ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 令和7(行ケ)10104 特許取消決定取消請求事件
| 裁判所 | 請求棄却 知的財産高等裁判所 |
|---|---|
| 裁判年月日 | 令和8年10月8日 |
| 事件種別 | 民事 |
| 当事者 | 原告エコプロビーエムカンパニーリミテッド 被告特許庁長官 |
| 法令 |
特許権 |
| キーワード | 実施99回 新規性57回 特許権3回 優先権1回 |
| 主文 | 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30 |
| 事件の概要 | 1 特許庁における手続の経緯等 ⑴ 設定登録 原告は、平成30年8月22日、同年9月18日、令和元年5月29日及 び同年7月9日の優先権(いずれも韓国)を主張して、令和元年8月21日 にした特許出願(特願2019-151043号)について、その一部を令 和3年11月1日に新たな特許出願(特願2021-178885号。発明 の名称「正極活物質およびこれを含むリチウム二次電池」 )とした。令和5年 5月19日に特許権の設定の登録がされ、同月29日に特許掲載公報が発行 された(特許第7282854号、請求項の数は11。特許公報は甲1。以 下、その特許を「本件特許」と、その特許権を「本件特許権」と、その明細 書及び図面を「本件明細書等」という。 ) 。 ⑵ 異議申立て |
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令和8年10月8日判決言渡
令和7年(行ケ)第10104号 特許取消決定取消請求事件
口頭弁論終結日 令和8年8月18日
判 決
大韓民国 チュンチョンプクート、チョンジューシ、チョンウォンーク、オチ
ャンーウプ、2サンダンーロ、100
原 告 エコプロ ビーエム カンパニー リミテッド
同訴訟代理人弁護士 宮 嶋 学
同 高 田 泰 彦
同 柏 延 之
同 二 枝 翔 司
同訴訟代理人弁理士 浅 野 真 理
同 反 町 洋
東京都千代田区霞が関3丁目4番3号
被 告 特許庁長官
同 指 定 代 理 人 高 橋 真 之
同 木 村 貴 俊
同 畑 中 博 幸
同 海 老 原 え い 子
同 北 村 英 隆
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30
日と定める。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 特許庁が異議2023-701149号事件について令和7年6月19日にした決定のうち、請求項1、4、7、9ないし11に係る部分を取り消す。2 訴訟費用は被告の負担とする。
第2 事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等
⑴ 設定登録原告は、平成30年8月22日、同年9月18日、令和元年5月29日及び同年7月9日の優先権(いずれも韓国)を主張して、令和元年8月21日にした特許出願(特願2019-151043号)について、その一部を令和3年11月1日に新たな特許出願(特願2021-178885号。発明の名称「正極活物質およびこれを含むリチウム二次電池」)とした。令和5年5月19日に特許権の設定の登録がされ、同月29日に特許掲載公報が発行された(特許第7282854号、請求項の数は11。特許公報は甲1。以下、その特許を「本件特許」と、その特許権を「本件特許権」と、その明細書及び図面を「本件明細書等」という。)。
⑵ 異議申立て本件特許のすべての請求項に対し、令和5年10月30日、特許異議の申立て(甲3)がされたところ、令和6年2月5日付けで取消理由通知(甲4)がされ、原告は、同年5月8日、訂正請求(甲6)をするとともに、意見書(甲5)を提出した。その後、令和6年10月17日付けで取消理由通知(決定の予告。甲9)がされ、原告は、令和7年1月16日、訂正請求(甲11)をするとともに、意見書(甲10)を提出し、同年3月12日付けで、手続補正書(甲2)を提出して上記訂正請求を補正し(この補正後の訂正請求を「本件訂正請求」と、その訂正を「本件訂正」という。)、同年4月23日付けで意見書(甲12)を提出した。特許庁は、令和7年6月19日、「特許第7282854号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-11〕について訂正することを認める。特許第7282854号の請求項1、4、7、9ないし11に係る特許を取り消す。特許第7282854号の請求項2、3、5、6、8に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。」とする決定(出訴期間として在外者に対し90日を付加。以下「本件決定」という。)をし、その謄本は、令和7年7月7日、原告に送達された。
⑶ 本件訴訟の提起原告は、令和7年11月4日、前記第1記載のとおりの本件決定の請求項1、4、7、9ないし11に係る部分の取消しを求めて、本件訴訟を提起した。なお、本件訂正は、訂正後の請求項2、3、5、6及び8を削除するとするものである。2 本件訂正後の特許請求の範囲本件訂正後の特許請求の範囲のうち、訂正後の請求項1、4、7、9ないし11については、次のとおりである(以下、「本件発明1」、「本件発明4」等といい、これらを併せて「本件各発明」という。下線は本件訂正による訂正箇所である。)。「【請求項1】1次粒子が凝集して形成された2次粒子を含む正極活物質であって、前記1次粒子は、リチウムの吸藏および放出が可能な第1複合酸化物を含むコア;および前記第1複合酸化物の表面のうち少なくとも一部に存在する第2複合酸化物を含むシェル;を含むコア-シェル粒子であって、前記第1複合酸化物は、下記の化学式2で表され:[化学式2]LiwNi1-(x+y+z)CoxM3yM4zO2(ここで、M3は、MnおよびAlから選ばれる少なくとも一つであり、M4は、W、または、Wおよび、Mn、Al、Ti、Zr、Mg、V、B、Mo、Zn、Nb、Ba、Ta、Fe、Cr、Sn、Hf、Ce、NdおよびGdから選ばれる少なくとも一つ、を含む複数の元素、であり、0.5≦w≦1.5、0.01≦x≦0.50、0.01≦y≦0.20、および0.001≦z≦0.20である。)前記第1複合酸化物と前記第2複合酸化物は、固溶体を形成した状態で存在し、前記第2複合酸化物は、単斜晶系(monoclinic)、三斜晶系(triclinic)および等軸晶系(cubic)から選ばれる少なくとも一つの結晶構造を有し、前記固溶体に対するXPS(X-ray photoelectronspectroscopy)分析時に、W4f7/2に対応するピークが34.0から35.0eVの範囲内に存在し、W4f 5/2に対応するピークが36.0から37.0eVの範囲内に存在する、正極活物質。【請求項4】前記第2複合酸化物は、下記の化学式1で表される、請求項1に記載の正極活物質[化学式1]LiaM1bWcOd(ここで、M1は、Niであり、0≦a≦6、0<b≦2、0<c≦2、4≦d≦8である。)【請求項7】前記固溶体は、下記の化学式3で表される、請求項1に記載の正極活物質:[化学式3]LiaM1bWcOd-LiwNi1-(x+y+z)CoxM3yM4zO2(ここで、M1は、Niであり、M3は、MnおよびAlから選ばれる少なくとも一つであり、M4は、W、または、Wおよび、Mn、Al、Ti、Zr、Mg、V、B、Mo、Zn、Nb、Ba、Ta、Fe、Cr、Sn、Hf、Ce、NdおよびGdから選ばれる少なくとも一つ、を含む複数の元素、であり、0≦a≦6、0<b≦2、0<c≦2、4≦d≦8であり、0.5≦w≦1.5、0.01≦x≦0.50、0.01≦y≦0.20、0.001≦z≦0.20である。)【請求項9】前記固溶体の少なくとも一部をカバーするコーティング層をさらに含み、前記コーティング層は、下記の化学式4で表される合金酸化物を含む、請求項1に記載の正極活物質:[化学式4]LieM5fOg(ここで、M5は、W、または、Wおよび、Mn、Al、Ti、Zr、Mg、V、B、Mo、Zn、Nb、Ba、Ca、Ta、Fe、Cr、Sn、Hf、Ce、NdおよびGdから選ばれる少なくとも一つ、を含む複数の元素、であり、0≦e≦6、0<f≦6、0<g≦10である。)【請求項10】請求項1、4、7および9のいずれか一項に記載の正極活物質;導電材;およびバインダー;を含む、正極スラリー組成物。【請求項11】請求項10に記載の正極スラリー組成物を集電体にコーティングして形成された正極を含むリチウム二次電池。」3 本件決定の取消理由の要旨本件各発明は、引用例1(特開2017-134996号公報。甲13。以下、そこに記載された発明を「引用発明」という。)に記載された発明であるから、新規性を欠如する。4 本件決定が認定した引用発明の内容「母材としてのLi1.025Ni0.91Co0.06Al0.03O2で表される一次粒子および一次粒子が凝集した二次粒子からなるリチウムニッケル複合酸化物粒子と、タングステン化合物である酸化タングステン(WO 3)粉末とを混合した混合粉末を650℃、3時間熱処理することにより、前記リチウムニッケル複合酸化物粒子の一次粒子表面に存在するリチウム化合物と前記酸化タングステン粉末を反応させて当該リチウムニッケル複合酸化物粒子の一次粒子表面にタングステン酸リチウム(Li2WO4もしくはLi4WO5)といったタングステンおよびリチウムを含む化合物を形成した、非水系電解質二次電池用正極活物質。」5 原告の主張する取消事由原告が主張する本件決定の取消事由(取消事由1ないし6)は、いずれも本件各発明についての新規性判断の誤りである。なお、原告は取消事由の主張に当たり、本件発明1の構成要件を以下のとおり分説する(以下「構成要件A」などという。)ので、これに従い検討する。A:1次粒子が凝集して形成された2次粒子を含む正極活物質であって、B:前記1次粒子は、リチウムの吸藏および放出が可能な第1複合酸化物を含むコア;および前記第1複合酸化物の表面のうち少なくとも一部に存在する第2複合酸化物を含むシェル;を含むコア-シェル粒子であって、C:前記第1複合酸化物は、下記の化学式2で表され:[化学式2]LiwNi1-(x+y+z)CoxM3yM4zO2(ここで、M3は、MnおよびAlから選ばれる少なくとも一つであり、M4は、W、または、Wおよび、Mn、Al、Ti、Zr、Mg、V、B、Mo、Zn、Nb、Ba、Ta、Fe、Cr、Sn、Hf、Ce、NdおよびGdから選ばれる少なくとも一つ、を含む複数の元素、であり、0.5≦w≦1.5、0.01≦x≦0.50、0.01≦y≦0.20、および0.001≦z≦0.20である。)D:前記第1複合酸化物と前記第2複合酸化物は、固溶体を形成した状態で存在し、E:前記第2複合酸化物は、単斜晶系(monoclinic)、三斜晶系(triclinic)および等軸晶系(cubic)から選ばれる少なくとも一つの結晶構造を有し、F:前記固溶体に対するXPS(X-ray photoelectron spectroscopy)分析時に、W4f7/2に対応するピークが34.0から35.0eVの範囲内に存在し、W4f5/2に対応するピークが36.0から37.0eVの範囲内に存在する、正極活物質。
第3 当事者の主張
1 取消事由1(本件発明1についての新規性欠如に関する判断の誤り)のうち、
構成要件Dの「固溶体」に関する判断の誤り〔
(原告の主張)
〕
⑴ 本件決定は、本件発明1の構成要件Dに関し、引用発明の「タングステン
酸リチウム(Li2WO4もしくはLi4WO5)といったタングステンおよびリチウムを含む化合物」は、母材(芯材)としてのリチウムニッケル複合酸化物粒子と酸化タングステン(WO3)粉末とを混合した混合粉末を650℃、3時間熱処理することにより、リチウムニッケル複合酸化物粒子の一次粒子表面に存在するリチウム化合物と前記酸化タングステン粉末を反応させて形成されるものであり、当然、互いの化合物に含まれる遷移金属元素(ニッケル、タングステンなど)の相互拡散が多少なりとも生じているといえることから、「リチウムニッケル複合酸化物粒子」と「タングステン酸リチウム(Li2WO4もしくはLi4WO5)といったタングステンおよびリチウムを含む化合物」とは、本件発明1でいう「固溶体を形成した状態」にあると解されるとし、本件発明1と引用発明とは、「前記第1複合酸化物と前記第2複合酸化物は、固溶体を形成した状態で存在」するものである点で一致するとした。
⑵ しかし、本件明細書等の段落【0018】に「本発明の多様な実施例による
正極活物質は、異種の複合酸化物を含み、かつ特に第2複合酸化物が第1複合酸化物のうち少なくとも一部と固溶体を形成することによって、正極活物質問構造的安定性および熱的安定性(高温貯蔵安定性)を向上させることができる」と記載されているように、固溶体を形成することは本件発明1の課題解決において重要な構成である。このことは、本件明細書等の比較例4の結果からも明らかであり、本件明細書等の段落【0174】に「比較例4によって製造された正極活物質の場合、LiaNibWcOd組成の酸化物をLiwNi1-(x+y+z)CoxAlyWzO2組成の酸化物が単純混合された状態で存在するにつれて、LiaNibWcOdおよびLiwNi1-(x+y+z)CoxAlyWzO2それぞれから起因する回折ピークが同時に検出されたものであり、比較例4によって製造された正極活物質を構成する成分であるLiaNibWcOdとLiwNi1-(x+y+z)Cox AlyWzO2が固溶体を形成したものを意味しない。」と記載されているとおり、比較例4はNiを含有し、固溶体を形成しない例であるところ、本件明細書等の段落【0195】の表5のとおり、実施例との比較において、その諸性能に顕著な違いが生じている。
⑶ 以上を踏まえ、引用発明が本件発明1の「固溶体」を形成しているかにつ
いて検討するに、「固溶体」の意味に関しては、「2種以上の物質が混合して完全に均一な固相となる固体をいう。ある結晶相の格子点にある原子がまったく不規則に別の原子と置換するか、あるいは格子の間隙(かんげき)に別の原子が侵入したものの2種がある。前者を置換型、後者を侵入型の固溶体とよぶ。二成分あるいは三成分型の金属で結晶格子の特定の位置に規則的に別の成分が置換しているときは固溶体とはいわず、金属間化合物という」という文献の記載(甲18)にあるとおり、「2種以上の物質が混合して完全に均一な固相となる固体」と解釈されるべきである。本件決定のように、「当然、互いの化合物に含まれる遷移金属元素(ニッケル、タングステンなど)の相互拡散が多少なりとも生じている」というだけでは、引用発明において固溶体が形成されているという根拠にはならない。
⑷ また、本件各発明の大きな技術的特徴である固溶体を形成するためには、
多量の熱処理が必要であるところ、本件発明1及び引用発明に関して、本件明細書等の段落【0145】、引用例1の段落【0093】、【0094】、【0102】及び表1の記載から明らかなように、本件発明1では、本件発明の主要な課題解決手段である「固溶体」を形成するために、600℃で5時間維持した後、わざわざ一度自然冷却し、さらにその加熱、冷却の操作をもう一度行う(600℃で計10時間の加熱処理)という操作を行っているのに対して、引用発明においては、650℃で計3時間の加熱処理しか行っていない。
⑸ 加えて、引用発明における「母材」は「Niを主成分とする酸化物と水酸
化リチウムを混合」して形成されているのに対し、本件明細書等の実施例1に係る第1複合酸化物は、Ni0.92Co0.08(OH)2(ニッケル水酸化物)水酸化物前駆体にLiOH(水酸化リチウム)とAl2O3(酸化アルミニウム)を混合して生成されるものであることから、そもそも母材自体の三次元構造が異なっていると考えられる。上記のとおり、固溶体ができるか否かは、母材の構造にも大きく依存するところ、引用発明において本件明細書等の実施例1等と同様に固溶体が形成されていると考える根拠はない。以上のとおり、本件決定が構成要件Dに関して、「本件発明1と同様に、本件発明1でいう「固溶体を形成した状態」にあると解される」と認定したのは誤りであり、この点は結論に影響を及ぼす。
⑹ 本件発明1の構成要件Fでは、固溶体に対するXPS分析時に、W4f 7/
2 に対応するピークが34.0から35.0eVに、W4f5/2に対応するピ
ークが36.0から37.0eVの範囲内に存在することが規定されているが、本件明細書等の段落【0159】には、これらはLiaWcOdやWcOd組成では観察できないLi aNi b W c O d 組成に特有のピークであることが記載され、同段落【0164】によれば、実施例1ではLiaNibWcOd組成の酸化物を別に添加しなかったにもかかわらず、それに対応するピークが観察されたことが記載されている。このことからも、本件発明1の「固溶体」が、第1複合酸化物とも第2複合酸化物とも異なる新たな複合酸化物としての相であることが示唆されている。〔被告の反論〕
⑴ 本件発明1に係る正極活物質では、第1複合酸化物と第2複合酸化物が固
溶体を形成した状態で存在しているところ、文献の記載によれば、ある結晶相に他物質が溶け込んだとみなされる混合相を固溶体という(乙1)。電池活物質における固溶体(混合相)の形成については、乙2ないし5及び本件決定で引用した参考文献2(特開2016-9614号公報。甲14。以下「参考文献2」という。)の記載によれば、以下の内容が技術常識として認められる(この点については当事者間に争いがあることも踏まえ、以下、「被告主張技術常識1」という。)。「コア-シェル構造(被覆型)のリチウム二次電池の正極活物質を製造するにあたって、コア部を形成する粒子表面にシェル部(被覆部)の形成原料を被覆し、400℃以上の温度(例えば400℃~900℃)で熱処理を行えば、コア部とシェル部の境界部分で元素が拡散により固溶し、固溶体が形成されること、熱処理の時間や雰囲気についても、例えば1時間~20時間等の広範な時間及び、大気雰囲気、不活性ガス等広範囲な条件が適用できること」そして、参考文献2によれば、リチウム含有ポリアニオン化合物を正極活物質表面に被覆したのち熱処理を行うことでポリアニオン骨格中に含まれる遷移金属元素が一部正極活物質側に拡散し、また正極活物質中の遷移金属元素が一部ポリアニオン化合物側に拡散して固溶体を形成した元素拡散層が形成されること、リチウムニッケル複合酸化物を正極活物質としてこれをリチウム含有ポリアニオン化合物であるLi2WO4(これは、引用発明において、母材上に形成されるタングステン酸リチウムである。)で被覆した場合、500℃1.5時間の熱処理で、リチウムニッケル複合酸化物とLi2WO4間の相互拡散が生じることが理解できる。このように、Li2WO4で被覆されたリチウムニッケル複合酸化物に対して500℃1.5時間の熱処理を行うことで、Li2WO4とリチウムニッケル複合酸化物間の相互拡散が生じることも知られていた。
