令和7(行ケ)10111審決取消
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| 裁判所 |
請求棄却 知的財産高等裁判所
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| 裁判年月日 |
令和8年4月13日 |
| 事件種別 |
民事 |
| 当事者 |
原告株式会社Qvou 被告特許庁長官河西康之
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| 法令 |
商標権
商標法4条1項11号9回 商標法6条1項1回 商標法10条1項1回
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| キーワード |
審決11回 商標権2回 拒絶査定不服審判1回 分割1回
|
| 主文 |
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
| 事件の概要 |
本件は、商標登録出願の拒絶査定に対する不服審判請求を不成立とした審決
(以下「本件審決」という。)の取消訴訟であり、争点は、本願商標の商標法4
条1項11号該当性である。 |
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判決文
令和8年4月13日判決言渡
令和7年(行ケ)第10111号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 令和8年2月25日
判 決
原 告 株 式 会 社 Q v o u
同訴訟代理人弁護士 水 沼 淳
同訴訟代理人弁理士 柴 田 富 士 子
被 告 特許庁長官 河 西 康 之
同 指 定 代 理 人 大 島 康 浩
同 吉 田 聡 一
主 文
15 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
(注)本判決の本文中で用いる略語の定義は、別に定めるほか、次のとおりである。
本願商標:原告の登録出願に係る別紙「商標目録」記載の商標(甲1)
20 引用商標:別紙「引用商標目録」記載の登録商標(乙2)
第1 請求
特許庁が不服2024-18100号事件について令和7年10月1日にした
審決を取り消す。
第2 事案の概要
25 本件は、商標登録出願の拒絶査定に対する不服審判請求を不成立とした審決
(以下「本件審決」という。)の取消訴訟であり、争点は、本願商標の商標法4
条1項11号該当性である。
1 特許庁における手続の経緯等
⑴ 原告は、令和5年8月30日、別紙「商標目録」記載の商標の構成から成
り、指定商品及び指定役務を、商標法施行規則別表(以下、単に「別表」と
5 いう。)第3類、第35類及び第44類の区分に属する願書記載のとおりの
商品及び役務とする商標について、商標登録出願(商願2023-9648
1)をした。
⑵ 原告は、令和6年4月16日、上記⑴の出願について、手続補正書を提出
して、指定商品及び指定役務を補正するとともに、同日、商標法10条1項
10 の規定に基づく新たな商標登録出願として、指定商品及び指定役務を、別表
第3類及び第35類の区分に属する願書記載のとおりの商品及び役務並びに
第44類の区分に属する「心身の健康のための温泉療法用施設の提供、マッ
サージが組み込まれた心身の健康のための温泉療法用施設の提供、顔及び体
の手入れ、美容のための体の手入れ」とする出願(商願2024-4040
15 6。以下「本願」という。)をし、同年6月5日、手続補正書を提出して、
本願商標の指定商品及び指定役務を、別表第44類の区分に属する「心身の
健康のための温泉療法用施設の提供、マッサージが組み込まれた心身の健康
のための温泉療法用施設の提供、顔及び体の手入れ、美容のための体の手入
れ」に補正した。
20 ⑶ 原告は、本願について、令和6年8月9日付けで拒絶査定を受けたことか
ら、同年11月12日、拒絶査定不服審判の請求をし、特許庁は、これを不
服2024-18100号事件として審理した。
⑷ 原告は、令和6年11月13日、手続補正書を提出して、本願商標の指定
役務を補正した。また、原告は、令和7年6月27日、手続補正書を提出し
