ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 令和8(ネ)10016 特許権侵害行為差止等請求控訴事件
| 裁判所 | 控訴棄却 知的財産高等裁判所 |
|---|---|
| 裁判年月日 | 令和8年6月30日 |
| 事件種別 | 民事 |
| 当事者 | 被控訴人日東製網株式会社 |
| 対象物 | 箱型船 |
| 法令 |
特許権 |
| キーワード | 特許権11回 侵害5回 差止2回 実施2回 損害賠償1回 |
| 主文 | 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は、控訴人の負担とする。 |
| 事件の概要 | (略語は原判決のそれに従う。 なお、 「原告」 とあるのを 「控訴人」 と、 「被告」とあるのを「被控訴人」と、 「別紙」とあるのを「原判決別紙」と それぞれ読み替える。 ) |
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令和8年6月30日判決言渡
令和8年(ネ)第10016号 特許権侵害行為差止等請求控訴事件(原審・東京
地方裁判所令和6年(ワ)第70129号)
口頭弁論終結日 令和8年5月21日
判 決
控 訴 人 光 洋 通 商 株 式 会 社
同訴訟代理人弁護士 三 縄 隆
同 青 木 悠 夏
同 補 佐 人 弁 理 士 黒 瀬 雅 一
被 控 訴 人 日 東 製 網 株 式 会 社
同訴訟代理人弁護士 日 野 修 男
主 文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は、控訴人の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。2 被控訴人は、原判決別紙被控訴人製品目録記載の製品を生産し、譲渡し、貸し渡し、若しくは輸出し、又は譲渡若しくは貸渡しの申出をしてはならない。3 被控訴人は、控訴人に対し、100万円及びこれに対する令和5年11月1日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。4 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。5 仮執行宣言
第2 事案の概要(略語は原判決のそれに従う。なお、
「原告」とあるのを「控訴人」と、「被告」とあるのを「被控訴人」と、「別紙」とあるのを「原判決別紙」とそれぞれ読み替える。)1 本件は、いずれも発明の名称を「箱型船」とする二つの特許(特許第6978797号:本件特許1、特許第7005039号:本件特許2)に係る各特許権(本件各特許権、本件各発明等)を有する控訴人が、原判決別紙被控訴人製品目録記載1の製品(被控訴人製品1)は本件発明1の技術的範囲に、同目録記載2の製品(被控訴人製品2)は本件発明2の技術的範囲にそれぞれ属するから、被控訴人による被控訴人各製品の生産等は本件各特許権を侵害する旨主張して、被控訴人に対し、本件各特許権に基づき被控訴人各製品の生産等の差止めを求める(特許法(法)100条1項)と共に、本件各特許権侵害の不法行為に基づき、損害額の一部である100万円の損害賠償及びこれに対する不法行為の後の日である令和5年11月1日から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。原審が、被控訴人各製品は本件各発明の技術的範囲に属しないとして控訴人の請求をいずれも棄却したところ、控訴人が本件控訴を提起した。2 前提事実、争点及び争点に関する当事者の主張は、次のとおり補正し、後記3のとおり当審における当事者の主な補充主張を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」中(以下、原判決の「事実及び理由」中の記載を引用する場合、「事実及び理由中」との記載を省略する。)、第2の1ないし3(原判決2頁5行目ないし24頁8行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
⑴ 原判決2頁15行目の「本件特許権1」の次に「(甲1、2)」を加える。
⑵ 原判決3頁7行目の「本件特許権2」の次に「(甲3、4)」を加える。3 当審における当事者の主な補充主張〔控訴人〕
