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令和7(行ケ)10112審決取消請求事件

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裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所
裁判年月日 令和8年6月4日
事件種別 民事
当事者 原告CASE特許株式会社
被告特許庁長官
法令 特許権
特許法29条2項1回
キーワード 審決25回
実施5回
訂正審判4回
進歩性1回
特許権1回
無効1回
優先権1回
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 本件は、原告が、特許請求の範囲についてされた訂正審判請求を不成立とした 審決の取消しを求める事案である。

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判決文

令和8年6月4日判決言渡
令和7年(行ケ)第10112号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 令和8年4月16日
判 決
原 告 CASE特許株式会社
同訴訟代理人弁護士 高 橋 雄 一 郎
同訴訟代理人弁理士 望 月 尚 子
被 告 特 許 庁 長 官
同指定代理人 浅 野 麻 木
遠 藤 秀 明
西 山 智 宏
15 小 川 将 之
北 村 英 隆
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
20 事実及び理由
第1 請求
特許庁が訂正2024-390092号事件について令和7年10月16日
にした審決を取り消す。
第2 事案の概要
25 本件は、原告が、特許請求の範囲についてされた訂正審判請求を不成立とした
審決の取消しを求める事案である。
1 特許庁における手続の経緯等(当事者間に争いがないか、又は当裁判所に顕著
である。)
⑴ 特許
特許第6432948号(以下「本件特許」という。)は、平成26年9月3
5 0日(以下「本件優先日」という。)にされた特許出願に基づく優先権を主張し
て平成27年9月29日に出願(特願2016-552064号。以下、同出
願の願書に添付された明細書及び図面を併せて「本件明細書等」といい、本件
明細書等の段落番号及び図面の番号を【】の記号を用いて示す。)がされ、平成
30年11月16日に設定登録がされた(請求項の数3)。
10 令和4年10月25日、本件特許につき訂正審判請求がされ、同年12月2
7日付けで同訂正を認める旨の審決がされて、同審決は、令和5年1月10日
に確定した。同訂正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、別紙1(特許請
求の範囲)の「前」欄に記載のとおりである。
⑵ 訂正審判請求
15 原告は、本件特許の特許権者であるところ、令和6年8月19日、本件特許
の特許請求の範囲を訂正する訂正審判請求をし(以下、この請求に係る訂正を
「本件訂正」という。)、特許庁は、これを訂正2024-390092号事件
として審理した。
原告の求めた訂正事項は、特許請求の範囲の請求項1に「前記運転モード設
20 定部は、前記運転モードが前記高度自動化モードに設定されているときに、前
記乗員が前記シートベルトを装着していないと前記運転モード設定部が判断
すると、前記運転モードを前記基本モードに切り替えるように構成されてい
る、」と記載されているのを、
「前記運転モード設定部は、前記運転モードが前
記高度自動化モードに設定されているときに、前記乗員が前記シートベルトを
25 装着していないと前記運転モード設定部が判断すると、前記運転モードを前記
基本モードに切り替え、高度自動化切替条件が成立した場合、自動で前記基本
モードから前記高度自動化モードに切り替えるように構成されている、」と訂
正する(請求項1の記載を引用する請求項2及び3も同様に訂正する)、とい
うものである(下線部は訂正箇所を示す。)。
本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1の記載(以下、本件訂正後の請求項
5 1に記載された発明を「訂正発明1」という。)は、別紙1(特許請求の範囲)
の「後」欄に記載のとおりである(なお、便宜上、訂正発明1を分説し、各構
成要件にAからHまでの符号を付した。以下、各構成要件を「構成要件A」な