25 て、本願商標の指定役務を補正したが、特許庁は、同年7月30日付けで、
当該補正は、本件分割出願の要旨を変更するものとして、これを却下する決
定をした。
⑸ 原告は、令和7年8月6日、手続補正書を提出して、本願商標の指定役務
を、別表第44類の区分に属する「マッサージが組み込まれた顔及び体の手
入れ、マッサージが組み込まれた美容のための体の手入れ」に補正したが、
5 特許庁は、同年10月1日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との本
件審決をし、その謄本は、同月15日、原告に送達された。
⑹ 原告は、令和7年11月14日、当庁に対し、本件審決の取消しを求める
本件訴訟を提起した。
2 引用商標
10 引用商標(商標登録第5728340号商標。平成26年1月10日登録出
願、同年12月19日設定登録)は、別紙「引用商標目録」記載の構成から成
り、指定役務を、別表第44類の区分に属する「美容、理容」とする商標であ
る。
3 本件審決の理由の要旨
15 ⑴ア 本願商標は、黒塗りの横長長方形内の中央に、円弧と複数の曲線を組み
合わせた図形を白抜きで表し、その下に「SORA」の文字を白抜きで
横書きして成るところ、図形部分と文字部分とは、上下に重なり合うこ
となく独立して表されていることから、視覚上分離して看取し得る。そ
して、図形部分から特定の称呼及び観念は生じず、図形部分と文字部分
20 とに観念上の結び付きを見い出すこともできないから、これらが常に一
体不可分のものとしてのみ看取されると判断すべき特段の事情はない。
そうすると、本願商標は、その構成中、「SORA」の文字部分を分離
抽出し、これを要部として引用商標と比較することが許されるところ、
「SORA」の文字部分からは、構成文字に相応して「ソラ」の称呼が
25 生ずるものの、特定の観念は生じない。
イ 引用商標は、左側に幾何学図形を配し、その右側に「SORA」の文字
を横書きして成るところ、図形部分と文字部分とは、互いに重なり合う
ことなく独立して表されていることから、視覚上分離して看取し得る。
そして、図形部分から特定の称呼及び観念は生じず、図形部分と文字部
分とに観念上の結び付きを見い出すこともできないから、これらが常に
5 一体不可分のものとしてのみ看取されると判断すべき特段の事情はない。
そうすると、引用商標は、その構成中、「SORA」の文字部分を分離
抽出し、これを要部として本願商標と比較することが許されるところ、
「SORA」の文字部分からは、構成文字に相応して「ソラ」の称呼が
生ずるものの、特定の観念は生じない。
10 ウ 両商標は、外観において全体の構成が相違するものの、その要部である
文字部分は全てのつづりを共通にし、外観上近似した印象を与える。ま
た、両商標は、その要部である「SORA」の文字から「ソラ」の称呼
が生ずることから、称呼を共通にする。そして、両商標は、その要部で
ある「SORA」の文字から特定の観念が生じず、観念上比較すること
15 はできない。
そうすると、本願商標と引用商標は、外観、称呼及び観念によって、
取引者や需要者に与える印象、記憶、連想等を総合し全体的に考察する
と、相紛れるおそれのある類似の商標というのが相当である。
⑵ 「商品及び役務の区分解説〔国際分類第11-2022版対応〕」(特許
20 庁商標課編)によれば、「マッサージが組み込まれた美容のための体の手入
れ」は、容姿を美しくすることを目的として体の手入れを行う役務であり、
「美容」は、容姿を美しくする役務であるから、本願商標の指定役務(以下
「本願指定役務」という。)である「マッサージが組み込まれた顔及び体の
手入れ、マッサージが組み込まれた美容のための体の手入れ」と、引用商標
25 の指定役務(以下「引用指定役務」という。)である「美容、理容」は、容
姿を美しくするという目的を共通にする。加えて、両役務は、一般的に同一
の事業者によって提供される場合が多く、その需要者も一致することに照ら
すと、互いに類似の役務であるといえる。
⑶ 以上のとおり、本願商標は、引用商標と類似する商標であり、本願指定役
務も引用指摘役務と類似するものであるから、商標法4条1項11号に該当
5 する。
4 原告主張の審決取消事由
本願商標の商標法4条1項11号該当性(商標及び役務の類否)に係る判断
の誤り
第3 当事者の主張
