令和6(ワ)70555損害賠償請求事件
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| 裁判所 |
一部認容 東京地方裁判所
|
| 裁判年月日 |
令和8年3月25日 |
| 事件種別 |
民事 |
| 当事者 |
原告Ai
Bi 被告Ci
|
| 法令 |
その他
民法709条1回
|
| キーワード |
侵害45回 差止7回 損害賠償2回
|
| 主文 |
1 被告は、原告夫に対し、22万円及びうち5万5000円に対する令和5年
8月3日から、うち16万5000円に対する同年2月22日から各支払済み
2 被告は、原告妻に対し、33万円及びこれに対する令和5年2月22日から
3 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は、これを10分し、その9を原告らの負担とし、その余を被告の |
| 事件の概要 |
1 事案の要旨
本件は、Youtuberである原告らが、①別紙チャンネル目録記載のY
outubeのチャンネル(以下「被告チャンネル」という。
)を運営する被告
が、原告らのグループ名であり、顧客吸引力を有する別紙グループ名目録記載 |
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判決文
令和8年3月25日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
令和6年(ワ)第70555号 損害賠償請求事件
口頭弁論終結日 令和8年1月13日
判 決
原 告 Ai
(以下「原告夫」という。)
原 告 Bi
10 (以下「原告妻」という。)
上記両名訴訟代理人弁護士 齋 藤 理 央
被 告 Ci
同訴訟代理人弁護士 吉 岡 剛
15 松 岡 芳 篤
主 文
1 被告は、原告夫に対し、22万円及びうち5万5000円に対する令和5年
8月3日から、うち16万5000円に対する同年2月22日から各支払済み
まで年3%の割合による金員を支払え。
20 2 被告は、原告妻に対し、33万円及びこれに対する令和5年2月22日から
支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
3 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は、これを10分し、その9を原告らの負担とし、その余を被告の
負担とする。
25 事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 被告は、原告夫に対し、275万円及びうち110万円に対する令和4年1
1月17日から、うち110万円に対する令和5年2月22日から、うち55
万円に対する令和5年8月3日から、各支払済みまで年3%の割合による金員
を支払え。
5 2 被告は、原告妻に対し、275万円及びうち110万円に対する令和4年1
1月17日から、うち110万円に対する令和5年2月22日から、うち55
万円に対する令和5年8月3日から、各支払済みまで年3%の割合による金員
を支払え。
3 被告は、別紙グループ名目録記載のグループ名を付した動画の発信をしては
10 ならない。
第2 事案の概要
1 事案の要旨
本件は、Youtuberである原告らが、①別紙チャンネル目録記載のY
outubeのチャンネル(以下「被告チャンネル」という。)を運営する被告
15 が、原告らのグループ名であり、顧客吸引力を有する別紙グループ名目録記載
1の名称(以下「原告グループ名」という。)をタイトル等に付した動画を被告
チャンネルに投稿したことが、原告らのパブリシティ権を侵害する、②被告が、
被告チャンネルに投稿した別紙動画目録記載1ないし4の動画(以下、同目録
記載の番号に応じて「本件動画1」などという。)において、別紙発言目録記載
20 1ないし4の発言(以下、同目録記載の番号に応じて「本件発言1」などとい
う。)をしたことが、原告らの名誉感情を侵害する、③被告が、他のYoutu
berのチャンネルで配信された別紙動画目録記載5の動画(以下「本件動画
5」という。)において、別紙発言目録記載5の発言(以下「本件発言5」とい
う。)をしたことなどが、主位的に、競争関係にある原告らの営業上の信用を害
25 する虚偽の事実を流布するものであり、不正競争防止法(以下「不競法」とい
う。)2条1項21号の不正競争に当たり、予備的に、原告らの名誉を毀損する
