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令和8(ネ)10002特許権侵害差止等請求控訴事件

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裁判所 控訴棄却 知的財産高等裁判所
裁判年月日 令和8年6月17日
事件種別 民事
法令 特許権
特許法101条1号3回
特許法101条2号1回
特許法100条1項1回
キーワード 侵害19回
特許権9回
間接侵害8回
実施5回
差止3回
損害賠償2回
主文 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事件の概要

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判決文

令和8年6月17日判決言渡
令和8年(ネ)第10002号 特許権侵害差止等請求控訴事件
(原審・東京地方裁判所令和5年(ワ)第70738号)
口頭弁論終結日 令和8年4月27日
5 判 決
控 訴 人 さくら製作所株式会社
同訴訟代理人弁護士 福 田 匡 剛
10 同補佐人弁理士 松 下 恵 三
被 控 訴 人
株式会社デバイスタイルマーケティング
15 同訴訟代理人弁護士 岸 田 洋 一
同補佐人弁理士 川 村 憲 正
主 文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
20 事 実 及 び 理 由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、原判決別紙被告製品目録記載の製品を販売し、販売のための
申出をしてはならない。
25 3 被控訴人は、前項の製品を廃棄せよ。
4 被控訴人は、控訴人に対し、264万3164円及びこれに対する令和6
年3月22日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要(以下、略語は、原判決の例による。)
1 本件は、「ワインセラー及び霜取り制御方法」に係る本件特許権を有する控
訴人が、被控訴人に対し、被控訴人による被告製品の販売及び販売の申出が
5 本件特許権を侵害するとして、特許法100条1項及び2項に基づき、被告
製品の販売及び販売の申出の差止め並びに廃棄を求めるとともに、民法70
9条に基づき、損害賠償金9949万9340円及び遅延損害金の支払を求
めた事案である。
2 原審は、①被告製品が本件発明の構成要件E3を充足するとはいえないか
10 ら、文言侵害は成立しない、②被告製品が本件発明の本質的部分を備えてい
るとはいえないから、均等による特許権侵害も認められない、③被告制御基
板の生産又は輸入について特許法101条1号又は2号の間接侵害が成立す
るということはできないとして、控訴人の請求をいずれも棄却した。控訴人
は、これを不服として本件控訴を提起した。ただし、控訴人は、損害賠償請
15 求について、第1の4記載のとおり、264万3164円及びこれに対する
遅延損害金の支払を求める限度で不服を申し立てた。また、後記第3の3の
とおり、被告製品についての間接侵害の主張を追加した。
3 前提事実、争点及び争点に関する当事者の主張は、後記第3の1~3のと
おり当審における控訴人の主張を付加するほか、原判決「事実及び理由」欄
20 の第2の2~4(2~18頁)に記載のとおりであるから、これを引用する。
第3 当裁判所の判断
当裁判所も、控訴人の請求はいずれも理由がないと判断する。その理由は、
以下のとおり当審における控訴人の主張に対する判断を付加するほか、原判決
「事実及び理由」欄の第3(18~29頁)に記載のとおりであるから、これ
25 を引用する。
1 争点1(構成要件E3の充足性)について
控訴人は、本件発明の本質は、加温ヒーターが停止した後、直ちにコンプ
レッサーを起動して冷却を開始するのではなく、あえて冷却開始を遅らせるこ
とで温度上昇を緩やかにして温度制御をしやすくし、ワインの劣化が生じない
ようにしつつ、冷却器上の露を落とす時間を確保した点にあるところ、控訴人
5 の実験により、①イ号製品は、加温ヒーター停止時の温度が21℃、コンプ
レッサー再起動時の温度が23℃となり、②ロ号製品は、加温ヒーター停止時
の温度が4℃、コンプレッサー再起動時の温度が10℃となることが実際に確
認されており、これは被告製品が温度上昇に応じて段階的に制御を行い、露滴
下時間を確保していることを示しているから、被告製品は構成要件E3を充足
10 すると主張する。
しかし、原判決を引用して説示したとおり、本件発明に係る特許請求の範囲
の文言及び本件明細書の記載によれば、構成要件E3は、冷却器周辺温度が第
2の温度に達した場合に加温ヒーターを停止し、その後、第2の温度より高い
第3の温度に達した場合にコンプレッサーを再起動するというものであり、第
15 2の温度及び第3の温度はいずれも所定の温度を指すと解されるのであって、
単に加温ヒーター停止時の温度に比しコンプレッサー再起動時の温度が高けれ
ば構成要件E3の構成を充足するものではない。加えて、原判決を引用して説
示したとおり、控訴人の実験及び被控訴人の実験において得られた結果によれ
ば、被告製品においては、加温ヒーターの停止とコンプレッサーの再起動が同
20 時の(すなわち、両時点の温度が同じ)場合と、加温ヒーターの停止後にコン
プレッサーが再起動する場合があり、後者の場合でもコンプレッサーが再起動
する際の温度はまちまちであったというのであって、加温ヒーターを停止する
温度より高い温度に達した場合にコンプレッサーを再起動するように制御され
ているという構成要件E3の構成を有すると認めることもできない。
