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令和8(行ケ)10029審決取消請求事件

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裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所
裁判年月日 令和8年9月30日
事件種別 民事
当事者 原告信濃化学工業株式会社
被告三信化工株式会社
対象物 樹脂製食器を成形する製造方法
法令 特許権
特許法36条6項2号1回
特許法36条6項1号1回
キーワード 審決11回
実施9回
無効6回
特許権2回
無効審判2回
訂正審判1回
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 本件は、原告が、特許権者である被告に対し、特許無効審判請求を不成立と した審決の取消しを求める事案である。

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判決文

令和8年9月30日判決言渡

令和8年(行ケ)第10029号 審決取消請求事件

口頭弁論終結日 令和8年8月3日

判 決

原 告 信濃化学工業株式会社

同訴訟代理人弁理士 黒 田 博 道

被 告 三 信 化 工 株 式 会 社

同訴訟代理人弁理士 鹿 角 剛 二

飯 田 隆

奥 貫 佐 知 子

小 嶋 俊 之

吉 田 邦 久

主 文

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求

特許庁が無効2025-800038号事件について令和8年3月23日にした審決を取り消す。

第2 事案の概要

本件は、原告が、特許権者である被告に対し、特許無効審判請求を不成立とした審決の取消しを求める事案である。1 特許庁における手続の経緯等(当事者間に争いがないか、又は当裁判所に顕著な事実)

⑴ 被告は、平成17年5月16日、発明の名称を「樹脂製食器を成形する製造方法」(発明の名称は後記訂正後のもの)とする発明について、特許出願(特

5 願2005-142479号)をし、平成23年2月18日、特許権の設定登録(特許第4683413号。請求項の数2。以下、この特許を「本件特許」という。)を受けた。その後、被告は、令和5年8月7日、本件特許について、訂正審判を請求し、この請求を認容する審決が確定した(訂正2023-390103号。以下、この訂正を「本件訂正」という。)。

⑵ 原告は、令和7年5月9日、本件特許につき、被告を被請求人として、無効審判を請求した(無効2025-800038号)。

⑶ 特許庁は、令和8年3月23日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は、同月30日、原告に送達された。

⑷ 原告は、同年4月23日、本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。2 特許請求の範囲及び明細書の記載本件特許に係る本件訂正後の特許請求の範囲の記載は、以下のとおりであり(以下、請求項の番号に応じて「本件発明1」等といい、これらを併せて「本件各発明」という。)、明細書及び図面(以下、併せて「本件明細書」という。)の記載は、甲4(特許公報)及び甲5(本件訂正に係る審決)に記載のとおりである(以下、その段落番号等を【】で示す。)。【請求項1】上方に拡径すると共に食品が直接収容される積み重ね可能な椀型又は皿型の樹脂製食器において前記樹脂製食器を積み重ねた際に上方の樹脂製食器の糸尻が直接接触する部位を含む内表面積の30%以上に相当する金型表面の全面に、エッチング法によって断面視で滑らかな曲線を描いて凹凸が形成されているしぼ加工した金型を用いて、射出成形法によって皮しぼ又は梨地と呼ばれる凹凸を備えた樹脂製食器を成形する製造方法。【請求項2】

5 前記樹脂製食器を構成する樹脂が、ポリプロピレン、ポリカーボネートおよびポリエチレンナフタレートから選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂製食器を成形する製造方法。3 本件審決の理由の要旨本件審決の理由の要旨は、次のとおりである。

⑴ 無効理由1(サポート要件違反)について請求項1に記載の「前記樹脂製食器を積み重ねた際に上方の樹脂製食器の糸尻が直接接触する部位を含む内表面積の30%以上に相当する金型表面の全面に、エッチング法によって断面視で滑らかな曲線を描いて凹凸が形成されているしぼ加工した金型を用いて、射出成形法によって皮しぼ又は梨地と呼ばれる凹凸を備えた」との事項は、発明の詳細な説明に記載されていることは明らかであるところ、当該事項を有することによって、本件発明1の課題を解決できると認識することができる。そうすると、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明により当業者が本件発明1の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということができ、本件発明1についてサポート要件違反はない。また、本件発明1を引用する本件発明2は、本件発明1を特定するための事項を全て含み、本件発明1を更に減縮したものであるから、本件発明1と同様の理由により、本件発明2についてもサポート要件違反はない。

