平成26(行ケ)10020審決取消請求事件
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裁判所 |
審決取消 知的財産高等裁判所
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裁判年月日 |
平成26年12月18日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被告ダイキン工業株式会社 原告旭硝子株式会社
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対象物 |
太陽電池のバックシート |
法令 |
特許権
特許法29条2項2回 特許法29条1項3号2回
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キーワード |
審決56回 刊行物39回 実施13回 無効3回
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主文 |
1 特許庁が無効2013-800052号事件について平成25年12月10日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。 |
事件の概要 |
1 特許庁における手続の経緯等(争いがない。)
被告は,平成17年7月22日,発明の名称を「太陽電池のバックシート」とす
る特許出願(特願2005-212550号)をし,平成24年11月9日,設定
の登録(特許第5127123号)を受けた(甲12。以下,この特許を「本件特
許」という。)。
原告は,平成25年3月29日,特許庁に対し,本件特許の請求項1ないし3及
び5に記載された発明についての特許を無効にすることを求めて審判の請求をした。 |
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判決文
平成26年12月18日判決言渡
平成26年(行ケ)第10020号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成26年10月30日
判 決
原 告 旭 硝 子 株 式 会 社
訴訟代理人弁理士 豊 岡 静 男
同 原 裕 子
被 告 ダイキン工業株式会社
訴訟代理人弁理士 秋 山 文 男
同 坂 本 波
同 塚 本 真 由 子
主 文
1 特許庁が無効2013-800052号事件について
平成25年12月10日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
主文同旨
第2 事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等(争いがない。)
被告は,平成17年7月22日,発明の名称を「太陽電池のバックシート」とす
る特許出願(特願2005-212550号)をし,平成24年11月9日,設定
の登録(特許第5127123号)を受けた(甲12。以下,この特許を「本件特
許」という。)。
原告は,平成25年3月29日,特許庁に対し,本件特許の請求項1ないし3及
び5に記載された発明についての特許を無効にすることを求めて審判の請求をした。
特許庁は,上記請求を無効2013-800052号事件として審理をし,被告が
同年6月18日,訂正請求をしたところ(甲13),特許庁は,同年12月10日,
「訂正を認める。本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本を,
同月19日,原告に送達した。
2 特許請求の範囲の記載(甲13)
前記訂正後の本件特許の特許請求の範囲(請求項の数は5である。)の請求項1
ないし3及び5の記載は,以下のとおりである(以下,請求項1ないし3及び5に
記載された発明をそれぞれ「本件発明1」ないし「本件発明3」及び「本件発明5」
といい,これらをまとめて「本件発明」という。また,前記訂正後の本件特許の明
細書及び図面をまとめて「本件明細書」という。)。
「【請求項1】
太陽電池モジュールの封止剤層と反対側の水不透過性シート上に硬化性官能基
含有含フッ素ポリマー塗料の硬化塗膜が形成されてなる太陽電池モジュールのバッ
クシートであって,水不透過性シートと硬化塗膜とは直接接着しており,該硬化塗
膜中に白色顔料又は黒色顔料が分散している太陽電池モジュールのバックシート。
【請求項2】
前記硬化性官能基含有含フッ素ポリマー塗料の硬化性官能基含有含フッ素ポリ
マーの硬化性官能基が水酸基,カルボキシル基またはアミノ基であり,硬化性官能
基含有含フッ素ポリマーの硬化性官能基が水酸基の場合の硬化剤がイソシアネート
系硬化剤,メラミン樹脂,シリケート化合物またはイソシアネート基含有シラン化
合物であり,硬化性官能基がカルボキシル基の場合の硬化剤がアミノ系硬化剤また
はエポキシ系硬化剤であり,硬化性官能基がアミノ基である場合の硬化剤がカルボ
ニル基含有硬化剤,エポキシ系硬化剤または酸無水物系硬化剤である請求項1記載
の太陽電池モジュールのバックシート。
【請求項3】
水不透過性シートが,Si蒸着ポリエステルシートまたは金属シートである請
求項1または2記載の太陽電池モジュールのバックシート。
【請求項5】
請求項1~3のいずれかに記載のバックシートを備えた太陽電池モジュール。」
3 審決の理由の要旨
(1) 審決の理由は,別紙審決書写しのとおりである。要するに,本件発明1は,
①本件特許の出願前に頒布された特開2001-196614号公報(甲1。以下
「刊行物1」という。)に記載された発明(以下「甲1発明1」という。)ではな
いから,特許法29条1項3号に該当しない,②刊行物1の実施例2として記載さ
れた発明(以下「甲1発明2」という。)又は/及び本件特許の出願前に頒布され
た特開平6-350117号公報(甲3。以下「刊行物3」という。)に記載され
た発明(以下「甲3発明」という。)並びに周知技術に基づいて,当業者が容易に
発明をすることができたものではない,③本件特許の出願前に頒布された特開20
00-114565号公報(甲9。以下「刊行物9」という。)に記載された発明
(以下「甲9発明」という。),甲3発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易
に発明することができたものではない,④本件発明2,3及び5は,本件発明1を
特定するために必要な事項を全て含むものであるから,本件発明1と同様の理由か
ら,当業者が容易に発明することができたものではないというものである。
(2) 審決が認定した甲1発明1,甲1発明2,甲3発明及び甲9発明の内容,
本件発明1と甲1発明1,甲1発明2,甲3発明及び甲9発明との一致点並びに相
違点は以下のとおりである。
ア 甲1発明1
(ア) 内容
「表面保護層,表面充填剤層,太陽電池素子,裏面充填剤層,および,裏面保護
層を順次に積層し,更に,裏面保護層の裏面充填剤層と反対側に防汚層,紫外線遮
蔽層,または,耐候性層の1層あるいはそれ以上を積層し,一体化してなる太陽電
池モジュールにおける,裏面保護層と防汚層,紫外線遮蔽層,または,耐候性層の
1層あるいはそれ以上とからなる太陽電池のバックシートにおいて,裏面保護層が,
基材フィルムの上に無機酸化物の蒸着膜を設けた蒸着フィルムからなり,防汚層,
紫外線遮蔽層,または,耐候性層の1層あるいはそれ以上が塗膜として形成されて
なる太陽電池のバックシート」
(イ) 本件発明1との一致点
「太陽電池モジュールの封止剤層と反対側の水不透過性シート上に塗膜を形成し
てなる太陽電池モジュールのバックシート」である点。
(ウ) 本件発明1との相違点(相違点1)
「本件発明1では,塗膜が硬化性官能基含有含フッ素ポリマー塗料の硬化塗膜で
あり,水不透過性シートと硬化塗膜とは直接接触し,さらに該硬化塗膜中に白色顔
料又は黒色顔料が分散しているのに対し,甲1発明1では,塗膜が,防汚層,紫外
線遮蔽層,または,耐候性層の1層あるいはそれ以上として形成される点。」
イ 甲1発明2
(ア) 内容
「防汚層/耐候性層/紫外線遮蔽層/膜厚200μmの環状ポリオレフィン系樹
脂シート・膜厚800Åの酸化アルミニウムの蒸着膜/プライマー層/アンカーコ
ート剤層/膜厚400μmの線状低密度ポリエチレン樹脂層からなる積層体(表面
保護層/充填剤層からなる積層体),アモルファスシリコンからなる太陽電池素子
を並列に配置した厚さ50μmのポリアラミドフィルム,および,膜厚400μm
の線状低密度ポリエチレン樹脂層/アンカーコート剤層/プライマー層/膜厚80
0Åの酸化アルミニウムの蒸着膜・膜厚200μmの環状ポリオレフィン系樹脂シ
ートからなる積層体/紫外線遮蔽層/耐候性層/防汚層(充填剤層/裏面保護層か
らなる積層体)を,その太陽電池素子面を上に向けて,順次に積層し,更に,層間
にアクリル系樹脂からなる接着剤層を介して積層して,次いで,真空吸引しながら
加熱圧着するラミネーション法を用いて一体化成形した太陽電池モジュールの裏面
保護層において,紫外線遮蔽層が0.03μmの酸化チタン超微粒子5重量部とエ
チレン-ビニルアルコール共重合体液(固形分20%溶液)95重量部とからなる
紫外線吸収剤組成物から構成されている裏面保護層」
(イ) 本件発明1との一致点
「太陽電池モジュールの封止剤層と反対側の水不透過性シート上に塗膜が形成さ
れてなる太陽電池モジュールのバックシートであって,水不透過性シートと塗膜と
は直接接触している太陽電池モジュールのバックシート」である点。
(ウ) 本件発明1との相違点(相違点2)
「本件発明1では,塗膜が硬化性官能基含有含フッ素ポリマー塗料の硬化塗膜で
