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令和8(行ケ)10016審決取消請求事件

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裁判所 知的財産高等裁判所
裁判年月日 令和8年9月9日
事件種別 民事
当事者 原告株式会社空スペース
被告特許庁長官
対象物 転がり軸受
法令 特許権
キーワード 審決21回
進歩性9回
実施7回
拒絶査定不服審判2回
侵害1回
主文 1 特許庁が不服2024-17594号事件について令和8年1月5日に
2 訴訟費用は、被告の負担とする。
事件の概要 1 本件は、特許出願の拒絶査定不服審判請求に係る不成立審決(以下「本件審 決」という。)の取消訴訟である。

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判決文

令和8年9月9日判決言渡

令和8年(行ケ)第10016号 審決取消請求事件

口頭弁論終結日 令和8年7月22日

判 決

原 告 株 式 会 社 空 ス ペ ー ス

被 告 特 許 庁 長 官

同 指 定 代 理 人 中 屋 裕 一 郎

同 山 田 由 希 子

同 月 野 洋 一 郎

同 北 村 英 隆

主 文

1 特許庁が不服2024-17594号事件について令和8年1月5日に

した審決を取り消す。

2 訴訟費用は、被告の負担とする。

事 実 及 び 理 由

第1 請求

主文同旨

第2 事案の概要

1 本件は、特許出願の拒絶査定不服審判請求に係る不成立審決(以下「本件審決」という。)の取消訴訟である。2 特許庁における手続の経緯等

⑴ 原告は、令和2年11月10日、発明の名称を「転がり軸受」とする発明について、特許出願(特願2020-186871)をした。

⑵ 原告は、令和6年8月29日付けで拒絶査定を受けたことから、同年11月2日、拒絶査定不服審判を請求し、特許庁は、これを不服2024-17594号事件として審理した。

⑶ 原告は、令和7年8月20日付けで拒絶理由の通知を受けたことから、同

5 年9月16日、意見書及び手続補正書を提出して、特許請求の範囲の記載を補正した(以下、これを「本件補正」という。)。

⑷ 特許庁は、令和8年1月5日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との本件審決をし、その謄本は、同年2月5日、原告に送達された。

⑸ 原告は、令和8年3月4日、当庁に対し、本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。3 本願発明(特許請求の範囲の請求項1に係る発明)の内容等本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載は、次の⑴のとおりであり、本件補正後のそれは、次の⑵のとおりである。なお、下線を付した部分が、本件補正による補正部分である。

⑴ 本件補正前「少なくとも外周面に内輪軌道を有する内輪と、内周面に外輪軌道を有する外輪と、前記内輪軌道と前記外輪軌道との間に介在する複数の玉により構成される転がり軸受において、前記内輪と前記外輪の少なくとも一方の材質をアルミニウム合金、またはマグネシウム合金とし、前記玉の動作時の公転と自転比率を変えることにより保持器を使用しないで負荷を受ける玉同士を非接触とする自律分散式転がり軸受の構成とし、前記玉と前記軌道との摩擦と摩擦熱を低減せしめることにより、前記軸受停止時に対する前記軸受動作時の前記内輪軌道及び前記外輪軌道の温度上昇値を、前記内輪軌道及び前記外輪軌道の強度低下温度未満としたことを特徴とする転がり軸受。」

⑵ 本件補正後「少なくとも外周面に内輪軌道を有する内輪と、内周面に外輪軌道を有する外輪と、前記内輪軌道と前記外輪軌道との間に介在する複数の玉により構成される転がり軸受において、前記内輪と前記外輪の少なくとも一方の材質をアルミニウム合金、またはマグネシウム合金とし、前記玉の動作時の公転と自転比率を変えることにより保持器を使用しないで負荷を受ける玉同士を

5 非接触とする自律分散式転がり軸受の構成とし、前記玉と前記軌道との摩擦と摩擦熱を低減せしめることにより、前記軸受動作時の前記内輪軌道及び前記外輪軌道の温度を、前記内輪軌道及び前記外輪軌道の強度低下温度未満としたことを特徴とする転がり軸受。」4 本件審決の理由の要旨