どという。)。
⑶ 審決
10 特許庁は、令和7年10月16日、
「本件審判の請求は、成り立たない。」と
の審決(以下「本件審決」という。)をして、その謄本は、同月24日、原告に
送達された。
原告は、同年11月20日、本件審決の取消しを求める訴えを提起した。
2 本件審決の理由の要旨
15 ⑴ 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の有無
本件訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、本件明細書等
に記載された事項の範囲内における訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張
し又は変更するものに当たらない。
⑵ 独立特許要件
20 ア 甲1に記載された発明の認定
本件優先日前に公開された甲1(LEGACYアイサイト取扱説明書)には、次
の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
「EyeSightであって、2台のCCDカメラを用いたステレオ画像処理により、
先行車や障害物、車線などを認識するステレオカメラを備え、運転者の判断
25 を助け、安全・快適で疲れの少ない運転を可能にするさまざまな機能がシス
テムによって動作し、さまざまな前記機能に全車速追従機能付クルーズコン
トロール、プリクラッシュブレーキ、AT誤発進抑制制御、車線逸脱警報、ふ
らつき警報、先行車発進お知らせ、定速クルーズコントロールが含まれ、 全
車速追従機能付きクルーズコントロール及び定速クルーズコントロールが
自動解除される場合があり、もしくはEyeSightが一時停止されて定速クルー
5 ズコントロールを除くEyeSightの全ての機能が使用できない場合があり、運
転席のシートベルトを外したとき全車速追従機能付クルーズコントロール、
定速クルーズコントロールが自動的に解除され、EyeSightが一次停止された
原因が改善されると自動的にEyeSightが復帰する、EyeSight。」
イ 訂正発明1と引用発明との対比
10 訂正発明1と引用発明を対比すると、別紙2(訂正発明1と引用発明の対
比)に記載のとおりである。
ウ 一致点の認定
上記イの対比関係に鑑みると、訂正発明1と引用発明とは、次の点におい
て一致する。
15 「車両に搭載される自動運転制御装置であって、前記車両の周囲の情報で
ある周囲情報を取得するように構成された周囲情報取得部と、前記車両の運
転モードを、前記車両の走行に必要な複数種類の運転動作の一部又は全てを
前記周囲情報に基づいて自動で実行する高度自動化モード、及び、前記自動
で実行する前記運転動作の種類が前記高度自動化モードよりも少ないか若
20 しくはゼロである基本モード、の何れか一方に設定するように構成された運
転モード設定部と、前記運転モード設定部により設定された前記運転モード
に基づき、その運転モードにおいて前記自動で実行するように設定されてい
る前記運転動作を実行するように構成された自動制御部と、を備え、前記運
転モード設定部は、前記車両の乗員がシートベルトを装着しているか否かを
25 判断するように構成され、前記運転モード設定部は、前記運転モードが前記
高度自動化モードに設定されているときに、前記乗員が前記シートベルトを
装着していないと前記運転モード設定部が判断すると、前記運転モードを前
記基本モードに切り替え、高度自動化切替条件が成立した場合、自動で前記
基本モードから前記高度自動化モードに切り替えるように構成されている、
自動運転制御装置。」
5 エ 相違点の認定
訂正発明1と引用発明とは、次の点で相違する。
(相違点)
訂正発明1では、車両の走行に必要な複数種類の運転動作として「車線変
更制御、右左折制御又は駐車制御が含まれる」のに対して、引用発明は「全
10 車速追従機能付クルーズコントロール、プリクラッシュブレーキ、AT誤発進
抑制制御、車線逸脱警報、ふらつき警報、先行車発進お知らせ、定速クルー
ズコントロール」を含む点。
オ 相違点についての検討
引用発明は、運転支援機能を提供するものであるところ、運転支援機能の
15 中には、ドライバーが行う外部認識、判断、操作の一部を、自動で行うもの
が搭載されている。また、運転の自動化に関する技術分野において、自動車
の基本的な性能である「走る」
「曲がる」
「止まる」を支援するために、外部
認識、判断、操作の全てもしくは一部をシステムが行うことで、車線変更、
右左折又は駐車を実行することは周知技術である。