あり,さらに該硬化塗膜中に白色顔料又は黒色顔料が分散しているのに対し,甲1
発明2では,塗膜が0.03μmの酸化チタン超微粒子5重量部とエチレン-ビニ
ルアルコール共重合体液(固形分20%溶液)95重量部とからなる点。」
ウ 甲3発明
(ア) 内容
「光変換部材としての半導体光活性層を,少なくとも一層有する光起電力素子か
らなる太陽電池モジュールにおいて,少なくとも光入射面側の硬質フィルム上に無
機化合物からなる紫外線吸収剤を添加した三フッ化塩化エチレン-ビニル共重合体
が積層され充填材により接着された表面被覆材の最表面が三フッ化塩化エチレン-
ビニル共重合体よりなることを特徴とする太陽電池モジュールの表面被覆材。」
(イ) 本件発明1との一致点
「太陽電池モジュールの封止剤層と反対側の水不透過性シート上に硬化性官能基
含有含フッ素ポリマー塗料の硬化塗膜が形成されてなる太陽電池モジュールのシー
トであって,水不透過性シートと硬化塗膜とは直接接触してなるシート」である点。
(ウ) 本件発明1との相違点
(相違点3)
「シートについて,本件発明1のシートはバックシートであると特定するが,甲
3発明のシートは,表面被覆材であると特定する点。」
(相違点4)
「硬化性官能基含有含フッ素ポリマー塗料の硬化塗膜に関し,本件発明1では,
当該塗膜中に白色顔料又は黒色顔料が分散していると特定するが,甲3発明では,
無機化合物からなる紫外線吸収剤を添加したと特定する点。」
エ 甲9発明
(ア) 内容
「少なくともバックカバーフィルム上に,充填材層に埋設された太陽電池素子を
備えてなる太陽電池モジュールのバックカバーフィルムであって,少なくとも光反
射性を有する基材フィルムまたは光反射性を有する塗膜層と,無機酸化物の蒸着層
を備えた樹脂フィルムとを含む積層体で形成され,且つ,前記基材フィルムまたは
樹脂フィルムの少なくともいずれか一方が,耐候性樹脂フィルム,または耐候性塗
膜層を備えた樹脂フィルムであるバックカバーフィルム」
(イ) 本件発明1との一致点
「太陽電池モジュールの封止剤層と反対側の水不透過性シート上にフッ素ポリマ
ー塗料の塗膜が形成されてなる太陽電池モジュールのバックシートであって,水不
透過性シートと塗膜とは直接接触している太陽電池モジュールのバックシート」で
ある点。
(ウ) 本件発明1との相違点(相違点5)
「本件発明1では,フッ素ポリマー塗料の塗膜が,「硬化性官能基含有含フッ素
ポリマー塗料の硬化塗膜」であって,塗膜中に白色顔料又は黒色顔料が分散してい
ると特定しているが,甲9発明では,そのような特定がなされていない点。」
第3 原告主張の取消事由
1 取消事由1(本件発明1の認定の誤り)について
審決は,本件発明1の塗膜は隠蔽性を達成するために顔料が入れられており,透
明性を担保するものでないと認定した。
しかし,「隠蔽性」は不透明を意味しているわけでもなく,塗膜に顔料を添加し
ても含有量次第で太陽光の透過に影響しないことなどからすれば,本件発明1の塗
膜が透明性を担保するものではない,すなわち不透明であるとの審決の認定は誤り
であって,正しくは,美観の観点及び外観を美麗にする点から顔料を分散させてい
ると認定すべきである。
したがって,審決は,上記誤った認定を前提に相違点の認定判断を行ったもので
あって,上記誤りが審決の結論に影響することは明らかである。
2 取消事由2(甲1発明1の認定の誤り及び相違点の認定判断の誤り)につい
て
(1) 特許法29条1項3号該当性の判断のための引用発明の認定にあたっては,
特許発明の対比判断に必要かつ十分な範囲で認定すべきと解されるところ,刊行物
1の記載等によれば,甲1発明1の「裏面保護層」は本件発明1の「水不透過性シ
ート」に相当し,「耐候性層」は,ルミフロン(登録商標。以下「ルミフロン」と
いう。)からなる透明フッ素樹脂の樹脂組成物による塗布膜であるから,本件発明
1の「硬化性官能基含有含フッ素ポリマー塗料の塗膜」に相当するといえる。
したがって,甲1発明1は,「太陽電池モジュールの裏面充填剤層と反対側の水
不透過性シート上に,硬化性官能基含有含フッ素ポリマー塗料の塗膜が形成されて
なり,水不透過性シートと塗膜とは直接接触しており,該塗膜中に着色剤及び架橋
剤が任意に添加される太陽電池モジュールのバックシート」と認定すべきである。
(2) また,上記認定からすれば,本件発明1との相違点については,①本件発
明1では,塗膜が硬化塗膜であるのに対し,甲1発明1では塗膜が硬化塗膜とは記
載されていない点(相違点1-1),②本件発明1では,塗膜中に白色顔料又は黒
色顔料が分散しているのに対し,甲1発明1では塗膜中に顔料が分散しているとは
記載されていない点(相違点1-2)と認定すべきである。
(3) そして,審決は,相違点1-2について,本件発明1では,塗膜の隠蔽性
を達成するために顔料を入れており,塗膜は透明性を担保するものとは認められな
い一方で,甲1発明1の耐候性層は透明性が担保される必要があるとして,甲1発
明1の耐候性層は本件発明1の硬化塗膜に相当しないと判断した。
しかし,前記1のとおり,本件発明1の塗膜を不透明であるとした審決の認定,
甲1発明1の耐候性層は透明性が担保される必要があるとした審決の認定はいずれ
も誤りであって,塗膜が透明か不透明かは実質的な相違点ではない。
また,相違点1-1については,審決は判断していないが,甲1発明1の塗膜は
ルミフロンからなる透明フッ素樹脂の樹脂組成物による塗布膜によって構成される
塗膜であるところ,ルミフロンは通常,硬化させて使用されるもので,甲1発明1
は,任意に架橋剤を添加することが記載されているものであるから,当業者は,当
然に硬化塗膜として使用することを理解する。
したがって,相違点1-1は実質的な相違点ではない。
(4) 以上によれば,本件発明1と甲1発明1は実質的に同一の発明であって,
相違点1を実質的な相違点とした審決の認定判断及びこれを前提とした本件発明2,
3及び5についての判断も誤りである。
3 取消事由3(甲1発明2の認定の誤り及び相違点の認定判断の誤り)につい
て
(1) 特許法29条2項該当性の判断のための引用発明の認定にあたっては,特
許発明の対比判断に必要かつ十分な範囲で認定すべきと解されるところ,刊行物1
の記載によれば,甲1発明2は,「太陽電池モジュールの封止剤層と反対側の水不
透過性シート上に,紫外線遮蔽層を介して硬化性官能基含有含フッ素ポリマー塗料
の塗膜が形成されてなる太陽電池モジュールのバックシート」と認定されるべきで
ある。
(2) また,上記認定からすれば,本件発明1と甲1発明2との相違点について
は,①本件発明1では,塗膜が硬化塗膜であるのに対し,甲1発明2では塗膜が硬
化塗膜とは記載されていない点(相違点2-1),②本件発明1では,水不透過性
シートと硬化塗膜とは直接接触しているのに対し,甲1発明2では,水不透過性シ
ートと塗膜とは紫外線遮蔽層を介して積層されている点(相違点2-2),③本件
発明1では,塗膜中に白色顔料又は黒色顔料が分散しているのに対し,甲1発明2
では塗膜中に顔料が分散しているとは記載されていない点(相違点2-3)と認定
されるべきである。
(3) そして,前記2(3)からすれば,当業者であれば,甲1発明2のルミフロン
の塗膜を硬化塗膜として相違点2-1に係る構成を容易に想到することができ,甲
1発明2の塗膜に白色や黒色の顔料を添加して相違点2-3に係る構成を容易に想
到することもできる。
また,相違点2-2に係る構成についても,刊行物1には,裏面保護層(本件発
明1の水不透過性シートに相当する)上に防汚層,紫外線遮蔽層,又は耐候性層の
1層あるいはそれ以上を積層されると記載され,実施例としても,バックシートを
水不透過性シートである裏面保護層及び該裏面保護層に直接接着させた防汚層のみ
により構成したものが記載され,ルミフロンからなる透明フッ素樹脂の樹脂組成物
による塗布膜により構成される耐候性層を防汚層として使用できることも記載され
ていることによれば,刊行物1には,太陽電池モジュールのバックシートとして,
水不透過性シートである裏面保護層上にルミフロンからなる透明フッ素樹脂の樹脂
組成物による塗布膜により構成される耐候性層を直接接着させて形成する構成が示
唆されているといえる。そうすると,当業者であれば,甲1発明2の紫外線遮蔽層
を介して形成された硬化性官能基含有含フッ素ポリマー塗料の塗膜を,紫外線遮蔽
層を省略して,水不透過性シートに直接接触させて相違点2-2に係る構成を容易
に想到することができる。
(4) 以上によれば,審決の甲1発明2の認定及びこれに基づく相違点2の認定
判断は誤りであって,本件発明1は,甲1発明2及び周知技術に基づいて,当業者
が容易に発明をすることができたものである。
4 取消事由4(相違点3の判断の誤り)について
審決は,刊行物1等には,太陽電池モジュールの表面保護層と裏面保護層とが同
じ構造の積層体から構成されたものが記載されているものの,太陽電池モジュール
として,表面保護層と裏面保護層が異なる構成の積層体である場合に,裏面保護層
を表面保護層で置き換えることについては,記載も示唆も一切されておらず,動機
付けもないことなどから相違点3に係る構成は当業者にとって容易に想到すること
ができるとはいえないと判断した。
しかし,太陽電池モジュールとして,表面保護層と裏面保護層が異なる構成の積
層体である場合に,裏面保護層を表面保護層で置き換えることは周知技術である
(甲4,5)。また,前記2(3)のとおり,バックシートにおいて硬化塗膜を形成
することは通常行われていたことである。
したがって,甲3発明の表面被覆材として使用されたシートを,バックシートと
して使用することは,単なる設計的事項程度のことであって,当業者であれば,相