25 したがって、控訴人の上記主張は採用できない。
2 争点2(均等侵害の成否)について
控訴人は、本件発明の本質的部分は、加温ヒーターが停止した後、直ちにコ
ンプレッサーを起動して冷却を開始するのではなく、あえて冷却開始を遅らせ
ることで温度上昇を緩やかにして温度制御をしやすくすることにより、①無駄
なヒーター稼働を抑えつつ、②高湿度であることが求められるワインセラーに
5 おいて、冷却器に多々付着しがちな霜を溶かしてその露を落とすための時間を
十分確保し、③きめ細やかな温度制御によってワインの劣化が生じないように
することにあるところ、被告製品は、①温度上昇に応じて段階的に制御を行う、
②ヒーター停止後の露滴下時間を確保する、③ヒーター停止後からコンプレッ
サー再起動までのタイムラグを設けることで温度変化を緩やかなものにとどめ
10 ワインの品質を保持するという本件特許と正に同一の技術的思想を実現してい
るから、均等の第1要件を充足していると主張する。
そこで判断すると、本件明細書(甲2の2)中の背景技術、発明が解決しよ
うとする課題、発明の効果等の記載(原判決18~22頁参照)によれば、従
来技術では得られないとされる加温ヒーター停止後の露滴下時間を確保すると
15 いう本件発明の効果を奏するためには、加温ヒーターの停止後ある程度時間が
経過した後にコンプレッサーを再起動させればよいから、この点を本件発明の
本質的部分と解する余地がある。しかし、本件の証拠上認められる被告製品の
コンプレッサーの再起動の状況は、上記1の実験結果のとおりであって、加温
ヒーターの停止後ある程度時間が経過した後にコンプレッサーが再起動するよ
20 う制御されているとは認められない。
したがって、均等侵害をいう控訴人の主張も採用できない。
3 争点3(間接侵害の成否)について
(1) 特許法101条1号について
控訴人は、被告製品は、冷却器周辺温度を計測するセンサーという特異
25 な物理的構成を備え、かつ、その検知温度に基づく制御パラメータを自由に
変更可能なプログラムを組み合わせており、これは冷却器周辺温度をセンシ
ングしてきめ細やかな霜取り動作をするという本件発明の実施を必然的なも
のとするのであって、仮に、被控訴人が本件特許を実施しないパラメータ設
定をして被告製品を販売しているとしても、ワインの長期保存や再霜化のリ
スク、電力制約の観点から、被告製品が現在の設定のまま使用され続けるこ
5 とは、経済的・商業的・実用的にみて、ワインセラーの使用形態として成立
しないから、被告製品は、本件特許の専用品となっているとみるべきであり、
これを業として輸入した被控訴人の行為について特許法101条1号の間接
侵害が成立すると主張する。
しかし、被告製品は、パラメータ設定を変更すれば本件特許権を侵害す
10 ることになるとしても、これまで現在のパラメータ設定によるものとして一
定数販売され、相応のシェアを獲得しているのであり(甲7、8、弁論の全
趣旨)、現在のパラメータ設定のまま使用することに支障があるとはうかが
われない。したがって、被告製品には本件発明の実施以外の用途があると認
められるから、特許法101条1号の間接侵害が成立するとはいえない。
15 (2) 特許法101条2号について
控訴人は、被告製品は、前面パネルにおけるパラメータを手動で設定変
更するだけで本件特許権の侵害品となり得ることから、「その物の生産に用
いる物」であって、「その発明による課題の解決に不可欠なもの」であると
ころ、①被控訴人が控訴人と同じワインセラーメーカーとして市場のシェア
20 1位・2位を争う競合他社であること、②被告製品はパラメータの手動操作
という極めて容易な方法によって直ちに本件特許権の侵害品に転化すること、
③被控訴人が実際に被告製品の販売途中にパラメータを書き換えていること、
④原告が販売する製品について一般消費者が偶発的にパラメータ設定を変更
してしまう事例が現に発生していること、⑤被控訴人は本件訴訟が提起され
25 てもなお被告製品の販売を継続するなどコンプライアンス上の問題があるこ
と、⑥被控訴人は、あえて控訴人と同一の製造委託先を選択し、基板に原告
が販売する製品の製品番号が刻印されるほどの酷似した製品を輸入している
ことといった事情を総合すれば、被控訴人は、被告製品が本件発明の実施に
用いられ、特許権侵害に利用される蓋然性が高い状況が現に存在することを
認識・認容していたといえるから、特許法101条2号の間接侵害が成立す
5 ると主張する。
そこで判断すると、被告製品がパラメータの設定を変更することにより
本件発明の実施に用いられる物になり得るとしても、これにつき間接侵害に
基づく差止め等の請求を認めるためには、単に抽象的な可能性があるだけで
は足りず、そのように変更される蓋然性があり、かつ、被控訴人がこれを認
10 識していることを要する。ところが、被告製品は前述のとおり本件特許権を
侵害しないものとして輸入及び販売されているのであり、被控訴人において
これを変更したり、販売先に対してこれを変更するよう推奨ないし指示した
りしていることは本件の証拠上一切うかがわれないから、上記の蓋然性があ
るとは認められない。
15 したがって、同号の間接侵害が成立するということはできない。
第4 結論
以上によれば、控訴人の請求をいずれも棄却した原判決は相当であり、本件
控訴は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第4部
20 裁判長裁判官
長 谷 川 浩 二
裁判官
伊 藤 清 隆
裁判官
諸 岡 慎 介

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