20 引用発明において、運転者の判断を助け、安全・快適で疲れの少ない運転
を可能にするために、車線変更、右左折又は駐車を実行する機能を採用する
ことには、十分な動機付けが存在し、かかる機能の採用に阻害要因も存在し
ない。
したがって、引用発明における運転動作として、車線変更制御、右左折制
25 御又は駐車制御を採用することは、当業者が適宜なし得たことにすぎない。
よって、訂正発明1は、引用発明及び上記周知技術に基づいて当業者が容
易に発明をすることができたものである。
カ 独立特許要件についてのまとめ
訂正発明1は、特許法29条2項の規定により、特許出願の際、独立して
特許を受けることができるものではないから、訂正事項は、同法126条7
5 項の規定に適合しない。
第3 原告主張の審決取消事由(独立特許要件についての認定判断の誤り)
1 相違点を看過した誤り(理由1)
⑴ 本件審決による引用発明の認定
本件審決は、引用発明において各種機能が動作する状態を4つの態様に区別
10 して認定している。すなわち、全ての機能が動作可能な態様が態様1、全車速
追従機能付きクルーズコントロール及び定速クルーズコントロールが解除さ
れて他の機能のみが動作可能な態様が態様2、EyeSightが一時停止されて定速
クルーズコントロールを除くEyeSightの全ての機能が動作しない態様が態様
3、全ての機能が動作しない態様が態様4である。
15 また、本件審決は、上記各態様の遷移について、次のとおり認定している。
すなわち、全車速追従機能付きクルーズコントロール及び定速クルーズコント
ロールが自動解除される場合(場合1)には、態様1から態様2へ遷移し、又
は態様3から態様4へ遷移する。EyeSightが一時停止される場合(場合2)に
は、態様1から態様3へ遷移し、又は態様2から態様4へ遷移する。EyeSight
20 が一時停止された原因が改善された場合(場合3)には、態様3から態様1へ
遷移し、又は態様4から態様2へ遷移する。
⑵ 看過相違点
原告は、本件審決による上記⑴の認定について争わない。
しかし、訂正発明1は、「前記運転モード設定部は、前記運転モードが前記
25 高度自動化モードに設定されているときに、前記乗員が前記シートベルトを装
着していないと前記運転モード設定部が判断すると、前記運転モードを前記基
本モードに切り替え、高度自動化切替条件が成立した場合、自動で前記基本モ
ードから前記高度自動化モードに切り替える」というものである。ここで、特
許請求の範囲には「前記」と記載されているのであるから、訂正発明1におけ
る「基本モード」及び「高度自動化モード」という語は、それぞれ、訂正発明
5 1の全体を通じて、同一の機能が動作し又は動作しない態様(モード)を指す
と解されるべきである。
引用発明では、「シートベルトを装着していない」と判断される場合とは、
「場合1」に当たるから、態様1から態様2へ遷移し、又は態様3から態様4
へ遷移するものである。他方で、EyeSightが一時停止された原因が改善された
10 場合は、
「場合3」に当たるから、態様3から態様1へ遷移し、又は態様4から
態様2へ遷移するものである。
このように、引用発明では、同一の機能が動作し又は動作しない態様に復帰
するものではないから、訂正発明1と引用発明には、本件審決が看過した相違
点(訂正発明1では「高度自動化切替条件が成立した場合、自動で前記基本モ
15 ードから前記高度自動化モードに切り替えるように構成されている」)がある。
したがって、本件審決には、結論に影響を及ぼす誤りがある。
2 相違点に係る容易想到性の判断の誤り(理由2)
⑴ 動機付けの不存在
引用発明は、先進安全技術(ASV)を体現した車に関するものであるため、
20 先進安全技術とは異なる目的から自動化を推し進める自動運転技術を単純に
引用発明に取り入れる動機付けはない。
また、引用発明は、現実に販売された自動車の取扱説明書であり、その性質
上、車の各種機能の技術的な最適化が極限まで施されているため、機能の一部
を変更又は追加する動機付けはない。
25 ⑵ 阻害要因の存在
引用発明の自動車は、そもそも側方の周囲情報を取得せず、前方の周囲情報
のみを取得して、その範囲で運転支援を行うものとしている。そうすると、引
用発明の自動車において、前方を認識するステレオカメラに加えて、側方を認
識するセンサーを設けることには阻害要因がある。そして、側方を認識するセ
ンサーがない車両に車線変更制御、右左折制御及び駐車制御といった各種制御
5 を適用することは不可能である。
