令和7(ワ)11139発信者情報開示命令の申立てについての決定に対する異議の訴え事件
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| 裁判所 |
大阪地方裁判所
|
| 裁判年月日 |
令和8年6月4日 |
| 事件種別 |
民事 |
| 法令 |
著作権
|
| キーワード |
侵害33回 損害賠償3回 分割3回 実施1回
|
| 主文 |
1 大阪地方裁判所令和6年(発チ)第20005号発信者情報開示命令申立事件
2 訴訟費用は、原告の負担とする。 |
| 事件の概要 |
1 本判決における略称
・ 本件決定:発信者情報開示命令申立事件(当庁令和6年(発チ)第2000
5号)について大阪地方裁判所が令和7年10月3日にした決定(甲1)
・ 本件申立て:上記事件に係る被告の発信者情報開示命令申立て
・ 本件審問手続:本件申立てに係る審問手続
・ ビットトレント:ピア・ツー・ピア方式のファイル共有プロトコルである
「B
itTorrent」
・ 本件各契約者:別紙「動画目録」記載の「IPアドレス」を割り当てられた
原告の契約者
・ 本件各発信者情報:本件各契約者の氏名又は名称、住所、電話番号及び電子
メールアドレス
・ 本件各通信:別紙「動画目録」記載の「発信時刻(日本時間)
」
、 |
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判決文
令和8年6月4日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
令和7年(ワ)第11139号 発信者情報開示命令の申立てについての決定に対す
る異議の訴え事件
口頭弁論終結の日 令和8年4月20日
5 判 決
原告 株式会社オプテージ
同代表者代表取締役
同訴訟代理人弁護士 嶋野 修司
10 増田 拓也
被告 有限会社プレステージ
同代表者代表取締役
同訴訟代理人弁護士 戸田 泉
15 角地山 宗行
主 文
1 大阪地方裁判所令和6年(発チ)第20005号発信者情報開示命令申立事件
について、同裁判所が令和7年10月3日にした、原告に対し、別紙「発信者情
報目録」記載の情報を被告に開示することを命じた決定を認可する。
20 2 訴訟費用は、原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 大阪地方裁判所令和6年(発チ)第20005号発信者情報開示命令申立事件
について同裁判所が令和7年10月3日にした決定を取り消す。
25 2 上記事件に係る被告の申立てを却下する。
第2 事案の概要
1 本判決における略称
・ 本件決定:発信者情報開示命令申立事件(当庁令和6年(発チ)第2000
5号)について大阪地方裁判所が令和7年10月3日にした決定(甲1)
・ 本件申立て:上記事件に係る被告の発信者情報開示命令申立て
5 ・ 本件審問手続:本件申立てに係る審問手続
・ ビットトレント:ピア・ツー・ピア方式のファイル共有プロトコルである「B
itTorrent」
・ 本件各契約者:別紙「動画目録」記載の「IPアドレス」を割り当てられた
原告の契約者
10 ・ 本件各発信者情報:本件各契約者の氏名又は名称、住所、電話番号及び電子
メールアドレス
・ 本件各通信:別紙「動画目録」記載の「発信時刻(日本時間)」、
「ポート番号
(送信元)」及び「IPアドレス(送信元)」でなされた通信
・ 本件動画:別紙「動画目録」記載の「ハッシュ」に記載されたインフォハッ
15 シュ値で特定されるネットワークで配信されていた動画ファイル
・ 本件インフォハッシュ値:別紙「動画目録」記載の「ハッシュ」に記載され
たインフォハッシュ値
・ 本件著作物:作品名が別紙「動画目録」に記載された名称の動画
・ 当初提出動画:被告が、本件申立て時に証拠として提出した、本件著作物に
20 係る動画ファイル(甲18の3、乙3)
・ 再提出動画:被告が、本件審問手続の途中段階において証拠として提出した、
本件著作物に係る動画ファイル(甲18の4、乙13)
・ 本件ピースファイル:被告が、本件各契約者が本件各通信で送信していたと
して提出する、拡張子が「dat」のファイル(乙9の1ないし17)
