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令和7(ワ)8962損害賠償請求事件

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裁判所 請求棄却 大阪地方裁判所
裁判年月日 令和8年9月29日
事件種別 民事
当事者 原告株式会社応用科学研究所
被告JOHNAN株式会社
対象物 スリット装置
法令 特許権
特許法2条3項1回
キーワード 侵害28回
特許権21回
実施14回
許諾5回
損害賠償5回
間接侵害3回
ライセンス2回
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 1 本判決で用いる呼称(略語) ・ A: ・ S社:株式会社島津製作所 ・ T社:トヨタ自動車株式会社 ・ 本件装置:ナノトライボロジーその場計測装置 ・ 本件各特許:①発明の名称を「スリット装置」とする特許(特許第544 0481号) 、②発明の名称を「摩擦摩耗試験装置」とする特許(特許第5 655531号)及び③発明の名称を「固体間接触部位解析方法及び解析装 置」とする特許(特許第5664186号) ・ 本件各特許権:本件各特許に係る特許権 ・ 本件覚書:原告と被告との間で平成31年4月23日に交わされた覚書 (甲7) ・ 本件資料: 「ナノトライボロジーその場計測装置」と題するプレゼンテー

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判決文

令和8年9月29日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官

令和7年(ワ)第8962号 損害賠償請求事件

口頭弁論終結日 令和8年7月30日

判 決

原 告 株式会社応用科学研究所

代表者代表取締役 A

訴訟代理人弁護士 大河原壽貴

被 告 JOHNAN株式会社

代表者代表取締役

訴訟代理人弁護士 浅井 悠太

同 武市 佳樹

主 文

1 原告の請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

事 実 及 び 理 由

第1 請求

被告は、原告に対し、2940万円及びこれに対する令和7年2月15日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

1 本判決で用いる呼称(略語)・ A:・ S社:株式会社島津製作所・ T社:トヨタ自動車株式会社・ 本件装置:ナノトライボロジーその場計測装置・ 本件各特許:①発明の名称を「スリット装置」とする特許(特許第5440481号)、②発明の名称を「摩擦摩耗試験装置」とする特許(特許第5655531号)及び③発明の名称を「固体間接触部位解析方法及び解析装置」とする特許(特許第5664186号)

5 ・ 本件各特許権:本件各特許に係る特許権・ 本件覚書:原告と被告との間で平成31年4月23日に交わされた覚書(甲7)・ 本件資料:「ナノトライボロジーその場計測装置」と題するプレゼンテーション資料(甲9、乙6、7)・ 本件図面:別紙記載の図面2 原告の請求の概要本件は、本件各特許に係る特許権者である原告が、被告に対し、①本件資料に基づく公表行為等により、被告が自ら本件装置を開発したかのような外観を作出した行為が、本件各特許権を侵害する、②被告が本件資料に本件図面を利用したことが原告の本件図面に係る著作権を侵害する、③原告と被告との間で本件装置を年間6台製造販売することが合意されたところ、被告が本件装置の製造・販売を行わなかったことは、前記合意に違反するものとして原告に対する債務不履行を構成すると主張して、不法行為又は債務不履行に基づき、損害賠償金2940万円及びこれに対する不法行為後の日又は催告後の日である令和7年2月15日から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。3 前提事実(当事者間に争いがないか、後掲の各証拠(いずれも枝番を含む。)又は弁論の全趣旨により容易に認められる事実)

(1) 当事者等原告は、科学計測法及び科学計測装置の開発等を目的とする株式会社である。Aは、原告の代表取締役であり、かつて、S社で勤務していた。被告は、機械機器装置等、その関連部品等の開発、設計、製造、販売等を目的とする株式会社である。

(2) 本件装置の開発及び本件各特許S社は、T社から、50ナノメートル(1ミリメートルの20万分の1)

5 程度の間隙で動いている物体について、動いている状態のままでその間隙を測定する装置の開発の依頼を受け、その開発製造を原告に発注し、原告は、本件装置を完成させ、平成22年頃にT社に納入した(弁論の全趣旨)。本件装置の開発過程において、本件各特許が、いずれも特許権者がS社、発明者がAとして出願・登録された(甲2ないし4)。原告は、平成31年3月29日、S社より、本件各特許権の譲渡を受けた(甲8)。