⑵ 無効理由2(明確性要件違反)について請求項1に「皮しぼ又は梨地と呼ばれる凹凸を備えた樹脂製食器」との事項が記載されているところ、凹凸について、「皮しぼ又は梨地」と呼ばれる程度の多数の微細な凹凸であると理解できる。そして、「皮しぼ」及び「梨地」の用語は、微細な凹凸を付した合成樹脂等の外観的な表面状態を示す技術用語として一般的に使用されるものであって、当業者において、皮しぼ又は梨地と呼ばれる凹凸がどのような凹凸であるかそのサイズ等も含め普通に理解

5 することができる。そうすると、請求項1に記載の「皮しぼ又は梨地と呼ばれる凹凸を備えた樹脂製食器」との事項について、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえないから、本件各発明に明確性要件違反はない。

第3 原告主張の審決取消事由

1 取消事由1(サポート要件の判断の誤り)

請求項1には、「内表面積の30%以上に相当する金型表面に凹凸を備える」との趣旨の事項が記載されているが、本件明細書の実施例1においては、「内表面積の100%に相当する金型表面に凹凸を備える」場合について確認されたのみであり、「内表面積の30%に相当する金型表面に凹凸を備える」場合についての具体的確認はされていないから、課題が解決できるか否かが不明である。また、「内表面積の30%に相当する金型表面に凹凸を備える」としたときには、内表面積の30%に傷が観察されず、70%に傷が観察されることとなり、樹脂製食器全体として耐傷つき性が向上したとはいえない。そうすると、本件各発明は、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないから、特許法36条6項1号のサポート要件に違反する。

2 取消事由2(明確性要件の判断の誤り)

請求項1には、金型表面に凹凸を設けることが記載され、この凹凸によって耐傷つき性が向上するものであるとして、具体例が実施例1として記載されている。しかし、実施例1においては、「食器内面全面に…しぼ加工を施した金型を用いて」と記載されているのみであり、金型表面に対する凹凸の密度又は個数が記載されていないから、本件各発明の課題を解決できるか否かを確認することができない。また、「しぼ」のサイズは一定ではなく、一般的なサイズを理解することができない。したがって、本件各発明は明確であるとはいえず、特許法36条6項2号の明確性要件に違反する。

第4 被告の反論

5 1 取消事由1(サポート要件の判断の誤り)について

本件各発明の発明特定事項は、発明の詳細な説明の記載を反映したものであり、これにより製造した樹脂製食器が課題を解決できることについて発明の詳細な説明の全般にわたり記載されている。また、本件各発明の効果等に照らせば、「内表面積の30%以上」という数値範囲に臨界的な意義があるわけではなく、望ましい範囲を示すものにすぎない。したがって、本件各発明は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであることが明白であり、サポート要件に違反しない。

2 取消事由2(明確性要件の判断の誤り)について

「皮しぼ」及び「梨地」の用語は、微細な凹凸を付した合成樹脂等の外観的な表面状態を示す技術用語として一般的に使用されるものであり、当業者にとって、どのような凹凸を「皮しぼ」あるいは「梨地」と呼ぶのかについて明確に理解できるものである。したがって、本件各発明は明確性要件に違反しない。

第5 当裁判所の判断

1 本件各発明の概要

本件各発明に係る特許請求の範囲及び本件明細書の記載(前記第2の2)によれば、本件各発明の概要は以下のとおりであると認められる。

⑴ 技術分野

本件各発明は、表面がしぼ加工され耐傷つき性が改善された樹脂製食器を成形する製造方法に関するものである(【0001】)。

⑵ 背景技術

学校、病院や企業の社員食堂など大規模に給食する施設では、食器として樹脂製食器が多く使用されているが、樹脂製食器は表面が傷つきやすいため、樹脂性食器を洗浄や乾燥するとき、貯蔵や運搬するときなど、食器の内表面と外表面が触れ合う結果、食器表面に細かい傷が生じやすい。そのためその

5 傷による汚れや、食品成分が傷に浸透することによる汚れが目立ってくると

いう問題がある。そのため、樹脂製食器表面の耐傷つき性を改善するために、樹脂表面をコート剤でコーティングする方法があるが、従来のコーティングでは、厳しい使用環境に耐える接着強度を得るのが困難であるので、耐傷つき性改善の方法としては採用できなかった。(【0002】~【0005】)