25 ・ 本件調査:被告が本件調査会社(後記)に依頼した、本件著作物の著作権侵
害の有無に関する調査
・ 本件再生試験:本件調査において行われた動画の再生可能性に関する試験
・ 本件調査会社:本件調査を実施した会社(株式会社HDR)
・ 本件被告システム:ビットトレント向けクライアントソフトで一般的に利用
されているライブラリであるLibtorrentを用いた、本件調査会社が
5 使用するシステムである「Bittorrent監視システムver2」
・ 情プラ法:特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への
対処に関する法律(令和6年法律第25号による改正の前後を問わず、このよ
うに呼称する。)
2 事案の要旨
10 本件は、被告が、その有する著作権(送信可能化権及び自動公衆送信権)が侵
害されたことが明らかであるとして、情プラ法5条1項に基づく本件申立てによ
り本件決定を得たところ、原告が、情プラ法14条1項に基づき異議の訴えを提
起し、本件決定を取り消す旨の裁判を求めた事案である。
3 前提事実(争いのない事実及び証拠〔枝番を含む。以下同じ〕により容易に認
15 定できる事実)
(1) 当事者
ア 原告は、電気通信事業等を目的とする会社であり、契約者に対しインター
ネット接続サービスを提供するプロバイダである。
イ 被告は、映像・音楽作品等の企画、製作、販売、賃貸等を目的とする会社
20 である。
(2) 本件申立て及び本件決定
ア 被告は、令和6年、本件各契約者が本件著作物に係る被告の著作権(送信
可能化権及び自動公衆送信権)を侵害したと主張して、原告を相手方とする、
本件各発信者情報の開示を求める申立て(本件申立て)をした。
25 イ 大阪地方裁判所は、令和7年10月3日、被告の本件申立てを認容する決
定(本件決定)をした(甲1)。
(3) ビットトレントの仕組み(乙4ないし6、弁論の全趣旨)
ビットトレントの概要や利用の手順は、次のとおりである。
ア ビットトレントを通じて特定のファイル(以下「目的ファイル」という。)
をダウンロードしようとするユーザーは、ファイルをダウンロードするため
5 の「クライアントソフト」を自己の端末にインストールした上で、
「トラッカ
ーサイト」と呼ばれるウェブサイトにアクセスし、目的ファイルの所在等の
情報が記録された「トレントファイル」をダウンロードする。
トレントファイルには、目的ファイルの情報等から生成されたインフォハ
ッシュ値と呼ばれる値が含まれており、これにより、目的ファイルやトラッ
10 カーサイト等が特定される。なお、このインフォハッシュ値は、目的ファイ
ルのみから生成されるものではない。
イ ユーザーは、当該トレントファイルをクライアントソフトに読み込ませる
ことにより、
「トラッカー」と呼ばれるサーバと接続し、自身のIPアドレス
等の情報を提供するとともに、目的ファイルの全部又は一部を保有している
15 他のユーザーのIPアドレス等を取得し、それらのユーザー(以下、データ
をやりとりする相手となるユーザーを「ピア」という。)と接続した上で、ピ
アが保有する、目的ファイルが分割されたもの(以下「ピース」という。)を
ダウンロードする。
ウ ユーザーは、ダウンロードした目的ファイル(ピース)について、自動的
20 にピアとしてトラッカーに登録され、目的ファイルについて他のユーザーか
らの要求があれば、目的ファイル(ピース)を提供しなければならないこと
から、ユーザーは、目的ファイルをダウンロードすると同時に不特定多数の
者に対するアップロードが可能な状態に置かれる。
エ ユーザーが、複数のピアと接続して目的ファイルのピースを全部取得する
25 と、クライアントソフトにより目的ファイルが復元される。その際、ピース
が正しくダウンロードされているかなどを、インフォハッシュ値により検証
する。
(4) 本件調査(乙4ないし7、11、14、15、弁論の全趣旨)
被告は、本件申立てに先立ち、本件調査会社に対し、本件著作物に係る著作
権侵害の調査(本件調査)を依頼した。
5 本件調査会社は、別紙「動画目録」の「発信時刻(日本時間)」欄記載の各日
時に、同目録の「IPアドレス(送信元)」欄記載の各IPアドレスを割り当て