と主張して、被告に対し、上記①及び②につき、民法709条及び同法710
条に基づき、上記③につき、不競法4条又は民法709条及び同法710条に
基づき、原告らそれぞれにつき損害賠償金275万円(①につき慰謝料100
万円及び弁護士費用10万円、②につき慰謝料50万円及び弁護士費用5万円、
5 ③につき無形損害又は慰謝料100万円及び弁護士費用10万円)及び各遅延
損害金起算日(①につき、被告が原告グループ名をタイトルに付した動画の投
稿を開始した日である令和4年11月17日、②につき、本件動画1ないし4
のうち、最も新しい本件動画2の投稿日である令和5年8月3日、③につき、
本件動画5の配信日である同年2月22日)から各支払済みまで民法所定の年
10 3%の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、人格権に基づく差止請
求として、原告グループ名を含む別紙グループ名目録記載1ないし3の名称
(以下、これらを併せて「原告グループ名等」という。)を付した動画の発信の
差止めを求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨に
15 より容易に認定できる事実)
(1) 当事者
ア 原告らは、原告グループ名を使用して夫婦で活動する、登録者数が20
万人を超えるYoutuberである。
イ 被告は、Youtubeにおいて被告チャンネルを運営している。
20 (2) 原告らは、原告らが運営するチャンネル(以下「原告チャンネル」という。)
において、キャンピングカー生活の動画などを配信していたところ、令和4
年11月6日に原告妻がすい臓がんを患っていることを動画で公表した。こ
の動画の再生回数は、本件訴訟を提起した時点で、約467万回であった。
(3) 被告は、別紙動画目録記載1ないし4の各投稿日時に、被告チャンネルに
25 おいて、本件動画1ないし4を投稿した。
(4) 被告は、令和5年2月22日、別紙動画目録記載5の配信者(以下「共同
配信者」という。)のチャンネルで配信された本件動画5に出演した。
3 争点
(1) 被告による原告グループ名をタイトル等に付けた動画の投稿が、原告らの
パブリシティ権を侵害するか(争点1)
5 (2) 被告による本件発言1ないし4が原告夫ないし原告らの名誉感情を侵害す
る不法行為に当たるか(争点2)
ア 本件発言1による原告夫の名誉感情侵害(争点2-1)
イ 本件発言2による原告らの名誉感情侵害(争点2-2)
ウ 本件発言3等による原告らの名誉感情侵害(争点2-3)
10 エ 本件発言4による原告らの名誉感情侵害(争点2-4)
(3) 被告による本件発言5ないし共同配信者に対する同調が不正競争又は名誉
毀損に当たるか(争点3)
ア 不正競争該当性(主位的主張)(争点3-1)
イ 名誉毀損該当性(予備的主張)(争点3-2)
15 (4) 原告グループ名等の使用の差止めの可否(争点4)
(5) 原告らの損害(争点5)
4 争点に関する当事者の主張
(1) 被告による原告グループ名をタイトル等に付けた動画の投稿が、原告らの
パブリシティ権を侵害するか(争点1)
20 (原告らの主張)
ア 原告チャンネルは、令和6年10月頃にはチャンネル登録者数が約22
万人に達しており、原告らは、同年3月に書籍を出版したほか、複数のテ
レビ番組に出演し、複数のウェブメディアの記事で紹介されるなど、高い
注目を集めていることから、原告グループ名は、顧客吸引力を有している。
25 イ 被告は、原告グループ名をタイトルやハッシュタグに記載した動画を多
数投稿した。被告の行為は、原告グループ名を動画に付すことで、原告ら
を誹謗するコンテンツとして差別化を図り、専ら原告グループ名の有する
顧客吸引力を利用するものであるから、原告らのパブリシティ権を侵害す
る。現に、被告が被告チャンネルに投稿した動画の中で、原告らに言及す
る動画の視聴回数は他の動画と比較して有意に多い。
5 ウ グループ名という、人格、表現活動を象徴する名称を大量に、かつアン
チ投稿することは、当該グループ名を希釈化(ダイリューション)、汚染
(ポリューション)等するものであり、ブランド価値を毀損するから、パ
ブリシティ権を侵害する。そして、被告は、ハッシュタグで原告グループ
名を標榜することで、ハッシュタグで検索される動画に大量の被告の動画
10 を混入させ、原告グループ名の持つブランド価値を希釈化し、また、原告
らに対する誹謗的な内容の動画を大量に投稿し、原告グループ名の持つブ
ランド価値を著しく汚染したから、被告の行為は原告らのパブリシティ権
