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令和6(ワ)70067民事訴訟 著作権

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裁判所 東京地方裁判所
裁判年月日 令和8年5月14日
事件種別 民事
法令 著作権
キーワード 許諾53回
ライセンス23回
侵害19回
損害賠償15回
差止7回
無効1回
抵触1回
実施1回
主文 1 被告は、
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事件の概要

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判決文

令和 8 年 5 月 14 日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官

令和 6 年(ワ)第 70067 号 利用権不存在確認請求事件

口頭弁論終結日 令和 8 年 2 月 19 日

判 決

原 告 株式会社円谷プロダクション

同訴訟代理人弁護士 遠 山 友 寛

同 原 雅 宣

同 中 山 茂

同 久 保 田 修 平

同 細 沼 萌 葉

被 告 ユ ー エ ム 株 式 会 社

同訴訟代理人弁護士 菊 池 洋 一

同 内 藤 順 也

同 高 石 直 樹

同 坂 田 了 祐

同 佐 能 理 基

主 文

1 被告は、別紙著作物目録記載の各著作物について、日本以外の国にお

ける利用権を有しないことを確認する。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

事 実 及 び 理 由

第1 請求

主文同旨

第2 事案の概要

5 1 本件は、別紙著作物目録記載の作品(以下「本件各作品」という。)の著作権を有する原告が、原告と故 A(以下「故 A」という。)との間で締結されたとされる本件各作品の日本以外の国における昭和 51 年(1976 年)3 月 4 日付け独占的利用許諾契約(以下「76 年契約」という。)に基づく利用権(以下「本件利用権」という。)を故 A から譲り受けたと主張する被告に対し、平成 26 年(2014 年。主位的主張)又は本件の訴状陳述(予備的主張)によって 76 年契約を解約した旨を主張して、現時点において被告が本件利用権を有しないことの確認を求める事案である

2 前提事実(当事者間に争いがないか、末尾の証拠(枝番のあるものは、枝番を含む。以下同じ)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)

(1) 当事者等原告は、映画の企画、制作、配給、販売並びに映画製作のための技術提供等を目的とする株式会社であり、本件各作品を含む、いわゆるウルトラマン作品の著作権を有する。被告は、舞台・映像関係の企画デザイン・製作・配給・技術提供・管理・活用等を目的とする株式会社であり、故 A の子が代表者を務める。

(2) 76 年契約の内容等

76 年契 約 に係 る 昭 和 51 年 (1976 年 )3 月 4 日付 け 「LICENSE GRANTINGAGREEMENT」(ライセンス付与契約書。甲 3。以下「76 年書面」という。)は、故B(以下「故 B」という。)を代表者とする原告(ただし、社名は「株式会社円谷プロド・アンド・エンタープライズ」又は「株式会社円谷エンタープライズ」と表記されている。)が、チャイヨ・フィルム・カムパニー・リミテッドの代表者である故A を相手方として締結された合意の内容を記載したものである。76 年書面の内容は、以下のとおりである。ただし、76 年書面に記載された合意の趣旨等については、後記のとおり、当事者間に争いがある。ア 冒頭部分「本契約は、1976 年 3 月 4 日に締結され、本契約により、…株式会社円谷プロ

5 ド・アンド・エンタープライズが、…チャイヨ・フィルム・カンパニー・リミテッドの社長である A 氏に対し、以下の契約条項、及び契約条件でライセンスを付与するものとする。」イ 条項

第1条 Motion Picture or Film Entitled(付与対象となる動画及び映画)

(本件各作品を含む作品名が列挙されている。)

第2条 Territory and Term of License(ライセンスの付与される地域及び期間)

Exclusive rights to all territories except Japan for indefinite period from the date ofproduction of the first negative print. (ネガプリントをはじめに制作した日から、日本を除く全ての国における、不特定期間の独占権)

第3条 ライセンスの範囲

本ライセンス付与契約(this License Granting Agreement)により生じる全ての権利は、以下のものを含みかつそれらに限定される。3.1 配給権3.2 制作権3.3 複製権3.4 著作権3.5 商標3.6 ラジオ、テレビなどのあらゆるマスメディアを介した放送、および全ての新聞による広告権3.7 第 1 条記載の映画の制作において使用されたオリジナルのモデル及びキャラクターについて、商業上の目的のためにする複製3.8 上記の権利の第三者への譲渡ウ 末尾「私、B は、第 1 条記載の全ての動画及び映画のライセンス付与について、既に全額を受領済みであることを本契約により宣言し、ここに株式会社円谷プロド・ア

5 ンド・エンタープライズを代表し、その社印を押印し、署名する。」

(3) 被告に対する本件利用権の譲渡並びに故 B 及び故 A の死去故 B は、平成▲年(▲▲▲▲年)に死去した。被告は、平成 20 年(2008 年)12 月 24 日、故 A から本件利用権を譲り受けた。故 A は、令和▲年(▲▲▲▲年)▲月▲日に死去した。(以上につき、甲 10、11)