⑵ また、乙6、7の記載によれば、以下の内容であるフィックの法則が技術
常識として認められる(以下「技術常識2」という。)。「気体、液体、固体を通じて、元素の単位時間当たりの拡散量(拡散流束)は拡散方向への濃度勾配に比例し、濃度勾配は時間とともに変化するというフィックの法則」
⑶ 本件明細書等の実施例1において、引用発明の「母材」
(酸化タングステン(WO3)粉末と混合して熱処理される前のLi1.025Ni0.91Co0.06Al0.03O2で表される一次粒子)に相当するのは、Ni0.92Co0.08(OH)
2 水酸化物前駆体とLi含有原料物質およびAl含有原料物質との混合物を
熱処理(650℃で10時間)して得られた「正極活物質」である。これが、引用発明の「母材」と同様、LiNiCoAlO 2で表される層状構造のリチウムニッケル複合酸化物粒子であることは当業者にとって自明であり、本件明細書等の実施例1の母材と引用発明の母材とは実質的に同じである。
⑷ 本件明細書等をみても、本件発明1の固溶体が完全に均一な固相となる固
体であると解すべき理由はない。むしろ、被告主張技術常識1に照らせば、コア部とシェル部の境界部分で少なくとも部分的に元素が拡散により固溶したのであれば固溶体は形成されたといえるのであって、完全に均一な固相が形成されることまでは要求されないと解すべきである。また、原告は、固溶体を形成するためには多量の熱処理が必要であり、650℃で3時間の加熱処理では固溶体は生じないと主張するようであるが、400℃以上の温度(例えば400℃~900℃)及び、広範な時間及び、雰囲気条件で固溶体が生じるという被告主張技術常識1に照らせば、650℃3時間の加熱処理でも相互拡散及び固溶化が生じると理解するのが合理的である。この点、原告は650℃で3時間の加熱処理では固溶体は生じないと解すべき具体的な証拠は何ら挙げていない。したがって、本件決定が引用発明において「固溶体」が形成されているとした判断は合理的であり、原告の上記主張は失当である。
2 取消事由1(本件発明1についての新規性欠如に関する判断の誤り)のうち、
構成要件Dのリチウムの拡散に関する判断の誤り〔
(原告の主張)
〕
⑴ 本件決定は、引用発明における「「リチウムニッケル複合酸化物粒子」と「タ
ングステン酸リチウム(Li2WO4もしくはLi4WO5)といったタングステンおよびリチウムを含む化合物」とは、本件発明1と同様に、本件発明1でいう「固溶体を形成した状態」にあると解される」と判断したが、「固溶体」を形成する前に、そもそもリチウムが拡散する必要があるところ、引用発明ではそのような拡散は生じていない。すなわち、参考文献2の実施例5では被覆材料としてリチウム含有ポリアニオン化合物たるLi2WO4が使用されているのに対し、引用例1の実施例4で用いられているWO3は、リチウムも、ポリアニオンも有しておらず、「リチウム含有ポリアニオン」に当たらないことから、このような移動が容易な構造を有するものではない。このため、仮に、「ポリアニオン骨格中に含まれる遷移金属元素が一部正極活物質側に拡散し」た例である参考文献2において「拡散」が起きるとしても、「リチウム含有ポリアニオン」の構造を有しない引用例1の実施例4においては「拡散」が生じるものではない。
⑵ 引用例1の段落【0063】、【0064】、【0068】等の記載から明ら
かなように、引用例1と参考文献2の技術思想は全く異なり、参考文献2で「拡散」するからといって、引用例1において「拡散」するということはできない。引用発明において、仮にWO3の代わりにLi2WO4を被覆材として使用したとすると、被覆材は二次粒子表面に残存するリチウム化合物と反応して余剰リチウムを形成してしまい、タングステンを含有しないリチウム化合物とタングステン化合物を反応させてタングステンを分散させ、LiW化合物を形成し、電池特性を向上させる第1熱処理工程を行うことができない。そして、仮にこのような変更をすれば、引用例1の発明の本旨からかけ離れてしまう。
⑶ 本件決定は「上記(1)、(2)の記載によれば、引用例に記載の「非水系
電解質二次電池用正極活物質」は、一般式:LizNi1-x-yCoxMyO2(ただし、0.00≦x≦0.35、0.00≦y≦0.35、0.95≦z≦1.20、MはMn、V、Mg、Mo、Nb、Ti及びAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表される一次粒子および一次粒子が凝集した二次粒子からなるリチウムニッケル複合酸化物粒子の一次粒子表面にタングステン酸リチウム(Li2WO4もしくはLi4WO5)といったタングステンおよびリチウムを含む化合物を形成してなるものである」と認定した。しかし、仮にWがバルク粒子内に拡散しドープされる可能性があったならば、引用発明の出願人は当然に上記一般式においてWを元素Mの一つとして含めるはずであるが、WはMの中に列挙されていない。このことは、引用発明において、Wがバルク粒子内に拡散しドープされておらず、引用発明が「前記第1複合酸化物と前記第2複合酸化物は、固溶体を形成した状態で存在」しないことを示している。
⑷ 引用例1の段落【0050】の記載によれば、引用例1においては、過剰
なタングステンを加えると、充放電容量が低下してしまうことが記載されている。上記段落の記載からすれば、引用発明は、WO3が二次粒子表面に残存するリチウム化合物と完全に反応し 、二次粒子及び一次粒子の両表面にLi-W化合物を形成することを意図しているのであり、過剰なタングステンを加えることには引用例1の発明の本旨に反するところ、これは、本件明細書等の段落【0159】【表2】等から明らかなように、過剰なタングステンがバルク粒子内に拡散・ドープされ、バルク粒子内部にWがドープされたLi-Ni-W-O殻を含む固溶体を形成する本件発明1とは異なることは明らかである。すなわち、本件明細書等の段落【0159】【表2】から、本件発明は「LiaWcOdまたはWcOd組成の酸化物のW6+に対するW4f7/2ピーク」を有することから、本件発明1のバルク粒子内で拡散されているのは、過剰なタングステンである。これに対し、引用発明においては、そもそも過剰なタングステンは加えられていないのであるから、本件発明1のように「拡散」は生じ難い。
⑸ 以上のとおり引用例1では「固溶体を形成する前段階であるリチウムの拡
散が生じていないにもかかわらず、引用発明が本件発明1の構成要件Dに相当する構成を有すると判断した本件決定には誤りがあり、これは結論に影響を及ぼす。〔被告の反論〕
⑴ 原告は、引用発明においては「拡散」が生じていないと主張するが、被告
主張技術常識1に照らせば、引用発明においても、リチウムニッケル複合酸化物粒子上に形成されたLi2WO4について、熱処理によって拡散が生じるとみるのが合理的である。そして、元素の単位時間当たりの拡散量(拡散流束)は、拡散方向への濃度勾配に比例するというフィックの法則(技術常識2)に照らせば、上記拡散に当たり、当初リチウムニッケル複合酸化物には含まれないWが拡散すると理解できる。この点に関し、原告は、650℃3時間の加熱処理では拡散を生じないと解すべき具体的根拠を何ら挙げていない。なお、原告は、リチウム含有ポリアニオンが移動が容易な構造を有するものであることに関し参考文献2の【0037】を指摘するが、ここに記載される「固体内を拡散可能」とは、電池の充放電に伴うリチウムイオン伝導体としての拡散可能性を説明するものであり、正極活物質製造時の熱処理における拡散とは何ら関係がない。
⑵ そもそも本件決定ではWO3の代わりにLi2WO4を被覆材として使用す
ることの検討(記載)は一切していない。
⑶ 特許明細書や特許請求の範囲をどのように記載するかは出願人の自由意思
に委ねられており、引用例1に記載の一般式において、WがMの中に列挙されていないからといって引用発明が固溶体を形成していないということにはならない。
⑷ 「LiaWcOdまたはWcOd組成の酸化物のW6+に対する
本件発明1は、W4f7/2」を有することを特定していないから、仮に、本件明細書等の段落【0159】【表2】に記載された実施例において、バルク粒子内で拡散されているのは過剰なタングステンであり、引用例1では過剰なタングステンを加えることは想定されていないとしても、このことにより、本件発明1と引用発明が区別されることにはならない。また、確かに、本件明細書等の段落【0159】【表2】に記載された実施例の正極活物質は、W4f7/2ピークとして、34.0~35.0eVのピーク(LiaNibWcOd組成の酸化物が有するピークに相当)と35.0~36.0eV(LiaWcOdまたはWcOdまたはWcOd組成の酸化物が有するピークに相当)を有しているが(本件明細書等の【0079】、【0159】、【表2】)、これは単に、両者の構造が併存するということを示すのみであり、後者のピークが過剰なタングステンに由来するという根拠はない。そもそも、過剰とは、何に対して過剰であるのかも不明である。
⑸ よって、原告の上記の主張はいずれも妥当せず、これらによって引用例1
では拡散が生じていないということはできない。
3 取消事由1(本件発明1についての新規性欠如に関する判断の誤り)のうち、
構成要件Bの「第2複合酸化物」に関する判断の誤りについて〔
(原告の主張)
〕
⑴ 本件決定は、本願発明1と引用発明とは、
「前記1次粒子は、リチウムの吸蔵および放出が可能な第1複合酸化物を含むコア;および前記第1複合酸化物の表面のうち少なくとも一部に存在する第2複合酸化物を含むシェル;を含むコア-シェル粒子」である点で一致すると判断した。
⑵ しかし、引用例1の段落【0060】に「このように、タングステン化合
物は、リチウムニッケル複合酸化物表面に存在するリチウム化合物と反応して、余剰リチウムを低減するため、リチウムを含有しないタングステン化合物を用いる。例えば、酸化タングステン、タングステン酸、タングステン酸アンモニウム、タングステン酸ナトリウムなどリチウムと反応が容易な化合物であることが好ましく、不純物混入の可性が低い酸化タングステン(WO
3 )またはタングステン酸(WO3・H2O)がより好ましい。リチウムを含有
するタングステン化合物では、一次粒子表面にLiW化合物を形成することはできるが、余剰リチウムを十分に低減することができない」、段落【0092】に「Niを主成分とする酸化物と水酸化リチウムを混合して焼成する公知技術で得られたLi1.025Ni0.91Co0.06Al0.03O2で表されるリチウムニッケル複合酸化物粒子の粉末を母材とした。150gの母材に、リチウムニッケル複合酸化物に含まれるNi、Co及びAlの原子数の合計に対してW量が0.30原子%となるように酸化タングステン(WO3)を1.08g添加し、」、段落【0094】に「最後に目開き38μmの篩にかけ解砕することにより、一次粒子表面にLiW化合物を有する正極活物質を得た。得られた正極活物質のタングステン含有量をICP法により分析したところ、タングステン含有量はNi、Co及びAlの原子数の合計に対して0.30原子%であることが確認された」と記載されているように、仮に引用発明において「固溶化」が起きたとしても、1次粒子の表面に形成されたものは、「WO3」若しくは「Li1.025Ni0.91Co0.06Al0.03O2-WO3」にほかならない。本件決定は引用発明の認定を誤っており、引用発明は、以下のとおり認定されるべきである。「母材としてのLi1.025Ni0.91Co0.06Al0.03O2で表される一次粒子および一次粒子が凝集した二次粒子からなるリチウムニッケル複合酸化物粒子と、タングステン化合物である酸化タングステン(WO3)粉末とを混合した混合粉末を650℃、3時間熱処理することにより、前記リチウムニッケル複合酸化物粒子の一次粒子表面に存在するリチウム化合物と前記酸化タングステン粉末を反応させて当該リチウムニッケル複合酸化物粒子の一次粒子表面に「Li1.025Ni0.91Co0.06Al0.03O2-WO3」若しくは「WO3」を形成した、非水系電解質二次電池用正極活物質。」
⑶ 仮に、本件決定の認定を前提とするとしても、引用発明で認定された「タ
ングステン酸リチウム(Li2WO4もしくはLi4WO5)といったタングステンおよびリチウムを含む化合物」は、本件発明1における「第2複合酸化物」に当たらないから、いずれにせよ本件決定には誤りがある。本件発明1における、第1複合酸化物の表面のうち少なくとも一部に存在する「第2複合酸化物」の意義に関し、本件明細書等(段落【0030】ないし【0032】、【0034】、【0061】ないし【0063】)の記載によれば、本件発明1では、第2複合酸化物が[化学式1]「LiaM1bM2cOd 」で表されることや、固溶体が[化学式3]「LiaM1bM2cOd-LiwNi1-(x+y+z)CoxM3yM4zO2」で表されることは規定されていないが、少なくとも引用発明との対比において、実質的には、これらの構成であることを規定しているといえる。すなわち、構成要件F「前記固溶体に対するXPS(X-ray photoelectron spectroscopy)分析時に、W4f7/2に対応するピークが34.0から35.0eVの範囲内に存在し、W4f5/2に対応するピークが36.0から37.0eVの範囲内に存在する、」はスペクトルのピーク値によって、「第2複合酸化物」の組成を裏から規定しているから、実質的には、第2複合酸化物が構成要件Fで規定されたスペクトルのピーク値をもつ「LiaM1bM2cOd」であることを規定しているといえる。本件決定は「「タングステン酸リチウム(Li2WO4もしくはLi4WO5)といったタングステンおよびリチウムを含む化合物」が、本願発明1でいう「第2複合酸化物」に相当する」と判断しているが、既に述べたとおり、本件決定において「タングステン酸リチウム(Li2WO4もしくはLi4WO
5 )といったタングステンおよびリチウムを含む化合物」と記載されているも
のは、正確には「Li1.025Ni0.91Co0.06Al0.03O2-WO3」若しくは「WO3」である。「WO3」の場合は、a=0、M2=W、c=1としても、0<b、4≦dを満たさないため、[化学式1]を満たさず、本件発明における「第2複合酸化物」ということはできない。また、引用発明が「固溶体」を形成すると仮定しても、「Li1.025Ni0.91Co0.06Al0.03O2-WO3」の場合、M1=Ni、M2=W、a=1.025、d=5としても、既にM1をNiとしており、「Co0.06Al0.03」を表すことができないため、本件発明における「第2複合酸化物」とはいえない。以上のことから、仮に引用発明の認定に誤りがないとしても、「さらに、その一次粒子表面に形成される「タングステン酸リチウム(Li2WO4もしくはLi4WO5)といったタングステンおよびリチウムを含む化合物」が、本願発明1でいう「第2複合酸化物」に相当する」と判断した本件決定は誤りであり、これは結論に影響を及ぼす。〔被告の反論〕
⑴ 引用例1には、熱処理後に得られる正極活物質について、
【請求項8】、【請求項10】、段落【0032】、【0034】に、一次粒子表面にタングステン酸リチウムといったタングステン及びリチウムを含む化合物(LiW化合物)が形成されることが明記され、段落【0036】にはこのようなLiW化合物はLi 2 WO4 もしくはLi 4 WO 5 の形態で存在することも記載されているのだから、本件決定における、引用発明の「タングステン酸リチウム(Li2WO4もしくはLi4WO5)といったタングステンおよびリチウムを含む化合物」との認定に誤りはない。
⑵ 原告は、引用発明において「Li1.025Ni0.91Co0.06Al0.03O2-
WO3」若しくは「WO3」と認定されるべきであるという理由として、①引用例1には、タングステン化合物は、リチウムニッケル複合酸化物表面に存在するリチウム化合物と反応して、余剰リチウムを低減するため、酸化タングステン(WO3)等が好ましいことが記載されていること、②正極活物質のタングステン含有量をICP法により分析したところ、タングステン含有量はNi、Co及びAlの原子数の合計に対して0.30原子%であることが確認されていることを挙げる。しかし、①について、確かに引用発明では、WO3が原料のタングステン化合物として使用されているとしても、タングステン化合物がリチウム化合物と反応してLiW化合物を形成することは既に述べたとおり引用例1に明記されているのだから、「タングステン酸リチウム(Li2WO4もしくはLi4WO5)といったタングステンおよびリチウムを含む化合物」が形成されないとすることはできない。また、②についても、ICP法により分析したタングステン含有量がNi、Co及びAlの原子数の合計に対して0.30原子%であるからといって、「タングステン酸リチウム(Li2WO4もしくはLi4WO5)といったタングステンおよびリチウムを含む化合物」は形成されず、「Li1.025Ni0.9
1 Co0.06Al0.03O2-WO3」若しくは「WO3」が形成されたというこ
とにはならない。
⑶ よって、本件決定には、引用発明の認定の誤りも、
「第2複合酸化物」を充足するとした構成要件Bに関する判断の誤りもなく、
(原告の主張)
は失当である。
4 取消事由1(本件発明1についての新規性欠如に関する判断の誤り)のうち、
構成要件Bのニッケルの遷移に関する判断の誤り〔
(原告の主張)
〕
⑴ 本件決定は、母材のリチウムニッケル化合物粒子が遷移することから、引
用発明の「タングステン酸リチウム(Li2WO4もしくはLi4WO5)といったタングステンおよびリチウムを含む化合物」が、本件発明1でいう「第2複合酸化物」に相当すると認定しているようにも思われるが、ニッケルが拡散・遷移することは自明ではなく、引用例1にも何らその記載がないにもかかわらず、本件決定は、これに関する何らの合理的根拠も、それを立証する証拠も付加していない。ニッケルの遷移が行われなければ、引用発明は「・・・リチウムニッケル複合酸化物粒子の一次粒子表面に「WO3」を形成した、非水系電解質二次電池用正極活物質」となり、「第2複合酸化物」に相当しない。
⑵ 仮に、ニッケルが拡散・遷移するとしても、このとき引用発明は、母材を構
成する原子のうち、ニッケルのみが遷移する筈がなく、他の原子も同時に遷移するところ「・・・リチウムニッケル複合酸化物粒子の一次粒子表面に「Li1.025Ni0.91Co0.06Al0.03O2-WO3」を形成した、非水系電解質二次電池用正極活物質。」となるところ、これも「第2複合酸化物」に相当しない。
⑶ 以上を踏まえると、本件決定は、ニッケルが拡散・遷移することを何ら合
理的根拠なく認定しており、ニッケルが拡散・遷移するとしても本件発明1の「第2複合酸化物」に相当しないにもかかわらず、構成要件Bを満たすとした誤りがあり、この点は結論に影響を及ぼす。〔被告の反論〕被告主張技術常識1及び技術常識2に照らすと、熱処理によりニッケルが拡散・遷移すると解するのが合理的である。また、引用発明において、「Li1.