⑶ まとめ
以上のとおり、本件優先日当時、当業者において、相違点1に係る引用発明
の構成から訂正発明1の構成に想到することが容易であったということはで
きない。これと異なる本件審決の判断には、結論に影響を及ぼす誤りがある。
10 第4 被告の反論
1 相違点を看過した誤り(理由1)について
原告の主張は、訂正発明1の構成要件Fにおける「高度自動化モード」及び「基
本モード」と、構成要件Gにおける「高度自動化モード」及び「基本モード」と
は、それぞれの運転動作が厳格に一致しているものと解釈すべきことを前提とし
15 ている。しかし、特許請求の範囲及び本件明細書等の記載に照らし、そのように
解すべき根拠はないというべきである。
すなわち、特許請求の範囲には、
「高度自動化モード」から「基本モード」へと
遷移し、
「基本モード」から「高度自動化モード」へと遷移するに際して、それぞ
れのモードでの運転動作の数が完全に一致することを要する直接的な記載はな
20 いし、間接的に運転動作の数を完全に一致させるような記載もない。
上記のような記載は、本件明細書等の発明の詳細な説明にもうかがわれない。
訂正発明1は、必要なときに自動運転レベルを落として安全を確保することを課
題とするところ、その課題解決のためには、所定の条件成立時に「高度自動化モ
ード」から「基本モード」へ切り替える機能を有していれば十分であり、それぞ
25 れのモードにおいて運転動作の数が完全に一致する必要はない。
したがって、運転動作の種類の数が減少する遷移であれば、「高度自動化モー
ド」から「基本モード」への切替えに該当し、運転動作の種類の数が増加する遷
移であれば、
「基本モード」から「高度自動化モード」への切替えに該当すると解
すべきである。
引用発明における「EyeSightが一時停止された原因が改善されると自動的に
5 EyeSightが復帰する」挙動は、態様3から態様1への遷移、又は、態様4から態
様2への遷移であるところ、いずれの遷移も、運転動作の種類の数が増加する遷
移であるから、訂正発明1における「高度自動化切替条件が成立した場合、自動
で前記基本モードから前記高度自動化モードに切り替える」ことに相当するとい
うべきである。したがって、本件審決が相違点を看過した旨の原告の主張には理
10 由がない。
2 相違点に係る容易想到性の判断の誤り(理由2)について
⑴ 動機付けについて
先進安全技術(ASV)と自動運転技術とが密接に関わる分野であること、
運転支援と自動運転は、ドライバーとシステムの分担の比重が異なるものにす
15 ぎないこと、引用発明の目的が「運転者の判断を助け、安全・快適で疲れの少
ない運転を可能にする」ものであることなどから、先進安全技術に対して自動
運転技術を適用することに何らの困難性も認められず、むしろ強い動機付けが
あるといえ、本件審決の認定判断は正当である。
また、主引用例の種類によって進歩性判断の枠組みは異ならないから、引用
20 発明が現実に販売された自動車に関係するものであることは、動機付けを否定
する理由とはならないというべきである。
⑵ 阻害要因の存在について
原告は、引用発明において側方を認識するセンサーを設けることには阻害要
因があると主張するが、引用発明に周知技術である「車線変更制御、右左折制
25 御、駐車制御」を適用することは、当業者が容易になし得たことであるところ、
車線変更制御、右左折制御及び駐車制御を行う車両に側方センサーを設ける技
術もまた周知技術であることから、引用発明において側方センサーを追加する
ことも、適宜なし得たことといえる。
第5 当裁判所の判断
1 訂正発明1について
5 本件明細書等の記載によると、訂正発明1については、次のとおりである。
⑴ 訂正発明1は、運転者による各種判断や操作などの、車両を走行させるため
に必要な運転者の各種運転動作のうち、一部又は全てを、運転者の操作を要す
ることなく自動で行わせることが可能な、自動運転制御装置に関する。
(【00
02】)
10 ⑵ 自動運転技術の最終目標の一つは、目的地を設定するだけで後は乗員が何ら
走行に関与することなく目的地へ到達できるようにすることであるが、それを
実現できるほどの信頼性の高いレベルにはまだ至っていない。信頼性が高いレ
ベルに至るまでは、自動運転技術を採用しつつも、必要に応じて、自動で実行
中の制御の一部又は全てを無効としてドライバーの操作に委ねることができ
15 ることが望ましい。また、自動で実行中の制御の一部又は全てを適切なタイミ
ングで停止させるようにできることが望ましい。