(4) 原告側と故 A 側との間の各国における訴訟ア 原告及び故 A 並びにそれぞれの関係者らとの間には、平成 9 年(1997 年)7月以降、日本、タイ王国(以下「タイ」という。)、中華人民共和国(以下「中国」という。)、及びアメリカ合衆国(以下「米国」という。)の裁判所において、76 年契約の真正な成立や本件利用権の存否等をめぐる複数の訴訟が係属している(甲 4~11、乙 2、3。以下、上記各国における後記訴訟を、それぞれ、特に明示しない限り、審級を問わず、「東京訴訟①」、「東京訴訟②」、「タイ訴訟」、「中国訴訟」、「米国訴訟」という。)。このうち、東京訴訟①及び②では、76 年契約及び 76 年書面につき、以下のように判示されている。イ 東京訴訟①原告は、平成 9 年 7 月、故 A を相手方として、故 A が日本及び日本以外の国において本件各作品の著作権を有しないことの確認等を求める訴えを提起し(以下「東京訴訟①」という。)、その差戻し後の第一審である東京地方裁判所(東京地方裁判所平成 13 年(ワ)第 12140 号著作権確認等請求事件)は、平成 15 年(2003 年)2月 28 日、76 年書面は真正に成立したものであり、76 年契約は成立しているとした上で、76 年契約の内容につき、「本件契約書は、全体としては、第 1 条で特定した映画についての独占的な利用権をライセンスするものであると認められ、著作権の譲渡契約であるとは解されないから、本件契約書によって、被告に本件著作物の日本国外における著作権まで移転したものと認めることはできない。」として、故 A が日本国以外の国において本件各作品の独占的利用権を有すると認定した上で、故 A

5 が日本及び日本以外の国において本件各作品の著作権を有しないことの確認請求を認容し、同人が本件利用権を有しないことの確認請求については棄却する旨等の判決(甲 10 の 1)をした。原告及び故 A は、いずれも、同判決につき東京高等裁判所に対して控訴したが(東京高等裁判所平成 15 年(ネ)第 1532 号著作権確認等請求控訴事件)、同裁判所は、同年 12 月 10 日、「本件契約は、本件著作物の独占的利用権の許諾を内容とするものであり、本件著作物の著作権の譲渡を内容とするものではないと解するのが合理的であると判断せざるを得ない。」などとして、原告及び故 A の各控訴をいずれも棄却しつつ、故 A の反訴請求につき、同人が日本以外の国において本件各作品についての著作権を有することの確認請求を棄却し、同人が日本以外の国において本件各作品についての独占的利用権を有することの確認請求を認容する旨等の判決(甲 10の 2)をした。同判決は、上告不受理決定を経て確定した(甲 10 の 3)。なお、故 A は、東京訴訟①の東京地方裁判所での本人尋問において、平成 8 年(1996 年)以前に、76 年書面のコピーを他人に見せたことはなかったと述べた(甲9)。ウ 東京訴訟②故 A は、原告を相手方として、東京地方裁判所に対し、故 A が 76 年契約に基づき原告から本件利用権の許諾を受けたにもかかわらず、原告が日本以外の国において、第三者に対し、本件各作品等の利用を許諾していることが許諾契約である 76 年契約に違反すると主張し、債務不履行に基づく損害賠償ないし不当利得の返還を請求する訴えを提起し、被告は、故 A から上記損害賠償請求権及び不当利得返還請求権を譲り受けたとして、これに承継参加した(東京地方裁判所平成 21 年(ワ)第

6194 号譲受債権請求承継参加申立事件(被参加事件平成 18 年(ワ)第 10273 号損害賠償請求事件)。以下「東京訴訟②」という。)。東京地方裁判所は、平成 22 年(2010年)9 月 30 日、「本件訴訟における被告の主張中本件契約の成立及び効力を争う部分は、東京訴訟における主張の実質上のむし返しというべきことが明らかである。

5 …後訴における主張は、信義則に照らして許されないものと解するのが相当である」としつつ、「本件契約の内容については本件契約書の記載に従って定められたものと解するのが相当であるところ、…本件契約は、被告ないし皐が、同人らの脱退原告に対する債務の支払に代えて、脱退原告に対して本件独占的利用権を許諾したものと考えるのが自然である。」とし、被告の原告に対する不当利得返還請求権に基づく請求を一部認容した(甲 11 の 1)。原告及び被告は、いずれも、同判決を不服として、知的財産高等裁判所に対して控訴したところ(知的財産高等裁判所平成 22 年(ネ)第 10080 号譲受債権請求承継参加申立控訴事件)、同裁判所は、平成 23 年(2011 年)7 月 27 日、「参加人は、本件契約…にいう制作権(Production Right)に、本件著作物の二次的著作物を制作する権利ないし翻案権が含まれることを前提として、被告が、本件契約に基づき、本件著作物及びそこに登場するウルトラマンキャラクター(旧ウルトラマンキャラクター)に類似するキャラクター(新ウルトラマンキャラクター)の利用を第三者に許諾してはならない義務を負う旨主張する。しかし、…被告が、本件契約に基づき、新ウルトラマンキャラクターの利用を第三者に許諾してはならない義務を負うとはいえない。」などと判示し、原告の控訴は理由があるからその敗訴部分を取り消し、被告の控訴は理由がないから棄却するとした(甲 11 の 2)。同判決は、上告不受理決定を経て確定した(甲 11 の 3)。

(5) 原告の被告その他の者に対する 76 年契約解約の意思表示原告は、平成 26 年(2014 年)7 月 10 日、被告、故 A 及び被告代表者に対し、「76年契約について、期間の定めがない権利付与を内容とすることを理由として、本書面をもって、民法第 597 条第 3 項(仮に何らかの対価性が認められる場合は同法第

617 条第 1 項)に基づき、念のため解約いたします。」などとして、76 年契約の解約の意思表示をした各書面(甲 12)を送付し、同書面は、いずれも、同月 15 日までに到達した(以下「2014 年解約」という。)。また、原告は、予備的に、令和 6 年(2024 年)5 月 30 日の第 1 回弁論準備手続期

5 日において陳述した本件訴状をもって、76 年契約を解約する旨の意思表示をした(以下「2024 年解約」という。)。

(6) 本件各作品の日本国外における利用状況平成 26 年(2014 年)以降、被告から本件各作品を含むウルトラマン作品の利用につき(サブ)ライセンスを得たとする業者らが、中国及びマレーシア等において、ウルトラマン作品を複製して利用したり、新たなウルトラマン作品を制作したりしており、原告は、これらの業者らに対し警告状を送付した(甲 13、16~24)。