⑶ 本件各発明が解決しようとする課題

本件各発明は、軽量で割れにくく、形状及び品質が均質なものを安価で入手し得るという樹脂製食器の利点を維持しながら、その表面の耐傷つき性が改善された樹脂製食器を成形する製造方法を提供するものである(【0006】)。

⑷ 課題を解決するための手段

本件各発明は、上方に拡径するとともに食品が直接収容される積み重ね可能な椀型又は皿型の樹脂製食器において、樹脂製食器を積み重ねた際に上方の樹脂製食器の糸尻が直接接触する部位を含む内表面積の30%以上に相当する金型表面の全面に、エッチング法によって断面視で滑らかな曲線を描いて凹凸が形成されているしぼ加工した金型を用いて、射出成形法によって皮しぼ又は梨地と呼ばれる凹凸を備えた樹脂製食器を成形する製造方法を提供するものである(【0007】)。

⑸ 本件各発明の効果

本件各発明により、軽量で割れにくく、形状及び品質が均質なものを安価で入手し得るという樹脂製食器の利点を維持しながら、その表面の耐傷つき性が改善された樹脂製食器が提供される。本件各発明によれば、樹脂製食器の少なくとも内表面にしぼ加工が施されているので、食器同士が接触しても、内面に傷が生じにくいため、その結果食器内面に傷による汚れや、食品成分が傷に浸透することによる汚れが生じにくい樹脂製食器が提供される。(【0012】)

5 ⑹ 本件各発明を実施するための最良の形態

本件各発明は、表面にしぼ加工が施された樹脂製食器を成形する製造方法を提供するものである。樹脂製食器において、食器同士が接触して内面に傷が生じ、傷による汚れや食品成分が傷に浸透することによる汚れを生じにくくするという観点からは、少なくとも内表面にしぼ加工を施す。本件各発明において、「しぼ加工」とは、表面に多数の微細な凹凸を形成させることをいう。本件各発明のしぼは、通常皮しぼとか梨地と呼ばれる表面の凹凸である。凹凸のうち滑らかな曲線を描く凹凸は、本件各発明のしぼの態様である。(【0013】、【0014】)本件各発明の樹脂製食器は、通常調理済食品を収容して食事に供される器をいい、その目的に使用される形状であって、椀型又は皿型である(【0015】)。本件各発明によって成形される樹脂製食器の態様においては、少なくとも内表面にしぼ加工が施されている。しぼ加工は、内表面積の30%以上に施されていればよく、内表面全面に施されていてもよい。表面の耐傷つき性が改善されるという目的のためには、内表面のほぼ全面にしぼ加工が施されているのが好ましい。樹脂製食器の内表面の一部にしぼ加工を施す場合、食器底部を中心に施すのが効果的である。食器を積み重ねるとき、食器底部の内表面は、上方の食器の糸尻と当接して傷がつきやすいからである。(【0016】、【0017】)本件各発明において、しぼ加工として表面に多数の微細な凹凸が形成されるが、微細な凹凸の形態によっては、凹凸間に浸透した食品成分が残留することによって汚れが生じる結果となるので、食品成分が残留しない程度にしぼ加工を調節することが好ましい。しぼ加工の調節は、凹凸の密度や大きさを変更するなどの設計変更をすることにより行うことができる。しぼ加工による凹凸の高さは適宜選択することができるので制限はないが、15~20

5 μm程度であれば良好な効果が得られる。(【0018】)

⑺ 実施例

食器内面全面に当たる金型箇所にしぼ加工を施した金型を用いて、ポリエチレンナフタレート樹脂を射出成形して椀型食器を製造した。得られた樹脂製食器について、耐傷つき性試験と耐汚染性試験を行ったところ、耐傷つき性試験では内外面ともに傷は観察されず、本件各発明の食器の優れた耐傷つき性が確認された。(実施例1。【0027】~【0032】)

⑻ 産業上の利用可能性

本件各発明によって、学校、病院や企業の社員食堂など大規模に給食する施設において、耐傷つき性が改善された食器として安心して使用できる樹脂製食器が提供される(【0033】)。