を侵害する。
(被告の主張)
15 否認ないし争う。
ア 原告グループ名を付した「商品等」に顧客吸引力があるか不明である。
また、パブリシティ権の侵害の類型である「商品等の差別化を図る目的で
肖像等を商品等に付す」場合とは、要するに、肖像等を利用した「キャラ
クター商品」を違法とする類型であるところ、動画のタイトル又はハッシ
20 ュタグに原告グループ名を付す行為はそれとは全く異質のものである。
イ 原告らが主張する原告グループ名の持つブランド価値の希釈化や汚染に
よるパブリシティ権の侵害は、独自の見解にすぎない。仮に、原告グルー
プ名が営業上の信用や顧客吸引力を有するとしても、原告らが主張する希
釈化や汚染は、被告の投稿した動画の内容が原告らに好ましくないから言
25 えることであり、単に、動画の内容が原告らの名誉又は名誉感情を毀損す
ると主張しているにすぎない。
(2) 被告による本件発言1ないし4が原告夫ないし原告らの名誉感情を侵害す
る不法行為に当たるか(争点2)
ア 本件発言1による原告夫の名誉感情侵害(争点2-1)
(原告らの主張)
5 本件発言1は、原告夫をアホ、むさい男、ヒモなどと公然と強い口調で
執拗に誹謗するものであり、社会的受忍限度を超えた侮辱行為である。
(被告の主張)
被告が本件発言1をしたことは認めるが、本件発言1は社会的受忍限度
を超えた侮辱行為には当たらない。
10 イ 本件発言2による原告らの名誉感情侵害(争点2-2)
(原告らの主張)
本件発言2は、原告夫につき、定職に就かず、遊ぶ金欲しさに原告妻の
すい臓がんのり患をネタにしており、保険の話も支離滅裂であり、通報レ
ベルの内容であると侮辱するものであり、社会的受忍限度を超えるもので
15 ある。
また、被告による本件発言2は、原告妻につき、不摂生な生活をしてが
んになった挙げ句、働かずにそれをネタに遊ぶ金を稼いでいるという誹謗
中傷であり、社会的受忍限度を超えた侮辱行為である。
(被告の主張)
20 被告が本件発言2をしたことは認めるが、本件発言2は社会的受忍限度
を超えた侮辱行為には当たらない。
ウ 本件発言3等による原告らの名誉感情侵害(争点2-3)
(原告らの主張)
(ア) 本件発言3は、原告妻が韓国人であり、その韓国人の顔に原告夫が惚
25 れたと根拠なく述べ、原告らが韓国籍であると指摘するものである。こ
こでは韓国人であるということが誹謗ということではなく、原告らに無
関係でただ乗りをする被告が、原告らの国籍や出自という、センシティ
ブな事柄を正当な理由もなく公然と言及し、決め付けることが社会的受
忍限度を超えた侮辱行為である。
なお、原告らはいずれも日本人である。
5 (イ) また、被告は、本件動画3のコメント欄に投稿された原告夫に対する
批判的な意見に対し、「いいね!」ボタンを押して同意した上で、「日本
語不自由ですしね。」、
「何と言いますか常識が通じないですね」などと返
信しており、これらも、原告夫を韓国人であると決め付け、何の根拠も
なく誹謗するものである。
10 (被告の主張)
被告が、本件発言3をしたこと及び他者のコメントに返信したことは認
めるが、いずれも社会的受忍限度を超えた侮辱行為には当たらない。
エ 本件発言4による原告らの名誉感情侵害(争点2-4)
(原告らの主張)
15 本件発言4は、原告らが韓国人であり、韓国の書式に則った婚姻届を提
出したと述べるものである。ここでは韓国人であるということが誹謗とい
うことではなく、原告らに無関係でただ乗りをする被告が、原告らの国籍
や出自というセンシティブな事項に、正当な理由もなく公然と言及し、決
め付けることが社会的受忍限度を超えた侮辱行為である。
20 (被告の主張)
被告が本件発言4をしたことは認めるが、本件発言4は社会的受忍限度
を超えた侮辱行為には当たらない。
(3) 被告による本件発言5ないし共同配信者に対する同調が不正競争又は名誉
毀損に当たるか(争点3)
25 ア 不正競争該当性(主位的主張)(争点3-1)
(原告らの主張)
(ア) 被告チャンネルは有料化されており、被告は、Youtubeを収益
化して利益を得ているところ、Youtubeにおいては、視聴者の獲
得を巡り、Youtuber同士が熾烈な競争関係にあるから、原告ら
と被告は競争関係にあるといえる。
5 (イ) 被告は、本件動画5において、本件発言5の発言をした。
また、被告は、共同配信者の「加工してんじゃないか」、「まあなかな
かあり得ない診断書ってことですね」との発言を引き出した上で、強く