3 本件の主たる争点は、(1)訴えの利益の有無(争点 1)及び(2)76 年契約の解約の成否(争点 2)である。これらに関する当事者の主張は、次のとおりである。

(1) 訴えの利益の有無(争点 1)(原告の主張)ア 現在、中国及び中国以外の国において、被告及び被告から許諾を受けたとされる業者による 76 年契約に基づく本件各作品の著作権侵害行為が行われている。

76 年契約の準拠法は日本法であるから、日本の裁判所において 76 年契約の解約の有効性の判断を得ることが、世界的な紛争の終局的な解決のために必要不可欠である。すなわち、本件訴えは、現時点で被告に本件利用権がないことの確認を求めるものであるから、現在の権利を確認対象とする。被告による本件各作品の著作権侵害行為が中国、マレーシア等日本以外の国で多発している現状において、被告がその根拠とする 76 年契約に基づく本件利用権の存否は、これらの侵害行為に対する原告のあらゆる差止請求権及び損害賠償請求権の根拠となるものである。このため、被告の本件利用権の不存在の確認は、原告と被告との間の紛争の抜本的かつ終局的な解決に有効かつ適切である。また、本件訴えは、原告被告間の紛争の源である 76 年契約に基づく被告の本件利用権の不存在そのものを確認することに意義があるものであるから、原告の法律的地位の不安を除去する手段として有効かつ適切である。

5 さらに、被告は、各国での著作権侵害行為に対する原告の差止請求等に対し、本件利用権を主張して争っており、本件においても、本案の答弁において、原告の請求の棄却を求めて争っている。このため、判決によって被告の本件利用権の不存在を即時に確定する法律上の利益ないし必要がある。以上より、本件訴えは、対象選択の適切性、方法選択の適切性、即時確定の利益のいずれも認められるから、本件訴えには訴えの利益がある。ウ 本件により被告が本件利用権を有しないことが確認されれば、当該確認判決の既判力によって、各国での被告の著作権侵害行為に係る日本の裁判所における原告の被告に対する差止請求訴訟及び損害賠償請求訴訟では、当該確認判決の主文の判断に拘束され、被告が利用権を有しないことを前提とする判断がされることとなる。したがって、本件訴えは、被告による著作権侵害行為についての原告被告間の紛争全体を抜本的かつ終局的に解決するものである。(被告の主張)ア 自らの法益に対する侵害行為が生じていると原告が主張する外国での被告の(サブ)ライセンシー等の行為について、日本の判決が承認・執行されない外国においては、当該外国において確認判決に制度上認められた法的な効力によって紛争が解決され得るものではないから、原告の訴えの確認の利益を基礎付ける根拠にはならない。すなわち、中国の裁判所では、日本との間に裁判所の判決等を相互に承認し、執行する国際条約が締結されておらず、又は参加しておらず、しかるべき互恵関係も確立されていないことから、日本の判決を承認・執行しない扱いがされている。また、マレーシア法によれば、マレーシア国内において外国判決を執行することが可能となる所定の国に日本は含まれていないから、日本の裁判所による判決は、マレーシア国内で執行することができない。したがって、たとえ原告が日本の裁判所において被告の本件利用権の不存在を確

5 認する旨の判決を得たとしても、当該判決は、中国及びマレーシアにおいては外国判決として承認・執行されることはない。このため、日本の裁判所の確定判決の効力は、被告の(サブ)ライセンシーによるウルトラマンキャラクターの使用に関し中国において係属している原告の訴訟や、マレーシアにおける本件各作品に係る原告の権利の侵害行為に何ら及ぶものではない。イ 原告が本件訴えに係る被告の本件利用権の不存在を確認する判決を得たとしても、その既判力は、第三者である被告の(サブ)ライセンシー等には及ばない。すなわち、原告は、本件訴えに係る判決の制度的な効力によって、当該第三者との間の紛争を解決し得るものではない。この点でも、原告には確認の利益がない。ウ 仮に、外国において日本の確認判決の効力が及ぶとしても、原告が確認の利益を基礎付ける根拠として主張する外国における被告の(サブ)ライセンシー等による行為は、被告の有効な本件利用権に基づくものであり、原告が当該第三者に対してイベントの中止等を求める行為は、信義則又は権利濫用と解される。したがって、原告には、確認判決によって不安、危険が除去され、即時に確定されるべき利益はない。エ 以上より、本件訴えにつき、原告は確認の利益を有しない。

(2) 76 年契約の解約の成否(争点 2)(原告の主張)ア 2014 年解約(主位的主張)(ア) 76 年契約の法的性質(利用許諾契約)

76 年契約は、期間の定めのない継続的契約である著作物の利用許諾契約である。継続的契約の場合、期間の定めがなく、使用及び収益の目的を定めなかったときは、当事者の一方がいつでも将来に向かって契約を解除することができる(平成 29 年法律第 44 号による改正前の民法(以下「平成 29 年改正前民法」という。)597 条 3項)。また、使用及び収益の目的にかかわらず、期間の定めのない継続的契約は、契約の継続を期待し難い特段の事由の存する場合ややむを得ない事由がある場合には、