10 (原告の主張)
1⑴ 本願商標は、黒塗りの横長長方形内に、円弧と複数の曲線を組み合わせた
図形を白抜きで表し、その下に「SORA」の文字を白抜きで横書きして成
る結合商標であり、墨塗りの横長長方形内に、いずれも白抜きで表して成る
図形部分と文字部分とが配置されていることから、両部分がそれぞれ独立し
15 て使用されることはない。
そして、本願商標の構成中の図形部分は、「太陽(夕陽)が水面に沈む様
子を模式的に表した図形」又は「太陽(朝陽)が水面から現れる様子を模式
的に表した図形」であるから、同部分からは「日の入り」、「日の出」、
「静けさ」といった観念が生ずる。また、原告のウェブサイトに、その提供
20 する役務について「都会の喧騒から離れ、静かに自分自身と向き合える完全
個室空間。手のぬくもりと心地よい癒しで、心と体が解きほぐされるひとと
きを味わっていただけます。まるで空に舞うような軽やかさと深いリラクゼ
ーションを、SORAでご体感ください。」との記載があることから、本願
商標の構成中、「SORA」の文字部分からは「空」との観念が生ずる。
25 ⑵ 引用商標は、白地の上の左側に、一部切り欠きのある太さの異なる縦縞模
様が付された矩形を、また、その右側に、「SORA」の黒色ゴシック体の
文字を文字列の上面と上記矩形の上辺とが一致するように配した構成であり、
これには枠も色彩も付されていない。
そして、引用商標は「髪をカットしたところを抽象的に表現したヘアサロ
ンのシンボルマーク」であるところ、太さの異なる縦縞模様を付すことによ
5 り、髪の流れを表し、また、切り欠きの一辺を斜めにすることにより、髪の
一部がハサミでカットされたことを表しているのであるから、その構成中の
図形部分からは「髪をカットするところ」との観念が生ずる。
また、引用商標の商標権者のウェブサイトに、「SORA」について、
「S SOFT &SILKY HAIR・SMOOTH HAIR・SCALP 髪、肌へのこだわり」、
10 「O ORGANIC 素材へのこだわり」、「R RELAXATION 香りへのこだわ
り」、「A EARTH ECOLOGY・AGING CARE 肌、環境へのこだわり」との記載
があることから、引用商標の構成中、「SORA」の文字部分が単なる漢字
の「空」をローマ字で表記したものでないことは明らかであって、上記文字
部分から「空」との観念は生じない。
15 ⑶ そうすると、本願商標については、その全体を観察して引用商標との類否
を判断すべきであり、その構成中の文字部分のみを抽出し、この部分のみを
引用商標と比較して商標そのものの類否を判断することは許されない。
そして、本願商標と引用商標とは、いずれも「SORA」の文字部分を含
むものの、その構成態様は明確に相違することから、通常の注意力を有する
20 需要者であれば、出所の混同を生ずることはない。
2⑴ 本願指定役務は、「美容」、すなわち「容姿を美しくする」という目的を
達成するために、体の手入れを行う役務である。そして、役務としての「美
容」は、「美容師」という国家資格の保有者のみが提供し得るものであるか
ら、本願指定役務である「マッサージが組み込まれた美容のための体の手入
25 れ」は、引用指定役務である「美容」、すなわち美容師法2条1項の定める
「パーマネントウエーブ、結髪、化粧」といった頭部を対象として国家資格
の保有者の提供する役務(同法6条)と明確に相違する。
⑵ 「マッサージが組み込まれた美容のための体の手入れ」という役務は「美
容所」では提供されず、本願指定役務及び引用指定役務が、一般的に同一の
営業主によって提供されている取引の実情はない。また、本願指定役務の需
5 要者は大多数が女性であるところ、女性が整髪する場合、理容室ではなく美
容室に赴くのが一般的であること、理容室で本願指定役務の提供を受けるこ
とはまずないことからすると、本願指定役務の需要者と引用指定役務のそれ
とが一致するとはいえない。さらに、スパサービスや美容サービスの需要者
は、事前に役務の提供を受ける場所を検索し、役務の内容を確認した上、当
10 該場所に赴くのが一般的であり、通常の注意力を有する需要者であれば、同
一の称呼を生ずる商標が使用されていても、出所の混同を生ずることはない。
3 以上のとおり、本願商標の商標法4条1項11号該当性に係る本件審決の判