(【0005】~【0007】)
⑶ かかる課題を解決するため、訂正発明1に係る自動運転制御装置は、周囲情
報取得部と、運転モード設定部と、自動制御部とを備える。運転モード設定部
は、車両の運転モードを、高度自動化モード(車両の走行に必要な複数種類の
20 運転動作の一部又は全てを周囲情報に基づいて自動で実行する運転モード)及
び基本モード(自動で実行する運転動作の種類が高度自動化モードよりも少な
いかゼロである運転モード)のいずれかに設定する。高度自動化モード中に基
本モード切替条件が成立した場合は基本モードに切り替わる。運転モードが基
本モードの場合に、あらかじめ設定した高度自動化切替条件が成立した場合、
25 運転モードを高度自動化モードに切り替えるようにしてもよい。(【0008】
~【0011】)
⑷ このように構成された自動運転制御装置によれば、高度自動化切替条件を適
宜設定することで、高度自動化モードと基本モードの切替えを適切なタイミン
グで行うことが可能となる。(【0013】)
⑸ 訂正発明1において、運転モード設定部は、車両の乗員がシートベルトを着
5 用しているか否かを判断するように構成され、運転モードが高度自動化モード
に設定されているときに、乗員がシートベルトを装着していないと判断すると、
運転モードを基本モードに切り替え、高度自動化切替条件が成立した場合、自
動で基本モードから高度自動化モードに切り替えるものである。(【0111】
~【0116】、請求項1)
10 2 理由1(相違点を看過した誤り)について
⑴ 原告は、訂正発明1における「基本モード」及び「高度自動化モード」とい
う語は、特許請求の範囲に「前記」と記載されていることからすると、訂正発
明1の全体を通じて、同一の機能が動作し又は動作しない態様(モード)を指
すものと解すべきとした上で、引用発明では、シートベルトが装着されていな
15 いと判断される場合に態様1から態様2へ遷移し、又は態様3から態様4に遷
移するが、EyeSightが一時停止された原因が改善された場合は態様3から態様
1へ遷移し、又は態様4から態様2に遷移するのであるから、同一の機能が動
作し又は動作しない態様に復帰するものではなく、本件審決はこの相違点を看
過した誤りがあると主張する。
20 ⑵ そこで検討すると、訂正発明1に係る特許請求の範囲には、「高度自動化モ
ード」について、車両の走行に必要な複数種類の運転動作の一部又は全てを周
囲情報に基づいて自動で実行するモードであって、当該複数種類の運転動作に
車線変更制御、右左折制御又は駐車制御が含まれるものをいい、
「基本モード」
について、自動で実行する運転動作の種類が高度自動化モードよりも少ないか
25 ゼロであるモードをいう旨が記載され(構成要件C)、その後、構成要件F及
びGにおいて「前記高度自動化モード」及び「前記基本モード」として再掲さ
れているが、運転動作の数及び種類の組合せが、訂正発明1の全体を通じて完
全に一致することを要する旨の記載はない。
次に、発明の詳細な説明をみると、「課題を解決するための手段」において
は、「高度自動化モードとは、車両の走行に必要な複数種類の運転動作の一部
5 又は全てを周囲情報に基づいて自動で実行する運転モードである。基本モード
とは、自動で実行する運転動作の種類が高度自動化モードよりも少ないか若し
くはゼロである運転モードである。」
(【0008】)との記載はあるが、高度自
動化モード及び基本モードのそれぞれにおいて、運転動作の数及び種類の組合
せが、常に一致した状態であることを要する旨の記載はない。
10 かえって、
「発明を実施するための形態」においては、
「本実施形態では、高
度自動化モードにおいて上記7種類の自動制御機能のどれを実行させるかを
任意に設定することができる。」
(【0030】)、
「本実施形態において、高度自
動化モードとは、レベル1以上の自動運転レベルでの自動運転が行われる運転
モードである。一方、基本モードとは、高度自動化モードに対して相対的に自
15 動運転レベルが低い運転モードである。例えば、高度自動化モードがレベルn
の場合、基本モードは、レベルn-1~レベル0の何れかに設定可能である。」
(【0032】)、
「各運転モード毎のレベル設定は、運転モード毎に、運転部近
傍に設けられたレベル設定操作部45を操作することにより可能である。(中
略)そして、各運転モード毎に、現在設定されている自動運転レベルを任意に
20 設定変更することができる。」
(【0092】)などと、各運転モードにおける運
転動作の数及び種類の組合せを任意に変更できる実施形態が記載され、同組合
