ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 令和7(ネ)10081 特許を受ける権利の確認請求控訴事件
| 裁判所 | 控訴棄却 知的財産高等裁判所 |
|---|---|
| 裁判年月日 | 令和8年7月29日 |
| 事件種別 | 民事 |
| 法令 |
特許権 |
| キーワード | 特許権4回 優先権3回 許諾1回 実施1回 |
| 主文 | 1 本件各控訴をいずれも棄却する。 2 控訴費用は控訴人らの負担とする。 |
| 事件の概要 | 1⑴ 本件は、原判決別紙特許出願目録記載第1、第2及び第3の各特許請求の 範囲の請求項記載の各発明(本件各発明)の共同発明者である控訴人らが、 本件各発明についての特許出願(本件各出願)をした被控訴人に対し、控訴 人らが本件各発明について特許を受ける権利の共有持分を2分の1ずつ有す ることの確認を求める事案である。 |
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令和8年7月29日判決言渡
令和7年(ネ)第10081号 特許を受ける権利の確認請求控訴事件
(原審・東京地方裁判所令和7年(ワ)第70002号)
口頭弁論終結日 令和8年6月22日
判 決
控 訴 人 X1
(以下「控訴人X1」という。)
控 訴 人 X2
(以下「控訴人X2」という。)
上記両名訴訟代理人弁護士 田 中 紘 三
同 田 中 み ど り
同 田 中 み ち よ
被 控 訴 人 zSustainergy 株 式 会 社
同訴訟代理人弁護士 溝 田 宗 司
同 郡 佑 太
主 文
1 本件各控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は控訴人らの負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。2 原判決別紙特許出願目録記載第1、第2及び第3の各特許請求の範囲の請求項記載の各発明について、控訴人らがそれぞれ特許を受ける権利の共有持分を2分の1ずつ有することを確認する。
第2 事案の概要等(以下、特に断らない限り、略語は原判決の例による。)
1⑴ 本件は、原判決別紙特許出願目録記載第1、第2及び第3の各特許請求の
5 範囲の請求項記載の各発明(本件各発明)の共同発明者である控訴人らが、本件各発明についての特許出願(本件各出願)をした被控訴人に対し、控訴人らが本件各発明について特許を受ける権利の共有持分を2分の1ずつ有することの確認を求める事案である。
⑵ 原審は、控訴人らと被控訴人は、遅くとも本件各出願の時までに、控訴人らが被控訴人に対して本件各発明に係る特許を受ける権利の共有持分を譲渡する旨の合意をしたとして、控訴人らの請求をいずれも棄却し、控訴人らは、これを不服として、それぞれ控訴を提起した。2 前提事実及び争点に関する当事者の主張は、次のとおり補正し、3のとおり当審における当事者の追加主張を加えるほかは、原判決「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要等」の2及び3(原判決2頁12行目から4頁15行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
⑴ 原判決2頁17行目から18行目までを次のとおり改める。「 控訴人X 2は、令和4年3月18日、被控訴人を設立し、その代表取締役に就任した。控訴人X 2 は、令和5年12月21日、被控訴人の代表取締役を辞任し、令和6年9月9日、その取締役を解任された。」
⑵ 原判決2頁19行目から21行目までを次のとおり改める。「イ 被控訴人は、量子ドット技術に対する研究開発及び関連製品の販売等を目的とする株式会社である。被控訴人は、令和6年10月1日、その商号を「株式会社QDジャパン」から「zSustainergy 株式会社」に変更するとともに、その本店を東京都世田谷区内から東京都港区内に移転した。(甲1、18、乙3)」
⑶ 原判決2頁25行目の「、同月22日からはAらである」を「であった(他に、Bが、同年3月9日、被控訴人の代表取締役に就任し、同年10月10日、その代表取締役を辞任している。)」に改める
⑷ 原判決3頁3行目の「本件各出願は」から5行目の「伴うものである。」