5 直ちに契約を解消することができる。

76 年契約の契約期間につき、各国における本件各作品の著作権の存続期間と同期間であるとする被告の主張は、76 年書面の文言と乖離し、各国の確定判決や被告の従前の訴訟における態度とも整合しない。(イ) 以下のとおり、76 年契約には、契約の継続を期待し難い特段の事由又はやむを得ない事由がある。すなわち、76 年書面は、わずか 1 枚の紙に過ぎず、具体的な許諾期間、対価の金額、ロイヤルティの計算方法等につき記載がない上、フィルムの引渡し等の重要な条件についても規定されていない。また、同書面では、原告の社名が誤っている上、ライセンス契約の基本的な要素であるライセンス対象の作品名や作品本数の記載に多数の誤りがある。レターヘッド用紙を用いていないことなどを含め、76 年書面は、長期に渡る契約関係を予定していたものとは考えられない。加えて、これに基づく故 A から原告に対する利用料の支払はなかった。さらに、故 A は、平成 8 年(1996 年)に至るまで 76 年契約の存在を明かさず、これを前提とした行動もしていなかった。他方で、原告は 76 年契約以降もウルトラマン作品の海外展開を行っていたが、故 A は、これに対し中止要請等を行わなかった。しかも、平成 26 年(2014 年)当時、原告は、既に繰り返し 76 年契約の無効を主張しており、タイにおいては、76 年書面が偽造である旨の判決が確定していた。また、仮に、76 年契約が故 A の故 B 個人に対する債権を回収する目的で締結されたとしても、その目的は、76 年契約に基づく本件利用権の行使により既に達成されている(平成 29 年改正前民法 597 条 2 項参照)。上記の事情より、平成 26 年(2014 年)当時、原告及び故 A との間には信頼関係が全く存在せず、契約の継続を期待し難い状況であった。したがって、2014 年解約により、76 年契約の効力は消滅した。(ウ) 76 年契約の法的性質につき代物弁済の合意であるとする被告の主張は、東京

5 訴訟①の確定判決の解釈と整合しない。また、仮に、76 年契約の締結の過程で代物弁済的な経緯があったとしても、原告又は故 B と故 A は、代物弁済の合意を前提に継続的契約たる 76 年契約を締結したものと考えられるから、代物弁済合意についての解約の可否と、76 年契約そのものの解約の可否は別問題である。さらに、代物弁済契約といえども、法定解除ができないものではない。イ 2024 年解約(予備的主張)被告が主張するように、76 年契約が故 A と故 B との間の個人的な関係に基づき債権回収の目的で締結されたものであるとすれば、故 A が死去した以上、これに基づく契約関係を存続させる必要性はない(平成 29 年改正前民法 597 条 3 項)。また、故 A や被告は、平成 26 年(2014 年)以降、76 年契約の範囲を明らかに超えた新たなウルトラマン作品までも制作・公表し、第三者に対して本件各作品に関する利用許諾を与えるなど、確信的に原告の著作権の侵害行為を行っている。さらに、被告は、確定した米国判決で原告に対する損害賠償を命じられたにもかかわらず、いまだにその賠償金を支払わない。以上の事情を踏まえれば、原告と被告は、平成 26 年(2014 年)以降現在に至るまで、76 年契約に関し、契約の継続を期待し難い状況にある。そこで、原告は、本件の訴状陳述をもって 76 年契約を解約する。ウ 76 年書面の成立の真正は否定されるべきものであること

76 年書面は、その原本の所在が長年にわたり不明である上、タイ及び米国の訴訟では、筆跡鑑定の結果に基づき偽造と判断された。また、中国の裁判所においても、タイでの筆跡鑑定の結果を踏まえ、76 年書面の成立の真正は否定された。これらの事情から、76 年書面は、偽造された文書としてその成立の真正が否定されるべきものであり、長期の契約関係の存続を基礎付けるものではない。エ 信義則違反及び権利濫用の主張について原告は、東京訴訟①及び②の確定判決の結論を踏まえ、法的には 76 年書面が真正に成立したことを仮定的な前提として、76 年契約の効力がないことを確認しようと

5 しているのであって、被告の本件利用権が存在しないという立場において一貫している。また、タイにおいては、76 年書面を偽造とする判決が確定しており、これに基づく原告の行為の正当性が否定される余地はない。また、中国における係争事案は、いまだ係争中であり、しかも、76 年書面の解釈として認められていない新たなウルトラマン作品の著作権侵害行為も含まれているのであって、原告が著作権者として被告を許諾元とするライセンスビジネスを問題視することは当然のことである。したがって、76 年契約の解約が信義則に反し、権利濫用に該当することはない。(被告の主張)ア 76 年契約の法的性質(代物弁済)

76 年契約は、原告又は故 B が、故 A に対し、原告又は故 B の故 A に対する債務の弁済に代えて、本件各作品の独占的利用権を許諾する旨の一回的給付を約したものであり、代物弁済(平成 16 年法律第 147 号による改正前の民法 482 条)の合意である。東京訴訟①及び②の判決においても、76 年契約に基づく本件利用権の許諾は、「債務に代えて」されたものとされている。代物弁済の法的効果により上記債務の消滅の効果も確定的に発生したのであって、

76 年契約については、互いに未履行の債務は残っておらず、法定解除(解約)を論じる余地はない。イ 仮に、76 年契約が利用許諾契約として継続的契約と解されるとしても、原告の解約権は留保されておらず、また、期間の定めのある(すなわち、各国における本件各作品の著作権の存続期間中は、当該契約関係が解消されることをおよそ想定していない)契約であって、中途解約が認められないのが原則である。そもそも、原告は、契約期間中に契約関係を一方的に解消すべき「やむを得ないと認められる特段の事情」を主張・立証していない。ウ 原告の主張について(ア) 主位的主張及び 76 年書面の成立の真正について