られた者(本件各契約者)からダウンロードしたピースについて再生試験(本
件再生試験)を行い、本件著作物の一部を構成する動画の再生が可能であった
旨の報告書を原告に提出した。
10 (5) 当初提出動画及び再提出動画(甲18、乙2、3、9、13、14、17な
いし19)
ア 被告は、本件申立ての際に、立証趣旨を「本件各発信者が、ビットトレン
ト上でアップロードできる状態にしていた動画内容。」として、当初提出動
画を証拠として提出した。当初提出動画は、DVD版で販売されていた本件
15 著作物に、インターネット配信版で付加された動画を追加した動画のデータ
を圧縮したものである。
イ 被告は、本件審問手続において、裁判所からの求めに応じ、再提出動画を
証拠として提出した。再提出動画は、当初提出動画と同一の動画であるが、
データを圧縮していないものである。本件ピースファイルのバイナリデータ
20 は、いずれも、再提出動画のバイナリデータの一部と一致するが、当初提出
動画とは一致しない。
(6) 被告は、本件著作物に係る著作権を有する(乙1、17、18)。
(7) 原告は、本件各発信者情報を保有している。
(8) 原告は、令和7年10月20日、本件訴訟を提起した。
25 4 争点
(1) 「特定電気通信による…侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者
の権利が侵害されたことが明らかである」(情プラ法5条1項1号)か(争点
1)
ア 本件各契約者が、本件著作物又はその一部であるファイルを送信していた
か
5 イ 被告の著作権(送信可能化権又は自動公衆送信権)が侵害されたか
(2) 本件各発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるか(争点2)
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1(「特定電気通信による…侵害情報の流通によって当該開示の請求をす
る者の権利が侵害されたことが明らかである」か)について
10 【被告の主張】
(1) 本件各契約者が、本件著作物に係る動画又はその一部であるファイルを送
信していたこと
本件各契約者は、別紙「動画目録」記載の時刻に、ビットトレントを用いた
ネットワークにおいて、本件ピースファイルを送信した。このことは、本件調
15 査会社がダウンロードした本件ピースファイル、並びにIPアドレス、ポート
番号、タイムスタンプ及びインフォハッシュ値を含む通信ログから認められる。
そして、本件ピースファイルのバイナリデータと、再提出動画のバイナリデー
タが一致する(ここにいう「一致」は、本件ピースファイルのバイナリデータ
の全部が再提出動画のバイナリデータに含まれることを意味すると解される。
20 以下、本件ピースファイルのバイナリデータと再提出動画のバイナリデータが
一致する、との表現は、上記の意味で用いる。)から、本件各契約者は、本件著
作物と同一性を有するものであって、本件インフォハッシュ値で特定される本
件動画又はその一部であるファイルを送信したものである。
原告の主張は、以下のとおり、理由がない。
25 ア 他作品の混入について
上記のとおり、本件ピースファイルのバイナリデータは、再提出動画のバ
イナリデータと一致している。また、ビットトレントに関しては、インフォ
ハッシュ値と、その値で特定されるネットワークで共有されるファイルとの
間に一対一の関係があるから、本件各通信で、再提出動画以外の動画が共有
されたことはない。
5 イ 本件ピースファイル及び再提出動画のプロパティ情報について
被告及び本件調査会社は、本件調査によって得られたデータをクラウド上
に保存し、管理しているが、そのクラウドサービスの仕様上、一旦アップロ
ードしたデータをダウンロードしたときには、ダウンロード時点の日時がデ
ータの「更新日時」として記録されてしまう。本件ピースファイル及び再提
10 出動画の「作成日時」及び「更新日時」として表示される日時は、被告代理
人がクラウド上からダウンロードしてUSBメモリにコピーした日であり、
実際には、通信ログ等から特定されるとおり、別紙「動画目録」記載の時刻
にダウンロードされたものである。なお、被告が本件審問手続において本件