違点3に係る構成を容易に想到できたものであるから,審決の判断は誤りである。
5 取消事由5(相違点4の判断の誤り)について
審決は,甲3発明では,紫外線吸収剤は太陽電池モジュールの表面被覆材として
太陽光の入射面側に存在するものであるから,当然に透明性が担保できる程度に添
加するものと解され,かかる紫外線吸収剤を,本件発明1の顔料と同様に,隠蔽性
を実現する程度に添加することには阻害事由がある上,動機付けもないことなどか
ら,相違点4に係る構成は当業者にとって容易に想到することができるとはいえな
いと判断した。
しかし,前記1のとおり,本件発明1が隠蔽性を実現する程度に顔料を添加して
いるとの認定は誤りである。また,太陽電池モジュールにおいて,光起電力素子の
上に積層される層は太陽光を透過する透明性が要求されるが,光起電力素子の下に
積層される層が透明性を要求されないことは技術常識である。さらに,太陽電池モ
ジュ-ルにおいては,透過した太陽光を光反射あるいは光拡散させて再利用するた
めに光反射性,光拡散性を付与し,更に意匠性を付与することを目的として,白色
顔料,あるいは,黒色顔料を添加することは周知の技術である(甲6,9,17,
21)。そうすると,甲3発明の硬化塗膜は,太陽電池モジュールの表面被覆材と
して記載されているから透明性が担保されているとしても,これをバックシートと
して使用する際には,透明性を担保する必要性はないから,前記周知技術に鑑み,
白色や黒色の顔料を添加して,光反射性,光拡散性及び意匠性等を付与することは
設計的事項にすぎない。
したがって,相違点4に係る構成は当業者が容易に想到することができたもので
あるから,審決の判断は誤りである。
6 取消事由6(相違点5の判断の誤り)について
(1) 審決は,甲9発明では,塗料を含有させる場合は,光反射性を有する基材
フィルム中に顔料を添加しているから,基材フィルム中に顔料を添加している場合
に,塗膜中に白色顔料又は黒色顔料を分散させる動機は見いだせず,当業者は,相
違点5に係る構成を容易に想到することができるとはいえないと判断した。
しかし,甲9発明は,バックカバーフィルムからアルミニウム箔を取り除いても,
光反射性等に優れたものとするために,バックカバーフィルムを,少なくとも光反
射性を有する基材フィルム又は光反射性を有する塗膜層を含む積層体で形成するこ
とによって,太陽電池モジュールの前面側から入射した光の一部が太陽電池素子を
透過した場合であっても,その光が反射されて太陽電池素子に再入射するため,光
が有効に利用され光起電力が向上するというものである。そして,従来技術(甲6,
17,19)によれば,太陽電池モジュ-ルのバックシートにおいて,透過した太
陽光を光反射あるいは光拡散させて再利用するために光反射性,光拡散性等を付与
し,更に,意匠性等を付与することを目的として,白色顔料や黒色顔料を添加する
場合には,バックシートのいずれの層に添加してもよいのであり,さらには,複数
の層に添加してもよいと理解される。
そうすると,甲9発明のフッ素樹脂塗料からなる耐候性塗膜について,充填剤層
に近接した光反射性を有する塗膜層の代わりに,あるいは,該塗膜層に加えて,光
反射性,光拡散性及び意匠性を付与するために,白色顔料や黒色顔料を添加するこ
とは,当業者が容易に想到することができる。
(2) また,本件発明1と甲9発明を対比すると,本件発明1では,フッ素ポリ
マー塗料の塗膜が硬化性官能基含有含フッ素ポリマー塗料の硬化塗膜であるのに対
し,甲9発明では,硬化性官能基を含有した塗料の硬化塗膜ではない点も相違する。
しかし,甲9発明のバックシートは,耐候性を向上させるために耐候性塗膜層と
してフッ素ポリマー塗料からなる塗膜を設けたものであるところ,耐候性等を向上
させたバックシートを得るという課題を解決するため,同じフッ素系樹脂塗料の中
から,周知のルミフロン等の硬化性官能基を持つフッ素系樹脂塗料を選択し,又は
刊行物3に記載された表面保護シートの技術を適用して,これを硬化させた硬化塗
膜を用いることについては,当業者には明確な動機付けがあり,容易に想到するこ
とができるというべきである。
(3) 以上によれば,相違点5に係る構成は,当業者が容易に想到することがで
きたものであるから,審決の判断は誤りである。
第4 被告の反論
1 取消事由1(本件発明1の認定の誤り)に対し
原告は,本件発明1の塗膜が透明性を担保するものではない,すなわち不透明で
あるとの審決の認定は誤りである旨主張する。
しかし,審決は本件発明1の塗膜が不透明であると認定しているわけではな
い。また,本件発明1は,「硬化塗膜中に白色顔料又は黒色顔料が分散してい
る」という構成を有するところ,白色顔料及び黒色顔料は,通常,可視光を反
射することによって硬化塗膜が白色又は黒色に見えるように添加され,隠蔽性
を達成できるものであって,本件発明1の塗膜が透明性を担保するものではな
いことは当業者に明らかである。
したがって,審決の認定に誤りはなく,原告の主張は理由がない。
2 取消事由2(甲1発明1の認定の誤り及び相違点の認定判断の誤り)に対し
(1) 原告は,「耐候性層」は,ルミフロンからなる透明フッ素樹脂の樹脂組成
物による塗布膜であるから,本件発明1の「硬化性官能基含有含フッ素ポリマー塗
料の塗膜」に相当することなどから,審決がした甲1発明1の認定及び相違点1の
認定は誤りである旨主張する。
しかし,ルミフロンには硬化性官能基を含有しないポリマーが含まれている上,
硬化することなく塗膜を形成するものであるから,甲1発明1の水不透過性シート
状に形成される塗膜を「硬化性官能基含有含フッ素ポリマー塗料の塗膜」として抽
象化している点で誤りである。そして,刊行物1の記載(請求項1,2,【004
5】)によれば,審決の認定に誤りはない。
(2) 原告は,本件発明1との相違点は,相違点1-1及び1-2である旨主張
する。しかし,上記のとおり,甲1発明1の認定に誤りはない上,相違点の認定は
発明の技術的課題の解決の観点から,まとまりのある構成を単位として認定すべき
であることによれば,審決の相違点1の認定に誤りはない。
(3) 原告は,相違点1-2について,本件発明1の塗膜が不透明である一方で,
甲1発明1の耐候性層は透明性が担保される必要があるとした審決の認定は誤りで
あって,塗膜が透明か不透明かは実質的な相違点ではない旨主張する。
しかし,刊行物1には,耐候性層への添加剤の添加に関して,太陽光の透過に影
響しない範囲で任意に添加することが記載され,白色顔料又は黒色顔料が分散して
いる耐候性層は記載されていないから,相違点1-2は実質的な相違点である。
また,原告は,相違点1-1については,甲1発明1の塗膜はルミフロンからな
る透明フッ素樹脂の樹脂組成物による塗布膜によって構成される塗膜であり,当業
者は,当然に硬化塗膜として使用することを理解する旨主張する。
しかし,刊行物1には硬化条件を含めてルミフロンを硬化させる旨の記載は全く
なく,ルミフロンを硬化させて使用することが通常であるとの技術常識は存在しな
いから,相違点1-1も実質的な相違点である。
(4) 以上によれば,審決の認定判断に誤りはなく,原告の主張は理由がない。
3 取消事由3(甲1発明2の認定の誤り及び相違点の認定判断の誤り)に対し
(1) 原告は,甲1発明2の認定は誤りである旨主張する。しかし,審決は耐候
性層を看過することなく認定している上,何らの限定も付さずに単に「耐候性層」
と認定しているものであって,実施例について具体的に記載された部分以外を参酌
せずに耐候性層を認定しているわけでもないから,本件発明との対比判断に必要か
つ十分な限度で認定されているといえる。
また,前記2(1)及び(3)のとおり,刊行物1の実施例2に記載された耐候性層は,
フッ素樹脂塗布液を使用した塗布膜からなるものであって,硬化性官能基含有含フ
ッ素ポリマーの塗膜とはいえないから,原告が主張する甲1発明2は明らかに誤り
であり,審決の甲1発明2の認定に誤りはない。
(2) 原告は,本件発明1との相違点は,相違点2-1ないし2-3である旨主
張する。
しかし,前記2(2)のとおり,相違点の認定は,発明の技術的課題の解決の観点
から,まとまりのある構成を単位として認定すべきである。また,刊行物1の比
較例1のとおり,非硬化性のフッ素樹脂の塗布液の塗布膜では,水不透過性シ
ートと塗布膜との密着性は十分ではないところ,本件発明1では,水不透過性
シートと硬化性官能基含有含フッ素ポリマー塗料の硬化塗膜の密着性は十分で
あって,両者が直接接着していることは,本件発明1の重要な特徴の一つであ
るから,水透過性シートに直接接着させる層に関する検討が重要である。そこ
で,審決は,甲1発明2において,紫外線遮蔽層が充填剤層(封止材層)と直
接接触していることを確認した上で,甲1発明2との一致点として「水不透過
性シートと塗膜とは直接接触している」点を認定し,その一致点を前提に相違
点2を認定したものであって,審決の相違点2の認定に誤りはない。
なお,刊行物1の実施例2に記載された耐候性層は,硬化性官能基含有含フ
ッ素ポリマーの塗膜ではないから,本件発明1の硬化塗膜に対応するものとし
て認定すべき理由はない。
(3)ア 原告は, 当業者であれば, 相違点2-1に係る構成を容易に想到す
ることができる旨主張する。しかし, 前記2 (3)のとおり,刊行物1にはルミ
フロンを硬化させることの示唆はなく,文献(甲2,3,14)にも,ルミフ
ロンを硬化剤と共に用いると,硬化剤と共に用いない場合に比べて利点が存在
することは記載されていない一方で,ルミフロンから形成される塗膜が硬化剤
の有無によらず耐候性に優れることが知られている(甲14,15)。また,
