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令和7(行ケ)10077審決取消請求事件

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裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所
裁判年月日 令和8年7月29日
事件種別 民事
当事者 原告エリーパワー株式会社
被告株式会社GSユアサ
対象物 電池
法令 特許権
特許法104条の41回
キーワード 審決25回
無効23回
進歩性15回
特許権14回
新規性5回
無効審判4回
損害賠償4回
侵害3回
実施1回
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 本件は、原告が、特許権者である被告に対し、特許無効審判請求を不成立と した審決の取消しを求める事案である。

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判決文

令和8年7月29日判決言渡

令和7年(行ケ)第10077号 審決取消請求事件

口頭弁論終結日 令和8年5月29日

判 決

原 告 エリーパワー株式会社

同訴訟代理人弁護士 松 山 智 恵

吉 井 将 太 郎

同訴訟代理人弁理士 田 中 智 典

被 告 株 式 会 社 G S ユ ア サ

同訴訟代理人弁護士 松 本 司

田 上 洋 平

冨 田 信 雄

主 文

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求

特許庁が無効2023-800072号事件について令和7年6月25日にした審決を取り消す。

第2 事案の概要

本件は、原告が、特許権者である被告に対し、特許無効審判請求を不成立とした審決の取消しを求める事案である。1 特許庁における手続の経緯等(当事者間に争いがないか、又は後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)

⑴ 被告は、発明の名称を「電池」とする発明について、平成26年3月27日、特許出願(特願2014-66709号。以下「本件特許出願」という。)

5 をし、平成27年3月20日、特許権の設定登録(特許番号第5713127号。請求項の数5。以下、この特許を「本件特許」と、その特許権を「本件特許権」という。)を受けた。なお、本件特許出願は、平成14年5月27日を出願日とする特願2002-151808号の一部を、平成21年2月16日に新たな特許出願とした特願2009-32907号の一部を、さらに平成25年7月22日に新たな特許出願とした特願2013-152002号の一部を、またさらに新たな特許出願としたものである。

⑵ 本件特許権は、令和4年5月27日をもって存続期間満了により消滅した。

⑶ 原告は、令和5年11月20日、本件特許について特許無効審判を請求し、特許庁はこれを無効2023-800072号事件として審理した。被告は、上記審判手続において、令和6年4月16日、訂正請求書を提出した。

⑷ 特許庁は、令和7年6月25日、「特許第5713127号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項5について訂正することを認める。本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は同年7月8日に原告に送達された。原告は、同年8月5日、本件審決の取消しを求めて本件訴訟を提起した。

⑸ 被告は、令和3年、大阪地方裁判所に対し、原告を相手方として、本件特許権の侵害を理由とする損害賠償等を求める訴訟(以下「別件訴訟」という。)を提起した。これについて、同裁判所は、令和6年4月22日、対象とされた原告の製品が本件特許に係る発明の技術的範囲に属すること及び原告の主張した無効理由が認められないことを理由に、被告の請求を一部認容する判決をした(乙1の1)。原告はこれを不服として控訴をし、被告も附帯控訴をしたが、知的財産高等裁判所は、令和7年3月19日、原告の控訴及び被告の附帯控訴をいずれも棄却する判決をした(乙1の2)。原告はこれを不服

5 として上告及び上告受理の申立てをしたが、同年11月21日、上告棄却兼上告不受理の決定がされ、上記一部認容判決は確定した(乙11、12)。2 特許請求の範囲及び明細書の記載

⑴ 本件特許の特許請求の範囲の記載は、以下のとおりである(請求項5は前記訂正後のもの。以下、本件特許の各請求項に係る発明を請求項番号に対応して「本件発明1」などといい、総称して「本件発明」という。)。【請求項1】蓋板を有する電池外装体と、一端部に正極の活物質未塗工部を有し、他端部に負極の活物質未塗工部を有する発電要素と、前記蓋板の一端部に配置された正極側の外部接続端子、及び、前記蓋板の他端部に配置された負極側の外部接続端子と、前記電池外装体の外方に配置されるとともに前記正極側の外部接続端子に接続される正極側の端子接続部材、及び、前記電池外装体の外方に配置されるとともに前記負極側の外部接続端子に接続される負極側の端子接続部材と、前記正極の活物質未塗工部と前記正極側の端子接続部材とを接続する正極側の集電接続板、及び、前記負極の活物質未塗工部と前記負極側の端子接続部材とを接続する負極側の集電接続板とを備え、前記正極側の集電接続板は、前記発電要素の正極側の端部から前記発電要素の中央方向に水平に延びるとともに前記正極側の端子接続部材と接続される正極側の本体部と、前記正極側の本体部から突設されて、前記正極の活物質未塗工部の外側面のうちの前記正極の活物質未塗工部の端部と前記正極の活物質塗工部との間に、表面が接合される正極側の接続板部とを有し、前記負極側の集電接続板は、