5 故 A は、昭和 59 年(1984 年)頃、第三者に対し 76 年書面を提示したり、タイにおいてウルトラマンに関する書籍等を販売したりしていたから、76 年契約に基づく利用権を行使していなかったとはいえない。また、故 A は、本件各作品のうち一部のものが日本国外においてテレビ放映されたことを知らなかった可能性が高く、原告側の本件各作品に係る海外展開に対して権利行使しなかったとしても不自然ではない。また、76 年書面の成立の真正に係る原告の主張は、東京訴訟①及び②における原告の主張のむし返しに過ぎない。(イ) 予備的主張について原告の主張する民法 597 条 3 項は、無償の使用貸借契約に関する規定であり、同条が有償契約である 76 年契約に適用されることはない。また、被告は、中国において原告の請求が全て棄却された事案のほか、原告の主張する第三者に対して本件各作品の利用許諾を与えたことはない。さらに、76 年契約の有効性を否定する米国訴訟は、76 年契約が有効であることについての確定判決(東京訴訟①及び②)に矛盾抵触するものであるから、被告が米国訴訟の判決によって命じられた損害賠償の支払を履行しないことには正当な理由がある。エ 信義則違反及び権利濫用仮に、76 年契約が独占的利用権の許諾契約であるとしても、故 A 及び被告は、平成 8 年(1996 年)以来、76 年契約に基づく本件利用権をできる限り円満に行使しようと努めてきた。他方で、原告は、平成 9 年(1997 年)以来、一貫して 76 年契約の有効性を否定し、タイや中国において本件利用権と重複する権利を第三者に対して付与したり、自ら日本国外で閲覧が可能なグローバル向けのウェブサイトにおいて本件利用権の対象である旧ウルトラマンのキャラクターを利用したり、日本国外における被告の(サブ)ライセンシーに対して警告書を送付したりするなど、故 A 及び被告による

5 本件利用権の利用(使用収益)を阻害し続けることにより、ライセンサーとしての義務を履行してこなかった。このような原告が、76 年契約が有効であることを前提に、同契約上のライセンサーの地位を主張し、中途解約権の留保のない期間の定めのある 76 年契約の終了を求めることは、信義則に反し、又は権利濫用として許されない。

第3 当裁判所の判断

1 事実認定前提事実、証拠(各項に掲げるもの)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(1) 原告、被告及び故 A 並びにそれぞれの関係者等を当事者とする訴訟原告、被告及び故 A 並びにそれぞれの関係者等を当事者とする訴訟には、東京訴訟①及び②のほか、以下のものがある。ア タイ訴訟原告は、平成 9 年(1997 年)12 月、タイの国際貿易・知的財産中央裁判所に対し、故 A ほか 3 名を相手方とする著作権侵害の訴えを提起し、故 A は本件各作品についてタイにおける著作権を有しておらず、原告から利用の許諾も得ていないこと、

76 年書面は故 A が偽造したものであることなどを主張して、本件各作品についてタイにおける著作権侵害行為の差止め等を求めた。これに対し、同裁判所は、平成

12 年(2000 年)4 月 4 日、刑事及び民事両事件についての告訴及び請求を却下する旨の判決をした。原告は、同判決を不服として同国最高裁判所に上訴した。これに対し、同裁判所知的財産・国際取引事件部は、平成 20 年(2008 年)2 月 5 日、76 年書面が偽造されたものであることを認定し、故 A に対し、76 年契約に基づく権利主張の禁止や原告の本件各作品に関する著作権の侵害を理由とする損害賠償金の支払等を命じると共に、故 A の反訴請求(故 A が日本以外の国において本件各作品の著作権を有することの確認等を求めたもの)を棄却する旨の判決をした(甲 4、10、11)。

5 イ 中国訴訟故 A ほか 2 名は、平成 17 年(2005 年)9 月 30 日、中国の広東省広州市中級人民法院に対し、原告ほか 3 名を相手方として、故 A が 76 年契約に基づき本件各作品について日本以外の国における著作権を有している等と主張し、原告らが中国において第三者に本件各作品の利用を権限なく許諾したこと等は故 A らの上記著作権及び利用権を侵害するものであるとして、ウルトラマン作品の VCD 盤の製造・販売等の差止め及び損害賠償等を求める訴えを提起した。これに対し、同裁判所は、平成 21 年(2009 年)9 月 16 日、76 年書面が真正に成立したものとは認められないなどとして、上記請求を棄却する旨の判決をした。故 A らは、これを不服とし、広東省高等裁判所に上訴した。同裁判所は、平成 22 年(2010 年)10 月 25 日、76 年書面は真正かつ有効に成立したものと認め、原告が、故 A らの 76 年契約に基づく権利を侵害したとして、第 1 審判決を取り消し、原告らに対し損害賠償の支払等を命じる判決をした。原告らは、中国の最高人民法院に対して上告したが、平成 25 年

(2013)年 9 月 29 日、同法院は、上記高等裁判所の判断を維持する旨の裁定をした。なお、上記高等裁判所は、日本の裁判所の判決の効力は、中国の民事訴訟手続において承認されておらず、日本の裁判所の判決は中国において法的効力がなく拘束力を有しないと判示した。(以上につき、甲 5、11、乙 2、3)ウ 米国訴訟被告は、原告を相手方として、カリフォルニア中部地区連邦地方裁判所に対し、原告が米国において 76 年契約に基づく被告の権利を侵害していると主張し、著作権侵害等に関する請求及び宣言的判決を求めた。これに対し、同裁判所は、平成 29年(2017 年)9 月 8 日、原告によるサマリージャッジメントの申立てを認容した。また、同裁判所は、平成 30 年(2018 年)4 月 18 日、76 年契約につき真正な契約であることを否定する旨の陪審員の評決に従い、被告の請求を認めず、76 年書面

