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令和8(ネ)10039損害賠償請求控訴事件

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裁判所 控訴棄却 知的財産高等裁判所
裁判年月日 令和8年9月17日
事件種別 民事
当事者 被控訴人株式会社高橋書店
法令 著作権
著作権法83条2項2回
キーワード 許諾19回
侵害7回
損害賠償4回
主文 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事件の概要 1 請求の要旨 本件は、控訴人が、同人が著作者として著作権を有する書籍「一目でわかる! 必ず見つかる!ホントのツボがちゃんと押せる本」(本件書籍)を重刷して発行 した被控訴人の行為は、控訴人の著作権(複製権、譲渡権)を侵害する行為であ ると主張して、著作権侵害の不法行為による損害賠償請求権に基づき、損害賠償 金2978万2500円及びこれに対する不法行為後の日である令和6年1月1 日から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払を求める事 案である。

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判決文

令和8年9月17日判決言渡

令和8年(ネ)第10039号 損害賠償請求控訴事件

(原審・東京地方裁判所令和6年(ワ)第70056号)

口頭弁論終結日 令和8年7月14日

判 決

控 訴 人 X

同訴訟代理人弁護士 小 倉 秀 夫

被 控 訴 人 株 式 会 社 高 橋 書 店

同訴訟代理人弁護士 山 崎 馨

山 下 瑞 木

青 木 美 佳

主 文

1 本件控訴を棄却する。

2 控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1 控訴の趣旨

1 原判決を取り消す。2 被控訴人は、控訴人に対し、2978万2500円及びこれに対する令和6年1月1日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要等(略語は、特記するもののほか、原判決の例による。)

1 請求の要旨本件は、控訴人が、同人が著作者として著作権を有する書籍「一目でわかる!必ず見つかる!ホントのツボがちゃんと押せる本」(本件書籍)を重刷して発行した被控訴人の行為は、控訴人の著作権(複製権、譲渡権)を侵害する行為であると主張して、著作権侵害の不法行為による損害賠償請求権に基づき、損害賠償金2978万2500円及びこれに対する不法行為後の日である令和6年1月1日から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。原判決は、控訴人の請求を全部棄却したところ、控訴人がこれを不服として控訴を提起した。2 前提事実及び争点本件の前提事実及び争点は、原判決の「事実及び理由」第2の1及び2(1頁19行目~3頁4行目)に記載のとおりであるからこれらを引用する。なお、本判決では、平成20年5月にされた本件書籍の初刷の発行を「初刷」といい、同年6月以降にされた本件書籍の2刷以降の発行を併せて「重刷」という。3 争点に対する当事者の主張

⑴ 争点に対する当事者の主張は、次のとおり争点1についての控訴人の当審での補充主張を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」第2の3(3頁5行目~8頁10行目)に記載のとおりであるから、これを引用する。