⑴ 明確性について本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1は、前記3⑵のとおりであるところ、請求項1における「前記玉の動作時の公転と自転比率を変えることにより保持器を使用しないで負荷を受ける玉同士を非接触とする自律分散式転がり軸受の構成とし、前記玉と前記軌道との摩擦と摩擦熱を低減せしめることにより、前記軸受停止時に対する前記軸受動作時の前記内輪軌道及び前記外輪軌道の温度上昇値を、前記内輪軌道及び前記外輪軌道の強度低下温度未満とした」との記載は、① 「前記玉の動作時の公転と自転比率を変える」軸受が具体的にどのようなものであるかを理解することが困難であり、請求項1において、「前記玉の動作時の公転と自転比率を変える」ための手段が何ら規定されることなく、「保持器を使用しないで負荷を受ける玉同士を非接触とする」と規定された転がり軸受は、技術的に十分特定されていないことが明らかである点、② 「自律分散式転がり軸受」は、一般的な技術用語や学術用語でないため、用語の定義が不明であり、どのような構成を備えたものまでが該当するかが特定できない点で明確でないことから、願書に添付した明細書及び図面(以下、併せて「本件明細書」という。)の記載を考慮しても、請求項1の記載から発明を明確に把握することができず、

第三者の利益が不当に害されるほどに不明確である。

請求項1における上記記載は、「前記玉の動作時の公転と自転比率を変えることにより保持器を使用しないで負荷を受ける玉同士を非接触とする自律分散式転がり軸受の構成」(以下「構成A」という。)とすることに伴い、

5 「前記玉と前記軌道との摩擦と摩擦熱を低減せしめることにより、前記軸受停止時に対する前記軸受動作時の前記内輪軌道及び前記外輪軌道の温度上昇値を、前記内輪軌道及び前記外輪軌道の強度低下温度未満と」なるという意味か、構成Aとは別に、「前記玉と前記軌道との摩擦と摩擦熱を低減せしめる」ための構成や、「前記軸受停止時に対する前記軸受動作時の前記内輪軌道及び前記外輪軌道の温度上昇値を、前記内輪軌道及び前記外輪軌道の強度低下温度未満と」するための構成を備えるという意味か不明であるし、後者の場合、構成Aと別に、転がり軸受がどのような形状、構造、組成等を備えているのか不明であって、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確である。

⑵ 実施可能要件について本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が、本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができる程度の記載とはいえず、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。

⑶ 進歩性について本願発明と、引用文献1(登録実用新案公報第3059736号)に記載された引用発明(以下「引用発明1」という。)を対比すると、本願発明では「前記玉の動作時の公転と自転比率を変えることにより保持器を使用しないで負荷を受ける玉同士を非接触とする自律分散式転がり軸受の構成とし、前記玉と前記軌道との摩擦と摩擦熱を低減せしめることにより、前記軸受停止時に対する前記軸受動作時の前記内輪軌道及び前記外輪軌道の温度上昇値を、前記内輪軌道及び前記外輪軌道の強度低下温度未満とした」のに対し、引用発明1では、玉4の動作時の公転と自転比率を変えることにより保持器を使用しないで負荷を受ける玉同士を非接触とする自律分散式転がり軸受と