断には誤りがある。
(被告の主張)
15 1⑴ 本願商標は、黒色の横長長方形を背景とし、その中央に白色で円弧と複数
の曲線を組み合わせた図形を表し、その下に白色で「SORA」の文字を横
書きして成るところ、図形部分と文字部分とは、上下に重なり合うことなく
間隔を空けて表されている。また、背景部分について、商標の背景を単色で
装飾することは一般に用いられるもので、視覚上、需要者に特段の印象を与
20 えるようなものではない。
そうすると、本願商標は、図形部分と文字部分とから構成される結合商標
と見るのが相当であり、各構成部分は、視覚上、分離して観察することが取
引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものではない。
本願商標の各構成部分について検討すると、その構成中の図形部分からは、
25 出所識別標識としての称呼、観念が生ずるとはいえない。他方、その構成中、
「SORA」の文字部分は、辞書等に掲載のない語であり、一種の造語とし
て認識されることから、特定の観念は生じないものの、その構成文字に相応
して「ソラ」の称呼が生ずる。
そして、本願商標は、その構成中、「SORA」の文字部分が、取引者や
需要者に対し、他の部分とは分離、独立した役務の出所識別標識として、強
5 く支配的な印象を与えるから、当該文字部分を要部として抽出し、これと引
用商標とを比較して商標の類否を判断することができる。
⑵ 引用商標は、左側に、黒色と淡灰色の細い縦線を交互に、かつ、等間隔に
配した右下側の欠けた矩形状の図形を配置し、その右側に、黒色で「SOR
A」の文字を横書きして成るところ、図形部分と文字部分とは、色彩の濃淡
10 も異なり、間隔を空けて互いに重なり合うことなく表されていることから、
視覚上、分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分
的に結合しているものではない。
引用商標の各構成部分について検討すると、その構成中の図形部分からは、
出所識別標識としての称呼、観念が生ずるとはいえないのに対し、その構成
15 中、「SORA」の文字部分は、辞書等に掲載のない語であり、一種の造語
として認識されることから、特定の観念は生じないものの、その構成文字に
相応して「ソラ」の称呼が生ずる。
そして、引用商標は、その構成中、「SORA」の文字部分が、取引者や
需要者に対し、役務の出所識別標識として、強く支配的な印象を与えるから、
20 当該文字部分を要部として抽出し、これと本願商標とを比較して商標の類否
を判断することができる。
⑶ 本願商標と引用商標とを比較すると、両商標は、外観において、その要部
である「SORA」の文字を共通にし、一般に用いられる特徴のない書体で
表されたものであり、図形部分の差異にかかわらず相紛らわしいといえ、ま
25 た、称呼においても、これを共通にし相紛らわしい。そして、観念において
は、いずれも特定の観念が生じないから比較できない。
そうすると、本願商標と引用商標は、外観、称呼によって取引者や需要者
に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すれば、これらを同一
又は類似の役務について使用するときは、その役務の出所について誤認混同
が生ずるおそれのある類似する商標といえる。
5 2⑴ 本願指定役務は、別表第44類の区分に属する「マッサージが組み込まれ
た顔及び体の手入れ、マッサージが組み込まれた美容のための体の手入れ」
であるところ、「マッサージが組み込まれた美容のための体の手入れ」は、
「美容」を目的としたサービスであり、「美容」の語は「容貌、容姿、髪型
を美しくすること」ほどの、「手入れ」の語は「手を入れてよい状態にする
10 こと。また、よい状態のままでいるように、世話をしてととのえること」ほ
どの意味を有する。また、「マッサージが組み込まれた顔及び体の手入れ」
は、その字義から見ても、「マッサージが組み込まれた美容のための体の手
入れ」との関係においても、美容を目的として提供される役務を含むものと
いえる。
15 ⑵ 引用指定役務は、別表第44類の区分に属する「美容、理容」であるとこ
ろ、「美容」の語は「容貌、容姿、髪型を美しくすること」ほどの、「理
容」の語は、「理髪と美容」ほどの意味を有する。そして、「千九百六十七
