ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 令和6(ネ)10081 特許権侵害差止請求控訴事件
| 裁判所 | 控訴棄却 知的財産高等裁判所 |
|---|---|
| 裁判年月日 | 令和8年7月15日 |
| 事件種別 | 民事 |
| 法令 |
特許権 特許法100条1項1回 |
| キーワード | 特許権4回 差止2回 侵害2回 |
| 主文 | 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 |
| 事件の概要 | 1 本件は、本件特許権を有する控訴人が、被控訴人に対し、被控訴人は本件 プログラムの提供の申出をしているところ、本件プログラムは本件特許に係 る発明の技術的範囲に属するから、被控訴人の上記行為は本件特許権を侵害 する旨主張して、本件特許権に基づき、その提供の申出の差止め(特許法1 00条1項)を求めた事案である。 |
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令和8年7月15日判決言渡
令和6年(ネ)第10081号 特許権侵害差止請求控訴事件
(原審・東京地方裁判所令和5年(ワ)第70219号)
口頭弁論終結日 令和8年5月20日
判 決
控 訴 人 株 式 会 社 B W B
同訴訟代理人弁護士 清 水 節
佐 藤 貴 夫
溝 田 宗 司
渡 邉 佳 行
関 卓 人
同補佐人弁理士 太 田 健
被 控 訴 人 ア リ バ バ 株 式 会 社
同訴訟代理人弁護士 山 崎 順 一
江 嵜 宗 利
同訴訟代理人弁理士 鈴 木 正 剛
主 文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。2 被控訴人は、原判決別紙プログラム目録記載のプログラムの電気通信回線を通じた提供の申出をしてはならない。
第2 事案の概要(以下、略語等は、原判決の例による。)
1 本件は、本件特許権を有する控訴人が、被控訴人に対し、被控訴人は本件
5 プログラムの提供の申出をしているところ、本件プログラムは本件特許に係る発明の技術的範囲に属するから、被控訴人の上記行為は本件特許権を侵害する旨主張して、本件特許権に基づき、その提供の申出の差止め(特許法100条1項)を求めた事案である。2 原審は、本件プログラムは、少なくとも本件発明の構成要件D及びEを充足しないから、本件発明の技術的範囲に属しないとして控訴人の請求を棄却した。控訴人は、これを不服として本件控訴を提起した。3 前提事実、争点及び争点に関する当事者の主張は、後記第3の2のとおり当審における控訴人の主張を付加するほか、原判決「事実及び理由」欄の第2の2~4(1~14頁)に記載のとおりであるから、これを引用する。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も、控訴人の請求は理由がないから棄却すべきものと判断する。
その理由は、下記2のとおり当審における控訴人の主張に対する判断を付加するほか、原判決「事実及び理由」欄の第3(14~29頁)に記載のとおりであるから、これを引用する。
2 控訴人は、争点1のうち構成要件D及びEの充足性について、越境ECに
係る中国の税関制度における二つの審査場面(備案登録の場面及び保税核注リストによる申告の場面)において本件プログラムに基づく申告に対する税関の審査が行われていることから、上記各構成要件を充足することは明らかである旨主張する。そこで判断すると、後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば、後記⑴の事実が認められ、これによれば後記⑵及び⑶のとおり本件プログラムが構成要件D及びEを充足するとはいえないと解すべきである。
⑴ 認定事実
ア 越境ECに係る中国税関の制度中国においては、越境EC(関境(国や地域の関税法、税制などの効力
5 が及ぶ範囲の境界線)を挟んで内側と外側に所在する主体が、ECプラッ
トフォームを通じて、売手から買手へ商品を流通させる取引形態)について、税関総署が定めた公告(甲32、乙8の1・2)や商務省等が定めた通知(乙9の1・2)等で通関制度に関する事項が定められている(以下、上記公告等によって定められた中国の通関制度を「越境EC通関」という。)。越境EC通関においては、「越境EC小売輸入商品リスト」(ポジティブリスト)に掲載された品目のみが対象となる。また、越境EC通関を利用する場合、事前に中国側に輸入する商品の品目などを中国税関に登録する必要があり、この登録を備案登録という。(甲16の1及び3、23、32、65、乙8の1・2、9の1・2)イ 「直送モデル」及び「保税区モデル」越境EC通関には、複数のモデルが存在するところ、そのうち「直送モデル」及び「保税区モデル」の概要は以下のとおりである。(ア)「直送モデル」外国から直接中国の消費者に商品を届ける形態であり、中国国内の消費者が、越境ECプラットフォームを経由して外国にある商品を購入し、代金を支払うと、商品が外国から中国国内に輸送され、中国税関にて通関手続(受発注情報、決済情報及び物流情報の三つの情報が必要になるため、「三単審査」と呼ばれている。)が行われ、通関が許可されると商品が消費者の手元に届けられる(甲25、65)。(イ)「保税区モデル」中国国内の保税区(中国税関の監督・管理下で輸入品や輸出品を一時的に保管・加工・製造・展示できる場所)にある保税倉庫に商品を一括して搬入・保管しておき、中国国内の消費者が越境ECプラットフォームを経由して商品を購入し代金を支払うと、通関手続が行われ、通関が
5 許可されると商品が保税倉庫から消費者の手元に届けられる形態である。