特開2002-83988号公報(甲6)及び特開2002-368243号公
報(甲7)には,ある特定の材料からなる特定の硬化塗膜を形成する技術が開
示されているが,いずれも塗膜を一般的に硬化させることを教示しているわけ
ではない。
したがって,硬化性官能基含有含フッ素ポリマー塗料の塗膜を硬化塗膜とす
ることは,当業者が容易に想到することができるものではない。
イ 原告は,当業者であれば,甲1発明2の塗膜に白色や黒色の顔料を添加
して相違点2-3に係る構成を容易に想到することができる旨主張する。
しかし,黒色顔料では太陽光を反射させることができず,白色顔料について
も,刊行物1には「太陽光の透過に影響しない範囲で任意に添加」(【004
4】)することが記載されているから塗膜は透明性が担保される必要があり,
耐候性層を白色顔料が分散している構成とすることには阻害要因がある。また,
甲1発明2は,表面保護層としても,裏面保護層としても,同じ層構成の積層
体を使用するものであって,表面と裏面とで別個の積層体を適用することも,
耐候性層を別個の構成とすることも記載されておらず,裏面保護層に設ける耐
候性層としては,実施例2として記載されている白色顔料又は黒色顔料が分散
していない構成しか記載されていない。
したがって,塗膜を白色顔料又は黒色顔料が分散しているという構成とする
ことは,当業者が容易に想到することができるものではない。
ウ 原告は,当業者であれば,相違点2-2に係る構成を容易に想到するこ
とができる旨主張する。
しかし,刊行物1には,甲1発明2において,水不透過性シートと直接接着
している紫外線遮蔽層を省略して,紫外線遮蔽層が本来あるべき位置に耐候性
層を設けても,同じ効果が期待できることは記載も示唆もされておらず,水不
透過性シートと耐候性層とを直接接着させることは,当業者が容易に想到する
ことができるものではない。また,仮に甲1発明2において,紫外線層を省略
し,耐候性層を防汚層として使用すれば,実施例1等と同様の構成となること
からすると,原告の主張は実質的に甲1発明2を実施例1に基づいて認定する
ことを主張しているのと同じであって不適切である。さらに,原告の主張は,
本件発明1の塗膜と防汚層との対比を実質的に要求するものであって,甲1発
明2の認定に当たって,防汚層を認定する必要がないとする主張と矛盾する。
したがって,紫外線遮蔽層を省略して,水不透過性シートと塗膜とを直接接
着させることは,当業者が容易に想到することができるものではない。
(4) 以上によれば,審決の甲 1発明2の認定及び相違点2の認定判断に誤り
はなく,原告の主張は理由がない。
4 取消事由4(相違点3の判断の誤り)に対し
原告は,甲3発明の表面被覆材として使用されたシートを,バックシートとして
使用することは,単なる設計的事項程度のことである旨主張する。
しかし,刊行物3には, 「太陽電池モジュールの 表面被覆材を提供」するこ
とを目的とし(【0013】),裏面絶縁フィルムとして,ナイロン,ポリエ
チレン,ポリエステル,ポリスチレン等が挙げられることが記載されているが
(【0020】),裏面絶縁フィルムとして,表面被覆材を採用することは記
載も示唆もない。また,原告が指摘する文献の記載を考慮しても,太陽電池モ
ジュールとして,表面保護層と裏面保護層が異なる構成の積層体である場合に,
裏面保護層を表面保護層で置き換えることについての動機付けはなく,そうす
ることが周知の技術であるとはいえず,単なる設計的事項程度のことともいえ
ない。
したがって,審決の判断に誤りはなく,原告の主張は理由がない。
5 取消事由5(相違点4の判断の誤り)に対し
原告は,甲3発明の硬化塗膜をバックシートとして使用する際には,透明性を担
保する必要性はないから,前記周知技術に鑑み,白色や黒色の顔料を添加して,光
反射性,光拡散性及び意匠性等を付与することは設計的事項にすぎない旨主張する。
しかし,原告の主張は,本件発明1の塗膜は不透明である旨の審決の認定は
誤りであることを前提とするところ,前記1のとおり,その前提に誤りがある。
また,光起電力素子の上に積層される層は太陽光を透過する透明性が要求さ
れる一方で,光起電力素子の下に積層される層が透明性を要求されないことが
技術常識であるとしても,刊行物1の実施例に記載されている保護シートは表
面保護層又は裏面保護層のいずれに使用されるかにかかわらず,いずれも全光
線透過率が90%以上であることによれば,光起電力素子の下に積層される層
について透明性を担保しない層とすることは技術常識ではない。
さらに,表面被覆材をバックシートとして採用することが単なる設計的事項
程度ではないことは前記4のとおりである。
したがって,審決の判断に誤りはなく,原告の主張は理由がない。
6 取消事由6(相違点5の判断の誤り)に対し
(1) 原告は,甲9発明のフッ素樹脂塗料からなる耐候性塗膜について,白色顔
料や黒色顔料を添加することは,当業者が容易に想到することができる旨主張する。
しかし,本件発明1は,塗膜に白色顔料又は黒色顔料が分散していることか
ら,美麗さを損なうモジュール内部の配線を隠蔽するという優れた効果を奏す
るのに対して,甲9発明は,バックカバーフィルムに光反射性を付与するため
に,光反射性を有する基材フィルム又は光反射性を有する塗布膜を含む構成と
し,これらとは別個に耐候性樹脂フィルム又は耐候性塗膜層を備える構成とし,
耐候性樹脂フィルム又は耐候性塗膜層に顔料を含有させることは記載も示唆も
ない。なお,原告が指摘する従来技術に関する文献は,耐候性塗膜層とは別個
に光反射性を有する塗布膜を設けるとしている甲9発明において,更に耐候性
塗膜層に白色顔料や黒色顔料を添加することを開示又は示唆するものではない。
し たがって, 甲9発明のフッ素樹脂塗料からなる耐候性塗膜について,白色顔
料や黒色顔料を添加することは,当業者が容易に想到することができるものではな
い。
(2) また,原告は,当業者であれば,甲9発明において,周知のルミフロン等
の硬化性官能基を持つフッ素系樹脂塗料の硬化塗膜を用いることを容易に想到する
ことができる旨主張する。
しかし,刊行物9には,「耐候性塗膜層」を構成する樹脂として,フッ素樹脂を
使用することができることが記載されているが,硬化性官能基含有含フッ素ポリマ
ー塗料の硬化塗膜とすることについては記載も示唆もない。また,刊行物3には,
三フッ化塩化エチレン-ビニル共重合体を光入射面側の表面被覆材の最表面に使用
することが記載されているが(特許請求の範囲),バックカバーフィルムに使用す
ることは記載も示唆もされておらず,刊行物9において,耐候性塗膜層を採用させ
るというよりは,「高耐候性2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(以下,
高耐候性PETフィルム)」(段落0031)などの耐候性樹脂フィルムを使用す
べきことを教示しているというべきである。さらに,前記3(3)アのとおり,文
献(甲2,3,6,7,14,15)を考慮しても,硬化性官能基含有含フッ
素ポリマー塗料の塗膜を硬化塗膜とすることも,当業者が容易に想到すること
ができるものではない。
したがって,甲9発明において,硬化性官能基含有含フッ素ポリマー塗料の硬化
塗膜を用いることは,当業者が容易に想到することができるものではない。
(3) 以上によれば,相違点5に係る構成を当業者が容易に想到することができ
るものではないとした審決の判断に誤りはなく,原告の主張は理由がない。
第5 当裁判所の判断
当裁判所は,原告の取消事由3には理由があり,審決にはこれを取り消すべき違
法があるものと判断する。その理由は,以下のとおりである。
1 本件発明1の要旨
本件明細書によれば,本件発明1は,太陽電池セルの封止剤として用いられてい
るエチレン/酢酸ビニル共重合体との接着性に優れた太陽電池のバックシートに関
するものである(【0001】)。太陽電池モジュールにおけるバックシートは,
モジュールの機械的強度を高める目的のほか,水分(水蒸気)が封止剤層に入らな
いように防止する役割もあり,従来,水蒸気バリヤー性をもたすための水不透過性
シートとその一方の面に樹脂シートが貼り合わされた構成とされていたところ
(【0003】【0004】),樹脂シートについては,通常は厚さ20ないし1
00μmで更なる軽量化が求められており(【0007】),樹脂シートに代えて
樹脂塗料を用いて同様の層を形成することが提案されているが,耐候性や接着性等
の点で不十分なものであった(【0008】ないし【0010】)。
そこで,本件発明1は,水不透過性シートとの接着性に優れた太陽電池のバック
シートを提供することを目的とし(【0012】),太陽電池モジュールの封止剤
層と反対側の水不透過性シート上に硬化性官能基含有含フッ素ポリマー塗料の硬化
塗膜が形成されてなる太陽電池モジュールのバックシートであって,水不透過性シ
ートと硬化塗膜とは直接接着しており(【0014】【0015】,図2,3,
5),該硬化塗膜中に白色顔料又は黒色顔料が分散しているものであって(【00
19】【0056】),塗料の形態で塗装することができるので従来のシートの貼
り合せに比べて厚さを薄くでき,薄膜化・軽量化を図ることができるものである。
また,塗膜の膜厚の減少による機械的強度の低下は,硬化性の官能基による硬化
(架橋)によって補うことができ(【0021】),水不透過性シートとの接着性
も,含フッ素ポリマーに官能基を導入することにより向上させることができるもの
である(【0022】)。
2 取消事由1について
原告は,本件発明1の塗膜は透明性を担保するものではない,すなわち不透明で
あるとの審決の認定は誤りであって,正しくは,美観の観点及び外観を美麗にする