ピースファイルを提出した際に証拠説明書に記載した本件ピースファイル
15 の作成日は、証拠として提出するためにクラウド上からダウンロードしてデ
ータを保存した日である。
ウ 本件審問手続における経過等について
被告が、本件申立て時、再提出動画を圧縮した当初提出動画を提出した理
由は、以前、東京地方裁判所において本件と類似の事件を申し立てたときに、
20 証拠として非圧縮版の動画ファイルをBlu-rayディスクに保存して
提出したところ、裁判所において読み取ることができないとして、DVDで
の提出を求められ、データ容量の大きいものはデータ圧縮してDVDで証拠
提出していたため、そのときと同様の対応をしたに過ぎない。また、当初提
出動画の立証趣旨は、映像内容の同一性であり、バイナリデータの同一性を
25 立証するためではなかった。そのため、圧縮版であっても何ら支障がなかっ
た。
原告は、本件審問手続において、被告に対し、本件ピースファイルの提出
を求めたが、その理由は、本件ピースファイルそのものが再生可能か否かを
確認することにあり、当初動画と本件ピースファイルのバイナリデータの同
一性の検証ではなかった。また、この時点では、当初提出動画と本件ピース
5 ファイルのバイナリデータの同一性は争点になっていなかった。そのため、
被告は、本件ピースファイルを提出した際に、当初提出動画と本件ピースフ
ァイルの同一性に言及しなかった。
被告は、その後の審問期日において、裁判所から当初提出動画と本件ピー
スファイルのバイナリデータの同一性が争点となることを指摘されたこと
10 から、同一性を検証するために再提出動画を提出しており、本件審問手続に
おける原告の主張及び裁判所の訴訟指揮に従い、適時に再提出動画を提出し
たものであるから、実体的にも、手続上の信義則の観点からも、その証拠評
価を否定すべき理由はない。
(2) 本件ピースファイルを送信する行為が、被告の著作権を侵害すること
15 本件各契約者は、ビットトレントのネットワークを介し、他のピアの要求
に応じて、本件著作物と同一性を有する本件動画のファイルを送信すること
ができる状態に置き、実際に動画として再生可能なファイルのアップロード
を行い、これにより、本件著作物に係る被告の送信可能化権を侵害するとと
もに、本件著作物の全部又は一部を送信して現実に自動公衆送信権を侵害し
20 た。発信者が完全な形の動画ファイルを有していないとしても、ビットトレ
ントのネットワーク上において当該動画ファイルのピースを送信すれば、自
動公衆送信権侵害が成立する。
【原告の主張】
(1) 本件各契約者が、本件著作物に係る動画又はその一部であるファイルを送
25 信していたとは認められないこと
以下のとおり、本件調査の結果や被告が提出する証拠からは、本件各契約者
が本件動画又はその一部であるファイルを送信していたと認めることはでき
ず、かつ、被告が証拠として提出したファイルは、手続上の信義則の観点から
もその証拠価値を否定すべきである。
ア 本件調査の正確性について
5 本件調査会社の住所は、被告代理人事務所の住所と同一である。また、本
件調査会社の取締役の一人は、被告代理人事務所(弁護士法人)の唯一の社
員である。このように、本件調査会社は、被告代理人から独立した立場とは
いえず、その調査結果には客観性がない。また、被告代理人及び本件調査会
社は、他のビットトレントを用いた著作権侵害が問題となった事件において、
10 存在しないはずの通信記録に基づいて開示請求をしたり、再生不可能なファ
イルを「再生可能」と報告書に虚偽記載したりしたことがあり、調査の正確
性に疑義がある。
イ 他作品の混入について
ビットトレントのネットワーク上では、複数の作品が合体して一つの動画
15 ファイルとして流通することがある。また、再提出動画は、本件各通信の頃
ダウンロードされたものではなく、後日、被告がダウンロードしたものであ
る。したがって、本件各通信がなされた時に本件各契約者が参加していたネ
ットワークで、再提出動画と同じファイルが共有されていたとは認定できず、
他作品の混入の可能性が否定できない。
20 ウ 本件ピースファイル及び再提出動画のプロパティ情報について