⑴ 被控訴人は、原審において、被控訴人製品について具体的態様を明示しておらず、具体的態様の明示義務を怠っていた(法104条の2)。しかし、原判決は、「被告は、箱型船である被告各製品の製造販売を否認すると共に、被告各製品に対する被告の関与も不明であるとして否認ないし争っているところ、被告による被告各製品の製造販売や関与を裏付ける証拠は甲8陳述書しかなく、これを認めるに足りる客観的な証拠はない。このような状況においては、上記明示義務により被告が具体的態様を明らかにすべきとされる『自己の行為』自体が特定されているとはいえない。そうである以上、この点に関する原告の主張は採用できない。」と判断した。もっとも、今般提出する写真(甲12の特に【箱型船1】)によれば、「皿垣漁協 A」と刻印された箱型船に管理装置が取り付けられている。この管理装置には、被控訴人がホームページ(https://nittoseimo.co.jp/)において、自社の名称の横に付したロゴマークを表示している。このようなロゴの一致からすると、上記管理装置は、被控訴人の製品であることは明らかである。加えて、上記管理装置には、各種の配線が接続されており、被控訴人が取り付けていることも明らかである(専門業者が取り付けていることは明らかである。)。また、箱型船において、各種の入力をして細かな制御を行うのはpH以外に考えられず、この管理装置がpHを制御しているものであることは明らかである。したがって、この管理装置が、本件各発明の「原液供給装置」を充たす。このように、被控訴人は、少なくとも本件各発明の構成要件の一部に該当する装置を製造販売している。
⑵ 被控訴人も、pHセンサやpH管理装置を販売し、取り付けることがあることは認めており、被控訴人は、当該pHセンサやpH管理装置が正しく機能しているか否か、実際に操作して確認している。その際、当然に原液吐出部の位置も確認している。また、pH管理装置を取り付けた際に、本件各発明の構成要件を全て充足するのであるから(それ以前に、他の構成要件は充足している)、被控訴人が本件各発明の「実施」としての「生産」を行っている。このように、被控訴人は、本件各発明の実施行為である「生産」を行っている以上、被控訴人が具体的態様を明らかにすべき「自己の行為」は特定されている。すなわち、pH管理装置を取り付ける前の状態の箱型船の形状と、それに対して、被控訴人がpH管理装置を取り付けた結果、「生産」された箱型船の形状について明らかにすべきである。そして、これらについて態様を明示しない以上、被控訴人は具体的態様の明示義務に違反しており、その制裁として、控訴人主張の構成を有するものと判断されるべきである。
⑶ そもそも、商慣習として、pHセンサやpH管理装置は販売するが、他のものを販売しない、などとは考えられない。当該pH管理装置と接続可能なポンプは、当然、被控訴人が用意しているはずである(顧客保有のポンプが被控訴人のpH管理装置と接続可能とは限らない。)。また、ポンプと接続される原液吐出部を有するパイプも、当然、被控訴人が用意しているはずである。特に当該パイプは消耗品であることからしても、敢えて、パイプだけ顧客が毎回用意しているとは、到底思われない。このような事情からすれば、少なくとも被控訴人は、pH管理装置を取り付けた箱型船が、どのような位置に原液吐出部を有するのか当然認識しており、これらについて不知とする被控訴人の態度は、明らかに事実と異なる。
⑷ 本件各発明は、箱型船に関する発明であるところ、pH自動調整をすること、及び、原液吐出部の位置に特徴がある。ここで、箱型船は、控訴人の顧客と被控訴人の顧客とで共通することはなく、控訴人は、被控訴人の顧客に対して直接接触をすることが難しい。したがって、せいぜい顧客所有の箱型船の外観写真を撮影するしかできず、それ以上の証拠を確保することが難しい。しかし、原判決は、写真での立証は不十分と判断した。原判決の内容からすると、実際に酸原液を吐出している際の映像をビデオ撮影しない限り、立証できないかのような判断がなされている。箱型船が実際に操業するのは沖であり、その際には近寄ることができない以上、事実上、原判決は立証できないことを要求しているに等しい。控訴人にこのような過度な立証責任を負わせることは、特許権を適切に保護できないこととなり不当である。
⑸ 被控訴人は、原液吐出部に関与しておらずその構成を知らないと主張するが、事実と異なる。以下は、被控訴人のポンプを採用している箱型船の動画(甲13)から抜粋したものである。以下の抜粋した各写真から明らかなように、pH管理装置と酸原液を吐出するポンプは、電気的に接続されており、ポンプと酸原液を吐出するチューブも接続されている。このような取付作業を、箱型船の所有者である海苔漁を行っている者に行わせるなど考えられず、当然、全て、被控訴人が取り付けている。チューブ等の取り付けを否認している被控訴人の主張は明らかに事実に反する。pH管理装置ポンプチューブちなみに、上記箱型船は、原液吐出部が進行方向の前方又は後方に取付けられているので、被控訴人製品2に該当する。なお、甲14の動画も甲13と同様に、被控訴人の箱型船を撮影したものであるが、こちらについては、pH管理装置が取り外された状態であった。〔被控訴人〕