せが固定されている実施形態は開示されていない。
加えて、本件明細書等には、各運転モードにおける運転動作の数及び種類の
組合せを、切替えの前後で完全に一致させることによる技術的意義や、それに
25 より奏される効果等に関する記載も見当たらない。
⑶ 以上によると、訂正発明1の「高度自動化モード」及び「基本モード」が、
訂正発明1の全体を通じて、常に、運転動作の数及び種類の組合せが一致する
ことを要するものと認めることはできず、
「高度自動化モード」とは、
「基本モ
ード」よりも機能する運転動作の数が多いものであれば足りるものと認めるの
が相当である。
5 したがって、本件審決には訂正発明1と引用発明の相違点を看過した誤りが
ある旨の原告の主張は採用することができない。
3 理由2(相違点に係る容易想到性の判断の誤り)について
⑴ 前記2に検討したところによると、訂正発明1と引用発明とは、本件審決が
認定した相違点において相違すると認められるため(前記第2の2⑵エ参照)、
10 以下、上記相違点につき検討する。
引用発明は、車両に搭載される運転支援技術に係る発明であるところ、証拠
(甲2~4)によると、運転支援と自動運転とは、外界認識、判断及び操作を、
運転者とシステムが分担して行うに際し、その分担の比重が異なるものにすぎ
ないこと、自動運転技術は、自動車の基本的な性能である「走る」「曲がる」
15 「止まる」を支援して、安心・安全で快適な運転環境を提供することを目指す
ものであること、自動運転技術の分野において、アダプティブ・クルーズ・コ
ントロール(ACC)、レーンキープアシスト、車線変更システム等を組み合
わせることにより、車両の加速、操舵及び制動のうち複数又は全ての操作を行
うことは、いずれも、本件優先日当時、周知の技術的事項であったと認められ
20 る。
そうすると、運転支援技術に関する引用発明において、安心・安全で快適な
運転環境を提供するため、同様の目的を有する自動運転技術の分野において周
知となっていた、車両の加速、操舵及び制動といった操作を車両が自動で行う
といった技術的事項を適用して、相違点に係る構成、すなわち、車両の走行に
25 必要な複数種類の運転動作として、「車線変更制御、右左折制御又は駐車制御
が含まれる」ものとすることは、本件優先日当時、当業者が容易に想到できた
ものというべきである。
⑵ これに対し、原告は、引用発明が先進安全技術を体現した車に関するもので
あり、先進安全技術とは異なる目的から自動化を推し進める自動運転技術を単
純に引用発明に取り入れる動機付けはないと主張する。しかし、先進安全技術
5 も自動運転技術も、車両の運転に必要な外界認識、判断及び操作を、運転者と
システムが分担するという点において変わるところはないから、自動運転技術
の分野における周知の技術的事項を、先進安全技術に係る引用発明に採用する
動機付けは一般に肯定されるというべきである。
また、原告は、引用発明が現実に販売された自動車の取扱説明書であって、
10 その性質上、車の各種機能の技術的な最適化が極限まで施されているから、機
能の一部を変更又は追加する動機付けはないと主張する。しかし、引用発明が
製品として完成されているものであるからといって、一般に、当業者が当該引
用発明の機能の一部を変更又は追加する動機付けがないということはできな
い。
15 さらに、原告は、引用発明の自動車が前方の周囲情報のみを取得し、その範
囲で運転支援を行うものであるから、引用発明に側方を認識するセンサーを設
けることには阻害要因があり、側方を認識するセンサーがない車両に車線変更
制御、右左折制御及び駐車制御といった各種制御を適用することは不可能であ
ると主張する。しかし、引用発明に係る自動車が前方の周囲情報のみを取得し
20 ていることは、これに加えて側方を認識するセンサーを設けることの阻害要因
となるものではない。当業者は、引用発明に係る車両の走行に必要な複数種類
の運転動作として、「車線変更制御、右左折制御又は駐車制御が含まれる」も
のとするに際して、これを実現するため、周知技術に属する側方センサーを車
両に設けることを適宜行うことができたというべきである。
25 ⑶ 以上によると、訂正発明1は、本件優先日当時、引用発明に周知の技術的事
項を適用して、当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。
したがって、本件審決には相違点に係る容易想到性の判断に誤りがある旨の
原告の主張は採用することができない。
4 結論