5 前記発電要素の負極側の端部から前記発電要素の中央方向に水平に延びるとともに前記負極側の端子接続部材と接続される負極側の本体部と、前記負極側の本体部から突設されて、前記負極の活物質未塗工部の外側面のうちの前記負極の活物質未塗工部の端部と前記負極の活物質塗工部との間に、表面が接合される負極側の接続板部とを有する電池。【請求項2】前記発電要素は、巻回型の発電要素である請求項1記載の電池。【請求項3】さらに、前記正極側の端子接続部材と前記正極側の集電接続板とを接続する正極側の電池引出端子、及び、前記負極側の端子接続部材と前記負極側の集電接続板とを接続する負極側の電池引出端子を備え、前記正極側の電池引出端子は正極側のカシメ部を有し、前記正極側のカシメ部をカシメることで前記正極側の端子接続部材と前記正極側の集電接続板とを接続し、前記負極側の電池引出端子は負極側のカシメ部を有し、前記負極側のカシメ部をカシメることで前記負極側の端子接続部材と前記負極側の集電接続板とを接続する請求項1または2に記載の電池。【請求項4】さらに、前記蓋板と前記正極側の端子接続部材との間に配置される正極側の上部絶縁封止材、及び、前記蓋板と前記負極側の端子接続部材との間に配置される負極側の上部絶縁封止材と、

5 前記蓋板と前記正極側の集電接続板との間に配置される正極側の下部絶縁封止材、及び、前記蓋板と前記負極側の集電接続板との間に配置される負極側の下部絶縁封止材とを備える請求項1~3のいずれか1項に記載の電池。【請求項5】前記正極側の接続板部は、前記正極側の集電接続板の本体から下方に向けて折り曲げねじって突出し、前記正極の活物質未塗工部の重なりの外側面に接合され、前記負極側の接続板部は、前記負極側の集電接続板の本体から下方に向けて折り曲げねじって突出し、前記負極の活物質未塗工部の重なりの外側面に接合される請求項1~4のいずれか1項に記載の電池。

⑵ 本件特許出願に係る明細書及び図面(甲86。以下「本件明細書」という。)には、本件発明について以下の記載がある(以下、その段落番号を【】で示す。)。ア 技術分野本件発明は、電池引出端子と端子接続部材と外部接続端子からなる端子を備えた電池に関する。(【0001】)イ 発明が解決しようとする課題従来の非水電解質二次電池(【0002】~【0005】)は、上方に突出する端子に接続された集電接続板を横置きの発電要素の正極や負極における直線部の垂直になって重なり合った部分に沿わせて接続するために、波板状の複雑な形状の板材を組み合わせたり、端子にも接続し難い形状にならざるを得ないため、作製が困難になるという問題があった。しかも、集電接続板は、電流容量を高めるために、波板状の部分の板厚もある程度厚くする必要があり、薄いアルミニウム箔や銅箔を挟み込んで超音波

5 溶接を行っても十分に溶着させることができないという問題も生じていた。また、この集電接続板は、2個の発電要素ごとに幾重にも重なり合ったアルミニウム箔や銅箔を波板状の各凹部に同時に挿入して挟み込む必要があり、この組み立て時の作業性が悪くなるという問題もあった。本件発明は、かかる事情に対応して改良された電池において、作製を容易にすることができる電池を提供することを目的としている。(【0006】~【0008】)ウ 課題を解決するための手段請求項1の電池は、蓋板を有する電池外装体と、一端部に正極の活物質未塗工部を有し、他端部に負極の活物質未塗工部を有する発電要素と、前記蓋板の一端部に配置された正極側の外部接続端子、及び、前記蓋板の他端部に配置された負極側の外部接続端子と、前記電池外装体の外方に配置されるとともに前記正極側の外部接続端子に接続される正極側の端子接続部材、及び、前記電池外装体の外方に配置されるとともに前記負極側の外部接続端子に接続される負極側の端子接続部材と、前記正極の活物質未塗工部と前記正極側の端子接続部材とを接続する正極側の集電接続板、及び、前記負極の活物質未塗工部と前記負極側の端子接続部材とを接続する負極側の集電接続板とを備え、前記正極側の集電接続板は、前記発電要素の正極側の端部から前記発電要素の中央方向に水平に延びるとともに前記正極側の端子接続部材と接続される正極側の本体部と、前記正極側の本体部から突設されて、前記正極の活物質未塗工部の外側面のうちの前記正極の活物質未塗工部の端部と前記正極の活物質塗工部との間に、表面が接合される正極側の接続板部とを有し、前記負極側の集電接続板は、前記発電要素の負極側の端部から前記発電要素の中央方向に水平に延びるとともに前記負極側の端子接続部材と接続される負極側の本体部と、前記負極側の本体部から突設されて、前記負極の活物質未塗工部の外側面のうちの