⑴ 控訴人の主張⑴の写真の被写体について、被控訴人が関与したものか確認できない上に、被控訴人製品1及び2のいずれを示すものかも判明しない。その他の写真について、pH管理装置が筐体に収納され、その筐体に被控訴人の商標が付されているようであるが、被控訴人の箱形船への関与は、pHセンサ、pH管理装置を養殖海苔漁業者に販売し、あるいは、その指示に基づいて取り付けるに止まるものであるから、本件発明1あるいは本件発明2の構成要件を充足しない。その他の写真(甲12)についても、被控訴人が関与したものか確認できず、本件発明1あるいは本件発明2のいずれの構成要件を充足するかの主張もなく、当該筐体、筐体内のpH管理装置を誰が取り付けたかも確認できない。
⑵ 甲13の動画は「日東製網さんのだと思われます。順風丸と書いてます。」「はいこちらですね 順風丸と書いております。」との説明で始まるが、甲13の動画中の説明者自ら、被写体が「日東製網株式会社さんのだと思われます。」とするものであって、被写体の船に被控訴人が関与したことの立証がないことを自認するものである。被控訴人の顧客名簿には船名の記載はなく、被写体の箱型船は被控訴人が関与したものであるか確認できない。仮に、甲13に「原液吐出部」の構造が開示されていたとしても、被控訴人の関与を裏付ける証拠となりえない。
⑶ 甲14の動画は「日東製網さんの船です。」と説明するところ、甲14の映像には「B」の氏名が表示されているが、被控訴人の顧客名簿には「B」の記載はなく、被写体の箱型船は被控訴人が関与したものではない。甲14の動画は「そしてpH計自体は、pH計自体はここについておると思いますがおそらくこのコネクターで本体を結んでいたと思います。今、本体外してる状態ですね。」と説明する。pH計は本件各発明の構成要件であるから、pH計を備えていない箱型船は構成要件を充足しないことは明らかであり、被写体の箱型船は特許侵害品であるとの立証がないことに帰する。甲14の動画は「おそらく特許対策と思いますが、チューブが上から下に行っております。」と説明するが、被控訴人は「特許対策」を講じていないから、被写体の船は被控訴人が関与するものではない。また、「チューブが上から下に行っております。」ということが「特許対策」であれば、被写体の箱型船は特許侵害していないことに帰結する。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も、控訴人の請求はいずれも棄却すべきものと判断する。その理由
は、当審における控訴人の主な補充主張も踏まえ、次のとおり補正し、後記2のとおり当審における控訴人の主な補充主張に対する判断を付加するほかは、原判決第3(原判決24頁10行目から27頁26行目まで)のとおりであるから、これを引用する。
⑴ 原判決24頁13行目の「従業員」を「従業員(当時。現在は控訴人代表
者。)」と、同頁15行目の「写真1と同じ写真に」を「写真1に判決において」と、同頁19行目の「写真1等の写真のほかは見当たらない。」を「写真1のほか、2019年(令和元年)12月に撮影したとする船名が黒塗りにされた写真1枚(写真3)があるのみで、写真1の撮影対象との関係や、写真3に写されたものの各部の説明などについて、何らの記載もない。」と、同頁19行目から同頁20行目の「このため、」を「加えて、甲8陳述書には『第一製網株式会社(以下、『被告』といいます。)のpHセンサを備えた海苔養殖用の箱型船(以下、『被告製品』といいます。)は、原告の製品と競合するため、私は、原告の製品についてもよく知っております。』と記載されているが、被控訴人から被控訴人の関与を立証するものではない旨指摘されると、後に、この第一製網株式会社とあるのは被控訴人日東製鋼株式会社の誤記であると主張し、極めて重要な点についての記載を誤記であるとするなど、」とそれぞれ改める。
⑵ 原判決25頁11行目の末尾の次に「写真3についても、本件発明1の構
成要件との対応関係について何らの説明もないから、同様である。」を加える。
⑶ 原判決25頁12行目から16行目までを次のように改める。
「このため、被控訴人が生産等をしたものとして、控訴人の主張する構成を備える被控訴人製品1が存在すると認めるに足りる証拠はないから、それが本件発明1の技術的範囲に属するか否かを論ずる前提を欠く。また、この点を措き、甲8に掲載された写真1、3に撮影されたものが被控訴人製品1であるとしても、それが本件発明1の技術的範囲に属するとは認められない。したがって、結論として、被控訴人製品1が本件発明1の技術的範囲に属すると認めることはできない。」
⑷ 原判決26頁2行目の「掲載されている。」を「掲載されている(甲8記載