点から顔料を分散させていると認定すべきである旨主張する。
しかし,審決は,本件発明1の塗膜は透明性を担保するものではないと認定した
のであって,不透明であると認定したわけではない。そして,前記1のとおり,
本件発明1は,「硬化塗膜中に白色顔料又は黒色顔料が分散している」という
構成を有しているから,その含有量によって透明性がなくなることは明らかで
あって,本件発明1の塗膜が透明性を担保するものではないとした審決の認定
に誤りはない。
なお,審決は,本件発明1について,隠蔽性を達成するために顔料を入れて
いるものと認定しているところ,本件明細書の顔料を入れる理由については,
「太陽電池モジュールの美観の観点から・・・硬化塗膜中に顔料を分散させる
ことが好ましい。」(【0019】),「顔料は太陽電池モジュールの外観を
美麗にする点から添加することが強く望まれている。」(【0056】)との
記載がある一方で,隠蔽性と顔料の添加との間に関連性があることを窺わせる
記載が全くないことなどからすれば,硬化塗膜中に顔料を分散させる理由に関
する審決の認定は正確なものとはいえない。しかし,審決は,硬化塗膜中に顔
料を分散させる理由を用いて争点に関する認定判断をしているわけではないか
ら,この点は審決の結論を左右するものではない。
したがって,取消事由1には理由がない。
3 取消事由3について
取消事由2及び3はいずれも刊行物1に記載された発明に関するものである
ところ,事案の内容に鑑み,取消事由3について先に判断する。
(1) 甲1発明2について
ア 刊行物1には,以下の記載がある(甲1。図1及び2については,別紙甲1
発明2図面目録参照。)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】表面保護層,少なくとも,透明性,クッション性を有し,かつ,耐熱
性を有し,熱の作用に対する非劣化ないし非分解性に優れた樹脂層からなる充填剤
層,太陽電池素子,充填剤層,および,裏面保護層を順次に積層し,更に,その層
上あるいは層間のいずれかに,少なくとも,防汚層,紫外線遮蔽層,または,耐候
性層の1層あるいはそれ以上を積層し,一体化したことを特徴とする太陽電池モジ
ュール。」
「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,太陽電池モジュールに関し,更に詳しくは,
耐候性,耐熱性,耐水性,耐湿性,耐風圧性,耐降雹性,その他等の諸特性に優れ,
極めて耐久性に富み,かつ,長期間の使用に対し極めて優れた信頼性を有する太陽
電池モジュールに関するものである。
【0002】
【従来の技術】近年,環境問題に対する意識の高まりから,クリーンなエネルギー
源としての太陽電池が注目され,現在,種々の形態からなる太陽電池モジュールが
開発され,提案されている。一般に,上記の太陽電池モジュールは,例えば,結晶
シリコン太陽電池素子あるいはアモルファスシリコン太陽電池素子等を製造し,そ
のような太陽電池素子を使用し,表面保護層,充填剤層,光起電力素子としての太
陽電池素子,充填剤層,および,裏面保護層等の順に積層し,真空吸引して加熱圧
着するラミネーション法等を利用して製造されている。・・・
【0003】ところで,太陽電池が具備しなければならない特性としては,光エネ
ルギーから電気エネルギーへの変換効率が高いこと,および,長期間の使用に対し
信頼性に優れていること等が挙げられる。・・・
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら,現在,太陽電池を構成する材料,
素材等においては,上記のような条件の総てを充足し得るものはなく,一長一短が
あり,太陽電池を構成する材料自体の安定性と共にそのような材料を使用して製造
した太陽電池の構造自体の安定性等を十分に満足し得るものであるとは言い得ない
ものであるというのが実状である。・・・そこで本発明は,耐候性,耐熱性,耐水
性,耐湿性,耐風圧性,耐降雹性,その他等の諸特性に優れ,極めて耐久性に富み,
かつ,長期間の使用に対し極めて優れた信頼性を有する太陽電池モジュールを提供
することである。」
「【0007】
【発明の実施の形態】・・・本発明にかかる太陽電池モジュールについて図面等を
用いて説明すると,図1および図2は,本発明にかかる太陽電池モジュールの層構
成についてその一二例を示す概略的断面図である。
【0008】本発明において,本発明にかかる太陽電池モジュールについてその一
例を例示すると,本発明にかかる太陽電池モジュールTは,図1に示すように,ま
ず,表面保護層1,少なくとも,透明性,クッション性を有し,かつ,耐熱性を有
し,熱の作用に対する非劣化ないし非分解性に優れた樹脂層からなる充填剤層2,
光起電力素子としての太陽電池素子3,充填剤層4,および,裏面保護層5を順次
に積層し,更に,例えば,上記の表面保護層1の上に,少なくとも,防汚層6,紫
外線遮蔽層7,または,耐候性層8の1層あるいはそれ以上を積層し,次いで,そ
れらを真空吸引して加熱圧着するラミネーション法等の通常の成形法を利用し,上
記の各層を一体成形体として構成することを基本構造とするものである。・・・本
発明においては,図示しないが,本発明にかかる太陽電池モジュールにおいて,防
汚層,紫外線遮蔽層,または,耐候性層等は,個々別々に,あるいは,その一層な
いし2層以上を同時に,表面保護層,充填剤層,太陽電池素子,充填剤層,裏面保
護層のいずれの層間あるいは層上に任意に設けることができるものである。例え
ば゛(ママ)本発明においては,図示しないが,防汚層,耐候性層等を表面保護層
の上に設け,紫外線遮蔽層を表面保護層と充填剤層との層間に設けることができる
ものである。而して,本発明においては,防汚層を最表面に位置して設けることが
望ましいものである。・・・
【0009】次に,本発明において,本発明にかかる太陽電池モジュールを構成す
る材料,製造法等について更に詳しく説明すると,まず,本発明にかかる太陽電池
モジュールを構成する表面保護層について詳しく説明すると,かかる表面保護層と
しては,太陽光の透過性を有し,更に,絶縁性を有し,かつ,耐候性,耐熱性,耐
光性,耐水性,耐風圧性,耐降雹性,耐薬品性,防湿性,防汚性,その他等の諸特
性を有し,物理的あるいは化学的強度性,強靱性等に優れ,極めて耐久性に富み,
更に,光起電力素子としての太陽電池素子の保護とういことから,耐スクラッチ性,
衝撃吸収性等に優れていることが必要である。・・・」
「【0012】・・・本発明においては,上記のフッ素系樹脂シートの中でも,特
に,ポリフッ化ビニル系樹脂(PVF),または,テトラフルオロエチレンとエチ
レンまたはプロピレンとのコポリマー(ETFE)からなるフッ素系樹脂シートが,
透明性を有し,太陽光の透過性等の観点から好ましいものである。
【0013】・・・本発明においては,上記の透明な環状ポリオレフィン系樹脂シ
ートの中でも,特に・・・透明な環状ポリオレフィン系樹脂シートが,耐候性,耐
水性等に優れ,更に,透明性を有し,太陽光の透過性等の観点から好ましいもので
ある。・・・
【0014】・・・本発明において,各種の樹脂のフィルムないしシートとしては,
可視光透過率が,90%以上,好ましくは,95%以上であって,入射する太陽光
を全て透過し,これを吸収する性質を有することが望ましいものである。」
「【0030】次に,本発明にかかる太陽電池モジュールを構成する,少なくと
も,透明性,クッション性を有し,かつ,耐熱性を有し,熱の作用に対する非劣化
ないし非分解性に優れた樹脂層からなる充填剤層について更に詳しく説明すると,
かかる充填剤層としては,まず,太陽電池モジュールを構成する表面保護層の下に
積層されるものであることから,太陽光が入射し,これを透過する透明性を有する
ことが望ましいものである。・・・
【0031】・・・上記の充填剤層としては,・・・樹脂層からなる充填剤層を使
用することができる。而して,上記のような樹脂は,いずれも,透明性を有
し・・・ているものである。・・・」
「【0033】次に,本発明において,太陽電池モジュールを構成する光起電力
素子の下に積層する充填剤層について説明すると,・・・太陽電池モジュール用表
面保護層の下に積層する充填剤層と異なり,必ずも,透明性を有することを必要と
しないものである。」
「【0035】而して,本発明において,太陽電池モジュールを構成する光起電
力素子としての太陽電池素子の下に積層する充填剤層としては・・・光起電力素子
としての太陽電池素子の下に使用することから,必ずしも,透明性を有することを
要するものではないものである。
【0036】次に,本発明において,太陽電池モジュールを構成する裏面保護層に
ついて説明すると,かかる裏面保護層としては,絶縁性の樹脂のフィルムないしシ
ート,あるいは,金属板ないし箔等を使用することができ,更に,耐熱性,耐光性,
耐水性等の耐候性を有し,物理的あるいは化学的強度性,強靱性等に優れ,更に,
光起電力素子としての太陽電池素子の保護とういことから,耐スクラッチ性,衝撃
吸収性等に優れていることが必要である。・・・。
【0037】更に,本発明においては,上記の裏面保護層としては,前述の表面保
護層として詳述した,基材フィルムの上に,無機酸化物の蒸着膜を設けた蒸着フィ
ルムを同様に裏面保護層として使用することができる。而して,本発明において,
裏面保護層としての蒸着フィルムは,前述の表面保護層としての蒸着フィルムと同
様にして製造することができる。
【0038】次に,本発明にかかる太陽電池モジュールを構成する防汚層について
説明すると,かかる防汚層は,光触媒粉末を含む組成物による塗布膜から構成する
