ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 令和7(ワ)70231 不正競争行為差止請求事件
| 裁判所 | 請求棄却 東京地方裁判所 |
|---|---|
| 裁判年月日 | 令和8年8月7日 |
| 事件種別 | 民事 |
| 当事者 | 原告医療法人社団修恵会 被告医療法人社団鶴会 |
| 法令 | |
| キーワード | 差止2回 実施1回 侵害1回 |
| 主文 | 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
| 事件の概要 | 本件は、医療法人社団として、 「新小平クリニック」という名称の診療所(以下 「原告クリニック」という。 )を経営し、別紙原告表示目録記載の標章(以下「原告 表示」 という。 ) を原告の営業を示す表示として使用する原告が、 医療法人社団とし て、 「新小平駅前クリニック」という名称の診療所(以下「被告クリニック」とい う。 ) を経営し、 被告表示を被告の営業を示す表示として使用する被告に対し、 |
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令和8年8月7日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
令和7年(ワ)第70231号 不正競争行為差止請求事件
口頭弁論終結日 令和8年6月1日
判 決
原 告 医療法人社団修恵会
同訴訟代理人弁護士 大 熊 裕 司
同 島 川 知 子
被 告 医療法人社団鶴会
同訴訟代理人弁護士 西 村 國 彦
同 前 山 慶 斗
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
被告は、東京都小平市 (住所は省略) に開設するクリニックの営業について、別紙被告表示目録記載の表示(以下「被告表示」という。)を用いてはならない。
第2 事案の概要等
本件は、医療法人社団として、「新小平クリニック」という名称の診療所(以下「原告クリニック」という。)を経営し、別紙原告表示目録記載の標章(以下「原告表示」という。)を原告の営業を示す表示として使用する原告が、医療法人社団として、「新小平駅前クリニック」という名称の診療所(以下「被告クリニック」という。)を経営し、被告表示を被告の営業を示す表示として使用する被告に対し、周知な営業表示である原告表示と類似する被告表示を使用する被告の行為が不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項1号所定の不正競争(混同惹起行為)に当たると主張して、同法3条1項に基づく侵害停止・予防請求権として、被告が被告クリニックの所在地に開設するクリニックの営業について被告表示を使用することの差止めを求める事案である。1 前提事実(争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実。)
(1) 当事者ア 原告は、医療法人社団であり、平成21年6月から、肩書住所地において原告表示を使用して原告クリニックを経営している。(甲1、乙3)イ 被告は、医療法人社団であり、令和6年12月から、東京都小平市(住所は省略) において、被告表示を使用して被告クリニックを経営している。(甲2、乙2)
(2) 原告クリニック及び被告クリニックの診療内容、休診日等ア 原告クリニックが標榜する診療科は、内科、皮膚科、心療内科・精神科、アレルギー科、漢方内科、糖尿病外来等であり、休診日は土曜日午前と日曜日である。(甲1、乙3)イ 被告クリニックが標榜する診療科は、内科、循環器内科、呼吸器内科、消化器内科、アレルギー科(花粉症)、歯科(口腔ケア)、予防接種、健康診断、睡眠時無呼吸症候群、自由診療(にんにく注射)等であり、休診日は水曜日、日曜日及び祝日である。(甲2、乙2)2 争点
(1) 原告表示の周知性
(2) 被告表示と原告表示の類似性及び混同のおそれ
(3) 不競法19条1項1号の適用除外事由の有無3 争点についての当事者の主張