の写真2には、下記写真2-1のとおり、赤色等の矢印や『原液吐出部』等による説明がされている。)。甲8陳述書には、そのほかに、被控訴人製品2を撮影した写真であるとして、写真4ないし7が掲載されている。しかし、これら写真4ないし7は、後記写真2-2ないし2-6のいずれとも異なるものであるが、撮影対象がこれらと同一であるか否かも不明である。写真4ないし7には、『撮影日:2019年』(写真4)、『撮影日:2019年12月』(写真5)、『撮影日:2019年11月』(写真6)、『撮影日:2019年11月』(写真7)と記載されているほかは、何らの説明もなく、船体の一部のみが写っているもの(写真4ないし6)について、その他の部分の形状等も不明であって、写真7についても他の角度からの撮影もなく全体形状の分かるものではなく、本件発明2の構成要件との対応関係について何らの説明もないから、被控訴人製品2の構成との対応関係や、本件発明2の構成要件との対応関係も不明である。」と改める。
⑸ 原判決27頁2行目の「できない。」の次に「これは甲8に掲載された上記
写真4ないし7によっても、同様である。」を加える。
⑹ 原判決27頁16行目から20行目までを次のように改める。
「そうすると、被控訴人が生産等をしたものとして、控訴人の主張する構成を備える被控訴人製品2が存在すると認めるに足りる証拠はないから、それが本件発明2の技術的範囲に属するか否かを論ずる前提を欠く。また、この点を措き、甲8に掲載された写真2、4~7、上記の写真2-1~2-6に撮影されたものが被控訴人製品2であるとしても、それが本件発明2の技術的範囲に属するとは認められない。したがって、結論として、被控訴人製品2が本件発明2の技術的範囲に属すると認めることはできない。これに反する控訴人の主張は、採用することができない。」
2 当審における控訴人の主な補充主張に対する判断
⑴ 控訴人は、前記第2の3⑴ないし⑷のとおり、被控訴人は原審において具
体的態様明示義務を怠っていたところ、当審において提出する甲12によれば、被控訴人が本件各発明の原液供給装置を取り付けていることが明らかであり、被控訴人はpH管理装置を取り付けた箱形船の構成についても認識しているから、具体的態様明示義務違反により、被控訴人各製品は控訴人の主張のとおりの構成を有するものと認定すべきであり、原判決のように、沖合で操業する状態を撮影しなければ果たせないような過度の立証責任を特許権者に負わせることは不当である旨を主張する。しかし、甲12で控訴人が「【箱形船1】」(甲12の1ないし3頁)とするものにpH管理装置が示されており、これが収納された筐体に被控訴人の商標が付されていたとしても、これにより直ちに被控訴人が同装置を販売等した上で、これをその箱形船に取り付けたものとまでは認められないというべきである。甲12で控訴人が「【箱形船2、3】」(甲12の4ないし6頁)及び「【箱形船4~6】」(甲12の7ないし10頁)とするものについては、そもそも被控訴人との関係が何ら明らかではない。甲12の被写体の各箱形船について、控訴人はその写真を提出するだけで、そこに示された箱形船のどの部分が被控訴人各製品の構成のどの部分に当たるのか、又は本件各発明の構成要件のどの部分に当たるのかについて何ら主張も立証も行わず、いかなる者が販売等したのかについても明らかにしない。加えて、甲12で控訴人が「【箱形船1】」とするものには株式会社山田鉄工との記載があることが窺われる銘板があるところ、同社は海苔機械製造・販売を業として、海苔製造工程の24時間フルメンテナンス体制を実現しているとしているから(乙4)、同社の行為との関係についても明らかでない。補正の上で引用した原判決第3の1⑴のとおり、控訴人の主張立証によっては、被控訴人の行為は何ら特定されておらず、これは本件発明2に係る被控訴人製品2についても同様であるから、被控訴人において自己の行為の具体的態様の明示義務(法104条の2)を負うものとはいえず、これは特許権者に過度の立証責任を負わせることになるか否かに係る問題ではない。したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
⑵ 控訴人は、前記第2の3⑸のとおり、甲13及び14の証拠によれば、被
控訴人の主張は虚偽であることが明らかであって、被控訴人各製品は、本件各発明の構成要件を充足する旨を主張する。しかし、甲13の動画自体、被控訴人の製品だと思います、などと口頭で説明するだけのものであって、被控訴人との関連が何ら客観的に示されていない。甲14の動画には、そもそもpH管理装置自体が写っておらず、甲14の被写体の箱形船自体、本件各発明の構成要件を充足するものではないから、本件各発明の構成要件充足性の立証となっておらず、被控訴人との関係を何ら明らかにするものでもない。したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
3 控訴人はその他縷々主張するが、いずれも前記認定及び判断を左右しない。
4 結論
よって、控訴人の請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。知的財産高等裁判所第3部裁判長裁判官中 平 健裁判官今 井 弘 晃裁判官柵 木 澄 子
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