(3) 原告と被告との間の本件覚書の締結等ア 原告が本件装置の製造販売を委託する企業を探していたところ、被告が応募し、本件装置の製造販売の委託を受けることを了承し、平成31年4月23日、原告と被告との間で、本件装置の製造・販売について、以下の事項を内容とする本件覚書が作成された(甲7)。

① 本件各特許権を特許権者が原告に譲渡したとき、原告は、その譲渡証書を入手したことを明確にする書類を被告と共有し、被告は、譲渡証書の確認が取れた場合は、本件装置を製造・販売するために光源と検出器の発注を行う(第1条)。

② 本件各特許権を特許権者が原告に譲渡した後においては、以下の事項を双方で合意する(第2条)。・ 原告は、被告に対し、本件各特許の通常実施権を付与する契約を締結すること。・ 双方協議の上、社会通念上適切な実施料を定めること。イ 本件覚書に基づく本件各特許の実施料については、本件装置の売上代金の4%とすることが原告と被告との間で合意された(争いなし)。

(4) 被告による公表及び本件記事の掲載ア 被告は、令和2年9月1日付けで「ナノトライボロジーその場計測装置」と題するプレゼンテーション資料(本件資料)を作成し(甲9、乙6、

5 7。)、同日、本件装置に関して、Aの立会のもと、日刊工業新聞の記者からの取材を受け、その際に本件資料を用いて説明を行った(争いなし)。本件資料のスライド番号6には、原告から被告に提供された本件図面(別紙記載の図面)が掲載されていた。イ 令和2年10月21日付けの日刊工業新聞において、「10ナノの隙間「その場」計測」「JOHNANがデモ機 実際の材料 使用可能に」との表題の本件記事が掲載された。本件記事においては、「JOHNAN(中略)は「ナノトライボロジーその場計測装置」のデモ機を完成した。」「JOHNANは、応用科学研究所(中略)が開発したX線の強度分布を高精度に検出する技術を基に、デモ機を完成した。」などと記載されていた。(甲10)

(5) 催告原告は、被告に対し、令和7年2月13日付けで、本件各特許権の侵害、著作権の侵害及び営業妨害を理由として損害賠償金2940万円を請求する旨を記載した通知書を送付し、同通知書は、同月14日に被告に到達した(甲15、16)。

(6) 時効援用の意思表示被告は、令和7年12月18日付け被告準備書面(1)(同年12月23日陳述)において、原告の主張する不法行為及び著作権侵害に基づく損害賠償請求権について、消滅時効を援用する旨の意思表示をした(当裁判所に顕著)。4 争点

(1) 本件各特許権の侵害の成否(争点1)

(2) 本件図面に係る著作権侵害の成否(争点2)

(3) 販売台数合意の有無及び同合意に基づく債務の不履行の有無(争点3)

(4) 損害の発生及び額(争点4)

5 (5) 消滅時効の成否(争点5)

第3 争点に対する当事者の主張

1 争点1(本件各特許権の侵害の成否)について

【

(原告の主張)

】

(1) 被告は、本件資料のスライド番号1において「装置開発に踏み切った」と

記載した上、同5及び同6のスライド(後者は本件図面を主な内容とするもの)に「A様資料より」の記載をせず、あたかも被告が自ら本件装置を開発したものであるかのような外観を作出した。そして、被告が作成した本件資料やそれに基づく発表内容により、令和2年10月21日付け日刊工業新聞には、被告が本件装置を開発し、完成させた旨の本件記事が掲載された。なお、被告担当者から送付された本件資料のドラフトの装置構成例に出典が示されていなかったので、Aが出典の明記を要請し、被告担当者がこれを了解したことは事実であるが、日刊工業新聞による取材の際に修正された本件資料をAが見た記憶はない。また、上記取材後に日刊工業新聞の記者から問合せがされた際、原告は、被告に対し、あたかも被告が自ら本件装置を開発したかのように受け取られかねない記事とならないよう指摘し、是正を求めたが、被告は、日刊工業新聞に対して記事内容や表現の是正をさせることなく本件記事を掲載させた。