5 なっていない点において相違する(以下、これを「本件相違点」という。)。しかしながら、① 本願発明の「前記玉と前記軌道との摩擦と摩擦熱を低減せしめることにより、前記軸受停止時に対する前記軸受動作時の前記内輪軌道及び前記外輪軌道の温度上昇値を、前記内輪軌道及び前記外輪軌道の強度低下温度未満とした」ことの技術的意義は、本件明細書の記載によれば、構成Aとすることに伴い、「前記玉と前記軌道との摩擦と摩擦熱を低減せしめることにより、前記軸受停止時に対する前記軸受動作時の前記内輪軌道及び前記外輪軌道の温度上昇値を、前記内輪軌道及び前記外輪軌道の強度低下温度未満と」なるという意味と解するのが合理的であり、引用文献2(出願人を原告とし発明の名称を「転がり装置、及びその製造方法」とする特許に係る公開特許公報特開2007-177993号。以下、引用文献2に記載された発明を「引用発明2」という。)に記載された技術的事項も構成Aを備え、「負荷領域においてボール同士の接触である競い合いによる摩擦が発生しない」ものであって、転送溝2(内輪軌道)及び転送溝1(外輪軌道)の温度上昇値についても本願発明と同様の作用を奏することは明らかであること、② 引用文献2に記載された「ボールの自転速度は増大し公転速度が減少することによりボールの間隔が減少し、逆にボールの公転速度は増大し自転速度が減少してボールは一定の間隔を確保することにより、保持器をもたなくても、負荷領域においてボール同士の接触である競い合いによる摩擦が発生しない軸受とした」という技術的事項は、本願発明の「前記玉の動作時の公転と自転比率を変えることにより保持器を使用しないで負荷を受ける玉同士を非接触とする自律分散式転がり軸受の構成とし、前記玉と前記軌道との摩擦と摩擦熱を低減せしめることにより、前記軸受停止時に対する前記軸受動作時の前記内輪軌道及び前記外輪軌道の温度上昇値を、前記内輪軌道及び前記外輪軌道の強度低下温度未満とした」という事項に相当すること、

③ 引用文献2に記載された技術的事項は、寿命低下や騒音振動の発生を改

5 善することを課題としたものであるところ、これが、軸受の技術分野における一般的な課題であることは当業者にとって明らかであり、引用発明1においても内在する課題であるといえることから、引用文献2に記載された技術的事項を、引用発明1に適用して、本件相違点に係る本願発明の構成とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

第3 審決取消事由に関する当事者の主張

1

(原告の主張)

⑴ 明確性について

「自律分散式転がり軸受」は先行技術であり、転がり軸受がどのような形状、構造、組成等を備えていれば「前記玉の動作時の公転と自転比率を変える」ことになるかは、引用文献2の独立請求項に記載されているところ、本件明細書には、上記先行技術に係る特許出願公開番号が記載されているのであるから、これを参酌することによって、本願発明の内容を確定することができる。仮にそうでないとしても、① 転がり軸受は広範囲のニーズに対応していることから、上記の形状、構造、組成等による限定は、侵害品への権利放棄に直結することになって困難であること、② 「自律分散」の用語の意義は「玉がそれぞれに意思決定権を持ち、自律的に動くこと」と、「式転がり軸受」の用語の意義は「かような方式の転がり軸受」と理解されること、

③ 「自律分散式転がり軸受」の用語は、当業者に周知されていることから、

本願発明は明確である。

⑵ 実施可能要件について

本件審決の指摘する事項は、引用文献2に記載された技術的事項(先行技術)であり、引用発明2の特許出願について特許査定がされていることから、本件明細書に、過度の試行錯誤を要することなく、本願発明を実施することができる程度の記載があることは明らかである。

⑶ 進歩性について

5 本件相違点に係る請求項1の「前記軸受停止時に対する前記軸受動作時の

前記内輪軌道及び前記外輪軌道の温度上昇値を」は、本件補正により「前記軸受動作時の前記内輪軌道及び前記外輪軌道の温度を」に補正されている。また、引用発明2が解決しようとする課題は、「転送路の特定領域において転動体との接触角を増大、減少させることにより、接触角を増大させた部分において転動体の公転速度を低下させて転動体同士を当接、もしくは近接させた後、接触角を減少させた部分にいて転動体の公転速度を増加させて転動体の間に間隔を生成させることにより、負荷領域での競い合いの無い転がり装置を提供すること」であり、「寿命低下や騒音振動の発生を改善すること」は副次的効果にすぎない。引用文献2に記載された技術的事項を、引用発明1に適用して、本件相違点に係る本願発明の構成とすることは、容易想到でないから、本件審決の進歩性に関する判断には誤りがある。2

(被告の主張)