年七月十四日にストックホルムで及び千九百七十七年五月十三日にジュネー
ヴで改正され並びに千九百七十九年十月二日に修正された標章の登録のため
20 の商品及びサービスの国際分類に関する千九百五十七年六月十五日のニース
協定」1条に規定する国際分類(以下、単に「国際分類」という。)を構成
する類別表注釈においても、「第44類には、…人又は事業所が人…に提供
する、…美容ケア…に関連するサービスを含む」との説明がされ、「美容」
の意味を限定して解釈していない。
25 そうすると、引用指定役務は、広く美容を目的とする施術を提供するサー
ビスといえるところ、引用指定役務を提供するエステティックサロン、美容
室、理容室、ネイルサロン等の同一の営業主により、本願指定役務が提供さ
れている実情がある。
⑶ 本願指定役務と引用指定役務の意義、取引の実情等を踏まえると、本願指
定役務は、美容(容貌、容姿、髪型を美しくすること)のために顔及び体の
5 手入れを行うサービスを含むものであり、かかるサービスは、広く美容を目
的とする施術を提供するサービスである引用指定役務に含まれる。そして、
本願指定役務と引用指定役務は、いずれも客の容貌、容姿等を美しくすると
いう役務の提供の手段、目的、需要者(一般の幅広い層の男女)を共通にし、
エステティックサロン、美容室、理容室、ネイルサロン等の同一の営業主に
10 より提供されている実情があるから、これらの役務に同一又は類似の商標を
使用するときは、同一の営業主の提供に係る役務と誤認されるおそれがあり、
同一又は類似の役務に該当する。
3 以上のとおり、本願商標は、引用商標と類似する商標であり、引用指定役務
と同一又は類似する役務について使用するものであるから、商標法4条1項1
15 1号に該当する。本件審決の商標法4条1項11号該当性に係る判断に誤りは
ない。
第4 当裁判所の判断
1 本願商標と引用商標の類否
⑴ 商標法4条1項11号に係る商標の類否は、対比される両商標が同一又は
20 類似の商品又は役務に使用された場合に、その商品又は役務の出所につき誤
認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが、それには、
そのような商品又は役務に使用された商標が、その外観、称呼、観念等によ
って取引者や需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察す
べきであり、しかも、その商品又は役務に係る取引の実情を明らかにし得る
25 限り、その具体的な取引状況に基づいて判断するのが相当である(最高裁昭
和43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。
また、商標は、その構成部分全体によって他人の商標と識別されるもので
あるから、複数の構成部分を組み合わせた結合商標について、その構成部分
の一部を抽出し、この部分のみを他人の商標と比較して商標そのものの類否
を判断することは原則として許されないというべきであるが、実際の取引に
5 おいて、各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると
思われるほど不可分的に結合しているものと認められない商標については、
常に必ずしも構成部分全体によって称呼、観念されるわけではなく、その一
部のみによって称呼、観念されることがあることを踏まえると、商標の構成
部分の一部が取引者や需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く
10 支配的な印象を与えると認められる場合や、それ以外の部分から出所識別標
識としての称呼、観念が生じないと認められる場合などには、その構成部分
の一部を要部として抽出し、その部分だけを他人の商標と比較して商標の類
否を判断することも許されると解するのが相当である(最高裁昭和38年1
2月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁、最高裁平成5年9
15 月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁、最高裁平成20年9