(1) 争点(1)(原告表示の周知性)について(原告の主張)ア 不競法2条1項1号の「需要者の間に広く認識されている」という要件は、全国的な認知である必要はなく、特定地域や特定需要者層における周知性で足りると解されている。イ 原告クリニックは、開設以来15年以上にわたり、東京都小平市所在の新小平駅(JR武蔵野線。以下、単に「新小平駅」という。)から徒歩2分の肩書住所地において、一貫して、原告表示を使用している。原告クリニックの診療実績は年間延べ3万人以上であり、再診患者の割合は8、9割である。このように、原告クリニックは、開設当初から、地域の内科、皮膚科、心療内科をワンストップで担う医療拠点として機能し、地域住民からとして広く信頼される中核的医療機関として定着している。また、原告は、原告クリニックの開設と同時期にウェブサイト(甲1、乙3。以下「原告ウェブサイト」という。)を開設し、検索エンジンのGoogleで「新小平 クリニック」又は「小平 クリニック」と入力すると、同ウェブサイトが検索結果の最上位に表示される。さらに、医療専門ポータルサイトには、原告クリニックに関する患者の口コミが26件掲載されているところ、その平均評価は4.42であり、Googleマップにおける原告クリニックの評価(116件)の平均は3.7である。ウ 株式会社インテージ(以下「本件調査会社」という。)が令和7年3月6日から同月10日にかけて、小平市、東村山市、国分寺市の住民1068人を対象に行ったオンライン調査に関する同年4月21日付けの報告書(甲7。以下「本件調査報告書」という。)によれば、小平市在住の回答者535人のうち126人(23.6%)が「新小平クリニックを知っている/聞いたことがある」と回答しており、過去10年以内に新小平駅周辺で勤務・通学・買物・居住等の経験がある375人のうち112人(29.9%)が同様の回答をしている。なお、本件における主要需要者層は、日常的に新小平駅周辺で診療所を選択・利用する地域住民であるところ、上記375人は、このうち核心をなす層である。ウ 以上のとおり、15年以上にわたる継続的かつ一貫した使用、診療実績と地域医療への貢献、オンライン検索結果における恒常的な上位表示と多数の高評価、本件調査報告書により裏付けられる高い認知度を総合的に評価すれば、原告表示は、単なる地名と普通名称の組合せを超えた、原告の特定の医療サービスを識別する出所表示としての第二次的な意味を確立しており、需要者の相当多数が原告の営業を表示するものとして明確に認識している営業表示、すなわち、周知性を有する営業表示であることは明白である。(被告の主張)ア 原告表示は、「新小平」という駅名に「クリニック」という普通名称を組み合わせたものであり、標記上の特徴は全くないに等しいから、原告表示の識別力は極めて弱い。イ 原告クリニックに患者として訪れる新規の顧客は1日当たり10~20人程度であると推定されるところ、小平市の人口が約20万人であり、新小平駅の乗車人員のみでも1日1万人を超えることからすれば、上記の程度の患者数から原告表示の周知性が裏付けられているものとは到底いえない。ウ 小平市は上記のとおり約20万の人口を擁し、市内に鉄道駅が7駅あるところ、新小平駅は主要な駅であるとはいえ、小平市民のごく一部の住民が利用するにすぎない。にもかかわらず、本件調査報告書において、小平市に在住する回答者535人のうち、「新小平駅周辺に関りがある」者は375人(約7割)に上ることから、同報告書は新小平駅周辺に焦点を当てた恣意的な情報収集をしたものである可能性が高い。また、本件調査報告書において、原告表示を認識しているか否かは、対象者に「あなたは『新小平クリニック』をご存じですか。」と質問し、「はい」と答えるか否かで判別しているところ、これは、原告クリニックの近傍に居住等する者が、原告表示のような名称のクリニックを見たり聞いたりしたことがあるかと具体的名称を示して聞かれて肯定したというだけであり、その割合が2割から3割程度存在するからといって、取り立てて周知性を示すものとはいえない。
(2) 争点(2)(被告表示と原告表示の類似性及び混同のおそれ)について(原告の主張)ア 外観の類似性について原告表示と被告表示は、最も注意を引く主体部であり、原告の周知な営業表示そのものである「新小平クリニック」の文字列を完全に共通にしている。被告表示において付加された「駅前」の語は、原告の周知表示に付記された地理的説明にすぎず、これによって全体的印象が大きく変わるものではない。イ 称呼の類似性について日常会話や口コミでは「駅前」が省かれることが多く、そのため「新小平駅前クリニック」という被告表示はしばしば「新小平クリニック」と略称される。他方、原告表示の称呼はもともと「新小平クリニック」であるため、両者の称呼は完全に重複する。ウ 観念の類似性について需要者が両表示から受け取る主要や意味内容は、「新小平地区にあるクリニック」という一点に収束するのであって、被告表示のうち「駅前」とは単なる位置説明にすぎない。そして、原告表示に「駅前」という場所を示す語が付加されることにより、需要者は、原告クリニックが駅前に新たな施設を開設した、あるいは駅前に移転したのではないかといった、両者の営業主体間に何らかの組織的・経済的関連性があるという印象を抱く。