⑴ 審理対象について

本件審決において審理対象とした請求項1に係る発明は、前記第2の3⑵のとおりである。

⑵ 明確性について

当業者は、「前記玉の動作時の公転と自転比率を変えることにより保持器を使用しないで負荷を受ける玉同士を非接触とする自律分散式転がり軸受の構成」が、「保持器を使用しない」、「転がり軸受」であることまでは認識できるものの、「自律分散式転がり軸受」とは、技術常識として認識できる「保持器を使用しない」、「転がり軸受」と、どのような差異を有するのか理解することができず、特許が付与された発明の技術範囲が不明確となるから、請求項1の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であることは明らかである。

5 また、請求項1において、「前記玉の動作時の公転と自転比率を変えるこ

とにより保持器を使用しないで負荷を受ける玉同士を非接触とする自律分散式転がり軸受の構成」(構成A)としたことと、「前記玉と前記軌道との摩擦と摩擦熱を低減せしめることにより、前記軸受動作時の前記内輪軌道及び前記外輪軌道の温度を、前記内輪軌道及び前記外輪軌道の強度低下温度未満とした」こと(以下「構成B」という。)との関係は、請求項1の文言上、構成Aを採用したことに伴う作用効果ないし結果として、構成Bの構成が記載されている趣旨とも、構成Aとは別に、構成Bを実現するための何らかの構成を備える趣旨とも解し得るところ、請求項1には、構成Bを実現するための具体的な形状、構造、組成、使用条件等が、構成Aとは別の構成として記載されているのか否かを明らかにする記載はなく、当業者は、請求項1の記載から、これを一義的に理解することができない。請求項1の記載は、構成Aと構成Bとの関係において多義的であり、特許が付与された場合の技術範囲を第三者が予測することを困難にするものであるから、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確である。本件審決には、その判断部分において、構成Bにつき、本件補正前の「前記軸受停止時に対する前記軸受動作時の前記内輪軌道及び前記外輪軌道の温度上昇値」と記載していた点で誤りがあるが、本件審決における明確性判断の要点は、構成Bを本件補正後の文言のとおりに読んだ場合であっても同様であり、上記誤りは明確性についての判断の結論に影響を及ぼすものではない。

⑶ 実施可能要件について

本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が、その記載内容及び出願時の技術常識に基づき、過度の試行錯誤を要することなく、請求項1に係る転がり軸受を製造し、使用できる程度に記載されたものとはいえない。

⑷ 進歩性について

5 請求項1の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるこ

とを措くとしても、引用文献2に記載された技術的事項を、引用発明1に適用したものは、本件相違点に係る本願発明の構成となるのであり、本願発明は、引用発明1、引用文献2に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。前記⑵のとおり、本件審決には「前記軸受動作時の前記内輪軌道及び前記外輪軌道の温度」を「前記軸受停止時に対する前記軸受動作時の前記内輪軌道及び前記外輪軌道の温度上昇値」と記載した点で誤りがあるが、これらは、いずれも構成Aとしたことに伴う作用効果又は結果として位置付けられるものであるし、本件審決の進歩性判断の要点は、引用発明1に引用文献2に記載された技術的事項を適用して、構成Aに相当する構成とすることが容易であるという点にあり、その適用の動機付けは、「寿命低下や騒音振動の発生を改善する」という課題の共通性にあるのであって、構成Bを本件補正後の文言のとおりに読んだ場合であっても、引用発明1に引用文献2に記載された技術的事項を適用することの容易想到性は左右されない。上記誤りは進歩性についての判断の結論に影響を及ぼすものではなく、本件審決の進歩性判断は結論において誤りはない。

第4 当裁判所の判断

本件審決の審理判断の対象について検討するに、本件審決の「理由」欄の「第

2 本願発明」には、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1は前記第2の3⑵のとおりであると記載される一方で、「第4 当審における判断」には、本願発明の明確性につき、「請求項1における「前記玉の動作時の公転と自転比率を変えることにより保持器を使用しないで負荷を受ける玉同士を非接触とする自律分散式転がり軸受の構成とし、前記玉と前記軌道との摩擦と摩擦熱を低減せしめることにより、前記軸受停止時に対する前記軸受動作時の前記内輪軌道及び前記外輪軌道の温度上昇値を、前記内輪軌道及び前記外輪