本件ピースファイル及び再提出動画のプロパティ情報を見ると、ファイル
の「作成日時」及び「更新日時」が別紙「動画目録」記載の時刻や本件再生
試験の報告書の作成日よりも後の日時になっている。特に本件ピースファイ
ルについては、被告が本件審問手続においてこれを提出したときの証拠説明
25 書にも、作成日として本件申立て後の日付が記載されている。
ピースファイルは後から動画ファイルから分割して作成することが可能
であるため、通信時刻より後にファイルを作成・更新することが可能である。
そうすると、本件ピースファイルの存在から、本件各通信によって本件動画
が送信されたことを認定することはできない。
エ 本件審問手続における経過等について
5 被告が本件ピースファイル及び再提出動画を提出した時期や経緯には不
自然な点が多く、かつ、手続経過に鑑みれば、手続上の信義則の観点からも、
証拠価値を否定すべきである。
すなわち、被告は本件申立て時に当初提出動画を提出していた。原告は、
被告に対し、本件ピースファイルの提出を求め、被告はこれを提出したが、
10 被告代理人は、その頃、同種別事件において、裁判所から、被告が発信者情
報開示命令の申立てをしたときに提出した動画とピースファイルのバイナ
リデータの同一性が争点となることを指摘されていた。しかし、被告代理人
は、本件ピースファイルを提出した際、本件審問手続の担当裁判官から当初
動画と本件ピースファイルのバイナリデータの同一性が争点となることを
15 指摘されるまで、当初提出動画と本件ピースファイルの同一性がないことに
ついて言及しておらず、さらに相当期間が経過してから、ようやく再提出動
画を提出するに至った。
このように、被告は、当初提出動画と本件ピースファイルのバイナリデー
タが一致することを立証する必要性があることや、当初動画と本件ピースフ
20 ァイルのバイナリデータが一致しないことを知りながら、再提出動画を提出
しないまま放置していた。再提出動画や本件ピースファイルは、本件各通信
後に作成・更新することが可能である。また、被告代理人は、その頃、本件
と同種の発信者情報開示に関する事件において、申立て時に提出した動画と
ピースファイルのバイナリデータが一致しないことを指摘され、申立てを取
25 り下げたり、原告が異議の訴えを提訴した後に、原告の請求を認諾したりし
たことがあり、本件と同種事件において、バイナリデータの同一性が重要で
あることを十分認識していた。
このような経過に鑑みれば、再提出動画や本件ピースファイルと本件各通
信との関連性が明らかであるとはいえないし、手続上の信義則の観点からも、
このような証拠に証拠価値を認めることは相当ではない。
5 (2) 本件ピースファイルを送信する行為が、被告の著作権を侵害するとはいえ
ないこと
ア 送信可能化権の侵害がないこと
発信者情報開示請求においては、
「情報の流通によって」
(情プラ法5条1
項)権利侵害されていることが予定されており、未だ権利を侵害する通信が
10 されていない送信可能化の状態では、発信者情報開示請求権を利用し得ない
から、被告による送信可能化権の侵害の主張は失当である。
イ 自動公衆送信権の侵害がないこと
本件ピースファイルが、再提出動画の断片であったとしても、それだけで
は動画として再生できない。また、本件各発信者は、完全な形の動画を保有
15 していないから、本件再生試験と同様の方法によって再生可能な復元データ
を作成することができない。また、本件再生試験の結果を踏まえても、本件
ピースファイルから再生可能な映像は、3秒以下にとどまっており、本件動
画の表現の本質的特徴を直接感得することができない。
したがって、本件ピースファイルを送信する行為によって、被告の自動公
20 衆送信権が侵害されることはない。
2 争点2(本件各発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるか)について
【被告の主張】
被告は、本件各契約者に対し、損害賠償を請求する準備をしているが、そのた
めには、本件各発信者情報の開示を受ける必要があるから、「本件各発信者情報
25 の開示を受けるべき正当な理由がある」(情プラ法5条1項2号)。
【原告の主張】
本件のようなアダルトビデオに関する事案においては、発信者情報が開示され