5 までを削り、6行目から15行目までを次のとおり改める。「ア 本件出願1被控訴人は、令和4年11月15日、本件発明1について、優先権主張日を同年4月28日(特願2022-74343。以下、これに係る出願を「本件基礎出願1」という。)として、特許出願(特願2022-182940)をした。イ 本件出願2被控訴人は、令和5年8月30日、本件発明2について、優先権主張日を同月1日(特願2023-125665。以下、これに係る出願を「本件基礎出願2」という。)として、特許出願(特願2023-140361)をした。ウ 本件出願3被控訴人は、令和5年8月31日、本件発明3について、優先権主張日を同年2月21日(特願2023-25625)、同年4月11日(特願2023-64375。以下、これらに係る出願を併せて「本件基礎出願3」といい、本件基礎出願1~3を「本件各基礎出願」と総称する。)として、特許出願(特願2023-141755)をした。」
⑸ 原判決3頁17行目末尾を改行の上、次のとおり加える。「⑷ Aらは、令和7年12月25日、被控訴人の代表取締役を辞任するとともに、その取締役を辞任した。Cは、令和8年2月20日、被控訴人の取締役に就任するとともに、その代表取締役に就任し(Cは被控訴人の唯一の取締役である。被控訴人は、令和5年10月10日、取締役会設置会社になったが、令和8年2月20日、これを廃止した。)、これに伴い、被控訴人の本店は、愛知県内に移転した。(甲1、18)」
5 ⑹ 原判決4頁15行目末尾を改行の上、次のとおり加える。「 なお、控訴人らは、本件各発明に係る特許を受ける権利の譲渡について、会社法356条所定の承認を受けていない旨の主張はしない。」3 当審における当事者の追加主張(控訴人ら)控訴人らは、令和4年3月頃、控訴人X 2 が一人会社として設立した被控訴人との間で、控訴人らを本件各発明の共同発明者とした上、被控訴人において本件各発明に係る研究開発環境を設定維持することを必須の条件とし、当該研究開発環境の設定等のための資金調達上の便宜供与を専らの目的として、本件各発明に係る特許を受ける権利の共有持分を被控訴人に譲渡するとともに、その対価として、被控訴人は、本件各発明に基づく次世代型の太陽電池(量子ドットを組み合わせた薄膜型太陽電池。以下「量子ドット太陽電池」ということがある。)の開発及び製造販売による売上げの5%相当額を控訴人X 1 に支払うことを内容とする確定的な契約を量子ドット太陽電池の開発終了時点までに締結する旨の合意をした。しかるに、被控訴人の代表取締役に就任したAらは、事業化や収益が直ちに見込めないとして量子ドット太陽電池の開発に難色を示し、技術顧問であった控訴人X 1 を辞任に追い込んだり、控訴人X 2 が会社資金を不正に流用したとして取締役を解任したりして控訴人らを放逐した上、量子ドット太陽電池の開発を含む被控訴人の事業を全面的に廃止した。そこで、控訴人らは、令和7年12月24日到達の控訴理由書をもって、被控訴人に対し、民法542条1項5号に基づき、催告をすることなく、本件各発明に係る特許を受ける権利の譲渡を解除する旨の意思表示をする。(被控訴人)控訴人らは、本件各出願の時までに、本件各発明に係る特許を受ける権利の共有持分を被控訴人に無償で譲渡した。
5 上記の譲渡に当たり、被控訴人において本件各発明に係る研究開発環境を設定維持することを必須の条件とした事実はない。また、本件各発明に係る研究開発環境の設定維持のための資金調達上の便宜供与を専らの目的として、上記の譲渡をした事実もない。控訴人らは、被控訴人が本件各発明に係る研究開発環境を設定維持する債務を履行しない旨の主張をするが、被控訴人がどのような研究施設、研究設備、人員、資金、研究計画、研究態勢を確保設定し、これを維持すべきであったのか、その債務の内容は明らかにされていないし、どの時点でどのような状態になれば債務が履行されたといえるのかも全く特定されていない。控訴人らの主張する本件各発明に係る研究開発環境の設定維持とは、控訴人らにおいて、本件各発明を用いた事業が継続することを期待していたというにすぎない。控訴人らは、本件各発明に係る特許を受ける権利の共有持分の譲渡に当たり、その対価として、被控訴人が売上げの5%相当額を控訴人X 1 に支払うことを内容とする確定的な契約を量子ドット太陽電池の開発終了時点までに締結する旨の合意をしたとの主張もするが、かかる合意は成立していない。Aらは、控訴人X 2の求めに応じて被控訴人の代表取締役に就任し、被控訴人の保有する技術及び知的財産の事業化に尽力したのであり、現在も、その活用可能性について検討が進められている。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も、控訴人らの請求はいずれも理由がないと判断する。その理由は、