商品を保税倉庫に搬入する際には、税関申告書及び保税核注リストによる搬入申告が必要であり、これに対して税関の検査と許可が行われる。そして、保税倉庫に搬入された商品につき、消費者からの注文・支払がされると、通関事業者や物流会社は、通関手続に必要な情報(受発注情報、決済情報及び物流情報に加えて、税関申告書及び保税核注リスト)を税関に提出して通関手続を受け、通関が許可されると、商品を保税倉庫から搬出して、消費者の手元に届ける。(甲25、26、65)ウ シングルウィンドウシングルウィンドウ(単一窓口)とは、越境EC通関の手続において、中国政府が提供し、通関事業者や物流会社が利用するシステム(貿易サービスプラットフォーム)であり、民間事業者が用いる申告用プログラムとの間でデータ連携することも可能である(甲32、42、60の1・2)。
⑵ 構成要件Dについて
ア 備案登録の場面控訴人は、本件プログラムの「備案の審査結果」のタブには、出品者が入力した情報ではなく、税関の判断に係る情報や、正しい HS CODE を入力することを求めるなどの具体的な指示が掲載されており、審査結果としてシングルウィンドウから本件プログラムに対して HS CODE を含むステータス情報が返送されている様子が明確に示されているから、シングルウィンドウは「通関認証装置」に当たり、本件プログラムは構成要件Dを充足すると主張する。しかし、シングルウィンドウが本件発明にいう「通関認証装置」に相当するものであるかはさておき、シングルウィンドウが登録要求に係るHS CODE の審査を行った上で、これが誤っていた場合に正しい HS CODEを返送していると認めるに足りる証拠はない。むしろ、本件プログラム
5 のマニュアルに「備案情報を提出した後、菜鳥事前分類タイプCPはま
ず HS CODE 審査を行います。審査通過後、自動的に菜鳥備案CPに転送され、税関での備案審査を受けます。」と記載されていること(甲7、47)からすれば、本件プログラムの「備案の審査結果」のタブ(甲54)には、菜鳥の業務提携先による審査結果が表示されている可能性がある。なお、通関認証装置から送信される情報に HS CODE が含まれているとしても、出品者が入力した HS CODE がそのまま返送されるものであるとすれば、通関処理の円滑化の実現という本件発明の効果(本件明細書【0007】)を直ちに奏することができないから、これをもって「通関認証装置から」事前通関情報を「取得する」とみることは相当でない。したがって、本件プログラムが「前記通関認証装置」から事前通関情報を取得するものであると認めることはできない。イ 保税核注リストによる申告の場面控訴人は、商品入庫前に、シングルウィンドウから本件プログラムに対して、保税核注リストに基づく申告結果として、貨物IDと共に、これに関連付けられた HS CODE や保税倉庫、在庫数などの商品情報がシングルウィンドウに登録されたことを示す情報が送信されており、「関税に関する情報を含む事前通関情報を取得」しているから、本件プログラムは構成要件Dを充足すると主張する。そこで判断すると、シングルウィンドウと民間事業者が用いる申告用プログラムをデータ連携した場合、シングルウィンドウから上記申告用プログラムに対し、①処理結果、②申告書番号、③統一番号、④詳細情報(申告失敗の理由など)が返送されるが、HS CODE は返送されていないことが認められる(甲60の1、61)。そして、「②申告書番号」及び「③統一番号」は、いずれも申告の際に入力した HS CODE 等と紐づいているだけであると認められるから(甲60の1、61)、「関税に
5 関する情報を含む事前通関情報」とはいえない。
したがって、控訴人の上記主張は採用できない。
⑶ 構成要件Eについて
ア 備案登録の場面控訴人は、本件プログラムは、天猫国際のECサーバに対し、貨物IDと共に、これに関連付けられた HS CODE 等の商品情報がシングルウィンドウに登録されたことを示す情報を送信しており、この際、HS CODEは関税額の形で商品販売ページに掲載することができるように送信されているから、本件プログラムは構成要件Eを充足すると主張する。しかし、構成要件Eの「前記事前通関情報」とは、構成要件Dにおいて「前記通関認証装置から」「取得」された「事前通関情報」を指すところ、前記⑵アで説示したとおり、本件プログラムは「前記通関認証装置」から HS CODE 等の「事前通関情報」を「取得」しているとは認められない。また、天猫国際のECサーバの管理画面には、「中国税関の最新政策に基づき、すべての越境申告商品のHS税関コードの関連付けが必要です。これにより、課税、申告、通関が行われます。」、「出荷段階で商家が記載したHS関税コードの誤りにより、申告失敗、通関の遅延などの問題が発生し(中略)た場合、その結果および責任はすべて商家が負うものとします。」との注意書きが表示されること(甲48)からすれば、上記天猫国際の管理画面に表示された HS CODE が「通関認証装置」における「事前通関」を経たものとは認め難い。そうすると、控訴人の主張する HS CODE が構成要件Eの「前記事前通関情報」に当たると認めることはできない。イ 保税核注リストによる申告の場面控訴人は、本件プログラムは、天猫国際のECサーバに対し、貨物IDと共に、これに関連付けられた HS CODE、所定の保税倉庫、入庫数そ
5 の他の商品情報がシングルウィンドウに登録されたことを示す情報を送
信しており、販売開始ボタンをクリックすると、HS CODE は商品価格に基づき関税額として、所定の保税倉庫は配送元の保税倉庫として、その他の商品情報と併せて天猫国際に掲載されるから、本件プログラムは構成要件Eを充足すると主張する。しかし、前記アのとおり、構成要件Eの「前記事前通関情報」とは、構成要件Dにおいて「前記通関認証装置から」「取得」された「事前通関情報」を指すところ、前記⑵イで説示したとおり、本件プログラムが構成要件Dを充足しているとは認められない以上、構成要件Eを充足すると認めることもできない。
第4 結論
以上によれば、その余の争点について判断するまでもなく、控訴人の請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。知的財産高等裁判所第4部裁判長裁判官長 谷 川 浩 二裁判官伊 藤 清 隆裁判官諸 岡 慎 介
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