同調しているから、これらの発言も共同配信者と共謀して被告自らが配
信したものと評価することができる。
10 被告による上記発言等は、原告妻がり患したステージ4のすい臓がん
は、り患自体あるいは病状の深刻さにおいて虚偽であり、原告らが意図
的に詐病又は病状を大袈裟に言うことで集金やYoutube活動を行
っている(あるいはその疑いが強い)と摘示するものである。
(ウ) 以上によれば、被告の上記行為は、被告と競争関係にある原告らの営
15 業上の信用を害する虚偽の事実を流布するものであるから、不競法2条
1項21号の不正競争に当たる。
(被告の主張)
(ア) 原告らと被告は競争関係にあることは争う。原告らの保有する営業上
の信用も明らかではない。
20 (イ) 被告が本件発言5をしたこと及び共同配信者の発言は認めるが、被告
が共同発言者の発言に同調したことや、共同配信者と共謀して被告自ら
配信したと評価することができるなどと主張する点は、否認ないし争う。
共同配信者の発言は、番組の主催者である共同配信者のものであり、
被告の発言ではない。被告は、依頼を受けて共同配信者の番組に出演し
25 ただけであり、共同配信者に対し、特定の内容の発言を強いたこともな
ければ、同人と内容を示し合わせたこともない。
また、本件発言5により原告らが主張するような事実が摘示されたと
はいえないから、虚偽の流布には該当しない。
イ 名誉毀損該当性(予備的主張)(争点3-2)
(原告らの主張)
5 上記ア(原告らの主張)の被告の行為は、原告らの社会的評価を低下さ
せるものであるから、名誉毀損に当たる。
(被告の主張)
本件発言5により原告らが主張する事実が摘示されたとはいえないから、
原告らの名誉を毀損するものではない。
10 (4) 原告グループ名等の使用の差止請求の可否(争点4)
(原告らの主張)
被告は、執拗かつ長期間にわたり、原告グループ名を使用し、原告らの利
益を侵害し続けていることから、その使用を差し止め、原告らの権利を保護
する必要性が高い。したがって、原告らは、被告に対し、人格権に基づき、
15 原告グループ名等の使用の差止めを求める。
(被告の主張)
争う。
(5) 原告らの損害(争点5)
(原告らの主張)
20 原告らの損害は以下のとおりである。
ア パブリシティ権の侵害による慰謝料
原告らは、被告によるパブリシティ権侵害の不法行為により、それぞれ
精神的苦痛を被ったところ、これに対する慰謝料はそれぞれ100万円が
相当である。また、弁護士費用として各10万円が被告の不法行為と相当
25 因果関係がある。
イ 名誉感情侵害による慰謝料
原告らは、被告による本件発言1ないし4に係る名誉感情侵害の不法行
為により、それぞれ精神的苦痛を被ったところ、これに対する慰謝料はそ
れぞれ50万円が相当である。また、弁護士費用として各5万円が被告の
不法行為と相当因果関係がある。
5 ウ 不正競争又は名誉毀損による無形損害ないし慰謝料
原告らは、被告による本件発言5等に係る不正競争行為により100万
円の無形損害を被った。仮に被告の不正競争が認められないとしても、原
告らは、被告による本件発言5等に係る名誉毀損の不法行為により、精神
的苦痛を被ったところ、これに対する慰謝料は100万円が相当である。
10 また、弁護士費用として各10万円が被告の不正競争又は不法行為と相当
因果関係がある。
(被告の主張)
否認ないし争う。
第3 当裁判所の判断
15 1 認定事実
前提事実及び後掲の各証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認めら
れる。
(1) 原告らは、令和4年11月6日に原告妻の病気を動画で公表した後も、原
告チャンネルにおいて闘病生活を紹介する配信を続け、闘病生活等を綴った
20 書籍を出版したり、テレビ番組へ出演するなどの活動を行っており、その活
動は、新聞、インターネット上の記事など複数のメディアで取り上げられた。
(甲10、25、26、48~55、弁論の全趣旨)
(2) 被告は、令和4年3月21日に被告チャンネルを開設し、遅くとも令和4
年12月4日には、原告らを話題にし、原告グループ名をタイトルやハッシ
25 ュタグに付した動画を被告チャンネルに投稿するようになり、このような動
画は180件ほどに上った。(甲18、19)
(3) 被告は、本件動画1ないし4において、おおむね本件発言1ないし4の発
言をした。(甲1~7、11~16)
(4) 被告は、本件動画3のコメント欄に投稿された「mだけじゃなく、kもk