次のとおり補正し、2のとおり当審における当事者の追加主張に対する判断を加えるほかは、原判決「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」の1から3まで(原判決4頁17行目から9頁9行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
⑴ 原判決4頁26行目の「原告X 2 は」から5頁1行目末尾までを「控訴人
X 2 は、上記願書の発明者欄に控訴人X 1 及びDと記載されているのを控訴
5 人X 1 及び控訴人X2 に改めるよう、また、控訴人X 1 は、特許請求の範囲及
び明細書の記載を修正するよう、本件事務所の弁理士に求めたものの、上記願書の特許出願人欄に被控訴人の当時の商号である「株式会社QDジャパン」と記載されていることについては、何らの指摘もせず異議も述べなかった。」に改める。
⑵ 原判決5頁19行目の「同案の願書の」から20行目末尾までを「上記願
書の特許出願人欄には、被控訴人の当時の商号である「株式会社QDジャパン」と記載されていたが、控訴人らは、本件事務所の弁理士に対し、明細書の記載等の補正を求めるのみで、上記特許出願人欄の記載については、何らの指摘もせず異議も述べなかった。」に改める。
⑶ 原判決6頁3行目の「被告は」を「被控訴人(株式会社QDジャパン)は、
控訴人X2をその代表者として」に改める。
⑷ 原判決6頁10行目の「令和6年5月頃までには、Aらに対する」を「次
第に、量子ドットに関する長期的な研究開発ではなく、当面の収益が見込める事業にのみ関心を寄せるAらに」に、11行目の「原告X 2は」から17行目末尾までを「控訴人X 2 は、令和6年5月30日、Eから、被控訴人との間で本件契約書案に係る契約が未締結である旨の記載がされたメッセージの送信を受け、同日、Eに対し、本件契約書案に控訴人X 1 は捺印をしていない旨の記載をしたメッセージを送信した。Eは、同日、控訴人X 2 に対し、「なるほど、これはちゃんと契約成立させておかないとX 2 さん(控訴人X
2 )とX 1先生(控訴人X 1 )の努力に対してしっかりと権利を確保しておい
た方がいいですよね」との記載をしたメッセージを送信している。(甲1、6、8、11)」にそれぞれ改める。
⑸ 原判決6頁24行目末尾を改行の上、次のとおり加える。
「⑼ Cが代表取締役を務めるF株式会社(以下「F」という。)は、令和7年12月3日、被控訴人に対し、買収提案をし、これが受け入れられた
5 結果、被控訴人の株式の譲渡を受け、その支配株主となった(乙20、
25、26)。
⑽ 東京地裁は、令和8年3月18日、上記⑻の貸金返還請求訴訟につき、
前記合同会社(合同会社G)が被控訴人に送金した3300万円につき返還合意があったとはいえないとして、上記合同会社の請求を棄却する判決をした(乙22)。」
⑹ 原判決8頁5行目の「いないと主張する」を「いない旨の主張をし、控訴
人らは、これに沿う陳述(甲8、11)をする」に改める。
⑺ 原判決8頁6行目から13行目までを次のとおり改める。
「 しかしながら、Aらが反対趣旨の陳述(乙25、26)をすることに加え、前記のとおり、Eが、控訴人X 2 に対し、被控訴人との間で本件契約書案に係る契約が未締結である旨の指摘をし、控訴人らの権利を確保するため正式に契約を成立させるよう助言していることをも併せ考慮すると、控訴人らの陳述を採用することはできず、他に控訴人らの上記の主張を認めるに足りる的確な証拠はない。」
2 当審における当事者の追加主張に対する判断
⑴ 控訴人らは、令和4年3月頃、被控訴人との間で、被控訴人において本件