(2) 本件資料及びそれに基づいて掲載された本件記事のように、被告会社が本

件装置を自ら開発、完成させたかのように振る舞う行為は、本件覚書に基づいて被告に付与された本件各特許権の通常実施権の範囲を超えるものと言わざるを得ない。被告が本件資料を作成し、それをもとに報道等外部への発表を行った行為は、原告の本件各特許権を侵害するものである。なお、上記のとおり原告が主張する被告の行為は、特許法の定める実施行為又は間接侵害行為に該当するものではない。【

(被告の主張)

】

5 (1) 原告は、被告のいかなる行為が特許法2条3項に定める実施行為や同法1

01条に定める間接侵害行為に該当するのか、具体的な主張を行っていない。特許法に基づく請求は、請求原因事実の特定を欠き、失当である。

(2) 本件資料のスライド番号1において「装置開発に踏み切った」と記載した

こと、同5のスライドに「A様資料より」の記載をしなかったことは認め、同6のスライドに出典の記載をしなかったことは否認し、評価は争う。被告担当者は、令和2年8月31日、翌日に予定されていた日刊工業新聞の取材に先立って、本件資料のドラフト(乙6の1)をAに送信して内容の確認を求めたところ、同日、Aからスライド番号6に出典の明記を要望する旨の返信がされたことから、スライド番号6に出典を追記した最終版(乙7の1)を作成し、これを取材で使用した(乙5)。

(3) 本件資料は、事前にA自身が内容を確認し、自らの要望に従った修正変更

を経た上で、A同席の取材の場において使用されたものであり、その使用につき、原告の明示の同意があったものである。本件資料は、閲覧者から見れば、本件装置の基礎技術の開発元が、Aが代表を務める原告であり、被告が原告から製造委託を受けた会社であることを容易に認識し得る構成となっており、全体を見れば、開発元が被告であると誤認することはあり得ない。本件資料は、被告が本件装置の製造販売の委託を受けた事業者として、原告の技術支援援助・カタログ作成支援を受けながら製品の性能や特徴を顧客に説明するために作成した資料であり、本件図面は、被告が原告に作成を依頼し、Aからカタログの使用候補図として納品を受けた成果物である(甲19、20、乙1、2)。本件資料は、被告が対価を支払って原告から取得した成果物であるカタログの一部を、原告の了承のもと販促活動に使用した抜粋資料に過ぎず、被告の行為は不法行為に該当するものではない。本件資料を用いたプレゼンテーションは、日刊工業新聞による取材の一環

5 としてAの面前で行われたものであるところ、原告が取材後に日刊工業新聞

の記者に対して送信したメールには、原告が開発に特化した会社であり、完成した装置のカタログ製品化・販売について被告が請け負っていたことが記載されている(乙4)。そして、本件記事には、「応用科学研究所が開発したX線の強度分布を高精度に検出する技術」と、本件装置が原告の開発した技術に基づくものであることが明記されている。以上より、被告が本件装置を自ら開発したとの虚偽の外観を作出した事実は存在しない。

(4) 原告は、被告が本件記事を修正させずに掲載させた不作為をもって不法行

為等にあたるかのように主張する。しかしながら、不作為による不法行為が成立するためには、作為義務(記事を訂正させる法的義務)が存在しなければならない。本件記事は、報道機関である日刊工業新聞社が独自の編集権に基づいて作成・掲載したものである。被告は、取材対象に過ぎず、記事の表現や内容を決定・修正できる権限も義務も有していない。作為義務が存在しない以上、不作為による不法行為は成立しない。また、原告は、本件記事を修正させずに掲載させたこと等が「本件覚書の定めに反する行為である」と主張する。しかし、本件覚書(甲7)は、特許の通常実施権の付与や実施料の協議等を定めたものに過ぎず、製品の対外的な発表や広報活動の表現を制限・義務付ける条項は存在しない。かかる条項が存在しない以上、本件記事の掲載等をもって本件覚書上の債務不履行を構成する余地はない。

2 争点2(本件図面に係る著作権侵害の成否)について

【

(原告の主張)

】

(1) 本件資料のスライド番号6記載の図は、原告作成の本件図面をそのまま用

いたものであり、本件図面に係る原告の著作権を侵害するものである。

5 なお、本件装置は、光源と検出器、回転摺動体や各種試料摺動装置の配置

自体が原告代表者Aによる研究成果であり、本件装置の配置図は、まさに原告代表者Aによる研究成果を創作的に表現したものであって、著作物に該当するとともに、その著作権は原告に帰属する。