5 が真正な契約書ではないことなどを宣言するほか、原告の反訴請求につき被告ほか 2 名に対し損害賠償の連帯支払を命ずる旨の判決をした(甲 6~8)。

(3) 76 年契約締結前後の経緯ア 故 A は、昭和 37 年(1962 年)頃にタイから来日し、東宝の撮影所で勉強していた頃に故 C(以下「故 C」という。)と知り合い、その後、同人の子である故 Bとも親しく付き合うようになった。故 C は昭和▲年(▲▲▲▲年)に死去し、同人の事業は故 B に承継された。故 A の経営する会社(2 社)と原告は、昭和 48 年(1973 年)及び昭和 49 年(1974年)、それぞれ映画制作契約を締結し、原告は、これらの契約に基づき映画を制作した。故 B は、上記各会社の代理人として、第三者に対し、上記各映画を日本国外において販売又は上映する独占的な権利を与える旨の契約を締結し、対価を受領したが、これを上記各会社ないし故 A に交付しなかった。また、当時、原告は多額の負債を抱えていた。昭和 51 年(1976 年)3 月 2 日、故 A が故 B に対して上記受領対価の支払を求めたところ、故 B は、金銭の支払の代わりに、海外におけるウルトラマンの権利を故A に与えることを提案した。(以上につき、甲 10、11)イ 故 B の死去後、故 A は、原告から許諾を受けた第三者(故 B が米国において設立した法人)がタイ国内でウルトラマン作品を複製、販売していることを知り、上記第三者に対し、損害賠償等の支払を求める訴訟を米国で提起する旨を通告した。原告は、故 A と協議の上、平成 8 年(1996 年)7 月 23 日、76 年契約である「1976年 3 月 4 日に締結されたライセンス許諾契約に従って、タイ国を含む領域で、…不特定の期間中、ウルトラマン・シリーズ…を含む特定の財産を市場に広める独占的権利をあなたが持っていることを明確にするものです。」などとして、故 A がタイ国内において本件利用権を有することを明らかにすると共に、原告が上記第三者に対しウルトラマン作品のテレビ及び劇場映画の全てについて日本以外の全世界での

5 配給代理店契約を締結した際、故 A の利用権を除外しなかったことを謝罪する趣旨の書簡(乙 9。以下「96 年書簡」という。)を作成し、交付した(上記のほか、甲 10)。

(4) 日本国外の国における本件各作品の利用状況及びこれをめぐる紛争ア 中国及び香港(ア) 平成 29 年(2017 年)、被告からライセンスを受けたとする中国企業が新たなウルトラマンの映画作品を制作して公開・配信した。原告は、上記企業を相手方として、中国の裁判所に対し、著作権侵害行為の差止め及び損害賠償を求める訴えを提起したところ、原告の請求を認容する判決が確定した。被告は、令和 4 年(2022年)7 月 14 日付けで、上記企業に対し、ライセンス契約を解約する通知をした(甲13、乙 7)。令和元年(2019 年)には、被告からライセンスを受けたとする中国企業が、中国各所でウルトラマンを題材としたライブショーを上映した。原告は、上記企業を相手方として、中国の裁判所に対し、著作権侵害等に基づき損害賠償等を求める訴えを提起した。第一審は、令和 2 年(2020 年)、原告の請求を一部認容する判決をしたが、控訴審は、令和 4 年(2022 年)、上記判決を取り消し、上記企業に対する原告の請求を棄却するなどした(乙 8)。また、中国においては、同年頃から、原告からウルトラマン作品に係る複製権等の利用許諾を受けたと主張する者と、被告から同様の利用許諾を受けたと主張する者との間で、複数の訴訟が係属した(乙 14~16)。(イ) 原告は、平成 27 年(2015 年)頃、香港において、被告又は被告の(サブ)ライセンシーから許諾を受けたとしてウルトラマン作品のキャラクターを使用したイベントを開催する第三者に対し、76 年契約が訴訟において偽造であると判断されたことや 2014 年解約等を理由に、イベントの告知の中止等を求める警告書を送付した(甲 24)。また、被告から許諾を受けた中国企業は、令和 7 年(2025 年)、ウルトラマン作品のキャラクターを使用したフィギュアの販売や舞台ショーの上映等を行った(甲

5 26、27)。イ マレーシア原告は、令和 5 年(2023 年)、マレーシアにおいてウルトラマン作品のキャラクターの絵を利用したゲームセンターを開業した運営者に対し、警告書を送付した。これに対し、同運営者は、被告の(サブ)ライセンシーから許諾を受けた旨を回答した。また、原告は、令和元年(2019 年)、被告又は被告の(サブ)ライセンシーから許諾を受けた旨の表示をし、ウルトラマン作品のキャラクターの人形等を利用したイベントを実施したマレーシアのショッピングモールに対して、警告書を送付した。さらに、原告は、同年、被告又は被告の(サブ)ライセンシーから許諾を受けたとして、ウルトラマン作品とコラボレーションしたバイクを販売し、その宣伝用動画においてウルトラマン作品の一部の映像を利用するなどした会社及び現地販売業者に対し、警告のメールを送付した。(以上につき、甲 16~23、26)

(5) 中国及びマレーシアにおける日本の裁判所による判決の承継・執行の状況前記認定における中国訴訟の控訴審の判示のとおり、中国においては、日本の裁判所による判決を承継・執行しない扱いであるものと理解される。また、マレーシア法によれば、日本の判決をマレーシア国内で執行することはできないと理解される。(以上につき、乙 1、4、5)

2 争点 1(訴えの利益の有無)について

(1) 確認の利益確認の訴えにおける確認の利益は、判決をもって法律関係の存否を確定することが、その法律関係に関する法律上の紛争を解決し、当事者の法律上の地位の不安、危険を除去するために必要かつ適切である場合に認められる。このような法律関係の存否の確定は、上記目的のために最も直接的かつ効果的になされることを要する