じゃないかな。愛知のイントネーションって独特なのですぐわかるんだけど、
5 kの話からは愛知のイントネーションがカケラも出たことないんです。」との
コメントに対し、「いいね!」ボタンを押すとともに、「日本語不自由ですし
ね」と返信した。
(5) 被告は、本件動画3のコメント欄に投稿された「私も同意見です。療養中
にあの食事は、日本人の感覚だったら まず有り得ません。あと何より、周
10 囲がどう思うかは関係無い、自分さえ良ければ というあちらの特徴的考え
方。今までの動画内での 空気読めない感は、これで納得が行く筈です。あ
ちらの日本人に対する集り根性が、全て根底に有るかと思います。」とのコメ
ントに対し、「いいね!」ボタンを押すとともに、「何と言いますか常識が通
じないですね」と返信した。
15 (6) 被告は、共同配信者が配信した本件動画5の一部に出演し、共同配信者を
相手に原告らのことを話題にし、原告妻の病気につき、原告らが出した診断
書に怪しいところがあることや、原告妻がステージ4のすい臓がんを患って
いるにもかかわらず、大量の食事を摂取していることなどを取り上げるとと
もに、本件発言5の発言をした。また、被告の話を聞いた共同配信者は、「加
20 工してんじゃないか」、「まあなかなかあり得ない診断書ってことですね」な
どの発言をした。(甲15、16、29)
2 争点1(被告による原告グループ名をタイトル等に付けた動画の投稿が、原
告らのパブリシティ権を侵害するか)について
(1) 人の氏名、肖像等(以下、併せて「肖像等」という。)を無断で使用する行
25 為は、①肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用し、
②商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付し、③肖像等を商品等の
広告として使用するなど、専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とす
るといえる場合に、パブリシティ権を侵害するものとして、不法行為法上違
法となると解するのが相当である(最高裁平成21年(受)第2056号同
24年2月2日第一小法廷判決・民集66巻2号89頁参照)。
5 そして、前提事実(1)ア及び認定事実(1)のとおりの原告チャンネルの登録
者数や、原告グループ名を用いた原告らの活動実績等からすれば、原告らは、
原告グループ名につき、人格権に由来するものとして、これをみだりに利用
されない権利を有するとともに、原告グループ名には一定の顧客吸引力があ
ると認められる。
10 そこで、以下、被告による原告グループ名をタイトルやハッシュタグに付
けた動画の投稿が、専ら原告グループ名の有する顧客吸引力の利用を目的と
するものといえるかについて検討する。
(2) 認定事実(2)のとおり、被告は、被告チャンネルに投稿した多数の動画のタ
イトルやハッシュタグに原告グループ名を付しており、弁論の全趣旨によれ
15 ば、このようなハッシュタグの付いた動画は、被告が投稿した他の動画と比
べて視聴回数が多いことが認められる。
もっとも、認定事実(3)ないし(5)のとおり、原告グループ名がタイトルに
含まれる本件動画1ないし4は、いずれも原告らの言動等を取り上げ、これ
に意見ないし論評を加える内容のものであり、それ以外の原告グループ名を
20 タイトルやハッシュタグに付した動画については、これらが原告らと無関係
な内容のものであることを認めるに足りる証拠はなく、原告らの言動等を話
題として取り上げたものであると推認することができる。
そして、一般に、Youtubeにおける動画のタイトルは動画の内容を
簡潔に表すものであり、ハッシュタグは投稿した動画の分類、検索等を容易
25 にすることを目的として付されるものであるから、このようなタイトルやハ
ッシュタグの役割からすれば、被告が原告らのことを話題として取り上げた
本件動画1ないし4のタイトルやハッシュタグに原告グループ名を付すこと
はその目的に沿うものといえる。
そうすると、被告が、原告グループ名を被告の動画のタイトルやハッシュ
タグに付けて投稿することが、専ら原告グループ名の有する顧客吸引力の利
5 用を目的とするものということはできない。
もとより、上記認定のとおり、原告グループ名をタイトルやハッシュタグ
に付した動画の視聴回数が多いことからすると、被告において原告らのYo
utuberとしての著名度に便乗し、これを利用する意図が全くなかった
とまでは認め難いものの、肖像等に顧客吸引力を有する者は、社会の耳目を