た契約者が、民事訴訟や刑事告訴の可能性を仄めかされ、真実は発信者に当たら
ない、損害賠償額が相当ではないなどの反論があり得るにもかかわらず、家族に
知られるなど面倒事に巻き込まれたくないとの心理が働き、拙速な示談に応じる
5 おそれがあるから、正当な理由の要件について、慎重に検討すべきである。
第4 判断
1 争点1(「特定電気通信による…侵害情報の流通によって当該開示の請求をす
る者の権利が侵害されたことが明らかである」か)について
(1) 本件調査に関する認定事実
10 前提事実、証拠(乙4ないし11、14、15)及び弁論の全趣旨によれば、
本件調査に関し、以下の事実が認められる。
ア 本件被告システムによる調査の概要
本件調査会社が、本件被告システムを使用して行う著作権侵害の調査は、
次のように行われる。
15 まず、インターネットを介して、調査対象とされている著作物の品番を含
むファイルをトラッカーサイトで検索し、当該ファイルについてインフォハ
ッシュ値を取得する。
次に、トラッカーに接続し、著作物に係る動画又はそのピースを保有して
いるピアの情報の提供を求め、トラッカーからピアのIPアドレス及びポー
20 ト番号を含むリストを受信する。
本件被告システムと当該ピアとの間で通信を行い、当該ピアから本件動画
又はそのピースをダウンロードすることが可能であることを通知する通信
(UNCHOKEの通信)を受ける。
ピアから本件動画のピースをダウンロードし、本件被告システムが動作す
25 るコンピュータのメモリに格納する。ダウンロードしたピースファイルは
「 hhhh_xxx.yyy.zzz.aaa_piece_ppp_p_p_time_tttt_country_CC_pid_iii.d
at」
(hhhh はインフォハッシュ値、xxx.yyy.zzz.aaa はピアのIPアドレス、
ppp_p_p はピースが元の動画のどのアドレス領域のデータであるかを示す値、
tttt はダウンロードした時刻を示す値、CC はピアのIPアドレスから推測
される通信元の国名を示すコード、iii は本件被告システムが適宜定めるI
5 D)というファイル名で保存される。また、通信ログにも、ファイル名を命
名する際に使用するデータが表示される。
その後、本件被告システムが当該ピースをダウンロードしたピアのIPア
ドレス、ポート番号及び前記発信時刻に係るタイムスタンプを記録する。
そして、メモリに格納された当該ピースを本件被告システムが動作するコ
10 ンピュータのハードディスクに保存する。
イ 本件著作物の著作権侵害に関する調査
本件調査会社は、本件調査において、本件被告システムを用いて、上記の
とおりの手順により、調査を行った。
その上で、本件調査会社は、本件調査の中で、以下の方法で、本件被告シ
15 ステムが本件各発信者から受信したファイルの再生可能性を検証する試験
(本件再生試験)を行った。
まず、ダウンロードしたピースについて、トレントファイルの情報から、
本件著作物のバイナリデータのうち、どのアドレスに存在していたデータで
あるかを計算した。
20 次に、本件著作物のバイナリデータから、ファイル情報及び目次に相当す
るデータが記録されている部分、並びに上記のとおり計算されたアドレスに
存在する、ダウンロードしたピースのバイナリデータと一致する部分以外の
部分を削除したファイルを作成した。
このように作成された試験用のファイルを再生し、ピースのバイナリデー
25 タが存在している部分から、元の本件動画の映像が再生されるかを確認した。
その結果、別紙「動画目録」の「発信時刻(日本時間)」欄記載の各時刻に、
同目録の「IPアドレス(送信元)」欄記載の各IPアドレスを割り当てられ
たピア(本件契約者)から本件被告システムが受信したファイルについて、
動画として再生可能であることが確認された。
(2) 本件各契約者が、本件著作物に係る動画又はその一部であるファイルを送
5 信していたか
ア 前提事実記載のビットトレントの仕組み及び上記のとおりである本件調
査の内容に加え、再提出動画が本件インフォハッシュ値により特定されたビ
ットトレントのネットワーク上で送信されていたこと、同ネットワーク上で