以上のとおり、原告の主張する取消事由には理由がなく、本件審決に取り消さ
5 れるべき違法はない。
よって、原告の請求には理由がないからこれを棄却することとして、主文のと
おり判決する。
知的財産高等裁判所第1部

裁判長裁判官
増 田 稔

裁判官
頼 晋 一

裁判官
天 野 研 司

(別紙1)
特許請求の範囲
前 後
【請求項1】 【請求項1】
車両に搭載される自動運転制御装置であって、 A:車両に搭載される自動運転制御装置であっ
て、
前記車両の周囲の情報である周囲情報を取得す B:前記車両の周囲の情報である周囲情報を取
るように構成された周囲情報取得部と、 得するように構成された周囲情報取得部と、
前記車両の運転モードを、前記車両の走行に必 C:前記車両の運転モードを、前記車両の走行に
要な複数種類の運転動作の一部又は全てを前記 必要な複数種類の運転動作の一部又は全てを前
周囲情報に基づいて自動で実行する高度自動化 記周囲情報に基づいて自動で実行する高度自動
モードであって、前記複数種類の運転動作に車 化モードであって、前記複数種類の運転動作に
線変更制御、右左折制御又は駐車制御が含まれ 車線変更制御、右左折制御又は駐車制御が含ま
る高度自動化モード、及び、前記自動で実行する れる高度自動化モード、及び、前記自動で実行す
前記運転動作の種類が前記高度自動化モードよ る前記運転動作の種類が前記高度自動化モード
りも少ないか若しくはゼロである基本モード、 よりも少ないか若しくはゼロである基本モー
の何れか一方に設定するように構成された運転 ド、の何れか一方に設定するように構成された
モード設定部と、 運転モード設定部と、
前記運転モード設定部により設定された前記運 D:前記運転モード設定部により設定された前
転モードに基づき、その運転モードにおいて前 記運転モードに基づき、その運転モードにおい
記自動で実行するように設定されている前記運 て前記自動で実行するように設定されている前
転動作を実行するように構成された自動制御部 記運転動作を実行するように構成された自動制
と、 御部と、
を備え、 を備え、
前記運転モード設定部は、前記車両の乗員がシ E:前記運転モード設定部は、前記車両の乗員が

ートベルトを装着しているか否かを判断するよ シートベルトを装着しているか否かを判断する
うに構成され、 ように構成され、
前記運転モード設定部は、前記運転モードが前 F:前記運転モード設定部は、前記運転モードが
記高度自動化モードに設定されているときに、 前記高度自動化モードに設定されているとき
前記乗員が前記シートベルトを装着していない に、前記乗員が前記シートベルトを装着してい
と前記運転モード設定部が判断すると、前記運 ないと前記運転モード設定部が判断すると、前
転モードを前記基本モードに切り替えるように 記運転モードを前記基本モードに切り替え、
構成されている、 G:高度自動化切替条件が成立した場合、自動で
前記基本モードから前記高度自動化モードに切
り替えるように構成されている、
自動運転制御装置。 H:自動運転制御装置。
以 上

(別紙2)
訂正発明1と引用発明の対比
⑴ 訂正発明1と引用発明とを対比すると、後者の「先行車や障害物、車線など」は前者の「車
5 両の周囲の情報である周囲情報」に、以下同様に、「2台の CCD カメラを用いたステレオ画像
処理により、先行車や障害物、車線などを認識するステレオカメラ」は「前記車両の周囲の情
報である周囲情報を取得するように構成された周囲情報取得部」に相当し、「運転者の判断を
助け、安全・快適で疲れの少ない運転を可能にするさまざまな機能」は「前記車両の走行に必
要な複数種類の運転動作」に、「動作」は「実行」に相当する。
10 ⑵ 「EyeSight」の各「機能」は、認識された先行車や障害物、車線などに基づいて、それぞれ
自動で制御動作するものであるといえる。ここで、訂正発明1における「高度自動化モード」
及び「基本モード」は、訂正発明1の特定事項によれば、実行される運転動作の種類の数が異
なる運転モードが複数あった場合、その中の2つに着目して、各運転モードで実行される運転
動作の種類の数を比較して、実行される運転動作の種類の数が多い方が「高度自動化モード」
15 に該当し、少ない方が「基本モード」に該当し、また、それで足りるものと解される。そし
て、引用発明は「全車速追従機能付きクルーズコントロール及び定速クルーズコントロールが
自動解除される場合」(以下「場合1」という。)と「EyeSight が一時停止され」る場合