エ 混同のおそれについて原告クリニックと被告クリニックは、距離が約270メートルと極めて近接しており、徒歩3、4分で相互に到達できる。また、共通して内科と皮膚科を診療科目として掲げており、診療時間帯もほぼ同一であるため、通勤・通学で新小平駅を利用する患者層が重複し、上記原告表示と被告表示の類似性と相まって、新小平駅周辺で医療機関を探す患者に、両クリニックの営業主体について誤認混同を生じさせる危険性が高い。本件調査報告書でも、小平市在住の回答者494人のうち40人(8.1%)が「両クリニックは同じ経営母体の系列病院である。」と回答し、このうち33人は誤認理由として名称の類似を挙げている。また、「新小平駅周辺と日常的に接点を持つ層」(522人)のうち48人(9.2%)が両クリニックを系列病院であると誤認しており、このうち多数が誤認理由として名称の類似性を挙げている。加えて、上記小平市在住の回答者の中には、被告クリニックを原告クリニックの分院だと誤認した上で、被告クリニックの方に行ってみると回答した者も13人存在しており、具体的な損害発生の危険性がある。実際にも、被告クリニックの開設以来、原告クリニックの受付窓口や代表電話には、原告クリニックが駅前に移転したのか等という問合せが寄せられている。さらに、検査会社や高度医療機関が原告クリニックと被告クリニックを取り違える、原告クリニックでインフルエンザの予防接種を予約した患者が誤って被告クリニックで接種してしまう、という事例も現実に起きている。被告は、上記のとおり、原告クリニックから至近距離に、原告表示と要部を同一にする名称で、原告の主要診療科目(内科等)を重複するクリニックを開設したのであって、これは地域住民(需要者)が長年抱いてきた原告クリニックへの親近感や信頼を不当に利用し、顧客を誘引しようとする「ただ乗り(フリーライド)」の意図が推認される態様である。オ 小括したがって、被告による被告表示の使用行為は、不競法2条1項1号の混同惹起行為に該当する。(被告の主張)ア 被告表示と原告表示の非類似原告表示と被告表示に共通する部分は、「新小平」という駅名及び「クリニック」という普通名称であり、これらの部分はいずれも識別力を欠く。そして、被告表示は「駅前」という語を付することによって原告表示と明確に区別されており、そのようなものとして需要者に認識させることができる。したがって、原告表示と被告表示との類似性は否定されるべきである。イ 混同のおそれがないこと原告クリニックと被告クリニックは、複数の標榜科目のうち「内科」及び「アレルギー科」のみが重複しているほかは診療内容が異なっており、原告クリニックは、「身体の不調と心の不調を同時に治療できるクリニック―漢方治療も行います―」との文言を特に標榜して営業をしている一方で、被告クリニックはここに言及される精神科及び心療内科や漢方内科を標榜しておらず、焦点化している診療内容が異なる。また、所在地自体も全く別個で道なりのルートでは約300メートル離れている上、両クリニックの診療時間はいずれもごく一般的なものであって特徴がない。さらに、本件調査報告書において原告クリニックと被告クリニックとが同じ経営母体が運営する系列病院であると思うかという質問に対して、肯定した回答者は1割にも満たない。また、原告クリニックと被告クリニックの名称のみを並列に提示した際に、仮に本院や分院の関係性にあると一定の割合の者が想起したとしても、当然、需要者たる患者は名称以外の要素も含めて両者の関係性の判断をするから、需要者において混同のおそれが生じることにはならない。また、原告の主張に基づくとしても、患者において、原告クリニックと被告クリニックとを誤認した事例は月平均1~2件にすぎず、延べ患者数を基にすれば、その割合はわずか約0.06%(母数を初診患者としても約0.42%)であって、原告クリニックと被告クリニックを誤認混同した者が存在するとしても、ごく例外的な極めてまれな例である。なお、被告において被告クリニックの名称を考案した際、原告クリニックの知名度を利用する意図はなく、その理由もない。したがって、需要者が原告クリニックと被告クリニックを混同するおそれは存在しない。