(2) 原告は、被告から、あくまで本件装置のカタログを作成するためとの目的

で本件図面を含むデータの作成依頼を受け、納品したに過ぎない。したがって、本件図面は、あくまでその用途を本件装置のカタログ作成に限定して利用を許諾したものに過ぎない。本件資料における本件図面の利用は、カタログ作成の用途とは異なり、原告の著作権が及ぶものであって、それに反する被告の利用は、原告の著作権を侵害するものである。【

(被告の主張)

】

(1) 本件図面は、本件装置のシステム構成や機能を説明するための機能的な説

明図である。本件図面は、原告における独自の研究、開発の成果を創作的に表現した学術的な性質を有する図面とはいえず、著作権法上の著作物には該当しない。

(2) 本件図面は、被告から原告に作成を依頼し、令和元年9月26日、Aから

カタログの使用候補図として納品を受けた成果物であり、被告は原告に対して成果物納品の対価として7万5000円を支払っている(乙1、2)。原告発行の請求書(乙1)には、請求の品名・内訳として「展示資料、カタログ資料作成」と明記されている。当該成果物である本件図面を、被告がその名目にある目的(展示会、カタログ等)のために利用することは、契約の趣旨からして当然に予定されている。Aはメール(甲19)において被告にデータを送付し、「データ例が必要な場合にお使いください」と送信しており(乙5)、原告から被告によるデータ(甲20)の利用を明示的に許諾されていたことを示すものである。

5 よって、原告は、被告に対し、本件図面を営業活動の一環としての展示行

為において自由に利用することを明示にまたは少なくとも黙示に許諾したといえる。被告が本件図面のデータを、展示会や商談等の営業活動におけるプレゼンテーション資料として利用することは、契約の趣旨からして当然に許諾された利用目的の範囲内である。

3 争点3(販売台数合意の有無及び同合意に基づく債務の不履行の有無)につ

いて【

(原告の主張)

】

(1) 被告の取締役や担当者は、原告に対し、本件覚書締結に至る過程及び本件

覚書締結後において、本件装置を年間6台以上製造販売することに言及しており、また、本件記事(令和2年10月21日付け)においては「2021年(令和3年)3月までに3台の販売を目指す」と記載された。更には、被告の従業員が作成して原告に示した製造工程表には、令和2年11月30日に発注を受け、令和3年3月1日に出荷・検収する予定であることなどが記載されていた(甲23)。以上によれば、被告は、本件覚書に基づく本件装置の製造販売について、年間6台以上を製造販売することを原告と合意していた。しかしながら、被告は、本件装置を製作する技術も不足し、本件装置を製造販売するために必要な取組みも体制整備も行わなかった。そのため、被告は本件装置の製造販売を行うことができず、むしろ、被告は本件覚書が締結されて以後、いずれかの時点からは本件装置の製造販売をする意思がなかったと言わざるを得ないような対応であった。

(2) 以上によれば、被告には、販売台数の合意に反する債務不履行があった。

【

(被告の主張)

】原告主張の販売台数の合意について、否認する。被告が原告に対して「年間

5 6台以上売りますから」などと繰り返し伝えていた事実は存在せず、原告と被

告との間で、本件装置を年間6台以上販売するとの合意は存在しない。本件装置は、顧客の個別具体的なニーズに合わせて製作するセミオーダー型の受注生産品である。本件装置は、具体的な受注と仕様確定がなければ生産自体が不可能である。本件装置の性質上、具体的な顧客の存在を前提とせず、事前に販売台数を確約することは困難である。本件装置について、被告が事前に一定台数の販売を確約する義務を負う合意をすることはない。本件覚書には、実施料を別途協議して定める旨が規定されているのみであり、覚書外で合意された実施料の条件は、将来商談が成立して製造・販売に至った場合の条件を定めたものにすぎないのであって、被告に対して一定台数を販売する法的義務を課すものではない。また、日刊工業新聞の記事の記載も、対外的なPRの場における販売目標の表明であり、具体的な販売義務の存在を裏付けるものではない。製造工程表(甲23)は、あくまで被告社内の開発・製造現場における業務遂行上の内部的な予測スケジュールないしシミュレーションを記載した試算資料に過ぎず、法的拘束力を伴う販売義務を原告被告間で合意したことを示すものではない。以上のとおり原告被告間に販売台数合意はなく、被告には本件装置を一定台数販売する法的義務が存在しない。