10 集めるなどして、その肖像等を時事報道、論説、創作物等に使用されること
もあるのであって、その使用を正当な表現行為等として受忍すべき場合もあ
るというべきであり、原告らにおいても、原告らの言動等に対する意見、論
評等を内容とするもので、専ら原告グループ名の有する顧客吸引力の利用を
目的とするものとはいえない動画について、そのタイトルやハッシュタグに
15 原告グループ名が使用されたとしても、その動画の内容が名誉毀損等の不法
行為に当たる場合があることは別論、パブリシティ侵害には当たらないとい
うべきである。
以上によれば、被告が動画のタイトルやハッシュタグに原告グループ名を
付したことが、原告らのパブリシティ権を侵害するとはいえない。
20 (3) これに対し、原告らは、被告がハッシュタグで原告グループ名を標榜した
ことで、ハッシュタグで検索される動画に大量の被告の動画を混入させ、原
告グループ名の持つブランド価値を希釈化し、また、原告らに対する誹謗的
な内容の動画を大量に投稿し、原告グループ名の持つブランド価値を著しく
汚染したと主張する。
25 しかし、前記(2)で述べたハッシュタグの目的等を踏まえれば、自ら投稿し
た動画や自分にとって好ましい内容の動画以外の動画であっても、その内容
次第で自分を表す名称がハッシュタグとして付される場合のあることは避け
られないのであって、そのような動画の中に自らの動画が埋没させられるこ
とになったり、批判的な動画が検索結果に多数表示されることになったとし
ても、当該ハッシュタグを付する行為が直ちに不法行為を構成するものでは
5 ない。
したがって、原告らの上記主張は採用することができない。
3 争点2(被告による本件発言1ないし4が原告夫ないし原告らの名誉感情を
侵害する不法行為に当たるか)について
(1) 争点2-1(本件発言1による原告夫の名誉感情侵害)について
10 本件発言1は、原告を「あのアホは あのアホ男は」、「まあ要はアホなんだ
ろうから」、「あのヒモ男」、「●●歳のさこう髭生やしたさ むさい男」(●●
は原告夫の年齢)、「あのむさい男」、「クリエイターとして何らかの欠陥があ
るのかな」、「頭の中お花畑の●●」(●●は原告夫の名前)、「家でゴロゴロす
る何もできないヒモ男」、「だからヒモ男 つってんだよ」、「●●ヒモ男 ▲▲
15 君」(●●は原告グループ名、▲▲は原告夫の名前)と述べるものであり、原
告夫の名誉感情を侵害するものであると認められる。
ところで、他人の名誉感情を侵害する行為については、それが社会生活上
許される限度を超える侮辱行為であると認められる場合に、当該他人の人格
的利益の侵害が認められ、不法行為が成立すると解される。
20 そして、上記認定に係る個々の発言自体は、意見ないし感想として述べら
れているものではあるものの、被告は、本件動画1において、原告夫に対す
る名誉感情を侵害する表現を執拗に繰り返していることからすれば、本件発
言1は、社会生活上許される限度を超える侮辱行為に当たるというべきであ
る。
25 したがって、被告による本件発言1は、原告夫に対する不法行為に該当す
る。
(2) 争点2-2(本件発言2による原告らの名誉感情侵害)について
本件発言2は、原告夫について、定職に就かず、原告妻がすい臓がんを患
っていることをネタにしてお金を稼いでいるなどと述べ、原告妻について、
不摂生な生活をしてがんになった挙げ句、病気をネタに金を稼いでいるなど
5 と述べるものであり、原告らの名誉感情を侵害するものであると認められる。
しかし、原告夫についての被告の発言は、原告夫が、Youtubeの動
画配信により収益を上げており、特に原告妻の病気が判明してからは、その
闘病生活を紹介する動画を多数投稿していることを捉えて、原告夫の活動に
対する意見ないし感想として述べたものであり、当該発言の具体的な表現を
10 踏まえても、社会生活上許される限度を超える侮辱行為であると認めること
はできない。
また、原告妻についての被告の発言も、不摂生な生活を送っているとがん
になりやすいとの被告自身の見識の下、原告妻が現に不摂生な生活を送って
いたことを述べるとともに、病気が判明してからはその闘病生活を紹介する
15 動画を多数投稿し、収入を得ていることを捉えて、原告妻の活動に対する意
見ないし感想として述べたものであり、当該発言の具体的な表現を踏まえて
も、社会通念上許される限度を超える侮辱行為であると認めることはできな
い。
(3) 争点2-3(本件発言3等による原告らの名誉感情侵害)について