5 前記負極の活物質未塗工部の端部と前記負極の活物質塗工部との間に、表面が接合される負極側の接続板部とを有することを特徴とする。(【0009】)エ 発明の効果請求項1の発明によれば、集電接続板を外部接続端子と発電要素とに容易に接続することができるため、容易に電池を作製することができるようになる。(【0010】)3 本件審決の理由の要旨本件審決は、原告(請求人)の主張する無効理由1~11についていずれも理由がないと判断した。このうち後記の取消事由とされている無効理由1、2、3、4及び6に関する本件審決の理由の要旨は、以下のとおりである。

⑴ 無効理由1(特開平9-147830号公報(以下「甲1」という。)に記載された発明(以下「甲1発明」という。)に基づく本件発明1及び5の新規性欠如)本件発明1と甲1発明を対比すると、次の各相違点を有するから、本件発明1及び本件発明1の発明特定事項を全て含む本件発明5は甲1発明であるとはいえない。ア 相違点1正極側の部材及び負極側の部材に関し、本件発明1は「外部接続端子に接続」される「端子接続」部材であるのに対し、甲1発明は、「端子の円柱状端子部材を固定」する「ナット」である点。イ 相違点2集電接続板に関し、本件発明1の「集電接続板」は「活物質未塗工部と端子接続部材とを接続する」のに対し、甲1発明の「端子のL字板状のアングル部材」は「リード群に超音波溶接される」点。ウ 相違点3

5 本体部に関し、本件発明1は「端子接続部材」と接続されるのに対し、甲1発明はその旨特定されていない点。

⑵ 無効理由2(甲1発明に基づく本件発明1、3~5の進歩性欠如)本件発明1と甲1発明の相違点は前記⑴アないしウのとおりであるところ、以下のとおり、本件発明1及び本件発明1の発明特定事項を全て含む本件発明3~5は、甲1発明及び他の文献に記載された各技術に基づいて、当業者が容易に発明することができたものではない。ア 鉛蓄電池において、発電素子を構成する極板群が直接又はストラップを介して接続される円柱状の極柱が蓋を貫通し、貫通した該極柱の一部を導電部材に接続するとともに、該導電部材に外部出力用のボルトを設けた端子構造は周知の技術といえる(甲5~8、16、17)。しかし、甲1発明は、リチウムイオン二次電池に係る発明であって、これとは技術分野が異なる鉛蓄電池についての上記端子構造を適用する動機付けが見当たらない。イ 甲1発明の「端子」は、「円柱状端子部材」を具備する「水平部材」と、「垂直部材」とが一体的に形成された「L字板状のアングル部材」であるところ、このような「L字板状のアングル部材」からなる端子構造を前提として、甲1発明は、電極集電部の積層数を減少させて端子への接続を容易かつ信頼性良く行え、かつ、体積効率を向上させることのできる電池及びその電極構造体を提供するという課題を解決することができるものと理解できる。そうすると、甲1発明に上記アの周知の端子構造を適用して、「円柱状端子部材」を「L字状のアングル部材」とは切り離したものとして形成し、その間に導電部材を介在させるようにすることなど、当業者が想到するとはいえない。ウ 甲1発明は、上記課題を解決するためにされたものであって、甲1には、実施例に示されたもの以外の端子構造について記載や示唆はなく、さらに、