月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁参照)。
⑵ア 本願商標は、別紙「商標目録」記載のとおり、黒色の横長長方形を背景
とし、その中央部に、いずれも白色の円弧、複数の曲線を組み合わせた
図形と、白色で横書きした「SORA」の欧文字を上下に配して成る結
20 合商標であるところ、本願商標の構成中の図形部分と文字部分とが間隔
を空けて互いに重なり合うことなく配されていることからすると、これ
らは、外観上、分離して認識、観察されるものといえる。
そして、本願商標の構成中、「SORA」の文字部分からは、その構
成文字に相応して「ソラ」との称呼が生ずる。また、「SORA」は辞
25 書等に掲載のない語であり、一種の造語として認識されることから、特
定の観念は生じないものの、これは漢字の「空」をローマ字で表記した
とも認識され得るもので、その場合には、称呼に相応して「空」との観
念が生ずると認められる。他方、本願商標の構成中の図形部分から特定
の称呼や観念が生ずるとは認められない。
そうすると、本願商標の構成中、「SORA」の文字部分については、
5 その称呼、観念等に加え、構成態様からも、需要者である一般の利用者
に対し役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認め
られる一方、その構成中の図形部分については、背景部分を含め役務の
出所識別標識としての称呼、観念は生じないというべきである。
イ 引用商標は、別紙「引用商標目録」記載のとおり、左側に、黒色と淡灰
10 色の縦線模様を施し、その右下側部分を斜めに切り欠いた矩形状の図形
を配し、右側に、黒色で横書きした「SORA」の欧文字を配して成る
結合商標であるところ、引用商標の構成中の図形部分と文字部分とが間
隔を空けて互いに重なり合うことなく配されていることからすると、こ
れらは、外観上、分離して認識、観察されるものといえる。
15 そして、引用商標の構成中、「SORA」の文字部分からは、その構
成文字に相応して「ソラ」との称呼が生ずる。また、「SORA」は辞
書等に掲載のない語であり、一種の造語として認識されることから、特
定の観念は生じないものの、これは漢字の「空」をローマ字で表記した
とも認識され得るもので、その場合には、称呼に相応して「空」との観
20 念が生ずると認められる。他方、引用商標の構成中の図形部分から特定
の称呼や観念が生ずると認めることはできない。
そうすると、引用商標の構成中、「SORA」の文字部分については、
その称呼、観念等に加え、構成態様からも、需要者である一般の利用者
に対し役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認め
25 られる一方、その構成中の図形部分については、役務の出所識別標識と
しての称呼、観念は生じないというべきである。
ウ 上記ア及びイを踏まえると、本願商標及び引用商標は、実際の取引に
おいて、各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であ
ると思われるほど不可欠に結合しているものとは認められず、各構成中、
「SORA」の文字部分をそれぞれ要部と抽出し、その部分のみを比較
5 して、商標の類否を判断することが許されるというべきである。
原告は、本願商標の構成中の図形部分と文字部分が、墨塗りの横長長
方形内に白抜きで表され、両部分がそれぞれ独立して使用されることが
ないことや、本願商標の構成中の図形部分からは「日の入り」、「日の
出」、「静けさ」との、他方、引用商標の構成中の図形部分からは「髪
10 をカットするところ」との観念がそれぞれ生ずることからすると、本願
商標の構成中、「SORA」の文字部分のみを抽出し、この部分のみを
引用商標と比較して商標そのものの類否を判断することは許されない旨
の主張をする。
しかしながら、両商標の各構成中の図形部分と文字部分は、いずれも
15 外観上分離して認識、観察されるものであることは前記ア及びイのとお
りであり、このことは、本願商標が黒色の横長長方形を背景とし、その
中央部に、いずれも白色の図形部分と文字部分を配していることによっ
て左右されない。
また、商標の類否の判断に当たり考慮することのできる取引の実情と
20 は、その指定商品又は指定役務の全般についての一般的、恒常的なそれ