(3) 争点(3)(不競法19条1項1号の適用除外事由の有無)について(被告の主張)ア 被告表示のうち、「新小平」あるいは「新小平駅」は、乗車人員が1日1万人を超える小平市ないし多摩地域の主要駅の一つである新小平駅の名称である。そして、被告クリニックは、新小平駅の駅前ロータリーの脇に所在しており、目の前の改札口から徒歩1分も要しないのであって、「駅前」という表記は、被告クリニックの客観的な所在地・位置を表すものにすぎない。さらに、「クリニック」という名称は、診療所や個人病院といった比較的小規模の医療機関を意味する英単語をカタカナに置き換えたものであり、国内において診療所を表す普通名称として一般的に広く用いられている。イ 不競法19条1項1号の趣旨は、普通名称等が特定人の独占使用になじまず、また自他識別機能がない点にあるところ、地名又は地名に準ずる名称についても、同号の適用除外規定が適用されるべきである。東京地方裁判所平成16年3月5日判決・判タ1160号259頁(以下「セイジョー事件判決」という。)は、営業の普通名称に店舗等の所在地の地名を付した営業表示は、本来的に特定人の独占になじまないものであることを指摘し、かかる営業表示は、特定人が長年にわたり使用し続けることにより、需要者において当該特定人の営業を表示するものとして広く認識されるに至っているなど特段の事情がない限り、これを普通に用いられる方法で使用する行為は、不競法12条1項1号(平成17年法律第75号による改正前の条文)の趣旨に照らし、同法2条1項1号所定の不正競争行為に当たらないと判示した上で、東京都世田谷区成城に所在する薬局である「成城調剤薬局」について、「調剤薬局」という普通の営業名称に、所在地である「成城」の地名を関した表示について、薬局の名称として、看板や店舗入口等に普通に用いられる方法(一般取引上普通に行われる態様)で使用されていることを認定し、同号所定の不正競争行為に当たらないとの判断を示した。ウ 本件における被告表示は、前記アのとおり、診療所としての営業の普通名称である「クリニック」、著名かつ主要な駅名である「新小平」ないし「新小平駅」及び客観的な場所を表す「駅前」の語を組み合わせたにすぎない一般的なものである。また、被告表示は、診療所の名称として、看板や店舗入口、被告クリニックのウェブサイト上で使用されているものであり、使用方法も診療所としての一般取引上普通に行われる態様である。他方で、原告表示も、単に「新小平」という駅名に「クリニック」という診療所としての普通名称を組み合わせたものにすぎず、使用開始から15年程度しか経過しておらず、しかも原告クリニックが通常の個人医院の規模を出ないことからすれば、需要者において、原告表示が原告の営業を表示するものとして広く認識されるに至っているといった特段の事情は認められない。エ 以上より、被告による被告表示の使用は、不競法19条1項1号の適用、又はその趣旨に照らし、同法2条1項1号所定の不正競争行為に当たらない。(原告の主張)ア 地名と普通名称を組み合わせた表示であっても、「サッポロビール」のように、長年の使用により特定の出所表示として需要者に広く認識されるに至った場合は、もはや適用除外の対象とならない。原告表示は、前記のとおり、単なる駅名と業種名の組合せを超え、原告の医療サービスを示す出所表示として確立されているから、セイジョー事件判決のいう「特段の事情」が認められる。イ 不競法19条1項1号において、ある表示が「普通名称」に当たるか否かは、抽象的に文字面のみから決せられるものではなく、その用法、使用時期における経済的社会的背景、当該表示と役務との関連、取引の実質的関係等の相関関係において具体的に判断されるべきであるところ、「新小平駅前クリニック」という表示が地理的に正確であることのみをもって、直ちに同号の適用除外が認められるものではない。本件において、被告表示は、単なる所在地説明として散発的に用いられているのではなく、検索結果、予約、紹介、検査、配送等の各場面において、被告クリニックの営業主体を示す名称として継続的に用いられている。しかも、原告表示が地域需要者の間に認識されている状況の下で、被告表示は「新小平」及び「クリニック」という需要者の注意を最も惹く部分を共通にしており、現実に、移転、分院、系列等の誤認混同を継続的に生じさせている。このように、被告表示の使用は、単なる記述的表示の普通使用にとどまるものではない。
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
前提事実、証拠(各項に掲げるもの)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(1) 原告クリニック及び被告クリニックの所在、各ウェブサイトの記載内容等