5 上記アの端子構造を甲1発明に適用する動機も見当たらないことから、甲1に接した当業者は、甲1発明の「端子」の構造を変更すること自体そもそも想起しない。エ 甲1発明に上記アの端子構造における「導電部材」や「外部出力用のボルト」を適用した場合、端子を構成する部品数が増え、その製造コストも増加し、さらに、端子自体の電気抵抗が増加することなど上記アの周知技術の適用を阻害する要因も想定される。したがって、甲1発明に上記アの端子構造をあえて採用すべき格別な理由を裏付ける証拠は見当たらない。

⑶ 無効理由3(特開平9-161757号公報(以下「甲2」という。)に記載された発明(以下「甲2発明」という。)に基づく本件発明1~5の進歩性欠如)本件発明1と甲2発明の相違点は下記アのとおりであるところ、下記イのとおり、本件発明1及び本件発明1の発明特定事項を全て含む本件発明2~5は、甲2発明及び他の文献に記載された各技術に基づいて、当業者が容易に発明することができたものではない。ア 相違点4本件発明1は、「電池外装体の外方に配置されるとともに外部接続端子に接続される端子接続部材」を備えるとともに、「集電接続板」は「活物質未塗工部と端子接続部材とを接続」し、「本体部」は「端子接続部材」と接続されるのに対し、甲2発明は、「端子のL字板状のアングル部材」は「電極のリード部に超音波溶接より溶着される」との相違点を有する。イ 相違点に対する判断甲2発明は、リチウムイオン二次電池に係る発明であって、これとは技術分野が異なる鉛蓄電池についての前記⑵アの周知の端子構造を、甲2発明の「端子」に適用する動機付けが見当たらない。また、甲2発明は、「L字板状のアングル部材」において、電池ケース外

5 方に引き出される「円柱状端子部材」、これが設けられる「水平部材」及び「電極積層体」の「リード部」が超音波溶接される「角柱」が一体的に形成されており、このような「L字板状のアングル部材」からなる端子構造を前提として、大容量のリチウムイオン二次電池の如き積層型非水電解液二次電池の内部短絡による影響が、隣接する正及び負極電極間に波及することを防ぎ、この電池自体の損傷及び周囲への影響を最小限に抑えるという課題を解決するものと解される。そうすると、甲2発明において、上記周知の端子構造を適用して、「円柱状端子部材」を「L字状のアングル部材」とは切り離したものとして形成し、その間に導電部材を介在させるようにすることなど、当業者が想到するとはいえない。さらに、甲2発明に上記周知の端子構造における「導電部材」や「外部出力用のボルト」を適用する場合、端子を構成する部品数が増え、その製造コストも増加し、端子自体の電気抵抗が増加すること等の適用を阻害する要因も容易に予測し得るところ、甲2発明に上記端子構造をあえて採用すべき格別な理由を裏付ける証拠は見当たらない。

⑷ 無効理由4(特開2002-100340号公報(以下「甲3」という。)に記載された発明(以下「甲3発明」という。)に基づく本件発明1~5の進歩性欠如)本件発明1と甲3発明の相違点は下記アのとおりであるところ、下記イのとおり、本件発明1及び本件発明1の発明特定事項を全て含む本件発明2~5は、甲3発明及び他の文献に記載された各技術に基づいて、当業者が容易に発明することができたものではない。ア 相違点(ア) 相違点5端子に関し、本件発明1は、「蓋板の一端部に配置され」る「外部接続」端子であるのに対し、甲3発明は「柱状部材」である端子である点。

5 (イ) 相違点6本件発明1は、「電池外装体の外方に配置されるとともに外部接続端子に接続される端子接続部材」を備えているとともに、「集電接続板」は「活物質未塗工部と端子接続部材とを接続」し、「本体部」は「端子接続部材と接続される」のに対し、甲3発明は、「電極端子」は「極板の未塗布部により形成された突出端部の積層した端面に接合される」点。(ウ) 相違点7接続板部に関し、本件発明1は活物質未塗工部の「外側面のうちの活物質未塗工部の端部と活物質塗工部との間」に接合されるのに対し、甲3発明は「極板の未塗布部が積層され圧縮された厚密化部の端面」と接合される点。イ 相違点に対する判断(ア) 相違点5について相違点5に係る構成は、甲3発明、甲1発明及び甲2発明に基づいて当業者が容易になし得たことである。(イ) 相違点6について甲3には、リチウム二次電池についての記載があるのみであるから、鉛蓄電池に関する前記⑵アの周知の端子構造(甲5~8、16、17)を、甲3発明の「電極端子」に適用する動機付けは見当たらない。また、甲3発明は、正極板及び負極板がセパレータを介して配された電極体を有する電池において、体格が小型化された電池及びその製造方法を提供するという課題を解決するためにされたものであるから、上記端子構造を採用して、「柱状部材」を「電極端子」とは切り離したものとして形成し、その間に導電部材を介在させるようにすることなど、当業者が想到するとはいえない。さらに、甲3発明に上記端子構造における「導電部材」や「外部出力