025 Ni0.91Co0.06Al0.03O2-WO3」が形成されるとの主張が妥当し
ないことは既に述べたとおりである。したがって、構成要件Bに関する一致点の判断に誤りはない。
5 取消事由1(本件発明1についての新規性欠如に関する判断の誤り)のうち、
構成要件Bの「シェル」構造の形成に関する判断の誤り〔
(原告の主張)
〕「シェル」に関して、本件決定は、「さらに、その一次粒子表面に形成される「タングステン酸リチウム(Li2WO4もしくはLi4WO5)といったタングステンおよびリチウムを含む化合物」が、本願発明1でいう「第2複合酸化物」に相当するとともに「シェル」に相当するといえるものである」と判断したが、同決定においても引用されている引用例1の段落【0057】に「一次粒子表面に存在するタングステンを含有しないリチウムを含む化合物とリチウムを含有しないタングステン化合物を反応させて一次粒子表面に分散させ、さらに熱を加えることでLiW化合物を一次粒子表面に形成させる」と記載されているように、ホスト粒子内のニッケル、コバルト、および/またはアルミニウムの一部をわずかな量のタングステンが置換したとしても、単に部分的にW置換された組成をもたらすだけであることは技術的常識であり、仮に引用発明においてタングステンが粒子内部に拡散・ドープ可能であったとしても、「シェル」は形成されない。したがって、本件決定の上記判断は誤りであり、これは結論に影響を及ぼす。〔被告の反論〕本件決定は、被告主張技術常識1及び技術常識2を念頭において、引用発明は、熱処理により、原料としての酸化タングステンや母材表面に形成されるタングステン酸リチウム中のタングステンの少なくとも一部は母材粒子内に拡散して固溶化し、母材表面近傍に存在すると合理的に理解でき、また、熱処理により母材に含まれるニッケルがタングステン酸リチウム側に拡散し、固溶化するといえることから、一部固溶化を生じたタングステン酸リチウムを含めて、「第2複合酸化物」に相当するとともに「シェル」に相当すると判断したものである。そして、本件発明においても、シェルは母材粒子の「少なくとも一部に存在」すればいいのであるから、仮にタングステンの拡散、固溶化量が少量であったとしても、そのことにより「シェル」が形成されないということにはならない。したがって、原告の上記主張は失当である。
6 取消事由1(本件発明1についての新規性欠如に関する判断の誤り)のうち、
構成要件Fに関する一致点の判断の誤り〔
(原告の主張)
〕
⑴ 本件決定は、本件発明1の構成要件Fに関して相違点ではない旨判断して
いるが、既に述べたとおり、引用発明において第1複合酸化物の表面に形成されているものは引用発明「LiaNibWcOd組成の酸化物(ニッケルタングステン酸リチウム)」ではなく、「Li1.025Ni0.91Co0.06Al0.
03 O2-WO3」若しくは「WO3」となる。
⑵ 本件明細書等の段落【0079】には「LiaNibWcOd組成の酸化物の
W6+に対するW4f7/2ピークは、34.0eV~35.0eVの範囲内に存在し、W4f5/2ピークは、36.0eV~37.0eVの範囲内に存在することができる。反面、LiaWcOdまたはWcOd組成の酸化物のO2-に対するW4f7/2ピークは、35.0eVを超過する範囲に存在し、W4f5/2ピークは、37.0eVを超過する範囲に存在することを確認することができる」と記載されているところ、引用発明の第2複合酸化物に相当するのは「LiaNibWcOd組成の酸化物」ではないので、「W4f7/2ピークは、35.0eVを超過する範囲に存在し、W4f5/2ピークは、37.0eVを超過する範囲に存在する」(本件明細書等の段落【0079】)蓋然性が高い。さらにいえば、本件明細書等には、組成が「Li1.04Ni0.907Co0.0
79 Al0.014O2+WO3」である比較例2が開示されているところ、本件
明細書等の【表2】より、このような組成の比較例2はW4f7/2に対応するピークが34.0から35.0eVの範囲内に存在せず、W4f5/2に対応するピークが36.0から37.0eVの範囲内に存在しないことが明らかであるから、上記比較例2に類似した組成からなる引用発明も、同様に上記構成要件Fを満たさない蓋然性が高いと考えるのが合理的である 。
⑶ 加えて、前記のとおり、構成要件Fは、「第2複合酸化物」の組成を裏側
から規定した構成であり、構成要件Fのピークが存在するということは、第1複合酸化物とも第2複合酸化物とも異なる新たな複合酸化物(LiaM1b M2cOd組成の酸化物)としての相が形成されることを意味している。被告主張の「コア部とシェル部の境界部分で少なくとも部分的に元素が拡散」するという程度では、これらのピーク位置が基礎づけられるものではなく、被告は、引用発明において構成要件Fに対応するW4f7/2及びW4f5/2ピークが現れる程度にまで化学状態が変化していることを直接的にも測定データによっても示していない。
⑷ 以上によれば、引用発明について、
「LiaNibWcOd組成の酸化物(ニッケルタングステン酸リチウム)を含むものと解されるところであり、当然、固溶体に対するXPS分析時には、その大きさの程度(強度)はともかくとしてW4f7/2に対応するピークが本件発明1で特定する「34.0から35.0eVの範囲内」に存在するとともに、W4f5/2に対応するピークが本件発明1で特定する「36.0から37.0eVの範囲内」に存在するということができる」と認定した本件決定は誤りであり、この点は結論に影響を及ぼす。〔被告の反論〕
⑴
(原告の主張)
は、引用発明において第1複合酸化物の表面に形成されているものは「LiaNibWcOd組成の酸化物(ニッケルタングステン酸リチウム)」ではなく、「Li1.025Ni0.91Co0.06Al0.03O2-WO3」若しくは「WO3」であるという前提に立つが、かかる前提が誤りであることは既に述べたとおりである。
⑵ また、原告は、引用発明は本件明細書等の比較例2と類似しているから、
比較例2と同様に4f7/2に対応するピークが34.0から35.0eVの範囲内に存在せず、W4f5/2に対応するピークが36.0から37.0eVの範囲内に存在しないなどと主張するが、比較例2は熱処理を施していない単純混合のものであって、熱処理を行う引用発明とは全く異なる。よって、原告の上記主張は失当である。
7 取消事由1(本件発明1についての新規性欠如に関する判断の誤り)のうち、
構成要件C(zの値)に関する一致点の判断の誤り〔
(原告の主張)
〕
⑴ 本件決定は、本件発明1の構成要件Cに関して、相違点ではない旨の判断
しているところ、本件明細書等の段落【0145】の記載を根拠に、実施例1では600℃、5時間の熱処理を2回行ってz=0.005であるのに対して、引用発明ではその計10時間よりも短い3時間(本件実施例1の3/10)であることから、引用発明におけるzの値は0.001以上ではあるなどと極めて科学的根拠に乏しい推測をしているが、このような机上の空論が成り立つ余地はない。
⑵ そもそも引用発明における「母材」と本件明細書等の実施例1に係る第1
複合酸化物は、製造方法が異なっており、その生成物の三次元構造や物性も異なると考えられるので、加熱時間以外の要素を捨象し、単純に加熱時間の違いのみの問題として比較できない。その上、熱反応は分子間の相互作用であることから、生成物は時間の経過に伴い、少なくともべき関数的に増加するものであるから、このような0.005×3/10=0.0015>0.001のような計算は誤りである。また、本件発明の実施例1と引用例1の実施例4の違いは、反応時間のみにとどまらず、充足気体、冷却工程の有無等、極めて多岐にわたることから、そもそも本件発明の実施例1と引用例1の実施例4の実験を同列に扱うことはできず、zの値を本件決定のように認定できない。
⑶ さらに引用発明の表1は、正極活物質中のリチウム含有量を記載している
ところ、比較例1は、未処理の正極活物質(すなわち、実施例1で使用された基材)に対応し、過剰リチウム量は0.08重量%、炭酸リチウム中のリチウム量は0.071重量%と記載されている。一方、引用発明の基となった、0.15原子%のWO₃を使用する実施例4では、正極活物質中の総リチウム量は0.08重量%であり、これは比較例1の過剰リチウム量と同一である。しかし、実施例4において、過剰リチウム量は0.02重量%に減少し、炭酸リチウム中のリチウム量は0.017重量%に低下していることから、実施例4においては、炭酸リチウム中のリチウムの0.054重量%がタングステンと反応してLi–W化合物を形成したと理解できる。これらを踏まえて、例えば、以下の計算が考えられる 。-比較例1(未処理)表面のLi₂CO₃由来リチウム量:0.71wt%-実施例4(0.15at% WO₃)表面のLi₂CO₃由来リチウム量:0.17wt%-Li₂CO₃減少によるリチウム量減少量:0.54wt%(Li₂CO₃分子量:73.89g/mol、Li₂CO₃中リチウム質量:13.88g/mol、Li₂CO₃中リチウム重量分率:0.188)-(正極活物質重量を100gと仮定)Li₂CO₃還元によるリチウム量減少量:0.054g-リチウム重量分率を考慮したLi₂CO₃還元量:0.054g×0.188=0.287g-減少したLi₂CO₃のモル数:0.287/73.89=0.003886mol-減少したLi₂CO₃1molあたりに必要なWのモル数:0.003886mol(反応式:Li₂CO₃+WO₃→Li₂WO₄+CO₂)- 添加したWO₃0.54g中のWのモル数:0.54/231.84=0.002328mol上記計算結果によれば、添加されたWのモル数は減少したLi₂CO₃のモル数(0.003886mol)を下回っており、引用発明の実施例4で使用されたWO₃の量は、Li₂CO₃の減少分を補うためにも不十分であることが理解できる。これを踏まえると、0.15at%WO₃に含まれるWの全量がバルク粒子にドープされたとしても、本発明の化学式2におけるzの値は0.0015にしかならない。他方、引用発明においては、0.15at%WO₃に含まれるWの大部分は過剰リチウムとの反応によりLi-W化合物へと変換されるため 、バルク粒子へドープ(拡散)可能なWのモル分率は0.001に達し得ない。したがって、発明の化学式2におけるzの値は0.001を下回る可能性がむしろ高い。そうすると、「引用発明におけるzの値は0.005よりも小さいとしても0.001以上ではあり、本件発明1で特定する「0.001≦z≦0.2」の範囲に含まれるものと推認し得る」という推測は成り立ち得ない。以上のとおり、引用発明が本件発明1の構成要件Cを満たす(一致点とする)と判断した本件決定には誤りがあり、これは結論に影響を及ぼす。
⑷ なお、構成要件Cの化学式2は、第1複合酸化物、すなわちコアを構成する
複合酸化物の組成を特定するものであって、表面近傍のごく限られた領域のみでz≧0.001を満たせば足りると解することはできない。
(被告の主張)
は、構成要件Cの対象を、第1複合酸化物全体から表面近傍の局所領域へとすり替えるものであって失当である。〔被告の反論〕
⑴ 引用発明における「母材」も、本件明細書等に記載されるものと同様に、一
般的な正極活物質として知られたLiNiCoAlO 2で表される層状構造のリチウムニッケル複合酸化物粒子であることは既に述べたとおりである。
⑵ 本件決定は、
「0.005×3/10=0.0015>0.001」のような計算などはしておらず、
(原告の主張)
は本件決定に基づくものではない。ここで、フィックの法則に関する技術常識2によれば、母材側と、母材の表面に存在するリチウム化合物と反応させて母材の表面にタングステン酸リチウム(Li2WO4もしくはLi4WO5)といったタングステンおよびリチウムを含む化合物を形成する酸化タングステン粉末側との接触境界部分におけるタングステンの濃度勾配は、タングステンの拡散により時間とともに小さく(緩やかに)なることから、拡散する量は単純に時間に比例するわけではなく、時間の経過とともに少なくなっていくのが技術常識である。
⑶ 原告の計算式には誤りがあり、正しくは、
0.054g×0.188≒0.010gである。-比較例1(未処理)表面のLi₂CO₃由来リチウム量:0.71wt%-実施例4(0.15at% WO₃)表面のLi₂CO₃由来リチウム量:0.17wt%-Li₂CO₃減少によるリチウム量減少量:0.54wt%(Li₂CO₃分子量:73.89g/mol、Li₂CO₃中リチウム質量:13.88g/mol、Li₂CO₃中リチウム重量分率:0.188)-(正極活物質重量を100gと仮定)Li₂CO₃還元によるリチウム量減少量:0.054g-リチウム重量分率を考慮したLi₂CO₃還元量:0.054g×0.188=0.287g-減少したLi₂CO₃のモル数:0.287/73.89=0.003886mol-減少したLi₂CO₃1molあたりに必要なWのモル数:0.003886mol(反応式:Li₂CO₃+WO₃→Li₂WO₄+CO₂)- 添加したWO₃0.54g中のWのモル数:0.54/231.84=0.002328molそして、正しい計算値に基づいて「減少したLi₂CO₃のモル数」を計算すると、0.010/73.89≒0.000135molとなり、WO₃中のWのモル数(0.002328mol)は、減少したLi₂CO₃のモル数の約17倍にもなる。したがって、原告の「上記計算結果によれば、添加されたWのモル数は減少したLi₂CO₃のモル数(0.003886mol)を下回っており」との主張は失当である。
⑷ 原告は、0.15at%WO₃に含まれるWの全量がバルク粒子にドープさ
れたとしても、本件発明1の化学式2におけるzの値は0.0015にしかならないと主張するところ、当該主張は、Wが正極活物質全体に均一に分散していることを前提としたものである。そして、熱処理によりコア部とシェル部の境界部分が拡散により固溶して、固溶体が形成されるという被告主張技術常識1に照らせば、引用発明においてWが正極活物質全体に均一に分散していると解することはできないから、
(原告の主張)
は前提において誤りがある。そして、本件発明1においても、コア中に含まれる第1複合酸化物の含有量は何ら特定されていないところ、引用発明においても、母材表面近傍では拡散により存在するW含有量は高く、母材中のNiがその表面に形成されるタングステン酸リチウム側へ拡散による流出とあいまって、そのモル分率が0.001以上である部分も当然存在すると解されるから、Wのモル分率は0.001に達し得ないことが明らかであり、本件発明1の化学式2におけるzの値は0.001を下回る可能性がむしろ高いとの
(原告の主張)
は失当である。ここで、本件発明1の化学式2において、等価的な置換元素であるM3、M4として複数の元素が列挙されているところ、M3とM4が異なる元素でなければならない旨の規定はない。そうすると、M3としてAlを選択し、M4としてWとAlを選択することも当然本件発明1の範囲内にあると解されるところ、この場合Wのモル分率は「0.001」という値以下でも許容されることになるから、仮に引用発明において、母材表面近傍でもWのモル分率が0.001以上となる部分がないとしても、これにより本件発明1と引用発明が区別されることにはならない。
8 取消事由1(本件発明1についての新規性欠如に関する判断の誤り)のうち、
構成要件E(結晶構造)に関する一致点の判断の誤り〔
(原告の主張)
〕
⑴ 本件決定は、NCAを構成する元素の中でニッケルのみが元素拡散層の方
向へ拡散し、元素拡散層内のタングステンと反応して単斜晶系、三方晶系、または立方晶系の結晶構造を有するLi a Ni bW c Od 組成を必然的に形成する旨を認定している。しかし、このようにニッケルのみが元素拡散層の方向へ拡散し、しかもタングステンと反応して単斜晶系、三方晶系、または立方晶系の結晶構造を形成することは極めて不自然と考えられるため、このような認定を行うためには何らかの合理的理由やそれを支える技術常識の立証が不可欠であるが、本件決定は、その合理的な理由やそれを支える技術常識を示す証拠を示していない。
⑵ 引用発明における「母材」は「Niを主成分とする酸化物と水酸化リチウ
ムを混合」して形成されているのに対し、本件明細書等の実施例1に係る第1複合酸化物は、Ni0.92Co0.08(OH)2(ニッケル水酸化物)水酸化物前駆体にLiOH(水酸化リチウム)とAl2O3(酸化アルミニウム)を混合して生成されるものであり、そもそも母材自体の三次元構造が異なっている。そして、第2複合酸化物の構成成分の一部は母材由来であることから、その構造は、母材の結晶構造の影響も当然に受けると考えられる。そうすると、仮に引用発明のシェル部分においてLiaNibWcOd組成の酸化物(ニッケルタングステン酸リチウム)が形成されていたとしても、その基となる母材自体の三次元構造が違っている以上、本件明細書等の実施例における第2複合酸化物と同様の結晶構造が形成されていると考える根拠はない。
⑶ また、引用発明においては、「650℃に3時間加熱した後、炉冷した」、
即ち、冷却工程を挟まないものであるのに対し、本件発明1は「600℃で5時間維持した後、自然冷却した。次に、上記と同じ条件下で熱処理および冷却を1回さらに行った」ものであり、本件発明1は、冷却工程を2回行うものである。冷却が結晶構造に与える影響に関し、例えば、甲15(加熱と冷却による結晶操作、https://hasegawa-kakosho.com/kanetutoreikyaku/)に、冷却工程によって結晶構造が変化することが明確に記載されているように、冷却工程を挟むことによって、結晶構造が大きく変化することは技術常識である。また、甲16(急冷凝固アルミニウム合金とその二、三の性質、https://www.jstage.jst.go.jp/article/materia1962/12/2/12_2_91/_pdf )には、冷却によって、さらには、冷却のスピードによって、結晶構造が大きく変化することが明確に記載されている。このように、冷却工程を挟まない引用発明と、冷却工程を2回も行う本件発明1とでは、第2複合酸化物に相当する部分の結晶構造においても、大きな違いが生ずることが合理的に予測され、少なくとも本件明細書等の記載を根拠として、単斜晶系(monoclinic)、三斜晶系(triclinic)および等軸晶系(cubic)から選ばれる少なくとも一つの結晶構造を有するという推測は成り立ちえない。以上を踏まえると、「タングステン酸リチウム(Li2WO4もしくはLi
4 WO5)といったタングステンおよびリチウムを含む化合物」のうちLia
NibWcOd組成の酸化物(ニッケルタングステン酸リチウム)を含むものと解される部分にあっては、本件発明1と同様に、「単斜晶系(monoclinic)、三斜晶系(triclinic)および等軸晶系(cubic)から選ばれる少なくとも一つの結晶構造」を有すると解される」と判断した本件決定は誤りであり、結論に影響を及ぼす。〔被告の反論〕
⑴ 原告は、ニッケルのみが元素拡散層の方向へ拡散し、しかもタングステン