を指し、単に当該商標が現在使用されている商品又は役務についてのみ
の特殊的、限定的なそれを指すものではないから(最高裁昭和49年4
月25日第一小法廷判決参照)、ウェブサイト等に各図形の由来、表現
内容等に係る記載があることによって、前記の判断は左右されない。
25 エ そこで、本願商標と引用商標を対比すると、本願商標の要部である「S
ORA」の文字部分と、引用商標の要部である「SORA」の文字部分
は、外観において、文字の色や書体が相違するとはいえ、いずれも欧文
字を横書きにして成るもので近似し、称呼において同一であり、観念に
おいても比較し得ないか又は同一であって、その外観、称呼、観念等に
よって需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察する
5 と、両商標は、これが同一又は類似の商品又は役務に使用された場合に、
その商品又は役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるといえ、
したがって、本願商標と引用商標は互いに類似するものと認めるのが相
当である。
原告は、本願商標の構成中、「SORA」の文字部分から「空」との
10 観念が生ずるのに対し、商標権者のウェブサイトの記載によれば、引用
商標の構成中、「SORA」の文字部分から「空」との観念は生じない
旨の主張もするが、商標の類否の判断に当たり考慮することのできる取
引の実情とは、その指定商品又は指定役務の全般についての一般的、恒
常的なそれを指し、単に当該商標が現在使用されている商品又は役務に
15 ついてのみの特殊的、限定的なそれを指すものでないことは、前記ウの
とおりであり、採用できない。
2 本願指定役務と引用指定役務の類否
⑴ 商標登録出願は、商標の使用をする商品又は役務を商標法施行令で定める
商品及び役務の区分に従って指定してしなければならないところ(商標法6
20 条1項、2項)、商標法施行令は、同区分を国際分類に従って定めるととも
に、各区分に、その属する商品又は役務の内容を理解するための目安となる
名称を付し(同令2条、別表)、商標法施行規則は、各区分に属する商品又
は役務を国際分類に即し、各区分内において更に細分類をして定めるのであ
るから(商標法施行令2条、商標法施行規則6条、別表)、別表において定
25 められた商品又は役務の意義は、別表の区分に付された名称、別表において
当該区分に属するものとされた商品又は役務の内容や性質、特許庁の定める
類似商品・役務審査基準における類似群の同一性などのほか、国際分類を構
成する類別表注釈において示された商品又は役務についての説明をも参酌し
て解釈するのが相当である(最高裁平成23年12月20日第三小法廷判
決・民集65巻9号3568頁参照)。
5 また、指定役務が類似のものであるかどうかは、役務自体が取引上誤認混
同のおそれがあるかどうかにより判定すべきものではなく、それらの役務が
手段や目的において密接な関連を有するかどうか、同一の営業主により提供
され、あるいは、同一の場所で提供されるのが通常であるかどうかなどの取
引の実情により、当該役務に同一又は類似の商標を使用するときは、同一営
10 業主の提供に係る役務と誤認されるおそれがある場合には、たとえ、役務自
体が互いに誤認混同を生ずるおそれがないものであっても、類似の役務に当
たると解するのが相当である(最高裁昭和36年6月27日第三小法廷判
決・民集15巻6号1730頁、最高裁昭和39年6月16日第三小法廷判
決・民集18巻5号774頁、最高裁昭和41年2月22日第三小法廷判
15 決・民集20巻2号234頁、最高裁昭和43年11月15日第二小法廷判
決・民集22巻12号2559頁参照)。
⑵ これを本件について見るに、本願指定役務は、別表第44類の区分に属す
る「マッサージが組み込まれた顔及び体の手入れ、マッサージが組み込まれ
た美容のための体の手入れ」であり、引用指定役務は、同じく別表第44類
20 の区分に属する「美容、理容」である。
そして、① 別表第44類は、その名称を「医療、動物の治療、人又は動
物に関する衛生及び美容並びに農業、園芸又は林業に係る役務」とするもの
で、商標法施行規則は、これを「美容 理容」に細分類していること、②
国際分類を構成する類別表注釈においては、上記の人又は動物に関する衛生