送信されていた動画が再提出動画のみであったこと(乙21)、本件ピース
10 ファイルのバイナリデータが再提出動画のバイナリデータの一部と一致す
ることによれば、本件各契約者が、別紙「動画目録」記載の時刻に、同記載
の通信によって、再提出動画を分割した本件ピースファイルを、ビットトレ
ントのネットワーク上で送信していたことが認められる。
イ この点、原告は、本件調査の正確性、他作品が混入した可能性並びに本件
15 ピースファイル及び再提出動画のプロパティ情報について指摘する。
しかし、まず、本件調査の手法は、ビットトレントに関する技術的知見に
照らし、技術的に不合理であるとは認められないし、原告が指摘する被告代
理人又はその所属する法律事務所と本件調査会社との関係性によって、信用
性が左右されるようなものともいえない。また、被告代理人が訴訟代理人を
20 務め、本件調査会社が調査を行った、本件と同種の事案に関する訴訟におい
て、被告代理人の訴訟活動又は本件調査会社による調査の内容に問題があっ
たとしても、そのことをもって直ちに本件調査が正確性・信用性を欠くと解
することもできない。そして、本件については、再提出動画がビットトレン
トのネットワークで共有されていたこと、再提出動画と本件ピースファイル
25 のバイナリデータが一致することが、ファイルのバイナリデータ及びインフ
ォハッシュ値から客観的に検証されていることから、原告が指摘するような、
他作品の混入の可能性も認められない。
本件ピースファイル及び再提出動画のプロパティ情報には、これらの作成
日及び更新日として、本件申立て後の日が記録されている(甲18の1)。こ
の点、被告は、本件調査によって得られたデータの保管のために用いている
5 クラウドサービスの仕様上、再度、当該クラウドサービスからダウンロード
したときには、プロパティ情報上の作成日時及び更新日時がダウンロードし
た時点になると主張し、これに沿う内容が記載された検証結果報告書(乙1
9)を提出しており、この報告書の記載内容に不自然、不合理な点は認めら
れない。また、再提出動画がビットトレントのネットワーク内で共有された
10 時点は、本件各通信が行われた時点よりも前であるから(乙21、弁論の全
趣旨)、別紙「動画目録」記載の時刻に本件ピースファイルを送信することが
可能である。以上によれば、本件ピースファイル及び再提出動画のプロパテ
ィ情報に記載された作成日及び更新日をもって、本件ピースファイルが本件
申立ての後に作成されたものであるとか、再提出動画が本件ピースファイル
15 と関連性を有しないと解することはできない。
ウ 本件審問手続の経過等について原告が指摘する点について検討する。
被告は、本件審問手続において、本件申立てに際して再提出動画を圧縮し
た当初提出動画を証拠として提出したが、裁判所から、当初動画と本件ピー
スファイルのバイナリデータの同一性を検証する必要があるとして、再提出
20 動画の提出を求められ、再提出動画を提出した(前提事実、甲18、弁論の
全趣旨)。
また、本件の被告代理人は、申立代理人として令和6年に申立てをした別
件の発信者情報の開示申立てに係る手続において、申立てに際して圧縮され
た動画を証拠として提出し、この動画を用いて再生可能試験を行った旨の説
25 明をしていたが、その後、裁判所から同事件で提出されていた動画とピース
ファイルのバイナリデータが一致しないとの指摘を受け、同動画が実際に配
信されていた動画と異なるものであるとして、圧縮されていない動画を証拠
として提出したことがある(甲8)。
さらに、被告代理人は、上記事案以外にも、発信者情報開示の申立てやそ
の後の異議訴訟に代理人として関与した事案において、再生試験で用いた動
5 画は申立て時に証拠として提出した動画である旨の陳述をした後に、当該動
画のバイナリデータとピースファイルのバイナリデータとの不一致を指摘
され、再度、圧縮されていない動画を証拠として提出したところ、その証拠
が却下されるなど、当初提出した動画に関する問題点を指摘され、発信者情
報開示命令の申立てを取り下げたりしたことや、申立てが認容された後の異
10 議訴訟において請求を認諾したりしたことがある(甲5ないし8、12ない
し14)。
上記のとおりの別件手続における経緯や本件再生試験の方法等に照らせ