ことができ,該防汚層は,表面の保護層として最表面に設けるものである。すなわ
ち,本発明においては,太陽電池モジュールを構成する,例えば,表面保護層等の
最表面の面に,ゴミ,埃等の蓄積を防止する防汚層を形成するものである。・・・
光触媒粉末を含む組成物による塗布膜としては,まず,例えば,光触媒粉末の1種
ないし2種以上に,ビヒクルとしての結合剤の1種ないし2種以上を添加し,更に,
必要ならば,例えば,滑剤,架橋剤,酸化防止剤,紫外線吸収剤,光安定剤,充填
剤,強化剤,補強剤,帯電防止剤,難燃剤,耐炎剤,発泡剤,防カビ剤,顔料,そ
の他等の添加剤の1種ないし2種以上を太陽光の透過に影響しない範囲内で任意に
添加し・・・組成物を調整する。次いで・・・上記で調整した組成物を・・・塗布
ないし印刷し,次いで,乾燥して塗布膜を形成することにより,本発明にかかる防
汚層を構成することができる・・・。・・・また,本発明においては,防汚層とし
ては,後述のフッ素系樹脂をビヒクルの主成分とする樹脂組成物による塗布膜から
なる耐候性層を防汚層として使用することもできるものである。」
「【0040】また,上記において,ビヒクルとしての結合剤としては・・・具
体的には,例えば・・・フッ素系樹脂・・・等の1種ないし2種以上を使用するこ
とができる。」
「【0042】次に,本発明にかかる太陽電池モジュールを構成する紫外線遮蔽
層について説明すると,かかる紫外線遮蔽層は,例えば,紫外線吸収剤を含む組成
物による塗布膜から構成することができる。而して,上記の紫外線遮蔽層としては,
例えば,紫外線吸収剤の1種ないし2種以上に,ビヒクルとしての結合剤の1種な
いし2種以上を添加し,更に,必要ならば,例えば,滑剤,架橋剤,酸化防止剤,
紫外線吸収剤,光安定剤,充填剤,強化剤,補強剤,帯電防止剤,難燃剤,耐炎剤,
発泡剤,防カビ剤,顔料,その他等の添加剤の1種ないし2種以上を太陽光の透過
に影響しない範囲内で任意に添加し・・・塗布ないし印刷することにより塗布膜を
形成して紫外線遮蔽層を設けることができる。・・・
【0043】上記において,紫外線吸収剤としては・・・超微粒子酸化チタン(粒
径,0.01~0.06μm)・・・等の無機系等の紫外線吸収剤の1種ないし2
種以上を使用することができる。・・・
【0044】次に,本発明において,本発明にかかる太陽電池モジュールを構成す
る耐候性層について更に詳しく説明すると,本発明にかかる太陽電池モジュールを
構成する耐候性層としては・・・強靱な樹脂の1種ないし2種以上をビヒクルの主
成分とする樹脂組成物による塗布膜により構成することができる。・・・まず,強
靱な樹脂の1種ないし2種以上をビヒクルの主成分とし,これに,必要ならば,例
えば,塗布膜の加工性,耐熱性,耐光性,耐水性,耐候性,機械的ないし化学的性
質,寸法安定性,抗酸化性,滑り性,離形性,難燃性,抗カビ性,電気的特性,そ
の他等を改良,改質する目的で種々のプラスチックの添加剤,例えば,滑剤,架橋
剤,酸化防止剤,紫外線吸収剤,光安定剤,充填剤,強化剤,補強剤,帯電防止剤,
難燃剤,耐炎剤,発泡剤,防ガビ剤(ママ),着色剤,その他等の添加剤の1種な
いし2種以上を太陽光の透過に影響しない範囲内で任意に添加し・・・塗布ないし
印刷し,乾燥して塗布膜を形成することができる。・・・
【0045】・・・本発明においては・・・特に,諸堅牢性に優れた特性を有する
フッ素系樹脂の1種あいし(ママ)2種以上を使用することが望ましいものである。
本発明において,上記のフッ素系樹脂としては,例えば・・・商品名,ルミフロン
(登録商標)からなる透明フッ素樹脂(・・・旭硝子株式会社製)等からなるフッ
素系樹脂の1種ないし2種以上を使用することができる。」
「【0049】次に,本発明において,上記のような材料等を使用して,本発明
にかかる太陽電池モジュールを製造する方法について説明すると,かかる製造法と
しては,公知の方法,例えば,上記の表面保護層,充填剤層,光起電力素子として
の太陽電池素子,充填剤層,および,裏面保護層を順次に積層し,更に,その層上
あるいは層間のいずれかに,防汚層,紫外線遮蔽層,または,耐候性層の1層ある
いはそれ以上を積層し・・・次いで,これらを,真空吸引等により一体化して加熱
圧着するラミネーション法等の通常の成形法を利用し,上記の各層を一体化成形体
として加熱圧着成形して,本発明にかかる太陽電池モジュールを製造することがで
きる。・・・」
「【0051】なお,本発明において,本発明にかかる太陽電池モジュールを製
造する方法においては,予め,表面保護層の面に,充填剤層を積層し,表面保護層
と充填剤層とからなる積層体を製造し,他方,上記と同様に,充填剤層と裏面保護
層とを予め積層してその両者からなる積層体を製造し,次いで,上記の二つの積層
体を,その充填剤層の面を対向して重ね合わせ,更に,その層間に,光起電力素子
としての太陽電池素子を積層し,更に,その層上あるいは層間のいずれかに,防汚
層,紫外線遮蔽層,または,耐候性層の1層あるいはそれ以上を積層し・・・次い
で,これらを,真空吸引等により一体化して加熱圧着するラミネーション法等の通
常の成形法を利用し,上記の各層を一体成形体として加熱圧着成形して,本発明に
かかる太陽電池モジュールを製造することができる。
【0052】・・・本発明にかかる太陽電池モジュールは,更に,表面保護層およ
び裏面保護層として,蒸着フィルムを使用することにより,水分,酸素ガス等の進
入を防止する防湿性を著しく向上させるものである。更にまた・・・防汚層,紫外
線遮蔽層,あるいは,耐候性層等を設けることにより,汚染性,耐候性,その他等
の特性を著しく向上させるものである。上記ようなことにより,本発明にかかる太
陽電池モジュールにおいては,耐候性,耐熱性,耐水性,耐湿性,耐風圧性,耐降
雹性,防汚性,その他等の諸特性に優れ,極めて耐久性に富み,その長期的な性能
劣化を最小限に抑え,極めて安定性に優れているものである。・・・」
「【0054】実施例2
(1).厚さ200μmのポリジシクロペンタジエン系樹脂からなる環状ポリオレ
フィン系樹脂シートを使用し,その一方の面に,0.03μmの酸化チタン超微粒
子5重量部とエチレン-ビニルアルコール共重合体液(固形分20%溶液)95重
量部とからなる紫外線吸収剤組成物をグラビアロールコート法を用いてコーティン
グし,膜厚0.5g/m 2 (乾燥状態)の紫外線遮蔽層を形成した。更に,上記で
形成した紫外線遮蔽層の上にに(ママ),フッ素樹脂塗布液(商品名,ルミフロン,
旭硝子株式会社製)を使用し,グラビアロールコート法を用いて,コーティングし,
膜厚10g/m 2 (乾燥状態)の塗布膜からなる耐候性層を形成した。更に,上記
で形成した耐候性層の上に,チタンプロポオキサンドからなる無機系プライマー組
成物を使用し,これをグラビアロールコート法を用いて塗布し,膜厚0.3g/m
2
(乾燥状態)のプライマー層を形成した。次に,上記で形成したプライマー層の
面に,粒径0.03μmの酸化チタン超微粒子10重量部とテトラエトキシシラン
液90重量部(固形分20%)とからなる光触媒塗工液をグラビアロールコート法
を用いて塗布し,膜厚1g/m 2 (乾燥状態)の防汚層を形成した。次に,上記で
紫外線遮蔽層,耐候性層,および,防汚層を形成した厚さ200μmのポリジシク
ロペンタジエン系樹脂からなる環状ポリオレフィン系樹脂シートを使用し,これを
巻き取り式真空蒸着装置の送り出しロールに装着し,次いで,これをコーティング
ドラムの上に繰り出して,下記の条件で,アルミニウムを蒸着源に用い,酸素ガス
を供給しながら,エレクトロンビーム(EB)加熱方式による反応真空蒸着法によ
り,上記の環状ポリオレフィン系樹脂シートの他方の面に,膜厚800Åの酸化ア
ルミニウムの蒸着膜を形成した。・・・
(2).次に,上記の(1)で製造した酸化アルミニウムの蒸着膜のプラズマ処理
面に,ポリウレタン系樹脂の初期縮合物に,エポキシ系のシランカップリング剤
(8.0重量%)とブロッキング防止剤(1.0重量%)を添加し,十分に混練し
てなるプライマー樹脂組成物を使用し,これをグラビアロールコート法により,膜
厚0.5g/m 2 (乾燥状態)になるようにコーティングしてプライマー層を形成
した。更に,上記で形成したプライマー層の面に,2液硬化型のウレタン系アンカ
ーコート剤を使用し,これを,上記と同様に,グラビアロールコート法により,膜
厚0.1g/m 2 (乾燥状態)になるようにコーティングしてアンカーコート剤層
を形成した。他方,線状低密度ポリエチレン樹脂(LLDPE)に,紫外線吸収剤
としての超微粒子酸化チタン(粒子径,0.01~0.06μm,3重量%)を添
加し,その他,所要の添加剤を添加し,十分に混練して線状低密度ポリエチレン樹
脂脂(ママ)組成物を調製した。次に,上記で形成したアンカーコート剤層面に,
上記で形成した線状低密度ポリエチレン樹脂組成物を使用し,これを押出機を用い
て溶融押し出しして,厚さ400μmの線状低密度ポリエチレン樹脂層を押し出し
ラミネート積層して,防汚層/耐候性層/紫外線遮蔽層/膜厚200μmの環状ポ
リオレフィン系樹脂シート・膜厚800Åの酸化アルミニウムの蒸着膜/プライマ
ー層/アンカーコート剤層/膜厚400μmの線状低密度ポリエチレン樹脂層から
なる積層体を製造した。
(3).次に,上記で製造した積層体を,表面保護層/充填剤層からなる積層体と,
裏面保護層/充填剤層からなる積層体との両方に使用し,防汚層/耐候性層/紫外
線遮蔽層/膜厚200μmの環状ポリオレフィン系樹脂シート・膜厚800Åの酸
化アルミニウムの蒸着膜/プライマー層/アンカーコート剤層/膜厚400μmの
線状低密度ポリエチレン樹脂層からなる積層体(表面保護層/充填剤層からなる積