ア 原告クリニック原告クリニックは、新小平駅の北西に位置する住宅街の中にあり、外観は住宅風の戸建てである。駅からの距離は徒歩2分程度である。原告ウェブサイトのトップページには、原告表示や原告クリニックのロゴ、電話番号等と共に、「身体の不調と心の不調を同時に治療できるクリニック―漢方治療も行います―」という文句が大きく表示され、その下に「内科」、「皮膚科」、「心療内科」、「精神科」、「漢方」、「アレルギー科」、「糖尿病」、「泌尿器科」という診療科目がこの順に並んで表示されている。原告クリニックにおいて、派遣医師が診療する金曜日以外の診療日は、原告代表者(原告クリニックの院長)が診療に当たっている。検索エンジン「Google」においては、「新小平 クリニック」又は「小平 クリニック」との語で検索すると、原告ウェブサイトが最上位の結果として表示される。また、原告クリニックは、医療機関の口コミサイトである「Calоо(カルー)」におけるレビュー数26件中、平均評価が4.42(5段階)であり、Googleマップにおけるレビュー数116件中、平均評価が3.7(同上)である。(以上につき、甲1、3~6、乙3)イ 被告クリニック被告クリニックは、新小平駅の改札口(南向き)の正面にあるロータリーに位置するビルの1階に所在し、改札口からの距離は徒歩1分程度である。被告クリニックのウェブサイトには、診療内容として、内科、循環器内科、呼吸器内科、消化器内科、アレルギー科(花粉症)、その他、歯科(口腔ケア)、予防接種、健康診断、睡眠時無呼吸症候群、季節の症状、オンライン診療、自由診療(にんにく注射)がこの順に並んで表示されている。(以上につき、甲2、8、乙2)
(2) 本件調査報告書の内容
ア 調査概要本件調査報告書は、「名称の誤認混同に関する調査 報告書」という表題で原告及び原告代理人事務所宛に提出されたものであり、本件調査会社が、
①原告クリニックの名称の周知性、②原告クリニックと被告クリニックの名
称の誤認混同をテーマとして(以下、それぞれ、「テーマ①」及び「テーマ②」という。)、同社の調査母体から、小平市、東村山市、国分寺市に在住する15歳~89歳の男性及び女性を抽出し、オンラインでのアンケート回答を依頼して実施したものである。質問は全8問で構成され、性別、年齢を尋ねる質問(Q1、2)及び自身で病院を選択できないと思われる回答者を除外する旨の質問(Q8)のほかは、概要、以下のとおりである。Q3:(原告表示及び被告表示を示した上で、)この2つのクリニックは、同じ経営母体が運営する系列病院だと思いますか。Q4:(Q3で「はい」という肢を選択した回答者に対し、)なぜそのように思いましたか。もっとも近いと思う回答をお選びください。Q5:(原告クリニックが開業10年程度であること及び被告クリニックが新規開業したことを述べた上で、)仮にあなたが『新小平クリニック』に通院している患者だとしてお答えください。新しくできた『新小平駅前クリニック』が、『新小平クリニック』の分院(関連施設)かどうかを判断した上で、今後あなたならどのように対応するか、最も近いものをお選びください。Q6:あなたは『新小平クリニック』をご存じですか。Q7:過去10年以内の新小平駅との関わりについてお聞かせください。なお、テーマ②について、Q6において自分自身や家族の付き添いで通院・受診の経験があると答えた回答者は、原告クリニックと被告クリニックとの関係を知っている可能性があるとの理由により、Q3~5の集計から除外された。イ 調査結果テーマ①に関し、小平市に在住している回答者(以下「小平市在住者」という。)535人のうち126人(23.6%)、及び、小平市在住者のうちQ7において過去10年以内に「最寄り駅が新小平駅のエリアに居住している/居住していた」、「新小平駅周辺に行くことがある/行ったことがある」と回答した者(以下「新小平駅利用者」という。)375人のうち112人(29.9%)が、Q6に対して、自分自身や家族の付き添いで通院・受診の経験がある、又は、病院名は知っているもしくは聞いたことがある(原告クリニックを認知している)と回答した。また、テーマ②に関し、小平市在住者494人のうち40人(8.1%)、及び、新小平駅利用者522人のうち48人(9.2%)が、Q3に対し、系列病院であると思うと回答し、そのうちいずれも33人が、Q4に対し、「似たような病院名だから」等の病院名を理由とする肢を選択した。さらに、小平市在住者のうち82人(16.6%)、及び、新小平駅利用者のうち92人(17.6%)が、Q5に対し、分院だと思うと回答した。
(3) 原告クリニックの患者数等
令和4年1月~令和7年9月における原告クリニックの患者数は毎月約2300人~3200人であり、令和4年~令和6年の年間延べ患者数の平均は3万3082人である。また、そのうちの8、9割が再診患者である。(甲9)
2 争点(2)(被告表示と原告表示の類似性及び混同のおそれ)について
事案に鑑み、まず、争点(2)について判断する。
(1) 原告表示と被告表示との対比