ば、本件申立てにおいて、被告が、再提出動画を圧縮した当初提出動画を証
拠として提出し、これがデータを圧縮したものであって、本件ピースファイ
15 ルとバイナリデータが一致しないものであることを明らかにせず、裁判所の
求めに応じて初めて再提出動画を提出したことは、問題がないとはいえない。
しかし、被告が、本件審問手続において、当初提出動画が再生試験におい
て用いられた動画であるとか、当初提出動画のバイナリデータと本件ピース
ファイルのバイナリデータが一致すると陳述し、この陳述が本件審問手続の
20 期日調書に記載されたとは認められず、これを前提とすれば、別件の手続に
おける上記経緯を考慮しても、被告が、本件申立ての際に、再提出動画を圧
縮した当初提出動画を証拠として提出し、その後、裁判所の求めに応じて再
提出動画を提出したことが、手続上の信義則に反するとまではいえない。し
たがって、手続上の信義則違反を根拠として再提出動画の証拠申出を却下す
25 べきであるとか、再提出動画の証拠価値を否定すべきであるとは解されない。
なお、被告代理人が、今後も、発信者情報開示に係る手続において、本件
審問手続及び本件訴訟と同様の手続追行を繰り返したときには、手続上の信
義則違反の有無について、本件とは異なる結論に至る可能性があることを付
言する。
エ 小括
5 以上の次第であり、本件各契約者が、別紙「動画目録」記載の時刻に、本
件著作物に係る動画又はその一部であるファイルを、ビットトレントのネッ
トワーク上で送信していたことが認められる。
(3) 被告の著作権(送信可能化権又は自動公衆送信権)が侵害されたか
上記認定事実によれば、本件各契約者が、本件著作物に係る動画を自動公衆
10 送信し、被告の本件著作物に係る自動公衆送信権が侵害されたと認められる。
原告は、再提出動画全体がなければ本件ピースファイルを再生できない、再
生できたとしても3秒以内の映像でしかないことから著作物ではないとして
本件各通信による被告の自動公衆送信権侵害はないと主張する。しかし、前記
ビットトレントの仕組みに照らせば、ユーザーは目的ファイルの一部を構成す
15 るピースを、本件各契約者を含む不特定多数の者から順次取得して、最終的に
目的ファイルの全体を取得することを前提としてビットトレントを使用して
いる。そうすると、本件調査会社が再提出動画の全体を取得した時点はもちろ
ん、その途中段階であっても、本件各通信に係る本件調査会社の相手方となっ
た本件各契約者は、自身が直接アップロードしたのが目的ファイルの断片たる
20 ピースにとどまるとしても、その行為により、本件著作物の動画を自動公衆送
信し、被告が本件著作物について有する著作権(自動公衆送信権)を侵害した
ものというべきである。
原告の主張は採用できない。
(4) まとめ
25 以上の次第であり、被告の送信可能化権が侵害されたか否かを検討するまで
もなく、本件各契約者が別紙「動画目録」記載の本件各通信をしたことで、被
告の本件著作物に関する著作権(自動公衆送信権)が侵害されたことが明らか
であると認められる。
2 争点2(本件各発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるか)について
弁論の全趣旨によれば、被告は、本件各発信者に対し、本件著作物に係る被告
5 の著作権が侵害されたことを理由として、不法行為に基づく損害賠償請求をする
予定であることが認められ、そのために、本件各発信者情報の開示を受ける必要
があるといえ、原告の主張を踏まえてもその必要性が失われるものではないから、
被告には、本件各発信者情報の「開示を受けるべき正当な理由がある」
(法5条1
項2号)と認められる。
10 第5 結論
よって、被告の本件申立てには理由があるところ、これと同旨の本件決定を認
可することとし、主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官
水 野 正 則
裁判官
西 尾 太 一
裁判官
5 横 井 真 由 美
(別紙 発信者情報目録及び動画目録 添付省略)
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