5 (最高裁昭和 47 年 11 月 9 日第一小法廷判決・民集 26 巻 9 号 1513 頁参照)。

(2) 検討ア 前提事実及び前記各認定事実のとおり、故 A 及び被告は、76 年契約に基づき、日本国外において第三者との間で本件各作品を含むウルトラマン作品に係る利用許諾契約等を締結することを、遅くとも平成 9 年頃から現在に至るまで行っており、原告との間でこれをめぐる多数の紛争を生じている状況にある。また、76 年契約の真正な成立及び有効性をめぐっては、タイ訴訟及び米国訴訟においては否定されたものの、中国訴訟並びに東京訴訟①及び②においては認められ、これらの判断はいずれも確定した。さらに、被告又はその(サブ)ライセンシーから 76 年契約に基づく本件各作品に係る利用許諾を受けたとする第三者らと、原告から本件各作品に係る利用許諾を受けたとする第三者らとの間で、現在、中国の裁判所において複数の訴訟が係属している。加えて、原告は、被告の(サブ)ライセンシーから許諾を受けたとして中国・香港やマレーシアで事業を展開する第三者らに対し、本件利用権に基づく許諾に法的根拠がないことなどを記載した警告書を送付した。以上のとおり、原告と被告との間の紛争は相当長期にわたり複雑かつ激しいものとなっており、今後も、原告及び被告がそれぞれ本件各作品に係る利用許諾を第三者に与える行為を続けることが予想される。しかるに、各国の裁判所において、76年契約の成否等に関し相反する判断がされている。これらの事情に鑑みると、現時点において、76 年契約をめぐる原告と被告との紛争の最終的な解決の見通しを立てることは困難な状態にあるというほかない。このため、原告と被告との 76 年契約に係る法律関係(被告の本件利用権の有無)について、原告の法的地位に現に危険・不安が存在するというべきである。イ また、前記各認定事実のとおり、日本以外の国において本件各作品を含むウルトラマン作品の複製・頒布等や新たなウルトラマン作品の制作を行う第三者らが、

5 被告の本件利用権を前提とした利用許諾契約の存在を主張していることに鑑みれば、現在において被告が本件利用権を有しないことを確認することは、今後、原告と被告との間の権利関係を明確にし、原告と被告との間の紛争を防止するために必要かつ適切であり、また、その目的達成のため直接的かつ効果的といってよい。ウ 被告の主張について被告は、中国及びマレーシアにおいては日本の裁判所による判決が執行されないため、原告が請求の趣旨のとおりの判決を得たとしても、原告と被告との紛争の最終的な解決にはならないなどと主張する。しかし、76 年契約に基づき被告が本件利用権を有する地理的範囲は、日本以外の国であり、中国及びマレーシアに限定されない。また、被告はこれまで複数の業者に本件利用権に基づく利用許諾を与えてきたところ、これらの業者の活動範囲が将来も含め中国及びマレーシアに限定されると認めるに足りる証拠はなく、被告が今後利用許諾を与える業者の活動範囲が両国に限定されるとみるべき合理的な理由もない。加えて、これらの業者の日本国外における行為につき、原告が日本の裁判所に対して被告をも当事者に含めて差止請求訴訟ないし損害賠償請求訴訟を提起することもあり得る。そうすると、被告の指摘に係る事情を考慮しても、被告が現時点において本件利用権を有しないことを確認することは、原告の法的地位の安定に資するというべきである。このことは、上記確認の判決の既判力が被告の(サブ)ライセンシーをはじめとする被告以外の第三者に及ばないことを考慮しても異ならない。この点に関する被告の主張は採用できない。

(3) 小括以上より、本件訴えには確認の利益が認められる。

3 争点 2(76 年契約の解約の成否)

(1) 76 年契約の理解ア 76 年契約の法的性質

5 (ア) 76 年書面は、「ライセンス付与契約書」との表題の下、本件各作品につき、原告が、故 A に対し、同書面記載の「契約条項、及び契約条件でライセンスを付与するものとする」としており、ライセンス付与の対象となる本件各作品を特定した上で、その契約地域(「日本を除く全ての国」)及び契約期間(不特定期間)の独占権を付与する旨等を定めるものである。原告と故 A との協議に基づき作成された 96 年書簡においても、76 年書面に記載された 76 年契約は「ライセンス許諾契約」である旨が明記されている。これらの記載に鑑みると、76 年書面は、原告と故 A との間で締結された本件各作品に係る独占的利用許諾契約を証する書面として作成されたものと理解するのが相当である。(イ) これに対し、被告は、76 年契約は代物弁済契約である旨主張する。確かに、76 年書面には、「ライセンス付与について、既に全額を受領済みであることを本契約により宣言し」とあり、ライセンス付与に対する対価は受領済みであることが確認的に宣言されている。有償の著作物利用許諾契約においては、通常、使用料(ライセンス料)の定めが置かれ、著作物の利用に応じてその額が定められることも多いことなどに鑑みると、東京訴訟①及び②の判決において判示されているように、76 年契約は、故 A に対する債務の弁済に代えて締結されたものと理解することには合理性がある。そのような理解によれば、受領済みとされるライセンス付与の対価全額は、その債務の弁済に充てられたものとみられることとなる。もっとも、そのことは、76 年契約が代物弁済契約であることを直ちに意味するものではない。76 年書面には、これにより証される契約が代物弁済契約である旨の明示的な記載もその趣旨を含意していることをうかがわせる内容の記載もなく、また、代物弁済により消滅すべき債務の原因、当事者、金額、弁済期といった内容を特定する趣旨の記載も書面上存在しない。これらの点を踏まえると、故 A に対する債務の弁済に代えることは、故 B と故 A との間において 76 年契約を締結した動機ではあっても、代物弁済の趣旨を示すものとまでは考えられない。