(以下「場合2」という。)があるものであるから、引用発明には、全ての機能が動作可能な
態様(以下「態様1」という。)、全車速追従機能付きクルーズコントロール及び定速クルー
20 ズコントロールが解除されて他の機能のみが動作可能な態様(以下「態様2」という。)、
EyeSight が一時停止されて定速クルーズコントロールを除く EyeSight の全ての機能が動作し
ない態様(以下「態様3」という。)、全ての機能が動作しない態様(以下「態様4」とい
う。)があるものといえる。
ここで、訂正発明1の「高度自動化モード」と「基本モード」の上記した関係に鑑みれ
25 ば、引用発明の各動作の組み合わせにつき、訂正発明1の「高度自動化モード」と「基本モ
ード」に対応するものは、態様1と態様2の組み合わせ、態様1と態様3の組み合わせ、態

様2と態様4の組み合わせ、態様3と態様4の組み合わせであるといえる。そして、場合1
のときに、態様1から態様2に遷移し、あるいは、態様3から態様4に遷移するものであ
り、場合2のときに、態様1から態様3に遷移し、あるいは、態様2から態様4に遷移する
ものとなっている。また、「EyeSight が一時停止された原因が改善されると自動的に
5 EyeSight が復帰する」ものであるから、「EyeSight が一時停止された原因が改善され」た場
合(以下「場合3」という。)に、態様3から態様1に遷移し、あるいは、態様4から態様
2に遷移するものといえる。
してみれば、引用発明は、場合1であるかを判断して、態様1と態様2のいずれか、また
は、態様3と態様4のいずれかを設定しており、同様に、場合2、場合3であるかを判断し
10 て、態様1と態様3のいずれか、または、態様2と態様4のいずれかを設定しているとい
え、また、引用発明の態様1~4では、その態様で動作可能な全車速追従機能付クルーズコ
ントロール、プリクラッシュブレーキ、AT 誤発進抑制制御、車線逸脱警報、ふらつき警報、
先行車発進お知らせ、定速クルーズコントロールの機能が動作することから、引用発明の
「運転者の判断を助け、安全・快適で疲れの少ない運転を可能にするさまざまな機能がシス
15 テムによって動作し、全車速追従機能付きクルーズコントロール及び定速クルーズコントロ
ールが自動解除される場合があり、もしくは EyeSight が一時停止されて定速クルーズコント
ロールを除く EyeSight の全ての機能が使用できない場合があり」という態様は、訂正発明1
の「前記車両の運転モードを、前記車両の走行に必要な複数種類の運転動作の一部又は全て
を前記周囲情報に基づいて自動で実行する高度自動化モード」「、及び、前記自動で実行す
20 る前記運転動作の種類が前記高度自動化モードよりも少ないか若しくはゼロである基本モー
ド、の何れか一方に設定するように構成された運転モード設定部と、前記運転モード設定部
により設定された前記運転モードに基づき、その運転モードにおいて前記自動で実行するよ
うに設定されている前記運転動作を実行するように構成された自動制御部と、を備え」る態
様に相当する。
25 ⑶ 後者の「シートベルト」は前者の「シートベルト」に相当する。そして、後者の「運転席の
シートベルトを外したとき全車速追従機能付クルーズコントロール、定速クルーズコントロー

ルが自動的に解除され」る態様は、上記⑵の相当関係に鑑みれば、場合1として、運転席のシ
ートベルトを外したかを判断して、態様1から態様2に、あるいは、態様3から態様4に遷移
しているのであるから、前者の「前記運転モード設定部は、前記車両の乗員がシートベルトを
装着しているか否かを判断するように構成され」「前記運転モードが前記高度自動化モードに
5 設定されているときに、前記乗員が前記シートベルトを装着していないと前記運転モード設定
部が判断すると、前記運転モードを前記基本モードに切り替え」る態様に相当する。
⑷ そして、後者の「EyeSight が一時停止された原因が改善されると自動的に EyeSight が復帰
する」態様は、上記⑵の相当関係に鑑みれば、場合3であることを判断して、態様3から態様
1に、あるいは、態様4から態様2に遷移しているのであるから、前者の「高度自動化切替条
10 件が成立した場合、自動で前記基本モードから前記高度自動化モードに切り替える」態様に相
当する。
⑸ 上記⑴から⑷までを踏まえると、後者の「EyeSight」は前者の「車両に搭載される」「自動
運転制御装置」に相当する。
以 上

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