各発明に係る研究開発環境を設定維持することを必須の条件とし、当該研究開発環境の設定等のための資金調達上の便宜供与を専らの目的として、本件各発明に係る特許を受ける権利の共有持分を被控訴人に譲渡するとともに、その対価として、被控訴人は、売上げの5%相当額を控訴人X 1 に支払うことを内容とする確定的な契約を量子ドット太陽電池の開発終了時点までに締結する旨の合意をしたとの主張をする。そして、控訴人らは、おおむねこれに沿う陳述(甲8、11)をするのであるし、① 被控訴人の令和5年作成に係る「中期事業計画 2024年~2026年」と題する資料(乙19)に、令和6年から令和8年にかけて量子ドット太陽電池に係る基盤製造装置
5 の開発を進め、同年下半期にその量産販売を開始する旨が記載されているこ
と、② 被控訴人の令和5年4月作成に係る「エネルギーの安全保障への貢献!!」と題する対外向け説明資料(乙21)に、被控訴人は量子ドット太陽電池に関する製造技術を保有している、控訴人X 1 は、被控訴人の技術顧問(CTO)であり、量子ドット製造技術を軸とする太陽エネルギー活用新システムを開発した、令和7年から令和9年にかけて量子ドット太陽電池に係る事業のグローバル展開を計画しているなどと記載され、被控訴人の事業展開に伴う将来的な収益構造が示されていること、③ 本件契約書案(甲5)に、控訴人らの主張する合意内容とは異なるものの、本件各発明に係る特許を受ける権利の共有持分の譲渡の対価として、被控訴人は、控訴人らに対し、被控訴人の新株予約権を割り当てるほか、「本特許権活用製品の売上(税別)×0.5%×20年(但し特許期間を上限とする)」及び「本特許権の実施許諾に関わる売上(税別)×5%」をそれぞれ支払う旨の定めがあることは、控訴人らの主張に一応沿うものとはいえる。
⑵ しかしながら、Aらが、被控訴人は本件各発明に係る特許権等を基盤とし
てその事業化を図るために設立された会社であり、上記特許権が被控訴人に帰属することは当然の前提であるなどと反対趣旨の陳述(乙25、26)をすることに加え、① 控訴人X 2 は、令和4年3月当時、被控訴人の唯一の取締役であったにもかかわらず、また、令和6年5月30日には、Eから、控訴人らの本件各発明に係る権利を確保するため正式に契約を成立させるよう助言されたにもかかわらず、結局、控訴人らと被控訴人との間で、正式な契約書は作成されなかったこと、② 量子ドット技術の実用化には、長期にわたる研究開発が必要となり、事業化の成否やその時期は、その性質上、不確定なものにならざるを得ないこと、また、量子ドット技術の事業化を図るためには、多額の資金調達を要するところ、被控訴人を設立した時点で、その目途はたっていなかったこと(甲8、11、乙25、26)、③ 控訴人
5 らの主張によっても、本件各発明に係る特許を受ける権利の共有持分の譲渡
の前提となる条件の内容、あるいは被控訴人の履行すべき債務の内容は不明確であり特定されていないことに照らすと、控訴人らの上記主張を採用するのは困難であり、他にこれを認めるに足りる的確な証拠はない。被控訴人の設立経緯やその目的、本件各発明の技術的意義にかんがみると、本件各発明に係る特許を受ける権利の共有持分の譲渡は、被控訴人において量子ドット技術の事業化を図るという負担付きのものであったと解する余地はあるが、そうであったとしても、負担の内容は依然不明確といわざるを得ないし、本件において、被控訴人が、本件各出願をし、出願審査の請求をしていること(甲13~15、乙27)や、Aらが、控訴人X 2 から要請を受けて被控訴人の経営に参画するに当たり、それぞれ500万円の出資をし、多くの企業や投資家に対して出資等をするよう交渉し働きかけていること(乙25、26)、被控訴人は、その株式がFに譲渡された後も存続し、被控訴人の保有する技術を活用して事業を継続することが予定されていること(乙25、26)に照らすと、いずれにせよ、被控訴人がその事業を全面的に廃止し、その債務を履行しなかったとまでいうのは困難である。
3 以上によれば、控訴人らの請求を棄却した原判決は相当であり、本件各控訴
はいずれも理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。知的財産高等裁判所第2部裁判長裁判官森 冨 義 明裁判官菊 池 絵 理裁判官頼 晋 一
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