5 したがって、この点に関する被告の主張は採用できない。なお、仮に 76 年契約を代物弁済契約と理解するとしても、被告の有する独占的利用権はその成立原因である独占的利用許諾契約を前提とする債権であるから、弁済に代わる給付の内容は、独占的利用許諾契約に基づく独占的利用権の付与と理解されるのであって、契約と切り離された独占的利用権の付与ではない。そうすると、76 年契約を独占的利用許諾契約とみるか代物弁済契約とみるかによって結論が異なるものとは思われない。イ 契約期間契約期間については、76 年書面の第 2 条に「indefinite period(不特定期間)」と記載されていることに鑑みると、76 年契約は期間の定めのない契約と理解される。これに対し、被告は、76 年契約が独占的利用許諾契約であるとしても、各国における本件各作品の著作権の保護期間内に解約されることが想定されていないため、期間の定めのある契約であると主張する。しかし、76 年書面にはその趣旨を示し、又はうかがわせる記載はなく、他に故 B 及び原告と故 A との間でそのような合意があったことをうかがわせる事情もない。著作権の保護期間をもって契約存続期間とする趣旨であればその旨端的に明記すれば足り、そのような記載をするに当たって支障となるべき事情も見当たらないことなどとも併せ考えると、この点に関する被告の主張は採用できない。ウ 小括以上より、76 年契約は、原告が故 A に対し、期間の定めなく、本件各作品の独占的利用を許諾する趣旨の、独占的利用許諾契約であると解するのが相当である。なお、原告は、76 年契約の真正な成立を争う趣旨とも理解し得る主張をするところ、仮にその趣旨であれば、東京訴訟②の第一審が判示するとおり、東京訴訟①における原告の主張の実質的なむし返しであり、許されない。

(2) 2014 年解約の成否ア 上記のとおり、76 年契約は、期間の定めのない独占的利用許諾契約である。

5 このような継続的契約にあっては、一定期間契約関係を継続することが当事者間において前提とされているものの、当事者は、契約関係を継続することを期待し難い重大な事由があるときは、その契約を将来に向かって解除(解約)できるものと解するのが相当である。イ 前記各認定事実のとおり、76 年契約の締結から故 B 死去までの間は、故 A と原告又は故 B との間において本件利用権をめぐる紛争は少なくとも表面化しておらず、故 A が 76 年書面を第三者に対し示すこともなかった。しかるに、平成 8 年(1996年)、故 A がタイにおける原告のライセンシーの行為につき訴訟を提起する旨を通告した頃から両者の紛争が顕在化し、翌年、故 A と原告は、それぞれタイ訴訟及び東京訴訟①を提起するに至った。その後、平成 26 年(2014 年)までの間に、タイ訴訟、東京訴訟①及び②並びに中国訴訟の判決がされ、いずれも確定したが、76 年契約の成立の真正及び有効性に関する判断は、これらの判決において相互に相違することとなった。また、この間、原告と故 A 又は被告は、それぞれ、複数の第三者に対して日本国以外の国における本件各作品の利用を許諾し、これに基づき当該第三者が事業を展開する状況にあった。以上を要するに、76 年契約は、故 A と故 B との間の個人的な関係を背景に締結されたものとみられるところ、故 B の死去後、原告と故 A 又は被告は、76 年契約の真正な成立や有効性等を各国の裁判所において争いつつ、これに対する判断が示された場合も、その既判力が及ばない国において、それぞれ複数の第三者に対し本件各作品の利用を許諾することを相当長期にわたり行っていたということができる。このような双方の行為は、76 年契約の法的安定性を害するものであり、76 年契約の締結から約 38 年が経過した平成 26 年(2014 年)時点においては、既に契約締結当初の故 A と故 B との間の個人的な関係も失われ、76 年契約の基礎となるべき相互の信頼関係は欠如するに至っていたとみるほかない。そうすると、2014 年解約は、76 年契約を継続することを期待し難い重大な事由に

5 基づくやむを得ないものであったといえる。ウ これに対し、被告は、故 A 及び被告は本件利用権を円満に行使しようと努めていたにもかかわらず、原告が本件利用権と重複する利用権を第三者に許諾するなどライセンサーとしての義務を履行しないまま、契約当事者の地位に基づき 76 年契約の解約を主張することは、信義則違反又は権利濫用に当たり許されないなどと主張する。しかし、76 年契約の締結から原告と被告との間における紛争の発生及び展開を経て 2014 年解約に至る経緯の全体に鑑みると、故 A 及び被告が 76 年契約を誠実に遵守していたにもかかわらず原告がこれを毀損する行為をしたと評価することは相当ではなく、むしろ双方の行為が累積した結果として、76 年契約の継続を期待し難い重大な事由が生じたとみるのが適当である。その他被告が縷々指摘する事情を踏まえても、この点に関する被告の主張は採用できない。エ したがって、76 年契約は、2014 年解約によって解約されて終了したものと認められる。

(3) まとめ以上より、原告と被告との間の本件各作品に係る独占的利用許諾契約は既に解約により終了しており、被告は、現時点において、同契約に基づく本件利用権を有しない。

第4 結論

よって、原告の請求は理由があるからこれを認容することとし、主文のとおり判決する。東京地方裁判所民事第 47 部裁判官島 村 陽 子裁判官松 尾 恵 梨 佳裁判長裁判官杉浦正樹は、転補のため署名押印することができない。裁判官島 村 陽 子

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