ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 令和8(ネ)10043 不法行為(著作権侵害)に基づく損害賠償請求控訴事件
| 裁判所 | 控訴棄却 知的財産高等裁判所 |
|---|---|
| 裁判年月日 | 令和8年9月30日 |
| 事件種別 | 民事 |
| 法令 |
著作権 |
| キーワード | 侵害13回 損害賠償10回 |
| 主文 | 1 1審原告及び1審被告の本件各控訴をいずれも棄却する。 2 1審原告の控訴費用は1審原告の負担とし、1審被告の控訴費用は1審 |
| 事件の概要 | 1⑴ 本件は、動画共有サイト(ユーチューブ)で動画(原告各動画)を公開し ている1審原告が、1審被告は、1審原告の著作物である原告各動画を無断 で改変し、ユーチューブで公開した自身の動画(被告各動画)に利用したな どと主張して、1審被告に対し、著作権、同一性保持権の各侵害及び著作権 法113条11項所定のみなし著作者人格権侵害による不法行為に基づき損 害賠償金207万0379円(逸失利益7万0379円、同一性保持権侵害 による慰謝料75万円、名誉声望保持権侵害による慰謝料125万円)及び これに対する令和6年6月8日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法 所定の年3%の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 |
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令和8年9月30日判決言渡
令和8年(ネ)第10043号 不法行為(著作権侵害)に基づく損害賠償請求控
訴事件(原審・横浜地方裁判所令和6年(ワ)第1975号)
口頭弁論終結日 令和8年7月15日
判 決
控訴人兼被控訴人 X
(以下「1審原告」という。)
被控訴人兼控訴人 Y
(以下「1審被告」という。)
同訴訟代理人弁護士 高 井 善 達
主 文
1 1審原告及び1審被告の本件各控訴をいずれも棄却する。
2 1審原告の控訴費用は1審原告の負担とし、1審被告の控訴費用は1審
被告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 控訴の趣旨
1 1審原告の控訴の趣旨
⑴ 原判決中、1審原告敗訴部分を取り消す。
⑵ 1審被告は、1審原告に対し、187万0379円及びこれに対する令和6年6月8日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。2 1審被告の控訴の趣旨
⑴ 原判決中、1審被告敗訴部分を取り消す。
⑵ 上記の部分につき、1審原告の請求を棄却する。
第2 事案の概要等(以下、特に断らない限り、略語は原判決の例による。)
1⑴ 本件は、動画共有サイト(ユーチューブ)で動画(原告各動画)を公開している1審原告が、1審被告は、1審原告の著作物である原告各動画を無断で改変し、ユーチューブで公開した自身の動画(被告各動画)に利用したな
5 どと主張して、1審被告に対し、著作権、同一性保持権の各侵害及び著作権法113条11項所定のみなし著作者人格権侵害による不法行為に基づき損害賠償金207万0379円(逸失利益7万0379円、同一性保持権侵害による慰謝料75万円、名誉声望保持権侵害による慰謝料125万円)及びこれに対する令和6年6月8日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
⑵ 原審は、原告各動画はいずれも著作物であり、その著作権は1審原告に帰属する、1審被告は原告各動画のうち一部の動画に係る1審原告の複製権を侵害した、1審被告の行為が引用の目的上正当な範囲内で行われたとも、これについて正当防衛が成立するともいえない、1審被告は原告各動画のうち一部の動画に係る1審原告の同一性保持権を侵害した、1審被告による原告各動画のうち一部の動画の利用行為は1審原告の名誉声望保持権を侵害するなどとして、1審原告の請求を、著作者人格権侵害による慰謝料20万円及びこれに対する令和6年6月8日から支払済みまで年3%の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容した。1審原告及び1審被告は、原判決中、その敗訴部分を不服として、それぞれ控訴を提起した。2 前提事実、争点及び争点に関する当事者の主張は、次のとおり補正ないし補充し、3のとおり当審における当事者の追加主張を加えるほかは、原判決「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要等」の2から4まで(原判決2頁8行目から9頁4行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