5 用のボルト」を適用した場合、端子を構成する部品数が増え、その製造コストも増加し、端子自体の電気抵抗が増加すること等の適用を阻害する要因も想定されるところ、甲3発明に上記端子構造をあえて採用すべき格別な理由を裏付ける証拠は見当たらない。(ウ) 相違点7について甲3発明は、従来、扁平形状巻回型電極体の軸方向の両端部に形成された、電極活物質が塗布されていない未塗布部よりなる突出端部の外周面に電極端子を接合していたため、接合しろを確保する必要があり電池の大型化を生じていたことから、未塗布部よりなる突出端部の端面に電極端子を接合するというものである。そうすると、電極端子を、外周面のうちの、活物質層が形成されていない未塗布部の端と活物質層との間に接合することは阻害要因があるといえる。

⑸ 無効理由6(本件発明1~5のサポート要件違反)本件明細書の発明の詳細な説明の記載によれば、本件発明は、①従来の非水電解質二次電池では、集電接続板を横置きの発電要素の正極や負極における直線部の垂直になって重なり合った部分に沿わせて接続するために、波板状の複雑な形状の板材を組み合わせたり、端子にも接続し難い形状にならざるを得ないため、作製が困難になるという問題、②集電接続板は、電流容量を高めるために、波板状の部分の板厚もある程度厚くする必要があり、薄いアルミニウム箔や銅箔を挟み込んで超音波溶接を行っても十分に溶着させることができないという問題、③集電接続板は、2個の発電要素ごとに幾重にも重なり合ったアルミニウム箔や銅箔を波板状の各凹部に同時に挿入して挟み込む必要があり、この組み立て時の作業性が悪くなるという問題があったことから、これらの問題に鑑み、「作製を容易にすることができる電池を提供すること」を課題とするものである。本件発明1の構成によれば、正負両極において、集電接続板を外部接続端

5 子と発電要素とに容易に接続することができるため容易に電池を作製できるものといえるから、本件発明1は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものとはいえない。4 取消事由

⑴ 取消事由1(甲1発明に基づく新規性欠如・無効理由1関係)

⑵ 取消事由2(甲1発明に基づく進歩性欠如・無効理由2関係)

⑶ 取消事由3(甲2発明に基づく進歩性欠如・無効理由3関係)

⑷ 取消事由4(甲3発明に基づく進歩性欠如・無効理由4関係)

⑸ 取消事由5(サポート要件違反・無効理由6関係)

第3 当事者の主張

1 訴えの利益の有無

(被告の主張)

本件特許権は存続期間満了により消滅している。また、別件訴訟において被告の損害賠償請求を一部認容する判決が確定しており、仮に本件審決が取り消されたとしても特許法104条の4により原告は再審の訴えをすることができない。よって、本件訴えは、訴えの利益が認められないから、不適法として却下されるべきである。

(原告の主張)

争う。

2 取消事由1(甲1発明に基づく新規性欠如)

(原告の主張)

本件審決は、甲1発明に開示された「ナット」が導電性を有するか不明であると解釈し、また、「端子接続部材」について接続構造や配置関係について特許請求の範囲に記載がないにもかかわらず限定解釈を行い、本件発明1と相違するとの認定を行った。

5 しかし、甲1発明における「ナット」は金属製と解するのが技術常識である。

また、本件発明1の「端子接続部材」は、請求項の文言から、外部接続端子と集電接続板に電気的に接続される部材を意味するにとどまり、本件審決のように「両者の間に配置される」などの限定を読み込む余地はない。したがって、甲1発明の「ナット」は本件発明1の「端子接続部材」に相当するから、本件発明1及び5は新規性を欠く。

(被告の主張)

甲1に開示された「ナット」は、非導電性部材であるとしか当業者は理解できず、かつ、天板と正極端子及び負極端子を固定するためのものであることから、これが本件発明1の「端子接続部材」に相当すると理解することはできない。

3 取消事由2(甲1発明に基づく進歩性欠如)

(原告の主張)