⑵ 争点1(著作権侵害の成否:被控訴人による本件書籍の重刷に対する控訴人の許諾の有無)についての控訴人の補充主張ア 出版権設定契約を締結した事実はないこと原判決は、控訴人と被控訴人が、本件書籍の初刷に当たり、被控訴人が控訴人に対して支払うべき対価を原稿料50万円及び監修料10万円(いずれも税別)とし、控訴人が被控訴人に対して出版権を設定することを内容とする出版権設定契約を締結したと認定した。しかし、出版権設定契約と出版許諾契約の差異は、前者においては出版社が出版権原を一定期間独占する点にあるところ、控訴人は、当時、このような両契約の差異を理解しておらず、出版権を設定する旨の明示的な意思表示をしていない。また、被控訴人も、出版権設定契約の契約書ひな形を用いることができたのに、あえてこれを用いなかった。これらのことからすると、控訴人と被控訴人との間に、出版権設定契約が締結されたとみるべきではなく、単に出版許諾契約が締結されたにとどまるというべきである。イ 許諾の対象は初刷に限定されており、重刷は対象外であること原判決は、出版権設定契約による本件書籍の出版の許諾について、初刷に限定する趣旨のものではないと認定した。しかし、一般に、重刷を行う際には、別途、印税方式による出版権設定契約又は出版許諾契約が締結されるのが通例であり、初刷時の原稿料の枠内で重刷が可能である旨の合意を認定することは、著作権譲渡に匹敵する金額の原稿料が設定されていない限り、経験則に反するというべきである。本件では、重刷に関する明示的な当事者間の合意は存在しないところ、初刷時の原稿料は実質的に60万円にすぎず、著作権譲渡に匹敵する金額とはいえない。このような僅少な額により、期限の定めのない出版権設定契約の消滅期限(3年)を超えての出版を許諾したと認定するのは、当事者の合理的な意思解釈としてあり得ない。なお、控訴人が、長らく追加の対価について言及しなかったのは、被控訴人の担当者から、著作権の買取りが行われた旨の虚偽の説明を受け、これを信じていたからである。以上によると、本件において控訴人が出版を許諾したのは、あくまで初刷分に限定され、重刷分については許諾の対象外というべきである。ウ 控訴人が黙示的に契約の存続を承諾してきたということはないこと仮に、控訴人と被控訴人との間に出版権設定契約が締結されていたと認められたとしても、その存続期間についての定めはないから、著作権法83条2項の規定により、出版権は3年の経過をもって消滅したというべきである。この点について、原判決は、被控訴人が本件書籍の版を重ね、控訴人が重刷決定の旨報告を受けてこれを許容することにより黙示的に契約の存続を承諾してきたなどと認定したが、「契約の存続の承諾」という不明な概念を持ち出している点で不当であるし、被控訴人は原審においてそのような主張をしていないから、弁論主義にも違反する認定である。出版権が設定されたのであれば、その更新の有無が問題となるべきところ、更新に関する合意は、本件において一切立証されていない。