⑴ 原判決4頁9行目から10行目までを次のとおり改める。「 原告各動画のうち、1審被告が被告各動画に利用している部分については、1審原告の思想又は感情の創作的表現はなく、著作物に該当しない。1審原告を映す部分と文章等を表示する部分に分けられていることや、1審原告が複数の人物にインタビューする映像に字幕が挿入されること、発言に
5 関する字幕が表示されることは、いずれもテレビ、動画等においてよく見られる表現方法であり、著作物性を肯定する理由とならない。」
⑵ 原判決5頁20行目から21行目にかけての「原告による被告に対する批判に対する反論として」を「、1審原告の発言を批評するに当たり、その発言内容を正確に伝えるために」に改める。
⑶ 原判決6頁19行目の「したがって」を「被告各動画は、1審原告の社会的評価を低下させるものではないし、1審原告と1審被告は、互いに相手方の配信動画における発言等に対抗して発言してきたのであって」に、21行目の「正当防衛」を「正当防衛(民法720条1項本文)」にそれぞれ改める。
⑷ 原判決7頁2行目から5行目までを次のとおり改める。「 原告各動画のうち1審被告が被告各動画に利用している部分が著作物であるとしても、その利用は、表現形式上の本質的な特徴を感得させないような態様において行われるものであるし、ぼかしを加え、テロップを付したのが1審被告であることは明らかであり、1審被告が作成した部分と1審原告が作成した部分とは明確に区別できるのであるから、原告各動画の同一性は失われていない。」
⑸ 原判決7頁25行目末尾を改行の上、次のとおり加える。「 1審被告が付したテロップは、原告各動画における1審原告の発言内容を踏まえたもので、何ら具体的な事実を摘示するものではなく、1審原告の社会的評価を低下させるものではない。また、1審被告の行為は、1審原告の一般的な人格的価値に関するもので、1審原告の著作物の趣旨に関するものではないから、民法上の名誉権の保護とは別に、著作者の名誉又は声望を保つ権利を保護する名誉声望保持権を侵害するものではない。」3 当審における当事者の追加主張
⑴ 1審原告の追加主張
5 ア 1審被告は、原告各動画を利用して不当に利益を受けているのであるから、被告各動画に原告各動画を利用した時間的割合に応じて、これを返還すべきである。イ 1審原告の受けた精神的苦痛の大きさに照らすと、1審被告が原告各動画の一部のみを利用したことを理由として、慰謝料を減額すべきでない。
⑵ 1審被告の追加主張ア 1審原告は、別件訴訟(千葉地方裁判所令和5年(ワ)第2498号〔本訴〕、令和6年(ワ)第1332号〔反訴〕、東京高等裁判所令和7年(ネ)第5262号)において、その一般的な人格的価値に関し、名誉毀損を理由に損害賠償の請求をしているのであるから、本件訴訟において、1審原告が1審被告に対して著作権法113条11項に基づき損害賠償の請求をすることは、二重起訴の禁止(民事訴訟法142条)に反する。イ 1審原告は、原判決を債務名義とする債権執行手続(横浜地方裁判所令和8年(ル)第972号)により元金20万円を回収していて、その範囲で1審被告の債務は消滅している。ウ 1審原告と1審被告は、自身の正当性を主張し、相手方の言動を批判する動画の配信を繰り返し、双方とも相手方の動画を自己の動画に利用してきた。本件もその一環であり、その中での出来事の一部を切り出して損害賠償の請求をすることは、権利の濫用に該当する。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も、1審原告の請求は、慰謝料20万円及びこれに対する遅延損害
金の支払を求める限度で理由があると判断する。その理由は、次のとおり補正ないし補充し、2のとおり当審における当事者の追加主張に対する判断を加えるほかは、原判決「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」の1から6まで(原判決9頁6行目から18頁2行目まで)に記載のとおりであるから、
5 これを引用する。
⑴ 原判決10頁4行目から5行目にかけての「被告の言動を批判する内容を
含むものである」を「1審被告を侮辱、揶揄したり、その人格的価値についての社会的評価を低下させたりする内容を含むものである」に、24行目の「原告の言動を批判する内容を含んでいる」を「1審原告を侮辱したり、その人格的価値についての社会的評価を低下させたりする内容を含むものである」にそれぞれ改める。