⑴ 本件審決が認定した周知技術による端子構造を採用すれば、外部接続端子

と集電接続板との間に端子接続部材を設置することになるところ、上記構造は、外部接続端子に回転トルクが加わった際に内部の電極接続部が破損することを防止するという技術的課題に対する解決手段であり、これは二次電池一般に共通するものであるから、リチウムイオン電池についても適用されるものである。仮に、鉛蓄電池とリチウムイオン電池を異なる技術分野と捉えるとしても、電池内部の破損を防止する技術として関連する技術分野に属することは明らかである。そして、周知技術の適用に際しては、阻害要因がない限り特段の動機付けは不要であるところ、甲1発明に上記構造を適用することの阻害事由はない。また、仮に動機付けの有無を検討したとしても、上記回転トルクに係る課題は当業者に周知であり、当業者であればこれを解決するために上記構造を適用する動機付けがある。

5 したがって、甲1発明に上記構造を適用することは当業者にとって容易で

あるから、本件発明1及び3~5は進歩性を欠く。

⑵ 本件審決のように甲1発明の「ナット」が金属製であるとは限られないこ

とを相違点とみるとしても、金属製とすることは当業者が容易に採用し得る設計事項にすぎない。

(被告の主張)

⑴ 非水電解質二次電池(リチウムイオン電池)と鉛蓄電池は異なるところ、

本件審決が認定した端子構造に関する周知技術は、鉛蓄電池において、極柱(鉛製)と外部接続端子(ステンレス等)をつなげる場合、鉛と異なる素材からなる外部接続端子が邪魔にならない位置において鉛ブッシングをバーナで加熱するスペースが必要となることから生じる技術であるから、当業者は、本件構造をリチウムイオン電池に適用することはおよそ想到し得ない。

⑵ 甲1に開示された「ナット」は非導電性部材であるとしか当業者は理解で

きないから、

(原告の主張)

は理由がない。

4 取消事由3(甲2発明に基づく進歩性欠如・無効理由3関係)

(原告の主張)

取消事由2と同様に、甲2発明にも周知の端子構造を適用できることから、本件発明は進歩性を欠く。

(被告の主張)

取消事由2について述べたとおりである。

5 取消事由4(甲3発明に基づく進歩性欠如・無効理由4関係)

(原告の主張)

⑴ 取消事由2と同様に、甲3発明にも周知の端子構造を適用できることか

ら、本件発明は進歩性を欠く。

⑵ 本件審決は、甲3発明の正極板の接合構造につき「端面のみで接合」する

ものとして相違点7を認定した。しかし、甲3には、突出端部の端面に電極

5 端子を接合する発明しか開示されていないのではなく、「端面」での接合に

加えて未塗布部の「表面」と電極端子の「軸部」とが接合している(離れないように合わせられている)構成が開示されているから、本件審決の認定は誤りである。

(被告の主張)

⑴ 取消事由2について述べたとおりである。

⑵ 甲3発明の正極板の接合構造につき、接合されているのは端面であるか

ら、本件審決の認定に誤りはない。

6 取消事由5(サポート要件違反・無効理由6関係)

(原告の主張)

本件審決は、本件発明の課題を「作製を容易にすることができる電池を提供すること」と認定したが、本件発明1は、発電要素から外部接続端子までの最終的な電気的接続関係を規定するにとどまり、課題認定の根拠とされた作業性・溶着性の問題点である①集電接続板における波板状構造の必要性、②板厚増大による溶着不良、③発電要素の複数の金属箔の同時挿入による作業性低下という、具体的な構造及び工程に起因する問題に対する解決手段は全く反映されていない。したがって、本件発明1が、発明の詳細な説明に記載された課題を解決できるものとして当業者に認識されるとはいえず、特許請求の範囲は発明の詳細な説明に記載された範囲を超えるものであるから、サポート要件を満たさない。

(被告の主張)

本件発明1は、特に大型の電池において、上方に突出する端子に接続された集電接続板を横置きの発電要素の正極や負極における直線部の垂直になって重なり合った部分に沿わせて接続するために、本件審決が指摘した3つの問題に鑑み、本件発明1に記載の構成を採用したものである。そして、これらの問題を解決する手段として、巻回型、積層型いずれの発電

5 要素においても本件発明1の構成を採用することが本件明細書には記載されて

いることから、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであり、あるいは当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということができる。