層体),アモルファスシリコンからなる太陽電池素子を並列に配置した厚さ50μ
mのポリアラミドフィルム,および,膜厚400μmの線状低密度ポリエチレン樹
脂層/アンカーコート剤層/プライマー層/膜厚800Åの酸化アルミニウムの蒸
着膜・膜厚200μmの環状ポリオレフィン系樹脂シートからなる積層体/紫外線
遮蔽層/耐候性層/防汚層(充填剤層/裏面保護層からなる積層体)を,その太陽
電池素子面を上に向けて,順次に積層し,更に,層間にアクリル系樹脂からなる接
着剤層を介して積層して,次いで,真空吸引しながら加熱圧着するラミネーション
法を用いて一体化成形して,本発明にかかる太陽電池モジュールを製造した。」
「【0069】
【発明の効果】以上の説明で明らかなよう,本発明は・・・まず,表面保護
層,・・・充填剤層,太陽電池素子,充填剤層,および,裏面保護層を順次に積層
し,更に,その層上あるいは層間のいずれかに,少なくとも,防汚層,紫外線遮蔽
層,または,耐候性層の1層あるいはそれ以上を積層し・・・一体化成形して太陽
電池モジュールを製造して,・・・耐候性,耐熱性,耐水性,耐湿性,耐風圧性,
耐降雹性,防汚性,その他等の諸特性に優れ,極めて耐久性に富み,その長期的な
性能劣化を最小限に抑え,極めて安定性に優れ,長期間の使用に対し極めて優れた
信頼性を有し,更に,水分,酸素等の侵入を防止する防湿性を著しく向上させ,か
つ,その製造工程を簡略化し,より低コストで安全な太陽電池モジュールを製造し
得ることができるというものである。」
イ 上記記載によれば,甲1発明2は,太陽電池モジュールに関するものであり,
刊行物1の実施例2として記載されている発明である(【0001】【005
4】)。太陽電池が具備しなければならない特性としては,光エネルギーから電気
エネルギーへの変換効率が高いこと,および,長期間の使用に対し信頼性に優れて
いること等が挙げられるが,上記の条件の総てを充足し得るものはないことから,
甲1発明2は,耐候性,耐熱性,耐水性,耐湿性,耐風圧性,耐降雹性,その他等
の諸特性に優れ,極めて耐久性に富み,かつ,長期間の使用に対し極めて優れた信
頼性を有する太陽電池モジュールを提供することを目的とし(【0002】ないし
【0004】),「防汚層/プライマー層/耐候性層/紫外線遮蔽層/膜厚200
μmの環状ポリオレフィン系樹脂シート・膜厚800Åの酸化アルミニウムの蒸着
膜/プライマー層/アンカーコート剤層/膜厚400μmの線状低密度ポリエチレ
ン樹脂層からなる積層体(表面保護層/充填剤層からなる積層体),アモルファス
シリコンからなる太陽電池素子を並列に配置した厚さ50μmのポリアラミドフィ
ルム,および,膜厚400μmの線状低密度ポリエチレン樹脂層/アンカーコート
剤層/プライマー層/膜厚800Åの酸化アルミニウムの蒸着膜・膜厚200μm
の環状ポリオレフィン系樹脂シートからなる積層体/紫外線遮蔽層/耐候性層/プ
ライマー層/防汚層(充填剤層/裏面保護層からなる積層体)を,その太陽電池素
子面を上に向けて,順次に積層し,更に,層間にアクリル系樹脂からなる接着剤層
を介して積層して,次いで,真空吸引しながら加熱圧着するラミネーション法を用
いて一体化成形した太陽電池モジュールの裏面保護層であって,紫外線遮蔽層が0.
03μmの酸化チタン超微粒子5重量部とエチレン-ビニルアルコール共重合体液
(固形分20%溶液)95重量部とからなる紫外線吸収剤組成物をコーティングし
て形成されてなり,耐候性層がフッ素樹脂塗布液(商品名,ルミフロン,旭硝子株
式会社製)の塗布膜からなる裏面保護層。」を提供するものである(【段落005
4】。なお,下線を付した範囲は,審決が認定した甲1発明2の構成と異なる部分
である。)。
(2) 本件発明1と甲1発明2の対比
まず,甲1発明2の「膜厚400μmの線状低密度ポリエチレン樹脂層からなる
積層体」は,本件発明1の「封止剤層」に相当する。
また,甲1発明2の「裏面保護層」は,本件発明1の「バックシート」に相当し,
甲1発明2の「膜厚800Åの酸化アルミニウムの蒸着膜・膜厚200μmの環状
ポリオレフィン系樹脂シ-トからなる積層体」は,本件発明1の「水不透過性シー
ト」に相当する。
さらに,甲1発明2の「紫外線遮蔽層」,「耐候性層」,「プライマー層」及び
「防汚層」は,「塗膜」である点において,本件発明1の「硬化塗膜」と共通する。
そうすると,本件発明1と甲1発明2の一致点及び相違点は以下のとおりに認定
される。
ア 一致点
太陽電池モジュールの封止剤層と反対側の水不透過性シート上に塗膜が形成され
てなる太陽電池モジュールのバックシート。
イ 相違点
(相違点2-1’)
本件発明1では,塗膜が硬化性官能基含有含フッ素ポリマー塗料の硬化塗膜であ
るのに対し,甲1発明2は,耐候性層(フッ素樹脂塗布液(商品名,ルミフロン,
旭硝子株式会社製)の塗布膜)である点
(相違点2-2’)
本件発明1では,水不透過性シートと硬化塗膜とが直接接着している構成である
のに対し,甲1発明2では,水不透過性シートと耐候性層(フッ素樹脂塗布液の塗
布膜)との間に紫外線遮蔽層が存在し,その反対側にプライマー層/防汚層が積層
されている点
(相違点2-3’)
本件発明1では,硬化性官能基含有含フッ素ポリマー塗料の硬化塗膜中に白色顔
料又は黒色顔料が分散しているのに対し,甲1発明2では,フッ素樹脂塗布液の塗
布膜に白色顔料又は黒色顔料が分散しているか不明である点
(3) 相違点に係る構成の容易想到性について
ア 相違点2-1’について
甲1発明2の耐候性層である「フッ素樹脂塗布液(商品名,ルミフロン,旭硝子
株式会社製)の塗布膜」を,本件発明1の硬化性官能基含有含フッ素ポリマー塗料
の硬化塗膜とすることの容易想到性について検討する。
(ア) まず,被告は,「塗料用フッ素樹脂“ルミフロン”の開発」(乙1)の記
載から,ルミフロンの中にはOH価及び酸価が0のものがあり,OH基(硬化性官
能基)を有しないものが存在する旨主張する。
しかし,同記載は,数十あるルミフロンについて,OH価が0~150mgKO
H/gポリマーであること,酸価が0~30mgKOH/gポリマーであることが
記載されているにすぎず,実際に,これらの値が0であるルミフロンが存在するこ
とが記載されているわけではない。そして,ルミフロンについてのユーザー用技術
説明資料である「LUMIFLON 溶剤可溶型フッ素樹脂ルミフロン 技術資料
NO.1」(甲37。以下「技術説明資料」という。)には,「このフッ素樹脂は,
反応性基を有しており,メラミンやイソシアネートを硬化剤として常温から25
0℃までの広い範囲で硬化させることができます。」(3枚目2行ないし4行)と
記載され,「表-1 ルミフロンの基本物性」の「OH価(mgKOH/gr)」
欄(4枚目)に「47」又は「52」と記載されていること,ルミフロンを製造販
売している被告の従業員も水酸基(硬化性官能基)を持たないルミフロンを製造販
売したことはない旨の陳述書(甲38)を提出していること,本件明細書(甲13)
に「含フッ素ポリマーに硬化性を与える官能基としては,たとえば水酸基,・・・
などがあげられ」(【0027】)と記載されていることなどからすると,ルミフ
ロンはOH基(ヒドロキシ基,水酸基。以下「OH基」という。)を有しており,
このOH基は本件発明1の「硬化性官能基」に相当すると認められるから,ルミフ
ロンは硬化性官能基含有含フッ素ポリマーであると認められる。
(イ) 次に, 被告は,刊行物1にはルミフロンを硬化させることの示唆はな
く,ルミフロンを硬化させることを容易に想到することはできないと主張する。
確かに,特開平7-109435号公報(乙4(【0038】【0039】)及
び特開平8-12922号公報(乙5【0043】【0044】)に,ルミフロン
等のフッ素樹脂について「硬化剤と併用する必要性は必ずしもない」などと記載さ
れていることによれば,ルミフロンの使用形態として,常に硬化剤を用いて使用す
ることは認められない。
しかし,「新規な塗料用フッ素樹脂」(防錆管理27巻8号237頁表8。乙2)
及び「塗料用ふっ素樹脂“ルミフロン”の特性と応用」(工業材料31巻5号10
0頁表6。乙3)のいずれの文献にも,ルミフロンを硬化(メラミン硬化)させる
と,硬化剤なしの場合と比べて,サンシャインウェザーメーターを用いた促進耐候
性試験における力学的性質(破断強度,伸び)が向上することが記載されているこ
と,原告が作成したルミフロンに関する説明が記載された「ルミフロンエマルショ
ン品種」(甲14)の表4にも,ルミフロンに硬化剤を用いると,用いなかった場
合と比べて60度光沢,鉛筆硬度,耐溶剤性が向上することが記載されていること
などによれば,ルミフロンを硬化させて使用すると各性質の向上が期待できること
は,当業者にとって周知の事項であるといえる。
そして,以上に加えて,技術説明資料の配合処方例(5枚目の表-2)について
もルミフロンを硬化させた例しか記載されていないことを含めて考慮すれば,当業
者は,甲1発明2のルミフロンを硬化して用いることを容易に想到することができ
ると認められる。
(ウ) 以上によれば,当業者であれば,甲1発明2の耐候性層である「フッ素樹
脂塗布液(商品名,ルミフロン,旭硝子株式会社製)の塗布膜」を,本件発明1の
硬化性官能基含有含フッ素ポリマー塗料の硬化塗膜として,相違点2-1’に係る
構成を容易に想到することができると認められる。
イ 相違点2-2’ について
甲1発明2の塗膜について,耐候性層以外の紫外線遮蔽層,プライマー層,防汚
層を省略することの容易想到性について検討する。
刊行物1の記載によれば,防汚層,紫外線遮蔽層,又は耐候性層の1層あるいは