4 争点4(損害の発生及び額)について

【

(原告の主張)

】被告が本件装置を年間6台以上販売する合意に違反し、さらに、あたかも被告が自ら本件装置を開発したものであるかのような外観を作出した行為により、原告は、本件装置にかかる発明を他社に提供し、本件装置の製造販売を委託することも不可能ないし極めて困難となった。これにより、原告は、本件記事掲載から原告と被告との間の紛争が表面化し

5 た令和6年3月までの約3年半の間、本来得られるべき本件各特許権の使用料

が得られず、被告が本件記事内で販売目標としていた半期3台、1台あたり3500万円の3年半分、合計21台、7億3500万円の4%にあたる2940万円の損害が原告に発生した。【

(被告の主張)

】争う。原告が本件各特許の特許権者であるという事実は、特許公報等により公知の事実であり、仮に被告が営業活動において自社開発かのような表現を用いたとしても、原告が他社にライセンス営業を行うことを阻害するものではなく、他社へのライセンス提供が不可能となったとはいえない。よって、被告による本件資料の公表行為と

(原告の主張)

する損害との間に因果関係はない。また、被告が本件資料の一部に本件図面を利用したことと、本件装置の販売契約が成立しなかったことは、無関係であり、被告による本件図面利用行為と

(原告の主張)

する損害との間にも因果関係はない。

5 争点5(消滅時効の成否)について

【

(被告の主張)

】仮に本件において何らかの損害が認められ得るとしても、その損害は、著作権侵害による使用料相当額や外観作出行為による無形損害といった、侵害行為の時点で直ちに発生する性質の損害に限られる。Aは、令和2年9月1日の日刊工業新聞の取材に同席しており、本件資料を用いたプレゼンテーションは、当該取材の一環としてAの面前で行われたものであるから、原告は、本件資料内容及び公表行為を認識していた。よって、原告は、遅くとも本件記事が掲載された令和2年10月21日には、被告による外観作出行為、著作権侵害行為及び損害を認識していたといえるから、本件における消滅時効の起算点は遅くとも同日となる。よって、

(原告の主張)

する外観作出及び著作権侵害といった不法行為に基づく

5 損害賠償請求権は、令和5年10月21日の経過により、消滅時効により消滅

した。【

(原告の主張)

】被告による外観作出行為や著作権侵害行為は、現在もなお継続し続けている。本件における消滅時効の起算点は、本件記事が掲載された令和2年10月21日ではなく、外観作出行為や著作権侵害行為が終了した時点から起算されるべきであり、いまだ消滅時効は成立していないと言うべきである。

第4 当裁判所の判断

1 認定事実前記前提事実に加え、後掲の各証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。

(1) 原告は、被告から、本件装置についての展示資料、カタログ資料の作成の依頼を受け、本件図面を含む各種の図面を作成し、令和元年9月26日に被告にこれらを送付し(甲19、20)、被告は、その対価として、原告に対して7万5000円を支払った(乙1、2)。

(2) 本件資料は、冒頭に「事業背景」と題するスライド番号1が設けられ、その後に、「トライボロジー」に関する説明資料(同2ないし4)、本件装置の外観(同5)、本件装置の構成例(同6)、「基準計測」に関する資料(同7)、本件装置の特徴・強み(同8)及び想定ニーズ(同9)といったスライドが設けられるという構成となっている。スライド番号6には、本件図面が掲載されている(ただし、後記のドラフト(乙6の1)の時点では「ロードセル」「加圧機構」といった文字が削除され、その後に作成されたバージョン(乙7の1でも「様々な仕様可能」といった文字が削除されるなど、若干の修正は施されている。)。本件資料のうち、スライド番号1には、「開発元様より製造委託に関する相談があった」、「両者が「win-win」の関係を築ける可能性を感じ、装置開