第3 当裁判所の判断

1 当裁判所も、控訴人の請求には理由がないものと判断する。その理由は、次の

とおりである。

⑴ 認定事実

原判決の「事実及び理由」第3の1(8頁12行目~11頁21行目)のとおりであるからこれを引用する。

⑵ 争点1(著作権(複製権、譲渡権)侵害の成否:被控訴人による本件書籍の

重刷に対する控訴人の許諾の有無)についてア 本件書籍の出版時に締結された契約について引用する原判決の認定事実によると、本件書籍は、出版社である被控訴人の従業員が、同社の企画として控訴人に原稿執筆を依頼したものであって、商業出版として利益を上げる意図が明確であり、少なくとも、出版後間もない期間内は、控訴人が本件書籍の原稿を他社に持ち込み、又は自ら出版すること等は想定されていなかったとみられる。また、本件書籍には、控訴人の執筆した文章のみならず、モデルの肖像写真、イラスト、CG等が多用されており、その制作に多数の法人及び個人が携わっていることからすると、本件書籍に関する権利関係を、出版社である被控訴人が集中的に管理又は行使する必要も認められる。このような事情からすると、控訴人と被控訴人は、平成20年5月頃までに、控訴人が被控訴人に対して本件書籍についての出版権を設定し、被控訴人が控訴人に対して対価として原稿料50万円及び監修料10万円(いずれも税別)を支払う旨の契約(以下「本件出版権設定契約」という。)を締結したものと認めるのが相当である。これに対し、控訴人は、控訴人が出版権設定契約と出版許諾契約の差異を知らなかったことなどから、控訴人と被控訴人との間には単に出版許諾契約が締結されたにとどまる旨主張する。しかし、上記の各事情に照らし、被控訴人に対して出版権を設定することは、控訴人の便宜になる点もあり、控訴人の意思にも沿うものともいえる。控訴人が両契約の差異を知らなかったとしても、出版権設定契約を認定することの妨げとなるものではない。イ 本件出版権設定契約による重刷の許諾について本件出版権設定契約に際して契約書が作成されていないことは、当事者間に争いがない。もっとも、控訴人は、被控訴人の担当者から本件書籍の2刷が決定した旨の連絡を受けた際、追加の支払があるかについて尋ねたものの、同担当者からは追加の支払はできない旨の回答があり、これに対して異議を述べていないほか、3刷以降も重刷について異議を述べていない。また、出版権者は、著作物について慣行に従い継続して出版行為を行う義務を負い(著作権法81条1項1号ロ)、その義務に違反した場合には出版権が消滅するおそれがあるものである。これらの事情に照らすと、控訴人と被控訴人は、本件出版権設定契約において、少なくとも、存続期間の定めのない出版権の法定存続期間である3年間(同法83条2項)は、被控訴人において追加の対価の支払を要せず本件書籍を重刷できる旨を黙示に合意していたものと認めるのが、当事者の合理的な意思に沿うものといえる。これに対し、控訴人は、重刷を行う際には別途印税方式による契約が締結されるのが通例であって、著作権譲渡に匹敵する金額の原稿料が設定されていない限り、初刷時の原稿料の枠内で重刷が可能である旨の合意を認定することは経験則に反する旨主張する。しかし、引用する原判決の認定事実のとおり、被控訴人が本件書籍の制作のために600万円を超える額を支出していることや、書籍の売れ行きを予測することは必ずしも容易ではないことからすると、少なくとも出版権の法定存続期間中、追加の対価の支払を要せずとも重刷できる旨を合意することは、経験則上不合理であるとはいえない。また、控訴人は、控訴人が長らく追加の対価について言及しなかったのは、被控訴人の担当者から著作権の買取りが行われた旨の虚偽の説明を受けてこれを信じた旨を主張するが、控訴人の原審における本人尋問での供述によっても、そのような虚偽の説明が行われた旨を具体的に認定することはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。ウ 出版権消滅後の重刷の許諾について本件出版権設定契約において、存続期間が定められたことを認めるに足りる証拠はない。したがって、著作権法83条2項の規定により、本件出版権設定契約に基づく被控訴人の出版権は、平成23年5月頃には消滅したものとみるほかはない。もっとも、引用する原判決の認定事実によると、被控訴人の従業員は、平成30年3月から令和5年6月にかけて、本件書籍の増刷が決定するたびに、増刷に先立ち、都度、控訴人にメールを送付してその旨を伝え、控訴人からの問合せや修正等の要望に応えるなどしてきたことが認められる。このことに加え、原審における控訴人本人尋問の結果や被控訴人従業員の証言等も考慮すると、被控訴人の従業員は、本件書籍の増刷が決定するたびに、増刷に先立ち、控訴人に連絡を取ってその旨を伝えており、これに対して控訴人から特段の異議は述べられなかったことが合理的に推認され、同推認を覆すに足りる事情は見当たらない。そうすると、被控訴人は、本件出版権設定契約に基づく本件書籍の出版権が消滅した平成23年5月頃以降も、本件書籍の増刷について、都度、控訴人の許諾を得ていたと認められる。したがって、被控訴人による本件書籍の増刷が、控訴人の著作権を侵害する不法行為に当たるということはできない。これに対し、控訴人は、原判決が「契約の存続の承諾」といった不明な概念を持ち出していることが不当であるとか、出版権設定契約の更新に関する合意は立証されていない旨主張する。しかし、いずれにしても、上記のとおり、控訴人は、被控訴人による本件書籍の増刷についてはその都度承諾していたというべきであるから、被控訴人による増刷について、著作権侵害の不法行為が成立しないことに変わりはない。エ 小括上記のとおり、被控訴人による本件書籍の増刷については、いずれも、控訴人による承諾があったものと認められるから、当該増刷について著作権侵害の不法行為は成立しない。

2 結論

以上の次第であるから、その余の争点につき検討するまでもなく、控訴人の請求には理由がないから、これを棄却した原判決は相当であって、本件控訴には理由がない。よって、本件控訴を棄却することとして、主文のとおり判決する。なお、控訴人は、令和8年7月30日付け準備書面により、当裁判所が、利用許諾料についての合意がない状態で利用許諾がされた旨を認定することは、被控訴人が主張するものと異なる内容の合意を認定するものであり、弁論主義に違反するから、被控訴人に釈明を求めるために口頭弁論を再開すべきであるとして、当裁判所に対し、口頭弁論の再開を申し立てた。しかし、被控訴人は、原審及び当審において、本件は不法行為による損害賠償請求事件であり、被控訴人による増刷について、控訴人の許諾を欠くために違法性が認められるかどうかが問題となる旨を指摘した上で、控訴人は少なくとも重刷につき承諾していた旨を主張しているから、当裁判所が、控訴人が被控訴人による本件書籍の増刷を許諾した旨を認定することは、弁論主義に違反するものではない。このような理由から、当裁判所は、口頭弁論を再開しなかったものである。知的財産高等裁判所第1部裁判長裁判官増 田 稔裁判官頼 晋 一裁判官天 野 研 司

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