第4 当裁判所の判断

1 訴えの利益について

⑴ 特許権の存続期間の満了後であっても、特許権侵害を問題にされる可能性が少しでも残っている限り、そのような問題を提起されるおそれのある者は、当該特許を無効にすることについて利害関係を有し、特許無効審判請求を行う利益(したがって、特許無効審判請求を不成立とした審決に対する取消しの訴えの利益)を有することは明らかである。したがって、訴えの利益が消滅したというためには、客観的にみて、原告に対し特許権侵害を問題にされる可能性が全くなくなったと認められることが必要であり、特許権の存続期間が満了し、かつ、特許権の存続期間中にされた行為について、原告に対し、損害賠償又は不当利得返還の請求が行われたり、刑事罰が科されたりする可能性が全くなくなったと認められる特段の事情が存することが必要であると

解すべきである(知的財産高等裁判所平成28年(行ケ)第10182号、

第10184号平成30年4月13日特別部判決・最高裁判所HP参照)。

⑵ これを本件についてみると、本件特許権は既に存続期間満了により消滅し

ており(前記第2の1⑵)、また、別件訴訟において被告の請求を一部認容す

る判決が確定しているが(同⑸)、別件訴訟において対象とされた原告の製品

は製品名で特定された蓄電システム13品目及び電池パック1品目であり、

原告がこれら以外に本件特許権の権利行使の対象となり得る製品をその存続

期間中に製造販売していた可能性を否定することはできない。そうすると、

原告に対して損害賠償又は不当利得返還の請求が行われたり、刑事罰が科さ

れたりする可能性が全くなくなったと認められる特段の事情が存するとはい

えないから、本件訴えについては訴えの利益があると認められる。

取消事由1(甲1発明に基づく新規性欠如)について

原告は、甲1発明における「ナット」は金属製と解するのが技術常識であり、

また、本件発明1の「端子接続部材」は、請求項の文言から、外部接続端子と

集電接続板に電気的に接続される部材を意味するにとどまり、本件審決のよう

に「両者の間に配置される」などの限定を読み込む余地はないから、甲1発明

の「ナット」は本件発明1の「端子接続部材」に相当すると主張する。

そこで判断すると、本件発明1の特許請求の範囲の文言(前記第2の2⑴)

によれば、本件発明1に係る電池の端子先端部分から活物質未塗工部までの構

造は、①外部接続端子と端子接続部材、②端子接続部材と集電接続板、③集電

接続板と活物質未塗工部がそれぞれ接続された構造を有していると認めること

ができる。そうすると、本件発明1における端子接続部材は、外部接続端子と

集電接続板との間に配置され、両者に接続されているものと解するのが相当で

ある。

他方、甲1の発明の詳細な説明の記載によれば、甲1発明の電池において、

本件発明1の集電接続板に相当する部材は、外部に接続する円柱状端子部材が

設けられたL字板状のアングル部材であると認められるところ(甲1【003

】、図1)、甲1発明におけるナットは、上記円柱状端子部材(外部接続端子)

を天板に固定するものであり、円柱状端子部材(外部接続端子)とL字板状の

アングル部材(集電接続板)との間に配置されるものではない。また、円柱状

端子部材はL字板状のアングル部材に一体的に設けられており、上記ナットに

より接続されているものでもない(甲1・図1)。

そうすると、本件審決が、本件発明1の端子接続部材について、外部接続端

子と集電接続板との間に配置されると解釈した上で、甲1発明のナットは端子

接続部材に当たらないとして、本件発明1と相違すると認定したことに誤りは

ない。なお、甲1発明のナットが金属製であるかどうかはこの点の判断に影響

するものでない。

したがって、取消事由1は理由がない。

取消事由2(甲1発明に基づく進歩性欠如)について

⑴ 証拠(甲5~8、16、17)及び弁論の全趣旨によれば、本件審決が認

定するとおり、発電素子を構成する極板群が直接又はストラップを介して接

続される円柱状の極柱が蓋を貫通し、貫通した当該極柱の一部を導電部材に

接続するとともに、当該導電部材に外部出力用のボルトを設けた端子構造(以

下「本件構造」という。)は、鉛蓄電池において、周知の技術であったと認め

られる。

原告は、本件構造は外部接続端子に回転トルクが加わった際に内部の電極

接続部が破損することを防止するという技術的課題(以下「本件課題」とい

う。)に対する解決手段であり、本件課題はリチウムイオン電池を含む二次電

池一般に共通するものであるから、甲1発明に本件構造を適用することは容

易である旨主張するものである。

⑵ そこで判断すると、原告が、本件構造が本件課題の解決手段として採用さ

れているとする根拠として挙げる文献(甲5~8、14~18、77、78)