5 発に踏み切った。」との記載があり、スライド番号3、4及び7には、下記のドラフトの段階から、図面の左下部分に「A様資料より」の記載がされていた。被告の担当者は、令和2年8月31日、本件資料のドラフト(乙6の1)をAに送信して、内容の確認を求めた。同ドラフトにおいては、スライド番号5の写真及びスライド番号6の本件図面には出典の記載がなかったが、Aは「装置構成例」に出典を明記するよう要望する旨の返信をし、これを受けて、被告の担当者は、スライド番号6に出典等を追記したバージョン(乙7の1)を作成した。(甲9、乙6、7)

2 争点1(本件各特許権の侵害の成否)について(1) 原告は、被告が、本件資料を作成し、それをもとに日刊工業新聞の取材において説明を行った行為が、あたかも被告が自ら本件装置を開発したものであるかのような外観を作出した行為であって、原告の本件各特許権を侵害するものである旨を主張する。(2) この点、まず、原告の主張する被告の行為が特許法の定める実施行為又は間接侵害行為に該当するものではないことは原告も自認するところであり、そうすると、原告において、本件各特許権そのものではなく、本件各特許の実施品たる本件装置を開発したことに関する原告の何らかの人格的利益が、被告によって侵害された旨を主張しているものと理解するほかない。もっとも、原告の主張を精査しても、前記の人格的利益がいかなる根拠に基づいて法的な保護に値するといえるのかが明らかであるとはいい難く、その点において原告の主張は失当というべきである。また、仮に本件装置を開発したことに関する原告の何らかの人格的利益が法的な保護に値するとしても、前記認定事実のとおりの本件資料の構成及び内容に照らせば、本件資料の閲覧者において、本件装置の開発元が被告では

5 なく、Aや同人に関連する企業であることが認識できるものであったといえるのであって、本件において、被告があたかも自ら本件装置を開発したものであるかのような外観を作出したとの事実を認めることもできない。

(3) 以上によれば、特許権侵害ないし外観作出に関する原告の主張は採用できない。

3 争点2(本件図面に係る著作権侵害の成否)について(1) 原告は、被告作成の本件資料のスライド番号6記載の図面が、原告作成の本件図面をそのまま用いたものであり、本件図面に係る原告の著作権を侵害するものである旨を主張する。(2) しかしながら、前記認定事実のとおり認められる経過に照らせば、原告は本件図面を、展示資料・カタログ資料として、対価を受けて被告に提供しており、更には、被告担当者から本件資料のドラフトの送付を受け、スライド番号6に本件図面が掲載されていることを確認した上で、同担当者に出典を記載するよう求めているのであるから、被告が本件資料に本件図面を利用することについて原告による許諾があったというべきである。よって、被告が本件資料に本件図面を利用したことは、本件図面に関する原告の著作権を侵害するものとはいえない。

4 争点3(販売台数合意の有無及び同合意に基づく債務の不履行の有無)について(1) 原告は、原告と被告との間で、被告が本件装置を年間6台以上製造販売することについての合意が成立しており、被告が同合意に違反して本件装置の製造販売を行わなかった旨を主張する。(2) しかしながら、上記合意の成立の具体的な日時、場所、方法等について、原告の主張内容は必ずしも明確ではなく、本件において同合意を直接裏付ける証拠も提出されていない。そして、前記前提事実(3)のとおりの本件覚書の内容は、本件装置の製

5 造・販売をする際に原告に光源や検出器の発注を行うことや、本件各特許に係る通常実施権を設定して実施料を定めることといった内容に過ぎず、被告に本件装置の一定台数の販売を法的に義務付ける内容とは評価できない上、その他原告が主張する、日刊工業新聞の記事の内容や製造工程表の記載といった事情も、いずれも原告と被告との間の具体的な合意を推認させるものとはいえない。以上によれば、本件において、原告と被告との間で、被告が本件装置を年間6台以上製造販売することについての合意が成立したとの事実を認めることはできず、原告の主張は採用できない。

5 小括以上によれば、原告の請求は、その余の争点について判断するまでもなく、いずれも理由がない。

第5 結論

以上によれば、原告の請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとし、主文のとおり判決する。

大阪地方裁判所第21民事部

裁判長裁判官

松 川 充 康

裁判官

小 野 健

裁判官

横 井 真 由 美

別紙

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