5 軌道の強度低下温度未満とした」との記載は、…において不明である。」、「請求項1における…記載は、「前記玉の動作時の公転と自転比率を変えることにより保持器を使用しないで負荷を受ける玉同士を非接触とする自律分散式転がり軸受の構成」…とすることに伴って、「前記玉と前記軌道との摩擦と摩擦熱を低減せしめることにより、前記軸受停止時に対する前記軸受動作時の前記内輪軌道及び前記外輪軌道の温度上昇値を、前記内輪軌道及び前記外輪軌道の強度低下温度未満と」なるという意味か、「構成A」とは別に、「前記玉と前記軌道との摩擦と摩擦熱を低減せしめる」ための構成や、「前記軸受停止時に対する前記軸受動作時の前記内輪軌道及び前記外輪軌道の温度上昇値を、前記内輪軌道及び前記外輪軌道の強度低下温度未満と」するための構成を備えるという意味か不明である。」と、また、本願発明の進歩性につき、「本願発明…では「前記玉の動作時の公転と自転比率を変えることにより保持器を使用しないで負荷を受ける玉同士を非接触とする自律分散式転がり軸受の構成とし、前記玉と前記軌道との摩擦と摩擦熱を低減せしめることにより、前記軸受停止時に対する前記軸受動作時の前記内輪軌道及び前記外輪軌道の温度上昇値を、前記内輪軌道及び前記外輪軌道の強度低下温度未満とした」のに対し、引用発明1では、玉4の動作時の公転と自転比率を変えることにより保持器を使用しないで負荷を受ける玉同士を非接触とする自律分散式転がり軸受となっていない点。」、「本願発明…の「前記玉と前記軌道との摩擦と摩擦熱を低減せしめることにより、前記軸受停止時に対する前記軸受動作時の前記内輪軌道及び前記外輪軌道の温度上昇値を、前記内輪軌道及び前記外輪軌道の強度低下温度未満とした」ことの技術的意義について検討すると、…「構成A」とすることに伴って、「前記玉と前記軌道との摩擦と摩擦熱を低減せしめることにより、前記軸受停止時に対する前記軸受動作時の前記内輪軌道及び前記外輪軌道の温度上昇値を、前記内輪軌道及び前記外輪軌道の強度低下温度未満と」なるという意味と解するのが合理的である。」、「引用文献2に記載された技術的

5 …事項は、本願発明…の「前記玉の動作時の公転と自転比率を変えることにより保持器を使用しないで負荷を受ける玉同士を非接触とする自律分散式転がり軸受の構成とし、前記玉と前記軌道との摩擦と摩擦熱を低減せしめることにより、前記軸受停止時に対する前記軸受動作時の前記内輪軌道及び前記外輪軌道の温度上昇値を、前記内輪軌道及び前記外輪軌道の強度低下温度未満とした」という事項に相当する。」と、さらに、審判請求人(原告)の主張につき、「請求項1に係る発明は、「構成A」とすることに伴って『=構成Aに付随して』、「前記玉と前記軌道との摩擦と摩擦熱を低減せしめることにより、前記軸受停止時に対する前記軸受動作時の前記内輪軌道及び前記外輪軌道の温度上昇値を、前記内輪軌道及び前記外輪軌道の強度低下温度未満と」なるものであるという主張自体は理解できるが、…請求項1における記載を、上記主張…のように限定解釈しなければならない理由はない。」と、一貫して本件補正による補正前の請求項1が記載され、本件補正による補正前の請求項1に係る発明を対象として審理判断がされている。そうすると、本件審決には、本件補正による補正後の請求項1に係る発明を対象として、その明確性、実施可能要件、進歩性等につき審理判断すべきであるのに、本件補正による補正前の請求項1に係る発明を対象として、これらを審理判断した手続上の瑕疵が存在するといわざるを得ない。そして、審理判断の対象を異にする以上、これが本件審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであり、本件審決は取り消されるべきである。

第5 結論

よって、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第2部

裁判長裁判官

森 冨 義 明

裁判官

菊 池 絵 理

裁判官

天 野 研 司

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