のうち、「バッテリー端子プロテクター」の発明(甲5)、「密閉型鉛蓄電池」

の発明(甲17)及び「蓄電池端子部」の実用新案(甲78)に係る公報等

には、本件課題の説明があり、また、これらはいずれも本件構造を有してい

ると認められるものの、本件課題を解決する手段としては、回転を防ぐ突起

部を設ける構造、溶接部の位置を変更すること及び凸起を設けて凹陥部に嵌

合させることがそれぞれ提示されており、本件課題を解決する手段として本

件構造が採用されているわけではない。また、

「破損防止構成を有する蓄電池」

の発明(甲14)及び「電気二重層キャパシタ」の発明(甲15)に係る公

開公報には、本件課題の説明があるが、その解決手段としては、それぞれ突

起部又は係止板によって回転を防ぐ構造が提示されており、本件構造は提示

されていない。さらに、

「鉛蓄電池用端子」の発明(甲6)、

「鉛蓄電池」の発

明(甲7、8、16)及び「蓄電池」の実用新案(甲77)においては、い

ずれも本件構造を有しているが、本件課題の記載はなく、本件構造を採用し

た理由は明らかではない。

⑶ 上記⑵によれば、鉛蓄電池において本件構造を採用することは周知技術で

あったと認めることはできるものの、本件構造を採用する理由が本件課題の

解決にあると認めるに足りる証拠はない。また、本件課題がリチウムイオン

電池を含む二次電池に共通する技術的課題であると認めるに足りない。した

がって、原告の前記主張を採用することはできない。

⑷ 以上によれば、本件発明1及び本件発明1の発明特定事項を全て含む本件

発明3ないし5は、当業者が甲1発明に本件構造を採用して容易に発明する

ことができたものではないから、取消事由2は理由がない。

取消事由3(甲2発明に基づく進歩性欠如)及び取消事由4(甲3発明に基

づく進歩性欠如)について

原告は、取消事由2についてと同様の理由により、甲2発明又は甲3発明に

本件構造を採用して本件発明とすることは容易であった旨主張する。しかし、

取消事由2について説示したのと同様の理由により原告の主張を採用すること

はできない。

取消事由5(サポート要件違反)について

特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲

の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発

明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により

当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、

また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明

の課題を解決できると認識し得る範囲のものであるか否かを検討して判断すべ

きものであると解される。

これを本件についてみると、前記第2の2⑵イのとおり、本件明細書には、

①従来の非水電解質二次電池には、集電接続板を横置きの発電要素の正極や負

極における直線部の垂直になって重なり合った部分に沿わせて接続するために、

波板状の複雑な形状の板材を組み合わせたり、端子にも接続し難い形状になら

ざるを得ないため、作製が困難になる、②集電接続板は、電流容量を高めるた

めに、波板状の部分の板厚もある程度厚くする必要があり、薄いアルミニウム

箔や銅箔を挟み込んで超音波溶接を行っても十分に溶着させることができない、

③集電接続板は、2個の発電要素ごとに幾重にも重なり合ったアルミニウム箔

や銅箔を波板状の各凹部に同時に挿入して挟み込む必要があり、この組み立て

時の作業性が悪くなるという問題があったことが記載されている。そうすると、

本件発明の課題は、本件審決が認定したとおり(前記第2の3⑸)、これらの問

題を解決し、作製を容易にすることができる電池を提供することにあると認め

られる。

そして、本件発明の特許請求の範囲に記載された構成のうちどの部分が上記

①~③の各問題に対応するかについて発明の詳細な説明に明示的な記載はない

ものの、本件発明の具体的構成と各問題を対比すれば、上記①の問題について

は、集電接続板の本体部を中央方向に水平に延びる構成とし、外部接続端子及

び端子接続部材を別に設ける構成や、本体部から突設された接続板部の表面が

活物質未塗工部に接合される構成を採用することにより、上記②及び③の問題

については、本体部から突設された接続板分の表面が活物質未塗工部に接合さ

れる構成を採用することにより解決できることを認識し得るものと解される。

したがって、サポート要件違反をいう取消事由5は理由がない。

結論

よって、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとして、主文のと

おり判決する。

知的財産高等裁判所第4部

裁判長裁判官

長 谷 川 浩 二

裁判官

伊 藤 清 隆

裁判官

諸 岡 慎 介

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