⑵ 原判決11頁13行目から23行目までを次のとおり改める。
「 原告各動画の概要は、前記1⑴ア~ウのとおりであり、これらは、1審原告の思想又は感情を創作的に表現したものとして、いずれも著作物に該当するというべきである。」
⑶ 原判決11頁24行目から12頁3行目までを次のとおり改める。
「 1審被告は、原告各動画のうち、1審被告が被告各動画に利用している部分は著作物に該当しない旨の主張をするが、当該部分においても、1審原告の思想又は感情が創作的に表現されているというべきであって、1審被告の主張は採用できない。」
⑷ 原判決13頁8行目の「前記1⑵、⑶のとおり」から9行目の「用いられ
ている上」までを「しかしながら」に、11行目の「テロップからすれば」から12行目末尾までを「テロップの内容や被告各動画における1審被告の発言内容に照らすと、被告各動画は、1審原告を侮辱したり、その人格的価値についての社会的評価を低下させたりする内容を含むもので、1審原告の名誉を毀損し、あるいは、名誉感情を害するものであると認められる。」にそれぞれ改め、13行目から14行目にかけての「著作物である原告各動画の批評等のためではなく、原告を批判するためのものであり、」を削る。
⑸ 原判決13頁26行目から14頁1行目にかけての「原告の社会的評価を
低下させ、又は名誉感情を害する目的があることがうかがわれるものであり」
5 を「1審原告の人格的価値についての社会的評価を低下させ、あるいは、そ
の名誉感情を害するものであり」に改める。
⑹ 原判決16頁24行目から25行目にかけての「被告各動画に原告の社会
的評価を低下させ、又は名誉感情を害する目的があることがうかがわれるものだとしても」を「被告各動画が、1審原告を侮辱したり、その人格的価値についての社会的評価を低下させたりする内容を含むもので、その名誉を毀損し、あるいは、名誉感情を害するものであるとしても」に改める。
⑺ 原判決17頁26行目の「であること」の次に「に加え、原告各動画のう
ち1審被告が被告各動画に利用している部分も、1審原告を侮辱、揶揄したり、その人格的価値についての社会的評価を低下させたりする内容を含むものであること」を加える。
2 当審における当事者の追加主張に対する判断
⑴ 1審原告の追加主張について
ア 1審原告は、1審被告が原告各動画を利用して不当に利益を受けている旨の主張をするが、1審被告が利益を受けたことにより、1審原告に損失が生じたことを認めるに足りる証拠はない。そもそも、1審原告は、本件訴訟において、不法行為に基づく損害賠償を請求するのであるから、不当利得の返還をいう1審
(原告の主張)
は失当である。イ 1審原告は、1審原告の受けた精神的苦痛の大きさに照らすと、慰謝料を減額すべきでない旨の主張をするが、著作者人格権の侵害によって生じた1審原告の精神的苦痛を慰謝するに足りる金額を20万円とするのが相当であることは、補正ないし補充後の原判決の説示するとおりである。
⑵ 1審被告の追加主張について
ア 1審被告は、1審原告が1審被告に対して著作権法113条11項に基づき損害賠償の請求をするのは民事訴訟法142条に反する旨の主張を
5 するが、別件訴訟は、1審原告が信用及び名誉の毀損、名誉感情の侵害
による不法行為に基づき損害賠償の請求をするものであり(乙3、4)、本件訴訟において、1審原告が1審被告に対して著作権法113条11項所定のみなし著作者人格権侵害による不法行為に基づき損害賠償の請求をすることが、民事訴訟法142条に反するとはいえない。イ 1審被告は、1審原告は原判決を債務名義とする債権執行手続により元金20万円を回収し、その範囲で1審被告の債務は消滅している旨の主張をするが、仮執行宣言付きの第1審判決に対して控訴があったとき、控訴審は、当該仮執行宣言に基づく強制執行によって給付がされた事実を考慮することなく、請求の当否を判断すべきであるから(最高裁昭和36年2月9日第一小法廷判決・民集15巻2号209頁、最高裁平成24年4月6日第二小法廷判決・民集66巻6号2535頁参照)、1審
(被告の主張)
は採用できない。ウ 1審被告は、1審原告が1審被告に対して損害賠償の請求をすることは権利の濫用に該当する旨の主張をするが、1審
(被告の主張)
を考慮しても、これが権利の濫用に該当するとまでは認められない。
3 結論
以上によれば、原判決は相当であり、1審原告及び1審被告の本件各控訴は理由がないから、これらをいずれも棄却することとして、主文のとおり判決する。知的財産高等裁判所第2部裁判長裁判官森 冨 義 明裁判官菊 池 絵 理裁判官頼 晋 一
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