と反応して単斜晶系、三方晶系、または立方晶系の結晶構造を形成することは極めて不自然と考えられると主張するが、本件決定はニッケルのみが拡散するとしたものではない。引用発明の母材に含まれるNi、Co、AlのうちNiのモル分率が圧倒的に高いから、技術常識2からみればNiが相対的に多く拡散し、その結果、母材表面に形成されているタングステン酸リチウム側に拡散、固溶化するものも多いと理解したのであり、この理解は合理的である。
⑵ 母材の構造はどちらもLiNiCoAlO 2で表される層状構造のリチウ
ムニッケル複合酸化物粒子であって、実質的に同じであることは既に述べたとおりである。
⑶ 引用発明においても、Niが多く拡散し、母材表面に形成されているタン
グステン酸リチウムと拡散、固溶化することが合理的に理解できるところ、このように形成された固溶体はLiaNibWcOd組成の部分も含み、当然本件発明1と同様の結晶構造を有するものといえる(本件明細書等の【0039】参照)。なお、甲15、16は金属又は合金の結晶構造に関する文献であり、本件発明とは何ら関係がない。よって、構成要件Eの関する一致点の判断に誤りはない。
9 取消事由2(本件発明4の新規性欠如に関する判断の誤り)について
〔
(原告の主張)
〕取消事由1で述べたのと同様の理由で、「引用発明においても、固溶体を形成した状態で存在するといえる「タングステン酸リチウム(Li2WO4もしくはLi4WO5)といったタングステンおよびリチウムを含む化合物」は、LiaNibWcOd組成の酸化物(ニッケルタングステン酸リチウム)を含むものと解されるところであり」と判断した本決定には誤りがあり、この点は結論に影響を及ぼす。また、本件発明4は、「第2複合酸化物」の内容を明確に特定しているものであり、仮に本件発明1が引用発明に対して新規性を欠くとしても、引用発明は構成要件G「前記第2複合酸化物は、下記の化学式1で表される、請求項1に記載の正極活物質[化学式1]LiaM1bWcOd(ここで、M1は、Niであり、0≦a≦6、0<b≦2、0<c≦2、4≦d≦8である。)」を満たさないから、少なくとも本件発明4は引用発明に対して新規性を有する。よって、本件発明4の判断においても本件決定には誤りがあり、これも決定の結論に影響を及ぼすものである。〔被告の反論〕引用発明において、母材に含まれるNiが母材表面に形成されているタングステン酸リチウムに拡散、固溶化するといえるところ、そこには、本件発明4と同様にLiaM1bWcOd組成の酸化物(ニッケルタングステン酸リチウム)を含むものと解される。よって、本件決定における本件発明4についての判断に誤りはなく、取消事由2は、理由がない。
10 取消事由3(本件発明7の新規性欠如に関する判断の誤り)について
〔
(原告の主張)
〕本件発明7の[化学式3]は「LiaM1bWcOd-LiwNi1-(x+y+z)CoxM3yM4zO2」であり、そのうち、「LiaM1bWcOd」の部分は第2複合酸化物に関する[化学式1]と同一であるところ、本件決定が引用発明の「タングステン酸リチウム(Li2WO4もしくはLi4WO5)といったタングステンおよびリチウムを含む化合物」について「LiaNibWcOd組成の酸化物(ニッケルタングステン酸リチウム)を含む」と判断した点には誤りがある。また、本件発明7は、固溶体の構成を特定することを通して第2複合酸化物の内容を明確に特定しているものであるから、仮に本件発明1が引用発明に対して新規性を欠くとしても、少なくとも本件発明7は引用発明に対して新規性を有する。よって、本件発明7の判断においても本件決定には誤りがあり、これも決定の結論に影響を及ぼす。〔被告の反論〕引用発明において、母材に含まれるNiが母材表面に形成されているタングステン酸リチウムに拡散、固溶化するといえるところ、そこには、LiaNibWcOd組成の酸化物(ニッケルタングステン酸リチウム)を含むものと解され、引用発明において母材粒子のうちWが拡散して固溶化した部分は、本件特許の請求項7が引用する請求項1に係る発明である本件発明1でいう[化学式2]で表される組成を含むと解される。したがって、引用発明において、これらNiやWの相互拡散により形成される固溶体にあっても、本件発明7で特定する[化学式3]で表される組成を含むといえる。よって、本件決定における本件発明7についての判断に誤りはなく、取消事由3は、理由がない。
11 取消事由4(本件発明9の新規性欠如に関する判断の誤り)について
〔
(原告の主張)
〕本件発明9は本件発明1を引用するところ、本件発明1は引用発明に対して新規性を有することから、本件発明9は引用発明に対して新規性を有する。よって、本件発明9が引用発明に対して新規性を欠くと判断した点においても本件決定は誤っており、この誤りは決定の結論に影響を及ぼす。〔被告の反論〕既に述べたとおり本件発明1は新規性を有しておらず、請求項1を引用する請求項9に係る発明である本件発明9についても本件決定に記載したとおり新規性を有しておらず、取消事由4は、理由がない。
12 取消事由5(本件発明10の新規性欠如に関する判断の誤り)について
〔
(原告の主張)
〕本件発明10は本件発明1、4、7及び9を引用するところ、本件発明1、4、7及び9は引用発明に対して新規性を有することから、本件発明10が引用発明に対して新規性を有する。よって、本件発明10が引用発明に対して新規性を欠くと判断した点においても本件決定は誤っており、この誤りは決定の結論に影響を及ぼす。〔被告の反論〕本件発明1は新規性を有しておらず、請求項1を引用する請求項10に係る発明である本件発明10についても本件決定に記載したとおり新規性を有しておらず、取消事由5は、理由がない。
13 取消事由6(本件発明11についての新規性欠如に関する判断の誤り)
について〔
(原告の主張)
〕本件発明11は本件発明10を引用するところ、本件発明10は引用発明に対して新規性を有することから、本件発明11が引用発明に対して新規性を有する。よって、本件発明11が引用発明に対して新規性を欠くと判断した点においても本件決定は誤っており、この誤りは決定の結論に影響を及ぼす。〔被告の反論〕既に述べたとおり本件発明10は新規性を有しておらず、請求項10を引用する請求項11に係る発明である本件発明11についても本件決定に記載したとおり新規性を有しておらず、取消事由6は、理由がない。
第4 当裁判所の判断
1 取消事由1(本件発明1についての新規性欠如に関する判断の誤り)のうち、構成要件Dの「固溶体」に関する判断の誤りについて
⑴ 本件決定の固溶体に関する判断の内容ア 本件決定は、本件発明1の固溶体の意義について特段の認定を行うことなく、引用発明の「「リチウムニッケル複合酸化物粒子」と「タングステン酸リチウム(Li2WO4もしくはLi4WO5)といったタングステンおよびリチウムを含む化合物」とは、本件発明1と同様に、本件発明1でいう「固溶体を形成した状態」にあると解される。」とした上で、本件発明1と引用発明とは、「前記第1複合酸化物と前記第2複合酸化物は、固溶体を形成した状態で存在」するものである点で一致する(本件決定23頁12行目ないし19行目)として、本件発明1の構成要件Dを一致点として認定した。本件決定は、引用発明の「リチウムニッケル複合酸化物粒子」と「タングステン酸リチウム(Li2WO4もしくはLi4WO5)といったタングステンおよびリチウムを含む化合物」とが固溶体を形成した状態にあると判断しているが、この判断は、「母材(芯材)としてのリチウムニッケル複合酸化物粒子と酸化タングステン(WO3)粉末とを混合した混合粉末を650℃、3時間熱処理することにより、リチウムニッケル複合酸化物粒子の一次粒子表面に存在するリチウム化合物と前記酸化タングステン粉末を反応させて形成されるものであり、当然、互いの化合物に含まれる遷移金属元素(ニッケル、タングステンなど)の相互拡散が多少なりとも生じているといえる」(本件決定23頁6行目ないし12行目)ことを前提とし、その根拠として、「タングステン酸リチウム(Li2WO4もしくはLi4WO5)といったタングステンおよびリチウムを含む化合物が形成された一次粒子の少なくとも表面部分には、酸化タングステン(WO3)粉末に含まれている遷移金属元素であるタングステンが多少なりとも拡散し、ニッケルの一部がタングステンに置換された組成を有すると解されること(参考文献2の段落【0043】、【0044】、【0068】、【0075】、【0081】等の記載、実施例5では、500℃、1時間半の熱処理で被覆材に含まれる遷移金属(タングステン)が正極活物質側に拡散することが記載されている。)」を挙げた上で、かかる熱処理後のリチウムニッケル複合酸化物の組成は、本件発明1で特定する[化学式2]で表される「LiwNi1-(x+y+z)CoxM3yM4zO2」においてそれぞれ「M3」がAl、「M4」がWである場合に相当する」としている(本件決定22頁7行目ないし20行目)。イ 本件では「固溶体」の意義について当事者間に争いがあるので、本件決定の当否について検討するに当たり、まず本件発明1における固溶体の意義について検討し、その上で、上記決定の前提が成り立つか否かにつき検討することとする。
⑵ 本件明細書等の記載本件各発明について、特許請求の範囲の記載は前記第2の2のとおりであるところ、本件明細書等(甲1)には、以下の記載がある(原文に付された下線は除き、判決で別の箇所に下線を付記した)。ア 発明の詳細な説明(ア) 発明が解決しようとする課題マ マ「本発明の目的は、既存リチウム二次電池用正極活物質問多様な問題点を解決するために、構造的安定性が向上し、リチウムイオンの伝導性を向上させた正極活物質を提供することにある。」(【段落0009】)「また、本発明の他の目的は、本願で定義された異種の複合酸化物を含むことによって、高温貯蔵安定性および寿命特性が向上した正極活物質を提供することにある。」(段落【0010】)「また、本発明の他の目的は、本願で定義された正極活物質を含む正極を使用するリチウム二次電池を提供することにある。」(段落【0011】)(イ) 課題を解決するための手段「本発明の一態様によれば、リチウムの吸藏および放出が可能な第1複合酸化物および前記第1複合酸化物の表面のうち少なくとも一部に存在し、前記第1複合酸化物と固溶体を形成した状態で存在する第2複合酸化物を含む正極活物質が提供され得る。」(段落【0013】)「この際、前記第2複合酸化物は、下記の化学式1で表される。」(段落【0014】)「[化学式1]LiaM1bM2cOd」(段落【0015】)「(ここで、M1は、Ni、Mn、Co、Cu、Nb、Mo、Al、Zn、Mg、CeおよびSnから選択される少なくとも一つであり、M2は、Mn、Al、Ti、Zr、Mg、V、B、Mo、Zn、Nb、Ba、Ta、Fe、Cr、Sn、Hf、Ce、W、NdおよびGdから選択される少なくとも一つであり、M1とM2は、互いに異なり、0≦a≦6、0<b≦2、0<c≦2、4≦d≦8である。)」(段落【0016】)(ウ) 発明の効果「本発明の多様な実施例による正極活物質は、異種の複合酸化物を含み、かつ特に第2複合酸化物が第1複合酸化物のうち少なくとも一部と固溶体を形成することによって、正極活物質問構造的安定性および熱的安定性(高温貯蔵安定性)を向上させることができる。」(段落【0018】)「また、上述した構造の正極活物質は、活物質内リチウムイオン伝導性が向上するにつれて、正極活物質の寿命特性、効率特性および抵抗などのような電気化学的特性も、従来の正極活物質に比べて向上することができる。」(段落【0019】)イ 発明を実施するための形態「正極活物質本発明の一態様によれば、リチウムの吸藏および放出が可能な第1複合酸化物および前記第1複合酸化物の表面のうち少なくとも一部に存在する第2複合酸化物を含む正極活物質が提供され得る。」(段落【0024】)「この際、前記正極活物質内前記第1複合酸化物と前記第2複合酸化物は、固溶体を形成した状態で存在することができる。」(段落【0025】)「例えば、前記第1複合酸化物をAと言い、前記第2複合酸化物をBと言うとき、前記第1複合酸化物と前記第2複合酸化物が形成した固溶体は、(AB)pまたは(A)q(B)r形態であってもよい。」(段落【0026】)「ただし、本願で意味する固溶体は、(A)q(B)r形態の固溶体であり、ここで、(A)q部分は、前記正極活物質を形成する1次粒子のコアに該当し、(B)r部分は、前記正極活物質を形成する1次粒子のシェルに該当することができる。これに伴い、本願で意味する前記第1複合酸化物と前記第2複合酸化物の固溶体は、前記第1複合酸化物を含むコアと前記第2複合酸化物を含むシェル層が固溶体の形態で存在するコア-シェル粒子を指すものと理解されなければならない。この際、前記シェル層は、前記コアの表面のうち一部または全部をカバーするように存在することができ、前記第2複合酸化物は、前記シェル層のうち一部または全部に存在することができる。ここで、前記シェル層内に存在する前記第2複合酸化物は、前記固溶体のうち前記第2複合酸化物に該当する領域を意味するものと理解されることもできる。」(段落【0027】)「上述したように、前記第1複合酸化物と前記第2複合酸化物が形成した固溶体は、コア-シェル粒子の形態で存在し、前記コア-シェル粒子は、球形状、棒形状、楕円形状および/または不定形の形状を有することができる。」(段落【0028】)「また、前記正極活物質は、前記コア-シェル粒子および前記コア-シェル粒子が凝集して形成された単一の2次粒子それ自体であるか、前記2次粒子が複数個集まって形成された集合体であってもよい。」(段落【0029】)「本願で定義された第2複合酸化物は、下記の化学式1で表される粒子と定義され得る。下記の化学式1は、本願で言及された第2複合酸化物を独立して特定するために記載したものであって、本発明の一態様による正極活物質内存在する第2複合酸化物が第1複合酸化物と固溶体を形成した場合、後述する化学式3で表される。」(段落【0030】)「[化学式1]LiaM1bM2cOd」(段落【0031】)「(ここで、M1は、Ni、Mn、Co、Cu、Nb、Mo、Al、Zn、Mg、CeおよびSnから選ばれる少なくとも一つであり、M2は、Mn、Al、Ti、Zr、Mg、V、B、Mo、Zn、Nb、Ba、Ta、Fe、Cr、Sn、Hf、Ce、W、NdおよびGdから選ばれる少なくとも一つであり、M1とM2は、互いに異なり、0≦a≦6、0<b≦2、0<c≦2、4≦d≦8である。)」(段落【0032】)「より具体的に、M1は、Mn、Mg、CoおよびNiから選ばれる少なくとも一つであってもよい。」(段落【0033】)「例えば、M1がNiであり、M2がWである場合、第2複合酸化物は、化学式LiaNibWcOdで表される。また、M1がCoであり、M2がWである場合、第2複合酸化物は、化学式Li aCobWcOdで表される。また、M1がMnであり、M2がWである場合、第2複合酸化物は、化学式LiaMnbWcOdで表される。また、M1がMgであり、M2がWである場合、第2複合酸化物は、化学式Li aMgbWcOdで表される。」(段落【0034】)「上述したように、第2複合酸化物は、第1複合酸化物と固溶体を形成して、正極活物質の構造的安定性および熱的安定性を向上させることが可能であるという前提下に、M1およびM2の種類によって多様な組成を有することができる。」(段落【0037】)「この際、前記第2複合酸化物は、前記第1複合酸化物と同一または異なる結晶構造を有することができる。例えば、前記第2複合酸化物は、単斜晶系(monoclinic)、三斜晶系(triclinic)および等軸晶系(cubic)から選ばれる少なくとも一つの結晶構造を有することができる。また、前記シェル層に存在する前記第2複合酸化物は、リチウムリッチ金属酸化物(Lithium-rich metal oxide)であってもよい。」(段落【0038】)「具体的な例として、M1がNiであり、M2がWであり、単斜晶系結晶構造を有する第2複合酸化物は、化学式LiaNibWcOdで表され、三斜晶系結晶構造を有する第2複合酸化物は、化学式LiaNib(WcOd)
2 で表される。」(段落【0039】)「一方、実際正極活物質のSEMまたはTEM写真においてコアとシェル層は、明確な境界をもって区分されにくいことがあるが、本願では、本明細書に記載された内容の理解を助けるために、正極活物質の構造をコアとシェル層とに区分して説明することとする」(段落【0040】)「すなわち、本願でコアは、第1複合酸化物が存在する領域であり、シェル層は、第2複合酸化物が存在する領域と定義され得、第1複合酸化物と第2複合酸化物が存在する領域の深さによってコアとシェル層の厚さ乃至大きさは変わることができる。」(段落【0041】)「この際、シェル層の厚さは、20nm、好ましくは10nm、より好ましくは5nm以下であってもよいが、必ずこれらに制限されるものではない。」(段落【0042】)「また、シェル層がコアの表面のうち一部に存在する場合、シェル層が存在しないコアの表面に第1複合酸化物が外部に露出することもできるものと理解されなければならない。」(段落【0043】)「本願で定義された第1複合酸化物は、下記の化学式2で表される粒子と定義され得る。」(段落【0044】)「[化学式2]LiwNi1-(x+y+z)CoxM3yM4zO2」(段落【0045】)「(ここで、M3は、MnおよびAlから選ばれる少なくとも一つであり、M4は、Mn、Al、Ti、Zr、Mg、V、B、Mo、Zn、Nb、Ba、Ta、Fe、Cr、Sn、Hf、Ce、W、NdおよびGdから選ばれる少なくとも一つであり、0.5≦w≦1.2、0.01≦x≦0.50、0.01≦y≦0.20、0.001≦z≦0.20である。)」(段落【0046】)「前記コア-シェル粒子は、隣り合ったコア-シェル粒子と互いに接してコア-シェル粒子の間の界面または結晶粒界(grain boundary)を形成することができる。また、前記コア-シェル粒子は、前記2次粒子の内部で隣り合ったコア-シェル粒子から離隔して内部孔隙を形成することもできる。」(段落【0047】)「ここで、前記コア-シェル粒子の平均直径は、0.1μm~6.0μmであってもよく、前記2次粒子の平均直径は、6.0μm~20.0μmであってもよい。この際、前記コア-シェル粒子は、隣り合ったコア-シェル粒子と互いに接して結晶粒界を形成せず、内部孔隙と接することによって、前記2次粒子の内部に存在する表面を形成することができる。一方、前記2次粒子の最表面に存在する前記コア-シェル粒子が外気に露出した面は、前記2次粒子の表面を形成することになる。」(段落【0048】)「また、前記2次粒子の表面部に存在する前記コア-シェル粒子内に含まれたM2および/またはM4は、前記2次粒子の中心部に向かって減少する濃度勾配を示すことができる。すなわち、前記コア-シェル粒子内に形成されたM2および/またはM4の濃度勾配の方向は、前記2次粒子の表面部から前記2次粒子の中心部に向かう方向であってもよい。」(段落【0049】)「また、前記第1領域を除いた残りの領域が第2領域と定義され得、前記2次粒子の最表面からの距離R’が0~0.02Rである領域を第1領域と定義すれば、前記2次粒子の最表面からの距離R’が0.02R超過1.0Rである領域を第2領域と定義することができる。