2 取消事由1(サポート要件の判断の誤り)について

⑴ 原告は、前記第3の1のとおり、本件明細書の実施例1において、

「内表面積の30%に相当する金型表面に凹凸を備える」場合についての具体的確認はされていないから、課題が解決できるか否かが不明であると主張する。しかし、本件明細書の実施例の記載によれば、食器内面全面に当たる金型箇所にしぼ加工を施した金型を用いて成形した樹脂製の椀型食器において、優れた耐傷つき性が確認されている(前記1⑺)。そして、本件各発明の特許請求の範囲及び本件明細書によれば、本件各発明の樹脂製食器における皮しぼ又は梨地と呼ばれる凹凸は、樹脂製食器を積み重ねた際に上方の樹脂製食器の糸尻が直接接触する部位を含む内表面積の30%以上に設けられるものであり、これは、耐傷つき性を高めるためには、皮しぼ又は梨地と呼ばれる凹凸を内表面のほぼ全面に施すのが好ましいとしつつも(【0016】)、食器を積み重ねるときには食器底部の内表面は上方の食器の糸尻と当接して傷がつきやすいことから、樹脂製食器の内表面の一部にしぼ加工を施す場合には食器底部を中心に施すのが効果的であることによるものとされている(【0

5 017】)。そうすると、

「内表面積の30%以上」との数値範囲は、一つの目安として、糸尻が直接接触する部位を含む内表面積の30%という数値が設定されたものにすぎないと解されるから、実施例1において「内表面積の30%に相当する金型表面に凹凸を備える」場合についての具体的確認がされていないからといって、本件各発明の課題(前記1⑶)が解決できることを認識できないとは認められない。

⑵ また、原告は、

「内表面積の30%に相当する金型表面に凹凸を備える」としたときには、内表面積の70%に傷が観察されることとなり、樹脂製食器全体として耐傷つき性が向上したとはいえないと主張する。しかし、上記のとおり、本件各発明は、食器を積み重ねるとき、食器底部の内表面は上方の食器の糸尻と当接して傷がつきやすいことから、積み重ねた際に上方の樹脂製食器の糸尻が直接接触する部位を含む内表面積の30%以上に設けられるものであり、糸尻が直接接触する傷のつきやすい部位を含む30%の範囲について耐傷つき性が向上すると認められる。そして、その余の内表面は比較的傷がつきにくい部位であるから、この部位において耐傷つき性が向上することがないとしても、樹脂製食器を全体としてみた場合の耐傷つき性が向上するという作用効果が否定されるわけではない。

3 取消事由2(明確性要件の判断の誤り)について

⑴ 原告は、前記第3の2のとおり、金型表面に対する凹凸の密度又は個数が

記載されていないから、本件各発明は明確であるとはいえないと主張する。しかし、証拠(甲7~10)によれば、「皮しぼ」や「梨地」との用語は、皮のような感触の又は多少の凹凸を持つつや消し状態とされた表面状態を意味する用語として当業者に知られた用語であると認められる。そして、本件明細書によれば、「しぼ加工」とは表面に多数の微細な凹凸を形成させることをいい、通常皮しぼとか梨地と呼ばれる表面の凹凸であるとされているから(【0014】)、本件各発明の特許請求の範囲における「皮しぼ又は梨地と呼

5 ばれる凹凸」とは、これらの当業者に知られた「皮しぼ」又は「梨地」と呼

ばれる多数の微細な凹凸を意味すると理解される。そうすると、特許請求の範囲に凹凸の密度又は個数が記載されていないとしても、その記載が第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。

⑵ また、原告は、

「しぼ」のサイズは一定ではなく、一般的なサイズを理解することができないと主張する。しかし、上記のとおり、本件各発明の特許請求の範囲における「皮しぼ又は梨地と呼ばれる凹凸」とは、当業者に知られた「皮しぼ」又は「梨地」と呼ばれる多数の微細な凹凸を意味すると理解されるから、「しぼ」のサイズが一定でないからといって、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。

4 結論

以上のとおり、原告が主張する取消事由はいずれも理由がない。よって、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。知的財産高等裁判所第4部裁判長裁判官長 谷 川 浩 二裁判官

5 伊 藤 清 隆

裁判官諸 岡 慎 介

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