ア 原告表示は、「新小平」と「クリニック」から構成されている一方、被告表示は、「新小平」、「駅前」、「クリニック」から構成されている。両表示を比較すると、「新小平」及び「クリニック」は共通するが、被告表示は、「駅前」が付加されている点において異なる。上記共通部分のうち、「新小平」という表記部分は診療所の所在地を示すものであること、「クリニック」は診療所を表す一般的な名称であることについては特に争いがない。そうすると、「新小平」及び「クリニック」には、いずれも格別の識別力がないと解すべきである。また、「駅前」についても、駅の近辺に位置する商業施設や医療機関を含む多様な施設の名称として、「駅前〇〇」という形で使用されることは一般的であり、これについても格別の識別力は認められない(乙6)。イ この点につき原告は、15年以上にわたる名称使用や診療実績から、原告表示には単なる地名と普通名称の組合せを超えた意味が付与されていると主張する。確かに、原告クリニックは、肩書住所地において15年以上にわたり内科、心療内科等の診療科目を標榜して診療を続けており、年間の延べ患者数が3万人を超え、再診率も8、9割と高いのであって、原告クリニックの存在及びその名称である原告表示が新小平駅周辺の地域において一定程度の知名度を有していること自体は否定し難い。しかし、原告クリニックは住宅地に所在し院長と派遣医師が2人で診察に当たる規模の一般的な個人医院であり、診療科目、診療日等についても特異な点は見受けられない上、本件調査報告書においても、原告表示の認知度は小平市在住者及びそのうち新小平駅利用者においていずれも約2、3割にとどまっているのであって、原告クリニックが周辺地域において極めて高い知名度を有するとか、原告表示から原告クリニックを具体的に想起する者が多数いるというような評価をすることはできない。したがって、原告の上記主張は採用することができない。ウ 以上を前提に、原告表示と被告表示を対比すると、原告表示と被告表示は、いずれも格別の識別力のない語の組合せからなるため、対比に当たっては、表示全体を一体のものとして比べることが相当である。そして、両者の共通する表示部分である「新小平」及び「クリニック」は、いずれも需要者の注意を惹く部分とはいえないこと、被告表示は、「駅前」という語が付加されており、新小平駅により近く一定の利便性がある、という印象を与えるという相違点があることを考慮すると、原告表示と被告表示は、全体として、外観、称呼、観念のいずれにおいても類似しないというべきである。
(2) 混同のおそれに関する
(原告の主張)
について原告は、主に、本件調査報告書において、小平市在住者及び新小平駅利用者のうち一定の割合の者が、原告クリニックと被告クリニックが系列病院(分院)であると誤認し、その理由として名称の類似を挙げていることや、実際に、患者や取引業者等において、原告クリニックと被告クリニックを取り違えた事例があったことから、混同のおそれが高いと主張する。しかし、前記認定事実のとおり、本件調査報告書のサンプル数は、小平市在住者が535人、新小平駅利用者が522人(小平市在住者のうち新小平駅利用者は375人)であるところ、小平市の人口や新小平駅の平均乗車人員(約1万人/日。乙4)に鑑みサンプル数として偏りがなくかつ十分であるか疑問の余地がある上、Q3及びQ5に対し、系列病院(分院)であると思うと判断した回答者数は、いずれも100人未満である一方、Q3では約90%、Q5では約80%の回答者が系列病院(分院)ではない、または分からない・判断できないと回答していることからすれば、本件調査報告書の上記結果から直ちに混同のおそれが認められるということはできない。また、原告の挙げる取り違いや問合せの事例(甲11~15)は、被告クリニックの開設直前の時期である令和6年11月21日から令和7年12月22日までの間の約13か月間で35件であり、原告クリニックの患者数に鑑みて特に多いとも認められず、実際に原告クリニックに深刻な被害が生じていることを認めるに足りる証拠もない。さらに、被告が、原告表示の知名度や顧客吸引力に便乗する目的で被告クリニックの名称(被告表示)を決定したと認めるに足りる証拠はない。したがって、原告の上記主張は採用することができない。
(3) 小括
以上より、原告表示と被告表示は類似せず、混同のおそれはないというべきである。
第4 結論
よって、原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。東京地方裁判所民事第47部裁判長裁判官廣 瀬 孝裁判官松 尾 恵 梨 佳裁判官島村陽子は、異動のため署名押印することができない。裁判長裁判官廣 瀬 孝(別紙)原告表示目録新小平クリニック(別紙)被告表示目録新小平駅前クリニック
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