ここで、前記第2領域内に存在する前記コア-シェル粒子内に含まれたM2および/またはM4は、前記コア-シェル粒子内で一定方向に濃度が増加または減少する形態の濃度勾配を有してなくてもよい。」(段落【0056】)「上述したように、前記リチウム複合酸化物を構成する前記2次粒子がM2および/またはM4の濃度が互いに異なる第1領域および第2領域に区切られ、M2および/またはM4は、前記第1領域および前記第2領域内で異なる様態の濃度勾配を示すことによって、前記リチウム複合酸化物の構造的安定性および熱的安定性(高温貯蔵安定性)を向上させることができる。」(段落【0059】)「また、上述した濃度勾配を有するコアを含む正極活物質は、活物質内リチウムイオン伝導性が向上するにつれて、正極活物質の寿命特性、効率特性および抵抗などのような電気化学的特性も、従来の正極活物質に比べて向上することができる。」(段落【0060】)「先立って説明したように、前記第1複合酸化物の表面のうち少なくとも一部に存在する前記第2複合酸化物は、前記第1複合酸化物と固溶体を形成した状態で存在することができる。」(段落【0061】)「ここで、前記固溶体は、下記の化学式3で表される。」(段落【0062】)「[化学式3]LiaM1bM2cOd-LiwNi1-(x+y+z)CoxM3yM4zO2」(段落【0063】)「(ここで、M1は、Ni、Mn、Co、Cu、Nb、Mo、Al、Zn、Mg、CeおよびSnから選ばれる少なくとも一つであり、M2は、Mn、Al、Ti、Zr、Mg、V、B、Mo、Zn、Nb、Ba、Ta、Fe、Cr、Sn、Hf、Ce、W、NdおよびGdから選ばれる少なくとも一つであり、M3は、MnおよびAlから選ばれる少なくとも一つであり、M4は、Mn、Al、Ti、Zr、Mg、V、B、Mo、Zn、Nb、Ba、Ta、Fe、Cr、Sn、Hf、Ce、W、NdおよびGdから選ばれる少なくとも一つであり、M1とM2は、互いに異なり、0≦a≦6、0<b≦2、0<c≦2、4≦d≦8であり、0.5≦w≦1.5、0.01≦x≦0.50、0.01≦y≦0.20、0.001≦z≦0.20である。)」(段落【0064】)「より具体的に、M2は、M4またはM4のうち一部と同一であってもよい。すなわち、M2とM4が単一の元素である場合、M2とM4は、同一であってもよく、M2とM4がそれぞれ複数の元素である場合、M2全部または一部は、M4全部または一部と同一であってもよい。」(段落【0065】)「ここで、M2全部または一部がM4全部または一部と同一であるとき、M2およびM4は、前記正極活物質の表面部から前記正極活物質の中心部に向かって減少する濃度勾配を有することができる。」(段落【0066】)「他の実施例において、前記固溶体は、下記の化学式3-1で表される。」(段落【0067】)「[化学式3-1]LiaM1bWcOd-LiwNi1-(x+y+z)CoxM2yM3zO2」(段落【0068】)「(ここで、M1は、Ni、Mn、Co、Fe、Cu、Nb、Mo、Ti、Al、Cr、Zr、Zn、Na、K、Ca、Mg、Pt、Au、B、P、Eu、Sm、Ce、V、Ba、Ta、Sn、Hf、Ce、GdおよびNdから選ばれる少なくとも一つであり、M2は、MnおよびAlから選ばれる少なくとも一つであり、M3は、Mn、Al、Ti、Zr、Mg、V、B、Mo、Zn、Nb、Ba、Ta、Fe、Cr、Sn、Hf、Ce、W、NdおよびGdから選ばれる少なくとも一つであり、0≦a≦6、0≦b≦2、0≦c≦2、4≦d≦8、0.5≦w≦1.5、0.01≦x≦0.50、0.01≦y≦0.20、0.001≦z≦0.20である。)」(段落【0069】)「ここで、M3は、Wであるか、またはWを含むことができる。すなわち、M3が単一の元素である場合、M3は、Wである反面、M3が複数の元素である場合、M3は、WとWでない元素を含むことができる。M3がWであるか、またはWを含むとき、Wおよび(存在する場合)Wでない元素は、前記正極活物質の表面部から前記正極活物質の中心部に向かって減少する濃度勾配を有することができる。」(段落【0070】)「前記正極活物質のうち前記の化学式3および/または化学式3-1で表される固溶体の存在の有無は、XPS分析、Raman shift分析および/またはXRD分析結果等を通して確認することができる。」(段落【0071】)「XRD分析結果の場合、前記の化学式3および/または化学式3-1で表される固溶体形態のリチウム複合酸化物が存在する場合、前記固溶体は、前記第1複合酸化物と前記第2複合酸化物の回折ピーク特性を同時に示すことができる。」(段落【0072】)「例えば、化学式3で表される固溶体において、M1がNiであり、M2がWである第2複合酸化物とM3がAlであり、M4がWである第1複合酸化物が固溶体を形成する場合、固溶体は、化学式LiaNibWcOd-LiwNi1-(x+y+z)CoxAlyWzO2で表され、この際、固溶体は、LiaNibWcOdに特異的な回折ピーク特性とLi wNi1-(x+y+z)Co x Al y W z O 2 に特異的な回折ピーク特性を同時に示すことができる。」(段落【0073】)「また、化学式3-1で表される固溶体において、M1がNiである第2複合酸化物とM2がAlであり、M3がWである第1複合酸化物が固溶体を形成する場合、固溶体は、化学式LiaNibWcOd-LiwNi1-(x+y+z) CoxAlyWzO2で表され、この際、固溶体は、Li aNibWcOdに特異的な回折ピーク特性とLiwNi1-(x+y+z)CoxAlyWz O2に特異的な回折ピーク特性を同時に示すことができる。」(段落【0074】)「この場合、前記の化学式3および/または化学式3-1で表される固溶体形態のリチウム複合酸化物は、前記リチウム複合酸化物に対してCuKα 線を利用したXRD(X-ray diffraction)分析時に、X線回折スペクトルが2θ=15°~20°の範囲で(001)結晶面および(003)結晶面にそれぞれ対応するピークと2θ=44°~50°の範囲で(104)結晶面に対応するピークを有することができる。また、前記の化学式3および/または化学式3-1で表される固溶体形態のリチウム複合酸化物は、2θ=42°~44°の範囲で(20-2)結晶面に対応するピークを有することができる。」(段落【0075】)「また、前記の化学式3-1で表される固溶体形態のリチウム複合酸化物は、前記リチウム複合酸化物に対するXPS(X-ray photoelectron spectroscopy)分析時に、W4fおよびO1sに対するピークにおいてLi a Ni b W c O d に特異的なピーク特性とLiwNi1-(x+y+z)CoxAlyWzO2に特異的なピーク特性を同時に示すことができる。」(段落【0076】)「具体的に、前記リチウム複合酸化物に対するXPS分析時に、W4f 7/2 に対応するピークは、35.5eV以下、好ましくは34.0eV~35.0eVの範囲内に存在することができる。」(段落【0077】)「また、前記リチウム複合酸化物に対するXPS分析時に、W4f 7/2に対応するピークは、37.5eV以下、好ましくは36.0eV~37.0eVの範囲内に存在することができる。」(段落【0078】)「LiaNibWcOd組成の酸化物のW6+に対するW4f7/2ピークは、34.0eV~35.0eVの範囲内に存在し、W4f 5/2ピークは、36.0eV~37.0eVの範囲内に存在することができる。反面、Lia WcOd またはWcOd 組成の酸化物のO 2- に対するW4f7/2ピークは、35.0eVを超過する範囲に存在し、W4f 5/2ピークは、37.0eVを超過する範囲に存在することを確認することができる。」(段落【0079】)「したがって、本発明の一実施例による正極活物質に含まれた前記リチウム複合酸化物に対するXPS分析時に、34.0eV~35.0eVの範囲内にW4f7/2ピークが存在し、36.0eV~37.0eVの範囲内にW4f5/2ピークが存在することによって、前記リチウム複合酸化物は、LiaNibWcOd固有のピークを示す。」(段落【0080】)「また、前記リチウム複合酸化物に対するXPS分析時に、O1sに対応するピークは、528.0eV~530.0eVの範囲および530.0eV~531.0eVの範囲内にそれぞれ存在することができる。」(段落【0081】)「LiwNi1-(x+y+z)CoxAlyWzO2の組成の酸化物のO-M3+結合に対するピークは、528.0eV~529.0eVの範囲で現れる。LiaNibWcOd組成の酸化物のO2-に対するピークは、530.0eV~531.0eVの範囲で存在するが、Li aWcOdおよびWcOd組成の酸化物も、530.0eV~531.0eVの範囲内でO 2-に対するピークが現れるので、それぞれの酸化物を区別しにくいことがある。」(段落【0082】)「本発明の一実施例による正極活物質に含まれた前記リチウム複合酸化物は、XPS分析時に、O1sスペクトル内でLi wNi1-(x+y+z)Cox Al yW zO 2の組成の酸化物のO-M 3+ 結合に対応するピークとともに、LiaNibWcOd組成の酸化物のO2-に対するピークを同時に有することができる。530.0eV~531.0eVの範囲内でのピークは、後述する合金酸化物によるものであってもよい。」(段落【0083】)「上述したように、前記の化学式3および/または化学式3-1で表される固溶体を含む正極活物質は、活物質内、特に活物質の表面でのリチウムイオン伝導性が向上するにつれて、正極活物質の寿命特性、効率特性および抵抗などのような電気化学的特性も、従来の正極活物質に比べて向上することができる。」(段落【0084】)ウ 実施例(ア) 正極活物質の製造「実験例1.(1)正極活物質の製造(実施例1)共沈法(co-precipitation method)により球形のNi0.92Co0.08(OH)2水酸化物前駆体を合成した。90L級の反応器でNiSO4・7H2OおよびCoSO4・7H2Oを92:8のモル比で混合した1.5Mの複合遷移金属硫酸水溶液に25wt%のNaOHと30wt%のNH4OHを投入した。反応器内のpHは、11.5を維持させ、この際の反応器の温度は、60℃に維持し、不活性ガスであるN2を反応器に投入して、製造された前駆体が酸化しないようにした。合成撹拌の完了後、フィルタープレス(F/P)装備を利用して洗浄および脱水を進めて、Ni0.92Co0.08(OH)2水酸化物前駆体を収得した。」(段落【0144】)「水酸化物前駆体をLi含有原料物質であるLiOHおよびAl含有原料物質であるAl2O3と共にミキサーを使用して混合し、焼成炉でO2雰囲気を維持しつつ、分当たり1℃で昇温して熱処理温度650℃で10時間維持した後、自然冷却した。得られた正極活物質をW含有原料物質(WO3)と共にミキサーを用いて混合した。同じ焼成炉でO
2 雰囲気を維持しつつ、分当たり2℃で昇温して熱処理温度600℃で5時間維持した後、自然冷却した。次に、上記と同じ条件下で熱処理および冷却を1回さらに行った。実施例1で製造された正極活物質がLi1.0Ni0.902Co0.079Al0.014W0.005O2組成式を有することが確認された。」(段落【0145】)「(実施例2)実施例2で得られた正極活物質がLi1.04Ni0.897Co0.084Al0.014 W0.005O2の組成式を有するように、W含有原料物質(WO 3)およびコバルト原料物質(Co(OH)2)と共に混合したことを除いて、実施例1と同じ方法で正極活物質を製造した。」(段落【0146】)「(実施例3)実施例3で得られた正極活物質がLi1.04Ni0.897Co0.079Al0.014 W0.005Mg0.005O2の組成式を有するように、W含有原料物質(WO3)およびマグネシウム原料物質(Mg(OH)2)と共に混合したことを除いて、実施例1と同じ方法で正極活物質を製造した。」(段落【0147】)「(実施例4)実施例4で得られた正極活物質がLi1.04Ni0.897Co0.079Al0.014 W0.005Mn0.005O2の組成式を有するように、W含有原料物質(WO3)およびマンガン原料物質(Mn(OH)2)と共に混合したことを除いて、実施例1と同じ方法で正極活物質を製造した。」(段落【0148】)「(実施例5)実施例5で製造された正極活物質がLi1.04Ni0.901Co0.079Al0.014W0.005Ti0.001O2の組成式を有するように、W含有原料物質(WO3)およびTi含有原料物質(TiO2)を使用したことを除いて、実施例1と同じ方法で正極活物質を製造した。」(段落【0149】)「(実施例6)実施例6で製造された正極活物質がLi1.04Ni0.904Co0.079Al0.014W0.005Zr0.001O2の組成式を有するように、W含有原料物質(WO3)および代わりにZr含有原料物質(ZrO 2)を使用したことを除いて、実施例1と同じ方法で正極活物質を製造した。」(段落【0150】)「(実施例7)実施例7で製造された正極活物質がLi1.04Ni0.901Co0.078Al0.014W0.005Ti0.001Zr0.001O2の組成式を有するように、正極活物質をW含有原料物質(WO3)とWおよびTi含有原料物質(TiO2)およびZr含有物質を共に混合したことを除いて、実施例1と同じ方法で正極活物質を製造した。」(段落【0151】)「(比較例1)比較例1で製造されたLi1.04Ni0.907Co0.079Al0.014O2正極活物質をW含有原料物質(WO3)と混合しないことを除いて、実施例1と同じ方法で正極活物質を製造した。」(段落【0152】)「(比較例2)固相合成法を利用してLi4NiWO6を合成した。Ni(OH)2、WO3およびLiOH・H2Oをミキサーで混合した後、1000℃で熱処理して、Li4NiWO6リチウム複合酸化物を製造した。比較例1に製造された正極活物質にLi4NiWO6を0.5mol%を混合して、正極活物質を製造した。」(段落【0153】)「(比較例3)比較例1で製造されたLi1.04Ni0.907Co0.079Al0.014O2正極活物質と固相合成法を利用して合成したLi 2WO4およびLi2 W
2 O7 0.5mol%を混合した後、熱処理しないことを除いて、実施例1と同じ方法で正極活物質を製造した。」(段落【0154】)「(比較例4)比較例1で製造されたLi1.04Ni0.907Co0.079Al0.014O2正極活物質と固相合成法を利用して合成したLi 4NiWO6 0.5mol%を混合した後、熱処理しないことを除いて、実施例1と同じ方法で正極活物質を製造した。」(段落【0155】)「【表1】」(段落【0156】)(イ) 正極活物質のXPS分析「実施例および比較例によって製造された正極活物質に対してXPS分析を行って、正極活物質のうち固溶体が存在するか否かを確認した。XPS分析は、Quantum 2000(Physical Electronics.Inc.)(加速電圧:0.5~15keV、300W、エネルギー分解能:約1.0eV、最小分析領域:10micro、Sputter rate:0.1nm/min)を使用して行われた。」(段落【0157】)「図2は、実施例1によって製造された正極活物質に対するXPS分析結果を示すグラフである。」(段落【0158】)「【図2】」「図2を参照すると、Li aNibW cOd組成の酸化物のO2-に対するW4f7/2ピークは、34.0eV~35.0eVの範囲内に存在し、W4f5/2ピークは、36.0eV~37.0eVの範囲内に存在することを確認することができる。反面、LiaWcOdまたはWcOd組成の酸化物のW6+に対するW4f7/2ピークは、35.5eVを超過する範囲に存在し、W4f5/2ピークは、37.5eVを超過する範囲に存在することを確認することができる。」(段落【0159】)「実施例1によって製造された正極活物質のW4fスペクトルの場合、34.0eV~35.5eVの範囲内にW4f 7/2ピークが存在し、36.0eV~37.5eVの範囲内にW4f 5/2ピークが存在することを確認することができる。すなわち、実施例1によって製造された正極活物質は、LiaNibWcOd固有のピークを示す。」(段落【0160】)「したがって、図2に示したように、NCA組成の正極活物質のうちW4f結果によるLi a Ni b W cO d に対応する固有のピークが存在することを確認することによって、実施例1により製造された正極活物質は、LiaNibWcOd組成の酸化物とLiwNi1-(x+y+z)CoxAlyWzO2 組成の酸化物が固溶体を形成した複合体を含んでいることが分かる。」(段落【0161】)「下記の表2には、実施例および比較例により製造された正極活物質のW4f 7/2およびW4f 5/2 にそれぞれ対応するピークが存在する結合エネルギー区間をそれぞれ示した。」(段落【0162】)「【表2】」(段落【0163】)「前記表2の結果を参考すると、実施例1~実施例7の場合、比較例4とは異なって、LiaNibWcOd組成の酸化物を別に添加しなかったにもかかわらず、LiaNibWcOd組成の酸化物に対応するW4fピークが観察されることを確認することができる。」(段落【0164】)(ウ) 正極活物質のXRD分析「実施例および比較例によって製造された正極活物質に対しX線回折(XRD)分析を行って、正極活物質のうちLi wNi1-(x+y+z)Cox AlyW zO 2およびLi aNi bW cOd相が異存在するか否かを確認した。XRD分析は、Cu Kαradiation(1.540598Å)を利用したBruker D8 Advance回折計(diffractometer)を利用して行った。」(段落【0165】)「図3~図5は、実施例1によって製造された正極活物質に対するXRD分析結果を示すグラフである。」(段落【0166】)「【図3】」「図3を参照すると、正極活物質に含まれた化合物は、LiaNibWcOdに特異的な回折ピーク特性とLiwNi1-(x+y+z)CoxAlyWzO 2に特異的な回折ピーク特性を同時に示すことを確認することができる。」(段落【0167】)「【図4】」「【図5】」「より具体的に、図4および図5を参照すると、2θ が18.8°付近でLiwNi1-(x+y+z)CoxAlyWzO2の(003)結晶面に対応する回折ピークを示すことを確認することができる。また、2θ が18.3°付近でLi4NiWO6の(001)結晶面に対応する回折ピークを示すことを確認することができる。すなわち、正極活物質に含まれた化合物は、2θ が18°~20°である領域でLiaNibWcOdに特異的な回折ピーク特性とLiwNi1-(x+y+z)CoxAlyWzO2に特異的な回折ピーク特性を同時に示す。」(段落【0168】)「正極活物質に含まれた2θ が20°~30°である領域で(020)結晶面、(110)結晶面、(11-1)結晶面および(021)結晶面の位置で特異的な回折ピークを示し、これは、LiaNibWcOdに対応する回折ピークであることを確認することができる。」(段落【0169】)「また、図3および図5を参照すると、2θ が44.5°付近で正極活物質に含まれた化合物は、LiwNi1-(x+y+z)CoxAlyWzO2の(104)結晶面に対応する回折ピークを示し、2θ が43.2°の付近でLi4NiWO6の(20-2)結晶面に対応する回折ピークを示すことを確認することができる。」(段落【0170】)「これに伴い、図3~図5の結果を総合してみると、正極活物質に含まれた化合物は、LiaNibWcOdに特異的な回折ピーク特性とLi wNi1-(x+y+z)CoxAlyWzO2に特異的な回折ピーク特性を同時に示すことによって、化学式Li aNibWcO d-LiwNi1-(x+y+z)Co xAl y W z O 2 で表される固溶体であることを確認することができる。」(段落【0171】)「これと共に、実施例2~実施例7によって製造された正極活物質がいずれも固溶体およびリチウム合金酸化物に特異的な回折ピークパターンを示すが、比較例1によって製造された正極活物質の場合、Li wNi1-(x+y+z)CoxAlyO2組成に対応する回折ピークパターンだけが検出された。」(段落【0172】)「一方、比較例2および比較例3によって製造された正極活物質の場合、XRD分析結果、LiaNibWcOdに特異的な回折ピークを示さない反面、比較例4によって製造された正極活物質の場合、実施例1によって製造された正極活物質と類似した回折ピークパターンを示した。」(段落【0173】)「比較例4によって製造された正極活物質の場合、Li a NibWc Od組成の酸化物をLiwNi1-(x+y+z)CoxAlyWzO2組成の酸化物が単純混合された状態で存在するにつれて、LiaNibWcOdおよびLiwNi1-(x+y+z)CoxAlyWzO2それぞれから起因する回折ピークが同時に検出されたものであり、比較例4によって製造された正極活物質を構成する成分であるLiaNibWcOdとLiwNi1-(x+CoxAlyWzO2が固溶体を形成したものを意味しない。」y+z) (段落【0174】)「さらに、実施例5~実施例7によって製造された正極活物質に対してX線回折(XRD)分析を行って、正極活物質のうち合金酸化物および合金酸化物が存在するか否かを確認した。XRD分析は、Cu Kαradiation(1.540598Å)を利用したBruker D