それ以上を任意に設けることができる旨の記載がされている一方で(請求項1,
【0008】,【0049】,【0051】,【0069】),これらの任意の1
層を設けるに際して特段の条件があることは記載されていない。
したがって,刊行物1に接した当業者であれば,甲1発明2において,紫外線遮
蔽層,防汚層を省略し(これに伴って必然的にプライマー層も省略される),「裏
面保護層」について,「膜厚800Åの酸化アルミニウムの蒸着膜・膜厚200μ
mの環状ポリオレフィン系樹脂シ-トからなる積層体」に直接接着して「耐候性層」
のみを設けること,すなわち水不透過性シートに耐候性層を直接接着している構成
を容易に想到することができると認められる。
ウ 相違点2-3’について
甲1発明2における「フッ素樹脂塗布液(商品名,ルミフロン,旭硝子株式会社
製)の塗布膜」からなる「耐候性層」について,白色顔料又は黒色顔料を分散させ
ることの容易想到性を検討する。
被告は,塗膜への白色顔料の添加について,刊行物1には「太陽光の透過に
影響しない範囲で任意に添加」(【0044】)することが記載されているか
ら塗膜は透明性が担保される必要があり,耐候性層を白色顔料が分散している
構成とすることには阻害要因がある,甲1発明2は,表面保護層としても,裏
面保護層としても,同じ層構成の積層体を使用するものであって,表面と裏面
とで別個の積層体を適用することも,耐候性層を別個の構成とすることも記載
さ れ て いないことな どから, 耐候性層に 白色顔料 又は黒色顔料を分散させるこ
とを容易に想到することはできない旨主張する。
確かに,刊行物1には,耐候性層に着色剤を任意に添加できることについて,
「太陽光の透過に影響しない範囲内で任意に添加し・・・塗布ないし印刷し,乾燥
して塗布膜を形成することができる。」(【0044】)と記載されており,同記
載自体は,透明性を害さない限度でのみ耐候性層に着色剤を添加できるという趣旨
であると理解される。
しかし,同記載は,太陽電池の素子の表側にある層として用いる場合の耐候性層
に関する記載であって,太陽電池素子の裏側にある層として用いる場合に関するも
のではない。そして,刊行物1には,表面保護層について,「表面保護層としては,
太陽光の透過性を有し・・・が必要である。」(【0009】),「透明性を有し,
太陽光の透過性等の観点から好ましい」(【0013】),「可視光透過率が,9
0%以上,好ましくは,95%以上であって,入射する太陽光を全て透過し,これ
を吸収する性質を有することが望ましい」(【0014】)と記載され,表面充填
剤層についても,「太陽電池モジュ-ルを構成する表面保護層の下に積層されるも
のであることから,太陽光が入射し,これを透過する透明性を有することが望まし
い」(【0030】),「充填剤層・・・いずれも,透明性を有し」(【003
1】)と透明性が要求されることが記載されている一方で,裏面保護層については,
太陽光の透光性が必要である旨の記載はされておらず,むしろ裏面充填剤について
は,「表面保護層の下に積層する充填剤層と異なり,必ずも(ママ),透明性を有
することを必要としない」(【0033】),「太陽電池素子の下に使用すること
から,必ずしも,透明性を有することを要するものではない」(【0035】)と
記載されていること,太陽電池素子の裏側にある層については,必ずしも太陽光の
透過性(透明性)は要求されないことは技術常識であること(当事者間に争いがな
い。)などからすると,当業者であれば,刊行物1の耐候性層を,太陽電池素子の
裏側に配置する場合には,耐候性層における着色剤の添加量について「太陽光の透
過に影響しない範囲内で」という制約は受けないと理解するものと認められ,刊
行物1の実施例に記載されている保護シートが表面保護層又は裏面保護層のい
ずれに使用されるかにかかわらず,全光線透過率が90%以上となっているこ
とは上記認定を左右しない。
したがって,刊行物1の「 太 陽 光 の 透 過 に 影 響 し な い 範 囲 で 任 意 に 添 加 」
(【0044】)との記載は,裏面保護層としての耐候性層に白色顔料又は黒色
顔料が分散している構成とすることの阻害要因にはならないものと認められる。
そして,いずれも本件特許の出願前に頒布された特開2002-83988号公
報(甲6【0045】),特開2000-114565号公報(甲9,請求項7,
【0018】【0019】【0040】),特開昭60-250946号公報(甲
17,243頁左上欄),特開2005-144719号公報(甲18【001
4】),特開2001-111077号公報(甲19【0030】)によれば,太
陽電池のバックシートに意匠性を付与したり,透過した太陽光を光反射あるいは光
拡散させて再利用したりするために,白色や黒色等の顔料を添加することは,本件
特許の出願当時,当業者にとって周知の事項であると認められる。
したがって,甲1発明2において,意匠性や光反射性,光拡散性を付与する等の
観点から,「耐候性膜」に任意に添加できるとされる着色剤として白色顔料又は黒
色顔料を選択することは,当業者であれば容易になし得ることである。
エ 小括
以上によれば,本件発明1は,甲1発明2及び周知の事項に基づいて当業者が容
易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許
を受けることができないものである。
(4) 審決について
審決は,甲1発明2の認定にあたり,前記(1)イの下線部を付した部分を除いて
認定した(各層の形成材料について,紫外線遮蔽層のもののみを認定し,耐候性層,
防汚層のものは認定しなかった。)ところ,その内容は,刊行物1【0054】に
記載されている事項であるから,内容として誤りがあるわけではない。
しかし,前記(3)イで判示したとおり,刊行物1には,防汚層,紫外線遮蔽層,
又は耐候性層のうちいずれか1層のみを設けて他の2層を省略することが記載され
ているのであるから,上記の「いずれか1層」を本件発明1の「硬化塗膜」とする
ことが容易想到であると判断することができれば,当該層が本件発明1の「膜厚8
00Åの酸化アルミニウムの蒸着膜・膜厚200μmの環状ポリオレフィン系樹脂
シ-ト」に「直接接着」されることになって,容易想到性が認められることになる。
したがって,甲1発明2を認定する際には,紫外線遮蔽層のみならず,検討対象
となり得る耐候性層の形成材料等についても認定すべきであり,この点において,
過不足のないように認定をしていない審決の認定は誤りであり,その結果,審決は
相違点の認定判断を誤ったものである。
(5) 被告の主張について
ア 被告は,相違点の認定は,発明の技術的課題の解決の観点から,まとまりの
ある構成を単位として認定すべきであると主張する。
しかし,本件発明1の技術的課題は,前記1のとおり,耐候性等の諸特性に優れ,
耐久性に富み,かつ,長期間の使用に対して優れた信頼性を有する太陽電池モジュ
ールを提供することであるものの,前記(2)イで認定した各相違点は,各々独立し
て容易想到性を判断することができる構成であるから,これらを必ずまとめて認定
しなければならないということはできない。
したがって,被告の主張は理由がない。
イ 被告は,本件発明1では, 水不透過性シートと硬化性官能基含有含フッ
素ポリマー塗料の硬化塗膜が直接接着していることは,本件発明1の重要な特
徴の一つであるから,審決が,甲1発明2において,紫外線遮蔽層が充填剤層
(封止材層)と直接接触している点を一致点として認定し,その一致点を前提
に相違点2を認定した(紫外線遮蔽層を検討対象とした)のであるから審決に
誤りはないと主張する。
確かに,審決が,紫外線遮蔽層を検討対象としたことは誤りではない。しかし,
前記(4)で判示したとおり,刊行物1には,防汚層,紫外線遮蔽層,又は耐候性層
のいずれか1層のみを設けて他の2層を省略することが記載されているのであるか
ら,紫外線遮蔽層のみを検討対象としたことには誤りがある。
したがって,被告の主張は理由がない。
ウ 被告は,本件発明1は,水不透過性シート上に硬化性官能基含有含フッ素ポ
リマー塗料の硬化塗膜を直接接着させ,かつ,硬化塗膜中に白色顔料又は黒色顔料
を分散させたことによって,太陽電池モジュールの裏面から光が入射した場合でも
高度な接着性が維持されるという効果を奏すると主張する。
しかし,被告の主張する上記効果は,白色顔料又は黒色顔料を大量に添加(【0
079】~【0082】の調製例1,2に,樹脂223.2質量部に対して,黒色
顔料又は白色顔料を250質量部添加)した場合に確認できたにすぎず,特許請求
の範囲及び本件明細書においては,本件発明1の白色顔料又は黒色顔料の添加量に
ついては何らの限定もされておらず,黒色顔料又は白色顔料が少量でも添加されれ
ば上記効果を達成することができると記載されているわけでもない。
したがって,被告の主張は理由がない。
(6) 小括
以上によれば,本件発明1は甲1発明2及び周知の事項に基づいて,当業者が容
易に発明することができたものであって,このことは本件発明2についても同様に
当てはまるものであるから,取消事由3は理由がある。
第6 結論
以上のとおり,原告主張の取消事由3には理由があり,その余の点について判断
するまでもなく,原告の本件請求は理由があるから,これを認容することとして,
主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官 設 樂 一
裁判官 大 寄 麻 代
裁判官 平 田 晃 史
(別紙)
甲1発明2図面目録
【図1】
【図2】
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