性的な便秘症状を有す
る患者に対する有効性を示す臨床試験の試験成績に関する資料を主たる資料
として、本件医薬品Bの製造販売の承認がされたと認定し、このような事情に
照らし、慢性的な便秘症状を有する患者に対する有効性を示す臨床試験は、本
25 件処分Bを受けるのに必要な試験であると認定しているのであるから、同認定
判断は、上記⑴ウと同旨をいうものとして正当である。原告の主張は採用する
ことができない。
⑶ 取消事由2についてのまとめ
以上のとおり、原告の主張する理由によっては、本件各延長登録により延長
された期間がその特許発明の実施をすることができなかった期間を超えてい
5 るということはできないから、特許法125条の2第1項3号の無効理由は認
められない。これと同旨の本件各審決に取り消すべき違法はない。
3 取消事由3(本件審決Bに固有の取消事由:本件延長登録Bには無効理由2-
2があること)について
原告は、本件延長登録Bについて、「特許発明の実施をすることができなかっ
10 た期間」は、早くとも本件医薬品Bに固有の生物学的同等性試験が開始された平
成28年10月3日であるから、「特許発明の実施をすることができなかった期
間」は、せいぜい1年11月17日というべきところ、本件延長登録Bの延長期
間5年はこれを上回っているから、本件延長登録Bには特許法125条の2第1
項3号の無効理由(無効理由2-2)がある旨を主張する。
15 しかし、無効理由2-2は、審判手続において原告が主張を取り下げたため、
本件審判Bにおいて審理判断の対象から除外されたものである。しかるところ、
特許法が定めた特許に関する処分に対する不服制度及び審判手続の構造と性格
に照らすと、特許無効審判の審決に対する取消訴訟においてその判断の違法が争
われる場合には、専ら当該審判手続において現実に争われ、審理判断された特定
20 の無効理由に関するもののみが審理の対象とされるべきものであるから、審決取
消訴訟において、審判手続において審理判断されなかった無効理由は、審決を違
法、又はこれを適法とする理由として主張することができないと解するのが相当
であり(前掲最高裁昭和51年3月10日大法廷判決)、この理は、延長登録無
効審判の審決に対する取消訴訟においても異なるものではない。
25 これを本件についてみると、原告は、審判手続において、無効理由2-2を任
意に取り下げたため、本件審決Bにおいては、無効理由2-2についての審理判
断はされていない。したがって、本件において、原告が、本件審決Bの取消事由
として、本件延長登録Bに無効理由2-2がある旨を主張することは許されない
というべきである。
よって、原告の主張する取消事由3は失当である。
5 なお、上記のとおり判断されるため、原告の主張が訴訟の完結を遅延させるも
のとはいえず、また、当裁判所は本件の審理において審理の計画(民訴法147
条の3第1項)を定めたものではないから、同法157条1項又は157条の2
の規定により原告の主張を却下すべき旨の被告補助参加人による申立ては却下
する。
10 4 結論
以上のとおり、原告の主張する取消事由にはいずれも理由がなく、本件各審決
に取り消されるべき違法はない。
よって、原告の請求にはいずれも理由がないから、これらをいずれも棄却する
こととして、主文のとおり判決する。
15 知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官
20 増 田 稔
25 裁判官
伊 藤 清 隆
5 裁判官
天 野 研 司
(別紙)
当事者目録
両 事 件 原 告 沢 井 製 薬 株 式 会 社
5 (以下「原告」という。)
同訴訟代理人弁護士 小 松 栄 二 郎
小 山 秀
中 田 健 一
10 同訴訟復代理人弁護士 川 端 さ と み
藤 野 睦 子
両 事 件 被 告 スキャンポ・ファーマ・アメ
15 リカズ・リミテッド・ライア
ビリティ・カンパニー
(以下「被告」という。)
同訴訟代理人弁護士 髙 山 和 也
20 同訴訟代理人弁理士 田 村 啓
松 谷 道 子
落 合 康
玄 番 佐 奈 恵
坂 田 啓 司
25 林 康 次 郎
白 江 雄 介
田 村 聖 子
両事件被告補助参加人 ヴィアトリス製薬合同会 社
(以下「被告補助参加人」という。)
同訴訟代理人弁護士 大 渕 哲 也
城 山 康 文
10 山 内 真 之
石 井 昭 仁
出 野 智 之
佐 々 木 公 樹
篠 崎 慎 一 郎
15 同訴訟代理人弁理士 安 藤 健 司
坪 倉 道 明
20 両事件脱退被告 スキャンポ・ゲゼルシャフト
・ミット・ベシュレンクテル
・ハフツング
(以下「脱退被告」という。)
25 以 上
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