8 Advance回折計(diffractometer)を利用して行った。」(段落【0175】)「図6~図8は、実施例5~実施例7によって製造された正極活物質に対するXRD分析結果を示すグラフである。」(段落【0176】)「【図6】」「図6を参照すると、実施例5によって製造された正極活物質のうち合金酸化物であるLi 4 WO 5に相当する特性ピークが確認され、特に、(220)ピークは、シフト(shift)されなかったが、(111)および(200)ピークが特異的に低角(low angle)側にシフト(shift)されるのに伴い、Li4WO5が形成する格子構造内タングステンのうち一部がTiで置換された異種の合金酸化物が存在することを確認した。」(段落【0177】)「【図7】」「また、図7を参照すると、実施例6によって製造された正極活物質のうち合金酸化物であるLi 4WO 5に相当する特性ピークが確認され、特に、(111)、(200)および(220)ピークが特異的に低角(low angle)側にシフト(shift)されるのに伴い、Li4WO 5が形成する格子構造内タングステンのうち一部がZrで置換された異種の合金酸化物が存在することを確認した。」(段落【0178】)「【図8】」「図8を参照すると、実施例7によって製造された正極活物質は、NCA組成を有するものであることを確認することができ、これと同時に、正極活物質内Li4WO5、Li6WO6、LiTiO2、Li4TiO4およびLi 4ZrO 4に該当するピークが存在することを確認した。」(段落【0179】)(エ) 正極活物質の未反応リチウム測定「実施例および比較例によって製造された正極活物質に対する未反応リチウムの測定は、pH滴定(pH titration)によりpH4になるまで使用された0.1Mの HClの量で測定した。まず、正極活物質それぞれ5gをDIW 100mlに入れ、15分間撹拌した後、フィルタリングし、フィルタリングされた溶液50mlを取った後、これに0.1MのHClを加えてpH変化によるHCl消耗量を測定して、Q1およびQ2を決定し、これを通じて、未反応のLiOHおよびLi2CO3を計算した。」(段落【0180】)「 M1=23.95(LiOH Molecular weight)M2=73.89(Li2CO3 Molecular weight)SPL Size=(Sample weight×Solution Weight)/Water WeightLiOH(wt%)=[(Q1-Q2)×C×M1×100]/(SPL Size×1000)Li2CO3(wt%)=[2×Q2×C×M2/2×100]/(SPL Size×1000)」(段落【0181】)「前記計算式を通じて測定された未反応リチウムの測定結果は、下記の表3に示した。」(段落【0182】)「【表3】」(段落【0183】)「前記表3の結果を参考すると、実施例1~実施例7によって製造された正極活物質は、比較例1~比較例4によって製造された正極活物質に比べて残留リチウムの量が大きく減少したことを確認することができる。特に、LiaWcOd、WcOdまたはLiaNibWcOd組成を有する酸化物をLiwNi1-(x+y+z)CoxAlyWzO2組成の複合酸化物とそれぞれ単純混合した比較例2~比較例4の場合、単純LiwNiCoxAlyWzO2組成の正極活物質(比較例1)に比べて1-(x+y+z)残留リチウムの量を十分に減少させないことを確認することができる。」(段落【0184】)エ 図面の簡単な説明と【図1】「【図1】本発明の一実施例によって製造された正極活物質の一表面に対する透過型電子顕微鏡(TEM)分析結果を示す図である。」(段落【0021】)「【図1】」
⑶ 本件明細書等における固溶体についての記載本件発明1に係る正極活物質では、第1複合酸化物と第2複合酸化物が固溶体を形成した状態で存在するとされ(構成要件D)、固溶体についてのXPS分析を行うと一定の「ピーク」が観察される(構成要件F)一方、第2複合酸化物を含むシェルは第1複合酸化物の表面のうち少なくとも一部に存在するものであり(構成要件B)、前記第2複合酸化物は等軸晶系等の結晶構造を有するものとされている(構成要件E)。本件明細書等には、固溶体について、これを定義する規定はないが、固溶体に関しては、本件明細書等に、第1複合酸化物と第2複合酸化物が固溶体を形成する旨記載されるとともに(段落【0025】、【0026】)、固溶体は、第1複合酸化物を含むコアと第2複合酸化物を含むシェル層が固溶体の形態で存在するコア-シェル粒子を指す(段落【0027】下線部分)とされ、固溶体がコア-シェル粒子の形態で存在する旨は段落【0028】にも記載されている。そして、正極活物質を構成する一次粒子がコアーシェル粒子である(構成要件B)。その固溶体の形成の確認方法について、本件明細書等では、「正極活物質にXPS分析を行って、正極活物質のうち固溶体が存在するか否かを確認した。」(段落【0157】)とするところ、その結果を見ると、「図2に示したように、NCA組成の正極活物質のうちW4f結果による」化学式1(Lia NibWcOd)「に対応する固有のピークが存在することを確認することによって、実施例1により製造された正極活物質は、」化学式1(LiaNibWc Od)「組成の酸化物と」化学式2(LiwNi1-(x+y+z)CoxAlyWzO
2 )「組成の酸化物が固溶体を形成した複合体を含んでいることが分かる。」(段落【0161】)とされている。また、正極活物質のXRD分析の結果について、化学式1に特異的な回折ピーク特性と化学式2に特異的な回折ピーク特性を同時に示すことによって、化学式3で表される「固溶体であることを確認することができる。」(段落【0171】下線部分)と記載される一方で、化学式1に特異的な回折ピーク特性と化学式2に特異的な回折ピーク特性を同時に示す場合であっても、比較例4の場合は、その構成成分であるLiaNibWcOdとLiwNi1-(x+y+z) CoxAlyWzO2が「固溶体を形成したものを意味しない。」(段落【0174】下線部分)とも記載されている。本件発明1は、第1複合酸化物については組成成分を規定し(構成要件C)、
第1複合酸化物と第2複合酸化物とが「固溶体を形成した状態で存在する」
こと(構成要件D)、固溶体に対しXPS分析が行えること(構成要件F)を特許請求の範囲に規定するところ、本件明細書等には上記の他に固溶体の形成を確認した旨の記載もないから、本件発明1は、化学式1と化学式2に特異的な回折ピーク特性を同時に示すことによって本件発明1にいう「固溶体」の形成を示そうとしていることがうかがわれる。しかし、上記比較例4について、化学式1に特異的な回折ピーク特性と化学式2に特異的な回折ピーク特性を同時に示す点で段落【0171】の場合と何ら異ならないのに、なにゆえ比較例4の場合には「固溶体を形成することを意味しない」(段落【0174】)のか、本件明細書等にはこれを明らかにする記載はない。また、本件各発明の固溶体が形成される範囲について、これを明らかにする記載もなく、前記のとおり固溶体はコア-シェル粒子を指すとされるものの、そのコア-シェル粒子が形成される範囲を明らかにする記載もない。前記のとおり、固溶体は正極活物質のXRD分析の結果に基づき「固溶体であることを確認することができる。」(段落【0171】下線部分)とするが、化学式1に特異的な回折ピーク特性と化学式2に特異的な回折ピーク特性をそれぞれ示すのであれば、第1複合酸化物と第2複合酸化物との固有の結晶面を維持したままの結晶化合物の混合物なのであるから、XPS分析の結果と同様に、「複合体を含んでいる」(段落【0161】下線部分)ことは理解できるとしても、この分析によりなにゆえ固溶体を形成していることが確認できるのかについては不明である。加えて、段落【0041】によればコアとシェル層は第1複合酸化物、第2複合酸化物がそれぞれ存在する領域であり、これらが固溶体を形成した状態で存在する(構成要件D)とされているところ、図1は、本件各発明の一実施例により製造された正極活物質の一表面に対する分析結果とし、コアとシェルが示されているのであるから、当然そのうちのどこかに固溶体が形成されて存在するはずであり、コアーシェル粒子である固溶体がそのどこに形成されて存在するのかが示されてしかるべきであるが、そのような図示又は記載は存在しない。そして、図1の「境界」は、段落【0040】にいうTEM写真におけるコアと「シェル層」との「境界」をいうものと推察されるが、なにゆえ図1のその場所を境界とするのか、図1の「境界」と「シェル」との間に存在する、「コア」とも「シェル」とも異なる領域が何を意味するのか、「境界」に近づくにつれ「コア」の点描がグラデーションを伴って段階的に変化しているが、その意味するところについても、一切説明がない。なお、図1は、製造された正極活物質についてどのような一表面を撮影したものかも不明であるから、なにゆえ「コア」、「シェル」及び「境界」と判別できるのかも不明である。
⑷ 固溶体の意義についての文献の記載ア 上記のとおり、本件明細書等には、固溶体につき特段の定義規定は置かれていないところ、固溶体の意義に関し、文献には、以下の記載がある。・「2種以上の物質が混合して完全に均一な固相となる固体をいう。ある結晶相の格子点にある原子がまったく不規則に別の原子と置換するか、あるいは格子の間隙(かんげき)に別の原子が侵入したものの2種がある。前者を置換型、後者を侵入型の固溶体とよぶ。二成分あるいは三成分型の金属で結晶格子の特定の位置に規則的に別の成分が置換しているときは固溶体とはいわず、金属間化合物という」(日本大百科全書(ニッポニカ)の「固溶体」の解説ページ。甲18)・「こよう-たい【固溶体】複数の物質がまじり合って均一な状態になっている固体。」(デジタル大辞泉を引用するコトバンク。甲19)・「こようたい 固溶体 [英 solid solution ・・] ある一つの結晶相の格子点にある原子が全く不規則に別種の原子と置換するか、あるいは格子間ゲキに別種原子が統計的に分布されるようにはいり込んだ相 すなわち、ある結晶相に他物質が溶け込んだとみなされる混合相を固溶体という。」(乙1(化学大辞典))イ 辞書には、「固溶体」につき、「二種以上の固体物質が均一に溶けあっているもの。金と銀の合金の類。→混晶」と記載されているところ、そこにおける「均一」の意味は、「すべてに通じて一様なこと。等しいこと。」である(広辞苑第7版)。ウ 電池活物質における固溶体(混合相)の形成ないし固溶について、本件特許出願前の公知技術が記載された乙2ないし5には、以下の記載がある。・乙2(国際公開第2013/145846号。発明の名称「非水電解質二次電池用正極及び非水電解質二次電池」)「[0012] また、上述の如く、タングステンを含む酸化物は、リチウム含有遷移金属酸化物の粒子の表面に付着(固着を含む)していることが望ましいが、このような構成のリチウム含有遷移金属酸化物を作製する際、上記の特許文献2に記載の如く、焼結法(400~700℃で熱処理)を用いるのは好ましくない。これは、以下に示す理由による。本発明の如く、リチウム含有遷移金属酸化物として層状構造を有するものを用いた場合、高温での熱処理を行うと、リチウム含有遷移金属酸化物に対してタングステンの固溶が進行する。・・・」・乙3(特開2016-170942号公報。発明の名称「固体電池用正極活物質の製造方法」)「【請求項1】Ni元素を含み、酸化物である正極活物質の表面に、LixPOy(2≦x≦4、3≦y≦5)で表わされる被覆材をスパッタリング法を用いて被覆する被覆工程と、前記被覆材が被覆された正極活物質を400℃~650℃の範囲内で熱処理をして、前記被覆材中に前記Ni元素を拡散させ、被覆部を形成する熱処理工程と、を有することを特徴とする固体電池用正極活物質の製造方法。」「【0029】2.熱処理工程 本発明における熱処理工程は、上記被覆材が被覆された正極活物質を400℃~650℃の範囲内で熱処理をして、上記被覆材中に上記Ni元素を拡散させ、被覆部を形成する工程である。【0030】(1)熱処理 熱処理工程における温度としては、通常、400℃以上であり、450℃以上であることがより好ましく、さらに550℃以上であることが特に好ましい。熱処理温度が低すぎる場合は正極活物質に含まれるNi元素を被覆材中に十分に拡散させることが困難となる可能性があるからである。一方、熱処理温度としては、通常、650℃以下であり、600℃以下であることがより好ましい。熱処理温度が高すぎる場合は被覆部からリチウムが脱離して抵抗が増加する可能性があるからである。【0031】熱処理時間は、所望の被覆部を得ることができれば特に限定されないが、例えば、1時間~20時間の範囲内であることが好ましく、3時間~8時間の範囲内であることがより好ましい。熱処理時間が短かすぎる場合は正極活物質に含まれるNi元素を被覆材中に十分に拡散させることが困難となる可能性があるからである。一方、熱処理時間が長すぎる場合は正極活物質が劣化する可能性があるからである。【0032】熱処理は、大気雰囲気、不活性ガス雰囲気(例えばArガス雰囲気)、減圧雰囲気、真空中で行うことができる。本発明においては、大気雰囲気がより好ましい。熱処理の方法としては特に限定されず、例えば、焼成炉を用いて行なうことができる。」・乙4(特開2012-33478号公報。発明の名称「電極用材料および電極用材料の作製方法」)「【請求項1】一般式Li2MSiO4(式中、MはFe、Co、Mn、Niから選択される少なくとも1種の元素)で表される化合物を主成分として含む核と、一般式LiMPO4で表される化合物を主成分として含み、前記核の周囲を覆う被覆層と、前記核と、前記被覆層との間に、固溶体と、を有する電極用材料。【0056】次に、高温(600℃)で第4の熱処理(本焼成)を行う。第4の熱処理を行うことにより、核102(例えば、Li2FeSiO4)と被覆層104(LiFePO4)に含まれる元素がお互いの領域に拡散し、核102と被覆層104の境界が不明瞭となった固溶体106が形成される。固溶体106が形成されることにより、図1に示す構造(正極活物質100)を形成することが可能である。・・」「【図1】」・乙5(国際公開第2018/062081号。発明の名称「全固体リチウムイオン二次電池」)「[0086](活物質の製造方法)活物質20を形成するための形成方法の一例について説明する。なお、活物質20は、以下の形成方法に限定されるものではない。活物質20は、コア部21とシェル部22が異なる物質からなる場合と、コア部21とシェル部22が同一組成式で表される物質からなる場合とで、製造方法が異なる。[0087]コア部21とシェル部22が異なる物質からなる場合は、まずコア部21とシェル部22に用いる物質を選択する。この際、上述のコア領域21A及びシェル領域22Aの関係を満たすように物質を選択する。[0088]そして、コア部21上にシェル部22をコーティングする。コーティングの方法は、公知の方法を用いることができる。例えば、CVD法、レーザーアブレーション法などの気相法や噴霧乾燥法、懸滴法などの液相法、あるいはせん断応力を与えながら混合する固相法等を用いることができる。[0089]シェル部22がコーティングされた活物質20を、400℃以上で焼成することで、コア部21とシェル部22を構成する元素が互いに拡散し、固溶する。その結果、活物質20が得られる。」「」