20 ア 原告らは、本件発言3につき、原告妻が韓国人であり、その韓国人の顔
に原告夫が惚れたと根拠なく述べ、原告らは日本人であるにもかかわらず、
韓国籍であると指摘するものであるところ、ここでは韓国人であるという
ことが誹謗ということではなく、原告らに無関係でただ乗りをする被告が、
原告らの国籍や出自という、センシティブな正当な理由もなく公然と言及
25 し、決め付けることが社会的受忍限度を超えた侮辱行為であると主張する。
しかし、原告らは、原告らを韓国籍であると指摘すること自体は誹謗に
当たらないというのであるから、結局のところ、原告らの国籍や出自に言
及すること自体が侮辱に当たるというものであるが、仮に、被告による本
件発言3が、原告らの出自について理由もなく言及するものであり、また、
その出自が本来のものとは違うものであったとしても、単に、被告の意見
5 又は感想として原告らの出自に言及すること自体は侮辱的なものであると
いうことはできないし、その他、本件発言3において侮辱的な表現がある
と認めることもできないから、本件発言3は、社会生活上許される限度を
超える侮辱行為であると認めることはできない。
イ また、原告らは、被告による本件動画3のコメント欄に記載された各コ
10 メントに対して、認定事実(4)及び(5)のような対応をしたことも、原告夫
に対する社会的受忍限度を超えた侮辱行為であるとも主張する。
しかし、上記各コメントは、あくまでコメント投稿者が述べた意見であ
り、被告が「いいね!」ボタンを押したことは、単に当該投稿者の意見に
好意的な反応を示したものであると認められるにとどまり、被告が加えた
15 「日本語不自由ですしね」、「何と言いますか常識が通じないですね」との
コメントも、原告夫に対する侮辱的な表現ではあるものの、意見ないし感
想を述べたものにすぎないから、社会生活上許される限度を超えた侮辱行
為であると認めることはできない。
(4) 争点2-4(本件発言4による原告らの名誉感情侵害)について
20 原告らは、本件発言4につき、原告らが韓国人であり、韓国の書式に則っ
た婚姻届を提出したと述べるものであるところ、ここでは韓国人であるとい
うことが誹謗ということではなく、原告らに無関係でただ乗りをする被告が、
原告らの国籍や出自というセンシティブな事項に、正当な理由もなく公然と
言及し、決め付けることが社会的受忍限度を超えた侮辱行為であると主張す
25 る。
しかし、上記(3)で説示したとおり、単に、被告の意見又は感想として原告
らの出自に言及すること自体は侮辱的なものであるということはできないし、
その他、本件発言4において侮辱的な表現があると認めることもできないか
ら、本件発言4は、社会生活上許される限度を超える侮辱行為であると認め
ることはできない。
5 4 争点3(被告による本件発言5ないし共同配信者に対する同調が不正競争又
は名誉毀損に当たるか)について
(1) 争点3-1(不正競争該当性(主位的主張))について
前提事実(1)のとおり、原告らと被告は共にYoutuberであるものの、
認定事実(1)のとおり、原告らが原告妻の闘病生活を含む自分たちの生活の様
10 子等を配信しているのに対し、証拠(甲20)及び弁論の全趣旨によれば、
被告は、被告チャンネルに、原告グループ名をタイトルに付した動画のほか、
種々雑多なタイトルの動画を投稿しており、その動画の内容は、被告自身が
様々なテーマについて語るものであると認められるから、原告らの動画と被
告の動画では、そもそもジャンルや内容が異なるものといえる。
15 そうすると、動画の内容からは、原告らと被告において、顧客というべき
視聴者を取り合うなど営業上の利益が競合する関係にあるとは認めることが
できず、その他、原告らと被告が競争関係にあることを認めるに足りる証拠
はない。
したがって、その余の点を判断するまでもなく、被告による本件発言5な
20 いし共同配信者に対する同調が不正競争に該当する旨の原告らの主張は採用
することができない。
(2) 争点3-2(名誉毀損該当性(予備的主張))について
証拠(甲15、16、29)によれば、被告は、本件動画5において、原
告妻の病気につき、原告らが出した診断書に怪しいところがあることや、原
25 告妻がステージ4のすい臓がんを患っているにもかかわらず、大量の食事を
摂取していることなどを理由に、原告妻が本当にステージ4のすい臓がんを
患っているのかについて、視聴者が疑問に思う状況が生じていることを共同
配信者に説明し、その中で、本件発言5のとおり、「もともと回復の見込みが