25 及び美容に係る役務につき「第44類には、主として、人又は事業所が人…
に提供する、…美容ケア…に関連するサービスを含む。」との説明がされて
いること(乙10)に加え、「美容」は「容貌、容姿、髪型を美しくするこ
と」、「顔やからだつき、肌などを美しく整えること」、「顔かたちを美し
くすること。また、化粧、結髪、パーマネントウエーブなどによって容姿を
美しくすることをいう」ほどの意味を有する語(乙4~7)であり、「手入
5 れ」は「手を入れてよい状態にすること。また、よい状態のままでいるよう
に、世話をしてととのえること」ほどの意味を有する語(乙8)であること
を併せ考慮すると、引用指定役務中の「美容」は、容貌、容姿、髪型を美し
くするための「美容ケア」に関連する役務を広く含むものであり、いずれも
人に提供する美容ケアに関連するサービスである本願指定役務は、これに含
10 まれると解するのが相当である。
また、本願指定役務と引用指定役務とは、需要者が一般の利用者である点
や、目的が美容である点において共通する上、掲記の証拠及び弁論の全趣旨
によれば、① 「美容」に係る役務を提供するエステティックサロンにおい
て、顔、首筋等へのマッサージが提供される一方(乙11~14)、美容室
15 (ヘアサロン)においても、アロマトリートメント、フェイシャルエステ等
のマッサージが組み込まれた顔や体の手入れが提供されていること(乙15
~21)、② 厚生労働省のウェブサイト(乙23)には、「お客様の『容
姿を美しくしたい』というニーズに対応するため、…メイク、ネイル、エス
テ等サービスの拡充を検討しましょう。」、「パーマ施術中を利用したネイ
20 ルケア、ハンドケア、フットケア等のリラクゼーション・サービスメニュー
も検討しましょう。」との記載があり、収益力向上のため、美容室における、
マッサージが組み込まれた顔や体の手入れの提供を検討するよう提案されて
いることが認められ、本願指定役務と引用指定役務は、必ずしも常に役務を
提供する営業主や場所を異にするものではないから、当該役務に同一又は類
25 似の商標を使用するときは、同一営業主の提供に係る役務と誤認されるおそ
れがあるものといえ、類似の役務に当たるというべきである。そして、この
ことは、「美容の業務が適正に行われるように規律し、もつて公衆衛生の向
上に資すること」を目的とする美容師法が、「美容」とは、パーマネントウ
エーブ、結髪、化粧等の方法により、容姿を美しくすることをいうと定義し
(2条1項)、無免許営業や美容所以外の場所における営業を禁止している
5 こと(6条、7条)によって、左右されるものではない。
原告は、通常の注意力を有する需要者であれば、同一の称呼を生ずる商標
が使用されても出所の混同を生ずることはない旨の主張もするが、本願指定
役務に引用商標と同一又は類似の商標を使用するときは、同一営業主の提供
に係る役務と誤認されるおそれがあることは、前記のとおりであって、採用
10 できない。
3 小括
以上のとおり、本願商標は、引用商標と類似する商標であり、引用指定役務
と同一又は類似する役務について使用するものであるから、商標法4条1項1
1号に該当する。本件審決の商標法4条1項11号該当性に係る判断に誤りは
15 ない。
第5 結論
よって、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとして、主文のと
おり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官
森 冨 義 明
裁判官
菊 池 絵 理
裁判官
頼 晋 一
(別紙)
商 標 目 録
【出願番号】
5 商願2024-40406
【商標】
【役務の区分及び指定役務】(注:令和7年8月6日付け手続補正後のもの)
第44類 マッサージが組み込まれた顔及び体の手入れ,マッサージが組み込
10 まれた美容のための体の手入れ
以 上
(別紙)
引 用 商 標 目 録
【登録番号】商標登録第5728340号
5 【商標】
【役務の区分及び指定役務】
第44類 美容、理容
【登録日】平成26年12月19日
10 【出願日】平成26年1月10日
以 上
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