⑸ 本件特許出願時の技術常識について本件特許出願時の技術常識について、文献等の記載から、以下の事実が認められる。ア 被告主張技術常識1について(ア) 文献等の記載a 本件決定が引用した甲14(参考文献2。特開2016-9614号公報)には、以下の記載がある(下線は判決で付記)。「(被覆層)被覆層143は、結晶性または非晶質のリチウム含有ポリアニオン化合物からなるものであり、特にポリアニオン化合物を構成するポリアニオン骨格が遷移金属を中心とした構造であることを特徴とするものである。」(段落【0036】)「このようなリチウム含有ポリアニオン化合物は、一般式LiyM1+x O4+3x(x=0、1、 y=2、3、4、 M=5価以上の遷移金属イオン)で表され、構造中に遷移金属を中心としたMO 4四面体、もしくはその四面体が頂点共有により二量化した構造であるM 2O 7をポリアニオンとして含有しており、それらポリアニオンの周囲をリチウムイオンが取り囲む形で結晶構造を作っている。これらリチウムイオンは豊富な移動経路を有し、固体内を拡散可能なため、前記ポリアニオン化合物はリチウムイオン伝導体として機能することができる。」(段落【0037】。なお、上記Mについては、段落【0007】に、「M=V、Cr、Nb、Mo、W」との説明がある。)「またポリアニオンを形成している金属-酸素結合は共有結合性が強く、化学的な安定性が高い。高電位でも電解質と反応しにくいため、正極活物質表面を被覆することで正極活物質と電解質との反応を抑制する反応抑制層とすることができる。」(段落【0038】)「被覆層はメカニカルミリングなどの乾式法や、ゾルゲルコートなどの湿式法によって形成することができ、正極活物質全体を均一に被覆していることが望ましいが、不均一であっても構わない。また、被覆層の厚みについても特に限定はされない。」(段落【0039】)「リチウム含有ポリアニオン化合物は、結晶性であっても非晶質であっても構わない。」(段落【0040】)「リチウム含有ポリアニオンが結晶性の場合はX線回折測定(XRD)による同定が可能である。」(段落【0041】)「リチウム含有ポリアニオンが非晶質の場合は、赤外分光(IR)やラマン分光測定、誘導結合プラズマ(ICP)による同定が可能である。」(段落【0042】)「(元素拡散層)元素拡散層142は、リチウム含有ポリアニオン化合物を正極活物質141表面に被覆したのち熱処理を行うことで形成するものであり、ポリアニオン骨格中に含まれる遷移金属元素が一部正極活物質側に拡散し、また正極活物質中の遷移金属元素が一部ポリアニオン化合物側に拡散したものである。この元素拡散層142は元素の熱拡散によるため原理的に被覆層が結晶性のものでも非晶質のものでも形成することができる。」(段落【0043】)b 上記のほか、前記⑷ウのとおり、乙2の段落【0012】には、「リチウム含有遷移金属酸化物として層状構造を有するものを用いた場合、高温での熱処理を行うと、リチウム含有遷移金属酸化物に対してタングステンの固溶が進行する。」との記載が、乙3ないし5は、タングステンの含まれない組成の金属拡散に関し、WO3と、LiとNiが含まれる酸化物についての固溶に係る記載がある。(イ) 検討上記(ア)a のとおり、甲14(参考文献2)によれば、タングステンを含むリチウム含有ポリアニオン化合物の結晶が確認でき、その確認の手段がXRDであることが記載されている(段落【0036】ないし【0042】)。また、正極活物質層と被覆層との界面に元素拡散層が形成されることについても記載されており、これは被告主張技術常識1の相互拡散が生じることと整合するものである。また、上記(ア)記載のとおり、甲14及び乙2ないし5に記載された技術内容は、さまざまなコア材料、シェル材料、400℃~900℃範囲内での特有の温度条件及び熱処理時間(例えば1時間~20時間等)や雰囲気において、熱処理により元素が互いの領域に拡散し固溶が進行することについて記載されている。そうすると、上記本件特許出願当時の文献の記載から、コア-シェル構造(被覆型)のリチウム二次電池の正極活物質を製造する際の一般的な前提として、600℃程度の高温で1時間以上処理された場合に金属元素の拡散が生じることは、技術常識であると認められる。以上によれば、「コア-シェル構造(被覆型)のリチウム二次電池の正極活物質を製造するにあたって、コア部を形成する粒子表面にシェル部(被覆部)の形成原料を被覆し、400℃以上の温度(例えば400℃~900℃)で熱処理を行えば、コア部とシェル部の境界部分で元素が拡散により」、「相互拡散が多少なりとも生じること」、「熱処理の時間や雰囲気についても、例えば1時間~20時間等の広範な時間及び、大気雰囲気、不活性ガス等広範囲な条件が適用できること」については、技術常識であると認定することができる(以下、この認定に係る技術常識を「技術常識1」という。)。なお、この点に関連し、乙2の段落【0012】には、「タングステンを含む酸化物は、リチウム含有遷移金属酸化物の粒子の表面に付着(固着を含む)していることが望ましいが、このような構成のリチウム含有遷移金属酸化物を作製する際、上述の特許文献2に記載の如く、焼結法(400~700℃で熱処理)を用いるのは好ましくない。」との記載がある。しかし、これは、「リチウム含有遷移金属酸化物として層状構造を有するものを用いた場合、高温での熱処理を行うと、リチウム含有遷移金属酸化物に対してタングステンの固溶が進行する。」(同段落)ことによるものであり、他方、乙2に示された上記特許文献2(甲21:特開2005-320184号公報)には、「したがって、加熱処理温度は、修飾に用いたタングステン酸化物がリチウムマンガン酸化物に十分固定(焼結)されるがその内部に拡散しない温度である400~700℃の範囲とする」(段落【0022】)と記載されており、この温度帯では、過度な拡散ないし固溶が起こらないことが示唆されている。引用発明の熱処理温度650℃は、本件各発明についての実施例における600℃も含め、過度な拡散や固溶は起こらない、すなわち、完全に均一な固溶体までは形成されない温度であり、引用発明及び本件各発明の実施例の熱処理温度において、「相互拡散が多少なりとも生じる」とすることに係る上記技術常識1を否定するものではない。イ 技術常識2(フィックの法則)について「フィックの法則とは、・・・拡散流束が濃度勾配に比例する旨を示す法則」(乙7:特開2017-55074号公報(発明の名称「R-T-B系焼結磁石およびモータ」)の段落【0109】。)であり、拡散に関する最も基本的な法則(乙6:化学大辞典)である。フィックの法則自体は、濃度勾配が拡散を制御する大きな要素であることをいうものであり、引用発明においても拡散の原則として妥当する。
⑹ 本件発明1における固溶体の形成についての本件決定の当否ア 上記⑷アのとおり、固溶体の意義についての(一般的な)文献の記載によれば、固溶体は、「2種以上の物質が混合して完全に均一な固相となる固体」(甲18)など、複数の物質が混合した結果完全に均一となることをいうとするものがみられ、同イの辞書の記載も同旨とみられる。他方で、同ウの本件特許出願当時の公知技術が記載された文献(本件各発明と技術分野を同じくする特許公報等。例えば、乙4など)には、固溶体につき、熱処理により元素が拡散し二つの物質の境界が不明瞭となるもの、すなわち複数の物質の部分的な拡散、混合が生じた固体をいうと解するものも存在し、これらの文献において、固溶体は、必ずしも上記の一般的な文献の記載にあるような、2種以上の物質が混合して完全に均一な固相となる固体との意味で用いられていない。イ 本件発明1に係る特許請求の範囲の記載によれば、第1複合酸化物と第2複合酸化物は固溶体を形成した状態で存在するとされているものの(構成要件D)、1次粒子は、第1複合酸化物を含むコアと第2複合酸化物を含むシェルとを含み、第1複合酸化物の表面のうち少なくとも一部に第2複合酸化物が含まれるとされており(構成要件B)、これは、1次粒子中に第1複合酸化物及び第2複合酸化物から構成される部分がそれぞれ存在しつつ、熱処理による元素の拡散により二つの物質の境界に部分的に固溶体が形成されるとの上記文献の記載と整合的である。ウ また、本件明細書等の記載には、上記⑶のとおり、固溶体についての定義規定もなく、その存在する場所や範囲も定かではなく、熱処理後その形成の確認方法についても、結局第1複合酸化物と第2複合酸化物のそれぞれの特性を確認することにとどまり、2種以上の物質が混合して完全に均一な固相となる固体であることを確認できる何らの根拠も存しない。また、本件明細書等の【図1】のTEM写真にコアとシェルとが混合したと解される部分があるが、そこが均一とは見て取れず、本件明細書等には、他に、混合により完全に均一な固相となったことをうかがわせる記載は存しない。エ そうすると、本件各発明の固溶体については、1次粒子全体がコア-シェル粒子の分布を有しながらも、部分的に拡散が生じて固溶化がわずかでも進んだ状態をいい、【図1】のTEM写真にあるような、1次粒子の内部の「コア」と「シェル」との界面において、部分的に拡散が生じて固溶がわずかでも進んだ状態をいうものと解するのが相当である。このことは、コア-シェル構造(被覆型)のリチウム二次電池の正極活物質を製造するに当たって、コア部を形成する粒子表面にシェル部(被覆部)の形成原料を被覆し、過度な拡散ないし固溶が起こらない温度帯において熱処理を行えば、コア部とシェル部の境界部分において、濃度勾配に比例して元素に相互拡散が生じることが技術常識であることからも裏付けられる。オ 本件発明1の「固溶体」に関する上記意義並びに技術常識1及び2を前提にして、引用発明におけるリチウムニッケル複合酸化物とタングステンとニッケルを含む化合物とが「固溶体を形成した状態で存在」(構成要件D)するかどうかについて検討するに、引用発明は、母材としてのLi1.
025 Ni0.91Co0.06Al0.03O2で表される一次粒子及び一次粒子が凝集した二次粒子からなるリチウムニッケル複合酸化物粒子と、タングステン化合物である酸化タングステン(WO3)粉末とを混合した混合粉末を650℃、3時間熱処理することにより形成されたものであり、その生成方法は、本件明細書等の実施例1の熱履歴と近似している。前記判示のとおり、コア-シェル構造(被覆型)のリチウム二次電池の正極活物質を製造するにあたって、コア部を形成する粒子表面にシェル部(被覆部)の形成原料を被覆し、400℃以上の温度(例えば400℃~900℃)で熱処理を行えば、コア部とシェル部の境界部分で元素が拡散により、相互拡散が多少なりとも生じることは技術常識であり、引用発明及び本件各発明の実施例の熱処理温度において、「相互拡散が多少なりとも生じる」ということができる。そして、「リチウム含有遷移金属酸化物として層状構造を有するものを用いた場合、高温での熱処理を行うと、リチウム含有遷移金属酸化物に対してタングステンの固溶が進行する」(乙2)、「熱処理を行うことにより、核102(例えば、Li2FeSiO4)と被覆層104(LiFePO4)に含まれる元素がお互いの領域に拡散し、核102と被覆層104の境界が不明瞭となった固溶体106が形成される」(乙4)、「シェル部22がコーティングされた活物質20を、400℃以上で焼成することで、コア部21とシェル部22を構成する元素が互いに拡散し、固溶する」(乙5)などの前記文献の記載によれば、引用発明において元素の拡散が生じた部分については固溶体が形成されていると認めるのが相当である。そうすると、引用発明におけるリチウムニッケル複合酸化物とタングステンとニッケルを含む化合物は、1次粒子全体がコア-シェル粒子の分布を有しながらも、部分的に拡散が生じて固溶化がわずかでも進んだ状態にあるということができる。カ 以上によれば、「「リチウムニッケル複合酸化物粒子」と「タングステン酸リチウム(Li2WO4もしくはLi4WO5)といったタングステンおよびリチウムを含む化合物」とは、本件発明1でいう「固溶体を形成した状態」にあると解される」とした本件決定の判断に誤りはないというべきである。
⑺ 原告の主張に対する判断ア 原告は、本件発明1における固溶体について、甲18(日本大百科全書)等の文献の記載によれば、「2種以上の物質が混合して完全に均一な固相となる固体」と解釈されるべきであり、これを部分的な拡散や濃度勾配で足りるとした本件決定の判断は誤りであると主張する。しかし、本件各発明(本件発明1)の固溶体の意義については上記のとおり解されるところであり、本件発明1の「固溶体を形成した状態」について、互いの化合物に含まれる遷移金属元素の相互拡散が多少なりとも生じている状態と解した本件決定の判断に誤りはない。イ 原告は、固溶体を形成することは本件発明1の課題解決にとり重要な構成であって、実施例との比較において顕著な差異が生じているから、この点を看過して固溶体の認定をした本件決定の判断は誤りである旨を主張する。しかし、本件各発明の課題(段落【0009】・【0010】)につき、本件明細書等において本件各発明の効果について検証したのは容量特性の評価(段落【0188】以下)及び安定性の評価(段落【0192】以下)であるところ、これらはいずれも未反応リチウムの測定結果(残留リチウムの量)(段落【0182】、【0184】)と対応するものにすぎず、本件明細書等には上記残留リチウムの量と固溶体の形成との関連についての記載は全くないから、固溶体の形成は、本件各発明の作用効果と関連付けられたものとはいえない。原告の上記主張は前提を欠くものであり、採用することができない。
2 取消事由1(本件発明1についての新規性欠如に関する判断の誤り)のうち、構成要件Dのリチウムの拡散に関する判断の誤り並びに構成要件Bの「第2複合酸化物」、ニッケルの遷移及び「シェル」構造の形成に関する判断の誤りについて⑴ リチウムの拡散及びニッケルの遷移に関する判断の誤りについて原告は、構成要件Dのリチウムの拡散及び同Bのニッケルの遷移に関し、本件決定が「タングステン酸リチウム(Li2WO4もしくはLi4WO5)といったタングステンおよびリチウムを含む化合物が形成された一次粒子の少なくとも表面部分には、酸化タングステン(WO3)粉末に含まれている遷移金属元素であるタングステンが多少なりとも拡散し、ニッケルの一部がタングステンに置換された組成を有すると解される」と判断したことは誤りであると主張する。しかし、この点については、前記判示のとおり、技術常識1及び2が認められるところであり、これらによれば、引用発明における熱処理において、遷移金属元素であるタングステンが多少なりとも拡散し、ニッケルの一部がタングステンに置換された組成を有することとなることが認められるところである。また、引用発明は、「リチウムニッケル複合化合物と、リチウムを含まないタングステン化合物を混合し、熱処理することにより、リチウムニッケル複合酸化物の一次粒子表面にタングステン及びリチウムを含む化合物を形成させる」(甲13(引用例1)の段落【0017】)ものであり、リチウムニッケル複合化合物からリチウムの拡散が生じているものと認められる。原告は、前記第3の2〔原告の主張〕記載のとおりの理由から、引用発明ではリチウムの拡散は生じていないと主張するが、原告の指摘する理由は、いずれも上記認定を左右しない。したがって、本件決定のこの点に関する判断に誤りはなく、原告の主張するこの点に係る取消事由についても理由がない。⑵ 第2複合酸化物に関する判断の誤りについてア 原告は、引用発明のタングステン及びリチウムを含む混合物は第2複合酸化物に当たらないから、本件発明1構成要件Bの「第2複合酸化物」について、本件決定の判断には誤りがある旨を主張する。しかし、引用発明の記載された甲13(引用例1)の段落【0032】、【0034】、【0036】には、一次粒子表面の「タングステンおよびリチウムを含む化合物「LiW化合物」」として「Li 2WO4もしくはLi4WO5」といったタングステン酸リチウムの例示があるほか、段落【0094】にも「最後に目開き38μmの篩にかけ解砕することにより、一次粒子表面にLiW化合物を有する正極活物質を得た」との記載があり、これによれば、引用発明につき「一次粒子表面に、タングステン酸リチウム(Li2WO4もしくはLi4WO5)といったタングステンおよびリチウムを含む化合物を形成した」とした本件決定の認定に誤りはない。イ これに対し、原告は、引用発明の認定につき、「一次粒子表面に、タングステン酸リチウム(Li2WO4もしくはLi4WO5)といったタングステンおよびリチウムを含む化合物を形成した、」とした点は誤りであり、正しくは、甲13の段落【0060】、【0092】及び【0094】の記載から、「一次粒子表面に「Li1.025Ni0.91Co0.06Al0.03O2-WO3」若しくは「WO3」を形成した、」と認定されるべきであると主張する。しかし、甲13の段落【0060】は、表面に化合物が形成される(段落【0039】の記載)原料として用いるタングステン化合物は、余剰リチウム低減の観点から、リチウム含有タングステン化合物よりも、「WO3」または「WO3・H2O」が好ましい旨について記載するものであり、甲13の段落【0092】、【0094】も、「WO3」が用いられた実施例1の正極活物質の製造方法についての記載であって、これと同様にして得られた実施例4(段落【0102】)に基づき認定された引用発明の内容について、「タングステンおよびリチウムを含む化合物を形成した」ものであることを否定するものではない。ウ なお、原告の主張する「Li1.025Ni0.91Co0.06Al0.03O2-WO3」は、本件発明7及び本件明細書等における「固溶体」の表記形式(すなわち、「Li1.025Ni0.91Co0.06Al0.03O2」と「WO3」とをハイフンで結ぶ当該表示形式は、本件明細書等の段落【0062】・【0063】や【0067】・【0068】の「固溶体」の化学式3や化学式3-1と同じ形式である)であって、それ自体「タングステンおよびリチウムを含む化合物」に相当するので、本件決定のタングステン及びリチウムを含む化合物の認定内容に誤りはなく、本件決定の結論に影響を及ぼすものでもない。⑶ 「シェル」構造の形成に関する判断の誤りについてア 原告は、引用発明においてはシェルを形成しないから、本件決定のシェル構造の形成に関する判断は誤りである旨を主張する。しかし、甲13(引用例1)によれば、引用発明におけるLi1.025Ni0.91Co0.06Al0.03O2で表される一次粒子は、層状化合物(層状構造)であり、リチウムの吸蔵及び放出が可能な複合酸化物であるから(段落【0003】、【0004】、【0053】)、このLi1.025Ni0.91Co0.06 Al0.03O2は本件発明1の第1複合酸化物に相当し、一次粒子の表面に形成されたタングステン酸リチウム(Li2WO4もしくはLi4WO
5 )といったタングステンおよびリチウムを含む化合物は、タングステンとリチウムを含む複合酸化物であるから、これが第2複合酸化物に相当すること、位置関係として、一次粒子がコア、表面に形成されたものがシェルである(同段落【0032】、【0057】)と理解でき、前記のとおりの技術的意義を有する固溶体を形成した状態で存在するものと認められる。したがって、引用発明の、Li1.025Ni0.91Co0.06Al0.03O2で表される一次粒子の表面にタングステン及びリチウムを含む化合物が形成された粒子を、本件発明1の構成要件Bの「第1複合酸化物を含むコア;および前記第1複合酸化物の表面のうち少なくとも一部に存在する第2複合酸化物を含むシェル;を含むコア-シェル粒子」に相当するとした本件決定の判断に誤りはない。イ これに対し、原告は、表面近傍に少量の拡散又は固溶化が認められるとしても「シェル」には該当しないと主張する。しかし、本件発明1の構成要件Bの「少なくとも一部に存在」という文言は、本件明細書等の段落【0041】に、「すなわち、本願でコアは、第1複合酸化物が存在する領域であり、シェル層は、第2複合酸化物が存在する領域と定義され得、第1複合酸化物と第2複合酸化物が存在する領域の深さによってコアとシェル層の厚さ乃至大きさは変わることができる。」、段落【0042】に、「この際、シェル層の厚さは、20nm、好ましくは10nm、より好ましくは5nm以下であってもよいが、必ずこれらに制限されるものではない。」、段落【0043】に、「また、シェル層がコアの表面のうち一部に存在する場合、シェル層が存在しないコアの表面に第1複合酸化物が外部に露出することもできるものと理解されなければならない。」と記載(下線はいずれも判決で付記)されているとおり、文字どおり、その少なくとも一部に存在すれば足りるとの意味に解釈できる。したがって、本件決定の上記構成要件Bの相当関係には誤りはなく、原告の上記主張は採用することができない。