ある癌なんです あえてステージ4って言ってお金を集めるためにやってい
る」、「そもそも詐病なんじゃない」などと述べているものであり、被告によ
5 るこれらの発言は、原告らが、原告妻の病状を深刻なものと偽り、金銭を集
めているとの事実を摘示するものであると認められる。
そして、本件動画5における被告の説明も踏まえれば、上記被告の発言は、
これを聞いた視聴者に対し、原告妻の病気が金銭目的の詐病であるとの印象
を与えるものであるから、原告らの社会的評価を低下させるものであると認
10 められ、本件発言5は名誉毀損に当たるというべきである。
したがって、被告による本件発言5は、原告らに対する不法行為に該当す
る。
なお、原告らは、認定事実(6)の「加工してんじゃないか」、「まあなかなか
あり得ない診断書ってことですね」との共同配信者の発言についても、被告
15 がこれを引き出して強く同調していることから、共同配信者と共謀して被告
自らが配信したものであると評価することができる旨主張するが、当該発言
はあくまで共同配信者が行ったものであり、被告と共同発言者との間で共謀
したことを認めるに足りる証拠はないから、原告らの上記主張は採用するこ
とができない。
20 5 争点4(原告グループ名等の使用の差止めの可否)について
原告らは、被告が、原告グループ名等を付した動画を投稿することが、人格
権を侵害すると主張するが、被告が原告らを話題とする動画のタイトルやハッ
シュタグに原告グループ名を付すことがパブリシティ権侵害に当たるとは認め
られないことは上記2のとおりであり、また、被告が原告グループ名をタイト
25 ルやハッシュタグに付して投稿した全ての動画の内容がいずれも原告らの人格
権を侵害するものであると認めるに足りる証拠もない。
したがって、被告が原告グループ名等を付した動画を投稿することが、原告
らの人格権を侵害するとは認められないから、原告らの差止請求には理由がな
い。
6 争点5(原告らの損害)について
5 上記2ないし4のとおり、被告による原告らに対する不法行為は、本件発言
1による原告夫の名誉感情侵害、及び本件発言5による原告らの名誉毀損を理
由とするものに限り認められるから、以下、これらの不法行為による原告らの
損害について検討する。
(1) 名誉感情侵害による慰謝料
10 上記3のとおり、本件発言1は原告夫の名誉感情を侵害する不法行為に該
当するところ、本件発言1の内容のほか、本件に現れた一切の事情を考慮す
れば、本件発言1により原告夫が被った精神的苦痛に対する慰謝料は、5万
円と認めるのが相当である。
また、弁護士費用として5000円を、被告の不法行為と相当因果関係が
15 ある損害と認める。
したがって、被告は、原告夫に対し5万5000円及びこれに対する本件
動画2の投稿日である令和5年8月3日から支払済みまで年3%の遅延損害
金を支払う義務がある。
(2) 名誉毀損による慰謝料
20 上記4のとおり、被告による本件発言5は、原告らに対する名誉毀損に該
当するところ、その発言内容のほか、当該発言が現に病気を患っている原告
妻に与える苦痛は相当程度大きいものであると解されることなど、本件に現
れた一切の事情を考慮すれば、本件発言5により原告らが被った精神的苦痛
に対する慰謝料は、原告夫につき15万円、原告妻につき30万円と認める
25 のが相当である。
また、弁護士費用として、原告夫につき1万5000円を、原告妻につき
3万円を、被告の不法行為と相当因果関係がある損害と認める。
したがって、被告は、原告夫に対し16万5000円及び原告妻に対し3
3万円並びにこれらに対する本件動画5の配信日である令和5年2月22日
から支払済みまで年3%の割合による遅延損害金を支払う義務がある。
5 第4 結論
よって、原告らの請求は主文掲記の限度で理由があるからこれらを認容し、
その余の請求は理由がないからいずれも棄却することとして、主文のとおり判
決する。
10 東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官
澁 谷 勝 海
裁判官
本 井 修 平
裁判官
塚 田 久 美 子
(別紙)
グループ名目録
(以下省略)
5 以上
(別紙)
チャンネル目録
チャンネル名 (省略)
5 チャンネルURL・投稿アカウント
(省略)
以上
(別紙)
動画目録
(以下省略)
5 以上
(別紙)
発言目録
5 (以下省略)
以上
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