3 取消事由1(本件発明1についての新規性欠如に関する判断の誤り)のうち、構成要件Fに関する一致点の判断の誤りについて⑴ 本件決定は、「本件特許明細書の段落【0079】~【0080】、【01マ マ59】~【0160の記載によれば、正極活物質が表面部にLiNiWO組成の酸化物を含む場合、XPS分析時に、34.0eV~35.0eVの範囲内にW4f7/2に対応するピークが存在し、36.0eV~37.0eVの範囲内にW4f5/2に対応するピークが存在すると理解できる。ここで、本件発明1においては、両ピークの大きさの程度(つまり強度)についての特定はなされていないことから、その大きさの程度にかかわらず僅かでもピークが存在すればよいものと解される。」とした上で(本件決定23頁21行目ないし28行目)、引用発明の「固溶体に対するXPS分析時には、その大きさの程度(強度)はともかくとしてW4f 7/2に対応するピークが本件発明1で特定する「34.0から35.0eVの範囲内」に存在するとともに、W4f 5/2に対応するピークが本件発明1で特定する「36.0から37.0eVの範囲内」に存在するということができる。」(本件決定23頁35行目ないし24頁2行目)として、この点に係る構成要件Fの構成を一致点と判断したところ、原告は、その判断は誤りである旨を主張する。⑵ 本件発明1の構成要件Fは、「前記固溶体に対するXPS・・・分析時に、W4f7/2に対応するピークが34.0から35.0eVの範囲内に存在し、W4f5/2に対応するピークが36.0から37.0eVの範囲内に存在する」とあり、構成要件B及びDの記載にもよれば、「W4f7/2に対応するピークが34.0から35.0eVの範囲内に存在し、W4f 5/2に対応するピークが36.0から37.0eVの範囲内に存在する」前記「固溶体」は、コアに含まれる第1複合酸化物とシェルに含まれる第2複合酸化物が形成したものである。この点につき、本件明細書等の段落【0158】ないし【0160】には、図2に、「LiaNibWcOd組成の酸化物のO2-に対するW4f7/2ピークは、34.0eV~35.0eVの範囲内に存在し、W4f 5/2ピークは、36.0eV~37.0eVの範囲内に存在することを確認することができ」、「すなわち、実施例1によって製造された正極活物質は、LiaNibWcOd固有のピークを示す。」とするところである。しかし、図2の実施例1のグラフからはそのようなピークは視認できず(図2における実施例1のグラフからは、35eVから35.5eV付近までの間に二つの、37eVから37.5eV付近までの間に二つの、それぞれ頂点が存在し、36eV付近でいったん落ち込んで36.5eV付近で底を迎え、その後上昇することが確認できるが、構成要件Fや段落【0159】にあるような、34.0eVから35.0eV及び36.0eVから37.0eVの範囲内にそれぞれピークが存在するとすることは必ずしも明確には確認できない。【表2】には実施例1について、34.0eVから38.0eVまでの全ての欄に〇が記載されているが、その根拠も不明である。)、構成要件Fではピークの大きさの程度についての特定もされていないことによれば、本件決定が、「本件発明1においては、両ピークの大きさの程度(つまり強度)についての特定はなされていないことから、その大きさの程度にかかわらず僅かでもピークが存在すればよいものと解される。」としたことに誤りはないというべきである。前記判示のとおり、引用発明における一次粒子表面のタングステンおよびリチウムを含む化合物は、少なくとも部分的に、母材(芯材)であるリチウムニッケル複合酸化物粒子に含まれる遷移金属元素としてニッケルも拡散し、LiaNibWcOd組成の酸化物(ニッケルタングステン酸リチウム)を含むものと解されるので、その固溶体についてXPS分析時には、そのピークの大きさの程度(強度)はともかくとしてW4f 7/2に対応するピークが本件発明1で特定する「34.0から35.0eVの範囲内」に存在するとともに、W4f 5/2に対応するピークが本件発明1で特定する「36.0から37.0eVの範囲内」に現れるものと推認することが相当であり、これを覆すに足る証拠はない。そうすると、これと同旨の本件決定の判断に誤りはないというべきである。なお、固溶体に対するXPS分析時のピークについて、原告は、構成要件Fのピークが「存在するということは、第1複合酸化物とも第2複合酸化物とも異なる新たな複合酸化物(LiaNibWcOd組成の酸化物)としての相が形成されることを意味している。」とも主張するが(令和8年4月23日付け原告準備書面⑵28頁)、第2複合酸化物と「新たな複合酸化物(LiaNibWcOd組成の酸化物)」との組成は一致しており、原告の主張に係る新たな複合酸化物(「LiaNibWcOd」)は、コアに含まれる第1複合酸化物とシェルに含まれる第2複合酸化物が形成した[化学式3]で表される固溶体でもないので、発明特定事項との対応関係が明らかではなく、採用し得ない。
4 取消事由1(本件発明1についての新規性欠如に関する判断の誤り)のうち、構成要件C(zの値)に関する一致点の判断の誤りについて⑴ 構成要件Cのzの値に関する一致点について、本件決定の内容につき検討する(なお、この点に関する原告の計算式(前記第3の7〔原告の主張〕⑶)については、同〔被告の主張〕⑶で被告が指摘するとおり、原告が「0.054g×0.188=0.287g」とする前提に誤りがある。)。構成要件CのM4におけるWは、M3の選択肢に含まれるAlやMnとの合計量でzを満たせば足りるのであるから、M4がW単体で0.001≦zを満たす必要はない。ただし、Wが必須成分である(存在比はゼロではない)ことから、Wの存在比がゼロではないことについて検討すると、「第1複合体酸化物を含むコア」(構成要件B)のどの領域にWを含むことを要件とするかは本件発明1においては規定されておらず、本件明細書等にも、構成要件Cの化学式2につき、コア全体にわたって均一にWを含む状態で存在することを記載しているものでもないところ、引用発明において、リチウムニッケル複合酸化物粒子と酸化タングステン粉末を混合して熱処理を施し相互拡散が多少なりとも生じた部分(コアのシェルとの界面部分ないしコアの表層部分)の少なくとも一部には、拡散したWが含まれていると認められる。そして、本件明細書等の段落【0145】に記載された熱処理温度、時間及び回数によりzの値が0.005であったのに対して、引用発明ではその時間が短いものの、前記認定の技術常識1のとおりの過度に固溶化が生じない温度条件であることに照らせば、本件決定が0.001≦z≦0.2の範囲に含まれると判断したのは誤りではなく、少なくとも、Wの存在比がゼロではないというべきである。⑵ これに対し、原告は、構成要件Cの化学式2は、第1複合酸化物、すなわちコアを構成する複合酸化物の組成を特定するものであって、表面近傍のごく限られた領域のみでz≧0.001を満たせば足りると解することはできないと主張するが、前記判示のとおり、どの領域にWを含むかについて、本件発明1の構成要件Cにおいては規定されておらず、本件明細書等に、コア全体にわたって均一にWを含む状態で存在することが記載されているものでもないから、原告の主張は前提を欠くものであり、採用することができない。
5 取消事由1(本件発明1についての新規性欠如に関する判断の誤り)のうち、構成要件E(結晶構造)に関する一致点の判断の誤りについて原告は、本件発明1の構成要件Eに関し、本件決定は相違点ではない旨判断しながら合理的な理由や根拠を示していないから、本件決定が、引用発明は、本件発明1と同様に「「単斜晶系(monoclinic)、三斜晶系(triclinic)および等軸晶系(cubic)から選ばれる少なくとも一つの結晶構造」を有すると解される」と判断したのは誤りであると主張するので、以下、この点について検討する。⑴ 本件明細書等における結晶構造等の記載ア 本件発明1の構成要件Eは、第2複合酸化物が、「単斜晶系、三斜晶系および等軸晶系から選ばれる少なくとも一つの結晶構造を有し」というものであるところ、本件明細書等には、第2複合酸化物の結晶構造に関し、「例えば、前記第2複合酸化物は、単斜晶系(monoclinic)、三斜晶系(triclinic)および等軸晶系(cubic)から選ばれる少なくとも一つの結晶構造を有することができる。」(段落【0038】)、「具体的な例として、M1がNiであり、M2がWであり、単斜晶系結晶構造を有する第2複合酸化物は、化学式LiaNibWcOdで表され、三斜晶系結晶構造を有する第2複合酸化物は、化学式LiaNib(WcOd)2で表される。」(段落【0039】)などと記載されているが、これらの結晶構造は「例えば」あるいは「具体的な例として」などとして例示されるにとどまり、特定された結晶構造に関する技術的な意義や第2複合酸化物が有し得る他の結晶構造に関する記載は存在しない。イ 第2複合酸化物と上記3種の結晶構造との対応関係は、前記段落【0038】のほか、段落【0072】ないし【0074】に、「固溶体は、Lia M1bM2cOdに特異的な回折ピーク特性」を示すことができ、段落【0075】に、固溶体形態の結晶面と対応するXRDピークが説明されている。しかし、どのような範囲に、何を検出することをもって、第2複合酸化物が「単斜晶系、三斜晶系および等軸(立方)晶系から選ばれる少なくとも一つの」「結晶構造を有し」ていることを確認できるのかについて、これを明確に記載している箇所はなく、結晶構造が本件各発明の正極活物質にもたらす作用効果に関する技術的意義についての記載もない。ウ 本件明細書等では、正極活物質に対するX線解析(XRD)分析の結果を示す【図3】ないし【図5】が示され、段落【0165】ないし【0179】において、「2θが18.3°付近でLi4NiWO6の(001)結晶面に対応する回折ピークを示すことを確認することができる」、「正極活物質に含まれた2θが20°~30°である領域で(020)結晶面、(110)結晶面、(11-1)結晶面および(021)結晶面の位置で特異的な回折ピークを示し、これは、LiaNibWcOdに対応する回折ピークであることを確認することができる。」、「2θが43.2°の付近でLi4NiWO6の(20-2)結晶面に対応する回折ピークを示すことを確認することができる」などと説明されているが、図3ないし図5に示された実施例1のピークは、これらの記載と一致せず、LNWOのグラフの示す頂点ともずれている。これらの記載から、位置はともかく、ピークがあるとの情報によって結晶構造を有しているとはいえるとしても、それが第2複合酸化物であるか及び構成要件Eで特定されているうちのいずれの結晶構造であるかが明確に示されているとはいえない。⑵ 構成要件Eの結晶構造の意義上記によれば、本件明細書等において、第2複合酸化物が「単斜晶系、三斜晶系および等軸晶系」(以下、この三種の晶系を「各晶系」ということがある。)の「結晶構造を有」することの技術的意義は説明されておらず、各晶系は同定を要しない、ありふれた結晶系として、本件明細書等の段落【0038】・【0039】に例示されているものである。そして、【図3】ないし【図5】の実施例1のXRDピークはLNWO、及び段落【0039】、【0167】ないし【0171】の説明と一致しておらず、「第2複合酸化物」が上記結晶構造を有する位置的(領域)、量的な特定や説明はされておらず、第2複合酸化物に所定の「結晶構造」は検出されたものではない。その他、上記各結晶が、固溶体になっている領域内の第2複合酸化物の結晶であるのか、固溶体になっていない(固溶体部分からは取り残された)第2複合酸化物の結晶であるのか、第2複合酸化物が存在するどの部分をどのように測定したのか、測定されたものが、第1複合酸化物ではなく、第1複合酸化物と第2複合酸化物の固溶体でもなく、第2複合酸化物であるといえるのはなぜか、3種の結晶系のいずれかであるといえるかなどの点についても、本件明細書等からは明らかではない。以上によれば、本件発明1の構成要件Eの、「前記第2複合酸化物は、単斜晶系(monoclinic)、三斜晶系(triclinic)および等軸晶系(cubic)から選ばれる少なくとも一つの結晶構造を有し」については、これらの結晶構造自体が特段の技術的な意義や効果を有するものではなく、第2複合酸化物が一般的に取り得る結晶構造の形態を列挙したものと解するほかない。⑶ 引用発明との比較引用発明は、母材としてのLi1.025Ni0.91Co0.06Al0.03O2で表される一次粒子及び一次粒子が凝集した二次粒子からなるリチウムニッケル複合酸化物粒子と、タングステン化合物である酸化タングステン(WO3)粉末とを混合した混合粉末を650℃、3時間熱処理することにより形成されたものであるところ、その生成方法は、本件明細書等の実施例1の熱履歴(2℃/分600℃5hr→自然冷却→2℃/分600℃5hr)と近似する高温で数時間単位の熱処理を行ったものであり、その差異は、ありふれた結晶構造である各晶系をとらなくなるほど顕著に異なるものということはできない。そうすると、本件発明1のうち、リチウムとタングステンにニッケルが部分拡散した複合酸化物の領域には、本件明細書等の段落【0038】・【0039】に例示された単斜晶系か三斜晶系を微量であれ有しているものと推認され、これを覆すに足りる的確な証拠はない。そして、各晶系を有している場合に、それが第2複合酸化物であるか、1次粒子に含まれる第2複合酸化物以外の物質であるかを区別する方法は、本件明細書等の記載に基づいても明らかでないことは既に述べたとおりである。そうすると、この点を相違点として認定しなかった本件決定に、結論において誤りがあるとはいえない。⑷ 原告の主張に対する判断原告は、甲17(東京科学大学高橋教授作成の鑑定意見書)に基づき、熱履歴が異なれば結晶系が異なるから、引用発明において単斜・三斜・等軸の各晶系は生じていない旨を主張する。原告主張のとおり、熱履歴が異なれば、得られる結晶系が異なり得ることは技術常識であると認められるものの、前記判示のとおり、本件明細書等の実施例1の熱履歴と引用発明の熱履歴とは、いずれも近似の高温での数時間単位の熱処理であって、ありふれた結晶構造である各晶系をとらなくなるほど顕著に異なるものともいえず、甲17においても、上記の差異により引用発明には各晶系が生じ得ないことは客観的に示されていない。したがって、原告の主張は採用することができない。
6 取消事由2(本件発明4についての新規性欠如に関する判断の誤り)について⑴ 原告は、取消事由2として、本件発明4は、「第2複合酸化物」の内容を「化学式1」で明確に特定しているから、仮に本件発明1が引用発明に対して新規性を欠くとしても、本件発明4についての新規性判断は誤りである旨主張する。しかし、既に述べたとおり、本件発明4の化学式1に該当する部分は、引用発明において、母材とタングステンとリチウムを含む化合物とが相互拡散した正極活物質に存在するといえるから、本件発明4の新規性を否定した本件決定の判断に、誤りはない。⑵ 本件明細書等には、「前記固溶体のうち前記第2複合酸化物に該当する領域を意味するものと理解されることもできる。」(段落【0027】)、「すなわち、本願でコアは、第1複合酸化物が存在する領域であり、シェル層は、第2複合酸化物が存在する領域と定義され得、第1複合酸化物と第2複合酸化物が存在する領域の深さによってコアとシェル層の厚さ乃至大きさは変わることができる。」(段落【0041】)、「この際、シェル層の厚さは、20nm、好ましくは10nm、より好ましくは5nm以下であってもよいが、必ずこれらに制限されるものではない。」(段落【0042】)、「また、シェル層がコアの表面のうち一部に存在する場合、シェル層が存在しないコアの表面に第1複合酸化物が外部に露出することもできるものと理解されなければならない。」(段落【0043】)などと記載されているように、第2複合酸化物の正極活物質における位置的及び量的規定はされていない。したがって、上記第2複合酸化物の組成である化学式1に該当する部分は、引用発明において、母材と、タングステンとリチウムを含む化合物とが相互拡散した正極活物質の一部に存在するといえるから、本件発明4の新規性を否定した本件決定の判断に、誤りはない。よって、原告の主張する取消事由2は理由がない。
7 取消事由3(本件発明7についての新規性欠如に関する判断の誤り)について原告は、本件発明7は、固溶体の内容を化学式3で明確に特定しているから、仮に本件発明1が引用発明に対して新規性を欠くとしても、本件発明7についての本件決定の新規性判断は誤りであるとし、本件発明7は、固溶体の構成を特定することを通して第2複合酸化物の内容を明確に特定していると主張する。しかし、既に述べたとおり、上記固溶体の組成である化学式3に該当する部分は、引用発明において、母材と、タングステンとリチウムを含む化合物とが相互拡散した正極活物質の一部に存在するといえるから、本件発明7の新規性を否定した本件決定の判断に誤りはない。よって、原告の主張する取消事由3は理由がない。
8 取消事由4(本件発明9についての新規性欠如に関する判断の誤り)について原告は、本件発明9は、本件発明1を引用するところ、本件発明1は引用発明に対し新規性を有するから、本件発明9も新規性を有することは明らかであり、本件決定は取り消されるべきであると主張する。しかし、本件発明9が特定するとする化学式4において、「M5」がWである場合に該当する部分もまた、引用発明において、母材と、タングステンとリチウムを含む化合物とが相互拡散した正極活物質のコーティング層の一部に存在するといえるから、本件発明9の新規性を否定した本件決定の判断に誤りはない。よって、原告の主張する取消事由4は理由がない。
9 取消事由5及び6(本件発明10及び11についての新規性欠如に関する判断の誤り)について原告は、本件発明10は本件発明1、4、7及び9を、本件発明11は本件発明10をそれぞれ引用するところ、それら発明は引用発明に対し新規性を有するから、本件発明10及び11も新規性を有することは明らかであり、本件決定は取り消されるべきであると主張する。既に検討したとおり、本件発明1、4、7及び9を、本件発明11は本件発明10をそれぞれ引用するところ、これら発明には新規性がなく、甲13(引用例1)に、引用発明に係る非水系電解質二次電池用正極活物質、導電材、結着剤を含む正極合材ペースト及び当該正極合材ペーストを集電体の表面に塗布して作製した正極を有する非水系電解質二次電池が記載されており(請求項11、段落【0072】ないし【0074】)、非水系電解質二次電池は正極活物質としてリチウムニッケル複合酸化物粒子を含む、いわゆるリチウムイオン二次電池であるから、本件発明10及び11が引用発明に照らし新規性を欠くとした本件決定の判断に誤りはない。よって、原告の主張する取消事由5及び6は理由がない。
10 結論以上のとおり、本件決定の認定及び判断に誤りはなく、原告の主張する取消事由はいずれも理由がないから、原告の請求は棄却されるべきである。よって、主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官
佐 藤 達 文
裁判官
今 井 弘 晃
裁判官
柵 木 澄 子
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